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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】放射線画像の画質調整装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/04 20180101AFI20221025BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20221025BHJP
   G06T 5/00 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
G01N23/04
G06T1/00 290A
G06T5/00 705
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019057778
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020159789
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】391017540
【氏名又は名称】東芝ITコントロールシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智夫
(72)【発明者】
【氏名】冨樫 法仁
(72)【発明者】
【氏名】原 拓生
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 洋貴
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/110232(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/034056(WO,A1)
【文献】特開2011-255038(JP,A)
【文献】特開平02-171870(JP,A)
【文献】特開2006-135743(JP,A)
【文献】特開2012-068162(JP,A)
【文献】特開2018-038807(JP,A)
【文献】国際公開第2017/077627(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0083417(US,A1)
【文献】特開2007-24835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 - A61B 6/14
G01N 23/00 - G01N 23/2276
G06T 1/00 - G06T 1/40
G06T 3/00 - G06T 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影された放射線画像の処理前画像を保存する処理前画像記憶部と、
画像処理に必要な複数のパラメータを備え、前記複数のパラメータの設定値に基づいて、前記処理前画像に対して画像処理を行う画像処理フィルタと、
前記画像処理フィルタの複数のパラメータの設定値の組み合わせを、前記処理前画像に対するノイズ除去レベル及びノイズサイズに対応付けて記憶するパラメータ変換部と、
前記処理前画像に対して画像処理を行うに当たり、ノイズ除去レベルの設定値及びノイズサイズの設定値をユーザから受け付ける入力部と、
前記入力部から受け付けたノイズ除去レベル及びノイズサイズを、前記パラメータ変換部において対応する複数のパラメータの設定値に変換し、そのパラメータの設定値に基づいて前記処理前画像に対する画像処理を行い、得られた処理後画像を前記入力部から受け付けたノイズ除去レベル及びノイズサイズと対応付けて保存する処理後画像記憶部と、
前記処理前画像、前記入力部の入力インターフェース及び前記処理後画像を同時にまたはその少なくとも1つを表示する表示部と、
を有することを特徴とする放射線画像の画質調整装置。
【請求項2】
前記入力部は、前記表示部に表示された前記処理前画像の任意の一部を指定する範囲指定部を備え、
前記画像処理フィルタは、前記範囲指定部によって指定された前記処理前画像の一部に対して、前記入力部から受け付けたノイズ除去レベル及びノイズサイズに対応する複数のパラメータの設定値に基づいて画像処理行う請求項1に記載の放射線画像の画質調整装置。
【請求項3】
