(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】インキセット
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20221026BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20221026BHJP
C11D 1/72 20060101ALI20221026BHJP
C11D 3/20 20060101ALI20221026BHJP
C11D 3/30 20060101ALI20221026BHJP
C11D 7/26 20060101ALI20221026BHJP
C11D 7/32 20060101ALI20221026BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20221026BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
C09D11/322
C09D11/54
C11D1/72
C11D3/20
C11D3/30
C11D7/26
C11D7/32
B41M5/00 120
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2021048145
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】正時 睦子
(72)【発明者】
【氏名】速水 真由子
(72)【発明者】
【氏名】杉原 真広
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 良介
(72)【発明者】
【氏名】亀山 雄司
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-214717(JP,A)
【文献】特開2017-024395(JP,A)
【文献】特開2011-194744(JP,A)
【文献】特開2008-246786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
C11D 1/00-19/00
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マゼンタインクジェットインキと、メンテナンス液と、を含むインキセットであって、
前記マゼンタインクジェットインキが、水と、水溶性有機溶剤と、β-ナフトール系アゾ顔料と、樹脂粒子とを含み、
前記メンテナンス液が、水と、下記一般式1~5のいずれかの構造を有する有機化合物とを含む、インキセット。
一般式1:
HO-CHR
1-CR
2R
3-X
(一般式1中、Xは、-OH、または、-NR
19R
20を表し、R
1及びR
2は、それぞれ、-H、または、-CH
3を表し、R
3は、-H、-OH、-C
nH
2n+1、または、-C
nH
2nOHを表し、R
19及びR
20は、それぞれ、-H、-C
nH
2n+1、または、-C
nH
2nOHを表す。また、nは1~4の整数を表す。ただし、1分子中に複数の-C
nH
2n+1及び/または-C
nH
2nOHが存在する場合、前記nはそれぞれが同じであっても異なっていてもよい)
一般式2:
H-(O-CHR
4-CH
2-)
pa-O-R
5
(一般式2中、R
4は、-H、または、-CH
3を表し、R
5は、-C
qaH
2qa+1を表す。また、paは1~4の整数を表し、qaは1~4の整数を表す)
一般式3:
H-(O-CH
2CH
2-)
pb-O-R
6
(一般式3中、R
6は、-C
qbH
2qb+1、または、-C
qbH
2qb-1を表す。また、pbは2~50の整数を表し、qbは6~18の整数を表す)
一般式4:
[H-(O-CH
2CH
2-)
pc-]
2-N-R
7
(一般式4中、R
7は、-C
qcH
2qc+1、または、-C
qcH
2qc-1を表す。また、pcは1~30の整数を表し、qcは8~18の整数を表す。ただし、1分子中に2個存在するpcは、それぞれ同じであっても異なっていてもよい)
一般式5:
【化1】
(一般式5中、R
8及びR
10は、それぞれ、-H、-OH、または、-CH
3を表し、R
9及びR
11は、それぞれ-C
qdH
2qd+1を表す。また、pd及びpeは、それぞれ、0~30の整数を表し、qdは1~6の整数を表す。ただし、pd及びpeが同時に0になることはなく、また、前記R
9におけるqdと前記R
11におけるqdとは、同じであっても異なっていてもよい)
【請求項2】
前記マゼンタインクジェットインキが、前記水溶性有機溶剤として、2価アルコール系溶剤及び/またはグリコールモノアルキルエーテル系溶剤を含む、請求項1に記載のインキセット。
【請求項3】
前記2価アルコール系溶剤及び/または前記グリコールモノアルキルエーテル系溶剤が、前記一般式1の構造を有する有機化合物及び/または前記一般式2の構造を有する有機化合物である、請求項2に記載のインキセット。
【請求項4】
前記樹脂粒子が、ワックスエマルジョンを含む、請求項1~3のいずれかに記載のインキセット。
【請求項5】
前記マゼンタインクジェットインキが、HLB値が0~5であるアセチレンジオール系界面活性剤と、HLB値が0~5であるシロキサン系界面活性剤とを含む、請求項1~4のいずれかに記載のインキセット。
【請求項6】
前記メンテナンス液に含まれる、前記一般式1~5のいずれかの構造を有する有機化合物のSP値と、前記マゼンタインクジェットインキに含まれる、前記樹脂粒子のSP値との差が1以上である、請求項1~5のいずれかに記載のインキセット。
【請求項7】
前記β-ナフトール系アゾ顔料が、C.I.ピグメントレッド150及び/またはC.I.ピグメントレッド269を含む、請求項1~6のいずれかに記載のインキセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マゼンタインクジェットインキと、メンテナンス液とを含むインキセットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷方式は、インクジェットヘッドにある非常に微細なノズルから、インキの微小液滴を記録媒体に対して吐出し、着弾させて、画像や文字を形成する方式である(以下、画像及び/または文字が記録された記録媒体を「印刷物」と総称する)。インクジェット印刷方式は、他の印刷方式と比べて、記録装置のサイズ及びコスト、印刷時のランニングコスト、フルカラー化の容易性などの面で優れており、普及が著しい。
【0003】
また、近年のインクジェットヘッド性能の著しい向上に伴い、産業印刷市場及びパッケージ印刷市場への、インクジェット印刷方式の展開が期待されている。一般にこれらの市場で使用される印刷物には、耐擦過性が求められるため、これらの印刷で使用されるインクジェットインキには、樹脂粒子が添加されることが多い。その一方で、樹脂粒子を含むインクジェットインキでは、インクジェットヘッドのノズルやインクジェット記録装置内部の流路で、当該樹脂粒子の固化及び造膜が起こってしまい、上記ノズル及び上記流路を閉塞してしまう恐れがある。
【0004】
また、産業印刷市場及びパッケージ印刷市場では、色再現性も非常に重要となる。そこで例えば、マゼンタ色を呈するインキでは、比較的安価であり、かつ、着色力(発色力)が高い、β-ナフトール系アゾ顔料が使用されることがある。一方で、β-ナフトール系アゾ顔料は、顔料自体が水または水溶性有機溶剤に一部溶解し、その後再結晶化することで、粗大な顔料粒子として析出する恐れがある。特に、インクジェットヘッドのノズルや、インクジェット記録装置内部の流路で、上記β-ナフトール系アゾ顔料からの析出が起きると、上記ノズル及び上記流路を閉塞してしまう。
【0005】
ところで、インクジェット印刷方式では、インクジェットインキとは別にメンテナンス液が使用される。上記メンテナンス液の使用方法は種々存在し、第一の使用方法として、インクジェット記録装置の流路内、及び/または、インクジェットヘッドの清掃に用いる洗浄液としての使用が挙げられる。液状のインクジェットインキだけではなく、上述した固化物及び析出物についても洗浄が必要であるため、この用途で使用する場合、流路洗浄性及び固化及び析出した成分の除去性能(メンテナンス性)が重要となる。
【0006】
第二の使用方法として、インクジェット記録装置の充填液としての使用が挙げられる。インクジェット記録装置を長期間使用しない場合や、輸送する場合、インクジェットヘッド内にインクジェットインキが充填した状態だと、ノズルで当該インクジェットインキが乾燥及び固化することで、当該ノズルが閉塞してしまう恐れがある。そこで一般には、インクジェットヘッド内のインクジェットインキが、メンテナンス液に置換される。その際、インクジェット記録装置内のインクジェットインキとメンテナンス液とが一時的に共存することから、上記インクジェットインキと上記メンテナンス液との混合安定性が非常に重要となる。
【0007】
第三の使用方法として、保湿液としての使用が挙げられる。例えば、インクジェット記録装置を一時的に使用しない場合、ノズルにおけるインクジェットインキの乾燥及び固化を防ぐため、ヘッドキャップを行う。その際、ヘッドキャップ内部にメンテナンス液を充填しておくことで、当該ヘッドキャップ内部が保湿され、インクジェットインキの乾燥、及び、それに伴うノズルの閉塞を防ぐことが可能となる。このようにメンテナンス液を使用する場合、当該メンテナンス液の保湿性が高いことが重要となる。
【0008】
以上のように、単一のメンテナンス液で、上述した種々の使用方法に対応しようとすると、インクジェット記録装置内の流路洗浄性、固化及び析出した成分の除去性、上記インクジェットインキとの混合時の安定性、保湿性といった様々な特性が求められることになる。
【0009】
しかしながら、上述したようなノズル及び/または流路の閉塞が起こりやすい、β-ナフトール系アゾ顔料及び樹脂粒子を含むマゼンタインクジェットインキに対して、従来既知のメンテナンス液は必ずしも望ましい品質を有しているとは言えなかった。
【0010】
例えば特許文献1には、SP(溶解度パラメータ)値が異なる2種の水溶性有機溶剤を併用したメンテナンス液が開示されている。上記特許文献1では、SP値の高い溶剤を使用することでインクジェットインキとの混合安定性を確保し、また、SP値の低い溶剤を使用することで流路洗浄性を確保する、としている。しかしながらこの方法では、インクジェットインキに含まれる樹脂粒子の洗浄性には優れるが、β-ナフトール系アゾ顔料を含むマゼンタインクジェットインキと併用した場合、当該β-ナフトール系アゾ顔料の析出物の除去性、及び、当該マゼンタインキとの混合安定性が悪いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであって、その目的は、β-ナフトール系アゾ顔料及び樹脂粒子を含み、発色力及び耐擦過性に優れるマゼンタインクジェットインキと、インクジェット記録装置内の流路洗浄性、固化及び析出した成分の除去性、並びに、混合時の安定性に優れ、更には保湿性も良好なメンテナンス液と、を含むインキセットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討を進めた結果、特定の構造を有するメンテナンス液を、上記マゼンタインクジェットインキと組み合わせることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち本発明は、マゼンタインクジェットインキと、メンテナンス液と、を含むインキセットであって、
上記マゼンタインクジェットインキが、水と、水溶性有機溶剤と、β-ナフトール系アゾ顔料と、樹脂粒子とを含み、
上記メンテナンス液が、水と、下記一般式1~5のいずれかの構造を有する有機化合物とを含む、インキセットに関する。
【0015】
一般式1:
HO-CHR1-CR2R3-X
(一般式1中、Xは、-OH、または、-NR19R20を表し、R1及びR2は、それぞれ、-H、または、-CH3を表し、R3は、-H、-OH、-CnH2n+1、または、-CnH2nOHを表し、R19及びR20は、それぞれ、-H、-CnH2n+1、または、-CnH2nOHを表す。また、nは1~4の整数を表す。ただし、1分子中に複数の-CnH2n+1及び/または-CnH2nOHが存在する場合、前記nはそれぞれが同じであっても異なっていてもよい)
【0016】
一般式2:
H-(O-CHR4-CH2-)pa-O-R5
(一般式2中、R4は、-H、または、-CH3を表し、R5は、-CqaH2qa+1を表す。また、paは1~4の整数を表し、qaは1~4の整数を表す)
【0017】
一般式3:
H-(O-CH2CH2-)pb-O-R6
(一般式3中、R6は、-CqbH2qb+1、または、-CqbH2qb-1を表す。また、pbは2~50の整数を表し、qbは6~18の整数を表す)
【0018】
一般式4:
[H-(O-CH2CH2-)pc-]2-N-R7
(一般式4中、R7は、-CqcH2qc+1、または、-CqcH2qc-1を表す。また、pcは1~30の整数を表し、qcは8~18の整数を表す。ただし、1分子中に2個存在するpcは、それぞれ同じであっても異なっていてもよい)
【0019】
一般式5:
【化1】
(一般式5中、R
8及びR
10は、それぞれ、-H、-OH、または、-CH
3を表し、R
9及びR
11は、それぞれ-C
qdH
2qd+1を表す。また、pd及びpeは、それぞれ、0~30の整数を表し、qdは1~6の整数を表す。ただし、pd及びpeが同時に0になることはなく、また、前記R
9におけるqdと前記R
11におけるqdとは、同じであっても異なっていてもよい)
【0020】
また本発明は、上記マゼンタインクジェットインキが、上記水溶性有機溶剤として、2価アルコール系溶剤及び/またはグリコールモノアルキルエーテル系溶剤を含む、上記記載のインキセットに関する。
【0021】
また本発明は、上記2価アルコール系溶剤及び/または上記グリコールモノアルキルエーテル系溶剤が、上記一般式1の構造を有する有機化合物及び/または上記一般式2の構造を有する有機化合物である、上記記載のインキセットに関する。
【0022】
また本発明は、上記樹脂粒子が、ワックスエマルジョンを含む、上記記載のインキセットに関する。
【0023】
また本発明は、上記マゼンタインクジェットインキが、HLB値が0~5であるアセチレンジオール系界面活性剤と、HLB値が0~5であるシロキサン系界面活性剤とを含む、上記記載のインキセットに関する。
【0024】
また本発明は、上記メンテナンス液に含まれる、上記一般式1~5のいずれかの構造を有する有機化合物のSP値と、上記マゼンタインクジェットインキに含まれる、上記樹脂粒子のSP値との差が1以上である、上記記載のインキセットに関する。
【0025】
また本発明は、上記β-ナフトール系アゾ顔料が、C.I.ピグメントレッド150及び/またはC.I.ピグメントレッド269を含む、上記記載のインキセットに関する。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、β-ナフトール系アゾ顔料及び樹脂粒子を含み、発色力及び耐擦過性に優れるマゼンタインクジェットインキと、インクジェット記録装置内の流路洗浄性、固化及び析出した成分の除去性、並びに、混合時の安定性に優れ、更には保湿性も良好なメンテナンス液と、を含むインキセットを提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明のインキセットを構成する、マゼンタインクジェットインキ(以下単に「マゼンタインキ」または「インキ」ともいう)、及び、メンテナンス液について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される変形例も含まれる。
【0028】
本発明のインキセットを構成するメンテナンス液は、水と、下記一般式1~5のいずれかの構造を有する有機化合物とを含む。
【0029】
一般式1:
HO-CHR1-CR2R3-X
【0030】
上記一般式1中、Xは、-OH、または、-NR19R20を表し、R1及びR2は、それぞれ、-H、または、-CH3を表し、R3は、-H、-OH、-CnH2n+1、または、-CnH2nOHを表し、R19及びR20は、それぞれ、-H、-CnH2n+1、または、-CnH2nOHを表す。また、nは1~4の整数を表す。ただし、1分子中に複数の-CnH2n+1及び/または-CnH2nOHが存在する場合、上記nはそれぞれが同じであっても異なっていてもよい。
