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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】沸騰型伝熱管
(51)【国際特許分類】
   F28F 13/02 20060101AFI20221025BHJP
   F28F 1/26 20060101ALI20221025BHJP
   F28F 1/16 20060101ALI20221025BHJP
   F28F 1/10 20060101ALI20221025BHJP
   F28F 1/12 20060101ALI20221025BHJP
   F25B 39/02 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
F28F13/02 B
F28F1/26 B
F28F1/16 A
F28F1/10 A
F28F1/12 A
F28F1/12 F
F25B39/02 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020029780
(22)【出願日】2020-02-25
(65)【公開番号】P2021134952
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2021-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】504136753
【氏名又は名称】株式会社KMCT
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松野 友暢
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 宏行
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-101760(JP,A)
【文献】実開昭59-042486(JP,U)
【文献】特開平04-236097(JP,A)
【文献】米国特許第05697430(US,A)
【文献】特開2005-164126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 13/02
F28F 1/26
F28F 1/16
F28F 1/10
F28F 1/12
F25B 39/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管外周面から径方向外側に突出して周方向に沿って環状又はらせん状に配列された複数列のフィンを備え、
前記フィンは、前記管外周面に立設された脚部と、前記脚部の径方向外側の先端が互いに管軸方向の逆向きに延びる一対の張出部とをそれぞれ有し、
前記管軸方向に隣り合う前記フィン同士の間で、互いに接近するように張り出した一方の前記フィンの張出部と他方の前記フィンの張出部とによって、周方向に連続する空洞部が画成され、
前記空洞部を画成する一対の前記張出部には、張出部同士が非連結にて前記空洞部の内外を連通する隙間を有する開口部と、径方向内側に窪む凹部、及び前記凹部が形成される部位で前記空洞部を径方向内側に突出させる凸部をそれぞれ有して前記張出部同士を連結させる箇所とが、前記周方向に沿って交互に複数設けられ、
前記箇所は、前記凹部の周方向位置における前記管軸方向の断面の断面積が他の周方向位置における前記断面積より小さい狭小部であり、
前記空洞部は、前記狭小部によって前記周方向に沿って複数の小区画に区切られている、
沸騰型伝熱管。
【請求項2】
前記空洞部の前記断面積は、前記狭小部の領域で前記周方向に沿って連続的に増減する、
請求項1に記載の沸騰型伝熱管。
【請求項3】
前記凹部は、平面視細長状に形成され、その長軸方向が前記管軸方向と平行又は垂直である請求項に記載の沸騰型伝熱管。
【請求項4】
前記凹部は、平面視細長状に形成され、その長軸方向が前記管軸方向から傾斜している請求項に記載の沸騰型伝熱管。
【請求項5】
