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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20221025BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20221025BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20221025BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20221025BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20221025BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20221025BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20221025BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/13
H01M4/133
H01M4/587
H01M4/66 A
H01M10/052
H01M50/489
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019203347
(22)【出願日】2019-11-08
(65)【公開番号】P2021077521
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2021-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧村 嘉也
(72)【発明者】
【氏名】中野 広幸
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-160733(JP,A)
【文献】特開2016-115523(JP,A)
【文献】特開2021-077476(JP,A)
【文献】特開2021-026807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/058
H01M 4/13
H01M 4/133
H01M 4/587
H01M 4/66
H01M 10/052
H01M 50/489
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の単位セルを含み、
複数本の前記単位セルの各々はロッド状であり、
複数本の前記単位セルは結束されており、
複数本の前記単位セルの各々は互いに平行に配置されており、
複数本の前記単位セルの各々は、負極と、セパレータと、正極と、炭素膜とを含み、
前記負極はロッド状であり、
前記負極は繊維状炭素材料を含み、
前記セパレータは前記負極の表面を被覆しており、
前記セパレータは4μm以上の厚さを有し、
前記正極は前記セパレータの表面を被覆しており、
前記炭素膜は前記正極の表面を被覆しており、
隣接する2本の前記単位セル同士の間において、2つの前記炭素膜同士が互いに接触している、
リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2018-152230号公報(特許文献1)は、三次元電極構造を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-152230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1は、二次元電極構造を示す概念図である。
従来、リチウムイオン電池(以下「電池」と略記され得る)は、二次元電極構造を有している。二次元電極構造において、正極210および負極220の各々は、シート状である。正極210と負極220との間には、セパレータ230が配置されている。正極210、負極220およびセパレータ230は、単位セル200を形成している。単位セル200も、シート状になり得る。例えば、帯状の単位セル200が渦巻き状に巻回されることもある。例えば、複数枚の単位セル200が積層されることもある。二次元電極構造において、正極210と負極220とは、平面的に隣接している。
【0005】
二次元電極構造における課題のひとつとして、容量と出力とがトレードオフであることが挙げられる。例えば、二次元電極構造において、容量を高めるためには、容量に寄与する構成(正極210および負極220)を厚くすることが求められる。他方、容量に寄与しない構成(例えば、セパレータ230、集電箔等)は、相対的に薄くすることが求められる。その結果、電極の厚さ方向におけるイオン伝導が、充放電反応の律速段階となり得る。充放電反応の律速段階がイオン伝導になると、出力が低下する可能性がある。
