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特許7164432発光ディスプレイシステム及びヘッドアップディスプレイ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】発光ディスプレイシステム及びヘッドアップディスプレイ
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/01 20060101AFI20221025BHJP
   B60K 35/00 20060101ALI20221025BHJP
   G03B 21/14 20060101ALI20221025BHJP
   G03B 21/56 20060101ALI20221025BHJP
   G03B 21/62 20140101ALI20221025BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/00 A
G03B21/14 A
G03B21/56
G03B21/62
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018517659
(86)(22)【出願日】2018-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2018012418
(87)【国際公開番号】W WO2018181302
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-08-28
(31)【優先権主張番号】P 2017068921
(32)【優先日】2017-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】野原 敦
(72)【発明者】
【氏名】中島 大輔
(72)【発明者】
【氏名】太田 祐輔
【審査官】鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-069215(JP,A)
【文献】特開2008-058822(JP,A)
【文献】特開平11-038506(JP,A)
【文献】特開2015-196617(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0018558(US,A1)
【文献】特開平04-315138(JP,A)
【文献】特開2014-206630(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0316838(US,A1)
【文献】国際公開第2017/005436(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01
B60K 35/00
G03B 21/14
G03B 21/56
G03B 21/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と発光材料とを含有する発光樹脂フィルムと、前記発光材料の励起波長の光線を照射する光源を2台以上有し、
前記光源から照射される光線は、互いに、単一の発光材料を発光させる波長であり、
2台以上の前記光源から照射される光線が前記発光樹脂フィルム上少なくとも一部が互いに重複するように前記発光樹脂フィルムと2以上の前記光源とが配置されていることを特徴とする発光ディスプレイシステム(ただし、複数個の半導体レーザ素子から出射された複数本のレーザ光を一本のビームに合成するレーザ光合成手段を備えた発光ディスプレイシステムを除く。)
【請求項2】
発光樹脂フィルムは、他の樹脂フィルムを積層した多層樹脂フィルムとして配置されることを特徴とする請求項1記載の発光ディスプレイシステム。
【請求項3】
発光樹脂フィルムは、少なくとも1枚のガラス板により補強されていることを特徴とする請求項1又は2記載の発光ディスプレイシステム。
【請求項4】
発光樹脂フィルムは、一対のガラス板の間に積層された合わせガラスとして配置されることを特徴とする請求項1、2又は3記載の発光ディスプレイシステム。
【請求項5】
光源から照射される励起波長の光線の照射強度が200mW/cm以下であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の発光ディスプレイシステム。
【請求項6】
光源から照射される光線は、互いに離れた場所から、発光樹脂フィルムに照射されることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の発光ディスプレイシステム。
【請求項7】
下記式により求められる、少なくとも1組の光源の重複率が10%以上であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載の発光ディスプレイシステム。
重複率(%)=S /S ×100
ただし、2台以上の光源から照射される光線が重複している際に、前記発光樹脂フィルム上に照射される光線の面積が小さい方の光源の照射面積をS とし、該面積が小さい光源とは異なる他方の光源と重複している面積をS とする。光源2台を1組とする。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5又は7記載の発光ディスプレイシステムを用いたヘッドアップディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全かつ簡便に広い範囲に所定の輝度の情報を表示することができる発光ディスプレイシステム、及び、該発光ディスプレイシステムを用いたヘッドアップディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
合わせガラスは、外部衝撃を受けて破損してもガラスの破片が飛散することが少なく安全であるため、自動車等の車両のフロントガラス、サイドガラス、リアガラスや、航空機、建築物等の窓ガラス等として広く使用されている。合わせガラスとして、少なくとも一対のガラス間に、例えば、液状可塑剤とポリビニルアセタール樹脂とを含む合わせガラス用中間膜を介在させ、一体化させた合わせガラス等が挙げられる。
【0003】
近年、自動車用のフロントガラスと同じ視野内に自動車走行データである速度情報等の計器表示をヘッドアップディスプレイ(HUD)として表示させようとする要望が高まっている。
HUDとしては、これまでに数々の形態が開発されている。最も一般的なHUDとしてコントロールユニットから送信される速度情報等をインストゥルメンタル・パネルの表示ユニットからフロントガラスに反射させることにより、運転者がフロントガラスと同じ位置、すなわち、同一視野内で速度情報等を視認できるHUDがある。
HUD用の合わせガラス用中間膜として、例えば、特許文献1には、所定の楔角を有する楔形合わせガラス用中間膜等が提案されており、合わせガラスにおいて計器表示が二重に見えるというHUDの欠点を解決することが提案されている。
特許文献1に記載された合わせガラスは、合わせガラスの面内の一部の領域であれば、計器表示が二重に見えるというHUDの欠点を解決することができる。即ち、合わせガラスの面内の全面において、計器表示が二重に見えるという問題は解決されていない。
【0004】
これに対して、特許文献2において本願の出願人は、バインダー樹脂と、発光粒子、発光顔料及び発光染料からなる群より選択される少なくとも一種の発光材料とを含有する発光層を有する合わせガラス用中間膜を開示した。発光材料は、特定の波長の光を照射することにより発光する性質を有する。このような発光材料を配合した合わせガラス用中間膜に光線を照射することにより含有する発光粒子が発光して画像を表示することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表平4-502525号公報
【文献】特開2014-24312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、HUDにより表示したい情報量は拡大の一途を辿っており、より広い範囲、できればフロントガラスの全面において情報を表示する要望が高まっている。しかしながら、発光材料の発光輝度は、光源からの光の照射強度や、光源と表示箇所の間の距離に大きく依存する。広い範囲において情報を表示しようとすると、極めて高照射強度の光源を用いらざるを得ず、安全性の点で問題があった。一方、近距離から照射させようとしても、限られたスペースにおいて、広い範囲において情報を表示できるように光源を配置することも困難であった。
【0007】
