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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】T細胞前駆体を産生させるための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0783 20100101AFI20221026BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221026BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20221026BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20221026BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20221026BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221026BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20221026BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20221026BHJP
【FI】
C12N5/0783 ZNA
C12N5/10
A61K35/17 Z
A61P37/02
A61P37/04
C12N15/63 Z
C12N15/12
C12N15/62 Z
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2019565052
(86)(22)【出願日】2018-02-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 EP2018053406
(87)【国際公開番号】W WO2018146297
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2021-02-10
(31)【優先権主張番号】17305161.6
(32)【優先日】2017-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518390284
【氏名又は名称】アシスタンス パブリック-オピトークス ド パリ
(73)【特許権者】
【識別番号】519293553
【氏名又は名称】フォンダシオン イマジン-アンスティチュ デ マラディー ジェネティーク
(73)【特許権者】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(73)【特許権者】
【識別番号】504006489
【氏名又は名称】インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ ルシェルシュ メディカル (インセルム)
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ,イザベル
(72)【発明者】
【氏名】カヴァッザーナ,マリナ
(72)【発明者】
【氏名】マ,クーイン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ソヘイリ,タイベ-シャビ
(72)【発明者】
【氏名】デビ モイランテム,ランジタ
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0369973(US,A1)
【文献】国際公開第2016/205680(WO,A1)
【文献】特表2016-526913(JP,A)
【文献】特表2012-508188(JP,A)
【文献】国際公開第2016/055396(WO,A1)
【文献】Blood, 2000, 95(9), pp.2806-2812
【文献】Stem Cells, 2012, 30(8), pp.1771-1780
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD34-CD7+の表現型を有する T細胞前駆体を産生させるためのin vitroにおける方法であって、TNF-αおよび任意選択で芳香族炭化水素/ダイオキシン受容体の拮抗剤を含む培地において、固定したNotchリガンドの存在下でCD34+細胞を培養するステップを含む、方法。
【請求項2】
前記芳香族炭化水素/ダイオキシン受容体の拮抗剤が、StemRegenin 1(SR1)である、請求項1に記載のin vitroにおける方法。
【請求項3】
TNF-αおよび任意選択で芳香族炭化水素/ダイオキシン受容体の拮抗剤が、前記培養の0日から最大10日まで、前記培養培地に存在している、請求項1または2に記載のin vitroにおける方法。
【請求項4】
前記CD34+細胞が、成体のドナーから単離されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のin vitroにおける方法。
【請求項5】
Notchリガンドが、IgGタンパク質のFc領域に融合した、デルタ様4リガンドの可溶性ドメインである、請求項1~4のいずれか1項に記載のin vitroにおける方法。
【請求項6】
前記細胞をフィブロネクチンフラグメントにも曝露し、前記フラグメントが、RGDSパターンおよびCS-1パターン、ならびにヘパリン結合ドメインを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のin vitroにおける方法。
【請求項7】
前記フィブロネクチンフラグメントが、Retronectin(登録商標)である、請求項6に記載のin vitroにおける方法。
【請求項8】
前記培養培地が、NotchリガンドにCD34+細胞を曝露する少なくともある時点で、CD34+細胞のトランスフェクションまたは形質導入を目的とするベクターをも含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のin vitroにおける方法。
【請求項9】
CD34+細胞のトランスフェクションまたは形質導入を目的とする前記ベクターが、キメラ抗原受容体(CAR)をコードするトランスジーンである、請求項8に記載のin vitroにおける方法。
【請求項10】
T細胞前駆体を入手するための方法であって、
a.請求項1~9のいずれか1項に記載の方法を行うステップと、
b.前記産生させたT細胞前駆体を精製するステップと、
c.任意選択で、患者への注射用のパウチにおいて、前記T細胞前駆体を配置するステップと
を含む、方法。
【請求項11】
形質転換したまたは改変したT細胞前駆体を入手するためのin vitroにおける方法であって、
a.TNF-αを含む培地において、固定したNotchリガンドの存在下でCD34+細胞を培養するステップと、
b.前記細胞を、CD34+細胞のトランスフェクションまたは形質導入を目的とするベクターに、または遺伝子編集に適切なエレメントを含むベクターまたは核酸配列に、曝露するステップと
を含む、方法。
【請求項12】
CD7+CD34-である細胞を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法により得られたT細胞前駆体の集団。
【請求項13】
CD7+CD34-CD5-である細胞を含む、請求項12に記載のT細胞前駆体の集団。
【請求項14】
CD34-およびCD1a-であるか、CD34-およびCD5-であるか、またはCD34-およびCD1a-およびCD5-である前記CD7+細胞の集団が、80%超である、請求項12または13に記載のT細胞前駆体の集団。
【請求項15】
CARを発現する、請求項12~14のいずれか1項に記載のT細胞前駆体の集団。
【請求項16】
請求項12~15のいずれか1項に記載のT細胞前駆体の集団を含む、静脈内注射用のパウチ。
【請求項17】
請求項1~11のいずれか1項に記載の方法を行うためのキットであって、
(i)Notchのリガンド、および任意選択でフィブロネクチンフラグメントを含むコーティング培地と、
(ii)CD34+細胞およびT細胞を培養するように適合させた培地と、
(iii)TNF-αおよび任意選択で芳香族炭化水素/ダイオキシン受容体の拮抗剤を含む前駆体増殖培地と
を含む、キット。
【請求項18】
その必要がある対象においてT細胞の数を増加させるための、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法により得られたT細胞前駆体または請求項12~15のいずれか1項に記載のT細胞前駆体を含む医薬組成物。
【請求項19】
リンパ球減少症を治療するための、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記対象は、遺伝性の免疫不全、白血病のための化学療法、移植片対宿主病の防止のための移植後の治療、年齢、または感染症により免疫抑制されているか、または前記対象は、自身の免疫細胞の減少により免疫抑制されている、請求項18または19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
HIV感染、部分的な胸腺切除、自己免疫疾患、および/または臓器移植から引き起こされるまたはもたらされるリンパ球減少症を治療するための、請求項18~20のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記対象は、造血性幹細胞の移植前の治療による自身の免疫細胞の減少により、免疫抑制されている、請求項20に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞療法の分野、特には形質転換しているかまたはしていない造血性幹細胞グラフト、より具体的には当該グラフト移植後の免疫の再構成の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
前駆体および造血性幹細胞前駆体(HSPC)のグラフトは、最も重篤な遺伝性免疫不全、多くの悪性血液疾患、および多くの固形腫瘍にとって最良の治療選択肢とみなされている。
【0003】
現在、HLAが部分的に不適合である同種移植の状況下では、あらかじめ条件付けされたレシピエントへ選別されたCD34+HSPCの漸増用量を注射することによって、移植片対宿主病(GVH)を効果的に予防しながらのドナー移植が可能である。しかしながら、注射されたCD34+細胞からの新規のTリンパ球の分化は最低4ケ月の期間を必要とし、これらTリンパ球は、その出現から数カ月間のみ、感染症に対する保護的な役割を果たすのに十分な数にある。
【0004】
この免疫の再構成の遅さは、多くの感染性合併症、特にウイルス性の合併症をもたらすだけでなく、再発をももたらし、移植された患者の長期間の予後に影響を与えている。
【0005】
