(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】アゾ化合物の合成方法
(51)【国際特許分類】
C07C 245/04 20060101AFI20221025BHJP
B01J 27/19 20060101ALI20221025BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221025BHJP
【FI】
C07C245/04
B01J27/19 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020549690
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 FR2019050565
(87)【国際公開番号】W WO2019175510
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-11-13
(32)【優先日】2018-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サージュ,ジャン-マルク
(72)【発明者】
【氏名】ボスートロ,ジャン-ミシェル
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-516034(JP,A)
【文献】特開2015-013858(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03098228(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01J
C07B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アゾ化合物を合成する方法であって、前記方法は、
a)酸化剤を、ヒドラゾ化合物、少なくとも1つの触媒及び少なくとも1つの式(I):
(R
1)(R
2)C(PO
3(R
3)
2)
2 (I)
[式中、
R
1及びR
2は、同一又は異なっていてもよく、水素原子、飽和又は不飽和の、直鎖、分岐又は環状の、任意に置換された炭化水素鎖、-OH及び-O-アルキルから互いに独立して選択され、ここで、前記アルキルは、1~6個の炭素原子を含む、飽和の、任意に置換された、直鎖又は分岐炭化水素鎖を表し、
R
3は水素原子及び金属又はアンモニウムイオンから選択される。]
の化合物と反応させてアゾ化合物を含む溶液を形成する工程、
b)工程a)で得られた反応混合物の全部又は一部を回収する工程、
c)回収された前記反応混合物を、前記アゾ化合物を含有する画分と残留水性液の画分とに分離する工程、及び
d)得られた前記アゾ化合物を回収し、任意に洗浄及び乾燥する工程を含む、方法。
【請求項2】
式(I)の化合物が、[1-ヒドロキシ-1-(1H-イミダゾール-1-イル)エタン-1,1-ジイル]ジホスホン酸又はその塩の1つ、ヒドロキシメチレンジホスホン酸、1-ヒドロキシルエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)及び1-ヒドロキシブタンジホスホン酸から、それらの酸の形態又はそれらの塩の形態で選択され
る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式(I)の化合物が、1-ヒドロキシルエチリデン-1,1-ジホスホン酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ヒドラゾ化合物が、窒素ベースの官能基
を有する対称ヒドラゾ化合物
から選択され
る、請求項1
~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ヒドラゾ化合物が、2,2’-ヒドラゾ-ビス-イソブチロニトリル、2,2’-ヒドラゾ-ビス-メチルブチロニトリル、1,1’-ヒドラゾ-ビス-シクロヘキサンカルボニトリル及び2,2’-ヒドラゾジカルボンアミドから選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
酸化剤が、無機過酸化物誘導体
から選択され
る、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
酸化剤が、過酸化水素、過硫酸カリウム又は過硫酸ナトリウム、モノ過硫酸水素カリウム又はナトリウム、二酸素、過酢酸の誘導体から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
触媒が、元素の周期表の第5及び6列
から選択される触媒金属に基づく塩及び酸から選択される水溶性化合物を含む、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