前記空洞部を画成する一対の前記張出部は、前記凹部の形成位置における前記管軸方向断面で閉空間を形成する請求項1~のいずれか1項に記載の沸騰型伝熱管。
【請求項6】
前記凹部は、前記周方向に一定間隔で配置されている請求項1~のいずれか1項に記載の沸騰型伝熱管。
【請求項7】
管内周面から径方向内側に突出して形成され、前記周方向に沿って環状又はらせん状に配列された複数列のリブを備える請求項1~のいずれか1項に記載の沸騰型伝熱管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管外で冷媒を沸騰させる熱交換器に用いる沸騰型伝熱管に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰型伝熱管は、熱交換器である例えばターボ冷凍機及びスクリュー冷凍機等の蒸気圧縮式冷凍機の蒸発器に組み込まれ、液体冷媒(例えば、フロン、液体窒素等)中に浸漬され、この液体冷媒を加熱沸騰させるために使用される。この種の沸騰型伝熱管としては、種々の伝熱面形状が提案されており、例えば、特許文献1のように、空洞内の液体冷媒の沸騰を促進すると共に、管外表面での液体冷媒及び気化した媒体の乱流化を促進させて伝熱性能の向上を図ったものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-236097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年の冷凍機においては、CO排出量削減などの環境問題を受けて、機器をきめ細かに制御してエネルギー効率を高められるインバータ制御が幅広く導入されるようになった。しかし、インバータ制御を行う場合でも、冷凍機の低負荷時では、蒸発器の液体冷媒を加熱沸騰させる際、伝熱管から液体冷媒への熱伝達率が著しく低下する傾向がある。これは、熱駆動力が小さくなると気泡発生力が低下することに起因している。そのため、冷凍機の低負荷時、つまり、低熱流束域での使用においては、上記した熱伝達率の低下を補うために負荷を増加させる必要が生じ、高効率に熱交換することが困難であった。
【0005】
そこで本発明は、熱交換器が低負荷で運転される場合であっても、伝熱管から液体冷媒への熱伝達率を高く維持することにより、全運転領域で高効率な熱伝達が可能となる沸騰型伝熱管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態によれば、以下の構成が提供される。
管外周面から径方向外側に突出して周方向に沿って環状又はらせん状に配列された複数列のフィンを備え、
前記フィンは、前記管外周面に立設された脚部と、前記脚部の径方向外側の先端が互いに管軸方向の逆向きに延びる一対の張出部とをそれぞれ有し、
管軸方向に隣り合う前記フィン同士の間で、互いに接近するように張り出した一方の前記フィンの張出部と他方の前記フィンの張出部とによって、周方向に連続する空洞部が画成され、
前記空洞部を画成する一対の前記張出部には、径方向内側に窪んで前記張出部同士を連結させる凹部が、周方向に沿った複数箇所に設けられている沸騰型伝熱管。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、伝熱管から液体冷媒への熱伝達係数を高く維持することにより、全運転領域で高効率な熱伝達が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る沸騰型伝熱管の一部断面斜視図である。
図2】第1構成例の沸騰型伝熱管の外周面における一部拡大平面図である。
図3図2のIII-III線断面を示す断面図である。
図4】隣り合うフィンの拡大断面図を示す。
図5】液体冷媒内に配置された沸騰型伝熱管の管軸方向に直交する断面図である。
図6】管外周面で液体冷媒が加熱されて蒸発泡が発生する様子を示す説明図である。
図7】液体冷媒が空洞部の周方向に沿って流れる様子を模式的に示す説明図である。
図8】第2構成例の沸騰型伝熱管の外周面における一部拡大平面図である。
