(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】積層セラミック部品の内部電極用ペースト組成物および積層セラミック部品
(51)【国際特許分類】
H01B 1/22 20060101AFI20221025BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01G4/30 516
H01G4/30 201D
(21)【出願番号】P 2018213430
(22)【出願日】2018-11-14
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】397059571
【氏名又は名称】京都エレックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 豊
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-087434(JP,A)
【文献】特開昭57-074330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層セラミック部品の内部電極層の形成に用いられ、(A)導電性粉末、(B)誘電体粉末、(C)分散剤、および(D)バインダ樹脂を含有し、
前記(A)導電性粉末は、その比表面積から算出した平均粒子径が10nm以上150nm以下の範囲内であり、
前記(B)誘電体粉末は、その比表面積から算出した平均粒子径が10nm以上100nm以下の範囲内であり、
前記(C)分散剤は、下記一般式(1)および一般式(2)の少なくとも一方から選択された1種または2種以上のアルキルアミド型分散剤
【化1】
(ただし、上記一般式(1)におけるR
1 は炭素数2~4のアルキレン基であり、上記一般式(2)におけるR
2 は炭素数8~18のアルキル基であり、R
3 は炭素数8~18のアルキレン基であり、上記一般式(1)または(2)におけるnは1以上100以下の整数であり、Xは下記一般式(3)または下記一般式(4)で示される置換基であり、
【化2】
上記一般式(3)におけるR
4 は炭素数8~18のアルキル基であり、上記一般式(4)におけるR
5 は炭素数2~4のアルキレン基であり、R
6 およびR
7 はそれぞれ独立して炭素数1~3のアルキル基である。)
であ
り、
さらに、当該アルキルアミド型分散剤は、その重量平均分子量が700以上5000以下の範囲内であることを特徴とする、
内部電極用ペースト組成物。
【請求項2】
前記(C)分散剤の添加量は、前記(A)導電性粉末および前記(B)誘電体粉末の合計量100質量部に対して、0.5質量部以上7.0質量部以下の範囲内であることを特徴とする、
請求項
1に記載の内部電極用ペースト組成物。
【請求項3】
前記(A)導電性粉末は、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)からなる群より選択される少なくとも1種を含有する金属粉末であることを特徴とする、
請求項1
または2に記載の内部電極用ペースト組成物。
【請求項4】
前記(B)誘電体粉末は、チタン酸バリウム、または、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の粉末であることを特徴とする、
請求項1から
3のいずれか1項に記載の内部電極用ペースト組成物。
【請求項5】
前記(A)導電性粉末の含有量は、前記内部電極用ペースト組成物の全質量を100質量%としたときに、30質量%以上80質量%以下の範囲内であることを特徴とする、
請求項1から
4のいずれか1項に記載の内部電極用ペースト組成物。
【請求項6】
前記(B)誘電体粉末の含有量は、前記内部電極用ペースト組成物の全質量を100質量%としたときに、1質量%以上10質量%以下の範囲内であることを特徴とする、
請求項1から
5のいずれか1項に記載の内部電極用ペースト組成物。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか1項に記載の内部電極用ペースト組成物により形成された内部電極層と、誘電体層と、が積層された構造を有することを特徴とする、
積層セラミック部品。
【請求項8】
積層セラミックコンデンサまたは積層圧電素子であることを特徴とする、
請求項
7に記載の積層セラミック部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサ、積層圧電素子等の積層セラミック部品の内部電極層を形成するために用いられる内部電極用ペースト組成物と、当該内部電極用ペースト組成物を用いて形成された内部電極層を備える積層セラミック部品と、に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサ(Multi-Layer Ceramic Capacitor,MLCC)は、誘電体層と内部電極層とを多数積層することにより構成される。MLCCは小型で大きな静電容量を実現できるため、近年、幅広い分野で用いられている。最近では、MLCCには、さらなる小型化および高容量化が求められるようになっているため、MLCCを製造する上では、誘電体層および内部電極層のさらなる薄層化(薄膜化)、並びに、これら各層の高積層化が重要となっている。
【0003】
MLCCの製造方法としては、代表的には、誘電体層となるグリーンシートと内部電極層となる電極パターンとを交互に積層して積層体(グリーンシート積層体)を形成し、この積層体を焼成する工程が挙げられる。内部電極層には、例えば導電性粉末としてニッケル(Ni)粉末を含有するペースト組成物が用いられ、セラミック層には、例えば、誘電体層としてチタン酸バリウム(BaTiO3 )粉末を含有するペースト組成物が用いられる。これらペースト組成物をそれぞれ交互に塗布または印刷してから乾燥することにより、内部電極層となる乾燥塗膜(電極パターン)と誘電体層となる乾燥塗膜(グリーンシート)が積層された積層体が得られる。
【0004】
ここで、焼成前の積層体では、その層厚が薄くなると内部電極層の平滑性を高くする必要性が生じる。具体的には、例えば、内部電極層となる乾燥塗膜に、導電性粉末が二次凝集した凝集塊であって乾燥塗膜(内部電極層および誘電体層)の厚さよりも大きいものが残存しているとする。この場合、凝集塊が隣接する誘電体層を突き抜けて他の内部電極層に接触する可能性がある。その結果、得られるMLCCにおいて接続不良または絶縁不良が生じるおそれがあり、当該MLCCは、設計通りの特性を実現することができなくなる。
【0005】
それゆえ、内部電極層となる乾燥塗膜の表面(電極面)には、良好な平滑度が求められる。内部電極層の高い平滑性を向上させるためには、従来では、内部電極層に用いられる導電性粉末、並びに、誘電体層に用いられる誘電体粉末として、その粒子径(粒径)がミクロン単位(数μm程度)の粒子(ミクロン粒子)もしくはサブミクロン単位(1μm未満で数百nm程度)の粒子(サブミクロン粒子)を用いる手法が知られている。最近では、より高い平滑性を実現するために、平均粒子径(平均粒径)150nm以下の超微粒子が用いられる。ただし、このような超微粒子は、ミクロン粒子またはサブミクロン粒子と比較して、その比表面積が格段に大きくなる。そのため、ペースト組成物を製造するに当たって、従来の分散手法では超微粒子の十分な分散性を実現できなくなるおそれがある。
【0006】
そこで、例えば特許文献1には、1級アミンで被覆された金属ニッケル微粒子を準備するとともに、この1級アミンの少なくとも一部を、2級もしくは3級アミノ基を有する非水系高分子分散剤で置換する導電性ペーストの製造方法が開示されている。この製造方法によれば、得られる導電性ペーストでは、150nm以下の微細なニッケル微粒子が高分散状態で含有されると記載されている。また、この導電性ペーストを用いることで、内部電極層の表面に凹凸が発生することを防止し、MLCCにおける内部電極層の薄層化および多層化が容易になることも記載されている。
【0007】
ところで、MLCCにおいて、内部電極層用のペースト組成物では、誘電体層との層間剥離を抑制するために、導電性粉末とともに共材として数十nmレベルの誘電体粉末を添加する手法が知られている。例えば、内部電極層にニッケル粉末が用いられ、誘電体層にチタン酸バリウム粉末が用いられる場合には、内部電極層用のニッケルペースト組成物に対して、ニッケル粉末とともに共材として数十nmレベルのチタン酸バリウム粉末が添加される。
