(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】絶縁部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 3/34 20060101AFI20221025BHJP
H02K 3/30 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
H02K3/34 C
H02K3/30
(21)【出願番号】P 2018550083
(86)(22)【出願日】2017-10-13
(86)【国際出願番号】 JP2017037168
(87)【国際公開番号】W WO2018088115
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2016218087
(32)【優先日】2016-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】596001379
【氏名又は名称】デュポン帝人アドバンスドペーパー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】藤森 竜士
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 新二
(72)【発明者】
【氏名】近藤 千尋
(72)【発明者】
【氏名】田中 康紀
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特許第3921985(JP,B2)
【文献】国際公開第2013/150594(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/133337(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/34
H02K 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアの内周面に形成されたスロットに装着される絶縁部材の製造方法であって、
絶縁シートの折り曲げ部に相当する箇所を、軸線方向から見たスロットの屈曲部の位置で軸線方向に切断した後、絶縁シートのスロット部に対して略直角となるよう山折りし、更にスロット形状に沿うように折り曲げた後に、絶縁シートの折り曲げ部の、スロット部に面するシート表面に溶融した樹脂組成物を射出成型により充填してフランジ状のコア端面部を形成する、絶縁シートの折り曲げ部の、スロット部に面しないシート表面の側から見て、コア端面部の表面には絶縁シートが露出している絶縁部材の製造方法。
【請求項2】
ステータコアの内周面に形成されたスロットに装着される絶縁部材の製造方法であって、
絶縁シートの折り曲げ部に相当する箇所を、軸線方向から見たスロットの屈曲部の位置で軸線方向に切断した後、絶縁シートのスロット部に対して略直角となるよう山折りし、更にスロット形状に沿うように折り曲げた後に、絶縁シートの折り曲げ部の、スロット部に面するシート表面に溶融した樹脂組成物を射出成型により充填してフランジ状のコア端面部を形成し、絶縁シートの折り曲げ部の、スロット部に面しないシート表面の側から見て、絶縁シートが露出しているコア端面部を形成した後、絶縁シートが露出しているコア端面部に溶融した樹脂組成物を射出成型により充填し、絶縁シートが樹脂成型体により完全に覆われたフランジ状のコア端面部を形成する、絶縁部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、絶縁性に優れた絶縁部材及びその製造方法、特に、モータ、発電機、その他回転電機のコア材のスロットに嵌入され、コアとコイルとの間の電気絶縁性を確保するために用いる絶縁部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータや発電機等の回転電機のステータは、内周面の周方向に複数のスロットを有する環状のステータコアと、前記スロットに巻回されたコイルによって構成され、前記ステータコアとコイルとの間には、電気絶縁性を確保するために絶縁シートが挿入されている。
従来、このような絶縁シートには、ポリメタフェニレンイソフタルアミド(以下、メタアラミドと称す)のファイブリッド及び繊維から構成される紙(商品名 ノーメックス(登録商標))、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルム、前記メタアラミド紙と前記樹脂フィルムとが積層されてなるアラミド-樹脂フィルム積層体、等が使用されている。
