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  • 特許-コロイダルシリカ及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】コロイダルシリカ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/141 20060101AFI20221025BHJP
【FI】
C01B33/141
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021503995
(86)(22)【出願日】2020-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2020007585
(87)【国際公開番号】W WO2020179558
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2019040723
(32)【優先日】2019-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000238164
【氏名又は名称】扶桑化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤村 友香
(72)【発明者】
【氏名】道脇 良樹
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-090798(JP,A)
【文献】国際公開第2010/052945(WO,A1)
【文献】特開2011-201719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面凹凸形状を有するシリカ粒子を含有するコロイダルシリカであって、
(1)前記シリカ粒子は、アルコキシ基の含有量が1000ppm以上であり、
(2)前記シリカ粒子は、塩基性条件下で加熱処理した際の比表面積の減少率が15.0%以下であ
前記比表面積の減少率は、下記測定方法により測定される、
ことを特徴とするコロイダルシリカ 。
[比表面積の減少率の測定方法]
コロイダルシリカ800gに3-エトキシプロピルアミンを添加して、pHを9.9~10.3に調整する。前記コロイダルシリカを還流管付きフラスコに入れて加熱し、3時間還流状態を維持して塩基処理を行う。塩基処理したコロイダルシリカのpHを7.6~7.8に調整し、下記BET比表面積の測定方法に準じて、BET比表面積を測定する。塩基処理前後のBET比表面積により、下記式に基づいて比表面積の減少率を次式により算出する。
比表面積の減少率(%)=(塩基処理前のBET比表面積-塩基処理後のBET比表面積)/塩基処理前のBET比表面積×100
[BET比表面積の測定方法]
コロイダルシリカをホットプレートの上で予備乾燥後、800℃で1時間熱処理して測定用サンプルを調製する。調製した測定用サンプルを窒素ガス吸着法(BET法)によりBET比表面積を測定する。
【請求項2】
前記シリカ粒子の真比重は、1.95以上である、請求項1に記載のコロイダルシリカ。
【請求項3】
前記シリカ粒子は、1級アミン、2級アミン及び3級アミンからなる群(ただし、置換基として、ヒドロキシル基は除外する)より選択される少なくとも1種のアミンをシリカ粒子1g当たり5μmol以上含有する、請求項1又は2に記載のコロイダルシリカ。
【請求項4】
表面凹凸形状を有するシリカ粒子を含有するコロイダルシリカの製造方法であって、
(1)アルカリ触媒及び水を含む母液を調製する工程1、
(2)アルコキシシランを前記母液に添加して種粒子分散液を調製する工程2、及び、
(3)前記種粒子分散液に、水、アルカリ触媒及びアルコキシシランを添加する工程3をこの順に有し、
前記アルカリ触媒は、1級アミン、2級アミン及び3級アミンからなる群(ただし、置換基として、ヒドロキシル基は除外する)より選択される少なくとも1種のアミンであり、
前記工程3における、前記アルコキシシランの添加量s3(mol)と、前記アルカリ触媒の添加量c3(mol)とのモル比(s3/c3)は、185を超え400以下である、
ことを特徴とする、コロイダルシリカの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロイダルシリカ及びその製造方法に関し、特に、表面凹凸形状を有するシリカ粒子を含有するコロイダルシリカ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コロイダルシリカは、シリカ微粒子を水等の媒体に分散させたものであり、紙、繊維、鉄鋼等の分野で物性改良剤として使用されている他、半導体ウエハ等の電子材料の研磨剤としても使用されている。このような用途に用いられるコロイダルシリカに分散されているシリカ粒子には、高純度性や緻密性が要求される。
【0003】
上記要求に応え得るコロイダルシリカの製造方法として、例えば、特定の範囲のアルカリ濃度の反応媒体にアルキルシリケートを添加する水性シリカゾルの製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法によれば、球状粒子が製造されており、シリカ粒子の形状については検討されていない。
【0005】
加水分解触媒として第四級アンモニウム塩等を用い、粒子表面に小突起を有するシリカ粒子を含有するコロイダルシリカの製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。コロイダルシリカは、シリカ粒子が表面に突起を有する等、異形化されている方が研磨剤としてより高い研磨性を示すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平6-316407号公報
【文献】特開2007-153732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等は、特許文献2に記載の製造方法により製造されたコロイダルシリカは、塩基性条件下で表面凹凸形状が維持できないという問題があることを見出した。
【0008】
本発明者等は、鋭意検討の結果、塩基性条件下においても表面凹凸形状の維持性に優れたシリカ粒子を含有するコロイダルシリカの製造に成功した。そして、このようなコロイダルシリカは、研磨剤として好適に用いることができ、上記問題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0009】
本発明は、緻密性に優れ、塩基性条件下でも表面凹凸形状の維持性に優れたシリカ粒子を含有するコロイダルシリカ、及び、当該コロイダルシリカを製造することができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、表面凹凸形状を有するシリカ粒子を含有し、シリカ粒子のアルコキシ基の含有量が特定の範囲であり、シリカ粒子が、塩基性条件下で加熱処理した際に特定の範囲の比表面積の減少率を示すコロイダルシリカによれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記のコロイダルシリカ及びその製造方法に関する。
