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特許7164517炭素材料、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス、及び非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】炭素材料、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス、及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20221025BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20221025BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20221025BHJP
   C01B 32/225 20170101ALI20221025BHJP
   C01B 32/19 20170101ALI20221025BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20221025BHJP
   H01G 11/24 20130101ALI20221025BHJP
   H01G 11/32 20130101ALI20221025BHJP
   H01G 11/36 20130101ALI20221025BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20221025BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/0567
C01B32/225
C01B32/19
H01G11/06
H01G11/24
H01G11/32
H01G11/36
H01G11/64
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019515389
(86)(22)【出願日】2019-01-23
(86)【国際出願番号】 JP2019001980
(87)【国際公開番号】W WO2019155881
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2022-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2018021879
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018038725
(32)【優先日】2018-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】増田 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】笹川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】内田 かずほ
(72)【発明者】
【氏名】藤原 昭彦
【審査官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/006908(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/204240(WO,A1)
【文献】特開2016-213204(JP,A)
【文献】特開2011-210461(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152869(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/090553(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 10/052
H01M 10/0567
C01B 32/19
C01B 32/225
H01G 11/36
H01G 11/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン積層構造を有する炭素材料であって、
前記炭素材料とSiとの重量比1:1における混合物のX線回折スペクトルを測定したときに、2θが、24°以上、28°未満の範囲における最も高いピークの高さaと、2θが、28°以上、30°未満の範囲における最も高いピークの高さbとの比a/bが、0.2以上、10.0以下であり、
前記炭素材料が含まれる電極を作用電極とし、リチウム金属を参照電極及び対極とし、1mol/L濃度のLiPFと、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比1:2における混合溶液とを含む電解液を用いて、サイクリックボルタンメトリーにより測定した4.25V(vs.Li/Li)の電位における電流値の絶対値が、0.001A/g以上、0.02A/g以下である、炭素材料。
【請求項2】
グラフェン積層構造を有する炭素材料であって、
前記炭素材料とSiとの重量比1:1における混合物のX線回折スペクトルを測定したときに、2θが、24°以上、28°未満の範囲における最も高いピークの高さaと、2θが、28°以上、30°未満の範囲における最も高いピークの高さbとの比a/bが、0.2以上、10.0以下であり、
前記炭素材料の元素分析により測定された酸素原子数に対する炭素原子数の比(C/O比)が、20以上、200以下である、炭素材料。
【請求項3】
前記炭素材料が、薄片化黒鉛である、請求項1又は2に記載の炭素材料。
【請求項4】
前記炭素材料が、蓄電デバイス用電極に用いられる、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭素材料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の炭素材料を含む、蓄電デバイス用電極。
【請求項6】
請求項5に記載の蓄電デバイス用電極を備える、蓄電デバイス。
【請求項7】
請求項5に記載の蓄電デバイス用電極と、非水電解質とを備える、非水電解質二次電池。
【請求項8】
前記非水電解質が、非水溶媒に溶質を溶解させた電解液と、Li/Liに対して0.0V以上、2.0V以下で反応する化合物とを含み、前記化合物の含有量が、前記非水電解質100重量%に対して0.01重量%以上、10重量%以下である、請求項7に記載の非水電解質二次電池。
【請求項9】
前記非水電解質が、非水溶媒に溶質を溶解させた電解液と、Li/Liに対して2.0V以上、5.0V以下で反応する化合物とを含み、前記化合物の含有量が、前記非水電解質100重量%に対して0.01重量%以上、10重量%以下である、請求項7に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン積層構造を有する炭素材料、並びに該炭素材料を用いた蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯機器、ハイブリッド自動車、電気自動車、家庭用蓄電用途等に向けて、蓄電デバイスの研究開発が盛んに行われている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、集電体上に活物質層が設けられてなる正極を備える、非水電解質二次電池が開示されている。特許文献1の非水電解質二次電池における正極の活物質層は、複数の活物質粒子と、炭素材料としてのグラフェンとを含んでいる。特許文献1では、このグラフェンの酸素濃度が、2原子%以上、20原子%以下であることが記載されている。
【0004】
また、下記の特許文献2には、炭素材料と活物質とを含む電極を備える、リチウムイオン二次電池が開示されている。特許文献2では、上記炭素材料の一例として、部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する、炭素材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-183292号公報
【文献】特開2017-216254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の炭素材料を蓄電デバイス、特に非水電解質二次電池に用いた場合、所望のサイクル特性を得られない場合があった。
【0007】
