(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】車上無線機、地上無線機および列車制御システム
(51)【国際特許分類】
H04B 1/40 20150101AFI20221025BHJP
B60L 15/40 20060101ALI20221025BHJP
B61L 3/12 20060101ALI20221025BHJP
H04W 4/42 20180101ALI20221025BHJP
H04W 4/44 20180101ALI20221025BHJP
B61C 17/12 20060101ALI20221025BHJP
B61L 23/14 20060101ALN20221025BHJP
【FI】
H04B1/40
B60L15/40 J
B61L3/12 Z
H04W4/42
H04W4/44
B61C17/12 Z
B61L23/14 Z
(21)【出願番号】P 2019029012
(22)【出願日】2019-02-21
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大倉 敬規
(72)【発明者】
【氏名】近江 泰志
(72)【発明者】
【氏名】東 健一
(72)【発明者】
【氏名】四本 宏二
【審査官】佐藤 敬介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0021790(US,A1)
【文献】特開2017-022504(JP,A)
【文献】特開平10-145286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/40
B60L 15/40
B61L 3/12
H04W 4/42
H04W 4/44
B61C 17/12
B61L 23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車外との送受信を実行する第一アンテナ部と、
前記第一アンテナ部と信号を通信する第一無線本体装置と、前記第一アンテナ部と前記第一無線本体装置とを接続する信号ケーブルを有し、
前記第一アンテナ部は少なくとも
第一アンテナ回路と、
前記第一アンテナ回路に接続された第一RF回路と、
前記第一RF回路に接続された第一プログラマブルロジックデバイス(以下、「第一PLD」という。)と、
を備える車上無線機。
【請求項2】
請求項1に記載の車上無線機において、
前記第一無線本体装置は、
前記信号ケーブルを経由して前記第一アンテナ部に対して
少なくとも無線送信情報、制御指令を重畳して送出する
ことを特徴する車上無線機。
【請求項3】
請求項2に記載の車上無線機において
前記第一アンテナ部は、
前記第一RF回路と前記信号ケーブルとの間に設けられた第1バンドパスフィルタ、
前記第一PLDと前記信号ケーブルとの間に設けられた第2バンドパスフィルタ、
を有し、
前記第1バンドパスフィルタを通過した信号が前記第一RF回路に入力され、
前記第2バンドパスフィルタを通過した信号が前記第一PLDへ入力される
ことを特徴とする車上無線機。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車上無線機において、
前記車上無線機の第一無線本体装置は列車内配電系に接続された電源線を有する
ことを特徴とする車上無線機。
【請求項5】
請求項4に記載の車上無線機において、
前記第一アンテナ部は、列車編成の先頭車両または後端車両に設けられ、
前記第一無線本体装置は、前記先頭車両および前記後端車両の間に配置される中間車両に設置される
ことを特徴とする車上無線機。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車上無線機において、
列車外との送受信を実行する第二アンテナ部と、
前記第二アンテナ部と前記第一無線本体装置とを接続する信号ケーブルを有し、
前記第二アンテナ部は少なくとも
第二アンテナ回路と、
前記第二アンテナ回路に接続され、前記第一無線本体装置と信号を送受信する第二RF回路と、
前記第二RF回路に接続され、前記第一無線本体装置と信号を送受信する第二プログラマブルロジックデバイス(以下、「第二PLD」という。)と、
を備える車上無線機。
【請求項7】
請求項6に記載の車上無線機において、
前記第一アンテナ部および前記第二アンテナ部と信号を通信する第二無線本体装置と、
前記第二無線本体装置と前記第一アンテナ部および前記第二アンテナ部とを接続する信号ケーブルとを有し、
前記第一アンテナ部は少なくとも
前記第一アンテナ回路に接続され、前記第二無線本体装置と信号を送受信する第三RF回路と、
前記第三RF回路に接続され、前記第二無線本体装置と信号を送受信する第三プログラマブルロジックデバイス(以下、「第三PLD」という。)と、を有し、
前記第二アンテナ部は少なくとも
前記第二アンテナ回路に接続され、前記第二無線本体装置と信号を送受信する第四RF回路と、
前記第四RF回路に接続され、前記第二無線本体装置と信号を送受信する第四プログラマブルロジックデバイス(以下、「第四PLD」という。)と、
を備える車上無線機。
【請求項8】
請求項6に記載の車上無線機において、
前記第一アンテナ部および前記第二アンテナ部と信号を通信する第二無線本体装置と、
前記第二無線本体装置と前記第一アンテナ部および前記第二アンテナ部とを接続する信号ケーブルとを有し、
前記第一アンテナ部は少なくとも
第三アンテナ回路と、
前記第三アンテナ回路に接続され、前記第二無線本体装置と信号を送受信する第三RF回路と、
前記第三RF回路に接続され、前記第二無線本体装置と信号を送受信する第三プログラマブルロジックデバイス(以下、「第三PLD」という。)と、を有し、
前記第二アンテナ部は少なくとも
第四アンテナ回路と、
前記第四アンテナ回路に接続され、前記第二無線本体装置と信号を送受信する第四RF回路と、
前記第四RF回路に接続され、前記第二無線本体装置と信号を送受信する第四プログラマブルロジックデバイス(以下、「第四PLD」という。)と、
を備える車上無線機。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の車上無線機において、
前記第一無線本体装置および前記第二無線本体装置は互いに電源が投入された状態において、いずれか一方の送信機能を動作させ、他方の送信機能を停止するように構成されること