水溶性化合物が、モリブデンのアルカリ金属又はアンモニウム塩、タングステンのアルカリ金属又はアンモニウム塩、リンモリブデン酸及びそのアルカリ金属又はアンモニウム塩、リンタングステン酸及びそのアルカリ金属又はアンモニウム塩、モリブドサルフェート及びそれらの混合物
から選択される、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの還元剤が、工程a)で得られた水溶液に添加される、請求項1~
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つの還元剤が、残留水性液の画分に添加される、請求項1~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
還元剤が、ヒドラジン、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム及びそれらの混合物から選択される、請求項
10又は請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
触媒のための錯化剤としての
、アゾ化合物を合成するための方法における、請求項1で定義された式(I)の化合物の使用。
【請求項14】
式(I)の化合物が、[1-ヒドロキシ-1-(1H-イミダゾール-1-イル)エタン-1,1-ジイル]ジホスホン酸又はその塩の1つ、ヒドロキシメチレンジホスホン酸、1-ヒドロキシルエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)及び1-ヒドロキシブタンジホスホン酸から、それらの酸の形態又はそれらの塩の形態で選択され
る、請求項
13に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドラゾ化合物の酸化により、アゾビスイソブチロニトリル(AZDN又はAIBN)などのアゾ化合物を合成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
AZDNは、ラジカル重合方法で、特に開始剤又は触媒として一般的に使用されるアゾ化合物である。それはまたPVCフォーム又はシリコーンシールの製造のための発泡剤として知られている。
【0003】
アゾ化合物は、従来、ヒドラゾ化合物の塩素による酸化によって製造されている(WO2006/067315)。この方法はまた、ヒドラゾアミドなどの他のアゾ化合物にも適用されている(GB976552)。しかしながら、この合成方法は、塩素の本質的な危険性に加えて、副生成物として塩酸を生成するという大きな欠点を有し、その結果、排出物は容易にリサイクルできない。したがって、このことから、塩素方法が現在の環境制約に適していないことが明らかである。
【0004】
この欠点を克服するために、過酸化水素などの塩素を含まない酸化剤を使用してアゾ化合物を合成するための方法が提案されている(EP2821393)。反応が十分に完了し迅速であるために、この方法は、活性化剤、一般的には臭化物などの臭素化合物、又は酸性媒体中で使用されるヨウ素の誘導体の存在を必要とする。過酸化水素の反応性、したがって反応の収率は、臭素又はヨウ素化合物に加えて金属触媒、特にモリブデン又はタングステンに基づく触媒の使用により一般に改善され(CS232350及びA.PALOMO et al.,「Afinidad」,(1985),42(397),312-314参照)、これらは、例えばテルル、バナジウム又はセレンよりも毒性が少ないという利点を有する。
【0005】
しかしながら、塩素方法に比べてその否定できない利点にも関わらず、過酸化水素方法はまた、環境に有害である可能性のある排出物、特にAZDNを分離するための反応媒体の濾過から生じる残留水性液(水性母液とも呼ばれる)を生成する。これらの残留水性液は、実際にはかなりの量の使用済みの触媒及び活性化剤を含んでいる。したがって、環境への配慮だけでなく、方法の経済性の向上のためにも、おそらく濃縮後に、これらの残留水性液を反応にリサイクルすることが推奨されている(例えばCS239407及びCS237123を参照)。
【0006】
さらに、この合成方法はアンモニウムイオンの形成にもつながる。しかしながら、これらのアンモニウムイオンの存在下では、触媒は、形成されるアゾ化合物を汚染し、その結果、このアゾ化合物の純度を低下させる黄色の堆積物の形態で沈殿する傾向がある。
【0007】
