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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】マイクロ流路チップ
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/08 20060101AFI20221025BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20221025BHJP
   B01F 25/40 20220101ALI20221025BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N37/00 101
B01F25/40
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019182331
(22)【出願日】2019-10-02
(65)【公開番号】P2021056188
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】今村 一彦
(72)【発明者】
【氏名】乾 延彦
【審査官】野口 聖彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-229240(JP,A)
【文献】特開2012-132879(JP,A)
【文献】特開2019-070615(JP,A)
【文献】特表2007-519917(JP,A)
【文献】特開2010-133843(JP,A)
【文献】国際公開第2013/046417(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0048192(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/08
G01N 37/00
B01F 25/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試薬検体とを混合して送液するマイクロ流路チップであって、
第1流路と、
前記第1流路の流路上に設けられ、試薬が収納された試薬保持部と、
前記第1流路に連通し、前記試薬保持部の上流側で系外に開放された気体流入口と、
前記気体流入口を密封する蓋部と、
前記第1流路の下流側に設けられる第2流路と、
前記試薬保持部の下流側に連通可能であって検体を保持する検体保持部とを備え、
前記第2流路は下流側が系外に開放されており、
前記蓋部の密封によって前記第1流路に供給された気体が前記試薬保持部から下流側へ試薬を押し出し、押し出された試薬は前記第2流路で検体に合流することを特徴とするマイクロ流路チップ。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロ流路チップにおいて、
前記第1流路が第1面に形成された第1基板と、前記第1面に対向させて前記第1基板に積層して接合された第2基板とを備え、
前記気体流入口は前記第1面の反対側の第2面に開口されて、前記第2面に対向して前記蓋部が装着されることを特徴とするマイクロ流路チップ。
【請求項3】
請求項2に記載のマイクロ流路チップにおいて、
前記第2流路は前記第1基板に形成されていることを特徴とするマイクロ流路チップ。
【請求項4】
請求項2または3に記載のマイクロ流路チップにおいて、
前記第2流路は、前記試薬保持部の下流側で前記第1流路に接続されていることを特徴とするマイクロ流路チップ。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか1つの請求項に記載のマイクロ流路チップにおいて、
前記検体保持部は前記第2流路の流路上に設けられていることを特徴とするマイクロ流路チップ。
【請求項6】
請求項5に記載のマイクロ流路チップにおいて、
前記検体保持部は検体を導入するための開口部を前記第2面に備え、
前記蓋部は前記気体流入口を密閉する第1閉止部と、前記開口部を密閉する第2閉止部とを備えることを特徴とするマイクロ流路チップ。
【請求項7】
請求項2に記載のマイクロ流路チップにおいて、
前記蓋部は、前記第1流路に接続可能な第3流路を備え、
前記蓋部の密封によって、前記第1流路は、前記第3流路を経由して、前記第1基板に設けられた第2流路に接続されることを特徴とするマイクロ流路チップ。
【請求項8】
請求項7に記載のマイクロ流路チップにおいて、
前記検体保持部は前記第2流路の流路上に形成され、検体を導入するための開口部が前記第2面に設けられていることを特徴とするマイクロ流路チップ。
【請求項9】
請求項7または8に記載のマイクロ流路チップにおいて、
前記検体保持部は、前記第2面に突出させて設けられていることを特徴とするマイクロ流路チップ。
【請求項10】
請求項7に記載のマイクロ流路チップにおいて、
前記検体保持部は前記第3流路の流路上に形成され、検体を導入するための開口部が前記蓋部における前記第2面に対向する面に設けられていることを特徴とするマイクロ流路チップ。
