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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-24
(45)【発行日】2022-11-01
(54)【発明の名称】電解鉄箔
(51)【国際特許分類】
   C25D 1/04 20060101AFI20221025BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20221025BHJP
【FI】
C25D1/04 331
H01M4/66
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022536440
(86)(22)【出願日】2021-07-15
(86)【国際出願番号】 JP2021026579
(87)【国際公開番号】W WO2022014668
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2020121831
(32)【優先日】2020-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀江 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】河村 道雄
(72)【発明者】
【氏名】堤 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】吉▲崎▼ 悠真
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 興
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-504599(JP,A)
【文献】特表2010-518252(JP,A)
【文献】特開平8-60392(JP,A)
【文献】特開平1-104792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00- 3/66
H01M 4/64- 4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが20μm未満であり、
第1面と第2面を有し、
前記第1面と前記第2面の両面において三次元表面性状パラメータSvを前記厚みで除した値が0.27以下である、ことを特徴とする、電解鉄箔。
【請求項2】
前記第1面と前記第2面の少なくともいずれかの面において、三次元表面性状パラメータSvを前記厚みで除した前記値が0.24以下である、請求項1に記載の電解鉄箔。
【請求項3】
前記第1面と前記第2面の少なくともいずれかの面において、三次元表面性状パラメータSdq(二乗平均平方根勾配)が0.06以上である、請求項1又は請求項2に記載の電解鉄箔。
【請求項4】
箔中における鉄の含有率が80重量%以上である、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の電解鉄箔。
【請求項5】
伸びが1.2%以上である、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の電解鉄箔。
【請求項6】
前記第1面と前記第2面の少なくともいずれかの面において、三次元表面性状パラメータSdrが0.2%以上である、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の電解鉄箔。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の電解鉄箔からなる、電池集電体用の電解鉄箔。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の電解鉄箔からなる、非水系電池集電体用の電解鉄箔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池などの集電体に特に好適に使用される電解箔に関し、特に電解鉄箔に関する。
【背景技術】
【0002】
従来使用されているリチウムイオン二次電池やニッケル水素電池等の電池の高容量化には、集電体の薄膜化が有効である。二次電池用の電解箔としては電解銅箔等が広く知られている。
【0003】
例えば特許文献1では、リチウムイオン二次電池用負極電極用の電解銅箔において、箔切れやシワ等が生じにくくすることを目的とした電解銅箔が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-014608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら銅箔が電池用集電体に用いられる際には、製造時の加熱温度によっては、強度低下の可能性があることが問題視されていた。発明者らは上記課題に鑑み、電極製造時における加熱によっても強度低下を抑制できる金属材料を検討した結果、集電体製造時の加熱温度域での強度低下が少なく、且つ元来強度や伸びに優れた材料として知られている鉄(Fe)に着目した。また、鉄は資源が豊富であること、及びコスト的な観点においても利点を有する。
【0006】
集電体材料として鉄や鉄の含有量が多い金属材料を用いる場合に、考慮すべき材料特性としては以下のとおりである。
【0007】
すなわち集電体材料として鉄の含有量が多い金属を使用する場合、水系の電池用途としては電解液と反応してしまう可能性がある。しかしながら非水系の電池用途であれば、鉄の含有量が多い集電体材料も適用し得る。
【0008】
また、集電体に適用可能な程度の厚みの鉄箔を製造する場合、圧延により製造する方法と電解めっきにより製造する方法とが考えられる。
このうち圧延により20μm未満の鉄箔を製造する場合には、連続生産が困難でありかつ圧延の際に異物や不純物を巻き込みやすく品質的に課題が多いことに加え、加工硬化することにより得られた鉄箔の伸びが得られない可能性がある。一方で電解めっきにより鉄箔を製造することにより、強度や伸びを有し、集電体に適用可能な程度の厚みの鉄箔を製造可能であることが考えられる。
【0009】
本発明者らは上記の特性等に鑑みて鋭意検討を繰り返し本発明に至ったものである。すなわち本発明は、取り扱い時等の破れや千切れを抑制することができ、強度や伸びを備えた電解鉄箔を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明の電解鉄箔は、(1)厚みが20μm未満であり、第1面と第2面を有し、前記第1面と前記第2面の両面において三次元表面性状パラメータSvを前記厚みで除した値が0.27以下であることを特徴とする。