【0031】
一般式2:
H-(O-CHR4-CH2-)pa-O-R5
【0032】
上記一般式2中、R4は、-H、または、-CH3を表し、R5は、-CqaH2qa+1を表す。また、paは1~4の整数を表し、qaは1~4の整数を表す。
【0033】
一般式3:
H-(O-CH2CH2-)pb-O-R6
【0034】
上記一般式3中、R6は、-CqbH2qb+1、または、-CqbH2qb-1を表す。また、pbは2~50の整数を表し、qbは6~18の整数を表す。なお-CqbH2qb-1は、アルケニル基、アルキル基が付加してもよいシクロアルキル基等を表す。
【0035】
一般式4:
[H-(O-CH2CH2-)pc-]2-N-R7
【0036】
上記一般式4中、R7は、-CqcH2qc+1、または、-CqcH2qc-1を表す。また、pcは1~30の整数を表し、qcは8~18の整数を表す。ただし、1分子中に2個存在するpcは、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。なお-CqcH2qc-1は、アルケニル基、アルキル基が付加してもよいシクロアルキル基等を表す。
【0037】
【0038】
上記一般式5中、R8及びR10は、それぞれ、-H、-OH、または、-CH3を表し、R9及びR11は、それぞれ-CqdH2qd+1を表す。また、pd及びpeは、それぞれ、0~30の整数を表し、qdは1~6の整数を表す。ただし、pd及びpeが同時に0になることはなく、また、前記R9におけるqdと前記R11におけるqdとは、同じであっても異なっていてもよい。
【0039】
上記一般式1~5のいずれかの構造を有する有機化合物を含むメンテナンス液が、本発明のインキセットを構成するマゼンタインキとの混合安定性、並びに、インクジェット記録装置内の流路洗浄性及びメンテナンス性に優れ、更には保湿性にも優れるものである理由は定かではないものの、例えば以下が考えられる。
【0040】
本発明のインキセットを構成するマゼンタインキは、β-ナフトール系アゾ顔料を含む。β-ナフトール系アゾ顔料は、水酸基が結合した炭素原子に隣接する炭素原子に、アゾ基が結合している。このとき、上記一般式1で表される構造中の水酸基及びXで表される基、並びに、上記一般式2~5で表される構造中のアルキレンオキサイド基が、上記β-ナフトール系アゾ顔料中の水酸基及びアゾ基と水素結合を形成すると考えられる。その結果、インクジェット記録装置内に残存したマゼンタインキを洗浄する際には、メンテナンス液内の有機化合物と結合を形成したβ-ナフトール系アゾ顔料が、当該メンテナンス液の流動とともに洗い流されると考えられる。また、メンテナンス液内の有機化合物は、水酸基、アルキレンオキサイド基、アミノ基等を有しているため、そもそもの洗浄力が高く、例えば、インクジェット記録装置内に付着した、固化した樹脂粒子や凝集及び析出したβ-ナフトール系アゾ顔料を溶解及び洗浄することができると考えられる。以上より、上記の有機化合物を含むメンテナンス液は、流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性に優れると考えられる。
【0041】
一方で、洗浄後のインクジェット記録装置内に少量残存したメンテナンス液と、次の印刷のために再度当該インクジェット記録装置内に充填されたマゼンタインキとが混合した際、有機化合物の洗浄力の高さにより、当該マゼンタインキ中の樹脂粒子やβ-ナフトール系アゾ顔料の分散状態が破壊される恐れがある。しかしながら、上述したように、β-ナフトール系アゾ顔料が、メンテナンス液内の有機化合物を捕捉すると考えられるため、当該有機化合物による悪影響が現れることなく、混合安定性が向上すると考えられる。
【0042】
また、上述したとおりメンテナンス液内の有機化合物は水素結合を形成すると考えられる。そのため、上記有機化合物同士、及び、当該有機化合物と水とが水素結合を形成することで、メンテナンス液の過剰な揮発が抑えられ、保湿性にも優れたものとなると考えられる。
【0043】
以上のように、β-ナフトール系アゾ顔料及び樹脂粒子を含むマゼンタインキと併用した際の、流路洗浄性、固化・析出成分の除去性、混合安定性、並びに、保湿性に優れるメンテナンス液を得るためには、上記の構成が必須不可欠である。
【0044】
続いて以下に、本発明のインキセットを構成するマゼンタインキ及びメンテナンス液の構成成分について、それぞれ詳細に説明する。
【0045】
<<マゼンタインクジェットインキ>>
まず、マゼンタインクジェットインキの構成成分について説明する。上述した通り、本発明のインキセットを構成するマゼンタインキは、水と、水溶性有機溶剤と、β-ナフトール系アゾ顔料と、樹脂粒子とを含有する。
【0046】
<水>
マゼンタインキに含まれる水は、イオン性不純物を除去した水である、イオン交換水を使用することが好ましい。またイオン交換水の含有量は、マゼンタインキ全質量中30~90質量%の範囲であることが好ましく、50~80質量%の範囲であることが更に好ましい。
【0047】
<水溶性有機溶剤>
マゼンタインキは、水溶性有機溶剤を含む。本明細書における「水溶性有機溶剤」とは、物質を溶解及び/または分散させるのに用いられる有機化合物であり、25℃・1気圧下において液体であり、かつ、25℃の水に対する溶解度が5g/100gH2O以上であるものを指す。
【0048】
マゼンタインキに用いられる水溶性有機溶剤として、1価アルコール系溶剤、2価アルコール系溶剤(ジオール系溶剤)、3価以上のアルコール系溶剤(ポリオール系溶剤)、グリコールモノアルキルエーテル系溶剤等が好ましく使用できる。中でも、β-ナフトール系アゾ顔料との親和性が向上することで、印刷濃度及びメンテナンス液との混合安定性が良化するとともに、当該β-ナフトール系アゾ顔料の凝集及び析出を抑制することで、当該メンテナンス液による流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性の向上にも寄与する観点から、上記水溶性有機溶剤として、水酸基を1個または2個有する化合物が特に好適に選択される。上記水酸基を1個または2個有する有機溶剤として、1価アルコール系溶剤、2価アルコール系溶剤(ジオール系溶剤)、及び、上記グリコールモノアルキルエーテル系溶剤からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。また特に、上記特性が特に向上する観点から、マゼンタインキは、2価アルコール系溶剤及び/またはグリコールモノアルキルエーテル系溶剤を含むことが更に好ましく、少なくとも2価アルコールを含むことが特に好ましい
【0049】
マゼンタインキが2価アルコール系溶剤及び/またはグリコールモノアルキルエーテル系溶剤を含む場合、β-ナフトール系アゾ顔料の凝集及び析出を抑制し、発色性に優れる印刷物が得られ、更にはメンテナンス液による流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに、当該メンテナンス液との混合安定性の向上にもつながる点から、当該2価アルコール系溶剤及び/またはグリコールモノアルキルエーテル系溶剤を2種以上含むことが好ましく、3種以上含むことがより好ましい。また、同様の理由から、2種以上含まれる上記2価アルコール系溶剤及び/またはグリコールモノアルキルエーテル系溶剤のすべてが、2価アルコール系溶剤であることが好ましい。
【0050】
なお、マゼンタインキ中に好適に含まれる、2価アルコール系溶剤及び/またはグリコールモノアルキルエーテル系溶剤は、一般式1または2で表される有機化合物であることが好ましい。上述した、β-ナフトール系アゾ顔料と一般式1または2で表される化合物との相互作用が、マゼンタインキ中でも起こることで、印刷濃度、及び、メンテナンス液との混合安定性が向上すると考えられるためである。また詳細は不明であるが、一般式1で表される化合物として1,2-ヘキサンジオールを含むことで、様々な記録媒体に対する発色性が向上するだけでなく、メンテナンス液による流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに、当該メンテナンス液の保湿性も向上することから、本発明のインキセットを構成するマゼンタインキでは、1,2-ヘキサンジオールが特に好適に使用できる。
【0051】
本発明で好適に用いられる水溶性有機溶剤を例示すると、
1価アルコール系溶剤として、エタノール(沸点78℃)、1-プロパノール(沸点97℃)、イソプロパノール(沸点82℃)、1-ブタノール(沸点117℃)、2-ブタノール(沸点100℃)、イソブタノール(沸点108℃)、1-ペンタノール(沸点138℃)、3-メチル-1-ブタノール(沸点132℃)、3-メチル-2-ブタノール(沸点112℃)、2-メチル-2-ブタノール(沸点102℃)、3-ペンタノール(沸点116℃)、2-メチル-1-ペンタノール(沸点148℃)、2-エチルブチルアルコール(沸点147℃)、n-ヘキサノール(沸点157℃)、n-ヘプタノール(沸点176℃)、2-ヘプタノール(沸点160℃)、3-ヘプタノール(沸点156℃)、n-オクタノール(沸点195℃)、2-オクタノール(沸点179℃)、2-エチルヘキサノール(沸点185℃)、3,5,5-トリメチルヘキサノール(沸点194℃)、1-ノナノール(沸点214℃)、n-デシルアルコール(沸点233℃)、n-ドデカノール(沸点257℃)、シクロヘキサノール(沸点161℃)、2-メチルシクロヘキサノール(沸点174℃)、ベンジルアルコール(沸点205℃)、グリシドール(沸点167℃)、フルフリルアルコール(沸点170℃)、テトラヒドロフルフリルアルコール(沸点178℃)、α-テルピネオール(沸点221℃)、3-メトキシ-1-ブタノール(沸点161℃)、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(沸点174℃)、2-(2-メトキシメトキシ)エタノール(沸点168℃)、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール(沸点194℃)、1-ブトキシエトキシプロパノール(沸点229℃)等があり、
2価アルコール系溶剤として、エチレングリコール(沸点198℃)、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール、沸点188℃)、1,3-プロパンジオール(沸点214℃)、1,2-ブタンジオール(沸点193℃)、1,3-ブタンジオール(沸点207℃)、1,4-ブタンジオール(沸点230℃)、2,3-ブタンジオール(沸点182℃)、1,2-ペンタンジオール(沸点206℃)、1,3-ペンタンジオール(沸点209℃)、1,2-ヘキサンジオール(沸点223℃)、1,6-ヘキサンジオール(沸点250℃)、2-メチル-1,3-プロパンジオール(沸点214℃)、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(沸点208℃)、3-メチル-1,3-ブタンジオール(沸点203℃)、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール(沸点226℃)、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(沸点244℃)、ジエチレングリコール(沸点245℃)、トリエチレングリコール(沸点287℃)、テトラエチレングリコール(沸点328℃)、ジプロピレングリコール(沸点232℃)、トリプロピレングリコール(沸点271℃)、テトラプロピレングリコール(沸点271℃)、ポリエチレングリコール400(沸点250℃以上)、ポリエチレングリコール600(沸点250℃以上)等があり、
グリコールモノアルキルエーテル系溶剤として、エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点124℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点135℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点171℃)、エチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点161℃)、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(沸点208℃)、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル(沸点229℃)、エチレングリコールモノベンジルエーテル(沸点256℃)、エチレングリコールモノアリルエーテル(沸点159℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点193℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点196℃)、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(沸点207℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点220℃)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(沸点259℃)、ジエチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル(沸点272℃)、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル(沸点302℃)、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル(沸点283℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点249℃)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点255℃)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点271℃)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点248℃)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点304℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点121℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点160℃)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点150℃)、プロピレングリコールモノn-ブチルエーテル(沸点170℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点187℃)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点231℃)、ジプロピレングリコールモノn-ブチルエーテル(沸点212℃)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点242℃)等がある。
なお、これらの水溶性有機溶剤は単独で使用してもよく、また複数を混合して使用してもよい。
【0052】
マゼンタインキ中に含まれる、1気圧下における沸点が250℃以上である水溶性有機溶剤の含有量は、当該マゼンタインキ全量に対して9質量%以下(0質量%であってもよい)であることが好ましい。特に、各種記録媒体に対して優れた発色性及び耐擦過性を有する印刷物を得ることができ、メンテナンス液との混合安定性及び当該メンテナンス液による流路洗浄性にも優れるという観点から、上記1気圧下における沸点が250℃以上である水溶性有機溶剤の含有量は、マゼンタインキ全量に対し5質量%以下である(0質量%であってもよい)ことがより好ましく、3質量%以下である(0質量%であってもよい)ことが更に好ましく、1質量%以下である(0質量%であってもよい)ことが特に好ましい。
【0053】