【0008】
それゆえ、内部電極層用のペースト組成物では、良好な平滑性を実現するために、導電性粉末と共材の誘電体粉末との双方について十分な分散性が求められる。ここでいう十分な分散性としては、ただし、ニッケル等の金属粉末とチタン酸バリウム等の酸化物粉末という、材質が異なり表面状態も異質な複数種の粉末(異種粉末)をペースト組成物中で良好に分散させるとともに、これら異種粉末の分布が実質的に偏らずに略均一とみなせる程度に分布させることが求められる。
【0009】
例えば特許文献2には、樹脂バインダとともに所定の数平均分子量のポリアルキレンイミンを用いて、樹脂バインダの含有量を5質量%以下に低減した導電性ペーストが開示されている。この引用文献2では、MLCCの内部電極用の導電性ペーストにおいて、共材として、チタン酸バリウムまたは酸化チタン等のセラミック粉末を用いることが記載されており、実施例においても、平均粒子径0.18μm(180nm)のニッケル粉末とともに、共材として平均粒子径50nmのチタン酸バリウム粉末を併用することが記載されている。
【0010】
ただし、特許文献2では、共材の添加による作用効果については具体的な言及がなく、内部電極層の表面の凹凸を小さく抑えるためには、樹脂バインダとしてエチルセルロース系樹脂を用いることが好ましいと記載しており、層間剥離の抑制するためには、樹脂バインダとしてブチラール計樹脂を用いることが好ましいと記載している。
【0011】
なお、MLCCは、積層セラミック部品の一種であるが、このMLCCと同様に、薄層化および高積層化が試みられている積層セラミック部品として、積層圧電素子が挙げられる。積層圧電素子としては、例えば、積層圧電アクチュエータ、または、圧力センサが挙げられる。このような積層圧電素子においても、MLCCと同様に、内部電極層用のペースト組成物として、導電性粉末に共材の誘電体粉末を添加したものが用いられる。それゆえ、積層圧電素子においても、MLCCと同様に、異種粉末同士の十分な分散性が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2014-029845号公報
【文献】特開2018-092849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記の通り、MLCCの内部電極層用のペースト組成物では、金属粉末等の導電性粉末と共材であるセラミック粉末等の誘電体粉末という、異質な表面状態を有する異なる種類の粉末を共存させた状態(共存系)で、それぞれ良好に分散(共分散)させる必要がある。しかしながら、従来の技術では、このような共存系での良好な共分散を実現することが困難となっている。
【0014】
前記の通り、従来の一般的な分散手法では、数十nmレベルの微粒子そのものを一次粒子まで良好に分散することが困難である。
【0015】
また、例えば、特許文献1に開示される手法では、ニッケル粉末のみを含有するペースト組成物については、当該ニッケル粉末を高分散させることが可能であると記載している。しかしながら、前記の通り共材として誘電体粉末を添加する場合には、ニッケル粉末とともに誘電体粉末も良好に分散させることは難しく、乾燥塗膜において良好な平滑性を実現できないと考えられる。さらに、誘電体粉末が良好に分散せずに凝集すると、乾燥塗膜中には、ニッケル粉末あるいは誘電体粉末の濃度の高い部分が生じるおそれ、すなわち、これら粉末の分布に不均一が生じるおそれがある。
【0016】
また、特許文献2に開示される手法では、実施例では、ニッケル粉末および共材のチタン酸バリウム粉末を含有するペースト組成物が開示されている。しかしながら、前記の通り、この文献では、塗膜の良好な平滑性または層間剥離の抑制を実現するためにバインダ樹脂として特定のものを選択しており、実施例の評価対象もペースト組成物の粘度のみである。そもそも、特許文献2では、樹脂バインダの含有量を低減するとともにペースト粘度の低下を抑制することが課題であり、異種粉末の分散性あるいは分布の均一性については何ら検討されていない。
【0017】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、積層セラミック部品の内部電極用に用いられ、粒子径が150nm以下の微粒子を複数種類含有するペースト組成物において、当該微粒子を良好に分散させるとともに、塗膜を形成したときにそれぞれの微粒子の分布に偏りが生じることを有効に抑制することができる、ペースト組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る内部電極用ペースト組成物は、前記の課題を解決するために、積層セラミック部品の内部電極層の形成に用いられ、(A)導電性粉末、(B)誘電体粉末、(C)分散剤、および(D)バインダ樹脂を含有し、前記(A)導電性粉末は、その比表面積から算出した平均粒子径が10nm以上150nm以下の範囲内であり、前記(B)誘電体粉末は、その比表面積から算出した平均粒子径が10nm以上100nm以下の範囲内であり、前記(C)分散剤は、下記一般式(1)および一般式(2)の少なくとも一方から選択された1種または2種以上のアルキルアミド型分散剤
【0019】
【0020】
(ただし、上記一般式(1)におけるR1 は炭素数2~4のアルキレン基であり、上記一般式(2)におけるR2 は炭素数8~18のアルキル基であり、R3 は炭素数8~18のアルキレン基であり、上記一般式(1)または(2)におけるnは1以上100以下の整数であり、Xは下記一般式(3)または下記一般式(4)で示される置換基であり、
【0021】
【0022】
上記一般式(3)におけるR4 は炭素数8~18のアルキル基であり、上記一般式(4)におけるR5 は炭素数2~4のアルキレン基であり、R6 およびR7 はそれぞれ独立して炭素数1~3のアルキル基である。)
である構成である。
【0023】
前記構成によれば、(A)導電性粉末および共材としての(B)誘電体粉末を含有する内部電極用ペースト組成物であって、(A)導電性粉末および(B)誘電体粉末のいずれも平均粒子径が150nm以下の超微粒子である場合に、(C)分散剤として、前記一般式(1)または(2)のアルキルアミド型分散剤を用いている。これにより、内部電極用ペースト組成物中で超微粒子を良好に分散できるだけでなく、(A)導電性粉末と(B)誘電体粉末という、材質が異なり表面状態も異質な複数種の粉末(異種粉末)を内部電極用ペースト組成物中で良好に分散させることができる。しかも、この内部電極用ペースト組成物により形成した乾燥塗膜では、これら異種粉末の分布が実質的に偏らずに略均一とみなせる程度に分布させることができる。
【0024】
前記構成の内部電極用ペースト組成物においては、前記(C)分散剤である前記アルキルアミド型分散剤は、その重量平均分子量が700以上5000以下の範囲内である構成であってもよい。
【0025】
また、前記構成の内部電極用ペースト組成物においては、前記(C)分散剤の添加量は、前記(A)導電性粉末および前記(B)誘電体粉末の合計量100質量部に対して、0.5質量部以上7.0質量部以下の範囲内である構成であってもよい。
【0026】
また、前記構成の内部電極用ペースト組成物においては、前記(A)導電性粉末は、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)からなる群より選択される少なくとも1種を含有する金属粉末である構成であってもよい。
【0027】
また、前記構成の内部電極用ペースト組成物においては、前記(B)誘電体粉末は、チタン酸バリウム、または、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の粉末である構成であってもよい。
【0028】
また、前記構成の内部電極用ペースト組成物においては、前記(A)導電性粉末の含有量は、前記内部電極用ペースト組成物の全質量を100質量%としたときに、30質量%以上80質量%以下の範囲内である構成であってもよい。
【0029】
また、前記構成の内部電極用ペースト組成物においては、前記(B)誘電体粉末の含有量は、前記内部電極用ペースト組成物の全質量を100質量%としたときに、1質量%以上10質量%以下の範囲内である構成であってもよい。
【0030】