を特徴とする車上無線機。
【請求項10】
請求項7または請求項9のいずれか1項に記載の車上無線機において、
前記第一無線本体装置および前記第二無線本体装置は互いに電源が投入された状態において、前記第一無線本体装置と前記第二無線本体装置はどちらも受信機能を動作させるように構成されること
を特徴とする車上無線機。
【請求項11】
車上無線機および地上無線機からなり、
車上無線機は、
列車外との送受信を実行するアンテナ部と、
前記アンテナ部と信号を通信する無線本体装置と、前記アンテナ部と前記無線本体装置とを接続する信号ケーブルを有し、
前記アンテナ部は少なくとも
アンテナ回路と、
前記アンテナ回路に接続されたRF回路と、
前記RF回路に接続されたプログラマブルロジックデバイス(以下、「PLD」という。)と、を有し、
地上無線機は、軌道に沿って複数機が設置され、信号の受信可能エリアが隣接する他の地上無線機と重複して配置される、
ことを特徴とする列車制御システム。
【請求項12】
請求項11に記載の列車制御システムにおいて、
前記地上無線機は、
車上無線機との送受信を実行するアンテナ部と、
前記アンテナ部と信号を通信する無線本体装置と、前記アンテナ部と前記無線本体装置とを接続する信号ケーブルを有し、
前記アンテナ部は少なくとも
アンテナ回路と、
前記アンテナ回路に接続されたRF回路と、
前記RF回路に接続されたプログラマブルロジックデバイス(以下、「PLD」という。)と、
を備える列車制御システム。
【請求項13】
列車に対して送受信を実行する第一アンテナ部と、
前記第一アンテナ部と信号を通信する第一無線本体装置と、前記第一アンテナ部と前記第一無線本体装置とを接続する信号ケーブルを有し、
前記第一アンテナ部は少なくとも
第一アンテナ回路と、
前記第一アンテナ回路に接続された第一RF回路と、
前記第一RF回路に接続された第一プログラマブルロジックデバイス(以下、「第一PLD」という。)と、
を備え、
前記第一無線本体装置は、
光ケーブルと接続可能に構成された光電変換インターフェースと、
当該第一無線本体装置の駆動電力を取得するための給電インターフェースと、
を備えることを特徴とする地上無線機。
【請求項14】
請求項13に記載の地上無線機において、
列車に対して送受信を実行する第二アンテナ部と、
前記第二アンテナ部と前記第一無線本体装置とを接続する信号ケーブルを有し、
前記第二アンテナ部は少なくとも
第二アンテナ回路と、
前記第二アンテナ回路に接続され、前記第一無線本体装置と信号を送受信する第二RF回路と、
前記第二RF回路に接続され、前記第一無線本体装置と信号を送受信する第二プログラマブルロジックデバイス(以下、「第二PLD」という。)と、
を備える地上無線機。
【請求項15】
請求項14に記載の地上無線機において、
前記第一アンテナ部および前記第二アンテナ部と信号を通信する第二無線本体装置と、
前記第二無線本体装置と前記第一アンテナ部および前記第二アンテナ部とを接続する信号ケーブルとを有し、
前記第一アンテナ部は少なくとも
前記第一アンテナ回路に接続され、前記第二無線本体装置と信号を送受信する第三RF回路と、
前記第三RF回路に接続され、前記第二無線本体装置と信号を送受信する第三プログラマブルロジックデバイス(以下、「第三PLD」という。)と、を有し、
前記第二アンテナ部は少なくとも
前記第二アンテナ回路に接続され、前記第二無線本体装置と信号を送受信する第四RF回路と、
前記第四RF回路に接続され、前記第二無線本体装置と信号を送受信する第四プログラマブルロジックデバイス(以下、「第四PLD」という。)と、
を備える地上無線機。
【請求項16】
請求項14に記載の地上無線機において、
前記第一アンテナ部および前記第二アンテナ部と信号を通信する第二無線本体装置と、
前記第二無線本体装置と前記第一アンテナ部および前記第二アンテナ部とを接続する信号ケーブルとを有し、
前記第一アンテナ部は少なくとも
第三アンテナ回路と、
前記第三アンテナ回路に接続され、前記第二無線本体装置と信号を送受信する第三RF回路と、
前記第三RF回路に接続され、前記第二無線本体装置と信号を送受信する第三プログラマブルロジックデバイス(以下、「第三PLD」という。)と、を有し、
前記第二アンテナ部は少なくとも
第四アンテナ回路と、
前記第四アンテナ回路に接続され、前記第二無線本体装置と信号を送受信する第四RF回路と、
前記第四RF回路に接続され、前記第二無線本体装置と信号を送受信する第四プログラマブルロジックデバイス(以下、「第四PLD」という。)と、
を備える地上無線機。
【請求項17】
請求項13から請求項16のいずれか1項に記載の地上無線機において、
前記信号ケーブルを固定する支柱部材を備えることを特徴とする地上無線機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車上無線機、地上無線機および列車制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特開2015-139205号公報(特許文献1)がある。この公報では、位置情報の生成と列車速度の制御を行う列車制御部及び列車制御部からの位置情報を送信する無線通信部を有する車上装置と、無線列車制御区間内に配置され、車上装置と交信する無線基地局と、無線基地局を介して受信した位置情報に基づいて列車の運行を制御する地上制御装置と、を備える列車無線システムであって、列車の先頭車両及び最後尾車両は車上装置をそれぞれ有し、これらが有する車上装置の無線通信部が交信する無線基地局の切り替えタイミングを同期させるシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら従来の無線式列車制御システムにおいて利用される無線機は、他産業でも利用可能な汎用機であることが多く、列車制御システムにおいて必ずしも好適なものではなかった。そこで本発明は無線式列車制御システムに適した無線機およびそれを有する列車制御システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、代表的な本発明の車上無線装置の一つは「列車外との送受信を実行するアンテナ部と、前記アンテナ部と信号を通信する無線本体装置と、前記アンテナ部と前記無線本体装置とを接続する信号ケーブルを有し、
