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特許7164700粘膜付着性分散ナノ粒子系およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】粘膜付着性分散ナノ粒子系およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/10 20060101AFI20221025BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20221025BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20221025BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20221025BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20221025BHJP
   A61K 31/58 20060101ALI20221025BHJP
   A61P 37/00 20060101ALI20221025BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20221025BHJP
   A61K 8/04 20060101ALI20221025BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20221025BHJP
   A61K 8/86 20060101ALI20221025BHJP
   A61K 8/9794 20170101ALI20221025BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20221025BHJP
   A61K 8/67 20060101ALI20221025BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20221025BHJP
   B82Y 5/00 20110101ALI20221025BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20221025BHJP
【FI】
A61K9/10
A61K47/38
A61K47/44
A61K47/34
A61K47/22
A61K31/58
A61P37/00
A61P11/02
A61K8/04
A61K8/73
A61K8/86
A61K8/9794
A61K8/92
A61K8/67
A23L33/10
B82Y5/00
B82Y40/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021501025
(86)(22)【出願日】2018-09-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-31
(86)【国際出願番号】 IB2018001073
(87)【国際公開番号】W WO2020053609
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】521012485
【氏名又は名称】リードバイオセラピューティクスリミテッド
【氏名又は名称原語表記】LEAD BIOTHERAPEUTICS LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100119378
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】ツァチェフ,クリスト,ツァチェフ
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-536182(JP,A)
【文献】特表2016-522251(JP,A)
【文献】特開2016-034918(JP,A)
【文献】特表2014-508796(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0359738(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-9/72
A61K47/00-47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的に許容される水性媒体とナノ粒子とを含む粘膜付着性分散ナノ粒子系であって、前記水性媒体は0.01~2.00w%のヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有し、前記ナノ粒子は分散相における0.10~10w%の量の固体脂質ナノ粒子(SLN)であり、この固体脂質ナノ粒子(SLN)の分散液は直径が15~100nmのナノ粒子を含み、ナノ粒子は天然植物または合成ワックスの群から選択された固体脂質20~99w/w部、d-α-トコフェリルポリエチレングリコール1000コハク酸塩(TPGS)0.01~20w/w部、総脂質の最大20w%の量の30%トコトリエノールを含有するレッドパームオイル濃縮物、およびそれらに組み込まれたコア活性物質0.00001~70w/w部から構成されていることを特徴とする粘膜付着性分散ナノ粒子系。
【請求項2】
粘膜付着性分散ナノ粒子系のヒドロキシプロピルメチルセルロースは、2500~5500cps(mPa.s)の粘度を有する、請求項1記載の粘膜付着性分散ナノ粒子系。
【請求項3】
前記固体脂質ナノ粒子(SLN)の組成物中の固体脂質は、カルナウバワックスである、請求項1又は2記載の粘膜付着性分散ナノ粒子系。
【請求項4】
前記水性媒体は、さらに緩衝液、等張塩および防腐剤を含む、請求項1~3のいずれか1項記載の粘膜付着性分散ナノ粒子系。
【請求項5】
前記固体脂質ナノ粒子(SLN)は、さらにポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60またはポリソルベート80から選択されるポリソルベート0.01~10w/w部を含む、請求項1~4のいずれか1項記載の粘膜付着性分散ナノ粒子系。
【請求項6】
前記ポリソルベートは、ポリソルベート40である、請求項5に記載の粘膜付着性分散ナノ粒子系。
【請求項7】
