(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】エアバッグパンツ
(51)【国際特許分類】
A41D 13/018 20060101AFI20221025BHJP
【FI】
A41D13/018
(21)【出願番号】P 2018158699
(22)【出願日】2018-08-27
【審査請求日】2021-07-16
(31)【優先権主張番号】P 2018074208
(32)【優先日】2018-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】518121057
【氏名又は名称】石井 眞介
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】石井 眞介
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】実開平3-38309(JP,U)
【文献】米国特許第9555311(US,B1)
【文献】特開2000-27010(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0183283(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D13/018、13/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被着者の下半身に着用されるパンツ本体と、
前記パンツ本体の内側に設けられたエアバッグと、
前記被着者の転倒時に前記エアバッグにガスを供給して当該エアバッグを膨張させるガス供給装置と
、
角度規制部とを備え、
前記エアバッグは、前記被着者の大腿上部を周方向に取り囲みかつ膨張時に当該大腿上部を径方向内側に圧迫する大腿保護部を有
し、
前記角度規制部は、前記エアバッグの膨張時に、前記大腿保護部の前方への傾動角度である屈曲角が15~45°になり、かつ前記大腿保護部の体幅方向外側への傾動角度である外転角が10~30°になるように、当該屈曲角および外転角を規制する、ことを特徴とするエアバッグパンツ。
【請求項2】
請求項1に記載のエアバッグパンツにおいて、
前記大腿保護部は、前記大腿上部の周面に沿ったリング状の空間を内包しかつ大腿中央線に沿う方向に区分された複数のセルを有し、
前記ガス供給装置は、前記複数のセルの前記空間内にガスを供給することにより前記エアバッグを膨張させる、ことを特徴とするエアバッグパンツ。
【請求項3】
請求項2に記載のエアバッグパンツにおいて、
前記大腿保護部は、前記複数のセルの一つとして、前記被着者の大腿部の付け根近傍を周方向に取り囲む特定セルを含み、
前記特定セルは、前記大腿部の付け根に沿って体幅方向外側ほど上方に位置するように傾斜配置されている、ことを特徴とするエアバッグパンツ。
【請求項4】
請求項3に記載のエアバッグパンツにおいて、
前記ガス供給装置は、前記被着者の転倒時に前記特定セルに最初にガスを供給するように設けられている、ことを特徴とするエアバッグパンツ。
【請求項5】
請求項4に記載のエアバッグパンツにおいて、
前記大腿保護部は、前記特定セルを含む複数のセルどうしを互いに仕切る仕切り布を有し、
前記仕切り布には、前記ガス供給装置から前記特定セルに供給されたガスをその他のセルに導入するための連通孔が形成されている、ことを特徴とするエアバッグパンツ。
【請求項6】
請求項2~5のいずれか1項に記載のエアバッグパンツにおいて、
前記エアバッグは、前記被着者の腰部を覆う位置に設けられた腰用セルをさらに有する、ことを特徴とするエアバッグパンツ。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載のエアバッグパンツにおいて、
前記エアバッグの膨張時に内部のガス圧を予め定められた上限圧を超えないように規制する圧力規制部をさらに備え、
前記上限圧は、100~300mmHgのいずれかに設定されている、ことを特徴とするエアバッグパンツ。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載のエアバッグパンツにおいて、
前記パンツ本体は、外布部とその内側に設けられた内布部とを有し、当該外布部と内布部との間に前記エアバッグが設けられた、ことを特徴とするエアバッグパンツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被着者の転倒時に膨張するエアバッグにより被着者の骨折を防止するエアバッグパンツに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢者が転倒により大腿骨近位部を骨折する事故が増加している。大腿骨近位部とは、大腿骨のうち骨盤に近い部位(上端部)のことである。特に、骨粗しょう症やサルコペニア(加齢による筋肉量の減少症状)を発症した高齢者は、歩行能力が低下しているため、自宅等の屋内であっても転倒し、当該転倒による衝撃で大腿骨近位部や骨盤等を骨折することがある。例えば、閉経後骨粗しょう症や変形性膝関節症などの加齢による退行性変化などによる骨萎縮と歩行能力の低下とが、特に夜間や早朝のトイレ移動などにおける転倒を誘発し、これによって大腿骨近位部や骨盤等の骨折が引き起こされる事例が多発している。