上記(1)の電解鉄箔において、(2)前記第1面と前記第2面の少なくともいずれかの面において、三次元表面性状パラメータSvを前記厚みで除した前記値が0.24以下であることが好ましい。
また上記(1)又は(2)の電解鉄箔において、(3)前記第1面と前記第2面の少なくともいずれかの面において、三次元表面性状パラメータSdq(二乗平均平方根勾配)が0.06以上であることが好ましい。
上記(1)~(3)いずれかの電解鉄箔において、(4)箔中における鉄の含有率が80重量%以上であることが好ましい。
上記(1)~(4)いずれかの電解鉄箔において、(5)伸びが1.2%以上であることが好ましい。
上記(1)~(5)いずれかの電解鉄箔において、(6)前記第1面と前記第2面の少なくともいずれかの面において、三次元表面性状パラメータSdrが0.2%以上であることが好ましい。
また、本発明における電池集電体用の電解鉄箔は、(7)上記(1)~(6)のいずれかの電解鉄箔からなるものであることが好ましい。
さらに、本発明における非水系電池集電体用の電解鉄箔は、(8)上記(1)~(7)のいずれかの電解鉄箔からなるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、取り扱い時の破れや千切れを抑制可能な電解鉄箔を提供することが可能となる。また、二次電池の集電体として使用した際にも、充放電の繰り返しに耐えうる十分な強度や伸びを備えた電解鉄箔を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態における電解鉄箔10の断面図を示す模式図である。
図2】本実施形態において、電解鉄箔10の引張強さ、最大荷重および伸びを測定するために用いる試験片の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
≪電解鉄箔10≫
以下、本発明の電解箔を実施するための実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る電解鉄箔を模式的に示した図である。なお本実施形態の電解鉄箔は、電池負極の集電体に適用されるほか、電池正極の集電体にも適用され得る。
電池の種類としては二次電池であっても一次電池であってもよい。特に、非水系二次電池として、例えばリチウム二次電池、ナトリウム二次電池、マグネシウム二次電池、全固体電池などに好適に適用することができる。
【0014】
本実施形態の電解鉄箔10は、図1に示されるように、第1面10aと第2面10bを有する。本実施形態の電解鉄箔10は、純鉄であってもよいし、本発明の課題を解決し得る限りにおいて、副成分として鉄以外の金属を1種又は2種以上含有していてもよいし不可避の不純物を含んでいてもよい。ここで純鉄としては、鉄以外の金属元素の含有率が0.1重量%以下であることを意味するものとする。鉄以外の金属元素の含有率が0.1重量%以下とすることにより、一般的に流通する圧延鉄箔(圧延鋼箔とも称する)と比して、錆の発生が少なくなる。そのため、輸送保管時などの耐食性・防錆性に優れるという利点がある。
また、本発明において鉄箔としては、箔中における鉄の含有率が80重量%以上のものと定義する。鉄の含有率を80重量%以上とし、副成分として鉄以外の金属を含有させることにより、鉄としての特性(強度や伸び)を有しつつ、強度の向上やコスト面の両立という観点から、好ましい。
【0015】
本実施形態において電解鉄箔10が鉄以外の金属を含有する場合、当該鉄以外の金属としては、例えばニッケル、コバルト、モリブデン、リン、ホウ素、等を挙げることができる。鉄としての特性(強度や伸び)を有しつつ、より強度の向上を図るという観点から、当該鉄以外の金属としてはニッケルを含有していることが好ましい。なおその場合、箔中におけるニッケルの含有率としては、好ましくは3重量%以上20重量%未満、より好ましくは3重量%以上18重量%未満、さらに好ましくは5重量%以上16重量%未満であることが好ましい。
なお本実施形態においては、電解鉄箔10に含まれる全ての金属を100重量%とした場合、鉄とニッケル以外の金属含有率が0.1重量%以下であることが好ましい。
本実施形態において、電解鉄箔に含まれる鉄、及び、鉄以外の金属の含有量を得る方法としては、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法等を挙げることができる。また、得られた各金属の含有量より、金属含有率を算出することが可能である。
【0016】
本実施形態の電解鉄箔10は、電解めっきにより形成される。具体的には、鉄イオンを含む電解めっき浴を用いて電解鉄箔10を形成することが可能である。
なお本実施形態の電解鉄箔10は第1面と第2面を有するが、以下説明のため便宜的に、電解鉄箔10の製造時において、電解箔を支持する支持体(基材)に接していた面(基材面)を第1面10aとし、他方の面(電解面)を第2面10bとして説明する。なお以下において、第1面(10a)を単に基材面、第2面10bを単に電解面とも称するものとする。
【0017】
本実施形態の電解鉄箔10は、上述した電解めっき浴中に光沢剤を添加しないめっき層(便宜的に「無光沢鉄めっき層」とも称する)であってもよいし、光沢剤(半光沢用の光沢剤も含む)を添加する「光沢鉄めっき層」であってもよい。
なお、上記した「光沢」又は「無光沢」は、目視外観上の評価に依拠しており厳密な数値での区分けは困難である。さらには後述する浴温などの他のパラメータに依っても光沢度合いが変化し得る。したがって、本実施形態で用いる「光沢」「無光沢」は、あくまでも光沢剤の有無に着目した場合の定義付けとする。
【0018】
本実施形態の電解鉄箔10は、第1面10a(基材面)と第2面10b(電解面)を有し、第1面10a(基材面)と第2面10b(電解面)の両面において、三次元表面性状パラメータSvを電解鉄箔10の厚みで除した値が0.27以下であることを特徴とする。また、第1面10aと第2面10bの少なくともいずれかの面において、三次元表面性状パラメータSvを電解鉄箔10の厚みで除した値が、0.24以下であることが好ましい。その理由としては以下のとおりである。
【0019】
すなわち、本実施形態の電解鉄箔10は、二次電池の高容量化に伴って集電体に使用する電解箔の薄膜化の要請があるところ、これらの需要を満たすべく電解めっきにより高強度の金属箔を製造するものである。
【0020】