本発明の目的は、蓄電デバイスのサイクル特性に代表される電池特性を高め得る、炭素材料、並びに該炭素材料を用いた蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る炭素材料の広い局面では、グラフェン積層構造を有する炭素材料であって、前記炭素材料とSiとの重量比1:1における混合物のX線回折スペクトルを測定したときに、2θが、24°以上、28°未満の範囲における最も高いピークの高さaと、2θが、28°以上、30°未満の範囲における最も高いピークの高さbとの比a/bが、0.2以上、10.0以下であり、前記炭素材料が含まれる電極を作用電極とし、リチウム金属を参照電極及び対極とし、1mol/L濃度のLiPFと、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比1:2における混合溶液とを含む電解液を用いて、サイクリックボルタンメトリーにより測定した4.25V(vs.Li/Li)の電位における電流値の絶対値が、0.001A/g以上、0.02A/g以下である。
【0009】
本発明に係る炭素材料の他の広い局面では、グラフェン積層構造を有する炭素材料であって、前記炭素材料とSiとの重量比1:1における混合物のX線回折スペクトルを測定したときに、2θが、24°以上、28°未満の範囲における最も高いピークの高さaと、2θが、28°以上、30°未満の範囲における最も高いピークの高さbとの比a/bが、0.2以上、10.0以下であり、前記炭素材料の元素分析により測定された酸素原子数に対する炭素原子数の比(C/O比)が、20以上、200以下である。
【0010】
本発明に係る炭素材料のある特定の局面では、前記炭素材料が、薄片化黒鉛である。
【0011】
本発明に係る炭素材料の他の特定の局面では、前記炭素材料が、蓄電デバイス用電極に用いられる。
【0012】
本発明に係る蓄電デバイス用電極は、本発明に従って構成される炭素材料を含む。
【0013】
本発明に係る蓄電デバイスは、本発明に従って構成される蓄電デバイス用電極を備える。
【0014】
本発明に係る非水電解質二次電池は、本発明に従って構成される蓄電デバイス用電極と、非水電解質とを備える。
【0015】
本発明に係る非水電解質二次電池のある特定の局面では、前記非水電解質が、非水溶媒に溶質を溶解させた電解液と、Li/Liに対して0.0V以上、2.0V以下で反応する化合物とを含み、前記化合物の含有量が、前記非水電解質100重量%に対して0.01重量%以上、10重量%以下である。
【0016】
本発明に係る非水電解質二次電池の他の特定の局面では、前記非水電解質が、非水溶媒に溶質を溶解させた電解液と、Li/Liに対して2.0V以上、5.0V以下で反応する化合物とを含み、前記化合物の含有量が、前記非水電解質100重量%に対して0.01重量%以上、10重量%以下である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、蓄電デバイスのサイクル特性に代表される電池特性を高め得る、炭素材料、並びに該炭素材料を用いた蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び非水電解質二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0019】
本発明の蓄電デバイスとしては、特に限定されないが、非水電解質一次電池、水系電解質一次電池、非水電解質二次電池、水系電解質二次電池、全固体電解質一次電池、全固体電解質二次電池、コンデンサ、電気二重層キャパシタ、又はリチウムイオンキャパシタなどが例示される。本発明の炭素材料は、上記のような蓄電デバイス用の電極に含まれる電極材料である。また、本発明の蓄電デバイス用電極は、上記のような蓄電デバイスに用いられる電極である。
【0020】
[炭素材料]
本発明の炭素材料は、蓄電デバイス用の電極に含まれる炭素材料である。上記炭素材料は、グラフェン積層構造を有する炭素材料を含む。上記炭素材料とSiとの重量比1:1における混合物のX線回折スペクトルを測定したときに、2θが、24°以上、28°未満の範囲における最も高いピークの高さaと、2θが、28°以上、30°未満の範囲における最も高いピークの高さbとの比a/bが、0.2以上、10.0以下である。
【0021】
第1の発明においては、上記炭素材料が含まれる電極を作用電極に用いて、サイクリックボルタンメトリーにより測定した4.25V(vs.Li/Li)の電位における電流値の絶対値が、0.001A/g以上、0.02A/g以下である。
【0022】
本願発明者らは、サイクリックボルタンメトリーにより測定した4.25V(vs.Li/Li)の電位における電流値が、炭素材料と電解液との反応性が相関することを見出した。すなわち、サイクリックボルタンメトリーにより測定した4.25V(vs.Li/Li)の電位における電流値を上記の範囲内とすることで、炭素材料と電解液との反応性を小さくすることができ、その結果サイクル特性に代表される蓄電デバイスの電池特性を高め得ることを見出した。
【0023】
また、第2の発明においては、上記炭素材料の元素分析により測定された酸素原子数に対する炭素原子数の比(C/O比)は、20以上、200以下である。C/O比が上記下限以上である場合、炭素材料と電解液との反応性を低めることができる。これは、電極中に含まれる酸素原子の量が少なくなり、それによって電解液との反応をより一層抑制できているためであると考えられる。また、その反応生成物が減少することにより対極への悪影響をより一層低減できるものと考えられる。その結果、サイクル特性に代表される電池特性をより一層高めることができているものと考えられる。また、C/O比が、上記上限以下である場合、電子伝導経路を形成し易くすることができ、レート特性を高めることができる。
【0024】
本発明において、グラフェン積層構造を有する炭素材料としては、例えば、黒鉛又は薄片化黒鉛などが挙げられる。
【0025】
黒鉛とは、複数のグラフェンシートの積層体である。黒鉛のグラフェンシートの積層数は、通常、10万層~100万層程度である。黒鉛としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛又は膨張黒鉛などを用いることができる。膨張黒鉛は、通常の黒鉛よりもグラフェン層同士の層間距離が大きくなっている割合が高く、電解液の保液性をより一層高く保つ可能性があることから、好ましい。
【0026】
薄片化黒鉛とは、元の黒鉛を剥離処理して得られるものであり、元の黒鉛よりも薄いグラフェンシート積層体をいう。薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数は、元の黒鉛より少なければよい。なお、薄片化黒鉛は、酸化薄片化黒鉛であってもよい。
【0027】
薄片化黒鉛において、グラフェンシートの積層数は、特に限定されないが、好ましくは2層以上、より好ましくは5層以上、好ましくは1000層以下、より好ましくは500層以下である。グラフェンシートの積層数が上記下限以上である場合、薄片化黒鉛の導電性をより一層高めることができる。グラフェンシートの積層数が上記上限以下である場合、薄片化黒鉛の比表面積をより一層大きくすることができる。
【0028】
また、薄片化黒鉛は、部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する部分剥離型薄片化黒鉛であることが好ましい。
【0029】
「部分的にグラファイトが剥離されている」構造の一例としては、グラフェンの積層体において、端縁からある程度内側までグラフェン層間が開いており、すなわち端縁にてグラファイトの一部が剥離しており、中央側の部分ではグラファイト層が元の黒鉛又は一次薄片化黒鉛と同様に積層していることをいうものである。従って、端縁にてグラファイトの一部が剥離している部分は、中央側の部分に連なっている。さらに、部分剥離型薄片化黒鉛には、端縁のグラファイトが剥離され薄片化したものが含まれていてもよい。
【0030】
部分剥離型薄片化黒鉛は、中央側の部分において、グラファイト層が元の黒鉛又は一次薄片化黒鉛と同様に積層している。そのため、従来の酸化グラフェンやカーボンブラックより黒鉛化度が高く、導電性に優れている。また、部分的にグラファイトが剥離されている構造を有することから、比表面積が大きい。そのため、活物質と接触する部分の面積を大きくすることができる。従って、部分剥離型薄片化黒鉛を含む蓄電デバイス用電極材料は、二次電池などの蓄電デバイスの電極に用いたときに、蓄電デバイスの抵抗をより一層小さくすることができるので、大電流での充放電時における発熱をより一層抑制することもできる。
【0031】
部分剥離型薄片化黒鉛は、例えば、黒鉛または一次薄片化黒鉛と、樹脂とを含み、樹脂が黒鉛または一次薄片化黒鉛にグラフトまたは吸着により固定されている組成物を用意し、該組成物中に含まれている樹脂を、熱分解することにより得ることができる。なお、樹脂を熱分解させる際には、樹脂の一部を残存させながら熱分解してもよいし、樹脂を完全に熱分解してもよい。
【0032】
部分剥離型薄片化黒鉛は、例えば、国際公開第2014/034156号に記載の薄片化黒鉛・樹脂複合材料の製造方法と同様の方法で製造することができる。また、黒鉛としては、より一層容易にグラファイトを剥離することが可能であるため膨張黒鉛を使用することが好ましい。
【0033】