【0006】
二次元電極構造における課題を克服するため、三次元電極構造が提案されている。三次元電極構造とは、正極と負極とが立体的に隣接する電極構造を示す。正極と負極とが立体的に隣接することにより、単位体積当たりの電極対向面積(反応面積)が大きくなり得る。そのため、容量と出力とのトレードオフが解消されることが期待される。
【0007】
図2は、三次元電極構造の一例を示す概念図である。
例えば、ロッド状の単位セル100により、三次元電極構造を形成することが考えられる。単位セル100の芯は、ロッド状の負極である。負極の表面に、セパレータおよび正極が積層されている。複数本の単位セル100が結束されることにより、三次元電極構造が形成され得る。図2の三次元電極構造においては、高容量と高出力との両立が期待される。ただし、図2の三次元電極構造を有する電池は、充放電サイクル後の抵抗に改善の余地がある。
【0008】
本開示の目的は、三次元電極構造を有する電池において、充放電サイクル後の抵抗を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし、本開示の作用メカニズムは推定を含んでいる。作用メカニズムの正否により、特許請求の範囲が限定されるべきではない。
【0010】
リチウムイオン電池は、複数本の単位セルを含む。複数本の単位セルの各々はロッド状である。複数本の単位セルは結束されている。複数本の単位セルの各々は、互いに平行に配置されている。複数本の単位セルの各々は、負極と、セパレータと、正極と、炭素膜とを含む。負極はロッド状である。負極は繊維状炭素材料を含む。セパレータは負極の表面を被覆している。セパレータは4μm以上の厚さを有する。正極はセパレータの表面を被覆している。炭素膜は正極の表面を被覆している。隣接する2本の単位セル同士の間において、2つの炭素膜同士が互いに接触している。
【0011】
一般にリチウムイオン電池の正極は、電子伝導性に乏しい。正極材料の電気抵抗が大きいためと考えられる。他方、負極は十分な電子伝導性を有し得る。負極材料(炭素材料)が電子伝導性を示すためと考えられる。充放電サイクル後の高抵抗の一因は、正極における電子伝導にあると考えられる。
【0012】
本開示の電池においては、炭素膜が正極の電子伝導を担う。炭素膜は、良好な電子伝導性を示し得る。隣接する2本の単位セル同士の間において、2つの炭素膜同士が互いに接触することにより、複数本の単位セルにわたる電子伝導ネットワークが形成されることが期待される。これにより、正極における電子伝導が促進されることが期待される。その結果、充放電サイクル後の抵抗が低減することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、二次元電極構造を示す概念図である。
図2図2は、三次元電極構造の一例を示す概念図である。
図3図3は、図2のxy平面に平行な断面図である。
図4図4は、単位セルの構成を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」とも記される)が説明される。ただし、以下の説明は、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0015】
本実施形態において、例えば「1質量%から10質量%」との記載は、特に断りのない限り、境界値を含む範囲を示す。すなわち、例えば「1質量%から10質量%」は、「1質量%以上10質量%以下」の範囲を示す。
【0016】
<リチウムイオン電池>
本実施形態の「リチウムイオン電池」は、電極間を行き来するキャリア(電荷担体)が、リチウム(Li)イオンである二次電池を示す。
【0017】
本実施形態の電池は、任意の用途に適用され得る。電池は、例えば、モバイル端末、ポータブル機器、定置型電力貯蔵装置、電気自動車、ハイブリッド自動車等において使用されてもよい。
【0018】
本実施形態の電池は、任意の形状を有し得る。電池は、例えば、コイン形、ボタン形、シート形(ペーパー形)、ピン形、ガム形、パウチ形、円筒形、角形等であってもよい。
【0019】
電池は、任意の容量およびサイズを有し得る。電池は、例えば、ポータブル機器用の小型電池等であってもよい。電池は、例えば、自動車用の大型電池等であってもよい。
【0020】
《単位セル》
