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特許7164778酵素電気化学インピーダンス計測法に基づく新規バイオセンシング技術
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】酵素電気化学インピーダンス計測法に基づく新規バイオセンシング技術
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/02 20060101AFI20221026BHJP
【FI】
G01N27/02 D
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018157396
(22)【出願日】2018-08-24
(65)【公開番号】P2019039921
(43)【公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-07-28
(31)【優先権主張番号】P 2017162252
(32)【優先日】2017-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100105407
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】早出 広司
(72)【発明者】
【氏名】島▲崎▼ 順子
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-121989(JP,A)
【文献】特開2017-075940(JP,A)
【文献】国際公開第03/076919(WO,A1)
【文献】特開2008-076143(JP,A)
【文献】特開2008-076227(JP,A)
【文献】国際公開第2004/083841(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/079848(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2015/0176049(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0164371(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-G01N 27/49
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
ACS PUBLICATIONS
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極と、該電極上に、電極との直接電子授受が可能な状態に配置された酸化還元酵素とを含む直接電子移動型の酵素電極と、
対電極と、を備えたバイオセンサに、測定対象物質を含む試料を導入する工程、
前記酵素電極に交流電圧を印加してインピーダンス計測を行う工程、および
前記インピーダンス計測から得られる指標に基づいて物質濃度を算出する工程、
を含む、物質の定量方法。
【請求項2】
前記インピーダンス計測が、前記酵素電極に対し、一定の直流バイアス電圧を中心として交流電圧を印加することにより行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記交流電圧は、1つ以上の周波数を有する正弦波として印加される、請求項2に記載の
方法。
【請求項4】
前記交流電圧は、0.1mHz~100mHzの第一周波数と、10kHz~1MHzの第二周波数の間で周波数を変化させて印加される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記インピーダンス計測から得られる指標が電荷移動抵抗値(Rct)である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
Rctの逆数と物質濃度の関係を示す計算式または検量線に基づいて物質濃度が算出される
、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記酸化還元酵素が電子伝達サブユニットまたは電子伝達ドメインを有する酸化還元酵素である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記電子伝達サブユニットまたは電子伝達ドメインがシトクロムである、請求項7に記載
の方法。
【請求項9】
前記酸化還元酵素が人工電子受容体で修飾された酸化還元酵素である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記酵素電極において、酸化還元酵素は単分子膜を形成する分子によって電極に固定化されている、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
単分子膜を形成する分子がチオール基もしくはジチオール基を有する分子またはピレンを有する分子である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記物質がグルコースであり、前記酸化還元酵素がグルコース酸化還元酵素である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
電極と、該電極上に、電極との直接電子授受が可能な状態に配置された酸化還元酵素とを含む直接電子移動型の酵素電極と、対電極と、を備えたバイオセンサと、
前記バイオセンサへの交流電圧印加を制御する、制御部と、
前記交流電圧印加により得られるインピーダンスを計測する、測定部と、
前記インピーダンス計測に基づく指標から測定対象物質の濃度を算出する、演算部と、
前記算出された測定対象物質の濃度を出力する出力部とから構成される、物質の定量装置。
【請求項14】
前記制御部は、前記バイオセンサの酵素電極に対し一定の直流バイアス電圧を印加するよう制御する、請求項13に記載の物質の定量装置。
【請求項15】
前記演算部は、インピーダンス計測に基づく指標としての電荷移動抵抗値(Rct)の逆数
と物質濃度の関係を示す計算式または検量線に基づいて物質濃度を算出する、請求項13または14に記載の物質の定量装置。
