(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】磁気的ギヤを備える計時器用機構
(51)【国際特許分類】
G04B 19/02 20060101AFI20221025BHJP
F16H 49/00 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
G04B19/02 B
F16H49/00 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021110470
(22)【出願日】2021-07-02
【審査請求日】2021-07-02
(32)【優先日】2020-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-ジャック・ボルン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-ピエール・ミニョー
(72)【発明者】
【氏名】マティアス・インボーデン
(72)【発明者】
【氏名】セドリック・ニコラ
【審査官】森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-051057(JP,A)
【文献】特開2008-290812(JP,A)
【文献】特開昭58-170964(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102008060284(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B
G04C
F16H
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の車(4)と第2の車(6)によって形成された磁気的ギヤ(3)を備える計時器用機構であって、
前記第1の車には、環状に配置され第1の磁気的歯列(9)を形成するN個の第1の交番構成の磁極があり、
前記第2の車には、強磁性体によって作られた歯、又は交番構成であり環状に構成している第2の磁極があり、前記歯又は前記第2の磁極は、前記第1の磁気的歯列
(9)と磁気的に
結合して磁気的結合をなす第2の磁気的歯列(7)を形成し、これによって、
前記磁気的ギヤ(3)を形成し、
前記計時器用機構は、さらに、前記磁気的結合に起因して前記第1の車
(4)に与えられる磁気的外乱トルク(10)の少なくとも大部分を前記第1の車
(4)に対してオフセットするように構成している強磁性要素(12、12A、16)又は強磁性要素のセット(24、26)を備え、
前記磁気的外乱トルク
(10)は、前記第1の車
(4)の
中心軸(32)と前記第2の車
(6)の
中心軸(34)を通る基準半軸(30)に対する前記第1の車
(4)の角位置(α)に応じて強度が周期的に変動する
ことを特徴とする計時器用機構。
【請求項2】
前記強磁性要素又は前記強磁性要素のセットは、前記基準半軸(30)に対する前記第1の車の角位置に応じて強度が周期的に変動する磁気的補償トルク(18)を発生させるように構成しており、
前記磁気的補償トルクと前記磁気的外乱トルクは、実質的に180°位相シフトしている
ことを特徴とする請求項1に記載の計時器用機構。
【請求項3】
前記強磁性要素又は前記強磁性要素のセットは、前記基準半軸(30)と、及び前記第1の車の中心軸(32)とを含む対称平面(36)に対して対称である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の計時器用機構。
【請求項4】
前記強磁性要素又は前記強磁性要素のセットは、前記第1の車にて全体的補償用磁気的引力を発生させるように構成しており、この全体的補償用磁気的引力は、前記基準半軸(30)に整列しており、前記第2の車が前記第1の車に与える全体的磁気的引力とは反対方向を向いている
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の計時器用機構。
【請求項5】
前記強磁性要素(12、16、22)には、前記第1の磁気的歯列(9)の方向にて延在している2つの端部分(13、14)と、これらの2つの端部分を接続している中間部分(12A、16A、22A)があり、