さらに、他の治療プロトコルは、特定の遺伝性免疫不全の治療に有効であることが示されている、遺伝子療法の手法、すなわち形質導入したHSPCの自家グラフトを使用する。HSPC CD34+の同種間の移植を超えるこの戦略の利点は、HLA適合性のドナーが利用可能ではない場合の生存および罹患率の観点から、明白である。しかしながら、臨床治験は、重篤な感染症を有する一部の患者では、Tリンパ球のコンパートメントの再構成は遅く、循環性のTリンパ球の正常なレベルに全く達していないことを示している。この特定の状況に関連する罹患率および死亡率は、重要である。
【0006】
この種の移植に関連する高い罹患率および死亡率のため、移植後の免疫不全の期間を低減するための新規療法の開発が、完全に正当化される。
【0007】
特に、Tリンパ球分化経路にすでに携わっている前駆体(T細胞前駆体)の投与によりTリンパ球の産生を加速させることが重要である。
【0008】
これらT細胞前駆体は、CD34+HPSCの分化から得られ、特に、T細胞経路の分化のマーカーである、CD7+マーカーを有する。またこの前駆体は、他のマーカーを有し得る。Awongら(Blood 2009; 114: 972-982)は、以下のTリンパ球の前駆体:ETP(早期胸腺の前駆体:early thymic progenitor)(複数のマーカー(CD34+/CD45RA+/CD7+)を有する))、proT1期の前駆細胞(CD7++/CD5-)、proT2期の前駆細胞(CD7++/CD5+)、およびpreT期の細胞(CD7++/CD5+CD1a+)を記載した。HSPCは、T細胞発達経路にわたり、1つの期から他の期へと推移する際に、連続してこれらマーカーを獲得する。さらに、ヒトでは、CD1a抗原が、著しく未成熟な胸腺の前駆体から、T経路に明らかに携わっている前駆体までの推移を区別することが知られている(Cavazzana-Calvo et al, MEDECINE/SCIENCES 2006; 22: 151-9)。
【0009】
HSPCの移植と併用したT細胞前駆体の移植は、成熟した機能的なTリンパ球のコンパートメントの迅速な産生を可能にし、よって、免疫系の完全な再構成の前に一部の免疫から患者が利益を受けることを可能にすることにより、重篤な感染症のリスクの予防を支援する。
【0010】
さらに、臍帯血細胞よりも成体の細胞を入手することが容易および安価であり、成体の細胞は同種移植においてより一般的に使用されているため、臍帯血細胞よりも成体の細胞を使用できることが重要である。
【0011】
しかしながら、ヒトおよびマウスで得られた、文献で公開されているデータは、胎仔の造血性細胞(臍帯血を含む)と成体の細胞との間の本質的な違いを示している。これら差異は、生存、DNA損傷を修復する能力、増殖の能力および分化能に関連している(たとえばYuanら(2012 Mar 9; 335 (6073):1195-200)、これは成体の骨髄細胞は、様々な細胞種を産生する可能性において、胎仔の細胞よりも効果がないことを表す):Lansdorpら(J Exp Med 1993 Sep 1; 178 (3): 787-91);Szilvassyら(Blood, 2001 Oct. 1, 98 (7): 2108-15)、Frassoniら(Blood, 2003 Aug. 1, 102 (3): 1138-41)、Liang et al. 106 (4): 1479-87)、Sixら(J Exp Med 2007 Dec 24, 204 (13): 3085-93)を参照)。
【0012】
国際特許公開公報第2016/055396号は、固定したNotchのリガンド(特に、IgGタンパク質のFc領域に融合した、Delta様リガンド(delta-like-ligand)の可溶性ドメイン)の存在下、ならびにRGDS(配列番号3、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸-セリン)およびCS-1ドメインと、ヘパリン結合ドメインとを含むフィブロネクチンのフラグメントの存在下(特にRetronectin(登録商標)の存在下)で、CD34+細胞を培養することによりT細胞前駆体を産生させることが可能であることを記載している。使用されるNotchリガンドは、DL4/Fcと表され得る。
【0013】
この文書が、固定したNotchのリガンドとフィブロネクチンとの両方の存在がTリンパ球前駆体(CD7+細胞)の産生(generation)を増大させることを可能にすることを開示しており、これはすでに当該分野で改善されているが、国際特許公開公報第2016/055396号の図3に示されるように、CD7+CD34-細胞のパーセンテージは極めて低いままであることに、留意されたい。しかしながらより多量の前駆体を、それを必要とする患者に投与することを可能にするために、このパーセンテージを上げることに興味が集まっており、このパーセンテージを上げることが特に重要である。他方でまた、この細胞が、適切な免疫を提供できるよう早期の分化の段階のままであることも重要である。
【0014】
Notchタンパク質は、多数の環境シグナルに対する細胞応答を制御する膜貫通型受容体であることを想起されたい。哺乳類では、4種のNotch受容体(Notch1-4)および5種のリガンド(Delta様-1、3、および4、Jagged1、Jagged2)が、述べられている(Weinmaster Curr Opin Genet Dev 2000: 10: 363-369)。
【0015】
Delta様リガンド4は、
(ii)Delta様リガンド4(DLL4遺伝子の名称に対応)
(iii)Delta様4またはDeltaリガンド4(略語DL-4)
として表記することができる。
【0016】
本願では、NotchのDelta様1およびはDelta様4のリガンドは、それぞれ、DL1およびDL4、またはDL-1およびDL-4により表記され得る。リガンドDL-1およびDL-4の配列は、それぞれ配列番号1および配列番号2として明記されている。
【0017】
Ohishiら(BLOOD,vol. 98, no. 5, 2001, pp 1402-1407)は、単球のマクロファージおよび樹状細胞への分化に関するNotchシグナリングの作用に関するものである。この文書で開示された実験で使用した単球細胞は、ネガティブセレクションにより精製した末梢血の単球、またはCD34+幹細胞のin vitroでの分化後に入手した単球のいずれかであった。よって、この文書で使用された細胞は、単球/マクロファージ/樹状細胞の分化経路に入り、CD34マーカー(造血性幹細胞のマーカーである)を失い、CD14マーカーを提示した。これら細胞は、Delta-1の細胞外ドメインおよびGM-CSF、TNF-α(CD34+細胞由来のCD1a-CD14+細胞の樹状細胞への分化を誘導するために使用される)の存在下で、培養される。この文書は、NotchリガンドおよびTNF-αの存在下でCD34+細胞を使用しておらず、T細胞前駆体(CD7+Tリンパ球前駆体)の産生に関連していない。
【0018】
SHUKLAら(NATURE METHODS, vol. 14, no. 5, 2017, 531-538)および国際特許公開公報第2017/173551号は、幹細胞および/または前駆細胞から前駆T細胞を産生させるための方法であって、上記幹細胞および/または前駆細胞を、NotchリガンドのDelta様4(DL4)およびVCAM-1(vascular adhesion molecule 1)に曝露するステップを含む、方法を開示する。
【0019】
本願に記載される方法は、細胞の間質を使用せずに、CD34+幹細胞由来の、CD7+Tリンパ球前駆体の産生および数の増加を可能にする(これは臨床的な状況で容易に想定することができない)。さらに本方法は、成体のドナーからもたらされるCD34+細胞を用いて行う場合に特に適合している。
【0020】
さらに、本明細書開示されるプロセスを介して得られる細胞は、Bcl11bマーカーを有しており、これは、T細胞の関与から固有に活性となる(switched on)重要な転写因子である(Kueh et al, 2016, Nat Immunol. 2016 Aug;17(8):956-65. doi: 10.1038/ni.3514)。
【0021】
また本発明者らは、本明細書中開示されるプロセスを介して得られる前駆体においてT細胞受容体の座位(TCRβ、TCRγ、またはTCRδのいずれか)の再編成(rearrangement)がないことをも示した。
【0022】
さらに、国際特許公開公報第2016/055396号に開示されるプロセスと比較して、本明細書中得られた前駆体に関して、アポトーシスマーカーの減少が示された。
【0023】
まとめると、本明細書中開示されるプロセスは、幹細胞移植を受ける成体に効率的に使用するために十分多い数のT細胞前駆体を入手することを可能にする。
【0024】
また本方法は、目的の遺伝子を含むベクターを本明細書中開示されるプロセス中のある時点で使用する場合に、遺伝子療法のため形質転換された(形質導入された)T細胞前駆体を入手するために使用することが可能であり得る。
【0025】
本明細書中開示されるプロセスにより入手される細胞は、成体のCD34+細胞で入手することができ、さらには臍帯血細胞がこのようなグラフトで使用される場合であっても、同種グラフトまたは自家グラフトで使用することができる。
【0026】
本方法は、成体のCD34+細胞で非常に効率的ではあるが、臍帯血のCD34+細胞と共に用いることも可能であることに留意されたい。
【0027】
よって、特定の実施形態では、本明細書中開示される方法は、Notchリガンド、Delta-4、Retronectin(登録商標)、およびサイトカインの組み合わせに由来する固定した融合タンパク質を組み合わせたin vitroの培養システムにおいて、HSPCから産生させたT細胞前駆体の注入後に、in vivoにおけるT細胞の産生を速める。
【0028】
このシステムは、7日以内に、ヒトの胸腺のT細胞前駆体に表現型および分子に関して類似しているT細胞前駆体の産生を可能にする。さらに、これらT細胞前駆体は、HSPCと比較して速い動態で、ヒトの成熟した多様なT細胞をマウスに生じさせることができる。
【0029】
本明細書中記録された結果は、臍帯血(CB)および成体(成体のドナー由来の、固定した末梢血、mPB)のHSPCの両方から得た。
【0030】
本発明者らは、CD34+細胞からのT細胞前駆体の量を、可溶性のTNF-α(腫瘍壊死因子α、Uniprot P01375、RefSeq NP_000585、配列番号8)の存在下で、Notchリガンドに上記CD34+細胞を曝露することにより、改善できることを示した。上記曝露は、前駆T細胞を産生させるために適した条件下で行われる。任意選択で、これら細胞はまた、RDGSモチーフおよび/またはCS-1モチーフ、ならびに任意選択でヘパリン結合ドメインを含むフィブロネクチンフラグメントに曝露される。好ましくは、上記フィブロネクチンフラグメントは、RDGSモチーフ、CS-1モチーフ、およびヘパリン結合ドメインを含む。
【0031】
TNFは、本来、安定したホモ三量体で構成された223アミノ酸長の膜貫通型タンパク質II型として産生される。分泌された形態のヒトのTNF-αは、三角形のピラミッドの形状を取り、約17kDaの重さである。
【0032】