1.表面凹凸形状を有するシリカ粒子を含有するコロイダルシリカであって、
(1)前記シリカ粒子は、アルコキシ基の含有量が1000ppm以上であり、
(2)前記シリカ粒子は、塩基性条件下で加熱処理した際の比表面積の減少率が15.0%以下である、
ことを特徴とするコロイダルシリカ 。
2.前記シリカ粒子の真比重は、1.95以上である、項1に記載のコロイダルシリカ。
3.前記シリカ粒子は、1級アミン、2級アミン及び3級アミン(ただし、置換基として、ヒドロキシ基は除外する)からなる群より選択される少なくとも1種のアミンをシリカ粒子1gあたり5μmol以上含有する、項1又は2に記載のコロイダルシリカ。
4.表面凹凸形状を有するシリカ粒子を含有するコロイダルシリカの製造方法であって、
(1)アルカリ触媒及び水を含む母液を調製する工程1、
(2)アルコキシシランを前記母液に添加して種粒子分散液を調製する工程2、及び、
(3)前記種粒子分散液に、水、アルカリ触媒及びアルコキシシランを添加する工程3をこの順に有し、
前記アルカリ触媒は、1級アミン、2級アミン及び3級アミンからなる群(ただし、置換基として、ヒドロキシ基は除外する)より選択される少なくとも1種のアミンであり、
前記工程3における、前記アルコキシシランの添加量s3(mol)と、前記アルカリ触媒の添加量c3(mol)とのモル比(s3/c3)は、185を超え400以下である、
ことを特徴とする、コロイダルシリカの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のコロイダルシリカは、緻密性に優れ、塩基性条件下での表面凹凸形状の維持性に優れたシリカ粒子を含有する。また、本発明のコロイダルシリカの製造方法は、当該コロイダルシリカを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例2で製造されたコロイダルシリカのシリカ粒子のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のコロイダルシリカ及びその製造方法について詳細に説明する。
【0015】
本発明のコロイダルシリカは、表面凹凸形状を有するシリカ粒子を含有するので、高い研磨性を示すことができる。また、本発明のコロイダルシリカは、シリカ粒子のアルコキシ基の含有量が1000ppm以上であるので、シリカ粒子の単位重量あたりのアルコキシ基量が高く、被研磨物である基板等の表面上の欠陥を抑制できる。更に、本発明のコロイダルシリカは、シリカ粒子の、塩基性条件下で加熱処理した際の比表面積の減少率が15.0%以下であるので、塩基性条件下での表面凹凸形状の維持性に優れており、塩基性条件下でも高い研磨性を維持することができる。また、本発明のコロイダルシリカの製造方法は、アルカリ触媒として、1級アミン、2級アミン及び3級アミンからなる群(ただし、置換基として、ヒドロキシ基は除外する)より選択される少なくとも1種のアミンを用い、かつ、工程3における、アルコキシシランの添加量s3(mol)と、アルカリ触媒の添加量c3(mol)とのモル比(s3/c3)を特定の範囲としてゾルゲル反応を行うことで、金属不純物が少なく、且つ、塩基性条件下での表面凹凸形状の維持性に優れており、塩基性条件下でも高い研磨性を維持することができるコロイダルシリカを製造することができる。
【0016】
1.コロイダルシリカ
本発明のコロイダルシリカは、表面凹凸形状を有するシリカ粒子を含有するコロイダルシリカであって、(1)前記シリカ粒子は、アルコキシ基の含有量が1000ppm以上であり、(2)前記シリカ粒子は、塩基性条件下で加熱処理した際の比表面積の減少率が15.0%以下であることを特徴とする 。
【0017】
本明細書において、シリカ粒子の表面凹凸形状とは、シリカ粒子の表面に微小な突起を有する形状であり、シリカ粒子が金平糖に類似した形状となっている状態を意味する。このような表面凹凸形状は、BET比表面積(B1)を、SEM短径から算出される比表面積(S1)で除して算出される表面粗度(B1/S1)の範囲により規定することができる。なお、比表面積(S1)はシリカの真比重を2.2として、2727/SEM短径(nm)の値を換算して求めることができる。表面粗度(B1/S1)は、1.1以上が好ましく、1.4以上がより好ましい、また、表面粗度(B1/S1)は、2.0以下が好ましく、1.8以下がより好ましい。
【0018】
上記シリカ粒子は、アルコキシ基の含有量が1000ppm以上である。アルコキシ基の含有量が1000ppm未満であると、本発明のコロイダルシリカの研磨性が低下し、且つ、被研磨物の表面上の欠陥が抑制できない。上記アルコキシ基の含有量は、4000ppm以上が好ましく、5000ppm以上がより好ましい。また、上記アルコキシ基の含有量は、45000ppm以下が好ましく、40000ppm以下がより好ましい。アルコキシ基の含有量の上限が上記範囲であることにより、本発明のコロイダルシリカの研磨性がより一層向上する。
【0019】
なお、上記アルコキシ基の含有量は、以下の方法により測定することができる。
【0020】
(アルコキシ基の含有量(ppm))
コロイダルシリカを215000G、90分の条件で遠心分離後、上澄みを廃棄して、固形分を60℃、90分の条件で真空乾燥させる。得られたシリカ乾固物0.50gを秤量し、1M水酸化ナトリウム水溶液50mlに入れ、撹拌させながら50℃で24時間加熱することでシリカを溶解させる。前記シリカ溶解液をガスクロマトグラフにより分析し、アルコール含有量を求め、シリカ1g当たりのアルコキシ量を算出する。ガスクロマトグラフの検出器は水素炎イオン化検出器(FID)を用いる。ガスクロマトグラフ分析は、JIS K0114に従って行う。
【0021】
(BET比表面積(m/g))
コロイダルシリカをホットプレートの上で予備乾燥後、800℃で1時間熱処理して測定用サンプルを調製する。調製した測定用サンプルを窒素ガス吸着法(BET法)により測定した。
【0022】
(平均一次粒子径(nm))
シリカの真比重を2.2として、上記BET比表面積の測定値から2727/BET比表面積(m/g)の値を換算して、コロイダルシリカ中のシリカ粒子の平均一次粒子径(nm)とする。
【0023】
上記シリカ粒子は、塩基性条件下で加熱処理した際の比表面積の減少率が15.0%以下である。比表面積の減少率が15.0%を超えると、突起の耐塩基性が低くなり、塩基性条件下でのシリカ粒子の表面凹凸形状の維持性が低下し、塩基性条件下での研磨性を維持できない。比表面積の減少率は、14.5%以下が好ましく、14.3%以下がより好ましい。また、比表面積の減少率の下限は特に限定されず、0.1%程度であればよい。