本発明者らは、薄膜化に伴って懸念される製造時および取扱い時(電池組立時も含む)の破れや千切れを抑制でき、さらには、二次電池における充放電の繰り返しの際に体積変化の大きい活物質を使用した場合においても、シワや破れが抑制可能な電解箔を製造するため、鋭意検討を繰り返した。
その結果、高強度の電解箔として電解鉄箔を使用した場合、表面形状をコントロールすることにより、上記効果が得られることを見出し、本発明に想到したものである。
【0021】
本実施形態の電解鉄箔の表面形状を表すパラメータとしては、具体的には、ISO 25178-2:2012に規定される面粗さのうち「最大谷深さ」(三次元表面性状パラメータSv)を適用するものとする。
すなわち、金属箔の引張強さは、理論的には厚さの影響を受けない値である。しかしながら実際上は、電解鉄箔において厚さを薄くした場合(具体的には20μm未満)には、引張強さは想定した値よりも極端に低下する場合があることが本発明者らの研究により見出された。例えば、同様の浴条件で作製した6μmの電解鉄箔を複数作製した場合においても、製造条件等によって明らかな強度低下が生じた場合があった。つまり、同様の厚みの電解鉄箔を製造した場合においても、引張強さ及び最大荷重が著しく低下する場合があることを確認した。この理由のひとつとして、金属箔表面の凹凸等の影響を受けやすくなるためと本発明者らは考えた。
【0022】
特に、顕著に深い凹部や谷部の発生により、電解鉄箔の本来の強度(引張強さ又は最大荷重など)を得ることができなくなる可能性があることを発見した。これは、電解鉄箔の厚さ方向において、図1(b)に示されるように第1面10aと第2面10bとの距離tが特に短くなる箇所を有する場合には、当該箇所に応力が集中することにより発生する割れが、当該箇所を起点とした電解鉄箔全体に伝播する割れとなってしまうものと推測される。その結果、破れや千切れが生じやすくなり、本来の強度より低い強度しか得られないと考えられる。
【0023】
なお、電解鉄箔においては、めっき条件にもよるが、箔を形成するめっき後に研磨などを施さない場合は、電解面は鉄めっきで析出するめっき粒子の凹凸が現れやすく、つまりピッチは小さい凹凸だが、ごく微細な結晶粒で構成されるようなめっき(レベリング作用の強いめっき)に比べるとやや凹凸が大きくなりやすい。また、基材面側は、逆に基材の凹凸をごく微細な結晶粒の場合ほどは反映しないものの、支持体表面に存在する大きな凹凸は反映されやすい。つまり、めっき粒子の凹凸が現れやすい鉄箔においては、電解面側の凹凸も大きくなりすぎないように制御する必要があるとともに、電解面側の凹凸が現れやすいために、基材面側の凹凸制御も重要となる。
【0024】
上記推測に基づいて検討を繰り返した結果、本実施形態の電解鉄箔の表面において、Sv(最大谷深さ)を電解鉄箔の厚さとの関係において所定の値とすることにより、従来にはない電解鉄箔を得ることができるに至ったものである。
【0025】
上記趣旨に基づく本実施形態の電解鉄箔10は、その両面(第1面10aと第2面10bのいずれも)における「Sv(最大谷深さ)[μm]/電解鉄箔10の厚み[μm]」の値が、0.27以下であることを特徴とする。なお、電解鉄箔10の厚みを「厚み」と称するものとする。
Sv(最大谷深さ)/電解鉄箔10の厚みの値が、いずれかの面において0.27を超える場合には、電解鉄箔の本来の強度(引張強さ又は最大荷重)において必要とされる値を得ることができない可能性があり、好ましくない。つまり、いずれの面においても0.27を超えることがないことを特徴とする。より強度を安定させる(本来の強度を維持しやすい)という視点では、第1面10aと第2面10bの少なくともいずれかの面において0.24以下であることが好ましく、0.22以下であることがより好ましい。さらに、より強度を安定させるという視点で、電解鉄箔10の両面(第1面10aと第2面10bのいずれも)におけるSv/厚みの値が0.24以下であることがさらに好ましく、0.22以下であることが特に好ましい。また、Sv(最大谷深さ)/電解鉄箔10の厚みの下限値としては、特に縛られないものではないが、好ましくは0.01以上であることが好ましい。
【0026】
なお、本実施形態の電解鉄箔10における三次元表面性状パラメータSvは、公知の非接触式の三次元表面粗さ測定装置等により求めることができる。
【0027】
なお、製造時および取扱い時(電池組立時も含む)の破れや千切れをより抑制するという観点から、本実施形態の電解鉄箔10において、第1面10a及び第2面10bにおけるSv[μm](最大谷深さ)、Sz[μm](最大高さ)、Sa[μm](算術平均高さ)の各値は、以下の値を有することが好ましい。なお本実施形態における三次元表面性状パラメータは、ISO-25178-2:2012(対応JIS B 0681-2:2018)に従って測定された値をいうものとする。
Sv ・・・5.0μm未満、より好ましくは4.0μm未満
Sz ・・・10.0μm未満、より好ましくは8.0μm未満
Sa ・・・1.0μm未満、より好ましくは0.6μm未満
ここで、Sv、Sz、Saの下限値の制限は特にないが、通常、Svは0.2μm以上、Szは0.8μm以上、Saは0.03μm以上が適用される。
【0028】
また、活物質密着性の観点から、本実施形態の電解鉄箔10において、第1面10a及び第2面10bの少なくともいずれかの面におけるSdq(二乗平均平方根勾配)、Sdr(展開界面面積率)、Sal(自己相関長さ)の各値は、以下の値を有することが好ましい。なお本実施形態における三次元表面性状パラメータは、ISO-25178-2:2012(対応JIS B 0681-2:2018)に従って測定された値をいうものとする。
Sdq・・・0.06以上、より好ましくは0.10以上、さらに好ましくは0.20以上
Sdr・・・0.20%以上、より好ましくは0.50%以上、さらに好ましくは1.00%以上
Sal・・・50μm未満、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは20μm以下
【0029】
集電体として用いる場合、活物質密着の観点から、めっきの結晶粒によって形成される微細なピッチの凹凸がある方が好ましく、特にSdqおよびSdrの値を上記範囲とすることにより、めっきの結晶粒の凹凸を適した形状とすることができる。特に少なくともいずれかの面におけるSdrを1.00%以上とすることで、より活物質密着性の向上が見込まれる。
Sdqの上限値は特になく、1未満となる。Sdrの上限値は特に制限されないが、極端に大きすぎる場合には、凹凸が高すぎるおそれがあるため、通常50%未満である。
【0030】
