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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】X線CT装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/046 20180101AFI20221025BHJP
【FI】
G01N23/046
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019528189
(86)(22)【出願日】2017-07-03
(86)【国際出願番号】 JP2017024319
(87)【国際公開番号】W WO2019008620
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2019-10-15
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100102037
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100149962
【弁理士】
【氏名又は名称】阿久津 好二
(74)【代理人】
【識別番号】100170988
【弁理士】
【氏名又は名称】妹尾 明展
(74)【代理人】
【識別番号】100189566
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 雅之
(72)【発明者】
【氏名】新坂 拓真
(72)【発明者】
【氏名】欅 泰行
【合議体】
【審判長】福島 浩司
【審判官】▲高▼見 重雄
【審判官】渡戸 正義
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-340630(JP,A)
【文献】特開2017-86816(JP,A)
【文献】特開2002-333408(JP,A)
【文献】特開2005-270297(JP,A)
【文献】特開2007-255951(JP,A)
【文献】特開2015-215218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N23/00-23/2276
A61B6/00-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体に複数の角度からX線を照射して取得した投影データに基づいて前記被写体の断層画像を再構成するX線CT装置であって、
定盤と、
X線を発生するX線源と、
前記定盤に固定されており、前記X線源に対向配置されるX線を検出するためのX線検出器と、
前記X線源と前記X線検出器との間に配置される前記被写体を載置するためのステージと、
前記X線検出器が検出した前記被写体の投影データに基づいて演算処理を実行する制御装置と、
マーカが少なくとも2か所設けられた平板と、一端が前記定盤に固定されると共に他端で前記平板を支持する支持部とから成り、前記ステージと前記X線源との間の位置であって、CTスキャンの実行中に前記マーカが前記X線検出器の検出範囲内に含まれる位置、かつ、前記平板が前記被写体の投影像に重畳しない位置に配置されるマーカ部材と、
を備え、
前記マーカ部材は、前記X線検出器に対する前記平板の設置角度が変化しないように、前記支持部が前記ステージを介さずに前記定盤に固定されており、
前記制御装置は、
前記X線源の焦点と前記マーカとを通る直線が前記X線検出器と交差する点である特徴点を、前記マーカの投影像を画像処理することにより検出し、2次元X線画像上の前記特徴点の座標を求めるマーカ特徴点検出部と、
前記マーカ特徴点検出部により求めた2つの異なるフレームの前記特徴点の座標を用いて、前記X線源の焦点が前記2つの異なるフレームが得られる間に移動した量を3次元的に算出する焦点移動量算出部と、
を備え、
前記X線源の焦点移動量に基づいて前記被写体の断層画像を再構成するときの座標系を修正することを特徴とするX線CT装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線CT装置において、
前記焦点移動量算出部は、前記平板の設置角度情報を利用して、前記X線源の焦点の移動量を3次元的に算出するX線CT装置。
【請求項3】
請求項1に記載のX線CT装置において、
前記マーカ部材は、前記平板を前記X線源のX線照射口に近接させて配置されるX線CT装置。
【請求項4】