本発明は、安全かつ簡便に広い範囲に所定の輝度の情報を表示することができる発光ディスプレイシステム、及び、該発光ディスプレイシステムを用いたヘッドアップディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、熱可塑性樹脂と発光材料とを含有する発光樹脂フィルムと、前記発光材料の励起波長の光線を照射する光源を2台以上有し、前記光源から照射される光線が前記発光樹脂フィルム上に少なくとも一部が重複するように前記発光樹脂フィルムと2以上の光源とが配置されている発光ディスプレイシステムである。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、安全かつ簡便に広い範囲に所定の輝度の情報を表示することができる発光ディスプレイシステムを検討した。その結果、光源を2台以上準備し、光源から照射される光線が発光樹脂フィルム上に少なくとも一部が重複するように配置することにより、実用上安全に使用できるレベルの照射強度の光源を用いても、広い範囲に所定の輝度の情報を表示することができることを見出した。また、発光樹脂フィルムから比較的離れた場所に各光源を配置しても、充分に広い範囲に所定の輝度の情報を表示できることから、限られたスペースでも光源を配置できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
図1に、本発明の発光ディスプレイシステムによる情報の表示方法を説明する模式図を示した。図1の発光ディスプレイシステムは、発光樹脂フィルム1と、2台の光源(光源2及び光源3)とからなる。光源2及び光源3から発光樹脂フィルム1に向けて、発光材料の励起波長の光線を照射することにより、発光樹脂フィルム1上に情報が表示される。
ここで光源2と光源3とは、照射される光線が発光樹脂フィルム1上に重複するように配置される。2台の光源から照射される光線が発光樹脂フィルム1上で重複することにより、たとえ個々の光源の照射強度が低くとも、広い範囲において高い輝度で情報を表示することができる。また、個々の光源は、比較的離れた場所に配置しても充分な効果を得られることから、光源配置の自由度も高い。1台の光源4のみを用いた図2の発光ディスプレイシステムと比べると、その効果の差は歴然である。
【0011】
2台以上の光源は、照射される光線が発光樹脂フィルム上に完全に重複するように配置されることが好ましいが、一部が重複するように配置されてもよい。一部が重複する場合には、重複部分において特に高い輝度で情報が表示されることから、該重複部分に特に重要な情報を表示するようにすることができる。
本明細書では、2台以上の光源から照射される光線の重複率を、以下のように定義する。2台以上の光源から照射される光線が重複している際に、発光樹脂フィルム上に照射される光線の面積が小さい方の光源の照射面積をSとし、該面積が小さい光源とは異なる他方の光源と重複している面積をSとした場合に、「重複率(%)=S/S×100」と定義する。3台以上の光源から光線が照射される場合には、2台を1組とし、組合せ毎に重複率を求めることが好ましい。
より一層安全かつ高い輝度で情報を表示できることから、少なくとも1組の光源の重複率が10%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、50%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが特に好ましく、100%であることが最も好ましい。更により一層安全かつ高い輝度で情報を表示できることから、全ての組の光源の重複率が10%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、50%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが特に好ましく、100%であることが最も好ましい。
【0012】
本発明の発光ディスプレイシステムは、熱可塑性樹脂と発光材料とを含有する発光樹脂フィルムを有する。励起波長の光線を照射することにより上記発光材料が発光して、上記発光樹脂フィルム上に情報を表示できる。即ち、上記発光樹脂フィルムは、情報を表示するためのスクリーンとしての役割を果たす。
【0013】
上記熱可塑性樹脂は特に限定されず、例えば、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン-アクリル共重合体樹脂、ポリウレタン樹脂、硫黄元素を含有するポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、アイオノマー樹脂等が挙げられる。なかでも、本発明の発光ディスプレイシステムをHUDとして用いる場合に、可塑剤と併用してガラスに対して優れた接着性を発揮することができることから、ポリビニルアセタール樹脂が好適である。
【0014】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂であれば特に限定されないが、ポリビニルブチラールが好適である。また、必要に応じて2種以上のポリビニルアセタール樹脂を併用してもよい。
上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度の好ましい下限は40モル%、好ましい上限は85モル%であり、より好ましい下限は60モル%、より好ましい上限は75モル%である。
【0015】
本発明の発光ディスプレイシステムをHUDとして用いる場合、上記ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基量の好ましい下限が15モル%、好ましい上限が35モル%である。水酸基量が15モル%以上であると、発光樹脂フィルム成形が容易になる。水酸基量が35モル%以下であると、得られる発光樹脂フィルムの取り扱いが容易になる。
なお、上記アセタール化度及び水酸基量は、例えば、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠して測定できる。
【0016】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化することにより調製することができる。上記ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルを鹸化することにより得られ、鹸化度70~99.8モル%のポリビニルアルコールが一般的に用いられる。
上記ポリビニルアルコールの重合度の好ましい下限は500、好ましい上限は4000である。上記ポリビニルアルコールの重合度が500以上であると、本発明の発光ディスプレイシステムをHUDとして用いて製造した合わせガラスの耐貫通性が高くなる。上記ポリビニルアルコールの重合度が4000以下であると、成形が容易になる。上記ポリビニルアルコールの重合度のより好ましい下限は1000、より好ましい上限は3600である。
【0017】
上記アルデヒドは特に限定されないが、一般には、炭素数が1~10のアルデヒドが好適に用いられる。上記炭素数が1~10のアルデヒドは特に限定されず、例えば、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n-バレルアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド、n-ノニルアルデヒド、n-デシルアルデヒド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。なかでも、n-ブチルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、n-バレルアルデヒドが好ましく、n-ブチルアルデヒドがより好ましい。これらのアルデヒドは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
上記発光材料としては、具体的には例えば、高い発光性を発揮できることから、ハロゲン原子を含む配位子を有するランタノイド錯体が挙げられる。
ランタノイド錯体のなかでも、ハロゲン原子を含む配位子を有するランタノイド錯体は光線を照射することにより高い発光強度で発光する。上記ハロゲン原子を含む配位子を有するランタノイド錯体としては、ハロゲン原子を含む単座配位子を有するランタノイド錯体や、ハロゲン原子を含む二座配位子を有するランタノイド錯体、ハロゲン原子を含む三座配位子を有するランタノイド錯体、ハロゲン原子を含む四座配位子を有するランタノイド錯体、ハロゲン原子を含む五座配位子を有するランタノイド錯体、ハロゲン原子を含む六座配位子を有するランタノイド錯体等のハロゲン原子を含む多座配位子を有するランタノイド錯体が挙げられる。
【0019】
なかでも、ハロゲン原子を含む二座配位子を有するランタノイド錯体又はハロゲン原子を含む三座配位子を有するランタノイド錯体は、300~410nmの波長の光を照射することにより、580~780nmの波長の光を極めて高い発光強度で発光する。この発光は極めて高強度であることから、これを含有する発光樹脂フィルムを有する発光ディスプレイシステムは、出力が低強度の光線を照射したときでも、比較的高輝度で発光することができる。