図9】沸騰型伝熱管の伝熱性能の評価に使用した試験装置の概略図である。
図10】試験例1と試験例6における熱流束と総括伝熱係数との関係を示すグラフである。
図11】試験例1と試験例6における熱流束と管外蒸発熱伝達率との関係を示すグラフである。
図12】試験例2と試験例6における熱流束と総括伝熱係数との関係を示すグラフである。
図13】試験例2と試験例6における熱流束と管外蒸発熱伝達率との関係を示すグラフである。
図14】試験例3,4,5と試験例6における熱流束と総括伝熱係数との関係を示すグラフである。
図15】試験例3,4,5と試験例6における熱流束と管外蒸発熱伝達率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
<第1構成例>
図1は本発明に係る沸騰型伝熱管の一部断面斜視図、図2は沸騰型伝熱管の外周面における一部拡大平面図、図3図2のIII-III線断面を示す断面図である。
沸騰型伝熱管100は、一方向に連続する金属製の管材であって、管外周面に周方向に沿った複数列のフィン11と、管内周面に複数列のリブ13とを備える。また、沸騰型伝熱管100は、管内周面のリブ13を省略して平滑な円筒内面としてもよい。
【0010】
ここで、本明細書においては、沸騰型伝熱管100の管軸方向をAx方向、周方向をT方向としても表す。
【0011】
図1図2に示すように、フィン11は、管外周面15から径方向外側に突出して形成され、周方向Tに沿って環状又はらせん状になって管外周面15に配列される。フィン11の列は、らせん状である場合、1条であってもよく複数条であってもよい。
【0012】
図3に示すように、フィン11は、脚部11aと、一対の張出部11b,11cとを有する。脚部11aは、管外周面15に立設され、一対の張出部11b,11cは、脚部11aの径方向外側の先端が二股に分かれて、互いに管軸方向Axの逆向きに延びて形成される。管軸方向Axに隣り合うフィン11A,11B同士の間では、互いに接近するように張り出した一方のフィン11Aの張出部11bと他方のフィン11Bの張出部11cとが、周方向Tに連続する空洞部17を画成する。一方、フィン11Aの張出部11bの先端と、フィン11Cの張出部11cの先端との間には、隙間が形成されている。つまり、複数のフィン11により、空洞部17を画成する位置と画成しない位置とが混在することとなる。
【0013】
図4に隣り合うフィン11A,11Bの拡大断面図を示す。
空洞部17の周方向Tに沿った少なくとも一部には、空洞部17を画成する一対の張出部11b,11c同士が径方向内側に窪む凹部19が設けられる。凹部19は、例えば、ディスク27を押し当てて張出部11b,11cを径方向内側に変形させることで形成される。これにより、張出部11b,11c同士が連結して空洞部17としての閉空間を形成する。凹部19の最低高さH1は、フィン11の高さH2より小さくなる。このような凹部19が、周方向に沿って複数箇所に分断して配置される(図2参照)。なお、フィン11の脚部11a、張出部11b,11cの形成方法の詳細については、例えば、特開平7-151485号公報等を参照されたい。
【0014】
空洞部17の凹部19が形成される部位は、一対の張出部11b,11cが空洞部17内で径方向内側に突出する凸部31を形成することが好ましい。張出部11b,11cが径方向内側に窪むことにより、周方向に連続する空洞部17の管軸方向の断面形状は、凹部19の周方向位置での断面積が他の周方向位置での断面積よりも小さくなる。
【0015】
凹部19は、周方向に一定間隔で配置されることが好ましいが、これに限らず、特定の周期性を有して配置されてもよく、ランダムに配置されてもよい。図2に示す凹部19は、平面視で細長状に形成され、その長軸方向が管軸方向Axと平行であるが、長軸方向を管軸方向Axに垂直として形成してもよい。
【0016】
以降の説明では、空洞部17のうち、凹部19が形成された部分を、凹部19が形成されない部分と区別して「狭小部」ともいう。図3の例の場合、フィン11Aとフィン11Bとにより凹部19が形成された位置が狭小部であり、それ以外のフィン11間は狭小部ではない部分となる。