【0024】
なお、上記比表面積の減少率は、以下の測定方法により測定される。
(比表面積の減少率)
コロイダルシリカ800gに3-エトキシプロピルアミンを添加して、pHを9.9~10.3に調整する。上記コロイダルシリカを還流管付きフラスコに入れて加熱し、3時間還流状態を維持して塩基処理を行う。塩基処理したコロイダルシリカのpHを7.6~7.8に調整し、上記BET比表面積の測定方法に準じて、BET比表面積を測定する。塩基処理前後のBET比表面積により、下記式に基づいて比表面積の減少率を次式により算出する。
比表面積の減少率(%)=
(塩基処理前のBET比表面積-塩基処理後のBET比表面積)/塩基処理前のBET比表面積×100
【0025】
シリカ粒子は、真比重が1.95以上であることが好ましい。真比重が1.95以上であることにより、シリカ粒子の硬度がより一層向上し、コロイダルシリカの研磨性がより一層向上する。シリカ粒子の真比重は2.00以上がより好ましく、2.10以上が更に好ましい。また、上記真比重は、2.20以下が好ましく、2.16以下がより好ましい。
【0026】
上記シリカ粒子の真比重は、コロイダルシリカを150℃のホットプレート上で乾固後、300℃炉内で1時間保持した後、エタノールを用いた液相置換法で測定する測定方法により測定することができる。
【0027】
上記シリカ粒子は、1級アミン、2級アミン及び3級アミンからなる群より選択される少なくとも1種のアミンを含有することが好ましい。上記アミンとしては特に限定されず、下記一般式(X)で表される。
NR (X)
(式中、R、R、Rは置換されてもよい炭素数1~12のアルキル基、又は水素を示す。ただし、R、R、Rのすべてが水素の場合、つまりアンモニアは除外する。)
、R、Rは、同一でも異なっていてもよい。R、R、Rは直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。
【0028】
直鎖状又は分岐状のアルキル基の炭素数は、1~12であってもよく、好ましくは1~8 、より好ましくは1~6である。直鎖状のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが挙げられる。分岐状のアルキル基としては、イソプロピル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、1-メチル-1-エチルプロピル基、2-メチル-2-エチルプロピル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1-エチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、3-エチルヘキシル基、4-エチルヘキシル基、5-エチルヘキシル基などが挙げられる。好ましい直鎖状又は分岐状のアルキル基は、n-プロピル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基などである。
【0029】
環状のアルキル基の炭素数は、例えば3~12などであってもよく、好ましくは3~6である。環状のアルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などが挙げられる。好ましい環状のアルキル基は、シクロヘキシル基である。
【0030】
上記一般式(X)中のR、R、Rにおいてアルキル基は置換されていてもよい。置換基の数としては、例えば0個、1個、2個、3個、4個などであってもよく、好ましくは0個、1個又は2個、より好ましくは0個又は1個である。なお、置換基の数が0個のアルキル基とは置換されていないアルキル基である。置換基としては、例えば炭素数1~3のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基)、アミノ基、炭素数1~4の直鎖状アルキル基で置換された1級アミノ基、炭素数1~4の直鎖状アルキル基でジ置換されたアミノ基(例えばジメチルアミノ基、ジn-ブチルアミノ基など)、置換されていないアミノ基などが挙げられる。ただし、置換基として、ヒドロキシル基は除外する。複数の置換基を有するアルキル基において、置換基は、同一であっても異なっていてもよい。
【0031】
上記一般式(X)中のR、R、Rは、置換されてもよい炭素数1~8(好ましくは炭素数1~6 )の直鎖状又は分岐状のアルキル基である。また、R、R、Rは、炭素数1~3のアルコキシ基で置換されてもよい炭素数1~8(好ましくは炭素数1~6)の直鎖状又は分岐状のアルキル基である。
【0032】
また、R、R、Rは、置換されていなくともよい。好ましくはR、R、Rは、置換されていない直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルキル基、またはアルコキシ基で置換された直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルキル基である。
【0033】
上述のアミンとしては、3-エトキシプロピルアミン、2-メトキシエチルアミン、2-2-エトキシエチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、3-プロポキシプロピルアミン、3-イソプロポキシプロピルアミン、3-ブトキシプロピルアミン、3-イソブトキシプロピルアミン、3-(2-エチルヘキシロキシ)プロピルアミン、3-(2-メトキシエトキシ)プロピルアミン等の脂肪族エーテルアミン、及び、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジプロピルアミン、トリエチルアミン等の脂肪族アミンからなる群から選択される少なくとも1種のアミンが挙げられる。これらの中でも、より一層塩基性条件下での表面凹凸形状の維持性に優れたシリカ粒子の含有量を増加させることができる点で、脂肪族エーテルアミンが好ましく、3-エトキシプロピルアミンがより好ましい。
【0034】
上記アミンは、単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
シリカ粒子中の、1級アミン、2級アミン及び3級アミンからなる群(ただし、置換基として、ヒドロキシ基は除外する)より選択される少なくとも1種のアミンの含有量は、シリカ粒子1g当たり5μmol以上が好ましく、シリカ粒子1g当たり10μmol以上がより好ましい。上記アミン含有量の下限が上記範囲であることにより、コロイダルシリカ中の塩基性条件下での表面凹凸形状の維持性に優れたシリカ粒子の含有量がより一層増加し、コロイダルシリカがより一層十分な研磨性を示す。また、上記アミン含有量は、シリカ粒子1g当たり100μmol以下が好ましく、シリカ粒子1g当たり90μmol以下がより好ましい。上記アミン含有量の上限が上記範囲であることにより、表面凹凸形状を有するシリカ粒子がより一層生成し易くなる。
