(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3232 20160101AFI20221025BHJP
【FI】
F16J15/3232 201
(21)【出願番号】P 2018125771
(22)【出願日】2018-07-02
【審査請求日】2021-04-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000167196
【氏名又は名称】光洋シーリングテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 亮二
(72)【発明者】
【氏名】平岡 優俊
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-103142(JP,A)
【文献】特開2012-193835(JP,A)
【文献】特開2004-263738(JP,A)
【文献】特開2017-166497(JP,A)
【文献】特開2008-025668(JP,A)
【文献】特開2014-190465(JP,A)
【文献】特開2016-044687(JP,A)
【文献】特開2016-117792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3232
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相対回転する軸とハウジングとの間に構成される環状の空間に装着され、当該軸と当該ハウジングとの間を封止する密封装置であって、
前記軸と前記ハウジングとの間に装着される環状のシール本体と、前記シール本体の軸方向外方において前記軸に装着される環状のディフレクターとを備えており、
前記シール本体が、前記軸に摺接する主リップ部と、前記主リップ部側から軸方向外方に向けて径方向外方に傾斜しつつ延在し、その内周面において前記ディフレクターと接触するサイドリップ部とを有しており、
前記サイドリップ部の前記ディフレクターと摺接する内周面の面粗度が3.2~12.0μmRaであり、且つ、
前記内周面に40℃の基油粘度が10~40mm2/sのグリースが塗布されて
おり、
ここで、
前記サイドリップ部が、
前記サイドリップ部の根元側に、薄肉の狭窄部と、
前記狭窄部、及び前記ディフレクターと接触する側の前記サイドリップ部の先端部から、両者の軸方向中央部に向かって径方向外方に漸次膨出する膨出部と、
を有する、ことを特徴とする密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は密封装置に関する。さらに詳しくは、例えば自動車のデフサイド用の密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のディファレンシャル装置は、デフピニオンギヤ及びデフサイドギヤを収容するデフケースと、デフケースを回転自在に支持するハウジングと、デフサイドギヤに連結されるとともに、ハウジングに挿通される軸とを備えている。ハウジングと軸との間の環状空間には、潤滑油の漏洩を防止し、ハウジングの軸方向外方からの異物の混入を防止するために、デフサイド用の密封装置が設けられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載された密封装置を含む従来のデフサイド用の密封装置50は、
図2に示されるように、通常、ハウジング51と軸52との間に装着されるシール本体53と、シール本体53の軸方向外方において軸52に装着されるディフレクター54とを備えている。
【0004】
シール本体53は、リップ部55として、軸52に摺接する主リップ部56と、この主リップ部56よりも軸方向外方において軸52に摺接する補助リップ部57と、この補助リップ部57よりも径方向外方に設けられ且つ軸方向外方に向けて径方向外方に傾斜しつつ延在するサイドリップ部58とを有している。ディフレクター54は、径方向に沿って配置された円環状の環状板部54aを有している。この密封装置50では、サイドリップ部58がディフレクター54の環状板部54aに接触することで、軸方向外方からの異物の侵入が防止される。
【0005】
密封装置50のサイドリップ部58には、ディフレクター54に対して締め代が設定される。この締め代は、ハウジング51に対するシール本体53の組み付け位置や、軸52に対するディフレクター54の組み付け位置等によって変化する。また、自動車の走行中に軸52がスラスト移動することによっても、締め代は変化する。
このため、デフサイド用の密封装置50では、密封性を確保するために、サイドリップ部58の軸方向の長さを長くして、当該サイドリップ部58の内周面58aがディフレクター54の環状板部54aと面接触して当該環状板部54aと摺接するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、締め代が大きくなると、サイドリップ部58の内周面58aとディフレクター54の環状板部54aとが接触する領域である接触幅も大きくなり、その結果、トルクが増大し、サイドリップ部58の摺接部分が損傷して当該サイドリップ部58の寿命が低下する恐れがある。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、トルクの増大を抑制することができる密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の密封装置は、
(1)互いに相対回転する軸とハウジングとの間に構成される環状の空間に装着され、当該軸と当該ハウジングとの間を封止する密封装置であって、