また、一次薄片化黒鉛とは、各種方法により黒鉛を剥離することにより得られた薄片化黒鉛を広く含むものとする。一次薄片化黒鉛は、部分剥離型薄片化黒鉛であってもよい。一次薄片化黒鉛は、黒鉛を剥離することにより得られるものであるため、その比表面積は、黒鉛よりも大きいものであればよい。
【0034】
上記樹脂の熱分解における加熱の温度としては、樹脂の種類にもより特に限定されないが、例えば、250℃~1000℃とすることができる。加熱時間としては、例えば、20分~5時間とすることができる。また、上記加熱は、大気中で行ってもよく、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。もっとも、上述した炭素材料と電解液との反応性をより一層小さくする観点からは、上記加熱を窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。
【0035】
樹脂としては、特に限定されないが、ラジカル重合性モノマーの重合体であることが好ましい。この場合、1種のラジカル重合性モノマーの単独重合体であってもよく、複数種のラジカル重合性モノマーの共重合体であってもよい。ラジカル重合性モノマーは、ラジカル重合性の官能基を有するモノマーである限り、特に限定されない。
【0036】
ラジカル重合性モノマーとしては、例えば、スチレン、α-エチルアクリル酸メチル、α-ベンジルアクリル酸メチル、α-[2,2-ビス(カルボメトキシ)エチル]アクリル酸メチル、イタコン酸ジブチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジシクロヘキシル、α-メチレン-δ-バレロラクトン、α-メチルスチレン、α-アセトキシスチレンからなるα-置換アクリル酸エステル、グリシジルメタクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレートなどのグリシジル基や水酸基を持つビニルモノマー;アリルアミン、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートのようなアミノ基を有するビニルモノマー、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリル酸、クロトン酸、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-メタクリロイルオキシエチルサクシネート、2-メタクリロイロキシエチルフタル酸などのカルボキシル基を有するモノマー;ユニケミカル社製、ホスマー(登録商標)M、ホスマー(登録商標)CL、ホスマー(登録商標)PE、ホスマー(登録商標)MH、ホスマー(登録商標)PPなどのリン酸基を有するモノマー;ビニルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのアルコキシシリル基を有するモノマー;アルキル基やベンジル基などを有する(メタ)アクリレート系モノマーなどが挙げられる。
【0037】
用いられる樹脂の例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリシジルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール(ブチラール樹脂)、又はポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレンなどが挙げられる。
【0038】
上記樹脂の中でも、好ましくはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ酢酸ビニルを用いることができる。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ酢酸ビニルを用いた場合、部分剥離型薄片化黒鉛の比表面積をより一層大きくすることができる。なお、樹脂種は使用する溶媒との親和性を鑑み、適宜選定を行うことが可能である。
【0039】
黒鉛または一次薄片化黒鉛に固定されている熱分解前の樹脂の含有量は、樹脂分を除く黒鉛または一次薄片化黒鉛100重量部に対し、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上、好ましくは3000重量部以下、より好ましくは1000重量部以下である。熱分解前の樹脂の含有量が上記範囲内である場合、熱分解後の残存樹脂の含有量をより一層制御しやすい。また、熱分解前の樹脂の含有量が上記上限値以下である場合、コスト的により一層有利である。
【0040】
熱分解後の残存樹脂の含有量は、樹脂分を含む部分剥離型薄片化黒鉛100重量%に対し、0重量%以上、30重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以上、25量%以下であることがより好ましく、1.0重量%以上、20重量%以下であることがさらに好ましい。上記樹脂量が上記下限以上である場合、電極作製時のバインダー樹脂の添加量をより一層少なくすることができる。また、上記樹脂量が上記上限以下である場合、上述した炭素材料と電解液との反応性をより一層小さくすることができる。
【0041】
なお、熱分解前の樹脂の含有量及び部分剥離型薄片化黒鉛に残存している残存樹脂量は、例えば熱重量分析(以下、TG)によって加熱温度に伴う重量変化を測定し、算出することができる。
【0042】
また、後述する正極活物質との複合体を作製する場合は、正極活物質との複合体を作製した後に、樹脂量を低減してもよく、樹脂を除去してもよい。
【0043】
上記樹脂量を低減又は上記樹脂を除去する方法としては、樹脂の分解温度以上、正極活物質の分解温度未満で加熱処理する方法が好ましい。この加熱処理は、大気中、不活性ガス雰囲気下、低酸素雰囲気下、又は真空下のいずれで行ってもよい。
【0044】
本発明においては、炭素材料とSiとの重量比1:1における混合物のX線回折スペクトルを測定したときに、ピーク比a/bが、0.2以上、好ましくは0.22以上、より好ましくは0.25以上である。また、ピーク比a/bは、10.0以下、好ましくは8.0以下、より好ましくは5.0以下である。上記aは、2θが、24°以上、28°未満の範囲における最も高いピークの高さである。上記bは、2θが、28°以上、30°未満の範囲における最も高いピークの高さである。なお、Siとしては、例えば、φ=100nm以下のシリコン粉末を用いることができる。
【0045】
上記X線回折スペクトルは、広角X線回折法によって測定することができる。X線としては、CuKα線(波長1.541Å)を用いることができる。X線回折装置としては、例えば、SmartLab(リガク社製)を用いることができる。
【0046】
X線回折スペクトルにおいて、グラファイト構造に代表されるグラフェン積層構造に由来するピークは、2θ=26.4°付近に現れる。一方、シリコン粉末になどのSiに由来するピークは、2θ=28.5°付近に現れる。従って、上記比a/bは、2θ=26.4°付近のピークと2θ=28.5°付近のピークとのピーク比(2θ=26.4°付近のピーク/2θ=28.5°付近のピーク)により求めることができる。
【0047】
なお、上記a/bが小さすぎると、炭素材料自身における黒鉛構造の形成が未熟であり、電子伝導性が低いことに加え、欠陥を有するので、正極や負極の抵抗値が増大し、電池特性が低下する場合がある。
【0048】
上記a/bが大きすぎると、炭素材料自身が剛直となり、蓄電デバイスの正極や負極内に分散し難くなり、良好な電子伝導経路を形成しにくくなる場合がある。
【0049】
炭素材料が部分剥離型薄片化黒鉛の場合、上記a/bは、部分剥離型薄片化黒鉛を製造する際に熱分解を行うときの加熱条件や、黒鉛または一次薄片化黒鉛に固定されている熱分解前の樹脂の量により調整することができる。例えば、加熱温度を高くしたり、加熱時間を長くしたりすると、a/bを小さくすることができる。また、黒鉛または一次薄片化黒鉛に固定されている熱分解前の樹脂の量を少なくすると、a/bを小さくできる。
【0050】
第1の発明の炭素材料が含まれる電極を作用電極に用いて、サイクリックボルタンメトリーにより測定した、貴な電位側への掃印時における4.25V(vs.Li/Li)の電位における電流の絶対値は、0.001A/g以上、0.02A/g以下である。電流の絶対値は、好ましくは0.003A/g以上、より好ましくは0.005A/g以上、好ましくは0.019A/g以下、より好ましくは0.018A/g以下である。
【0051】
サイクリックボルタンメトリーでは、本発明の炭素材料が含まれる電極を作用電極とする。リチウム金属からなる電極を参照電極及び対極とする。また、1mol/L濃度のLiPFと、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との体積比1:2における混合溶液とを含む電解液を用いるものとする。
【0052】
