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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】パルス判別装置および心電図解析装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/308 20210101AFI20221025BHJP
   A61B 5/33 20210101ALI20221025BHJP
【FI】
A61B5/308
A61B5/33 110
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018179345
(22)【出願日】2018-09-25
(65)【公開番号】P2020048712
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小柳 敬志
(72)【発明者】
【氏名】飯沼 一虎
(72)【発明者】
【氏名】久保 博
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/192775(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/064894(WO,A1)
【文献】特表2007-504917(JP,A)
【文献】特表2017-513681(JP,A)
【文献】特開2009-240623(JP,A)
【文献】米国特許第05709213(US,A)
【文献】米国特許第04226245(US,A)
【文献】特開平06-154342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/24-5/398
A61N 1/36-1/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペーシングパルスを出力して心臓を拍動させるペーシング装置が取り付けられた生体の複数の位置から電気信号を受信し、前記電気信号に含まれる前記ペーシングパルスを判別するパルス判別装置であって、
前記複数の位置から受信される前記電気信号の差分を算出する差分処理部と、
前記複数の位置から受信される前記電気信号の和分を算出する和分処理部と、
前記差分処理部で得られた前記差分と前記和分処理部で得られた前記和分とを比較して、前記電気信号に含まれる前記ペーシングパルスを判別するパルス判別部とを備えるパルス判別装置。
【請求項2】
前記差分処理部で得られる前記差分に対する絶対値のピーク値を差分ピーク値としてホールドすると共に、前記和分処理部で得られる前記和分に対する絶対値のピーク値を和分ピーク値としてホールドするピークホールド部をさらに有し、
前記パルス判別部は、前記ピークホールド部でホールドされた前記差分ピーク値が前記和分ピーク値以上である場合に、前記複数の位置から受信された前記電気信号を前記ペーシングパルスと判別する請求項1に記載のパルス判別装置。
【請求項3】
前記ピークホールド部でホールドされた前記差分ピーク値と前記和分ピーク値のホールド時間を測定する第1のタイマと、
前記第1のタイマのホールド時間が、前記ペーシングパルスのパルス幅の時間に基づいて予め定められたパルス時間に達した場合に、前記ピークホールド部の前記差分ピーク値と前記和分ピーク値をクリアするホールド制御部とをさらに有する請求項2に記載のパルス判別装置。
【請求項4】
前記パルス時間は、前記ペーシングパルスのパルス幅の時間より大きい値に定められる請求項3に記載のパルス判別装置。
【請求項5】
前記パルス判別部は、前記差分の絶対値が前記和分の絶対値以上である場合に、前記複数の位置から受信された前記電気信号を前記ペーシングパルスと判別する請求項1~4のいずれか一項に記載のパルス判別装置。
【請求項6】
前記複数の位置から受信される前記電気信号の強度の変化に基づいて前記電気信号のパルス幅を取得するパルス幅取得部をさらに有し、
前記パルス判別部は、さらに前記パルス幅取得部で取得された前記パルス幅に基づいて前記ペーシングパルスを判別する請求項1~5のいずれか一項に記載のパルス判別装置。
【請求項7】
前記複数の位置から受信された前記電気信号の立上りと立下りを検出するパルス検出部と、
前記パルス検出部で検出される前記立上りと前記立下りの間の時間を測定する第2のタイマとをさらに有し、
前記パルス幅取得部は、前記第2のタイマで測定される前記立上りと前記立下りの間の時間を前記パルス幅として取得する請求項6記載のパルス判別装置。
【請求項8】
前記立上りおよび前記立下りの一方が前記パルス検出部で検出されることにより前記第2のタイマの測定を開始し、前記立上りおよび前記立下りの他方が前記パルス検出部で検出されることにより前記第2のタイマの測定を停止してクリアするタイマ制御部をさらに有する請求項に記載のパルス判別装置。
【請求項9】
前記タイマ制御部は、前記立上りおよび前記立下りの一方が検出された後で且つ前記立上りおよび前記立下りの他方が検出される前に、前記第2のタイマの測定時間が前記ペーシングパルスのパルス幅に基づいて予め定められたパルス時間に達した場合に、前記パルス検出部で検出された電気パルスはノイズと判別し、前記第2のタイマの測定時間を停止してクリアする請求項に記載のパルス判別装置。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載のパルス判別装置と、
生体から受信された電気信号に基づいて心電図を生成する心電図生成部と、
前記心電図生成部で生成された心電図を表示する表示部とを備える心電図解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パルス判別装置および心電図解析装置に係り、特に、ペーシング装置が取り付けられた生体からの電気信号を受信して電気信号に含まれるペーシングパルスを判別するパルス判別装置および心電図解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ペースメーカーなどのペーシング装置から心臓を拍動させるために出力されるペーシングパルスを判別するパルス判別装置が提案されている。パルス判別装置は、ペーシング装置が取り付けられた生体からの電気信号を受信し、その電気信号に含まれるペーシングパルスを判別する。例えば、生体情報モニタおよび心電計などの心電図解析装置にパルス判別装置を内蔵して、生体から受信される電気信号に基づいて心電図を生成すると共にその電気信号に含まれるペーシングパルスを判別する。これにより、例えば心電図にペーシングパルスの出力タイミングを表示させることができ、心電図を詳細に解析することができる。
ここで、生体からの電気信号は、生体に配置された電極部を介して受信されるが、ペーシング装置に対する電極部の位置によってはペーシングパルスを確実に検出できないおそれがあった。
【0003】