前記固体脂質ナノ粒子(SLN)のコアに組み込まれる活性物質は、薬学的に活性な化合物、および診断薬、生物学的製剤、食品サプリメント、化粧品、医療用具として使用される物質から選択されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項記載の粘膜付着性分散ナノ粒子系。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項記載の粘膜付着性分散ナノ粒子系の製造方法であって、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを水に溶解して水溶液を形成し、その後得られた水溶液を固体脂質ナノ粒子の分散液に加えて撹拌しながら徐々に20℃±2℃まで冷却し、前記分散液に脂質化合物、d-α-トコフェリルポリエチレングリコール1000コハク酸塩(TPGS)、30%トコトリエノールを含有するレッドパームオイル濃縮物および活性物質を混合し、得られた混合物を90℃±2℃まで加熱して溶融し、均質化するまで攪拌し、その後得られた混合物に撹拌しながら水を加えて90℃±2℃まで加熱して調製することを特徴とする、粘膜付着性分散ナノ粒子系の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に鼻孔、肺、眼、口腔、喉、直腸、膣などの表面のように強い生理学的クリアランスを有する表面へ投与することにより、薬学、医学および化粧品に適用できる粘膜付着性分散ナノ粒子系、ならびにそのような粘膜付着性分散ナノ粒子系を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
治療用粒子の効果的な透過および吸収の前に立ちふさがる主な障害は、活性物質の捕捉された粒子を生理学的に除去する粘膜バリアであることが知られている。適用された薬剤の生理学的クリアランスを克服することを目的とした付着性送達系について記述した多くの科学出版物、特許出願および特許がある。粘膜付着は、治療の有効性が高いため、最も広く使用されているアプローチである。全身的効果も局所的効果もあるため、口腔、頬部、鼻孔、直腸および膣経路用に多くの粘膜付着性薬物送達系が開発されてきた(アフジャ・A、カール・RK、アリ・J.「粘膜付着性薬物送達系」Drug Dev Ind Pharm.1997;23:489-515)。粘膜付着性薬物送達系の製剤設計は、適切なポリマーの選択に依存する。粘膜付着性ポリマーは、ヒドロキシル、カルボキシル、アミド、および硫酸塩などの多数の親水性基を有することが知られている。これらの親水性基は、水素結合や疎水性相互作用または静電相互作用などの様々な相互作用によって粘液または細胞膜に付着する。これらの親水性基はまた、ポリマーを水中で膨潤させ、したがって最大数の付着部位を露出させる。
【0003】
種々の液体粘膜付着性系が知られており、従来の剤形の調製に使用されている。このような粘膜付着性系は、液体医薬媒体に様々な粘膜付着性化合物、増粘剤、例えばHPMCなどの水溶性C1-C4アルキルセルロース誘導体を添加することによって調製される。粘膜付着性化合物は、粘膜組織の治療において薬学的に活性な成分の持続的付着、およびそれによって改善された効力を提供するのに有用であり得る。/US5976573号;US6319513号;US4603131号;WO9938492;W02007049102号/
【0004】
粘膜毛様体クリアランスを克服するために開発された活性物質の送達のための種々の粘膜付着性/非付着性粒子系が、文献および特許出願に記載されている。
【0005】
WO2009141388号は、上記病理学的反応に関与する少なくとも1つの抗原に対して特異的寛容を誘導することによって、個体の免疫系の病理学的反応を予防および/または治療するように適合された粘膜付着性組成物を記載している。この組成物は、病理学的反応に関与する上記少なくとも1つの抗原が負荷されたキトサン粒子を含み、負荷されたキトサン粒子のサイズは800nmを超える。キトサンの粒子は正電荷を帯びており、粘膜付着性がある。
【0006】
WO2013188979号は、粘膜付着性ナノ粒子送達系を記載している。ナノ粒子は、ナノ粒子の表面が標的部分でコーティングされるような方法で、粘膜標的部分に結合された両親媒性高分子から形成される。標的化部分の表面密度は、粒子の安定性を実質的に損なうことなく、ナノ粒子を粘膜部位に調節可能に標的化するように調整することができる。粘膜標的化部分は、フェニルボロン酸誘導体、チオール誘導体またはアクリレート誘導体から選択され、親水性部分の上記機能的部分の少なくとも一部が粘膜標的化部分に結合されている。粒子は、粘膜部位で高い負荷効率および徐放特性を有することが見出された。
【0007】
WO2017075565号は、ポリマーナノ粒子を、1以上の表面修飾剤でコーティングされた粘液透過性粒子(MPP)として記載している。表面修飾剤は、表面修飾されていない同等のナノ粒子と比較して粘膜全体にわたる修飾ナノ粒子の拡散を増強するのに十分な密度で粒子の表面をコーティングする。ナノ粒子は、分子量が10kD~40kDのポリエチレングリコール(PEG)で十分高密度にコーティングできる。
【0008】
US8242165号は、タキサンおよび他の活性物質を鎮痛剤(例えばモルヒネおよびモルヒネ同族体、オピオイド鎮痛剤、非オピオイド鎮痛剤など)として癌に罹患している対象に局所的または標的化して送達するための粘膜付着性ナノ粒子を記載している。ナノ粒子は、疎水性コアと、疎水性コアを囲む親水性表面層で形成されている。疎水性コアは、液体または固体状態のグリセリルモノ脂肪酸エステルで構成され、親水性表面層はキトサンを含んでいる。ナノ粒子は、約0.1%~約5%の量の乳化剤(例えばポリビニルアルコール)および/またはそれらの調製に使用され得る酸(例えばクエン酸)を含むことができる。局所的送達または標的化送達のための粘膜付着性ナノ粒子は、直径が約5000nm未満で、球形または楕円形である。本発明によるナノ粒子は、固体脂質ナノ粒子のキトサンシェルに起因する粘膜付着特性を有する。粘膜付着性化合物は、サンプル中の癌細胞に対する治療薬の効果を増加させるが、この増加した治療効果は、ナノ粒子と、癌細胞の上および/または周囲でレベルが(非癌細胞と比較して)増加したムチンとの相互作用によるものである。機能化されたシェルは、肝臓への標的化と粘膜付着特性を与えて、粒子が粘液糖タンパク質と細胞膜に付着することを可能にする。