前記端部分(13、14)はそれぞれ、前記基準半軸(30)に対して、(M-1/2)×360°/Nである角度にて位置しており、ここで、Mは、1よりも大きくNよりも小さい整数である
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載される計時器ムーブメント。
【請求項6】
前記強磁性要素(16)には、さらに、前記中間部分(16A)から前記第1の磁気的歯列(9)の方向に突出する補償部分(15)があり、
前記補償部分は、前記基準半軸(30)に対して180°の角度に位置しており、前記補償用磁気的引力の大部分を形成するようにはたらく
ことを特徴とする請求項4を引用する場合の、請求項5に記載の計時器機構。
【請求項7】
前記強磁性要素(22)の前記中間部分(22A)は、前記基準半軸(30)から測定して180°である角位置の方向において、前記中間部分が前記第1の磁気的歯列(9)に近く、これによって、前記180°である角位置にてこの第1の磁気的歯列からの距離が最小になるように構成している
ことを特徴とする請求項4を引用する場合の、請求項5に記載の計時器機構。
【請求項8】
前記強磁性要素のセットには、2つの要素(24、26)があり、
この要素(24、26)のそれぞれは、前記基準半軸(30)に対して、(M-1/2)×360°/Nである角度に配置され、ここで、Mは、1よりも大きくNよりも小さい整数である
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の計時器用機構。
【請求項9】
前記強磁性要素のセット(24、26)は、前記第1の車の中心軸(32)を含み前記基準半軸(30)に垂直な幾何学的平面(38)に対して、前記第2の車(6)とは反対側に、
大部分が配置されている
ことを特徴とする請求項4又は請求項4を引用する場合の、請求項8に記載の計時器用機構。
【請求項10】
前記強磁性要素のセット(24、26)は、前記第1の車の中心軸(32)を含み前記基準半軸(30)に垂直な幾何学的平面(38)に対して、前記第2の車(6)とは反対側に、全体が配置されている
ことを特徴とする請求項4又は請求項4を引用する場合の、請求項8に記載の計時器用機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気的なギヤ連係関係にある第1の車と第2の車によって形成される磁気的ギヤの分野に関する。前記第1の車は、環状に構成しており第1の磁気的歯列を形成している第1の磁極を備え、前記第2の車は、強磁性体によって作られた歯又は第2の磁極を備え、これらの歯又は第2の磁極は、環状に配置され、第2の磁気的歯列を形成している。
【0002】
特に、本発明は、磁気的ギヤを組み入れた計時器用機構に関する。
【背景技術】
【0003】
図1は、交番構成であり半径方向に磁化された6つの双極性磁石8を備える小径車4と、大径車6とを備える磁気的ギヤ2を示している。これらの6つの磁石は、小径車4の中央部分のまわりに規則的に配置されており、これによって、6つの磁気的歯がある磁気的歯列9を形成する。前記大径車6は、前記小径車も延在している基本平面内に配置され、前記大径車6には、周部歯列7がある強磁性のリムがある。小径車4には、この小径車4の回転軸を定める中心軸32があり、大径車6には、中心軸34がある。大径車6も回転するような一般的な場合においては、この大径車6の中心軸34はこの大径車6の回転軸を定める。特定の場合において、大径車は、支持体(計時器用ムーブメントのプレートやブリッジ)に固定され、小径車は、この小径車が駆動デバイスによって回転駆動されているときに、大径車の周部にて回転するように構成している。
【0004】
図2は、小径車4が大径車6の中心軸34を中心とした幾何学的な円の上を回転して「転がる」ときに小径車4に与えられる磁気的外乱トルクの曲線10を示している。この磁気的外乱トルクは、小径車4の角位置αに応じて強度が周期的に変動する。この角位置αは、小径車4の回転軸32を起点として大径車6の中心軸/回転軸を通る基準半軸30から測定される。定義によると、基準半軸30は、小径車4の回転軸に垂直である。