しかも、上記ハロゲン原子を含む二座配位子を有するランタノイド錯体又はハロゲン原子を含む三座配位子を有するランタノイド錯体は、耐熱性にも優れる。発光ディスプレイシステムをHUDとして自動車ルーフ用ガラスや建築物用窓ガラスに用いた場合、太陽光の赤外線が照射されることにより、高温環境下で使用されることが多い。このような高温環境下では発光材料が劣化して、特に合わせガラスの端部において発光材料が劣化してしまうことがある。発光材料として上記ハロゲン原子を含む二座配位子を有するランタノイド錯体又はハロゲン原子を含む三座配位子を有するランタノイド錯体を用いることにより、高温環境下においても劣化を防止することができる。
【0020】
本明細書においてランタノイドとは、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム又はルテチウムを含む。より一層高い発光強度が得られることから、ランタノイドは、ネオジム、ユーロピウム又はテルビウムが好ましく、ユーロピウム又はテルビウムがより好ましく、ユーロピウムが更に好ましい。
【0021】
上記ハロゲン原子を含む二座配位子としては、例えば、下記一般式(1)で表される構造を有する配位子、下記一般式(2)で表される構造を有する配位子などが挙げられる。
【0022】
【化1】
【0023】
上記一般式(1)において、R及びRは有機基を表し、R及びRの少なくとも一方はハロゲン原子を含む有機基であり、Rは、炭素数1以上の直鎖状の有機基を表す。上記R及びRは炭化水素基であることが好ましく、炭素数が1~10の炭化水素基であることがより好ましく、炭素数が1~5の炭化水素基であることが更に好ましく、炭素数が1~3の炭化水素基であることが特に好ましい。上記炭化水素基は水素原子の一部が、水素原子以外の原子及び官能基と置換されていても良い。上記炭素数が1~3の炭化水素基としては、水素原子が置換されていないメチル基、エチル基、プロピル基や、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されたメチル基、エチル基、プロピル基などが挙げられる。上記水素原子の一部がハロゲン原子で置換されたメチル基、エチル基、プロピル基のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を用いることができる。上記炭素数が1~3の炭化水素基としては、高い発光強度で発光することから、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されたメチル基、エチル基、プロピル基であることが好ましく、トリフルオロメチル基であることがより好ましい。
上記Rは、炭素数1以上のアルキレン基であることが好ましく、炭素数1~5のアルキレン基であることがより好ましく、炭素数1のメチレン基であることが最も好ましい。上記炭素数1以上のアルキレン基は水素原子の一部が、水素原子以外の原子及び官能基と置換されていても良い。
【0024】
上記ハロゲン原子を含む配位子を有するランタノイド錯体は、ハロゲン原子を含む配位子を少なくとも1つ有すればよく、ハロゲン原子を含まない配位子を有していても良い。上記ハロゲン原子を含まない配位子としては、ハロゲン原子を含まないこと以外は上記一般式(1)と同一である配位子、下記一般式(2)~(8)で表される構造を有する配位子などが挙げられる。下記一般式(2)~(8)で表される構造を有する配位子は、一部または全ての水素原子が、-COOR、-SO、-NO、-OH、アルキル基、-NH などに置換されていてもよい。
【0025】
【化2】
【0026】
なお、上記式(2)において、2つのNはビピリジン骨格のどこにあってもよい。例えば、ビピリジン骨格の2,2’位、3,3’位、4,4’位、2,3’位、2,4’位、3,4’位に2つのNがあることが挙げられる。なかでも、2,2’位に2つのNがあることが好ましい。
【0027】
【化3】
【0028】
なお、上記式(3)において、2つのNはビピリジン骨格のどこにあってもよい。なかでも、1,10位に2つのNがあることが好ましい。
【0029】
【化4】
【0030】
なお、上記式(4)において、2つのNはビピリジン骨格のどこにあってもよい。なかでも、1,10位に2つのNがあることが好ましい。
【0031】
【化5】
【0032】
なお、上記式(5)において、3つのNはターピリジン骨格のどこにあってもよい。
【0033】
【化6】
【0034】
上記式(6)において、中央のRは、炭素数1以上の直鎖状の有機基を表す。
【0035】
【化7】
【0036】
上記式(7)において、2つのRは、炭素数1以上の直鎖状の有機基を表す。
【0037】
【化8】
【0038】
上記式(8)において、nは、1又は2の整数を表す。
【0039】
上記ハロゲン原子を含む二座配位子を有するランタノイド錯体は、例えば、トリス(トリフルオロアセチルアセトン)フェナントロリンユーロピウム(Eu(TFA)phen)、トリス(トリフルオロアセチルアセトン)ジフェニルフェナントロリンユーロピウム(Eu(TFA)dpphen)、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトン)ジフェニルフェナントロリンユーロピウム、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトン)ビス(トリフェニルホスフィン)ユーロピウム、トリス(トリフルオロアセチルアセトン)2,2’-ビピリジンユーロピウム、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトン)2,2’-ビピリジンユーロピウム、トリス(5,5,6,6,7,7,7-ヘプタフルオロ-2,4-ペンタンジオネート)2,2’-ビピリジンユーロピウム([Eu(FPD)]bpy)、トリス(トリフルオロアセチルアセトン)3,4,7,8-テトラメチル-1,10フェナントロリンユーロピウム([Eu(TFA)]tmphen)、トリス(5,5,6,6,7,7,7-ヘプタフルオロ-2,4-ペンタンジオネート)フェナントロリンユーロピウム([Eu(FPD)]phen)、ターピリジントリフルオロアセチルアセトンユーロピウム、ターピリジンヘキサフルオロアセチルアセトンユーロピウム等が挙げられる。
【0040】
上記ハロゲン原子を含む二座配位子を有するランタノイド錯体は、他にも例えば、トリス(トリフルオロアセチルアセトン)フェナントロリンテルビウム(Tb(TFA)phen)、トリス(トリフルオロアセチルアセトン)ジフェニルフェナントロリンテルビウム(Tb(TFA)dpphen)、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトン)ジフェニルフェナントロリンテルビウム、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトン)ビス(トリフェニルホスフィン)テルビウム、トリス(トリフルオロアセチルアセトン)2,2’-ビピリジンテルビウム、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトン)2,2’-ビピリジンテルビウム、トリス(5,5,6,6,7,7,7-ヘプタフルオロ-2,4-ペンタンジオネート)2,2’-ビピリジンテルビウム([Tb(FPD)]bpy)、トリス(トリフルオロアセチルアセトン)3,4,7,8-テトラメチル-1,10フェナントロリンテルビウム([Tb(TFA)]tmphen)、トリス(5,5,6,6,7,7,7-ヘプタフルオロ-2,4-ペンタンジオネート)フェナントロリンテルビウム([Tb(FPD)]phen)、ターピリジントリフルオロアセチルアセトンテルビウム、ターピリジンヘキサフルオロアセチルアセトンテルビウム等が挙げられる。
【0041】
上記ハロゲン原子を含む配位子を有するランタノイド錯体のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を用いることができる。なかでも、配位子の構造を安定化させることから、フッ素原子が好適である。
【0042】
上記ハロゲン原子を含む二座配位子を有するランタノイド錯体又はハロゲン原子を含む三座配位子を有するランタノイド錯体のなかでも、特に初期発光性に優れることから、ハロゲン原子を含むアセチルアセトン骨格を有する二座配位子を有するランタノイド錯体が好適である。
上記ハロゲン原子を含むアセチルアセトン骨格を有する二座配位子を有するランタノイド錯体は、例えば、Eu(TFA)phen、Eu(TFA)dpphen、Eu(HFA)phen、[Eu(FPD)]bpy、[Eu(TFA)]tmphen、[Eu(FPD)]phen等が挙げられる。これらのハロゲン原子を含むアセチルアセトン骨格を有する二座配位子を有するランタノイド錯体の構造を示す。
【0043】
【化9】
【0044】
上記ハロゲン原子を含むアセチルアセトン骨格を有する二座配位子を有するランタノイド錯体は、他にも例えば、Tb(TFA)phen、Tb(TFA)dpphen、Tb(HFA)phen、[Tb(FPD)]bpy、[Tb(TFA)]tmphen、[Tb(FPD)]phen等が挙げられる。
【0045】