【0009】
シュナイダーは粘膜付着性粒子(MAP)を調査した結果、粒子径に関係なくinvivo肺の内腔から急速に除去されることを発見した。これは、以前に報告されたMAP中の活性物質で達成された、無担体の可溶性活性物質製剤と比較して好ましい結果は、粒子の粘膜付着自体ではなく、一部は粒子ベースの活性物質送達系に固有の利点に起因する可能性があることを示唆する。対照的に、著者はリポソームベースの粘液透過粒子(MPP)が気道粘液層全体に均一に分布して、改善された保持を示し、その結果として無担体の活性物質およびMAP製剤によって送達される活性物質と比較して改善された治療効果をもたらすことを報告している。これらの発見は、少なくとも直径300nmまでのMPPは、治療薬の肺送達を強化するためのMAPの使用に代わる魅力的な代替手段を提供することを示唆している(シュナイダーCS、XuQ、ボイランNJら)。粘液に付着しないナノ粒子は、吸入後の気道への均一で持続的な活性物質の送達を提供する(サイエンス・アドバンシス、2017;3(4):e1601556.doi:10.H26/sciadv.1601556)。
【0010】
WO2007125134号は、涙液膜特性を有する水溶液中のリポソーム小胞の製剤に関する。医薬リポソーム系は、転移温度が角膜表面の温度よりも低いホスファチジルコリンを使用し、粘膜付着性および/または粘膜模倣性ポリマーもしくは物質(ムチン、またはヒアルロン酸、セルロース誘導体、コンドロイチン硫酸塩、キトサン、コロミン酸、チオール誘導体などのポリマー、または他の同様の成分)も組み込んでいる。リポソームの平均粒子径は392~478nmである。
【0011】
固体脂質ナノ粒子(SLN)および脂質微粒子(LM)などの固体脂質粒子系が、活性化合物の輸送および送達のための代替担体であることも知られている。それらは多くの種々の投与経路に有利であり、適用分野は特に組み込まれた活性物質の種類に依存する。活性物質は、通常は生分解性および/または生体適合性である脂質マトリックスにカプセル化されている。活性物質の放出は、拡散、溶解および/またはマトリックスの分解の結果として起こり得る。さらに、これらの系は活性物質を特定の組織に送達でき、制御放出療法を提供し得る。そのような標的化された持続的な活性物質の送達は、活性物質に関連する毒性を減少させ、より少ない頻度の投薬により患者の服薬順守を高めることができる。
【0012】
2017年に、N.ナフィーは、粘液中でより速い拡散速度を示した、ポロキサマー、ツインおよびPVAでコーティングされたSLNについて記述した(N.ナフィー、K.フォリエ、K.ブレックマンズ、M.シュナイダー「嚢胞性線維症の治療のための粘液透過性固体脂質ナノ粒子:概念実証、課題および落とし穴」欧州薬理学雑誌、2017)。
【0013】
WO2017097783号は、SLNを含む免疫原性組成物を対象としており、SLNはアミノアルキルグルコサミニドホスフェート(AGP)を含む。本発明で使用するのに選好される脂質は、グリセロールのベヘン酸塩である。本発明の幾つかの実施形態では、SLNはカチオン性である。カチオン性SLNは、例えば舌下粘膜上のポリアニオン性ムチンコーティングとの静電相互作用によって粘膜付着を引き起こす可能性がある。他の実施形態では、SLNはメチルグリコールキトサンでコーティングされたSLNである。組成物中のSLNの平均サイズは30~200nmである。組成物は、舌下投与などの経粘膜経路を介して投与される。
【0014】
粘液層を含む上皮表面上に組成物を持続的に滞留させ、粒子が層を貫通して完全に吸収されることを可能にすることを目的とした粘膜付着性担体中の固体脂質ナノ粒子の既知の組成物はない。
【発明の概要】
【0015】
本発明の目的は、SLNに組み込まれる活性物質の効力を増加させ、それらの輸送および送達のための制御可能なデポ効果を備えた安全な粘膜付着性分散ナノ粒子系を、単純化された効果的な製造方法を用いて作成することであり、この系は適用された上皮表面上に連続膜を形成でき、低粘度および高付着性を有し、毒性がなく、分散SLNと適合性があり、このSLNは高い親油性を有し、in vitro溶解プロファイルが極めて低く(またはなく)、そのため分散液中に活性物質を保存し、リパーゼ耐性と、自由に細胞膜を通って細胞内に浸透して細胞内侵食によって活性物質を放出する能力の双方を示す。
【0016】
本発明の目的は、0.01~2.00w%のヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有する水性媒体中に、活性物質の細胞内放出のための0.10~10w%の分散固体脂質ナノ粒子(SLN)を含む粘膜付着性分散ナノ粒子系の製剤設計によって達成される。前記SLN分散液は直径15~100nmのナノ粒子を含み、これらのナノ粒子は天然植物または合成ワックスの群から選択された固体脂質20~99w/w部、d-α-トコフェリルポリエチレングリコール1000コハク酸塩(TPGS)0.01~20w/w部、総脂質の最大20w%の量の30%トコトリエノールを含有するレッドパームオイル濃縮物、およびそれらに組み込まれたコア活性物質0.00001~70w/w部から構成されている。
【0017】
本発明による粘膜付着性分散ナノ粒子系のヒドロキシプロピルメチルセルロースは、2500~5500cps(mPa.s)、好ましくは3000~5000cps(mPa.s)、より好ましくは3200~4800cps(mPa.s)の粘度を有する(ウベローデ粘度計、2wt%水溶液、20℃、USPに準拠)。その水溶液は、粘液層を含む上皮表面上に組成物を持続的に滞留させて、粒子が層を貫通して全に吸収されることを目的とした粘膜付着性担体を形成する。
【0018】
粘膜付着性分散ナノ粒子系は、さらに緩衝液、等張塩および防腐剤を含むことができる。
【0019】
好適な実施形態では、粘膜付着性分散ナノ粒子系のSLN組成物は、天然植物ワックスとしてカルナウバワックスを含む。この天然ワックスは、組成の複雑さに関連する結晶化度が低いために好ましい。カルナウバワックスは植物ワックスの中で最も硬いので好ましい。これは長鎖炭化水素組成と弱い架橋を持っているため、胃腸管と細胞間空間での酵素分解に耐性がある。カルナウバワックスは、完全なままの状態で活性物質を細胞内に輸送することができる。さらにカルナウバワックスは他の多くの脂質とは対照的に、人体中でヒトアルブミンや他の可溶性タンパク質とタンパク質コロナを形成しない。