そこで、ペーシングパルスを確実に検出する技術として、例えば、特許文献1には、使用する電極部の個数を増やすことなくペーシングパルスの検出精度を向上させるペースメーカパルス検出装置が提案されている。このペースメーカパルス検出装置は、3つの電極部を用いてペースメーカーに対して複数方向から電気信号の検出を行うため、電位差を有する電気信号をいずれかの電極部から得ることができ、ペーシングパルスを確実に検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-240623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、生体から受信される電気信号にはペーシングパルスに類似するノイズが含まれる場合があり、特許文献1のペースメーカパルス検出装置は、ペーシングパルスとノイズを高精度に判別するものではないため、電気信号に含まれるノイズをペーシングパルスとして検出するおそれがあった。例えば、電気信号の振幅のみに基づいてペーシングパルスとノイズを判別すると、ノイズをペーシングパルスとして誤検出する場合があり、ペーシングパルスを高精度に判別することが困難であった。
【0006】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、生体からの電気信号に含まれるペーシングパルスを高精度に判別するパルス判別装置および心電図解析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係るパルス判別装置は、ペーシングパルスを出力して心臓を拍動させるペーシング装置が取り付けられた生体の複数の位置から電気信号を受信し、電気信号に含まれるペーシングパルスを判別するパルス判別装置であって、複数の位置から受信される電気信号の差分を算出する差分処理部と、複数の位置から受信される電気信号の和分を算出する和分処理部と、差分処理部で得られた差分と和分処理部で得られた和分とに基づいて、電気信号に含まれるペーシングパルスを判別するパルス判別部とを備えるものである。
【0008】
ここで、差分処理部で得られる差分に対する絶対値のピーク値を差分ピーク値としてホールドすると共に、和分処理部で得られる和分に対する絶対値のピーク値を和分ピーク値としてホールドするピークホールド部をさらに有し、パルス判別部は、ピークホールド部でホールドされた差分ピーク値が和分ピーク値以上である場合に、複数の位置から受信された電気信号をペーシングパルスと判別することが好ましい。
【0009】
また、ピークホールド部でホールドされた差分ピーク値と和分ピーク値のホールド時間を測定する第1のタイマと、第1のタイマのホールド時間が、ペーシングパルスのパルス幅の時間に基づいて予め定められたパルス時間に達した場合に、ピークホールド部の差分ピーク値と和分ピーク値をクリアするホールド制御部とをさらに有することができる。
【0010】
また、パルス時間は、ペーシングパルスのパルス幅の時間より大きい値に定めることができる。
【0011】
また、パルス判別部は、差分の絶対値が和分の絶対値以上である場合に、複数の位置から受信された電気信号をペーシングパルスと判別することが好ましい。
【0012】
また、複数の位置から受信される電気信号の強度の変化に基づいて電気信号のパルス幅を取得するパルス幅取得部をさらに有し、パルス判別部は、さらにパルス幅取得部で取得されたパルス幅に基づいてペーシングパルスを判別することができる。
【0013】
この発明に係るパルス判別装置は、ペーシングパルスを出力して心臓を拍動させるペーシング装置が取り付けられた生体の複数の位置から電気信号を受信し、電気信号に含まれるペーシングパルスを判別するパルス判別装置であって、複数の位置から受信される電気信号の強度の変化に基づいて電気信号のパルス幅を取得するパルス幅取得部と、パルス幅取得部で取得されたパルス幅に基づいて、電気信号に含まれるペーシングパルスを判別するパルス判別部とを備えるものである。
【0014】
ここで、複数の位置から受信された電気信号の立上りと立下りを検出するパルス検出部と、パルス検出部で検出される立上りと立下りの間の時間を測定する第2のタイマとをさらに有し、パルス幅取得部は、第2のタイマで測定される立上りと立下りの間の時間をパルス幅として取得することが好ましい。
【0015】
また、立上りおよび立下りの一方がパルス検出部で検出されることにより第2のタイマの測定を開始し、立上りおよび立下りの他方がパルス検出部で検出されることにより第2のタイマの測定を停止してクリアするタイマ制御部をさらに有することができる。
【0016】
また、タイマ制御部は、立上りおよび立下りの一方が検出された後で且つ立上りおよび立下りの他方が検出される前に、第2のタイマの測定時間がペーシングパルスのパルス幅に基づいて予め定められたパルス時間に達した場合に、パルス検出部で検出された電気パルスはノイズと判別し、第2のタイマの測定時間を停止してクリアすることができる。
【0017】
この発明に係る心電図解析装置は、上記のパルス判別装置と、生体から受信された電気信号に基づいて心電図を生成する心電図生成部と、心電図生成部で生成された心電図を表示する表示部とを備えるものである。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、パルス判別部が、差分処理部で算出された差分と和分処理部で算出された和分とに基づいて、電気信号に含まれるペーシングパルスを判別するので、生体からの電気信号に含まれるペーシングパルスを高精度に判別するパルス判別装置および心電図解析装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明の実施の形態1に係るパルス判別装置を備えた心電図解析装置の構成を示すブロック図である。
図2】パルス判別部によるペーシングパルスの判別の動作を示すフローチャートである。
図3】表示部に心電図が表示された様子を示す図である。
図4】実施の形態2に係るパルス判別装置の要部を示すブロック図である。
図5】実施の形態3に係るパルス判別装置の要部を示すブロック図である。
図6】実施の形態3の動作を示すフローチャートである。
図7】この発明の実施の形態4に係るパルス判別装置を備えた心電図解析装置の構成を示すブロック図である。
図8】実施の形態4の動作を示すフローチャートである。
図9】実施の形態5の動作を示すフローチャートである。
図10】実施の形態6に係るパルス判別装置の要部を示すブロック図である。
図11】実施の形態6の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1
図1に、この発明の実施の形態1に係るパルス判別装置を備えた心電図解析装置2の構成を示す。この心電図解析装置2は、一対の電極1aおよび1bと接続される。心電図解析装置2は、例えば心電図測定のための心電計であってもよく、他のバイタルサインパラメータ(呼吸、体温、脈拍数、血圧、等)を取得可能な生体情報モニタであってもよい。なお、生体情報モニタは、いわゆるベッドサイドモニタであってもよく、医用テレメータ等の携帯型の装置であってもよい。心電図解析装置2は、表示部5が着脱可能な構成または表示に用いる各種データを転送する構成であってもよい。