Sdqの下限値については、両面の活物質密着性を向上させるという観点から、第1面及び第2面の両面におけるSdqが0.06以上であることが好ましく、より好ましくは0.1以上、さらに好ましくは0.2以上である。またSdrの下限値についても、両面の活物質密着性向上の観点から、第1面及び第2面の両面におけるSdrが0.20%以上、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは1.0%以上である。Salの下限値は特にないが通常1μm以上が適用される。
【0031】
なお、本実施形態の電解鉄箔10における三次元表面性状パラメータSv、Sz、Sa、Sdq、Sdr、Salを上記した値の範囲内に制御するためには、後述するようにめっき条件を制御する方法や、支持体の表面を研磨する方法、得られた電解鉄箔の表面をエッチング処理や電解研磨などによって凹凸を制御する方法等を挙げることが可能である。
【0032】
次に、本実施形態における電解鉄箔10の厚みについて説明する。
本実施形態における電解鉄箔10の厚みは20μm未満であることを特徴とする。20μm以上の厚みでは、そもそも薄膜化による高容量化を目指す背景から設計思想に合わず、さらには公知の圧延箔等に対してコスト的なメリットが減退してしまうからである。
なお、本実施形態における電解鉄箔10の厚みの上限に関しては、18μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、12μm以下であることがさらに好ましい。
【0033】
本実施形態における電解鉄箔10の厚みの下限は特に限定されるものではないが、例えば1.5μmであることが好ましい。その理由としては、充放電に伴う影響に対する強度の観点や、電池の製造時や取扱い時等に発生する可能性のある破れや千切れ・シワ等の観点等が挙げられる。
なお、本実施形態における電解鉄箔10の厚みの下限に関しては、5μm以上であることがより好ましい。
【0034】
なお、本実施形態における「電解鉄箔10の厚み」は、マイクロメーターでの厚み測定や重量法による厚み測定により取得することが可能である。
【0035】
なお本実施形態の電解鉄箔10の引張強さとしては、130MPa以上であることが好ましい。引張強さが130MPa未満である場合、二次電池の集電体に適用した際に、充放電の繰り返しによる破れが発生する可能性があるため好ましくない。
【0036】
なお、本実施形態における電解鉄箔10の引張強さの下限に関しては、180MPa以上であることがより好ましく、350MPa以上であることがさらに好ましい。一方で、本実施形態における電解鉄箔10の引張強さの上限に関しては、800MPa以下であることがより好ましく、700MPa以下であることがさらに好ましい
【0037】
また本実施形態の電解鉄箔10の最大荷重としては、12.0N以上であることが好ましく、15.0N以上であることがより好ましい。最大荷重が12.0N未満である場合、電解鉄箔10の製造時及び電池製造時に箔の千切れや破れなどが発生する可能性があり、ハンドリング性(取り扱い性)が低下するため好ましくない。
【0038】
なお本実施形態において電解鉄箔10の引張強さや最大荷重は、例えば以下のように測定を行うことが可能である。株式会社ダンベル製のSD型レバー式試料裁断器(型式:SDL-200)により、JIS K6251に準じたカッター(型式:SDK-400)を用いて図2に示すJIS K6251のダンベル4号形の金属片の打ち抜きを行う。そしてこの試験片で、金属試験片のJIS規格であるJIS Z 2241に準じた引張試験方法に準拠して引張試験を行うことが可能である。
【0039】
本実施形態の電解鉄箔10における伸びは1.2%~15%であることが好ましく、1.5%~15%であることがより好ましく、2.0%~15%であることがさらに好ましい。伸びが1.2%未満である場合、得られた電解鉄箔を二次電池の集電体に適用した場合、充放電の繰り返しに対応できない可能性があるため好ましくない。なお本実施形態における電解鉄箔の伸びは、上記引張強さや最大荷重と同様、JIS Z 2241に準じた引張試験方法に準拠して測定された値をいうものとする。
【0040】
本実施形態の電解鉄箔10は、上述のような構成を備えているため、以下のような効果を奏するものである。
すなわち金属箔を集電体として製造する工程中において、乾燥温度が200℃以上(400℃以下)に到達する場合があるが、従来集電体材料として用いられている銅箔はこの乾燥温度により強度低下の可能性があった。
鉄の材料特性として上記加熱温度帯による強度低下は低いため、本実施形態の電解鉄箔を集電体として用いた場合には、上述のような製造時および取扱い時(電池組立時や集電体として使用する際)の加熱における強度低下を抑制できる。
【0041】
さらには本実施形態の電解鉄箔は、Sv(最大谷深さ)[μm]/電解鉄箔10の厚み[μm]を制御することにより、薄い箔とした場合でも、箔表面の凹凸等の影響により生じる強度や伸びの低下を抑制可能である。そのため、電解鉄箔を集電体として使用する場合、製造時および取扱い時(電池組立時や集電体として使用する際)の、箔の破れや千切れを抑制することができ、強度や伸びを備えた電解鉄箔を提供することができる。
【0042】
[電解鉄箔10の製造方法]
本実施形態の電解鉄箔10が製造される際には、チタン板或いはステンレス板等からなる支持体上に、電解鉄めっきが形成された後、上記支持体からめっき層を公知の方法により剥離することにより電解鉄箔10が得られる。
なお支持体の具体的な材質としては、上記したチタン板或いはステンレス板に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない限度において他の公知の金属材を適用できる。
なお以下において、チタン板をTi基材とも称するものとする。
【0043】
電解鉄めっき浴としては、以下のような条件を挙げることができる。
[高濃度鉄めっき条件]
・浴組成
塩化鉄四水和物:500~1000g/L
・温度:60~110℃
・pH:3.0以下
・撹拌:空気撹拌もしくは噴流撹拌
・電流密度:3~100A/dm
なお上記pHの調整は、塩酸や硫酸などを用いることが可能である。
【0044】
なお、上記高濃度鉄めっきの浴の温度に関して、60℃未満の場合には、三次元表面性状パラメータSvが高くなる傾向にあり、また層の析出ができない可能性やめっき時の応力増加に伴う支持体からの剥離の可能性があるため好ましくない。製造効率の向上という観点から85℃以上であることがより好ましい。一方で、浴温度の上限は特にないが、110℃を超えた場合には、めっき浴の蒸発が激しくなり生産性に劣るため好ましくない。
