(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】高熱伝導性および高絶縁性を有する放熱シート
(51)【国際特許分類】
H05K 7/20 20060101AFI20221025BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20221025BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20221025BHJP
B32B 5/24 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
H05K7/20 F
H01L23/36 M
B32B27/00 101
B32B5/24
(21)【出願番号】P 2019535111
(86)(22)【出願日】2018-07-27
(86)【国際出願番号】 JP2018028318
(87)【国際公開番号】W WO2019031280
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2017156016
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】和田 光祐
(72)【発明者】
【氏名】山縣 利貴
(72)【発明者】
【氏名】金子 政秀
(72)【発明者】
【氏名】谷口 佳孝
【審査官】梅本 章子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-001738(JP,A)
【文献】特開2007-070474(JP,A)
【文献】特開2009-274929(JP,A)
【文献】特開2004-244491(JP,A)
【文献】特開平08-336878(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0228542(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 7/20
H01L 23/373
B32B 1/00 - 43/00
C08J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強層のガラスクロスの両面に酸化アルミニウムを含有するシリコーン組成物の層が積層されかつ前記ガラスクロスの内部に前記シリコーン組成物が含有される構成を有する放熱シートであって、
前記酸化アルミニウムの平均球形度が0.85以上であり、
前記酸化アルミニウムの頻度粒度分布において15~50μmの領域、1~7μmの領域及び0.1~0.8μmの領域に極大ピークがあり、
前記酸化アルミニウムの平均粒子径が7~50μmの範囲であり、
前記シリコーン組成物中の前記酸化アルミニウムの含有率が62~78体積%、シリコーン樹脂の含有率が22~38体積%の範囲であり、
前記ガラスクロスが複数のガラスフィラメントを束ねたガラス繊維束の製織物であり、
前記ガラス繊維束に対する前記シリコーン組成物の含浸率が20%以上であることを特徴とする放熱シート。
【請求項2】
前記ガラスクロスの厚さが0.01~0.15mm、繊維径が3~7μmであることを特徴とする請求項1に記載の放熱シート。
【請求項3】
ロール状放熱シートである、請求項1又は2に記載の放熱シート。
【請求項4】
熱伝導率が2.0W/(m・K)以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の放熱シート。
【請求項5】
体積抵抗率が10
13Ω・cm以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の放熱シート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の放熱シートを含む放熱部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱する電子部品の冷却のために、電子部品とヒートシンク又は回路基板などの放熱部分との界面に密着させる放熱シートに関する。
【背景技術】
【0002】