請求項1に記載のX線CT装置において、
前記マーカ特徴点検出部は、前記マーカの投影像を画像処理して輝度重心点を求め、前記輝度重心点を前記特徴点の座標とするX線CT装置。
【請求項5】
請求項1に記載のX線CT装置において、
前記マーカ部材における前記平板は、X線を減衰させる材料から成るX線CT装置。
【請求項6】
請求項5に記載のX線CT装置において、
前記マーカは、前記平板内に設けられた空洞、あるいは、前記平板に形成された貫通孔または凹部であるX線CT装置。
【請求項7】
請求項5に記載のX線CT装置において、
前記マーカは、前記平板の表面に配設されたX線を減衰させる材料から成る円柱または円錐台形状の部材であるX線CT装置。
【請求項8】
請求項1に記載のX線CT装置において、
前記焦点移動量算出部は、X線焦点が基準位置にあるときの前記特徴点の座標と、CTスキャンの実行中の前記特徴点の座標とを用いて、前記X線源の焦点がCTスキャンの実行中に移動した量を3次元的に算出する、X線CT装置。
【請求項9】
請求項1に記載のX線CT装置において、
前記焦点移動量算出部は、各マーカの位置関係と各マーカの特徴点の移動量から、前記X線源の焦点のX線光軸に沿う方向の移動量を移動方向も含めて3次元的に算出する、X線CT装置。
【請求項10】
請求項1に記載のX線CT装置において、
前記平板が、前記X線源の筐体とは独立して定位置に固定されている、X線CT装置。
【請求項11】
請求項2に記載のX線CT装置において、
前記マーカの各々と前記X線検出器の検出面との距離に差が生じるように前記X線検出器の検出面に対する前記平板の設置角度が平行からずれており、
前記X線検出器における投影像における前記マーカの各々の拡大率が異なっている、X線CT装置。
【請求項12】
請求項5に記載のX線CT装置において、
前記マーカは、前記平板内に設けられた、孔の内面が傾斜しているテーパ孔である、X線CT装置。
【請求項13】
請求項1に記載のX線CT装置において、
前記支持部の長さは、前記マーカを含む平板の投影像が前記被写体の投影像と重畳することがない前記X線検出器の検出範囲の端の位置となる長さである、X線CT装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、各種製品の内部構造の観察および3次元形状の測定を非破壊で行うX線CT装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用のX線CT装置は、互いに対向配置させたX線源とX線検出器との間に、工業製品等の被写体を載置する回転ステージを配置し、被写体の周囲の各方向からのX線投影データを収集して断層画像を再構成することにより、その被写体の内部構造を3次元的に観察するものである(特許文献1参照)。このような被写体の3次元構造を捉えることができる性質から、近年では、観察用途だけでなく、3次元形状測定にX線CT装置が用いられている。
【0003】
断層画像は、CTスキャン時のX線焦点、被写体、検出器の幾何的な情報を基に投影像を逆投影して再構成される。このため、3次元形状測定用のX線CT装置においては、幾何情報に生じた誤差が、再構成像に空間的な歪みを生じさせ、寸法測定精度を低下させる原因となる。特にX線焦点は、X線照射中にX線管の熱膨張やターゲットの劣化等により常に変動する。例えば、X線焦点が10μm変動したと仮定すると、X線検出器で検出される100倍に拡大された投影像では、1mmの誤差となる。3次元形状測定用としてX線CT装置が満たすべき寸法測定精度を実現できるように被写体の断層画像を空間歪みなく再構成するためには、CTスキャン中のX線焦点の位置を3次元的に検出して、断層画像の再構成に必要な情報を補正する、あるいは、X線焦点の変動を抑制する必要がある。
【0004】
特許文献2、特許文献3および非特許文献1には、CTスキャン中のX線焦点の位置を検出する手法として、マーカの投影像から2次元の焦点移動量を求める技術が記載されている。また、特許文献4には、装置の温度変化の影響による検出精度の低下を抑制するために、X線源をハウジングに収容し、ハウジング内に温度調節された気体を供給することでX線源を含むハウジングの熱を冷却する構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-351879号公報
【文献】国際公開2009/036983号
【文献】特許第3743594号