【請求項16】
前記物質がグルコースであり、前記酸化還元酵素がグルコース酸化還元酵素である、請求項13~15のいずれか一項に記載の物質の定量装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグルコースなどの生体物質を定量するための酵素電気化学センシング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサに使用される酵素電極は酵素反応により生じた電子を電極から取り出す構造を有し、一般的には、電極と、電極表面に酵素及び導電性粒子を架橋剤やバインダーを用いて固定化した試薬層とを含む。従来は電子伝達メディエータを利用した酸化還元反応による酵素触媒反応電流を指標として酵素反応の基質の濃度を測定する方法が主流であったが、最近では、酵素反応により生じた電子が、電子伝達メディエータのような酸化還元物質が関与することなく直接、電極に伝達されることにより、酵素と電極間の電子授受が行われる“直接電子移動型の酵素電極”を用いたバイオセンサが開発されている。例えば、特許文献1には、酸化還元酵素と、水溶性導電性ポリマーと、導電性粒子とを含む検知層を有する酵素電極を含み、検知層において直接電子移動によって前記酵素と前記電極間で電子授受が行われる酵素センサが開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2014/002999
【非特許文献】
【0004】
【文献】“Direct Electron Transfer Type Disposable Sensor Strip for Glucose Sensing Employing an Engineered FAD Glucose Dehydrogenase”, Yuki Yamashita, Stefano Ferri, Mai Linh Huynh, Hitomi Shimizu, Hideaki Yamaoka, and Koji SODE, Enzyme and Microbial Technology, 52(2), 123-128 (2013) (Epub 2012 Nov 16)
【文献】“The Application of Engineered Glucose Dehydrogenase for Direct Electron Transfer Type Continuous Glucose Monitoring System and Compartment-less Biofuel Cell” Junko Okuda, Mieko Fukasawa, Noriko Kakehi, Tomohiko Yamazaki and Koji SODE, Anal.Lett., 40(3), 431-440 (2007)
【文献】“Construction and Characterization of Direct Electron Transfer-Type Continuous Glucose Monitoring System Employing Thermostable Glucose Dehydrogenase Complex”, Tomohiko Yamazaki, Junko Okuda-Shimazaki, Chikako Sakata, Taiki Tsuya, and Koji SODE, Analytical Letters, 41(13), 2363-2373(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1,2,3においては電子伝達サブユニットあるいは電子伝達ドメインを有する酸化還元酵素を固定化した電極において、直流回路において電位を印加することで、電流値を計測する直電子移動型バイオセンサの原理を提案している。また、特許文献1に記載の方法では、導電性ポリマーで酵素を電極近傍に配置した電極を用いているが、測定はアンペロメトリックな測定であるため、基質拡散の影響を受けて測定精度が十分でないという課題を有している。
そこで、本発明は、基質拡散の影響を受けにくい、安定した測定結果を得ることのできる、グルコース等の物質の電気化学的定量方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、電極に、電子伝達サブユニットを
有する酵素または人工電子受容体で修飾された酸化還元酵素を固定化した直接電子移動型バイオセンサにおいて、電子伝達サブユニットまたは人工電子受容体の酸化還元電位よりも高い過電圧(直流(DC)バイアス)を中心にして正弦波を周波数を変えながら印加したときのインピーダンス値(電荷移動抵抗)が検体中の物質濃度に相関することを見出した。すなわち、直接電子移動型酵素センサにおいて、インピーダンス計測を行うことにより、目的物質の定量が可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下を提供する。
[1]電極と、該電極上に、電極との直接電子授受が可能な状態に配置された酸化還元酵素とを含む酵素電極と、
対電極と、を備えたバイオセンサに、測定対象物質を含む試料を導入する工程、
前記酵素電極に交流電圧を印加してインピーダンス計測を行う工程、および
前記インピーダンス計測から得られる指標に基づいて物質濃度を算出する工程、
を含む、物質の定量方法。
[2]前記インピーダンス計測が、前記酵素電極に対し、一定の直流バイアス電圧を中心として交流電圧を印加することにより行われる、[1]に記載の方法。
[3]前記交流電圧は、1つ以上の周波数を有する正弦波として印加される、[2]に記
載の方法。
[4]前記交流電圧は、0.1mHz~100mHzの第一周波数と、10kHz~1MHzの第二周波数の間で周波数を変化させて印加される、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記インピーダンス計測から得られる指標が電荷移動抵抗値(Rct)である、[1
]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]Rctの逆数と物質濃度の関係を示す計算式または検量線に基づいて物質濃度が算出
