(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】導電性ひげぜんまいコード
(51)【国際特許分類】
G04B 17/06 20060101AFI20221025BHJP
【FI】
G04B17/06 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021006883
(22)【出願日】2021-01-20
【審査請求日】2021-01-20
(32)【優先日】2020-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591048416
【氏名又は名称】ウーテーアー・エス・アー・マニファクチュール・オロロジェール・スイス
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】シルヴァン・ユオー-マルシャン
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/023584(WO,A1)
【文献】特開2016-215177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ひげぜんまいスタッド(110)によって取り付けられた少なくとも1つの外側コイルを有する計時器ひげぜんまい(101)を備えた、計時器ムーブメントの振動システム(100)における導電層の堆積方法(500)であって、前記堆積方法(500)は、
- 前記振動システム(100)を提供するステップ(510)と、および、
- 前記少なくとも1つの外側コイル(105)と前記ひげぜんまいスタッド(110)とを電気的に接続し、前記計時器ひげぜんまい(101)の少なくとも1つの寸法の少なくとも1%に相応する、少なくとも第1の導電層(102)を、噴霧器(900)によって堆積させるステップとを備え、
前記噴霧器(900)は、被覆ガス(119)によって囲まれた液体形態で、前記少なくとも第1の導電層(102)を一方向的に堆積させ、前記少なくとも第1の導電層(102)の堆積は、前記計時器ひげぜんまい(101)の幅の部分的にしかカバーしない、そして
前記少なくとも1つの寸法は、前記計時器ひげぜんまい(101)の長さである、
堆積方法(500)。
【請求項2】
前記少なくとも第1の導電層(102)は、前記ひげぜんまいスタッド(110)の外側に堆積される、請求項1に記載の堆積方法(500)。
【請求項3】
前記噴霧器(900)は一方向的である、請求項1に記載の堆積方法(500)。
【請求項4】
前記第1の導電層(102)は、連続導電層(111)と、および/または、連続導電層(111)を形成するように離散化された複数の導電層(115)とを備える、請求項1に記載の堆積方法(500)。
【請求項5】
前記計時器ひげぜんまい(101)の少なくとも1つの寸法の少なくとも5%に相応する、前記少なくとも第1の導電層(102)を、噴霧器(900)によって堆積させる、請求項1に記載の堆積方法(500)。
【請求項6】
前記計時器ひげぜんまい(101)の少なくとも1つの寸法の少なくとも10%に相応する、前記少なくとも第1の導電層(102)を、噴霧器(900)によって堆積させる、請求項1に記載の堆積方法(500)。
【請求項7】
前記計時器ひげぜんまい(101)の少なくとも1つの寸法の多くとも90%に相応する、前記少なくとも第1の導電層(102)を、噴霧器(900)によって堆積させる、請求項1に記載の堆積方法(500)。
【請求項8】
前記計時器ひげぜんまい(101)の少なくとも1つの寸法の多くとも75%に相応する、前記少なくとも第1の導電層(102)を、噴霧器(900)によって堆積させる、請求項1に記載の堆積方法(500)
。
【請求項9】
前記計時器ひげぜんまい(101)の少なくとも1つの寸法の多くとも50%に相応する、前記少なくとも第1の導電層(102)を、噴霧器(900)によって堆積させる、請求項1に記載の堆積方法(500)。
【請求項10】
前記計時器ひげぜんまい(101)の少なくとも1つの寸法の少なくとも1%で、多くとも90%に相応する、前記少なくとも第1の導電層(102)を、噴霧器(900)によって堆積させる、請求項1に記載の堆積方法(500)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計時器ムーブメントのための振動システムに関する。本発明は、特に、静電荷が除去された計時器ひげぜんまいを備える振動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