また、本発明に係る積層セラミック部品は、前記構成の内部電極用ペースト組成物により形成された内部電極層と、誘電体層と、が積層された構造を有するものであればよい。このような積層セラミック部品としては、積層セラミックコンデンサまたは積層圧電素子を挙げることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明では、以上の構成により、積層セラミック部品の内部電極用に用いられ、粒子径が150nm以下の微粒子を複数種類含有するペースト組成物において、当該微粒子を良好に分散させるとともに、塗膜を形成したときにそれぞれの微粒子の分布に偏りが生じることを有効に抑制することができる、という効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本開示に係るペースト組成物は、積層セラミック部品の内部電極層の形成に用いられ、(A)導電性粉末、(B)誘電体粉末、(C)分散剤、および(D)バインダ樹脂を含有する。これら成分のうち(A)導電性粉末は、その比表面積から算出した平均粒子径が10nm以上150nm以下の範囲内であり、(B)誘電体粉末は、その比表面積から算出した平均粒子径が10nm以上100nm以下の範囲内である。つまり、(A)導電性粉末および(B)誘電体粉末のいずれも、平均粒子径が150nm以下の超微粒子である。
【0033】
さらに、本開示に係る内部電極用ペースト組成物では、(C)分散剤は、後述する一般式(1)および一般式(2)の少なくとも一方から選択された1種または2種以上のアルキルアミド型分散剤である。これにより、複数種類の超微粒子を良好に分散させることができるとともに、塗膜を形成したときにそれぞれの微粒子の分布に偏りが生じることを有効に抑制することができる。以下、本発明の代表的な実施の形態の代表的な一例について具体的に説明する。
【0034】
[(A)導電性粉末]
本開示に係る内部電極用ペースト組成物に用いられる(A)導電性粉末は、導電性を有する粉末または粒子であれば特に限定されないが、前記の通り、その比表面積から算出した平均粒子径(平均粒径)が10nm以上150nm以下の範囲内である。好ましい平均粒子径としては、その上限が130nm以下であり、より好ましくはその上限が100nm以下である。
【0035】
(A)導電性粉末の平均粒子径が150nmを超えても、本開示に係る内部電極用ペースト組成物を用いて積層セラミック部品を製造することは可能であるが、乾燥塗膜の平滑性が低下し、内部電極層を薄層化することが困難になる。特に、平均粒子径が150nmを超える粒子(粗粒等)が存在すると、後述する平滑性の基準である、乾燥塗膜の算術平均粗さRaおよび最大平均粗さRzの双方が大きく悪化するおそれがある。
【0036】
一方、(A)導電性粉末の平均粒子径が10nm未満の微粉(ナノ粒子)は、凝集性が非常に強く一次粒子のレベルまで分散させることが困難である。そのため、ペースト組成物を製造する過程で微粉の分散スラリーを調製しても分散状態が不安定となり沈殿等が発生しやすい。また、このような微粉を用いれば、結局150nmを超える凝集体(粗粒)が生じやすくなり、乾燥塗膜の平滑性が低下する(後述する算術平均粗さRa≦20nmおよび最大平均粗さRz≦200nmを満たすことができない)。
【0037】
なお、本開示において(A)導電性粉末および(B)誘電体粉末の平均粒子径の算出方法は特に限定されないが、(A)導電性粉末または(B)誘電体粉末の比表面積から下記の式に基づいて算出する方法を採用している。
d=6/(ρ・S)×1000
なお、上記の式におけるdは、対象の超微粒子((A)導電性粉末または(B)誘電体粉末)の平均粒子径(nm)であり、Sは対象の超微粒子の比表面積(m2 /g)であり、ρは対象の超微粒子の密度(g/cm3 )である。
【0038】
また、(A)導電性粉末および(B)誘電体粉末の比表面積は特に限定されないが、後述する実施例で例示するようにBET比表面積を用いればよい。BET比表面積の測定方法は特に限定されないが、本開示においては、モノソーブ(カウンタクローム(Quanta Chrome)社製)を用いて窒素吸着によるBET1点法で測定して評価している。
【0039】
ここで、一般的には、粒子径が100nm以下の微粒子を「超微粒子」と称し、粒子径が10nm以下の微粒子を「ナノ粒子」と称し、「超微粒子」および「ナノ粒子」の粒子径の下限は1nmとされている。そのため、一般的な定義では「超微粒子」には「ナノ粒子」が含まれることになる。また、一般的には、粒子径が1μm(1000nm)以下または未満で100nm以上または超の微粒子を「サブミクロン粒子」と称し、単に「微粒子」と称した場合、100nm~100μmの広い範囲の粒子を指すとされる。
【0040】
本開示では、前記の通り(A)導電性粉末は、比表面積から算出した平均粒子径が150nm以下であり、(B)誘電体粉末は、比表面積から算出した平均粒子径が100nm以下であるので、いずれも平均粒子径が150nm以下の微粒子ということができる。そこで、本開示では、平均粒子径が150nm以下の微粒子を便宜上「超微粒子」と称するものとする。したがって、本開示における「超微粒子」には、一般的な定義の「超微粒子」とともに、一般的な定義の「サブミクロン粒子」(または「微粒子」)の一部が含まれる。また、本開示においては、(A)導電性粉末および(B)誘電体粉末のいずれも平均粒子径が10nm以上であるので、平均粒子径が10nm未満の「ナノ粒子」は含まれない。したがって、本開示における「超微粒子」には、一般的な定義とは異なり「ナノ粒子」は含まれないものとする。
【0041】
(A)導電性粉末の具体的な材質は特に限定されず、積層セラミック部品の内部電極層として好適な導電性を発揮できるものであればよいが、通常は、金属粉末が用いられる。具体的な金属粉末としては、例えば、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)からなる群より選択される少なくとも1種を含有するものを挙げることができる。すなわち、(A)導電性粉末として用いられる金属粉末は、銀粉末、パラジウム粉末、白金粉末、ニッケル粉末等のように、単一種類の金属で構成される粉末であってもよいし、例えば、銀/パラジウムの合金粉末等のように、少なくとも前記群より選択される金属を含む合金粉末または共沈粉末であってもよい。合金粉末または共沈粉末である場合に、各金属成分の比率は特に限定されない。
【0042】
(A)導電性粉末が合金粉末である場合、前記群以外に用いられる金属は特に限定されない。銀/パラジウムの合金粉末のように、前記群を構成する金属同士の合金であってもよいが、前記群の少なくともいずれか1種の金属と前記群以外の1種以上の金属との合金であってもよい。
【0043】
例えば、積層セラミックコンデンサ(MLCC)の内部電極層を形成する際には、(A)導電性粉末として代表的にはニッケル粉末が用いられることが多い。このニッケル粉末が、ニッケル単体で構成された粉末ではなく、ニッケルを主成分とするニッケル合金粉末である場合には、ニッケル以外の金属として、例えば、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)からなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。この群のうち、銀、白金、パラジウムは前記群に含まれるが、他の金属は前記群に含まれない金属である。
【0044】
また、金属粉末は1種類のみを用いてもよいし2種類以上の金属粉末を適宜組み合わせて用いてもよい。複数種類の金属粉末を用いる場合、その混合比は特に限定されない。また、金属粉末以外の導電性粉末を併用してもよい。また、導電性粉末の製造方法は特に限定されず、湿式還元法、CVD法、PVD法等の気相還元法等が挙げられるが、10nm~150nmの範囲内の粒子を製造できる方法であれば、どのような方法も用いることができる。
【0045】
[(B)誘電体粉末]
本開示に係る内部電極用ペースト組成物に用いられる(B)誘電体粉末は、一般的に製造されている誘電体材料の粉末であって、前記の通り、比表面積から算出した平均粒子径が10以上100nm以下の範囲内であれば特に限定されない。つまり、(B)誘電体粉末は、前述した(A)導電性粉末と同様に、一般的な定義の「ナノ粒子」を含まない「超微粒子」であればよい。
【0046】
(B)誘電体粉末の平均粒子径が100nmを超えても、本開示に係る内部電極用ペースト組成物を用いて積層セラミック部品を製造することは可能であるが、乾燥塗膜の平滑性が低下し、内部電極層を薄層化することが困難になる。特に、平均粒子径が100nmを超える粒子(粗粒等)が存在すると、この粒子の位置する部分を中心に乾燥塗膜が突起状になる可能性があり、乾燥塗膜の最大平均粗さRzの双方が大きく悪化するおそれがある。
