(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】制御装置、及び該制御装置を備えた真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
F16C 32/04 20060101AFI20221025BHJP
F04D 19/04 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
F16C32/04 A
F04D19/04 A
(21)【出願番号】P 2019048517
(22)【出願日】2019-03-15
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105201
【氏名又は名称】椎名 正利
(72)【発明者】
【氏名】川島 敏明
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-159530(JP,A)
【文献】特開2014-137116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 32/04
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体と、
該回転体の半径方向位置又は軸方向位置を電磁石により制御する磁気軸受手段とを備えた制御装置において、
前記電磁石に流す電流について過去に設定された少なくとも一つの第1の電流指令値を記憶する電流記憶部と、
前記電磁石に流す電流について新たに設定された第2の電流指令値と前記電流記憶部より読み出された前記第1の電流指令値とに基づき前記電磁石に対し指令通りの電流を流すための電圧を演算し、前記電磁石に対し前記電圧を出力する出力電圧演算回路とを備えたことを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記電磁石を流れる電流の制御に必要な定数値を記憶する定数記憶部を備え、
該定数記憶部で記憶された定数値に基づき前記出力電圧演算回路による演算が行われることを特徴とする請求項1記載の制御装置。
【請求項3】
前記電磁石に流れる電流を検出する電流検出手段と、
該電流検出手段で検出された電流と前記第1の電流指令値に基づき、若しくは、前記電流検出手段で検出された電流と前記第2の電流指令値に基づき、直流成分や低周波成分の誤差を抑制するための信号を生成し、前記出力電圧演算回路に対し前記信号を出力する低周波フィードバック回路とを備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記電流検出手段で検出された電流と前記第1の電流指令値に基づき、若しくは、前記電流検出手段で検出された電流と前記第2の電流指令値に基づき、高周波成分の誤差を抑制するための信号を生成し、前記出力電圧演算回路に対し前記信号を出力する電流誤差補正回路を備えたことを特徴とする請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記出力電圧演算回路では、前記電流記憶部より過去に設定された複数個の第1の電流指令値と前記第2の電流指令値とに基づき、前記電磁石に対し指令通りの電流を流すための電圧を演算し、前記電磁石に対し前記電圧を出力することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項6】
前記電磁石と電源との間を断接するスイッチング素子を含む励磁回路と、
前記スイッチング素子をパルス制御するパルス幅をタイミング毎に演算するパルス幅演算手段とを備え、
前記電流記憶部には、前記電磁石に流れる電流について過去に設定された電流指令値Ir[n]が保存され、
前記パルス幅が、
電磁石インダクタンスLm、電磁石抵抗Rm、電源電圧Vd、サンプリング間隔Ts、電流検出値IL、電流の増減の極性を表す係数P[n+1]としたときに、前記電磁石に流れる電流について新たに設定された電流指令値Ir[n+1]と前記電流記憶部より読み出された前記電流指令値Ir[n]とに基づき数8で演算されることを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
[数8]
【請求項7】
前記電磁石と電源との間を断接するスイッチング素子を含む励磁回路と、
前記スイッチング素子をパルス制御するパルス幅をタイミング毎に演算するパルス幅演算手段とを備え、
前記電流記憶部には、前記電磁石に流れる電流について過去に設定された電流指令値Ir[n]が保存され、
前記パルス幅が、