前記軸と前記ハウジングとの間に装着される環状のシール本体と、前記シール本体の軸方向外方において前記軸に装着される環状のディフレクターとを備えており、
前記シール本体が、前記軸に摺接する主リップ部と、前記主リップ部側から軸方向外方に向けて径方向外方に傾斜しつつ延在し、その内周面において前記ディフレクターと接触するサイドリップ部とを有しており、
前記サイドリップ部の前記ディフレクターと摺接する内周面の面粗度が3.2~12.0μmRaであり、且つ、
前記内周面に40℃の基油粘度が10~40mm2/sのグリースが塗布されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の密封装置では、ディフレクターと摺接するサイドリップ部の内周面の面粗度が3.2~12.0μmRaである。かかる面粗度の内周面とすることで、当該内周面に塗布されるグリースの保持性を向上させることができる。また、基油粘度が10~40mm2/sと小さいグリースをサイドリップ部の内周面に塗布している。基油粘度が小さいグリースを用い、且つ、当該グリースの保持性を向上させることで、サイドリップ部とディフレクターとの締め代が大きい場合でも、トルクが増大するのを抑制することができ、大きなトルクに起因する発熱(シール負荷)も低減させることができる。その結果、サイドリップ部の摺接部分が損傷するのを抑制することができ、密封装置の長寿命化を図ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の密封装置によれば、トルクの増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る密封装置の断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の密封装置の実施形態について添付図面を参照しながら詳述する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0014】
[密封装置1の全体構成]
図1は本発明の一実施形態に係る密封装置1の断面説明図である。この密封装置1は、自動車のディファレンシャル装置において、デフピニオンギヤ及びデフサイドギヤを収容するデフケースを回転自在に支持するハウジング2と、デフサイドギヤに連結され、当該ハウジング2の軸孔3に挿通された軸4(ドライブシャフトともいう。)との間に用いられる。密封装置1は、デフサイド用の密封装置である。
【0015】
密封装置1は、互いに相対回転する軸4とハウジング2との間に形成される環状の空間に装着され、軸4とハウジング2との間を封止する。この密封装置1は、ハウジング2内部の密封空間A内に密封された潤滑油等の流体がハウジング2の外部へ漏洩するのを防止する。なお、
図1には、軸4とハウジング2との間に装着される前、すなわち、変形前の自然状態にある密封装置1が示されている。
【0016】
密封装置1は、環状のシール本体10と、環状のディフレクター30とを備えている。シール本体10は、軸4とハウジング2との間に装着される。ディフレクター30は、シール本体10の軸方向外方において軸4に装着される。ディフレクター30は、径方向に沿って配置される円環状の環状板部31を有している。
【0017】
[シール本体10]
シール本体10は、断面略L字形の環状の芯金11と、当該芯金11に固定されているシール部材12と、環状のバネリング13とを備えている。シール本体10は、芯金11、シール部材12及びバネリング13で構成されている。
【0018】
芯金11は、例えばSPCC等の金属で作製された環状部材である。この芯金11は、円筒形状の円筒部14と、円環状の環状板部15とで構成されている。円筒部14は、その軸心が軸4の軸心と一致するように配置されている。環状板部15は、円筒部14の軸方向外方の一端から径方向内方へ延在している。
【0019】
シール部材12は、例えばアクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、アクリルゴム(ACM)等の合成ゴムを基材ゴムとする弾性部材からなる。シール部材12は、加硫による接着処理(焼き付け)により芯金11に固定されている。シール部材12は、環状に形成されており、本体部16と、主リップ部17と、補助リップ部18と、サイドリップ部19とを有している。
【0020】
本体部16は、外周部20と、側面部21と、内周部22とを備えている。外周部20は、芯金11の円筒部14の外周面14aに積層されており、ハウジング2の軸孔3に固定される。側面部21は、芯金11の環状板部15の軸方向外方の側面15aに積層されている。内周部22は、芯金11の環状板部15の内周部を覆っている。本実施形態におけるシール部材12では、外周部20、側面部21及び内周部22は一体的に形成されている。外周部20は軸方向に延在し、側面部21は径方向に延在している。
【0021】
[主リップ部17]
主リップ部17は、本体部16の内周部22の径方向内側において密封空間A側へ延びている。主リップ部17の外周面17aには、周溝23が形成されている。そして、この周溝23には、ガータスプリングと呼ばれるバネリング13が装着されている。このバネリング13により、主リップ部17が径方向内方へ締め付けられている。
【0022】
本実施形態の密封装置1では、主リップ部17は軸4と摺接する。この主リップ部17は、軸4の外周面4aに締め代をもって接触して密封空間A内の密封流体が軸方向外方へ漏れるのを防止している。主リップ部17の断面形状は、径方向内方に向けて先細りである。
【0023】
[補助リップ部18]