図2に示しているように、正弦曲線10の周期は、連続する2つの双極性磁石の間の中心角に対応し、したがって、磁気的ギヤ2が1ステップ進むごとに小径車が動く角度に対応する。すなわち、小径車4は、基準半軸30に整列された1つの双極性磁石(磁気的歯を形成するもの、又は伝統的な機械的ギヤと同様に、2つの磁気的歯の間の空間に対応するもの)から、次の双極性磁石(次の磁気的歯又は2つの磁気的歯の間の次の空間を形成するもの)へと動くように回転し、次に、この次の双極性磁石がこの基準半軸に整列し、これによって、これと同時に、大径車6が回転して(又は小径車の回転軸が大径車の中心軸34を中心に回転する)、基準半軸に整列された1つの歯から次の歯へと動き、次に、この次の歯は、この基準半軸に整列する。なお、大径車にも、対応する磁気的外乱トルクが与えられる。図をわかりやすくするために、
図1において矢印で示している回転角/角位置は、基準半軸30を補う関係の半軸(これら2つの半軸が一緒に幾何学的な軸を形成する)を利用して測定され、したがって、α-180°に対応する。
図2における点Aは、ゼロ又は360°/Nの整数倍である角度αに対応する。ここで、Nは、双極性磁石8の数であり、したがって、磁気的歯列9の磁気的歯の数である。したがって、360°/Nの角度は、磁気的歯列9の角周期又は角ピッチに対応する。
【0005】
図2のグラフの点Aと点Eにおける磁気的ギヤ2の角位置は、この磁気的ギヤの平衡における安定位置に対応しており、点Cにおける磁気的ギヤの角位置は、平衡における不安定位置に対応する。
図2のグラフの点Bと点Dは、2つの最大強度(それぞれ正と負)に対応しており、したがって、磁気的外乱トルクの振幅に対応している。なお、磁気的外乱トルクは、2つの車の間でトルクが伝達されていない状態で発生する。この磁気的外乱トルクは、双極性磁石8を大径車6の強磁性要素の歯の前に動かす傾向があり、これによって、基準半軸30上で小径車4の磁極と大径車6の強磁性要素の歯を整列させる傾向がある(曲線10の点A及び点Eにおける状況)。このとき、2つの車の角位置は、磁気的ギヤの最小の位置エネルギーに対応している。
【0006】
磁気的外乱トルクは、かなり大きいことがあり、場合によっては、磁気的ギヤの2つの車の間で伝達可能な磁気的トルクと同じくらいであることがある(又はさらに大きい)。この外乱トルクを克服するためには、2つの車のうちの一方の車を駆動している駆動デバイスが、磁気的ギヤにて伝達される磁気的トルクよりもはるかに大きなトルクを与えることができる必要があり、このことによって、ブロックされることを防ぐ。このようなブロックが発生すると、エネルギー消費を無駄に大きくしてしまう。また、外乱トルクは、正弦波的に変動するために、磁気的ギヤにおいて伝達される磁気的トルクに比較的大きな変化をもたらす。実際に、小径車4が正の回転方向に駆動されたときに、外乱トルクは、磁気的歯列9の第1の半角周期の間に、基準半軸30上の双極性磁石8の各整列位置から、この小径車4を制動し、この第1の半角周期に続く第2の半角周期の間にこの小径車4を駆動する(
図2参照)。同じことが、大径車6にも、その磁気的歯列7の各磁気的周期にわたって当てはまるが、数学的な正負の符号は逆になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような磁気的ギヤにおける磁気的外乱トルクの課題を、この外乱トルクの少なくとも大部分をなくすことによって克服することを目的とする。
【0008】
このために、本発明は、第1の車と第2の車によって形成された磁気的ギヤを備える計時器用機構に関し、前記第1の車には、環状に配置され第1の磁気的歯列を形成するN個の第1の交番構成の磁極があり、前記第2の車には、強磁性体によって作られた歯、又は交番構成であり環状に構成している第2の磁極があり、前記歯又は前記第2の磁極は、前記第1の磁気的歯列と磁気的に結合している第2の磁気的歯列を形成し、これによって、前記第1及び第2の車の一方の車が回転駆動されているときに、前記第1の車は、前記磁気的結合を介して、前記第1及び第2の車の他方の車を中心としており前記他方の車とリンクしている幾何学的な円の上を転がる。本発明によると、前記計時器用機構は、さらに、前記磁気的結合に起因して前記第1の車に与えられる磁気的外乱トルクの少なくとも大部分を前記第1の車に対してオフセットするように構成している強磁性要素又は強磁性要素のセットを備え、前記磁気的外乱トルクは、前記第1の車の前記中心軸から始まり前記第2の車の前記中心軸を通る基準半軸に対する前記第1の車の角位置に応じて、強度が周期的に変動する。