テンプとともに機械式計時器のための時間基準を形成するひげぜんまいは、腕時計製造の分野において知られている。これらのひげぜんまいは、同心コイルに巻かれた非常に薄いばねの形態で概略的に示され、第1の端部はコレットに接続され、第2の端部はひげぜんまいスタッドに接続されている。
【0003】
ひげぜんまいを製造するために使用される材料は、通常、鉄、コバルト、ニッケル、およびクロムをベースにした合金である。延性のあるそのような合金は、耐食性を要する。最近の開発は、シリコン製のひげぜんまいの製造を提案している。ひげぜんまいは、寸法が非常に小さく、空気との、およびコイル間の摩擦があるため、コイルが互いに吸い付くように静電気が帯電する傾向がある。その場合、コイルはそのままでは使用できなくなる。
【0004】
さらに、ひげぜんまいスタッドを介してムーブメント内の静電荷を放電することを目的とした現在の方法は、ひげぜんまいスタッドと、ひげぜんまいとを結合する導電性接着剤を含む。これは通常、光またはUVによる硬化接着剤と、導電性粒子との混合物である。しかしながら、これらの粒子は、組立品のクロスリンクを妨げる。これにより、部分的なクロスリンクが発生し、スタッドとひげぜんまいとが分離し、発振器の動作を妨げる可能性がある。さらなる解決策は、クロスリンク時間を大幅に増加させることであるが、これは工業生産率に反する。
【0005】
最後に、場合によっては、静電荷は、たとえば、組立中に最初に帯電した、または移動中に帯電した絶縁材料製の部品のように、ひげぜんまい以外の場所であるが、その近接環境に位置し得る。したがって、一般にひげぜんまいよりもかなり大きな要素に関連付けられたこれらの電荷は、ひげぜんまいを引き付け、そこに応力を導くことによって誤動作を引き起こし、これによって、その固有振動数を変える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの問題を解決するために、たとえば、ひげぜんまいの表面の全部または一部において、金、白金、ロジウム、またはシリコンなどの材料、好ましくは非酸化性および非磁性の光堆積の実行を示唆する幾分複雑な解決策が提案されている。しかしながら、そのような技法は、追加の製造工程を必要とし、それは特に費用がかかるという欠点を有する。さらに、これらの技法は、生産速度を低下させる傾向がある。これらの欠点を改善するために、本発明は、静電荷が除去された計時器ひげぜんまいを備える計時器ムーブメントのための振動システムを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの欠点を解決するために、本発明は、ひげぜんまいスタッドが取り付けられた、少なくとも1つのコイルを有する計時器ひげぜんまいを備えた、計時器ムーブメントの振動システムに導電層を堆積する方法を提案し、前記堆積する方法は、
- 前記振動システムを提供するステップと、および/または、
- 前記少なくとも1つの外側コイルと前記ひげぜんまいスタッドとを電気的に接続し、前記計時器ひげぜんまいの少なくとも1つの寸法の少なくとも1%、特に5%、好ましくは10%、および/または多くとも90%、特に多くとも75%、好ましくは多くとも50%に相応する、少なくとも第1の導電層を堆積するステップとを備える。
【0008】
この構成のおかげで、計時器ムーブメントのための振動システムは、静電荷が除去された計時器ひげぜんまいを備える。
【0009】
実施形態によれば、前記計時器ひげぜんまいは、コレットによって取り付けられた少なくとも1つの内側コイルと、前記ひげぜんまいスタッドによって取り付けられた少なくとも1つの外側コイルとを備える。
【0010】
実施形態によれば、前記少なくとも第1の導電層は、前記ひげぜんまいスタッドの外側に堆積される。
【0011】
この構成のおかげで、前記少なくとも第1の導電層を、容易に堆積させることができる。
【0012】
実施形態によれば、前記第1の導電層の堆積は、噴霧器によって実行される。
【0013】
実施形態によれば、前記噴霧器は、一方向的となるように被覆ガスによって囲まれた液体形態の少なくとも第1の導電層を備える。
【0014】
実施形態によれば、前記噴霧器は、一方向的である。
【0015】
