(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】水深計測装置及び水深計測プログラム
(51)【国際特許分類】
G01C 13/00 20060101AFI20221025BHJP
G01S 13/95 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
G01C13/00 D
G01S13/95
G01C13/00 W
(21)【出願番号】P 2018234950
(22)【出願日】2018-12-14
【審査請求日】2021-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】小関 勇気
【審査官】仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105241428(CN,A)
【文献】特開2005-83998(JP,A)
【文献】特開2003-21680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 1/00-1/14
5/00-15/14
G01S 7/00-7/42
13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ画像での波数空間解析又は実空間解析に基づいて、レーダ画像での波浪の波数及び波速又はレーダ画像での波浪の波長及び波速を計測する波浪計測部と、
レーダ画像での波浪の波数及び波速又はレーダ画像での波浪の波長及び波速と、重力波の分散関係と、に基づいて、レーダ画像での水深を計測する水深計測部と、
を備えることを特徴とする水深計測装置。
【請求項2】
前記水深計測部は、レーダ画像での波浪の波長に対する、レーダ画像での計測した水深の比率が、所定の比率より大きいときには、レーダ画像での水深の計測結果を破棄する
ことを特徴とする、請求項1に記載の水深計測装置。
【請求項3】
前記波浪計測部は、レーダ画像をフーリエ変換してスペクトルを生成し、スペクトルの波数空間でのピーク位置に基づいて、レーダ画像での波浪の波数又は波長を計測する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の水深計測装置。
【請求項4】
前記波浪計測部は、先後の時刻でのレーダ画像をフーリエ変換して先後の時刻でのスペクトルを生成し、先の時刻でのスペクトルのピーク位相と、後の時刻でのスペクトルのピーク位相と、の間の差分に基づいて、レーダ画像での波浪の波速を計測する
ことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の水深計測装置。
【請求項5】
前記波浪計測部は、レーダ画像での波数空間解析又は実空間解析に基づいて、レーダ画像での波浪の波高を計測し、
前記水深計測部は、レーダ画像での波浪の波長又はレーダ画像での計測した水深に対する、レーダ画像での波浪の波高の比率が、所定の比率より大きいときには、微小振幅の重力波の分散関係に代えて、有限振幅の重力波の分散関係に基づいて、レーダ画像での水深の計測結果を補正する、又は、レーダ画像での水深の計測結果を破棄する
ことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の水深計測装置。
【請求項6】
前記波浪計測部は、(1)先後の時刻でのレーダ画像をフーリエ変換して先後の時刻でのスペクトルを生成し、(2)先の時刻でのスペクトルの各波数での位相と、後の時刻でのスペクトルの各波数での位相と、の間の差分に基づいて、スペクトルの各波数に対応する計測波速を算出し、(3)重力波の分散関係と、スペクトルの各波数又はスペクトルの各波数に対応する波長と、に基づいて、スペクトルの各波数に対応する理論波速を算出し、(4)スペクトルの各波数に対応する計測波速と理論波速との間の一致程度に基づいて、スペクトルの各波数での振幅を信号成分と雑音成分とに分類し、(5)有義波高の経験式及びスペクトルの全波数にわたる信号対雑音比に基づいて、レーダ画像での波浪の波高を計測する
ことを特徴とする、請求項5に記載の水深計測装置。
【請求項7】
レーダ画像での波数空間解析又は実空間解析に基づいて、レーダ画像での波浪の波数及び波速又はレーダ画像での波浪の波長及び波速を計測する波浪計測ステップと、
レーダ画像での波浪の波数及び波速又はレーダ画像での波浪の波長及び波速と、重力波の分散関係と、に基づいて、レーダ画像での水深を計測する水深計測ステップと、