さらに、触媒の沈殿は、残留水性液の不安定性も引き起こし、したがってそれらのリサイクルを制限する。また、出願EP2821393は、ヒドラジンなどの還元剤を反応媒体に添加することにより、残留水性液の安定性を改善することができる方法を提案している。しかしながら、この適用は、特に残留水性液がリサイクルされる前に濃縮される場合、触媒の安定性の問題を完全には解決しない。実際、いくつかのリサイクル操作の後、アンモニウムイオンが媒体に導入されていなくても、アンモニウムイオンを含む種の沈殿が観察される。方法中に蓄積され、使用されるアゾ誘導体のニトリル官能基の分解から生じるこれらのアンモニウムイオンは、触媒の沈殿を誘発する。
【0008】
したがって、特に触媒が沈殿せず、それにより、残留触媒の含有量が大幅に低減されるアゾ化合物の合成がもたらされ、残留水性液のより良好な安定性につながる、アゾ化合物の合成方法を見出す必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2006/067315号
【文献】英国特許第976552号明細書
【文献】欧州特許第2821393号明細書
【文献】チェコスロバキア国特許発明第232350号明細書
【文献】チェコスロバキア国特許発明第239407号明細書
【文献】チェコスロバキア国特許発明第237123号明細書
【非特許文献】
【0010】
【文献】A.PALOMO et al.,「Afinidad」,(1985),42(397),312-314
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明は、以下の説明で記載される特定の錯化剤の添加により、触媒の沈殿の問題を解決することを提案する。他の目的もまた、本発明の説明において明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の目的によれば、本発明は、アゾ化合物を合成する方法に関し、この方法は、
a)酸化剤を、ヒドラゾ化合物、少なくとも1つの触媒及び少なくとも1つの式(I):
(R1)(R2)C(PO3(R3)2)2 (I)
[式中、
R1及びR2は、同一又は異なっていてもよく、水素原子、飽和又は不飽和の、直鎖、分岐又は環状の、任意に置換された炭化水素鎖、-OH及び-O-アルキルから互いに独立して選択され、ここで、「アルキル」は、1~6個の炭素原子を含む、飽和の、任意に置換された、直鎖又は分岐炭化水素鎖を表し、
R3は水素原子及び金属又はアンモニウムイオンから選択される。]
の化合物と反応させてアゾ化合物を含む溶液を形成する工程、
b)工程a)で得られた反応混合物の全部又は一部を回収する工程、
c)回収された反応混合物を、アゾ化合物を含有する画分と残留水性液の画分とに分離する工程、及び
d)得られたアゾ化合物を回収し、任意に洗浄及び乾燥する工程を含む。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上記の方法において、式(I)の化合物は、触媒の錯化剤として作用し、特許出願の残りの部分では「錯化剤」という用語で示される。
【0014】
「任意に置換された」とは、炭化水素鎖及びアルキル基が、-OH、ハロゲン及びN(R4)(R5)によって置換されてもよく、R4及びR5は、同一又は異なっていてもよく、水素原子、1~6個の炭素原子を含む直鎖又は分岐のアルキル基から互いに独立して選択され、又はR4及びR5は、それらが結合している窒素原子と一緒に、4-、5-、6-又は7-員環、好ましくは5-又は6-員環を形成できることを意味すると理解される。
【0015】
好ましい実施形態によれば、式(I)内で、R1は-CH3であり、R2は-OHである。
【0016】
式(I)において、R3は、-H及び金属又はアンモニウムイオンから選択される。この金属イオンは、非限定的な方法で、元素の周期表の第1列から第13列によって表される金属から、好ましくはナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、カドミウム、マンガン、ニッケル、コバルト、セリウム、銅、スズ、鉄及びクロムから、より好ましくはナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムから、最も特にナトリウム及びカリウムから選択され得る。R3はまた、アンモニウムイオン及びアルキルアンモニウムイオン、特にアルキルアミン、アルケニルアミン及びアルカノールアミン(2個を超えるアミン基を含まない)、例えばエチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミン、ヘキシルアミン、2-エチルヘキシルアミン、N-ブチルエタノールアミン及びモノ-、ジ-又はトリエタノールアミンから選択されてもよい。
【0017】
式(I)において、基R3は、同一であってもよく又は異なっていてもよい。好ましい実施形態によれば、それらはすべて同一であり、非常に特に好ましくは、それらはすべて-Hである。
【0018】
