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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】ファスナーテープ
(51)【国際特許分類】
   A44B 19/34 20060101AFI20221025BHJP
【FI】
A44B19/34
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021058715
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022155286
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2021-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大杉 新太郎
(72)【発明者】
【氏名】浅見 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】福原 幹
(72)【発明者】
【氏名】大久保 秀樹
【審査官】須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-106917(JP,A)
【文献】国際公開第2020/070845(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 19/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファスナーテープ本体と、前記ファスナーテープ本体の少なくとも一方の主面に設けられた補強部とを備え、
前記補強部は、ポリプロピレン系樹脂を含む単層であり、前記ファスナーテープ本体に含浸固化されており、前記補強部と前記ファスナーテープ本体とが架橋されていることを特徴とする、
ファスナーテープ。
【請求項2】
前記ファスナーテープ本体がポリエチレンテレフタレートを含み、前記補強部と前記ファスナーテープ本体とがカルボジイミドにより架橋されている、請求項に記載のファスナーテープ。
【請求項3】
前記補強部と前記ファスナーテープ本体とが環状カルボジイミドにより架橋されている、請求項1又は2に記載のファスナーテープ。
【請求項4】
前記補強部において、前記ファスナーテープ本体に含浸固化されている部分の厚みdが、20~115μmである、請求項1~のいずれか1項に記載のファスナーテープ。
【請求項5】
前記補強部において、前記ファスナーテープ本体に含浸固化されている部分の厚みdと、前記補強部となる材料である補強シートの厚みDとの比d/Dが、0.14~0.83である、請求項1~のいずれか1項に記載のファスナーテープ。
【請求項6】
さらに、前記補強部の上に、開離嵌挿具を備える、請求項1~のいずれか1項に記載のファスナーテープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開離嵌挿具を取付けるためのファスナーテープに関する。とりわけ、少なくとも一方の主面に、補強部を備えるファスナーテープに関する。
【背景技術】
【0002】
蝶棒及び箱棒からなる開離嵌挿具を有するスライドファスナーにおいて、ファスナーテープの同開離嵌挿具が取り付けられている部分のテープ面を補強して、同テープ面の破損を防止することが従来から行われている。この補強のための一般的な手法としては、従来、ファスナーテープの端部に合成樹脂フィルムや織布等からなる補強テープを貼着一体化することが行われている。この補強テープは、接着剤によってファスナーテープに接着され、ファスナー表層のフィルムと接着剤との間に接着性を良好にするための中間層(アンカーコート剤)が設けられていることが一般的である。
【0003】
例えば、特許文献1(特許第3650733号)には、曲げ弾性率が6,000~9,000kg/cm2のポリアミド系エラストマーフィルムと接着層とからなることを特徴とするスライドファスナーの補強テープが開示されている。好ましい態様として、ポリアミド系エラストマーフィルムと接着層との間にこれら各層の厚さよりも薄い中間層を介在させることが開示されており、この場合、中間層としてはポリエステル系アンカーコート剤が好ましいとも開示している。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示される技術には、以下の問題点が存在する。
(1)補強テープとファスナーテープとの間の剥離強度は一定程度あるが、洗濯、ドライクリーニング、汚染等によって補強テープが剥がれ、強度の低下や外見の変化(白濁化)が発生することがあるのでさらに向上の余地がある。