実施形態によれば、前記第1の導電層は、連続導電層と、および/または、連続導電層を形成するように離散化された複数の導電層とを備える。
【0016】
これらの先行する構成のいずれかのおかげで、連続導電層と、および/または、離散化された複数の導電層とを、的を絞って、すなわち一方向的に堆積させることができる。実施形態によれば、前記少なくとも1つの寸法は、前記計時器ひげぜんまいの長さである。
【発明の効果】
【0017】
この構成のおかげで、計時器ムーブメントのための振動システムは、静電荷が除去された計時器ひげぜんまいを備える。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、コレットによって取り付けられた少なくとも1つの内側コイルと、ひげぜんまいスタッド102によって取り付けられた少なくとも1つの外側コイル105とを備える計時器ひげぜんまい101を備える、計時器ムーブメントの振動システム100における導電層の堆積方法500を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、非限定的な例として与えられ、計時器ムーブメントの振動システム(100)上の導電層の堆積方法(500)を表す添付の図面を使用してより詳細に説明される。
【0020】
図1は、コレットによって取り付けられた少なくとも1つの内側コイルと、ひげぜんまいスタッド102によって取り付けられた少なくとも1つの外側コイル105とを備える計時器ひげぜんまい101を備える、計時器ムーブメントの振動システム100における導電層の堆積方法500を示す。
【0021】
前記堆積方法500のステップのうちの1つは、前記振動システム100を提供するステップ510である。これに続いて、前記少なくとも1つの外側コイル105と、前記ひげぜんまいスタッド102とを電気的に接続する少なくとも第1の導電層110を、噴霧器900によって堆積させる。好ましくは、前記第1の導電層110は、連続導電層111と、および/または、連続導電層111を形成するように離散化された複数の導電層115とを備える。
【0022】
前記少なくとも第1の導電層110、より具体的には、前記連続導電層111が堆積され、および/または、前記離散化された複数の導電層115が、前記ひげぜんまいスタッド102の外側、より正確には、前記計時器ひげぜんまい101のコイルに面する部分よりもより容易に到達できるので、前記計時器ひげぜんまい101の外側である前記ひげぜんまいスタッド102の一部上に堆積される。
【0023】
前記噴霧器900は、一方向的となるように被覆ガス119によって囲まれた液体形態の前記少なくとも第1の導電層110を堆積させ、したがって、前記計時器ひげぜんまい101の少なくとも1つの寸法の少なくとも1%、特に5%、好ましくは10%および/または多くとも90%、特に多くとも75%、好ましくは多くとも50%に相応する、好ましくは前記計時器ひげぜんまい101の長さである前記少なくとも1つの寸法で、前記第1の導電層110を堆積させるように構成される。さらに、前記噴霧器900は、一方向的であり、前記少なくとも第1の導電層110の堆積は、前記計時器ひげぜんまい101の幅を部分的にしかカバーできず、おそらく、前記計時器ひげぜんまい101の全幅をカバーすることはなく、これは、たとえば、その慣性またはその周波数、または、その弾性応答の変化のように、前記計時器ひげぜんまい101の特性の変動を回避することを可能にする。
【0024】
したがって、この構成のおかげで、前記少なくとも第1の導電層110をその表面に堆積させることによって、電荷の誘導が可能となる。
【0025】
さらに、堆積方法は、その単純さ、および堆積される材料が少量で済むことにより、経済的である。さらに、たとえば、銀またはカーボンナノ粒子が充填された接着剤とは異なり、この堆積方法は、噴霧はほとんど方向性がなく、一方向的でもないため、これらの接着剤の前記調製中または堆積中、その吸入による潜在的に危険な粒子に、従業員を曝さない。従来の噴霧のさらなる欠点は、脱進機やテンプの棒などの近くの可動部品を汚染し、その結果、その摩擦機能を阻害する可能性があることである。
【符号の説明】
【0026】
100 振動システム
101 計時器ひげぜんまい
102 ひげぜんまいスタッド
105 外側コイル
110 第1の導電層
111 連続導電層
115 離散化された複数の導電層
119 被覆ガス
500 堆積方法
510 提供するステップ
900 噴霧器