【0003】
上記のような大腿骨近位部等の骨折を手術的に治療したとしても、特に高齢者では術後の生活の質が大きく低下することが珍しくない。このため、転倒による骨折事故を未然に防ぐことが求められており、そのための種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、転倒による骨折を防止するための衣類として、短パンツ型の衣類本体と、当該衣類本体に取り付けられた衝撃吸収パッドとを備えたものが開示されている。衝撃吸収パッドは、衝撃吸収作用のあるエラストマー製のパッドであり、大転子部を含む大腿骨近位部に対面する位置に取り付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の技術によれば、被着者の転倒時に大腿骨近位部に伝わる衝撃が上記衝撃吸収パッドにより緩和されるので、当該大腿骨近位部の骨折を防止する効果が期待される。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1では、衝撃吸収パッドが大腿部の上部(もしくは臀部)の側面のみを覆うように配置されているため、骨折を防止する効果が十分に発揮されないおそれがあった。例えば、被着者が横向きに転倒した場合には、衝撃吸収パッドが床と大腿骨近位部の間に介在して期待通りの衝撃吸収効果が得られると考えられるが、転倒時の姿勢によっては、床と大腿骨近位部との間に衝撃吸収パッドがうまく介在せず、大腿骨近位部に加わる衝撃が十分に吸収されないおそれがあった。また仮に、衝撃吸収パッドが床と大腿骨近位部の間にうまく介在したとしても、あくまで床から加わる衝撃が緩和されるだけなので、特に骨粗しょう症またはサルコペニアを発症した高齢者に対しては、十分な骨折防止効果が得られない可能性もあった。
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、転倒時に大腿骨近位部を骨折するリスクを十分に低減することが可能なエアバッグパンツを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するべく、本願発明者は、特に骨粗しょう症またはサルコペニアを発症した高齢者を念頭に、エアバッグを内包したパンツ形状の衣類を着用することで大腿骨近位部の骨折を防止すること、つまり、被着者の転倒時に瞬間的に膨張するエアバッグによって大腿上部の骨および筋肉を全周的に圧迫保護することにより、大腿骨近位部の骨折を防止することを案出した。
【0010】
具体的に、本発明は、被着者の下半身に着用されるパンツ本体と、前記パンツ本体の内側に設けられたエアバッグと、前記被着者の転倒時に前記エアバッグにガスを供給して当該エアバッグを膨張させるガス供給装置と、角度規制部とを備え、前記エアバッグは、前記被着者の大腿上部を周方向に取り囲みかつ膨張時に当該大腿上部を径方向内側に圧迫する大腿保護部を有し、前記角度規制部は、前記エアバッグの膨張時に、前記大腿保護部の前方への傾動角度である屈曲角が15~45°になり、かつ前記大腿保護部の体幅方向外側への傾動角度である外転角が10~30°になるように、当該屈曲角および外転角を規制する、ことを特徴とするものである(請求項1)。
【0011】
なお、本明細書において、「大腿上部」とは、大腿部(脚の付け根から膝までの部分)のうち概ね上半分(体幹に近い側の半分)のことをいうものとする。
【0012】
本発明によれば、被着者の大腿上部を周方向に取り囲む大腿保護部を含むエアバッグがパンツ本体の内側に設けられているので、被着者の転倒に応じ大腿保護部が膨張したときに、この大腿保護部の膨張力が主にパンツ本体の内側(つまり被着者の大腿上部に密着する方向)に作用し、当該膨張した大腿保護部により被着者の大腿上部が十分な圧力で径方向内側に押圧される。これにより、大腿上部の筋肉が大腿骨に密着するので、転倒時に骨折し易い大腿骨近位部(大腿骨の上端部)を効果的に補強することができる。そして、このような筋肉の密着による補強効果と、前記膨張した大腿保護部(その内部ガス)による緩衝効果との相乗効果により、大腿骨近位部を骨折しないように効果的に保護することができる。その結果、仮に被着者が骨粗しょう症またはサルコペニアを発症した高齢者であっても、大腿骨近位部を骨折するリスクを十分に低減することができる。
また、エアバッグの膨張時に、屈曲角が15~45°に、外転角が10~30°にそれぞれ規制されるので、被着者が完全に転倒する前(大腿骨近位部に衝撃が加わる前)に、被着者の下半身の姿勢がその大腿上部の筋肉を緊張させる(ふんばる)のに適した姿勢となるように制御することができ、大腿骨近位部のより適切な保護を図ることができる。
【0013】
好ましくは、前記大腿保護部は、前記大腿上部の周面に沿ったリング状の空間を内包しかつ大腿中央線に沿う方向に区分された複数のセルを有し、前記ガス供給装置は、前記複数のセルの前記空間内にガスを供給することにより前記エアバッグを膨張させる(請求項2)。