【0021】
電極1aおよび1bは、ペーシング装置が取り付けられた生体において2つの位置にそれぞれ配置され、生体からの電気信号を入力するものである。ここで、ペーシング装置は、生体に配置されて、心臓に向けてペーシングパルスを順次出力することで心臓を拍動させるものである。このため、電極1aおよび1bに入力される電気信号は、心臓の動きを示す信号だけでなく、ペーシングパルスを含むものとなる。また、電極1aおよび1bは、ペーシングパルスPが互いに差動信号として入力、すなわち電極1aに入力されるペーシングパルスPと電極1bに入力されるペーシングパルスPとが逆位相で入力されるようにペーシング装置に対して配置される。
なお、ペーシング装置としては、例えばペースメーカーなどが挙げられる。
【0022】
心電図解析装置2は、パルス判別装置2aと、A/D変換部3と、心電図生成部4と、表示部5とを有する。
パルス判別装置2aは、電極1aおよび1bに接続された受信部6を有し、この受信部6に和分処理部7、増幅部8a、ハイパスフィルタ9aおよび絶対値処理部10aが順次接続されると共に受信部6に差分処理部11、増幅部8b、ハイパスフィルタ9bおよび絶対値処理部10bが順次接続されている。また、増幅部8bは、A/D変換部3にも接続されている。さらに、絶対値処理部10aおよび10bがそれぞれ比較部12に接続され、この比較部12にパルス判別部13を介して表示部5が接続されている。また、比較部12およびパルス判別部13に本体制御部14が接続されている。
【0023】
受信部6は、電極1aおよび1bに入力された電気信号を受信するもので、電極1aおよび1bが取り外し可能に接続されている。
和分処理部7は、電極1aと電極1bからそれぞれ受信部6に受信された電気信号の和分を算出するもので、例えば和動増幅回路から構成することができる。
差分処理部11は、電極1aと電極1bからそれぞれ受信部6に受信された電気信号の差分を算出するもので、例えば差動増幅回路から構成することができる。
【0024】
増幅部8aは、和分処理部7で和分された電気信号の強度を増幅させるものである。また、増幅部8bは、差分処理部11で差分された電気信号の強度を増幅させるものである。増幅部8aおよび8bは、例えば増幅回路から構成することができる。
ハイパスフィルタ9aは、増幅部8aで増幅された電気信号のうち所定の周波数より低い成分を減衰させて、周波数の高い成分を取り出すものである。また、ハイパスフィルタ9bは、増幅部8bで増幅された電気信号のうち所定の周波数より低い成分を減衰させて、周波数の高い成分を取り出すものである。
【0025】
絶対値処理部10aは、ハイパスフィルタ9aで処理された電気信号の絶対値を出力するものである。また、絶対値処理部10bは、ハイパスフィルタ9bで処理された電気信号の絶対値を出力するものである。絶対値処理部10aおよび10bは、例えば絶対値回路から構成することができる。
比較部12は、絶対値処理部10aから出力される電気信号の強度と絶対値処理部10bから出力される電気信号の強度とを比較するもので、例えばコンパレータ回路などから構成することができる。
【0026】
パルス判別部13は、比較部12の比較結果に基づいて、電気信号に含まれるペーシングパルスPを判別する。例えば、比較部12の比較結果において絶対値処理部10bから出力される差分の絶対値が絶対値処理部10aから出力される和分の絶対値以上である場合には、パルス判別部13は、受信部6で受信された電気信号をペーシングパルスPと判別する。一方、比較部12の比較結果において絶対値処理部10bから出力される差分の絶対値が絶対値処理部10aから出力される和分の絶対値より小さい場合には、パルス判別部13は、受信部6で受信された電気信号をノイズと判別する。
【0027】
本体制御部14は、パルス判別装置2a内の各部の制御を行うものである。
なお、パルス判別部13および本体制御部14は、CPUと、CPUに各種の処理を行わせるための動作プログラムから構成されるが、それらをデジタル回路で構成してもよい。
【0028】
A/D変換部3は、増幅部8bに接続され、増幅部8bで増幅されたアナログの電気信号をアナログ/デジタル変換して、デジタルの電気信号を生成する。
心電図生成部4は、A/D変換部3に接続され、A/D変換部3で生成されたデジタルの電気信号に基づいて心電図を生成する。
表示部5は、心電図生成部4とパルス判別部13にそれぞれ接続され、心電図生成部4で生成された心電図を表示すると共にパルス判別部13でペーシングパルスPと判別された心電図の位置にペーシングパルスPの出力を示すパルスマークを表示する。
【0029】
次に、この実施の形態1の動作について説明する。
まず、図1に示す電極1aおよび1bが、生体表面の2つの位置に配置される。生体には、図示しないペーシング装置が取り付けられており、心臓を拍動させるためのペーシングパルスPがペーシング装置から心臓に向けて順次出力されている。このため、生体にはペーシングパルスPを含む電気信号が伝搬し、その電気信号が電極1aおよび1bに入力される。ここで、電極1aおよび1bは、ペーシングパルスPを差動信号として入力するような位置に配置されている。電極1aおよび1bに電気信号がそれぞれ入力されると、その電気信号が電極1aおよび1bからパルス判別装置2aの受信部6に出力される。
【0030】
電極1aおよび1bから出力された電気信号がそれぞれ受信部6で受信されると、受信部6は、電極1aおよび1bから受信した電気信号を和分処理部7に出力すると共に電極1aおよび1bから受信した電気信号を差分処理部11に出力する。
【0031】
受信部6から出力された電気信号が和分処理部7に入力されると、和分処理部7は、電気信号を和分処理、すなわち互いに異なる2つの位置で受信された電気信号の和分を算出する。このため、差動信号として入力されるペーシングパルスPは、和分処理により互いに打ち消されて強度が小さな値、例えばゼロになる。一方、一般的に、同相信号として入力されるノイズ、例えば外部装置の振動に起因したノイズは、和分処理により互いに高められて大きな値となる。和分処理された電気信号は、和分処理部7から増幅部8aに出力される。
和分処理部7で和分処理された電気信号は、増幅部8aで増幅された後、ハイパスフィルタ9aで周波数の高い成分が取り出されて、絶対値処理部10aに入力される。そして、絶対値処理部10aに入力された電気信号は絶対値変換され、絶対値処理部10aから比較部12に出力される。
【0032】
一方、受信部6から出力された電気信号が差分処理部11に入力されると、差分処理部11は、電気信号を差分処理、すなわち互いに異なる2つの位置で受信された電気信号の差分を算出する。このため、差動信号として入力されるペーシングパルスPは、差分処理により互いに高められて大きな値となる。一方、同相信号として入力されるノイズは、互いに打ち消されて小さな値となる。差分処理された電気信号は、差分処理部11から増幅部8bに出力される。