前記表示部は、一定の間隔で設定された複数のノイズサイズと複数のノイズ除去レベルの組み合わせに基づいて画像処理された複数の前記処理後画像のサムネイルを、マトリックス状に表示する請求項1または請求項2に記載の放射線画像の画質調整装置。
【請求項4】
前記入力部の入力インターフェースは、座標表面上においてノイズサイズを横軸にノイズ除去レベルを縦軸にとり、前記横軸及び縦軸の近傍に配置されたスライドバーにより、ノイズサイズとノイズ除去レベルを入力する請求項1または請求項2に記載の放射線画像の画質調整装置。
【請求項5】
前記入力部の入力インターフェースは、座標表面上においてノイズサイズを横軸にノイズ除去レベルを縦軸にとり、前記座標表面上のポイントを指定することにより、ノイズサイズとノイズ除去レベルを入力する請求項1または請求項2に記載の放射線画像の画質調整装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放射線検査装置で撮影した画像(本明細書及び請求項において、放射線画像と呼ぶ)の画質調整に必要なパラメータ値を、簡単な操作で設定することのできる放射線画像の画質調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線検査装置で物体を撮影する場合、ノイズが少なく鮮明な画像を得るには、物体を透過する放射線の時間的・空間的な密度が増すように撮像条件を工夫する。しかし、放射線発生源から照射する放射線の強度には被爆その他の理由から一定の限界があり、放射線の粒子または光子の密度が低下すると粒状性のノイズが目立つことがある。
【0003】
このようなノイズ対策として、従来から、撮影された放射線画像に対して各種のフィルタを用いて画像処理を行い、ノイズを低減したり輪郭を強調する手法が一般的に用いられている。この種の処理を行うフィルタには、ガウシアンフィルタ、バイラテラルフィルタ等が用いられる。これらのフィルタを用いる場合、たとえばバイラテラルフィルタにおいてはカーネルサイズK、フィルタ値S、輝度差Wがパラメータとして必要となる。また、複数のフィルタをかける場合は、各フィルタについて同じパラメータを複数準備する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-250043号公報
【文献】特開2010-54356公報
【文献】特開2012-250043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、ノイズ特性は、RMS粒状度(root mean square)やウィーナースペクトル(WS:Wiener spectrum)で評価することができる。例えば、ウィーナースペクトルは、横軸に空間周波数を、縦軸にウィーナースペクトルを取り、ウィーナースペクトルの値が大きいということは、ノイズのレベルが高い(粒状性が悪い=ノイズが多い)ことを意味している。ノイズの低減のためには、適切なノイズ除去レベルが必要となる。空間周波数はノイズのサイズと関連するもので、空間周波数が高いと言うことはノイズサイズが大きいことを意味している。画像のシャープなエッジを再現するには、空間周波数の高い成分が必要で有り、空間周波数が高い成分、言い換えればサイズの大きなノイズをカットすると、輪郭がぼやけた画像になる。
【0006】
放射線画像に含まれているノイズを一般的なノイズフィルタを使用して除去する場合、カーネルサイズ、フィルタ値、輝度差などのパラメータ値を個別に複数設定する必要があるが、パラメータ値が実際の放射線画像にどのように反映されるか初心者では把握が難しく、複数のパラメータ値を適切に設定することは困難である。特に、放射線画像の画像処理を行うノイズフィルタについては、パラメータが多いこと、及びパラメータ値を見ただけではそのパラメータ値の変更が画像にどの程度の影響を与えるかを直感的に把握することが難しく、適正なパラメータ値を求める方法が確立していない。例えば、図8に示すような放射線画像に対してノイズ除去を行う場合に、パラメータの設定方法を誤ると、図9に示す処理後画像においてノイズとともに必要な画像のエッジ情報が消失してしまう。
【0007】
一般に、X線発生器の放射線管に対して管電圧を印加し、ターゲットに電子を衝突させた場合、電子発生時におけるショットノイズやサーマルノイズによって、ターゲットから発生するX線粒子数やX線粒子の有するエネルギーにばらつきが生じる。同様に、X線検出器、例えばシンチレータにおけるX線粒子から可視光粒子への変換効率も、シンチレータの特性や厚さなどによって異なる。