電磁石インダクタンスLm、電磁石抵抗Rm、電源電圧Vd、サンプリング間隔Ts、電流検出値IL、電流の増減の極性を表す係数P[n+1]、積分項Yi[n]としたときに、前記電磁石に流れる電流について新たに設定された電流指令値Ir[n+1]と前記電流記憶部より読み出された前記電流指令値Ir[n]とに基づき数9で演算されることを特徴とする請求項3に記載の制御装置。
[数9]
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の制御装置を備えたことを特徴とする真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は制御装置、及び該制御装置を備えた真空ポンプに係わり、特に電流制御量にノイズが混入しないことで振動や騒音の少ない磁気軸受が実現でき、回路の低コスト化、小型化を図った制御装置、及び該制御装置を備えた真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気軸受は半導体製造工程や電子顕微鏡で使用されるターボ分子ポンプ等の回転機器に使用される。ターボ分子ポンプの磁気軸受の構成例に基づき、従来の磁気軸受励磁回路について説明する。
【0003】
磁気軸受の構成例としてターボ分子ポンプの断面図を
図11に示す。
図11において、ターボ分子ポンプは、ガスを排気するためのタービンブレードによる複数の回転翼101a、101b、101c…を多段に備えた回転体103を備える。
【0004】
この回転体103を軸承するために、上側ラジアル方向電磁石105a、下側ラジアル方向電磁石107a及びアキシャル方向電磁石109aを配設することにより磁気軸受が構成されている。また、上側ラジアル方向センサ105b、下側ラジアル方向センサ107b、アキシャル方向センサ109bを備える。
【0005】
上側ラジアル方向電磁石105a及び下側ラジアル方向電磁石107aは、それぞれの横断面図を示す
図12のように構成された電磁石巻線により4個の電磁石が構成される。これらの4個の電磁石は、2個ずつ対向配置され、X軸方向及びY軸方向の2軸の磁気軸受を構成する。
【0006】
詳細には、隣接する2個のコア凸部にそれぞれ巻回された電磁石巻線111、111を1組として互いに逆極性に配置することにより一つの電磁石が形成される。この電磁石は、回転体103を挟んで対向するコア凸部の電磁石巻線113、113による電磁石と一つの対を構成し、それぞれが回転体103をX軸の正方向又は負方向に吸引する。
【0007】
また、X軸と直交するY軸方向においては、2個の電磁石巻線115、115と、これに対向する2個の電磁石巻線117、117についても、上記同様に、Y軸方向について対向する電磁石として一つの対を構成する。
【0008】
アキシャル方向電磁石109a、109aは、その縦断面図を示す
図13のように、回転体103のアーマチャ103aを挟む2つの電磁石巻線121、123により、一つの対として構成される。各電磁石巻線121、123による2個の電磁石109a、109aは、それぞれアーマチャ103aを回転軸線の正方向又は負方向に吸引力を作用する。
【0009】
また、上側ラジアル方向センサ105b、下側ラジアル方向センサ107bは、上記電磁石105a、107aと対応するXY2軸に配置された4個のセンシングコイルからなり、回転体103の径方向変位を検出する。アキシャル方向センサ109bは回転体103の軸方向変位を検出する。これらセンサは、それぞれの検出信号を図示せぬ磁気軸受制御装置に送るように構成されている。
【0010】
これらのセンサ検出信号に基づき、磁気軸受制御装置がPID制御等により上側ラジアル方向電磁石105a、下側ラジアル方向電磁石107a及びアキシャル方向電磁石109a、109aを構成する計10個の電磁石の吸引力を個々に調節することにより、回転体103を磁気浮上支持するように構成されている。
【0011】
次に、上述のように構成される磁気軸受の各電磁石を励磁駆動する磁気軸受励磁回路について説明する。電磁石巻線に流れる電流をパルス幅変調方式により制御(PWM制御)する磁気軸受励磁回路の例を
図14に示す。
【0012】
図14において、1個の電磁石を構成する電磁石巻線111は、その一端がトランジスタ131を介して電源133の正極に接続され、他端がトランジスタ132を介して電源133の負極に接続されている。
【0013】
そして、電流回生用のダイオード135のカソードが電磁石巻線111の一端に接続され、アノードが電源133の負極に接続されている。同様に、ダイオード136のカソードが電源133の正極に接続され、アノードが電磁石巻線111の他端に接続されている。電源133の正極と負極間には安定化のため電解コンデンサ141が接続されている。