を順にコンピュータに実行させるための水深計測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、海洋の水深を計測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
海洋の水深を計測する技術が、特許文献1等に開示されている。特許文献1では、超音波振動子を船底に配置し超音波信号を信号処理することにより、海洋の水深を計測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、超音波振動子を保守管理する手間がかかるとともに、超音波信号をほぼ鉛直下方に照射するため、船舶のほぼ鉛直下方の水深を計測することしかできない。
【0005】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、海洋の水深を計測するにあたり、保守管理を軽減するとともに、広い海域の水深を計測することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、レーダ画像の海面クラッタを計測することにより、海面の波浪及び海洋の水深を計測することとした。具体的には、レーダ画像での波浪のパラメータ及び重力波の分散関係に基づいて、レーダ画像での水深を計測することとした。
【0007】
具体的には、本開示は、レーダ画像での波数空間解析又は実空間解析に基づいて、レーダ画像での波浪の波数及び波速又はレーダ画像での波浪の波長及び波速を計測する波浪計測部と、レーダ画像での波浪の波数及び波速又はレーダ画像での波浪の波長及び波速と、重力波の分散関係と、に基づいて、レーダ画像での水深を計測する水深計測部と、を備えることを特徴とする水深計測装置である。
【0008】
また、本開示は、レーダ画像での波数空間解析又は実空間解析に基づいて、レーダ画像での波浪の波数及び波速又はレーダ画像での波浪の波長及び波速を計測する波浪計測ステップと、レーダ画像での波浪の波数及び波速又はレーダ画像での波浪の波長及び波速と、重力波の分散関係と、に基づいて、レーダ画像での水深を計測する水深計測ステップと、を順にコンピュータに実行させるための水深計測プログラムである。
【0009】
これらの構成によれば、レーダシステムの保守管理を行うのみでよく、レーダ信号を広い海域に照射するため、広い海域の水深を計測することができる。
【0010】
また、本開示は、前記水深計測部は、レーダ画像での波浪の波長に対する、レーダ画像での計測した水深の比率が、所定の比率より大きいときには、レーダ画像での水深の計測結果を破棄することを特徴とする水深計測装置である。
【0011】
この構成によれば、波浪の波長と比べて深過ぎる水深については、波浪の波速が水深にほぼ依存せず、水深の計測精度が低いため、水深の計測結果を破棄することができる。
【0012】
また、本開示は、前記波浪計測部は、レーダ画像をフーリエ変換してスペクトルを生成し、スペクトルの波数空間でのピーク位置に基づいて、レーダ画像での波浪の波数又は波長を計測することを特徴とする水深計測装置である。
【0013】
この構成によれば、波数空間解析により実空間解析と比べて、波浪の波数又は波長を容易に計測することができる。そして、波浪の波数及び波速又は波浪の波長及び波速と、重力波の分散関係と、に基づいて、広い海域の水深を計測することができる。
【0014】
また、本開示は、前記波浪計測部は、先後の時刻でのレーダ画像をフーリエ変換して先後の時刻でのスペクトルを生成し、先の時刻でのスペクトルのピーク位相と、後の時刻でのスペクトルのピーク位相と、の間の差分に基づいて、レーダ画像での波浪の波速を計測することを特徴とする水深計測装置である。
【0015】
この構成によれば、波数空間解析により実空間解析と比べて、波浪の波速を容易に計測することができる。そして、波浪の波数及び波速又は波浪の波長及び波速と、重力波の分散関係と、に基づいて、広い海域の水深を計測することができる。
【0016】
また、本開示は、前記波浪計測部は、レーダ画像での波数空間解析又は実空間解析に基づいて、レーダ画像での波浪の波高を計測し、前記水深計測部は、レーダ画像での波浪の波長又はレーダ画像での計測した水深に対する、レーダ画像での波浪の波高の比率が、所定の比率より大きいときには、微小振幅の重力波の分散関係に代えて、有限振幅の重力波の分散関係に基づいて、レーダ画像での水深の計測結果を補正する、又は、レーダ画像での水深の計測結果を破棄することを特徴とする水深計測装置である。