(2)アンカーコート剤を中間層として使用することで接着力が向上し、ファスナーテープの性能面では好ましいが、環境面に配慮する観点から代替技術を開発することが望まれる。
(3)補強テープを複数層から構成しているので、製造プロセスが複雑になり、工程数、製造コストの面で改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3650733号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記各問題点に鑑みなされたものであり、一実施形態において、アンカーコート剤を使用することなく、簡便に、かつ、補強部とファスナーテープ本体との間の剥がれやすさが所定の基準を満たしているファスナーテープを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討の結果、従来のような、フィルム層、中間相、接着層などの複数構造からなる補強テープではなく、単層の補強部をファスナーテープに含浸固化させることにより、簡便に、補強部とファスナーテープ本体との間の剥がれやすさが所定の基準を満たしているファスナーテープを得られることを見出した。本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下に例示される。
[1]
ファスナーテープ本体と、前記ファスナーテープ本体の少なくとも一方の主面に設けられた補強部とを備え、
前記補強部は、ポリプロピレン系樹脂を含む単層であり、前記ファスナーテープ本体に含浸固化されていることを特徴とする、
ファスナーテープ。
[2]
前記補強部と前記ファスナーテープ本体とが架橋されている、[1]に記載のファスナーテープ。
[3]
前記ファスナーテープ本体がポリエチレンテレフタレートを含み、前記補強部と前記ファスナーテープ本体とがカルボジイミドにより架橋されている、[2]に記載のファスナーテープ。
[4]
前記補強部と前記ファスナーテープ本体とが環状カルボジイミドにより架橋されている、[1]~[3]のいずれか1項に記載のファスナーテープ。
[5]
前記補強部において、前記ファスナーテープ本体に含浸固化されている部分の厚みdが、20~115μmである、[1]~[4]のいずれか1項に記載のファスナーテープ。
[6]
前記補強部において、前記ファスナーテープ本体に含浸固化されている部分の厚みdと、前記補強部となる材料である補強シートの厚みDとの比d/Dが、0.14~0.83である、[1]~[5]のいずれか1項に記載のファスナーテープ。
[7]
さらに、前記補強部の上に、開離嵌挿具を備える、[1]~[6]のいずれか1項に記載のファスナーテープ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アンカーコート剤を使用することなく、簡便に、かつ、補強部とファスナーテープ本体との間の剥がれやすさが所定の基準を満たしているファスナーテープを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態のファスナーテープを採用したスライドファスナーの下部を示す部分平面図である。
図2】開離した状態の図1のスライドファスナーの下部を示す部分平面図である。
図3図1のスライドファスナーのA-A’断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。なお、本発明の各実施形態を説明する図面における寸法、縮尺、角度などは、理解に資するために便宜上示すものであり、実際の寸法、縮尺、角度などを示すとは限らない。
【0011】
図1及び図2に本発明の一実施形態におけるファスナーテープ10a、10bを採用したスライドファスナー30の下部を示す部分平面図を示す。本発明の一実施形態におけるスライドファスナー30は、長手方向と幅方向とを備える長尺状である一対のファスナーテープ10a、10b、各ファスナーテープ10a、10bの幅方向の一方の縁部に取り付けられた例えばコイルエレメントである務歯列32a、32b、スライダー33、及び開離嵌挿具である蝶棒37、箱棒35、箱体36を含む。
【0012】
一対のファスナーテープ10a、10bは、おのおの長手方向と幅方向とを備える長尺状である一対のファスナーテープ本体11a、11bと、ファスナーテープ本体11a、11bの長手方向の一方の端部に溶着されている一対の補強部12a、12bと、を備える。開離嵌挿具は、ファスナーテープ10a、10bにおける務歯列32a、32bが設けられた幅方向の一方の縁部であって、補強部12a、12bの上に取付けられている。具体的には、補強部12aには蝶棒37が設けられており、補強部12bには箱棒35及び箱体36が設けられているが、これに限るものではない。蝶棒37は箱体36のスロット中に開離自在に係合可能である。なお、箱体36と箱棒35は一体成形されたワンピース物である。スライダー33は務歯列32a、32bを噛合、解離するために務歯列32a、32bに摺動自在に取り付けられている。図1はスライドファスナー30を閉じた状態、図2はスライドファスナー30を開いた状態を示している。