国際特許公開公報第2016/055396号に開示されるように、フィブロネクチンフラグメントの代わりにRGDSペプチドおよび/またはCS-1ペプチドを使用して本明細書中開示される方法を行うことが可能である。特に同じタンパク質に融合した、RGDSペプチドおよびCS-1ペプチドの併用が好ましい。よって、RGDSペプチドおよび/またはCS-1ペプチドは、それ自体が培養培地に存在してもよく、または培養培地中に存在するポリペプチドもしくはタンパク質の中に存在していてもよい。よって、培養培地が、RGDSペプチドおよび/またはCS-1ペプチド自体のみを含む場合、このようなペプチドが培養容器の内面に固定されていない場合、培養培地に「遊離した」ペプチドとしての当該ペプチドに関し得る。実際に、これらペプチドは、溶液中にあってもよく、またはCD34+細胞が固定したNotchリガンドに曝露される容器の内面に固定されていてもよい。
【0033】
しかしながら、上述されるように、RGDSパターンおよびCS-1パターン、ならびにヘパリン結合ドメインを含むフィブロネクチンのフラグメントを使用することが好ましい。フィブロネクチンフラグメントは、溶液中に遊離していてもよく、または培養コンテナの内面に固定されていてもよい。
【0034】
本プロセスは、細胞培養プレート(ペトリ皿、24ウェルアレイなど)などのコンテナ、好ましくはその内面に固定したNotchリガンドを伴うコンテナにおいて、in vitroにおいて行われる。しかしながら、Notchリガンドは、ビーズ(特にマイクロビーズ)の表面などの、培養培地に存在する他のいずれかの担体に固定され得る。Notchリガンドの固定は、基本的に、CD34+細胞のNotch受容体の活性化を可能にするために、リガンドを安定化するように意図されている。
【0035】
「T細胞前駆体」は、CD34+HSPC由来の、Tリンパ系経路への分化経路に関与するいずれかの細胞を表すことを意図している。よってこの細胞は、T細胞のリンパ球新生の間の最も早期のマーカーのうちの1つであることが知られている、CD7マーカーを発現することを特徴とする。Tリンパ系経路における分化の状態に応じて、T細胞前駆体は、CD34マーカーを発現できる場合またはできない場合がある(分化の間のCD34の喪失)。このようなT細胞前駆体はまた、CD5マーカーを発現する場合または発現しない場合がある。
【0036】
「T細胞前駆体」の中に、出生後の胸腺で見出され得る細胞、すなわちETP(CD34+/CD45RA+/CD7+)、proT1細胞(CD34+CD45RA+CD7++CD5-CD1a-)、proT2細胞(CD34+CD45RA+CD7++CD5+CD1a-)、およびpreT細胞(CD34-CD7++/CD5+CD1a+)がある。T細胞受容体(TCR)の座は、高度に秩序ある方法で再編成する(TCRδ-TCRγ-TCRβ-TCRα)。特に、第1の機能的なTCR再編成は、CD34-CD7++/CD5+CD1a+のpreTの細胞期で起こる(Dik et al. J Exp Med 2005;201:1715-1723)。T細胞前駆体は、最先端でよく知られている。これらは、特にReimannら(STEM CELLS 2012;30:1771-1780.)およびAwongら(2009, op.cit.)により引用されている。
【0037】
用語「RGDSペプチド」は、インテグリンVLA-5に結合できるように、RGDSパターンを含むいずれかのペプチドまたはタンパク質を表すことが意図されている。このようなペプチドまたはタンパク質は、当該分野で知られており報告されている方法により、VLA-5インテグリンに結合するその特性について試験することができる。RGDSペプチドは、CD49e(α5)およびCD29(β1)から構成されるダイマーであるVLA-5(Very Late Antigen-5)に結合する。
【0038】
ヘアピン結合ドメインは、当該分野で知られており、ヘアピンに結合する多くのタンパク質に存在する。これら配列は、一般に、XBBXBXまたはXBBBXXBXである(B=塩基性アミノ酸(acide amine basique);X=ヒドロキシ基を有するアミノ酸(acide amine hydropathique);Cardin and Weintraub, Arterioscler Thromb Vasc Biol. 1989;9:21-32、配列番号4および配列番号5)。
【0039】
このようなヘアピン結合ドメインの存在は、CD34+細胞をウイルスベクター(特にレトロウイルスベクター)に曝露させて、それらを形質導入し、トランスジーンを発現するT細胞前駆体を入手する場合に特に好ましい。
【0040】
CS-1ペプチドまたはCS-1パターンは、Wayner et al, 1989, J. Cell Biol. 109: 1321)により記載された25アミノ酸のペプチド(DELPQLVTLPHPNLHGPEILDVPST、配列番号6)である。このCS-1パターンは、VLA-4(Very Late Antigen-4)受容体に結合する。この抗原は、CD49d(α4)およびCD29(β1)から構成される二量体のインテグリンである。
【0041】
特定の実施形態では、フィブロネクチンフラグメントは、培養培地に存在するか、またはコンテナの内壁(特に底部)に固定されている。フィブロネクチンは、その天然の形態が100nm長および460kDaのV字型の大きな二量体である、タンパク質である。この2つのモノマーは、C末端で2つのジスルフィド架橋により結合している。用語「フィブロネクチン」または「フィブロネクチンフラグメント」は、天然のフィブロネクチンタンパク質(すなわち代替的なスプライシングにより産生されたいずれかのアイソフォーム)を意味することが理解されているが、同様に、このタンパク質のモノマー、またはこのタンパク質のフラグメント(しかし、ペプチドRGDS、およびCS-1ペプチド、およびヘアピン結合部位を含む)を意味することも理解されている。
【0042】
本明細書中開示されるプロセスを行うことに特に適したフィブロネクチンは、Retronectin(登録商標)である。このタンパク質は、ヒトのフィブロネクチンのフラグメントに対応しており(CH-296フラグメント、Kimizuka et al., J Biochem., 1991 Aug. 110 (2):284-91, Chono et al., J Biochem 2001 Sep 130 (3):331-4)、本方法の実施に好ましい3つの機能性ドメイン(RGDSペプチドを含む細胞結合Cドメイン、ヘアピン結合ドメイン、およびCS-1配列)を含む。このタンパク質は、特にTakara Bio Inc.(Shiga, Japan)により販売されている。
【0043】
特定の実施形態では、フィブロネクチンフラグメントは、固定されている(すなわち、固体の担体に結合しており、(特定の成分が溶液中に見出され得る可能性はあるが)溶液中に遊離して存在してない)。この固体の担体は、好ましくは、本工程を行うコンテナの底壁である。しかしながら、同様に、ポリマーまたは磁気ビーズなどのビーズ(一般に1~5μmで構成された直径を有する)にフィブロネクチンフラグメントを結合させることを想定することも可能である。これらビーズに対するタンパク質またはペプチドの結合は、共有結合であってもよく、または共有結合でなくてもよい。タンパク質またはペプチドをビーズに付着させるための方法は、当該分野で知られている。また、フィブロネクチンフラグメントを、半固体の培地、たとえば寒天またはゲルに導入することも可能である。
【0044】
フィブロネクチンフラグメントを担体(特に本工程を行うコンテナの底壁)に固定する場合、この固定もまた、共有結合であってもよく、または共有結合でなくてもよい。好ましい実施形態では、この固定は、フィブロネクチンフラグメントを、コンテナの底壁を構成するガラスまたはプラスチックに吸着させることにより、非共有結合的に行われる。
【0045】
特定の実施形態では、上記でわかるように、CD34+細胞のT細胞前駆体への分化は、これら細胞に目的の遺伝子(または遺伝子編集のための系)を導入するため、ベクター(たとえば、ウイルスベクターまたは核酸フラグメント、たとえばプラスミドまたはプラスミドのRNA配列もしくはDNA配列など)によるCD34+細胞の形質導入またはトランスフェクション(nucleofection(商標)という、Lonzaにより開発された特定のエレクトロポレーションシステムを含む)と共に行われる。このことは、TNF-αと共にNotchリガンドおよびフィブロネクチンフラグメントに曝露される細胞が、TNF-αと共にNotchリガンドおよびフィブロネクチンフラグメントに曝露される時間の少なくとも一部の間、ウイルスの上清にも曝露されることを、意味している。
【0046】
細胞の形質導入を行うための操作上の条件に関する国際特許公開公報第2016/055396号の教示は、本方法に明らかに適用可能であり、よって、本願に明らかに列挙されているとみなされる。
【0047】
例の1つとして、特に、以下が挙げられる:
(iv)当該分野で知られており国際特許公開公報第2016/055396号に開示されている適切なサイトカインを伴う、ある時間(好ましくは4時間超、より好ましくは6時間超、または8時間もしくは10時間超、かつ、36時間未満、より好ましくは30時間未満、または24時間未満)の間の、Notchリガンド、フィブロネクチンフラグメント、およびTNF-αへの細胞の曝露、ならびに、適切な期間(好ましくは4時間超、より好ましくは6時間超、8時間超、または10時間超、かつ好ましくは30時間未満、より好ましくは24時間未満、より好ましくはおよそ16時間)の間の、ウイルスの上清の添加。
(v)国際特許公開公報第2016/055396号に教示されるように、必要に応じた第2の形質導入
(vi)トランスジーンが患者に存在していないかまたは欠損しているタンパク質を追加して治療上の利点をもたらすための、遺伝子療法のプロトコルにおける自家造血性幹細胞グラフトに関するこのプロトコルの使用。
(vii)利用可能なトランスジーン:免疫不全(特に重症複合型免疫不全SCID、または左記ではないCID)、HIV、X連鎖副腎白質ジストロフィー、異常ヘモグロビン症、特にβサラセミア(thalassemy)または鎌状赤血球症を訂正する遺伝子。また、トランスジーンとして、キメラ抗原受容体(CAR)、すなわち、操作したCAR-T細胞を介して癌細胞に対する免疫応答を誘発するために癌細胞が特異的に発現する細胞表面タンパク質を認識する細胞表面タンパク質をコードする遺伝子を、使用することができる。
(viii)特に当該分野で知られており記載されているレンチウイルスを使用した、細胞のゲノムの中へのトランスジーンの挿入を可能にするためのウイルスの上清の好ましい使用。
(ix)4時間~36時間の間、好ましくは6時間~24時間の間の、CD34+細胞のプレ活性化の後の細胞培養培地におけるウイルスベクターの導入。
(x)4時間~30時間の間、好ましくは12時間~24時間、より好ましくはおよそ16時間の、ウイルスベクターへの細胞の曝露、ならびにウイルスベクターの除去(細胞の回収および洗浄、ならびにNotchリガンド、フィブロネクチンフラグメント、およびTNF-αの存在下でのこれら細胞の再懸濁)。
【0048】