このようにサイクリックボルタンメトリーにより測定した4.25V(vs.Li/Li)の電位における電流の絶対値が上記下限以上である場合、電子伝導経路をより一層形成し易くすることができ、レート特性をより一層高めることができる。また、上記電流の絶対値が上記上限以下である場合、炭素材料と電解液との反応性をより一層小さくすることができ、サイクル特性に代表される電池特性をより一層高めることができる。
【0053】
なお、上記電流の絶対値は、上述の樹脂量を調整したり、上述の加熱条件を変更したり、上述の熱分解の際の加熱を不活性ガス雰囲気下で行ったりすることにより調整することができる。具体的には、例えば、炭素材料が部分剥離型薄片化黒鉛の場合、黒鉛または一次薄片化黒鉛に固定されている熱分解前の樹脂の量を少なくすると、電流の絶対値を小さくすることができる。また、上述の熱分解の際の加熱において、不活性ガスの濃度を高くし、酸素濃度を低くすると、電流の絶対値を小さくすることができる。
【0054】
第2の発明において、上記炭素材料の元素分析により測定された酸素原子数に対する炭素原子数の比(C/O比)は、20以上、200以下である。炭素材料と電解液との反応性をより一層小さくし、サイクル特性をより一層向上させる観点から、上記C/O比は、より好ましくは22以上、さらに好ましくは25以上、より好ましくは180以下、さらに好ましくは160以下である。
【0055】
上記C/O比は、例えば、X線光電子分光法(XPS)により、測定することができる。具体的には、X線源:AlKα、光電子取出角:45度、X線ビーム径200μm (50W15kV)の条件で、光電子スペクトルを測定する。そして、Binding Energy:280eV~292eVに現れるC1sスペクトルのピーク面積を、Binding Energy:525eV~540eVに現れるO1sスペクトルのピーク面積で除する。それによって、炭素材料に含まれる酸素原子数に対する炭素原子数の比(C/O比)を算出することができる。また、上記C/O比は、上述の樹脂量を調整したり、上述の加熱条件を変更したり、上述の熱分解の際の加熱を不活性ガス雰囲気下で行ったりすることにより調整することができる。具体的には、例えば、炭素材料が部分剥離型薄片化黒鉛の場合、黒鉛または一次薄片化黒鉛に固定されている熱分解前の樹脂の量を少なくすると、上記C/O比を大きくすることができる。また、上述の熱分解の際の加熱において、不活性ガスの濃度を高くし、酸素濃度を低くすると、上記C/O比を大きくすることができる。
【0056】
本発明の炭素材料のBET比表面積は、特に限定されないが、好ましくは10m/g以上、より好ましくは15m/g以上、好ましくは200m/g以下、より好ましくは160m/g以下である。炭素材料のBET比表面積が上記下限以上である場合、電解液の保液性をより一層高めることができ、蓄電デバイスの容量などの電池特性をより一層高めることができる。また、炭素材料のBET比表面積が上記上限以下である場合、上記炭素材料を含むスラリーを集電体上に塗工して電極を形成する際の塗工性をより一層高めることができる。また、導電性をより一層高めることもできる。さらには、上記炭素材料と電解液との反応場が減少することから、電解液の劣化をより一層抑制することもできる。
【0057】
本発明の炭素材料のBET比表面積は、BET法に準拠して、窒素の吸着等温線から測定することができる。測定装置としては、例えば、島津製作所社製、品番「ASAP-2000」を用いることができる。
【0058】
[蓄電デバイス用電極]
本発明の炭素材料は、蓄電デバイス用電極、すなわち、蓄電デバイスの正極及び/又は負極に用いることができる。なかでも、非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池の正極の導電助剤として用いた場合には、サイクル特性をより一層向上させることができるので、正極の導電助剤に好適に用いることができる。また、この場合、本発明の炭素材料を用いることにより、正極の導電性をより一層高めることができるので、正極中における導電助剤の含有量を少なくすることができる。そのため、正極活物質の含有量をより一層多くすることができ、蓄電デバイスのエネルギー密度をより一層大きくすることができる。
【0059】
上記正極は、一般的な正極構成、組成、及び製造方法のものでもよいし、正極活物質と本発明の炭素材料との複合体を用いてもよい。なお、蓄電デバイス用電極が負極である場合は、負極活物質として、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、金属酸化物、チタン酸リチウム、又はシリコン系の活物質を用いることができる。
【0060】
蓄電デバイス用電極100重量%中における上記炭素材料の含有量は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.2重量%以上、さらに好ましくは0.4重量%以上、好ましくは10重量%以下、より好ましくは8重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下である。上記炭素材料の含有量が上記範囲内にある場合、活物質の含有量をより一層多くすることができ、蓄電デバイスのエネルギー密度をより一層大きくすることができる。
【0061】
本発明の蓄電デバイス用電極においては、本発明の炭素材料を第1の炭素材料(特に断りがない限り、単に炭素材料と称するものとする)としたときに、第1の炭素材料とは異なる第2の炭素材料をさらに含んでいてもよい。
【0062】
第2の炭素材料としては、特に限定されず、グラフェン、人造黒鉛、粒状黒鉛化合物、繊維状黒鉛化合物、カーボンブラック又は活性炭が例示される。
【0063】
以下、本発明の蓄電デバイス用電極の一例としての二次電池用正極について説明する。なお、蓄電デバイス用電極が二次電池用負極の場合も同様のバインダー等を用いることができるものとする。
【0064】
本発明の蓄電デバイス用電極に用いられる正極活物質は、負極活物質の電池反応電位よりも、貴であればよい。その際、電池反応は、1族若しくは2族のイオンが関与していればよい。そのようなイオンとしては、例えば、Hイオン、Liイオン、Naイオン、Kイオン、Mgイオン、Caイオン、又はAlイオンが挙げられる。以下、Liイオンが電池反応に関与する系について詳細を例示する。
【0065】
この場合、上記正極活物質としては、例えば、リチウム金属酸化物、リチウム硫化物、又は硫黄が挙げられる。
【0066】
リチウム金属酸化物としては、スピネル構造、層状岩塩構造、若しくはオリビン構造を有するもの、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0067】
スピネル構造を有するリチウム金属酸化物としては、マンガン酸リチウムなどが例示される。
【0068】
層状岩塩構造を有するリチウム金属酸化物としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、三元系などが例示される。
【0069】
オリビン構造を有するリチウム金属酸化物としては、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガン鉄リチウム、リン酸マンガンリチウムなどが例示される。
【0070】
上記正極活物質は、所謂ドープ元素が含まれてもよい。上記正極活物質は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0071】
上記正極は、正極活物質と上記炭素材料のみで形成されてもよいが、正極をより一層容易に形成する観点から、バインダーが含まれていてもよい。
【0072】
上記バインダーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム、ポリイミド、及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を用いることができる。
【0073】
上記バインダーは、二次電池用正極をより一層容易に作製する観点から、非水溶媒又は水に溶解又は分散されていることが好ましい。
【0074】
非水溶媒は、特に限定されないが、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル又はテトラヒドロフランなどを挙げることができる。これらに、分散剤や、増粘剤を加えてもよい。
【0075】
上記二次電池用正極に含まれるバインダーの量は、正極活物質100重量部に対して、好ましくは0.3重量部以上、30重量部以下であり、より好ましくは0.5重量部以上、15重量部以下である。バインダーの量が上記範囲内にある場合、正極活物質と炭素材料との接着性を維持することができ、集電体との接着性をより一層高めることができる。
【0076】
上記二次電池用正極の作製方法としては、例えば、正極活物質、炭素材料、並びにバインダーの混合物を、集電体上に形成させることによって作製する方法が挙げられる。
【0077】