【0017】
この構成によれば、高過ぎる波浪の波高に対しては、(1)砕波条件を満たすときには、水深の計測精度が低いため、水深の計測結果を破棄することができ、(2)有限振幅条件を満たすときには、微小振幅の重力波の分散関係に代えて、有限振幅の重力波の分散関係に基づいて、水深の計測結果を補正してもよく、水深の計測結果を破棄してもよい。
【0018】
また、本開示は、前記波浪計測部は、(1)先後の時刻でのレーダ画像をフーリエ変換して先後の時刻でのスペクトルを生成し、(2)先の時刻でのスペクトルの各波数での位相と、後の時刻でのスペクトルの各波数での位相と、の間の差分に基づいて、スペクトルの各波数に対応する計測波速を算出し、(3)重力波の分散関係と、スペクトルの各波数又はスペクトルの各波数に対応する波長と、に基づいて、スペクトルの各波数に対応する理論波速を算出し、(4)スペクトルの各波数に対応する計測波速と理論波速との間の一致程度に基づいて、スペクトルの各波数での振幅を信号成分と雑音成分とに分類し、(5)有義波高の経験式及びスペクトルの全波数にわたる信号対雑音比に基づいて、レーダ画像での波浪の波高を計測することを特徴とする水深計測装置である。
【0019】
この構成によれば、波数空間解析により実空間解析と比べて、波浪の波高を容易に計測することができる。そして、波浪の波高が高過ぎるかどうかに応じて、水深の計測結果を補正することができ、水深の計測結果を破棄することもできる。
【発明の効果】
【0020】
このように、本開示は、海洋の水深を計測するにあたり、保守管理を軽減するとともに、広い海域の水深を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本開示の水深計測システムの構成を示す図である。
【
図2】本開示の水深計測処理の手順を示すフローチャートである。
【
図3】本開示の水深計測処理の手順を示す図である。
【
図4】本開示の波長と比べて深過ぎる水深を破棄する方法を示す図である。
【
図5】本開示の高過ぎる波高に対して水深を補正又は破棄する方法を示す図である。
【
図6】本開示の波浪の波数又は波長の計測方法を示す図である。
【
図7】本開示の波浪の波速の計測方法を示す図である。
【
図8】本開示の波浪の波高の計測方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0023】
本開示の水深計測システムの構成を
図1に示す。本開示の水深計測処理の手順を示すフローチャートを
図2に示す。水深計測システムSは、レーダ送信部1、レーダ受信部2、水深計測装置3及びレーダ映像表示部4から構成される。水深計測装置3は、画像分割部31、波浪計測部32及び水深計測部33から構成され、
図2に示した水深計測プログラムをコンピュータにインストールすることにより実現することができる。
【0024】
レーダ送信部1は、海上に向けてレーダビームを照射する。レーダ受信部2は、海上で反射されたレーダビームを受信する。水深計測装置3は、レーダ画像の海面クラッタを計測することにより、海面の波浪及び海洋の水深を計測する。レーダ映像表示部4は、水深計測装置3が取得、処理及び作成したレーダ映像のデータを映像化して表示する。
【0025】
本開示の水深計測処理の手順を
図3に示す。
図3の左上欄では、画像分割部31は、レーダ映像を取得する。
図3の右上欄では、画像分割部31は、レーダ画像を分割して各分割画像を生成する(ステップS1)。例えば、レーダ画像は、x方向に8分割され、y方向に8分割され、全体として8×8=64分割されている。
【0026】
図3の左下欄では、波浪計測部32は、各分割画像での波数空間解析又は実空間解析に基づいて、各分割画像での波浪の波数k及び波速v又は波浪の波長λ及び波速vを計測するとともに、各分割画像での波浪の波高Hを計測する(ステップS2)。例えば、波浪の波長λは、
図3の左下欄の矢印の長さにより表され、波浪の波速vは、
図3の左下欄の数値で表され、波浪の波高Hは、
図3の左下欄の階調で表される。
【0027】
図3の右下欄では、水深計測部33は、各分割画像での波浪の波数k及び波速v又は各分割画像での波浪の波長λ及び波速vと、微小振幅の重力波の分散関係と、に基づいて、各分割画像での水深dを計測する(ステップS3)。例えば、水深dは、
図3の右下欄の階調で表される。ここで、微小振幅の重力波の分散関係は、数式1により表される。
【数1】
【0028】