好ましい実施形態では、錯化剤は、例えば、ヒドロキシメチレンジホスホン酸、1-ヒドロキシルエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)及び1-ヒドロキシブタンジホスホン酸などのアルキルジホスホン酸化合物から、それらの酸の形態又はそれらの塩の形態で選択することができる。特に好ましくは、有機錯化剤は、Dequest(R)2010の商品名でも知られている1-ヒドロキシルエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)である。
【0019】
錯化剤はまた、ゾレドロン酸又はその塩の1つ(ゾレドロネート)の1つ、すなわち、[1-ヒドロキシ-1-(1H-イミダゾール-1-イル)エタン-1,1-ジイル]ジホスホン酸又はその塩の1つであってもよく、それぞれこれらは、ブランドZomate(R)、Zomera(R)、Aclasta(R)及びReclast(R)でNOVARTISから販売されている。
【0020】
本発明の実施形態によれば、錯化剤のモル質量は、500g・mol-1未満、好ましくは450g・mol-1未満、より具体的には400g・mol-1未満である。
【0021】
別の実施形態によれば、錯化剤は、水性又は水性有機媒体、好ましくは水性媒体、より具体的には水に可溶である。
【0022】
錯化剤は、触媒によって寄与されたモリブデンのモルに対する錯化剤のモル比が0.05:1より大きく、好ましくは0.1:1~5:1、より具体的には0.5:1~2:1で使用されてもよい。
【0023】
方法の工程a)中に酸化されたヒドラゾ化合物は、窒素ベースの官能基、特にニトリル又はアミド官能基を有する対称ヒドラゾ化合物、例えば2,2’-ヒドラゾ-ビス-イソブチロニトリル、2,2’-ヒドラゾ-ビス-メチルブチロニトリル、1,1’-ヒドラゾ-ビス-シクロヘキサンカルボニトリル又は2,2’-ヒドラゾジカルボンアミド、好ましくは2,2’-ヒドラゾ-ビス-イソブチロニトリルから選択できる。
【0024】
方法の工程a)に存在する酸化剤は、任意のタイプであることができ、無機過酸化物誘導体、例えば過酸化水素、過硫酸カリウム又は過硫酸ナトリウム、モノ過硫酸水素カリウム又はナトリウム、二酸素、水溶性有機過酸化物誘導体、例えば過酢酸から選択できる。好ましい実施形態によれば、酸化剤は過酸化水素である。
【0025】
酸化剤は、一般に、0℃~40℃、好ましくは0℃~20℃の温度で、2時間~6時間の範囲の期間、水溶液に導入される。
【0026】
酸化剤は、一般に、ヒドラゾ化合物に対してわずかにモル過剰で使用される。したがって、酸化剤対ヒドラゾ化合物のモル比は、有利には、1:1~1.1:1、好ましくは1.01:1~1.05:1である(限度を含む)。
【0027】
方法の工程a)中に存在する触媒は、元素の周期表の第5及び6列から、好ましくはモリブデン及びタングステン、好ましくはモリブデンから選択される触媒金属に基づく塩及び酸から選択される水溶性化合物を含む。このような水溶性化合物の例は、特に、モリブデンのアルカリ金属又はアンモニウム塩、タングステンのアルカリ金属又はアンモニウム塩、リンモリブデン酸及びそのアルカリ金属又はアンモニウム塩、リンタングステン酸及びそのアルカリ金属又はアンモニウム塩、モリブドサルフェート及びそれらの混合物である。リンモリブデン酸及びそのアルカリ金属塩、特にリンモリブデン酸ナトリウム及びリンモリブデン酸カリウムが好ましい。
【0028】
触媒は、例えば0.005:1~0.5:1、好ましくは0.03:1~0.1:1の範囲である、触媒が寄与する金属のモル対ヒドラゾ化合物のモルのモル比で使用されてもよい。
【0029】
本発明による方法において、錯化剤は、触媒の少量の沈殿、又は沈殿の不存在さえももたらす。これは、驚くべきことに、式(I)の錯化剤が、触媒と錯体を形成することにより、この触媒の沈殿の不存在をもたらすことが見出されたためである。錯化剤の別の利点は、触媒がその反応性を失わないようにすることもできることであり、これにより、この触媒を、その有効性を失うことなく、この方法においてリサイクル及び再利用することができることである。錯化剤/触媒錯体は、残留水性液中で除去され、それにより、触媒の全体、又はほぼ全体を、残留水性液の安定性を変えることなく、残留水性液中で回収することができる。
【0030】
好ましい実施形態によれば、工程a)の溶液は酸性溶液であり、そのpHは好ましくは0~2である。したがって、pHを酸性にするために、有機酸又は無機酸を添加することが可能である。好ましくは、酸が無機酸である場合、それは塩酸、硫酸、臭化水素酸、リン酸及びそれらの混合物、好ましくは塩酸から選択される。好ましくは、酸が有機酸である場合、それはギ酸、酢酸及びそれらの混合物から選択される。酸は、例えば1:1~1:5の範囲である酸対ヒドラゾ化合物のモル比で使用されてもよい。