上記二次電池用正極をより一層容易に作製する観点から、以下のようにして作製することが好ましい。まず、正極活物質、炭素材料にバインダー溶液又は分散液を加えて混合することによりスラリーを作製する。次に、作製したスラリーを集電体上に塗布し、最後に溶媒を除去することによって二次電池用正極を作製する。
【0078】
上記スラリーの作製方法としては、既存の方法を用いることができる。例えば、ミキサー等を用いて混合する方法が挙げられる。混合に用いられるミキサーとしては、特に限定されないが、プラネタリミキサー、ディスパー、薄膜旋回型ミキサー、ジェットミキサー、又は自公回転型ミキサー等が挙げられる。
【0079】
上記スラリーの固形分濃度は、塗工をより一層容易に行う観点から、30重量%以上、95重量%以下が好ましい。貯蔵安定性をより一層高める観点から、上記スラリーの固形分濃度は、35重量%以上、90重量%以下であることがより好ましい。また、より一層製造費用を抑制する観点から、上記スラリーの固形分濃度は、40重量%以上、85重量%以下であることがさらに好ましい。
【0080】
なお、上記固形分濃度は、希釈溶媒によって制御することができる。希釈溶媒としては、バインダー溶液、又は分散液と同じ種類の溶媒を用いることが好ましい。また、溶媒の相溶性があれば、他の溶媒を用いてもよい。
【0081】
上記二次電池用正極に用いる集電体は、アルミニウム又はアルミニウムを含む合金であることが好ましい。アルミニウムは、正極反応雰囲気下で安定であることから、特に限定されないが、JIS規格1030、1050、1085、1N90、1N99等に代表される高純度アルミニウムであることが好ましい。
【0082】
集電体の厚みは、特に限定されないが、10μm以上、100μm以下であることが好ましい。集電体の厚みが10μm未満の場合、作製の観点から取り扱いが困難となることがある。一方、集電体の厚みが100μmより厚い場合は、経済的観点から不利になることがある。
【0083】
なお、集電体は、アルミニウム以外の金属(銅、SUS、ニッケル、チタン、及びそれらの合金)の表面に、アルミニウムを被覆させたものであってもよい。
【0084】
上記スラリーを集電体に塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、上記スラリーをドクターブレード、ダイコータ又はコンマコータ等により塗布した後に溶剤を除去する方法や、スプレーにより塗布した後に溶剤を除去する方法、又はスクリーン印刷によって塗布した後に溶媒を除去する方法等が挙げられる。
【0085】
上記溶媒を除去する方法は、より一層簡便であることから、送風オーブンや真空オーブンを用いた乾燥が好ましい。溶媒を除去する雰囲気としては、空気雰囲気、不活性ガス雰囲気、又は真空状態などが挙げられる。また、溶媒を除去する温度は、特に限定されないが、60℃以上、250℃以下であることが好ましい。溶媒を除去する温度が60℃未満では、溶媒の除去に時間を要する場合がある。一方、溶媒を除去する温度が250℃より高いと、バインダーが劣化する場合がある。
【0086】
上記二次電池用正極は、所望の厚み、密度まで圧縮させてもよい。圧縮は、特に限定されないが、例えば、ロールプレスや、油圧プレス等を用いて行うことができる。
【0087】
圧縮後における上記二次電池用正極の厚みは、特に限定されないが、10μm以上、1000μm以下であることが好ましい。厚みが10μm未満では、所望の容量を得ることが難しい場合がある。一方、厚みが1000μmより厚い場合は、所望の出力密度を得ることが難しい場合がある。
【0088】
上記二次電池用正極は、正極1cm当たりの電気容量が、0.5mAh以上、10.0mAh以下であることが好ましい。電気容量が0.5mAh未満である場合は、所望する容量の電池の大きさが大きくなる場合がある。一方、電気容量が10.0mAhより大きい場合は、所望の出力密度を得ることが難しくなる場合がある。なお、正極1cm当たりの電気容量の算出は、二次電池用正極作製後、リチウム金属を対極とした半電池を作製し、充放電特性を測定することによって算出してもよい。
【0089】
二次電池用正極の正極1cm当たりの電気容量は、特に限定されないが、集電体単位面積あたりに形成させる正極の重量で制御することができる。例えば、前述のスラリー塗工時の塗工厚みで制御することができる。
【0090】
また、上記正極は、正極活物質と上記炭素材料との複合体を用いてもよい。正極活物質-炭素材料複合体は、例えば、次のような手順で作製される。
【0091】
最初に、上記炭素材料を溶媒に分散させた炭素材料の分散液(以下、炭素材料の分散液1)を作製する。次に、上記分散液1とは別に、正極活物質を溶媒に分散させた正極活物質の分散液(以下、正極活物質の分散液2)を作製する。
【0092】
次に、炭素材料の分散液1と、正極活物質の分散液2とを混合する。最後に、上記炭素材料及び上記正極活物質が含まれる分散液の溶媒を除去することによって、蓄電デバイス用電極に用いられる正極活物質と炭素材料との複合体(活物質-炭素材料複合体)が作製される。
【0093】
また、上述の作製方法以外にも、混合の順序を変えてもよいし、上記分散液1,2のいずれかが分散液ではなく乾式であってもよいし、全て乾式の状態で混合する方法でもよい。また、炭素材料と正極活物質と溶媒との混合物を、ミキサーで混合する方法、すなわち、後述の正極のスラリーの作製と、複合体の作製とを兼ねていてもよい。
【0094】
正極活物質や炭素材料を分散させる溶媒は、水系、非水系、水系と非水系との混合溶媒、又は異なる非水系溶媒の混合溶媒のいずれでもよい。また、炭素材料を分散させる溶媒と、正極活物質を分散させる溶媒は同じでもよいし、異なっていてもよい。異なっている場合は、互いの溶媒に相溶性があることが好ましい。
【0095】
非水系溶媒としては、特に限定されないが、例えば分散のしやすさから、メタノール、エタノール、プロパノールに代表されるアルコール系、テトラヒドロフラン又はN-メチル-2-ピロリドンなどの非水系溶媒を用いることができる。また、分散性をより一層向上させるため、上記溶媒に、界面活性剤などの分散剤が含まれてもよい。
【0096】
分散方法は、特に限定されないが、超音波による分散、ミキサーによる分散、ジェットミルによる分散、又は攪拌子による分散が挙げられる。
【0097】
炭素材料の分散液の固形分濃度は、特に限定されないが、炭素材料の重量を1とした場合に、溶媒の重量が0.5以上、1000以下であることが好ましい。取り扱い性をより一層高める観点から、炭素材料の重量を1とした場合に、溶媒の重量が1以上、750以下であることがより好ましい。また、分散性をより一層高める観点から、炭素材料の重量を1とした場合に、溶媒の重量が2以上、500以下であることがさらに好ましい。
【0098】
溶媒の重量が上記下限未満の場合は、炭素材料を所望の分散状態まで分散させることができない場合がある。一方、溶媒の重量が上記上限より大きい場合は、製造費用が増大する場合がある。
【0099】
正極活物質の分散液の固形分濃度は、特に限定されないが、正極活物質の重量を1とした場合に、溶媒の重量が0.5以上、100以下であることが好ましい。取り扱い性をより一層高める観点から、溶媒の重量は、1以上、75以下であることがより好ましい。また、分散性をより一層高める観点から、溶媒の重量は、5以上、50以下であることがさらに好ましい。なお、溶媒の重量が上記下限未満の場合は、正極活物質を所望の分散状態まで分散させることができない場合がある。一方、溶媒の重量が上記上限より大きい場合は、製造費用が増大する場合がある。
【0100】
正極活物質の分散液と、炭素材料の分散液とを混合する方法は、特に限定されないが、互いの分散液を一度に混合する方法や、一方の分散液を他方の分散液に複数回に分けて加える方法が挙げられる。
【0101】
一方の分散液を他方の分散液に複数回に分けて加える方法としては、例えば、スポイドなどの滴下の器具を用いて滴下する方法や、ポンプを用いる方法、又はディスペンサーを用いる方法が挙げられる。
【0102】
炭素材料、正極活物質及び溶媒の混合物から、溶媒を除去する方法としては、特に限定されないが、ろ過により溶媒を除去した後に、オーブン等で乾燥させる方法が挙げられる。上記ろ過は、生産性をより一層高める観点から、吸引ろ過であることが好ましい。また、乾燥方法としては、送風オーブンで乾燥させた後に、真空で乾燥させた場合、細孔に残存している溶媒を除去できることから好ましい。
【0103】
活物質-炭素材料複合体における、正極活物質と炭素材料との重量の比率は、正極活物質の重量を100重量%とした場合に、炭素材料の重量が、0.2重量%以上、10.0重量%以下であることが好ましい。レート特性をより一層向上させる観点からは、炭素材料の重量が、0.3重量%以上、8.0重量%以下であることがより好ましい。また、サイクル特性をより一層向上させる観点からは、炭素材料の重量が、0.5重量%以上、7.0重量%以下であることがさらに好ましい。
【0104】
[蓄電デバイス]