【0008】
図11は、シンチレータ100に入射したX線粒子のエネルギーと、シンチレータ100内部で発生した可視光粒子の受光素子に対する照射範囲の関係を示す図である。高エネルギーのX線粒子は、シンチレータ100の深くまで進入してから可視光粒子を発光させることから(発光位置d1)、受光素子101における受光範囲w1が狭い。低エネルギーのX線粒子は、シンチレータ100の比較的浅い位置で可視光粒子を発光させることから(発光位置d2)、受光範囲w2が広い。また、発光した可視光粒子の強度(ノイズレベルと呼ばれる)は、受光範囲で一様ではなく、受光範囲の周辺に行くと弱くなっている。
【0009】
このように、X線粒子が可視光粒子を発生させる場合の反応位置はX線のエネルギー、シンチレータの厚み、シンチレータ材質(X線や可視光に対する減弱係数および結晶構造)により確率的に変動する。そのため、X線撮像装置によって撮影された画像に含まれるノイズも、前記のような特性を有する。しかし、従来のノイズフィルタは、このようなX線検出器におけるX線強度やシンチレータの変換特性に基づくノイズの態様を考慮したものではない。すなわち、従来技術は、X線検出器から得られた画像そのものを対象として処理を行うものであるため、適切なフィルタ処理を行うことが難しく、多数のパラメータの設定など複雑な操作が要求されていた。
【0010】
本発明の実施形態は、上記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものである。本発明の実施形態の目的は、画像処理フィルタに対する各パラメータ値の設定経験値の無いユーザでも、簡易な操作によりにきれいな放射線画像を得ることができる放射線画像の画質調整装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態の放射線画像の画質調整装置は、次のような構成を有する。
(1)撮影された放射線画像の処理前画像を保存する処理前画像記憶部。
(2)画像処理に必要な複数のパラメータを備え、前記複数のパラメータの設定値に基づいて、前記処理前画像に対して画像処理を行う画像処理フィルタ。
(3)前記画像処理フィルタの複数のパラメータの設定値の組み合わせを、前記処理前画像に対するノイズ除去レベル及びノイズサイズに対応付けて記憶するパラメータ変換部。
(4)前記処理前画像に対して画像処理を行うに当たり、ノイズ除去レベルの設定値及びノイズサイズの設定値をユーザから受け付ける入力部。
(5)前記入力部から受け付けたノイズ除去レベル及びノイズサイズを、前記パラメータ変換部において対応する複数のパラメータの設定値に変換し、そのパラメータの設定値に基づいて前記処理前画像に対する画像処理を行い、得られた処理後画像を前記入力部から受け付けたノイズ除去レベル及びノイズサイズと対応付けて保存する処理後画像記憶部。
(6)前記入力部の入力インターフェースと前記処理後画像を表示する表示部。
【0012】
本発明の実施形態において、次のような構成を有することができる。
(1)前記入力部は、前記表示部に表示された前記処理前画像の任意の一部を指定する範囲指定部を備え、前記画像処理フィルタは、前記範囲指定部によって指定された前記処理前画像の一部に対して、前記入力部から受け付けたノイズ除去レベル及びノイズサイズに対応する複数のパラメータの設定値に基づいて画像処理行う。
(2)前記表示部は、一定の間隔で設定された複数のノイズサイズと複数のノイズ除去レベルの組み合わせに基づいて画像処理された複数の前記処理後画像のサムネイルを、マトリックス状に表示する。
(3)前記入力部の入力インターフェースは、座標表面上においてノイズサイズを横軸にノイズ除去レベルを縦軸にとり、前記横軸及び縦軸の近傍に配置されたスライドバーにより、ノイズサイズとノイズ除去レベルを入力する。
(4)前記入力部の入力インターフェースは、座標表面上においてノイズサイズを横軸にノイズ除去レベルを縦軸にとり、前記座標表面上のポイントを指定することにより、ノイズサイズとノイズ除去レベルを入力する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態の放射線画像の画質調整装置を組み込んだ放射線検査装置の模式図。