図2に示されるように、本実施形態における電池は、複数本の単位セル100を含む。複数本の単位セル100は、例えば、所定のケース(不図示)に収納されていてもよい。複数本の単位セル100と共に、電解液がケースに収納されていてもよい。ケースは、例えば、金属製の容器、アルミニウム(Al)ラミネートフィルム製のパウチ等であってもよい。
【0021】
複数本の単位セル100の各々は、例えば、10mmから150mmの長さを有していてもよい。単位セル100の長さは、図2のz軸方向における寸法を示す。複数本の単位セル100の各々は、例えば、10mmから60mmの長さを有していてもよい。複数本の単位セル100の各々は、例えば、60mmから150mmの長さを有していてもよい。
【0022】
複数本の単位セル100は、結束されている。本実施形態における「結束」は、束状に1つにまとめられていることを示す。複数本の単位セル100は、結束により一体不可分の構成になっていてもよい。
【0023】
複数本の単位セル100の各々は、ロッド状である。本実施形態における「ロッド状」は、所定の一方向に延びる形状であり、直径に対する長さの比が2以上である形状を示す。
【0024】
複数本の単位セル100の各々は、互いに平行に配置されている。なお、本実施形態における「平行」は、幾何学的に完全な平行のみを示すものではない。本実施形態における平行は、実質的に平行とみなされる関係も含む。「直交」についても同様である。
【0025】
図3は、図2のxy平面に平行な断面図である。
図3に示される断面は、単位セル100の軸方向(z軸方向)に直交する断面である。本実施形態において、単位セル100は、例えば、六角形状の断面を有していてもよい。例えば、等方圧加圧法等により、複数本の単位セル100が圧縮されることにより、単位セル100の各々は、六角形状の断面を有するように充填され得る。単位セル100の断面が六角形状であることにより、単位セル100の充填密度が高くなることが期待される。充填密度が高くなることにより、容量および出力の向上が期待される。ただし、六角形状は一例である。単位セル100の断面は、任意の形状を有し得る。単位セル100の断面は、例えば、円形状であってもよいし、四角形状であってもよい。
【0026】
本実施形態においては、隣接する2本の単位セル100同士の間において、2つの炭素膜111同士が互いに接触している。炭素膜111同士は密着性が良好である。複数の炭素膜111が、複数本の単位セル100にわたる電子伝導ネットワークを形成していてもよい。複数の炭素膜111は、例えば、ハニカム状のネットワークを形成するように連接していてもよい。炭素膜111が正極110の電子伝導を担うことにより、充放電サイクル後の抵抗が低減することが期待される。
【0027】
図4は、単位セルの構成を示す概念図である。
複数本の単位セル100の各々は、負極120と、セパレータ130と、正極110と、炭素膜111とを含んでいる。
【0028】
《負極》
負極120は、単位セル100の芯である。負極120はロッド状である。図2のz軸方向の一端において、負極120は、負極集電部材152に電気的に接続されている。負極集電部材152は、負極端子(不図示)に電気的に接続されている。負極集電部材152は、多孔質金属シート、金属薄板等であってもよい。
【0029】
負極120は、繊維状炭素材料を含む。繊維状炭素材料は、負極活物質として機能する。繊維状炭素材料は、良好な電子伝導性を示し得る。負極120は、例えば、実質的に繊維状炭素材料のみからなっていてもよい。負極120は、例えば、1本の炭素繊維(単繊維)のみからなっていてもよい。炭素繊維は、例えば、1μmから20μmの繊維径を有していてもよい。
【0030】
負極120は、例えば、複数本の炭素繊維を含んでいてもよい。複数本の炭素繊維は、束を形成していてもよい。以下「複数本の炭素繊維により形成された束」が「炭素繊維束」とも記される。すなわち、負極120は、炭素繊維束を含んでいてもよい。負極120は、実質的に炭素繊維束のみからなっていてもよい。炭素繊維束は、例えば、30μmから400μmの束径を有していてもよい。「束径」は、炭素繊維束の軸方向と直交する断面における、炭素繊維束の最大径を示す。
【0031】
炭素繊維束は、例えば、50μmから250μmの束径を有していてもよい。束径が50μm以上であることにより、セパレータ130および炭素膜111に加わる応力が小さくなることが期待される。その結果、充放電サイクル後の抵抗が低減することが期待される。束径が250μm以下であることにより、電極およびセパレータ内におけるイオン伝導が促進され得る。その結果、充放電サイクル後の抵抗が低減することが期待される。
【0032】