本発明の蓄電デバイスは、上記本発明の蓄電デバイス用電極を備える。そのため、炭素材料と電解液の反応性を小さくすることができ、蓄電デバイスのサイクル特性に代表される電池特性を高めることができる。
【0105】
上述したように、本発明の蓄電デバイスとしては、特に限定されないが、非水電解質一次電池、水系電解質一次電池、非水電解質二次電池、水系電解質二次電池、全固体電解質一次電池、全固体電解質二次電池、コンデンサ、電気二重層キャパシタ、又はリチウムイオンキャパシタなどが例示される。
【0106】
本発明の蓄電デバイスの一例としての二次電池は、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンの挿入及び脱離反応が進行する化合物を用いられたものであればよい。アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、又はカリウムイオンが例示される。アルカリ土類金属イオンとしては、カルシウムイオン又はマグネシウムイオンが例示される。特に、本発明は非水電解質二次電池の正極に効果が大きく、そのなかでもリチウムイオンを用いたものに好適に用いることができる。以下、リチウムイオンを用いた非水電解質二次電池(以下、リチウムイオン二次電池)を例に説明する。
【0107】
上記非水電解質二次電池の正極及び負極は、集電体の両面に同じ電極を形成させた形態であってもよく、集電体の片面に正極、他方の面に負極を形成させた形態、すなわち、バイポーラ電極であってもよい。
【0108】
上記非水電解質二次電池は、正極側と負極側との間にセパレータを配置したものを倦回したものであってもよいし、積層したものであってもよい。正極、負極及びセパレータには、リチウムイオン伝導を担う非水電解質が含まれている。
【0109】
上記非水電解質二次電池は、上記積層体を倦回、又は複数積層した後にラミネートフィルムで外装してもよいし、角形、楕円形、円筒形、コイン形、ボタン形、又はシート形の金属缶で外装してもよい。外装には発生したガスを放出するための機構が備わっていてもよい。積層体の積層数は、特に限定されず、所望の電圧値、電池容量を発現するまで積層させることができる。
【0110】
上記非水電解質二次電池は、所望の大きさ、容量、電圧によって、適宜直列、並列に接続した組電池とすることができる。上記組電池においては、各電池の充電状態の確認、安全性向上のため、組電池に制御回路が付属されていることが好ましい。
【0111】
上記非水電解質二次電池に用いる非水電解質は、特に限定されないが、例えば、非水溶媒に溶質を溶解させた電解液を用いることができる。また、非水溶媒に溶質を溶解させた電解液を高分子に含浸させたゲル電解質、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドなどの高分子固体電解質、又はサルファイドガラス、オキシナイトライドなどの無機固体電解質を用いてもよい。
【0112】
非水溶媒としては、後述の溶質をより一層溶解させやすいことから、環状の非プロトン性溶媒及び/又は鎖状の非プロトン性溶媒を含むことが好ましい。
【0113】
環状の非プロトン性溶媒としては、環状カーボネート、環状エステル、環状スルホン又は環状エーテルなどが例示される。
【0114】
鎖状の非プロトン性溶媒としては、鎖状カーボネート、鎖状カルボン酸エステル又は鎖状エーテルなどが例示される。
【0115】
また、アセトニトリルなどの一般的に非水電解質の溶媒として用いられる溶媒を用いてもよい。より具体的には、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ-ブチルラクトン、1,2-ジメトキシエタン、スルホラン、ジオキソラン、プロピオン酸メチルなどを用いることができる。これら溶媒は単独で用いてもよいし、2種類以上の溶媒を混合しても用いてもよい。もっとも、後述の溶質をより一層容易に溶解させ、リチウムイオンの伝導性をより一層高める観点から、2種類以上の溶媒を混合した溶媒を用いることが好ましい。
【0116】
溶質としては、特に限定されないが、LiClO、LiBF、LiPF、LiAsF、LiCFSO、LiBOB(Lithium Bis (Oxalato) Borate)、又はLiN(SOCFを用いることが好ましい。この場合、非水溶媒により一層容易に溶解させることができる。
【0117】
電解液に含まれる溶質の濃度は、0.5mol/L以上、2.0mol/L以下であることが好ましい。溶質の濃度が0.5mol/L未満では、所望のリチウムイオン伝導性が発現しない場合がある。一方、溶質の濃度が2.0mol/Lより高いと、溶質がそれ以上溶解しない場合がある。
【0118】
また、非水電解質は、非水溶媒に溶質を溶解させた上述の電解液と、Li/Liに対して0.0V以上、2.0V以下で反応する化合物とを含んでいることが好ましい。この場合、負極の表面に保護被膜を形成することができ、それによって負極内に充放電反応を阻害する物質が浸入することをより一層抑制することができる。従って、電解液と負極を構成する電極材料との反応をより一層抑制することができ、それによって非水電解質二次電池のサイクル特性に代表される電池特性の劣化をより一層抑制することができる。このように、Li/Liに対して0.0V以上、2.0V以下で反応する化合物は、負極被膜形成用添加剤として用いることができる。
【0119】
Li/Liに対して0.0V以上、2.0V以下で反応する化合物の含有量は、非水電解質100重量%に対して0.01重量%以上、10重量%以下であることが好ましい。化合物の含有量が上記範囲にある場合、電解液と負極を構成する電極材料との反応による電池特性の劣化をさらに一層抑制することができる。
【0120】
Li/Liに対して0.0V以上、2.0V以下で反応する化合物としては、特に限定されないが、例えば、ビニレンカーボネート、フッ化エチレンカーボネート、エチレンサルファイト、1,3-プロパンスルトン、又はビフェニルなどを用いることができる。
【0121】
また、非水電解質は、非水溶媒に溶質を溶解させた電解液と、Li/Liに対して2.0V以上、5.0V以下で反応する化合物とを含んでいることが好ましい。この場合、正極の表面に保護被膜を形成することができ、それによって正極内に充放電反応を阻害する物質が浸入することをより一層抑制することができる。従って、電解液と正極を構成する電極材料との反応をより一層抑制することができ、それによって非水電解質二次電池のサイクル特性に代表される電池特性の劣化をより一層抑制することができる。このように、Li/Liに対して2.0V以上、5.0V以下で反応する化合物は、正極被膜形成用添加剤として用いることができる。
【0122】
Li/Liに対して2.0V以上、5.0V以下で反応する化合物の含有量は、非水電解質100重量%に対して0.01重量%以上、10重量%以下であることが好ましい。化合物の含有量が上記範囲にある場合、電解液と正極を構成する電極材料との反応による電池特性の劣化をさらに一層抑制することができる。
【0123】
Li/Liに対して2.0V以上、5.0V以下で反応する化合物としては、特に限定されないが、例えば、1,2-ジシアノエタンなどのジニトリル化合物、トリエチルホスホノアセテートに代表されるホスホン酸エステル、無水コハク酸や無水マレイン酸に代表される環状酸無水物などを用いることができる。
【0124】
なお、上記化合物は1種類のみで用いてもよいし、2種類以上混合して用いてもよい。
【0125】
また、非水電解質には、難燃剤、安定化剤などの添加剤がさらに含まれていてもよい。
【実施例
【0126】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。
【0127】
(実施例1)
次に、膨張化黒鉛の粉末(東洋炭素社製、商品名「PFパウダー8F」、BET比表面積=22m/g、平均粒子径=10μm)6gと、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩0.2gと、水200gとポリエチレングリコール12gとを、ホモミクサーで30分間混合することによって、原料組成物を作製した。
【0128】
なお、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩は、アルドリッチ社製のもの(平均分子量=250,000)を用いた。ポリエチレングリコールは、三洋化成工業社製、商品名「PG600」を用いた。また、ホモミクサーは、TOKUSHU KIKA社製、型番「T.K.HOMOMIXER MARKII」を用いた。
【0129】
次に、作製した原料組成物を150℃で加熱処理することによって、水を除去した。その後、水を除去した組成物を、370℃の温度で、1時間加熱処理することよって、ポリエチレングリコールの一部が残存している炭素材料を作製した。
【0130】