【0036】
なお、上記アミン含有量は、以下の方法により測定することができる。すなわち、コロイダルシリカを215000G、90分の条件で遠心分離後、上澄みを廃棄して、固形分を60℃、90分の条件で真空乾燥させる。得られたシリカ乾固物0.50gを秤量し、1M水酸化ナトリウム水溶液50mlに入れ、撹拌させながら50℃で24時間加熱することでシリカを溶解させる。シリカ溶解液イオンクロマトグラフにより分析し、アミン含有量を求める。イオンクロマトグラフ分析は、JIS K0127に従って行う。
【0037】
上記アミンの沸点は、85℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。沸点の下限が上記範囲であることにより、反応途中での気化がより一層抑制され、触媒として好適に用いることができる。また、上記沸点は、500℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましい。
【0038】
本発明のコロイダルシリカは、走査型電子顕微鏡で観察した20万倍での任意の視野内の粒子個数中、表面凹凸形状を有するシリカ粒子を20%以上含むことが好ましく、30%以上含むことがより好ましい。上記シリカ粒子の含有量の下限が上記範囲であると、コロイダルシリカの研磨性がより一層向上する。含有量の上限は特に限定されず、100%であってもよいし、70%であってもよい。
【0039】
本明細書において、上記表面凹凸形状を有するシリカ粒子の含有量は、以下の測定方法により測定することができる。すなわち、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した20万倍での任意の視野内の粒子個数中から表面凹凸形状を有する粒子を数え、それら粒子の割合を含有量(%)とする。
【0040】
コロイダルシリカ中のシリカ粒子のSEM短径は8nm以上が好ましく15nm以上がより好ましい。シリカ粒子のSEM短径の下限が上記範囲であることにより、本発明のコロイダルシリカの研磨性がより一層向上する。また、シリカ粒子のSEM短径は、100nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましい。シリカ粒子のSEM短径の上限が上記範囲であることにより、被研磨物の傷の発生がより一層低減される。
【0041】
なお、上記SEM短径は、以下の方法により測定することができる。走査型電子顕微鏡で撮影したシリカ粒子の画像を、画像解析ソフト(三谷商事株式会社製「WinRoof2015」)で粒子1000個をそれぞれ楕円近似し、楕円短軸を計測した。楕円短軸の個数頻度分布をとり、個数頻度50%の楕円短軸をSEM短径(nm)とした。
【0042】
コロイダルシリカ中のシリカ粒子の平均二次粒子径は、8nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましい。シリカ粒子の平均二次粒子径の下限が上記範囲であることにより、本発明のコロイダルシリカの研磨性がより一層向上する。また、シリカ粒子の平均二次粒子径は、400nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましい。シリカ粒子の平均二次粒子径の上限が上記範囲であることにより、被研磨物の傷の発生がより一層低減される。
【0043】
本明細書において、上記コロイダルシリカ中のシリカ粒子の平均二次粒子径は、以下の測定方法により測定することができる。すなわち、動的光散乱法の測定用サンプルとして、コロイダルシリカを0.3重量%クエン酸水溶液に加えて均一化したものを調製する。当該測定用サンプルを用いて、動的光散乱法(大塚電子株式会社製「ELSZ-2000S」)により二次粒子径を測定する。
【0044】
コロイダルシリカ中のシリカ粒子のアスペクト比は、1.0以上が好ましく、1.1以上がより好ましい。アスペクト比の下限が上記範囲であることにより、研磨性がより一層向上する。また、シリカ粒子のアスペクト比は、4.0以下が好ましく、3.0以下がより好ましい。アスペクト比の下限が上記範囲であることにより、被研磨物の傷の発生がより一層抑制される。
【0045】
本明細書において、上記コロイダルシリカ中のシリカ粒子のアスペクト比は、以下の測定方法により測定することができる。すなわち、走査型電子顕微鏡で撮影したシリカ粒子の画像を、画像解析ソフト(三谷商事株式会社製「WinRoof2015」)で粒子1000個をそれぞれ楕円近似し、楕円長軸および楕円短軸をそれぞれの粒子について計測する。各粒子の楕円長短軸比(楕円長軸/楕円短軸)を算出し、平均値をアスペクト比とする。
【0046】
本発明のコロイダルシリカは、ナトリウム、カリウム、鉄、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロム、銅、亜鉛、鉛、銀、マンガン、コバルト等の金属不純物の含有量が、1ppm以下であることが好ましい。金属不純物の含有量が1ppm以下であることにより、電子材料等の研磨に好適に用いることができる。
【0047】
本明細書において、上記金属不純物の含有量は、原子吸光測定装置を用いて測定される値である。
【0048】
コロイダルシリカ中のシリカ粒子の会合比は、1.5以上が好ましく、1.7以上がより好ましい。シリカ粒子の会合比の下限が上記範囲であることにより、本発明のコロイダルシリカの研磨性がより一層向上する。また、シリカ粒子の会合比は、5.5以下が好ましく、5.0以下がより好ましい。シリカ粒子の会合比の上限が上記範囲であることにより、被研磨物の傷の発生がより一層低減される。
【0049】
本明細書において、上記コロイダルシリカ中のシリカ粒子の会合比は、コロイダルシリカ中のシリカ粒子の平均二次粒子径/平均一次粒子径を算出することにより得られる値である。
【0050】
コロイダルシリカ中のシリカ粒子のシラノール基密度は1.5個/nm以上が好ましく、1.6個/nm以上がより好ましい。シラノール基密度の下限が上記範囲であると、被研磨物の傷の発生がより一層低減される。また、シリカ粒子のシラノール密度は5.0個/nm以下が好ましく4.0個/nm以下がより好ましい。シラノール基密度の上限が上記範囲であると本発明のコロイダルシリカの研磨性がより一層向上する。
【0051】
なお、コロイダルシリカ中のシリカ粒子のシラノール基密度はシアーズ法により求めることができる。シアーズ法は、G.W.Sears,Jr.,“Determination of Specific Surface Area of Colloidal Silica by Titration with Sodium Hydroxide”,Analytical Chemistry,28(12),1981(1956).の記載を参照して実施した。測定には1wt%シリカ分散液を使用し、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で滴定を行い、下記式に基づき、シラノール基密度を算出した。