前記アンテナ部は少なくとも、アンテナ回路と、前記アンテナ回路に接続されたRF回路と、前記RF回路に接続されたプログラマブルロジックデバイス(以下、「PLD」という。)とを備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、列車制御システムに適した車上無線機およびそれを有する列車制御システムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、無線式列車制御システムの概要図である。
【
図2】
図2は、車上制御装置および車上無線機の設置概要図である。
【
図3】
図3は、車上無線機の本体装置の内部構成に関する概要図である。
【
図4】
図4は、車上無線機の構成に関する概要図である。
【
図5】
図5は、冗長化された車上無線機の主系が稼働している状態の概要図である。
【
図6】
図6は、冗長化された車上無線機の従系が稼働している状態の概要図である。
【
図7】
図7は、冗長化された車上無線機の構成に関する概要図である。
【
図8】
図8は、地上無線機の配置に関する概要図である。
【
図9】
図9は、車上無線機の本体装置にアンテナ部を固定する場合の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて順に説明する。
なお各実施形態の構成要素はあくまでも例示であって、本発明はこれらの例示に限定されるものではない。本発明においては、実施形態に示される構成要素の他に必要な機器、装置を付加すること、各構成要素を複数の装置を共働させて実現すること、複数の構成要素を一つの装置として実現することのいずれを実施してもよい。
【実施例1】
【0009】
図1に、実施例1に係る列車制御システム100の一構成例を示す。
図1に示されるように列車制御システム100は、主に、地上側システム200および車上側システム300によって構成される。
本実施例における地上側システム200は、中央管理装置201、中央管理装置201が接続されるネットワーク202、ネットワーク202に接続される複数の地上制御装置203およびそれぞれの地上制御装置203に接続された無線基地局である複数の地上無線機204から構成される。ネットワークは有線と無線のいずれで構成されてもよく、また地上制御装置203の一部として、地上制御装置203の管理下にある無線基地局(地上無線機204)を統括する無線管理装置(図示せず)を設けてもよい。その他、ネットワーク202は公衆無線の基地局を利用するものであって、この基地局から中央管理装置201へ列車制御情報が送信されてもよい。
【0010】
地上側システム200は車上側システム300と地上無線機204を介して列車制御情報を送受信する。車上側から送信された列車制御情報が地上無線機204から地上制御装置203に向かって送られ、必要に応じて、隣接する地上制御装置203や中央管理装置201とネットワーク202を介して情報が共有される。地上制御装置203は、受け取った列車制御情報や他の列車の在線情報、支障の存在に基づき車上側に与えるべき指令情報を演算して送信する。指令情報には、例えば経路情報、停止限界点、速度制限情報などが含まれる。
【0011】
その他、中央管理装置201は車上側システム300が必要とする様々な情報を送信してもよい。例えば中央管理装置201が運行管理システム(図示せず)の一部を構成し、または運行管理システムから所定地点への到達目標時間を受信する装置であってもよい。車上側システム300が到達目標時間に基づき適切な走行パターンを演算することによって列車運行の適時性が高められる。
【0012】
車上側システム300は地上側システム200と空間波無線を介して接続され、列車301の走行制御に利用する制御情報を生成する。このシステムは主に車上無線機302、車上無線機302に接続された車上制御装置303が構成として含まれる。
なお車上側システム300は冗長系を確保するため一般的に複数台が一編成中に設けられ、本実施例ではそのうちの1基を例として挙げている。
【0013】
図2に本実施例における車上無線機302の概要を示す。車上無線機302の主な構成として、本体装置(「無線本体装置」ともいう。)304、本体装置304に接続された信号ケーブル305、信号ケーブル305と接続されたアンテナ部306が存在する。各構成の概要は以下のとおりである。
なお以降は変調方式としてOFDMが採用された場合を例示するが、本発明で採用できる変調方式はこれに限られるものではない。
【0014】
図3に車上無線機の本体装置の概要を示す。本体装置304は、内部に送信回路400および受信回路401を有し、車上制御装置303と同軸ケーブルによって接続され、またアンテナ部306と信号ケーブル305を介して接続される。その主な機能として車上制御装置303に対して地上側システム200から受け取った列車制御情報を送るとともに、車上制御装置303から出力された自列車の情報をアンテナ部306に向かって送出する機能を持つ。
【0015】
本体装置304における送信側の回路(送信回路400)は、車上制御装置303に接続された側から、通信対象データを符号化する符号化処理部402、誤り訂正符号化処理部403(インターリーバ)が設けられる。
【0016】
誤り訂正符号化処理部403の後方には、位相変調や直交振幅変調を実施する一次変調器404、一次変調後のデータをサブキャリア周波数に乗せるために並列化するS/P変換器405(直並列変換器)、並列化されたデータを時間軸の信号に変換するIFFT処理部406(逆離散フーリエ変換部)、時間軸に展開された信号にガードインターバルを付加するガードインターバル付加部407、ガードインターバル付加部407の後方に設けられたDA変換器408が設けられる。
【0017】
DA変換器408以降は、実数部信号および虚数部信号が直交変調器409に入力されて直列信号となり、さらにこの信号がIF変換器410へ入力される。本体装置304による送信時の処理はここまでを行い、本体装置304の出力端子からはIF変換器410の出力信号が外部に向って送出される。この出力信号は信号ケーブル305を伝わってアンテナ部306へ入力され、アンテナ部306において最終的な通信周波数への変換が実行される。
【0018】