上記ハロゲン原子を含む配位子を有するランタノイド錯体は、粒子状であることが好ましい。粒子状であることにより、上記ハロゲン原子を含む配位子を有するランタノイド錯体を熱可塑性樹脂中に微分散させることがより容易となる。
上記ハロゲン原子を含む配位子を有するランタノイド錯体が粒子状である場合、ランタノイド錯体の平均粒子径の好ましい下限は0.01μm、好ましい上限は10μmであり、より好ましい下限は0.03μm、より好ましい上限は1μmである。
【0046】
上記発光材料としては、テレフタル酸エステル構造を有する発光材料も用いることができる。上記テレフタル酸エステル構造を有する発光材料は、光線が照射されることにより発光する。
【0047】
上記テレフタル酸エステル構造を有する発光材料は、例えば、下記一般式(9)で表される構造を有する化合物や下記一般式(10)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0048】
【化10】
【0049】
上記一般式(9)中、Rは有機基を表し、xは1、2、3又は4である。
発光ディスプレイの透明性がより一層高くなることから、xは1又は2であることが好ましく、ベンゼン環の2位又は5位に水酸基を有することがより好ましく、ベンゼン環の2位及び5位に水酸基を有することが更に好ましい。
上記Rの有機基は炭化水素基であることが好ましく、炭素数が1~10の炭化水素基であることがより好ましく、炭素数が1~5の炭化水素基であることが更に好ましく、炭素数が1~3の炭化水素基であることが特に好ましい。
上記炭化水素基の炭素数が10以下であると、上記テレフタル酸エステル構造を有する発光材料を熱可塑性樹脂中に容易に分散させることができる。
上記炭化水素基はアルキル基であることが好ましい。
【0050】
上記一般式(9)で表される構造を有する化合物として、例えば、ジエチル-2,5-ジヒドロキシテレフタレート、ジメチル-2,5-ジヒドロキシテレフタレート等が挙げられる。なかでも、より一層高い輝度で画像を表示できることから、上記一般式(9)で表される構造を有する化合物はジエチル-2,5-ジヒドロキシルテレフタレート(Aldrich社製「2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル」)であることが好ましい。
【0051】
上記一般式(10)中、Rは有機基を表し、R及びRは水素原子又は有機基を表し、yは1、2、3又は4である。
上記Rの有機基は炭化水素基であることが好ましく、炭素数が1~10の炭化水素基であることがより好ましく、炭素数が1~5の炭化水素基であることが更に好ましく、炭素数が1~3の炭化水素基であることが特に好ましい。
上記炭化水素基の炭素数が上記上限以下であると、上記テレフタル酸エステル構造を有する発光材料を熱可塑性樹脂中に容易に分散させることができる。
上記炭化水素基はアルキル基であることが好ましい。
上記一般式(10)中、NRはアミノ基である。R及びRは、水素原子であることが好ましい。
上記一般式(10)で表される構造を有する化合物のベンゼン環の水素原子のうち、一つの水素原子が上記アミノ基であってもよく、二つの水素原子が上記アミノ基であってもよく、三つの水素原子が上記アミノ基であってもよく、四つの水素原子が上記アミノ基であってもよい。
【0052】
上記一般式(10)で表される構造を有する化合物として、一層高い輝度で画像を表示できることから、ジエチル-2,5-ジアミノテレフタレート(Aldrich社製)が好ましい。
【0053】
上記発光樹脂フィルム中の上記発光材料の含有量は、上記熱可塑性樹脂100重量部に対する好ましい下限が0.001重量部、好ましい上限が15重量部である。上記発光材料の含有量が0.001重量部以上であると、より一層高い輝度で画像を表示することができる。上記発光材料の含有量が15重量部以下であると、発光ディスプレイの透明性がより一層高くなる。上記発光材料の含有量のより好ましい下限は0.01重量部、より好ましい上限は10重量部、更に好ましい下限は0.05重量部、更に好ましい上限は8重量部、特に好ましい下限は0.1重量部、特に好ましい上限は5重量部、最も好ましい上限は1重量部である。
【0054】
上記発光樹脂フィルムは、更に分散剤を含有することが好ましい。分散剤を含有することにより、上記発光材料の凝集を抑制でき、より均一な発光が得られる。
上記分散剤は、例えば、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩等のスルホン酸構造を有する化合物や、ジエステル化合物、リシノール酸アルキルエステル、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、セバシン酸エステル、リン酸エステル等のエステル構造を有する化合物や、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコールやアルキルフェニル-ポリオキシエチレン-エーテル等のエーテル構造を有する化合物や、ポリカルボン酸等のカルボン酸構造を有する化合物や、ラウリルアミン、ジメチルラウリルアミン、オレイルプロピレンジアミン、ポリオキシエチレンの2級アミン、ポリオキシエチレンの3級アミン、ポリオキシエチレンのジアミン等のアミン構造を有する化合物や、ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド等のポリアミン構造を有する化合物や、オレイン酸ジエタノールアミド、アルカノール脂肪酸アミド等のアミド構造を有する化合物や、ポリビニルピロリドン、ポリエステル酸アマイドアミン塩等の高分子量型アミド構造を有する化合物等の分散剤を用いることができる。また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸(塩)や高分子ポリカルボン酸、縮合リシノール酸エステル等の高分子量分散剤を用いてもよい。なお、高分子量分散剤とは、その分子量が1万以上である分散剤と定義される。
【0055】
上記分散剤を配合する場合に、上記発光樹脂フィルム中における上記発光材料に対する上記分散剤の含有量の好ましい下限は1重量部、好ましい上限は50重量部である。上記分散剤の含有量がこの範囲内であると、上記発光材料を熱可塑性樹脂中に均一に分散させることができる。上記分散剤の含有量のより好ましい下限は3重量部、より好ましい上限は30重量部であり、更に好ましい下限は5重量部、更に好ましい上限は25重量部である。
【0056】
上記発光樹脂フィルムは、更に、紫外線吸収剤を含有してもよい。上記発光樹脂フィルムが紫外線吸収剤を含有することにより、発光ディスプレイの耐光性が高くなる。
より一層高い輝度で画像を表示できることから、上記発光樹脂フィルム中における上記紫外線吸収剤の含有量は、上記熱可塑性樹脂100重量部に対する好ましい上限は1重量部、より好ましい上限は0.5重量部、更に好ましい上限は0.2重量部、特に好ましい上限は0.1重量部である。
【0057】
上記紫外線吸収剤は、例えば、マロン酸エステル構造を有する化合物、シュウ酸アニリド構造を有する化合物、ベンゾトリアゾール構造を有する化合物、ベンゾフェノン構造を有する化合物、トリアジン構造を有する化合物、ベンゾエート構造を有する化合物、ヒンダードアミン構造を有する化合物等の紫外線吸収剤が挙げられる。
【0058】
上記発光樹脂フィルムは、更に、可塑剤を含有してもよい。
上記可塑剤は特に限定されず、例えば、一塩基性有機酸エステル、多塩基性有機酸エステル等の有機エステル可塑剤、有機リン酸可塑剤、有機亜リン酸可塑剤等のリン酸可塑剤等が挙げられる。上記可塑剤は液状可塑剤であることが好ましい。
【0059】
上記一塩基性有機酸エステルは特に限定されないが、例えば、グリコールと一塩基性有機酸との反応によって得られたグリコールエステル等が挙げられる。上記グリコールとしては、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。上記一塩基有機酸としては、例えば、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2-エチル酪酸、ヘプチル酸、n-オクチル酸、2-エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n-ノニル酸)、デシル酸等が挙げられる。なかでも、トリエチレングリコールジカプロン酸エステル、トリエチレングリコールジ-2-エチル酪酸エステル、トリエチレングリコールジ-n-オクチル酸エステル、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキシル酸エステル等が好適である。
【0060】
上記多塩基性有機酸エステルは特に限定されないが、例えば、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の多塩基性有機酸と、炭素数4~8の直鎖又は分岐構造を有するアルコールとのエステル化合物が挙げられる。なかでも、ジブチルセバシン酸エステル、ジオクチルアゼライン酸エステル、ジブチルカルビトールアジピン酸エステル等が好適である。