【0014】
また、トランジスタ132のソース側には電流検出回路139が介設され、この電流検出回路139で検出された電流が制御回路137に入力されるようになっている。
【0015】
以上のように構成される励磁回路110は、電磁石巻線111に対応されるものであり、他の電磁石巻線113、115、117、121、123に対しても同じ励磁回路110が構成される。従って、5軸制御型磁気軸受の場合には、合計10個の励磁回路110が電解コンデンサ141と並列に接続されている。
【0016】
かかる構成において、トランジスタ131、132の両方をonすると電流が増加し、両方をoffすると電流が減少する。そして、どちらか1個onするとフライホイール電流が保持される。フライホイール電流を流すことで、ヒステリシス損を減少させ、消費電力を低く抑えることができる。
【0017】
そして、このフライホイール電流を電流検出回路139で測定することで電磁石巻線111を流れる電磁石電流ILが検出可能である。制御回路137は、電流指令値と電流検出回路139による検出値とを比較してパルス幅変調による1周期内のパルス幅を決め、トランジスタ131、132のゲートに信号送出する。
【0018】
電流指令値が検出値より大きい場合には、
図15に示すように1周期Ts(例えばTs=40μs)中で1回だけパルス幅時間Tpに相当する時間分、トランジスタ131、132の両方をonする。このとき電磁石電流ILが増加する。
【0019】
一方、電流指令値が検出値より小さい場合には、
図16に示すように1周期Ts中で1回だけパルス幅時間Tpに相当する時間分、トランジスタ131、132の両方をoffする。このとき電磁石電流ILが減少する。
【0020】
磁気軸受制御装置は、回転体103の位置が目標位置からずれた場合、位置を修正するための電流指令値を生成し、制御回路137で電流検出値が電流指令値に等しくなるように電磁石電流をフィードバック制御している。電磁石111、113、115、117、121、123に対し、電流指令値に追従した電流を流すことで回転体103は目標位置に保持される。
【0021】
ここに、特許文献1には電磁石電流を電流指令値に一致するように調整するための演算方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
ところで、磁気軸受動作中は、上述したように電磁石パワーアンプやモータ駆動用のインバータが電力をPWM制御するために、多くのスイッチングノイズが発生している。このノイズは制御回路137の電流信号に混入し、電磁石電流にノイズ電流が流れ、望ましくない振動や騒音の原因になっている。そして、このノイズに低周波成分は少なく、ほとんどが高周波ノイズである。
【0024】
ここに、ノイズを低減するために、信号をグランドラインでシールドしたり、回路内にローパスフィルタを追加すると、回路が大型化し、コストも上昇してしまう。また、ローパスフィルタを強化すると、磁気軸受の制御が不安定になってしまう。
【0025】
また、最近は回路をコストダウンするために、電磁石電流を連続的に検出する高価な電流検出回路を用いず、スパイクノイズの多い電流検出抵抗のパルス電流を瞬間的にサンプリングする方式を採用している。
このサンプリングする方式では、デジタル制御の低ノイズ化に必須のアンチエイリアシングローパスフィルタを使用することができないので、本質的に高度の低ノイズ化ができない。
【0026】
本発明はこのような従来の課題に鑑みてなされたもので、電流制御量にノイズが混入しないことで振動や騒音の少ない磁気軸受が実現でき、回路の低コスト化、小型化を図った制御装置、及び該制御装置を備えた真空ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
このため本発明(請求項1)は制御装置の発明であって、回転体と、該回転体の半径方向位置又は軸方向位置を電磁石により制御する磁気軸受手段とを備えた制御装置において、前記電磁石に流す電流について過去に設定された少なくとも一つの第1の電流指令値を記憶する電流記憶部と、前記電磁石に流す電流について新たに設定された第2の電流指令値と前記電流記憶部より読み出された前記第1の電流指令値とに基づき前記電磁石に対し指令通りの電流を流すための電圧を演算し、前記電磁石に対し前記電圧を出力する出力電圧演算回路とを備えたことを特徴とする。
【0028】
AC高周波成分についてはオープンループで制御する。即ち、AC高周波成分の制御については電流検出値を用いず、第1の電流指令値と第2の電流指令値間の電流指令値の変化分から必要なアンプ出力を決定する。
【0029】