される、[5]に記載の方法。
[7]前記酸化還元酵素が電子伝達サブユニットまたは電子伝達ドメインを有する酸化還元酵素である、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]前記電子伝達サブユニットまたは電子伝達ドメインがシトクロムである、[7]に記載の方法。
[9]前記酸化還元酵素が人工電子受容体で修飾された酸化還元酵素である、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[10]前記酵素電極において、酸化還元酵素は単分子膜を形成する分子によって電極に固定化されている、[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]単分子膜を形成する分子がチオール基もしくはジチオール基を有する分子またはピレンを有する分子である、[10]に記載の方法。
[12]前記測定対象物質がグルコースであり、前記酸化還元酵素がグルコース酸化還元酵素である、[1]~[11]のいずれかに記載の方法。
[13]電極と、該電極上に、電極との直接電子授受が可能な状態に配置された酸化還元酵素とを含む酵素電極と、対電極と、を備えたバイオセンサと、
前記バイオセンサへの交流電圧印加を制御する、制御部と、
前記交流電圧印加により得られるインピーダンスを計測する、測定部と、
前記インピーダンス計測に基づく指標から測定対象物質の濃度を算出する、演算部と、
前記算出された測定対象物質の濃度を出力する出力部とから構成される、物質の定量装置。
[14]前記制御部は、前記バイオセンサの酵素電極に対し一定の直流バイアス電圧を印加するよう制御する、[13]に記載の物質の定量装置。
[15]前記演算部は、インピーダンス計測に基づく指標としての電荷移動抵抗値(Rct
)の逆数と物質濃度の関係を示す計算式または検量線に基づいて物質濃度を算出する、[13]または[14]に記載の物質の定量装置。
[16]前記物質がグルコースであり、前記酸化還元酵素がグルコース酸化還元酵素であ
る、[13]~[15]のいずれか一項に記載の物質の定量装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、電気化学的バイオセンサにおいて、インピーダンス計測に基づく物質の定量を初めて実現したものであり、分析、診断、医療などの分野において大きく貢献するものである。電荷移動抵抗値は、物質輸送律速が見える低周波領域と切り分けて求められることから、本発明によれば、測定対象物質の拡散係数や測定溶液の粘度や粒子の存在など物質輸送を阻害する因子の影響を受けずに測定対象物質を精度よく定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施形態において使用可能な酵素電極の構造を模式的に示す図である。
図2図2は、本発明の一実施形態において使用可能なバイオセンサを製造する一連の工程を示した図である。
図3図3は、本発明の測定装置の一態様を示す模式図である。
図4図4は、本発明の測定装置を用いた測定プログラムの一態様を示すフローチャート図である。
図5図5は、実施例1における、周波数応答解析の結果に基づくナイキスト線図を示す。
図6図6は、電極間のインピーダンスを解析するための等価回路の一例を示す。
図7図7は、実施例1における、グルコース濃度と電荷移動抵抗の関係を示す。
図8図8は、実施例2における、周波数応答解析の結果に基づくナイキスト線図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態としての物質の定量方法および物質の測定装置について図面等を参照しながら説明する。以下に挙げる実施形態はそれぞれ例示であり、本発明は以下の実施形態の構成に限定されない。
【0011】
本発明の物質の定量方法は、電極と、該電極上に、電極との直接電子授受が可能な状態に配置された酸化還元酵素とを含む酵素電極と、対電極と、を備えたバイオセンサに、測定対象物質を含む試料を導入する工程、
前記酵素電極に交流電圧を印加してインピーダンス計測を行う工程、および
前記インピーダンス計測から得られる指標に基づいて物質濃度を算出する工程、
を含む。
【0012】
本発明の方法により、試料中に含まれる測定対象物質(グルコースなど)の濃度をインピーダンス計測に基づいて測定することができる。試料は測定対象物質を含む試料であれば特に制限されないが、生体試料が好ましく、血液、尿などが挙げられる。
【0013】
(バイオセンサ)
本発明の方法で使用されるバイオセンサは、電極と、該電極上に、電極との直接電子授受が可能な状態に配置された酸化還元酵素とを含む酵素電極(作用極)と、対電極と、を備える。酵素電極と、対極と、参照極を備える3電極系でもよい。対極としては、バイオセンサの対極として一般的に使用できるものであればよいが、例えば、スクリーン印刷により製膜したカーボン電極や、物理蒸着(PVD,例えばスパッタリング)、或いは化学蒸着(CVD)によって成膜した金属電極や、スクリーン印刷により製膜した銀/塩化銀電極を用いることができる。また、参照電極についても、同様に、銀/塩化銀電極やカーボ
ン電極や金属電極などを使用することができる。
【0014】
(酵素電極)
酵素電極は、該電極上に、電極との直接電子授受が可能な状態に配置された酸化還元酵素とを含む。
電極は、例えば、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)及びパラジウム(Pd)のような金属材料、或いはグラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェン、メソポーラスカーボンなどのカーボンに代表される炭素材料を用いて形成される。電極は、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)のような熱可塑性樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂のような各種の樹脂(プラスチック)、ガラス、セラミック、紙などの絶縁性材料で形成される絶縁性基板上に設けられてもよい。
【0015】