【文献】特許第5850059号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Frederik Vogeler、Wesley Verheecke、Andre Voet、Jean-Pierre Kruth、Wim Dewulf、Positinal Stability of 2D X-ray Images for Computer Tomography、International Symposium on Digital Industrial Radiology and Computed Tomography-Mo.3.3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載のX線焦点の位置検出では、検出器を介して得られるマーカの投影像が大きく、被写体の撮像視野がマーカにより阻害されるため、被写体とマーカを同時に撮像することができない。このため、被写体をスキャンするときには、マーカを退避させている。また、マーカを撮像するときには、マーカと検出器との位置関係が同じになるようにマーカの基準位置への配置を再現する必要がある。このため、精度の高いマーカの位置決め機構が必要となり、製作面での負担が大きくなる。
【0008】
非特許文献1に記載のX線焦点の位置検出では、被写体を載置する回転ステージの近傍に被写体の視野を阻害しないようマーカを設置し、マーカを被写体と同時に撮像することでCTスキャン中のX線焦点の位置を常時検出できる。しかしながら、検出するX線焦点の位置は検出器面上の2方向のみである。
【0009】
特許文献3に記載のX線焦点の位置検出では、マーカを被写体に貼設することでマーカと被写体の投影像を同時に得ることができ、CTスキャン中のX線焦点の位置を常時検出することができる。しかしながら、検出器を介して得られる投影像は、被写体にマーカが重なったものとなるため、マーカの検出精度が低下するとともに、被写体の断層画像にマーカの影響が及ぶ。
【0010】
また、X線焦点の変動を抑制するために、X線源側の温度を制御するとしても、特許文献4に記載のように、X線源をハウジングに収容して固定し、そのハウジングをさらに冷却装置に接続する構造を採用すると、装置の制作コストが高くなる。
【0011】
この発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、被写体のCTスキャン中に変動するX線の焦点位置を3次元的に検出し、断層画像を空間歪なく再構成することが可能なX線CT装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明は、被写体に複数の角度からX線を照射して取得した投影データに基づいて前記被写体の断層画像を再構成するX線CT装置であって、X線を発生するX線源と、前記X線源に対向配置されるX線を検出するためのX線検出器と、前記X線源と前記X線検出器との間に配置される前記被写体を載置するための回転ステージと、前記X線検出器が検出した前記被写体の投影データに基づいて演算処理を実行する制御装置と、マーカが少なくとも2か所設けられた平板と、前記平板を支持する支持部とから成り、前記回転ステージと前記X線源との間の位置であって、CTスキャンの実行中に前記マーカが前記X線検出器の検出範囲内に含まれる位置、かつ、前記平板が前記被写体の投影像に重畳しない位置に配置されるマーカ部材と、を備え、前記制御装置は、前記X線源の焦点と前記マーカとを通る直線が前記X線検出器と交差する点である特徴点を、前記マーカの投影像を画像処理することにより検出し、2次元X線画像上の前記特徴点の座標を求めるマーカ特徴点検出部と、前記マーカ特徴点検出部により求めた2つの異なるフレームの前記特徴点の座標を用いて、前記X線源の焦点が前記2つの異なるフレームが得られる間に移動した量を3次元的に算出する焦点移動量算出部と、を備え、前記X線源の焦点移動量に基づいて前記被写体の断層画像を再構成するときの座標系を修正することを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のX線CT装置において、前記マーカ部材は、前記X線検出器に対する前記平板の設置角度が変化しないように固定され、前記焦点移動量算出部は、前記平板の設置角度情報を利用して、前記X線源の焦点の移動量を3次元的に算出する。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のX線CT装置において、前記マーカ部材は、前記平板を前記X線源のX線照射口に近接させて配置される。