【0047】
一方、(B)誘電体粉末の平均粒子径が10nm未満の微粉(ナノ粒子)は、凝集性が非常に強く一次粒子のレベルまで分散させることが困難である。そのため、ペースト組成物を製造する過程で微粉の分散スラリーを調製しても分散状態が不安定となり沈殿等が発生しやすい。また、このような微粉を用いれば、結局100nmを超える凝集体(粗粒)が生じやすくなり、乾燥塗膜の平滑性が低下する(後述する算術平均粗さRa≦20nmおよび最大平均粗さRz≦200nmを満たすことができない)。
【0048】
(B)誘電体粉末として用いられる具体的な誘電体材料の種類は特に限定されず、積層セラミック部品において誘電体層を形成するために用いられる誘電体材料と同じ種類であるか類似する種類であればよい。これは、本開示に係る内部電極用ペースト組成物では、(B)誘電体粉末が共材として添加されるためである。したがって、本実施の形態または後述する実施例では、(B)誘電体粉末を「共材粉末」と称する場合がある。なお、(B)誘電体粉末としては、誘電体層に合わせて誘電体材料粉末を1種類または複数種類用いてもよいし、必要に応じて、誘電体層と同じ誘電体材料粉末を1種類以上と他の誘電体材料粉末を1種類以上とを適宜組み合わせて用いてもよい。
【0049】
具体的には、例えば、積層セラミック部品がMLCCであれば、誘電体層の主成分としては、チタン酸バリウム(BaTiO3 )、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3 )等のペロブスカイト型の金属複合酸化物が用いられる。それゆえ、共材粉末である(B)誘電体粉末としても、誘電体層に合わせてチタン酸バリウム粉末、チタン酸ストロンチウム粉末等を用いることができる。
【0050】
ここで、誘電体層として用いられるチタン酸バリウムに対しては、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)等のアルカリ土類金属、または、イットリウム(Y)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ジスプロシウム(Dy)等の希土類金属を微量に添加することができる。それゆえ、共材粉末((B)誘電体粉末)として用いられるチタン酸バリウムにも、これらアルカリ土類金属または希土類金属が微量に添加されてもよい。また、共材として求められる機能によっては、(B)誘電体粉末に用いられる誘電体材料は、誘電体層に用いられる誘電体材料とは同一の組成としてもよいし異なる組成としてもよい。
【0051】
また、例えば、積層セラミック部品が積層圧電素子であれば、誘電体層の主成分としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等が用いられる。それゆえ、共材粉末である(B)誘電体粉末としても、誘電体層に合わせてPZT粉末等を用いることができる。
【0052】
なお、本開示においては、(A)導電性粉末および(B)誘電体粉末をまとめて、内部電極用ペースト組成物における「フィラー」成分または「固形分」と称する場合がある。後述するように、(C)分散剤の添加量は、フィラー成分または固形分((A)導電性粉末および(B)誘電体粉末)の全質量を基準とした重量として好適な量を設定することができる。
【0053】
[(C)分散剤]
本開示に係る内部電極用ペースト組成物に用いられる(C)分散剤は、下記一般式(1)および一般式(2)の少なくとも一方から選択された1種または2種以上のアルキルアミド型分散剤であればよい。
【0054】
【0055】
ただし、上記一般式(1)におけるR1 は炭素数2~4のアルキレン基、すなわち、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基のいずれかであればよい。なお、R1 がブチレン基である場合、その構造はn-ブタン構造(直鎖構造)であってもよいし、イソブタン構造(2-メチルプロパン構造、分岐鎖構造)であってもよい。
【0056】
また、上記一般式(2)におけるR2 は炭素数8~18のアルキル基、すなわち、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基のいずれかであればよい。これらアルキル基は、直鎖構造であっても分岐鎖構造であってもよい。また、上記一般式(2)におけるR3 は炭素数8~18のアルキレン基、すなわち、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基のいずれかであればよい。これらアルキレン基は、直鎖構造であっても分岐鎖構造であってもよい。
【0057】
また、上記一般式(1)または(2)におけるnは1以上100以下の整数であればよい。また、上記一般式(1)または(2)におけるXは下記一般式(3)または下記一般式(4)で示される置換基であればよい。
【0058】
【0059】
上記一般式(3)におけるR4 は、前記一般式(2)におけるR2 と同様に、炭素数8~18のアルキル基であればよい。また、上記一般式(4)におけるR5 は、前記一般式(1)におけるR1 と同様に、炭素数2~4のアルキレン基であればよい。また、上記一般式(4)におけるR6 およびR7 は、それぞれ独立して炭素数1~3のアルキル基、すなわち、メチル基、エチル基、プロピル基であればよい。
【0060】
このような一般式(1)または(2)に示されるアルキルアミド型分散剤の合成方法(製造方法)は特に限定されないが、後述する実施例の合成例1~5に例示するように、ポリエステルとアミンとをアミド化して得られるアミド化合物であればよい。ポリエステルとしては、12-ヒドロキシステアリン酸等のヒドロキシステアリン酸の脱水エステル化、あるいは、β-プロピオラクトン、δもしくはγ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン等の環状エステルの開環エステル化により得られるものを挙げることができるが特に限定されない。また、アミンとしては、N,N’-ジメチルアミノプロピルアミン、オレイルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン等を挙げることができるが、特に限定されない。
【0061】
一般式(1)または(2)に示されるアルキルアミド型分散剤の分子量は特に限定されないが、例えば、その重量平均分子量Mwが700以上5000以下の範囲内にあるものを好ましく用いることができる。(C)分散剤としてのアルキルアミド型分散剤の分子量がこの範囲内であれば、平均粒子径150nm以下の「超微粒子」であるフィラー((A)導電性粉末および(B)誘電体粉末)を内部電極用ペースト組成物中に良好に分散させることができる。なお、フィラーの具体的な種類、平均粒子径、フィラーの含有量、(A)導電性粉末および(B)誘電体粉末の配合比等の諸条件に応じて、上記の範囲外の分子量を有するアルキルアミド型分散剤を(C)分散剤として用いることができる。
【0062】
なお、一般式(1)または(2)に示されるアルキルアミド型分散剤の重量平均分子量Mwの測定方法は特に限定されない。本開示においては、後述する実施例に示すように、例えば、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて標準ポリスチレンの分子量を測定して得られた較正曲線(検量線)に基づく、ポリスチレン換算分子量を用いている。
【0063】
[(D)バインダ樹脂、(E)溶剤、およびその他の成分]
本開示に係る内部電極用ペースト組成物に用いられる(D)バインダ樹脂は、積層セラミック部品の内部電極用ペースト組成物の分野で公知の有機バインダを好適に用いることができる。具体的な有機バインダとしては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、硝酸セルロース等のセルロース誘導体;アクリル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル酸エステル重合体、メタクリル酸エステル重合体等のアクリル系樹脂;ポリビニルブチラール樹脂等のビニルアセタール系樹脂;等が挙げられるが、特に限定されない。アクリル系樹脂としては、より具体的には、例えば、イソブチルメタクリレート単独ポリマーもしくはコモノマーとの共重合ポリマー等を用いることができる。これら有機バインダは1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせてもよい。