(酸化還元酵素)
酸化還元酵素は電極との間で直接電子授受を行うことができる酸化還元酵素、または人工電子受容体やナノ材料を酵素に修飾するあるいは電極材料に用いることで電子授受を行うことができる酸化還元酵素であれば、本発明に適応可能である。
【0016】
本発明に適応可能な酸化還元酵素としては、例えば、グルコースオキシダーゼ(GOD)、ガラクトースオキシダーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、D-又はL-アミノ酸オキシダーゼ、アミンオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、コリンオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、サルコシンオキシダーゼ、L-乳酸オキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、コレステロールデヒドロゲナーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、フルクトースデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、グリセロールデヒドロゲナーゼ、17Bヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、エストラジオール17Bデヒドロゲナーゼ、アミノ酸デヒドロゲナーゼ、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ、3-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼ、シトクロムオキシドレダクターゼ、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、グルタチオンレダクターゼ等が挙げられる。中でも、グルコース酸化還元酵素などの糖類の酸化還元酵素であることが好ましく、糖類の酸化還元酵素の例としては、例えば、グルコースオキシダーゼ(GOD)、ガラクトースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、フルクトースデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼを挙げることができる。したがって、本発明のバイオセンサは、酵素の種類に応じて、グルコースセンサ、コレステロールセンサ、エタノールセンサ、ソルビトールセンサ、フルクトースセンサ、セロビオースセンサ、乳酸センサ、尿酸センサなどとして使用できる。
【0017】
電極との間で直接電子授受を行うことができる酸化還元酵素としては、電極との電子授受に関わる酸化還元分子を生理的に含む酸化還元酵素が挙げられ、例えば、当該酸化還元分子として電子伝達サブユニット若しくは電子伝達ドメインを含む酸化還元酵素を用いることができる。電子伝達サブユニットとしては、ヘムを有するサブユニットが挙げられ、ヘムを有するサブユニットを含む酸化還元酵素としては、シトクロムcやシトクロムbなどのシトクロムを含むものが挙げられる。
電子伝達サブユニットとして、シトクロムを含むサブユニットを含む酵素としては、例えば、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、ソルビトールデヒドロゲナーゼ(Sorbitol DH)、D-フルクトースデヒドロゲナーゼ(Fructose DH)、乳酸デヒドロゲナーゼ、尿酸オキシダーゼなどが挙げられる。
【0018】
例えば、シトクロムを含むグルコースデヒドロゲナーゼとして、FADを含んだαサブユニットを持つシトクロムグルコースデヒドロゲナーゼ(CyGDH)が挙げられる。CyGDHとしては、Burkholderia cepacia由来FAD依存グルコース脱水素またはその変異体
が挙げられる。Burkholderia cepacia由来FAD依存グルコース脱水素の変異体としては、
472位及び475位のアミノ酸残基が置換された変異体(WO 2005/103248)、326位、365位および472位のアミノ酸残基が置換された変異体(特開2012-090563)、3
65位と326、472、475、及び529位等が置換された変異体(WO 2006/137283)などが挙げられる。
【0019】
また、電子伝達ドメインを含む酵素としては、ヘムドメインやシトクロムドメインを含む酵素が例示され、具体的には、例えば、キノヘムエタノールデヒドロゲナーゼ(QHEDH (PQQ Ethanol dh)が挙げられる。さらに、電子伝達ドメインとしてシトクロムを含むドメインを含む酵素としては、例えば、"QHGDH" (fusion enzyme; GDH with heme domain of QHGDH))、セロビオースデヒドロゲナーゼが挙げられる。また、国際公開WO2005/030807号
公報に開示されているPQQグルコースデヒドロゲナーゼ(PQQGDH)とシトクロムとの融合蛋白質も使用可能である。
【0020】
一方、上記で例示したような酸化還元酵素が自身では電極との間で電子授受を行えない酵素である場合、すなわち、電子伝達サブユニット若しくは、電子伝達ドメインを含まない場合は、酸化還元酵素を人工電子受容体やナノ材料で修飾する、あるいは、電極を人工電子受容体やナノ材料で修飾することで酸化還元酵素と電極との直接電子授受が可能となり、直接電子授受可能な酵素電極を構築できることが報告されており、このような態様も本発明の方法に適用できる。
ここで、人工電子受容体とは、酸化還元酵素から電子を受け取って還元され、電極で再酸化される、触媒作用のない化合物であればよいが、例えば、キノン化合物(例えば、1,4-Naphthoquinone、VK3、9,10-Phenanthrenequinone、1,2-Naphthoquinone、p-Xyloquinone、Methylbenzoquinone、2,6-Dimethylbenzoquinone、Sodium 1,2-Naphthoquinone-4-sulfonate