なお、画像分割部31は、レーダ画像を分割しなくてもよい。また、波浪計測部32は、分割されていないレーダ画像での波浪の波数k及び波速v又は波浪の波長λ及び波速vを計測するとともに、分割されていないレーダ画像での波浪の波高Hを計測してもよい。また、水深計測部33は、分割されていないレーダ画像での水深dを計測してもよい。
【0029】
このように、水深計測システムSの保守管理を行うのみでよく、レーダ信号を広い海域に照射するため、広い海域の水深dを計測することができる。
【0030】
本開示の波長と比べて深過ぎる水深を破棄する方法を
図4に示す。水深計測部33は、各分割画像での波浪の波長λに対する、各分割画像での計測した水深dの比率が、所定の比率より大きいときには、各分割画像での水深dの計測結果を破棄する。
【0031】
具体的には、水深計測部33は、波浪の波長λに対する水深dの比率d/λが、所定の比率(例えば、1/2。)より大きいときには(ステップS4においてYES)、水深dの計測結果を破棄する(ステップS5)。一方で、水深計測部33は、波浪の波長λに対する水深dの比率d/λが、所定の比率(例えば、1/2。)以下であるときには(ステップS4においてNO)、水深dの計測結果をとりあえず保留する。
【0032】
図4では、微小振幅の重力波の分散関係を示す。ここで、波浪の波数k及び波長λは、一定であるとし、波浪の波速vは、d=0において0であり、d→∞において√(g/k)=√(gλ/2π)であり、d=π/k=λ/2においてかなり√(g/k)=√(gλ/2π)に近づく。すると、π/k=λ/2より深い水深dについては、波浪の波速vが水深dにほぼ依存せず、水深dの計測精度が低い。一方で、π/k=λ/2以下である水深dについては、波浪の波速vが水深dに依存するため、水深dの計測精度が高い。
【0033】
つまり、波浪の波長λと比べて深過ぎる水深dについては、波浪の波速vが水深dにほぼ依存せず、水深dの計測精度が低いため、水深dの計測結果を破棄することができる。
【0034】
本開示の高過ぎる波高に対して水深を補正又は破棄する方法を
図5に示す。水深計測部33は、各分割画像での波浪の波長λ又は各分割画像での計測した水深dに対する、各分割画像での波浪の波高Hの比率が、所定の比率より大きいときには、微小振幅の重力波の分散関係に代えて、有限振幅の重力波の分散関係に基づいて、各分割画像での水深dの計測結果を補正する、又は、各分割画像での水深dの計測結果を破棄する。
【0035】
具体的には、水深計測部33は、
図5の左上欄に示したように、波浪の波長λに対する波浪の波高Hの比率H/λが、所定の比率(例えば、1/7。)より大きいときには、つまり、砕波条件を満たすときには(ステップS6においてYES)、水深dの計測結果を破棄する(ステップS7)。一方で、水深計測部33は、
図5の右上欄に示したように、波浪の波長λに対する波浪の波高Hの比率H/λが、所定の比率(例えば、1/7。)以下であるときには、つまり、砕波条件を満たさないときには(ステップS6においてNO)、水深dの計測結果をとりあえず保留する。ここで、砕波条件を満たすときには、水深dの計測結果を破棄するのは、重力波の分散関係を算出することが困難であるからである。
【0036】
つまり、高過ぎる波浪の波高Hに対しては、砕波条件を満たすときには、水深dの計測精度が低いため、水深dの計測結果を破棄することができる。
【0037】
そして、水深計測部33は、
図5の左中欄に示したように、波浪の波長λに対する波浪の波高Hの比率H/λが、所定の比率より大きいときには、つまり、深水波での有限振幅条件を満たすときには(ステップS8においてYES)、微小振幅の重力波の分散関係に代えて、有限振幅の重力波の分散関係に基づいて、水深dの計測結果を補正してもよく(ステップS9)、又は、水深dの計測結果を破棄してもよい。一方で、水深計測部33は、
図5の右中欄に示したように、波浪の波長λに対する波浪の波高Hの比率H/λが、所定の比率以下であるときには、つまり、深水波での有限振幅条件を満たさないときには(ステップS8においてNO)、水深dの計測結果を最終的に採用する。ここで、有限振幅の重力波の分散関係として、ストークス波又はクノイド波等の重力波の分散関係が挙げられる。
【0038】
さらに、水深計測部33は、
図5の左下欄に示したように、水深dに対する波浪の波高Hの比率H/dが、所定の比率より大きいときには、つまり、浅水波での有限振幅条件を満たすときには(ステップS8においてYES)、微小振幅の重力波の分散関係に代えて、有限振幅の重力波の分散関係に基づいて、水深dの計測結果を補正してもよく(ステップS9)、又は、水深dの計測結果を破棄してもよい。一方で、水深計測部33は、