【0013】
ファスナーテープ本体11a、11bは、例えばポリエチレンテレフタレートからなる繊維を織成又は編成されてなる。
【0014】
図3は、図1におけるファスナーテープ10aのA-A’断面図である。図3は、図1の上下方向に沿って切断して得られた断面について、図1の幅方向から走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した100倍の写真である。ファスナーテープ10aは、ファスナーテープ本体11aと、ファスナーテープ本体11aの少なくとも一方の主面に設けられた補強部12aとを備える。補強部12aは、ファスナーテープ本体11aの片面のみに設けられていてもよいが、一般にはファスナーテープ本体11aの両面に設けられている。
【0015】
補強部12aは、例えばポリプロピレン系樹脂を含む単層であり、ファスナーテープ本体11aに含浸固化されている。すなわち、補強部12aとファスナーテープ本体11aとの間には、接着層や、アンカーコート剤などの中間層がなく、ファスナーテープ本体11aの少なくとも一方の主面には、単一の層からなる補強部12aが設けられている。
【0016】
本明細書において、「含浸固化」とは、補強部12aとなる材料(例えば補強シート)の少なくとも一部がファスナーテープ本体11aの繊維間に浸透し、固化している状態をいう。なお、本実施形態において、「含浸固化」について言及する場合、単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているに過ぎないので、物の製造方法により物の発明を特定するものではない。
【0017】
補強部12aは、ファスナーテープ本体11aに補強部12aとなる材料(例えば熱可塑性樹脂からなる補強シート)を積層し、その後ヒーターにより例えば200℃で3~10秒程度加熱することで、ファスナーテープ本体11aに補強シートを溶着して得る。なお、ここでは補強部12aとなる材料を可撓性のある固体としているが、ゲルのような半固体や、液体であってもよい。また、加熱に際して、熱板、超音波、高周波等の加熱手段を用いることができる。以後、溶着前の補強部となる材料を補強シートと記述する。
【0018】
補強部12aをファスナーテープ本体11aに十分に含浸させるために、補強部12aはポリプロピレン系樹脂を含むものとする。好ましくは、補強部12aは、ポリプロピレン系樹脂からなる。ポリプロピレン系樹脂の種類は特に限定されず、プロピレンの単独重合体であってもよく、プロピレンとその他の炭素数2~20程度のα-オレフィンとの共重合体であってもよい。共重合体の場合、ランダム共重合体でもよく、ブロック共重合体でもよい。ポリプロピレン系樹脂は未変性でもよく、変性されていてもよい。好ましくは、ポリプロピレン系樹脂はマレイン酸変性ポリプロピレンである。
【0019】
例えば、本発明の一実施形態において、補強部12aは、全体の100重量部の中で、ランダム若しくはブロックポリプロピレンを50~99重量部含むことができ、酸変性(例えばマレイン酸変性)ポリプロピレンを1~20重量部含むことができ、エラスティックポリプロピレン(好ましくはブロック共重合体)を10~40重量部含むことができる。
【0020】
また、補強部12aにおいて、ファスナーテープ本体11aに含浸固化されている部分の厚みdが、20~115μmであることが好ましい。厚みdを20μm以上とすることにより、補強部12aとファスナーテープ本体11aとのパークロドライ試験後の剥がれやすさを従来品と同等以上とすることができる。さらに厚みdを70μm以上とすることにより、補強部12aとファスナーテープ本体11aとのパークロドライ試験後の剥がれをなくすことができるので、より好ましい。また、厚みdを100μm以下とすることで、ファスナーテープ本体11aの繊維が製品の表面(補強部12aの表面)に露出してしまう現象を抑えつつ補強シートの厚みDが過度に大きくなることを防止することができるので、より好ましい。
【0021】
上記ファスナーテープ本体11aに含浸固化されている部分の厚みdの制御を容易にするために、例えば補強シートの厚みDを100~160μmの範囲内とすることができ、例えば120~140μmの範囲内とすることができる。
【0022】