【0064】
本開示に係る内部電極用ペースト組成物に用いられる(E)溶剤は、当該内部電極用ペースト組成物の各種物性を妨げない範囲で、例えば、粘度または流動性等の物性を調整するために用いることができる。特に、(D)バインダ樹脂に対して良好な溶解性を示すとともに、沸点が120℃以上であるものが好ましく用いられる。
【0065】
このような(E)溶剤としては、具体的には、例えば、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール等のテルペン類とその酢酸エステル類;ジエチレングリコールアルキルエーテル、エチレングリコールアルキルエーテル、プロピレングリコールアルキルエーテル、ジプロピレングリコールアルキルエーテル等のアルキルグリコールエーテル類とその酢酸エステル類;2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート等のペンタンジオール類;等が挙げられる。これら溶剤は1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0066】
なお、本開示においては、(D)バインダ樹脂および(E)溶剤は「有機ビヒクル」として、内部電極用ペースト組成物における一つの成分と見なすこともできる。つまり、本開示においては、内部電極用ペースト組成物は、(A)導電性粉末、(B)誘電体粉末、(C)分散剤、および有機ビヒクル((D)バインダ樹脂および(E)溶剤)からなる組成であってもよい。
【0067】
また、本開示に係る内部電極用ペースト組成物は、前述した(A)導電性粉末、(B)誘電体粉末、(C)分散剤、および(D)バインダ樹脂の各成分を含有していればよい(必要に応じて(E)溶剤を含有すればよい)が、さらに、これら(A)~(E)成分以外にその他の成分を含んでいてもよい。具体的なその他の成分としては、例えば、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、粘度調整剤等を挙げることができるが特に限定されない。
【0068】
[内部電極用ペースト組成物]
本開示に係る内部電極用ペースト組成物は、前述した(A)導電性粉末、(B)誘電体粉末、(C)分散剤、および(D)バインダ樹脂を含有し、必要に応じて(E)溶剤を含有してもよい。ここで、本開示においては、これら(A)~(E)の各成分の具体的な含有量または配合量は特に限定されないが、フィラー成分(固形分)である(A)導電性粉末および(B)誘電体粉末は、内部電極用ペースト組成物の全質量を100質量%としたときに、好適な範囲を挙げることができる。
【0069】
具体的には、(A)導電性粉末の含有量は特に限定されないが、代表的には、内部電極用ペースト組成物の全質量を100質量%としたときに、30質量%以上80質量%以下の範囲内であることが好ましい。積層セラミック部品の種類、内部電極層の具体的構成、誘電体層の具体的構成、内部電極用ペースト組成物の具体的な組成等の諸条件によるが、(A)導電性粉末の含有量が全質量の30質量%未満であると、内部電極層として良好な導電性を実現できない場合がある。一方、(A)導電性粉末の含有量が80質量%を超えると、前述したような諸条件によるが、「ペースト」として(D)バインダ樹脂または有機ビヒクルを所定の範囲内で含有させるためには、共材としての(B)誘電体粉末の含有量が少なくなり過ぎるおそれがある。
【0070】
また、(B)誘電体粉末の含有量は特に限定されないが、代表的には、内部電極用ペースト組成物の全質量を100質量%としたときに、1質量%以上10質量%以下の範囲内であることが好ましい。前述したような諸条件にもよるが、(B)誘電体粉末の含有量が全質量の1質量%未満であると、共材として内部電極層および誘電体層の層間剥離を抑制する効果を十分に得られないおそれがある。一方、(B)誘電体粉末の含有量が10質量%を超えると、前述したような諸条件によるが、「ペースト」として(D)バインダ樹脂または有機ビヒクルを所定の範囲内で含有させるためには、(A)導電性粉末の含有量が少なくなり過ぎるおそれがある。
【0071】
言い換えれば、本開示に係る内部電極用ペースト組成物においては、フィラー成分である(A)導電性粉末および(B)誘電体粉末の含有量が前記の範囲内であれば、内部電極層として良好な機能を実現できるとともに、共材の添加による効果を良好に発揮することができ、さらには(C)分散剤としてのアルキルアミド型分散剤を添加することにより、これら2種類の異なる超微粒子を内部電極用ペースト組成物中に良好に分散することができる。
【0072】
(C)分散剤の添加量(含有量または配合量)も特に限定されないが、代表的には、フィラー成分(固形分)である(A)導電性粉末および(B)誘電体粉末の総質量を100質量部に対して、0.5質量部以上7.0質量部以下の範囲内で(C)分散剤を添加することができる。なお、フィラー成分((A)導電性粉末および(B)誘電体粉末)の合計量100質量部に対する(C)分散剤の添加(配合)質量部数の単位((C)分散剤の添加質量部/フィラー成分100質量部)をphp(parts hundred of particle)とする。したがって、例えば、フィラー成分100質量部当たりに(C)分散剤を1質量部添加した場合には、内部電極用導電性ペーストにおける(C)フィラー成分の添加量は1phpとなる。
【0073】
フィラー成分100質量部に対する(C)分散剤の添加量が0.5質量部未満(0.5php未満)であると、前述したような諸条件にもよるが、これら2種類の異なる超微粒子を内部電極用ペースト組成物中に良好に分散することができなくなるおそれがある。すなわち、添加量が0.5質量部未満であればフィラー成分の分散性能が十分でなくなる。一方、フィラー成分100質量部に対する(C)分散剤の添加量が7.0質量部を超える(7.0phpを超える)と、前述したような諸条件にもよるが、グリーンシート積層体を焼成した焼成積層体は疎な状態となるおそれがあり、この場合、積層セラミック部品として十分な特性が得られない。
【0074】
本開示に係る内部電極用ペースト組成物の製造方法は特に限定されず、積層セラミック部品の製造に用いられるペースト組成物の分野で公知の方法を好適に用いることができる。代表的な一例としては、前述した各成分を所定の配合割合で配合し、公知の混練装置を用いてペースト化する方法が挙げられる。混練装置としては、例えば、公知の3本ロールミル等を挙げることができるが特に限定されない。また、混練の前に各成分を予備混合してもよい。予備混合装置としては、例えば、公知の遊星式攪拌機を挙げることができるが、特に限定されない。
【0075】
後述する実施例では、例えば、(B)誘電体粉末を先に(E)溶剤に分散させて(B)誘電体粉末の分散スラリーを調製し、この分散スラリーに(D)バインダ樹脂を添加して、バインダ添加分散スラリーを調製し、さらにこのバインダ添加分散スラリーに対して、(A)導電性粉末を配合し、必要に応じて(E)溶剤で粘度を調整することにより、内部電極用ペースト組成物を製造しており、(C)分散剤は、分散スラリーの調製時および(A)導電性粉末の配合時にそれぞれ添加している。しかしながら、本開示に係る内部電極用ペースト組成物の製造方法はこれに限定されず、2種類の異なる超微粒子である(A)導電性粉末および(B)誘電体粉末を良好に分散させることが可能であれば、どのような製造方法を用いてもよい。
【0076】
[積層セラミック部品]
本開示に係る内部電極用ペースト組成物が適用可能な内部電極層を有する積層セラミック部品は特に限定されず、誘電体層と内部電極層とを多数積層することにより構成される積層構造を有する部品であればよい。代表的には、MLCC(積層セラミックコンデンサ)および積層圧電素子を挙げることができる。積層圧電素子としては、圧力センサ、積層圧電アクチュエータ等を挙げることができる。本開示に係る内部電極用ペースト組成物を用いて内部電極層を形成することにより、これら積層セラミック部品において誘電体層および内部電極層をさらに薄層化(薄膜化)すること、並びに、これら各層を高積層化することが期待できる。
【0077】