【0014】
この構成によれば、例えば大腿保護部を単一のセルによって構成した場合と異なり、大腿保護部から加わる押圧力が大腿中央線上の位置によって大きく変動するといった事態を回避でき、大腿上部の各部に対し各セルの膨張による押圧力を効率よく付与することができる。これにより、大腿上部の筋肉による大腿骨近位部の補強作用を効果的に発揮させることができ、大腿骨近位部を骨折するリスクをより低減することができる。
【0015】
前記構成において、より好ましくは、前記大腿保護部は、前記複数のセルの一つとして、前記被着者の大腿部の付け根近傍を周方向に取り囲む特定セルを含み、前記特定セルは、前記大腿部の付け根に沿って体幅方向外側ほど上方に位置するように傾斜配置される(請求項3)。
【0016】
この構成によれば、被着者の転倒時に前記特定セルが膨張することにより、大腿骨近位部に対応する高さにある大腿部の付け根近傍の筋肉が径方向内側に押圧されて、当該筋肉が大腿骨近位部に密着させられる。これにより、大腿骨近位部を効率よく補強できるとともに、転倒による大腿骨近位部への衝撃を前記特定セルによって十分に緩和することができる。
【0017】
前記構成において、より好ましくは、前記ガス供給装置は、前記被着者の転倒時に前記特定セルに最初にガスを供給するように設けられる(請求項4)。
【0018】
この構成によれば、大腿骨近位部に最も近い位置にある特定セルを最も早く膨張させることができるので、大腿骨近位部の骨折を防止する効果をより確実に得ることができる。
【0019】
前記構成において、より好ましくは、前記大腿保護部は、前記特定セルを含む複数のセルどうしを互いに仕切る仕切り布を有し、前記仕切り布には、前記ガス供給装置から前記特定セルに供給されたガスをその他のセルに導入するための連通孔が形成される(請求項5)。
【0020】
この構成によれば、前記特定セルに最初に供給されたガスを連通孔を通じて他のセルに導入することができ、共通の供給源から供給されたガスを用いて複数のセルを確実に膨張させることができる。これにより、ガスの供給源の数を減らして構造を簡素化しつつ、膨張する複数のセルによって大腿骨近位部の適切な保護を図ることができる。
【0021】
好ましくは、前記エアバッグは、前記被着者の腰部を覆う位置に設けられた腰用セルをさらに有する(請求項6)。
【0022】
この構成によれば、転倒時に被着者の腰部に加わる衝撃を腰用セルによって緩和することができ、例えば骨盤などを骨折するリスクを低減することができる。
【0025】
好ましくは、前記エアバッグパンツは、前記エアバッグの膨張時に内部のガス圧を予め定められた上限圧を超えないように規制する圧力規制部をさらに備え、前記上限圧は、100~300mmHgのいずれかに設定される(請求項7)。
【0026】
この構成によれば、膨張直後のエアバッグ内のガス圧が100~300mmHgに保持されるので、被着者の転倒動作中(つまり転倒が検知されてから被着者が完全に転倒するまでの間)に100~300mmHgの押圧力を大腿上部に安定的に作用させることができる。これにより、被着者の大腿上部の筋肉を適度に緊張させることができ、当該大腿上部の筋肉による大腿骨近位部の保護作用を高めることができる。
【0027】
好ましくは、前記パンツ本体は、外布部とその内側に設けられた内布部とを有し、当該外布部と内布部との間に前記エアバッグが設けられる(請求項8)。
【0028】
このように、パンツ本体の外布部と内布部との間にエアバッグを取り付けるようにした場合には、被着者の大腿上部等を覆うのに適した位置にエアバッグを安定的に取り付けることができ、エアバッグによる上述した効果を十分に発揮させることができる。また、外布部としてデザイン性に優れた生地を採用したり、内布部として肌触りのよい生地を採用するといった工夫により、被着者がエアバッグパンツを着用する際に感じる抵抗感を大幅に低減することができ、被着者が日常的に着用し易いエアバッグパンツを実現することができる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明のエアバッグパンツによれば、転倒時に大腿骨近位部を骨折するリスクを十分に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるエアバッグパンツを被着者の前方から見た正面図である。
【
図2】上記エアバッグパンツを被着者の後方から見た背面図である。
【
図3】上記エアバッグパンツの内部を前方から見た正面図であり、パンツ本体を透視した
図1相当図である。
【
図4】上記エアバッグパンツの内部を後方から見た背面図であり、パンツ本体を透視した
図2相当図である。
【
図5】上記パンツ本体の外布部と内布部との間にエアバッグが収容されていることを説明するためのエアバッグパンツの断面図である。
【
図6】上記エアバッグの内部構造を示す断面図である。
【
図7】人体の大腿上部周辺の特徴を示す図であり、(a)は人体の下半身の骨格を示し、(b)は大腿骨近位部を拡大して示している。
【
図8】上記エアバッグの膨張時の形状を示す側面図である。
【
図9】上記エアバッグの膨張時の形状を示す正面図である。