【0061】
上記有機エステル可塑剤は特に限定されず、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジカプリレート、トリエチレングリコールジ-n-オクタノエート、トリエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、ジブチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジブチルカルビトールアジペート、エチレングリコールジ-2-エチルブチレート、1,3-プロピレングリコールジ-2-エチルブチレート、1,4-ブチレングリコールジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、ジプロピレングリコールジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコールジ-2-エチルペンタノエート、テトラエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコールジカプリエート、アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ヘキシルシクロヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ヘプチルノニル、セバシン酸ジブチル、油変性セバシン酸アルキド、リン酸エステルとアジピン酸エステルとの混合物、アジピン酸エステル、炭素数4~9のアルキルアルコール及び炭素数4~9の環状アルコールから作製された混合型アジピン酸エステル、アジピン酸ヘキシル等の炭素数6~8のアジピン酸エステル等が挙げられる。
【0062】
上記有機リン酸可塑剤は特に限定されず、例えば、トリブトキシエチルホスフェート、イソデシルフェニルホスフェート、トリイソプロピルホスフェート等が挙げられる。
【0063】
上記可塑剤のなかでも、ジヘキシルアジペート(DHA)、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)、テトラエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(4GO)、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート(3GH)、テトラエチレングリコールジ-2-エチルブチレート(4GH)、テトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート(4G7)及びトリエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート(3G7)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0064】
更に、上記可塑剤として、加水分解を起こしにくいため、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート(3GH)、テトラエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(4GO)、ジヘキシルアジペート(DHA)を含有することが好ましい。テトラエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(4GO)、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)を含有することがより好ましい。トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)を含有することが更に好ましい。
【0065】
上記発光樹脂フィルムにおける上記可塑剤の含有量は特に限定されないが、上記熱可塑性樹脂100重量部に対する好ましい下限が30重量部、好ましい上限が100重量部である。上記可塑剤の含有量が30重量部以上であると、発光樹脂フィルムの溶融粘度が低くなるため、容易に成形できる。上記可塑剤の含有量が100重量部以下であると、発光樹脂フィルムの透明性が高くなる。上記可塑剤の含有量のより好ましい下限は35重量部、より好ましい上限は80重量部、更に好ましい下限は45重量部、更に好ましい上限は70重量部、特に好ましい下限は50重量部、特に好ましい上限は63重量部である。
【0066】
上記発光樹脂フィルムは、優れた耐光性を得ることができることから、酸化防止剤を含有することが好ましい。
上記酸化防止剤は特に限定されず、フェノール構造を有する酸化防止剤、硫黄を含む酸化防止剤、リンを含む酸化防止剤等が挙げられる。
上記フェノール構造を有する酸化防止剤はフェノール骨格を有する酸化防止剤である。上記フェノール構造を有する酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’-メチレンビス-(4-メチル-6-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス-(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデン-ビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、1,1,3-トリス-(2-メチル-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,3-トリス-(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェノール)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス(3,3’-t-ブチルフェノール)ブチリックアシッドグリコールエステル、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]等が挙げられる。上記酸化防止剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0067】
上記発光樹脂フィルムは、ガラスに対する接着力を調整するために接着力調整剤を含有してもよい。
上記接着力調整剤としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びマグネシウム塩からなる群より選択される少なくとも1種が好適に用いられる。上記接着力調整剤として、例えば、カリウム、ナトリウム、マグネシウム等の塩が挙げられる。
上記塩を構成する酸としては、例えば、オクチル酸、ヘキシル酸、2-エチル酪酸、酪酸、酢酸、蟻酸等のカルボン酸の有機酸、又は、塩酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。
【0068】
上記発光樹脂フィルムは、必要に応じて、光安定剤、帯電防止剤、青色顔料、青色染料、緑色顔料、緑色染料等の添加剤を含有してもよい。
【0069】
上記発光樹脂フィルムの厚みは特に限定されないが、好ましい下限は100μm、好ましい上限は2000μmである。上記発光樹脂フィルムの厚みがこの範囲内であると、高い輝度で情報を表示することができる。上記発光樹脂フィルムの厚みのより好ましい下限は300μm、更に好ましい下限は740μm、特に好ましい下限は760μmである、より好ましい上限は1600μm、更に好ましい上限は1400μm、特に好ましい上限は880μmである。
【0070】
上記発光樹脂フィルムは、単層でも用いてもよいし、他の樹脂フィルムを積層した多層樹脂フィルム(以下、単に「多層樹脂フィルム」ともいう。)として用いてもよい。
上記発光樹脂フィルムを多層樹脂フィルムとして用いる場合、上記発光樹脂フィルムは多層樹脂フィルムの全面に配置されていてもよく、一部にのみ配置されていてもよく、多層樹脂フィルムの厚み方向とは垂直の面方向の全面に配置されていてもよく、一部にのみ配置されていてもよい。上記発光樹脂フィルムが一部にのみ配置されている場合には、該一部を発光エリア、他の部分を非発光エリアとして、発光エリアにおいてのみ情報を表示できるようにすることができる。
【0071】
上記発光樹脂フィルムを多層樹脂フィルムとして用いる場合、上記発光樹脂フィルム及び他の樹脂フィルムの構成成分を調整することにより、得られる多層樹脂フィルムに種々の機能を付与することも可能である。
例えば、上記多層樹脂フィルムに遮音性能を付与するために、上記発光樹脂フィルムにおける熱可塑性樹脂100重量部に対する可塑剤の含有量(以下、含有量Xともいう。)を、他の樹脂フィルムにおける熱可塑性樹脂100重量部に対する可塑剤の含有量(以下、含有量Yともいう。)よりも多くすることができる。この場合、上記含有量Xは上記含有量Yよりも5重量部以上多いことが好ましく、10重量部以上多いことがより好ましく、15重量部以上多いことが更に好ましい。上記多層樹脂フィルムの耐貫通性がより一層高くなることから、上記含有量Xと上記含有量Yとの差は、50重量部以下であることが好ましく、40重量部以下であることがより好ましく、35重量部以下であることが更に好ましい。なお、上記含有量Xと上記含有量Yとの差は、(上記含有量Xと上記含有量Yとの差)=(上記含有量X-上記含有量Y)により算出される。