ρ=(a×f×6022)÷(c×S)
上記式中、ρ:シラノール基密度(個/nm)、a:pH4-9の0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液の滴下量(mL)、f: 0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液のファクター、c:シリカ粒子の質量(g)、S:BET比表面積(m/g)をそれぞれ表す。
【0052】
2.コロイダルシリカの製造方法
本発明のコロイダルシリカの製造方法は、表面凹凸形状を有するシリカ粒子を含有するコロイダルシリカの製造方法であって、
(1)アルカリ触媒及び水を含む母液を調製する工程1、
(2)アルコキシシランを前記母液に添加して種粒子分散液を調製する工程2、及び、
(3)前記種粒子分散液に、水、アルカリ触媒及びアルコキシシランを添加する工程3をこの順に有し、
前記アルカリ触媒は、1級アミン、2級アミン及び3級アミンからなる群(ただし、置換基として、ヒドロキシ基は除外する)より選択される少なくとも1種のアミンであり、
前記工程3における、前記アルコキシシランの添加量s3(mol)と、前記アルカリ触媒の添加量c3(mol)とのモル比(s3/c3)は、185を超え400以下である製造方法である。
【0053】
(工程1)
工程1は、アルカリ触媒及び水を含む母液を調製する工程である。
【0054】
アルカリ触媒は、1級アミン、2級アミン及び3級アミンからなる群(ただし、置換基として、ヒドロキシ基は除外する)より選択される少なくとも1種のアミンである。当該アミンとしては、上記コロイダルシリカにおいて説明したアミンと同一のものを用いればよい。
【0055】
母液中のアミンの含有量は、0.30mmol/kg以上が好ましく、0.50mmol/kg以上がより好ましい。アミンの含有量の下限が上記範囲であることにより、粒子径を制御しやすくなる。また、母液中のアミンの含有量は、20.0mmol/kg以下が好ましく、15.0mmol/kg以下がより好ましい。アミンの含有量が上記範囲であることにより反応中にゲル化し難い。
【0056】
母液を調製する方法としては特に限定されず、水にアルカリ触媒を従来公知の方法により添加して撹拌すればよい。
【0057】
母液のpHは特に限定されず、9.5以上が好ましく、10.0以上がより好ましい。母液のpHの下限が上記範囲であることにより、より一層粒子径を制御しやすくなる。また、母液のpHは12.0以下が好ましく、11.5以下がより好ましい。母液のpHの上限が上記範囲であることにより、表面凹凸形状を有するシリカ粒子の平均二次粒子径の制御がより一層容易となり、且つ、後述する工程2で得られる種粒子分散液中の種粒子の凝集が抑制され、コロイダルシリカの保管安定性がより一層向上する。
【0058】
(工程2)
工程2は、アルコキシシランを上記母液に添加して種粒子分散液を調製する工程である。
【0059】
アルコキシシランとしては特に限定されず、下記一般式(2)
Si(OR (2)
(式中、Rはアルキル基を示す。)
で表されるアルコキシシランが挙げられる。
【0060】
上記一般式(2)において、Rはアルキル基を示す。Rはアルキル基であれば特に限定されず、炭素数1~8の低級アルキル基であることが好ましく、炭素数1~4の低級アルキル基であることがより好ましい。上記アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等を例示することができる。上記一般式(2)で表されるアルコキシシランとしては、Rがメチル基であるテトラメトキシシラン(テトラメチルオルトシリケート)、Rがエチル基であるテトラエトキシシラン(テトラエチルオルトシリケート)、Rがイソプロピル基であるテトライソプロポキシシランが好ましく、Rがメチル基であるテトラメトキシシラン、Rがエチル基であるテトラエトキシシランがより好ましく、テトラメトキシシランが更に好ましい。
【0061】
上記一般式(2)で表されるアルコキシシランは、誘導体であってもよい。当該アルコキシシランの誘導体としては、上記一般式(2)で表されるアルコキシシランを部分的に加水分解して得られる低縮合物を例示することができる。
【0062】
上記一般式(2)で表されるアルコキシシランは、単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0063】
種粒子分散液中の上記一般式(2)で表されるアルコキシシランの添加量は特に限定されず、工程2におけるアルコキシシランの添加量s2(mol)と、母液中のアルカリ触媒の量c1(mol)のモル比(s2/c1)は、10以上が好ましく、100以上がより好ましく、150以上がさらに好ましい。s2/c1の下限が上記範囲であることにより、コロイダルシリカ中のシリカ粒子の含有量をより一層高められる。また、s2/c1は8500以下が好ましく、8000以下がより好ましい。s2/c1の上限が上記範囲であることにより、反応中にゲル化し難い。
【0064】
工程2におけるアルコキシシランの添加時間は、5分以上が好ましく、10分以上がより好ましい。添加時間の下限が上記範囲であることにより、反応途中にゲル化し難い。また、アルコキシシランの添加時間は、1000分以下が好ましく、600分以下がより好ましい。添加時間の上限が上記範囲であると生産性がより一層向上し、製造コストをより一層抑制できる。
【0065】
種粒子分散液のpHは、8.5以下が好ましく、8.0以下がより好ましい。種粒子分散液のpHの上限が上記範囲であることにより、表面凹凸形状を有するシリカ粒子をより一層形成し易くなる。また、種粒子分散液のpHは、4.5以上が好ましく、4.9以上がより好ましい。種粒子分散液のpHの下限が上記範囲であることにより、より一層ゲル化が抑制される。
【0066】
工程2における種粒子分散液の温度は、70℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましい。種粒子分散液の温度の下限が上記範囲であることにより、反応時のゲル化がより一層抑制される。また、種粒子分散液の温度は95℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましい。種粒子分散液の温度の上限が上記範囲であることにより、アルコキシシランの気化がより一層抑制される。
【0067】
(工程3)
工程3は、種粒子分散液に、水、アルカリ触媒及びアルコキシシラン添加する工程である。
【0068】
アルカリ触媒は、1級アミン、2級アミン及び3級アミンからなる群(ただし、置換基として、ヒドロキシ基は除外する)より選択される少なくとも1種のアミンである。当該アミンとしては、上記コロイダルシリカにおいて説明したアミンと同一のものを用いればよい。また、工程3において用いられるアルカリ触媒は、工程1において用いられるアルカリ触媒と同一のものであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0069】