放熱シートは、一般的に熱伝導性充填剤を含有したシリコーン組成物(以下、シリコーン組成物と称す)をガラスクロスなどの補強層の両面に塗布したものであり、高熱伝導性、電気絶縁性、ハンドリング性などに優れた特性を有することから、電子材料分野において、発熱する電子部品の冷却のために、電子部品とヒートシンク又は回路基板などの放熱部分との界面に密着させて使用される。例えば下記の特許文献1~5には熱伝導層を補強層の上に設けた放熱シートが開示されている。
【0003】
しかし、近年の急速な電子部品の小型化・高集積化・高出力化に伴い、作動温度が高まることや出力電圧が増加することにより、従来の放熱シートでは放熱性および絶縁性が不十分となり、動作不良や絶縁不良が生じるという問題があった。そこで、放熱シートの高熱伝導化および高絶縁化が望まれている。
【0004】
しかしながら、従来技術による放熱シートの高熱伝導化には、熱伝導性充填材を多量に用いることが挙げられるが、このような従来の手法では放熱シート中にボイドなどの構造欠陥が増加し、絶縁性が低下する。また、高価な金属箔を補強層に用いることで熱伝導性は向上できるが、導電材料を用いるため絶縁性は低下し、またコストアップとなる問題がある。
【0005】
また、従来技術による絶縁性強化では、補強層に絶縁性の高いガラスクロスやポリイミドフィルムを用いることで絶縁性を大きく高めることができる。ガラスクロスは複数のガラス繊維が束となって編みこまれており、目開きを有するものを用いることで熱伝導性充填材の熱伝達の全てを遮断しないため放熱シートの熱伝導性の低下を小さくすることができる。ただし、ガラスクロスを使用する場合、ガラスクロスの繊維間に空気層があることが課題である。ガラスクロスの繊維束中に空気層があるとき、放熱シートに電圧をかけると部分放電が生じ絶縁性が完全に担保できていない。そのため、ガラスクロスの繊維間の空気層に熱伝導性充填材およびシリコーン樹脂を含浸することで熱伝導性および絶縁性を更に向上させることができるが、従来のガラスクロスの繊維径に対して上記樹脂組成物の配合や熱伝導性充填材の粒度配合、粒子形状の配慮がされていなかった。ポリイミドフィルムは、材料自体の熱伝導率が低く、熱伝導性充填材間の熱伝達がポリイミドフィルムで遮断されるため放熱シートの熱伝導性は低下し、更にはコストも高いため使用するには好ましくない。
【0006】
さらに、放熱シートの厚みを薄くすることで放熱性を高める試みもなされているが、絶縁性が必然的に損なわれてしまうため、上述した問題を解決できていない。
【0007】
以上の問題を踏まえ、熱伝導性および絶縁性に優れた放熱シートへの要望が強くなってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平8-336878号公報
【文献】特開平9-001738号公報
【文献】特開平11-307697号公報
【文献】特開平7-266356号公報
【文献】特開平9-199880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような従来技術の有する問題に鑑み、高い熱伝導性および高い絶縁性を両立する放熱シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討したところ、補強層のガラスクロスの両面に酸化アルミニウムを含有するシリコーン組成物層が積層しかつ当該ガラスクロスの内部に当該シリコーン組成物が含有される構成を採用し、シリコーン組成物層の酸化アルミニウムの平均球形度、平均粒子経、ガラスクロスの繊維径および開口率を適正化することでガラスクロスの繊維間にシリコーン組成物が含浸され、熱伝導性と絶縁性が共に優れた放熱シートが得られることを見出した。
【0011】
上記知見に基づいて完成した本発明に係る一実施形態では、補強層のガラスクロスの両面に酸化アルミニウムを含有するシリコーン組成物層が積層されかつ当該ガラスクロスの内部に当該シリコーン組成物を含有する構成を有する放熱シートであって、酸化アルミニウムの平均球形度が0.85以上であり、前記酸化アルミニウムの頻度粒度分布において15~50μmの領域、1~7μmの領域及び0.1~0.8μmの領域に極大ピークがあり、前記酸化アルミニウムの平均粒子径が7~50μmの範囲であり、前記酸化アルミニウムの含有率が62~78体積%、シリコーン樹脂の含有率が22~38体積%の範囲で含有したシリコーン組成物であって、前記放熱シートのガラスクロスが複数のガラスフィラメントを束ねたガラス繊維束の製織物であり、前記ガラス繊維束に対する前記シリコーン樹脂組成物の含浸率が20%以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る放熱シートの更に別の実施形態においては、放熱シートがロール状放熱シートであってもよく、更に別の実施形態においては、熱伝導率が2.0W/(m・K)以上であってよく、更に別の実施形態においては、体積抵抗率が1013Ω・cm以上であってよく、また更に別の一実施形態では放熱シートを含んだ放熱部材を提供できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る放熱シートにより、高い熱伝導性および高い絶縁性を両立することが可能になる。