【0072】
上記含有量Xの好ましい下限は45重量部、好ましい上限は80重量部であり、より好ましい下限は50重量部、より好ましい上限は75重量部であり、更に好ましい下限は55重量部、更に好ましい上限は70重量部である。上記含有量Xを上記好ましい下限以上とすることにより、高い遮音性を発揮することができる。上記含有量Xを上記好ましい上限以下とすることにより、可塑剤のブリードアウトの発生を抑止し、上記多層樹脂フィルムの透明性や接着性の低下を防止することができる。
上記含有量Yの好ましい下限は20重量部、好ましい上限は45重量部であり、より好ましい下限は30重量部、より好ましい上限は43重量部であり、更に好ましい下限は35重量部、更に好ましい上限は41重量部である。上記含有量Yを上記好ましい下限以上とすることにより、高い耐貫通性を発揮することができる。上記含有量Yを上記好ましい上限以下とすることにより、可塑剤のブリードアウトの発生を抑止し、上記多層樹脂フィルムの透明性や接着性の低下を防止することができる。
【0073】
また、上記多層樹脂フィルムに遮音性を付与するためには、上記発光樹脂フィルムにおける熱可塑性樹脂は、ポリビニルアセタールXであることが好ましい。上記ポリビニルアセタールXは、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することにより調製することができる。上記ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られる。上記ポリビニルアルコールの平均重合度の好ましい下限は200、好ましい上限5000である。上記ポリビニルアルコールの平均重合度を200以上とすることにより、得られる多層樹脂フィルムの耐貫通性を向上させることができ、5000以下とすることにより、発光樹脂フィルムの成形性を確保することができる。上記ポリビニルアルコールの平均重合度のより好ましい下限は500、より好ましい上限は4000である。なお、上記ポリビニルアルコールの平均重合度は、JIS K6726「ポリビニルアルコール試験方法」に準拠した方法により求められる。
【0074】
上記ポリビニルアルコールをアセタール化するためのアルデヒドの炭素数の好ましい下限は4、好ましい上限は6である。アルデヒドの炭素数を4以上とすることにより、充分な量の可塑剤を安定して含有させることができ、優れた遮音性能を発揮することができる。また、可塑剤のブリードアウトを防止することができる。アルデヒドの炭素数を6以下とすることにより、ポリビニルアセタールXの合成を容易にし、生産性を確保できる。上記炭素数が4~6のアルデヒドとしては、直鎖状のアルデヒドであってもよいし、分枝状のアルデヒドであってもよく、例えば、n-ブチルアルデヒド、n-バレルアルデヒド等が挙げられる。
【0075】
上記ポリビニルアセタールXの水酸基量の好ましい上限は30モル%である。上記ポリビニルアセタールXの水酸基量を30モル%以下とすることにより、遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることができ、可塑剤のブリードアウトを防止することができる。上記ポリビニルアセタールXの水酸基量のより好ましい上限は28モル%、更に好ましい上限は26モル%、特に好ましい上限は24モル%であり、好ましい下限は10モル%、より好ましい下限は15モル%、更に好ましい下限は20モル%である。
上記ポリビニルアセタールXの水酸基量は、水酸基が結合しているエチレン基量を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。上記水酸基が結合しているエチレン基量は、例えば、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により、上記ポリビニルアセタールXの水酸基が結合しているエチレン基量を測定することにより求めることができる。
【0076】
上記ポリビニルアセタールXのアセタール基量の好ましい下限は60モル%、好ましい上限は85モル%である。上記ポリビニルアセタールXのアセタール基量を60モル%以上とすることにより、発光樹脂フィルムの疎水性を高くして、遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることができ、可塑剤のブリードアウトや白化を防止することができる。上記ポリビニルアセタールXのアセタール基量を85モル%以下とすることにより、ポリビニルアセタールXの合成を容易にし、生産性を確保することができる。上記ポリビニルアセタールXのアセタール基量の下限は65モル%がより好ましく、68モル%以上が更に好ましい。
上記アセタール基量は、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により、上記ポリビニルアセタールXのアセタール基が結合しているエチレン基量を測定することにより求めることができる。
【0077】
上記ポリビニルアセタールXのアセチル基量の好ましい下限は0.1モル%、好ましい上限は30モル%である。上記ポリビニルアセタールXのアセチル基量を0.1モル%以上とすることにより、遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることができ、ブリードアウトを防止することができる。また、上記ポリビニルアセタールXのアセチル基量を30モル%以下とすることにより、発光樹脂フィルムの疎水性を高くして、白化を防止することができる。上記ポリビニルアセタールXのアセチル基量のより好ましい下限は1モル%、更に好ましい下限は5モル%、特に好ましい下限は8モル%であり、より好ましい上限は25モル%、更に好ましい上限は20モル%である。
上記アセチル基量は、主鎖の全エチレン基量から、アセタール基が結合しているエチレン基量と、水酸基が結合しているエチレン基量とを差し引いた値を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。
【0078】
特に、上記発光樹脂フィルムに遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を容易に含有させることができることから、上記ポリビニルアセタールXは、上記アセチル基量が8モル%以上のポリビニルアセタール、又は、上記アセチル基量が8モル%未満、かつ、アセタール基量が65モル%以上のポリビニルアセタールであることが好ましい。また、上記ポリビニルアセタールXは、上記アセチル基量が8モル%以上のポリビニルアセタール、又は、上記アセチル基量が8モル%未満、かつ、アセタール基量が68モル%以上のポリビニルアセタールであることが、より好ましい。
【0079】
また、上記多層樹脂フィルムに遮音性を付与するためには、上記他の樹脂フィルムにおける熱可塑性樹脂は、ポリビニルアセタールYであることが好ましい。ポリビニルアセタールYは、ポリビニルアセタールXより水酸基量が大きいことが好ましい。
【0080】
上記ポリビニルアセタールYは、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することにより調製することができる。上記ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られる。また、上記ポリビニルアルコールの平均重合度の好ましい下限は200、好ましい上限は5000である。上記ポリビニルアルコールの平均重合度を200以上とすることにより、多層樹脂フィルムの耐貫通性を向上させることができ、5000以下とすることにより、他の樹脂フィルムの成形性を確保することができる。上記ポリビニルアルコールの平均重合度のより好ましい下限は500、より好ましい上限は4000である。
【0081】
上記ポリビニルアルコールをアセタール化するためのアルデヒドの炭素数の好ましい下限は3、好ましい上限は4である。アルデヒドの炭素数を3以上とすることにより、上記多層樹脂フィルムの耐貫通性が高くなる。アルデヒドの炭素数を4以下とすることにより、ポリビニルアセタールYの生産性が向上する。上記炭素数が3~4のアルデヒドとしては、直鎖状のアルデヒドであってもよいし、分枝状のアルデヒドであってもよく、例えば、n-ブチルアルデヒド等が挙げられる。
【0082】
上記ポリビニルアセタールYの水酸基量の好ましい上限は33モル%、好ましい下限は28モル%である。上記ポリビニルアセタールYの水酸基量を33モル%以下とすることにより、多層樹脂フィルムの白化を防止することができる。上記ポリビニルアセタールYの水酸基量を28モル%以上とすることにより、上記多層樹脂フィルムの耐貫通性が高くなる。
【0083】