【0017】
(作用)
図5は、液体冷媒内に配置された沸騰型伝熱管100の管軸方向に直交する断面図である。
上記構成の沸騰型伝熱管100を、蒸発器中の液体冷媒21内に、管軸方向を水平にして配置し、沸騰型伝熱管100内に加熱水23を供給する。すると、液体冷媒21が加熱されて、沸騰型伝熱管100の管外周面15で蒸発泡25が発生する。発生した蒸発泡25は、図5に矢印で示すように、管外周面15の下側から上側に向けて周面に沿って移動して、沸騰型伝熱管100の上側から液体冷媒21の液面に向かう。また、一部の蒸発泡25は、図3に示すフィン11の張出部11b,11c同士の隙間から液面に向かう。
【0018】
図6は、管外周面15で液体冷媒21が加熱されて蒸発泡25が発生する様子を示す説明図である。
空洞部17の内部は、液体冷媒21が流入し、液体冷媒21で満たされている。沸騰型伝熱管100の管内に加熱用の加熱水23が供給されると、フィン11A,11Bは空洞部17内の液体冷媒21を加熱する。このとき、空洞部17に面するフィン11A,11Bの内側面33に沿って液体冷媒21の加熱層21aが形成される。
【0019】
また、加熱により発生した液体冷媒21の蒸発泡25がフィン11A,11Bの内側面33を通過する際、その内側面33は液体冷媒21と接しない状態になり、内側面33を介して液体冷媒21に熱伝達されにくくなる。そのため、理想的には、フィン11A,11Bの内側面33を常に液体冷媒21で覆って加熱層21aを生成し、加熱層21aの内側で、蒸発泡25を周方向Tに沿って流動させる形態にするのがよい。
【0020】
この形態によれば、加熱層21aの液体冷媒21が蒸発泡25の流動に追従するように周方向へ徐々に移動して、内側面33には絶えず新液(新たな液体冷媒21)が連続供給される。その結果、内側面33における熱交換効率が向上する。
【0021】
そして、空洞部17の凹部19が形成された狭小部において、張出部11b,11cは、前述したように径方向内側に窪むことで、径方向内側に向けて突出する凸部31を形成する。凸部31は、空洞部17を流れる液体冷媒21を攪拌して(図6の矢印M)、加熱層21aにおける液体冷媒21の流れを乱流にさせる。これにより、加熱層21aの新液交代が促進され、熱交換効率を更に向上させることができる。
【0022】
また、凸部31は、空洞部17の径方向外側の内面に形成されている。そのため、凸部31は、図5に示すような沸騰型伝熱管100の管外周面15に沿って移動する蒸発泡25の流れを妨げることがない。よって、フィン根元部における液体冷媒21の流動抵抗が小さくなり、沸騰型伝熱管100の下方から上方へ流れる蒸発泡25と液体冷媒21との気液2層流を阻害することなく、空洞部17の周方向全体に液体冷媒21を供給できる。また、沸騰型伝熱管100の上方の空洞部17では、蒸発泡25の浮力により気液分離されて、液体冷媒21の供給が促進される。
【0023】
図7は、液体冷媒が空洞部17の周方向に沿って流れる様子を模式的に示す説明図である。
図7に示すように、空洞部17は、管軸方向の断面形状が周方向に沿って変化し、凹部19が形成された狭小部では、他の周方向位置よりも空洞部17の断面積が小さくなる。よって、空洞部17を流動する液体冷媒21の流れFの流路は、狭小部で窄まり、狭小部では流動抵抗の増加によって流速が低下(流速V2<V1)する。このため、狭小部の流動方向手前側の空洞部17内では、加熱層21aの液体冷媒21が、そのままの位置で加熱され続ける。その結果、空洞部17の内側面33から液体冷媒21への単位時間当たりの伝熱量が小さい場合でも、加熱層21aの液体冷媒21への入熱が蓄積されることで、蒸発泡を発生させやすくなる。
【0024】
つまり、空洞部17の周方向に沿って複数の狭小部が配置されることで、空洞部17には各狭小部で区切られた複数の小区画35が形成される。その小区画35のそれぞれで液体冷媒21の周方向移動が抑制されて、各小区画35内の液体冷媒21の加熱が促進される。このように、空洞部17の周方向に沿った複数箇所で局所的に液体冷媒21が加熱されることで、蒸発泡を効率よく発生させることができる。