【0045】
なお、上記高濃度鉄めっきの浴のpHに関して、pHが3.0を超えた場合には、三次元表面性状パラメータSvが高くなる傾向にあるため好ましくない。三次元表面性状パラメータSvを好ましい値に制御するという観点から、pHが1.0以下であることがより好ましい。なお電流密度に関して、pHを1.0以下とする場合には、鉄の溶解速度と鉄の析出速度との関係から、電流密度を5A/dm以上とすることが好ましい。
【0046】
[低濃度鉄めっき条件]
・浴組成
塩化鉄四水和物:200~500g/L
塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化ベリリウム、塩化マンガン、塩化カリウム、塩化クロム、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化チタンのいずれか又は複数の合計量:20~300g/L
・温度:25~110℃
・pH:5.0以下
・撹拌:空気撹拌もしくは噴流撹拌
・電流密度:3~100A/dm
【0047】
上記低濃度鉄めっきの電流密度に関して、3A/dm未満の場合には、三次元表面性状パラメータSvが高くなる傾向にあり、また箔を作製できない可能性があることや、生産効率が低下するおそれがあり好ましくない。製造効率の向上という観点から10A/dm以上とすることがより好ましい。一方で、100A/dmを超えた場合には、めっきやけが生じるおそれやめっき時の応力増加に伴う支持体からの剥離の可能性があるため好ましくない。めっきやけの抑制や生産効率の向上という観点から、80A/dm以下とすることがより好ましい。また、ピット防止剤を適量添加してもよい。
【0048】
上記低濃度鉄めっきの浴組成に関して、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化ベリリウム、塩化マンガン、塩化カリウム、塩化クロム、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化チタンはいずれか一つを単独で添加してもよいし、複数を組み合わせて添加してもよい。
【0049】
本実施形態の電解鉄箔10を形成する際のめっき浴中には、上述したようにニッケルを含んでいてもよい。浴中にニッケルを添加することにより、三次元表面性状パラメータSvが低くなる傾向にあり、また箔の強度や耐食性を向上させることが可能となる。また、浴中にニッケルを添加することによりめっき条件における電流密度を高くすることができ、生産性が向上する利点もある。
【0050】
ニッケルを含んだ場合のめっき浴としては、以下のような条件を挙げることができる。
・浴組成
塩化鉄四水和物:500~1000g/L
塩化ニッケル六水和物 又は 硫酸ニッケル六水和物:10~400g/L
・温度:60~110℃
・pH:3.0以下
・撹拌:空気撹拌もしくは噴流撹拌
・電流密度:3~100A/dm
【0051】
本実施形態の電解鉄箔10の製造方法としては、概ね以下のような工程を挙げることができる。
まず、めっき層が形成される支持体に研磨、清拭、水洗、酸洗等の前処理を施した後、支持体を上記に例示しためっき浴に浸漬して、支持体上に電解鉄めっき層を形成させる。形成されためっき層を乾燥させた後剥離して電解鉄箔10を得る。
【0052】
上記工程において、支持体に施す前処理のうちの研磨について説明する。本実施形態の電解鉄箔10を製造する際、めっき層を形成する支持体の表面形状は、めっき層に概ね転写されて電解鉄箔10の一方の面(基材面)となる。また、電解鉄箔10の面(電解面)の形状も、電解鉄箔10の厚みが薄ければ薄いほど、支持体の表面形状に影響される可能性が高い。
【0053】
つまり本実施形態のような電解鉄箔においては、めっき条件にもよるが、電解面は鉄めっきで析出するめっき粒子の凹凸が現れやすい。また基材面側は、支持体表面に存在する大きな凹凸は反映されやすい。
それ故、本実施形態において、電解鉄箔10の各表面における三次元表面性状パラメータSvの値を上述した範囲とするためには、支持体の表面形状を制御することが好ましく、例えば支持体の表面粗さSaを制御することが好ましい。
具体的には、支持体の表面粗さSaが0.25μm以下であることが好ましく、0.20μm以下であることがより好ましく、0.18μm以下であることがさらに好ましい。また、電解鉄箔を形成する際のめっき浴中にニッケルを含んでいる場合、支持体の表面粗さSaが0.16μm以下であることが特に好ましい。また、支持体の表面粗さSaの下限としては、特に縛られるものではないが、好ましくは0.01μm以上であることが好ましい。
【0054】
支持体の表面粗さSaを上記値とするためには、例えば、公知の手段を用いて支持体表面を研磨することにより達成可能である。ここで研磨方向は特に制限があるものではなく、支持体の巾方向又は長手方向等の特定の方向に研磨してもよいし、ランダムに研磨してもよい。
【0055】
支持体からの電解鉄箔10の剥離前、または剥離後において、電解鉄箔10の最表層表面に、本発明の課題を解決できる範囲内において、粗化処理や防錆処理などを施してもよい。また、カーボンコートなどの導電性付与のための公知の処理を施してもよい。
例えば、電解鉄箔10の両面にニッケル粗化層や銅粗化層を設けることにより、集電体として用いる際の活物質の密着性能を向上させることができるため好ましい。なお、粗化層については例えば国際公開WO2020/017655等に開示されているため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0056】
なお本実施形態においては、電解鉄箔10の表面粗さ(三次元表面性状)を制御する方法として、上述のようにめっき条件を制御する方法や支持体表面を研磨する方法を挙げて説明したが、これに限られるものではない。例えば、電解鉄箔10そのものの表面をエッチング処理や電解研磨などによって平滑化する方法により、所望の三次元表面性状を得ることも可能である。
【0057】
なお、本実施形態では、支持体を用いて連続製造する方式(たとえばドラム式やロールtoロール方式)で電解鉄箔を製造する例について説明したが、本発明はこの態様に限られず、例えば切り板を用いたバッチ式での製造も可能である。
【0058】
本実施形態における電解鉄箔10は、第1面10aと第2面10bの少なくとも一方の面上に、少なくとも一層の金属層を有する積層電解箔とすることも可能である。この場合、上記金属層としてはCu、Ni、Co、Zn、Sn、Crおよびこれらの合金等が挙げられる。特に、上記金属層をニッケル-鉄合金層とし、本実施形態の電解鉄箔10とニッケル-鉄合金層との積層電解箔としてもよい。