なお、1気圧下での沸点は、例えば、DSC(示差走査熱量分析)などの熱分析装置を用いることで測定できる。
【0054】
<β-ナフトール系アゾ顔料>
マゼンタインキは、β-ナフトール系アゾ顔料を含む。ナフトール系顔料は発色性に優れており、マゼンタインキとして使用することで、発色性及び色再現性に優れた印刷物が得られる。
【0055】
β-ナフトール系アゾ顔料としては、β-ナフトール系アゾレーキ顔料、β-ナフトール系不溶性アゾ顔料等が使用でき、着色力、分散安定性、メンテナンス液との混合安定性等の点から、β-ナフトール系不溶性アゾ顔料を使用することが好ましい。
【0056】
上記β-ナフトール系アゾレーキ顔料として、例えば、C.I.ピグメントレッド48:1、48:2、48:3、48:4、49、49:1、49:2、50、50:1、50:2、51、52、52:1、52:2、53、53:1、55、56、57、57:1、57:2、58、58:1、58:2、60、60:1、62、63:1、63:2、64、64:1、68、69、70、99、115、117、151、193、200、201、243、247等が挙げられる。これらの中でも、着色力の点から、レーキ化アゾ顔料として、C.I.ピグメントレッド48:1、48:2、48:3、53:1、57:1、119、253からなる群より選択される1種以上を使用することが好ましく、C.I.ピグメントレッド48:1、48:2、48:3、57:1からなる群より選択される1種以上を使用することが特に好ましい。
【0057】
またβ-ナフトール系不溶性アゾ顔料として、例えば、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、31、32、40、93、95、112、114、119、136、144、146、147、148、150、162、164、170、171、175、176、183、184、185、187、188、208、210、238、242、245、253、256、258、261、266、268、269等が挙げられる。これらの中でも、着色力の点から、C.I.ピグメントレッド17、22、23、31、32、112、114、146、147、150、163、166、170、176、183、184、185、187、188、208、221、245、258、266、268、269からなる群より選択される1種以上を使用することが好ましい。
【0058】
更に、上記列挙した中でも、β-ナフトール系不溶性アゾ顔料として、下記一般式6で表される構造を有する化合物を使用することが特に好ましい。
【0059】
【0060】
上記一般式6中、R12、R13、及びR14は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~2のアルキル基、炭素数1~2のアルコキシ基、アニリド基、カルバモイル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、アミノ基、ニトロ基、スルホンアミド基(アミノスルホニル基)、メチルアミノスルホニル基、またはエチルアミノスルホニル基のいずれかである。また、R15は、水素原子、炭素数1~2のアルキル基、または下記一般式7で表される構造を有する基のいずれかである。
【0061】
【0062】
上記一般式7中、R16は、水素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1~2のアルキル基、炭素数1~2のアルコキシ基、アミノ基、またはニトロ基のいずれかである。また、R17及びR18は、それぞれ独立して、水素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1~2のアルキル基、炭素数1~2のアルコキシ基、アミノ基、またはニトロ基のいずれかであるか、R17とR18とが互いに結合し、イミダゾリジノン環を形成している。また、*の部分は結合手である。
【0063】
上記一般式6で表される構造を有する化合物は、水酸基が結合した炭素原子に隣接する炭素原子に、カルボニル基が結合している。そのため、メンテナンス液中に存在する、一般式1~5のいずれかの構造を有する有機化合物との間に形成される水素結合が強まると考えられる。その結果、メンテナンス液による流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに、当該メンテナンス液との混合安定性が特段に向上すると考えられる。
【0064】
好ましく使用できるβ-ナフトール系不溶性アゾ顔料として上述した顔料のうち、上記一般式6で表される構造を有しているものとして、C.I.ピグメントレッド17、22、23、31、32、114、146、147、150、170、176、184、185、245、266、268、269が挙げられる。
【0065】
また、上記一般式6で表される構造を有する化合物の中でも、発色性、メンテナンス液との混合安定性の点から、上記一般式6において、R12がメトキシ基であり、R13が水素原子であり、R14がアニリド基である化合物が好ましい。また、β-ナフトール系不溶性アゾ顔料が、上記一般式6において、R12がメトキシ基、R13が水素原子、R14がアニリド基である化合物のみからなることが特に好ましい。上記一般式6において、R12がメトキシ基、R13が水素原子、R14がアニリド基である化合物の具体例として、C.I.ピグメントレッド31、32、146、147、150、176、269等が挙げられる。発色性の点から、C.I.ピグメントレッド31、146、147、150、269を含むことがより好ましく、メンテナンス液との混合安定性の点から、C.I.ピグメントレッド31、150、269を含むことが更に好ましく、C.I.ピグメントレッド150及び/またはC.I.ピグメントレッド269を含むことが特に好ましい。
【0066】
マゼンタインキ中に含まれるβ-ナフトール系アゾ顔料は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。β-ナフトール系アゾ顔料を2種以上含む場合、メンテナンス液による流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに、当該メンテナンス液との混合安定性の点から、1種以上が、上記一般式6で表される構造を有する化合物であることが好ましく、発色性及びメンテナンス液との混合安定性の更なる向上の点から、上記一般式6において、R12がメトキシ基であり、R13が水素原子であり、R14がアニリド基である化合物であることがより好ましく、C.I.ピグメントレッド31、146、147、150、269を含むことが更に好ましく、メンテナンス液との混合安定性の点から、C.I.ピグメントレッド31、150、269を含むことが特に好ましく、C.I.ピグメントレッド150及び/またはC.I.ピグメントレッド269を含むことが最も好ましい。
【0067】
β-ナフトール系アゾ顔料として、C.I.ピグメントレッド150及び/またはC.I.ピグメントレッド269と、それ以外のβ-ナフトール系アゾ顔料と含む場合、当該C.I.ピグメントレッド150及び/またはC.I.ピグメントレッド269の配合量は、β-ナフトール系アゾ顔料中10~99質量%であることが好ましく、20~95質量%であることがより好ましく、30~90質量%であることが特に好ましい。配合量を上記の範囲内に収めることで、発色性、分散安定性、吐出安定性、及びメンテナンス液との混合安定性の両立が可能となる。
【0068】
β-ナフトール系アゾ顔料を2種以上含むマゼンタインキを製造する方法として、(i)いずれかのβ-ナフトール系アゾ顔料を含む顔料分散液を別々に製造したのち、マゼンタインキ中に含まれる他の材料とともに混合する方法、(ii)2種以上のβ-ナフトール系アゾ顔料を同時に含む顔料分散液を製造したのち、マゼンタインキ中に含まれる他の材料と混合する方法、(iii)各々のβ-ナフトール系アゾ顔料を、分散樹脂や界面活性剤なしで分散が可能な状態とした(自己分散性β-ナフトール系アゾ顔料を製造した)のち、マゼンタインキ中に含まれる他の材料とともに混合する方法、(iv)2種以上のβ-ナフトール系アゾ顔料の混晶体を使用して、自己分散性β-ナフトール系アゾ顔料を製造したのち、マゼンタインキ中に含まれる他の材料と混合する方法;等がある。なお、上記(ii)の方法における、顔料分散液中の2種以上のβ-ナフトール系アゾ顔料は、それぞれが別々に含まれていてもよいし、互いに混晶体を形成していてもよい。
【0069】
ある好ましい実施形態では、マゼンタインキに含まれるβ-ナフトール系アゾ顔料として、2種以上のβ-ナフトール系アゾ顔料の混晶体を使用する。β-ナフトール系アゾ顔料同士を混晶化させることにより、β-ナフトール系アゾ顔料を単独で使用した場合と比べて、一次粒子径が小さくなり、発色性に優れる。また一次粒子径が小さくなることで、メンテナンス液による流路洗浄性が向上する。また、当該メンテナンス液による固化・析出成分の除去性、並びに、当該メンテナンス液との混合安定性も向上できる点から、混晶体を構成するβ-ナフトール系アゾ顔料の全てが、上記一般式6で表される構造を有する化合物であることが特に好適である。なお、混晶体を構成するβ-ナフトール系アゾ顔料として好適に使用できる顔料の具体例は、上述した、β-ナフトール系アゾ顔料を2種以上含む場合における場合と同一である。すなわち、C.I.ピグメントレッド31、146、147、150、269からなる群から選択される2種以上の顔料を含む混晶体であることが好ましく、C.I.ピグメントレッド31、150、269からなる群から選択される2種以上の顔料を含む混晶体であることがより好ましく、C.I.ピグメントレッド150及びC.I.ピグメントレッド269を含む混晶体であることが特に好ましい。
【0070】
本明細書における「混晶体」とは、2種以上の化合物が相互に溶け合って全体として均一な固相を形成しているものをいい、固溶体とも呼ばれる。一方で、当該2種以上の化合物を単純に混合したものとは明確に区別される。
【0071】
なお、顔料が混晶を形成しているか否かについては、X線回折分析などによって容易に検証することができる。複数の顔料を単純に混合したものを試料とした場合、得られるX線回折パターンは、各顔料のX線回折パターンを重ね合わせたものとなり、また各回折ピークの強度は、各顔料の配合比率に依存する。これに対して、複数の顔料が混晶体を形成している場合、当該複数の顔料を単純に混合した場合とは異なるX線回折パターンが得られる。具体的には、新たな回折ピークが得られる、各回折ピークの強度が顔料の配合比率に依存しない、回折ピークの半値幅が大きくなる、等の現象が見られる。
【0072】
β-ナフトール系アゾ顔料を含む混晶体は、例えば、特開2005-107147号公報や、特開2010-195907号公報に記載の方法で製造することができる。
【0073】
また、使用する記録媒体によらず、発色性及び色再現性に優れた印刷物を得る観点から、マゼンタインキ中に含まれるβ-ナフトール系アゾ顔料の量は、マゼンタインキ全量に対し0.5~10質量%であることが好ましく、1~9質量%であることがより好ましく、2~8質量%であることが特に好ましい。
【0074】
加えて、本発明のインキセットを構成するマゼンタインキは、優れた発色性を有する印刷物を得るために、β-ナフトール系アゾ顔料の平均二次粒子径(D50)を40~500nmとすることが好ましく、より好ましくは50~400nmであり、特に好ましくは60~300nmである。平均二次粒子径を上記好適な範囲内に収めるには、例えば、後述する顔料分散処理工程を制御する、β-ナフトール系アゾ顔料を含む混晶体を使用する、等の方法がある。なお、β-ナフトール系アゾ顔料の平均二次粒子径(D50)とは、粒度分布測定機(本明細書においては、マイクロトラック・ベル社製ナノトラックUPA-EX150を用いた)を用い、動的光散乱法によって測定される体積基準のメジアン径を表す。
【0075】
<その他顔料>
マゼンタインキでは、β-ナフトール系アゾ顔料とともに、当該β-ナフトール系アゾ顔料以外の顔料(以下、「その他顔料」とも呼ぶ)を使用してもよい。
【0076】
上記その他顔料として、オレンジ顔料、レッド顔料、バイオレット顔料等が好適に使用でき、レッド領域の色再現性に優れた印刷物が得られる点から、レッド顔料及び/またはバイオレット顔料を含むことが特に好適である。なお、前記ナフトール系顔料以外の顔料として、レッド顔料及び/またはバイオレット顔料を使用する場合、その配合量は、β-ナフトール系アゾ顔料の配合量全量に対して10~100質量%であることが好ましく、20~80質量%であることがより好ましく、30~70質量%であること特に好ましい。
【0077】
β-ナフトール系アゾ顔料とともに使用できるオレンジ顔料を例示すると、C.I.ピグメントオレンジ13、16、17、22、24、34、36、38、40、43、51、60、62、64、71、72、73等が挙げられる。中でも、β-ナフトール系アゾ顔料の分散状態に影響を与えることがないため、メンテナンス液による流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性の悪化が抑制できる点、並びに、β-ナフトール系アゾ顔料と混合した際の色再現性に優れる点から、C.I.ピグメントオレンジ36、38、43、60、62、64、及び、72からなる群から選択される1種以上が好ましく使用できる。
【0078】
また、β-ナフトール系アゾ顔料とともに使用できるレッド顔料としては、例えば、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料が挙げられる。具体的には、キナクリドン系顔料として、C.I.ピグメントレッド122、202、207、209等が、またジケトピロロピロール系顔料として、C.I.ピグメントレッド254、255等が、それぞれ挙げられる。中でも、β-ナフトール系アゾ顔料の分散状態に影響を与えることがないため、メンテナンス液による流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性の悪化が抑制できる点、並びに、β-ナフトール系アゾ顔料と混合した際の色再現性に優れる点から、キナクリドン系顔料が好ましく使用できる。
【0079】
また、β-ナフトール系アゾ顔料とともに使用できるバイオレット顔料を例示すると、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、42、43、50等が挙げられる。中でも、ナフトール系顔料の分散状態に影響を与えることがないため、メンテナンス液による流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性の悪化が抑制できる点、並びに、β-ナフトール系アゾ顔料と混合した際の色再現性に優れる点から、C.I.ピグメントバイオレット19、23、32、及び、42からなる群から選択される1種以上が好ましく使用できる。
【0080】
<顔料分散樹脂>
β-ナフトール系アゾ顔料をインキ中で安定的に分散保持する方法として、(1)顔料表面の少なくとも一部を顔料分散樹脂によって被覆する方法、(2)水溶性及び/または水分散性の界面活性剤を顔料表面に吸着させる方法、(3)顔料表面に親水性官能基を化学的・物理的に導入し、顔料分散樹脂や界面活性剤なしでインキ中に分散させる方法(自己分散顔料)などを挙げることができる。
【0081】
本発明のインキは、上記のうち(1)の方法、すなわち、顔料分散樹脂を用いる方法が好適に選択される。これは、樹脂を構成する重合性単量体組成や分子量を選定・検討することにより、β-ナフトール系アゾ顔料に対する顔料分散樹脂の被覆能や当該顔料分散樹脂の電荷を容易に調整できるため、微細な顔料に対しても分散安定性を付与することが可能となり、吐出安定性、発色性、色再現性にも優れた印刷物が得られるためである。また本発明の場合、顔料分散樹脂を用いることで、メンテナンス液による流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性の悪化も抑制することができる。
【0082】