補強部12aにおいて、含浸固化されている部分の厚みdと、補強シートの厚みDとの比d/Dを、0.14~0.83とすることが好ましい。ここで、含浸固化されている部分の厚みdは、含浸固化前の補強部となる補強シートの厚みと、含浸固化前のファスナーテープ本体との厚みとを加算した値から、含浸固化後の製品厚み(補強部とファスナーテープ本体との厚み)の実測値を引いた値と定義する。
【0023】
d/Dを0.14以上とすることで、補強部12aとファスナーテープ本体11aとのパークロドライ試験後の剥がれやすさを従来品と同等以上とすることができる。さらにd/Dを0.50以上とすることにより、補強部12aとファスナーテープ本体11aとのパークロドライ試験後の剥がれをなくすことができるので、より好ましい。また、d/Dを0.82以下とすることで、ファスナーテープ本体11aの繊維が製品の表面(補強部12aの表面)に露出してしまう現象を抑えつつ補強シートの厚みDが過度に大きくなることを防止することができるので、より好ましい。この観点から、d/Dは0.80以下であることがさらにより好ましく、0.70以下であることがさらにより好ましい。
【0024】
補強部12aとファスナーテープ本体11aとの剥離強度を向上させるためには、補強部12aとファスナーテープ本体11aとが架橋されていることが好ましい。架橋は、典型的には架橋剤により実現される。架橋剤の種類は特に限定されないが、ファスナーテープ本体11aがポリエチレンテレフタレートを含む場合には、架橋剤としてカルボジイミドを使用することが好ましい。カルボジイミドとして、環状カルボジイミド又は直鎖カルボジイミドを使用することが好ましい。さらに、補強部12aとファスナーテープ本体11aとが環状カルボジイミドにより架橋されていることが好ましい。これにより、補強部12aに含まれる酸変性部分とファスナーテープ本体11aに含まれるカルボキシル基を架橋させることができる。なお、本実施形態において、「架橋されている」について言及する場合、単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているに過ぎないので、物の製造方法により物の発明を特定するものではない。
【0025】
例えば、本発明の一実施形態において、補強部12a全体の100重量部に対して、架橋剤を0.5~8重量部さらに添加することができる。また、補強部12aがマレイン酸変性ポリプロピレンを使用し、架橋剤として環状カルボジイミドを使用する場合、マレイン酸変性ポリプロピレンと環状カルボジイミドの質量比は2:1~4:1であることが好ましく、補強部12aがマレイン酸変性ポリプロピレンを使用し、架橋剤として直鎖カルボジイミドを使用する場合、マレイン酸変性ポリプロピレンと直鎖カルボジイミドの質量比は0.5:2~1.5~2であることが好ましい。
【0026】
このような方法を用いているので、補強部にアンカーコート剤を使用することなく、環境面でも望ましい。また、補強部を複数層から形成することなく簡便に製造することができる。さらに、補強部とファスナーテープ本体との間の剥がれやすさが所定の基準を満たしているファスナーテープを提供することができる。
【実施例
【0027】
以下、本発明について、具体的な実験に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実験例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0028】
(第1の実験)
(比較例1)
比較例1の構造は、従来例であって、ファスナーテープは、ファスナーテープ本体と、ファスナーテープ本体の少なくとも一方の主面に接着された補強テープとを備える。補強テープは、厚さ120μmのナイロンエラストマーフィルム(ATOCHEM社製、曲げ弾性率7,500kg/cm2)の裏面にポリエステル系アンカーコート剤を2~3μmの厚さとなるように塗布し、さらに厚さ60μmのポリエステル系ホットメルト接着層(東洋紡績(株)製、バイロンGM900)をラミネートして作製した。比較例1では、ファスナーテープ本体に補強テープを接着した際に、ファスナーテープの主面に補強テープの接着層(接着剤)が含浸する。比較例1の含浸厚みdは接着層が含浸したものであるので、後述の実験例1~6とは必ずしも同等に比較できる含浸厚みではないことに注意されたい。
【0029】
(実施例1)
実施例1の構造は、上記実施形態に係るファスナーテープ10aと実質的に同様の形状である。ファスナーテープは、ファスナーテープ本体と、ファスナーテープ本体の少なくとも一方の主面に設けられた補強部とを備える。補強部は、例えばポリプロピレン系樹脂を含む単層であり、補強シートをヒーターにて200℃で3秒加熱することにより、ファスナーテープ本体に含浸固化されている。表1に示す通り、補強部厚みDを140μmとして、溶着の際にファスナーテープ本体及び補強部とヒーターとのクリアランス距離を中として加熱することで溶着し、ファスナーテープを作製した。具体的には、ファスナーテープ本体に含浸した補強部を形成し、自然冷却させることで補強部を固化させた。