差分処理部11で差分処理された電気信号は、増幅部8bで増幅された後、ハイパスフィルタ9bで立上りR成分と立下りF成分が取り出されて、絶対値処理部10bに入力される。そして、絶対値処理部10bに入力された電気信号は絶対値変換され、絶対値処理部10bから比較部12に出力される。なお、増幅部8bで増幅された電気信号は、増幅部8bからA/D変換部3にも出力される。
【0033】
このようにして、絶対値処理部10aおよび10bで処理された電気信号が、それぞれ比較部12に入力される。これにより、図2に示すように、比較部12が、ステップS1で、電気信号を差分した絶対値と電気信号を和分した絶対値をそれぞれ取得する。比較部12は、電気信号を差分した絶対値と電気信号を和分した絶対値を比較し、その比較結果をパルス判別部13に出力する。
【0034】
比較部12の比較結果がパルス判別部13に入力されると、パルス判別部13は、ステップS2で、電気信号の差分の絶対値が電気信号の和分の絶対値以上か否かを判定する。
ここで、差動信号として入力されるペーシングパルスPは、差分の絶対値が所定の値より大きくなり、和分の絶対値が所定の値以下となる。一方、同相信号として入力されるノイズは、差分の絶対値が所定の値以下となり、和分の絶対値が所定の値より大きくなる。すなわち、ペーシングパルスPが入力された場合には差分の絶対値が和分の絶対値以上となり、ノイズが入力された場合には差分の絶対値が和分の絶対値より小さくなる。
【0035】
このため、パルス判別部13は、電気信号の差分の絶対値が電気信号の和分の絶対値以上である場合には、ステップS3で、その部分をペーシングパルスPと判別する。そして、パルス判別部13は、ステップS4で、ペーシングパルスPの検出信号を表示部5に出力する。一方、パルス判別部13は、電気信号の差分の絶対値が電気信号の和分の絶対値より小さい場合には、ステップS5で、その部分をノイズと判別する。
【0036】
このように、パルス判別部13が、差分処理部11で得られた電気信号の差分と和分処理部7で得られた電気信号の和分に基づいて、すなわち差動信号として入力されるペーシングパルスPの特性に基づいて、電気信号に含まれるペーシングパルスPを判別するため、ペーシングパルスPを高精度に判別することができる。
このようにして、パルス判別部13においてペーシングパルスPか否かが判別されると、ステップS1に戻り、順次入力される電気信号に対してペーシングパルスPの判別を繰り返し実行する。
【0037】
ここで、増幅部8bからA/D変換部3に出力された電気信号は、A/D変換部3でデジタルの電気信号に変換された後、心電図生成部4に出力される。そして、心電図生成部4が、A/D変換部3から入力された電気信号に基づいて心電図を生成し、その心電図信号を表示部5に出力する。
【0038】
これにより、表示部5には、図3に示すように、生体の心臓の拍動を示す心電図Eが表示される。また、表示部5には、ステップS4で、パルス判別部13から出力されたペーシングパルスPの検出信号が入力される。このため、表示部5は、ペーシングパルスPの検出に対応する位置に、ペーシング装置からのペーシングパルスPの出力を示すパルスマークMを心電図Eに重畳表示する。
このように、心電図EにパルスマークMを重畳表示させることにより、例えばペーシング装置からのペーシングパルスPの出力タイミングを容易に把握することができ、心電図Eを詳細に解析することができる。
【0039】
本実施の形態によれば、パルス判別部13が、差分処理部11で得られた電気信号の差分と和分処理部7で得られた電気信号の和分に基づいて電気信号に含まれるペーシングパルスPを判別するため、ペーシングパルスPを高精度に判別することができる。
【0040】
実施の形態2
上記の実施の形態1において、比較部12は、電気信号を差分した絶対値のピーク値と電気信号を和分した絶対値のピーク値とを比較することが好ましい。
例えば、図4に示すように、実施の形態1において絶対値処理部10aおよび10bと比較部12との間にピークホールド部21を接続すると共に、このピークホールド部21にホールド制御部22および第1のタイマ23を順次接続することができる。
【0041】
ピークホールド部21は、和分ピークホールド部24および差分ピークホールド部25を有する。
和分ピークホールド部24は、絶対値処理部10aと比較部12との間に接続され、絶対値処理部10aから出力される電気信号のピーク値、すなわち和分処理部7で得られる和分に対する絶対値のピーク値を和分ピーク値としてホールドする。
差分ピークホールド部25は、絶対値処理部10bと比較部12との間に接続され、絶対値処理部10bから出力される電気信号のピーク値、すなわち差分処理部11で得られる差分に対する絶対値のピーク値を差分ピーク値としてホールドする。
【0042】
第1のタイマ23は、和分ピークホールド部24でホールドされた和分ピーク値と差分ピークホールド部25でホールドされた差分ピーク値のホールド時間を測定するものである。
ホールド制御部22は、第1のタイマ23のホールド時間に基づいて和分ピークホールド部24と差分ピークホールド部25を制御するものである。具体的には、ホールド制御部22は、第1のタイマ23のホールド時間が予め定められたパルス時間に達した場合に、和分ピークホールド部24の和分ピーク値と差分ピークホールド部25の差分ピーク値をゼロに戻してクリアし、和分ピーク値と差分ピーク値を繰り返しホールドするように制御する。
【0043】
ここで、パルス時間は、ペーシングパルスPの立上りRと立下りFとの間のパルス幅Wに基づいて予め設定されるものであり、ペーシングパルスPのパルス幅Wより大きい値に定めることが好ましい。例えば、パルス時間は、ペーシングパルスPのパルス幅Wより大きい値で且つペーシングパルスPがペーシング装置から出力される時間間隔より小さい値に定めることができ、例えばパルス時間を8msに定めることができる。
【0044】
次に、この実施の形態2の動作について説明する。
まず、実施の形態1と同様に、電極1aおよび1bから入力された電気信号が、和分処理部7、増幅部8aおよびハイパスフィルタ9aを介して絶対値処理部10aに入力されると共に、差分処理部11、増幅部8bおよびハイパスフィルタ9bを介して絶対値処理部10bに入力される。
【0045】
そして、絶対値処理部10aに入力された電気信号が、絶対値処理部10aで絶対値変換された後、和分ピークホールド部24に入力されて和分ピーク値がホールドされる。同様に、絶対値処理部10bに入力された電気信号が、絶対値処理部10bで絶対値変換された後、差分ピークホールド部25に入力されて差分ピーク値がホールドされる。このとき、ホールド制御部22が、第1のタイマ23をスタートさせて、和分ピークホールド部24および差分ピークホールド部25のホールド時間を測定する。
【0046】
ここで、例えば、差動信号であるペーシングパルスPが電極1aおよび1bから入力された場合には、差分ピーク値が所定の値より大きな値でホールドされると共に和分ピーク値が所定の値以下の値でホールドされることになる。一方、同相信号であるノイズが電極1aおよび1bに入力された場合には、差分ピーク値が所定の値以下の値でホールドされると共に和分ピーク値が所定の値より大きな値でホールドされることになる。