顔料分散樹脂の種類は特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン(メタ)アクリル系樹脂、(無水)マレイン酸系樹脂、スチレン(無水)マレイン酸系樹脂、オレフィン(無水)マレイン酸系樹脂、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂(多価カルボン酸と多価アルコールとの重縮合体)等を使用することができる。中でも、吐出性、材料選択性の大きさ、合成の容易さ等の点で、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、及び、エステル系樹脂からなる群より選択される1種以上を使用することが好ましい。
【0083】
なお本明細書における「(メタ)アクリル系樹脂」とは、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、またはアクリル-メタクリル系樹脂を指す。ここで「アクリル-メタクリル系樹脂」とは、アクリル酸及び/またはアクリル酸エステルと、メタクリル酸及び/またはメタクリル酸エステルとを、重合性単量体として使用した樹脂を表す。また「(無水)マレイン酸」は、無水マレイン酸またはマレイン酸を指す。
【0084】
上記の顔料分散樹脂は、既知の方法により合成することも、市販品を使用することもできる。またその構造についても特に制限はなく、例えばランダム構造、ブロック構造、櫛形構造、星型構造等を有する樹脂が利用できる。更に、顔料分散樹脂として、水溶性樹脂を選択してもよいし、非水溶性樹脂を選択してもよい。なお本明細書における「水溶性樹脂」とは、対象となる樹脂の、25℃・1質量%水混合液が、肉眼で見て透明であるものを指す。また「非水溶性樹脂」とは、水溶性樹脂ではない樹脂を指す。
【0085】
また顔料分散樹脂は、単独種を用いても、複数種を併用してもよい。
【0086】
顔料分散樹脂として水溶性樹脂を用いる場合、その酸価は100~450mgKOH/gであることが好ましく、120~400mgKOH/gであることがより好ましく、150~350mgKOH/gであることが特に好ましい。酸価を上記の範囲内とすることで、β-ナフトール系アゾ顔料の分散安定性を保つことが可能となり、インクジェットヘッドから安定して吐出することが可能となる。また、顔料分散樹脂の水に対する溶解性が確保できるうえ、当該顔料分散樹脂間での相互作用が好適なものとなることで、顔料分散液の粘度を抑えることができる点からも好ましい。更には、上記範囲内の酸価を有する顔料分散樹脂は、メンテナンス液中に存在する、一般式1~5のいずれかの構造を有する有機化合物との間に水素結合を形成すると考えられる。そのため、上記メンテナンス液による、当該顔料分散樹脂によって分散されたβ-ナフトール系アゾ顔料を洗い流す能力が高まる、すなわち、当該メンテナンス液による流路洗浄性が向上する。
【0087】
一方、顔料分散樹脂として非水溶性樹脂を用いる場合、その酸価は0~100mgKOH/gであることが好ましく、5~90mgKOH/gであることがより好ましく、10~80mgKOH/gであることが更に好ましい。酸価が前記範囲内であれば、乾燥性や耐擦過性に優れた印刷物が得られる。また詳細は不明ながら、上記範囲内の酸価を有する顔料分散樹脂で分散されたβ-ナフトール系アゾ顔料は、インクジェット記録装置内で凝集及び析出した際、併用されるメンテナンス液により溶解及び洗浄しやすい。すなわち、メンテナンス液による固化・析出成分の除去性の点からも、上記酸価範囲が好適に選択される。
【0088】
なお樹脂の酸価は既知の装置により測定することができる。本明細書における樹脂の酸価は、JIS K 2501に準じ、電位差滴定法により測定した値である。具体的な測定方法の例として、京都電子工業社製AT-610を用い、トルエン-エタノール混合溶媒に樹脂を溶解させたのち、水酸化カリウム溶液で滴定し、終点までの滴定量から、酸価を算出する方法が挙げられる。
【0089】
β-ナフトール系アゾ顔料の分散に使用される顔料分散樹脂の配合量は、当該β-ナフトール系アゾ顔料の配合量に対して1~100質量%であることが好ましい。顔料分散樹脂の比率を上記範囲内とすることで、顔料分散液の粘度を抑え、マゼンタインキの分散安定性及び吐出性、並びに、メンテナンス液による流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性が良化する。β-ナフトール系アゾ顔料と顔料分散樹脂の比率として、より好ましくは2~50質量%であり、特に好ましくは4~45質量%である。
【0090】
<樹脂粒子>
本発明のインキセットを構成するマゼンタインキは、樹脂粒子を含む。一般に樹脂粒子は、印刷物の耐擦過性、耐水性、耐溶剤性、印刷濃度等を向上させるために使用される。また、これらの効果に加えて本発明者らは、樹脂粒子とβ-ナフトール系アゾ顔料とを併用し、更に後述するメンテナンス液と組み合わせて使用することにより、流路洗浄性及び混合安定性が高められることを見出した。詳細な理由は不明であるが、樹脂粒子は、水性媒体との間に界面を形成するため、マゼンタインキ内に共在するβ-ナフトール系アゾ顔料との間に相互作用を形成しにくいと考えられる。そのため、上記β-ナフトール系アゾ顔料と、メンテナンス液中に存在する、一般式1~5のいずれかの構造を有する有機化合物との間に形成される相互作用が阻害されることがなくなり、上述した効果が十分に発現することで、印刷物の耐擦過性及び印刷濃度といった効果を維持しながら、流路洗浄性及び混合安定性も向上できると考えられる。
【0091】
なお、本明細書における「樹脂粒子」とは、水性媒体(少なくとも水を含む溶媒)中で10~1,000nmの平均粒子径を有する樹脂を指すものとする。ここで「平均粒子径」とは、動的光散乱法によって測定される体積基準のメジアン径であり、上述したβ-ナフトール系アゾ顔料の平均二次粒子径と同様の方法によって測定できる。
【0092】
樹脂粒子は、自己分散性樹脂粒子(ディスパージョン)とエマルジョンとに大別されるが、本発明のインキセットを構成するマゼンタインキでは、どちらを使用してもよいし、両方を併用してもよい。なお「自己分散性樹脂粒子」とは、樹脂分子中に存在する親水基により、乳化剤等を使用することなく、水性媒体中で安定に分散できる樹脂粒子を指す。また「エマルジョン」とは、界面活性剤(乳化剤)や樹脂粒子分散樹脂を用いることで、水性媒体中に分散させた樹脂粒子を指す。
【0093】
樹脂粒子を構成する樹脂の種類は特に限定されず、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン(メタ)アクリル系樹脂、スチレンブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、オレフィン系樹脂、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂、エポキシ系樹脂、アミド系樹脂、アルキレングリコール系樹脂等を使用することができる。また、樹脂粒子を構成する樹脂は、上記列挙した樹脂の共重合体であってもよく、例えば、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体、オレフィン-酢酸ビニル系共重合体、シリコーン-(メタ)アクリル系共重合体、シリコーン-スチレン(メタ)アクリル系共重合体、ウレタン-(メタ)アクリル系共重合体、ウレタン-スチレン(メタ)アクリル系共重合体等が使用できる。
なおいずれかの樹脂を1種のみ使用してもよいし、2種以上を併用して使用してもよい。また、同一種の樹脂が2種以上含まれていてもよい。
【0094】
マゼンタインキ中に含まれる樹脂粒子の平均粒子径は、印刷物の発色性、並びに、メンテナンス液と組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性の点から、5~300nmであることが好ましく、20~250nmであることがより好ましく、30~200nmであることが特に好ましい。
【0095】
また樹脂粒子の酸価は、0~80mgKOH/gであることが好ましく、2~60mgKOH/gであることが好ましく、5~40mgKOH/gであることが特に好ましい。この範囲内であれば、β-ナフトール系アゾ顔料の分散安定性が確保でき、各種記録媒体での発色性に優れた印刷物を得ることができる。なお樹脂粒子の酸価は、上述した顔料分散樹脂の酸価と同様に測定できる。
【0096】
<ワックスエマルジョン>
マゼンタインキに含まれる樹脂粒子は、ワックスエマルジョン(以下、単に「ワックス」ともいう)であることが好ましい。マゼンタインキがワックスエマルジョンを含むことで、印刷物の耐擦過性、着色力が向上するだけでなく、メンテナンス液と組み合わせた際に、流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性に優れる。
【0097】
なお、印刷物の発色性、耐擦過性、メンテナンス液と組み合わせた際の固化・析出成分の除去性、並びに、当該メンテナンス液との混合安定性等を考慮すると、マゼンタインキは、ワックスエマルジョンに加えて、後述するワックスエマルジョン以外の樹脂粒子、及び/または、樹脂粒子以外の樹脂を含む(ただし顔料分散樹脂を除く)ことが好適である。
【0098】
本明細書における「ワックスエマルジョン」とは、融点が30~200℃であり、当該融点を上回る温度環境下で分解することなく溶融するエマルジョンを指す。
【0099】
なおワックスの融点は、印刷物の発色性、並びに、メンテナンス液と組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性の点から、60~200℃であることが好ましく、100~180℃であることがより好ましく、120~160℃であることが特に好ましい。
【0100】
上記に例示した樹脂粒子を構成する樹脂の種類の中でも、ワックスとして好適に使用できる樹脂として、オレフィン系樹脂及びシリコーン系樹脂(少なくともシロキサン鎖構造を有する樹脂)がある。またこれらの中でも、印刷物の耐擦過性、並びに、メンテナンス液と組み合わせた際の、流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性に優れる点で、オレフィン系樹脂がより好ましく用いられる。
【0101】
オレフィン系樹脂からなるワックスとして、例えば、ポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックスが挙げられる。中でも、吐出安定性、印刷物の発色性、メンテナンス液と組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに当該メンテナンス液との混合安定性の点から、ポリエチレン系ワックスが特に好ましく使用できる。
【0102】
またシリコーン系樹脂からなるワックスとして、例えば、アルキル変性ポリエーテルシロキサン、シロキサン鎖構造を有する(メタ)アクリル系樹脂、シロキサン鎖構造を有するスチレン(メタ)アクリル系樹脂、シロキサン鎖構造を有するウレタン系樹脂、シロキサン鎖構造を有するオレフィン系樹脂が挙げられる。中でも、メンテナンス液と組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに当該メンテナンス液との混合安定性の点から、シロキサン鎖構造を有する(メタ)アクリル系樹脂、及び/または、シロキサン鎖構造を有するスチレン(メタ)アクリル系樹脂が特に好ましく使用できる。
【0103】
ワックスエマルジョンは、例えば、当該ワックスエマルジョンを構成する樹脂を加熱して溶融させたのち、熱水及び乳化剤と混合することで製造できる。また、市販品をワックスエマルジョンとして使用することもできる。市販品の例として、ビックケミー社製の、AQUACER-507、513、515、526、531、533、535、537、539、552、840、1547;サンノプコ社製のノプコートPEM-17、BASF社製のJONCRYLWAX4、WAX26、WAX28、WAX120、東邦化学社製のハイテックEシリーズ、ハイテックPシリーズ、信越化学工業社製のシャリーヌFE230N、シャリーヌFE502等が挙げられる。
【0104】
耐擦過性、発色性の優れた印刷物が得られ、メンテナンス液と組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに当該メンテナンス液との混合安定性にも優れる点で、ワックスエマルジョンの含有量は、マゼンタインキ全量中、0.2~8質量%であることが好ましく、0.3~5質量%であることがより好ましく、0.5~4質量%であることが特に好ましい。
【0105】
<ワックスエマルジョン以外の樹脂粒子>
一方、マゼンタインキに含まれる樹脂粒子は、上述したワックスエマルジョン以外の樹脂粒子であってもよい。また、上記ワックスエマルジョン以外の樹脂粒子を、ワックスエマルジョンと併用してもよい。
【0106】
ワックスエマルジョン以外の樹脂粒子を使用する場合、吐出性、印刷物の発色性、メンテナンス液と組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに、当該メンテナンス液との混合安定性の観点から、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。中でも、メンテナンス液との混合安定性の観点から、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン(メタ)アクリル系樹脂からなる群から選択される1種以上を含むことが特に好ましい。
【0107】
ワックスエマルジョン以外の樹脂粒子は、既知の方法により合成することも、市販品を使用することもできる。またその構造についても特に制限はなく、例えばランダム構造、ブロック構造、櫛形構造、星型構造等を有する樹脂が利用できる。
【0108】
ワックスエマルジョン以外の樹脂粒子がガラス転移温度を有する場合、そのガラス転移温度は、印刷物の耐擦過性、吐出性、メンテナンス液と組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに、当該メンテナンス液との混合安定性の点から、60~140℃であることが好ましく、70~135℃であることがより好ましく、80~130℃であることが特に好ましい。
【0109】
なおガラス転移温度は、DSC(示差走査熱量計)を用いて測定される値であり、JIS K7121に準じ、例えば以下のように測定できる。樹脂を乾固したサンプル約2mgをアルミニウムパン上で秤量し、該アルミニウムパンを試験容器としてDSC測定装置(例えば、島津製作所社製DSC-60Plus)内のホルダーにセットする。そして5℃/分の昇温条件にて測定を行い、得られたDSCチャートから読み取った、低温側のベースラインと変曲点における接線との交点の温度を、本明細書におけるガラス転移温度とする。
【0110】
マゼンタインキ全量に対する樹脂粒子の含有量は、固形分換算で0.5~10質量%であることが好ましく、1~8質量%であることがより好ましく、2~7質量%であることが更に好ましい。樹脂粒子の量を上記範囲内とすることで、分散安定性や吐出性が低下することなく、印刷物の耐擦過性及び印刷濃度に優れ、更には、メンテナンス液と組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに、当該メンテナンス液との混合安定性にも優れたマゼンタインキとなる。
【0111】
<その他樹脂>
本発明のインキセットを構成するマゼンタインキは、印刷物の耐擦過性、耐水性、耐溶剤性、印刷濃度等を向上させるため、上述した樹脂粒子以外の樹脂(以下、「その他樹脂」とも呼ぶ)を使用してもよい。
【0112】
その他樹脂は、既知の方法により合成することも、市販品を使用することもできる。またその構造についても特に制限はなく、例えばランダム構造、ブロック構造、櫛形構造、星型構造等を有する樹脂が利用できる。更に、水溶性樹脂及び非水溶性樹脂のどちらを使用してもよく、併用してもよい。
【0113】
また、その他樹脂の種類に関しても特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン(メタ)アクリル系樹脂、(無水)マレイン酸系樹脂、スチレン(無水)マレイン酸系樹脂、オレフィン(無水)マレイン酸系樹脂、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂等を使用することができる。中でも、吐出性、樹脂粒子との相溶性等の点で、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン(メタ)アクリル系樹脂、及び、ウレタン系樹脂からなる群より選択される1種以上を使用することが好ましい。