例えば、MLCCを小型化または高容量化するためには、誘電体層および内部電極層の層厚を、従来の2μmから800nm、500nm、200nmというように1/2以下から1/10程度まで薄層化することが試みられている。ただし、内部電極層と誘電体層とを交互に積層した積層体では、各層の層厚を薄層化すると、内部電極層の平滑性をより一層向上する必要がある。具体的には、誘電体層の厚さが200nmであれば、内部電極層となる乾燥塗膜(内部電極用ペースト組成物を塗布または印刷してから乾燥することにより得られる塗膜)の表面(電極面)では、算術平均粗さRaが20nm以下、最大高さ粗さRzが200nm以下である程度の高い平滑度が求められる。
【0078】
このような高い平滑度を実現するために、(A)導電性粉末および共材粉末((B)誘電体粉末)として、平均粒子径150nm以下の超微粒子を用いると、従来用いられてきたミクロンサイズの微粒子と比較して比表面積が格段に大きくなる。そのため、このような超微粒子をペースト組成物中に良好に分散させようとしても、従来の分散方法では不十分であった。特に、(A)導電性粉末と共材粉末という材質も表面状態も(通常は平均粒子径も)異なる2種類の超微粒子を良好に分散させ、かつ、乾燥塗膜においてこれら2種類の超微粒子の分布が異なることなく実質的に均一/均質に分布させることは、従来の分散方法では実質的に困難であった。この点は、MLCCだけでなく積層圧電素子でも同様である。
【0079】
これに対して、本開示に係る内部電極用ペースト組成物では、(A)導電性粉末として、その比表面積から算出した平均粒子径が10nm以上150nm以下の範囲内である超微粒子を用い、(B)誘電体粉末として、その比表面積から算出した平均粒子径が10nm以上100nm以下の範囲内である超微粒子を用いたときに、(C)分散剤として、前述した一般式(1)および一般式(2)の少なくとも一方から選択された1種または2種以上のアルキルアミド型分散剤を用いている。
【0080】
これにより、内部電極用ペースト組成物中で平均粒子径が150nm以下の超微粒子を良好に分散できるだけでなく、(A)導電性粉末と(B)誘電体粉末という、材質が異なり表面状態も異質な超微粒子である、複数種類の粉末(異種粉末)を内部電極用ペースト組成物中で良好に分散させることができる。しかも、この内部電極用ペースト組成物により形成した乾燥塗膜では、これら異種粉末の分布が実質的に偏らずに略均一とみなせる程度に分布させることができる。
【0081】
その結果、従来よりも薄く、かつ、欠陥の生じる可能性が低い良質の内部電極層を形成することが可能になり、積層セラミック部品をより高積層化することが可能になる。そのため、MLCCであれば、従来よりもさらに小型化かつ高容量化を図ることが期待でき、積層圧電素子であれば、発生力または電気-機械変換効率の向上を図ることが期待できる。例えば、MLCCであれば、0402サイズ(EIA)以下の小型MLCCの内部電極層の形成に本開示に係る内部電極用ペースト組成物を好適に用いることができる。
【0082】
なお、本開示においては、後述する実施例でも評価しているように、乾燥塗膜における分散性をCV値(変動係数)で確認している。本開示に係る内部電極用ペースト組成物で形成した乾燥塗膜では、CV値が0.3以下であるときに、(A)導電性粉末と(B)誘電体粉末とが偏在せずに実質的に均一に分布しており、良好な共分散性を有すると評価している。
【0083】
ここで、本開示に係る内部電極用ペースト組成物を用いた積層セラミック部品の製造方法は特に限定されず、従来公知の方法を好適に用いることができる。一般的には、誘電体層を形成するためのペースト組成物(誘電体ペースト組成物)を公知の塗工方法により塗工して乾燥することにより、誘電体層となるセラミックグリーンシートを形成し、このセラミックグリーンシートに積層するように、本開示に係る内部電極用ペースト組成物を公知の塗工方法により塗工して乾燥することにより、内部電極層となる電極パターンを形成することで、グリーンシート積層体を作製し、これを公知の方法で焼成すればよい。
【0084】
なお、本開示に係る内部電極用ペースト組成物(および誘電体ペースト組成物)の塗工方法は特に限定されず、ドクターバー法、転写印刷法、スクリーン印刷法、スクリーン転写印刷法、その他のパターン印刷法、スリットコーター法、アプリケーター法、キャピラリーコーター法等を挙げることができる。また、形成された塗膜を乾燥する方法も特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【実施例】
【0085】
本発明について、実施例、比較例および参考例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、以下の実施例において用いた(C)分散剤(アルキルアミド型分散剤)の合成例、並びに、実施例および比較例における乾燥塗膜の平滑性および共分散性の評価は次に示すようにして行った。
【0086】
((C)分散剤の合成例)
[合成例1]
ディーンスターク水分離管、窒素導入管を取り付けた四つ口フラスコに、N,N’-ジメチルアミノプロピルアミン:34.0g、ε-カプロラクトン:798,0g、ジブチルスズラウレート:0.83gをそれぞれ仕込み、系内に窒素を吹き込みながら180℃、6時間(Hr)反応を継続し、合成例1のアルキルアミド型分散剤(合成分散剤1)を得た。この合成分散剤1のポリスチレン換算分子量は2500であり、アミン当量は2496eq/gであった。
【0087】
[合成例2]
ディーンスターク水分離管、窒素導入管を取り付けた四つ口フラスコに、N,N’-ジメチルアミノプロピルアミン:25.5g、12-ヒドロキシステアリン酸:730.5g、ジブチルスズラウレート:0.76gをそれぞれ仕込み、系内に窒素を吹き込みながら、180℃で12Hr反応を継続し、合成例2のアルキルアミド型分散剤(合成分散剤2)を得た。この合成分散剤2のポリスチレン換算分子量は2930であり、アミン当量は2926eq/gであった。
【0088】
[合成例3]
ディーンスターク水分離管、窒素導入管を取り付けた四つ口フラスコに、オレイルアミン:53.5g、β-プロピオラクトン:720.0g、ジブチルスズラウレート:0.77gをそれぞれ仕込み、系内に窒素を吹き込みながら、180℃で8Hr反応を継続し、合成例3のアルキルアミド型分散剤(合成分散剤3)を得た。この合成分散剤3のポリスチレン換算分子量は3870であった。
【0089】
[合成例4]
ディーンスターク水分離管、窒素導入管を取り付けた四つ口フラスコに、オクチルアミン:20.0g、12-ヒドロキシステアリン酸:769.5g、ジブチルスズラウレート:0.79gをそれぞれ仕込み、系内に窒素を吹き込みながら、180℃で8Hr反応を継続し、合成例4のアルキルアミド型分散剤(合成分散剤4)を得た。この合成分散剤4のポリスチレン換算分子量は4600であった。
【0090】
[合成例5]
ディーンスターク水分離管、窒素導入管を取り付けた四つ口フラスコに、ジエチルアミノプロピルアミン:160.0g、δ-バレロラクトン:738.5g、ジブチルスズラウレート:0.90gをそれぞれ仕込み、系内に窒素を吹き込みながら、180℃で8Hr反応を継続し、合成例5のアルキルアミド型分散剤(合成分散剤5)を得た。この合成分散剤5のポリスチレン換算分子量は730であり、アミン当量は735eq/gであった。
【0091】
(乾燥塗膜の評価)
[乾燥塗膜の平滑性]
得られたペースト組成物をガラス基板上に30μmアプリケーターで塗工し、80℃ホットプレート上で1Hr乾燥して乾燥塗膜を得た。この乾燥塗膜について、表面粗さとして、算術平均粗さRaおよび表面高さ粗さRzを測定した。なお、表面粗さRa,Rzの測定は、株式会社東洋精密製の触針式表面粗さ計を用いて、走査距離:3mm、走査スピード:0.15mm/sec、カットオフ値=0.08の条件で行った。
【0092】
本開示では、積層体における各層(誘電体層および内部電極層)の層厚が300nm以下であることを想定し、内部電極層となる乾燥塗膜では、算術平均粗さRa≦20nmであり、表面高さ粗さRz≦200nmであるときに、当該乾燥塗膜が良好な平滑性を有すると評価した。
【0093】
[(A)導電性粉末および(B)誘電体粉末の共分散性]
乾燥塗膜の表面を電子顕微鏡にて20,000倍で撮影して組成像を得て、この組成像から無作為に選択した10箇所の視野について、その金属部分の面積割合の平均および標準偏差から次の式によりCV値(変動係数)を算出した。
CV値=(金属部分の面積の標準偏差)÷(金属部分の面積の平均)