【実施例
【0059】
以下に、実施例を挙げて本発明について、より具体的に説明する。まず、実施例における測定方法について記載する。
【0060】
[引張強さ、最大荷重および伸びの測定]
得られた電解箔において、以下のように引張強さや最大荷重、伸びの測定を行った。まず、株式会社ダンベル製のSD型レバー式試料裁断器(型式:SDL-200)により、JIS K6251-4に準じたカッター(型式:SDK-400)を用いて金属片の打ち抜きを行った。次に、この試験片で、金属試験片のJIS規格であるJIS Z 2241に準じた引張試験方法に準拠して引張試験を行った。試験片の模式図を図2に示す。
なお引張試験の装置としては引張試験機(ORIENTEC製 万能材料試験機 テンシロンRTC-1350A)を用いた。また測定条件としては、室温で、引張速度10mm/minの条件で行った。
伸びの算出式は下記の式で行った。
(試験機の移動距離(ストローク))/(原標点間距離)×100
また、上記引張試験における最大試験力を最大荷重[N]として表に示した。結果を表3に示す。
【0061】
[厚みの測定]
得られた電解箔において、マイクロメーターを用いて厚みの測定を行った。得られた値を表1の「実測厚み」の欄に示した。
【0062】
[表面形状の測定]
得られた電解箔において、支持体に接していた面(基材面)を第1面、他方の面(電解面)を第2面とし、それぞれの面の表面形状を測定した。具体的には、オリンパス社製レーザー顕微鏡OLS5000を用いて、三次元表面性状パラメータSv[μm](最大谷深さ)、Sz[μm](最大高さ)、Sa[μm](算術平均高さ)、Sdq(二乗平均平方根勾配)、Sdr(展開界面面積率)、Sal(自己相関長さ)、の各値を計測した。その上で、Sv[μm]/実測厚み[μm]を算出した。なお本実施形態における上記三次元表面性状パラメータは、ISO-25178-2:2012(対応JIS B 0681-2:2018)に従って測定された値をいうものとする。
測定方法としては、対物レンズ50倍(レンズ名称:MPLAPON50XLEXT)の条件で3視野(1視野258μm×258μm)のスキャンを行い、解析用データを得た。次いで、得られた解析用データについて、解析アプリケーションを用い、自動補正処理であるノイズ除去および傾き補正を行った。その後に、面粗さ計測のアイコンをクリックして解析を行い、面粗さの各種パラメータを得た。なお,解析におけるフィルター条件(F演算、Sフィルター、Lフィルター)は、すべては設定せずに、無しの条件で解析を行った。その結果を表2に示す(パラメータの値は3視野における平均値とした)。
【0063】
[負極板の製造および活物質密着性評価]
負極活物質として人造黒鉛(粒径:約10μm)、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用い、負極活物質及び結着剤をそれぞれ96重量%および4重量%とした混合物にN-メチルピロリドン(NMP)を適量加えて粘度を調整した負極合剤ペーストを作製した。この負極合剤ペーストを電解箔の電解面側に塗布して乾燥することにより負極板を作製した。この時、負極活物質及び結着剤の合計の質量が、乾燥後において5mg/cmとなるように塗布した。
活物質密着性評価は負極板において、塗布した面を外側にして180°折り曲げ試験を行い、負極活物質の剥離の有無の確認を行った。結果を表3に示す。
折り曲げ部において、
活物質の剥離がない場合をA
折り曲げ部において目視で基材の露出は確認できないが一部のみ剥離がある場合をB
折り曲げ部において目視で基材の露出を確認できる状態で一部剥離がある場合をC
折り曲げ部およびその周辺において活物質が剥離し基材の露出が目視で確認された場合をDとした。
【0064】
<実施例1>
支持体上に電解鉄めっきを形成した。具体的にはまず、電解鉄箔がその上面に形成される支持体としてTi基材を用い、当該Ti基材の表面に対して研磨を行い、Ti基材の表面粗さSaを表1の値となるようにした。研磨の方向は、Ti基材の長手方向(連続製造の際の進行方向、縦方向)に概ね平行に行った。このTi基材に対して7wt%硫酸を用いて酸洗及び水洗などの公知の前処理を施した。次いで前処理したTi基材を以下に示す鉄めっき浴に含浸・電析し、電解箔として表1に示す厚みの電解鉄めっき層をTi基材上に形成した。
【0065】
[鉄めっき条件]
・浴組成
塩化鉄四水和物:725g/L
・温度:90℃
・pH:1.0
・撹拌:空気撹拌
・電流密度:10A/dm
上記のように形成しためっき層を充分に乾燥させた後に、Ti基材からこのめっき層を剥離して電解鉄箔を得た。得られた電解鉄箔の厚みは、表1の「実測厚み」に示される数値であった。
得られた電解鉄箔に対して、引張強さ、最大荷重および伸びの測定、厚みの測定、電解面と基材面の表面形状の測定、活物質との密着性の評価、を行った。結果を表1~表3に示す。
なお、電解鉄箔におけるFeとMnの含有率は、Fe:99.9wt%以上、Mn:0.01wt%未満の純鉄であった。Mn含有率により得られた箔が圧延鉄箔でないことが確認できた(後述の判別方法A参照)。このFeとMnの含有率は、算出することにより得られた数値である。算出するに際して、まず、実施例1の電解鉄箔を溶解させてICP発光分析(測定装置:島津製作所社製、誘導結合プラズマ発光分光分析装置 ICPE-9000)により、Mnの含有量を測定した。このとき、Mn以外の残部をFeとし、Fe含有量を算出した。このFe、Mnの含有量をもとに、ぞれぞれの金属の含有率を算出した。
【0066】
<実施例2>
厚みを表1のとおりとした以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1~3に示す。
【0067】
<実施例3~4>
鉄めっき条件を以下のとおりとし、厚みを表1のとおりとした以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1~3に示す。
・浴組成
塩化鉄四水和物:725g/L
塩化ニッケル六水和物:75g/L
・温度:90℃
・pH:1.0
・撹拌:空気撹拌
・電流密度:20A/dm
なお、実施例3において、電解鉄めっき層におけるFeとNi、Mnの含有率は、Fe:93.1wt%、Ni:6.9wt%、Mn:0.01wt%未満であり、副成分としてニッケルを含有する鉄箔であった。Mn含有率により得られた箔が圧延箔でないことが確認できた(後述の判別方法A参照)。このFe、Ni、Mnの含有率は、算出することにより得られた数値である。算出するに際して、まず、実施例3の電解 鉄めっき層を溶解させてICP発光分析(測定装置:島津製作所社製、誘導結合プラズマ発光分光分析装置 ICPE-9000)により、NiおよびMnの含有量を測定した。このとき、NiおよびMn以外の残部をFeとし、Fe含有量を算出した。このFe、Ni、Mnの含有量をもとに、ぞれぞれの金属の含有率を算出した。