本体装置304の受信側の回路(受信回路401)は、アンテナ部306に接続される側(すなわち信号ケーブル305との接続端側)からIF変換器410によってRF周波数の信号を中間周波数の信号へ変換し、その後、直交復調器411にて実数部、虚数部に信号を分け、AD変換器412へ信号が入力される。AD変換器412の出力からガードインターバル除去部413がガードインターバルを除去し、S/P変換器414が信号を並列化し、FFT処理部415(離散フーリエ変換部)にてそれぞれの信号は周波数軸上の情報に変換される。その後、誤り訂正符号化除去部417(デインターリーバ)、復号部418を経由してそれぞれの復調処理が実行され本来の伝送対象であるデータが取得される。
【0019】
これらの送信回路400および受信回路401はFPGA(field-programmable gate array)によって構成される。FPGAを採用することで実装環境に応じた調整が可能となり、無線機を搭載する列車に適した制御を実装することができる。その他、送受信回路と車上制御装置303との間に制御部を設け、車上制御装置303との通信を制御するように構成する。制御部には、車上無線機302の状態を車両情報を管理するシステムに報知する機能を搭載し、運転士や保守員が車上無線機302の動作状況を確認できるものとしてもよい。
【0020】
なお
図2において、本体装置304は電源を車内配電系307から直接取得するため、車内配電系307の電圧と制御部および送受信回路400,401の駆動電力との整合を取るためにトランスを有する。このように電源を確保することで、車上制御装置303の電源を落とした状態でも車上無線機302の健全性を試験できる。また車上制御装置303との接続ラインが少ないため車上無線機302の交換作業をしやすくなるメリットもある。
【0021】
続いて、
図4に車上無線機302の装置構成に関する概要を示す。上述のように構成された本体装置304は、信号ケーブル305を介してアンテナ部306と接続される。車上制御装置303との接続に関しては、信号ケーブル305と同様の同軸ケーブルを用いて接続される。また車内配電系307との接続は、車上制御装置303を介して実施するものでも、車上制御装置303を介さずに実施するものでもよい。
なお、車上制御装置303や車内配電系307は、車上無線機302の一部を成す構成ではない。しかし機器同士の接続関係について理解を容易とするために
図4に合わせて掲載している。これは
図5、
図6についても同様である。
アンテナ部306は、信号ケーブル305との接続端側にRF回路308を設け、RF回路308の出力端とアンテナ回路309とが接続された構成となっている。これにより、アンテナ部306は、本体装置304の送出信号をアンテナ回路309に対する入力直前で搬送波に乗せるように構成される。
なお信号ケーブル305は同軸ケーブルで構成され、本体装置304とアンテナ部306との間における外乱抑制に強いものを採用する。RF回路308は、電波利用に関する規格に従って出力が設定され、例えば2.4GHz帯であれば出力が10mW以下となるように設定される。
【0022】
更に信号ケーブル305は、本体装置304とアンテナ部306との接続部において、強固な接続状態を維持しやすいコネクタ形式を採用する。例えばTNC型コネクタやSMA型コネクタを採用することで信号の損失を抑えつつ、上記であげた2.4GHz帯において強固な接続を実現できる。
これらの接続型式を採用することによって、本体装置304とアンテナ部306とは実質的に一体化された機器と見なすことができ、この結果、一個の無線機を構成する機器として取り扱うことが可能となる。
更に望ましくは、TNC型コネクタの接続部は特殊ドライバーでのみ締結・解除が可能なカバー部材によって覆うものとする。これによって許可された保守員のみが無線機の分解点検等の作業を実施でき、本体装置304、信号ケーブル305およびアンテナ部306との接続関係が喪失される可能性を低減することができる。
【0023】
アンテナ部306は、さらにRF回路308に対してフィルタ回路310が設けられ、フィルタ回路310が後述するアンテナ電力と無線送受信信号を分離する。フィルタ回路310は信号ケーブル305に対して並列に接続されたインダクタおよび直列に接続されたキャパシタから構成され、直流電力をRF回路308の駆動電源として取り出し、中間周波数で伝送される無線送受信信号をRF回路308に送出するように構成される。
なおフィルタ回路310とRF回路308との間にバンドパスフィルタが別途設けられ、後述するPLD311の制御指令と無線送受信信号を分離する。
【0024】
RF回路308の動作はアンテナ部306に搭載されたプログラマブルロジックデバイス(PLD311)によって制御される。PLD311に対する制御指令は、アンテナ電力と同様に信号ケーブル305を介して伝送され、PLD311の駆動電力はアンテナ電力の一部を利用する。制御指令は例えば生成すべき周波数の情報や、RFの電圧振幅といった情報を含む。
【0025】
信号ケーブル305を介して、無線送受信信号、PLD311の制御指令、アンテナ電力が重畳した状態でアンテナ部306伝送される。したがってPLD311の入力部にも制御指令を受信するためにフィルタ回路が設けられる。この結果、アンテナ部306の内部には、アンテナ電源を分離するフィルタ回路310、無線送受信信号を分離するフィルタ回路、PLDの制御指令を分離するフィルタ回路が設けられる。
【0026】
なお、このような分離を実行するために、無線送受信信号、PLD制御指令、アンテナ電力の伝送には異なる周波数帯域が割り当てられる。本実施形態における車上無線機302では、無線送受信信号は中間周波数帯域、PLD制御指令は中間周波数帯と干渉しない周波数帯、アンテナ電力は直流とするといった割り当てを採用した。
【0027】
また、本体装置304の入出力端部は、これらの信号を信号ケーブル305に乗せるため、送信回路400および受信回路401、PLD制御指令送受信回路420およびアンテナ電源回路421の出力が合成されて送信されるように構成される。また本体装置304の入出力端部で、アンテナ部306と同様にそれぞれの信号を分離するためフィルタ回路が設けられる。
【0028】
車上無線機302は例えば
図1に示されるように、アンテナ部306が先頭車両の前面または前方上面に設けられ、本体装置304は車上制御装置303の近傍に設けられる。本体装置304とアンテナ部306との間は同軸ケーブルから構成される信号ケーブル305によって接続され、地上側システム200との通信が行われる。なお、信号ケーブル305は金属ケースなどのEMC(Electromagnetic Compatibility)対策部材を通すように配置して、アンテナ回路309の近傍まで引き回す。また信号ケーブル305は車両内の主要な車内配電系307から離して設置することが望ましい。