、1,4-Anthraquinone、Tetramethylbenzoquinone、Thymoquinone)、フェニレンジアミン化合物(例えば、N, N-Dimethyl-1,4-phenylenediamine、N, N, N’, N’-te
tramethyl-1, 4-phenylenediamine dihydroch
loride)、1-Methoxy-PMS(1-Methoxy-5-methylphenazinium methylsulfate)、PES(Phenazine ethosulfate)、Coenzyme Q0、AZURE A Chloride 、Phenosafranin 、6-Aminoquinoxaline、Tetrathiafulval
ene等が挙げられる。
酸化還元酵素を人工電子受容体で修飾するためには、人工電子受容体を酵素に化学的に結合させる方法が挙げられる。例えば、人工電子受容体にスクシンイミドなどの官能基を導入し、酵素のアミノ基と反応させて導入する方法が例示される。
またナノ材料においては、酵素の活性中心と直接電子授受できる距離まで配置することが可能な導電性材料であり、例えば、カーボンナノチューブ(Analytical Biochemistry,Volume 332, Issue 1, 1 September 2004, Pages 75-83)や金属ナノ粒子(Analytical BiochemistryVolume 331, Issue 1, 1 August 2004, Pages 89-97)などが例示されるが直
接電子伝達が観測される材料であればこれに限るものではない。
【0021】
“直接電子移動型の酵素電極”とは、試薬層で酵素反応により生じた電子が、電子伝達メディエータのような酸化還元物質の拡散作用などによることなく、直接、電極に伝達されることにより、酵素と電極間の電子授受が行われるタイプの酵素電極である。
【0022】
直接電子移動型の酵素電極とするためには、電極の近傍に上記酸化還元酵素を配置させることが重要であり、生理学的反応系において直接電子移動が起こる限界距離は10~20Åといわれているので、酵素から電極への電子移動が損なわれないよう、これよりも電極
に近い距離に酵素を配置することが重要である。そのための方法としては、特に制限されないが、例えば、酸化還元酵素を電極に化学的に固定化する方法、酸化還元酵素を導電性ポリマーや架橋剤などを用いて電極に間接的に固定化する方法(例えば、上記特許文献1または特開2016-121989など)、単分子膜形成分子を介して酵素を電極に固定する方法な
どが挙げられる。
好ましくは、以下に記載するような単分子膜形成分子を介して酵素を電極に固定する方法が挙げられる。
【0023】
(単分子膜形成分子)
単分子膜形成分子は電極表面に結合し、かつ、酵素分子を結合させることのできる化合物であり、電極表面に一定方向で複数結合することにより単分子膜を形成できる化合物である。好ましくは、電極に親和性を有する第一の官能基と、スペーサー部位と、酵素分子の有する官能基と反応しうる第二の官能基を有する。より好ましくは、スペーサー部位の第一の端に電極に親和性を有する第一の官能基が結合し、スペーサー部位の第二の端に酵素分子の有する官能基と反応しうる第二の官能基が結合した構造を有する。
【0024】
電極に親和性を有する第一の官能基は電極の種類によって適宜選択される。
単分子膜形成分子の電極表面への結合様式は共有結合、配位結合、イオン結合などの化学的結合やファンデルワールス力などによる物理的結合が挙げられるが、共有結合もしくは、配位結合が好ましい。電極に結合できる第一の官能基としては、金属電極の場合、チオール基またはジチオール基が挙げられる。一方、カーボン電極の場合、ピレン、ポルフィリンが挙げられる。
【0025】
酵素分子の有する官能基と反応しうる第二の官能基としては、酵素分子の有する官能基の種類によって適宜選択される。例えば、酵素分子が有するアミノ基(末端アミノ基及び側鎖アミノ基を含む)と反応させる場合はスクシンイミド基が挙げられ、この場合、単分子膜形成分子の第二の端はサクシンイミド基とアミノ基の反応残基となる。一方、酵素分子が有するカルボキシル基(末端カルボキシル基及び側鎖カルボキシル基を含む)と反応させる場合はオキサゾリン基が挙げられ、この場合、単分子膜形成分子の第二の端はオキサゾリン基とカルボキシル基の反応残基となる。よって、酵素と第二の官能基の反応により、酵素を単分子膜形成分子に共有結合によって固定化することが可能になる。
【0026】
スペーサーの長さは酵素電極を“直接電子移動型の酵素電極”とするために、酵素分子の電極(集電体)表面からの距離を一定以内の距離に保つことのできる長さであることが好ましい。上記の通り、生理学的反応系において直接電子移動が起こる限界距離は10-20Åと云われており、電極と酵素から構成される電気化学的な反応系における電子授受においてもこれより長い距離では、メディエータの移動(例えば拡散による移動)を伴わない限りは電極上での電子授受の検知が困難となる。よって、酵素を電極から20Å以内に保つことができる長さが好ましく、酵素を電極から10Å以内に保つことができる長さがより好ましい。スペーサーの種類としては、例えば、炭素数1~20(好ましくは1~10、より好ましくは1~5)のアルキレン、炭素数1~20(好ましくは1~10、より好ましくは1~5)のアルケニレン、炭素数1~20(好ましくは1~10、より好ましくは1~5)のアルキニレン、重合度2~50(好ましくは2~10、より好ましくは2~5)のポリエチレングリコール、アミノ酸残基1~20(好ましくは1~10、より好ましくは1~5)のオリゴペプチドなどが挙げられる。なお、前記アルキレン、アルケニレンおよびアルキニレンにおいては、一部の-CH2-が-S-に置換されてもよいし、連続しない一部の-CH2-が-O-に置換されてもよい。
【0027】
例えば、チオール基またはジチオール基を有する単分子膜形成分子としては、以下のような構造を有する化合物が例示される。これらは、単分子膜を形成する化合物である。
なお、Lはスペーサーであり、Xは酵素分子の有する官能基と反応しうる官能基である。
SH-L-X・・・(1)
X-L-S-S-L-X・・・(2)
このような化合物としては、以下のDSHなどが例示される。