上述のように、別の実施形態では、CD34+細胞は、遺伝子編集を行うことを可能にするシステムに曝露される。ここで、このようなシステムは、当該分野において幅広く知られておりかつ記載されており、基本的に核酸の二本鎖切断修復(double-break repair)に基づいている。このようなゲノム編集システムは、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALEN(transcription activator-Like effector nuclease)、およびCRISPR-Casヌクレアーゼからなる群から選択されるヌクレアーゼを使用し得る。CD34+細胞が、上述の要素、よってTNF-αの存在下で曝露される間に増殖するとの事実は、細胞の増殖を必要とするこれら遺伝子編集システムを使用することを可能にする。
【0049】
特定の実施形態では、Notchリガンドは、Delta様1タンパク質(配列番号1)またはそのフラグメント(可溶性ドメイン)である。
【0050】
別の好ましい実施形態では、Notchリガンドは、Delta様4タンパク質(配列番号2)である。
【0051】
特定の実施形態では、上記Notchリガンドは、IgGタンパク質のFc領域に融合した天然のNotchリガンドの可溶性ドメインを含む融合タンパク質である。当該分野で知られているように、Notchリガンドの可溶性ドメインは、上記リガンドの細胞外部分を表す。Varnum-Finneyら(J Cell Sci., 2000 Dec; 113 Pt 23:4313-8)は、IgG1のFc部分を有するDL-1の可溶性部分の融合タンパク質を記載していた。Reimannら(同出典(op cit))は、IgG2b免疫グロブリンのFcフラグメントを有する、DL-4の可溶性部分(アミノ酸1~526)の融合タンパク質を記載していた。よって、IgGタンパク質がIgG2である場合が好ましい。好ましい実施形態では、本明細書中開示される方法に使用されるNotchリガンドの配列は、配列番号7である。C末端でヒトのIgG1のFc領域に融合したヒトのDLL4(完全長のDLL4、寄託番号NP_061947.1)の細胞外ドメイン(Met1-Pro524)を含む市販の製品(Sino Biologicals)は、DL4タンパク質であり、これもまた、本明細書の使用に適している。
【0052】
本明細書中開示される方法の文脈で使用される培養培地は、CD34+細胞およびT細胞を培養することに適したいずれかの培地である。特に、α-MEM培地、DMEM培地、RPMI 1640培地、IMDM培地、BME培地、マッコイ5A培地、StemSpan(商標)培地、特にSFII(StemCell Technologies)培地またはFischerの培地に言及がなされ得る。StemSpan(商標)SFII培地は、特にIscovのMDM、ウシ血清アルブミン、組み換え型ヒトインスリン、ヒトのトランスフェリン(鉄飽和型)、2-メルカプトエタノールを含む。
【0053】
本明細書中開示されるプロセスを行うことに適した好ましい培養培地は、X-VIVO(商標)培地(Lonza, Basel, Switzerland)である。この培地は、特にJonuleitら(Eur J Immunol, 1997, 27, 12, 3135-42)およびLuftら(J Immunol, 1998, 161, 4, 1947-53)により使用された。
【0054】
好ましくは、基礎培地(すなわち、補充物質を添加することを必要とせず細胞の増殖を可能にする培地)が使用される。しかしながらここでは、好ましくは、血清、および/または増殖因子、およびサイトカインが添加されるであろう。
【0055】
よって、好ましくは、ウシ胎児血清(FBS)またはウシ胎仔血清(FCS)、自家ヒト血清またはヒトのAB血清が、基礎培養培地に添加される。好ましくは、この培地に、少なくとも15%、より好ましくは少なくとも20%の胎児血清が補充される。FBSは、本プロセスの実施に特に適している。特に、規定された(defined)FBSを使用することが好ましい。規定されたFBSは、ウイルスの粒子の存在を回避するように解析およびろ過されている高品質の血清である。この規定されたFBSは、Thermo Scientific(商標)のHyClon(商標)のDefined FBS(定義されたウシ胎仔血清)などとして、多くの供給者により販売されている。
【0056】
TNF-αに加え、培養培地はまた、好ましくはサイトカインおよび増殖因子で補完される。これらサイトカインおよび増殖因子は、特に、SCF(幹細胞因子)、トロンボポエチン(TPO、また、MGDF(megakaryocyte growth and development factor)とも呼ばれる)、Flt3リガンド(造血性の増殖因子である)、インターロイキン3(IL-3)、インターロイキン7(IL-7)およびSCF(幹細胞因子)からなる群から選択される。特定の実施形態では、培養培地は、TNF-αに加え、これらサイトカインまたは増殖因子のうち少なくとも3つ、好ましくは4つを含む。
【0057】
好ましい実施形態では、特にウイルスベクターで形質導入されないT細胞前駆体の産生のために、少なくともまたは正確に3つのサイトカインが、添加される。好ましくは、これら3つのサイトカインは、インターロイキン7(IL-7)、SCF(幹細胞因子)、およびFlt3リガンド(造血性増殖因子)である。
【0058】
別の好ましい実施形態では、4つのサイトカイン、すなわち上述の3つのサイトカインとTPO(トロンボポエチン)とが添加される。
【0059】
別の特定の実施形態では、特にウイルスベクターで形質導入されるT細胞前駆体の産生のために、サイトカインおよび増殖因子の性質が、本方法の実施の間に変動し得る。
【0060】
よって、IL-3、IL-7、SCF、TPO、およびFlt3-Lは、ウイルスベクターの添加前に細胞をあらかじめ活性化(プレアクチベーション)するステップ、およびその後の、ベクターが除去された後にIL-7、SCF、TPO、およびFlt3-Lのみで培地を補充するステップの際に、培地に使用され得る。
【0061】
上述のサイトカインおよび増殖因子の混合物は、CD34+細胞のT細胞前駆体への分化を誘導するのに十分であり、一般に、培養培地は、実施例に記載されているようにT細胞前駆体の数を増やすことを可能にするTNF-αを除き、他のサイトカインまたは増殖因子を含まない。
【0062】
本明細書中予測されるプロセスにおいて、Notchリガンドの存在下、RGDSモチーフを提示するタンパク質またはペプチド、およびTNFαの存在下での、CD34+細胞の曝露の時間の合計は、一般に、好ましくは、3日超かつ10日未満の時間の間行われる。
【0063】
この曝露は、細胞が形質導入されるかどうかに応じて変動し得る。よって、3日間の曝露時間は、形質導入されなかった成体の幹細胞にとっては十分であり得るが、対して乳児性の幹細胞では、または形質導入が行われる場合では、一般に曝露時間はより長くなるであろう。
【0064】
CD34+細胞は、骨髄穿刺(bone marrow puncture)から、臍帯血から、または成体のドナー由来の末梢血から入手され、特にG-CSFまたは当該分野で知られている他の動員剤(mobilizing agent)で動員される。CD34+細胞を選別するための方法は、当該分野で知られている。特に、その表面でCD34を認識する抗体を有する磁気ビーズが、この目的のために使用され得る。
【0065】
好ましくは、細胞培養容器は、CD34+細胞を曝露する前に、内面(好ましくは底面)にNotchリガンドおよびフィブロネクチンフラグメントを固定することにより、調製される。Retronectin(登録商標)または他のフィブロネクチンは、細胞培養ボックス(ペトリ皿または24ウェルのボックス、またはその他)のプラスチックに自然に接着する。同様に、Notchリガンドが、免疫グロブリンのFcフラグメントとの融合タンパク質として使用される場合、このFcフラグメントも、プラスチックに接着する。よってこのことは、適切なコーティングを得るためにこれら化合物の存在下にコンテナを数時間いれたままにすることで、十分に行われる。このような、Notchリガンドおよびフィブロネクチンフラグメントで培養コンテナをコーティンするための方法は、国際特許公開公報第2016/055396号に詳細に開示されており、本明細書中開示される方法の実施に適切であり得る。
【0066】
国際特許公開公報第2016/055396号によると、5μgを使用する場合、およそ75%のDL-4がコンテナの表面に接着し、ここでの最適な用量は、1.25μg/ml以上、好ましくは2.5~5μg/mlであることを想起されたい。
【0067】
フィブロネクチンフラグメントに関しては、25μg/mlの濃度が、特に適切(特にRetronectin(登録商標)を使用する場合)である。しかしながら他の濃度(上記より高いまたは低い)が使用され得る。
【0068】
本明細書中開示されるプロセスの実施において、CD34+細胞は、培養容器において10~10細胞/ml、特に1mlあたりおよそ2×10個のCD34+細胞から構成される濃度で、添加される。
【0069】
細胞が形質導入されるかどうかに応じて、CD34+細胞のうちの1種は、2~10cmのプレート(すなわち24~6ウェルのプレート)を使用し得る。24ウェルのプレートを使用する場合、各ウェルに10~10個のCD34+細胞、好ましくはウェルあたり2×10~4×10個のCD34+細胞を添加する。6ウェルプレートを使用する場合、ウェルあたり8×10~2×10個の細胞を添加する。
【0070】
添加する細胞の量は、使用するコンテナによって、当業者により適切に調節される。
【0071】
細胞は、TNF-αを補充し、上述したように増殖因子およびサイトカインを選択的に補充した、ウェルの中の選択した基礎培地に配置される。
【0072】
サイトカインまたは増殖因子の濃度は、2~300ng/mlである。好ましくは、この濃度は、40ng/ml超かつ300ng/mlまたは200ng/ml未満、より好ましくは約100ng/mlである。
【0073】
しかしながら、形質導入したT細胞前駆体を産生させることが望まれる場合、およびこの細胞をウイルスベクターに曝露する前にあらかじめ活性化する場合、より高い濃度(約300~400ng/ml)が使用され得る。この実施形態では、SCFおよびFlt3-Lを、300ng/mlの範囲の濃度で、TPOおよびIL-7を、100ng/mlの範囲の濃度、IL―3を約40ng/mlで使用することができる。
【0074】
TNF-αは、好ましくは、5ng/ml以上の濃度で使用される。実際に、実施例に例示されるように、この低い濃度は、分化経路を改変することなくT細胞前駆体の増殖を得るのに十分である。
【0075】
しかしながら、より高い濃度を使用することもできる。特に、TNF-αの濃度は、300ng/mlまたは200ng/ml程度に高い場合があり得る。適切な濃度は、およそ100ng/mlである。しかしながら、10ng/ml、20ng/ml、または50ng/mlなどの他の濃度も、同様に適切である。
【0076】
よって本発明は、T細胞前駆体を産生させるためのin vitroにおける方法であって、TNF-αを含む適切な培地において、固定したNotchリガンドおよび任意選択で上述のフィブロネクチンフラグメントの存在下で、CD34+細胞を培養するステップを含む、方法に関する。
【0077】