また、一般的に前記絶縁シートは、例えば、特許文献1の第3図に記載されているように、両端部を折り返し、その折り返し部を外側にして略U字型に曲げて形成され、その後スロットに挿入される。この時、折り返し部がコア材端面から軸線方向に突出した状態で存在し、折り返しの先端がコア材端面に接触することで、絶縁シートがスロット軸線方向に位置ずれしないように構成されている。
しかし、このような構成で絶縁シートを配置すると、前記折り返し部が存在することによりコア材の軸線方向の長さが長くなるため、スロット部に巻回されるコイルもその分長くする必要がある。すなわち、コイルに用いる銅線等の使用量が増えることとなり、その結果、回転電機のサイズ及び重量の増加、また、コイルが長くなることにより回転電機の効率及び出力の低下に繋がるため、例えば車載用などの限られたスペースに配置するモータ等への適用には好ましくない。
これらの問題を解決する絶縁部材として、コア材端部で折り返した絶縁紙に、そのコア材両端面とスロットに入り込む突出部を有する金型を用いてキャビティを形成し、該絶縁紙の折り返し部が前記キャビティ内に配置された状態で溶融樹脂をキャビティ内に注入し、該溶融樹脂が絶縁シートの折り返し部を包埋し、且つコア材端部に密着して形成される絶縁部材が提案されている(特許文献2)。
しかし、この技術では、絶縁紙の折り返し部はコア材端面に対して角度をつけて配置されており、前記折り返し部がキャビティ内で十分に固定されていない状態で溶融樹脂が注入されることから、樹脂の注入圧力により絶縁紙が変形し、それにより樹脂が折り返し部の絶縁紙を包埋できなくなることが懸念される。また、絶縁紙及び溶融樹脂の種類についての記載がなく、溶融樹脂と絶縁紙との接着性が乏しい材料を選択した際に、前記のように包埋が不十分な状態で絶縁部材を形成すると、回転電機の作動時に樹脂と絶縁紙が剥離する、等の問題が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開昭60-162951号公報
【文献】特許第3921985号公報
【発明の概要】
【0004】
本発明は、モータ、モータジェネレータ等の回転電機の小型化、高効率化、大出力化をもたらす絶縁部材その製造方法を提供することを目的とする。
本発明者はかかる状況に鑑み、モータ、発電機等の回転電機の小型化、高効率化、大出力化をもたらす絶縁部材を得るべく鋭意検討を進めた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本願発明の一実施態様は、ステータコアの内周面に形成されたスロットに装着される絶縁部材であって、1枚の絶縁シートから形成され、前記スロットの内部を覆うスロット部と、前記スロット部の軸線方向の少なくとも一端に設けられスロット部から略直角に外方に向かって延びる折り曲げ部と、を有するベースと、前記折り曲げ部に密着して取付けられた樹脂成型体と、を備えている、ことを特徴とする絶縁部材を提供するものである。
前記折り曲げ部の絶縁シートが、軸線方向から見たスロットの屈曲部を起点として切断されていてもよい。
前記絶縁シートの両端がスロット部に対して略直角に折り曲げられていてもよい。
前記折り曲げ部と前記樹脂成型体とは、接着剤を用いることなく密着していてもよい。
絶縁シートが、アラミドファイブリッドとアラミド短繊維からなるアラミド紙、前記アラミド紙と樹脂フィルムとが積層されてなるアラミド-樹脂フィルム積層体、又は前記アラミド紙上に樹脂を溶融押し出しして形成されたシートのいずれかから選ばれてもよい。
樹脂成型体が、アミド結合を有するポリマーを用いて形成されてなる樹脂成型体であってもよく、樹脂成型体と接触している絶縁シートの表面が、アラミドファイブリッドとアラミド短繊維からなるアラミド紙であってもよい。
本願発明の他の実施態様は、ステータコアの内周面に形成されたスロットに装着される絶縁部材の製造方法であって、絶縁シートの折り曲げ部に相当する箇所を、軸線方向から見たスロットの屈曲部の位置で軸線方向に切断した後、絶縁シートのスロット部に対して略直角となるよう山折りし、更にスロット形状に沿うように折り曲げた後に、絶縁シートの折り曲げ部に溶融した樹脂組成物を射出成型により充填してフランジ状のコア端面部を形成することを特徴とする絶縁部材の製造方法を提供するものである。