このように、和分ピークホールド部24が和分ピーク値をホールドすると共に差分ピークホールド部25が差分ピーク値をホールドするため、和分ピーク値と差分ピーク値を容易に取得することができる。
【0047】
このため、ホールド制御部22は、差分ピーク値が所定の値より大きな値でホールドされることなく、第1のタイマ23のホールド時間が予め定められたパルス時間に達した場合には、ペーシングパルスPは検出されていない、すなわちノイズであるとして、和分ピークホールド部24の和分ピーク値と差分ピークホールド部25の差分ピーク値をクリアしてゼロに戻すと共に第1のタイマ23のホールド時間をクリアしてゼロに戻す。そして、ホールド制御部22は、第1のタイマ23を再度スタートさせる。
一方、ホールド制御部22は、第1のタイマ23のホールド時間がパルス時間に達する前に、差分ピーク値が所定の値より大きな値でホールドされると共に和分ピーク値が所定の値以下の値でホールドされた場合には、和分ピークホールド部24の和分ピーク値と差分ピークホールド部25の差分ピーク値を比較部12に出力する。
【0048】
このように、ホールド制御部22が、第1のタイマ23のホールド時間に基づいて、和分ピークホールド部24と差分ピークホールド部25を繰り返し制御するため、ノイズを容易に除去しつつ和分ピーク値と差分ピーク値を順次取得することができる。
【0049】
続いて、和分ピークホールド部24の和分ピーク値と差分ピークホールド部25の差分ピーク値が比較部12に入力されると、比較部12は、和分ピーク値と差分ピーク値を比較する。このとき、比較部12は、和分ピークホールド部24でホールドされた和分ピーク値と差分ピークホールド部25でホールドされた差分ピーク値とを比較、すなわち最も強度が高い値を比較するため、その数値の差を高精度に比較することができる。
【0050】
比較部12は比較した結果をパルス判別部13に出力し、パルス判別部13が比較結果から差分ピーク値が和分ピーク値以上か否かを判定する。パルス判別部13は、実施の形態1と同様に、差分ピーク値が和分ピーク値以上である場合には、その部分をペーシングパルスPと判別する。一方、パルス判別部13は、差分ピーク値が和分ピーク値より小さい場合には、その部分をノイズと判別する。
【0051】
本実施の形態によれば、パルス判別部13が、差分ピークホールド部25でホールドされた差分ピーク値と和分ピークホールド部24でホールドされた和分ピーク値とを比較して判別するため、ペーシングパルスPを高精度に判別することができる。
【0052】
実施の形態3
上記の実施の形態1および2において、電気信号に含まれる電気パルスを検出するパルス検出部を新たに配置することが好ましい。
例えば、図5に示すように、実施の形態1においてハイパスフィルタ9bとパルス判別部13との間にパルス検出部61を新たに接続することができる。このパルス検出部61は、ハイパスフィルタ9bから入力される電気信号の強度の変化に基づいて、電気信号に含まれる電気パルスを検出するものである。具体的には、パルス検出部61は、電気信号の強度の変化が予め設定された閾値を超えた場合に、その信号を電気パルスとして検出する。ここで、電気パルスは、電気信号に含まれる全てのパルスを総称するものであり、ペーシングパルスとノイズパルスを含むものである。ノイズパルスとは、例えば同相ノイズおよび連続性パルスなどが該当する。
【0053】
次に、図6のフローチャートを参照して実施の形態3の動作について説明する。
まず、ステップS6で、パルス検出部61によるパルス検出を有効化する。続いて、実施の形態1と同様に、生体からの電気信号が、電極1aおよび1bを介して受信部6で受信された後、和分処理部7、増幅部8a、ハイパスフィルタ9aおよび絶対値処理部10aを介して比較部12に入力されると共に差分処理部11、増幅部8b、ハイパスフィルタ9bおよび絶対値処理部10bを介して比較部12に入力される。また、ハイパスフィルタ9bで処理された電気信号はパルス検出部61にも入力される。
パルス検出部61は、ハイパスフィルタ9bから入力された電気信号の強度の変化に基づいて電気信号に含まれる電気パルスの検出を行う。パルス検出部61は、ステップS7で、電気パルスを検出した場合には、電気パルスの検出信号を比較部12に出力して、ステップS8で、パルス検出を無効化する。一方、パルス検出部61は、電気パルスを検出しない場合には、電気パルスを検出するまでステップS7を繰り返す。
【0054】
このようにして、絶対値処理部10aおよび10bで処理された電気信号とパルス検出部61で検出された電気パルスの検出信号が比較部12に入力されると、比較部12は、パルス検出部61で検出された電気パルスに対応する差分の絶対値と和分の絶対値を比較し、その比較結果をパルス判別部13に出力する。続いて、パルス判別部13が、ステップS2で、実施の形態1と同様に判定する。パルス判別部13は、差分の絶対値が和分の絶対値以上と判定した場合には、ステップS3に進んで、その電気パルスをペーシングパルスPと判別し、差分の絶対値が和分の絶対値より小さいと判定した場合には、ステップS5に進んで、その電気パルスをノイズと判別する。
【0055】
本実施の形態によれば、パルス判別部13は、パルス検出部61で検出された電気パルスについて差分の絶対値が和分の絶対値以上か否かを判定するため、電気信号に含まれるペーシングパルスPをより高精度に判別することができる。
【0056】
実施の形態4
上記の実施の形態1~3では、パルス判別部13は、差分処理部11で得られた差分と和分処理部7で得られた和分とに基づいて電気信号に含まれるペーシングパルスPを判別したが、ペーシングパルスPのパルス幅Wに基づいて判別することもできる。
例えば、図7に示すように、実施の形態1において和分処理部7、増幅部8a、ハイパスフィルタ9a、絶対値処理部10a、絶対値処理部10bおよび比較部12を除くと共にパルス判別部13に換えてパルス判別部31を配置する。また、ハイパスフィルタ9bとパルス判別部31の間にパルス検出部32とパルス幅取得部33を順次接続すると共に、パルス幅取得部33にタイマ制御部34と第2のタイマ35を順次接続し、本体制御部14がパルス幅取得部33とパルス判別部31に接続される。
【0057】
パルス検出部32は、生体の2つの位置に配置された電極1aおよび1bから受信される電気信号の立上りRと立下りFを検出するもので、立上り検出部36および立下り検出部37を有する。
立上り検出部36は、ハイパスフィルタ9bとパルス幅取得部33との間に接続され、ハイパスフィルタ9bにおいて立上りR成分と立下りF成分が取り出された電気信号を入力し、その電気信号の強度の変化に基づいて立上りRを検出する。
立下り検出部37は、ハイパスフィルタ9bとパルス幅取得部33との間に接続され、ハイパスフィルタ9bにおいて立上りR成分と立下りF成分が取り出された電気信号を入力し、その電気信号の強度の変化に基づいて立下りFを検出する。
【0058】
第2のタイマ35は、立上り検出部36で検出された立上りRの時刻と立下り検出部37で検出された立下りFの時刻との間の時間を測定する。