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のX線CT装置において、前記マーカ特徴点検出部は、前記マーカの投影像を画像処理して輝度重心点を求め、前記輝度重心点を前記特徴点の座標とする。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載のX線CT装置において、前記マーカ部材における前記平板は、X線を減衰させる材料から成る。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のX線CT装置において、前記マーカは、前記平板内に設けられた空洞、あるいは、前記平板に形成された貫通孔または凹部である。
【0018】
請求項7に記載の発明は、請求項5に記載のX線CT装置において、前記マーカは、前記平板の表面に配設されたX線を減衰させる材料から成る円柱または円錐台形状の部材である。
【0019】
請求項8に記載の発明は、請求項1に記載のX線CT装置において、前記焦点移動量算出部は、X線焦点が基準位置にあるときの前記特徴点の座標と、CTスキャンの実行中の前記特徴点の座標とを用いて、前記X線源の焦点がCTスキャンの実行中に移動した量を3次元的に算出する。
【0020】
請求項9に記載の発明は、請求項1に記載のX線CT装置において、前記焦点移動量算出部は、各マーカの位置関係と各マーカの特徴点の移動量から、前記X線源の焦点のX線光軸に沿う方向の移動量を算出する。
【0021】
請求項10に記載の発明は、請求項1に記載のX線CT装置において、前記平板が、前記X線源の筐体とは独立して定位置に固定されている。
【発明の効果】
【0022】
請求項1から請求項10に記載の発明によれば、X線焦点位置を検出するためのマーカを少なくとも2カ所設けた平板を有するマーカ部材を備え、少なくとも2つのマーカを被写体の投影像に重畳させることなく同時にスキャンして、CTスキャン中のX線焦点位置を3次元的に検出し、X線源の焦点移動量に基づいて断層画像を再構成する際の座標系を補正することから、断層画像を空間歪なく再構成することが可能となる。このため、3次元形状測定用として高い寸法測定精度を実現することができる。
【0023】
請求項2に記載の発明によれば、X線検出器に対する平板の設置角度を固定し、設置角度をX線の焦点移動量の算出パラメータとして加えることにより、CTスキャン中のX線焦点の位置を、より正確に求めることが可能となる。
【0024】
請求項3に記載の発明によれば、マーカ部材は、平板をX線源のX線照射口に近接させて配置されることから、投影像におけるマーカの拡大率を大きくすることができる。これにより、平板に設けるマーカの大きさを小さくすることが可能となる。
【0025】
請求項4に記載の発明によれば、マーカの投影像を画像処理することにより、輝度重心点を特徴点の座標とすることから、マーカの投影像が変形している場合でも、特徴点の座標を正確に決めることができる。
【0026】
請求項5から請求項7に記載の発明によれば、平板の厚みと異なる厚みを持つマーカを設けることで、投影像において平板の板部分とマーカ部分とでX線透過強度に明確な差を生じさせ、画像処理による特徴点の検出を容易に行うことができる。
【0027】
請求項6に記載の発明によれば、平板にマーカを容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】この発明に係るX線CT装置の概要図である。
図2】X線検出器12の検出面におけるマーカMの位置を説明する概要図である。
図3】この発明に係るX線CT装置の主要な制御系を説明するブロック図である。
図4】マーカMの投影像の取得からCT画像再構成に至る処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
この発明の実施の形態を、図面に基づいて説明する。図1は、この発明に係るX線CT装置の概要図である。図2は、X線検出器12の検出面におけるマーカMの位置を説明する概要図である。図3は、この発明に係るX線CT装置の主要な制御系を説明するブロック図である。
【0030】
X線CT装置は、X線を発生させるX線源11と、X線源11に対向配置されたX線検出器12と、被写体Wを載置するための回転ステージ13と、X線CT装置全体の制御を行う制御装置30を備える。制御装置30は、パーソナルコンピュータ40と、X線コントローラ31と、ステージコントローラ32とから構成される。