CV値が低ければ、金属粉末および共材粉末(すなわち(A)導電性粉末および(B)誘電体粉末)が偏在することなくそれぞれが良好に分布していることになる。本開示では、前記の通り、内部電極層となる乾燥塗膜においてCV値≦0.3であるときに、当該乾燥塗膜において(A)導電性粉末(金属粉末)および(B)誘電体粉末(共材粉末)が実質的に均一に分布しており、良好な共分散性を有すると評価した。
【0094】
(実施例1)
(B)誘電体粉末としての比表面積11.1g/cm3 のチタン酸バリウム(BET換算平均粒子径=89.8nm):7.5g、(C)分散剤としての合成分散剤1:0.375g、(E)溶剤としてのテルピネオール:42.1gをビーズミルにて30分間分散してチタン酸バリウムの分散スラリーを得た。
【0095】
得られた分散スラリー:60.0gに対して、(D)バインダ樹脂としてのエチルセルロース(ダウ・ケミカルカンパニー(The Dow Chemical Company)製、製品名:STD-4):4.24gを溶解してバインダ添加分散スラリーを得た。さらにこのバインダ添加分散スラリーに対して、(A)導電性粉末としての比表面積5.26g/cm3 (BET換算平均粒子径=128.0nm)のニッケル(Ni)粉末:30.0gおよび(C)分散剤としての合成分散剤1:1.93gを仕込み、遊星式撹拌装置にて予備混合した後、3本ロールミルにて分散および混合した。
【0096】
得られた分散混合物に(E)溶剤としてのテルピネオール:3.83gを加えて粘度を調整することにより、実施例1に係る内部電極用ペースト組成物(ペースト組成物1)を得た。このペースト組成物1について、前述した通り乾燥塗膜の平滑性および粉末の共分散性を評価した。その結果を表1に示す。
【0097】
なお、表1並びに後述する表2、表3では、本実施例1を含む各実施例または比較例において、乾燥塗膜の評価結果だけでなく、各ペースト組成物に用いられた(A)導電性粉末および(B)誘電体粉末の種類、平均粒子径、並びに配合比を併せて示すとともに、各ペースト組成物に用いられる(C)分散剤の種類(合成例1~5のいずれかのアルキルアミド型分散剤)と添加量とを併せて示している。なお、表1~表3における(C)分散剤の添加量は、前述したようにphp(フィラー成分((A)導電性粉末および(B)誘電体粉末)100質量部に対する(C)分散剤の添加質量部数)で示している。
【0098】
このうち、(A)導電性粉末の配合比および(B)誘電体粉末の配合比は、いずれも当該ペースト組成物中における各粉末の含有質量を百分率(質量%)で示したものである。また、(C)分散剤の添加量は、ペースト組成物中の質量%ではなく、(A)導電性粉末および(B)誘電体粉末(共材粉末)の全重量(フィラー成分または固形分の全量)を100質量部としたときの添加質量部として示したものである。
【0099】
(実施例2)
(B)誘電体粉末としての比表面積33.5/cm3 のチタン酸バリウム(BET換算平均粒子径=29.8nm):7.5g、(C)分散剤としての合成分散剤2:0.375g、(E)溶剤としてのテルピネオール:42.1gをビーズミルにて30分間分散してチタン酸バリウムの分散スラリーを得た。
【0100】
得られた分散スラリー:40.0gに対して(D)バインダ樹脂としてのエチルセルロース(ダウ・ケミカルカンパニー製、製品名:STD-4):5.00gを溶解してバインダ添加分散スラリーを得た。さらにこのバインダ添加分散スラリーに対して、(A)導電性粉末としての比表面積8.42g/cm3 (BET換算平均粒子径=80.0nm)のニッケル(Ni)粉末:40.0gおよび(C)分散剤としての合成分散剤2:1.61gを仕込み、遊星式撹拌装置にて予備混合した後、3本ロールミルにて分散および混合した。
【0101】
得られた分散混合物に(E)溶剤としてのテルピネオール:13.4gを加えて粘度を調整することにより、実施例2に係るペースト組成物(ペースト組成物2)を得た。このペースト組成物2について、前述した通り乾燥塗膜の平滑性および粉末の共分散性を評価した。その結果を表1に示す。
【0102】
(実施例3)
(B)誘電体粉末としての比表面積47.9/cm3 のチタン酸バリウム(BET換算平均粒子径=20.8nm):7.5g、(C)分散剤としての合成分散剤3:0.375g、(E)溶剤としてのテルピネオール:42.1gをビーズミルにて30分間分散してチタン酸バリウムの分散スラリーを得た。
【0103】
得られた分散スラリー:53.3gに対して(D)バインダ樹脂としてのエチルセルロース(ダウ・ケミカルカンパニー製、製品名:STD-4):5.22gを溶解してバインダ添加分散スラリーを得た。さらにこのバインダ添加分散スラリーに対して、(A)導電性粉末としての比表面積13.4g/cm3 (BET換算平均粒子径=50.0nm)のニッケル(Ni)粉末:40.0gおよび(C)分散剤としての合成分散剤3:1.48gを仕込み、遊星式撹拌装置にて予備混合した後、3本ロールミルにて分散および混合した。
【0104】
これにより、実施例3に係るペースト組成物(ペースト組成物3)を得た。このペースト組成物3について、前述した通り乾燥塗膜の平滑性および粉末の共分散性を評価した。その結果を表1に示す。
【0105】
(実施例4)
(B)誘電体粉末としての比表面積47.9/cm3 のチタン酸バリウム(BET換算平均粒子径=20.8nm):7.5g、(C)分散剤としての合成分散剤4:0.375g、(E)溶剤としてのテルピネオール:42.1gをビーズミルにて30分間分散してチタン酸バリウムの分散スラリーを得た。
【0106】
得られた分散スラリー:20.0gに(D)バインダ樹脂としてのエチルセルロース(ダウ・ケミカルカンパニー製、製品名:STD-4)を5.76g溶解してバインダ添加分散スラリーを得た。さらにこのバインダ添加分散スラリーに対して、(A)導電性粉末としての比表面積22.5g/cm3 (BET換算平均粒子径=30.0nm)のニッケル(Ni)粉末:50.0gおよび(C)分散剤としての合成分散剤4:1.33gを仕込み、遊星式撹拌装置にて予備混合した後、3本ロールミルにて分散および混合した。
【0107】
得られた分散混合物に(E)溶剤としてのテルピネオール:22.9gを加えて粘度を調整することにより、実施例4に係るペースト組成物(ペースト組成物4)を得た。このペースト組成物4について、前述した通り乾燥塗膜の平滑性および粉末の共分散性を評価した。その結果を表1に示す。
【0108】
(実施例5)
(B)誘電体粉末としての比表面積88.2/cm3 のチタン酸バリウム(BET換算平均粒子径=11.3nm):7.5g、(C)分散剤としての合成分散剤5:0.375g、(E)溶剤としてのテルピネオール:42.1gをビーズミルにて30分間分散してチタン酸バリウムの分散スラリーを得た。
【0109】
得られた分散スラリー:33.3gに(D)バインダ樹脂としてのエチルセルロース(ダウ・ケミカルカンパニー製、製品名:STD-4)を6.52g溶解してバインダ添加分散スラリーを得た。さらにこのバインダ添加分散スラリーに対して、(A)導電性粉末としての比表面積22.5g/cm3 (BET換算平均粒子径=30.0nm)のニッケル(Ni)粉末:55.0gおよび(C)分散剤としての合成分散剤5:1.50gを仕込み、遊星式撹拌装置にて予備混合した後、3本ロールミルにて分散および混合した。
【0110】
得られた分散混合物に(E)溶剤としてのテルピネオール:3.68gを加えて粘度を調整することにより、実施例5に係るペースト組成物(ペースト組成物5)を得た。このペースト組成物5について、前述した通り乾燥塗膜の平滑性および粉末の共分散性を評価した。その結果を表1に示す。
【0111】
【0112】
(実施例6)
(B)誘電体粉末としての比表面積10.0/cm3 のPZT粉末(BET換算平均粒子径=49.8nm):7.5g、(C)分散剤としての合成分散剤1:0.375g、(E)溶剤としてのテルピネオール:42.1gをビーズミルにて30分間分散してPZT粉末の分散スラリーを得た。
【0113】
得られた分散スラリー:26.7gに(D)バインダ樹脂としてのエチルセルロース(ダウ・ケミカルカンパニー製、製品名:STD-4)を6.96g溶解してバインダ添加分散スラリーを得た。さらにこのバインダ添加分散スラリーに対して、(A)導電性粉末としての比表面積10.0g/cm3 (BET換算平均粒子径=50.0nm)のパラジウム(Pd)粉末:60.0gおよび(C)分散剤としての合成分散剤1:1.60gを仕込み、遊星式撹拌装置にて予備混合した後、3本ロールミルにて分散および混合した。