【0029】
以上で説明した車上無線機302の有用性は、次のように説明される。
一般的に、無線機は電波強度を高めようとする場合は、信号の減衰を嫌いアンテナ回路309と本体装置304の距離が小さくなるように設計する。しかしこのような無線機を列車の車上に搭載しようとすると、
図1の例であれば運転士の作業空間を狭めるといった他機器の配置関係を見直す必要がある。
一方で、上述した車上無線機302のように、本体装置304とアンテナ部306とを長尺の信号ケーブル305で接続することによって車上無線機302の配置自由度が向上する。またアンテナ部306にRF回路308を持たせることにより、空中線電力の規制を順守しつつ電波強度を高めることができ、地上側システム200との通信継続性能を向上できる。
【0030】
すなわち本実施例の車上無線機302であれば、車上と地上との通信にあたって、車上側から十分な強度の電波を発信することができ、本体装置304は設置に適した場所に配置することが容易となる。
また本体装置304を車上制御装置303と集約して配置することで、保守作業の効率向上を図ることもできる。
【0031】
なお本実施例の変形例として、アンテナ部306を二重に設けることも可能である。この場合、本体装置304の内部に分配器を設け、本体装置304は2本の信号ケーブル305を介して第一アンテナ部306aと第二アンテナ部306bの信号を送受信する。第一アンテナ部306aと第二アンテナ部306bについて、配置間隔をあけて空間ダイバーシチをとる、偏波の角度を変えた偏波ダイバーシチをとる、アンテナの設置角度を異なるように設計して角度ダイバーシチを確保するようにしてもよい。
【0032】
また、アンテナ部306に搭載したRF回路308を、本体装置304とは電源に関して独立させて駆動させてもよい。例えばアンテナ部306の設置地点から近傍に電力を取得できるコネクタが設けられている場合は、そちらから電源を取るように構成することもできる。
この場合、同軸ケーブル内を通過する信号の直流成分が大きく削減され、信号ケーブル305における直流抵抗による電力損失を下げることができる。この結果、本体装置304からアンテナ部306へ送出する電力量を下げることができ、本体装置304の小型化を図ることもできる。
【0033】
またアンテナ部306の電源を本体装置304とは別に取得する場合、信号ケーブル305に代わって光ケーブルを採用してもよい。この場合、中間周波数変換器の後段にAD変換器およびEO(Electronic/Optical)変換器を設けて信号を送出し、アンテナ部306はOE変換器とDA変換器を設ける。このような構成によれば、本体装置304とアンテナ部306との間では信号は光に変換されているため外部からの外乱を受けにくくなり、さらに信頼性の高い無線機を構成することができる。
【実施例2】
【0034】
続いて車上無線機302の他の実施形態を
図5~
図7に示す。実施例1と同様の部分については、説明を省略し、相違する部分を中心に詳細を示す。
図5は冗長化された車上無線機において、主系が稼働状態にあるときの概要図である。
また、
図6は冗長化された車上無線機において、従系が稼働状態にあるときの概要図である。
【0035】
図5~
図7に示される車上無線機302は、アンテナ部306の冗長化と車上無線機302そのものの冗長化を両立した構成を提案する。まずアンテナ部306の冗長化を図るために、アンテナ回路309は第一アンテナ回路309aおよび第二アンテナ回路309bの二系統が設置される。これらのアンテナ回路309a,309bに対して、主系本体装置304a(以下、「主系本体」ということがある。)および従系本体装置304b(以下、「従系本体」ということがある。)のそれぞれから信号ケーブル305を接続する。その結果、第一アンテナ回路309aおよび第二アンテナ回路309bはどちらも、主系本体304aおよび従系本体304bのいずれとも接続される。
【0036】
主系本体304aは第一アンテナ回路309aと第二アンテナ回路309bに対する信号の供給にあたって、途中に分配器は設けられず、直接、主系本体304aから信号ケーブル305をそれぞれのアンテナ回路309a,309bに向かって接続する。主系本体304aは、この信号ケーブル305の取り付けにともなって、第一アンテナ回路309aと接続される一組の送信回路400a/受信回路401aを備え、第二アンテナ回路309bに接続されるもう一組の送信回路400b/受信回路401bを備える。
一方、従系本体304bは、第一アンテナ回路309aと第二アンテナ回路309bに対する信号の供給にあたって、途中に分配器は設けられず、直接、従系本体304bから信号ケーブル305をそれぞれのアンテナ回路309a,309bに向かって接続する。従系本体304bは、第一アンテナ回路309aと接続される一組の送信回路400c/受信回路401cを備え、第二アンテナ回路309bに接続されるもう一組の送信回路400d/受信回路401dを備える。
【0037】
アンテナ部306は実施例1と同様にアンテナ回路309と信号ケーブル305との間にRF回路308を有する。RF回路308はアンテナ回路309へ入力される電力が利用周波数に関する空中線電力の規定上限に収まるようにゲインが調整される。
なお、
図7に示すように、それぞれのアンテナ回路309a,309bとそれぞれの本体装置である主系本体304aおよび従系本体304bとの間にRF回路が設けられる。
すなわち、第一アンテナ回路309aと主系本体304aとの間に主系第一RF回路308a(第一RF回路)、第一アンテナ回路309aと従系本体304bとの間に従系第一RF回路308b(第三RF回路)、第二アンテナ回路309bと主系本体304aとの間に主系第二RF回路308c(第二RF回路)、第二アンテナ回路309bと従系本体304bとの間に従系第二RF回路308d(第四RF回路)が設けられる。
また、主系本体304aと従系本体304bから第一アンテナ部306aおよび第二アンテナ部306bに対しては、実施例1と同様に、無線送受信信号、PLDの制御指令、アンテナ電力が重畳した状態で伝送される。