最後に、作製した炭素材料を420℃で0.5時間加熱処理(以下、加熱処理Aともいう)することによって、グラファイト構造を有し、部分的にグラファイトが剥離されている、炭素材料を得た。得られた炭素材料においては、全重量に対して3.0重量%樹脂が含まれていた。なお、樹脂量は、TG(日立ハイテクサイエンス社製、品番「STA7300」)を用いて、200℃~600℃の範囲で重量減少した分を樹脂量として算出した。
【0131】
(実施例2)
加熱処理Aの加熱時間を3時間にしたこと以外は実施例1と同様にして炭素材料を得た。
【0132】
(実施例3)
加熱処理Aの加熱時間を2時間にしたこと以外は実施例1と同様にして炭素材料を得た。
【0133】
(実施例4)
加熱処理Aの加熱時間を1.5時間にしたこと以外は実施例1と同様にして炭素材料を得た。
【0134】
(実施例5)
加熱処理Aの加熱時間を2.5時間にしたこと以外は実施例1と同様にして炭素材料を得た。
【0135】
(実施例6)
加熱処理Aの加熱時間を1時間にしたこと以外は実施例1と同様にして炭素材料を得た。
【0136】
(比較例1)
膨張化黒鉛の粉末(東洋炭素社製、商品名「PFパウダー8F」、BET比表面積=22m/g、平均粒子径=10μm)6gと、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩0.2gと、水200gとポリエチレングリコール120gとを、ホモミクサーで30分間混合することによって、原料組成物を作製した。
【0137】
なお、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩は、アルドリッチ社製のもの(平均分子量=250,000)を用いた。ポリエチレングリコールは、三洋化成工業社製、商品名「PG600」を用いた。また、ホモミクサーは、TOKUSHU KIKA社製、型番「T.K.HOMOMIXER MARKII」を用いた。
【0138】
次に、作製した原料組成物を150℃で加熱処理することによって、水を除去した。その後、水を除去した組成物を、370℃の温度で、1時間加熱処理することよって、ポリエチレングリコールの一部が残存している炭素材料を作製した。
【0139】
最後に、作製した炭素材料を420℃で0.5時間の順に加熱処理することによって、グラファイト構造を有し、部分的にグラファイトが剥離されている、炭素材料を得た。比較例1で得られた炭素材料においては、全重量に対して38.7重量%樹脂が含まれていた。
【0140】
(比較例2)
比較例2では、炭素材料として市販のカーボンブラック(デンカ社製、商品名「デンカブラック」)をそのまま用いた。
【0141】
(比較例3)
比較例3では、炭素材料として市販の高配向性熱分解グラファイト(HOPG)をそのまま用いた。
【0142】
(評価)
実施例1~6及び比較例1~3の炭素材料を用いて以下の評価を行った。結果を下記の表1に示す。
【0143】
X線回折評価;
実施例1~6及び比較例1~3の各炭素材料とシリコン粉末(Nano Powder、純度≧98%、粒径≦100nm、アルドリッチ社製)とを重量比1:1の割合でサンプル瓶中にて混合することにより、測定試料としての混合粉末を作製した。作製した混合粉末を無反射Si試料台にいれ、X線回折装置(Smart Lab、リガク社製)に設置した。その後に、X線源:CuKα(波長1.541Å)、測定範囲:3°~80°、スキャンスピード:5°/分の条件で、広角X線回折法によりX線回折スペクトルを測定した。得られた測定結果から、2θ=28°以上、30°未満の範囲における最も高いピークの高さbを1として規格化し、そのときの2θ=24°以上、28℃未満の範囲における最も高いピークの高さaを算出した。最後にaとbとの比、すなわち、a/bを算出した。
【0144】
C/O比;
実施例1~6及び比較例1~3の各炭素材料を試料台にいれ、X線光電子分光法(XPS)の測定装置(PHI5000 VersaProbeII)に設置した。つぎに、X線源:AlKα、光電子取出角:45度、X線ビーム径200μm(50W、15kV)の条件で、光電子スペクトルを測定した。Binding Energy:280eV~292eVに現れるC1sスペクトルのピーク面積を、Binding Energy:525eV~540eVに現れるO1sスペクトルのピーク面積で除することによって、炭素材料に含まれる酸素原子数に対する炭素原子数の比(C/O比)を算出した。
【0145】
サイクリックボルタンメトリーの評価;
サイクリックボルタンメトリーの評価は、三極式セル(HS3極セル、宝泉社製)を用いて測定した。
【0146】
作用極は、次の手順で作製した。最初に、実施例1~6及び比較例1~3の各炭素材料(4.0g)と、結着剤としてポリテトラフルオロエチレンの粉末(以下、PTFE、6-J、三井デュポンフロロケミカル社製)とを、メノウ乳鉢にて5分間混合することによって、混合粉末を作製した。次に、上記混合粉末を、アルミ箔(厚み20μm、片面つや、UACJ社製)で挟んだのち、ロールプレス機(ロールギャップ100μm、テスター産業社製)でプレスし、シート状の混合物を得た。最後に、上記シート状の混合物を10mmφの大きさに裁断することによって、作用極を作製した。作用極の重量、及び厚みは、それぞれ10mg、及び100μmであった。
【0147】
三極式セルは次の通りに作製した。
【0148】
最初に、三極式セル(HS3極セル、宝泉社製)の作用極箇所に上記作用極を設置した。次に、セパレータ(ポリオレフィン系の微多孔膜、25μm、24mmφ)を設置し、対極設置箇所に対極としてLi金属(16mmφ)を設置した。さらに、参照極設置箇所に、参照極としてLi金属(内径16mmφ、外径25mmφ)を設置した。
【0149】
最後に、電解液(エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート=1/2体積%、LiPF 1mol/L)を1.0mL入れた後に、密封することによって、評価用セルの三極式セルを作製した。
【0150】
サイクリックボルタンメトリーの測定は次の通りに実施した。
【0151】
最初に、評価用セルを電気化学測定装置(バイオロジック社製)に接続し、3時間放置した。次に、自然電位を測定した後に、掃印速度(1mV/s)、2.5V-4.5Vの掃引範囲で電位を掃引した。この掃引は、25℃±5℃の室温で、10回繰り返した。最後に、最初の貴な電位側への掃印時における4.25Vの電流値を読み、電極に含まれる炭素材料の重量で除することによって、炭素材料と電解液との反応に起因する電流値を算出した。
【0152】
電池特性の評価;
電池特性は、以下のようにして非水電解質二次電池を作製して評価した。
【0153】
(正極)
まず、実施例1~6及び比較例1~3の各炭素材料0.1gに、エタノール5.0gを加え、5時間超音波洗浄機(AS ONE社製)で処理し、炭素材料の分散液を調製した。
【0154】
次に、正極活物質としてのLiCo1/3Ni1/3Mn1/3を、非特許文献(Journal of PowerSources,Vol.146,pp.636-639(2005))に記載されている方法で作製した。
【0155】
すなわち、まず、水酸化リチウムと、コバルト、ニッケル及びマンガンのmol比が1:1:1の3元水酸化物とを混合し混合物を得た。次に、この混合物を空気雰囲気下において、1000℃で加熱することによって正極活物質を作製した。
【0156】
次に、エタノール9gに得られた正極活物質(LiCo1/3Ni1/3Mn1/3)3gを加え、マグネチックスターラーにて600rpmで10分攪拌することによって、正極活物質の分散液を調製した。
【0157】
さらに、上記炭素材料の分散液に、上記正極活物質の分散液をスポイトで滴下した。なお、滴下時は、炭素材料の分散液は、超音波洗浄機(AS ONE社製)で処理し続けた。その後、分散液の混合液をマグネチックスターラーで3時間攪拌した。
【0158】
最後に、分散液の混合液を吸引ろ過した後に、110℃で1時間真空乾燥することによって、正極活物質と炭素材料との複合体(活物質-炭素材料複合体)を作製した。正極の作製に必要な量は、上記の工程を繰り返すことによって作製した。
【0159】
次に、上記複合体96重量部に、バインダー(PVdF、固形分濃度12重量%、NMP溶液)を固形分が4重量部となるように混合し、スラリーを作製した。次に、このスラリーをアルミニウム箔(20μm)に塗工した後に、送風オーブンにて120℃で1時間加熱し、溶媒を除去した後、120℃で12時間真空乾燥した。次に、同様にしてアルミニウム箔の裏面にもスラリーを塗工及び乾燥させた。
【0160】
最後に、ロールプレス機にて、上記正極をプレスした。
【0161】
正極の容量は、単位面積当たりの電極重量、及び正極活物質の理論容量(150mAh/g)から算出した。その結果、正極の容量(片面あたり)は、5mAh/cmであった。
【0162】
(負極)
負極は、次の通りに作製した。
【0163】