【
図10】上記実施形態の変形例(女性用)を説明するための図である。
【
図11】上記実施形態の変形例(男性用)を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1~
図4は、本発明の一実施形態にかかるエアバッグパンツの全体構成を示す図である。具体的に、
図1および
図3は、エアバッグパンツを被着者Pの前方から見た正面図であり、
図2および
図4は、エアバッグパンツを被着者Pの後方から見た背面図である。これら
図1~
図4に示すように、エアバッグパンツは、被着者Pの下半身に着用されるパンツ本体1と、パンツ本体1の内側に設けられたエアバッグ2と、被着者Pの転倒時にエアバッグ2にガスを供給して当該エアバッグ2を膨張させるガス供給装置3とを備えている。なお、
図1および
図2では、エアバッグパンツの外形を主に説明するために、パンツ本体1を実線で、エアバッグ2を隠れ線(破線)でそれぞれ示している。また、
図3および
図4では、エアバッグパンツの内部を主に説明するために、パンツ本体1を想像線(二点鎖線)で、エアバッグ2を実線でそれぞれ示している。
【0032】
パンツ本体1は、被着者Pの腰回りと左右の大腿上部(大腿部の概ね上半分)とをそれぞれ覆うように形成された短パンツ型の衣類である。
図5に示すように、パンツ本体1は、いわゆる二重構造となっており、被着者Pの腰回りに装着されるリング状のベルト部13と、ベルト部13の周縁から下方に延びる外布部11と、外布部11よりも内側(被着者の身体に近い側)に設けられた内布部12とを有している。外布部11と内布部12とは縫合等により一体化され、両者の間には隙間Sが形成されている。隙間Sには、面ファスナーや線ファスナー等の図外の固定手段を介してエアバッグ2が着脱自在に取り付けられている。
【0033】
エアバッグ2は、ガス供給装置3から供給されるガスを受け入れ可能な袋状のものであり、耐久性および柔軟性を有する生地(例えば工業用ナイロン糸を織った生地)により構成されている。エアバッグ2は、被着者Pの腹部および腰部を覆う中央基部21と、中央基部21の左側部から下方に延びて被着者Pの左脚P1の大腿上部を覆う左大腿保護部22と、中央基部21の右側部から下方に延びて被着者Pの右脚P2の大腿上部を覆う右大腿保護部23とを有している。
【0034】
図6は、エアバッグ2の内部構造をエアバッグ2の膨張時のガス流れ(破線の矢印参照)とともに示した断面図である。この
図6および先の
図3~
図5に示すように、左大腿保護部22は、左脚P1の大腿上部を周方向に取り囲む複数(4つ)のセル221~224を有しており、右大腿保護部23は、右脚P2の大腿上部を周方向に取り囲む複数(4つ)のセル231~234を有している。これら左大腿保護部22(右大腿保護部23)の各セル221~224(231~234)は、被着者Pの転倒時にガス供給装置3からガスの供給を受けて膨張し、被着者Pの大腿上部を径方向内側に圧迫する。以下では、最も上側のセル221(231)を「第1セル」、その下側のセル222(232)を「第2セル」、その下側のセル223(233)を「第3セル」、その下側(つまり最も下側)のセル224(234)を「第4セル」という。
【0035】
左大腿保護部22の第1~第4セル221~224は、それぞれ体幅方向外側(左側)ほど上方に位置するように傾斜したラインに沿って延びるリング状の袋体であり、上側のセルほど傾斜角度がきつくなる(鉛直向きの姿勢に近づく)ように形成されている。第1~第4セル221~224の内部には、左脚P1の大腿上部の周面に沿ったリング状の空間Xがそれぞれ形成されている。各セル221~224内の空間Xは、左脚P1の大腿中央線(大腿部の中心線)と交差する方向に延びる仕切り布226,226…(
図6)を挟んで互いに隣接している。言い換えると、第1~第4セル221~224は、仕切り布226によって互いに仕切られた状態で、左脚P1の大腿中央線に沿って上下方向に隣接するように配置されている。各仕切り布226には、ガス供給装置3から供給されたガスを通すための連通孔H1がそれぞれ形成されている。
【0036】
同様に、右大腿保護部23の第1~第4セル231~234は、それぞれ体幅方向外側(右側)ほど上方に位置するように傾斜したラインに沿って延びるリング状の袋体であり、上側のセルほど傾斜角度がきつくなる(鉛直向きの姿勢に近づく)ように形成されている。第1~第4セル231~234の内部には、右脚P2の大腿上部の周面に沿ったリング状の空間Yがそれぞれ形成されている。各セル231~234内の空間Yは、右脚P2の大腿中央線と交差する方向に延びる仕切り布236,236…(
図6)を挟んで互いに隣接している。言い換えると、第1~第4セル231~234は、仕切り布236によって互いに仕切られた状態で、右脚P2の大腿中央線に沿って上下方向に隣接するように配置されている。各仕切り布236には、ガス供給装置3から供給されたガスを通すための連通孔H2がそれぞれ形成されている。
【0037】
図7(a)は、人体の下半身の骨格を示す図であり、
図7(b)は大腿骨近位部(大腿骨のうち骨盤に近い上端部)を拡大して示す図である。このうち、