したがって、主系第一RF回路308aに対して第一PLD、従系第一RF回路308bに対して第三PLD、主系第二RF回路308cに対して第二PLD、従系第二RF回路308dに対して第四PLDが設けられる。また、信号ケーブル305から伝送される信号から、RF回路の駆動電力を分離するためのフィルタ回路と、無線送受信信号と制御指令とを分離するためのバンドパスフィルタ(第一バンドパスフィルタおよび第二バンドパスフィルタ)が、それぞれのRF回路およびPLDに対して設けられる。
【0038】
なお、このような分離を実行するために、無線送受信信号、PLD制御指令、アンテナ電力の伝送には異なる周波数帯域が割り当てられる。本実施形態における車上無線機302では、無線送受信信号は中間周波数帯域、PLD制御指令は中間周波数帯と干渉しない周波数帯、アンテナ電力は直流とするといった割り当てを採用した。
【0039】
第一アンテナ回路309a、主系第一RF回路308a、従系第一RF回路308bをハウジング500aに格納し、第二アンテナ回路309bと主系第二RF回路308c、従系第二RF回路308dをハウジング500bに格納する構成としてもよい。このように構成した場合、ハウジング500a、500bからそれぞれ2本の信号ケーブル305が伸びて、主系本体304aおよび従系本体304bに接続される。
【0040】
またそれぞれのアンテナ回路309a,309bは二つのRF回路308と信号の送受信を実行するため、アンテナ回路309はそれぞれのRF回路308と個別に接続する給電部を有する。給電部を一口にしてそれぞれのRF回路と混合器を介して接続するように構成することも可能である。しかし、受信信号のレベルが分配損失によって低下するため、給電部を二口設けることが望ましい。
【0041】
以上で説明した冗長化された車上無線機302は、次のように動作させることが可能である。まず通常の運用時は主系本体304aを動作させ(運用状態)、従系本体304bは電源をoffとし動作しない状態(運用停止状態)とする。
図5に示すように、運用状態にある主系本体304aは、実施例1で説明した列車制御情報に関する送受信を実行し、送信動作の際は、主系本体304aから第一アンテナ部306aと第二アンテナ部306bの双方へ信号が送信される。第一アンテナ部306aでは主系第一RF回路308aによって増幅された信号が第一アンテナ回路309aに対して供給され、第二アンテナ部306bでは主系第二RF回路308cによって増幅された信号が第二アンテナ回路309bへ供給される。
【0042】
一方、受信動作時は、第一アンテナ回路309aおよび第二アンテナ回路309bそれぞれから信号ケーブル305を介して主系本体304aへ信号が送られ、復調処理を実施した後に車上制御装置303へ列車制御情報が伝送される。
【0043】
また、第一アンテナ回路309aと第二アンテナ回路309bは、ダイバーシチを確保するため、例えば第一アンテナ回路309aと第二アンテナ回路309bを離して設置して空間ダイバーシチを確保したり、偏波の角度を異なるものとして偏波ダイバーシチを確保することとしてもよい。これらの処置によって通信品質をさらに向上させることができる。
【0044】
もし主系本体304aまたは主系本体304aに接続された主系第一RF回路308a,主系第二RF回路308cのいずれかに故障が生じた場合は、主系本体304aの運用を停止し、従系本体304bの運用を開始する。この切り替え作業は車上制御装置303からの指令に基づき実施され、運転士または保守作業員によって制御される。従系本体304bの動作は、
図6に示すとおり、主系本体304aと同様であるため、地上側システム200との通信を確立するための特別の調整は原則として不要である。
【0045】
以上で説明する車上無線機302の冗長性は次のように説明できる。まず、それぞれの本体装置に対して二系統のアンテナ部が設けられるため、一方のアンテナ部を介した通信が何らかの理由で通信困難な事象(例えば局所的にノイズが強まるなど)が生じたとしても、他方のアンテナ部を介した通信が維持されていれば、車上側システム300と地上側システム200との通信が維持可能である。また本体装置が主系、従系の二重化を施されているため、一方が故障しても他方を運用することで車上無線機302が利用不可となる状況は抑制される。
【0046】
更に、それぞれのアンテナ部は主系本体304a、従系本体304bのそれぞれが有する送受信回路と一対一接続されたRF回路を有するため、主系本体304aに接続されたRF回路が故障して送受信が困難となった場合は、従系本体304bへと切り替えることで運用を継続できる。
なお各RF回路はそれぞれの本体装置と信号ケーブルを介して直接接続されているため、RF回路の切り替えも本体装置の切り替えによって実現でき、切り替え作業の迅速化を図ることができる。またRF回路と本体装置との間は信号ケーブルを配置するのみで分配器やRF回路切り替え用のスイッチ等の設置を排したことにより、これらの装置を要因とする故障ケースを根本的に排除している。
【0047】
また、アンテナ回路も第一アンテナ回路309aと第二アンテナ回路309bとが設けられ、それぞれのアンテナ回路に同じ信号が与えられて動作するため、一方が故障したとしても他方によって地上側システム200との通信を継続可能である。
【0048】
このようにアンテナ回路と、RF回路、本体装置の冗長化を図ることによって、一方の系統に不具合が生じたとしても他方を動作させることで地上側システム200との通信を維持できる。くわえて電子機器の設置員数を最少化としたことによって故障要因が削減されているため故障確率が低減されている。
【0049】
以上のような車上無線機302を列車上に設けることにより、地上側システム200との通信が途絶する可能性を低減することができる。すなわち無線式の列車制御システム100に適した無線機を提供することができる。
【0050】
また、本実施例の変形例として、それぞれのRF回路に対してアンテナ回路を設けるように構成することもできる。すなわち主系第一RF回路308aに接続される主系第一アンテナ回路(第一アンテナ回路)、主系第二RF回路308cに接続される主系第二アンテナ回路(第二アンテナ回路)、従系第一RF回路308bに接続される従系第一アンテナ回路(第三アンテナ回路)、従系第二RF回路308dに接続される従系第二アンテナ回路(第四アンテナ回路)、を設けてもよい。このように冗長系を構成した場合、主系本体304aを運用状態としておき、かつ従系本体304bは電源を投入しつつも運用停止状態(いわゆるホットスタンバイ)とすることができる。
【0051】