【請求項11】
請求項10に記載のマイクロ流路チップにおいて、
前記検体保持部は前記第3流路の下流端に形成され、前記蓋部の密封によって前記第2流路に結合されることを特徴とするマイクロ流路チップ。
【請求項12】
請求項2~4のいずれか1つの請求項に記載のマイクロ流路チップにおいて、
前記蓋部は、上流端が系外に開放されるとともに下流端が前記第2流路に接続可能な第4流路を備え、
前記蓋部の密封によって、前記第4流路の上流端が密封されるとともに下流端が前記第2流路に結合されることを特徴とするマイクロ流路チップ。
【請求項13】
請求項12に記載のマイクロ流路チップにおいて、
前記検体保持部は前記第4流路の下流端に形成され、検体を導入するための開口部が前記蓋部における前記第2面に対向する面に設けられ、
前記蓋部の密封によって前記第4流路に供給された気体が前記検体保持部から下流側へ検体を押し出し、前記第2流路で試薬に合流することを特徴とするマイクロ流路チップ。
【請求項14】
請求項10~13のいずれか1つの請求項に記載のマイクロ流路チップにおいて、
前記検体保持部は、前記蓋部における前記第2面に対向する面に突出させて設けられていることを特徴とするマイクロ流路チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流路チップに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流路が設けられたチップを用いて、各種検体または試料等の送液や反応を制御し、血液検査や遺伝子検査などの検査や生化学分析を行うことが試みられている。このような検査用または分析用のマイクロ流路チップには、複数の流体を合流させ、混合することを可能とする流路構造が備えられている。
【0003】
特に、医療分野、生化学分野などの各分野では、分析機器の小型化および簡便化が求められるとともに、分析の高速化や人体への負荷軽減を考慮して、微量の検体による分析への要望が高まってきている。このため、マイクロ流路チップにおいても小型化および簡便化に役立ち、微量の検体であっても安定した分析等を可能にすることが求められている。
【0004】
従来のマイクロ流路チップは、検体を導入後、送液および反応までに時間が経過してしまい、それによって検体の乾燥や凝固が起こり、正確な反応や測定を行うことが困難になるといった課題があった。これに対して、例えば特許文献1に開示されたマイクロ流路チップでは、血液との間で凝固阻害反応を起こす抗凝固剤の供給槽およびポンプ等が連結されており、抗凝固剤を流路に供給することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2011/065176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されるように、抗凝固剤などの凝固阻害反応を起こす化合物や抗体等の供給槽をマイクロ流路チップに設けることはコストが嵩むだけでなく、小型化および簡便化の観点からも好ましくない。また、検体を導入する際に人体とマイクロ流路チップとを直接接触させる場合もあり、前記化合物や抗体等が人体に触れて健康被害に繋がることも懸念された。
【0007】
本発明は、上記のような問題点にかんがみてなされたものであり、その目的とするところは、血液の凝固阻害反応を起こす化合物や抗体等を用いずとも、簡便な構造により迅速な送液および反応を可能にするマイクロ流路チップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明では、第1液体と第2液体とを混合して送液するマイクロ流路チップであって、第1流路と、前記第1流路の流路上に設けられ、第1液体が収納された第1液体保持部と、前記第1流路に連通し、前記第1液体保持部の上流側で系外に開放された気体流入口と、前記気体流入口を密封する蓋部と、前記第1流路の下流側に設けられる第2流路と、前記第1液体保持部の下流側に連通可能であって第2液体を保持する第2液体保持部とを備えた構成としている。そして、前記第2流路は下流側が系外に開放されており、前記蓋部の密封によって前記第1流路に供給された気体が前記第1液体保持部から下流側へ第1液体を押し出し、押し出された第1液体は前記第2流路で第2液体に合流することを特徴としている。
【0009】
また、前記構成のマイクロ流路チップにおいては、前記第1流路が第1面に形成された第1基板と、前記第1面に対向させて前記第1基板に積層して接合された第2基板とを備え、前記気体流入口は前記第1面の反対側の第2面に開口されて、前記第2面に対向して前記蓋部が装着されることが好ましい。
【0010】
また、前記構成のマイクロ流路チップにおいて、前記第2流路は前記第1基板に形成されてもよく、また、前記第2流路は、前記第1液体保持部の下流側で前記第1流路に接続されてもよい。
【0011】