図7(a)における破線Q1,Q2は、左右の大腿部の付け根を表している。大腿部の付け根Q1(Q2)とは、大腿部のうち最も上側の部位、詳しくは、股関節(骨盤と大腿骨との間の関節)に対応する高さにおいて体幅方向外側ほど上方に位置するように傾斜したライン上の部位のことである。この
図7(a)と先の
図3等との比較から理解されるように、左大腿保護部22は、その第1・第2セル221,222の境界が左大腿部の付け根Q1に概ね一致するように形成されており、右大腿保護部23は、その第1・第2セル231,232の境界が右大腿部の付け根Q2に概ね一致するように形成されている。
【0038】
言い換えると、当実施形態のエアバッグ2は、左大腿保護部22における上から2番目のセルである第2セル222が左大腿部の付け根Q1およびその下側の近傍を周方向に取り囲むとともに、右大腿保護部23における上から2番目のセルである第2セル232が右大腿部の付け根Q2およびその下側の近傍を周方向に取り囲むように形成されている。なお、大腿部の付け根Q1,Q2の近傍を取り囲むこれらのセル、つまり左大腿保護部22の第2セル222および右大腿保護部23の第2セル232は、請求項にいう「特定セル」に相当する。
【0039】
図3および
図4に示すように、左右の大腿保護部22,23の複数箇所には、比較的伸縮性の低い生地からなる拘束布30が取り付けられている。具体的に、当実施形態では、左大腿保護部22における第2~第4セル222~224の前面および体幅方向外側の側面と、右大腿保護部23における第2~第4セル232~234の前面および体幅方向外側の側面とに、それぞれ拘束布30が取り付けられている。これらの拘束布30は、請求項にいう「角度規制部」に相当するものであり、エアバッグ2の膨張時に左右の大腿保護部22,23の形状(角度)を規制する役割を果たす。なお、
図3および
図4では便宜上、左右の大腿保護部22,23の側面に取り付けられる拘束布30を太い一点鎖線で表している。
【0040】
図3、
図4、および
図6に示すように、エアバッグ2の中央基部21は、被着者Pの腹部および陰部を覆うように配置された布張り部25と、被着者Pの腰部を覆うように配置された腰用セル26とを有している。
【0041】
腰用セル26は、ガス供給装置3からの供給ガスを受け入れ可能な空間を内部に有する袋体であり、左大腿保護部22の第1セル221の後面と右大腿保護部23の第1セル231の後面との間に配置されている。図示は省略するが、この腰用セル26内の空間は、左右の第1セル221,231内の空間X,Yと仕切り布によって仕切られており、当該仕切り布にはガスを通すための連通孔が形成されている。
【0042】
布張り部25は、内部に空間を内包しないシート状のものである。このため、布張り部25は、上述した各セル(221~224,231~234,26)とは異なり、ガス供給装置3からガスが供給されても膨張することはない。なお、
図3および
図4では、膨張しない布張り部25を他の部分(セル)と区別するために、布張り部25をグレーに着色して示している。
【0043】
主に
図3に示すように、ガス供給装置3は、コントローラ31と、左インフレータ32および右インフレータ33と、左右のインフレータ32,33とコントローラ31とを電気的に接続するケーブル34とを有している。
【0044】
コントローラ31は、被着者Pの転倒を検知する加速度センサ等のセンサと、当該センサから検知信号を受け付けるとともに左右のインフレータ32,33に制御信号を出力する制御回路部(いずれも図示省略)とを有している。コントローラ31は、パンツ本体1のベルト部13に内蔵されている。
【0045】
左インフレータ32および右インフレータ33は、エアバッグ2を膨張させるガスの供給源と、被着者Pの転倒時に作動して当該ガス供給源からガスを供給させるアクチュエータとを有している(いずれも図示省略)。すなわち、コントローラ31に内蔵された上記センサにより被着者Pの転倒が検知されると、コントローラ31の上記制御回路部から各インフレータ32,33に対し上記アクチュエータを作動させる制御信号が出力される。これにより、各インフレータ32,33のガス供給源からエアバッグ2にガスが供給されて、エアバッグ2の各セル221~224,231~234,26が膨張する。なお、各インフレータ32,33のガス供給源は、二酸化炭素等のガスを高圧状態で内蔵したカートリッジ式の供給源でもよいし、ガス発生剤に着火することでガスを発生させる着火式の供給源でもよい。
【0046】
左インフレータ32は、左大腿保護部22の第2セル222に直接ガスを供給可能な位置に設けられており、右インフレータ33は、右大腿保護部23の第2セル232に直接ガスを供給可能な位置に設けられている。すなわち、主に
図6に示すように、左インフレータ32は、第2セル222内の空間Xに連通する出口部32aを有しており、右インフレータ33は、第2セル232内の空間Yに連通する出口部33aを有している。
【0047】
被着者Pの転倒時には、各インフレータ32,33の出口部32a,33aから第2セル222,232に最初にガスが供給される。第2セル222,232に供給されたガスは、セルどうしを仕切る仕切り布226,236に形成された連通孔H1,H2を通じて他のセルへと導入される(