【0020】
固体脂質ナノ粒子(SLN)のマトリックスに30%トコトリエノールを含有する脂質レッドパーム油濃縮物を含めることは、本発明の好適な実施形態である。液体脂質として、米ぬか油、小麦胚芽油、動物油など、他の脂質もトコトリエノールを多く含む天然および合成油として使用できる。本発明の液体脂質は、活性物質の組み込み能力を増すために、カルナウバワックスの強い結晶構造を部分的に弱めるのに役立つ。液体脂質の量は、脂質粒子内の液体ドメインの形成の閾値を超えてはならない。この閾値は動的であり、液体脂質の量を除いて粒子組成の残りの成分の性質と量に依存する。
【0021】
他の実施形態では、粘膜付着性分散ナノ粒子系の固体脂質ナノ粒子は、本発明に従いマトリックスの構造中に、さらにポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60またはポリソルベート80から選択されるポリソルベート0.01~10w/w部を含む。1つの好適な実施形態では、粘膜付着性分散ナノ粒子系の固体脂質ナノ粒子の表面活性剤として、本発明に従い、ポリソルベートはポリソルベート40である。
【0022】
d-α-トコフェリルポリエチレングリコール1000コハク酸塩(TPGS)がこれまで最も可能性のある排出ポンプ阻害剤であることが確定している一方で、ポリソルベートは頂端から側底への透過性を有意に増加させ、側底から頂端(BL-AP)への透過性を有意に減少させることが発見された。TPGSはCaco-2単層でのBL-AP透過性の低下を示す。ポリソルベートはペプチドトランスポーターを阻害する。文献データによればこの場合、TPGSとポリソルベートの併用は、P-gp阻害に対して相乗効果を発現するはずであると推測できる。ただし、膜流動性に対する反対の活動により逆の効果も可能であると見なすことができよう。ポリソルベートは流動化するが、TPGSは膜流動性を硬くする。そのためTPGSとポリソルベートの併用の結果の自明性は排除される。
【0023】
本発明による粘膜付着性分散ナノ粒子系に含まれる固体脂質ナノ粒子の分散液は、活性物質を組み込むためのマトリックスの構造を持つ固体脂質ナノ粒子を有しており、ここで活性物質が体液中に放出されるのを回避し、細胞消化を標的化することは、細胞内のみで達成され、間質、粘膜、消化器系の酵素分解、または粒子マトリックスからの拡散によって達成されるのではない。
【0024】
本発明により、粘膜付着性分散ナノ粒子系のSLNに組み込まれる活性物質は、活性物質、ならびに診断薬、生物学的製剤、食品サプリメント、化粧品、医療用具として使用される物質から選択される。
【0025】
本発明による粘膜付着性分散ナノ粒子系は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを水に溶解して水溶液を形成し、その後得られた水溶液を固体脂質ナノ粒子の分散液に加えて撹拌しながら徐々に20℃±2℃まで冷却し、前記分散液に脂質化合物、表面活性剤および活性物質を混合し、得られた混合物を90℃±2℃まで加熱して溶融し、これを均質化するまで攪拌し、その後得られた混合物に撹拌しながら水を加えて90℃±2℃まで加熱することによって調製される。
【0026】
本発明のSLN粘膜付着性分散ナノ粒子系の組成物の利点は次のとおりである。
-活性物質の効力の向上および輸送と送達のための制御可能なデポ効果により、薬剤の単回投与量を少なくとも20分の1に減らし、1日量を40~80分の1に減らすことができる。
-適用された上皮表面上に低粘度および高付着性の連続フィルムを形成する。
-粘膜付着性ポリマーから少量を使用することにより、適用された用量の保持時間を大幅に増加(87%増加)させるが、粘度は増加させない(33℃でわずか1.05cP増加)。
-系に含まれるSLNは無毒で、脂溶性が高く、in vitro溶解プロファイルが極めて低く(またはなく)、そのため分散液中に活性物質を保存し、リパーゼ耐性と、自由に細胞膜を通って細胞内に浸透して細胞内侵食によって活性物質を放出する能力の双方を示す。
-粘膜付着性分散ナノ粒子系は、単純化された効果的な製造方法を使用して製造される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施例2で説明するステビアの参照溶液(RS)と比較した、実施例1Bで組成物として説明するSLN粘膜付着性分散液(SLNMD)の鼻腔クリアランス時間を示す。p値は、シリーズMとM/Xの差の有意水準を表す。
図2】モメタゾン2.5mcg(シリーズM、n=12、正方形)またはモメタゾン/キシロメタゾリン2.5/5.0mcg(シリーズM/X、n=17、菱形)を負荷したSLNMDの投薬後の自由鼻呼吸時間(TFNB)を示す。平均±SE。p値は、シリーズMとM/Xの差の有意水準を表す。
図3】モメタゾン2.5mcg(シリーズM、n=12、正方形)またはモメタゾン/キシロメタゾリン2.5/5.0mcg(シリーズM/X、n=17、菱形)を負荷したSLNMDの投薬後の鼻孔分泌スコアを示す。平均±SE。p値は、シリーズMとM/Xの差の有意水準を表す。
図4】モメタゾン2.5mcg(シリーズM、n=12、正方形)またはモメタゾン/キシロメタゾリン2.5/5.0mcg(シリーズM/X、n=T7、菱形)を負荷したSLNMDの投薬後の鼻のかゆみスコアを示す。平均±SE。p値は、シリーズMとM/Xの差の有意水準を表す。
図5】モメタゾン2.5mcg(シリーズM、n=12、正方形)またはモメタゾン/キシロメタゾリン2.5/5.0mcg(シリーズM/X、n=17、菱形)を負荷したSLNMDの投薬後の鼻づまりスコアを示す。平均±SE。p値は、シリーズMとM/Xの差の有意水準を表す。
図6】モメタゾン2.5mcg(シリーズM、n=12、正方形)またはモメタゾン/キシロメタゾリン2.5/5.0mcg(シリーズM/X、n=17、菱形)を負荷したSLNMDの投薬後のくしゃみスコアを示す。平均±SE。p値は、シリーズMとM/Xの差の有意水準を表す。
図7】モメタゾン2.5mcg(シリーズM、n=12、正方形)またはモメタゾン/キシロメタゾリン2.5/5.0mcg(シリーズM/X、n=17、菱形)を負荷したSLNMDの投薬後の眼の刺激スコアを示す。平均±SE。p値は、シリーズMとM/Xの差の有意水準を表す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明をより詳細に、具体的に実施例を参照して説明するが、これらの実施例は本発明を限定することを意図するものではない。