【化1】
このようなジチオールを有する単分子膜形成分子の場合は、1分子につき、
酵素分子を2分子結合させることができる。
【0028】
例えば、ピレンまたはポルフィリンを有する単分子膜形成分子としては、以下のような構造を有する化合物が例示される。
なお、Pyはピレン、Poはポルフィリン、Lはスペーサーであり、Xは酵素分子の有する官能基と反応しうる官能基である。
Py-L-X・・・(3)
Po-L-X・・・(3’)
【0029】
例えば、ピレンを有する単分子層形成分子としては、以下のような構造を有する化合物が例示される。
【化2】
1-pyrenebutanoic acid succinimidyl ester :PySE
J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 3838-3839,Noncovalent Sidewall Functionalization of Single-Walled Carbon Nanotubes for Protein
J. Electroanal. Chem., 1994, 365, 157-164,Application of bifunctional reagents for immobilization of proteins on a carbon electrode surface: Oriented immobilization of photosynthetic reaction centers
【0030】
また、ピレンを有し単分子膜を形成する分子としては以下の化合物が例示される。
例示されたPHTの末端はSHとなっているが、例えばN-(6-マレイミドカプロイルオキシ)ス
クシンイミドなどでSH基の先にスクシンイミド基を付加して酵素のアミノ基と反応させたり、マレイミド基を導入した酵素を用いてマレイミド基を介してPHTに酵素を固定化する
ことが可能である。
【化3】
17-(1-pyrenyl)- 13-oxo-heptadecanethiol:PHT
Chemical Physics Letters 367 (2003) 747-752
Self-assembly of gold nanoparticles to carbon nanotubes using a thiol-terminatedpyrene as interlinker
【0031】
(酵素電極の作製方法)
酵素電極Aは、例えば、以下のようにして作製される。すなわち、図1に示すように、絶縁性基板4の片面に、電極1として機能する金属層を形成する。例えば、所定の厚さ(例えば100μm程度)のフィルム状の絶縁性基板4の片面に、金属材料を物理蒸着(PVD,例えばスパッタリング)、或いは化学蒸着(CVD)によって成膜することによって、所望の厚さ(例えば30nm程度)を有する金属層が形成される。金属層の代わりに、炭素材料で形成された電極層を形成することもできる。
このようにして得られた電極層の表面に酵素を結合させる。
例えば、単分子膜形成分子を用いる場合、まず、電極1上に単分子膜形成分子2を結合させる。そして、単分子膜形成分子の反応性官能基と、酸化還元酵素3のアミノ基またはカルボキシル基を反応させて、単分子膜形成分子を介して酸化還元酵素3を電極1上に固定化することができる。
なお、導電性ポリマーや架橋剤を利用して酵素を電極上に固定化する場合は、電極1上に酵素と導電性ポリマーや架橋剤などの試薬を添加することにより、酵素電極を作製することができる。
【0032】
<バイオセンサ>
以下、本発明で使用しうるバイオセンサの一例について、図2に基づいて説明する。ただし、バイオセンサは以下の態様には限定されない。
(e)に示すように、このバイオセンサBは、基板11、リード部12aを有する作用極12とリード部13aを有する対極13とから構成された電極系、絶縁層14、酸化還元酵素を含む試薬層12b、開口部を有するスペーサー17および貫通孔19を有するカバー18を備えている。(b)に示すように、基板11上には、検出部15が設けられており、検出部15には、作用極12と対極13とが、基板11の幅方向に並行して配置されている。前記両電極の一端は、それぞれリード部12a、13aとなり、これらと、検出部15における他端とが、垂直となるように配置されている(a)。また、作用極12と対極13との間は、絶縁部となっている。このような電極系を備えた基板11の上には、(b)に示すように、リード部12a、13aおよび検出部15を除いて、絶縁層14が積層されており、絶縁層14が積層されていない前記検出部15の作用極12上には、試薬層12bが積層されている。そして、絶縁層14の上には、(d)に示すように、検出部15に対応する箇所が開口部になっているスペーサー17が配置されている。さらにスペーサー17の上には、前記開口部に対応する一部に貫通孔19を有するカバー18が配置されている(e)。このバイオセンサBにおいて、前記開口部の空間部分であり、かつ、前記試薬層12bおよび絶縁層14とカバー18とに挟まれた空間部分が、キャピラリー構造の試料供給部16となる。そして、前記貫通孔19が、試料を毛管現象により吸入するための空気孔となる。
【0033】
(物質の定量方法)
本発明の定量方法は、前記酵素電極に交流電圧を印加してインピーダンス計測を行う工程、および
前記インピーダンス計測から得られる指標に基づいて物質濃度を算出する工程、
を含む。
インピーダンス計測は公知の方法に基づいて行うことができるが、具体的には、例えば、酵素電極に対し、一定のDCバイアス電圧を中心に1つ以上の周波数で、すなわち、周波数
を変化させて正弦波を印加する方法が好ましい。
DCバイアスとしては、電極と直接電子授受を行う酸化還元分子(電子伝達サブユニット、電子伝達ドメインまたは人工電子受容体)の酸化還元電位よりも高い電圧であることが好ましい。上限は特に制限されないが、例えば、+1000mVである。
例えば、酸化還元分子としてのヘム(チトクロム)を含む電子伝達サブユニットまたは電子伝達ドメインを含む酸化還元酵素を用いるときは、+300mVまたはそれ以上とすることができる。
また、酸化還元分子としてPESを用いるときには、例えば、+100mVまたはそれ以上とすることができる。