【0005】
本願発明の他の実施態様は、ステータコアの内周面に形成されたスロットに装着される絶縁部材の製造方法であって、絶縁シートの折り曲げ部に相当する箇所を、軸線方向から見たスロットの屈曲部の位置で軸線方向に切断した後、絶縁シートのスロット部に対して略直角となるよう山折りし、更にスロット形状に沿うように折り曲げた後に、絶縁シートの折り曲げ部の、スロット部に面するシート表面に溶融した樹脂組成物を射出成型により充填してフランジ状のコア端面部が形成する、絶縁シートの折り曲げ部の、スロット部に面しないシート表面の側から見て、コア端面部の表面には絶縁シートが露出している絶縁部材の製造方法を提供するものである。
本願発明の他の実施態様は、ステータコアの内周面に形成されたスロットに装着される絶縁部材の製造方法であって、絶縁シートの折り曲げ部に相当する箇所を、軸線方向から見たスロットの屈曲部の位置で軸線方向に切断した後、絶縁シートのスロット部に対して略直角となるよう山折りし、更にスロット形状に沿うように折り曲げた後に、絶縁シートの折り曲げ部の、スロット部に面するシート表面に溶融した樹脂組成物を射出成型により充填してフランジ状のコア端面部を形成し、絶縁シートの折り曲げ部の、スロット部に面しないシート表面の側から見て、絶縁シートが露出しているコア端面部を形成した後、絶縁シートが露出しているコア端面部に溶融した樹脂組成物を射出成型により充填し、絶縁シートが樹脂成型体により完全に覆われたフランジ状のコア端面部を形成する、絶縁部材の製造方法を提供するものである。
本願発明の他の実施態様は、上記絶縁部材が内周面に装着されたスロットに、コイルが巻回されたコアを有することを特徴とするモータを提供するものである。
本願発明の他の実施態様は、上記絶縁部材が内周面に装着されたスロットに、コイルが巻回されたコアを有することを特徴とする発電機を提供するものである。
本願発明の他の実施態様は、上記絶縁部材が内周面に装着されたスロットに、コイルが巻回されたコアを有することを特徴とする回転電機を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明の一実施形態の絶縁部材を示す斜視図である。
【
図2】本発明の他の実施形態の絶縁部材を示す斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に用いる絶縁シートの正面図である。
【
図4】
図3の絶縁シートを折り曲げた時(樹脂成型体を密着させる前)の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施形態の絶縁部材について詳細に説明するが、特にこれに限定されるものではない。
図1は、本発明の好ましい実施形態の絶縁部材1の斜視図である。
絶縁部材1は、1枚の絶縁シートから形成され、ステータコアのスロット内面を覆う断面略U字型のスロット部2と、略U字型のスロット部の軸線方向両端に設けられスロット部2から略垂直に外方に向かって延びる折り曲げ部3と、を有するベース4を備えている。なお、本明細書においてスロット部の軸線方向とは、ステータコアに対向するスロット部の面において、一方のコア端面部から他方のコア端面部に向かう方向を意味する。
図示する実施形態において、スロット部2の断面は略U字型であるが、スロット部の断面はU字型に限られたものではなく、ステータコアのスロットの形状および絶縁部材1に求められる強度等に応じて、矩形、正方形、五角形、V字型などの断面を有しうる。
折り曲げ部3は、スロット部2のU字型の端縁の対向する各長辺から外方に延びる一対の矩形の側部折り曲げ部3a、3aと、U字型の底辺から外方に延びる矩形の底部折り曲げ部3bと、を備えている。
絶縁部材1は、さらに、折り曲げ部3に取付けられた樹脂成型体5を備えている。樹脂成型体5は、
図1に示されているように、樹脂で形成された略馬蹄形状を有している。詳細には、樹脂成型体5は、側部折り曲げ部3a、3aの裏面を覆い、さらに、底部折り曲げ部3bの裏面および周縁を覆っている。底部折り曲げ部3bの周囲では、半円形状を有し、底部折り曲げ部3bの表面と面一となっている。本実施形態では、折り曲げ部3と樹脂成型体5とで、コア端面部6が構成される。このようなコア端面部6を形成する構造を採用することにより、折り返し部を形成する場合と比較して、絶縁部材のコア材の軸線方向長さを短くすることができる。なお、本明細書において「略垂直/略直角」とは、90°±15°であることを意味し、好ましくは90°±10°であり、より好ましくは90°±5°である。