さらにはこのような放熱シートは、打ち抜き加工が効率的で自動化が可能なロール状の形態としても調製可能であるという効果をも奏する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明についてより詳しく説明していく。本明細書に示された数値範囲は、別段の断わりが無いかぎり、下限値と上限値を共に含むものとする。
【0015】
本発明に係る放熱シートは、補強層のガラスクロスと、当該補強層の両面に積層された所定の性質を有するシリコーン組成物の層とを有し、当該シリコーン組成物は当該ガラスクロスの内部にも含有される。シリコーンは、電子材料分野において好適な素材である性質を有することで知られ、広い温度範囲に亘り安定した電気絶縁性や優れた熱伝導性と耐水性などを兼ね備えることを特徴としている。本発明者はこのようなシリコーンから得られるシリコーン組成物に対し、さらに酸化アルミニウムの平均球形度、粒度分布および平均粒子径を最適化することで、放熱シートとしての優れた熱伝導性および絶縁性を奏することを見出し、本発明に想到したものである。
【0016】
[補強層]
本発明に係る放熱シートにおいて使用できる補強層はガラスクロスを含み、これにより放熱シートに機械的強度を与え、さらには放熱シートの平面方向への延伸を抑制する効果も奏し、しかも熱伝導性と絶縁性も得られる。或る実施形態では、本発明の効果を損わないかぎり、放熱シートの用途に応じて当該補強層がさらに他の材料を含んでもよく、そうした他の材料としては、例えば電子材料分野における放熱シートである場合、樹脂フィルム(ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボーネート、アクリル樹脂など)、布繊維メッシュクロス(木綿や麻、アラミド繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ポリオレフィン繊維など)、不織布(アラミド繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ポリオレフィン繊維など)、金属繊維メッシュクロス(ステンレス、銅、アルミニウムなど)、または金属箔(銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔など)を含んでもよい。
【0017】
上記ガラスクロスとしては、一般に市販されているような開口部を有するガラスクロスを使用できる。本明細書においてガラスクロスとは、複数のガラスフィラメントを束ねたガラス繊維束の製織物を指す。熱伝導性の観点からは例えばガラスクロスの厚さは10μm~150μm(0.01~0.15mm)の範囲、より好ましくは20~90μmの範囲、さらに好ましくは30~60μmの範囲とすることができる。ガラスクロスの厚さが10μm以上であると、放熱シートの強度向上によりハンドリングしやすくなる。ガラスクロスの厚さが150μm以下であると、熱伝導率が向上する効果を奏することができる。またガラスクロスの繊維径は、3~7μmの範囲とすることが好ましい。ガラスクロスの繊維径が3μm以上であると、放熱シートの強度が向上する。ガラスクロスの繊維径が7μm以下であると、ガラスクロス繊維束に対するシリコーン組成物の含浸性が向上する効果が得られる。またガラスクロスの引張強度は例えば、100~1000N/25mmの範囲とすることが可能である。またガラスクロスの開口部の一辺の長さは、熱伝導性と強度のバランスを取る観点からは例えば0.1mm以上1.0mm以下の範囲とすることができる。
【0018】
補強層に使用するガラスクロスに用いられるガラス長繊維は高温窯で溶融したガラスの素地をノズルから高速で引き出した糸状のものであるのが好ましい。ガラス長繊維は熱処理やカップリング剤処理したものが低不純物であるためより好ましい。