このように、高周波電流の制御量の計算に電流検出値を使用せず、計算による推定値を用いることで、電流制御量にノイズが混入しないため、振動や騒音の少ない磁気軸受が実現できる。高周波の電流を検出する必要が無いので、周波数応答性の低い安価な電流検出器が使用でき、またノイズ対策に必要な部品も削減できるので、低コストで小型な磁気軸受回路が実現できる。
更に、従来の制御方法では電流制御の誤差を抑制するため回路の電流制御ループのゲインを高くすると電流制御が高周波数で発振してしまうが、本方式では高周波をフィードバック制御しないので電流制御の発振はあり得ない。
【0030】
また、本発明(請求項2)は制御装置の発明であって、前記電磁石を流れる電流の制御に必要な定数値を記憶する定数記憶部を備え、該定数記憶部で記憶された定数値に基づき前記出力電圧演算回路による演算が行われることを特徴とする。
【0031】
定数記憶部を備えたことで、異なる容量の真空ポンプについてもその真空ポンプに特有の定数値を定数記憶部で変えるだけで済み、出力電圧演算回路による演算が共通化できる。
【0032】
更に、本発明(請求項3)は制御装置の発明であって、前記電磁石に流れる電流を検出する電流検出手段と、該電流検出手段で検出された電流と前記第1の電流指令値に基づき、若しくは、前記電流検出手段で検出された電流と前記第2の電流指令値に基づき、直流成分や低周波成分の誤差を抑制するための信号を生成し、前記出力電圧演算回路に対し前記信号を出力する低周波フィードバック回路とを備えたことを特徴とする。
【0033】
電磁石電流の目標変化量を推定値により制御していると、直流成分については、電流検出値と電流目標値にオフセット誤差が出てしまうので、電流検出値と電流目標値の誤差を積分器に通して電流の計算値に加算する。積分器は高周波のノイズを強力に減衰できるので、積分器を追加してもノイズはほとんど増加せずにオフセットを除去できる。
【0034】
更に、本発明(請求項4)は制御装置の発明であって、前記電流検出手段で検出された電流と前記第1の電流指令値に基づき、若しくは、前記電流検出手段で検出された電流と前記第2の電流指令値に基づき、高周波成分の誤差を抑制するための信号を生成し、前記出力電圧演算回路に対し前記信号を出力する電流誤差補正回路を備えたことを特徴とする。
【0035】
オープンループアンプでは、AC高周波成分は、電流検出値を用いず、電流指令値を用いて電流を制御するため、電流指令値と実際の電流の間に誤差が生じる場合がある。この誤差を削減するために電流誤差補正回路を備える。この電流誤差補正回路は、入力された電流指令値と電流検出値の高周波成分の誤差を抑制するための信号を生成し、この信号を出力する。
【0036】
このことにより、電流誤差補正回路は電磁石電流のノイズを増やすことなく、電流指令値と実際の電流検出値の誤差を抑制できる。
【0037】
更に、本発明(請求項5)は制御装置の発明であって、前記出力電圧演算回路では、前記電流記憶部より過去に設定された複数個の第1の電流指令値と前記第2の電流指令値とに基づき、前記電磁石に対し指令通りの電流を流すための電圧を演算し、前記電磁石に対し前記電圧を出力することを特徴とする。
【0038】
過去の複数の電流指令値を使用することでローパスフィルタ特性を持たせることができ、パルス幅の計算を安定させることができる。
【0039】
更に、本発明(請求項6)は制御装置の発明であって、前記電磁石と電源との間を断接するスイッチング素子を含む励磁回路と、前記スイッチング素子をパルス制御するパルス幅をタイミング毎に演算するパルス幅演算手段とを備え、前記電流記憶部には、前記電磁石に流れる電流について過去に設定された電流指令値Ir[n]が保存され、前記パルス幅が、電磁石インダクタンスLm、電磁石抵抗Rm、電源電圧Vd、サンプリング間隔Ts、電流検出値IL、電流の増減の極性を表す係数P[n+1]としたときに、前記電磁石に流れる電流について新たに設定された電流指令値Ir[n+1]と前記電流記憶部より読み出された前記電流指令値Ir[n]とに基づき数8で演算されることを特徴とする。
[数8]
【0040】
更に、本発明(請求項7)は制御装置の発明であって、前記電磁石と電源との間を断接するスイッチング素子を含む励磁回路と、前記スイッチング素子をパルス制御するパルス幅をタイミング毎に演算するパルス幅演算手段とを備え、前記電流記憶部には、前記電磁石に流れる電流について過去に設定された電流指令値Ir[n]が保存され、前記パルス幅が、電磁石インダクタンスLm、電磁石抵抗Rm、電源電圧Vd、サンプリング間隔Ts、電流検出値IL、電流の増減の極性を表す係数P[n+1]、積分項Yi[n]としたときに、前記電磁石に流れる電流について新たに設定された電流指令値Ir[n+1]と前記電流記憶部より読み出された前記電流指令値Ir[n]とに基づき数9で演算されることを特徴とする。