【0030】
(実施例2)
補強部厚みDを120μmとして、溶着の際にファスナーテープ本体及び補強部とヒーターとのクリアランス距離を中として加熱することで溶着しファスナーテープを作製したこと以外は、実施例1と同様である。
【0031】
(実施例3)
補強部厚みDを140μmとして、溶着の際にファスナーテープ本体及び補強部とヒーターとのクリアランス距離を大として加熱することで溶着しファスナーテープを作製したこと以外は、実施例1と同様である。
【0032】
(実施例4)
補強部厚みDを120μmとして、溶着の際にファスナーテープ本体及び補強部とヒーターとのクリアランス距離を大として加熱することで溶着しファスナーテープを作製したこと以外は、実施例1と同様である。
【0033】
(実施例5)
補強部厚みDを140μmとして、溶着の際にファスナーテープ本体及び補強部とヒーターとのクリアランス距離を小として加熱することで溶着しファスナーテープを作製したこと以外は、実施例1と同様である。
【0034】
(実施例6)
補強部厚みDを120μmとして、溶着の際にファスナーテープ本体及び補強部とヒーターとのクリアランス距離を小として加熱することで溶着しファスナーテープを作製したこと以外は、実施例1と同様である。
【0035】
本実験では、表1に示す7条件にておのおのファスナーテープを作製し、JISL 1931-2に基づくパークロドライ試験後の剥がれの有無を測定した。また、ファスナーテープの美感の観点から、ファスナーテープ本体が、ファスナーテープ本体の主面に積層して溶着させた補強部から露出しているかの有無を目視により検査し、比較を行った。ファスナーテープ本体が補強部から露出している場合、美感の点から好ましくない。
【0036】
【表1】
【0037】
実験結果を表1に示す。比較例1のファスナーテープの含浸厚みdは20μm、d/Dは0.13であった。比較例1は補強部を接着しているため、ファスナーテープ本体の露出は無い。実施例1のファスナーテープの含浸厚みdは70μm、d/Dは0.50であり、ファスナーテープ本体の露出は無かった。実施例2のファスナーテープの含浸厚みdは70μm、d/Dは0.58であり、ファスナーテープ本体の露出は無かった。実施例3のファスナーテープの含浸厚みdは20μm、d/Dは0.14であり、ファスナーテープ本体の露出は無かった。実施例4のファスナーテープの含浸厚みdは20μm、d/Dは0.17であり、ファスナーテープ本体の露出は無かった。実施例5のファスナーテープの含浸厚みdは115μm、d/Dは0.82であり、ファスナーテープ本体の露出が一部あったが外観を大きく損なう程度ではなかった。実施例6のファスナーテープの含浸厚みdは100μm、d/Dは0.83であり、ファスナーテープ本体の露出が一部あったが外観を大きく損なう程度ではなかった。
【0038】
また、比較例1、実施例3、実施例4は耐パークロドライ洗濯後に同程度の剥がれがみられたが、実施例1~2、5~6は剥がれがみられなかった。
【0039】
(考察)
表1によれば、本発明に従って作製された各実施例は、単層構造を有する補強部を採用しながら、従来技術の剥がれやすさを基準とする場合、それと同程度以上の剥がれやすさを実現していることが分かった。すなわち、アンカーコート剤を使用することなく、簡便に、かつ、補強部とファスナーテープ本体との間の剥がれやすさが所定の基準を満たしているファスナーテープを提供することができた。これは、ファスナーテープ本体に補強部を含浸した上で固化させているので、補強部がファスナーテープ本体の繊維の間に入り込み、アンカー効果によってファスナーテープの剥がれにくさが向上したものと考えられる。
【0040】
また、補強部において、含浸厚みdと、補強シートの厚みDとの比d/Dを0.83以下、特に0.80以下とすることにより、ファスナーテープ本体の補強部からの露出を抑えることができ、外観不良を抑制したファスナーテープを得られることが分かった。
【0041】
(第2の実験)
架橋による効果を比較するために、架橋剤を添加した実施例7~12と、架橋剤を添加していない実施例13との剥離強度を比較した。
【0042】
(実施例7)