【0068】
<実施例5~10>
鉄めっき条件を以下のとおりとした。電流密度(A/dm)、厚み、Ti基材の表面粗さSaを表1のとおりとした以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1~3に示す。
・浴組成
塩化鉄四水和物:300g/L
塩化アルミニウム六水和物:180g/L
・温度:90℃
・pH:1.0
・撹拌:空気撹拌
【0069】
<実施例11~13>
鉄めっき条件を以下のとおりとした。電流密度(A/dm)、厚み、Ti基材の表面粗さSaを表1のとおりとした以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1~3に示す。
・浴組成
塩化鉄四水和物:400g/L
塩化カルシウム:180g/L
サッカリンナトリウム:3g/L
ドデシル硫酸ナトリウム:0.1g/L
グルコン酸ナトリウム:2g/L
・温度:90℃
・pH:1.5
・撹拌:空気撹拌
【0070】
<実施例14~18、25~27>
鉄めっき条件を以下のとおりとした。電流密度(A/dm)、厚み、Ti基材の表面粗さSaを表1のとおりとした以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1~3に示す。
・浴組成
塩化鉄四水和物:1000g/L
・温度:90℃
・pH:1.0以下
・撹拌:空気撹拌
【0071】
<実施例19>
電解めっき中に、表1に示すとおり電流密度を変更し、連続して析出した。すなわち表1で「下5/上15」と示すとおり、5A/dmで狙い厚み1μmの下層を形成後に15A/dmで上層を形成し、厚みを表1のとおりとした。それ以外は、実施例14と同様に行った。結果を表1~3に示す。
【0072】
<実施例20>
電解めっき中に、表1に示すとおり実施例19と同様に電流密度を変更し、連続して析出した。すなわち表1で「下5/上15」と示すとおり、5A/dmで狙い厚み5μmの下層を形成後に5A/dmで上層を形成し、厚みを表1のとおりとした。それ以外は、実施例14と同様に行った。結果を表1~3に示す。
【0073】
<実施例21>
電解めっき中に、表1に示すとおり電流密度を変更し、連続して析出した。すなわち表1で「下15/上5」と示すとおり、15A/dmで狙い厚み10μmの下層を形成後に5A/dmで上層を形成し、厚みを表1のとおりとした。それ以外は、実施例14と同様に行った。結果を表1~3に示す。
【0074】
<実施例22~24>
厚みを表1のとおりとした以外は、実施例14と同様に行った。得られた電解鉄箔に対して、箱型焼鈍により表1に示すとおりの温度・時間の焼鈍を行った。結果を表1~3に示す。
【0075】
<実施例28>
実施例1と同様に前処理したTi基材を以下に示す鉄めっき浴に含浸・電析し、電解箔として表1に示す厚みの電解鉄めっき層をTi基材上に形成した。なおTi基材の表面粗さSaは表1の値となるようにした。結果を表1~3に示す。
・浴組成
塩化鉄四水和物:1000g/L
・温度:105℃
・pH:1.0
・撹拌:空気撹拌
・電流密度:50A/dm
結果を表1~2に示す。
【0076】
<実施例29~30>
厚みを表1に示す値とした以外は実施例28と同様に行った。結果を表1~3に示す。
【0077】
<実施例31>
鉄めっき条件を以下のとおりとし、厚みを表1のとおりとした以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1~3に示す。
・浴組成
塩化鉄四水和物:500g/L
塩化ニッケル六水和物:200g/L
温度:100℃
・pH:1.0
・撹拌:空気撹拌
・電流密度:20A/dm
なお、実施例31において、電解鉄めっき層におけるFeとNi、Mnの含有率は、Fe:86.0wt%、Ni:14.0wt%、Mn:0.01wt%未満であった。このFe、Ni、Mnの含有率は、算出することにより得られた数値である。算出するに際して、まず、実施例31の電解鉄めっき層を溶解させてICP発光分析(測定装置:島津製作所社製、誘導結合プラズマ発光分光分析装置 ICPE-9000)により、NiおよびMnの含有量を測定した。このとき、NiおよびMn以外の残部をFeとし、Fe含有量を算出した。このFe、Ni、Mnの含有量をもとに、ぞれぞれの金属の含有率を算出した。
【0078】
<実施例32>
実施例31と同様にして得られた電解鉄箔に対して、箱型焼鈍により表1に示すとおりの温度・時間の焼鈍を行った。結果を表1~3に示す。
【0079】
<比較例1>
Ti基材の表面粗さSaを表1のとおりとした以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1~3に示す。
【0080】
<比較例2>
Ti基材の表面粗さSaを表1のとおりとした以外は、実施例3と同様に行った。結果を表1~3に示す。
【0081】
<比較例3>
表1に示すとおりの厚みの圧延鉄箔(株式会社ニラコ製、型番:FE-223171)を用いた。結果を表1~3に示す。
なお、圧延鉄箔におけるFeとMnの含有率は、Fe:99.67wt%、Mn:0.33wt%以上であった。このFeとMnの含有率は、算出することにより得られた数値である。算出するに際して、まず、比較例3の圧延鉄箔を溶解させてICP発光分析(測定装置:島津製作所社製、誘導結合プラズマ発光分光分析装置 ICPE-9000)により、Mnの含有量を測定した。このとき、Mn以外の残部をFeとし、Fe含有量を算出した。このFe、Mnの含有量をもとに、ぞれぞれの金属の含有率を算出した。
【0082】
<比較例4>
以下のとおりのめっき条件で、電解銅箔をTi基材上に形成した。厚み、基材面粗さを表1のとおりとした。結果を表1~3に示す。
・浴組成
硫酸銅五水和物:200g/L
硫酸:45g/L
・温度:35℃
・pH:1.0以下
・撹拌:空気撹拌
・電流密度:10A/dm
【0083】
<比較例5>
比較例4と同様にして得られた電解銅箔に対して、箱型焼鈍により表1に示すとおりの温度・時間の焼鈍を行った。結果を表1~3に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