図2】第1実施形態における画像処理部の構成を示すブロック図。
図3】第1実施形態の入力インターフェースの一例を示す図。
図4】第1実施形態の入力インターフェースの他の形態を示す図。
図5】第2実施形態における画像処理部の構成を示すブロック図。
図6】入力インターフェースの第2の例を示す図。
図7】入力インターフェースの第3の例を示す図。
図8】処理前画像Aの一例を示す図。
図9】不適切なパラメータ設定値によって画像処理された処理後画像Bの一例を示す図。
図10】この出願の実施形態によって画像処理された処理後画像Bの一例を示す図。
図11】X線検出器におけるX線粒子のエネルギーに対するノイズレベルとノイズサイズの関係を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[1.第1実施形態]
[1-1.全体構成]
図1のブロック図に示すように、第1実施形態の画質調整装置を組み込んだ放射線検出装置は、X線発生器であるX線管1と、X線管1の焦点Fから放射されたX線ビーム2を受光する検出器3とが、被検体Wを挟んで対向して配置される。X線ビーム2は、X線光軸Lを中心とする角錐状のビームである。検出器3は、被検体Wを透過したX線ビーム2を2次元の空間分解能をもって検出し、検出器3の出力側に接続された画像処理部10に対して透過画像データとして出力する。
【0015】
X線管1及び検出器3は対向してシフト機構4より支持されている。被検体Wは、回転テーブル5上にXY駆動機構6を介して載置される。回転テーブル5は、その下部に配置された回転・昇降機構7により回転軸8を中心として回転する。回転テーブル5は、回転・昇降機構7により昇降する。被検体Wは回転テーブル5上でXY駆動機構6によって水平な2方向に移動される。
【0016】
X線管1、検出器3、シフト機構4、XY駆動機構6及び回転・昇降機構7は、表示部11及び入力部12を備えた制御部9に接続される。ユーザにより入力部12から制御部9に入力された指令に基づき、回転テーブル5は被検体Wと共にシフト機構4によりX線管1と検出器3の間をX線光軸Lに沿って移動され、撮影距離(焦点-回転軸間距離)FCDが変更される。検出器3はシフト機構4によりX線光軸Lに沿って移動され、検出距離(焦点-検出器間距離)FDDが変更される。これにより撮影倍率FDD/FCDが変更される。
【0017】
制御部9及び画像処理部10は、CPU、メモリ、ハードディスク、キーボードやマウスなどの入力部12と、液晶ディスプレイなどの表示部11を備えたコンピュータの一部として構成される。表示部11には、入力部12の入力インターフェース、検出器3からの透過画像データに基づいて生成された処理前画像A、処理前画像Aに対してノイズ除去や輪郭強調を行った処理後画像Bが表示される。
【0018】
[1-2.画像処理部10の構成]
この画像処理部10は、図2に示すように、処理前画像記憶部13、画像処理フィルタ14、パラメータ変換部15、処理後画像記憶部16及び処理後画像Bのサムネイル生成部17を備える。
【0019】
処理前画像記憶部13は、撮影された放射線画像、すなわち、検出器3の透過画像データに基づいて作成された可視光画像を処理前画像Aとして保存する。処理後画像記憶部16は、画像処理の結果得られた処理後画像Bを入力部12から受け付けたノイズ除去レベル及びノイズサイズと対応付けて保存する。サムネイル生成部17は、処理後画像記憶部16に保存されている処理後画像Bのサムネイルを生成して、表示部11に表示する。
【0020】
画像処理フィルタ14は、画像処理に必要な複数のパラメータを備え、複数のパラメータの設定値に基づいて、処理前画像Aに対してノイズ除去及び輪郭強調を行う。画像処理フィルタ14としては、ガウシアンフィルタ、バイラテラルフィルタなどが使用できる。複数のパラメータとしては、例えば、バイラテラルフィルタにおいてはカーネルサイズK、フィルタ値S、輝度差Wである。
【0021】
入力部12は、処理前画像Aに対して画像処理を行うに当たり、ノイズ除去レベルの設定値及びノイズサイズの設定値をユーザから受け付ける。入力部12としては、キーボード、スライドスイッチ、回転ボリュームスイッチ、タッチパネルなどが使用できるが、本実施形態では、液晶ディスプレイに表示された画像をマウスなどのポインティングデバイスによって操作する入力インターフェースを使用する。この入力インターフェースは、図3に示すように、表示部11に表示された座標表面上において、ノイズサイズを横軸にノイズ除去レベルを縦軸にとり、横軸及び縦軸の近傍に配置されたスライドバーにより、ノイズサイズとノイズ除去レベルを入力する。