最初に負極活物質(人造黒鉛)100重量部にバインダー(PVdF、固形分濃度12重量%、NMP溶液)を固形分が5重量部となるように混合し、スラリーを作製した。次に前記スラリーを銅箔(20μm)に塗工した後に、送風オーブンにて120℃で1時間加熱し、溶媒を除去した後、120℃で12時間真空乾燥した。次に、同様にして銅箔の裏面にもスラリーを塗工及び乾燥させた。
【0164】
最後に、ロールプレス機にて、プレスし、負極を作製した。負極の容量は、単位面積当たりの電極重量、及び負極活物質の理論容量(350mAh/g)から算出した。その結果、負極の容量(片面あたり)は、6.0mAh/cmであった。
【0165】
(非水電解質二次電池の製造)
最初に、作製した正極(電極部分:40mm×50mm)、負極(電極部分:45mm×55mm)及びセパレータ(ポリオレフィン系の微多孔膜、25μm、50mm×60mm)を、負極/セパレータ/正極/セパレータ/負極の順に、正極の容量が200mAh(正極1枚、負極2枚)となるように積層した。次に、両端の正極及び負極にそれぞれアルミニウムタブ及びニッケルめっき銅タブを振動溶着させた後に、袋状のアルミラミネートシートに入れ、3方を熱溶着させ、電解液封入前の非水電解質二次電池を作製した。さらに、上記電解液封入前の非水電解質二次電池を60℃で3時間真空乾燥した後に、非水電解質(エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート=1/2体積%、LiPF 1mol/L)を20g入れ、減圧しながら封止することによって非水電解質二次電池を作製した。なお、ここまでの工程は、露点が-40℃以下の雰囲気(ドライボックス)で実施した。最後に、非水電解質二次電池を、4.25Vまで充電させた後に、25℃で100時間放置し、露点が-40℃以下の雰囲気(ドライボックス)にて発生したガス、及び過剰な電解液を除去した後に、再度減圧しながら封止することによって非水電解質二次電池を作製した。
【0166】
(サイクル特性)
サイクル特性の評価は次の方法で行った。最初に、作製した非水電解質二次電池を45℃の恒温槽に入れ、充放電装置(HJ1005SD8、北斗電工社製)に接続した。次に、定電流定電圧充電(電流値:20mA、充電終止電圧:4.25V、定電圧放電電圧:4.25V、定電圧放電終止条件:3時間経過、又は電流値4mA)、定電流放電(電流値:100mA、放電終止電圧:2.5V)を300回繰り返すサイクル運転を行った。最後に、1回目の放電容量を100としたときの、300回目の放電容量の割合を算出することによって放電容量の維持率(サイクル特性)とした。なお、サイクル特性は、以下の評価基準で評価した。
【0167】
[評価基準]
○…上記割合(サイクル特性)が80%以上
×…上記割合(サイクル特性)が80%未満
【0168】
結果を下記の表1に示す。
【0169】
【表1】
【0170】
(実施例7)
実施例7では、以下のようにして非水電解質二次電池を作製して評価した。
【0171】
(正極)
まず、実施例1で得られた炭素材料0.1gに、エタノール5.0gを加え、5時間超音波洗浄機(AS ONE社製)で処理し、炭素材料の分散液を調製した。
【0172】
次に、正極活物質としてのLiCo1/3Ni1/3Mn1/3を、非特許文献(Journal of PowerSources,Vol.146,pp.636-639(2005))に記載されている方法で作製した。
【0173】
すなわち、まず、水酸化リチウムと、コバルト、ニッケル及びマンガンのmol比が1:1:1の3元水酸化物とを混合し混合物を得た。次に、この混合物を空気雰囲気下において、1000℃で加熱することによって正極活物質を作製した。
【0174】
次に、エタノール9gに得られた正極活物質(LiCo1/3Ni1/3Mn1/3)3gを加え、マグネチックスターラーにて600rpmで10分攪拌することによって、正極活物質の分散液を調製した。
【0175】
さらに、上記炭素材料の分散液に、上記正極活物質の分散液をスポイトで滴下した。なお、滴下時は、炭素材料の分散液は、超音波洗浄機(AS ONE社製)で処理し続けた。その後、分散液の混合液をマグネチックスターラーで3時間攪拌した。
【0176】
最後に、分散液の混合液を吸引ろ過した後に、110℃で1時間真空乾燥することによって、正極活物質と炭素材料との複合体(活物質-炭素材料複合体)を作製した。正極の作製に必要な量は、上記の工程を繰り返すことによって作製した。
【0177】
次に、上記複合体96重量部に、バインダー(PVdF、固形分濃度12重量%、NMP溶液)を固形分が4重量部となるように混合し、スラリーを作製した。次に、このスラリーをアルミニウム箔(20μm)に塗工した後に、送風オーブンにて120℃で1時間加熱し、溶媒を除去した後、120℃で12時間真空乾燥した。次に、同様にしてアルミニウム箔の裏面にもスラリーを塗工及び乾燥させた。
【0178】
最後に、ロールプレス機にて、上記正極をプレスした。
【0179】
正極の容量は、単位面積当たりの電極重量、及び正極活物質の理論容量(150mAh/g)から算出した。その結果、正極の容量(片面あたり)は、5mAh/cmであった。
【0180】
(負極)
負極は、次の通りに作製した。
【0181】
最初に負極活物質(人造黒鉛)100重量部にバインダー(PVdF、固形分濃度12重量%、NMP溶液)を固形分が5重量部となるように混合し、スラリーを作製した。次に前記スラリーを銅箔(20μm)に塗工した後に、送風オーブンにて120℃で1時間加熱し、溶媒を除去した後、120℃で12時間真空乾燥した。次に、同様にして銅箔の裏面にもスラリーを塗工及び乾燥させた。
【0182】
最後に、ロールプレス機にて、プレスし、負極を作製した。負極の容量は、単位面積当たりの電極重量、及び負極活物質の理論容量(350mAh/g)から算出した。その結果、負極の容量(片面あたり)は、6.0mAh/cmであった。
【0183】
(非水電解質二次電池の製造)
最初に、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比1:2における混合溶液に、LiPFの濃度が1mol/Lとなるように溶解させ、電解液を作製した。次に、作製した電解液99.5gと、ビニレンカーボネート(キシダ化学社製)0.5gとを混合して濃度が0.5重量%の非水電解質を調製した。
【0184】
次に、上記のようにして作製した正極(電極部分:40mm×50mm)、負極(電極部分:45mm×55mm)及びセパレータ(ポリオレフィン系の微多孔膜、25μm、50mm×60mm)を、負極/セパレータ/正極/セパレータ/負極の順に、正極の容量が200mAh(正極1枚、負極2枚)となるように積層した。次に、両端の正極及び負極にそれぞれアルミニウムタブ及びニッケルめっき銅タブを振動溶着させた後に、袋状のアルミラミネートシートに入れ、3方を熱溶着させ、電解液封入前の非水電解質二次電池を作製した。さらに、上記電解液封入前の非水電解質二次電池を60℃で3時間真空乾燥した後に、上記の方法で調製した非水電解質を1.0mL入れ、減圧しながら封止することによって非水電解質二次電池を作製した。
【0185】
なお、ここまでの工程は、露点が-40℃以下の雰囲気(ドライボックス)で実施した。最後に、非水電解質二次電池を、4.25Vまで充電させた後に、25℃で100時間放置し、露点が-40℃以下の雰囲気(ドライボックス)にて発生したガス、及び過剰な電解液を除去した後に、再度減圧しながら封止することによって非水電解質二次電池を作製した。
【0186】
(実施例8)
非水電解質として、以下のようにして調製した非水電解質を用いたこと以外は実施例7と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0187】
最初に、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比1:2における混合溶液に、LiPFの濃度が1mol/Lとなるように溶解させ、電解液を作製した。次に、作製した電解液99gと、環状酸無水物として無水コハク酸(和光純薬工業社製)1gとを混合して濃度が1重量%の非水電解質を調製した。
【0188】
(サイクル特性)
実施例7及び実施例8で作製した非水電解質二次電池のサイクル特性の評価は次の方法で行った。最初に、作製した非水電解質二次電池を45℃の恒温槽に入れ、充放電装置(HJ1005SD8、北斗電工社製)に接続した。次に、定電流定電圧充電(電流値:20mA、充電終止電圧:4.25V、定電圧放電電圧:4.25V、定電圧放電終止条件:3時間経過、又は電流値4mA)、定電流放電(電流値:100mA、放電終止電圧:2.5V)を300回繰り返すサイクル運転を行った。最後に、1回目の放電容量を100としたときの、300回目の放電容量の割合を算出することによって放電容量の維持率(サイクル特性)とした。なお、サイクル特性は、以下の評価基準で評価した。
【0189】
[評価基準]
○…上記割合(サイクル特性)が80%以上
×…上記割合(サイクル特性)が80%未満
【0190】
結果を下記の表2に示す。
【0191】
【表2】