図6の矢印参照)。これにより、エアバッグ2の全てのセル221~224,231~234,26にガスが導入されて、それぞれのセルが膨張する。
【0048】
図3および
図6に示すように、左大腿保護部22および右大腿保護部23の各第4セル224,234には、それぞれリリーフバルブ41,42が設けられている。このリリーフバルブ41,42は、ガス圧が所定の上限圧に達したときに開放されるバルブであり、エアバッグ2の膨張時に各セル221~224,231~234,26内のガス圧が上記上限圧を上回るのを規制する役割を果たす。当実施形態において、リリーフバルブ41,42が開放される上限圧は、100~300mmHgのいずれかに設定される。なお、リリーフバルブ41,42は、請求項にいう「圧力規制部」に相当する。
【0049】
左右のインフレータ32,33は、仮にリリーフバルブ41,42がなかったとすればエアバッグ2(セル221~224,231~234,26)内のガス圧が上記上限圧を上回るような量のガスを供給可能である。このため、エアバッグ2の膨張時は、少なくとも膨張直後の所定期間、エアバッグ2内のガス圧が上記上限圧に保持されることになる。なお、当実施形態において、エアバッグ2を構成する生地はある程度の透気性を有している。これにより、エアバッグ2の膨張後は時間経過とともにガス圧が低下するようになっている。
【0050】
既に述べたとおり、当実施形態では、左大腿保護部22(右大腿保護部23)における第2~第4セル222~224(232~234)の前面および体幅方向外側の側面に、それぞれ拘束布30(角度規制部)が取り付けられている。この拘束布30による作用により、当実施形態のエアバッグ2は、
図8および
図9に示すように、左右の大腿保護部22,23の屈曲角θ1および外転角θ2が、それぞれ0°よりも大きい所定の角度範囲に収まるように膨張する。ここで、屈曲角θ1とは、左右の大腿保護部22,23の前方への傾動角度のことであり、外転角θ2とは、左右の大腿保護部22,23の体幅方向外側への傾動角度のことである。屈曲角θ1は、被着者がその大腿部を股関節を中心に前方に傾動(屈曲)させたときの大腿中央線L1と体幹軸L2との側面視での交差角度に対応しており、外転角θ2は、被着者がその大腿部を股関節を中心に体幅方向外側に傾動(外転)させたときの大腿中央線L1と体幹軸L2との正面視での交差角度に対応している。
【0051】
すなわち、当実施形態では、比較的伸縮性の低い拘束布30が上述した部位に取り付けられることにより、左大腿保護部22(右大腿保護部23)の第2~第4セル222~224(232~234)に対し、前面よりも後面の方が伸び易く、かつ体幅方向外側の側面よりも内側の側面の方が伸び易いという特性が付与される。これにより、エアバッグ2の膨張時、左大腿保護部22(右大腿保護部23)は、自ずと前方および体幅方向外側に傾動しつつ膨張するようになる。このときの傾動角度、つまり上述した屈曲角θ1および外転角θ2は、拘束布30の低伸縮性の程度を調整することにより設定することができる。具体的に、当実施形態では、屈曲角θ1が15~45°(より好ましくは約25~35°)になり、かつ外転角θ2が10~30°(より好ましくは10~15°)となるように、拘束布30の低伸縮性の程度が調整されている。
【0052】
以上説明したように、当実施形態のエアバッグパンツは、被着者Pの下半身に着用されるパンツ本体1と、パンツ本体1の内側に設けられたエアバッグ2と、被着者Pの転倒時にエアバッグ2にガスを供給して当該エアバッグ2を膨張させるガス供給装置3とを備えており、エアバッグ2は、被着者Pの左右の大腿上部を周方向に取り囲みかつ膨張時に当該大腿上部を径方向内側に圧迫する左大腿保護部22および右大腿保護部23(以下、単に大腿保護部22,23などという)を有している。このような構成によれば、被着者Pの転倒時に大腿骨近位部を骨折するリスクを十分に低減できるという利点がある。
【0053】
すなわち、上記実施形態では、被着者Pの大腿上部を周方向に取り囲む大腿保護部22,23を含むエアバッグ2がパンツ本体1の内側に設けられているので、被着者Pの転倒に応じ大腿保護部22,23が膨張したときに、この大腿保護部22,23の膨張力が主にパンツ本体1の内側(つまり被着者Pの大腿上部に密着する方向)に作用し、当該膨張した大腿保護部22,23により被着者Pの大腿上部が十分な圧力で径方向内側に押圧される。これにより、大腿上部の筋肉が大腿骨に密着するので、転倒時に骨折し易い大腿骨近位部(大腿骨の上端部)を効果的に補強することができる。そして、このような筋肉の密着による補強効果と、上記膨張した大腿保護部22,23による緩衝効果との相乗効果により、大腿骨近位部を骨折しないように効果的に保護することができる。
【0054】
例えば、高齢者の中には、骨密度が低下する骨粗しょう症に加えて、加齢に伴い筋肉量が減少するサルコペニアを発症する者も多く、このような高齢者がエアバッグパンツの着用なしに転倒すると、大腿骨、特に骨盤に近い大腿骨近位部を骨折するリスクが高くなる。大腿骨近位部の骨折は、多くの場合、