【0025】
本構成の沸騰型伝熱管100によれば、前述した凸部31による液体冷媒21の攪拌効果と、小区画35による局所的な加熱効果によって、相乗的に蒸発泡の発生が促進される。これにより、低熱流束条件下においても高効率で蒸発泡を発生させることができる。
【0026】
<第2構成例>
図8は、第2構成例の沸騰型伝熱管の外周面における一部拡大平面図である。
第2構成例の沸騰型伝熱管100は、凹部19Aが平面視細長状に形成され、その長軸方向が管軸方向Axから傾斜していること以外は第1構成例と同様である。そのため、以降の説明においては同一の部材又は同一の部位については同一の符号を付与することで、その説明を簡単化又は省略する。
【0027】
空洞部17に形成された凹部19Aは、その長軸が管軸方向Axから傾斜することで、狭小部が周方向Tから傾斜して形成される。このため、空洞部17の管軸方向断面の断面積は、狭小部の領域で周方向に沿って連続的又は断続的に変化する。理想的には、空洞部17の断面積は、周方向に沿って緩やかに縮小した後、緩やかに拡大する。言い換えると、空洞部17の断面積は、周方向に沿って増減する。このような傾斜した狭小部によれば、液体冷媒21が通過する際の流動抵抗が第1構成例の場合よりも低下して、液体冷媒21の攪拌効果が高められる。
【0028】
凹部19Aの長軸と管軸方向Axとの傾斜角度は、10°~80°、好ましくは20°~60°、さらに好ましくは25°~40°であり、フィンのサイズや液体冷媒21の種類等によって最適な角度に適宜変更できる。
【0029】
沸騰型伝熱管100は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、及びステンレス鋼材、チタン、チタン合金等の熱伝導性を有する金属材料で製造され、特に、銅又は銅合金のような熱伝導率が高い材料であると、なお好適である。
【実施例
【0030】
次に、上記した各構成の沸騰型伝熱管を用いて、その伝熱性能を評価した結果について説明する。
図9は、沸騰型伝熱管の伝熱性能の評価に使用した試験装置の概略図である。
試験装置は、ステンレス鋼製シェルアンドチューブ熱交換器の凝縮器53及び蒸発器55が配管で接続されており、冷媒が温度差により自然循環するサーモサイフォン型の熱交換器である。凝縮器53及び蒸発器55は、内径が333mm、長さが974mmのタンクである。蒸発器55の中央に、供試管54が3本設置されており、この供試管54の測定有効長は974mmである。タンク56内には加熱水が貯留されている。ここで、タンク56内の加熱水は、タンク56内の冷却コイル59により冷却されている。このタンク56から供給された加熱水は、ヒータ57にて加熱される。ヒータ57により加熱されることにより、供試管54に供給される加熱水は一定温度に制御される。この加熱水は供試管54の一方の端部である入口から供試管内部に供給される。供試管54の他端の出口から排出された加熱水は、タンク56に返戻される。蒸発器55内には液体冷媒が充填されており、供試管54はこの蒸発器55内の液体冷媒中に浸漬される。そして、供試管54内部の加熱水により加熱された液体冷媒は蒸発し、冷媒蒸気となって、凝縮器53に供給される。
【0031】
凝縮器53においては、管端部をOリングで固定した伝熱管52(有効長974mm)が水平に設置され、冷媒蒸気入口には、蒸発器55から供給される冷媒蒸気が直接伝熱管52に当たらないように、邪魔板が設置されている。伝熱管52内には、タンク51から供給されたブライン液を流し、伝熱管52の外表面で冷媒蒸気を凝縮させる。この凝縮した液体冷媒は、重力で蒸発器55に戻る。
【0032】
蒸発圧力は、蒸発器55上部に設けた圧力取出し口より、半導体ひずみゲージ式圧力伝送器(測定誤差:設定スパンの±0.05%)を使用して測定する。加熱水の出入口温度は、白金測温抵抗体(Pt100Ω、JIS-A級)を、予めクオーツ温度計にて±0.05°Cに校正したものを供試管54の両管端に取り付けた混合器に挿入して混合平均温度を測定する。加熱水流量は電磁流量計(測定誤差:読み値の1.5%)で測定する。試験条件を、下記表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