【0029】
実施例1:本発明による、活性物質を含むおよび含まない態様における粘膜付着性分散ナノ粒子系の調製
【0030】
A. プラセボ1%粘膜付着性分散ナノ粒子系の調製
プラセボ1%粘膜付着性分散ナノ粒子系の調製のために、以下の化合物を使用する:固体脂質ナノ粒子(SLN)の分散液

化合物 含有割合(w/w部)
カルナウバワックス 1.00
レッドパーム油濃縮物(30%トコトリエノール) 0.20
d-α-トコフェリルポリエチレングリコール1000コハク酸塩(TPGS)
0.50
ポリソルベート40 0.70
HPMC 0.20
エデト酸ナトリウム 0.50
NaCl 0.80
水 100.00までの残部
【0031】
固体脂質ナノ粒子(SLN)の分散液を調製するために、カルナウバワックス、レッドパーム油濃縮物、d-α-トコフェリルポリエチレングリコール1000コハク酸塩(TPGS)およびポリソルベート40を混合する。混合物を90℃±2℃まで加熱して溶融させ、均一で透明な混合物が得られるまで撹拌する。NaClを溶解した必要量の水を90℃±2℃まで加熱して、攪拌しながら得られた均一な混合物に滴下する。
【0032】
得られた分散液を攪拌しながら20℃±2℃に冷却してナノ粒子分散液を得る。この分散液に一定量のエデト酸二ナトリウム塩を溶解する。
【0033】
0.2gのHPMCを用意した水の一部に溶解し、20ミクロンのフィルターでろ過し、最後にSLN分散液に添加して、粘膜付着性分散ナノ粒子系を生成する。
【0034】
B. 0.2%ステビアを含む1%粘膜付着性分散ナノ粒子系の調製
ステビアを使用した1%粘膜付着性分散ナノ粒子系の調製には、以下の化合物を使用する。

化合物 含有割合(w/w部)
カルナウバワックス 1.00
レッドパーム油濃縮物(30%トコトリエノール) 0.20
d-α-トコフェリルポリエチレングリコール1000コハク酸塩(TPGS)
0.50
ポリソルベート40 0.70
ステビア 0.20
HPMC 0.20
エデト酸ナトリウム 0.50
NaCl 0.80
水 100.00までの残部

【0035】
脂質ナノ粒子の分散液は、実施例1Aに記載されている手順に従って得られる。計算された量のステビアを、撹拌しながら粘膜付着性分散ナノ粒子系に添加する。
【0036】
C. 0.0025%フロ酸モメタゾンを含む1%粘膜付着性分散ナノ粒子系の調製
0.0025%のフロ酸モメタゾンを含む1%の粘膜付着性分散ナノ粒子系の調製には、以下の化合物を使用する。

化合物 含有割合(w/w部)
カルナウバワックス 1.00
レッドパーム油濃縮物(30%トコトリエノール) 0.20
d-α-トコフェリルポリエチレングリコール1000コハク酸塩(TPGS)
0.50
ポリソルベート40 0.70
フロ酸モメタゾン 0.0025
HPMC 0.20
エデト酸ナトリウム 0.50
NaCl 0.80
水 100.00までの残部
【0037】
脂質ナノ粒子の分散液は、実施例1Aに記載されている手順に従って得られる。計算された量のフロ酸モメタゾンを、加熱する前に脂質混合物に添加する。
【0038】
D. 0.0025%フロ酸モメタゾン/キシロメタゾリン0.005%を含む1.0%粘膜付着性分散ナノ粒子系の調製
0.0025%のフロ酸モメタゾン/キシロメタゾリン0.005%を含む1.0%の粘膜付着性分散ナノ粒子系の調製には、以下の化合物を使用する。

化合物 含有割合(w/w部)
カルナウバワックス 1.00
レッドパーム油濃縮物(30%トコトリエノール) 0.20
d-α-トコフェリルポリエチレングリコール1000コハク酸塩(TPGS)
0.50
ポリソルベート40 0.70
フロ酸モメタゾン 0.0025
キシロメタゾリン 0.005
HPMC 0.20
エデト酸ナトリウム 0.50
NaCl 0.80
水 100.00までの残部
【0039】
脂質ナノ粒子の分散液は、実施例1Aに記載されている手順に従って得られる。計算された量のフロ酸モメタゾンとキシロメタゾリンを、加熱する前に脂質混合物に添加する。
【0040】
F. 0.1%ロラタジンを含む3.0%粘膜付着性分散ナノ粒子系の調製0.1%ロラタジンを含む脂質ナノ粒子の調製には、以下の化合物を使用する。

化合物 含有割合(w/w部)
カルナウバワックス 3.00
レッドパーム油濃縮物(30%トコトリエノール) 0.60
d-α-トコフェリルポリエチレングリコール1000コハク酸塩(TPGS)
1.50
ポリソルベート40 2.10
ロラタジン 0.10
HPMC 0.20
エデト酸ナトリウム 0.50
NaCl 0.80
水 100.00までの残部
【0041】
脂質ナノ粒子の分散液は、実施例1Aに記載された手順に従って得られる。計算された量のロラタジンを、加熱する前に脂質混合物に添加する。
【0042】
実施例2:健康なボランティアによる粘膜付着性分散系の鼻孔粘膜付着性試験
【0043】
試験には、実施例1Bによる組成物を使用する。
【0044】
参照溶液1(RS1)の組成は、次のとおりである。

化合物 含有割合(w/w部)
ステビア 0.2
エデト酸ナトリウム 0.5
NaCl 0.8
水 100.00までの残部
【0045】
参照溶液2(RS2)の組成は、次のとおりである。

化合物 含有割合(w/w部)
ステビア 0.2
HPMC 0.2
エデト酸ナトリウム 0.5
NaCl 0.8
水 100.00までの残部
【0046】
参照溶液3(RS3)の組成は、次のとおりである。

化合物 含有割合(w/w部)
HPMC 0.2
エデト酸ナトリウム 0.5
NaCl 0.8
水 100.00までの残部
【0047】
参照溶液4(RS4)の組成は、次のとおりである。

化合物 含有割合(w/w部)
カルナウバワックス 1.00
レッドパーム油濃縮物(30%トコトリエノール) 0.20
d-α-トコフェリルポリエチレングリコール1000コハク酸塩(TPGS)
0.50
ポリソルベート40 0.70
エデト酸ナトリウム 0.5
NaCl 0.80
水 100.00までの残部
【0048】
組成物は、実施例1Aに記載の指示に従って調製された。
【0049】
調査対象