【0034】
具体的には、例えば、まず、作用極と対極の間に上記DCバイアスの電圧を印加する。次に、当該DCバイアスの電圧に交流電圧を重畳させた電圧を作用極に印加する。この印加する交流電圧は、作用極と対極の間のインピーダンスが測定可能で且つ可能な限り低い値の交流電圧とすることが好ましい。作用極に印加する交流電圧の値が大きすぎると、電極の表面で電気化学反応が起こり、電極の表面状態が変化するなどの問題が生じる。また、その交流電圧の値が低すぎるとSN比が低下し、インピーダンスの測定が不正確になる。このため、作用極と対極の間に印加する電圧は、具体的には、振幅5~20mVが好ましい。
【0035】
そして、周波数応答解析装置を用いて、印加する交流電圧の周波数を変えて作用極と対極の間のインピーダンスを測定する。この周波数の可変範囲はインピーダンス計測が可能な範囲であればよいが、例えば、0.1mHz~100mHzの第一周波数(下限)と、10kHz~1MHzの第二周波数(上限)の間で周波数を変化することができ、より具体的には、0.1mHzから100kHzの範囲が適切である。しかし、低周波数の領域ほど、インピーダンスの測定に時間が必要となり、測定間隔が長くなってしまうため、周波数の下限は1mHz程度が好ましく、10mHz程度がより好ましい。
【0036】
インピーダンス計測から得られる指標として、電荷移動抵抗値(Rct)が挙げられる。電
荷移動抵抗値(Rct)は、例えば、周波数応答解析装置で得られたデータをもとに、図5
のようなナイキスト線図を描き、それを図6のような等価回路にフィッティングすることで求めることができる。
図6は電極間のインピーダンスを解析するための等価回路を示している。図6において、Rsolは作用極と対極の間の導電抵抗、Q(CPE)は電極表面の電気容量、Rctは酵素電極反応の抵抗である。その他の記号は以下の通り。
ω:角周波数
j:虚数ユニット
P:CPE指数
T:CPE定数
Cdl:電気二重層容量
【0037】
続いて、電荷移動抵抗値(Rct)などの値に基づいて、物質濃度を算出する。電荷移動抵
抗値は検体中の物質濃度に依存し、物質濃度が増加すると抵抗が低下する。図7に示すように抵抗Rctの逆数と物質濃度の相関を示す特性図を予め作成し、この特性図を用いて、
求めたRctに基づいて物質濃度を求めることができる。
【0038】
(装置)
次に、図面を用いて、本発明の測定装置について説明する。ここでは、グルコース測定装置の一態様について例示したが、本発明の測定装置は以下の態様には限定されない。
図3は、測定装置C内に収容された主な電子部品の構成例を示す。制御コンピュータ28、ポテンショスタット24、周波数応答アナライザ29、電力供給装置21が、筐体内に収容された基板30上に設けられている。
制御コンピュータ28は、ハードウェア的には、CPU(中央演算処理装置)のようなプロセッサと、メモリ(RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory))のような記録媒体と、通信ユニットを含んでおり、プロセッサが記録媒体(例えばROM)に記憶されたプログラムをRAMにロードして実行することによって、出力部20、制御部22、演算部23、測定部(ポテンショスタット24および周波数応答アナライザ29)を備えた装置として機能する。なお、制御コンピュータ28は、半導体メモリ(EEPROM,フラッシュメモリ)やハードディスクのような、補助記憶装置を含んでいても良い。
【0039】
制御部22は、電圧印加のタイミング,印加電圧値などを制御する。
電力供給装置21は、バッテリー26を有しており、制御部コンピュータ28やポテンショスタット24、周波数応答アナライザ29に動作用の電力を供給する。なお、電力供給装置21は、筐体の外部に置くこともできる。
ポテンショスタット24は、作用極の電位を参照電極に対して一定にする装置であり、制御部22によって制御され、端子CR,Wを用いて、グルコースセンサ27の対極と作用極との間に所定の電圧(DCバイアス)を印加する。
制御部22によって制御される周波数応答アナライザ29は、作用極に印加した交流電圧の周波数を変えて作用極と対極の間のインピーダンスを測定する。すなわち、正弦波発振器と応答信号の大きさと位相を測定するアナライザ(分析器)から構成され、発振器からバッテリーに正弦波を印加し、バッテリーからの応答信号を再び戻して、デジタルデータに変換し、測定周波数の振幅と位相を検出することができる。
【0040】
演算部23は検出されたインピーダンスから電荷移動抵抗値などの指標を計算し、電荷移動抵抗値などの指標から測定対象物質の濃度の演算を行い、記憶する。出力部20は、表示部ユニット25との間でデータ通信を行い、演算部23による測定対象物質の濃度の演算結果を表示部ユニット25に送信する。表示部ユニット25は、例えば、測定装置Cから受信されたグルコース濃度の演算結果を所定のフォーマットで表示画面に表示することができる。
【0041】
図4は、制御コンピュータ28によるグルコース濃度測定処理の例を示すフローチャートである。制御コンピュータ28のCPU(制御部22)は、グルコース濃度測定の開始指示を受け付けると、制御部22は、ポテンショスタット24を制御して、作用極への所定のDCバイアス電圧を印加し、さらに、周波数応答アナライザ29を制御して、交流電圧を重畳することで測定を開始する(ステップS01)。
【0042】
そして、周波数応答アナライザ29により作用極に印加した交流電圧の周波数を変えて作用極と対極の間のインピーダンスを測定する。そして、周波数応答解析器29は、インピーダンスの測定結果を演算部24へ送る(ステップS02)。
【0043】
演算部23は、インピーダンスに基づいて演算処理を行い、グルコース濃度を算出する(ステップS03)。
演算装置23は、例えば、入力されたインピーダンスに基づいてナイキスト線図を作成し、図6に示すような等価回路を基に電荷移動抵抗値などの指標を解析する。例えば、制御
コンピュータ28の演算部23は、等価回路や電極上に配置されたグルコースデヒドロゲナーゼなどのグルコース酸化還元酵素に対応する、電荷移動抵抗値の逆数とグルコース濃度の計算式または検量線データを予め保持しており、これらの計算式または検量線を用いてグルコース濃度を算出する。