また、前記構成のマイクロ流路チップにおいて、前記第2液体保持部は前記第2流路の流路上に設けられることが好ましい。また、前記第2液体保持部は第2液体を導入するための開口部を前記第2面に備え、前記蓋部は前記気体流入口を密閉する第1閉止部と、前記開口部を密閉する第2閉止部とを備えることが好ましい。
【0012】
また、前記構成のマイクロ流路チップにおいて、前記蓋部は、前記第1流路に接続可能な第3流路を備え、前記蓋部の密封によって、前記第1流路は、前記第3流路を経由して、前記第1基板に設けられた第2流路に接続される構成であってもよい。
【0013】
また、前記構成のマイクロ流路チップにおいて、前記第2液体保持部は前記第2流路の流路上に形成され、第2液体を導入するための開口部が前記第2面に設けられてもよい。また、前記第2液体保持部は、前記第2面に突出させて設けられることが好ましい。
【0014】
また、前記構成のマイクロ流路チップにおいて、前記第2液体保持部は前記第3流路の流路上に形成され、第2液体を導入するための開口部が前記蓋部における前記第2面に対向する面に設けられることが好ましい。また、前記第2液体保持部は前記第3流路の下流端に形成され、前記蓋部の密封によって前記第2流路に結合される構成であってもよい。
【0015】
また、前記構成のマイクロ流路チップにおいて、前記蓋部は、上流端が系外に開放されるとともに下流端が前記第2流路に接続可能な第4流路を備え、前記蓋部の密封によって、前記第4流路の上流端が密封されるとともに下流端が前記第2流路に結合される構成であってもよい。
【0016】
また、前記構成のマイクロ流路チップにおいて、前記第2液体保持部は前記第4流路の下流端に形成され、第2液体を導入するための開口部が前記蓋部における前記第2面に対向する面に設けられ、前記蓋部の密封によって前記第4流路に供給された気体が前記第2液体保持部から下流側へ第2液体を押し出し、前記第2流路で第1液体に合流する構成であってもよい。
【0017】
また、前記構成のマイクロ流路チップにおいて、前記第2液体保持部は、前記蓋部における前記第2面に対向する面に突出させて設けられてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡便な構造により迅速な送液および反応を可能にするマイクロ流路チップを構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態1に係るマイクロ流路チップを模式的に示す部分拡大断面図である。
図2】前記マイクロ流路チップのチップ本体を示す平面図である。
図3】本発明の実施形態2に係るマイクロ流路チップを模式的に示す部分拡大断面図である。
図4】本発明の実施形態3に係るマイクロ流路チップを模式的に示す部分拡大断面図である。
図5】本発明の実施形態4に係るマイクロ流路チップを模式的に示す部分拡大断面図である。
図6】本発明の実施形態5に係るマイクロ流路チップを模式的に示す部分拡大断面図である。
図7】本発明の実施形態6に係るマイクロ流路チップを模式的に示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係るマイクロ流路チップ1について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
(実施形態1)
図1(a)および図1(b)は、本発明の実施形態1に係るマイクロ流路チップ1の要部を模式的に示す部分断面図であり、図2は、マイクロ流路チップ1のチップ本体10を示す平面図である。図1(a)および図1(b)は、図2のA-A断面に相当する。
【0022】
マイクロ流路チップ1は検査用または分析用のチップであって、例えば第1液体としての試薬30と第2液体としての検体40とを混合して送液し、所望の処理工程を実施するための微細な流路を備えている。図2に示すように、マイクロ流路チップ1は、矩形板状の形状を有している。マイクロ流路チップ1の全体形状は矩形板状であるに限られず、円盤状や扇形状であるなど、どのような形状であってもよい。
【0023】
図1(a)に示すように、マイクロ流路チップ1は、チップ本体10と、チップ本体10に装着される蓋部50とを有している。チップ本体10は、第1基板110と第2基板120とを含んで構成されている。第1基板110は、下面(第1面)111と、その反対側の面である上面(第2面)112とを有する板状体である。第2基板120も板状体であり、第1基板110の下面111に積層されて接合されている。第1基板110および第2基板120は合成樹脂の射出成形体により形成することができ、複数枚の合成樹脂製シートを積層することにより形成されてもよい。
【0024】
なお、以下の説明では、図1(a)および図1(b)に示すように、マイクロ流路チップ1のチップ本体10の上側に蓋部50が配置され、第1基板110の下側に第2基板120が接合されるものとして説明する。ただし、これは、説明の便宜のために上下方向を特定しているに過ぎず、本実施形態に係るマイクロ流路チップ1の使用時の向きを限定するものではない。
【0025】