すなわち従系本体304bの電源は投入されているため送受信可能な状態とするものの、設定により特に地上側システム200に対する送信処理を選択的に停止しておく。このような設定は車上制御装置303による指令に基づき実行される。送信処理を選択的に停止する方法としては、例えば、送信回路のみ動作を禁止する、RF回路に対する電力供給が送信タイミングにおいて停止されるようにすることが挙げられる。
【0052】
このような無線機は運用停止状態であっても受信回路は動作状態としておくことができるため、従系本体304bに主系本体304aと同様の内部処理を実行させることができる。これは主系本体304aに異常が生じて主系本体304aを運用停止し、従系本体304bを運用開始するという切り替え制御をさらに速やかに実行することができる。すなわち、列車の運行に対する影響を最小限に抑える上で有効である。
【0053】
また、本実施例の変形例として、主系本体304aおよび従系本体304bの設置場所が異なる場所に設置し、アンテナ部との距離関係を異なることとなってもよい。例えば、主系本体304aは運転席の近傍に設けられ、従系本体304bは主系本体304aよりもアンテナ部から遠い位置へ配置する場合が考えられる。このような場合には、主系本体304aと各アンテナ部とを接続する信号ケーブル305と、従系本体304bと各アンテナ部とを接続する信号ケーブル305とは、後者の方がより長い同軸ケーブルを利用することとなる。
【0054】
主系本体304aと従系本体304bとの間で信号ケーブル305の長さが異なると、それぞれのケーブルにおいて生じるケーブルロスの大きさは異なる。このため、主系本体304aと接続されたRF回路と、従系本体304bに接続されたRF回路とでは後者のゲインを大きくなるように設定すればよい。このように、予めケーブル長に応じたゲインを設定することによって、主系本体304aと従系本体304bの切り替えを実施したとしても、電波の強度を略同一レベルにできることとなる。
【0055】
本変形例は、例えば既存の非無線式制御列車を改修し無線化を図る際に、車上無線機302の配置を柔軟に選択可能とし、且つ、冗長化を図る上で有用である。特に既存列車を改修する場合は、通常の営業をしつつ改修を施すため、経過措置として無線制御用の車上制御装置303と既存の車上制御装置303の両方を設置した状態が生じる可能性がある。ここで更に車上無線機302を追設するため、冗長化を図る場合に両系を集約して配置することが困難となりやすい。この例のように主系本体304aと従系本体304bとを分散して配置し、それぞれの信号ケーブル305に応じたゲインを設定することによって、そういった経過措置においても柔軟な対応を図ることができる。
【0056】
なおケーブル長の相違によって生じるケーブルロスの相違に関しては、同軸ケーブルを従系本体304bと接続する方を損失が低いものとしたり、その他従系本体304bの送信出力を主系本体304aよりも高くなるように構成するなどの手法を用いて代替してもよい。
【0057】
また、より小型化を重視し、本体装置304は一組の送信回路・受信回路を設け、中間周波数変調器の後段に分配器を設けることとしてもよい。分配器によって信号の電力は低下するが、アンテナ部のRF回路によって増幅することができるため、通信は可能である。
さらに、主系本体304aと従系本体304bは、主系と従系の切り替えスイッチと、配電系との接続状態を制御するスイッチを介して車内配電系307と接続されてもよい。切り替えスイッチは主系本体304aを駆動対象に指定すると従系本体304bを配電系から切り離し、従系本体304bを駆動対象とすると主系本体304aを車内配電系307から切り離すように機能する。この切り替えスイッチと車内配電系307との間に設けられる電源スイッチを設け、電源スイッチによって車内配電系とそれぞれの本体装置304に対する電力供給を制御する。電源スイッチと切り替えスイッチの配置関係は反対であってもよい。
【0058】
切り替えスイッチを有することで主系本体304aと従系本体304bが同時に電源投入状態となる可能性を回避し、いずれか一方のみを動作させる仕組みを容易に実現できる。また電源スイッチを有することで、主系と従系の切り替え制御と独立して本体装置に関する電源のオンオフを管理できる。この結果、主系本体304aを動作させるモード、従系本体304bを動作させるモード、いずれの本体装置も停止させる全待機モードの切り替えが可能となり、本体装置の交換作業時の安全性向上を図ることができる。
【実施例3】
【0059】
続いて車上無線機302および地上無線機204との連携によって実現される列車制御システムについて説明する。なお実施例1または実施例2と共通する部分の説明は省略し、相違する部分を中心に説明する。
【0060】
図8は本実施例の列車制御システムの概略を示す。無線を用いた列車制御システムは、車上無線機302および地上無線機204を主な構成として有する。車上無線機302は実施例2で示す冗長化が施されたものを示すが、実施例1にて提示した一系統の車上無線機302を採用してもよい。
【0061】
地上無線機204は、軌道を走行する列車と通信するため、軌道に沿って複数機が設置される。設置間隔は一基が故障したとしても通信を継続可能とするため、信号の受信可能エリアが隣接する他の地上無線機204によって大部分がカバーされる間隔で配置される。
【0062】
図9に示されるように、地上無線機204は上述した車上無線機302と略同様の構成を採用でき、アンテナ部601と本体装置602から構成され、本体装置602が地上制御装置203と接続される。
なお地上制御装置203は、軌道に沿って設置された複数の地上無線機204と信号を送受信可能に接続される。例えば互いに隣接する10台程度の地上無線機204を一つのグループとして1台の地上制御装置203へ接続し、それらの地上無線機204の通信エリアを一つの列車制御の単位区間として運用することもできる。
【0063】
また、
図9に示すように、地上無線機204は車上無線機302と同様にアンテナ回路603の入力直前にRF回路604を設けるため電波の出力強度を高めることができる。そのため地上無線機204の配置間隔は、電波の利用に関する規則上の上限近傍の強度に基づき設計することができる。また、本体装置602で増幅してアンテナ回路603に送出する場合よりも設置間隔を広げることができる。このため、地上無線機204の配置数を削減に寄与する。
【0064】