【0022】
入力インターフェースの他の例として、図4に示すように、一定の間隔で設定された複数のノイズサイズと複数のノイズ除去レベルの組み合わせに基づいて画像処理された複数の処理後画像のサムネイルを、マトリックス状に表示する。このマトリックス表示は、図3に示すスライドバーとグラフの近傍に配置しても良いし、スライドバーやグラフ表示とは別のウインドウやタブに表示しても良い。
【0023】
パラメータ変換部15は、画像処理フィルタ14の複数のパラメータの設定値の組み合わせを、処理前画像Aに対するノイズ除去レベル及びノイズサイズに対応付けて記憶する。パラメータ変換部15は、入力部12から受け付けたノイズ除去レベル及びノイズサイズを、パラメータ変換部15内に対応して記憶されている複数のパラメータの設定値に変換する。
【0024】
パラメータ変換部15において、複数のパラメータの設定値の組み合わせをノイズ除去レベル及びノイズサイズに対応付けて記憶する手法としては、例えば次のようなものを用いる。
【0025】
放射線画像のノイズは、放射線検査装置の撮影条件、例えば、センサ能力、焦点間距離、管電圧、管電流、シンチレータの厚みによって検出器3で受光されるフォトンの強度に依存する。そのため、ノイズは、図8の処理前画像Aのように、被検体Wの画像上やその周囲に、サイズの大小及び濃淡レベルの異なる粒子状の画像として発現する。従って、ノイズを除去するに当たっては、画像処理フィルタ14に用意された複数のパラメータの内、ノイズとして発現された粒子状の画像について影響を与えるパラメータのみを設定し、他のパラメータについては固定値としておくことが可能である。
【0026】
本実施形態では、ノイズサイズ及びノイズ除去レベルに影響を与えるパラメータのみを選択して、選択されたパラメータの設定値の変動がノイズサイズ及びノイズ除去レベルに対してどのような影響を与えるかを、撮影された処理前画像に対して実際に画像処理を行うことで検証する。検証の対象となる処理前画像としては、標準的な被検体Wを撮影して、その放射線画像を基準処理前画像A´として用いる。ノイズに影響を与えるパラメータの選定は熟練したユーザの経験則に基づいて行うことができる。
【0027】
選定されたパラメータとノイズサイズ及びノイズ除去レベルの対応付けは、次のように行う。
(1)選定された複数のパラメータ毎に、それぞれ一定の数値間隔で異なるパラメータ値を設定する。この場合、選定されたパラメータについても、放射線画像の改善に寄与しないことが判明している設定値、設定値の上限や下限近傍の値については、設定する必要はない。
(2)保存された基準処理前画像A´に対して、各パラメータの一定の数値間隔で設定されたパラメータ値の1つを選択して、選択されたパラメータ値に基づいて画像処理フィルタ14により画像処理を行い、処理後画像B´を作成する。
(3)選定されたすべてのパラメータについて、一定の数値間隔で設定された異なるパラメータ値を用いて繰り返し処理後画像B´を作成する。
(4)得られた多数の処理後画像B´をユーザが目視により比較して、例えば、ノイズサイズを横軸にノイズ除去レベルを縦軸にとり、マトリックス状に配列する。
(5)マトリックス状に配列されたそれぞれの処理後画像B´について、その処理後画像B´を画像処理する際に適用された各パラメータの設定値を、マトリックス状の配列内におけるノイズサイズとノイズ除去レベルの値と対応付けて記憶する。
【0028】
複数のパラメータの中から放射線画像の改善に必要なパラメータを選択することが困難な場合には、総てのパラメータについて、それぞれ一定の数値間隔で異なるパラメータ値を設定し、総ての設定値に従って基準処理前画像A´の画像処理を行うこともできる。その場合、マトリックス配列の対象となる処理後画像B´が多量になり、ノイズサイズとノイズ除去レベルに対してパラメータとその設定値を対応付ける作業が複雑化する。
【0029】
[1-3.実施形態の作用]
本実施形態において、撮影された放射線画像は処理前画像Aとして表示部11に表示されると共に処理前画像記憶部13に保存される。処理前画像Aに対してノイズ除去や輪郭協調を行う場合には、表示部11に表示されている縦横のスライドバーをポインティングデバイスにより操作してノイズサイズとノイズ除去レベルの値を調整する。例えば、図3の縦軸側のスライドバーを操作することでノイズ除去レベルを調整して処理前画像Aに発現しているノイズ数を増減し、横軸側のスライドバーを操作することでノイズサイズ、すなわち空間周波数を調整して輪郭協調の度合いを変更する。