【0031】
反応の速度論及び/又は反応収率をさらに改善するために、活性化剤の存在下で酸化工程a)を実施することが有利である。この活性化剤は、ハロゲン及びハロゲン化物、例えば、限定されない方法で、臭素、ヨウ素、臭化水素酸及びヨウ化水素酸及びそれらの塩から選択することができ、好ましくは臭化水素酸及び臭化アルカリ金属、例えば臭化カリウム及び臭化ナトリウムから選択される。それは、例えば0.1:1~1:1、より特に0.3:1~0.7:1の範囲の活性化剤対ヒドラゾ化合物のモル比で使用することができる。
【0032】
任意に、界面活性剤、特にアニオン性界面活性剤、特にジ(2-エチルヘキシル)スルホサクシネートなどのアルキルスルホサクシネートを溶液に添加することができる。
【0033】
酸化工程a)の間、この溶液に異なる化合物を導入する順序は重要ではない。
【0034】
この工程a)の終わりに、アゾ化合物、少なくとも1つの錯化剤/触媒錯体及びある量の酸化剤を含む水溶液が得られる。この水溶液は、これらの化合物が工程a)の間に添加された場合、ある量の、有機酸若しくは無機酸及び/又は活性化剤及び/又は界面活性剤を任意に含み得る。
【0035】
工程a)の終わりに得られた水溶液に、ヒドラジン、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム及びそれらの混合物から選択される少なくとも1つの還元剤を添加することが有利であり得る。好ましい実施形態によれば、水溶性化合物がリンモリブデン酸である場合、還元剤はヒドラジンである。
【0036】
ヒドラジンには、排出物及び方法のリサイクルループで水及びガス状窒素のみが形成されるという利点があり、リサイクル中に塩が蓄積するのを防ぐ。
【0037】
次に、工程a)の終わりにこのようにして得られた反応混合物を、本発明による方法の工程b)の間に、全体的又は部分的に、例えば30重量%~60重量%、特に45重量%~55重量%の量で回収する。
【0038】
工程b)の終わりにおそらく回収されない反応混合物は、工程a)にリサイクルされ得、一方、回収された反応混合物は、工程c)において、アゾ化合物を含む画分と残留水性液の画分とに分離される。工程c)の間、アゾ化合物は、当業者に知られている任意の技術によって、好ましくは濾過又は遠心分離によって、より具体的には遠心分離によって分離することができる。
【0039】
残留水性液の画分に少なくとも1つの還元剤を添加することが有利であり得る(1つが工程a)の終わりに既に添加されていたとしても)。この還元剤は、既に上述したものから、例えばヒドラジン、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム及びそれらの混合物から選択される。
【0040】
好ましい実施形態によれば、水溶性化合物がリンモリブデン酸である場合、還元剤はヒドラジンである。好ましい実施形態によれば、還元剤は、工程c)の終わりに添加される。本発明の別の好ましい実施形態によれば、還元剤は、工程a)の終わり及び工程c)の終わりに添加される。
【0041】
還元剤は、一般に、方法の工程a)又は工程c)の終わりに測定される過剰な酸化剤を中和するのに必要及び十分な量で使用される。
【0042】
アゾ化合物を含有する画分は、工程d)において、水で1回以上洗浄して、90%を超える純度を有するアゾ化合物及び2つの水性洗浄液を回収することができる。アゾ化合物のこの高度の純度は、特に触媒の沈殿の不存在によって得られ、この沈殿の不存在は、上記のように、触媒と錯体を形成する錯化剤の存在に関連し、この錯体は残留水性液で除去される。
【0043】
分離工程c)又は洗浄工程d)の後に回収されたアゾ化合物は、任意に、例えば再結晶化による追加の精製工程を受けてもよい。この再結晶化は、例えば、再結晶化が例えば塩化メチレン、メタノール及びメチルエチルケトンなどの溶媒中で実施できることを明記する、特許出願WO2006/072699に記載されているような、当業者に既知の任意の技術によって実施できる。この工程により、可能性として微量の錯化剤を取り除くことができる。
【0044】
方法の次の工程e)では、残留水性液の画分が、全体又は一部で工程a)にリサイクルされてもよく、工程a)~e)は、任意に少なくとも1回繰り返すこと、すなわち残留水性液の画分が少なくとも2回リサイクルされ得ることが理解される。本発明による方法の変形において、残留水性液の画分は、リサイクルされる前に、特に蒸留により濃縮できる。したがって、得られた留出物は、それを環境に放出することを目的として、容易に処理、例えば焼却することができる。
【0045】