よって本発明は、T細胞前駆体を増殖させるためのin vitroにおける方法であって、TNF-αを含む適切な培地において、固定したNotchリガンドおよび任意選択で上述のフィブロネクチンフラグメントの存在下で、CD34+細胞を培養するステップを含む、方法に関する。
【0078】
T細胞前駆体を増殖させることは、TNR-αを使用しない場合よりも多くのT細胞前駆体が存在すること、および/またはコンテナに導入したCD34+細胞の数よりも多くのT細胞前駆体が存在することを意味するように意図されている。
【0079】
特に、上記の方法により入手したT細胞前駆体は、CD34-/CD7+/CD5-前駆体である。
【0080】
一般的に、この細胞は、いずれも、CD1aマーカーを有さない。
【0081】
好ましい実施形態では、上記の方法により入手したT細胞前駆体は、CD34-/CD7+/CD1a-前駆体である。
【0082】
このことは、本方法により入手されるT細胞前駆体の集団がCD7マーカーを発現すること、およびこのマーカーを発現する細胞のうち80%超が、フローサイトメトリーにより解析される際に、上記の表現型を有する
(CD34およびCD1a、または
CD34およびCD5、または
CD34およびCD1aおよびCD5
を発現しない)
ことを意味する。この表現型は、一般に、7日間の培養後に得られる。
【0083】
表記されるように、CD34+細胞は、好ましくは臍帯血細胞ではない。しかしながら本方法は、臍帯血のCD34+細胞を用いて使用されてもよく、臍帯血のCD34+細胞に適用可能であり、これはまた、改善した結果をもたらす。
【0084】
本方法は、特に、成体の患者から単離されたCD34+細胞で行われる場合を対象としている(interesting)。上記患者は、健常なドナー、またはある疾患を有するドナー、特にウイルス性の形質導入により細胞が訂正され得るドナーであり得る。
【0085】
これら細胞は、3日超、好ましくは少なくとも5日超、より好ましくは少なくともまたは正確に6日間、最も好ましくは少なくともまたは正確に7日間、培養され得る。しかしながら、培養期間は、上記より長く持続する場合がある。
【0086】
本明細書中開示される方法において、TNF-αは、好ましくは、0日目から(すなわちCD34+細胞の培養の開始時に)、培養培地に添加され、少なくとも3日間、好ましくは細胞を培養する全ての時間の間(すなわち好ましくは約7日間)、培養培地に存在し続ける。
【0087】
本明細書中開示される方法を行う場合、TNF-αをすでに含む培養培地に、StemRegenin 1(SR1、4-(2-(2-(ベンゾ[b]チオフェン-3-イル)-9-イソプロピル-9H-プリン-6-イルアミノ)エチル)フェノール、CAS 1227633-49-10)をさらに添加することが可能である。
【0088】
また本発明は、T細胞前駆体を入手するための方法であって、
a.上記に開示される方法を行うステップと、
b.これにより入手される、産生させたT細胞前駆体を精製するステップと
を含む、方法に関する。
【0089】
精製は、細胞を洗浄し、これを基礎培地に再懸濁することにより行われ得る。
【0090】
また本方法は、患者へ注射するためのパウチでT細胞前駆体を条件付けするステップを含み得る。
【0091】
この場合、これら細胞が、albunorm(商標)(5% 50g/L)(Octopharma, Lingolsheim, France)などの5%のHSAを含む生理食塩水溶液に再度条件付けされる場合が好ましい。
【0092】
これら細胞はまた、当該分野で知られている方法により、凍結され得る。
【0093】
また本発明は、T細胞前駆体(上述の方法により入手されやすいT細胞前駆体または上述の方法により入手されるT細胞前駆体)の集団を含む、静脈内注射用のパウチであって、この集団におけるCD7+細胞の割合が、80%超、より好ましくは85%超である、パウチに関する。
【0094】
また本発明は、CD7+T細胞前駆体(上述の方法により入手されやすいCD7+T細胞前駆体または上述の方法により入手されるCD7+T細胞前駆体)の集団を含む、静脈内注射用のパウチであって、この集団におけるCD34-およびCD5-の細胞(CD7+でありCD34-およびCD5-である細胞)の割合が、80%超、より好ましくは85%超である、パウチに関する。
【0095】
また本発明は、CD7+T細胞前駆体(上述の方法により入手されやすいCD7+T細胞前駆体または上述の方法により入手されるCD7+T細胞前駆体)の集団を含む、静脈内注射用のパウチであって、この集団におけるCD34-細胞(CD+7でありCD34-である細胞)の割合が、50%超、より好ましくは60%超である、パウチに関する。さらに、この集団における細胞の少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%が、CD1a-細胞である。
【0096】
また本発明は、形質転換したT細胞前駆体を入手するためのin vitroにおける方法であって、
a.TNF-αを含む適切な培地において、固定したNotchリガンドの存在下で、CD34+細胞を培養するステップと、
b.CD34+細胞のトランスフェクションまたは形質導入を目的とするベクターに、上記細胞を曝露するステップと
を含む、方法に関する。
【0097】
上記に開示されるように、細胞を洗浄し再度培養するステップの後に、形質転換したT細胞前駆体(これらゲノムと一体化したトランスジーンを発現)が、入手される。
【0098】
また本発明は、改変したT細胞前駆体を入手するためのin vitroにおける方法であって、
a.TNF-αを含む培地において、固定したNotchリガンドの存在下で、CD34+細胞を培養するステップと、
b.少なくとも細胞培養の間の一部の期間の間、遺伝子編集に適切なエレメントを含むベクターまたは核酸配列に、上記細胞を曝露するステップと
を含む、方法に関する。
【0099】
これにより、遺伝子編集により改変したT細胞前駆体が、可能性のある洗浄ステップおよび培養ステップの後に入手される。
【0100】
また本発明は、免疫抑制された患者で使用するため、特に、数ケ月の間(少なくとも2ケ月、好ましくは少なくとも6ケ月)、この患者で免疫の再構成を可能にするためおよび/または上記患者の感染症に対する免疫保護を得るための、T細胞前駆体、特に本明細書中開示される方法により得られるT細胞前駆体に関する。
【0101】
特定の実施形態では、この患者は、免疫抑制された患者である。この不全の理由は、複数:遺伝性の免疫不全、白血病に関する化学療法、条件付け、幹細胞のみを含むグラフト、GVH(移植片対宿主病)の防止のための移植後の治療、患者の年齢、および感染症などの合併症、であり得る。
【0102】
特に、患者は、造血性幹細胞の移植前の治療による自身の免疫細胞の減少により、免疫抑制され得る。この実施形態では、グラフトは、同種グラフト(この場合、T細胞前駆体は、部分的にHLAが適合可能なドナーに由来するのが好ましい)、または自家グラフト(この場合、T細胞前駆体は、上記患者の遺伝子欠損を訂正することを可能にする遺伝子および/またはタンパク質を発現するために、ベクターにより選択的に形質転換されている)であり得る。
【0103】
T細胞前駆体は、好ましくは、CD7+細胞の集団(すなわち、この集団の細胞の少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%が、CD7マーカーを発現する集団)である。この集団もまた、本発明の一部である。特にこれは、本明細書中開示される方法により入手されやすい。特定の実施形態では、これは、本明細書中開示される方法により入手される。
【0104】
より具体的には、T細胞前駆体は、好ましくは、CD7+細胞の集団(すなわち、この集団における細胞の少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%がCD7マーカーを発現する集団)であり、ここでは、この集団におけるCD34-およびCD5-の細胞(CD7+でありCD34-およびCD5-である細胞)の割合が、80%超、より好ましくは85%超である。この集団もまた、本発明の一部である。特にこれは、本明細書中開示される方法により入手されやすい。特定の実施形態では、これは、本明細書中開示される方法により入手される。
【0105】
別の実施形態では、T細胞前駆体は、好ましくは、CD7+の細胞の集団(すなわちこの集団の細胞の少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%が、CD7マーカーを発現する集団)である。この集団では、細胞の50%超、より好ましくは60%超が、CD34マーカーを発現しない。この集団において、細胞の少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%が、CD1aマーカーを発現しない。この集団におけるCD7+CD1a-細胞の割合は、好ましくは少なくとも80%である。この集団もまた、本発明の一部である。特にこれは、本明細書中開示される方法により入手されやすい。特定の実施形態では、これは、本明細書中開示される方法により入手される。
【0106】
細胞が、表面のマーカー(CD7、CD34、CD5、またはCD1a)に対して陽性であるかどうかを決定するために、細胞を表面抗原に対する蛍光抗体でマークした後に、当該分野で知られているいずれかの方法、特にフローサイトメトリーを使用する。この原則は、集団の各細胞に関するシグナルが所定の強度で発せられ、当該シグナルが所定の閾値よりも高い場合に、細胞がこの抗原に関して陽性であるとみなされることである。
【0107】
CD34では、HPSCの集団からなる対照の集団(臍帯血または動員した末梢血から単離したものなど)が、適切な閾値を決定するために使用される。この細胞集団では、細胞は、CD34+CD7-CD5-、またはCD34+CD7-CD1a-である。この対照を用いて、別の集団における細胞がこれら抗原に対して陽性であるかどうかを決定するために使用される、各抗原に関する閾値を決定することが可能である。
【0108】
この対照の集団は、一般に、およそ90%のCD34+CD7-CD5-またはCD34+CD7-CD1a-の造血性幹細胞を含む。この閾値は、集団の細胞が90/10の割合で選別され得るシグナル強度レベルである。
【0109】
CD7(それぞれCD5またはCD1a)では、対照の集団は、当該分野で知られているいずれかの技術による末梢血単核細胞(PBMC)の単離により、特にFicoll-Paque PLUS(GE Healthcare Life Sciences)などの密度勾配技術により、使用され、入手される。CD7(それぞれCD5またはCD1a)陽性細胞は、抗CD7(それぞれ抗CD5または抗CD1a)抗体を伴う磁気ビーズを使用するMACS(登録商標)技術(Magnetic Cell Isolation and Cell Separation, Miltenyi Biotec)などの、当該分野で知られているいずれかの技術を使用して、単離される。この集団では、細胞は、基本的にCD7+(それぞれCD5+またはCD1a+)であり、この割合は約90/10であると考えられる。
【0110】