【0030】
スライドバーを操作してノイズサイズとノイズ除去レベルの値を調整すると、その結果得られたノイズサイズとノイズ除去レベルの値は、パラメータ変換部15において予め対応付けられている各パラメータの設定値に変換される。画像処理フィルタ14は、変換された各パラメータ値に基いて処理前画像Aに対して画像処理を行い、得られた処理後画像Bを表示部11に表示すると共に処理後画像記憶部16に保存する。
【0031】
ユーザは、表示部11に表示された処理後画像Bが満足するものである場合には処理前画像Aに対する画像処理を終了する。一方、得られた処理後画像Bに不満な場合には、スライドバーを操作して新たなノイズサイズとノイズ除去レベルの値を調整する。このような調整作業を繰り返すことで、複数の処理後画像Bを作成して表示部11に表示すると共に処理後画像記憶部16に保存する。この場合、得られた複数の処理後画像Bを表示部11に並べて表示することで、ユーザは図10に示すような最適の処理後画像Bを得ることができる。
【0032】
入力インターフェースとして、図4に示すようなサムネイル画像をマトリックス配列に表示するものを使用した場合には、ユーザがスライドバーを操作する以前に、画像処理部10は、一定の間隔値で設定された複数のノイズサイズとノイズ除去レベルの値の組み合わせに基いて、処理前画像Aに対してマトリックス配列するサムネイル数に相当する回数の画像処理を行う。画像処理の結果得られた複数の処理後画像Bは、処理後画像記憶部16に保存されると共に、サムネイル生成部17により各処理後画像Bのサムネイルが生成される。
【0033】
生成されたサムネイルは、表示部11上にマトリックス配列で表示されるので、ユーザは、マトリックス配列の近傍に配置されたスライドバーを利用して、最適な処理後画像Bのサムネイルを選択する。すると、選択されたサムネイルに対応する処理後画像Bが処理後画像記憶部16から読み出されて表示部11に表示される。このようにして、ユーザは最適な画像処理を加えた処理後画像Bを得ることができる。
【0034】
[1-4.実施形態の効果]
(1)本実施形態では、多数のパラメータを有する画像処理ソフトによって処理前画像Aのノイズ除去を行う場合に、表示部11に表示されている縦横のスライドバーを操作してノイズサイズとノイズ除去レベルの値を調整するだけで、複数のパラメータについて適切な設定値を選択できる。その結果、ユーザは画像処理フィルタ14の複数のパラメータに関する設定値を意識することなく、簡単な操作により効果的にノイズを除去した処理後画像Bを得ることができる。
【0035】
(2)本実施形態では、ノイズサイズとノイズ除去レベルに対応する各パラメータの設定値を、ユーザの経験則に基づいて対応付けているため、ノイズサイズとノイズ除去レベルという集約された2つの値を操作するだけであっても、適切なパラメータ値に基づいて画像処理を実施できる。その結果、例えば、エッジ情報を保持したままノイズを低減するような画質補正パラメータを容易に設定することが可能になる。
【0036】
(3)図4に示すように、予め複数の異なるノイズサイズとノイズ除去レベルを用いて、処理前画像Aに対して複数の画像処理を行い、そのサムネイルを表示部11にマトリックス配列で表示した場合には、最適な処理後画像Bの選定がより迅速に行える。すなわち、ユーザが画像処理の結果を見ながら1つずつノイズサイズとノイズ除去レベルを変更して処理後画像Bを生成し、それらを見比べて最適な処理後画像Bを選定する場合に比較して、多数のサムネイルの中からスライドバーを操作して希望するサムネイルを選定するだけで良く、ユーザの技量向上が図れる。
【0037】
(4)図11に示したように、X線撮像装置において発生するノイズは、ノイズサイズと強度レベルとによって表されるように、周辺に行くほど濃度が低くなった円形の画像として撮像画像中に表示される。そのため、ノイズを除去するためには、そのような特徴を有する円形の画像を撮像画像中から抽出して除去する必要があるが、従来使用されている画像処理ソフトはそのような特徴的なノイズを除去するための専用の手段を持たない。本実施形態においては、従来の画像処理ソフトの各種パラメータの組み合わせを、ノイズレベルとノイズサイズという2つのパラメータに対応付けることで、各種のパラメータを直接設定することなく、ノイズレベルと除去サイズという2つの指標によりX線撮像装置に発生する特有のノイズを効果的かつ容易に除去できる。