熱伝達率は以下の各数式により算出した。先ず、加熱水伝熱量Qは、数式1により求めた。
【0035】
【数1】
【0036】
ここで、Gは加熱水体積流量、ρは加熱水密度、cpcは加熱水定圧比熱、TCoutは加熱水出口温度、TCinは加熱水入口温度である。なお、加熱水の物性値は、物性値表より作成した相関式を用いて、加熱水出入口温度測定値の算術平均値により算出した値を使用した。対数平均温度差ΔTは、下記数式2で定義される。
【0037】
【数2】
【0038】
ここで、Tは冷媒飽和温度である。この冷媒飽和温度Tは、蒸発圧力の測定値と冷媒物性値より算出した。
【0039】
そして、供試管フィン加工部の外表面積A基準の熱伝達率である総括伝熱係数Kを、下記数式3により求めた。
【0040】
【数3】
【0041】
ここで、供試管フィン加工部の外表面積Aは、下記数式4に示すように、供試管フィン加工部外径Dより算出した包絡面を基準とした。
【0042】
【数4】
【0043】
ここで、lは供試管伝熱有効長である。また、外表面積基準の熱流束qは、供試管フィン加工部の外表面積Aを基準として、下記数式5により求めた。
【0044】
【数5】
【0045】
管外蒸発熱伝達率hは、下記数式6にて求めた。
【0046】
【数6】
【0047】
ここで、hは管内側熱伝達率、Aは供試管フィン加工部の内表面積、Rwallは管壁熱抵抗であり、これらは以下のように求める。
【0048】
供試管フィン加工部の内表面積Aは、下記数式7にて定義される。
【0049】
【数7】
【0050】
ここで、Dimaxは供試管フィン加工部最大内径である。また、管壁熱抵抗Rwallは、下記数式8にて定義して求める。
【0051】
【数8】
【0052】
ここで、kwallは管壁の熱伝導率である。更に、管内側熱伝達率h及び管内側ヌッセルト数Nuは、関数形がディタス・ベルター(Dittus-Boelter)の式で表されると仮定し、下記数式9にて定義して求める。
【0053】
【数9】
【0054】
ここで、Cは実験的に求められる係数、kCHは加熱水の熱伝導率、PrCHは加熱水のプラントル数である。また、加熱水のレイノルズ数ReCHは、下記数式10にて定義して求めた。
【0055】
【数10】
【0056】
ここで、VCiは加熱水平均流速、νは加熱水の動粘性係数である。なお、管内側熱伝達率hを求めるためのC値は、事前にウィルソンプロット(Wilson-plot)法を使用して予め試験して求めた。
【0057】
表2、表3は、作製した試験例1~6の供試管の寸法およびC値を示す。
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
各供試管には、管外周面に前述したフィンと凹部を設け、管内周面に表3に示すリブを設けてある。試験例1,2は、特に凹部の形状を異ならせている。試験例1は、図8に示す平行四辺形の凹部を有する第2構成例の伝熱管であり、試験例2は、図2に示す長方形の凹部を有する第1構成例の伝熱管である。試験例3~5は、平面視で長方形の凹部19の周方向長さを変化させている。試験例3では、凹部の長軸は管軸方向、試験例4,5では長軸が周方向であり、試験例5が最も凹部の周方向長さが大きくなるようにした。つまり、凹部の周方向長さは、試験例3、試験例4、試験例5の順に大きくなっている。ただし、試験例3~5は、周長に対する凹部の存在比率が等しくなるように、周方向の配置ピッチを調整している。
【0061】
試験例6は、本形態に係る構成を備えない供試管の試験例を示し、試験例1~5との比較対象として用いる。ここでは、試験例6の試験条件として、特開2017-20736号公報を用いるものとする。
【0062】
上記した試験例1~6の供試管について、管内周面の径方向内側から管外周面の径方向外側への伝熱性能を示す総括伝熱係数Kと、管内周面から径方向外側への伝熱性能を示す管外蒸発熱伝達率hとを求めた。その結果を図10図15に示す。