細胞が表面抗原に対して陽性であるかどうかを評価するための閾値は、この抗原に関する対照集団を使用して決定され、この対照集団の細胞の90%超が高いシグナル強度を有する強度であり得る。
【0111】
結果的に、細胞は、ある抗原に関する強度シグナルが、上記のように決定される閾値よりも高い場合に、この抗原に関して陽性であるとみなされ、この抗原に関するシグナル強度が上記のように決定される閾値よりも低い場合に、当該抗原に関して陰性であるとみなされる。
【0112】
集団におけるT細胞前駆体の大部分がCD1aマーカーを発現しないとの事実は、このCD1aマーカーを発現する細胞が胸腺に達するためにはあまり効率的ではなく、よって、in vivoにおける再増殖に関してCD1a-細胞と同程度の効率であり得るため、好適であることが判明し得る。CD1a+細胞の再構成の可能性は不確定であるため、よって、集団においてこのような細胞の量を少なくすることが好ましい。
【0113】
また本発明は、免疫抑制された患者を治療するため、特に、少なくとも一時的にこの患者において免疫の再構成を可能にする目的のための方法であって、上述したT細胞前駆体を上記患者に投与するステップを含む、方法に関する。
【0114】
また本発明は、TNF-α(上述のTNF-α)の存在下で、Notchリガンドと、好ましくはRGDSモチーフおよび/またはCS1モチーフを有するタンパク質またはペプチド、特に上述のAフィブロネクチンンフラグメントとに、CD34+細胞を上述の条件下で曝露することにより、当該前駆体を入手するステップを含み得る。
【0115】
特に、数ケ月(約6ケ月のオーダー)の間、感染症に関して保護的な役割を果たすことができる細胞を患者に提供することを可能にする、治療有効量、すなわち1kgあたり1~5×10個の前駆体のオーダーが、投与される。
【0116】
好ましくは、このT細胞前駆体の投与は、上記患者における造血性幹細胞の移植の直前、直後、または当該移植と同時に、行われる。上記からわかるように、注射された細胞は、上記患者の遺伝的欠損の訂正を可能にするように意図されたベクターにより、形質転換させることができる。
【0117】
別の実施形態では、T細胞前駆体は、造血性幹細胞移植を必要としない患者に注射される。実際に、免疫系を低減する化学療法を行うことを必要とせず、T細胞のみが冒されている一部の免疫不全、HIV、または癌の患者を(CAR-T細胞をもたらすように改変された前駆体を使用して)治療するために形質転換または形質導入されたT細胞前駆体を使用することが可能である。
【0118】
TNF-αを伴い開示された本発明の教示はまた、プリン誘導体のStemRegenin 1(SR1、Boitano et al, Science. 2010 Sep 10;329(5997):1345-8に開示)を用いた場合にも適用可能であることに留意されたい。よって、SR1は、分化の開始時および細胞の増殖時(細胞の数の増加時)に、CD34+細胞からT細胞前駆体を入手するため、TNF-αの代わりとなり得る(すなわち、TNF-αの代わりに使用され得る)。SR1の濃度は、好ましくは750nM(30ng/ml)の範囲にあるか、また、たとえば1500Mもしくは2500nM(100ng/ml)もしくはさらには5000nM(200ng/ml)などのより高い濃度、または500nM(20ng/ml)などのより低い濃度も、想定され得る。単独で使用する場合、しかしながら特にはTNF-αと併用する場合、3ng/mlまたは10ng/ml程度の著しく上記よりも低い濃度が、使用され得る。適切な濃度はまた、30ng/mlまたは100ng/mlを含む。結果として、3ng/ml超または10ng超であるいずれかの濃度が、CD34+細胞のT細胞前駆体への分化の増大に適切である。
【0119】
SR1は、芳香族炭化水素/ダイオキシン受容体(AhR)のリガンド(拮抗剤)である。CD34+細胞のT細胞前駆体系列への分化を促進するために、他のAhR拮抗剤が、単独、またはTNF-αと併用して使用され得る。拮抗剤として、レスベラトロール、オメプラゾール、ルテオリン、αナフトフラボン、メキシレチン、トラニラスト、6,2’,4’-トリメトキシフラボン、CH 223191(1-メチル-N-[2-メチル-4-[2-(2-メチルフェニル)ジアゼニル]フェニル-1H-ピラゾール-5-カルボキサミド、CAS 301326-22-7)を例として挙げることができる。AhR拮抗剤の量は、拮抗剤のIC50(SR1は127nMのIC50を有し、対してCH 223191は、30nMのIC50を有する)、ならびに一部の製品が、高濃度で使用する場合(αナフトフラボンなど)または細胞の状況に応じて(オメプラゾールなど)、AhRに対してアゴニスト活性を有し得るという事実を考慮して、当業者によりケースバイケースで決定される。SR1およびCH 223191の間のIC50の差異の観点から、CH 223191の有効な濃度は、本明細書中開示されるSR1の有効濃度よりも著しく低いことが予想される。
【0120】
結果として、本発明はまた、以下に関する:
(i)芳香族炭化水素/ダイオキシン受容体の拮抗剤、特にStemRegenin 1(SR1)を含む培地において、固定したNotchリガンドの存在下で、CD34+細胞を培養するステップを含む、T細胞前駆体を産生させるためのin vitroにおける方法。
(ii)培養培地がTNF-αをさらに含む上記のin vitroにおける方法。
(iii)芳香族炭化水素/ダイオキシン受容体の拮抗剤、特にSR1が、培養の0日目から培養培地に存在する、上記のin vitroにおける方法。
(iv)CD34+細胞が、成体のドナーまたは臍帯血から単離されている、上記のいずれかのin vitroにおける方法。
(v)細胞を、最大10日間、芳香族炭化水素/ダイオキシン受容体の拮抗剤、特にSR1の存在下で培養する、上記のいずれかのin vitroにおける方法。
(vi)細胞を、3~7日間、芳香族炭化水素/ダイオキシン受容体の拮抗剤、特にSR1の存在下で培養する、上記のいずれかのin vitroにおける方法。
(vii)芳香族炭化水素/ダイオキシン受容体の拮抗剤、特にSR1を、1ng/ml~300ng/ml、好ましくは1ng/ml以上、または3ng/ml以上、または10ng/ml以上、かつ好ましくは200ng/ml未満、または150ng/ml未満、一般には3ng/ml~100ng/mlの濃度で、培養培地に添加する、上記のいずれかのin vitroにおける方法。
(viii)Notchリガンドが、IgGタンパク質、好ましくはIgG2タンパク質のFc領域に融合した、デルタ様4リガンドの可溶性ドメインである、上記のいずれかのin vitroにおける方法。
(ix)細胞を、同様にフィブロネクチンフラグメントに曝露し、上記フラグメントが、RGDSパターンおよびCS-1パターン、ならびにヘパリン結合ドメインを含み、好ましくは培養容器の内面に固定されている、上記のいずれかのin vitroにおける方法。
(x)上記フィブロネクチンフラグメントが、上記に開示されるRetronectin(登録商標)である、上記のいずれかのin vitroにおける方法。
(xi)培養培地も、CD34+細胞のNotchリガンドへの曝露の少なくともある時点で、CD34+細胞のトランスフェクションまたは形質導入を目的とするベクターを含む、上記のいずれかのin vitroにおける方法。
(xii)培養培地が、インターロイキン7(IL-7)、SCF(幹細胞因子)、トロンボポエチン(TPO)、およびFlt3リガンド(FLT3L)からなる群から選択される、少なくとも3つ、好ましくは4つ全てのサイトカインまたは増殖因子を含む、上記のいずれかのin vitroにおける方法。
(xiii)T細胞前駆体を入手するための(in vitroにおける)方法であって、
a.上記のいずれかに記載の方法を行うステップと、
b.産生させたT細胞前駆体を精製するステップと、
c.任意選択で、患者に注射するためのパウチでT細胞前駆体を条件付けするステップと
を含む、方法。
(xiv)形質転換したT細胞前駆体を入手するためのin vitroにおける方法であって、
a.芳香族炭化水素/ダイオキシン受容体の拮抗剤、特にSR1を含む培地において、固定したNotchリガンドの存在下で、CD34+細胞を培養するステップと、
b.CD34+細胞のトランスフェクションまたは形質導入を目的とするベクターに、上記細胞を曝露するステップと
を含む、in vitroにおける方法。
(xv)改変したT細胞前駆体を入手するためのin vitroにおける方法であって、
a.芳香族炭化水素/ダイオキシン受容体の拮抗剤、特にSR1を含む培地において、固定したNotchリガンドの存在下で、CD34+細胞を培養するステップと、
b.遺伝子編集に適切なエレメントを含むベクターまたは核酸配列に、上記細胞を曝露するステップと
を含む、方法。
【0121】
また本発明は、以下を含む、上述のいずれかの方法を行うためのキットに関する:
(i)Notchのリガンド(特に、IgGタンパク質、特にIgG2タンパク質のFc領域に融合したDelta様リガンドの可溶性ドメイン)、および任意選択でフィブロネクチンフラグメントを含む、コーティング培地、
(ii)α-MEM培地、DMEM培地、RPMI 1640培地、IMDM培地、BME培地、マッコイ5A培地、StemSpan(商標)SFII培地(StemCell Technologies)培地、X-VIVO(商標)培地、またはFischeの培地などの、CD34+細胞およびT細胞を培養(および/または増殖)するために適合させた培地
(iii)TNF-α、ならびにSCF、TPO、Flt3L、およびIL-7から特に選択される、好ましくは3つのサイトカインを含む、前駆体増殖培地。前駆体増殖培地は、TNF-α、ならびに4つ全てのサイトカインのSCF、TPO、Flt3L、およびIL-7を含む場合が好ましい。
【0122】
別の実施形態では、本発明は、上述したものと同じエレメント(i)および(ii)と、芳香族炭化水素/ダイオキシン受容体の拮抗剤、特にはSR1、およびSCF、TPO、Flt3L、およびIL-7から特に選択される好ましくは3つのサイトカインを含む、前駆体増殖培地(iii)とを含む、キットに関する。前駆体増殖培地は、SR1と、4つ全てのサイトカインのSCF、TPO、Flt3L、およびIL-7とを含む場合が好ましい。
【0123】
別の実施形態では、前駆体増殖培地(iii)は、TNF-αと、芳香族炭化水素/ダイオキシン受容体の拮抗剤、特にはSR1と、SCF、TPO、Flt3L、およびIL-7から特に選択される好ましくは3つのサイトカインとを含む。前駆体増殖培地は、TNF-αと、SR1と、4つ全てのサイトカインのSCF、TPO、Flt3L、およびIL-7とを含む場合が好ましい。
【0124】
このようなキットは、特に、本明細書中開示される方法を行うように適合および設計されている。
【0125】
コーティング培地(i)は、最初に、培養容器の壁をコーティングするために使用される。
【0126】
次に、培地(ii)が、CD34+細胞(臍帯血、または、特には成体由来の動員した末梢血のいずれかから入手)を培養するために使用される。このような培地は、一般に好ましくは、1×の濃度で使用される(すなわち希釈を行わずに使用できる)。
【0127】