【0114】
β-ナフトール系アゾ顔料及び樹脂粒子の分散安定性に悪影響を与えることなく併用でき、発色性及び耐擦過性に優れた印刷物が得られ、メンテナンス液による流路洗浄性も向上できることから、その他樹脂の酸価は、0~80mgKOH/gであることが好ましく、2~60mgKOH/gであることが好ましく、5~40mgKOH/gであることが特に好ましい。
【0115】
また印刷物の発色性、耐擦過性、吐出性、メンテナンス液と組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性の点、並びに、当該メンテナンス液との混合安定性から、その他樹脂のガラス転移温度は、50~130℃であることが好ましく、60~120℃であることがより好ましく、70~110℃であることが特に好ましい。
【0116】
<界面活性剤>
マゼンタインキは、発色性及び耐擦過性に優れた印刷物が得られ、メンテナンス液と組み合わせた際の固化・析出成分の除去性も向上するという観点から、界面活性剤を1種以上含むことが好ましい。
【0117】
界面活性剤として、アセチレンジオール系、アセチレンアルコール系、シロキサン系、アクリル系、フッ素系、ポリオキシアルキレンエーテル系等が、用途に合わせて任意に使用できる。中でも、アセチレンジオール系、シロキサン系、ポリオキシアルキレンエーテル系界面活性剤からなる群から選択される1種以上の界面活性剤を含むことが好ましく、アセチレンジオール系界面活性剤、及び/または、シロキサン系界面活性剤を含むことがより好ましい。
【0118】
アセチレンジオール系界面活性剤及びシロキサン系界面活性剤は、記録媒体に着弾したマゼンタインキ液滴中で、前記液滴中に存在する顔料の影響を受けることなく、速やかに、気液界面及び記録媒体-液滴界面に配向すると考えられる。その結果、記録媒体の種類によらず、マゼンタインキの濡れ性の向上、及び、上記マゼンタインキ液滴の速やかな平滑化が実現でき、乾燥性の向上に加え、液滴同士の滲みや濃淡ムラが少なく、発色性に優れた印刷物を得ることが可能となる。また、マゼンタインキがインクジェット記録装置内の流路に残存した際、界面活性剤が当該マゼンタインキの界面に配向することで、メンテナンス液により当該流路の壁面から剥がれ落ちやすくなり、固化・析出成分の除去性が向上する。特に本発明では、上述した効果が顕著に発現することから、アセチレンジオール系界面活性剤と、シロキサン系界面活性剤とを併用することが好適である。
【0119】
なお、本発明で使用できる界面活性剤は、水溶性であっても非水溶性であってもよい。また、上述したワックスエマルジョンの条件を満たすシロキサン系界面活性剤は、当該ワックスエマルジョンを兼ねる材料であってもよい。
【0120】
樹脂粒子との親和性を高め、β-ナフトール系アゾ顔料の分散安定性に優れ、各種記録媒体に印刷した際の発色性に優れ、メンテナンス液と組み合わせた際の固化・析出成分の除去性、及び、当該メンテナンス液との混合安定性にも優れたマゼンタインキが得られるという観点から、HLB値が0~5である界面活性剤を使用することが好適であり、当該HLB値が1~4である界面活性剤を含むことが特に好適である。
【0121】
特に、本発明の効果の全てが優れたレベルで両立できるという観点から、界面活性剤として、HLB値が0~5であるアセチレンジオール系界面活性剤と、HLB値が0~5であるシロキサン系界面活性剤を併用することが最も好ましい。
【0122】
なお、HLB(Hydrophile-Lipophile Balance)値とは、材料の親水・疎水性を表すパラメータの一つであり、小さいほど疎水性が高く、大きいほど親水性が高いことを表す。化学構造からHLB値を算出する方法は種々知られており、また実測する方法も様々知られているが、本明細書では、アセチレンジオール系界面活性剤やポリオキシアルキレンエーテル系界面活性剤のように、化合物の構造が明確に分かる場合は、グリフィン法を用いてHLB値の算出を行う。なおグリフィン法とは、対象の材料の分子構造と分子量を用いて、下記式8を用いてHLB値を算出する方法である。
【0123】
式8:
HLB値=20×(親水性部分の分子量の総和)÷(材料の分子量)
【0124】
一方、シロキサン系界面活性剤のように、構造不明の化合物が含まれる場合は、例えば「界面活性剤便覧」(西一郎ら編、産業図書株式会社、1960年)のp.324に記載されている以下方法によって、界面活性剤のHLB値を実験的に求めることができる。具体的には、界面活性剤0.5gをエタノール5mLに溶解させたのち、前記溶解液を25℃下で攪拌しながら、2質量%フェノール水溶液で滴定し、液が混濁したところを終点とする。終点までに要した前記フェノール水溶液の量をA(mL)としたとき、下記式9によってHLB値が算出できる。
【0125】
式9:
HLB値=0.89×A+1.11
【0126】
界面活性剤の含有量は、マゼンタインキ全量に対して0.2~4質量%であることが好ましく、より好ましくは0.5~3.5質量%であり、特に好ましくは1~3質量%である。
【0127】
<pH調整剤>
マゼンタインキは、上述した成分の他に、pH調整剤を添加することができる。pH調整剤として利用できる化合物として、含窒素化合物(アンモニア水、尿素、アルキルアミン類、アルカノールアミン類、芳香族アミン類、含窒素複素環化合物類等)、アルカリ金属塩(アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の酢酸塩、アルカリ金属の炭酸塩等)、無機酸、有機酸、無機酸塩(無機酸のアンモニウム塩等)、有機酸塩(無機酸のアンモニウム塩等)等が任意に使用できる。なお、これらの化合物を1種のみ使用してもよいし、pHの微調整及び/または緩衝能の付与のため、2種以上を併用してもよい。
【0128】
本発明の効果を十分に発現させるためには、マゼンタインキは塩基性であることが好ましく、従って当該マゼンタインキは、系を塩基性化させるpH調整剤を含むことが好適である。その際、β-ナフトール系アゾ顔料及び樹脂粒子の分散安定性を維持し、メンテナンス液と組み合わせた際の流路洗浄性、及び、固化・析出成分の除去性の悪化を抑制できる観点から、25℃におけるpKa値が2~13であるpH調整剤を使用することが好ましく、3~11であるpH調整剤を使用することがより好ましく、4~9.5であるpH調整剤を使用することが特に好ましい。
【0129】
25℃におけるpKa値が4~9.5であるpH調整剤の具体例として、ジエタノールアミン(pKa=8.9)、メチルジエタノールアミン(pKa=8.5)、トリエタノールアミン(pKa=7.8)、1-アミノ-2-プロパノール(pKa=9.4)、ジイソプロパノールアミン(pKa=9.0)、トリイソプロパノールアミン(pKa=8.0)、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(pKa=8.1)、イミダゾール(pKa=7.0)、及びアニリン(pKa=4.6)が挙げられる。上記の中でも、水性媒体に対する溶解度が高い点、及び、人体に対する安全性の点等から、アルカノールアミンを用いることが好ましく、pKa値の小さいトリエタノールアミンを含むことが特に好ましい。なお上記の化合物は1種のみ使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0130】
pH調整剤の配合量は、インキ全量に対し0.1~5質量%であることが好ましく、0.2~3質量%であることがより好ましく、0.25~2質量%であることが更に好ましく、0.3~1.5質量%であることが特に好ましい。
【0131】
<その他成分>
またマゼンタインキには、上述した成分の他に、所望の物性値を持つインキとするために、防腐剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤などの添加剤を必要に応じて適宜に添加することができる。これらの添加剤の添加量は、インキの全質量に対して、0.01~5質量%が好適である。一方でマゼンタインキは、重合性単量体を実質的に含まないことが好ましい。
【0132】
<インキの製造方法>
上述した成分を含むマゼンタインキは、従来既知の方法によって製造できる。特に、分散安定性及び吐出安定性に優れたインキが得られる点から、β-ナフトール系アゾ顔料を含む顔料分散液をあらかじめ製造したのち、当該顔料分散液、水溶性有機溶剤、樹脂粒子、及び、必要に応じて界面活性剤等の成分を混合する、という製造方法が好適に選択される。以下にβ-ナフトール系アゾ顔料を1種含むマゼンタインキの製造方法の例を説明するが、上記の通り、製造方法は以下に限定されるものではない。また、β-ナフトール系アゾ顔料を2種以上含むマゼンタインキを製造する方法の概要は上述した通りであるが、例えば、好ましい分散条件、構成材料との混合方法、粗大粒子の除去方法等の詳細に関しては、下記内容に準じるものとする。
【0133】
(1)顔料分散液の製造
(1-1)水溶性樹脂である顔料分散樹脂を用いて分散処理する方法
顔料分散樹脂として水溶性樹脂を用いる場合、上記顔料分散樹脂と水と、必要に応じて水溶性有機溶剤とを混合及び攪拌し、顔料分散樹脂水溶液を作製する。前記顔料分散樹脂水溶液に、β-ナフトール系アゾ顔料、及び、必要に応じて、追加の水、追加の水溶性有機溶剤を添加し、混合及び攪拌(プレミキシング)した後、分散機を用いて分散処理を行う。その後、必要に応じて遠心分離、濾過、固形分の調整を行い、顔料分散液を得る。
【0134】
(1-2)非水溶性樹脂である顔料分散樹脂を用いて分散処理する方法
また、非水溶性樹脂である顔料分散樹脂により被覆された、β-ナフトール系アゾ顔料の分散液を製造する場合、あらかじめ、メチルエチルケトン等の樹脂溶解用有機溶媒に顔料分散樹脂を溶解させ、必要に応じて上記顔料分散樹脂を中和した、顔料分散樹脂溶液を作製する。上記顔料分散樹脂溶液に、β-ナフトール系アゾ顔料と、水と、必要に応じて水溶性有機溶剤、追加の樹脂溶解用有機溶媒を添加し、混合及び攪拌(プレミキシング)した後、分散機を用いて分散処理を行う。その後、減圧蒸留により上記樹脂溶解用有機溶媒を留去し、必要に応じて、遠心分離、濾過、固形分の調整を行い、顔料分散液を得る。
【0135】
上記方法(1-1)及び(1-2)において、顔料の分散処理の際に使用される分散機は、一般に使用される分散機ならいかなるものでもよいが、例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ビーズミル及びナノマイザーなどが挙げられる。上記の中でもビーズミルが好ましく使用され、具体的にはスーパーミル、サンドグラインダー、アジテータミル、グレンミル、ダイノーミル、パールミル及びコボルミルなどの商品名で市販されている分散機が使用できる。
【0136】
上記方法(1-1)及び(1-2)において、β-ナフトール系アゾ顔料の平均二次粒子径を制御する方法として、上述した分散機で使用する粉砕メディアのサイズを調整すること、前記粉砕メディアの材質を変更すること、前記粉砕メディアの充填率を大きくすること、攪拌部材(アジテータ)の形状を変更すること、分散処理時間を長くすること、分散処理後濾過や遠心分離等で分級すること、及びこれらの手法の組み合わせが挙げられる。β-ナフトール系アゾ顔料を好適な平均二次粒子径範囲に収めるためには、上記分散機の粉砕メディアの直径を0.1~3mmとすることが好ましい。また粉砕メディアの材質として、ガラス、ジルコン、ジルコニア、チタニアが好ましく用いられる。
【0137】
(1-3)顔料分散樹脂を用いて摩砕混練処理する方法
更に本発明では、以下に示す、摩砕混練処理による方法も好適に利用できる。β-ナフトール系アゾ顔料、顔料分散樹脂、有機溶剤、及び無機塩を、混練機により混練したのち、得られた混合物に水を添加し、混合及び攪拌する。そして、遠心分離、濾過、洗浄によって、無機塩、及び、必要に応じて有機溶剤を除去し、更に固形分の調整を行い、顔料分散液を得る。
【0138】
上記方法(1-3)において使用される混練機は、一般に使用される分散機ならいかなるものでもよいが、高粘度の混合物が混練でき、微細な顔料を含む顔料分散液となることで、画像品質、発色性、及び色再現性に優れる印刷物が得られる点から、ニーダーまたはトリミックスが好ましく使用される。なお、混練時の温度を調整することで、得られる顔料分散液の平均二次粒子径を制御することができる。
【0139】
また前記無機塩としては、塩化ナトリウム、塩化バリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等が好適に使用できる。
【0140】
(2)構成材料の混合
上記で得られた顔料分散液に、樹脂粒子、水溶性有機溶剤、水、及び必要に応じて上記で挙げた界面活性剤、pH調整剤、及びその他成分を加え、混合及び攪拌する。なお、必要に応じて前記混合物を40~100℃の範囲で加熱しながら混合及び攪拌してもよい。
【0141】
(3)粗大粒子の除去
上記混合物に含まれる粗大粒子を、濾過、遠心分離などの手法により除去し、マゼンタインキとする。濾過分離の方法としては、既知の方法を適宜用いることができるが、フィルターを使用する場合、その開孔径は、好ましくは0.3~5μm、より好ましくは0.5~3μmである。また濾過を行う際は、フィルターは単独種を用いても、複数種を併用してもよい。
【0142】
<マゼンタインキの物性>
本発明のインキセットを構成するマゼンタインキは、25℃における粘度を3~20mPa・sに調整することが好ましい。この粘度領域であれば、4~10KHzの周波数を有するインクジェットヘッドだけではなく、10~70KHzの高周波数のインクジェットヘッドにおいても、安定した吐出特性を示す。特に、25℃における粘度を4~10mPa・sとすることで、600dpi以上の設計解像度を有するインクジェットヘッドで用いても、安定的に吐出させることができる。なお、上記粘度はコーンプレート型粘度計により測定することができる。具体的にはE型粘度計(東機産業社製TVE25L型粘度計)を用い、インキ1mLを使用して測定することができる。
【0143】
また、安定的に吐出できるとともに、画像品質に優れた印刷物が得られる点から、マゼンタインキは、25℃における静的表面張力が18~35mN/mであることが好ましく、20~32mN/mであることが特に好ましい。なお、静的表面張力は25℃の環境下において、Wilhelmy法により測定された表面張力を指す。具体的には協和界面科学社製CBVP-Zを用い、白金プレートを使用して測定できる。
【0144】
更に、記録媒体に着弾した後、速やかに記録媒体上で濡れ広がることで優れた画像品質を有する印刷物が得られるという観点、及び、メンテナンス液と組み合わせた際の固化・析出成分の除去性に優れるという観点から、マゼンタインキは、最大泡圧法による、10ミリ秒における動的表面張力が26~40mN/mであることが好ましく、より好ましくは28~36mN/mであり、特に好ましくは30~36mN/mである。なお、本明細書における動的表面張力は、Kruss社製バブルプレッシャー動的表面張力計BP100を用いて、25℃環境下で測定した値である。
【0145】
マゼンタインキのpHは7~13であることが好ましい。pHが7以上、すなわち中性~アルカリ性であれば、メンテナンス液とインキを混合した際に、β-ナフトール系アゾ顔料及び樹脂粒子が凝集することなく、混合安定性に優れたインキセットとなる。また、インクジェット記録装置の金属部材が腐食することもない。一方、pHが13以下であれば、インクジェットヘッド部材(例えば撥液面)が劣化することがなく、また、マゼンタインキとメンテナンス液の混合安定性にも悪影響を及ぼすことがない。
【0146】
<<メンテナンス液>>
続いて、メンテナンス液の構成成分について説明する。上述した通り、本発明のインキセットを構成するメンテナンス液は、水と、上記一般式1~5のいずれかの構造を有する有機化合物とを含有する。
【0147】
またメンテナンス液は、上記以外の成分として、有機溶剤、樹脂、界面活性剤、その他成分(例えば、pH調整剤、防腐剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤等)を含んでいてもよい。中でも、マゼンタインキと組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、当該マゼンタインキとの混合安定性、並びに、メンテナンス液の保湿性の観点から、有機溶剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましく、有機溶剤及び/または界面活性剤を含むことが特に好ましい。