実施例7の構造は、上記実施形態に係るファスナーテープ10aと実質的に同様の形状である。ファスナーテープは、ファスナーテープ本体と、ファスナーテープ本体の少なくとも一方の主面に設けられた補強部とを備える。補強部は、例えばポリプロピレン系樹脂を含む単層であり、補強シートをヒーターにて200℃で3秒加熱することにより、ファスナーテープ本体に含浸固化されている。さらに、補強部とファスナーテープ本体とが架橋剤により架橋されている。表2に示す通り、ファスナーテープ本体をポリエチレンテレフタレート100重量部とし、補強部となる補強シート組成を100重量部とした場合に、ポリプロピレン94重量部、マレイン酸変性ポリプロピレン6重量部とし、架橋剤として環状カルボジイミド2重量部を添加して、ファスナーテープを作製した。なお、表2に示される重量部は、補強シート組成を100重量部とし、架橋剤は当該補強シート組成100重量部に対してさらに添加するものとして示される。
【0043】
(実施例8)
補強部となる補強シート組成を100重量部とした場合に、ポリプロピレン97重量部、マレイン酸変性ポリプロピレン3重量部とし、架橋剤として直鎖カルボジイミド6重量部を添加してファスナーテープを作製したこと以外は、実施例7と同様である。
【0044】
(実施例9)
補強部となる補強シート組成を100重量部とした場合に、ポリプロピレン98.5重量部、マレイン酸変性ポリプロピレン1.5重量部とし、架橋剤として環状カルボジイミド0.5重量部を添加してファスナーテープを作製したこと以外は、実施例7と同様である。
【0045】
(実施例10)
補強部となる補強シート組成を100重量部とした場合に、ポリプロピレン98重量部、マレイン酸変性ポリプロピレン2重量部とし、架橋剤として直鎖カルボジイミド4重量部を添加してファスナーテープを作製したこと以外は、実施例7と同様である。
【0046】
(実施例11)
補強部となる補強シート組成を100重量部とした場合に、ポリプロピレン91重量部、マレイン酸変性ポリプロピレン9重量部とし、架橋剤として環状カルボジイミド3重量部を添加してファスナーテープを作製したこと以外は、実施例7と同様である。
【0047】
(実施例12)
補強部となる補強シート組成を100重量部とした場合に、ポリプロピレン96重量部、マレイン酸変性ポリプロピレン4重量部とし、架橋剤として直鎖カルボジイミド8重量部を添加してファスナーテープを作製したこと以外は、実施例7と同様である。
【0048】
(実験例13)
補強部となる補強シート組成を100重量部とした場合に、ポリプロピレン96重量部、マレイン酸変性ポリプロピレン4重量部とし、架橋剤を添加せずにファスナーテープを作製したこと以外は、実施例7と同様である。
【0049】
本実験では、表2に示す7条件にて、それぞれファスナーテープを作製し、ファスナーテープの剥離強度(N)を測定した。以下に剥離強度の評価方法を示す。JISK6854-3に準じてT形剥離試験を行い評価した。被貼付物としては25μm厚の表面無処理PETフィルムを用い、貼付物として2mm厚の含浸フィルム用樹脂を用意した。その後PETフィルムと含浸フィルム用樹脂とを加熱溶着し、幅25mmにカットし試験片サンプルを作成した。その後引張試験機にて剥離強度を求め被着材を剥離するのに要した平均剥離力を求めた。また、補強部の黄変の有無を目視により検査し、比較を行った。
【0050】
【表2】
【0051】
実験結果を表2に示す。実施例7の剥離強度は35Nであり、実施例8の剥離強度は25Nであり、実施例9の剥離強度は20Nであり、実施例10の剥離強度は20Nであり、実施例11の剥離強度は38Nであり、実施例12の剥離強度は22Nであり、実験例13の剥離強度は1Nであった。また、実施例7~10、13では補強部の樹脂が黄色く変色する黄変がみられなかったが、実施例11~12では黄変がみられた。黄変は美感の点から好ましくない。
【0052】
これらの結果から、補強部の組成としてマレイン酸変性ポリプロピレンを添加した場合、架橋剤として環状カルボジイミド及び直鎖カルボジイミドのいずれを使用した場合においても、架橋剤の添加量を増加させるごとに、強い剥離強度を実現できる傾向があることがわかった。また、環状カルボジイミドのほうが直鎖カルボジイミドよりもより強い剥離強度が実現できることがわかった。この結果より、架橋剤は、好ましくはカルボジイミドであり、より好ましくは0.5~8重量部添加されており、さらに黄変を抑制したファスナーテープを得るためには、直鎖カルボジイミド4~6重量部、または環状カルボジイミド2~3重量部が添加されていることが、剥離強度の向上と黄変防止のバランスの観点から好ましい。
【符号の説明】
【0053】
10a、10b ファスナーテープ
11a、11b ファスナーテープ本体
12a、12b 補強部
30 スライドファスナー
32a、32b 務歯列
33 スライダー
35 箱棒
36 箱体
37 蝶棒
図1
図2
図3