負極120は、繊維状炭素材料に加えて、例えば、バインダ等をさらに含んでいてもよい。バインダは、例えば、炭素繊維同士を結合していてもよい。バインダは、特に限定されるべきではない。バインダは、例えば、コールタールピッチ、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)等を含んでいてもよい。
【0033】
《セパレータ》
セパレータ130は、負極120の表面を被覆している。セパレータ130は筒状である。セパレータ130は、負極120から正極110を隔離している。セパレータ130は、電子伝導性を有しない。
【0034】
セパレータ130は、例えば、電解液により膨潤するポリマーを含んでいてもよい。すなわち、セパレータ130と、電解液とが、ゲルポリマー電解質を形成してもよい。ゲルポリマー電解質は、柔軟であり得る。
【0035】
正極110および負極120は、充放電に伴って、膨張し収縮する。電池作製後、初期の充放電(例えば、初期の数サイクル程度)において、ゲルポリマー電解質(セパレータ130および電解液)が、正極110および負極120の変形に追随し得る。ゲルポリマー電解質は、電極の表面形状に応じて変形し得る。これにより、セパレータ130と電極とが強固に接合されることが期待される。さらに、ゲルポリマー電解質が変形することにより、その内部に含まれる電解液が流動し得る。その結果、正極、電解液および負極のイオン的な接続が安定することが期待される。
【0036】
充放電サイクル中、電極の膨張および収縮により、応力が発生する。二次元電極構造においては、電極の厚さ方向に応力が逃がされ得る。しかし、三次元電極構造においては、電極の全周が束縛されているため、応力の逃げ場が少ないと考えられる。そのため、充放電サイクルにより、構造内に応力が蓄積する可能性がある。構造内に応力が蓄積することにより、部分的な破壊が起こり、抵抗が増加する可能性もある。電池がゲルポリマー電解質を含むことにより、応力がゲルポリマー電解質に吸収され、分散することが期待される。その結果、例えば、充放電サイクル後の抵抗が低減することが期待される。
【0037】
セパレータ130は、4μm以上の厚さを有する。セパレータ130は、例えば、5μmから35μmの厚さを有していてもよい。セパレータ130の厚さは、セパレータ130の外径と、セパレータ130の内径との差を示す。セパレータ130が5μm以上の厚さを有することにより、充放電サイクル中、正極110と負極120との間において、適度な間隔が維持され得る。セパレータ130は、例えば、5μmから25μmの厚さを有していてもよい。セパレータ130が25μm以下の厚さを有することにより、セパレータ130と電極とが良く馴染むことが期待される。セパレータ130と電極とが良く馴染むことにより、セパレータ130と電極との接合強度が向上することが期待される。その結果、充放電サイクル後の抵抗が低減することが期待される。
【0038】
《電解液》
電解液(不図示)は、複数本の単位セル100の各々に含浸されている。電解液は、電解質溶液である。電解液は、電解質と溶媒とを含む。電解質は溶媒に溶解している。電解質は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiN(FSO22〔Lithium bis(fluorosulfonyl)imide,LiFSI〕、およびLiN(CF3SO22〔Lithium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide,LiTFSI〕からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0039】
電解質は、例えば、LiPF6とLiFSIとを含んでいてもよい。電解質は、例えば、実質的にLiPF6とLiFSIとからなっていてもよい。電解質がLiFSIを含むことにより、充放電サイクル後の抵抗が低減することが期待される。このメカニズムの詳細は明らかでない。現時点においては、次のメカニズムが有力であると考えられる。
【0040】
充放電により、正極110の表面に被膜が生成されると考えられる。該被膜は、比較的に高い抵抗を有し得る。充放電の繰り返しにより、被膜は成長すると考えられる。LiFSIは、正極の表面における被膜の生成および成長を阻害していると考えられる。さらに、炭素膜111によって正極110の電子伝導が促進されることにより、抵抗が低減していると考えられる。
【0041】
電解液は、例えば、0.6mоl/Lから2.5mоl/Lの電解質を含んでいてもよい。電解質が複数の成分を含む場合、電解質の濃度は全成分の合計濃度を示す。電解液は、例えば、0.5mоl/Lから1.5mоl/LのLiPF6と、0.1mоl/Lから1.0mоl/LのLiFSIとを含んでいてもよい。
【0042】