タイマ制御部34は、パルス検出部32における立上りRおよび立下りFの検出に従って第2のタイマ35を制御するものである。具体的には、タイマ制御部34は、パルス検出部32において立上りRおよび立下りFの一方が検出されることにより第2のタイマ35の測定を開始し、パルス検出部32において立上りRおよび立下りFの他方が検出されることにより第2のタイマ35の測定を停止してクリアする。また、タイマ制御部34は、パルス検出部32において立上りRおよび立下りFの一方が検出された後で且つ他方が検出される前に、第2のタイマ35の測定時間が予め定められたパルス時間に達した場合に、第2のタイマ35を停止してクリアする。
【0059】
パルス幅取得部33は、第2のタイマ35で測定される時間に基づいて、立下りFと立下りFの間のパルス幅Wを取得する。
なお、パルス時間は、実施の形態2と同様に、ペーシングパルスPのパルス幅Wに基づいて予め設定されるものであり、例えば、ペーシングパルスPのパルス幅Wより大きい値である8msに定めることができる。
【0060】
次に、図8のフローチャートを参照して実施の形態4の動作について説明する。
まず、ステップS11で、立上り検出部36における立上りRの検出を有効化すると共に立下り検出部37における立下りFの検出を有効化する。そして、実施の形態1と同様に、生体からの電気信号が、電極1aおよび1b、受信部6、差分処理部11、増幅部8bおよびハイパスフィルタ9bを介してパルス検出部32の立上り検出部36と立下り検出部37にそれぞれ出力される。
【0061】
立上り検出部36に電気信号が入力されると、立上り検出部36は、電気信号の強度の変化に基づいて電気パルスの立上りRを検出する。同様に、立下り検出部37に電気信号が入力されると、立下り検出部37は、電気信号の強度の変化に基づいて電気パルスの立下りFを検出する。立上り検出部36において立上りRが検出された場合には検出信号がパルス幅取得部33に出力され、立下り検出部37において立下りFが検出された場合には検出信号がパルス幅取得部33に出力される。
【0062】
そして、パルス幅取得部33が、ステップS12で、立上りRと立下りFの一方を検出したか否かの判定を繰り返し行う。ここで、例えば、立上り検出部36からパルス幅取得部33に検出信号が入力された場合には、パルス幅取得部33は、立上りRと立下りFの一方として立上りRが検出されたと判定し、ステップS13で、立上り検出部36による立上りRの検出を無効化する。また、タイマ制御部34が、ステップS14で、第2のタイマ35をスタートさせる。
【0063】
続いて、パルス幅取得部33に立下り検出部37から検出信号が入力されると、パルス幅取得部33は、ステップS15で、立上りRと立下りFの他方として立下りFが検出されたと判定し、ステップS16に進む。一方、パルス幅取得部33に立下り検出部37から検出信号が入力されない場合には、パルス幅取得部33は、立下りFが検出されていないと判定し、ステップS17に進むことになる。
【0064】
ステップS16に進むと、パルス幅取得部33は、立下り検出部37による立下りFの検出を無効化し、ステップS18で、立下りFが検出されたときの第2のタイマ35の測定時間、すなわち立上りRと立下りFとの間のパルス幅Wをタイマ制御部34を介して取得する。
このように、パルス幅取得部33は、タイマ制御部34を介して、第2のタイマ35で立上りRと立下りFの検出時間を測定するだけで立上りRと立下りFの間のパルス幅Wを容易に取得することができる。このようにして取得されたパルス幅Wは、パルス幅取得部33からパルス判別部31に出力される。
【0065】
パルス幅取得部33からパルス判別部31にパルス幅Wが入力されると、パルス判別部31は、ステップS19で、パルス幅Wが所定の範囲内か否かを判定する。ここで、所定の範囲は、ペーシングパルスPのパルス幅Wに基づいて予め設定されたものである。一般的に、ペーシングパルスPのパルス幅Wは、0.2ms~3msの範囲に収まる傾向にあり、例えば所定の範囲を0.2ms~3msに設定することができる。
パルス幅Wが所定の範囲内である場合には、ステップS20に進んで、パルス判別部31は、その電気パルスをペーシングパルスPと判別する。一方、パルス幅Wを所定の範囲外と判別した場合には、ステップS23に進んで、パルス判別部31は、その電気パルスをノイズと判別する。
【0066】
このように、パルス判別部31が、パルス幅Wに基づいて電気信号に含まれるペーシングパルスPを判別するため、ペーシングパルスPを高精度に判別することができる。
ステップS20で、ペーシングパルスPが検出されると、パルス判別部31は、ステップS21に進んで、ペーシングパルスPの検出信号を表示部5に出力する。そして、ステップS22で、タイマ制御部34が、第2のタイマ35を停止してクリアする。
【0067】
一方、パルス幅取得部33は、ステップS17に進むと、第2のタイマ35の測定時間が予め定められたパルス時間以上であるか否かを判定する。パルス幅取得部33は、第2のタイマ35の測定時間がパルス時間以上と判定した場合には、その判定結果をパルス判別部31に出力し、ステップS23で、パルス判別部31が、その電気パルスをノイズと判別する。また、パルス幅取得部33は、第2のタイマ35の測定時間がパルス時間より小さい場合には、ステップS15に戻り、立下りFが検出されたか否かを繰り返し判定する。
【0068】
このようにして、ステップS23で、パルス判別部31が電気パルスをノイズと判別すると、ステップS22に進んで、タイマ制御部34が、第2のタイマ35を停止してクリアする。
タイマ制御部34が第2のタイマ35をクリアすると、ステップS11に戻り、立上りRと立下りFの検出を再び有効化し、順次入力される電気信号に対して立上りRと立下りFの検出が繰り返し実行される。
【0069】
本実施の形態によれば、パルス判別部31が、パルス幅Wに基づいて電気信号に含まれるペーシングパルスPを判別するため、ペーシングパルスPを高精度に判別することができる。
【0070】
実施の形態5
上記の実施の形態4において、ステップS20で、パルス判別部31が電気信号に含まれる電気パルスをペーシングパルスPと判別した後、次のペーシングパルスPが電極1aおよび1bから入力される直前まで、立上りRおよび立下りFの検出を停止することが好ましい。
【0071】
例えば、図9に示すように、実施の形態4のステップS20でパルス判別部31が電気信号に含まれる電気パルスをペーシングパルスPと判別して、ステップS21で、ペーシングパルスPの検出信号を表示部5に出力した後、ステップS24に進んで、第2のタイマ35の測定時間が予め定められたパルス時間以上であるか否かをパルス幅取得部33により判定することができる。
ここで、パルス時間は、実施の形態2と同様に、ペーシングパルスPのパルス幅Wに基づいて予め設定されるものであり、例えば、ペーシングパルスPのパルス幅Wより大きい値で且つペーシングパルスPがペーシング装置から出力される時間間隔より小さい値である8msに定めることができる。
【0072】