【0114】
得られた分散混合物に(E)溶剤としてのテルピネオール:4.74gを加えて粘度を調整することにより、実施例6に係るペースト組成物(ペースト組成物6)を得た。このペースト組成物6について、前述した通り乾燥塗膜の平滑性および粉末の共分散性を評価した。その結果を表2に示す。
【0115】
(実施例7)
(B)誘電体粉末としての比表面積26.0/cm3 のPZT粉末(BET換算平均粒子径=30.0nm):7.5g、(C)分散剤としての合成分散剤1:0.375g、(E)溶剤としてのテルピネオール:42.1gをビーズミルにて30分間分散してPZT粉末の分散スラリーを得た。
【0116】
得られた分散スラリー:6.67gに(D)バインダ樹脂としてのエチルセルロース(ダウ・ケミカルカンパニー製、製品名:STD-4)のテルピネオール50質量%溶液:9.72gを加えてバインダ添加分散スラリーを得た。さらにこのバインダ添加分散スラリーに対して、(A)導電性粉末としての比表面積10.0g/cm3 (BET換算平均粒子径=50.0nm)の白金(Pt)粉末:80.0gおよび(C)分散剤としての合成分散剤1:1.00gを仕込み、遊星式撹拌装置にて予備混合した後、3本ロールミルにて分散および混合した。
【0117】
得られた分散混合物に(E)溶剤としてのテルピネオール:2.61gを加えて粘度を調整することにより、実施例7に係るペースト組成物(ペースト組成物7)を得た。このペースト組成物7について、前述した通り乾燥塗膜の平滑性および粉末の共分散性を評価した。その結果を表2に示す。
【0118】
(実施例8)
(B)誘電体粉末としての比表面積26.0/cm3 のPZT粉末(BET換算平均粒子径=30.0nm):7.5g、(C)分散剤としての合成分散剤2:0.375g、(E)溶剤としてのテルピネオール:42.1gをビーズミルにて30分間分散してPZT粉末の分散スラリーを得た。
【0119】
得られた分散スラリー:13.3gに(D)バインダ樹脂としてのエチルセルロース(ダウ・ケミカルカンパニー製、製品名:STD-4)のテルピネオール50質量%溶液:13.5gを加えてバインダ添加分散スラリーを得た。さらにこのバインダ添加分散スラリーに対して、(A)導電性粉末としての比表面積18.3g/cm3 (BET換算平均粒子径=50.0nm)の銀(Ag)/パラジウム(Pd)比=70/30の合金粉末:60.0gおよび(C)分散剤としての合成分散剤2:1.55gを仕込み、遊星式撹拌装置にて予備混合した後、3本ロールミルにて分散および混合した。
【0120】
得られた分散混合物に(E)溶剤としてのテルピネオール11.7gを加えて粘度を調整することにより、実施例8に係るペースト組成物(ペースト組成物8)を得た。このペースト組成物8について、前述した通り乾燥塗膜の平滑性および粉末の共分散性を評価した。その結果を表2に示す。
【0121】
(実施例9)
(B)誘電体粉末としての比表面積26.0/cm3 のPZT粉末(BET換算平均粒子径=30.0nm):7.5g、(C)分散剤としての合成分散剤2:0.375g、(E)溶剤としてのテルピネオール:42.1gをビーズミルにて30分間分散してPZT粉末の分散スラリーを得た。
【0122】
得られた分散スラリー:6.67gに(D)バインダ樹脂としてのエチルセルロース(ダウ・ケミカルカンパニー製、製品名:STD-4)のテルピネオール50質量%溶液:16.5gを加えてバインダ添加分散スラリーを得た。さらにこのバインダ添加分散スラリーに対して、(A)導電性粉末としての比表面積18.3g/cm3 (BET換算平均粒子径=50.0nm)の銀(Ag)/パラジウム(Pd)比=70/30の合金粉末:75.0gおよび(C)分散剤としての合成分散剤2:0.83gを仕込み、遊星式撹拌装置にて予備混合した後、3本ロールミルにて分散および混合した。
【0123】
得られた分散混合物に(E)溶剤としてのテルピネオール1.43gを加えて粘度を調整することにより、実施例9に係るペースト組成物(ペースト組成物9)を得た。このペースト組成物9について、前述した通り乾燥塗膜の平滑性および粉末の共分散性を評価した。その結果を表2に示す。
【0124】
【0125】
(比較例1)
分散剤として、重量平均分子量(Mw)が1800のポリエチレンイミンを用いた以外は実施例2と同様にして、比較例1に係るペースト組成物(比較ペースト組成物1)を得た。この比較ペースト組成物1について、前述した通り乾燥塗膜の平滑性および粉末の共分散性を評価した。その結果を表3に示す。
【0126】
(比較例2)
分散剤として、ラウロイルメチル-β-アラニンを用いた以外は実施例2と同様にして、比較例2に係るペースト組成物(比較ペースト組成物2)を得た。この比較ペースト組成物2について、前述した通り乾燥塗膜の平滑性および粉末の共分散性を評価した。その結果を表3に示す。
【0127】
(比較例3)
分散剤として、2級および3級アミノ基を有する、アミン価93mgKOH/gのポリエステル系分散剤(日本ルーブリゾール株式会社製、製品名:Solsperse 13940)を用いた以外は実施例2と同様にして、比較例3に係るペースト組成物(比較ペースト組成物3)を得た。この比較ペースト組成物3について、前述した通り乾燥塗膜の平滑性および粉末の共分散性を評価した。その結果を表3に示す。
【0128】
(比較例4)
分散剤として、3級アミノ基を有するポリウレタン-ポリエステル系分散剤(ビックケミー・ジャパン株式会社製、製品名:BYK-2155)を用いた以外は実施例2と同様にして、比較例4に係るペースト組成物(比較ペースト組成物4)を得た。この比較ペースト組成物4について、前述した通り乾燥塗膜の平滑性および粉末の共分散性を評価した。その結果を表3に示す。
【0129】
【0130】
(実施例および比較例の対比)
実施例1~5の結果から、(A)導電性粉末として超微粒子のニッケル粉末を用い、(B)誘電体粉末(共材粉末)として超微粒子のチタン酸バリウム粉末を用いた場合に、(C)分散剤として一般式(1)または一般式(2)のアルキルアミド型分散剤を用いることによって、得られる乾燥塗膜の平滑性も分散性も良好なものとなっている。それゆえ、本開示に係る内部電極用ペースト組成物は、MLCCの内部電極層に用いることで、薄層化および高積層化を図ることができると考えられる。
【0131】
また、実施例6~9の結果から、(A)導電性粉末として超微粒子のパラジウム粉末、白金粉末、または銀/パラジウム合金粉末を用い、(B)誘電体粉末(共材粉末)として超微粒子のPZT粉末を用いた場合に、(C)分散剤として一般式(1)または一般式(2)のアルキルアミド型分散剤を用いることによって、得られる乾燥塗膜の平滑性も分散性も良好なものとなっている。それゆえ、本開示に係る内部電極用ペースト組成物は、積層圧電素子の内部電極層に用いることで、薄層化および高積層化を図ることができると考えられる。
【0132】
また、実施例1~9の結果(合成例1~合成例5参照)から、(C)分散剤であるアルキルアミド型分散剤は、その重量平均分子量Mw700~5000の範囲内であることが好ましいことがわかる。同様に、アルキルアミド型分散剤の添加量は、フィラー成分(固形分)の総質量を100質量部としたときに、0.5~7.0質量部の範囲内が好ましいことがわかる。さらに、実施例1~9の結果から(A)導電性粉末の含有量は30~80質量%の範囲内が好ましく、(B)誘電体粉末の含有量は1~10質量%の範囲内が好ましいことがわかる。
【0133】
一方、比較例1~4の結果から明らかなように、分散剤がアルキルアミド型分散剤でない公知の分散剤である場合には、乾燥塗膜の平滑性も分散性も十分ではないことがわかる。それゆえ、これら実施例および比較例から、(A)導電性粉末および(B)誘電体粉末として超微粒子を用いた場合でも、(C)分散剤としてアルキルアミド型分散剤を用いることにより、2次凝集塊を実質的に含まないと見なされる良好な共分散性を実現できるとともに、乾燥塗膜において良好な平滑性を実現でき、乾燥塗膜において(A)導電性粉末および(B)誘電体粉末を実質的に均質に分布させることも可能となる。また、(A)導電性粉末および(B)誘電体粉末が良好に共分散できるため、塗工に適した粘度または流動性を実現できる。
【0134】
なお、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明は、積層セラミックコンデンサ(MLCC)、積層圧電素子等の積層セラミック部品を製造する分野に広く好適に用いることができる。