【0044】
出力部20は、グルコース濃度の算出結果を、表示部ユニット25との間に形成された通信リンクを通じて表示部ユニット25へ送信する(ステップS04)。その後、制御部22は、測定エラーの有無を検知し(ステップS05)、エラーがなければ測定を終了し、グルコース濃度を表示部に表示する。エラーがあればエラー表示をした後に、図4のフローによる処理を終了する。また、算出結果を演算部23に保存し、後から算出結果を呼び出して、表示部に表示し確認することも可能である。なお、ここでは、算出結果の表示部ユニット25への送信(ステップS04)後に、制御部22による測定エラー検知(ステップS05)を行っているが、これらのステップの順番を入れ替えることも可能である。
【実施例
【0045】
以下、インピーダンス計測の実施例について説明する。ただし、本発明は以下の実施例の態様には限定されない。
【0046】
実施例1
(酵素電極の作製)
金表面に単分子膜形成分子を介してCytochrome Cサブユニットを含むGDHを固定化した酵
素電極を作製した。単分子膜形成分子としては、以下のDSHを用いた。
【化4】
【0047】
具体的には、金ワイヤ(直径0.5mm、長さ6~7cm)をピランハ溶液に室温で一晩浸漬し、その後、アセトンで洗浄し、DSHのアセトン溶液(濃度20μM)に浸漬し、25℃で24時間インキュベートしてDSHのチオール基を金表面に結合させた。続いて、アセ
トンで洗浄し、酵素(Burkholderia cepacia由来FADGDH(γα(QYY)β;特開2012-090563)(濃度0.03mg/ml))を含むPPB(pH7.0)に浸漬し、4℃で一晩インキュベートしてDSHの官能基を介して酵素を結合させ、酵素電極を得た。
【0048】
(インピーダンス計測)
インピーダンス計測は、上記の酵素電極を作用極とし、対極(Ptワイヤ)および参照極(銀/塩化銀)を用いた3電極系で行った。測定は25℃で行った。
上記酵素電極に、試料として、0(バックグラウンド)、25mg/dL、300mg/dL、または600mg/dLのグルコース溶液を導入し、作用極への印加電圧を+300mV、+100mV、-100mVまたは-300mV(vs.銀/塩化銀)とした状態で、作用極へ正弦波(振幅10mV)を、周波数を変えて(100kHz~50mHz)印加し、インピーダンス計測を行った。
【0049】
(測定結果の解析と評価)
作用極への印加電圧を+300mVとしたときの測定結果をナイキスト線図にプロットし
た(図5)。これを図6の等価回路によってフィッティングすることで各グルコース濃度における電荷移動抵抗(Rct)を求めた。同様にして、作用極への印加電圧を+100mVおよび-100mVとしたときについても、各グルコース濃度における電荷移動抵抗(Rct)を求めた。
それぞれの印加電圧について、グルコース濃度と1/Rctの関係を図7に示した。
その結果、+300mVおよび+100mVのときに1/Rctはグルコース濃度と相関を示
した。ただし、+100mVでは傾きは小さく、-100mVでは濃度依存性は見られなかった。したがって、電子伝達サブユニットのヘムを酸化するのに十分な電圧バイアスがかかっているときに、1/Rctがグルコース濃度に十分な相関を示すことが分かった。
【0050】
実施例2
(酵素電極の作製)
カーボン表面に単分子形成分子を介してフェナジンエトサルフェート(PES)を結合したGDHを固定化した酵素電極を作製した。単分子形成分子としては、NTA-SAM Formation Reagent(同仁化学)を用いた。
【0051】
具体的には、金ワイヤ(直径0.5mm、長さ6~7cm)をピランハ溶液に室温で一晩浸漬し、その後、アセトンで洗浄し、NTA-SAM のエタノール溶液(濃度0.2mM)に浸漬し、25℃で24時間インキュベートしてNTA-SAMを金表面に結合させた。続いて、4
0mMのNiSO4水溶液に室温で1時間浸漬してNTAにNiイオンをキレートさせた
。洗浄後、Hisタグ付加カビ由来グルコースデヒドロゲナーゼ(BfuGDH)(濃度2.4mg/ml)
をNTA-SAMが修飾された金電極に2μL滴下し、25℃で2時間乾燥させた後、NHS基を有するPES(5mM)を0.5μL添加し、PESをGDHのアミノ基を介して結合させることにより、電極上に単分子膜形成分子(SAM)を介して人工電子受容体で修飾されたGDHが固定化された酵素電極を得た。
【0052】
(インピーダンス計測)
インピーダンス計測は、上記の酵素電極を作用極とし、対極(カーボン)および参照極(銀/塩化銀)を用いた3電極系で行った。測定は25℃で行った。
上記酵素電極に、試料として、0(バックグラウンド)、25mg/dL、300mg/dL、または600mg/dLのグルコース溶液を導入し、作用極への印加電圧を+100mV(vs.銀/塩化銀)とした状態で、作用極へ正弦波(振幅10mV)を、周波数を変えて(100kHz~50mHz)印加し、インピーダンス計測を行った。
【0053】
(測定結果の解析と評価)
作用極への印加電圧を+100mVとしたときの測定結果をナイキスト線図にプロットした(図8)。その結果、電荷移動抵抗はグルコース濃度依存性が見られた。なお、PESで修飾しない場合は濃度依存性が見られなかった。
【符号の説明】
【0054】
A・・・酵素電極
1・・・電極
2・・・単分子膜形成分子
3・・・酸化還元酵素
4・・・絶縁性基板
【0055】
B・・・バイオセンサ
11・・・基板
12・・・作用極
12a・・・リード部
12b・・・試薬層
13・・・対極
13a・・・リード部
14・・・絶縁層
15・・・検出部
16・・・開口部
17・・・スペーサー
18・・・カバー
19・・・空気孔
【0056】
C・・・測定装置
20・・・出力部
21・・・電力供給装置
22・・・制御部
23・・・演算部
24・・・ポテンショスタット
25・・・表示部ユニット
26・・・バッテリ
27・・・グルコースセンサ
28・・・制御コンピュータ
29・・・周波数応答アナライザ
30・・・基板
CR、W・・・端子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8