【0148】
<水>
本発明のメンテナンス液に含まれる水は、上述したマゼンタインキの場合と同様、イオン交換水であることが好ましい。またその含有量は、メンテナンス液全質量中50~99.9質量%の範囲であることが好ましく、70~99.5質量%の範囲であることが更に好ましく、80~99質量%の範囲であることが特に好ましい。
【0149】
<一般式1の構造を有する有機化合物>
本発明のメンテナンス液は、上記一般式1~5のいずれかの構造を有する有機化合物を含む。なお、一般式1~5のいずれかの構造を有する有機化合物を2種以上含んでもよいし、互いに一般式が異なる有機化合物を複数含んでもよい。
【0150】
一般式1の構造を有する有機化合物として、上述した2価アルコール系溶剤、及び、アルカノールアミン類(pH調整剤)を使用してもよいし、3価以上のアルコール系溶剤(ポリオール系溶剤)を使用してもよい。中でも、マゼンタインキと組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに、当該マゼンタインキとの混合安定性の観点から、2価アルコール系溶剤または3価以上のアルコール系溶剤と、アルカノールアミン類とを併用することが特に好ましい。
【0151】
一般式1で表される化合物を例示すると、
2価アルコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、2,3-ブタンジオール、2,3-ペンタンジオール、2,3-ヘキサンジオール、2,3-ヘプタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,2-ブタンジオール、2-メチル-1,2-ペンタンジオール、2-メチル-1,2-ヘキサンジオール、2-メチル-2,3-ブタンジオール、3-メチル-2,3-ペンタンジオール、3-メチル-2,3-ヘキサンジオール等が、
3価以上のアルコール系溶剤として、グリセリン、1,2,3-ブタントリオール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、2,3,5-ペンタントリオール、2,3,6-ヘキサントリオール、2-メチル-1,2,3-プロパントリオール、2-メチル-1,2,3-ブタントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、2-メチル-1,2,5-ペンタントリオール、2-メチル-1,2,6-ヘキサントリオール、3-メチル-2,3,5-ペンタントリオール、3-メチル-2,3,6-ヘキサントリオール等が、
アルカノールアミン類として、2-アミノエタノール、2-アミノプロパノール、2-アミノブタノール、2-アミノペンタノール、2-アミノヘキサノール、2-メチルアミノエタノール、2-(N-メチルアミノ)プロパノール、2-(N-メチルアミノ)ブタノール、2-(N-メチルアミノ)ペンタノール、2-(N-メチルアミノ)ヘキサノール、2-(N-エチルアミノ)プロパノール、2-(N-エチルアミノ)ブタノール、2-(N-エチルアミノ)ペンタノール、2-(N-エチルアミノ)ヘキサノール、2-(N-ブチルアミノ)プロパノール、2-(N-ブチルアミノ)ブタノール、2-(N-ブチルアミノ)ペンタノール、2-(N-ブチルアミノ)ヘキサノール、N,N-ジメチルアミノエタノール、N-エチル-N-メチルアミノエタノール、N,N-ジエチルアミノエタノール、N-メチル-N-プロピルアミノエタノール、N,N-ジブチルアミノエタノール、N-ブチル-N-メチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノプロパノール、2-ジメチルアミノブタノール、2-ジメチルアミノペンタノール、2-ジメチルアミノヘキサノール、2-ジメチルアミノ-2-メチルプロパノール、2-ジメチルアミノ-2-メチルブタノール、2-ジメチルアミノ-2-メチルペンタノール、2-ジメチルアミノ-2-メチルヘキサノール、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、1-[ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-2-プロパノール、1-[ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-1,2-プロパンジオール等が、
それぞれ挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの化合物は単独で使用してもよいし、複数を混合して使用してもよい。
【0152】
上記例示した化合物の中でも、マゼンタインキと組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに、メンテナンス液の保湿性の観点から、水酸基を2個以上有する化合物を選択することが好ましく、水酸基を3個以上有する化合物を含むことがより好ましい。水酸基を3個以上有する化合物のうち、特に好適に使用できるものとして、グリセリン、1,2,4-ブタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。
【0153】
なお、水酸基を2個以上有する化合物の含有量は、一般式1の構造を有する有機化合物全量中、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。
【0154】
また、一般式1の構造を有する有機化合物の配合量は、マゼンタインキと組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、当該マゼンタインキとの混合安定性、並びに、メンテナンス液の保湿性の観点から、当該メンテナンス液全量中0.1~40質量%であることが好ましく、0.1~30質量%であることがより好ましい。
【0155】
特に、一般式1の構造を有する有機化合物が、2価アルコール系溶剤または3価以上のアルコール系溶剤である場合、上述した観点から、その配合量は、メンテナンス液全量中1~40質量%であることが好ましく、3~35質量%であることがより好ましく、5~30質量%であることが特に好ましい。
【0156】
また、一般式1の構造を有する有機化合物が、アルカノールアミン類である場合、上述した観点から、その配合量は、メンテナンス液全量中0.15~5質量%であることが好ましく、0.2~3質量%であることがより好ましく、0.25~1.5質量%であることが特に好ましい。
【0157】
1気圧下における、上記一般式1の構造を有する有機化合物の沸点は、メンテナンス液の保湿性の点から、100~360℃であることが好ましく、120~350℃であることがより好ましく、150~340℃であることが更に好ましい。
【0158】
<一般式2の構造を有する有機化合物>
一般式2の構造を有する有機化合物として、上述したグリコールモノアルキルエーテル系溶剤である、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの化合物は単独で使用してもよいし、複数を混合して使用してもよい。
【0159】
上記例示した化合物の中でも、マゼンタインキ中に含まれるβ-ナフトール系アゾ顔料との間の相互作用が強まる観点から、エチレンオキサイド基を有する、すなわち、一般式2におけるR4が水素原子(-H)であることが好ましい。また同様の理由により、上記エチレンオキサイド基を複数有する、すなわち、一般式2におけるpaが2~4であることが特に好ましい。
【0160】
また、一般式2の構造を有する有機化合物の配合量は、マゼンタインキと組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに、当該マゼンタインキとの混合安定性の観点から、メンテナンス液全量中1~30質量%であることが好ましく、3~25質量%であることがより好ましく、5~20質量%であることが特に好ましい。
【0161】
更に、1気圧下における、一般式2の構造を有する有機化合物の沸点は、メンテナンス液の保湿性の点から、100~350℃であることが好ましく、120~320℃であることがより好ましく、150~300℃であることが更に好ましい。
【0162】
一方、メンテナンス液に含まれる、一般式1及び/または2の構造を有する有機化合物の、1気圧下における沸点(一般式1及び/または2の構造を有する有機化合物を2種以上含む場合は、沸点の加重平均値)は、200~350℃であることが好ましく、240~350℃であることが特に好ましい。沸点(の加重平均値)が上記条件を満たすことで、メンテナンス液の保湿性が向上するとともに、マゼンタインキとの混合安定性も良化する。
【0163】
<一般式3の構造を有する有機化合物>
詳細な理由は不明ながら、マゼンタインキと組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに、当該マゼンタインキとの混合安定性の観点から、一般式3におけるpbは5~50の整数であることが好ましく、qbは8~18の整数であることが好ましい。
【0164】
また、一般式3の構造を有する有機化合物の配合量は、マゼンタインキと組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに、当該マゼンタインキとの混合安定性の観点から、メンテナンス液全量中0.1~10質量%であることが好ましく、メンテナンス液全量中0.2~5質量%であることが好ましく、0.3~3質量%であることがより好ましく、0.5~2質量%であることが特に好ましい。
【0165】
更に、マゼンタインキと組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに、当該マゼンタインキとの混合安定性の点より、一般式3の構造を有する有機化合物のHLB値は、4~16であることが好ましく、6~12であることが特に好ましい。
【0166】
<一般式4の構造を有する有機化合物>
上記一般式3の構造を有する有機化合物の場合と同様の理由及び観点から、一般式4におけるpcは2~20の整数であることが好ましく、2~15の整数であることがより好ましい。更に、qcは12~18の整数であることが好ましい。
【0167】
また、一般式4の構造を有する有機化合物の配合量は、マゼンタインキと組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに、当該マゼンタインキとの混合安定性の観点から、メンテナンス液全量中0.1~10質量%であることが好ましく、メンテナンス液全量中0.2~5質量%であることが好ましく、0.3~3質量%であることがより好ましく、0.5~2質量%であることが特に好ましい。
【0168】
更に、マゼンタインキと組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに、当該マゼンタインキとの混合安定性の点より、一般式4の構造を有する有機化合物のHLB値は、4~13であることが好ましく、6~11であることが特に好ましい。
【0169】
<一般式5の構造を有する有機化合物>
上記一般式3及び4の構造を有する有機化合物の場合と同様の理由及び観点から、一般式5におけるpdとpeの和(pd+pe)は3~30であることが好ましく、3~10であることがより好ましい。更に、R9及びR11は、ともにイソブチル基であるか、ともにイソペンチル基であることが好ましい。
【0170】
また、一般式5の構造を有する有機化合物の配合量は、マゼンタインキと組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに、当該マゼンタインキとの混合安定性の観点から、メンテナンス液全量中0.1~10質量%であることが好ましく、メンテナンス液全量中0.2~5質量%であることが好ましく、0.3~3質量%であることがより好ましく、0.5~2質量%であることが特に好ましい。
【0171】
更に、マゼンタインキと組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに、当該マゼンタインキとの混合安定性の点より、一般式5の構造を有する有機化合物のHLB値は、4~14であることが好ましく、6~11であることが特に好ましい。
【0172】
<一般式1~5の構造を有する有機化合物のSP値>
【0173】
マゼンタインキと組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに、当該マゼンタインキとの混合安定性の観点から、一般式1~5の構造を有する有機化合物のSP値(溶解度パラメータ)は、9~17であることが好ましい。SP値とは化合物の溶解性を表すパラメータであり、上記範囲内のSP値を有する有機化合物を使用することにより、マゼンタインキに含まれる樹脂粒子に対する溶解性が向上し、流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性が良化する。また、マゼンタインキとメンテナンス液とが混合した際、当該マゼンタインキ中のβ-ナフトール系アゾ顔料の分散状態を破壊しにくくなるため、混合安定性も向上する。なお、上記効果が更に向上する観点から、一般式1の構造を有する有機化合物の場合、SP値は12~17であることがより好ましく、13.5~16.5であることが特に好ましい。また一般式2~5の構造を有する有機化合物の場合、SP値は9.5~15であることがより好ましく、10~13であることが特に好ましい。
【0174】
なお、メンテナンス液が、一般式1の構造を有する有機化合物を2種以上含む場合、上記の一般式1の構造を有する有機化合物の好ましいSP値における「SP値」を「SP値の加重平均値」に読み替えるものとする。また同様に、メンテナンス液が、一般式2~5の構造を有する有機化合物を2種以上含む場合、上記「SP値」を「SP値の加重平均値」に読み替えるものとする。
【0175】
更に、メンテナンス液に含まれる、一般式1~5の構造を有する有機化合物のSP値(一般式1~5の構造を有する有機化合物を2種以上含む場合は、SP値の加重平均値)と、併用されるマゼンタインキに含まれる、樹脂粒子のSP値(樹脂粒子を2種以上含む場合は、SP値の加重平均値)との差は1以上であることが好ましく、3以上であることが特に好ましい。SP値(の加重平均値)が上記条件を満たすことで、マゼンタインキに含まれる樹脂粒子に対する溶解性が向上し、流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性が良化する。
【0176】
なお、2種以上の重合性単量体からなる樹脂のSP値は、各重合性単量体のホモポリマーのSP値を、その構成質量比率に基づいて加重平均した値である。
【0177】
更に、マゼンタインキと組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに、当該マゼンタインキとの混合安定性の観点から、一般式1及び/または2の構造を有する有機化合物のうち、SP値が13以上である有機化合物の含有量が、当該一般式1及び/または2の構造を有する有機化合物の全量中30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。
【0178】
また同様の観点から、一般式1及び/または2の構造を有する有機化合物のうち、SP値が14以上である有機化合物の含有量が、当該一般式1及び/または2の構造を有する有機化合物の全量中3質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることが特に好ましい。
【0179】
なお本明細書では、SP値として、Fedorの計算方法により求められる値を使用する。FedorによるSP値の計算方法は、R.F.Fedor;Polymer Engineering Science、14(2)147-154(1974)に記載されている。
【0180】
<その他有機溶剤>
本発明のインキセットを構成するメンテナンス液は、上記一般式1~5の構造を有さない有機溶剤(本明細書では「その他有機溶剤」と呼ぶ)を含んでもよい。
【0181】
その他有機溶剤として、マゼンタインキに使用できる水溶性有機溶剤として上記列挙した1価アルコール系溶剤に加え、カルボン酸エステル系溶剤、環状アミド系溶剤、環状エステル系溶剤等が使用できる。