培地(iii)は、一般に、10×希釈として提示される(すなわち、使用するために培地(ii)で希釈されなければならない)。次に、培地(ii)および(iii)から再構成された培地が、上記に開示されるように、CD34+細胞のT細胞系列のT細胞前駆体への分化を促進させるために使用される。
【0128】
また本発明は、その必要がある対象においてT細胞の数を増加させるための方法であって、本明細書中開示される方法により入手される前駆体T細胞の有効な数を上記対象に投与するステップを含む、方法に関する。
【0129】
また本発明は、T細胞の数を増加させる必要のある対象の治療に関して使用するための、本明細書中開示されるいずれかの方法により入手される前駆体T細胞に関する。
【0130】
特には、対象はヒトである。
【0131】
特には、投与される前駆体T細胞は、自己由来である。別の実施形態では、投与される前駆体T細胞は、同種である。
【0132】
特に、T細胞の数を増加させる必要のある対象は、リンパ球減少症、特には癌、HIV感染、部分的な胸腺切除、自己免疫疾患、および/または臓器移植を引き起こすまたはもたらす病態を有する。
【図面の簡単な説明】
【0133】
図1】培養から3日目(黒色のバー)および7日目(累加された灰黒色のバー)の、臍帯血(CB、図1A)または動員した末梢血(mPB、図1B)由来の、20000個のCD34+細胞から開始して入手した有核細胞数の合計。NC:補充なし;SR1:StemRegenin 1(750nM)の添加;TNF-α:TNF-α(100ng/ml)の添加;+(a)、(b)、(c):補充物質を、培養の0~3日目(a)、培養の0~7日目(b)、または培養の4~7日目(c)から添加する場合に観察される細胞の数。
図2】臍帯血(CB、図2A)または動員した末梢血(mPB、図2B)由来の20000個のCD34+細胞から開始して、7日目に入手したCD7+T細胞前駆体の数。黒色のバー:CD34+CD7+細胞;灰色のバー:CD34-CD7+細胞。(a)、(b)、(c):補充物質を、培養の0~3日目(a)、培養の0~7日目(b)、または培養の4~7日目(c)から添加する場合に観察される細胞の数。
図3】Bcl11bの発現を、TNF-αの存在下(灰色のバー)または非存在下(黒色のバー)で培養した、臍帯血(CD)または動員した末梢血(mPB)由来のCD34+細胞から開始して得られた、7日間の培養後に生存していた細胞で、解析した。
図4】CD34+臍帯血細胞(CB、黒色のバー、左)または動員した末梢血(mPB、灰色のバー、右)から開始して7日目に入手したCD7+細胞の数に及ぼす、TNF-αおよびNotchリガンドDL4の併用作用(+-はDL4またはTNF-αの存在または非存在を意味する)。
図5】TNF-αの存在下(灰色のバー)または不存在下(黒色のバー)における、臍帯血(CB)または動員した末梢血(mPB)由来のCD34+細胞から開始して7日目に入手した骨髄系細胞の頻度(平均値±SEM)。
図6】臍帯血(CB、図6A)または動員した末梢血(mPB、図6B)由来のCD34+細胞から開始して、TNF-αの用量応答アッセイにおいて3日目から7日目に入手したCD7+細胞の総数。
図7】臍帯血(CB、図7A)または動員した末梢血(mPB、図7B)由来のCD34+細胞から開始した、TNF-αの用量応答アッセイにおけるCD34-CD7+細胞(灰色のバー)vsCD34+CD7+細胞(黒色のバー)の割合。
図8】細胞周期の異なる期における細胞の割合。A.CB:臍帯血から分化した細胞;B:動員した末梢血細胞から分化した細胞。NC:補充なし;TNF-α:TNF-α(20ng/ml)の存在下で培養:SR1:SR1(30ng/ml)の存在下での培養。
図9】7日間の培養後の、様々な濃度のTNF-αおよび/またはSR1の存在下での、臍帯血由来のCD34+細胞から開始して培養したCD5+CD7+細胞のパーセンテージ(A)および総数(B)。
【発明を実施するための形態】
【0134】
実施例
実施例1-材料および方法
ヒトの細胞
血液バンク(banking)の対象ではない臍帯血のサンプルは、小児の母親によるインフォームドコンセントの提供により、研究目的のために使用した。動員した末梢血(mPB)のサンプルは、G-CSFの動員後に健常なドナーから回収した。サンプルは、CD34+細胞に関して直接的に濃度を高めた。インフォームドコンセントは、各ドナーから提供された(Biotherapy Department, Necker Hospital, Paris)。
【0135】
NotchリガンドのDL-4へのCD34+前駆細胞の曝露
ヒトのCBのサンプルまたは動員した末梢血のサンプルに由来するCD34+細胞を、組み換え型のヒトフィブロネクチン(RetroNectin(登録商標)、Clontech/Takara)およびDL-4(5μg/ml、PX’Therapeutics, Grenoble, France)でコーティングした24ウェルプレートまたは6ウェルプレートで、培養した。コーティングは、37℃で2時間行い、DL-4をコーティングしたウェルはその後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中2%のウシ血清アルブミン(BSA)で、37℃で30分間ブロッキングし、PBSで洗浄した。NaHCO(7,5%)(Gibco, life Technology)、および20%の規定された(defined)ウシ胎仔血清(Hyclone, Thermo Fisher Scientific, Illkirch, France)、ならびに組み換え型ヒトサイトカインのインターロイキン-7(IL-7)、Flt3リガンド(Flt-3)、幹細胞因子(SCF)、およびトロンボポエチン(TPO)(全て100ng/mlであり、全てPeproTech Inc, Rocky Hill, NJから購入)を補充したα-MEM培地において、TNF-α(R&D Systems, US)を伴うかまたは伴わずに、2×10細胞/ウェルまたは1×10細胞/ウェル(それぞれ24ウェルプレートおよび6ウェルプレート)の濃度で、培養を開始した。3日間の培養後、細胞の半分を、新鮮な培地に置き換えた。培養した細胞を、それぞれ、DL-4上での培養から3日後および7日後に、蛍光活性化セルソーティング(FACS)により解析して、その後の解析からCD34-/CD7-骨髄細胞を除外した。
【0136】
OP9/DL1細胞でのin vitroにおけるT細胞の分化アッセイ
天然のCD34+CB細胞およびDL-4への曝露により産生されたTNF-α誘導性T細胞前駆体の、Tリンパ系の潜在性を、以前に記載される通り(Six et al, Blood Cells Mol Dis. 2011 Jun 15;47(1):72-8 and Six J Exp Med. 2007 Dec 24;204(13):3085-93)、OP9/DL-1共培養において評価した。
【0137】
RT2プロファイラーアレイを使用した、定量的なリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応
7日間の培養後、CD7+細胞を、AriaIIで選別した。3日目由来および7日目由来の選別した細胞のフラクションの総RNAを、Rneasy Micro Kit(Qiagen, Courtaboeuf, France)を用いて単離した。RT2 Profiler PCR arrayを、RT2 Profiler PCR Array Handbook(SA Biosciences, Frederick MD)に詳述されるプロトコルにしたがい、行った。
【0138】
フローサイトメトリー解析およびセルソーティング
ヒトのCD34(AC136)、CD3(BW264/56)、CD45(5B1)に対するモノクローナル抗体は、Miltenyi Biotech(Bergisch Gladbach, Germany)から購入し、CD4(SK4)、CD7(M-T701)、CD25(M-A251)、7-アミノアクチノマイシンD(7AAD)は、BD Biosciences(San Jose, CA)製であった。抗ヒトCD8(RPAT8)は、Sony Biotechnology(San Jose, USA)製であった。抗ヒトCtip2(Bcl11b)抗体は、Abcam(Cambridge, UK)製であった。
【0139】
ヒトの細胞を染色し、Gallios analyzer(Beckman Coulter, Krefeld, Germany)を使用して解析した。異種間のレシピエント由来の細胞を、MACSQuant(登録商標)装置(Miltenyi Biotech, Bergisch Gladbach, Germany)で解析した。これらデータを、7AAD陰性の生細胞に調節した後(gating on)、FlowJoソフトウェア(Treestar, Ashland, OR)を使用して解析した。
【0140】
細胞増殖アッセイ
細胞増殖アッセイのため、CB由来およびmPB由来のCD34+細胞を、CellTrace(商標)CFSEキット(Life Technologies, Carlsbad, CA)を使用して標識した後、DL-4およびTNF-α(Life Technologies)と共に培養した。細胞の染色の強度を、3日目から7日目まで、毎日、培養前に測定した。CFSE陽性細胞を、Gallios cytometer(Beckman Coulter)で解析した。
【0141】
細胞周期アッセイ
細胞周期解析のため、細胞を、室温で15分間PerFix-ncキット(Beckman Coulter)のFixative試薬(reagent)で固定し、浸透試薬(permeablizing reagent)を添加した後に、Hoechst33342(Life technology)およびKi67-PC5(BD Bioscience)で染色した。このデータを、7AAD陰性の生細胞に調節した後(gating on)、FlowJoソフトウェア(バージョン10.2, Treestar, Ashland, OR)を使用して解析した。
【0142】
in vitroにおいて産生させた成体のHSPC由来のT細胞前駆体のNSG新生仔への養子移入
動物を用いた全ての実験および手法は、仏国政府当局の動物実験に関する規則(French Ministry of Agriculture’s regulations on animal experiments)に従い行った。in vitroにおいて産生させたヒトのT細胞前駆体のNSGマウスへの注射は、高等教育・研究省(Ministry of Higher Education and Research)により承認された(APAFIS 2101-2015090411495178v4)。
【0143】
NSG(NOD-Scid(IL2Rgnull))マウス(Jackson Laboratory, Bar Harbor, MEから入手、http://www.jax.org)を、特定の病原体のいない施設(SPF:pathogen-free facility)で保存した。TNFα(3×10または1×10)を用いたかまたは用いなかった7日目のDL-4培養物におけるmPBのCD34+HSPC由来の後代を、NSG新生仔(生後0~4日齢)に、肝臓内注射した。対照マウスには、3×10個の培養していないmPB CD34+細胞または100μlのPBSを注射した。