【0008】
絶縁部材1が、ステータコアのスロットに嵌合されたとき、折り曲げ部3のみではスロットの軸線先方向外方の端部全面を被覆できない。しかしながら、本実施形態の絶縁部材1では、樹脂成型体5が、折り曲げ部3では被覆できていない箇所(略U字の側底部)を被覆することができる。軸線方向端部からの絶縁部材の高さはコア端面部6の全面で同一となることが好ましい。またこの時、樹脂成型体5と絶縁シート7とは接着剤を介することなく接合されていることが好ましい。
図2は、
図1とは異なる本発明の一実施形態の絶縁部材10の斜視図を示している。
図2に示されているように、絶縁部材10では、樹脂成型体50は、
図1に示す絶縁部材1と同様に馬蹄形形状を有しているが、側部折り曲げ部3a、3aおよび底部折り曲げ部3bを上下から覆う形状を有している。
図2に示す態様では、絶縁シートの表裏面が樹脂で被覆されているので絶縁シートと樹脂成型体との密着をより強固にすることができる。
尚、樹脂成型体と絶縁シートとが接着剤を介することなく接合される態様としては、下記の5つの態様の何れかであるのが好ましい。
絶縁シート:樹脂成型体
アラミド紙:ポリアミド樹脂組成物の成型体
アラミド紙/樹脂フィルム/アラミド紙の3層積層体:ポリアミド樹脂組成物の成型体
アラミド紙/シート状ポリアミド樹脂組成物/アラミド紙の3層積層体:ポリアミド樹脂組成物の成型体
アラミド紙/樹脂フィルムの2層積層体:ポリアミド樹脂組成物の成型体
アラミド紙/シート状ポリアミド樹脂組成物の2層積層体:ポリアミド樹脂組成物の成型体
ここで、絶縁シートとして、アラミド紙/樹脂フィルム又はシート状ポリアミド樹脂組成物の2層積層体を用いる場合には、樹脂成型体は2層積層体のいずれの表面に設けてもよいが、アラミド紙側に設けるのが好ましい。又、シート状ポリアミド樹脂組成物は、溶融押出によって形成するのが好ましい。
【0009】
絶縁部材1を構成するベース4の製造方法について説明する。
図3は、本発明の好ましい実施形態の絶縁部材1、10のベース4を形成するために用いる絶縁シート7の正面図である。長方形状の絶縁シート7の長手方向両端に示された一点鎖線部7aと、絶縁シート7の端部7bとの間の領域は、後に、折り曲げ部3に加工される箇所である。絶縁シート7の2本の一点鎖線7a、7a間の距離は、絶縁部材1の軸線方向長さとなり、この軸線方向長さがステータコアの軸線方向長さに対応している。まず、7c~7d間の点線部を切断した後、一点鎖線部7aを正面から見て略直角に山折りする。その後更に、破線部(上下の7d間)をスロット形状に沿うように折り曲げる、すなわち正面から見て谷折りすることにより、絶縁部材を構成するベース4が形成される(
図4)。絶縁シートを
図4に示される形状に折り曲げ加工した後、折り曲げ部3を覆うように、樹脂成型体5を形成する。
図1や
図2に示されている絶縁部材は、コア材内周面のスロットに嵌合して使用される。この時、折り曲げ部3と樹脂成型体5(
図2の場合は50)からなるコア端面部6がコア端面に接触した状態で存在するため、スロットにコイルを巻回する際に絶縁部材の位置ずれを防止することができる。
【0010】
(アラミド)
本発明においてアラミドとは、アミド結合の60%以上が芳香環に直接結合した線状高分子化合物を意味する。このようなアラミドとしては、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミド及びその共重合体、ポリパラフェニレンテレフタルアミドおよびその共重合体、コポリパラフェニレン・3,4’-ジフェニルエーテルテレフタルアミドなどが挙げられる。これらのアラミドは、例えば、芳香族酸二塩化物及び芳香族ジアミンとの縮合反応による溶液重合法、二段階界面重合法等により工業的に製造されており、市販品として入手することができるが、これに限定されるものではない。これらのアラミドの中では、ポリメタフェニレンイソフタルアミドが良好な成型加工性、難燃性、耐熱性などの特性を備えている点で好ましく用いられる。
【0011】
(アラミドファイブリッド)