【0031】
X線源11とX線検出器12は、図示を省略した支持機構により定盤16に固定されている。X線源11とX線検出器12との間には、回転軸Rを中心に回転する回転ステージ13が配置されている。回転ステージ13は、ステージ移動機構15により定盤16上をX線光軸に沿う方向に移動する。回転ステージ13とX線源11との距離をステージ移動機構15により変更することで、X線検出器12で検出される被写体Wの投影像の拡大率が変更される。なおここで、本明細書では、図2に記載されているように、X軸はX線光軸に沿う水平方向であり、Z軸は上下(鉛直)方向であり、Y軸はX軸とZ軸に直交する方向である。
【0032】
X線源11は、X線検出器12に向けてX線を円錐状に照射するX線管を有する。被写体Wの材質やX線透過特性に応じて、X線管に供給する管電圧、管電流をX線コントローラ31により制御する。X線コントローラ31は、パーソナルコンピュータ40の制御下に置かれている。X線検出器12により検出された透過X線像は、パーソナルコンピュータ40に取り込まれる。パーソナルコンピュータ40では、投影データに基づいてCT画像再構成部53(図3参照)により回転軸Rに直交するX-Y平面に沿った面でスライスした断層画像が構築される。
【0033】
回転ステージ13およびステージ移動機構15は、それぞれ独立の駆動モータを有し、それらの駆動モータは、ステージコントローラ32から供給される駆動信号によって制御される。ステージコントローラ32は、パーソナルコンピュータ40の制御下に置かれている。
【0034】
また、X線源11と回転ステージ13との間には、マーカMが形成された平板21と、平板21を支持する支持部22から成るマーカ部材20が配置されている。マーカ部材20は、回転ステージ13よりもX線源11に近い位置に配置される。
【0035】
平板21は、支持部22で支持した状態で変形することがない厚みを持つ薄板により作成される。そして、平板21には、2カ所にマーカMが設けられている。この実施形態では、マーカMは、矩形状の平板21の左右対称な位置に穿設された貫通孔である。なお、貫通孔に代えて、平板21の材料と同様のX線を減衰させる材料により作成された円柱や円錐台形状の部材を平板21の表面に配設してマーカMとしてもよい。また、貫通孔の形状も、円柱孔に限らず、孔の内面が傾斜しているテーパ孔であってもよい。さらに、貫通孔ではなく、平板21に凹部を形成することでマーカMとしてもよく、平板21の材質によっては、平板内に空洞(ボイド)を設けることでマーカMとしてもよい。すなわち、マーカMは、平板21の厚みと異なる厚みを持つことで、投影像において平板21とのコントラストを得ることができるものであればよく、マーカMの形状は、平板21の板部分とマーカ部分とでX線透過強度に明確な差を生じさせるものであればよい。また、この実施形態では、マーカMを2カ所設けているが、マーカMの数をさらに増やしてもよい。
【0036】
平板21は、支持部22に固定されており、設置角度が変化しないようになっている。X線源11の焦点からX線を照射して被写体Wの投影データを取得する際には、図2に示すように、マーカMがX線検出器12の検出範囲内に含まれるように、マーカ部材20の位置をX線源11に近い側に固定する。これにより、X線源11のX線照射口の前の近接した位置に平板21が固定される。なお、平板21の位置を規定する支持部22の長さは、図2に示すように、マーカMを含む平板21の投影像が被写体Wの投影像と重畳することがないX線検出器12の検出範囲の側端の位置となる長さとなっている。このように、支持部22を介しマーカ部材20を定盤16に配置することで、マーカMが形成された平板21を、X線源11の筐体とは独立して定位置に固定することができる。
【0037】
平板21におけるマーカMの形成位置は、マーカMのいずれもが被写体の投影像と重畳しない範囲でマーカM同士の離間距離が長くなるようにすることで、後述するX線焦点の3次元的な移動量の算出精度がよくなる。
【0038】
X線焦点から円錐状に照射され、平板21および回転ステージ13上の被写体Wを透過したX線は、X線検出器12により検出され、検出データはパーソナルコンピュータ40に入力される。
【0039】