図7(b)に示される頚部および転子部において発生する。このような大腿骨近位部の骨折が生じると、例えば大掛かりな手術等を経て長期間のリハビリテーションを余儀なくされるので、特にサルコペニアを発症した高齢者の場合には、予後に自力での歩行が困難になるなど、生活の質が著しく低下することが珍しくない。
【0055】
これに対し、エアバッグ2の大腿保護部22,23により被着者Pの大腿上部を周方向に取り囲むようにした上記実施形態によれば、被着者Pの転倒時に膨張する大腿保護部22,23から大腿上部に対し径方向内側に向かう押圧力が作用することにより、大腿上部の筋肉(例えば大臀筋等の臀筋群、大内転筋等の内転筋群、大腿二頭筋等の屈筋群)を大腿骨に対しその周囲から一体的に密着させることができるとともに、大腿上部の筋肉に適度なテンションをかけることができる。これにより、特に骨折のリスクが高い大腿骨近位部が効果的に補強されるとともに、当該大腿骨近位部に加わる衝撃が膨張した上記大腿保護部22,23(その内部ガス)によって緩和されるので、大腿骨近位部を効果的に保護することができる。言い換えると、上記実施形態では、エアバッグ2の大腿保護部22,23がいわば筋肉の代わりを務めることになるので、仮に被着者Pがサルコペニアを発症した高齢者(つまり大腿部の筋肉が著しく減退した高齢者)であっても、転倒時に大腿骨近位部を骨折するリスクを十分に低減することができ、高齢者の生活の質を長期に亘り良好なものとすることができる。
【0056】
また、上記実施形態において、大腿保護部22(23)は、大腿上部の周面に沿ったリング状の空間X(Y)を内包しかつ大腿中央線に沿う方向に区分された複数のセル221~224(231~234)を有するので、例えば大腿保護部22(23)を単一のセルによって構成した場合と異なり、大腿保護部22(23)から加わる押圧力が大腿中央線上の位置によって大きく変動するといった事態を回避でき、大腿上部の各部に対し各セル221~224(231~234)の膨張による押圧力を効率よく付与することができる。これにより、大腿上部の筋肉による大腿骨近位部の補強作用を効果的に発揮させることができ、大腿骨近位部を骨折するリスクをより低減することができる。
【0057】
また、上記実施形態において、大腿保護部22(23)の複数のセル221~224(231~234)は、大腿部の付け根Q1(Q2)に沿って体幅方向外側ほど上方に位置するように傾斜しかつ当該付け根Q1(Q2)の近傍を周方向に取り囲む第2セル222(232)を有するので、被着者Pの転倒時にこの第2セル222(232)が膨張することにより、大腿骨近位部に対応する高さにある大腿部の付け根Q1(Q2)近傍の筋肉、詳しくは、付け根Q1(Q2)およびこれよりやや下側に位置する筋肉が径方向内側に押圧されて、当該筋肉が大腿骨近位部に密着させられる。これにより、大腿骨近位部を効率よく補強できるとともに、転倒による大腿骨近位部への衝撃を第2セル222(232)によって十分に緩和することができる。
【0058】
また、上記実施形態では、ガスの供給源として機能するインフレータ32(33)が、大腿部の付け根Q1(Q2)の近傍を取り囲む上記第2セル222(232)に取り付けられており、被着者Pの転倒時にインフレータ32(33)が作動したときには当該第2セル222(232)に最初にガスが供給されるので、大腿骨近位部に最も近い位置にある第2セル222(232)を最も早く膨張させることができ、大腿骨近位部の骨折を防止する効果をより確実に得ることができる。
【0059】
また、上記実施形態では、大腿保護部22(23)の複数のセル221~224(231~234)が仕切り布226(236)によって互いに仕切られるとともに、各仕切り布226(236)にそれぞれ連通孔H1(H2)が形成されているので、インフレータ32(33)から第2セル222(232)に最初に供給されたガスを連通孔H1(H2)を通じて他のセルに導入することができ、共通のインフレータ32(33)から供給されたガスを用いて複数のセル221~224(231~234)を確実に膨張させることができる。これにより、インフレータ32(33)の数を減らして構造を簡素化しつつ、膨張する複数のセル221~224(231~234)によって大腿骨近位部の適切な保護を図ることができる。
【0060】
また、上記実施形態では、被着者Pの大腿上部を覆う大腿保護部22,23に加えて、被着者Pの腰部を覆う腰用セル26が設けられているので、転倒時に被着者Pの腰部に加わる衝撃をこの腰用セル26によって緩和することができ、例えば骨盤などを骨折するリスクを低減することができる。
【0061】
また、上記実施形態では、エアバッグ2の膨張時に、大腿保護部22(23)の屈曲角θ1(前方への傾動角度)および外転角θ2(体幅方向外側への傾動角度)がそれぞれ15~45°/10~30°になるように規制する拘束布30が大腿保護部22(23)に取り付けられているので、被着者Pが完全に転倒する前(大腿骨近位部に衝撃が加わる前)に、被着者Pの下半身の姿勢がその大腿上部の筋肉を緊張させる(ふんばる)のに適した姿勢となるように制御することができ、大腿骨近位部のより適切な保護を図ることができる。