溶媒は、特に限定されるべきではない。溶媒は、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、およびジエチルカーボネート(DEC)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。電解液は、各種の添加剤(例えば被膜形成剤等)をさらに含んでいてもよい。
【0043】
《正極》
正極110は、セパレータ130の表面を被覆している。正極110は、筒状である。図2のz軸方向の一端において、正極110は、正極集電部材151に電気的に接続されている。正極集電部材151は、例えば、多孔質金属シート、金属薄板等であってもよい。
【0044】
正極110は正極合材を含む。正極合材は、例えば、正極活物質、導電材およびバインダ等を含んでいてもよい。正極110は、例えば、0.1質量%から10質量%の導電材と、0.1質量%から10質量%のバインダと、それらの残部を占める正極活物質とからなっていてもよい。導電材は、任意の成分を含み得る。導電材は、例えば、カーボンブラック等を含んでいてもよい。バインダは、任意の成分を含み得る。バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を含んでいてもよい。
【0045】
正極活物質は、任意の成分を含み得る。正極活物質は、例えば、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、および、リン酸鉄リチウムからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0046】
正極活物質は、例えば、下記式:
Li1+zNi1-x-yCoxy2
により表される複合酸化物を含んでいてもよい。
上記式において、Mは、MnおよびAlからなる群より選択される少なくとも1種を示す。x、yおよびzは、0<z<0.15、0<x<0.4、0.05≦y<0.5、1-x>2yの関係を満たす。
【0047】
正極活物質は、例えば、Li1.05Ni0.5Co0.2Mn0.32、Li1.05Ni0.8Co0.15Al0.052、およびLi1.05Ni0.4Co0.3Mn0.32からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0048】
《炭素膜》
炭素膜111は、正極110の表面を被覆している。炭素膜111は筒状である。炭素膜111は、単位セル100の外面を形成している。隣接する2本の単位セル100同士の間において、2つの炭素膜111同士が互いに接触している。2つの炭素膜111は一体不可分になっていてもよい。
【0049】
炭素膜111は炭素材料を含む。炭素膜111は、実質的に炭素材料のみからなっていてもよい。炭素膜111は、炭素材料に加えて、例えばバインダ等をさらに含んでいてもよい。
【0050】
炭素膜111が電子伝導性を有する限り、炭素膜111は任意の炭素材料を含み得る。炭素膜111は、例えば、1種の炭素材料のみからなっていてもよい。炭素膜111は、例えば、複数種の炭素材料を含んでいてもよい。炭素膜は、例えば、カーボンブラック(CB)、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、気相成長炭素繊維(VGCF)、グラファイトおよびグラッシーカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。炭素膜は、例えば、CB、グラフェンおよびCNTからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0051】
炭素膜111は、例えば、30nmから3μm(30nmから3000nm)の厚さを有していてもよい。炭素膜111の厚さは、単位セル100の軸方向と直交する断面において測定される。該断面において、炭素膜111の厚さは、炭素膜111の外径と内径との差である。炭素膜111の厚さに応じて、例えば、光学顕微鏡または電子顕微鏡により、単位セル100の断面が観察される。炭素膜111の厚さは、5箇所以上の位置においてそれぞれ測定される。5箇所以上の厚さの算術平均が、炭素膜111の厚さとみなされる。
【0052】
炭素膜111は、例えば、50nmから2μm(50nmから2000nm)の厚さを有していてもよい。炭素膜111の厚さが50nm以上であることにより、炭素膜111における電子伝導が促進されることが期待される。その結果、充放電サイクル後の抵抗が低減することが期待される。炭素膜111の厚さが2μm以下であることにより、電極の膨張および収縮に対する耐性が向上することが期待される。これにより、充放電サイクル中、炭素膜111が破壊され難くなることが期待される。その結果、充放電サイクル後の抵抗が低減することが期待される。