パーソナルコンピュータ40は、RAM、ROMなどのメモリ41と、各種の演算処理を実行するCPUなどの演算装置42と、CTスキャンにより取得された投影データを保存するHDDなどの記憶装置43と、X線コントローラ31やステージコントローラ32に制御信号を送信するための通信部44を備える。メモリ41、演算装置42、記憶装置43および通信部44は、相互のデータ通信を可能とする内部バス61により接続されている。メモリ41には、演算装置42を動作させて機能を実現するプログラムが格納されている。図3においては、パーソナルコンピュータ40にインストールされているプログラムを機能ブロックとして示している。この実施形態では、機能ブロックとして、マーカ特徴点検出部51と、焦点移動量算出部52と、CT画像再構成部53とを備える。また、パーソナルコンピュータ40には、演算装置42の動作により構築された断層画像などを表示する表示装置48と、各種指令を装置に与えるためのマウスやキーボードなどの入力装置49が、通信部44を介して接続されている。
【0040】
次に、上述した構成のX線CT装置によりCTスキャンを実行する際に、スキャン中のX線の焦点位置を検出する手順について説明する。断層画像は、CTスキャン時のX線焦点、被写体W、検出器の位置関係を含む幾何情報を基に、投影像を逆投影して再構成される。したがって、この発明では、断層画像の再構成に必要な幾何情報の一つであるX線の焦点位置の移動を追跡し、移動量を断層画像の再構成に反映するようにしている。図4は、マーカMの投影像の取得からCT画像再構成に至る処理を示すフローチャートである。
【0041】
まず、マーカMが形成された平板21がX線源11のX線照射口の直前に配置されるように、マーカ部材20を定盤16に固定する(ステップS11)。このとき、X線検出器12の検出面と平板21の板面とが平行になるように、マーカ部材20を固定する。これにより、マーカMの位置、平板21のX線検出器12の検出面に対する設置角度が固定される。そして、X線焦点の基準となるX線焦点位置(基準焦点位置)を決める(ステップS12)。なお、X線焦点位置は、X線源11におけるX線管において、熱電子がターゲットに衝突してX線を発生させる位置であって、この明細書では一つの点であると見なしている。
【0042】
基準焦点位置でのマーカMの投影像を取得し(ステップS13)、得られた投影像からマーカMの特徴点を検出する(ステップS14)。すなわち、被写体WへのCTスキャンを開始する前に、X線管の熱変形が起こる前の基準となるX線焦点位置でのマーカMの特徴点(基準マーカ特徴点)の位置を取得する。
【0043】
マーカMの特徴点は、X線焦点とマーカMを通る直線がX線検出器12の検出面と交差する点である。X線検出器12より得られた投影像を画像処理して決定したマーカMの投影像の輝度重心点を、特徴点の座標としている。なお、マーカMの投影像の輝度重心点は、2次元X線画像上の点であり、マーカMの特徴点の移動は、このX線検出器12の検出面であるu-v平面座標におけるベクトルで表される。また、マーカMの特徴点の座標を輝度重心点とすることで、マーカMへのX線の入射角との関係で、平板21に形成された円形のマーカMが投影像では楕円形に変形しても、マーカMの特徴点の座標を正確に求めることができる。
【0044】
続いて、被写体WとマーカMとを同時に撮像しながらスキャンする(ステップS15)。CTスキャンに際しては、X線源11からX線を照射しながら、被写体Wを載置した回転ステージ13を回転させて、所定の回転角度ごとにX線検出器12からパーソナルコンピュータ40に入力された投影像が、フレームデータとして記憶装置43に記憶される。なお、フレームデータとは投影像の1画面分のデータのことであり、得られた時刻の順番にしたがって記憶装置43に記憶されるものである。
【0045】
得られた投影像を画像処理することにより、マーカMの特徴点を検出する(ステップS16)。CTスキャンでは、設定されたスキャンモードで設定されたビュー数に応じたサンプリングピッチに対応する投影データが収集される。スキャン中は、被写体Wには複数の角度からX線が照射されるが、X線検出器12に対する平板21の位置は固定されていることから、各フレームから、マーカMの投影像が得られる。スキャンの経過に伴い、X線管の熱変形などによりX線焦点位置が移動すると、それは、X線検出器12の検出面におけるu-v平面座標上でのマーカMの特徴点の移動として観察できる。フレームデータに対して画像処理を実行することで、異なる2つのフレームのマーカMの特徴点を検出する(ステップS16)。なお、マーカMの特徴点の検出は、全てのフレームデータに対して実行してもよく、所定の間隔で抽出したフレームデータに対して行ってもよい。すなわち、後述するステップS17で、2つの異なるフレーム間で、どれだけマーカMの特徴点が移動したかを計算することができればよい。