【0009】
なお、前記2つの車のうちの一方の車が、他方の車を中心としておりこの他方の車にリンクされた幾何学的な円の上を転がることは、機械的な接触をせずに行われ、前記幾何学的円の半径は、前記2つの車それぞれの角ピッチと、前記2つの車の対応する中心軸の間の距離に依存する。「磁気的トルク」とは、磁力のトルクを意味する。
【0010】
主な実施形態において、前記強磁性要素又は前記強磁性要素のセットは、前記基準半軸に対する前記第1の車の角位置に応じて強度が周期的に変動する磁気的補償トルクを発生させるように構成しており、前記磁気的補償トルクと前記磁気的外乱トルクは、実質的に180°位相シフトしている。
【0011】
好ましい変種において、前記強磁性要素又は前記強磁性要素のセットは、前記基準半軸と、及び前記第1の車の中心軸とを含む対称平面に対して対称である。
【0012】
好ましい変種において、前記強磁性要素又は前記強磁性要素のセットは、前記第1の車にて全体的補償用磁気的引力を発生させるように構成しており、この全体的補償用磁気的引力は、前記基準半軸に整列しており、前記第2の車が前記第1の車に与える全体的磁気的引力とは反対方向を向いている。以下、添付の図面を参照しながら本発明について詳細に説明する。これは、例として与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】既に説明しており、従来技術による磁気的ギヤを示している。
【
図2】既に説明しており、
図1の磁気的ギヤにおいて発生する磁気的外乱トルクを示しているグラフである。
【
図3】本発明に係る磁気的ギヤを組み入れた機構の第1の実施形態を示している(磁気的ギヤのみを示している)。
【
図4】
図3の磁気的ギヤが関わる、追加の強磁性要素が発生させる磁気的補償トルクを示しているグラフである。
【
図5】
図3の磁気的ギヤにおける残留磁気的外乱トルクを示しているグラフである。
【
図6】本発明に係る第1の実施形態の第1の変種を示している。
【
図7】本発明に係る第1の実施形態の第2の変種を示している。
【
図8】本発明に係る磁気的ギヤを組み入れた機構の第2の実施形態を示している(磁気的ギヤのみを示している)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、
図3~7を参照しながら本発明に係る磁気的ギヤの第1の実施形態について説明する。
【0015】
図3~5に示している第1の変種において、磁気的ギヤ3は、
図1を参照しながら上で説明した第1の車4と第2の車6によって形成されている。一般的に、第1の車には、環状に構成しているN個の第1の交番構成の磁極があり、これらは、第1の磁気的歯列を形成している。関心事の変種において、第1の車4は、磁化方向が半径方向である6つの双極性磁石を備え、6つの外側磁極が第1の磁気的歯列9を形成している。磁極性が交番構成であるように磁極が環状に配置されているので、これらの磁極の数は偶数である。一般的に、第2の車は、強磁性体によって作られた歯を備え、あるいは環状に構成している第2の交番構成の磁極を備える。これらの歯又は第2の磁極は、第1の磁気的歯列と磁気的に結合する第2の磁気的歯列を形成し、これによって、第1及び第2の車の一方の車が回転駆動されると、この一方の車が、磁気的結合を介して、他方の車を中心としておりこの他方の車とリンクしている幾何学的な円の上を転がる。関心事の変種において、第2の車6には、強磁性体によって作られたリムがあり、このリムは、その外周部にて、第2の磁気的歯列7を形成する歯を形成する。これらの2つの車4、6は同じ基本平面内に延在しており、それらの磁気的歯列どうしが接触しないように構成している。2つの車4及び6の間に発生する磁気的外乱トルクについては、
図2を参照しながら上にて説明してある。
【0016】