本発明による方法は、とりわけ、それらを方法にリサイクルすることを目的として及び/又はそれらを環境に放出するためにそれらを処理することを目的として、排出物の容易な処理を可能にする。この目的のために、それは、触媒金属を有するため、工程c)で製造された残留水性液の画分及び/又は工程d)で製造された水性洗浄液の画分の全部又は一部を、活性炭などの吸着剤を使用して処理する追加の工程を含み得る。
【0046】
本発明による方法は、塩基性水溶液、特に水酸化ナトリウムを用いて吸着剤を処理することにより、触媒金属を水溶液の形態で回収する工程をさらに含むことができる。業界での優先事項は、残留水性液の画分及び/又は処理されるべき水性洗浄液の画分を、例えば顆粒形態の吸着剤を含むカラムに通し、次にこれらの吸着剤を使用するためのよく知られた技術に従って、このカラムに塩基性溶液を通過させることによって触媒金属を回収することである。
【0047】
したがって、触媒金属の水溶液は、方法の工程a)にリサイクルでき、任意に濃縮した後、吸着剤の濾過によって生じた残留水性液及び/又は吸収剤の洗浄からの水性液を環境に放出できる。これにより、触媒をほとんど含まない排出物を環境に放出しながら、有効量の触媒を回収してリサイクルすることができる。
【0048】
したがって、本発明による方法は、妥当な時間内に、製造されたアゾ化合物の増大した粒径、典型的には150μm(レーザー回折により測定)に近いものを得るのを可能にし、これは特定の用途において有利であり得る。
【0049】
したがって、本発明の方法は、残留水性液及び/又は触媒及び/又は活性化剤、特に残留水性液及び/又は触媒系のすべての成分がリサイクルされる場合に最も特に有利である。これらのリサイクル操作は、とりわけ、触媒系、特に高価であるだけでなく、特に環境に有害な金属塩を排出物に放出しないという大きな利点を有する。
【0050】
本発明の主題はまた、上で定義された式(I)の化合物の錯化剤としての使用である。一実施形態によれば、式(I)の化合物は、好ましくはアゾ化合物を合成するための方法において、触媒の錯化剤として使用される。一実施形態によれば、式(I)のこの化合物は、アゾ化合物を合成するための方法において錯化剤として使用される。この式(I)の化合物は、好ましくは酸化剤をヒドラゾ化合物、少なくとも1つの触媒及び少なくとも式(I)の化合物と反応させて、アゾ化合物を含む溶液を形成する工程を含むアゾ化合物を合成するための方法において、触媒、例えば上記で定義された触媒の錯化剤として少なくとも使用される。この式(I)の化合物は、好ましくは、例えば、上記で定義された方法で、アゾ化合物を合成するための方法において、触媒、例えば、上記で定義された触媒の錯化剤として使用される。
【0051】
本発明の第3の主題は、上記の錯化剤/触媒錯体を含む残留水性液であり、この残留水性液は、本発明によるアゾ化合物を合成するための方法の間に得られる。
【0052】
本発明は、以下の実施例に照らしてよりよく理解され、これらの実施例は、純粋に例示として与えられ、決して本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0053】
次の例では、
・DHCは、ヒドラゾビスイソブチロニトリルを示し、アセトンシアノヒドリンとヒドラジン水和物を反応させ、濾過し、次に水で洗浄して、冷蔵庫に保管する(T<10℃)ことによって工業的に得られるヒドラゾ化合物である。その含水率は12.7%であり、その純度は分析により99%を超える。
・使用されるリンモリブデン酸は、式H3[P(Mo3O10)4].xH2Oに対応するAldrichから販売されている製品であり、そのまま使用される(モル質量1825.25g/mol無水形態)。使用されている製品のモリブデン含有量は50%である。
・DOSSは、ジ(2-エチルヘキシル)スルホサクシネートを示す。
・AZDN(又はAIBN)は、アゾビスイソブチロニトリルを示す。
【0054】
残留過酸化物の含有量をサンプリング及び分析する方法
以下の実施例において、残留過酸化物の含有量は以下のように測定される。懸濁液中の約3ml~5mlの反応媒体を抜き取り、存在するDHC及び固体AZDNを除去するために濾過する。ほぼ正確に1グラムの濾過済み溶液を量り取り、250mlフラスコに導入し、これに50mlの蒸留水、15mlの30重量%硫酸及び15mlの30%KI溶液を添加する。フラスコに栓をして、暗所で15分間放置する。次に、黄色の色が消えるまで、規定度が0.1Nのチオ硫酸ナトリウムの溶液で滴定する。残留過酸化水素(H2O2)の含有量は次のように計算される。
【0055】
【0056】
残留モリブデンの分析は、光学ICP(又は誘導結合プラズマ)技術によって行われる。粒度測定は、Mastersizer(R)S装置を使用して行われる。測定は、測定セルで10分間循環させた後、分散剤として水と1滴のIgepal(R)(エトキシル化ノニルフェノール)界面活性剤を使用して、湿式結晶で実行される。