【0062】
また、上記実施形態では、エアバッグ2内のガス圧が100~300mmHgに達すると開放されるリリーフバルブ41,42がエアバッグ2に設けられているので、膨張直後のエアバッグ2内のガス圧を100~300mmHgに保持することができ、被着者Pの転倒動作中(つまり転倒が検知されてから被着者が完全に転倒するまでの間)に100~300mmHgの押圧力を大腿上部に安定的に作用させることができる。これにより、被着者Pの大腿上部の筋肉を適度に緊張させることができ、当該大腿上部の筋肉による大腿骨近位部の保護作用を高めることができる。
【0063】
また、上記実施形態では、パンツ本体1が外布部11と内布部12を有する二重構造とされ、当該外布部11と内布部12との間にエアバッグ2が設けられるので、被着者Pの大腿上部等を覆うのに適した位置にエアバッグ2を安定的に取り付けることができ、エアバッグ2による上述した効果を十分に発揮させることができる。また、外布部11としてデザイン性に優れた生地を採用したり、内布部12として肌触りのよい生地を採用するといった工夫により、被着者Pがエアバッグパンツを着用する際に感じる抵抗感を大幅に低減することができ、被着者Pが日常的に着用し易いエアバッグパンツを実現することができる。
【0064】
なお、上記実施形態では、左右の大腿保護部22,23に対しそれぞれガスを供給する合計2つのインフレータ32,33をエアバッグ2に取り付けるようにしたが、インフレータの数は適宜変更することが可能である。例えば、エアバッグ2全体にガスを供給する単一のインフレータを設けてもよいし、3個以上のインフレータを設けてもよい。また、コントローラとインフレータとをユニット化してベルト状の外装部品に内蔵した上で、当該外装部品を腰回りに着脱自在に取り付けるようにしてもよい。
【0065】
上記実施形態では、エアバッグパンツを着用する被着者Pの性別について特に言及しなかったが、エアバッグパンツを被着者Pの性別に応じて作り分けるようにしてもよい。例えば、男性用/女性用でエアバッグの構造が同一であると、被着者が男性であった場合に陰部が過度に圧迫されるおそれがある。そこで、男性用のエアバッグについては、陰部への圧迫が過度にならないように対策することが望ましい。例えば、陰部に最も近いエアバッグのセル(上記実施形態では第1セル221,231)に対し、陰部に向かう方向への膨張量を抑制するための比較的硬質な生地を取り付けるといった対策を講じるとよい。
【0066】
上記実施形態では、パンツ本体1の内側に設けられるエアバッグとして、エアバッグ2のみを用意したが、このエアバッグ2とは別体のエアバッグを追加で設けてもよい。例えば、エアバッグ2の外側に、エアバッグ2を概ねその全周から囲むような一体の袋状体からなる追加のエアバッグを設けることが考えられる。このような追加のエアバッグを設けた場合には、転倒時に大腿骨近位部に加わる衝撃が大幅に緩和されることになり、転倒時に大腿骨近位部を骨折するリスクがさらに低減すると期待される。
【0067】
上記実施形態では、パンツ本体1を外布部11と内布部12とを有する二重構造のものとしたが、パンツ本体1の内側にエアバッグ2が取り付け可能である限りにおいて、パンツ本体1の構造は適宜変更することが可能である。例えば、内布部を省略した(一重構造の)パンツ本体の内側面にエアバッグを取り付け、被着者の身体にエアバッグが直接接するように構成してもよい。
【0068】
上記実施形態では、パンツ本体1として、被着者Pの腰回りと左右の大腿上部とを覆う短パンツ型の衣類を採用したが、これに限らず、被着者の膝まで延びる半パンツ型の衣類や、被着者の脚を全体的に覆う長パンツ型の衣類をパンツ本体として採用してもよい。
【0069】
また、パンツ本体として、例えば
図10および
図11に示すような、エアバッグのセルの形状に対応した凹凸状の外観を呈するものを採用してもよい。
図10は、このような形状(いわばダウンコート風)のパンツ本体を女性用に適用した例を示し、
図11は、これを男性用に適用した例を示している。各図において、1’(1”)はパンツ本体を、3’(3”)はガス供給装置をそれぞれ示している。パンツ本体1’(1”)の内側にはエアバッグが設けられており、このエアバッグは、少なくとも被着者の大腿上部に対応する位置に、ガス供給装置3’(3”)からのガスの供給を受けて膨張する複数のリング状のセルを有している。これら複数のリング状のセルは、パンツ本体1’(1”)の凹凸形状に対応付けてそれぞれ取り付けられている。
【符号の説明】
【0070】
1 パンツ本体
2 エアバッグ
3 ガス供給装置
11 外布部
12 内布部
22 左大腿保護部
23 右大腿保護部
26 腰用セル
30 拘束布(角度規制部)
41,42 リリーフバルブ(圧力規制部)
221~224 (左大腿保護部の)複数のセル
222 第2セル(特定セル)
X (セル内の)空間
231~234 (右大腿保護部の)複数のセル
232 第2セル(特定セル)
Y (セル内の)空間
226,236 仕切り布
H1,H2 連通孔
P 被着者
Q1,Q2 (大腿部の)付け根
θ1 屈曲角
θ2 外転角