本発明においてアラミドファイブリッドとは、アラミドからなるフィルム状微小粒子で、アラミドパルプと称することもある。製造方法は、例えば特公昭35-11851号、特公昭37-5732号公報等に記載の方法が例示される。アラミドファイブリッドは、通常の木材パルプと同じように抄紙性を有するため、水中分散した後、抄紙機にてシート状に成形することができる。この場合、抄紙に適した品質を保つ目的でいわゆる叩解処理を施すことができる。この叩解処理は、ディスクリファイナー、ビーター、その他の機械的切断作用を及ぼす抄紙原料処理機器によって実施することができる。この操作において、ファイブリッドの形態変化は、JIS P8121に規定の濾水度(フリーネス)でモニターすることができる。本発明において、叩解処理を施した後のアラミドファイブリッドの濾水度は、10~300cm3(カナディアンスタンダードフリーネス)の範囲内にあることが好ましい。この範囲より大きな濾水度のファイブリッドでは、それから成形されるシートの強度が低下する可能性がある。他方、10cm3よりも小さな濾水度を得ようとすると、投入する機械動力の利用効率が小さくなり、また、単位時間あたりの処理量が少なくなることが多く、さらに、ファイブリッドの微細化が進行しすぎるため、いわゆるバインダー機能の低下を招きやすい。
【0012】
(アラミド短繊維)
本発明においてアラミド短繊維とは、アラミドを原料とする繊維を所定の長さに切断したものであり、そのような繊維としては、例えば、帝人(株)の「コーネックス(登録商標)」、「テクノーラ(登録商標)」、デュポン社の「ノーメックス(登録商標)」、「ケブラー(登録商標)」、テイジンアラミド社の「トワロン(登録商標)」などが例示できるが、これらに限定されるものではない。
アラミド短繊維は、好ましくは、0.05dtex以上25dtex未満の範囲内の繊度を有することができる。繊度が0.05dtex未満の繊維は、湿式法での製造(後述)において凝集を招きやすく、また、繊度が25dtex以上の繊維は、繊維直径が大きくなり過ぎるため、アスペクト比の低下、力学的補強効果の低減、アラミド紙の均一性不良が生じるおそれがある。
アラミド短繊維の長さは、1mm以上25mm未満、好ましくは2~12mmの範囲から選ぶことができる。短繊維の長さが1mmよりも小さいと、アラミド紙の力学特性が低下し、他方、25mm以上のものは、後述する湿式法でのアラミド紙の製造に際して「からみ」「結束」などが発生しやすく欠陥の原因となりやすい。
【0013】
(アラミド紙)
本発明においてアラミド紙とは、前記のアラミドファイブリッド及びアラミド短繊維を主として構成されるシート状物であり、一般に20μm~1000μmの範囲内の厚さを有している。好ましくは、25~500μmである。さらにアラミド紙は、一般に10g/m2~1000g/m2の範囲内の目付を有している。好ましくは、20~500g/m2である。ここで、アラミドファイブリッドとアラミド短繊維の混合割合は任意とすることができるが、アラミドファイブリッド/アラミド短繊維の割合(質量比)を1/9~9/1とするのが好ましく、より好ましくは2/8~8/2であるが、この範囲に限定されるものではない。
アラミド紙は、一般に、前述したアラミドファイブリッドとアラミド短繊維とを混合した後シート化する方法により製造される。具体的には、例えば上記アラミドファイブリッド及びアラミド短繊維を乾式ブレンドした後に、気流を利用してシートを形成する方法、アラミドファイブリッド及びアラミド短繊維を液体媒体中で分散混合した後、液体透過性の支持体、例えば網またはベルト上に吐出してシート化し、液体を除いて乾燥する方法などが適用できるが、これらのなかでも水を媒体として使用する、いわゆる湿式抄造法が好ましく選択される。
【0014】
湿式抄造法では、少なくともアラミドファイブリッド、アラミド短繊維を含有する単一または混合物の水性スラリーを、抄紙機に送液し分散した後、脱水、搾水及び乾燥することによって、シートとして巻き取る方法が一般的である。抄紙機としては長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜型抄紙機及びこれらを組み合わせたコンビネーション抄紙機などが利用される。コンビネーション抄紙機での製造の場合、配合比率の異なるスラリーをシート成形し合一することで複数の紙層からなる複合体シートを得ることができる。抄造の際に必要に応じて分散性向上剤、消泡剤、紙力増強剤などの添加剤が使用される。
上記のようにして得られたアラミド紙は、一対のロール間にて高温高圧で加熱加圧加工することにより、密度、機械的強度を向上することができる。加熱加圧加工の条件は、例えば金属製ロールを使用する場合、温度100℃~400℃、線圧50~400kg/cmの範囲を例示することができるが、これらに限定されるものではない。熱圧の際に複数のアラミド紙を積層することもできる。また、上記の加熱加圧加工を任意の順に複数回行うこともできる。