前記磁気的外乱トルクをオフセットするために、磁気的ギヤ3は、さらに、強磁性要素12を備え、この強磁性要素12は、2つの車4及び6の間の磁気的結合に起因する第1の車に与えられる磁気的外乱トルク(
図2の曲線10)の少なくとも大部分を、オフセットするように、したがって、相殺するように、第1の車4に対して配置される。
【0017】
強磁性要素12は、好ましくは、磁気的ギヤ3の2つの車の基本平面内に配置される。この強磁性要素12には、第1の車4の第1の歯列9の方向にて延在している2つの端部分13、14がある。第1の端部分14は、90°である角位置に位置しており、第2の端部分13は、270°である角位置に配置されている。一般的に、各端部分は、基準半軸30に対して、(M-1/2)×360°/Nである値の角度に配置される。ここで、Mは、1よりも大きくNよりも小さい整数である。なお、複雑な変種の1つにおいて、2つの端部分に加えて、前記数式において1~Nの範囲内の値Mによって定められる角度のうちの異なる角度にそれぞれが位置するような他の突出部分を設けることもできる。このような2つの端部分を中間部分12Aが接続する。この中間部分12Aは、第1の車4の基本平面内において第2の車6とは反対側に延在している部分環状の形状をしている。なお、この中間部分12Aは、第1の車4にて小さい磁気的トルクを発生させ、この磁気的トルクは、第2の車6が発生させる磁気的外乱トルクよりも、また、全体的に強磁性要素12が、主に2つの端部分13及び14が、発生させる磁気的補償トルクよりも、はるかに小さい。これらの2つの端部分13及び14は、中間部分が形成する円に対して、第1の車4の歯列9の方へと内側に回転するように構成しており、したがって、半径方向に向いている。
【0018】
強磁性要素12は、基準半軸30に対する第1の車4の角位置αの関数として
図4の曲線によって表される磁気的補償トルク18を発生させるように構成している。これは、磁気的外乱トルクの強度における周期的変動と同じ周期で、強度が周期的に変動している。好ましいことに、磁気的補償トルクと磁気的外乱トルクには、実質的に180°の位相シフトがある。好ましくは、強磁性要素12は、磁気的補償トルクの最大強度(振幅)が磁気的外乱トルクのものと実質的に等しくなるように構成している。
図5は、第1の車4に与えられる可能性のある残留磁気的トルクを示している。また、強磁性要素12、特に、その2つの端部分、には、基準半軸30及び第1の車4の中心軸32(回転軸)を含む対称平面36がある。この特徴は、強磁性要素12が第1の車4にて基準半軸30に垂直な向きの磁気的引力を発生させることを防ぐ上で有利である。このような磁気的引力は、第2の車6が第1の車4に与える全体的な半径方向の磁気的引力と垂直になって、これによって、このような垂直方向の磁気的引力は、回転軸32を定める関連づけられたベアリング(図示せず)における第1の車4のピボットの摩擦力を発生させてしまう。
【0019】
第1の変種の改良形態の1つにおいて、強磁性要素は、基準半軸30に整列しており第2の車6が第1の車4に与える全体的な半径方向の磁気的引力の方向とは反対の向きであるような全体的補償用磁気的引力を第1の車4にて発生させるように構成している。なお、第1の変種においては、部分環状の中間部分に起因する補償用磁気的引力がすでに小さくなっているが、この中間部分は、2つの端部分13、14の間に磁気抵抗が低い磁気的回路を形成するように主にはたらき、第1の車におけるその磁気的引力は、第2の車がこの第1の車に与える半径方向の磁気的引力よりもはるかに小さい。なぜなら、これらの2つの引力は、同じオーダーの大きさの力ではないからである。
図6及び7にそれぞれ示している第2の変種及び第3の変種は、当該改良形態に対応する特定の実施形態の主題を形成している。
【0020】