上記ポリビニルアセタールYのアセタール基量の好ましい下限は60モル%、好ましい上限は80モル%である。上記アセタール基量を60モル%以上とすることにより、充分な耐貫通性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることができる。上記アセタール基量を80モル%以下とすることにより、上記他の樹脂フィルムとガラスとの接着力を確保することができる。上記ポリビニルアセタールYのアセタール基量のより好ましい下限は65モル%、より好ましい上限は69モル%である。
【0084】
上記ポリビニルアセタールYのアセチル基量の好ましい上限は7モル%である。上記ポリビニルアセタールYのアセチル基量を7モル%以下とすることにより、他の樹脂フィルムの疎水性を高くして、白化を防止することができる。上記ポリビニルアセタールYのアセチル基量のより好ましい上限は2モル%であり、好ましい下限は0.1モル%である。
なお、ポリビニルアセタールYの水酸基量、アセタール基量、及び、アセチル基量は、ポリビニルアセタールXと同様の方法で測定できる。
【0085】
また、例えば、上記多層樹脂フィルムに遮熱性能を付与するために、上記発光樹脂フィルム及び他の樹脂フィルムのいずれか1層、いずれか2層、又は、すべての層に熱線吸収剤を含有させることができる。
上記熱線吸収剤は、赤外線を遮蔽する性能を有すれば特に限定されないが、錫ドープ酸化インジウム(ITO)粒子、アンチモンドープ酸化錫(ATO)粒子、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)粒子、インジウムドープ酸化亜鉛(IZO)粒子、錫ドープ酸化亜鉛粒子、珪素ドープ酸化亜鉛粒子、6ホウ化ランタン粒子及び6ホウ化セリウム粒子からなる群より選択される少なくとも1種が好適である。
【0086】
上記多層樹脂フィルムの厚さは特に限定されないが、好ましい下限は50μm、好ましい上限は1700μmであり、より好ましい下限は100μm、より好ましい上限は1000μm、更に好ましい上限は900μmである。なお、上記多層樹脂フィルムの厚みの下限は、上記多層樹脂フィルムの最小厚さの部分の厚みを意味し、上記多層樹脂フィルムの厚みの上限は、上記多層樹脂フィルムの最大厚さの部分の厚みを意味する。
上記多層樹脂フィルムにおける上記発光樹脂フィルムの厚さは特に限定されないが、好ましい下限は50μm、好ましい上限は1000μmである。上記発光樹脂フィルムの厚さがこの範囲内であると、特定の波長の光線を照射したときに充分にコントラストの高い発光が得られる。上記多層樹脂フィルムの厚さのより好ましい下限は80μm、より好ましい上限は500μm、更に好ましい下限は90μm、更に好ましい上限は300μmである。
【0087】
上記発光樹脂フィルムや上記多層樹脂フィルムは、断面形状が楔形であってもよい。断面形状が楔形であることで、例えばHUDとして用いたときに、二重像の発生を防止することができる。二重像を生じにくくする観点からは、楔形の楔角θの上限は1mradであることが好ましい。なお、例えば押出機を用いて樹脂組成物を押出し成形する方法により断面形状が楔形のフィルムを製造した場合、薄い側の一方の端部からわずかに内側の領域(具体的には、一端と他端との間の距離をXとしたときに、薄い側の一端から内側に向かって0X~0.2Xの距離の領域)に最小厚みを有する形状となることがある。また、厚い側の一方の端部からわずかに内側の領域(具体的には、一端と他端との間の距離をXとしたときに、厚い側の一端から内側に向かって0X~0.2Xの距離の領域)に最大厚みを有する形状となることがある。本明細書においては、このような形状も楔形に含まれる。
【0088】
上記多層樹脂フィルムの断面形状が楔形である場合、上記発光樹脂フィルムの厚みを一定範囲とする一方、上記他の樹脂フィルムを形状補助層として積層することにより、多層樹脂フィルム全体としての断面形状が一定の楔角である楔形となるように調整することができる。或いは、上記発光樹脂フィルム及び上記他の樹脂フィルムの少なくとも一方を楔形とすることで、多層樹脂フィルム全体としての断面形状が一定の楔角である楔形となるように調整することができる。上記他の樹脂フィルムは、上記発光樹脂フィルムの一方の面にのみ積層されていてもよく、両方の面に積層されていてもよい。更に、複数の他の樹脂フィルムを積層してもよい。
【0089】
上記発光樹脂フィルムは、断面形状が楔形であってもよく、矩形であってもよい。上記発光樹脂フィルムの最大厚さと最小厚さの差は100μm以下であることが好ましい。これにより、光線を照射したときに表示される情報の輝度に大きな差異が生じることを抑制することができる。上記発光樹脂フィルムの最大厚さと最小厚さの差は95μm以下であることがより好ましく、90μm以下であることが更に好ましい。
【0090】
上記発光樹脂フィルムや上記多層樹脂フィルムの断面形状が楔形である場合、上記発光樹脂フィルムの厚みは特に限定されないが、好ましい下限は50μm、好ましい上限は700μmである。上記発光樹脂フィルムの厚みがこの範囲内であると、均一な情報を表示できる。上記発光樹脂フィルムの厚みのより好ましい下限は70μm、より好ましい上限は400μmであり、更に好ましい下限は80μm、更に好ましい上限は150μmである。なお、上記発光樹脂フィルムの厚みの下限は、発光樹脂フィルムの最小厚さの部分の厚みを意味し、上記発光樹脂フィルムの厚みの上限は、発光樹脂フィルムの最大厚さの部分の厚みを意味する。
【0091】
上記他の樹脂フィルムは、上記発光樹脂フィルムに積層して、多層樹脂フィルム全体としての断面形状が一定の楔角である楔形となるように調整する役割を有する。上記他の樹脂フィルムは、断面形状が楔形、三角形、台形又は矩形であることが好ましい。断面形状が楔形、三角形、台形の他の樹脂フィルムを形状補助層として積層することにより、多層樹脂フィルム全体としての断面形状を一定の楔角である楔形となるように調整することができる。また、複数の形状補助層を組み合わせて、多層樹脂フィルム全体としての断面形状を整えてもよい。
【0092】
上記他の樹脂フィルムの厚みは特に限定されないが、実用面の観点、並びに、接着力及び耐貫通性を充分に高める観点から、好ましい下限は10μm、好ましい上限は1000μmであり、より好ましい下限は200μm、より好ましい上限は800μmであり、更に好ましい下限は300μmである。なお、上記他の樹脂フィルムの厚みの下限は、他の樹脂フィルムの最小厚さの部分の厚みを意味し、上記他の樹脂フィルムの厚みの上限は、他の樹脂フィルムの最大厚さの部分の厚みを意味する。また、複数の他の樹脂フィルムを組み合わせて用いる場合は、その合計の厚みを意味する。
【0093】
上記発光樹脂フィルムや上記多層樹脂フィルムは、少なくとも1枚のガラス板により補強されていることが好ましい。上記発光樹脂フィルムや上記多層樹脂フィルムは、また、一対のガラス板の間に積層された合わせガラスとして用いられてもよい。
上記ガラス板は、一般に使用されている透明板ガラスを使用することができる。例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入りガラス、線入り板ガラス、着色された板ガラス、熱線吸収ガラス、熱線反射ガラス、グリーンガラス等の無機ガラスが挙げられる。また、ガラスの表面に紫外線遮蔽コート層が形成された紫外線遮蔽ガラスも用いることができるが、特定の波長の光線を照射する側とは反対のガラス板として用いることが好ましい。更に、上記ガラス板としてポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリレート等の有機プラスチックス板を用いることもできる。
上記ガラス板として、2種類以上のガラス板を用いてもよい。例えば、透明フロート板ガラスと、グリーンガラスのような着色されたガラス板との間に、上記発光樹脂フィルムや上記多層樹脂フィルムを積層した合わせガラスが挙げられる。また、上記ガラス板として、2種以上の厚さの異なるガラス板を用いてもよい。
【0094】
本発明の発光ディスプレイシステムは、光源を有する。
上記光源は、上記発光樹脂フィルム中の発光材料の励起波長の光線を照射するものである。該光線を照射することにより発光樹脂フィルム上に情報を表示させる役割を果たす。上記照射される光線は、上記発光材料の励起波長を含むものであり、上記発光材料の種類によって選択される。
【0095】
本発明の発光ディスプレイシステムでは、上記光源を2台以上用い、光源から照射される光線が発光樹脂フィルム上に少なくとも一部が重複するように配置される。これにより、たとえ個々の光源の照射強度が低くとも、広い範囲において高い輝度で情報を表示することができる。また、個々の光源は、比較的離れた場所に配置しても充分な効果得られることから、光源配置の自由度も高い。
上記光源の数は、多い方がより広い範囲において高い輝度で情報を表示することができるが、限られたスペースのなかで配置することを考えれば、実質的には10台程度が上限である。
【0096】