[数9]
【0041】
更に、本発明(請求項8)は真空ポンプの発明であって、請求項1~7のいずれか1項に記載の制御装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0042】
以上説明したように本発明によれば、電磁石に流す電流について新たに設定された第2の電流指令値と電流記憶部より読み出された第1の電流指令値とに基づき電磁石に対し指令通りの電流を流すための電圧を演算し、電磁石に対しこの電圧を出力するように構成したので、高周波電流の制御量の計算に電流検出値を使用しない。このように計算による推定値を用いることで、電流制御量にノイズが混入しないため、振動や騒音の少ない磁気軸受が実現できる。高周波の電流を検出する必要が無いので、周波数応答性の低い安価な電流検出器が使用でき、またノイズ対策に必要な部品も削減できるので、低コストで小型な磁気軸受回路が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】PWM制御のパルスとデューティの関係を示す簡略図
【
図2】PWM制御のパルスと電磁石電流との関係を示すタイムチャート
【
図5】電流指令とノイズ電流に対する電磁石電流の応答特性のシミュレーション結果
【
図15】電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャート
【
図16】電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の第1の実施形態について説明する。
電磁石111、113、115、117、121、123に対し、PWM制御でパルス電圧を印加した場合の電磁石電流の変化量は、電磁石電流を直接検出しなくても、パルス電圧の電圧値、パルス幅、電磁石のインダクタンス値、抵抗値が分かっていれば、計算でほぼ推定できる。そこで、電流の目標変化量を計算する際、電流検出値を使用せず、計算による推定値を用いることで、電流検出信号に混入しているノイズの影響を受けないようにする。
【0045】
但し、電磁石電流の目標変化量を推定値により制御していると、直流成分については、電流検出値と電流目標値にオフセット誤差が出てしまうので、電流検出値と電流目標値の誤差を積分器に通して電流の計算値に加算する。積分器は高周波のノイズを強力に減衰できるので、積分器を追加してもノイズはほとんど増加せずにオフセットを除去できる。
【0046】
直流~AC低周波成分は、電流検出回路139の信号を用いてフィードバック制御する。直流~AC低周波成分には、強力なローパスフィルタを使用できるので、ノイズを強力に低減できる。一方、AC高周波成分は、電流検出値を用いず、電流指令値の変化分(Ir[n+1]-Ir[n])から必要なアンプ出力電圧のパルス幅を決定する。
【0047】
ここに、電磁石電圧Vm、電磁石インダクタンスLm、電磁石抵抗Rm、電源電圧Vd、サンプリング間隔Ts、PWM制御時のパルスONデューティD、電磁石への電流指令値Ir、電流検出値ILと定義する。キルヒホッフの法則によれば、電磁石巻線111を流れる電磁石電流ILと電磁石電圧Vmの間には、数1が成立する。
【0048】
【0049】
図1にPWM制御のパルスとデューティの関係を簡略図で示す。1周期Tsで、パルスON期間(D×Ts)の電流検出値ΔIL
onは数2となる。
【0050】
【0051】
一方、パルスOFF期間((1-D)×Ts)の電流検出値ΔILoffは数3となる。
【0052】
【0053】
数2と数3より1周期Tsの電流検出値ΔILを算出すると数4となる。
【0054】
【0055】
数4よりデューティDを計算すると数5となる。
【0056】
【0057】
数5で、ILの変化は緩やかなので、ILに低周波成分の電流検出値を用いる。
ΔILは次回の電流指令値Ir[n+1]と今回の電流指令値Ir[n]の差とする。
従って、デューティDの計算値は数6のようになる。
【0058】
【0059】
高周波成分については、電流指令と実電流にずれが生じるが大勢に影響ないと思われる。このように電流にずれが生じたとしても回転体103は位置フィードバックにより中心に浮上する。
一方、低周波成分は通常に制御されるので過電流等の問題は発生しない。
【0060】
ここで、電流の増減の極性を表す係数P[n]を導入して式をまとめる。ΔILを次回の電流指令値Ir[n+1]と今回の電流指令値Ir[n]の差と置き換えると、オープンループで制御する計算式は、次のデューティDが数7、次のパルス幅Tp[n+1]が数8のように表せる。