【0182】
なお、メンテナンス液の保湿性、マゼンタインキと組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに、当該マゼンタインキとの混合安定性の全てを同時に向上させる観点から、上記一般式1及び/または2の構造を有する有機化合物の配合量、並びに、その他有機溶剤の配合量の総量が、メンテナンス液全量中5~50質量%であることが好ましく、15~50質量%であることがより好ましく、30~50質量%であることが特に好ましい。
【0183】
<その他界面活性剤>
本発明のインキセットを構成するメンテナンス液は、上記一般式1~5の構造を有さない界面活性剤(本明細書では「その他界面活性剤」と呼ぶ)を含んでもよい。
【0184】
その他界面活性剤は、一般式1~5で表される構造を有さないため、水との親和性が小さく、界面に配向しやすい。その結果、メンテナンス液の表面張力が大きく低下し、インクジェット記録装置の流路内壁に対する濡れ性が向上することで、流路洗浄性が向上する。また、マゼンタインキに含まれる樹脂粒子の固化物、及び、β-ナフトール系アゾ顔料の凝集物及び析出物に対して、メンテナンス液が浸透しやすくなり、固化・析出成分の除去性が向上する。更には、メンテナンス液の消泡性も向上する。
【0185】
界面活性剤として、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等が存在するが、その他界面活性剤としていずれを使用してもよい。
【0186】
その中でも、マゼンタインキと組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに、当該マゼンタインキとの混合安定性の点から、アニオン系界面活性剤、及び/または、ノニオン性界面活性剤を使用することが好ましく、ノニオン性界面活性剤を使用することがより好ましい。
更に、メンテナンス液の消泡性、及び、マゼンタインキとの混合安定性の点から、ノニオン性界面活性剤のなかでも、アセチレンジオール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、シロキサン系界面活性剤からなる群から選択される1種以上が好ましく選択される。
【0187】
なお、マゼンタインキと組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに、当該マゼンタインキとの混合安定性の点より、その他界面活性剤としてノニオン系界面活性剤を使用する場合、そのHLB値は、0~15であることが好ましく、0~13であることがより好ましく、0~8であることが特に好ましい。
【0188】
またその他界面活性剤の含有量は、マゼンタインキと組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに、当該マゼンタインキとの混合安定性の点から、メンテナンス液全質量中0.001~5質量%であることが好ましく、0.01~3質量%であることがより好ましく、0.01~1.5質量%であることが特に好ましい。
【0189】
<メンテナンス液に含まれる樹脂>
メンテナンス液は、樹脂を含むことができる。当該樹脂として、非水溶性樹脂及び水溶性樹脂のどちらを使用してもよく、併用してもよい。中でも、マゼンタインキとの混合安定性の点から、水溶性樹脂を含むことが好ましい。更に、マゼンタインキと組み合わせた際の固化・析出成分の除去性、及び、当該マゼンタインキとの混合安定性の点から、マゼンタインキ中に含まれる樹脂と同種の樹脂であることが好ましい。例えば、マゼンタインキが、顔料分散樹脂としてアクリル系樹脂を含み、かつ、樹脂粒子としてオレフィン系樹脂を含む場合、併用されるメンテナンス液は、アクリル系樹脂及び/またはオレフィン系樹脂を含むことが好適である。
【0190】
樹脂の含有量は、メンテナンス液全量中10質量%以下(0%であってもよい)であることが好ましく、5質量%以下(0%であってもよい)がより好ましく、3質量%以下(0%であってもよい)であることが特に好ましい。
【0191】
<メンテナンス液に含まれるpH調整剤>
メンテナンス液は、pH調整剤として、上述したマゼンタインキで使用できる化合物が好ましく使用できる。
【0192】
<メンテナンス液のpH>
またメンテナンス液のpHは、7~13の範囲であることが好ましい。pHが7以上、すなわち中性~アルカリ性であれば、メンテナンス液とマゼンタインキとを混合した際に、β-ナフトール系アゾ顔料が凝集することがなく、混合安定性に優れたインキセットとなる。また、インクジェット記録装置の金属部材を腐食することもない。一方、pHが13以下であれば、インクジェットヘッド部材(例えば撥液面)が劣化することがなく、また、マゼンタインキとの混合安定性にも悪影響を及ぼすことがない。なお、詳細な理由は不明であるが、メンテナンス液が弱アルカリ性であると、マゼンタインキ中に含まれる樹脂の溶解性が増し、固化・析出成分の除去性が向上する。この観点から、メンテナンス液におけるより好ましいpH領域は8~11の範囲であり、更に好ましくは8.5~10の範囲である。
【0193】
更に、マゼンタインキと組み合わせた際の流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性、並びに、当該マゼンタインキとの混合安定性の観点から、マゼンタインキのpHとメンテナンス液のpHとの差は、0~3であることが好ましく、0~2であることがより好ましく、0~1.5であることが特に好ましい。
【0194】
<メンテナンス液の製造方法>
本発明のインキセットを構成するメンテナンス液の製造方法として、例えば下記の方法が挙げられるが、当該メンテナンス液の製造方法は、この方法に限定されるものではない。始めに、水と、一般式1~5のいずれかの構造を有する有機化合物と、必要に応じてその他有機溶剤とを添加し、混合及び攪拌する。次に、必要に応じて、その他界面活性剤、pH調整剤等を添加し、混合及び攪拌した後、濾過を行い、メンテナンス液とする。
【0195】
<インキセットの使用方法>
本発明のインキセットは、インクジェット記録装置を用いた印刷及びメンテナンスに使用される。また上記インキセットを構成するメンテナンス液は、上述した、洗浄液、充填液、保湿液のいずれとしても、好適に使用することができる。
【0196】
一般に、インクジェット記録装置を用いた印刷は、大きく2種類に分類される。一方は、インクジェットヘッドがインキを吐出しながら記録媒体上を往復する「シャトルスキャンタイプ」であり、もう一方は、インキを吐出するインクジェットヘッドの位置が固定され、記録媒体が前記インクジェットヘッドの下部を通過する際に当該インキが吐出される「ラインパスタイプ」である。
【0197】
このうちラインパスタイプは、シャトルスキャンタイプと比較して高速印刷が可能であるが、前記シャトルスキャンタイプで行われる「捨て打ち」ができず、また装置設計上、印刷中に自動でワイピング操作を行う機構を搭載することが難しい。そのため、インクジェットヘッドにインキが付着しても、除去されることなく長期間経過してしまう恐れがある。加えて、印刷する画像によっては、インキが長時間吐出されないノズルが発生し、シャトルスキャンタイプのようにインクジェットヘッドを移動させて吐出ノズルを調整することもできないため、1つの前記インクジェットヘッド内でノズル使用状況に差が出やすい。
【0198】
本発明のインキセットは、上述したように、流路洗浄性及び固化・析出成分の除去性に優れることから、メンテナンスの難しいラインパスタイプのインクジェット記録装置に対しても、好適に使用できる。
【0199】
<記録媒体>
本発明のインキセットを用いて印刷を行うにあたり、従来既知の記録媒体を任意に使用できる。中でも、本発明のインキセットを構成するマゼンタインキは、印刷物の耐擦過性にも優れることから、インキの浸透が起こりにくい、難吸収性基材または非吸収性基材に対して好適に使用できる。前記難吸収性基材または非吸収性基材の例として、コート紙、アート紙、キャスト紙のような塗工紙基材、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、ポリスチレンの様なプラスチック基材、アルミニウム、鉄、ステンレスの様な金属基材、ガラス基材等が挙げられる。
【実施例】
【0200】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、以下の記載において、「部」、「%」及び「比率」とあるものは特に断らない限り質量基準である。
【0201】
<ナフトール系混晶顔料の製造例>
ベース成分として、3-アミノ-4-メトキシベンズアニリド23.4部を水364.4部に添加し、よく攪拌して懸濁液を調製したのち、氷を加えて液温を5℃に調整した。次いで、当該懸濁液に35%塩酸39.7部を添加し、1時間攪拌した。その後、亜硝酸ナトリウム7.1部を水22部に溶解させた水溶液を添加し、1時間攪拌することにより、ジアゾ化を行った。次いで、反応混合物にスルファミン酸1部を加え、亜硝酸を消失させたのち、酢酸ナトリウム20.7部、酢酸1.8部、水165部からなる水溶液を添加し、ジアゾニウム水溶液とした。
【0202】
一方、カップラー成分として、3-ヒドロキシ-2-ナフトアミド6.0部及びN-(5-クロロ-2-メトキシフェニル)-3-ヒドロキシ-2-ナフトアミド14.0部を、25%水酸化ナトリウム水溶液31.8部及び水414部に添加し、よく攪拌して完全に溶解させることで、カップラー水溶液を調製した。
【0203】
そして、上記で調製したジアゾニウム水溶液にカップラー水溶液を加え、1時間攪拌して反応を完結させた後、混合物スラリーを70℃に加熱処理し、更に濾過、水洗することにより、ナフトール系混晶顔料である、顔料組成物のプレスケーキを得た。更にこのプレスケーキを、90℃、18時間の条件下で乾燥した後、粉砕することで、ナフトール系混晶顔料を得た。なおナフトール系混晶顔料中、42.9mol%のC.I.ピグメントレッド150が存在している。また、パナリティカル社製X線回折装置 (X‘Pert PRO MRD)を使用したX線回折分析により、ナフトール系混晶顔料が混晶であることを確認した。
【0204】
<顔料分散液1~8の製造例>
攪拌器を備えた混合容器に、C.I.ピグメントレッド150(東京色材社製「Toshiki Red 150TR」)15部と、顔料分散樹脂(スチレン/アクリル酸/ラウリルメタクリレート=35/30/35の質量比で重合させた水溶性樹脂、重量平均分子量16,000、酸価230)の水性化溶液(固形分30%)15部と、水70部とを、順次投入したのち、プレミキシングを行った。その後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した、容積0.6Lのダイノーミルを用いて本分散を行うことで、顔料分散液1(顔料濃度15%、固形分19.5%)を得た。
【0205】
なお本明細書における「水性化溶液」とは、水性媒体と、当該水性媒体に分散及び/または溶解した成分とを含む溶液を意味する。
【0206】
また、使用した顔料を下記記載したものに変えた以外は、上記顔料分散液1と同様の材料及び方法を用いて、顔料分散液2~8を製造した。なお、顔料分散液7で使用したC.I.ピグメントレッド122、並びに、顔料分散液8で使用したC.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド 202との混晶顔料は、ともにキナクリドン系顔料であり、β-ナフトール系アゾ顔料ではない。
・顔料分散液2: C.I.ピグメントレッド146(クラリアント社製「Perma nent Pink FBB02」)
・顔料分散液3: C.I.ピグメントレッド147(クラリアント社製「Perma nent Pink F3B」)
・顔料分散液4: C.I.ピグメントレッド184(クラリアント社製「Perma nent Rubine F6B」)
・顔料分散液5: C.I.ピグメントレッド269(東京色材社製「Toshiki Red 269N」)
・顔料分散液6: C.I.ピグメントレッド150とC.I.ピグメントレッド26 9の混晶顔料(上記で製造したナフトール系混晶顔料)
・顔料分散液7: C.I.ピグメントレッド122(クラリアント社製「Ink J et Magenta E-S」)
・顔料分散液8: C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド 202との混晶顔料(BASF社製「CINQUASIA Magenta D4500 J」)
【0207】
<樹脂粒子1~3(スチレン(メタ)アクリル樹脂粒子)の製造例>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、水40部、及び、界面活性剤としてアクアロンKH-10(第一工業製薬製)0.2部を仕込み、界面活性剤水溶液を作製した。また別の混合容器に、重合性単量体としてスチレン25部、メタクリル酸3部、メチルメタクリレート62部、ブチルアクリレート10部、界面活性剤としてアクアロンKH-10を1.8部、及び、水51.2部を投入し、よく混合してエマルジョン前駆体を作製した。
【0208】
作製したエマルジョン前駆体のうちの1.5部を、界面活性剤水溶液を含む反応容器に添加し、よく混合した。次いで、前記反応容器内を60℃に昇温し、窒素ガスで置換した後、過硫酸カリウム5%水溶液1部と、無水重亜硫酸ナトリウム1%水溶液0.2部とを添加し、反応容器内を60℃に保持したまま、重合反応を開始した。60℃で5分間反応させた後、上記エマルジョン前駆体の残分(151.5部)、過硫酸カリウム5%水溶液9部、及び、無水重亜硫酸ナトリウム1%水溶液1.8部を、1.5時間かけて滴下し、更に2時間反応を継続した。その後、反応系を30℃まで冷却したのち、ジエチルアミノエタノールを添加して混合溶液のpHを8.5とし、更に水を用いて固形分が40%になるように調整することで、スチレン(メタ)アクリル樹脂粒子である、樹脂粒子1の水分散液(固形分40%)を得た。
【0209】
また、重合性単量体を表1記載のように変更した以外は、上記樹脂粒子1と同様の操作によって、スチレン(メタ)アクリル樹脂粒子である、樹脂粒子2~3の水分散液(固形分40%)を得た。
【0210】
<樹脂粒子4~5(シロキサン鎖構造を有する(スチレン)(メタ)アクリル系樹脂)の製造例>
重合性単量体を表1記載のように変更した以外は、上記樹脂粒子1と同様の操作によって、シロキサン鎖構造を有するスチレン(メタ)アクリル系樹脂である樹脂粒子4の水分散液、及び、シロキサン鎖構造を有する(メタ)アクリル系樹脂である樹脂粒子5の水分散液(どちらも固形分40%)を得た。
【0211】
【0212】
なお表1には、樹脂粒子1~5の酸価、ガラス転移温度、SP値も記載した。また、表1に記載された重合性単量体の略称は、以下の通りである。
・St:スチレン
・MAA:メタクリル酸
・MMA:メチルメタクリレート
・BA:ブチルアクリレート
・StMA:ステアリルメタクリレート
・PME-400:メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレンオキ サイド基数9)
・DiMSiMA:下記式8で表される、ポリジメチルシロキサンメタクリレート
【0213】
【0214】
<樹脂粒子6~7(ウレタン樹脂粒子)の製造例>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、メチルエチルケトン150部、及び、重合性単量体として1,6-ヘキサンジオールを主骨格としたポリカーボネートジオール(分子量2,000)69部、イソホロンジイソシアネート11.8部、ヘキサメチレンジイソシアネート9部、ジメチロールプロピオン酸8.3部を仕込み、窒素ガスで置換したのち、反応容器内を80℃に加熱し、6時間重合反応を行った。次いで、更にトリメチロールプロパン1.9部を添加し、80℃で反応を継続した。その後、反応系を室温まで冷却した後、水を添加し、更に水酸化カリウム水溶液を攪拌しながら添加し、中和した。そして、減圧下で混合溶液を加熱してメチルエチルケトンを留去したのち、水を用いて固形分が40%になるように調整することで、ウレタン樹脂粒子である、樹脂粒子6の水分散液(固形分40%)を得た。なお、上記に記載した方法で測定した、樹脂粒子6の酸価は37、SP値は12.9であった。
【0215】