実施形態1に係るマイクロ流路チップ1では、チップ本体10に、第1流路201と第2流路202とが設けられている。第1流路201は、第2流路202の上流側(図1(a)および図1(b)においては図中左側)に配設されており、送液方向Xに沿って、第1流路201、第2流路202の順に、互いに連通して備えられている。これらの流路201、202は図面では模式的に直線状に示しているが、どのような形状の流路とされてもよい。
【0026】
第1流路201の上流側には、系外に開放された気体流入口210が設けられている。例示の形態では、気体流入口210は、第1基板110の上面112に開口して設けられている。
【0027】
第1流路201には、試薬30が収納された試薬保持部(第1液体保持部)230が設けられている。試薬保持部230の上流側には気体流入口210が設けられ、試薬保持部230と気体流入口210とは第1流路201を介して連通している。
【0028】
試薬保持部230は狭窄構造を有することで、内部の試薬30を安定的に保持可能とされている。送液方向Xに直交する断面での断面積を比較したとき、例えば、試薬保持部230の下流側での第1流路201の断面積は、試薬保持部230における断面積よりも小さく形成されている。これにより、試薬保持部230内の試薬30が下流側へ移動する際の流路抵抗を高めて、試薬保持部230で試薬30が安定的に保持されることを可能にしている。
【0029】
第1流路201の下流側の第2流路202には、検体40を保持する検体保持部(第2液体保持部)240が設けられている。検体保持部240は、試薬保持部230の下流側に配設されるとともに、試薬保持部230の下流側の第1流路201に連通されている。第2流路202は、検体保持部240の下流側において、系外に開放されている。
【0030】
実施形態1に係るマイクロ流路チップ1では、検体保持部240はチップ本体10に設けられ、第1基板110の上面112に、検体40を導入するための開口部241が備えられている。この開口部241は、第2流路202上の検体保持部240に連通している。検体保持部240へは、開口部241を通してシリンジやピペット等により検体40が導入される。
【0031】
チップ本体10は、第1基板110の上面112と下面111が互いに平行な面とされている。第1流路201の溝および第2流路202の溝は、第1基板110の下面111に形成されている。そして、第1流路201および第2流路202は、第1基板110に第2基板120が積層されることで、第1基板110と第2基板120とに挟まれた空間により形成されている。
【0032】
マイクロ流路チップ1は、送液に際してマイクロ効果を生じる微細な流路として、第1流路201および第2流路202を備えている。これらの流路は、流路抵抗を低下させる観点から、例えば送液方向Xに直交する断面において、断面寸法(幅、高さ、または内径)が0.01mm以上、10mm以下の範囲内で形成されていることが好ましい。流路の断面形状は矩形状であっても円形であっても、どのような形状であってもよい。
【0033】
チップ本体10には、第1基板110の上面112に蓋部50が装着される。図1(a)に示すように、蓋部50は、気体流入口210を密閉する第1閉止部510と、開口部241を密閉する第2閉止部520とを有している。蓋部50は、例えば弾力性または粘着性を有するエラストマーや合成樹脂等からなる。
【0034】
蓋部50は、第1基板110の上面112に対向する蓋部50の下面501に、第1閉止部510と第2閉止部520とが突設されている。第1閉止部510は、気体流入口210に対応した突部形状に形成され、気体流入口210に嵌め込まれる。第2閉止部520は、開口部241に対応した突部形状に形成され、開口部241に嵌め込まれる。
【0035】
図1(b)に示すように、蓋部50は、気体流入口210および開口部241を密封するように、チップ本体10に装着される。これにより、第1閉止部510が気体流入口210を塞ぎ、第2閉止部520が開口部241を塞いで、送液が開始される。
【0036】
蓋部50がチップ本体10に装着されることで、第1閉止部510が気体流入口210に圧入され、気体流入口210を密封する。気体流入口210は内部空間が狭められるので、気体流入口210の気体(空気)が第1流路201へ流れ込むこととなる。第1流路201に供給された気体は、試薬保持部230から下流側へ試薬30を押し出し、押し出された試薬30は第1流路201から第2流路202へ流れる。
【0037】
また、第2閉止部520が開口部241に圧入されて開口部241を密封することで、検体保持部240で保持されていた検体40は、検体保持部240から押し出されて第2流路202を流れるものとなる。第2流路202では、試薬保持部230からの試薬30と検体40とが合流する。
【0038】
より具体的には、第2流路202では、検体保持部240から押し出された検体40が第2流路202の内壁に濡れ広がる。濡れ広がった検体40は第2流路202内で停止するとともに、気体が通過することのできる空間を形成する。これにより、送液方向Xに沿って流れてきた試薬30が、第2流路202に濡れ広がった検体40に合流して混合液体となる。第2流路202の内壁は、検体40との親和性の高い材料により形成されることで、より効果的に検体40を濡れ広がらせることができ、試薬30と確実に合流させることが可能となる。