【0019】
[シリコーン組成物層]
本発明の実施形態に係る放熱シートにおいて使用できるシリコーン組成物層は、酸化アルミニウムが所定の範囲の平均球形度、粒度分布、平均粒子径および含有率を有することで、上述の補強層と接合し協働して顕著な熱伝導性および絶縁性を得ることが可能となっている。
【0020】
当該シリコーン組成物はシリコーン樹脂(シリコーンレジン)またはシリコーンゴムであってよく、そのシリコーン成分の種類は、特に限定されないが過酸化物硬化型、縮合反応硬化型、付加反応硬化型、紫外線硬化型が好適に使用可能である。とりわけシリコーンゴムは、その弾性と硬度から本発明の効果を発揮しやすく、好ましいと考えられる。
【0021】
シリコーン組成物の酸化アルミニウムの平均球形度は、0.85以上であることが好ましく、0.90以上であることがより好ましい。なお平均球形度が0.85より小さい場合は、樹脂等への混合率を高めることが困難となるので十分な高熱伝導性は発現せず、また組成物の流動性が悪化することからガラスクロスのガラス繊維束へ含浸しないため熱伝導性や絶縁性を高めることが困難となる。本明細書における平均球形度は、フロー式粒子像分析装置を用いて測定することができる。
【0022】
シリコーン組成物中の酸化アルミニウムの平均粒子径は7~50μmであることが好ましい。7μm未満では熱伝導率が向上しない問題があり、また50μmを超えると絶縁性が向上せず、混合成型機器の摩耗が大きくなる問題がある。酸化アルミニウムの平均粒子径が7~50μmの範囲内にあることに加え、酸化アルミニウムの粒度分布は、頻度粒度分布において、15~50μmの領域と1~7μmの領域とに少なくとも一つの極大ピーク(以下、15~50μmの領域に現れる極大ピークを「ピーク1」、1~7μmの領域に現れる極大ピークを「ピーク2」ともいう。)を有すること、特に0.1~0.8μmの領域に少なくとも一つの極大ピーク(以下、0.1~0.8μmの領域に現れる極大ピークを「ピーク3」ともいう。)を更に有することが好ましい。これによって、酸化アルミニウムをより高充填することが可能となり、接触点の増加により熱伝導性を更に高めることができる。また、高充填した際、同じ充填量であれば粒子同士が密に詰まるため、滑りが良くなり流動性を高く維持することができる。さらに、このような粒度分布を有するシリコーン組成物であればガラスクロスのガラス繊維束に対する含浸率が向上するため、熱伝導率および絶縁性を格段に向上させることができる。
【0023】
本明細書における平均粒子径は、粒子の平均直径のことであって、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定できる。
【0024】
シリコーン組成物中の酸化アルミニウムの含有率は62~78体積%、特に65~73%であることが好ましく、またシリコーン樹脂の含有率は22~38体積%、特に27~35体積%であることが好ましい。酸化アルミニウムの含有率が78体積%を超えるか、又はシリコーン樹脂の含有率が22体積%未満であると、組成物の粘度が上昇し成形性が損なわれることや放熱シート中にボイドが生じ絶縁性が低下する恐れがある。また、酸化アルミニウムの含有率が62体積%未満であるか、又はシリコーン樹脂の含有率が38体積%を超えると、組成物の熱伝導性を十分に高めることが困難となる。
【0025】
放熱シートのガラスクロスのガラス繊維束に対する前記シリコーン樹脂組成物の含浸率が20%以上であることが好ましくより好ましくは40%以上である。含浸率が20%未満の場合、ガラスクロス繊維束中の空気層が多くなり、熱伝導性および絶縁性が大きく低下する。
【0026】
シリコーン組成物の塗布方法は特に限定されず、均一に塗布できるドクターブレード法、コンマコーター法、スクリーン印刷法、ロールコーター法等の公知の塗布方法を採用することができるが、シリコーン組成物の厚み精度を考慮するとドクターブレード法、コンマコーター法が好ましい。
【0027】
放熱シートの厚みは特に限定されないが、0.05~1.2mm程度のものが一般的であり、熱抵抗の低減を考慮すると、1.0mm以下が好ましく、より好ましくは0.4mm以下、さらに好ましくは0.3mm以下とすることができる。また、シリコーン組成物層の一層あたりの厚みは放熱シートの機能を得られる範囲であれば特に制限されないが、例えば0.01~1.0mm程度、好ましくは0.05~0.5mm程度の厚さとすることができる。