パルス幅取得部33は、第2のタイマ35の測定時間がパルス時間以上であると判定すると、ステップS22に進んで、タイマ制御部34を介して第2のタイマを停止してクリアする。一方、パルス幅取得部33は、第2のタイマ35の測定時間がパルス時間より小さいと判定した場合には、第2のタイマ35の測定時間がパルス時間以上となるまでステップS24を繰り返す。
このように、ペーシングパルスPを検出した後、次のペーシングパルスPが電極1aおよび1bに入力される直前まで立上りRおよび立下りFの検出を停止するため、次のペーシングパルスPが検出されるまでの間に入力されるノイズを排除することができ、ノイズの検出を抑制することができる。
【0073】
本実施の形態によれば、電気信号に含まれる電気パルスがペーシングパルスPと判別された後、次のペーシングパルスPが電極1aおよび1bから入力される直前まで、パルス幅取得部33が、立上りRおよび立下りFの検出を停止するため、ノイズの検出を抑制することができる。
【0074】
実施の形態6
上記の実施の形態1~3では差分と和分に基づいてペーシングパルスPを判別し、実施の形態4および5ではパルス幅Wに基づいてペーシングパルスPを判別したが、実施の形態1~3と実施の形態4および5とを組み合わせて電気信号に含まれるペーシングパルスPを判別することもできる。
例えば、図10に示すように、実施の形態2において、パルス判別部13に換えてパルス判別部51を配置すると共に、ハイパスフィルタ9bに実施の形態4のパルス検出部32とパルス幅取得部33を順次接続して、このパルス幅取得部33をパルス判別部51に接続する。また、パルス幅取得部33に実施の形態4のタイマ制御部34と第2のタイマ35を順次接続し、本体制御部14をパルス幅取得部33、タイマ制御部34およびパルス判別部51に接続する。さらに、パルス幅取得部33がホールド制御部22に接続される。
【0075】
パルス判別部51は、パルス幅取得部33で取得されたパルス幅Wに基づいて電気信号に含まれるペーシングパルスPを判別し、さらに差分処理部11で得られた差分と和分処理部7で得られた和分とに基づいてペーシングパルスPを判別するものである。
【0076】
次に、図11のフローチャートを参照して実施の形態6の動作について説明する。
まず、実施の形態4と同様に、ステップS11で、立上り検出部36における立上りRの検出を有効化すると共に立下り検出部37における立下りFの検出を有効化する。また、ホールド制御部22が、ステップS31で、第1のタイマ23をスタートさせて、和分ピークホールド部24および差分ピークホールド部25のホールド時間を測定する。
【0077】
そして、電極1aおよび1bから入力された電気信号が、和分処理部7、増幅部8a、ハイパスフィルタ9aおよび絶対値処理部10aを介して和分ピークホールド部24に入力されると共に、差分処理部11、増幅部8b、ハイパスフィルタ9bおよび絶対値処理部10bを介して差分ピークホールド部25に入力される。これにより、和分ピークホールド部24では和分ピーク値がホールドされ、差分ピークホールド部25では差分ピーク値がホールドされることになる。
【0078】
一方、ハイパスフィルタ9bで処理された電気信号は、立上り検出部36と立下り検出部37にも入力され、立上り検出部36および立下り検出部37において立上りRおよび立下りFが検出された場合には、その検出信号がそれぞれパルス幅取得部33に入力される。そして、パルス幅取得部33が、ステップS12で、立上りRおよび立下りFの一方を検出したか否かの判定を行う。
【0079】
パルス幅取得部33が、立上りRおよび立下りFの一方を検出したと判定した場合には、その判定信号をホールド制御部22に出力する。このため、パルス幅取得部33が、立上りRおよび立下りFの一方を検出していない場合には、判定信号がホールド制御部22に出力されないことになる。そのときには、ホールド制御部22は、ステップS32で、第1のタイマ23のホールド時間が予め定められたパルス時間以上であるか否かを判定する。
なお、パルス時間は、実施の形態2と同様に、ペーシングパルスPのパルス幅Wに基づいて予め設定されるものであり、例えば、ペーシングパルスPのパルス幅Wより大きい値である8msに定めることができる。
【0080】
ホールド制御部22は、第1のタイマ23のホールド時間がパルス時間以上と判定した場合には、検出された電気パルスはノイズであるとして、ステップS35に進んで、第1のタイマ23を停止してクリアする。また、ホールド制御部22は、和分ピークホールド部24の和分ピーク値と差分ピークホールド部25の差分ピーク値のホールドをそれぞれ停止してクリアする。一方、ホールド制御部22は、第1のタイマ23のホールド時間がパルス時間より小さいと判定した場合には、ステップS12に戻り、パルス幅取得部33が立上りRおよび立下りFの一方を検出したか否かを繰り返し判定する。
このように、ホールド制御部22は、第1のタイマ23のホールド時間に基づいて和分ピークホールド部24と差分ピークホールド部25を容易に制御することができ、ノイズを確実に除去することができる。
【0081】
また、ステップS12で、パルス幅取得部33が、立上りRおよび立下りFの一方を検出したと判定、例えば立上り検出部36から検出信号が入力されて立上りRを検出したと判定した場合には、実施の形態4と同様に、ステップS13に進んで立上り検出部36による立上りRの検出を無効化し、タイマ制御部34が、ステップS14で、第2のタイマをスタートさせる。
続いて、パルス幅取得部33が、ステップS15で、立下りFが検出されたか否かを判定し、立下りFが検出されたと判定した場合には、その判定信号をホールド制御部22に出力すると共にステップS16に進んで立下り検出部37による立下りFの検出を無効化する。一方、パルス幅取得部33は、立下りFが検出されていないと判定した場合には、ステップS17に進んで、実施の形態4と同様に処理される。
【0082】
パルス幅取得部33が、ステップS16で立下りFの検出を無効化すると、ステップS18に進んで、タイマ制御部34を介して第2のタイマ35の測定時間、すなわちパルス幅Wを取得する。パルス幅取得部33は、取得したパルス幅Wをパルス判別部51に出力する。
【0083】
ここで、パルス幅取得部33において立下りFが検出されたと判定されたときに出力された判定信号がホールド制御部22に入力されると、ホールド制御部22は、電気パルスが検出されたとして、和分ピークホールド部24の和分ピーク値と差分ピークホールド部25の差分ピーク値を比較部12に出力する。そして、比較部12が、和分ピーク値と差分ピーク値を比較し、その比較結果をパルス判別部51に出力する。
このようにして、パルス幅Wと、和分ピーク値および差分ピーク値の比較結果とがパルス判別部51に入力されると、パルス判別部51は、ステップS19で、パルス幅Wが所定の範囲内か否かを判定する。
【0084】
パルス判別部51は、パルス幅Wが所定の範囲内と判定した場合には、ステップS33に進んで、比較部12から入力された比較結果に基づいて差分ピーク値が和分ピーク値以上であるか否かを判定する。一方、パルス判別部51は、パルス幅Wが所定の範囲外と判別した場合には、ステップS23に進んで、その電気パルスをノイズと判別する。