【0039】
このように、本実施形態に係るマイクロ流路チップ1では、検体保持部240に検体40を導入後、チップ本体10に蓋部50を装着することで、直ちに試薬30と検体40とを混合し、混合液体として保持することができる。そのため、抗凝固剤などの凝固阻害反応を起こす化合物や抗体等を用いなくとも、検体40の乾燥や凝固が起こることを防止することができ、検体40の正確な反応や測定を実施することが可能になる。また、前記化合物や抗体等が不要であって、その供給槽等も必要がないことから、製造コストを抑えることができるとともに、簡便な構造でマイクロ流路チップ1を構成することが可能となる。
【0040】
(実施形態2)
図3(a)および図3(b)は、実施形態2に係るマイクロ流路チップ1の要部を模式的に示す部分断面図であり、図2におけるA-A断面相当図である。
【0041】
なお、以下に説明する実施形態2~6の形態に係るマイクロ流路チップ1は基本構成が実施形態1と同様であることから、その共通する構成については実施形態1と共通の符号を用いて重複する説明を省略する。
【0042】
実施形態1に係るマイクロ流路チップ1は、蓋部50の第1閉止部510が気体流入口210に嵌め込まれ、第2閉止部520が開口部241に嵌め込まれる構成であった。これに対して、実施形態2に係るマイクロ流路チップ1は、蓋部50側に気体流入口210が嵌め込まれる構成とされている。
【0043】
図3(a)に示すように、第1基板110の上面112には、気体流入突部211が突設されており、この気体流入突部211に気体流入口210が開口されている。また、第1基板110の上面112には、検体導入突部242が突設されており、この検体導入突部242に開口部241が設けられて検体保持部240に連通されている。検体保持部240には、検体導入突部242の開口部241からピペットなどを用いて一定量の検体40が導入される。
【0044】
これに対して、蓋部50は、第1閉止部510に、気体流入突部211に対応する凹部511が設けられ、第2閉止部520に、検体導入突部242に対応する凹部521が設けられている。
【0045】
図3(b)に示すように、蓋部50がチップ本体10に装着されると、第1閉止部510に気体流入突部211が嵌め込まれ、気体流入口210が密封される。また、第2閉止部520に検体導入突部242が嵌め込まれ、開口部241が密封される。
【0046】
これにより、気体流入口210から第1流路201へ気体が供給され、第1流路201に供給された気体によって、試薬保持部230から下流側へ試薬30が押し出される。試薬30は第2流路202で検体40に合流する。
【0047】
したがって、本実施形態に係るマイクロ流路チップ1にあっても、実施形態1と同様に、検体保持部240に検体40を導入後、チップ本体10に蓋部50を装着することで、直ちに試薬30と検体40とを混合し、混合液体として保持することが可能となる。
【0048】
(実施形態3)
図4(a)および図4(b)は、実施形態3に係るマイクロ流路チップ1の要部を模式的に示す部分断面図であり、図2におけるA-A断面相当図である。
【0049】
実施形態1に係るマイクロ流路チップ1は、チップ本体10の第1流路201が、直接、第2流路202に接続されている構成であった。これに対して、実施形態3に係るマイクロ流路チップ1は、チップ本体10の第1流路201が、蓋部50側に設けられた第3流路203を経由して、チップ本体10の第2流路202に接続されている点に特徴を有する。
【0050】
図4(a)に示すように、蓋部50には、第1流路201に接続可能な第3流路203が設けられている。第3流路203は、蓋部50の内部を貫通して設けられた流路であり、系外に開放された上流端開口203aと下流端開口203bとを備えている。
【0051】
チップ本体10には、実施形態1と同様に、気体流入口210、これに連通する第1流路201、および第1流路201上の試薬保持部230が設けられている。試薬保持部230の下流側に延びる第1流路201は、下流端が第1基板110の上面112に開放されている。この場合、第1流路201は試薬保持部230の下流側では、第1基板110の下面111側から上面112側へ延び、第1基板110の上面112に下流端が開放されている。
【0052】
第1基板110の上面112には、第1突部113および第2突部114が突設されている。これらの第1突部113と第2突部114とは、それぞれ、蓋部50の上流端開口203aと下流端開口203bに対応して形成されている。第1突部113には、第1流路201が上下方向に配設され、第1突部113の上端に第1流路201の下流端が開口して設けられている。第2突部114には、第2流路202に連通する検体保持部240が設けられている。検体保持部240の開口部241は第2突部114の上端に開口して設けられている。
【0053】