【0046】
なお、ステップS14およびステップS16におけるマーカMの特徴点の検出は、演算装置42がメモリ41におけるマーカ特徴点検出部51から読み込んだプログラムを実行することにより実現される。
【0047】
ステップS14で得られたX線焦点が基準位置にあるときのマーカMの特徴点のベクトルと、ステップS16で得られたCTスキャン中のあるフレームのマーカMの特徴点のベクトルから、特徴点がどれだけどの方向に移動したかを求める(ステップS17)。すなわち、ある時間経過後のマーカMの特徴点の座標位置の変化から、その時間内に、X線焦点がどれだけの量どの方向に移動したかが算出される。このX線焦点移動量の算出は、演算装置42がメモリ41における焦点移動量算出部52から読み込んだプログラムを実行することにより実現される。
【0048】
なお、この実施形態では、2つのマーカMの特徴点の位置を求めており、2つのマーカMの位置関係と各マーカMの特徴点の移動量から、X線焦点のX線光軸に沿う方向(X方向)の移動も計算することができる。このように、少なくとも2つのマーカMの2つの異なるフレームで検出した特徴点の座標を用いて、X線の焦点が当該時間内で移動した量を、移動した方向も含めて3次元的に算出することができる。
【0049】
このX線CT装置では、CTスキャン中のX線検出器12の検出面に対して平板21の板面をほぼ平行に設置している。このため、X線焦点の移動量を算出する際に、特に設置角度情報をパラメータとして設定しなくても、CTスキャン中のX線焦点の移動量を算出することができる。
【0050】
一方、X線焦点の移動量の3次元的算出において、X線検出器12の検出面に対する平板21の設置角度をパラメータとして加えることもできる。X線検出器12の検出面に対する平板21の設置角度が平行からずれるほど、2つのマーカMの各々とX線検出器12の検出面との距離に差が生じ、投射像における両者の拡大率が異なることになる。X線焦点の空間移動の検出に、既知パラメータとして予め取得しておいた設置角度情報を利用することで、X線焦点移動の検出精度をさらに向上させることができる。
【0051】
X線検出器12の検出面に対する平板21の設置角度は、例えば、マーカ部材20を定盤16に固定したときに、レーザ変位計などを使用して取得しておけばよい。なお、このX線CT装置のようにX線源11とX線検出器12の位置が固定されており、CTスキャン中のマーカ部材20の位置が定盤16に固定されているに等しい状態の装置では、X線検出器12とマーカ部材20を配置して以降、X線CT装置の使用時においてこの設置角度が変わることがないため、レーザ変位計などを使用した設置角度情報の取得は一度で済むことになる。
【0052】
X線の焦点移動量が求まると、その焦点移動量に基づいて、CT画像再構成の座標系を修正する(ステップS18)。X線の焦点位置は、断層画像の再構成に必要な幾何情報の一つであり、焦点移動量に基づいてCT画像再構成の座標系を修正することで、CTスキャン中の幾何情報の誤差が修正される。しかる後、CT画像再構成を実行し(ステップS19)、被写体Wの断層画像を再構成する。なお、CT画像再構成の座標系の修正(ステップS18)およびCT画像再構成の実行(ステップS19)は、演算装置42がメモリ41におけるCT画像再構成部53から読み込んだプログラムを実行することにより実現される。
【0053】
上述したように、この発明のX線CT装置では、少なくとも2つのマーカMを被写体Wと同時に撮像しながらCTスキャンし、被写体Wの投影データと同じ時間軸でマーカMの特徴点を検出することで、CTスキャン中のX線焦点位置を3次元的に検出している。これにより、CTスキャン中のX線焦点の移動を断層画像の再構成に反映できることから、断層画像を空間歪みなく再構成すること可能となる。したがって、この発明のX線CT装置を高い寸法測定精度が要求される3次元形状測定用に使用することも可能となる。
【符号の説明】
【0054】
11 X線源
12 X線検出器
13 回転ステージ
15 ステージ移動機構
16 定盤
20 マーカ部材
21 平板
22 支持部
30 制御装置
31 X線コントローラ
32 ステージコントローラ
40 パーソナルコンピュータ
41 メモリ
42 演算装置
43 記憶装置
44 通信部
48 表示装置
49 入力装置
51 マーカ特徴点検出部
52 焦点移動量算出部
53 CT画像再構成部
M マーカ
W 被写体
図1
図2
図3
図4