工程3により、コロイダルシリカ中に、表面凹凸形状を有するシリカ粒子が形成される。この作用機序としては明確ではないが、以下のように推定される。すなわち、工程3においては、アルコキシシランの添加によって種粒子分散液のpHが低下する。工程3におけるシリカ粒子が形成される反応において、塩基性で比較的高いpHの条件下では、新たな種粒子は生成せず、シリカ粒子が単純に成長するようにアルコキシランが消費されて、表面凹凸形状を有するシリカ粒子が生成できないと考えられる。これに対し、pHが徐々に低下して種粒子分散液が弱塩基性になると、アルコキシシランの加水分解物の縮合速度が増大し、且つ、種粒子の前駆体であるエンブリオの溶解が生じなくなるので、新たな種粒子が生成するようになると予測される。更に、pHが低下して中性付近になると弱塩基性で生成した種粒子が、工程2で生成した元からある種粒子と結合し、粒子表面に凹凸が形成されると考えられる。このため、本発明の製造方法により表面凹凸形状を含有するコロイダルシリカを製造することができると考えられる。
【0070】
上述の予想される作用機序から、工程3では、種粒子分散液のpHは、強塩基性から中性付近まで適切なpHに制御されながら低下していることが好ましい。このため、工程3で用いるアルカリ触媒としては、高いpHを維持するアルカリ触媒や、pHが急激に低下するアルカリ触媒は好適ではなく、適切なpH範囲に制御しながら徐々に低下する緩衝能を有するアルカリ触媒が好適に用いられる。
【0071】
以上の作用機序より、酸や塩基の物性を表すpKa値は緩衝領域の中心値であることから、工程3において、適切なpH範囲に制御しながら徐々に低下する緩衝能を有する物質であるかどうかの基準となる。すなわち、工程3で用いられるアルカリ触媒は、pKa値が8.5以上11未満の上記一般式(X)で表わされるアミンが好ましく、pKa値が9以上10未満の上記一般式(X)で表わされるアミンがより好ましい。
【0072】
なお、上記一般式(X)で表わされるアミン及びそのpKa値としては、脂肪族エーテルアミンでは、3-エトキシプロピルアミン(9.79)、2-メトキシエチルアミン(9.89)、3-メトキシプロピルアミン(9.73)、3-プロポキシプロピルアミン(9.78)、3-イソプロポキシプロピルアミン(9.82)、3-ブトキシプロピルアミン(9.77)である。また、脂肪族アミンでは、ペンチルアミン(10.63)、ヘキシルアミン(10.56)、ジプロピルアミン(10.91)、トリエチルアミン(10.75)である。
【0073】
工程3において用いられるアルコキシシランとしては特に限定されず、上記工程2において説明したアルコキシシランと同様のものを用いることができる。工程3において用いられるアルコキシシランは、工程2において用いられるアルコキシシランと同一のものであってもよいし、異なるものであってもよいが、工程2において用いられるアルコキシシランと同一のものを用いることが好ましい。
【0074】
工程3における、アルコキシシランの添加量s3(mol)と、アルカリ触媒の添加量c3(mol)とのモル比(s3/c3)は、185を超える。s3/c3の下限が185を超えることで表面の凹凸形状が一層形成されやすくなる。s3/c3は、200以上が好ましく、220以上がより好ましい。また、上記s3/c3は、400以下である。s3/c3が400以下であることでコロイダルシリカのゲル化が一層抑制される。s3/c3は、380以下が好ましく、350以下がより好ましい。
【0075】
工程3では、種粒子分散液に、上述の水、アルカリ触媒及びアルコキシシランの他に、アルコールを添加してもよい。
【0076】
アルコールとしては水に可溶であれば特に限定されず、使用されるアルコキシシランが加水分解された際の副生成物であるアルコールと同一のアルコールが好ましい。例えば、アルコキシシランがテトラメチルオルトシリケートの場合はメタノールを用いることが好ましく、アルコキシシランがテトラエチルオルトシリケートの場合はエタノールを用いることが好ましい。
【0077】
工程3において、種粒子分散液、水、アルカリ触媒、及びアルコールを混合した混合液100質量%に対するアルコールの含有量は、25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。アルコールの含有量の上限が上記範囲であることにより、工程3において混合液の温度をより一層上昇させ易くなる。また、アルコールの含有量の下限は特に限定されず、0質量%であってもよいし、2質量%であってもよい。
【0078】
工程3におけるアルコキシシランの添加量は特に限定されず、工程3におけるアルコキシシランの添加量s3(mol)と種粒子分散液、水、アルカリ触媒、及びアルコールを混合した混合液中の種粒子量sp3(mol)のモル比(s3/sp3)が0以上30以下が好ましい。s3/sp3の上限が上記範囲であることにより、反応途中で新たな核粒子が生成し難く、主粒子の成長がより一層促進される。なお、上記モル比は、種粒子の分子量を60.08g/molとし規定した値である。
【0079】
工程3における混合液の温度は、70℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましい。混合液の温度の下限が上記範囲であることにより、反応時のゲル化がより一層抑制される。また、混合液の温度は95℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましい。種粒子分散液の温度の上限が上記範囲であることにより、アルコキシシランの気化がより一層抑制される。
【0080】
工程3におけるアルコキシシランの添加時間は、5分以上が好ましく、10分以上がより好ましい。添加時間の下限が上記範囲であることにより、反応途中にゲル化し難い。また、アルコキシシランの添加時間は、1000分以下が好ましく、600分以下がより好ましい。添加時間の上限が上記範囲であると生産性がより一層向上し、製造コストをより一層抑制できる。
【0081】
以上説明した製造方法により、本発明のコロイダルシリカを製造することができる。
【0082】
コロイダルシリカのpHは、11.0以下が好ましく、10.0以下がより好ましい。コロイダルシリカのpHの上限が上記範囲であることにより、シリカ粒子の溶解がより一層抑制される。また、コロイダルシリカのpHは、5.8以上が好ましく、6.0以上がより好ましい。コロイダルシリカのpHの下限が上記範囲であることにより、より一層ゲル化が抑制される。
【0083】