なお、車上無線機302と異なり、地上無線機204は複数台が設けられる。電源を地上制御装置203から得ることも可能である。しかし、地上制御装置203から個別に電源を取ると、ケーブルの設置作業が煩雑化し、かつ地上制御装置203も給電対象数に応じた設計が必要となる。したがって地上制御装置203(
図8参照)を介さずにそれぞれの地上無線機204が給電を受けるための電力供給用のケーブル線205を敷設することもできる。
なお、地上制御装置203やケーブル線205は、地上無線機204の一部を成す構成ではない。しかし機器同士の接続関係について理解を容易とするために
図9に合わせて掲載している。
【0065】
また、それぞれの地上無線機204の本体装置602はそれぞれのアンテナ部601の近傍に設置される。本体装置602を集約して設置した場合、本体装置602からアンテナ部601までの距離が大きく異なる本体装置602が発生し、RF回路604の調整が煩雑化しやすい。そのため、それぞれの本体装置602をアンテナ部601の近傍に設置することで、信号ケーブル605とRF回路604の設定を共通化し、地上無線機204の運用開始までの調整工程を短縮することができる。
【0066】
また、地上無線機204は、本体装置602に対して上方にアンテナ部601を固定するような場合は、
図9に示すように、支柱部材609に対してアンテナ部601を据え付けるとよい。この際に、支柱部材609の内部が中空であれば、支柱部材609の内側に信号ケーブル605を設置する。これにより外部ノイズの干渉を抑制しつつ、本体装置602からアンテナ部601へと信号を送出できる。
なお、支柱部材609に代わり、他の部材に対してアンテナ部601を固定してもよい。例えばトンネル内部などであれば、トンネル壁面に対してアンテナ部601を固定するものであってもよい。
【0067】
また、地上無線機204の配置間隔を広げると、一台の地上制御装置203へ接続される地上無線機204の地理的な配置間隔が広がる。配置間隔の増大により、地上制御装置203と各地上無線機204との送受信も距離の影響を受けづらいものとすることが望ましい。このため、本実施例では光ケーブルによるネットワークを介して地上制御装置203と地上無線機204とを接続し、このような課題を解決している。
さらに、車上無線機302の場合は、車上制御装置303と同軸ケーブルを介して接続することもできるが、地上無線機204は光ケーブル606によって地上制御装置と接続する場合には、地上無線機204の入出力端は電気信号を光信号に変換する光電変換IF607が設けられる。
【0068】
したがって、地上無線機204は、地上制御装置203と通信するための光電変換IF607、ケーブル線205から電力を取得するための給電IF608を有することが望ましい。車上無線機302も車上制御装置303との通信を光信号によって実行する方式を採用する場合は、地上無線機204と同様の対応をとることも可能である。
【0069】
また、地上無線機を車上無線機と同様に冗長化してもよい。すなわち地上無線機204も、
図5から
図7に示したようにアンテナ部を二重化し、各アンテナ部に格納されるRF回路も主系本体と接続されるものと従系本体に接続されるものとを設置してもよい。本実施例の列車制御システムは、地上無線機と隣接する地上無線機の通信エリアを相互にカバーするように配置して構築されるため、それによって第一段階の冗長化が図られている。
これに加えて第二の冗長化として地上無線機を主系・従系の二重化することによって、もし電波環境が著しく厳しくなり、隣接する地上無線機によるカバーを受けられない地上無線機が故障した場合でも、従系を動作させることによって車上側システムと地上側システムとの通信を継続できる。
【0070】
以上、本発明について複数の実施例を挙げ説明した。なお本発明は各実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲で、適宜、構成の追加、変更、削除が可能である。
例えば本実施例では、車上制御装置に対して車上無線機を独立して設ける場合を示したが、車上無線機の本体装置を車上制御装置の一部として設けることもできる。
また、車上無線機の本体装置は、列車の先頭車両および前記後端車両の間に配置される中間車両に設置されても良い。そして、車上無線機のアンテナ部は列車の先頭車両または後端車両に設置されても良い。
また無線通信において利用する電波帯域は用途に応じて変更可能であり、他の帯域を利用する無線式の列車制御システムであっても本発明を適用することで、無線式の列車制御システムに適した無線機およびその通信システムが提供される。
更に、本開示においては、列車を制御対象として説明したが、本発明は列車以外の移動体に対しても適用可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0071】
100・・・列車制御システム
200・・・地上側システム
201・・・中央管理装置
202・・・ネットワーク
203・・・地上制御装置
204・・・地上無線機
205・・・ケーブル線
300・・・車上側システム
301・・・列車
302・・・車上無線機
303・・・車上制御装置
304・・・本体装置
304a・・・主系本体装置
304b・・・従系本体装置
305・・・信号ケーブル
306・・・アンテナ部
307・・・車内配電系
308・・・RF回路
308a・・・主系第一RF回路
308b・・・従系第一RF回路
308c・・・主系第二RF回路
308d・・・従系第二RF回路
309・・・アンテナ回路
309a・・・第一アンテナ回路
309b・・・第二アンテナ回路
310・・・フィルタ回路
311・・・PLD
400・・・送信回路
401・・・受信回路
402・・・符号化処理部
403・・・誤り訂正符号化処理部
404・・・一次変調器
405・・・S/P変換器
406・・・IFFT処理部
407・・・ガードインターバル付加部
408・・・DA変換器
409・・・直交変調器
410・・・IF変換器
411・・・直交復調器
412・・・AD変換器
413・・・ガードインターバル除去部
414・・・S/P変換器
415・・・FFT処理部
416・・・一次変調器
417・・・誤り訂正符号化除去部
418・・・復号部
601・・・アンテナ部(地上無線機)
602・・・本体装置(地上無線機)
603・・・アンテナ回路
604・・・RF回路
605・・・信号ケーブル
606・・・光ケーブル
607・・・光電変換IF
608・・・給電IF
609・・・支柱部材