年齢24~60歳、平均40歳の健康な被験者12人(男性8人)は、40歳が調査への参加についてインフォームドコンセントに署名した。彼らの誰も臨床的に重大な慢性疾患はなく、また彼らの誰も定期的に薬を服用していない。現在喫煙している被験者はおらず、過去1か月以内にウイルス性呼吸器感染症に罹患した者はいない。耳鼻咽喉科の検査では、局所的な構造異常や炎症性疾患は認められなかった。
【0050】
調査設計
評価は、7日間隔の診察で行われた。診察中、粘膜付着性分散系の鼻腔クリアランス時間とステビアのRS溶液との間で二重盲検無作為化比較を行った。
【0051】
鼻腔クリアランス測定
ステビアの鼻腔クリアランスは、JEボーツマンらによって記述された方法の独自の修正によって行われた。[ボーツマンJE、カルホーンKH、ライアンMW副鼻腔炎の症状と粘膜毛様体クリアランス時間との関係。耳鼻咽喉科・頭頸部外科。2006、134:491-493]。
【0052】
簡潔に記述すると、100μLの粘膜付着性分散系またはステビア溶液のRS1またはRS2を、時間計測を開始した時点で両鼻孔の前庭に機械的ポンプ装置を備えた鼻孔スプレーによって適用した。被験者は、ストップウォッチで時間計測を行う実験者が合図したら飲み込むように指示された。被験者は最初の1分間頭を下げた後、頭を起こして口の中に甘味を感じるまで30秒ごとに飲み込むように言われた。
【0053】
統計分析
平均±SEMとして表される各調製の連続変数間の比較は、スチューデントの対応のあるt検定と多変量分散分析を用いて行われた。客観的測定と主観的測定の間の相関は、ピアソンの相関係数を用いて実行された。p<0.05の両側有意水準が導出された。
【0054】
結果
粘膜付着性分散系とRS1およびRS2の鼻腔クリアランス時間を図1に示す。
鼻腔クリアランス時間を含むすべてのデータは、1標本コルモゴロフ・スミルノフ検定による正規分布の基準に準拠した。
【0055】
図1に示すように、SLNMDをステビアのRS1およびRS2と比較した遅延クリアランス時間は、それぞれ9.58(±0.94)分、5.13(±0.69)分、6.04(±0.68)分であった。0.2%HPMCを含むRS2のクリアランス時間は、RS1のクリアランス時間との有意な差が見られなかったが、やはり0.2%HPMCを含んだSLNMDは、RS1と比較して87%の増加を示した(p<0.001)。RS1とRS2の間には強い正の相関が見られたのに対し(r=0.823)、SLNMDとRS1およびRS2の間には中程度の相関が見られた(それぞれr=0.509、r=0.585)。SLNMDのクリアランスの遅延は、HPMCのみがSLNMDの高い粘膜付着性を決定する組成の唯一の要因ではなく、分散成分の累積効果であることを示唆している。
【0056】
調査の結論
0.2%のレベルの少量の粘膜付着性ポリマーは、適用された用量の保持時間を実質的に増加させた(87%の増加)が、粘度は増加させなかった(SLNMDの場合、33℃でわずか1.05cPの増加)。
【0057】
実施例1Bによる組成物;実施例2によるRS3組成物;実施例2によるRS4組成物。
【0058】
保管温度と鼻腔内温度を想定して、2つの温度レベルで粘度測定を行う。25℃でのSLNMD2.7mPa.sの粘度は、標準スプレーポンプ装置から容易に噴霧するために十分低い。33℃での1.8mPa.sの粘度は、大きい粘膜表面に適用された用量をすばやく容易に分散させるのに十分低い。25℃と33℃の両方でSLNMDとRS3を比較すると、粘度に有意な差(p<0.001)が見られた。SLNMDは、同じ濃度(0.2%)のHPMCの水溶液より粘度が低く、粘膜付着性(鼻粘膜毛様体クリアランス)が高い。これらの違いによりSLNMDはより流れやすく、容易に噴霧でき、粘液分泌物と混合しやすく、より大きい粘膜表面を覆い、粘膜上に長く留まってより高いバイオアベイラビリティが確保される。
【0059】
実施例3:粘膜付着性分散ナノ粒子系に負荷された活性物質を用いた臨床調査研究
【0060】
A. 低用量のフロ酸モメタゾンを100mcl噴霧あたり2.5mcgの用量で負荷した粘膜付着性分散ナノ粒子系の臨床調査研究
【0061】
この臨床試験は、以下の目的で開発および設計された。
・活性物質を負荷した粘膜付着性分散ナノ粒子系の高い有効性に関する著者の独自のコンセプトを証明すること。
・粘膜付着性分散ナノ粒子系に負荷された低レベルの活性物質であるフロ酸モメタゾンを含む鼻孔用スプレーの効果を調査すること。
【0062】
作業仮説
通年性アレルギー性鼻炎の局所コルチコステロイド療法で通常の治療レベルを下げる唯一の可能性は、その粘液内層および間質腔内での損失のない細胞内送達である。本発明によれば、そのような効果的な細胞内送達は、粘膜付着性分散担体系の使用によってのみ可能である。
【0063】
調査設計
・フロ酸モメタゾンの粘膜付着性分散ナノ粒子系組成物は、実施例1Cに記載されているように、噴霧あたり2.5μgの用量を送達するスプレー形態で薬剤設計された。
・国立感染症・寄生虫病センターの免疫学およびアレルギー学科の通年性アレルギー性鼻炎と診断された12人の外来患者(女性8人と男性4人、18歳から69歳)が、調査へのボランティアにインフォームドコンセントを与え、製剤を「必要に応じて」各鼻孔に2回、1日4回以下噴霧するように指示された。
・この調査は、7日間のウォッシュアウトを伴うそれぞれ10日間の2つの期間からなるオープンな単回投与(参照製品なし)として設計された。ウォッシュアウト期間は、新しい薬剤の予想される滞留(デポ)効果に関する情報を収集するために使用した。
・症状(自由な鼻呼吸の時間を除く)は、0(症状の欠如)から100(症状の完全な発現)の範囲の視覚的アナログ尺度(VAS)によって評価した。
【0064】
・調査した症状は次のとおりである。
-スプレー使用後の自由な鼻呼吸(時間)
-鼻からの分泌物
-鼻のかゆみ
-鼻づまり
-くしゃみ
-眼の刺激
臨床試験中、患者の全体的な健康状態(または状態変化)を観察した。患者は各期間の最初と終了後に検査された。投薬の厳格な毎日の管理および患者カードへの適切な記録の措置に沿って1日1回患者に電話した。
【0065】
統計分析
平均±SEMとして表される連続変数間の比較は、スチューデントの対応のあるt検定と多変量分散分析を用いて行われた。p<0.05の両側有意水準が導出された。
【0066】
結果:
1.自由な鼻呼吸の時間(TFNB)