【0144】
NSGマウスの移植レベルの平均を、移植後4~12週間目に判定した。フローサイトメトリーによる解析を、大腿骨、胸腺、末梢血、および脾臓からすばやく回収した細胞で行った。細胞を、1×の赤血球溶解バッファー(Biolegend, US)で処理し、洗浄した後に、抗体により染色した。
【0145】
T細胞受容体の多様性の解析
TCR遺伝子の再編成の解析を、二連で、2つの無関係に精製したサブセットで行った(平均を示す)。
【0146】
TCR-δの定量化(Dδ2-Dδ3、Dδ2-Jδ1、およびDδ3-Jδ1)を、プライマーおよびプローブの列挙したセットを用いて行った。
【0147】
以下を、Dδ2-Dδ3の再編成に使用した:
Dδ2、5’-CAAGGAAAGGGAAAAAGGAAGAA-3’(配列番号9);
Dδ3、5’-TTGCCCCTGCAGTTTTTGTAC-3’(配列番号10);および
D’3プローブ、5’-ATACGCACAGTGCTACAAAACCTACAGAGACCT-3’(配列番号11)
【0148】
以下のプライマーおよびプローブを、Dδ2-Jδ1の再編成に使用した:
Dδ2、5’-AGCGGGTGGTGATGGCAAAGT-3’(配列番号12);
Jδ1、5’-TTAGATGGAGGATGCCTTAACCTTA-3’(配列番号13);および
Jδ1プローブ、5’-CCCGTGTGACTGTGGAACCAAGTAAGTAACTC-3’(配列番号14)
【0149】
以下を、Dδ3-Jδ1の再編成に使用した:
Dδ3、5’-GACTTGGAGAAAACATCTGGTTCTG-3’(配列番号15);
Jδ1プライマーおよびJδ1プローブ
【0150】
マルチプレックスの蛍光PCRによるTCRの再編成の解析を、キャピラリーシーケンシングのポリマーにおける蛍光色素で標識した一本鎖PCR産物の分離により行い、自動化されたレーザスキャンを介して検出した。
【0151】
アポトーシスのアッセイ
細胞を、冷却したPBSにより洗浄し、1mlあたり100万個の細胞の濃度で、結合バッファーに再懸濁した。5μlのAnnexin V-PE(BD Bioscience)および2ulの7AADを添加した後に、細胞を、暗室において室温で15分間インキュベートした。その後、細胞を、500μlの結合バッファーで洗浄し、100μlの結合バッファーに再懸濁し、1時間以内に解析した。
【0152】
実施例2.T細胞前駆体の増殖および分化の改善
CD34+細胞をDL-4と共に培養した場合に、図1は、細胞培養培地へのTNF-αの添加が、臍帯血(図1A)またはPB(図1B)のいずれかからもたらされるCD34+細胞から開始した場合に、TNF-αを伴わない培養と比較して、7日目に回収された細胞の総数を10倍増加できることを示している。
【0153】
図2は、細胞培養培地へのTNF-αの添加が、臍帯血(図2A)またはPB(図B)のいずれかからもたらされるCD34+細胞から開始した場合に、CD7+細胞の数を20~40倍増加できることを示している。この改善は、特に、CD34-CD7+細胞集団で著しい。
【0154】
実施例3.T細胞前駆体の表面マーカーの解析
7日間の培養後に得られた細胞の表面に存在する表面マーカーを、フローサイトメトリーにより決定した。
【表1】
【0155】
【表2】
【0156】
これら表は、TNF-αの添加が、CD5+細胞の割合を実際に増加させることなく、CD7+細胞の割合の増加をもたらすことを示している。
【0157】
7日間の培養の後、HSPCは、CD34-CD7+CD5-T細胞前駆体に分化する。
【0158】
10日間の培養後に得られた細胞の表面に存在する表面マーカーもまた、フローサイトメトリーにより決定された。
CD1aの発現は見いだされなかった(データ不図示)。
【0159】
表面マーカーの修飾の動態を試験し、培養培地におけるTNF-αの存在が、4日目から最大7日目までCD7+の割合を増大させることが見いだされた(データ不図示)。
【0160】
実施例4.T細胞受容体の再編成
DL-4T細胞前駆体は、7日間の培養後に、TNF-αまたはSR1を伴うかまたは伴わない場合であっても、TCRの再編成の兆候を全く呈さなかった(データ不図示)。
【0161】
再編成の具体的な解析を行った:
TCRδの再編成の結果
CB-NCおよびCB-SR1におけるDδ2-Dδ3再編成の検出。他のTCRδの再編成は検出されなかった。結果は、RQ-PCR定量化によるものであった。
【0162】
TCRγの再編成の結果
TCRγの再編成は、検出されなかった。
【0163】
TCRβの再編成の結果
TCRβの再編成の結果は検出されなかった
【0164】
実施例5:TNF-α誘導性T細胞前駆体のTの関与
Bcl11bは、T細胞の関与から固有に活性となる重要な転写因子であり、T細胞の分化に絶対に必要である。
【0165】
TNF-αと共に培養したT細胞前駆体の細胞内染色は、臍帯血からもたらされるCD34+細胞およびmPBからもたらされるCD34+細胞の両方で、Bcl11bの陽性発現を示した。図3は、TNF-αが、Bcl11b転写因子を発現する細胞の総計の割合を増大させることを示している。TNF-αと共に培養した場合、細胞を発現するBcl11bの割合は増大した。
【0166】
実施例6:他の系列に関する分化
他の系列に特異的な他の細胞表面マーカー(CD14およびCD33)の存在を評価した。
【0167】
図5は、TNF-αの存在下での培養がこのような細胞を検出できなくし、この割合は、CD34+細胞をTNF-αを用いずに培養した場合22%未満であることを示している。
【0168】
実施例7:TNF-αは、細胞のアポトーシスを低減する
アポトーシスマーカー(7AADおよびAnnexin5)を試験した。
【表3】
【0169】
この表は、TNF-αの存在下の培養物が、アポトーシスマーカーの存在を低減することを示している。このことは、特にmPBで明らかである。
【0170】
実施例8:TNF-αの用量応答アッセイ
様々な用量のTNFαを使用した。
【0171】
図6は、TNFαが、CB細胞(図6A)またはmPB細胞(図6B)のいずれかで、濃度が10ng/ml超の場合に、培養中にCD7+の細胞数を増加させ得ることを示している。
【0172】
用量応答の動態は、TNF-αが、わずか4日間のDL-4における培養後に、T細胞の分化を増大させることを示している。濃度10ng/ml、50ng/ml、および100ng/mlの間では、差異は存在しなかった(不図示)。
【0173】
有効な濃度の閾値を決定するために、より低い濃度(0.01~10ng/ml
の解析を行った。
【0174】
T細胞の分化に及ぼすCBおよびmPBでのTNF-αの作用(CD34-CD7+細胞のパーセンテージ)が、低い濃度では濃度依存的であることが見いだされた(図7)。CD7+T細胞前駆体の総数は、5ng/ml~100ng/mlで異なってはいなかった。
【0175】
実施例9:培養中の増殖解析
TNF-αは、TNF-αを用いない培養条件と比較して、DL-4培養の3日目から、CD34+CD7+T細胞前駆体の増殖を増大させることが見いだされた(データ不図示)。
【0176】
実施例10:TNF-αとNotchリガンドとの間の相乗作用
図4は、DL4を用いない場合に、CBおよびmPBが両方とも、CD7+T細胞前駆体へ分化しなかったことを示している。さらにはTNF-αを用いた培地の補充は、これを回復することができなかった。
【0177】
TNF-αおよびNotchリガンドの両方が存在する場合、観察される作用は、著しく高い。よって、これら2つの化合物の間に相乗作用が存在することと、T細胞の分化に及ぼすTNF-αの作用が恐らくはNotchに依存していることとが、想定される。
【0178】
実施例11:TNF-αの添加は、CD7+前駆体の増殖を増大させる。
TNF-αの存在下での7日間の培養の後、CD34+CD7-、CD34+CD7+、およびCD34-CD7+のサブセットを選別し、CFSE(カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル)で染色し、その後、8日目~10日目に、CFSE(細胞増殖のサロゲートマーカー)の希釈を行った。
【0179】
CD34+CD7+細胞およびCD34-CD7+細胞のみが、TNF-αと共に培養した際に、増殖の増大を示した(データ不図示)。
【0180】
実施例12:細胞周期の解析
細胞周期の解析を行った。TNF-αの存在下で、CBに由来するCD7+前駆体およびmPB由来のCD7+前駆体の両方で、G0期からより多くの細胞が放出されたことが観察された(図8)。
【0181】
実施例13:SR1およびTNFαの併用
SR1は、7日目のCD5+CD7+細胞の存在により示されるように、T細胞の分化を加速させる。CD5+CD7+細胞数は、TNF-αおよびSR1の両方の存在により、増大する(図9)。
【0182】
実施例14:in vivoにおけるデータ
TNF-αの存在下で誘導されるT細胞前駆体は、in vivoにおいてT系列の再構成を著しく速めることが可能である。
【0183】
実際に、移植から4週間後に、TNF-αの存在下で産生させたmPB由来のT細胞前駆体を注射したレシピエントのマウスは、TNF-αを用いずに産生させたmPB由来のT細胞前駆体を注射したマウスよりも大きい胸腺を有している。TNF-αの存在下で誘導させたT細胞前駆体は、in vivoにおいて4週間以内に、活性化したTCRαβ細胞に分化することができる(データ不図示)。
【0184】
まとめると、DL-4培養システムにおける0日目からのTNF-αの添加は、7日目に、mPBのHSPCでは40倍およびCBのHSPCでは20倍のT細胞前駆体の増加(CD7の表面の発現により定義)をもたらす。
【0185】
CBおよびmPBから産生されたCD7+T細胞前駆体の両方は、ほとんどがCD34-であり、CD1a陰性であった。また細胞は、ほとんどがCD5陰性であった。
【0186】
これらは、T細胞の関与およびさらにはT細胞の分化に重要な微調整(fine-turning)分子である、Bcl11bを発現した。
【0187】
これらは、T細胞受容体の再編成の兆候を全く呈さなかった。
【0188】
これらの表現型および分子の特徴は、TNF-αを伴わずに得られたCD34-CD7+T細胞前駆体のうちの1つと類似していた。
【0189】
TNF-αの作用に関与する機構で、TNF-αは、アポトーシスマーカーの発現を減少させ、培養中の細胞増殖を増大させる。またこれは、骨髄細胞の産生を阻害する。
【0190】
DL-4培養システムにおけるTNF-αの使用は、ヒトの成体および臍帯血のHSPCから産生されるT細胞前駆体の両方の量を高い度合まで増加させる。よってこのことは、成体のHSPC由来の、多量のT細胞前駆体を入手する難しさを打開することが可能である。またこれは、将来の臨床試験で必要とされる開始時のHSPCの数、およびGMPグレードの量、および必要とされる他の試薬を減少させ、よって、これらT細胞前駆体の生産の費用を下げることが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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