【0053】
さらに、炭素膜111の厚さが50nmから2μmである時、電池作製後、初期の充放電(例えば、初期の数サイクル程度)において、炭素膜111が正極110の変形に追随することにより、炭素膜111が正極110と良く馴染むことが期待される。これにより、炭素膜111が正極110と強固に接合されることが期待される。その結果、充放電サイクル後の抵抗が低減することが期待される。
【0054】
炭素膜111は、例えば、100nm以上の厚さを有していてもよい。炭素膜111は、例えば、1μm以下の厚さを有していてもよい。炭素膜111は、例えば、200nm以下の厚さを有していてもよい。
【0055】
炭素膜111は、任意の成膜方法により形成され得る。炭素膜111は、例えば、スプレーコート法等により形成されてもよい。
【実施例
【0056】
以下、本開示の実施例が説明される。ただし、以下の説明は、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0057】
<供試電池の製造>
以下のように、三次元電極構造を有する電池が製造された。
【0058】
《実験例1》
(負極の形成)
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に、PVDF-HFPが溶解されることにより、ポリマー溶液が調製された。
【0059】
日本グラファイトファイバー社製の炭素繊維(型番「XN-90-60S」、繊維径 10μm)が準備された。該炭素繊維は、黒鉛成分を豊富に含むと考えられる。炭素繊維の表面にポリマー溶液が塗布された。ポリマー溶液の塗布後、複数本の炭素繊維が束状に1つにまとめられた。ヒートガンにより、ポリマー溶液が乾燥された。複数本の炭素繊維同士が互いに結合することにより、炭素繊維束が形成された。炭素繊維束は150μmの束径を有していた。以上より、炭素繊維束からなる負極120が形成された。
【0060】
(セパレータの形成)
負極120(炭素繊維束)の表面に、ポリマー溶液が塗布され、乾燥されることにより、セパレータ130が形成された。セパレータ130はPVdF-HFPからなっていた。セパレータ130は10μmの厚さを有していた。
【0061】
(正極の形成)
以下の材料が準備された。
正極活物質:Li1.05Ni0.5Co0.2Mn0.32
導電材 :カーボンブラック
バインダ :PVdF
分散媒 :NMP
【0062】
正極活物質、導電材、バインダおよび分散媒が混合されることにより、正極スラリーが調製された。正極スラリーにおいて不揮発成分(NV)の混合比は、「正極活物質/導電材/バインダ=90/7/3(質量比)」であった。正極スラリーがセパレータ130の表面に塗布され、乾燥されることにより、正極110が形成された。これにより、ロッド状の仕掛品が形成された。ロッド状の仕掛品は、負極120、セパレータ130および正極110からなっていた。
【0063】
(炭素膜の形成)
炭素材料として、カーボンブラックが準備された。エアブラシにより、カーボンブラックが正極110の表面に塗布された。これにより、炭素膜111が成膜された。成膜は4回に分けて実施された。1回の成膜の度に、仕掛品が90度回転された。これにより、仕掛品(正極110)の全面に、炭素膜111が形成された。以上より、単位セル100が形成された。単位セル100は、60mmの長さを有していた。
【0064】
(結束)
複数本の単位セル100が準備された。各単位セル100が互いに平行になるように、複数本の単位セル100が1つに束ねられた。静水圧プレスにより、単位セル100の束が圧縮された。これにより、複数本の単位セル100が結束された。
【0065】
複数本の単位セル100の断面において、電子顕微鏡により、炭素膜111の厚さが5箇所で測定された。5箇所の厚さの平均値は、50nmであった。
【0066】
(注液)
複数本の単位セル100の結束後、正極110および負極120に、リードタブがそれぞれ接続された。Alラミネートフィルム製のパウチが準備された。複数本の単位セル100がパウチに収納された。パウチに電解液が注入された。電解液は、以下の組成を有していた。
【0067】
(電解液の組成)
電解質:LiPF6(濃度 1mоl/L)
溶媒 :EC/DMC/EMC=3/4/3(体積比)
【0068】
(封止)
電解液の注入後、ヒートシーラにより、パウチが封止された。以上より、三次元電極構造を有する電池が製造された。
【0069】
《実験例8から実験例11》
下記表1に示されるように、炭素膜111の厚さが変更され、かつ炭素繊維束の束径が変更されることを除いては、実験例1と同様に電池が製造された。