各実施例は、好ましい引張強さ、最大荷重および伸び等の特性を備えていることが確認された。一方で比較例においては、引張強さ又は伸びの観点において目的を達成することができなかったことが確認された。
【0088】
より詳細には、実施例1は両面のSv/厚みが0.27以下のため、引張強さや最大荷重、伸びなど好ましい特性を備えている。一方、同条件で作成した比較例1は片面のSv/厚みが0.27を超えているために、局所的に弱い箇所があると考えられることから、本来の特性である引張強さや最大荷重が十分に発現しないことが分かった。実施例3と比較例2とを比べたときにも、同条件で作成した電解鉄箔において、実施例3に対しSv/厚みが0.27を超えている比較例2においては各特性が劣っており、本来の特性が発現しないことが分かった。
【0089】
さらに、実施例17と同条件で作成した電解鉄箔を350℃の温度で4時間焼鈍した実施例22は引張強さが約24%下がるものの、十分な引張強さ、最大荷重を有したままとすることができており、電池製造工程で加熱されたとしても、引張強さの低下を抑制できることが分かる。一方で銅箔のサンプルである比較例4と比較例5とを比較すると、銅箔は350℃の熱がかかった場合、引張強さおよび最大荷重が約60%減と著しく軟化し、集電体として使用する場合、製造時および取扱い時に箔の破れや千切れのおそれがあることが分かる。また、他の各実施例においても、Sv/厚みが両面で0.27以下とすることで、各特性を好ましい範囲とすることができた。
【0090】
また各実施例は、少なくともどちらか一方の面(第1面または第2面)において、活物質との密着性を備えていることが確認された。一方で、比較例2における圧延鉄箔においては、上記特性を備えるものではないことが確認された。
【0091】
より詳細には、実施例1~32においては、少なくともどちらか一方の面におけるSdq(二乗平均平方根勾配)又はSdr(展開界面面積率)の値が大きい場合、またはSal(自己相関長さ)の値が小さい場合に結着剤の作用効果が十分に発揮し、活物質との密着性に優れていることを確認した。
また、実施例1~4、7~32においては、第1面及び第2面におけるSdq又はSdrの値が大きく、またSalの値が小さく制御されており、両面共に活物質との密着性に優れていることを確認した。
【0092】
一方、実施例5、6においては、少なくともどちらか一方の面(第1面または第2面)におけるSdq又はSdrの値が大きく、またSalの値が小さく制御されており、活物質との密着性に優れるものの、他方の面におけるSdq又はSdrの値が小さく、またSalの値が大きいため結着剤の作用が効きにくく、活物質との密着性が劣ることを確認した。また比較例3においては、第1面及び第2面におけるSdq又はSdrの値が小さく、またSalの値が大きいため、活物質との密着性が劣ることを確認した。
【0093】
なお、実施例に示す電解鉄箔と比較例3に示す圧延鉄箔の判別方法については種々の方法が存在するが、主な判別方法について以下に記載する。
【0094】
<判別方法A>
電解鉄箔と圧延鉄箔における化学組成の観点からの判別方法としては、ICP発光分析による定量分析が挙げられる。すなわち、圧延鉄箔を高炉や電炉から製造した場合にはマンガン(Mn)の混入を一定レベル以下にすることが困難であるため、全元素成分中におけるMnを0.3wt%以上含有している場合には圧延鉄箔と判断できる。一方でMnが0.05wt%未満である場合には、電解鉄箔と判断可能である。なおこのICP発光分析による定量分析は、焼鈍前後の箔のいずれにおいても有効な判別手段である。
【0095】
<判別方法B>
電解鉄箔と圧延鉄箔における結晶配向指数の観点からの判別方法としては、X線回折による回折ピークの確認が挙げられる。すなわち、X線回折による回折ピークの強度比より結晶配向指数を算出した場合、圧延鉄箔は(211)面の配向が強く出る傾向にある。また、圧延鉄箔は焼鈍後においても(211)面の影響が電解鉄箔と比較して強く残る。一方で電解鉄箔の場合(110)面の配向が相対的に強いため(211)面の配向は強く出ない傾向にあり、(211)面の配向に基づいて電解鉄箔と圧延鉄箔とを判別可能である。
なお、熱処理後の電解鉄箔と圧延鉄箔をより正確に判別する場合には、上記Aの判別方法と併用することが好ましい。
【0096】
<判別方法C>
結晶組織の観点から電解鉄箔と圧延鉄箔を判別することも可能である。すなわち焼鈍前の圧延鉄箔の結晶組織を観察した場合、表面においては圧延方向に伸びたような結晶粒となると共に、断面を観察した場合には板厚方向に複数個の結晶粒で構成され、且つ圧延方向に伸びた結晶粒となる。一方で電解鉄箔の場合には、表面においては圧延方向に伸びたような結晶粒とはならず、断面においては基材面側から電解面側に成長したような組織となる。
なお、上記のような結晶組織は熱処理により変化するため、熱処理条件によっては熱処理後の材料に対しても上記判別方法を適用可能であるものの、基本的には熱処理後の電解鉄箔と圧延鉄箔の判別には、上記AとBの判別方法を併用することが好ましい。
【0097】
<判別方法D>
また表面粗さの観点から電解鉄箔と圧延鉄箔を判別することも可能である。すなわちレーザー顕微鏡による三次元表面性状パラメータ(Sdq、Sdr、Sal等)を測定した場合、圧延鉄箔においては両面に圧延加工特有の圧延筋が形成されるため、Sdq、Sdr、Salが本実施形態で好ましい値として示した数値の範囲外となることが多い。一方で電解鉄箔の場合、基材面では基材の粗度を転写しやすいため、圧延鉄箔の表面粗さと類似することが多いものの、電解面においては、電解により析出した特有の結晶成長に伴う表面凹凸を有しており、Sdq、Sdr、Salが本実施形態で好ましい値として示した数値の範囲内となるものである。
なお上記のような表面粗さは、材料表面をエッチングや研磨した場合には数値が変化するため、上記Aの判別方法に加え、上記B又はCの判別方法を併用することが好ましい。
【0098】
なお上記した実施形態と各実施例は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
また、上記した実施形態と実施例における電解鉄箔は主として電池用集電体に用いられるものとして説明したがこれに限られるものではなく、例えば放熱材や電磁波シールド材など他の用途にも適用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0099】
以上説明したように、本発明の電解鉄箔、電池用集電体および電池は、自動車や電子機器など広い分野の産業への適用が可能である。
【符号の説明】
【0100】
10 電解鉄箔
10a 第1面
10b 第2面
図1
図2