また、ヘキサメチレンジイソシアネート9部及びジメチロールプロピオン酸8.3部の代わりに、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート28部を使用した以外は、上記樹脂粒子9と同様の操作によって、ウレタン樹脂粒子である、樹脂粒子7の水分散液(固形分40%)を得た。なお、樹脂粒子7の酸価は37、SP値は11.5であった。
【0216】
<その他樹脂1~3((スチレン)(メタ)アクリル樹脂)の製造例>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、ブタノール93.4部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱し、重合性単量体としてメタクリル酸2部、メチルメタクリレート88部、ブチルメタクリレート10部、及び、重合開始剤としてV-601(和光純薬製)6部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、110℃で3時間反応させた後、V-601を0.6部添加し、更に110℃で1時間反応を継続した。その後、反応系を室温まで冷却した後、ジメチルアミノエタノールを2.2部添加して中和したのち、水を100部添加した。その後、混合溶液を100℃以上に加熱してブタノールを留去したのち、水を用いて固形分が40%になるように調整することで、その他樹脂1の水性化液(固形分40%)を得た。
【0217】
また、ブタノールに滴下した混合物の構成(重合性単量体の種類及び量、並びに、V-601の量)、110℃で3時間反応させた後に添加したV-601の量、並びに、中和に使用したジメチルアミノエタノール(DMAE)の量を、表2記載のように変更した以外は、上記その他樹脂1と同様の操作によって、(メタ)アクリル樹脂、または、スチレン(メタ)アクリル樹脂である、その他樹脂2~3の水性化液(固形分40%)を得た。
【0218】
【0219】
なお表2には、その他樹脂1~3の酸価及びガラス転移温度も記載した。また、その他樹脂1~3の平均粒子径を測定したところ、いずれも樹脂粒子には該当しないことを確認した。
【0220】
<マゼンタインキ1~49の製造例>
攪拌機で攪拌を行いながら、下記表3に記載した材料を混合容器へ投入し、それぞれが十分に均一になるまで攪拌した。その後、孔径1μmのメンブランフィルターで濾過を行い、マゼンタインキ1~49を得た。
【0221】
【0222】
【0223】
【0224】
なお、表3に記載された材料は、以下の通りである。
(樹脂粒子)
・AQ515:AQUACER 515(ビックケミー社製、ポリエチレン系ワック ス、固形分35%、融点135℃、平均粒子径36nm)
・P5300:ハイテック P5300(東邦化学工業社製、ポリプロピレン系ワッ クス、固形分30%、融点146℃、平均粒子径78nm)
(その他樹脂)
・J678:ジョンクリル678(BASF社製、(メタ)アクリル系水溶性樹脂)
(有機溶剤)
・MB:3-メトキシブタノール(沸点:161℃、SP値:10.9)
・PG:プロピレングリコール(沸点:188℃、SP値:13.5)
・1.2-BD:1.2-ブタンジオール(沸点:193℃、SP値:14.0)
・1.2-HexD:1.2-ヘキサンジオール(沸点:223℃、SP値:11. 8)
・グリセリン(沸点:290℃、SP値:16.4)
・iPDG:ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(沸点:207℃、S P値:10.6)
・BDG:ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃、SP値10. 5)
・ETG:トリエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点255℃、SP値10 .6)
(界面活性剤)
・サーフィノール104(日信化学工業社製ノニオン系界面活性剤、アセチレン系界 面活性剤、HLB値:3.0)
・サーフィノール465(日信化学工業社製ノニオン系界面活性剤、アセチレン系界 面活性剤、HLB値:13.0)
・TW280:TEGO Wet 280(エボニック社製ノニオン系界面活性剤、 シロキサン系界面活性剤、HLB値:3.5)
(pH調整剤)
・TEA:トリエタノールアミン(沸点:335℃、SP値13.7、pKa値:7 .8)
・DMAE:ジメチルアミノエタノール(沸点:163℃、SP値11.3、pKa 値:9.9)
(防腐剤)
・プロキセルGXL:アーチケミカルズ社製1,2-ベンゾイソチアゾール-3-オ ン溶液
【0225】
[実施例1~46、比較例1~3]
上記で作製したマゼンタインキを用いて、以下の評価1~2を行った。なお、評価結果は表4に示した通りであった。
【0226】
<評価1:マゼンタインキ印刷物の濃度の評価>
記録媒体を搬送できるコンベヤの上部にインクジェットヘッドKJ4B-QA(京セラ社製、設計解像度600dpi)を設置し、上記で製造したマゼンタインキをそれぞれ充填した後、ドロップボリューム12pLで、王子製紙社製OKトップコート+(コート紙、坪量104.7g/m2)上にベタ画像(印字率100%、インキ膜厚6μm相当)を印刷し、10秒以内に印刷物を70℃エアオーブンに投入した。1分間乾燥させた後に印刷物をオーブンから取り出し、分光濃度計(X-RITE社製eXact)を用いて光学濃度(OD値)の測定を行った。なお、光源はD50、視野角は2°、濃度ステータスはISO Status T、濃度白色基準は絶対値とした。評価基準は以下の通りとし、評価基準値2~4を実用可能領域とした。
4:OD値1.00以上
3:OD値0.95以上1.00未満
2:OD値0.90以上0.95未満
1:OD値0.90未満
【0227】
<評価2:マゼンタインキ印刷物の耐擦過性の評価>
評価1で使用したインクジェット記録装置に、上記で製造したマゼンタインキをそれぞれ充填した後、ドロップボリューム12pLで、王子製紙社製OKトップコート+(コート紙、坪量104.7g/m 2 )上にベタ画像(印字率100%、インキ膜厚6μm相当)を印刷し、10秒以内に印刷物を70℃エアオーブンに投入した。1分間乾燥させた後に印刷物をオーブンから取り出し、200gの加重をかけながら、試験用白綿布(カナキン3号)で所定回数擦り、インキが取れるかどうかを目視観察することで、耐擦過性を評価した。評価基準は以下の通りとし、評価基準値2~4を実用可能領域とした。
4:20回擦っても、印刷面の傷やインキの剥がれは見られなかった
3:10回擦っても、印刷面の傷やインキの剥がれは見られなかったが、20回擦ると 、印刷面の傷やインキの剥がれが見られた
2:5回擦っても、印刷面の傷やインキの剥がれは見られなかったが、10回擦ると、 印刷面の傷やインキの剥がれが見られた
1:5回擦ったところで、印刷面の傷やインキの剥がれが見られた。
【0228】
【0229】
<メンテナンス液1~58の製造例>
攪拌機で攪拌を行いながら、下記表5に記載した材料を混合容器へ投入し、それぞれが十分に均一になるまで攪拌した。その後、孔径1μmのメンブランフィルターで濾過を行い、メンテナンス液1~58を得た。
【0230】
【0231】
【0232】
【0233】
【0234】
なお、表5に記載された材料のうち、上記表3で使用していないものは、以下の通りである。
(一般式1の構造を有する有機化合物)
・1,2,4-BtOH:1,2,4-ブタントリオール(沸点:345℃、SP値 :15.2)
・1,2,6-HextOH:1,2,6-ヘキサントリオール(沸点:345℃、 SP値:13.7)
・2,3-BD:2,3-ブタンジオール(沸点:177℃、SP値:12.6)
・TiPrA:トリイソプロパノールアミン(沸点:318℃、SP値:12.2)
・DEA:ジエタノールアミン(沸点:217℃、SP値:13.4)
・DiPrA:ジイソプロパノールアミン(沸点:250℃、SP値:12.1)
・BuDEA:ブチルジエタノールアミン(沸点:275℃、SP値:11.3)
・DEAE:ジエチルアミノエタノール(沸点:163℃、SP値:10.7)
(一般式2の構造を有する有機化合物)
・MTeG:テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点:248℃、SP 値:10.8)
(一般式3の構造を有する有機化合物)
・エマルゲン350(花王社製ノニオン系界面活性剤、ポリオキシアルキレン系界面 活性剤、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、SP値:9.4、HLB値:1 7.8)
・エマルゲン306P(花王社製ノニオン系界面活性剤、ポリオキシアルキレン系界 面活性剤、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、SP値:9.4、HLB値: 9.4)
・エマルゲン150(花王社製ノニオン系界面活性剤、ポリオキシアルキレン系界面 活性剤、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、SP値:9.4、HLB値:18 .4)
・エマルゲン106(花王社製ノニオン系界面活性剤、ポリオキシアルキレン系界面 活性剤、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、SP値:9.6、HLB値:10 .5)
(一般式4の構造を有する有機化合物)
・ナイミーンO-205(日油社製ノニオン系界面活性剤、ポリオキシアルキレンア ルキルアミン系界面活性剤、ポリオキシエチレンオレイルアミン、SP値:9.8 、HLB値:9)
・ナイミーンS-210(日油社製ノニオン系界面活性剤、ポリオキシアルキレンア ルキルアミン系界面活性剤、ポリオキシエチレンステアリルアミン、SP値:9. 7、HLB値:12.5)
・ナイミーンL-207(日油社製ノニオン系界面活性剤、ポリオキシアルキレンア ルキルアミン系界面活性剤、ポリオキシエチレンラウリルアミン、SP値:9.9 、HLB値:12.5)
(一般式5の構造を有する有機化合物)
・サーフィノール485(日信化学工業社製ノニオン系界面活性剤、アセチレン系界 面活性剤、SP値:9.7、HLB値:17)
・サーフィノール440(日信化学工業社製ノニオン系界面活性剤、アセチレン系界 面活性剤、SP値:10.8、HLB値:8)
(その他有機溶剤)
・1.3-BD:1.3-ブタンジオール(沸点:207℃)
・1.6-HexD:1.6-ヘキサンジオール(沸点:250℃)
・TeEG:テトラエチレングリコール(沸点:328℃)
(その他界面活性剤)
・アセタミン24(花王社製カチオン系界面活性剤、アルキルアミン塩)
・エマール20T(花王社製アニオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエ ーテル硫酸エステル塩)
・ネオペレックスG-15(花王社製アニオン系界面活性剤、ドデシルベンゼンスル ホン酸ナトリウム)
・サーフィノールDF110D(日信化学工業社製ノニオン系界面活性剤、アセチレ ン系界面活性剤)
・サーフィノール104(日信化学工業社製ノニオン系界面活性剤、アセチレン系界 面活性剤)
・メガファックF-142D(DIC社製ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性 剤)
(pH調整剤)
・NaOHaq:1mol/l水酸化ナトリウム水溶液
【0235】
[実施例47~173、比較例4~10]
上記で作製したマゼンタインキ及びメンテナンス液を、表6記載のように組み合わせてインキセットとし、以下の評価3~6を行った。なお、評価結果は表6に示した通りであった。
【0236】
<評価3:マゼンタインキとメンテナンス液との混合安定性の評価>
表6記載のマゼンタインキとメンテナンス液との組み合わせをインキセットとして、当該マゼンタインキ10gと、当該メンテナンス液10gとを混合したのち、密閉容器に封入した。このような密閉容器を3個作製し、それぞれ、60℃、70℃、80℃の恒温槽内に静置した後、1カ月間保存した。そして保存後、凝集物の有無を目視で観察することで、混合安定性の評価を行った。評価基準は下記の通りとし、評価基準値2~4を実用可能領域とした。
4:いずれの保存温度品においても凝集物が見られなかった。
3:80℃で保存したものでは凝集物が見られたが、70℃以下で保存したものでは 凝集物が見られなかった。
2:70℃以上で保存したものでは凝集物が見られたが、60℃で保存したものでは 凝集物が見られなかった。
1:いずれの保存温度品においても凝集物が見られた。
【0237】
<評価4:メンテナンス液による流路洗浄性の評価>
サンゴバン社製TYGON(登録商標)2375耐薬チューブ(品番AKJ00007、内径1/8インチ)を、チューブ内容量が10mlになるような長さに切り取ったのち、シリンジを用いてマゼンタインキを20ml通液した。その後、マゼンタインキと同様に、チューブ内にメンテナンス液を所定量流し、チューブ内に残った液体の着色の有無を目視で観察することで、流路洗浄性の評価を行った。評価基準は下記の通りとし、評価基準値2~4を実用可能領域とした。
4:メンテナンス液を30ml流した後、チューブ内に残った液体は無色透明であっ た。
3:メンテナンス液を30ml流した後にチューブ内に残った液体は着色していたが 、40ml流した後にチューブ内に残った液体は無色透明であった。
2:メンテナンス液を40ml流した後にチューブ内に残った液体は着色していたが 、50ml流した後にチューブ内に残った液体は無色透明であった。
1:メンテナンス液を50ml流した後にチューブ内に残った液体が着色していた。
【0238】
<評価5:メンテナンス液による、固化成分の除去性の評価>
容量が30mlであるアルミ製小分け容器にマゼンタインキを0.3g加え、35℃エアオーブンで所定時間乾燥及び固化させた。なおいずれのマゼンタインキも、1時間乾燥後に指触した際、指先に未乾燥のマゼンタインキが付着することはなかった。その後、メンテナンス液を10g加えて1時間静置し、当該メンテナンス液を別の容器に移し替えた。そして、固化したマゼンタインキがメンテナンス液内に剥離または溶出したかを、小分け容器底面及び静置後のメンテナンス液を目視で観察することで、固化成分の除去性を評価した。評価基準は下記の通りであり、評価基準値2~4を実用可能領域とした。
4:35℃エアオーブンで12時間乾燥及び固化させたマゼンタインキであっても、メ ンテナンス液内に剥離または溶解した。
3:35℃エアオーブンで12時間乾燥及び固化させたマゼンタインキではメンテナン ス液には完全には剥離または溶解しなかったが、6時間乾燥及び固化させたマゼンタイ ンキでは剥離または溶解した。
2:35℃エアオーブンで6時間乾燥及び固化させたマゼンタインキではメンテナンス 液には完全には剥離または溶解しなかったが、1時間乾燥及び固化させたマゼンタイン キでは剥離または溶解した。
1:35℃エアオーブンで1時間乾燥及び固化させたマゼンタインキであっても、メン テナンス液には完全には剥離または溶解しなかった。
【0239】
<評価6:メンテナンス液の保湿性の評価>
京セラ社製インクジェトヘッド(KJ4B-YHモデル)を搭載したトライテック社製インクジェット吐出観察装置(DotView)にマゼンタインキを充填した後、全ノズルから、インキを100発ずつ吐出し、吐出異常が発生しているノズルの数を計測した。
次に、上記インクジェットヘッド内にマゼンタインキが充填されている状態のまま、撥液面がメンテナンス液の蒸気雰囲気環境下に曝される状態になるよう、メンテナンス液を充填したキャップを装着し(ただし、前記キャップ内のメンテナンス液と、インクジェットヘッドが接触しないように、前記メンテナンス液量を調整した)、常温下で12時間静置した。
静置後、上記キャップを取り外し、再度、上述した方法で、全ノズルからインキを100発ずつ吐出し、吐出異常が発生しているノズルの数を計測した。そして、吐出異常が発生したノズルの数の増加数を算出することで、保湿性を評価した。評価基準は下記の通りとし、2~4評価を実用可能領域とした。
4:吐出異常の発生したノズルの数の増加数が5以下であった。
3:吐出異常の発生したノズルの数の増加数が6~10であった。
2:吐出異常の発生したノズルの数の増加数が11~20であった。
1:吐出異常の発生したノズルの数の増加数が21以上であった。
【0240】
【0241】
【0242】
【0243】
【0244】