【0061】
【0062】
【0063】
次に直流とAC低周波成分のフィードバック機能を追加して制御する計算式を完成させると、次のパルス幅Tp[n+1]は数9のように表せる。
【0064】
【0065】
但し、Yi[n]は、Kiが積分係数として数10の通りである。
【0066】
【0067】
なお、従来技術との対比のため参考までに特許文献1に記載の数式を掲載し説明する。
従来は、ΔILを次回の電流指令値Ir[n+1]と今回の電流検出値IL[n]と今回のパルス幅Tp[n]で数11のように表していた。
【0068】
【0069】
ここに、次のデューティDは数12の通りであり、次のパルス幅Tp[n+1]は数13の通りである。
【0070】
【0071】
【0072】
制御の精度を向上するためフィードバックゲインKA、インダクタンス補正ゲインKL、積分項Yiを追加した場合の次のパルス幅Tp[n+1]を算出する数式は数14の通りである。
【0073】
【0074】
但し、積分項Yiは数10の通りである。
即ち、
図2のタイムチャートにおいて、従来は 次のパルス幅Tp[n+1]をIr[n+1]とIL[n]とTp[n]から算出していた。これに対し本実施形態のオープンループアンプではTp[n+1]をIr[n+1]とIr[n]から算出している点で異なる。
【0075】
次に、数9及び数10に基づき作成したブロック図について説明する。
図3のブロック図において、定数記憶部1は、電磁石コイル111の抵抗値Rm、インダクタンス値Lm、サンプリング時間Ts等の定数値を記憶している。また、フィードバックゲインKA等もこの定数記憶部1にて記憶する。電流記憶部3は、電流制御回路137内のマイクロコンピュータで、定期的にサンプリングされた過去の電流指令値Irを記憶している。低周波フィードバック回路5は、入力された電流指令値Irと電流検出値ILの直流成分や低周波成分の誤差を抑制するための信号を生成し出力する。
【0076】
出力電圧演算回路7は、入力された電流指令値Ir[n+1]、電流記憶部の記憶値Ir[n]、定数記憶部の記憶値、低周波フィードバック回路5の信号をもとに、電磁石コイル111に指令通りの電流を流すための出力電圧のパルス幅Tp[n+1]を計算し、Vd×Tp[n+1]/Tsで算出される出力電圧を出力する。
【0077】
また、低周波フィードバック回路5の低周波制御にPI制御を使用したときのシミュレーションブロック図を
図4に示す。電流指令Ireferenceは増幅器11で増幅される。また、この電流指令Ireferenceは、加算器13において電磁石電流Imagnetに対しノイズ電流Inoiseの重畳された電流との間で偏差器15で差が取られる。
【0078】
この偏差器15の出力は積分器17で積分された後、増幅器19で増幅される。増幅器11の出力信号と増幅器19の出力信号は加算器21で加算される。そして、この加算器21の出力信号は補償器23で電磁石111の抵抗とインダクタンスについて補正される。この補償器23の出力信号が電磁石の等価器29に入力されると電磁石電流が算出される。
【0079】
電流指令Ireferenceとノイズ電流Inoiseに対する電磁石電流Imagnetの応答特性のシミュレーション結果は
図5に示す通りである。
図5より分かるように、電流指令Ireferenceについてはノイズによる影響を何ら受けずにそのまま電磁石に対し出力される。一方、ノイズ成分については1~2kHz未満の低周波領域では何も影響を受けずに、1~2kHz以上の高周波領域では減衰されることが分かる。このことより、電磁石電流に現れるノイズ電流成分を積分器17により非常に大きく減衰できることが分かる。
【0080】
このように、高周波電流の制御量の計算に電流検出値を使用せず、計算による推定値を用いることで、電流制御量にノイズが混入しないため、振動や騒音の少ない磁気軸受が実現できる。高周波の電流を検出する必要が無いので、周波数応答性の低い安価な電流検出器が使用でき、またノイズ対策に必要な部品も削減できるので、低コストで小型な磁気軸受回路が実現できる。
【0081】
更に、従来の制御方法では電流制御の誤差を抑制するため回路の電流制御ループのゲインを高くすると電流制御が高周波数で発振してしまうが、本方式では高周波をフィードバック制御しないので電流制御の発振はあり得ない。
【0082】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