本発明のコロイダルシリカの製造方法は、上記工程3の後に、更に、コロイダルシリカを濃縮する工程を有していてもよい。濃縮の方法としては特に限定されず、従来公知の方法により濃縮することができる。このような濃縮方法としては、例えば、65~100℃程度の温度で加熱濃縮する方法が挙げられる。
【0084】
濃縮後のコロイダルシリカのシリカ粒子の濃度は特に限定されず、コロイダルシリカを100質量%として1~50質量%程度であることが好ましい。
【0085】
本発明のコロイダルシリカの製造方法は、上記工程3の後に、更に、反応時に副生したメタノールを系外留去する工程を有していてもよい。メタノールを系外留去する方法としては特に限定されず、例えば、コロイダルシリカを加熱しながら純水を滴下し、容量を一定に保つことにより、純水で分散媒を置換する方法が挙げられる。また、他の方法としては、コロイダルシリカを沈殿・分離、遠心分離等により溶媒と分離した後に、水に再分散させる方法を例示することができる。
【0086】
本発明のコロイダルシリカ、及び、本発明の製造方法により製造されるコロイダルシリカは、研磨剤、紙のコーティング剤などの様々な用途に使用することができる。上記コロイダルシリカを含む研磨剤も、本発明の一つである。本発明のコロイダルシリカは、ナトリウムなどの金属不純物の含有量を1ppm以下と高純度にすることができるので、特に半導体ウエハの化学機械研磨の研磨剤として好適に用いることができる。
【実施例
【0087】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0088】
実施例1
(工程1)フラスコに、溶媒として純水6767g、アルカリ触媒として3-エトキシプロピルアミン(3-EOPA)6.98gを入れ、母液を調製した。母液のpHは11.0であった。
(工程2)母液を内温 80℃まで加熱した後、当該母液にテトラメチルオルトシリケート2472gを内温変動しないよう温調しつつ、210分かけて定速滴下し、種粒子分散液を調製した。
(工程3)フラスコに、溶媒として純水5704g、アルカリ触媒として3-エトキシプロピルアミン(3-EOPA)6.50g、及び、工程2により調製された種粒子分散液1075gを入れた。次いで、内温80℃まで加熱した後、テトラメチルオルトシリケート2397gを内温変動しないよう温調しつつ、180分かけて定速滴下した。滴下終了後 15分間撹拌を維持し、コロイダルシリカ分散液を調製した。次いで、コロイダルシリカ分散液を常圧下にて、ベース量800mLとし、シリカ濃度が20wt%になるまで加熱濃縮した。次いで、反応時に副生したメタノールを系外留去するために、容量を一定に保ちながら、純水500mLにて分散媒を置換して、コロイダルシリカを調製した。
【0089】
なお、実施例1において、工程3におけるアルコキシシラン(テトラメチルオルトシリケート)の添加量s3(mol)と、アルカリ触媒(3-エトキシプロピルアミン)の添加量c3(mol)とのモル比(s3/c3)は、250であった。
【0090】
実施例2
(工程1)フラスコに、溶媒として純水6767g、アルカリ触媒として3-エトキシプロピルアミン(3-EOPA)10.47gを入れ、母液を調製した。母液のpHは11.3であった。
(工程2)母液を内温 85℃まで加熱した後、当該母液にテトラメチルオルトシリケート2472gを内温変動しないよう温調しつつ、210分かけて定速滴下し、種粒子分散液を調製した。
(工程3)フラスコに、溶媒として純水5704g、アルカリ触媒として3-エトキシプロピルアミン(3-EOPA)6.50g、メタノール242g、及び、工程2により調製された種粒子分散液667gを入れた。次いで、内温80℃まで加熱した後、テトラメチルオルトシリケート2397gを内温変動しないよう温調しつつ、180分かけて定速滴下した。滴下終了後 15分間撹拌を維持し、コロイダルシリカ分散液を調製した。次いで、コロイダルシリカ分散液を常圧下にて、ベース量9000mLとし、シリカ濃度が20wt%になるまで加熱濃縮した。次いで、反応時に副生したメタノールを系外留去するために、容量を一定に保ちながら、純水5680mLにて分散媒を置換して、コロイダルシリカを調製した。
【0091】
なお、実施例2において、工程3におけるアルコキシシラン(テトラメチルオルトシリケート)の添加量s3(mol)と、アルカリ触媒(3-エトキシプロピルアミン)の添加量c3(mol)とのモル比(s3/c3)は、250であった。
【0092】
比較例1
(工程1)フラスコに、溶媒として純水7500g、アルカリ触媒として3-エトキシプロピルアミン(3-EOPA)1.35gを入れ、母液を調製した。母液のpHは10.3であった。
(工程2)母液を内温 85℃まで加熱した後、当該母液にテトラメチルオルトシリケート2740gを内温変動しないよう温調しつつ、60分かけて定速滴下し、15分間撹拌して種粒子分散液を調製した。
(工程3)種粒子分散液にアルカリ触媒として3-エトキシプロピルアミン(3-EOPA)50gを添加して、混合液を調製した。別途フラスコに、溶媒として純水5379gを入れ、上述の3-エトキシプロピルアミンと種粒子分散液との混合液2382gを添加した。次いで、内温80℃まで加熱した後、テトラメチルオルトシリケート1712.5gを内温変動しないよう温調しつつ、180分かけて定速滴下した。滴下終了後 15分間撹拌を維持し、コロイダルシリカ分散液を調製した。次いで、コロイダルシリカ分散液を常圧下にて、ベース量800mLとし、シリカ濃度が20wt%になるまで加熱濃縮した。次いで、反応時に副生したメタノールを系外留去するために、容量を一定に保ちながら、純水500mLにて分散媒を置換して、コロイダルシリカを調製した。得られた粒子には、表面凹凸形状が形成されていなかった。
【0093】
なお、比較例1において、工程3におけるアルコキシシラン(テトラメチルオルトシリケート)の添加量s3(mol)と、アルカリ触媒(3-エトキシプロピルアミン)の添加量c3(mol)とのモル比(s3/c3)は、100であった。
【0094】
比較例2
(工程1)フラスコに、溶媒として純水9492g、アルカリ触媒としてトリエタノールアミン(TEA)3.28gを入れ、母液を調製した。母液のpHは9.4であった。
(工程2)母液を内温80℃まで加熱した後、当該母液にテトラメチルオルトシリケート1704gを内温変動しないよう温調しつつ、180分かけて定速滴下した。反応容器内へのテトラメチルシリケートの供給を終了した後、反応容器内の反応液を加熱し、メタノールをコンデンサー付留出管から留出させつつ、同条件で作製した反応液を反応容器内にフィードしていくことで濃縮し、シリカ濃度12.2wt%の種粒子分散液を調製した。
(工程3)フラスコに、溶媒として純水5582g、アルカリ触媒としてトリエタノールアミン(TEA)9.43g、及び、工程2により調製された種粒子分散液857gを入れた。次いで、内温80℃まで加熱した後、テトラメチルオルトシリケート3878gを内温変動しないよう温調しつつ、180分かけて定速滴下した。滴下終了後 15分間撹拌を維持し、コロイダルシリカ分散液を調製した。次いで、コロイダルシリカ分散液を常圧下にて、ベース量4500mLとし、シリカ濃度が20wt%になるまで加熱濃縮した。次いで、反応時に副生したメタノールを系外留去するために、容量を一定に保ちながら、純水5680mLにて分散媒を置換して、コロイダルシリカを調製した。