【0063】
図10は、試験例1と試験例6における熱流束qと総括伝熱係数Kとの関係を示すグラフである。図11は、試験例1と試験例6における熱流束qと管外蒸発熱伝達率hとの関係を示すグラフである。
【0064】
図10に示すように、熱流束の全域にわたり、試験例1の統括伝熱係数は試験例6の総括伝熱係数よりも大きくなった。特に低熱流束域(例えば20kW/m以下)においては、試験例6では熱流束の低下に伴って総括伝熱係数の減少度合いが大きくなるが、試験例1では熱流束が5kW/mであっても総括伝熱係数が8.5kW/(mK)以上に維持され、低熱流束時における総括伝熱係数の低下が抑制された。
【0065】
また、図11に示すように、管外蒸発熱伝達率hについても、全体的に試験例1が試験例6よりも大きく、低熱流束時における管外蒸発熱伝達率hの低下は、試験例6よりも試験例1が大きく改善された。
【0066】
図12は、試験例2と試験例6における熱流束qと総括伝熱係数Kとの関係を示すグラフである。図13は、試験例2と試験例6における熱流束qと管外蒸発熱伝達率hとの関係を示すグラフである。
【0067】
図12に示すように、熱流束の全域にわたり、試験例2の統括伝熱係数は試験例6の総括伝熱係数よりも大きくなった。特に低熱流束域(例えば20kW/m以下)においては、試験例6では熱流束の低下に伴って総括伝熱係数の減少度合いが大きくなるが、試験例2では熱流束が5kW/mであっても総括伝熱係数が8.5kW/(mK)以上に維持され、低熱流束時における総括伝熱係数の低下が抑制された。
【0068】
また、図13に示すように、管外蒸発熱伝達率hについても、全体的に試験例2が試験例6よりも大きく、低熱流束時における管外蒸発熱伝達率hの低下は、試験例6よりも試験例2が大きく改善された。
【0069】
図14は、試験例3,4,5と試験例6における熱流束qと総括伝熱係数Kとの関係を示すグラフである。図15は、試験例3,4,5と試験例6における熱流束qと管外蒸発熱伝達率hとの関係を示すグラフである。
【0070】
図14に示すように、総括伝熱係数Kは、試験例3,4,5共に試験例6よりも大きく、低熱流束時における減少も抑えられている。
図15に示すように、管外蒸発熱伝達率hは、熱流束が30kW/m以上の場合に試験例5が試験例6より低くなるが、その場合でも20kW/(mK)以上に維持されている。また、試験例3,4,5は、低熱流束時における減少も抑えられている。
【0071】
以上より、試験例1~5の総括伝熱係数Kと管外蒸発熱伝達率hは、試験例6の熱流束が30kW/mの場合と略同等か、それ以上の値を維持され、低熱流束時においても、総括伝熱係数Kと管外蒸発熱伝達率hの低下を抑制できる。そのため、本発明の沸騰型伝熱管を用いた熱交換器が低負荷で運転される場合であっても、伝熱管から液体冷媒への熱伝達率を高く維持することにより、全運転領域で高効率な熱伝達が可能となる。
【0072】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0073】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 管外周面から径方向外側に突出して周方向に沿って環状又はらせん状に配列された複数列のフィンを備え、
前記フィンは、前記管外周面に立設された脚部と、前記脚部の径方向外側の先端が互いに管軸方向の逆向きに延びる一対の張出部とをそれぞれ有し、
管軸方向に隣り合う前記フィン同士の間で、互いに接近するように張り出した一方の前記フィンの張出部と他方の前記フィンの張出部とによって、周方向に連続する空洞部が画成され、
前記空洞部を画成する一対の前記張出部には、径方向内側に窪んで前記張出部同士を連結させる凹部が、周方向に沿った複数箇所に設けられている沸騰型伝熱管。