検体保持部240は、第1基板110の上面112に突出させて設けられていることから、ピペット等を用いずとも、直接、検体40を採取することが可能である。すなわち、第2突部114に設けられた開口部241は、検体採取口とすることができる。この場合、開口部241に検体40を接触させることで、毛管力により検体保持部240が満たされるまで検体40を導入することができる。検体保持部240は、断面形状が円形の流路とされることで毛管力により検体40を引き込むことができる。
【0054】
検体保持部240に、直接、検体40を採取する際の駆動力として毛管力を利用するには、例えば開口部241の内径を0.1mm以上、2.0mm以下で形成することが好ましい。より好ましくは、0.4mm以上、1.2mm以下の内径の開口部241を備えさせることで、毛管力によって血液等の検体40を人体の指等から容易に採取することが可能となる。
【0055】
図4(b)に示すように、蓋部50をチップ本体10に装着することによって、気体流入口210が第1閉止部510により密封され、第1突部113および第2突部114には蓋部50が覆い被さる。すなわち、チップ本体10の第1突部113は、蓋部50の第3流路203の上流端開口203aに嵌め込まれる。また、第2突部114は、蓋部50の第3流路203の下流端開口203bに嵌め込まれる。これにより、第1流路201は、第3流路203を経由して、第1基板110に設けられた第2流路202に接続される。
【0056】
気体流入口210から第1流路201へ供給された気体は、試薬保持部230から下流側へ試薬30を押し出し、第1流路201の下流側へ送液する。試薬30は、第1流路201から、蓋部50の第3流路203を通り、検体保持部240に到達する。検体保持部240の検体40は、第2流路202に濡れ広がり、試薬30が合流して混合される。
【0057】
したがって、本実施形態に係るマイクロ流路チップ1にあっても、検体保持部240に検体40を導入後、チップ本体10に蓋部50を装着することで、直ちに試薬30と検体40とを混合し、混合液体として保持することができる。また、検体40を直接、検体保持部240で採取することができるので、検体保持部240に検体40を導入する手間がかからず、容易に検体40を導入することができる。
【0058】
(実施形態4)
図5(a)および図5(b)は、実施形態4に係るマイクロ流路チップ1の要部を模式的に示す部分断面図であり、図2におけるA-A断面相当図である。
【0059】
実施形態3に係るマイクロ流路チップ1は、蓋部50に第3流路203を貫通させて設けた構成であった。これに対して、実施形態4に係るマイクロ流路チップ1では、蓋部50をチップ本体10に装着することによって、チップ本体10と蓋部50との間に第3流路203が形成される構成である点に特徴を有する。
【0060】
図5(a)に示すように、蓋部50には、第3流路203を形成するための流路形成凹部203cが、下面501に開口した凹状に設けられている。チップ本体10側には、第1突部113と第2突部114とが、流路形成凹部203cに対応する一体形状の突状部として設けられている。
【0061】
また、第2突部114は、上端部が第1突部113よりも上方へ突出させて設けられている。第2突部114には、第2流路202に連通する検体保持部240が設けられている。検体保持部240の開口部241は第2突部114の上端に開口して設けられている。これにより、第2突部114に設けられた開口部241に検体40を接触させ、毛管力によって検体保持部240に検体40を導入することが可能とされている。
【0062】
図5(b)に示すように、蓋部50をチップ本体10に装着することで、気体流入口210が第1閉止部510により密封され、第1突部113および第2突部114には蓋部50が覆い被さる。すなわち、チップ本体10の第1突部113と第2突部114は、ともに、蓋部50の流路形成凹部203cに嵌め込まれる。このとき、第1突部113の上端部と第2突部114の上端部は、流路形成凹部203cの内面には到達しない大きさで、流路形成凹部203cは設けられている。そのため、第1突部113および第2突部114と、流路形成凹部203cの内面との間には、第3流路203が形成される。第1流路201は、流路形成凹部203cによりチップ本体10と蓋部50との間に形成された第3流路203を経由して、第1基板110に設けられた第2流路202に接続されるものとなる。
【0063】
気体流入口210から第1流路201へ供給された気体は、試薬保持部230から下流側へ試薬30を押し出し、第1流路201の下流側へ送液する。試薬30は、第1流路201から、蓋部50の第3流路203を通り、検体保持部240に到達する。検体保持部240の検体40は、第2流路202に濡れ広がり、試薬30が合流して混合される。
【0064】
したがって、本実施形態に係るマイクロ流路チップ1にあっても、検体保持部240に検体40を導入後、チップ本体10に蓋部50を装着することで、直ちに試薬30と検体40とを混合し、混合液体として保持することができる。また、検体40を直接、検体保持部240で採取することができるので、検体保持部240に検体40を導入する手間がかからず、容易に検体40を導入することができる。