【0095】
なお、比較例2において、工程3におけるアルコキシシラン(テトラメチルオルトシリケート)の添加量s3(mol)と、アルカリ触媒(トリエタノールアミン)の添加量c3(mol)とのモル比(s3/c3)は、403であった。
【0096】
上述のようにして得られた実施例及び比較例のコロイダルシリカの特性は、以下の方法により評価した。
【0097】
(アルコキシ基の含有量(ppm))
コロイダルシリカを215000G、90分の条件で遠心分離後、上澄みを廃棄して、固形分を60℃、90分の条件で真空乾燥させた。得られたシリカ乾固物0.50gを秤量し、1M水酸化ナトリウム水溶液50mlに入れ、撹拌させながら50℃で24時間加熱することでシリカを溶解させた。前記シリカ溶解液をガスクロマトグラフにより分析し、アルコール含有量を求め、アルコキシ量とした。ガスクロマトグラフの検出器は水素炎イオン化検出器(FID)を用いた。ガスクロマトグラフ分析は、JIS K0114に従い行った。
【0098】
(BET比表面積(m/g))
コロイダルシリカをホットプレートの上で予備乾燥後、800℃で1時間熱処理して測定用サンプルを調製した。調製した測定用サンプルを用いて、以下の窒素ガス吸着法(BET法)によりBET比表面積を測定した。
窒素ガス吸着法
前処理装置:BELPREP-vacII(マイクロトラック・ベル株式会社製)
前処理方法:120℃で8時間真空脱気を行った。
測定装置:BELSORP-miniII(マイクロトラック・ベル株式会社製)
測定方法:定容法を用いて、窒素による吸着等温線を測定した。
測定条件:吸着温度 77K;吸着質 窒素;飽和蒸気圧 実測;吸着質断面積 0.162nm;平衡待ち時間(吸着平衡状態(吸脱着の際の圧力変化が所定の値以下になる状態)に達してからの待ち時間) 500sec
測定結果から、比表面積をBET法により算出した。
【0099】
(平均一次粒子径(nm))
シリカの真比重を2.2として、上記BET比表面積の測定値から2727/BET比表面積(m/g)の値を換算して、コロイダルシリカ中のシリカ粒子の平均一次粒子径(nm)とした。
【0100】
(平均二次粒子径)
動的光散乱法の測定用サンプルとして、コロイダルシリカを0.3重量%クエン酸水溶液に加えて均一化したものを調製した。当該測定用サンプルを用いて、動的光散乱法(大塚電子株式会社製「ELSZ-2000S」)により平均二次粒子径を測定した。
【0101】
(比表面積の減少率)
コロイダルシリカ800gに3-エトキシプロピルアミンを添加して、pHを9.9~10.3に調整した。上記コロイダルシリカを還流管付きフラスコに入れて加熱し、3時間還流状態を維持して塩基処理を行った。塩基処理したコロイダルシリカのpHを7.6~7.8に調整し、上記BET比表面積の測定方法に準じて、BET比表面積を測定した。塩基処理前後のBET比表面積により、下記式に基づいて比表面積の減少率を次式により算出した。
比表面積の減少率(%)=
(塩基処理前のBET比表面積-塩基処理後のBET比表面積)/塩基処理前のBET比表面積×100
【0102】
(SEM短径)
走査型電子顕微鏡で撮影したシリカ粒子の画像を、画像解析ソフト(三谷商事株式会社製「WinRoof2015」)で粒子1000個をそれぞれ楕円近似し、楕円短軸を計測した。楕円短軸の個数頻度分布をとり、個数頻度50%の楕円短軸をSEM短径(nm)とした。
【0103】
(アスペクト比)
走査型電子顕微鏡で撮影したシリカ粒子の画像を、画像解析ソフト(三谷商事株式会社製「WinRoof2015」)で粒子1000個をそれぞれ楕円近似し、楕円長軸および楕円短軸をそれぞれの粒子について計測した。各粒子の楕円長短軸比(楕円長軸/楕円短軸)を算出し、平均値をアスペクト比とした。
【0104】
(表面粗度)
BET比表面積(B1)を、SEM短径から算出される比表面積(S1)で除して算出される(B1/S1)を表面粗度とした。なお、比表面積(S1)はシリカの真比重を2.2として、2727/SEM短径(nm)の値を換算して求めた。
【0105】
(真比重)
コロイダルシリカを150℃のホットプレート上で乾固後、300℃炉内で1時間保持した後、エタノールを用いた液相置換法で測定する測定方法により真比重を測定した。
【0106】
(アミン含有量)
コロイダルシリカを215000G、90分の条件で遠心分離後、上澄みを廃棄して、固形分を60℃、90分の条件で真空乾燥させた。得られたシリカ乾固物0.50gを秤量し、1M水酸化ナトリウム水溶液50mlに入れ、撹拌させながら50℃で24時間加熱することでシリカを溶解させた。シリカ溶解液をイオンクロマトグラフにより分析し、アミン含有量を求めた。イオンクロマトグラフ分析は、JIS K0127に従い行った。
【0107】
(シラノール基密度)
シリカ粒子のシラノール基密度は、シアーズ法により求めた。シアーズ法は、G.W.Sears,Jr.,“Determination of Specific Surface Area of Colloidal Silica by Titration with Sodium Hydroxide”,Analytical Chemistry,28(12),1981(1956).の記載を参照して実施した。測定には1wt%シリカ分散液を使用し、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で滴定を行い、下記式に基づき、シラノール基密度を算出した。
ρ=(a×f×6022)÷(c×S)
上記式中、ρ:シラノール基密度(個/nm)、a:pH4-9の0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液の滴下量(mL)、f: 0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液のファクター、c:シリカ粒子の質量(g)、S:BET比表面積(m/g)をそれぞれ表す。
【0108】
(金属不純物の含有量)
金属不純物の含有量は、原子吸光測定装置を用いて測定した。コロイダルシリカ中のナトリウム、カリウム、鉄、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロム、銅、亜鉛、鉛、銀、マンガン、コバルトの含有量の和を金属不純物の含有量とした。
【0109】
【表1】
【0110】
※1:比較例2は1級アミン、2級アミン及び3級アミン(ただし、置換基として、ヒドロキシ基は除外する)からなる群より選択されるアミンを使用していないためアミン含有量が検出されなかった。
図1