【0015】
(絶縁シート)
本発明において絶縁シートとは、電気絶縁性を有するシートを意味する。絶縁シートは、好ましくは1×1010~1×1020Ω・cmの体積抵抗率を有し、より好ましくは1×1012~1×1020Ω・cmの体積抵抗率を有する。前記アラミド紙単体、前記アラミド紙と樹脂フィルムとを積層し、接着剤などで接着したアラミド-樹脂フィルム積層体、又は前記アラミド紙上に樹脂を溶融押出して形成されたシートが挙げられる。
アラミド-樹脂フィルム積層体に使用される樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイドなどが例示される。これらは単独で使用してもよく、また2種以上をブレンドした樹脂や共重合体を使用しても良い。また、アラミド紙を積層するために用いる接着剤としては、当該技術分野において通常用いられる、いずれの接着剤を使用しても良く、例えば、エポキシ系、アクリル系、フェノール系、ウレタン系、シリコン系、ポリエステル系、アミド系などの接着剤が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0016】
アラミド紙と上記フィルムとの接着剤による積層の場合、フィルムは通常延伸されており、後述の方法で絶縁部材を製造する場合、収縮によりアラミド-樹脂フィルム積層体の変形が起こりやすいので、変形を少しでも抑える必要がある場合には、あらかじめポリマーを溶融製膜したフィルムと前記アラミド紙を重ね合わせて加熱加圧し、ポリマーをアラミド紙中に溶融含浸させる方法、アラミド紙上に樹脂を溶融押出して熱融着させる方法などにより、接着剤を介することなくアラミド紙を樹脂と直接積層させたシートが好ましく用いられる。
積層の層数は積層体の用途、目的に応じて適宜選択できるが、少なくとも片側の表層にアラミド紙を配すると、すべり性が良好となるため、モータにおいて例えばコア材に設けたスロットに上記のような絶縁部材を挿入しやすくなるという効果があり、好ましい。例えば、特開2006-321183号に記載されているような、アラミド紙上に樹脂を溶融押出して熱融着する方法で作製された、芳香族ポリアミド樹脂と分子内にエポキシ基を有するエポキシ基含有フェノキシ樹脂とからなり、前記エポキシ基含有フェノキシ樹脂の比率が30~50質量%であるポリマーとアラミド紙の2層積層シート、アラミド紙と前記ポリマーとアラミド紙の3層の積層シートが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
絶縁シートの厚み、目付(坪量)及び密度は、コア材の大きさやスロット形状、及び用途や目的に応じて適宜選択でき、折り曲げ加工性に問題なければ、任意の厚みを選択することができる。一般には、加工性の観点から50μm~1000μm、好ましくは50μm~500μm、更に好ましくは70~300μmであるが、これに限定されるものではない。又、目付は、30~1000g/m2であるのが好ましく、より好ましくは50~750g/m2である。密度は、0.1~2.5g/cm3であるのが好ましく、より好ましくは0.5~2.0g/cm3である。
【0017】
(樹脂成型体)
本発明において樹脂成型体とは、溶融された樹脂組成物を所望の金型に充填し、冷却後型から外す射出成型法により作製された成型体を表す。
本発明の樹脂成型体に使用される樹脂組成物としては、アミド結合を有する樹脂単独又は該樹脂を含むのが好ましい。アミド結合を有する樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12、共重合ポリアミド、ポリアミドMXD6、ポリアミド46、メトキシメチル化ポリアミド、半芳香族ポリアミドなどのポリアミド樹脂単独又はこれらの混合物があげられる。ここで、半芳香族ポリアミドとしては、芳香族ジカルボン酸成分と、炭素原子数4~10の直鎖脂肪族ジアミンを有するジアミン成分とからなるポリアミドがあげられる。このような半芳香族ポリアミドとして、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、テレフタル酸の3元重合されたポリアミド樹脂であるデュポン社の「ザイテル(登録商標)HTN501」などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。