この沸騰型伝熱管によれば、一対の張出部によって画成される空洞部に、径方向内側に窪んで張出部同士を連結させる凹部が、周方向に沿った複数箇所に狭小部を形成して配置される。そして、空洞部の各狭小部で区切られた小区画のそれぞれで、液体冷媒の周方向移動が抑制されることで、各小区画内の液体冷媒の加熱が促進される。このように、空洞部内の周方向に沿った複数箇所で局所的に液体冷媒が加熱され、蒸発泡が効率よく発生するようになる。
【0074】
(2) 前記空洞部を画成する一対の前記張出部は、前記空洞部を径方向内側に突出させる凸部を形成する(1)に記載の沸騰型伝熱管。
この沸騰型伝熱管によれば、凸部が空洞部を流れる液体冷媒を攪拌して、液体冷媒の流れを乱流にできる。これにより、空洞部内の液体冷媒の新液交代を促進させて、熱交換効率を更に向上させることができる。
【0075】
(3) 前記凹部は、平面視細長状に形成され、その長軸方向が管軸方向と平行又は垂直である(1)又は(2)に記載の沸騰型伝熱管。
この沸騰型伝熱管によれば、空洞部を流れる液体冷媒の流速を効率よく低下させ、凹部により形成される狭小部同士の間で、液体冷媒の加熱を促進できる。
【0076】
(4) 前記凹部は、平面視細長状に形成され、その長軸方向が管軸方向から傾斜している(1)又は(2)に記載の沸騰型伝熱管。
この沸騰型伝熱管によれば、空洞部を流れる液体冷媒の凹部における流動抵抗を低減させ、凹部により形成される狭小部同士の間での液体冷媒の加熱と、空洞部内での液体冷媒の流動とを良好にバランスさせることができる。
【0077】
(5) 前記空洞部を画成する一対の前記張出部は、前記凹部の形成位置における管軸方向断面で閉空間を形成する(1)~(4)のいずれか1つに記載の沸騰型伝熱管。
この沸騰型伝熱管によれば、閉空間が形成されることで管軸方向断面の断面積が凹部の形成位置で他の周位置よりも小さくなり、液体冷媒の流れが窄められる。これにより、液体冷媒の流れが抑制されて同じ位置で加熱されやすくなり、蒸発泡の発生が促進される。
【0078】
(6) 前記凹部は、周方向に一定間隔で配置されている(1)~(5)のいずれか1つに記載の沸騰型伝熱管。
この沸騰型伝熱管によれば、凹部により形成される狭小部同士の間の小区画が、それぞれ周方向に均一となり、同じ条件で液体冷媒が加熱される。これにより、液体冷媒が周方向に均一に加熱されて、ムラの少ない熱交換が行える。
【0079】
(7) 管内周面から径方向内側に突出して形成され、周方向に沿って環状又はらせん状に配列された複数列のリブを備える(1)~(6)のいずれか1つに記載の沸騰型伝熱管。
この沸騰型伝熱管によれば、管内周面にリブが設けられることで、管内を流れる液との接触面積が増加して、伝熱効率を向上できる。
【0080】
(8) 管外周面から径方向外側に突出して周方向に沿って環状又はらせん状に配列された複数列のフィンを備え、
前記フィンは、前記管外周面に立設された脚部と、前記脚部の径方向外側の先端が互いに管軸方向の逆向きに延びる一対の張出部とをそれぞれ有し、
管軸方向に隣り合う前記フィン同士の間で、互いに接近するように張り出した一方の前記フィンの張出部と他方の前記フィンの張出部とによって、周方向に連続する空洞部が画成され、
前記空洞部は、周方向において断面積が増減するように画成される沸騰型伝熱管。
この沸騰型伝熱管によれば、一対の張出部によって画成される空洞部は、周方向において連続し、かつ、周方向における断面積が増減するように画成される。そして、周方向における断面積が増減することにより、空洞部は狭小部とそれ以外の部分にて構成され、各狭小部で区切られた小区画のそれぞれで、液体冷媒の周方向移動が抑制されることで、各小区画内の液体冷媒の加熱が促進される。このように、空洞部内の周方向に沿った複数箇所で局所的に液体冷媒が加熱され、蒸発泡が効率よく発生するようになる。
【符号の説明】
【0081】
11,11A,11B フィン
11a 脚部
11b,11c 張出部
13 リブ
15 管外周面
17 空洞部
19,19A 凹部
21 液体冷媒
23 加熱水
25 蒸発泡
31 凸部
33 内側面
35 小区画
52 伝熱管
53 凝縮器
54 供試管
55 蒸発器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15