【0028】
なお上記の記載では説明を簡単にするため、放熱シートが二個のシリコーン組成物層と一個のガラスクロス層だけを有する態様のみについて述べてきたが、当然のことながら当該放熱シートの機能を損わない限りにおいて任意の付加的な層を設けたり、層の個数を増やすこともまた可能である。例えば、シリコーン組成物層の開放表面上に付加的な層(粘着層、保護層や剥離紙など)を設けることもできる。あるいは、補強層が複数個であり、その間に付加的な層(接着剤層など)を設ける態様もまた可能である。
【0029】
また、上記の記載では便宜上ガラスクロス(補強層)とシリコーン組成物層の面の大きさが同じであるかのように説明してきたが、これもあくまで例示であって、放熱シートの機能を損わない限りにおいて、補強層とシリコーン組成物層の面の大きさが異なっていてもかまわないし、また二個のシリコーン組成物層の面の大きさが互いに異っていてもよい。また、二個のシリコーン組成物層の厚みが同一でもよいし異なっていてもよい。或る実施形態においては、シリコーン組成物層が、補強層の上に複数設けられている(シート表面に垂直な面を以って複数個に分割されている)ような態様があってもよいし、両面のシリコーン組成物層で分割のされかたが異っていてもよい。
【0030】
放熱シートを製造する方法においては、シリコーン組成物層とガラスクロス層の接合を行う。本発明に係る一実施形態では、ガラスクロス層にシリコーン組成物を両面に塗布後、加圧して接合することが好ましい。ロール形状の放熱シートを作製する場合、当該接合は例えば、ロールプレス機を用いて、大気雰囲気中にて線圧10~150N/mmの条件で行うことが好ましい。線圧が10N/mmより低い場合、シリコーン組成物とガラスクロス層の接合性が低下する問題が発生しうる。線圧が150N/mmより高い場合、シリコーン組成物およびガラスクロス層の強度が低下する問題がありうる。その後、シリコーン組成物の架橋反応で副生成するアルコールやカルボン酸および低分子シロキサン除去の為に130~250℃、5~30時間の条件で二次加熱をおこない、シリコーン組成物を熱硬化させることが好ましい。また、ロールプレスのロール表面の形状は、特に限定しないが梨地柄、絹目柄、市松柄、千鳥格子柄等が好ましい。
【0031】
枚葉形状の放熱シートを作製する場合、当該接合は例えば、ガラスクロス層にシリコーン組成物を塗布後、加熱プレス機を用いて、大気雰囲気中にて圧力700~2000N/cm2の条件で80℃~170℃の温度且つ10~60分の時間で接合することが好ましい。圧力が700N/cm2より低い場合、接合温度が80℃より低い場合、または、接合時間が10分より短い場合、シリコーン組成物とガラスクロスの接合性が低下する。一方、圧力が2000N/cm2より高い場合、接合温度が170℃より高い場合、または、接合時間が60分より長い場合、シリコーン組成物およびガラスクロス層の強度低下が生じ、生産性の低下の観点からも好ましくない。ただし、接合時の雰囲気を窒素、アルゴン、水素、真空とした場合は、この限りでない。その後、シリコーン樹脂の架橋反応で副生成するアルコールやカルボン酸および低分子シロキサン除去の為に130~250℃、5~30時間の条件で二次加熱をおこない、シリコーン樹脂を熱硬化させることが好ましい。
【実施例】
【0032】
(実施例1)
ポリオルガノシロキサンベースポリマー(東レ・ダウコーニング社製商品名「CF3110」)と架橋剤(東レ・ダウコーニング社製商品名「RC-4」)を重量比で100:1となるよう混合して、シリコーン樹脂成分を得た。得られたシリコーン樹脂成分と、熱伝導性充填材としての酸化アルミニウム粉末とを表1および表2に示す体積%を以って充填して、攪拌機で15時間混合し、酸化アルミニウム含有シリコーン組成物を調製した。
【0033】
熱伝導性充填材(酸化アルミニウム粉末)の平均球形度は、フロー式粒子像分析装置(シスメックス社製、商品名「FPIA-3000」)を用い、以下のようにして測定した。粒子像から粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)を測定した。周囲長(PM)に対応する真円の面積を(B)とすると、その粒子の球形度はA/Bとして表示できる。そこで試料粒子の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円を想定するとPM=2πr、B=πr2であるから、 B=π×(PM/2π)2 となり、個々の粒子の球形度は、A/B=A×4π/(PM)2として算出できる。これを任意に選ばれた100個以上の粒子について測定し、その平均値を2乗したものを平均球形度とした。なお測定溶液はサンプル0.1gに蒸留水20mlとプロピレングリコール10mlを加え、3分間超音波分散処理を行い調製した。