あるいは特開2006-321951に示されるようなポリアミド樹脂組成物を含有するポリマーあるいはそれらの混合物又は前記ポリマーとガラス繊維などの無機物との混合物などが挙げられる。ここで、該ポリマーとしては、芳香族ポリアミド樹脂と分子内にエポキシ基を有するエポキシ基含有フェノキシ樹脂とからなり、前記エポキシ基含有フェノキシ樹脂を30~50質量%含有してなるポリアミド樹脂組成物である。特に半芳香族ポリアミドとガラス繊維の混合物の成型体は耐熱性が高く好ましい。このような混合物としては、デュポン社の「ザイテル(登録商標)HTN51G、52G」などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明において、樹脂成型体に使用される樹脂組成物は絶縁特性を有するものであり、該樹脂組成物で成形された樹脂成型体は、好ましくは1×1010~1×1020Ω・cmの体積抵抗率を有し、より好ましくは1×1012~1×1020Ω・cmの体積抵抗率を有する。
本発明では、このような絶縁特性を有する樹脂組成物としては、上述したアミド結合を有する樹脂単独又は該樹脂を含むのが好ましい。
樹脂成型体の厚みは、100~5000μmであるのが好ましく、より好ましくは500~2000μmである。
【0018】
(絶縁部材の製造方法)
本発明の絶縁部材の製造方法としては、前述の絶縁シートを用いて
図4に示すような形状を形成した後、金型に配置し、折り曲げ部3のスロット部に面する側に溶融した樹脂組成物が接触するようにして射出成型を行うことにより、折り曲げ部3と樹脂成型体5が接着されたフランジ状のコア端面部6を形成することにより製造する方法が用いられうる。
図1のように絶縁シートの一部が表面に露出したコア端面部を形成する場合には、折り曲げ部3と金型を接触させるように配置することで絶縁シート7が固定され、射出成型を行うことにより、折り曲げ部3の切欠き分(略U字の側底部)に樹脂組成物が充填され、折り曲げ部3と樹脂成型体5により表面が略U字型に形成されたコア端面部6を得ることができる。
図2のように絶縁シートの表面が全て樹脂成型体で被覆された絶縁部材を得るには、
図1の絶縁部材1を形成してから別段で射出成型を行い樹脂成型体50を得る方法、あるいは絶縁シート7の折り曲げ部3の表面を金型に触れさせないようにしてキャビティを形成し、一度の射出成型で樹脂成型体50を形成する方法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、
図2では折り曲げ部3の側面(手前側)が一部露出しているが、この側面を全て覆う構造としても良い。この時、折り曲げ部3のコア端面部内での位置を固定する方法としては、折り曲げ部3に金型内で抜き差し可能なピンを当てて仮固定を行い、その後射出成型の途中(樹脂組成物の充填中)にピンを外す、などの方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。上記のように射出成型を行い、絶縁シートと樹脂成型体が接着されたコア端面部を形成して、本発明の絶縁部材を得ることができる。
本発明の絶縁部材におけるスロット部の厚みは、スロット部が絶縁シートのみで構成されるため、絶縁シートの厚さとなる。又、コア端面部の厚みは、0.3mm~5mmであるのが好ましく、より好ましくは0.4mm~3mm、更に好ましくは0.5mm~2mmである。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例を挙げてさらに具体的に説明する。なお、これらの実施例は、単なる例示であり、本発明の内容を何ら限定するためのものではない。
[実施例1]
(原料調製)
特開昭52-15621号公報に記載のステータとローターとの組み合わせで構成されるパルプ粒子の製造装置(湿式沈殿機)を用いて、ポリメタフェニレンイソフルアミドのファイブリッドを製造した。これを、離解機、叩解機で処理して長さ加重平均繊維長を0.9mmに調製した。得られたファイブリッドの濾水度は90cm3であった。一方、デュポン社製メタアラミド繊維(ノーメックス(登録商標)、単糸繊度2.2dtex)を長さ6mmに切断し抄紙用原料とした。
(アラミド紙の製造)
上記のとおり調製したアラミドファイブリッドとアラミド短繊維をおのおの水中で分散しスラリーを作製した。これらのスラリーを、アラミドファイブリッドとアラミド短繊維が1/1の配合比率(重量比)となるように混合した後、タッピー式手抄き機(断面積625cm2)にてシート状物を作製した。次いで、これを金属製カレンダーロールにより温度330℃、線圧300kg/cmで加熱加圧加工しアラミド紙を得た。