補助リップ部18は、本体部16の内周部22から径方向内方で且つ軸方向外方へ延在している。本実施形態の密封装置1では、補助リップ部18は軸4と摺接する。この補助リップ部18は、軸4の外周面4aに締め代をもって接触して軸方向外方から密封空間A内への異物の侵入を防止している。
【0024】
[サイドリップ部19]
サイドリップ部19は、主リップ部17側から軸方向外方に向けて径方向外方に傾斜しつつ延在している。本実施形態の密封装置1におけるサイドリップ部19は、本体部16と一体的に形成されている。このサイドリップ部19は、本体部16の側面部21から軸方向外方に向けて延在している。サイドリップ部19は、その内周面19aにおいて、ディフレクター30の環状板部31と接触する。換言すれば、サイドリップ部19の内周面19aは、ディフレクター30の環状板部31と面接触して当該環状板部31と摺接する。サイドリップ部19の内周面19aには摩擦抵抗を低減させるためにグリースが塗布されている。
【0025】
本実施形態のサイドリップ部19は、その根元側に薄肉の狭窄部25を有している。このサイドリップ部19は、さらに、狭窄部25、及び当該サイドリップ部19の先端部26から両者の軸方向中央部に向かって径方向外方に漸次膨出する膨出部27を有している。
【0026】
サイドリップ部19の内周面19aのうち、ディフレクター30の環状板部31と摺接し得る領域Bには、梨地加工又は梨地仕上げを施すことで微細な凹凸が形成されている。凹凸の程度を表す指標として、当該内周面19aの面粗度は3.2~12.0μmRaにされている。また、本実施形態において内周面19aの前記領域B及びその周辺に塗布されるグリースの基油粘度は、10~40mm2/sである。
【0027】
密封装置1において、サイドリップ部19の締め代は、ハウジング2、軸4、シール本体10、ディフレクター30の組み付けの際の相対位置や、自動車の走行中における軸4のスライド量等によって大きく異なる。
【0028】
図1において、二点鎖線D1で表されたディフレクター30は、サイドリップ部19の締め代が最小となる位置にある。また、
図1において、二点鎖線D2で表されたディフレクター30は、このサイドリップ部19の締め代が最大となる位置にある。
【0029】
本実施形態では、サイドリップ部19の根元側に薄肉の狭窄部25が設けられている。密封装置32では、サイドリップ部19の変形の起点は根元にあり、また、狭窄部25から先端部26までの長さが十分に確保されている。このため、本実施形態の密封装置1では、締め代の変化に追従してサイドリップ部19はディフレクター30との接触を保ちながら変形することができる。
【0030】
一方、例えば
図1において二点鎖線D2で示される位置にディフレクター30が存在するときは、締め代が大きくなり、サイドリップ部19とディフレクター30の環状板部31とが接触する領域である接触幅も大きくなり、その結果、トルクが増大し、サイドリップ部19が損傷して、その寿命が低下する恐れがある。
【0031】
これに対し、本実施形態の密封装置1では、前述したように、サイドリップ部19の内周面19aのうち、ディフレクター30の環状板部31と摺接し得る領域Bの面粗度を3.2~12.0μmRaにするとともに、当該領域B及びその周辺に塗布されるグリースの基油粘度を10~40mm2/sとしている。基油粘度が、10~40mm2/sと小さいグリースを用い、且つ、面粗度を3.2~12.0μmRaにして当該グリースの保持性を向上させることで、サイドリップ部19とディフレクター30との締め代が大きい場合でも、トルクが増大するのを抑制することができ、大きなトルクに起因する発熱(シール負荷)も低減させることができる。その結果、サイドリップ部19の摺接部分が損傷するのを抑制することができ、密封装置1の長寿命化を図ることができる。
【0032】
グリースの基油粘度が10mm2/sよりも小さいと、サイドリップ部19に塗布したグリースが、粗面化した内周面19aに留まらず短時間で流出する恐れがある。このため、運転初期であればトルクの増大を抑制することができるが、長期間にわたって低トルクの状態を維持することが難しいという問題がある。一方、グリースの基油粘度が40mm2/sよりも大きいと、グリースの粘度が高すぎてトルクの増大を抑制することが難しい。したがって、本実施形態におけるグリースの基油粘度は10~40mm2/sとされている。
【0033】
〔その他の変形例〕
本開示は前述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、前述した実施形態では、自動車のデフサイド用の密封装置に本発明を適用しているが、これ以外に、例えばトランスファ、及び足回りの密封装置に適用することもできる。
【0034】
また、前述した実施形態では、例えばサイドリップ部の形状を、根元部が狭く、中央部分が膨出した形状としているが、
図2に示されるようなストレートな断面形状とすることもでき、本発明において、密封装置における主リップやサイドリップ部等の形状を含む構成は例示した実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0035】
1 : 密封装置
2 : ハウジング
3 : 軸孔
4 : 軸
4a: 外周面
10 : シール本体
11 : 芯金
12 : シール部材
13 : バネリング
14 : 円筒部
14a: 外周面
15 : 環状板部
15a: 側面
16 : 本体部
17 : 主リップ部
17a: 外周面
18 : 補助リップ部
19 : サイドリップ部
19a: 内周面
20 : 外周部
21 : 側面部
22 : 内周部
23 : 周溝
25 : 狭窄部
26 : 先端部
27 : 膨出部
30 : ディフレクター
31 : 環状板部
A : 密封空間
B : 領域