【0085】
ステップS33で、パルス判別部51が、差分ピーク値が和分ピーク値以上であると判定した場合には、ステップS20に進んで、その電気パルスをペーシングパルスPと判別する。一方、パルス判別部51は、差分ピーク値が和分ピーク値より小さい場合には、ステップS23に進んで、その電気パルスをノイズと判別する。
このように、パルス判別部51は、パルス幅Wに加えて差分ピーク値と和分ピーク値との比較結果に基づいて判別するため、ペーシングパルスPをより高精度に判別することができる。
【0086】
このようにして、パルス判別部51が、ステップS20でペーシングパルスPと判別する、または、ステップS23でノイズと判別すると、ステップS34に進んで、タイマ制御部34が、第2のタイマ35を停止してクリアする。さらに、ステップS35で、ホールド制御部22が、第1のタイマ23を停止してクリアする。
ステップS35で第1のタイマ23がクリアされると、ステップS11に戻り、立上りRと立下りFの検出を再び有効化し、順次入力される電気信号に対して立上りRと立下りFの検出が繰り返し実行される。
【0087】
本実施の形態によれば、パルス判別部51は、パルス幅Wに加えて差分ピーク値と和分ピーク値との比較結果に基づいて判別するため、電気信号に含まれるペーシングパルスPをより高精度に判別することができる。
【0088】
なお、上記の実施の形態1~6では、電極1aおよび1bは、受信部6に対して取り外し可能に接続されたが、受信部6と電気的に接続されていればよく、これに限られるものではない。例えば、電極1 a および1 b は、受信部6 に対して一体に接続されてもよく、無線で接続されてもよい。
また、上記の実施の形態1~6では、電極1aおよび1bは、生体の2つの位置に配置されたが、生体の複数の位置から電気信号を受信できればよく、2つに限られるものではない。
<付記事項>
(請求項1)
ペーシングパルスを出力して心臓を拍動させるペーシング装置が取り付けられた生体の複数の位置から電気信号を受信し、前記電気信号に含まれる前記ペーシングパルスを判別するパルス判別装置であって、
前記複数の位置から受信される前記電気信号の差分を算出する差分処理部と、
前記複数の位置から受信される前記電気信号の和分を算出する和分処理部と、
前記差分処理部で得られた前記差分と前記和分処理部で得られた前記和分とに基づいて、前記電気信号に含まれる前記ペーシングパルスを判別するパルス判別部とを備えるパルス判別装置。
(請求項2)
前記差分処理部で得られる前記差分に対する絶対値のピーク値を差分ピーク値としてホールドすると共に、前記和分処理部で得られる前記和分に対する絶対値のピーク値を和分ピーク値としてホールドするピークホールド部をさらに有し、
前記パルス判別部は、前記ピークホールド部でホールドされた前記差分ピーク値が前記和分ピーク値以上である場合に、前記複数の位置から受信された前記電気信号を前記ペーシングパルスと判別する請求項1に記載のパルス判別装置。
(請求項3)
前記ピークホールド部でホールドされた前記差分ピーク値と前記和分ピーク値のホールド時間を測定する第1のタイマと、
前記第1のタイマのホールド時間が、前記ペーシングパルスのパルス幅の時間に基づいて予め定められたパルス時間に達した場合に、前記ピークホールド部の前記差分ピーク値と前記和分ピーク値をクリアするホールド制御部とをさらに有する請求項2に記載のパルス判別装置。
(請求項4)
前記パルス時間は、前記ペーシングパルスのパルス幅の時間より大きい値に定められる請求項3に記載のパルス判別装置。
(請求項5)
前記パルス判別部は、前記差分の絶対値が前記和分の絶対値以上である場合に、前記複数の位置から受信された前記電気信号を前記ペーシングパルスと判別する請求項1~4のいずれか一項に記載のパルス判別装置。
(請求項6)
前記複数の位置から受信される前記電気信号の強度の変化に基づいて前記電気信号のパルス幅を取得するパルス幅取得部をさらに有し、
前記パルス判別部は、さらに前記パルス幅取得部で取得された前記パルス幅に基づいて前記ペーシングパルスを判別する請求項1~5のいずれか一項に記載のパルス判別装置。
(請求項7)
ペーシングパルスを出力して心臓を拍動させるペーシング装置が取り付けられた生体の複数の位置から電気信号を受信し、前記電気信号に含まれる前記ペーシングパルスを判別するパルス判別装置であって、
前記複数の位置から受信される前記電気信号の強度の変化に基づいて前記電気信号のパルス幅を取得するパルス幅取得部と、
前記パルス幅取得部で取得された前記パルス幅に基づいて、前記電気信号に含まれる前記ペーシングパルスを判別するパルス判別部とを備えるパルス判別装置。
(請求項8)
前記複数の位置から受信された前記電気信号の立上りと立下りを検出するパルス検出部と、
前記パルス検出部で検出される前記立上りと前記立下りの間の時間を測定する第2のタイマとをさらに有し、
前記パルス幅取得部は、前記第2のタイマで測定される前記立上りと前記立下りの間の時間を前記パルス幅として取得する請求項6または7に記載のパルス判別装置。
(請求項9)
前記立上りおよび前記立下りの一方が前記パルス検出部で検出されることにより前記第2のタイマの測定を開始し、前記立上りおよび前記立下りの他方が前記パルス検出部で検出されることにより前記第2のタイマの測定を停止してクリアするタイマ制御部をさらに有する請求項8に記載のパルス判別装置。
(請求項10)
前記タイマ制御部は、前記立上りおよび前記立下りの一方が検出された後で且つ前記立上りおよび前記立下りの他方が検出される前に、前記第2のタイマの測定時間が前記ペーシングパルスのパルス幅に基づいて予め定められたパルス時間に達した場合に、前記パルス検出部で検出された電気パルスはノイズと判別し、前記第2のタイマの測定時間を停止してクリアする請求項9に記載のパルス判別装置。
(請求項11)
請求項1~10のいずれか一項に記載のパルス判別装置と、
生体から受信された電気信号に基づいて心電図を生成する心電図生成部と、
前記心電図生成部で生成された心電図を表示する表示部とを備える心電図解析装置。
【符号の説明】
【0089】
1a,1b 電極、2 心電図解析装置、2a パルス判別装置、3 A/D変換部、4 心電図生成部、5 表示部、6 受信部、7 和分処理部、8a,8b 増幅部、9a,9b ハイパスフィルタ、10a,10b 絶対値処理部、11 差分処理部、12 比較部、13,31,51 パルス判別部、14 本体制御部、21 ピークホールド部、22 ホールド制御部、23 第1のタイマ、24 和分ピークホールド部、25 差分ピークホールド部、32,61 パルス検出部、33 パルス幅取得部、34 タイマ制御部、35 第2のタイマ、36 立上り検出部、37 立下り検出部、P ペーシングパルス、R 立上り、F 立下り、W パルス幅、E 心電図、M パルスマーク。
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