結果を図2、シリーズMに示す。0日目(ベースライン)と10日目および20日目(p=0)の間に鼻症状の有意な改善が観察された。調査の20日目に患者のVASで5.6時間平均TFNBが示された。TFNBは期間Iの7日目に持続時間のプラトーに達したが、これは期間IIでは早くも3日目に観察された。両期間の間に強い正の相関(ピアソンr=0.92)が見られた。期間IIの0日目にベースラインを294%上回る滞留効果が観察された。テスト中に鼻のリバウンドによる腫れは生じなかった。
【0067】
2.投薬期間中の鼻分泌スコア
結果を図3、シリーズMに示す。鼻症状の有意な改善(p<0.05)が観察された。最大の効果は、期間Iの4日目と期間IIの3日目に達成された。両期間の間に強い正の相関(ピアソンr=0.77)が見られた。期間IIの0日目にベースラインから32%減少した滞留効果が観察された。
【0068】
3.投薬期間中の鼻のかゆみ
結果を図4、シリーズMに示す。かゆみは期間Iの日数でほぼ消滅した。症状は期間Iの終わりまで徐々に減少したが、期間IIの6日目に最小に達し、それ以降は変化しなかった。両期間の間に強い正の相関(ピアソンr=0.83)が見られた。期間IIの0日目に、ベースラインから26%減少した滞留効果が観察された。
【0069】
4.投薬期間中の鼻づまりスコア
結果を図5、シリーズMに示す。20日目に症状が50%減少し、投薬中に鼻づまりの感覚が大幅に減少した(p<0.05)。症状は期間中に徐々に減少した。両期間の間に中程度の正の相関(ピアソンr=0.64)が見られた。期間IIの0日目に、ベースラインから23%減少した滞留効果が観察された。
【0070】
5.投薬期間中のくしゃみ
結果を図6、シリーズMに示す。くしゃみは投薬中に大幅に改善された(p<0.05)。治療期間中に段階的な減少が観察された。両期間の間に中程度の正の相関(ピアソンr=0.69)が見られた。期間IIの0日目に、ベースラインから31%減少した滞留効果が観察された。
【0071】
6.投薬中の眼の刺激
結果を図7、シリーズMに示す。投薬中の眼の刺激はほぼ消滅した。両期間の間に中程度の正の相関(ピアソンr=0.71)が見られた。期間IIの0日目にベースラインから93%減少した滞留効果が観察された。
【0072】
調査の結論
調査は、多年生アレルギー性鼻炎の症状に対する噴霧あたり2.5mcgの用量のフロ酸モメタゾンのSLNMDの試験期間中に、高い有効性、7日以上の滞留(デポ)効果、および優れた忍容性を示した。調査終了後の最後の検査では、鼻粘膜損傷の兆候は観察されなかった。
【0073】
B. 100mcl噴霧あたり2.5mcg/5mcgの用量のフロ酸モメタゾン/キシロメタゾリンの低用量の組み合わせを負荷した粘膜付着性分散ナノ粒子系の臨床調査研究
【0074】
この臨床試験は、以下の目的で開発および設計された。
-活性物質の組み合わせを負荷した粘膜付着性分散ナノ粒子系の高い有効性に関する著者の独自のコンセプトを証明すること。
-粘膜付着性分散ナノ粒子系に負荷された低レベルの活性物質の組み合わせであるモメタゾン/キシロメタゾリンを含む鼻腔用スプレーの効果を調査すること。
【0075】
作業仮説
-通年性アレルギー性鼻炎の局所コルチコステロイド療法で通常の治療レベルを下げる唯一の可能性は、その粘液内層および間質腔内での損失のない細胞内送達である。本発明によれば、そのような効果的な細胞内送達は、粘膜付着性分散担体系の使用によってのみ可能である。
-キシロメタゾリンは、鼻炎の症状に対するモメタゾンの効果を高める。したがって両活性物質を治療量以下の用量で適用することができ、副作用が減少しまたは副作用がない治療効果を確実にする。しかしながらそのような相乗効果は、サブ投与では観察されたことがない。そのような相乗効果についての著者の仮説は、粘膜付着性分散治療系の適用についての仮定のみに基づいている。
【0076】
調査設計
モメタゾンフロエート/キシロメタゾリンの粘膜付着性分散ナノ粒子系組成物は、実施例1Dに記載されているように、噴霧あたり2.5mcg/5.0mcgの用量を送達するスプレー形態で処方された。
【0077】
・多年生アレルギー性鼻炎と診断された国立感染症・寄生虫病センターの免疫学およびアレルギー学科の17人の外来患者(10人の女性と7人の男性、18歳から69歳)は、調査へのボランティアにインフォームドコンセントを与え、製剤を「必要に応じて」各鼻孔に2回、1日4回以下噴霧するように指示された。
・この調査は、7日間のウォッシュアウトを伴うそれぞれ10日間の2つの期間からなるオープンな単回投与(参照製品なし)として設計された。ウォッシュアウト期間は、新しい薬剤の予想される滞留(デポ)効果に関する情報を収集するため、他方で通常は充血除去剤の使用に関連する7日後の最終的なリバウンドによる腫れを観察するために使用された。
・症状は、0(症状の欠如)から100(症状の完全な発現)の範囲の視覚的アナログ尺度(VAS)によって評価された。
【0078】
・調査した症状は次のとおりである。
-スプレー使用後の自由な鼻呼吸(時間)
-鼻からの分泌物
-鼻のかゆみ
-鼻づまり
-くしゃみ
-眼の刺激
臨床試験中、患者の全体的な健康状態(または状態変化)を観察した。患者は各期間の最初と終了後に検査された。投薬の厳格な毎日の管理および患者カードへの適切な記録の措置に沿って1日1回患者に電話した。
【0079】
統計分析
平均±SEMとして表される連続変数間の比較は、スチューデントの対応のあるt検定と多変量分散分析を用いて行われた。p<0.05の両側有意水準が導出された。
【0080】
結果
7.TFNB
結果を図2、シリーズM/Xに示す。0日目から10日目および20日目までの間に鼻症状の有意な改善が観察された(p=0)。調査の20日目に患者のVASで15時間平均TFNBが示された。TFNBは治療期間中に徐々に増加した。両期間の間に強い正の相関(ピアソンr=0.87)が見られた。期間IIの0日目に、ベースラインを625%上回る滞留効果が観察された。試験中に鼻のリバウンドによる腫れは生じなかった。
【0081】
8.投薬期間中の鼻分泌スコア
結果を図3、シリーズM/Xに示す。鼻症状の有意な改善(p<0.05)が観察された。症状スコアは期間Iの間に徐々に減少したが、期間IIの7日目に最小に達した。両期間の間に強い正の相関(ピアソンr=0.82)が見られた。期間IIの0日目に、初期症状スコア(0日目、期間I、治療前)から25%減少した滞留効果が観察された。
【0082】
9.投薬期間中の鼻のかゆみ