更に、アラミド紙とポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製、「テオネックス(登録商標)Q51」、厚さ100μm)を接着剤で貼り合わせ、アラミド紙を外側に配置した、アラミド紙/ポリエチレンナフタレートフィルム/アラミド紙の3層構造からなるアラミド-樹脂フィルム積層体を得た。
【0020】
(絶縁部材の製造)
上記アラミド-樹脂フィルム積層体を用いて、
図3に示す通りに裁断し、
図3の点線部を切断した後、一点鎖線部を正面から見て略直角に山折りし、更に破線部をスロット形状に沿うように折り曲げ、立体形状に形成された絶縁シートを得た。この絶縁シートと、樹脂組成物として半芳香族ポリアミド(デュポン社製「ザイテル(登録商標)HTN51G35EF」)を用いて、表1に示す条件で射出成型を行い、絶縁シートと樹脂組成物とが接着されたコア端面部を形成し、スロット部とコア端面部の接合部からコア端面部の縁までの距離が10mm、コア端面部の厚さが1mmである、
図1に示す形状の絶縁部材を得た。このようにして得られた絶縁部材の主要特性値を下記の方法で評価した。結果を表1に示す。
[測定方法]
(1)目付、厚み、密度
JIS C 2300-2に準じて実施し、密度は(目付/厚み)により算出した。
(2)絶縁シート外観
絶縁シートの外観について、成型時の熱による反りの度合を目視により観察し、反りがないものを「良好」、僅かに反りがあるものを「ほぼ良好」、顕著に反りが見られるものを「不良」と判断した。
(3)接着性
絶縁部材のコア端面部について、略U字の上部から、絶縁シートと樹脂成型体の界面に沿ってカッターナイフで深さ1mmの切り込みを入れ、この切り込み部分から絶縁シートと樹脂成型体を引き剥がし、引き剥がし後の樹脂成型体の表面を目視にて観察した。樹脂成型体表面に絶縁シート表面の紙層が残っているものを「良好」、絶縁シート表面の紙材料が残っているものを「ほぼ良好」、絶縁シートの紙材料が全く残っていないものを「不良」と判断した。
【0021】
[実施例2]
実施例1で得たアラミド紙と、エポキシ基含有フェノキシ樹脂が50重量%含有されている半芳香族ポリアミド樹脂組成物(デュポン社製ザイテル(登録商標)HTN501 50重量部と、エポキシ基含有フェノキシ樹脂50重量部を用いて、特開2006-321183号公報の[0027]に記載の方法で調製した半芳香族ポリアミド樹脂組成物)を用いて、特開2006-321183号公報の[0024]に記載の方法で、アラミド紙を外側に配置した、アラミド紙/樹脂組成物/アラミド紙の3層構造からなる積層シートを得た。その積層シートを用いて、実施例1と同様にして、
図1に示す形状の絶縁部材を得た。このようにして得られた絶縁部材の主要特性値を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0022】
[実施例3]
絶縁シートを表1に示す特性を有するアラミド紙に変更した以外は実施例1と同様に実施し、
図1に示す形状の絶縁部材を得た。このようにして得られた絶縁部材の主要特性値を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0023】
【0024】
表1の結果から、本発明の絶縁部材は、外観も均質で、コア端面部の厚さも実施例では1mmと小さく、すなわちステータコアに嵌入しても端部の突出が抑えられている。よって、本発明の絶縁部材は、通常の回転電機に比べて軸線方向長さを抑えることができ、該絶縁部材を用いた回転電機の小型化、高効率化、大出力化が期待できる。
実施例1~3の比較からは、アラミドファイブリッドとアラミド短繊維とからなるアラミド紙単体、及び前記アラミド紙上に樹脂を溶融押し出しして形成されたシートからなる群より選択を用いることによって、成型時の熱による反りが抑えられ、より良好な外観を呈していることがわかる。
【符号の説明】
【0025】
1 絶縁部材
10 絶縁部材
2 スロット部
3 折り曲げ部
3a 側部折り曲げ部
3b 底部折り曲げ部
4 ベース
5 樹脂成型体
50 樹脂成型体
6 コア端面部
7 絶縁シート
7a 絶縁シート一点鎖線部
7b 絶縁シート端部
7c 絶縁シート端部と点線部との交点
7d 絶縁シート一点鎖線部と点線部との交点