図6の第2の変種において、磁気的ギヤ3Aは、強磁性要素16を備え、この強磁性要素16には、前記の2つの端部分13、14に加えて、中間部分16Aから第1の歯列9の方向に突出する補償部分15がある。この補償部分15は、基準半軸30に対して180°の角度に位置しており、補償用磁気的引力の大部分を形成するようにはたらく。なお、補償部分15には、第1の車4に与えられる全体的な磁気的外乱トルクが大きくなるという課題がある。しかし、強磁性要素16は、2つの端部分13及び14が、第2の車6及び補償部分15によって第1の車4にてそれぞれ発生する2つの磁気的トルクの大部分、又は好ましくは実質的にすべて、をオフセットするように構成していることができる。好ましい変種の1つにおいて、補償部分の自由端が第1の磁気的歯列9から最小の距離にて第1の車の回転軸32を中心とする部分環状の輪郭を有し実質的にこの第1の磁気的歯列の角周期にわたって延在しているように補償部分を大きくすることで、(必要に応じて第1の磁気的歯列までの距離を長くしつつ)補償部分によって発生する追加の磁気的トルクを低減させることができる。当業者であれば、追加の磁気的トルクを可能なかぎり小さくするために、このような輪郭や、補償部分の自由端の角度的範囲を最適化する方法をわかるであろう。
【0021】
図7の第3の変種において、磁気的ギヤ3Bは、強磁性要素22を備え、この強磁性要素22の中間部分22Aは、基準半軸30から測った180°である角位置の方向にて、第1の車4の第1の磁気的歯列9に、より近く、したがって、この180°の角度の位置にてこの第1の磁気的歯列からの距離が最小となるように構成している。この第3の変種には、第1の車4に大きな磁気的トルクを発生させることなく、比較的大きな補償用磁気的引力、特に、第2の車6が第1の車4に与える全体的な半径方向の磁気的引力と実質的に等しいもの、を得ることを可能にするという利点がある。実際に、
図6に示しているように、中間部分22Aが発生させる磁気的トルクは、第2の変種の中間部分16Aが発生させる磁気的トルクよりも著しく低い。当業者であれば、第1の車に与えられる追加の磁気的トルクをさらに小さくするために、中間部分22Aの形状、特に、その中央部の形状、を最適化する方法をわかるであろう。
【0022】
図8を参照しながら、本発明に係る磁気的ギヤ3Cの第2の実施形態の好ましい変種について説明する。この磁気的ギヤ3Cには、第2の車6、特に、第2の磁気的歯列7、との磁気的結合に起因する、第1の車4に与えられる磁気的外乱トルク(
図2の曲線10)の少なくとも大部分をオフセットするための別の強磁性要素のセットの構成があるという特徴がある。強磁性要素のセットには、基準半軸30に対して、それぞれが異なる角度に配置される少なくとも2つの要素24及び26があり、その角度の値は、(M-1/2)×360°/Nである。ここで、Mは、1よりも大きくNよりも小さい整数である。
【0023】
第1の実施形態と同様に、一般的な変種において、強磁性要素のセットは、磁気的補償トルク18(
図4参照)を発生させるように構成しており、これも、基準半軸30に対する第1の車の角位置に応じて強度が周期的に変動し、前記磁気的補償トルクは、前記磁気外乱トルクと同じ角周期を有し、前記磁気外乱トルクに対して実質的に180°位相シフトしている。
【0024】
第1の好ましい変種において、強磁性要素のセットは、第1の車の中心軸32を含んでおり基準半軸30に垂直な幾何学的平面38に対して第2の車6とは反対側に大部分が配置されている。したがって、強磁性要素のセットは、全体的補償用磁気的引力を前記第1の車4にて発生させるように構成しており、この全体的補償用磁気的引力は、基準半軸30に整列しており、前記第2の車が前記第1の車に与える全体的な半径方向の磁気的引力とは反対方向を向いている。
図8に示している好ましい変種において、2つの要素24及び26によって形成される強磁性要素のセットは全体的に、第2の車6とは反対側にある幾何学的平面38の一方の側に配置されている。
【0025】
第2の好ましい変種において、強磁性要素のセットは、基準半軸30と、第1の車の中心軸32を含む対称平面36に対して対称である。
図8に示している好ましい変種も、この第2の好ましい変種の範囲内に含まれる。このような構成によって、前記の効果が得られる。
【符号の説明】
【0026】
3 磁気的ギヤ
4 第1の車
6 第2の車
7 第2の磁気的歯列
9 第1の磁気的歯列
10 磁気的外乱トルク
15 補償部分
12、16、22、24、26 強磁性要素
12A、16A、22A 中間部分
13、14 端部分
18 磁気的補償トルク
30 基準半軸
32、34 中心軸
36 対称平面