次のパルス幅Tp[n+1]の計算に、直前の電流指令値Ir[n]と次の電流指令値Ir[n+1]だけを用いると、直前の電流指令値Ir[n]が変位センサから混入したノイズ信号等の影響で過敏に変化してパルス幅の計算結果が過敏に変動してしまう可能性が考えられる。その場合、過去の複数の電流指令値を使用することで、パルス幅の計算を安定させることができる。
例えば、数15に示す通り、直前の電流指令値Ir[n]とその前の電流指令Ir[n-1]信号を用いてローパスフィルタ特性を持たせることができる。ここに、a1、b0はローパスフィルタの係数である。
【0083】
【0084】
第2実施形態のブロック図は
図3と同様である。即ち、
図3において、定数記憶部1に対しa1、b0を追加記憶し、また、電流記憶部3に対し複数の過去の電流指令値Irを記憶することで実現できる。
【0085】
更に、制御の精度を向上するためフィードバックゲインKA、インダクタンス補正ゲインKLを導入した場合の次のパルス幅Tp[n+1]を算出する数式は数16の通りである。
【0086】
【0087】
フィードバックゲインKAは定数記憶部1に対し追加記憶する。
従来の制御に比べ、電流検出信号の位相遅れが問題にならないので、電流制御ゲインの直流電流に対応したインダクタンス補正ゲインKLの補正が不要あるいは容易になる。
【0088】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
オープンループアンプでは、AC高周波成分は、電流検出値を用いず、電流指令値を用いて電流を制御するため、電流指令値と実際の電流の間に誤差が生じる場合がある。この誤差を削減するために、
図6に示すように電流誤差補正回路9を追加する。なお、
図3と同一要素のものについては同一符号を付して説明は省略する。この電流誤差補正回路9は、入力された電流指令値と電流検出値の高周波成分の誤差を抑制するための信号を生成し、出力するようになっている。
【0089】
図6において、電流誤差補正回路9には電流指令値Irと電流検出値ILが入力され、内部に記憶される。電流誤差補正回路9は電流誤差Ie[n]=Ir[n]-IL[n+1]を監視する。そして、Ie[n]をローパスフィルタ処理することで、ノイズを除去し、Ieが+傾向なのか-傾向なのかを判断する。Ieが+傾向のときは、電流が増えるように電流補正信号を出力電圧演算回路7に送る。同様に、Ieが-傾向のときは、電流が減るように電流補正信号を出力電圧演算回路7に送る。それにより、電流誤差補正回路9は電磁石電流のノイズを増やすことなく、電流指令値Irと実際の電流検出値ILの誤差を抑制できる。
【0090】
電流誤差補正回路9の具体的な実現方法の例は下記の通りである。
電流誤差補正回路9は、一定期間、電流指令値Irと電流検出値ILをモニタし、双方の高周波成分の信号に誤差が認められた場合、誤差を抑制するための信号を生成し、出力する。例えば、1分間、電流指令値Irと電流検出値ILをそれぞれFFT変換し、アベレージングすることで、ノイズ成分の除去された平均化された電流値の周波数成分を抽出する。
【0091】
ここで例えば、ある周波数に対して抽出された電流指令値Irより電流検出値ILの方が小さい場合、電流誤差補正回路9はその周波数の電流をより多く流すための信号を出力電圧演算回路7に送る。
【0092】
次に、本発明の第1~3の各実施形態の変形例について説明する。
低周波フィードバック回路5と電流誤差補正回路9の入力は、電流指令値(Ir[n+1])と電流指令値(Ir[n])のどちらを接続しても正常に機能する。このため、以下に変形例の図を示す。
【0093】
図7は、
図3の変形例であり、低周波フィードバック回路5に対しIr[n+1]を入力した例である。
図8は
図6の変形例であり、
図6と異なるのは、電流誤差補正回路9に対しIr[n+1]を入力した点である。
図9もまた
図6の変形例であり、
図6と異なるのは、電流誤差補正回路9と低周波フィードバック回路5の両方に対してIr[n+1]を入力した点である。
【0094】
図10もまた
図6の変形例であり、
図6と異なるのは、低周波フィードバック回路5に対してIr[n+1]を入力した点である。
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、上述した実施形態及び各変形例は、種々組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0095】
1 定数記憶部
3 電流記憶部
5 低周波フィードバック回路
7 出力電圧演算回路
9 電流誤差補正回路
11、19 増幅器
13、21 加算器
15 偏差器
17 積分器
23 補償器
29 等価器
103 回転体
111、113、115、117、121、123 電磁石
137 制御回路
139 電流検出回路