【0057】
[実施例1]
錯化剤試験
5質量%の臭化水素水溶液100ml、1.5gのリンモリブデン酸(触媒)及び1gの錯化剤を含む混合物を調製する。
【0058】
30分後、臭化アンモニウム(NH4Br)の不存在下、リンモリブデン酸の溶解度について1回目の観察が行われる。
【0059】
次に、37.5%の臭化アンモニウム水溶液10mlを添加する。30分後、臭化アンモニウムの存在下でのリンモリブデン酸の溶解度について2回目の観察が行われる。
【0060】
結果を以下の表1にまとめる。
【0061】
【0062】
試験は、式(I)に対応するもの以外の化合物は、アンモニウムイオンの存在下で沈殿物の出現を防ぐことができないことを示す。一方、錯化剤が式(I)の定義に対応する場合、沈殿物は観察されない。この沈殿物の不存在は、アンモニウムイオンを含む媒体中で錯化剤の存在下、リンモリブデン酸の安定性を反映している。式(I)の錯化剤、例えばDequest(R)2010は、アンモニウムイオンの存在下でのリンモリブデン酸の沈殿を防ぐことができる。
【0063】
NH4Brの存在下でリンモリブデン酸の沈殿を防止するのに十分な式(I)の化合物の量を決定するために、上記と同じ操作条件下で行われた別の試験が実施された。式(I)の錯化剤の量は、沈殿の形成が観察されるまで徐々に低下させた。
【0064】
この一連の試験により、5質量%の臭化水素水溶液100ml、1.5gのリンモリブデン酸(触媒)及び5mlの37.5質量%のNH4Br溶液を含む溶液で、0.35gの量の式(I)の錯化剤、例えばDequest(R)2010は、リンモリブデン酸の沈殿を阻害するのに十分であり、すなわち錯化剤/リンモリブデン酸のモル比は0.2であることを示すことができた。
【0065】
[実施例2]
反例(錯化剤の不存在下での方法)
126gのAZDN(0.77mol)、128gのDHC(ヒドラゾビスイソブチロニトリル)(0.77mol)、635gの水、35gのHBr、7gのリンモリブデン酸(50%のMo含有量、すなわち0.036molのモリブデン)及び0.1gのDOSS(ジ(2-エチルヘキシル)スルホサクシネート)を含む水溶液を、懸濁液の混合を可能にする撹拌システムを備えた1.5リットル容量の反応器に導入する。撹拌及びジャケット冷却システムを開始後、約10℃での温度安定を待つ。
【0066】
10℃の温度に達したら、78.05gの35%H2O2(すなわち0.80molのH2O2)を4時間かけて連続的に導入する。反応中、媒体は10℃~12℃の温度に維持される。全量のH2O2を導入した後、反応は約20~30分で停止する。反応の終わりは、臭素の形成及び酸化還元電位の増加によって可視化される(H2O2の導入前の電位は約400mVであり、反応の終わり、すなわちH2O2全体の導入後、電位は約800mVである)。酸化還元電位は、白金酸化還元プローブを使用して測定される。
【0067】
次に、反応器からの懸濁液を完全に濾過する。15%の水分を含む290gの粗AZDNが得られる、すなわち95%の収率となる。さらに、20mlの水もフィルタをすすぐために使用され、残留水性液に添加される。
【0068】
得られた残留水性濾過液、すなわち740gは、過剰の過酸化物及び形成された臭素を除去するためにヒドラジン水和物により中和される(残留H2O2当量の0.1%が見られると分析)。酸化還元電極は、電位をその初期値、すなわち約300mV~400mVに戻すために使用される。
【0069】
残留水性液の半分、すなわち374gは、次の試験で直接再利用するために取っておくが、残りの半分は、残留水性液のこの画分から約60%~65%の水を除去することを目的として、真空下で濃縮の工程を受ける。これは、250ミリバール(25kPa)の真空下、55℃~60℃の間で実施される。325gの残留水性液を使用すると、235gの水性留出物画分及び90gの得られた濃縮溶液が得られる。このようにして得られた、触媒系を含有する濃縮画分は、未処理の残留水性液の画分とともに次のサイクルに再利用されてもよい。
【0070】
得られたAZDNの半分を、毎回200mlの水を使用して水で4回洗浄する。粗AZDNの残りの半分は、(結晶中に存在する残留水性母液の画分とともに)そのまま保持され、次の実施例の次のサイクル中にリサイクルされる。
【0071】
したがって、分析のための移送及びサンプリングにおける損失に固有の画分及び製造された洗浄AZDNの結晶中に保持された残留水性液の画分も除いて、触媒系の実質的にすべての成分がリサイクルされる。
【0072】
[実施例3]
反例(錯化剤を含まず、リサイクルを伴う方法)