【0065】
また、第3流路203を形成するために蓋部50に流路形成凹部203cを設けた構成であり、流路形成凹部203cは蓋部50の下面501に開口した凹部とすることができる。このため、流路形成凹部203cを簡便な構造で設けることができ、成形容易性が高められる。
【0066】
(実施形態5)
図6(a)および図6(b)は、実施形態5に係るマイクロ流路チップ1の要部を模式的に示す部分断面図であり、図2におけるA-A断面相当図である。
【0067】
実施形態1~4に係るマイクロ流路チップ1では、チップ本体10側に検体保持部240が設けられた構成であった。これに対して、実施形態5に係るマイクロ流路チップ1は、蓋部50側に検体保持部240が設けられている点に特徴を有する。
【0068】
図6(a)に示すように、蓋部50には、第1流路201に接続可能な第3流路203が設けられている。この第3流路203は、蓋部50の内部を貫通して設けられた流路であり、上流端には系外に開放された上流端開口203aを備え、下流端には検体保持部240を備えている。
【0069】
例示の形態では、蓋部50には、下面501側に突出させて第3突部243が設けられている。この第3突部243には、第3流路203に連通する検体保持部240が備えられている。検体保持部240に検体40を導入するための開口部241は、第3突部243の下端部に設けられて蓋部50の下面501側に開放されている。これにより、検体保持部240は、蓋部50の下面501に突出させて設けられている。
【0070】
チップ本体10に設けられた第1流路201は、試薬保持部230の下流側では、第1基板110の下面111側から上面112側へ延び、第1基板110の上面112に下流端が開放されている。第1基板110の上面112には、第1突部113が突設され、第1突部113の上端に第1流路201の下流端が開口して設けられている。第1突部113は、蓋部50の上流端開口203aに対応して形成されている。また、チップ本体10には、第3突部243に対応して、上面112に開放された凹状の結合凹部115が設けられている。
【0071】
図6(b)に示すように、蓋部50をチップ本体10に装着することによって、気体流入口210が第1閉止部510により密封される。また、蓋部50の上流端開口203aに第1突部113が嵌め込まれ、蓋部50の第3突部243はチップ本体10の結合凹部115に嵌め込まれる。このとき、第1突部113の上端部は、第3流路203の内面には到達しない大きさで、第3流路203および第1突部113が形成されている。
【0072】
これにより、第1流路201は、蓋部50に形成される第3流路203と、蓋部50の検体保持部240を経由して、第1基板110に設けられた第2流路202に接続されるものとなる。検体保持部240は第3流路203の下流端に設けられているので、蓋部50の密封によって第2流路202に結合される。
【0073】
気体流入口210から第1流路201へ供給された気体は、試薬保持部230から下流側へ試薬30を押し出し、第1流路201の下流側へ送液する。試薬30は、第1流路201から、蓋部50の第3流路203を通り、検体保持部240に到達する。検体保持部240の検体40は、蓋部50からチップ本体10側へ流れ、第2流路202に濡れ広がり、試薬30が合流して混合される。
【0074】
このように、本実施形態に係るマイクロ流路チップ1にあっても、検体保持部240に検体40を導入後、チップ本体10に蓋部50を装着することで、直ちに試薬30と検体40とを混合し、混合液体として保持することができる。また、検体40を直接、検体保持部240で採取することができるうえ、検体保持部240が蓋部50に突設されていることで、検体40の採取をより一層容易に行うことが可能となる。
【0075】
(実施形態6)
図7(a)および図7(b)は、実施形態6に係るマイクロ流路チップ1の要部を模式的に示す部分断面図であり、図2におけるA-A断面相当図である。
【0076】
実施形態5に係るマイクロ流路チップ1では、第1流路201に接続可能な第3流路203が蓋部50に設けられた構成であった。これに対して、実施形態6に係るマイクロ流路チップ1は、蓋部50に、第2流路202に接続可能な第4流路204を備える点に特徴を有する。
【0077】
図7(a)に示すように、蓋部50は、上流端が系外に開放されるとともに下流端がチップ本体10の第2流路202に接続可能な第4流路204を備えている。この第4流路204は、蓋部50の内部を貫通して設けられた流路であり、上流端には系外に開放された上流端開口203aを備え、下流端には検体保持部240を備えている。
【0078】
例示の形態では、蓋部50には、下面501側に突出させて第3突部243が設けられている。第3突部243には、第4流路204に連通する検体保持部240が備えられている。検体40を導入するための開口部241は、第3突部243に設けられて蓋部50の下面501に突出され、蓋部50の下面501側に開放されている。