【0070】
《実験例12から実験例15》
下記表1に示されるように、炭素膜111の厚さが変更され、かつセパレータ130の厚さが変更されることを除いては、実験例1と同様に電池が製造された。
【0071】
《実験例16および実験例17》
下記表1に示されるように、炭素膜111の厚さが変更され、かつ単位セル100の長さが変更されることを除いては、実験例1と同様に電池が製造された。
【0072】
《実験例18から実験例23》
下記表2に示されるように、正極活物質が変更されることを除いては、実験例1、実験例2、実験例4から実験例7と同様に、電池が製造された。
【0073】
《実験例24から実験例29》
下記表3に示されるように、正極活物質が変更されることを除いては、実験例18から実験例23と同様に、電池が製造された。
【0074】
《実験例30から実験例31》
下記表4に示されるように、炭素材料が変更されることを除いては、実験例2と同様に、電池が製造された。
【0075】
《実施例32から実験例35》
下記表5に示されるように、電解質の組成が変更されることを除いては、実験例2と同様に、電池が製造された。
【0076】
<評価>
40℃の温度環境下において、0.1Cの電流レートにより、定電流方式の充放電が3サイクル実施された。充放電の上限電圧は4.1Vであり、下限電圧は2.5Vであった。「C」は、電流レートの単位である。1Cの電流レートにおいては、電池の定格容量が1時間で放電される。
【0077】
25℃の温度環境下において、0.1Cの電流レートにより、充放電が10サイクル実施された。充放電の上限電圧は4.1Vであり、下限電圧は2.5Vであった。
【0078】
10サイクル後、電池のSOC(state of charge)が50%に調整された。SOCの調整後、25℃の温度環境下において、0.5Cの電流レートにより、電池が2秒間通電された。2秒後の電圧が測定された。同様に、1C、2C、4Cおよび6Cの各電流レートにおいて、通電2秒後の電圧が測定された。二次元座標に測定結果がプロットされた。二次元座標の横軸は電流であり、縦軸は電圧である。二次元座標における近似直線の傾きから、IV抵抗が算出された。IV抵抗は、電池の内部抵抗に相当する。
【0079】
測定結果は、下記表1から表5に示される。本実施例においては、「10サイクル後抵抗」の欄に示される値が1未満であれば、充放電サイクル後の抵抗が低減しているとみなされる。また、「10サイクル後抵抗」の欄に示される値が小さい程、低減効果が大きいとみなされる。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
【表4】
【0084】
【表5】
【0085】
<結果>
例えば、上記表1に示されるように、三次元電極構造を有する電池に、炭素膜111が付与されることにより、充放電サイクル後の抵抗が低減する傾向がみられる。
【0086】
上記表1中、例えば、実験例1から実験例7において、炭素膜111が50nmから2μmの厚さを有する時、充放電サイクル後の抵抗が低減する傾向がみられる。
【0087】
上記表1中、実験例8から実験例11において、炭素繊維束が50μmから250μmの束径を有する時、充放電サイクル後の抵抗が低減する傾向がみられる。
【0088】
上記表1中、実験例12から実験例15において、セパレータ130が25μm以下の厚さを有する時、充放電サイクル後の抵抗が低減する傾向がみられる。セパレータ130が3μmの厚さを有する時、充放電サイクルの初期で短絡が発生した。セパレータ130の厚さは、4μm以上であることが求められる。
【0089】
上記表1中、実験例16および実験例17に示されるように、単位セル100の長さにかかわらず、炭素膜111の付与により、充放電サイクル後の抵抗が低減すると考えられる。
【0090】
上記表1、表2および表3に示されるように、正極活物質の種類にかかわらず、炭素膜111の付与により、充放電サイクル後の抵抗が低減すると考えられる。
【0091】
上記表1中の実験例2、上記表4中の実験例30および実験例31に示されるように、炭素材料の種類にかかわらず、炭素膜111の付与により、充放電サイクル後の抵抗が低減すると考えられる。
【0092】
上記表1中の実験例2、上記表5中の実験例32から実験例35において、電解液がLiPF6に加えて、LiFSIを含むことにより、充放電サイクル後の抵抗が低減する傾向がみられる。
【符号の説明】
【0093】
100,200 単位セル、110,210 正極、111 炭素膜、120,220 負極、130,230 セパレータ、151 正極集電部材、152 負極集電部材。
図1
図2
図3
図4