上記光源から照射される励起波長の光線の照射強度は200mW/cm以下であることが好ましい。200mW/cm以下の照射強度であれば、充分に安全性を確保することができる。また、200mW/cm以下の照射強度であれば、徒に装置が大型化した配置が困難となることもない。上記光源から照射される励起波長の光線の照射強度は、150mW/cm以下であることがより好ましく、100mW/cm以下であることが更に好ましい。
上記光源から照射される励起波長の光線の照射強度の下限は特に限定されないが、充分な輝度で情報を表示させるためには、10mW/cm以上であることが好ましく、50mW/cm以上であることがより好ましい。
なお、上記照射する光線の出力は、光源より10cm離れた位置に配置したレーザーパワーメーター(例えば、オフィールジャパン社製、「ビームトラックパワー測定センサー3A-QUAD」等)を用いた照射強度測定により測定することができる。
【0097】
上記光源は、例えば、スポット光源(浜松ホトニクス社製、「LC-8」等)、キセノン・フラッシュランプ(ヘレウス社製、「CWランプ」等)、ブラックライト(井内盛栄堂社製、「キャリーハンド」)等が挙げられる。
【0098】
本発明の発光ディスプレイシステムを用いれば、安全かつ簡便に広い範囲に所定の輝度の情報を表示することができる。
本発明の発光ディスプレイシステムは、自動車等の車両のフロントガラス、サイドガラス、リアガラスや、航空機、建築物等の窓ガラス等として広く使用することができる。なかでも、上記発光樹脂フィルムを合わせガラス用中間膜として用いた合わせガラスと、2以上の光源とを配置した本発明の発光ディスプレイシステムは、ヘッドアップディスプレイとして極めて有用である。
【発明の効果】
【0099】
本発明によれば、安全かつ簡便に広い範囲に所定の輝度の情報を表示することができる発光ディスプレイシステム、及び、該発光ディスプレイシステムを用いたヘッドアップディスプレイを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
図1】本発明の発光ディスプレイシステムによる情報の表示方法を説明する模式図である。
図2】1台のみの光源を用いた発光ディスプレイシステムによる情報の表示方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0101】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0102】
(実施例1)
(1)ポリビニルブチラールの調製
攪拌機を取り付けた2m反応器に、PVA(重合度1700、けん化度99モル%)の7.5質量%水溶液1700kgとn-ブチルアルデヒド74.6kg、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール0.13kgを仕込み、全体を14℃に冷却した。これに、濃度30質量%の硝酸99.44Lを添加して、PVAのブチラール化を開始した。添加終了後から10分後に昇温を開始し、90分かけて65℃まで昇温し、更に120分反応を行なった。その後、室温まで冷却して析出した固形分を濾過後、固形分に対して質量で10倍量のイオン交換水で10回洗浄した。その後、0.3質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて十分に中和を行ない、更に固形分に対して質量で10倍量のイオン交換水で10回洗浄し、脱水した後、乾燥させ、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)を得た。
【0103】
(2)発光樹脂フィルム及び合わせガラスの製造
トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)40重量部に、ジエチル-2,5-ジヒドロキシテレフタレート(Aldrich社製、「2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル」)0.54重量部を加え、発光性の可塑剤溶液を調製した。得られた可塑剤溶液の全量と、得られたポリビニルブチラール100重量部とをミキシングロールで充分に混練することにより樹脂組成物を調製した。
得られた樹脂組成物を、押出機を用いて押出し、厚み760μmの発光樹脂フィルムを得た。
【0104】
得られた発光樹脂フィルムを合わせガラス用中間膜として、縦5cm×横5cmの一対のクリアガラス(厚み2.5mm)の間に積層し、積層体を得た。得られた積層体を、真空ラミネーターにて90℃下、30分保持しつつ真空プレスを行い圧着した。圧着後140℃、14MPaの条件でオートクレーブを用いて20分間圧着を行い、合わせガラスを得た。
【0105】
(3)発光ディスプレイシステムの構築
光源として、ピコプロジェクター(ソニー社製)、を2台又は3台準備し、各々の光源の波長405nmの光線の照射強度が200mW/cmとなるように調整した。
得られた合わせガラスに対して、照射される光線が合わせガラス上に重複するように、光源を配置した。
【0106】
(実施例2)
酢酸ユーロピウム(Eu(CHCOO))12.5mmolを50mLの蒸留水へ溶かし、トリフルオロアセチルアセトン(TFA、CHCOCHCOCF)33.6mmolを加え、室温で3時間撹拌した。沈殿した固体を濾過、水洗後、メタノールと蒸留水で再結晶を行なってEu(TFA)(HO)を得た。得られた錯体Eu(TFA)(HO)5.77gと1,10-フェナントロリン(phen)2.5gを100mLのメタノールに溶かし、12時間加熱還流を行なった。12時間後、メタノールを減圧留去により取り除き、白色生成物を得た。この粉末をトルエンで洗浄し、未反応の原料を吸引濾過により取り除いた後、トルエンを減圧留去し、紛体を得た。トルエン、ヘキサンの混合溶媒により再結晶を行なうことにより、Eu(TFA)phenを得た。3GO40重量部に対して、ジエチル-2,5-ジヒドロキシテレフタレート(Aldrich社製、「2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル」)0.54重量部に代えて得られたEu(TFA)phen0.4重量部を用いた以外は実施例1と同様にして発光樹脂フィルム及び合わせガラスを製造した。そして、2台又は3台の光源を配置して発光ディスプレイシステムを構築した。
【0107】
(実施例3)
酢酸テルビウム(Tb(CHCOO))12.5mmolを50mLの蒸留水へ溶かし、トリフルオロアセチルアセトン(TFA、CHCOCHCOCF)33.6mmolを加え、室温で3時間撹拌した。沈殿した固体を濾過、水洗後、メタノールと蒸留水で再結晶を行なってTb(TFA)(HO)を得た。得られた錯体Tb(TFA)(HO)5.77gと1,10-フェナントロリン(phen)2.5gを100mLのメタノールに溶かし、12時間加熱還流を行なった。12時間後、メタノールを減圧留去により取り除き、白色生成物を得た。この粉末をトルエンで洗浄し、未反応の原料を吸引濾過により取り除いた後、トルエンを減圧留去し、紛体を得た。トルエン、ヘキサンの混合溶媒により再結晶を行なうことにより、Tb(TFA)phenを得た。
3GO40重量部に対して、ジエチル-2,5-ジヒドロキシテレフタレート(Aldrich社製、「2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル」)0.54重量部に代えて得られたTb(TFA)phen0.4重量部を用いた以外は実施例1と同様にして発光樹脂フィルム及び合わせガラスを製造した。そして、2台又は3台の光源を配置して発光ディスプレイシステムを構築した。
【0108】
(比較例1~3)
光源の台数及び照射強度を表2のようにした以外は実施例1~3と同様にして発光樹脂フィルム及び合わせガラスを製造し、2又は3の光源を配置して発光ディスプレイシステムを構築した。
【0109】
(評価)
実施例及び比較例で得られた発光ディスプレイシステムについて、以下の方法で評価した。
結果を表1、2に示した。
【0110】
(1)安全性の評価
発光ディスプレイシステムの安全性について、光源の照射強度が200mW/cm以下である場合を「○」と、200mW/cmを超える場合を「×」と評価した。
【0111】
(2)表示の輝度の評価
光を照射した合わせガラスの面から45度の角度で、合わせガラスの面からの最短距離が35cmとなる位置であり、かつ光を照射した側に輝度計(トプコンテクノハウス社製、「SR-3AR」)を配置した。そして、光源から合わせガラスへと光を照射し、合わせガラス上に表示された情報の輝度を測定した。
なお、複数の光源を用いた場合には、全ての光源からの光線が重複した部位における輝度を測定した。
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明によれば、安全かつ簡便に広い範囲に所定の輝度の情報を表示することができる発光ディスプレイシステム、及び、該発光ディスプレイシステムを用いたヘッドアップディスプレイを提供することができる。
【符号の説明】
【0115】
1 発光樹脂フィルム
2 光源
3 光源
4 光源
図1
図2