【0079】
チップ本体10に設けられた第1流路201は、試薬保持部230の下流側で第1基板110の下面111に沿って送液方向Xに延びている。第1流路201は第2流路202に直接接続されている。
【0080】
第2流路202には、結合凹部115および結合凹部115に連通する接続流路244が接続されている。第3突部243に対応する結合凹部115は、第1基板110の上面112に開放して設けられている。結合凹部115と第2流路202との間には接続流路244が設けられている。
【0081】
第1基板110の上面112には、第3閉止部116が突設されている。第3閉止部116は、蓋部50に設けられた第4流路204の上流端開口203aに対応して突状に設けられ、上流端開口203aに嵌め込まれるように形成されている。
【0082】
図7(b)に示すように、蓋部50をチップ本体10に装着することによって、気体流入口210が第1閉止部510により密封される。また、蓋部50の第4流路204の上流端開口203aには、第3閉止部116が嵌め込まれて密封される。
【0083】
蓋部50の第3突部243は、チップ本体10の結合凹部115に嵌め込まれる。これにより、蓋部50の第4流路204および検体保持部240は、チップ本体10の接続流路244に接続され、さらに第2流路202に接続されるものとなる。
【0084】
蓋部50の密封によって、気体が第4流路204に供給される。検体保持部240は第4流路204の下流端に設けられているので、供給された気体で検体保持部240から検体40が押し出される。検体40は、蓋部50からチップ本体10の接続流路244を経て第2流路202へと流れ、第2流路202で濡れ広がる。一方、気体流入口210から第1流路201へ供給された気体は、試薬保持部230から下流側へ試薬30を押し出し、第1流路201を経て第2流路202へ送液する。試薬30は、第2流路202で検体40に合流する。
【0085】
これにより、本実施形態に係るマイクロ流路チップ1にあっても、検体保持部240に検体40を導入後、チップ本体10に蓋部50を装着することで、直ちに試薬30と検体40とを混合し、混合液体として保持することができる。また、検体40を直接、検体保持部240で採取することができるうえ、検体保持部240が蓋部50に突設されていることで、より一層容易に検体40を導入することができる。
【0086】
そのため、抗凝固剤などの凝固阻害反応を起こす化合物や抗体等の供給槽を設けずとも、検体40の乾燥や凝固が起こることを防止することができるとともに、検体40の正確な反応や測定を行うことが可能になる。実施形態6に係るマイクロ流路チップ1の蓋部50の構造は、前記実施形態5に示した蓋部50と共通の構造とすることができる。
【0087】
以上説明したように、マイクロ流路チップ1は、抗凝固剤などの凝固阻害反応を起こす化合物や抗体等を用いなくとも、試薬30と検体40を合流させて混合液体として保持することができ、製造コストを抑えるとともに人体への負荷を軽減し得て、簡便な構造で迅速な送液を可能にする。これにより、マイクロ流路チップ1のさらなる小型化を図ることも可能となる。また、検体保持部240をチップ本体10または蓋部50に突出させて設けることで、検体40を手間なく容易に導入することも可能となる。
【0088】
なお、本発明に係るマイクロ流路チップは、前記実施形態に示す構成であるに限られず、他の様々な形態により実施することが可能である。混合して送液される液体は、第1液体としては試薬30に限られず、第2液体としては検体40に限られず、どのような液体でも対象とすることが可能である。
【0089】
また、図示はしていないが、前記実施形態において、第2流路202よりも上流側にはマイクロポンプが接続されていてもよい。この場合、試薬30と検体40との混合後にマイクロポンプを駆動することにより、混合液体をさらに下流側へ送液することができる。このようなマイクロポンプとしては、特に限定されないが、例えば光照射により気体を発生する光ガス発生テープを用いることができる。
【0090】
本発明の技術的範囲は、前記実施の形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲に基づくものとされる。また、本発明の技術的範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0091】
1 マイクロ流路チップ
10 チップ本体
110 第1基板
111 下面(第1面)
112 上面(第2面)
113 第1突部
114 第2突部
120 第2基板
201 第1流路
202 第2流路
203 第3流路
204 第4流路
210 気体流入口
230 試薬保持部(第1液体保持部)
240 検体保持部(第2液体保持部)
241 開口部
30 試薬(第1液体)
40 検体(第2液体)
50 蓋部
501 下面
510 第1閉止部
520 第2閉止部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7