【0038】
[2.第2実施形態]
図5に示す第2実施形態は、処理前画像Aの所定範囲の画像についてのみ画像処理を実施するものである。第2実施形態の他の構成は、第1実施形態と同様である。第1実施形態と同様な構成については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0039】
第2実施形態は、入力部12からのユーザの入力に基いて、表示部11に表示された処理前画像Aの任意の一部を指定する範囲指定部18を備える。この範囲指定部18は、例えば、処理前画像A上の任意の2点を対角とする長方形として、ポインティングデバイスで範囲を指定するものを使用できる。範囲指定部18として、ポインティングデバイスで指定した多数の点を頂点とする多角形によって範囲を指定したり、円或いは楕円により範囲を指定するものも使用可能である。
【0040】
画像処理フィルタ14は、範囲指定部18によって指定された処理前画像Aの一部に対して、入力部12から受け付けたノイズ除去レベル及びノイズサイズに対応する複数のパラメータの設定値に基づいて画像処理行う。この場合、画像処理フィルタ14として、範囲指定部18によって指定された範囲内については、スライドバーによって指定されたノイズ除去レベル及びノイズサイズにより画像処理を行い、他の部分については処理前画像Aのまま未処理としても良い。また、指定範囲内と指定範囲外について、それぞれ異なるノイズ除去レベル及びノイズサイズをスライドバーから入力してもよい。
【0041】
本実施形態によれば、放射線画像に写し出された被検体Wの形状や放射線の透過率などを考慮して、範囲指定部18によって指定された処理前画像Aの部分ごとに、ノイズ除去レベルや除去するノイズサイズを調整することができる。その結果、ユーザにとって不要な部分については、ノイズ除去レベルを高くする一方、ノイズ除去レベルが高いと必要な情報が欠落する部分については、適切なノイズ除去レベルを設定することで、全体として綺麗でしかも必要な情報が明確に含まれた処理後画像Bを得ることができる。本実施形態は、画像の欠落データの限界を把握し、画質補正を行うことで、例えば、基板の配線パターンの撮影を維持しながら改質を改善するなど、実用性に優れる。
【0042】
[4.他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。具体的には、次のような他の実施形態も包含する。
【0043】
(1)入力インターフェースとして、図6に示すように、座標表面上においてノイズサイズを横軸にノイズ除去レベルを縦軸にとり、座標表面上のポイントを指定することにより、ノイズサイズとノイズ除去レベルを入力する。この場合、座標表面上にノイズサイズとノイズ除去レベルを曲線グラフとして表示し、グラフの曲線を直接つまんで移動させるか、グラフの頂点を直接クリックして移動させることで、その値を変更する。
【0044】
(2)入力インターフェースとして、図7に示すように、多角形の操作パラメータ(一般にレーダーチャートと呼ばれる)を使用して、角度で対象ノイズサイズを、長さで除去レベルを設定したり、先端部分をクリックして移動させる。もしくはボリュームつまみを用意して角度を設定させる。
(3)エッジ強調パラメータを、例えばマウス等のポインティングデバイスのホイールに割り付けることで、1つの設定画面でノイズ除去パラメータとエッジ強調パラメータを同時に設定できる。
【符号の説明】
【0045】
A…処理前画像
B…処理後画像
W…被検体
1…X線管
2…X線ビーム
3…検出器
4…シフト機構
5…回転テーブル
6…XY駆動機構
7…回転・昇降機構
8…回転軸
9…制御部
10…画像処理部
11…表示部
12…入力部
13…処理前画像記憶部
14…画像処理フィルタ
15…パラメータ変換部
16…処理後画像記憶部
17…サムネイル生成部
18…範囲指定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
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図11