【0034】
熱伝導性充填材(酸化アルミニウム粉末)の平均粒径および粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製「SALD-200」)を用いて測定した。ガラスビーカーに50ccの純水と測定対象粉末を5g添加して、スパチュラを用いて撹拌し、その後超音波洗浄機で10分間、分散処理を行い、評価サンプル溶液を調製した。評価サンプル溶液を、スポイトを用いて装置のサンプラ部に一滴ずつ添加して、吸光度が測定可能になるまで安定するのを待って測定した。レーザー回折式粒度分布測定装置のセンサで検出した粒子による回折/散乱光の光強度分布のデータから粒度分布を計算した。平均粒子径は測定される粒子径の値に相対粒子量(差分%)を掛けて、相対粒子量の合計(100%)で割って求めた。なお比較例については、ピーク1~3のいずれかが上記した範囲から外れていた場合がある。
【0035】
上記のシリコーン組成物を表1または表2に示す補強層としてのガラスクロス(ユニチカ社製商品名「H25」)上にコンマコーターで片面に厚さ0.175mmに塗工し、75℃で5分乾燥させた後、あらためてシリコーン組成物をガラスクロスのもう片面に厚さ0.175mmにコンマコーターで塗工し、積層体を作製した。次いで、由利ロール社製のロールプレス機を用いたプレスを行い、厚さ0.20mmのシートを作製した。次いでそれを常圧、150℃で4時間の二次加熱を行い、放熱シートとした。
【0036】
(実施例2~14および比較例1~10)
表1~2に示した条件を用い、それ以外は実施例1と同様にして、放熱シートを作製した。
【0037】
(評価)
試作された実施例1~14、比較例1~10の放熱シートを下記の評価項目(1)~(5)によって行った。結果を表1~2に示す。なお、放熱シートをシート状の形態に(弛みや表面のひび割れにより)正常に製造できなかった例については、「シート作製可否」を「不可能」と記載してある。
【0038】
(1)体積抵抗率
JIS C2139:2008に記載の方法に準拠して、体積抵抗率の評価を行なった。測定装置は極超絶縁計(日置電機株式会社製商品名「SM-10E」)を用いた。
【0039】
(2)熱伝導率
熱伝導率(H;単位W/(m・K))は、放熱シートの厚み方向に対して評価を行なった。熱拡散率(A;単位m2/sec)と密度(B;単位kg/m3)、比熱容量(C;単位J/(kg・K))から、H=A×B×Cとして、算出した。熱拡散率は、測定用試料を幅10mm×長さ10mmに加工し、測定用レーザー光の反射防止の為、放熱シートの両面にカーボンブラックを塗布した後、レーザーフラッシュ法により求めた。測定装置はキセノンフラッシュアナライザ(NETZSCH社製商品名「LFA447NanoFlash」)を用いた。密度はアルキメデス法を用いて求めた。比熱容量はJIS K 7123:1987に記載の方法に準拠して求めた。
【0040】
(3)ガラス繊維束に対する前記シリコーン樹脂組成物の含浸率
このガラス繊維束に対するシリコーン樹脂組成物の含浸率は、下記式により求めることができる。
【0041】
放熱シート中のガラスクロスの断面を、アビオニクス社製のTVIP-4100で画像処理し、下記の式に基づいて含浸率を求めた。
含浸率 = S2/(S0 - S1) × 100 (%)
S0 = ガラス繊維束の断面積
S1 = ガラス繊維束内のガラスフィラメントの総断面積
S2 = ガラス繊維束におけるシリコーン組成物が含浸した断面積
【0042】
【0043】
【0044】
表1の実施例と表2の比較例から、本発明の実施例に係る放熱シートは、優れた熱伝導性と高い絶縁性を有していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の放熱シートは、高い熱伝導性と優れた電気絶縁性を有することから、急速に高性能化が進み作動温度が高まる電子部品から熱を効率よく放出させるためのTIM(Thermal Interface Material)などに使用できる。