図5の右下欄に示したように、水深dに対する波浪の波高Hの比率H/dが、所定の比率以下であるときには、つまり、浅水波での有限振幅条件を満たさないときには(ステップS8においてNO)、水深dの計測結果を最終的に採用する。ここで、有限振幅の重力波の分散関係として、ストークス波又はクノイド波等の重力波の分散関係が挙げられる。
【0039】
つまり、高過ぎる波浪の波高Hに対しては、有限振幅条件を満たすときには、微小振幅の重力波の分散関係に代えて、有限振幅の重力波の分散関係に基づいて、水深dの計測結果を補正してもよく、水深dの計測結果を破棄してもよい。
【0040】
まず、波浪計測部32が、各分割画像での「波数空間解析」に基づいて、各分割画像での波浪の波数k、波長λ、波速v及び波高Hを計測する方法を説明する。
【0041】
本開示の波浪の波数又は波長の計測方法を
図6に示す。波浪計測部32は、各分割画像をフーリエ変換して各スペクトルを生成し、各スペクトルの波数空間でのピーク位置に基づいて、各分割画像での波浪の波数k又は波長λを計測する(ステップS2)。
【0042】
具体的には、Bスコープ画像をXY座標画像に座標変換し、STC処理を実行し、円形画像から方形画像のみ切り出し、波浪計測対象のレーダ画像とする。次に、前回スキャン及び今回スキャンの各分割画像について、それぞれ、前回スキャン及び今回スキャンの各スペクトルを生成する。次に、前回スキャン及び今回スキャンの各スペクトルを乗算し、前回スキャンと今回スキャンとの間の各クロススペクトルCSを生成する。次に、前回スキャンと今回スキャンとの間の各クロススペクトルCSを、kx及びkyを座標軸とする波数座標からλx=2π/kx及びλy=2π/kyを座標軸とする波長座標へと変換する。
【0043】
ここで、前回スキャンと今回スキャンとの間の各クロススペクトルにおいて、波数座標でのピーク位置は(k
xp、k
yp)であり、波長座標でのピーク位置は(λ
xp、λ
yp)である。そこで、波数k又は波長λを数式2、3により算出する。
【数2】
【数3】
【0044】
このように、波数空間解析により実空間解析と比べて、波浪の波数k又は波長λを容易に計測することができる。そして、波浪の波数k及び波速v又は波浪の波長λ及び波速vと、重力波の分散関係と、に基づいて、広い海域の水深dを計測することができる。なお、波浪の波数k又は波長λを計測するにあたり、乗算後の各クロススペクトルを利用してもよいが、乗算前の各スペクトルを利用してもよい。また、乗算後の各クロススペクトル又は乗算前の各スペクトルを算出するにあたり、過去から現在に渡る複数個の乗算後の各クロススペクトル又は乗算前の各スペクトルを平均してもよい。
【0045】
本開示の波浪の波速の計測方法を
図7に示す。波浪計測部32は、先後の時刻での各分割画像をフーリエ変換して先後の時刻での各スペクトルを生成し、先の時刻での各スペクトルのピーク位相と、後の時刻での各スペクトルのピーク位相と、の間の差分に基づいて、各分割画像での波浪の波速vを計測する(ステップS2)。
【0046】
具体的には、Bスコープ画像をXY座標画像に座標変換し、STC処理を実行し、円形画像から方形画像のみ切り出し、波浪計測対象のレーダ画像とする。次に、前回スキャン及び今回スキャンの各分割画像について、それぞれ、前回スキャン及び今回スキャンの各スペクトルを生成する。次に、前回スキャン及び今回スキャンの各スペクトルを乗算し、前回スキャンと今回スキャンとの間の各クロススペクトルCSを生成する。
【0047】
ここで、前回スキャンと今回スキャンとの間の各クロススペクトルにおいて、ピーク位置は(k
xp、k
yp)である。そこで、各クロススペクトルのピーク位相CS
θ(k
xp、k
yp)を数式4により算出し、波速vを数式5により算出する。ただし、τは、前回スキャンと今回スキャンとの間の時間間隔(例えば、アンテナの回転周期。)である。
【数4】
【数5】
【0048】
このように、波数空間解析により実空間解析と比べて、波浪の波速vを容易に計測することができる。そして、波浪の波数k及び波速v又は波浪の波長λ及び波速vと、重力波の分散関係と、に基づいて、広い海域の水深dを計測することができる。なお、ナイキスト条件2πv/λ<π/τを満たさないときには、波浪の波速vを正しく計測することができないことに留意すべきである。また、乗算後の各クロススペクトル又は乗算前の各スペクトルを算出するにあたり、過去から現在に渡る複数個の乗算後の各クロススペクトル又は乗算前の各スペクトルを平均してもよい。