結果を図4、シリーズM/Xに示す。かゆみは、期間Iの日数ほぼ消滅した。症状は期間Iの9日目まで徐々に減少したが、4日目に最小に達し、期間IIの終わりまで変化しなかった。両期間の間に弱い正の相関(ピアソンr=0.35)が見られた。期間IIの0日目に、ベースラインから17%減少した滞留効果が観察された。
【0083】
10.投薬期間中の鼻づまりスコア
結果を図5、シリーズM/Xに示す。投薬中の鼻づまりの感覚は有意に減少し(p<0.05)、20日目に症状が78%減少した。症状は期間中に徐々に減少した。両期間の間に中程度の正の相関(ピアソンr=0.73)が見られた。期間IIの0日目に、ベースラインから43%減少した滞留効果が観察された。
【0084】
11.投薬期間中のくしゃみ
結果を図6、シリーズM/Xに示す。くしゃみは、投薬の過程でほぼ消滅した。期間Iの7日目と期間IIの2日目に症状スコアの最小値に達した。両期間の間に弱い正の相関(ピアソンr=0.12)が見られた。期間IIの0日目に、ベースラインから57%減少した滞留効果が観察された。
【0085】
12.投薬中の眼の刺激
結果を図7、シリーズM/Xに示す。眼の刺激は、投薬の過程でほぼ消滅した。両期間の間に弱い正の相関(ピアソンr=0.26)が見られた。期間IIの0日目に、ベースラインから73%減少した滞留効果が観察された。
【0086】
調査の結論
調査は、多年生アレルギー性鼻炎の症状に対する噴霧あたり2.5mcg/5.0mcgの用量のフロ酸モメタゾン/キシロメタゾリンのSLNMDの試験期間中に、高い有効性、7日以上の滞留(デポ)効果、および優れた忍容性を示した。調査終了後の最後の検査では、鼻粘膜損傷の兆候は観察されなかった。
【0087】
C.SLNMDと使用した場合の低用量のモメタゾン/キシロメタゾリンの併用とモメタゾン単剤療法の交感神経様作用薬の付加価値の説明-臨床試験3Aと3Bの比較。
シリーズMとM/Xの両方でTFNBが大幅に増加したが(図2)、この組み合わせを負荷したSLNMDは、単回投与後の治療終了時により速く、かつ2.5倍長い15時間に達する効果を示した。期間Iの0日と比較して期間IIの0日での有意に高い初期時間は、SLNMDの持続的なデポ効果に関連している。7日間のウォッシュアウト期間中、シリーズMを使用したTFNBは大幅に低下したが、それでもベースラインを294%上回った。シリーズM/Xの同じ指数は625%であり、併用の効果の2倍以上に相当する。シリーズMはテスト期間の3日後にプラトーに達するが、シリーズM/Xは徐々に連続的にTFNBを増加させて20日目に15時間に達した。鼻づまりがコルチコステロイド単剤療法の欠点の1つである限り、鬱血除去薬との併用によってこの症状をより早く、より強力に治療することが期待された。しかし予想外だったのは、短時間作用型アルファ模倣キシロメタゾリンで7日以上の持続効果が達成されたことだった(効果は5~6時間持続することが一般に認められている)。粘膜付着の使用により経鼻投与された活性物質の効果を延長するための先行技術の方法が開示されているが、7日以上の効果の持続時間はこの現象だけでは説明できなかった。事実、本出願における粘膜付着は、活性物質の担体としての脂質粒子が鼻粘膜と接触する時間を延長し、続いて高度の吸収を提供するために使用されてきた。粒子の消化は細胞内で起こるので、吸収された粒子が効果を生み出す唯一の方法は、脂質の細胞内分解と遊離の活性物質の放出である。このような輸送系は、細胞内の作用機序を持つ活性物質に有効であることが期待される。そのため、コルチコステロイド(モメタゾン)の選択は合理的であると考えられる。他方で、細胞内に送達されるキシロメタゾリンの高い効力は予想外だったが、その作用機序は細胞外膜のアルファアドレナリン受容体を介するため、治療薬の20分の1のレベルであった。臨床試験からのこれらの発見は、著者に2つの方向で推測することを示唆した:
【0088】
-SLNMDは、2段階で長時間の作用を保証する。1.粘膜付着により高いバイオアベイラビリティに到達する。2.細胞内での分解が遅いため、効果が長続きする(7日以上)。
-SLNMDにカプセル化されたキシロメタゾリンは、細胞内の粒子の高いバイオアベイラビリティと遅い分解により、20倍(およびそれ以上)強力な効果を示す。治療中の粘膜虚血の発生は、活性物質送達の密接なメカニズムのために起こりそうにない。粘膜/細胞の酸素不足の状態は、ミトコンドリア機能を大幅に低下させ(逆もまた同様)、その結果、粒子の消化とAS送達を遅くする。このようにして、充血除去剤の送達量は「自己制御」されており決して過剰摂取しない。この仮定は、軽度から中等度のアレルギー性鼻炎の患者の即時の軽減と、急性炎症に関連するより重篤な状態の治療で観察された効果の遅れを説明することができる。
シリーズMとM/Xについて各症状の有意水準(p値)が計算され(図2~7)、データ母集団を比較した。予想通り、TFNBと鼻づまりの感覚はp<0.0001で有意差を示した。意外にもこの併用によりくしゃみをよりよくコントロールできた(p=0.0005)。残りの症状については、シリーズ間の有意性は見られなかった。
【0089】
総合的な結論
2つの臨床調査研究により、著者はアレルギー性鼻炎の治療におけるSLNMD系の使用について以下の一般的な結論を下した。
-SLNMDを使用すると、薬剤の単回投与量を少なくとも20分の1に減らすことができ、1日量の投与量を2~4分の1に減らすことができる。この減少は、製薬技術手段による効率の向上に基づいて、薬理作用の明確な説明とメカニズムを持っている。
-SLNMD系の脂質相に組み込まれた低用量コルチコステロイドに治療量以下の低用量での交感神経刺激薬を挿入することによる付加価値は、アレルギー性鼻炎のすべての症状を完全にカバーする、非常に効果的で、毒性がなく、忍容性が高く、長続きするアレルギー性鼻炎薬からなる。
-治療薬の20分の1の用量でのコルチコステロイドの使用、および治療薬の少なくとも20分の1の用量レベルでのコルチコステロイドと鬱血除去薬(キシロメタゾリン)の併用の使用は、最新の適用で提示されているような特別の担体系の内部でカプセル化された場合にのみ検出可能な治療効果を有することができる。
-コルチコステロイドと充血除去剤の投与量を減らすと(1日ベースで最大80分の1)、同じ薬の典型的な使用に関連する副作用がなくなる。これは小児科で特に重要であり、長期治療、副作用および毒性作用の低減が必要なすべての場合に重要である。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7