前に得られた未洗浄の粗AZDN 145g(すなわち、結晶中に約15gの残留水性液を含む0.78molのAZDN)、128gのDHC(ヒドラゾビスイソブチロニトリル)(0.78mol)、0.05gのDOSS(ジ(2-エチルヘキシル))スルホサクシネート)、前の試験中に反応媒体の濾過から生じる374gの残留水性液及び前の試験中に濃縮された残留水性液も、前の実施例の反応器に導入される。必要な触媒系の補充を決定するために、残留水性液のリサイクル画分に存在する臭化物が分析される。前の実施例と同じ組成の反応媒体を維持するために、4gのHBr、0.78gのリンモリブデン酸及び150gの水が通常添加され、この水の供給原料は、前の試験の初期組成に戻すために使用した反応物の水含有量に従って計算される(HBr水溶液、DHCの含水率)。
【0073】
この150gの水は、工業方法において、例えば、保持タンクからの水性懸濁液の形態で、固体DHCをより容易に供給することを可能にする。
【0074】
次に、前の実施例のように、78.05gの35%H2O2を4時間かけて10℃~12℃の間に維持した反応媒体に連続的に注ぐことにより、反応を行う。
【0075】
したがって、この方法は、AZDN及び得られた残留水性液の試験n+1の半分にリサイクルし、試験nの残留水性液の他の半分を濃縮することによって行われる。
【0076】
最初の3回のリサイクル操作により、NMR分析により95%を超える純度の白色生成物が得られた。4回目のリサイクル操作中に、黄色の顕著な堆積物の形成が認められる。この堆積物は、得られたAZDNを汚染し、水での洗浄操作では、この堆積物を除去することはできない。
【0077】
また、濾過後に得られた残留水性液中に、経時的に堆積物が再び形成されることにも留意する。
【0078】
これらの結晶を除去するために濾過した後、これらの残留水性液に対して次の濃縮工程を行った。濃縮の最後に、これらの結晶がボイラーの底部で再形成され、それにより残留水性液の濃縮溶液が汚染されていることに留意する。
【0079】
この堆積物のX線蛍光及びX線回折による分析は、これがリンモリブデン酸アンモニウムの結晶性化合物であることを示しており、これらの化合物は酸性媒体に非常に不溶性であることが知られている。
【0080】
媒体中でのアンモニウムイオンの形成は、シアノ副生成物の加水分解に起因すると思われる。したがって、アンモニウムイオンは、反応媒体へのリサイクルの操作の過程で蓄積し、触媒の沈殿を引き起こす。
【0081】
[実施例4]
Dequest(R)2010の存在下での方法(本発明による)
本発明の方法は、反例2に記載されたものと同じ手順に従って行われるが、過酸化水素溶液の導入前に、Dequest(R)2010の60%水溶液20.7g(すなわち、モリブデン1モル当たり1.65molのDequest(R)2010)を反応媒体に添加する。
【0082】
反例3に記載されているように、一連のリサイクル操作が行われる。したがって、この実施例では、得られたAZDNを汚染する沈殿物の形成、水性母液中又は濃縮操作中の沈殿物の形成は認められず、12回のリサイクル操作が実行される。
【0083】
触媒系の補充は、反例3に示されているように方法全体で実行されるが、この実施例では、4gのHBr、1.4gのDequest(R)2010(すなわち2.35gのDequest(R)2010の60%水溶液)も添加される。
【0084】
12回目のリサイクル操作では、洗浄したAZDNの収率は95%を超え、洗浄したAZDNの残留臭化物含有量は80ppm~90ppmで、NMR分析による純度は98%を超える。粒径は一定を維持し、110μm~130μm(数平均直径)の間である。
【0085】
[実施例5]
方法で得られたAZDNの再結晶化
12回目のリサイクル操作の終わりに実施例4に従って得られたAZDNを、200mlの水で3回洗浄し、次に周囲温度で乾燥させる(残留水分含有量1重量%~2重量%)。次に、このAZDN20gを35℃で250mlのメタノールに溶解する。結晶が溶解したら、温度を2℃に下げてAZDNを再結晶化させる。次に、混合物を低温条件下で濾過し、回収されたメタノール溶媒画分は、次の再結晶化に再利用するために取っておく。フィルタ上に回収されたAZDN結晶を50mlの水で洗浄し、次に乾燥させる。
【0086】
12回目のリサイクル操作の終わりに得られたAZDNをもう一度20g取り、以前に回収したメタノール画分を使用し、溶媒の損失を補うために、又は使用される20gのAZDNを完全に溶解するために可能な限りこれを補充して、再度操作を開始した。
【0087】
したがって、回収されたメタノールの画分を再利用するたびに、5回の連続した再結晶化操作が行われた。ICAP6500分光計デバイスでの光学ICP法による微量のモリブデンの調査は、このようにして得られたすべてのAZDNに微量の残留モリブデンがないことを示す(検出限界1ppm)。