【0049】
本開示の波浪の波高の計測方法を
図8に示す。波浪計測部32は、(1)先後の時刻での各分割画像をフーリエ変換して先後の時刻での各スペクトルを生成し、(2)先の時刻での各スペクトルの各波数での位相と、後の時刻での各スペクトルの各波数での位相と、の間の差分に基づいて、各スペクトルの各波数に対応する計測波速を算出し、(3)重力波の分散関係と、各スペクトルの各波数又はこれらに対応する波長と、に基づいて、各スペクトルの各波数に対応する理論波速を算出し、(4)各スペクトルの各波数に対応する計測波速と理論波速との間の一致程度に基づいて、各スペクトルの各波数での振幅を信号成分と雑音成分とに分類し、(5)有義波高の経験式及び各スペクトルの全波数にわたる信号対雑音比に基づいて、各分割画像での波浪の波高Hを計測する(ステップS2)。
【0050】
具体的には、Bスコープ画像をXY座標画像に座標変換し、STC処理を実行し、円形画像から方形画像のみ切り出し、波浪計測対象のレーダ画像とする。次に、前回スキャン及び今回スキャンの各分割画像について、それぞれ、前回スキャン及び今回スキャンの各スペクトルを生成する。次に、前回スキャン及び今回スキャンの各スペクトルを乗算し、前回スキャンと今回スキャンとの間の各クロススペクトルCSを生成する。
【0051】
そして、各クロススペクトルの各波数での位相CS
θ(k
x、k
y)を数式6により算出し、各クロススペクトルの各波数での振幅CS
p(k
x、k
y)を数式7により算出し、各クロススペクトルの各波数に対応する計測波速v
m(k
x、k
y)を数式8により算出し、各クロススペクトルの各波数に対応する理論波速v
t(k
x、k
y)を数式9により算出する。ここで、数式1の重力波の分散関係において、水深dが未知であることから、水深dに依存しないと仮定しているが、特に沖合ではこの仮定は正しいと考えられる。
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
【0052】
そして、計測波速v
m(k
x、k
y)と理論波速v
t(k
x、k
y)とがある程度は一致するときには、振幅CS
p(k
x、k
y)を信号成分S(k
x、k
y)に分類する。一方で、計測波速v
m(k
x、k
y)と理論波速v
t(k
x、k
y)とがある程度も一致しないときには、振幅CS
p(k
x、k
y)を雑音成分N(k
x、k
y)に分類する。さらに、各クロススペクトルの全波数にわたる信号対雑音比SNRを数式10により算出し、波高Hを数式11により算出する。ここで、a及びbは、有義波高の実測結果に基づく値である。
【数10】
【数11】
【0053】
このように、波数空間解析により実空間解析と比べて、波浪の波高Hを容易に計測することができる。そして、波浪の波高Hが高過ぎるかどうかに応じて、水深dの計測結果を補正することができ、水深dの計測結果を破棄することもできる。なお、波浪の波高Hを計測するにあたり、乗算後の各クロススペクトルを利用してもよいが、乗算前の各スペクトルを利用してもよい。また、乗算後の各クロススペクトル又は乗算前の各スペクトルを算出するにあたり、過去から現在に渡る複数個の乗算後の各クロススペクトル又は乗算前の各スペクトルを平均してもよい。
【0054】
次に、波浪計測部32が、各分割画像での「実空間解析」に基づいて、各分割画像での波浪の波数k、波長λ、波速v及び波高Hを計測する方法を説明する。
【0055】
波浪計測部32は、(1)レーダ反射強度が高い海面クラッタを、海面の波頭として観測し、(2)海面の波頭の間隔に基づいて、波浪の波数k又は波長λを計測し、(3)海面の波頭の位置の変化に基づいて、波浪の波速vを計測し、(4)海面クラッタのレーダ反射強度のコントラストに基づいて、波浪の波高Hを計測する(ステップS2)。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本開示の水深計測装置及び水深計測プログラムは、例えば、海洋の水深が浅い海域を特定することができ、船舶又は航空機が近づけない海域を特定することができる。
【符号の説明】
【0057】
S:水深計測システム
1:レーダ送信部
2:レーダ受信部
3:水深計測装置
4:レーダ映像表示部
31:画像分割部
32:波浪計測部
33:水深計測部