(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20221026BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20221026BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20221026BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 A
H01M4/505
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2018113735
(22)【出願日】2018-06-14
【審査請求日】2021-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】藤原 啓介
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 誠祥
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-043787(JP,A)
【文献】特開2010-135329(JP,A)
【文献】特開2007-280627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/36
H01M 4/505
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造を有し、ニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物粒子と、モリブデン複合酸化物粒子とを含み、
前記モリブデン複合酸化物粒子は、ジルコニウム、マグネシウム、コバルト、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、ニッケル、亜鉛およびマンガンからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を含むモリブデン酸金属塩を含み、アルカリ金属元素の含有率が1重量%以下であり、
前記モリブデン酸金属塩は、モリブデン以外の金属元素の
総モル数のモリブデン
のモル数に対する割合が0.4以上1.1以下である非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記モリブデン複合酸化物粒子の前記リチウム遷移金属複合酸化物粒子に対する割合が、0.05モル%以上2モル%以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記モリブデン酸金属塩は、Zr(MoO
4)
2、MgMoO
4、Co
2(MoO
4)
3、CaMoO
4、BaMoO
4、SrMoO
4、NiMoO
4、ZnMoO
4およびMn(MoO
4)
2からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1または請求項2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記リチウム遷移金属複合酸化物粒子の体積平均粒径に対する前記モリブデン複合酸化物粒子の体積平均粒径の比が、0.03以上50以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、その組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数
の比が0.3以上1以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、下式で表される組成を有する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
Li
aNi
xCo
yM
1
zM
2
wO
2
(式中、0.95≦a≦1.5、0.3≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.45、0≦w≦0.05、x+y+z+w≦1、M
1はAl、MnおよびMgからなる群から選択される少なくとも1種であり、M
2はTi、Zr、W、Ta、NbおよびMoからなる群から選択される少なくとも1種である)
【請求項7】
層状構造を有し、ニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物粒子を準備することと、
ジルコニウム、マグネシウム、コバルト、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、ニッケル、亜鉛およびマンガンからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を含むモリブデン酸金属塩を含むモリブデン複合酸化物粒子を準備することと、
前記リチウム遷移金属複合酸化物粒子と、前記モリブデン複合酸化物粒子とを混合することとを含み、
前記モリブデン酸金属塩は、モリブデン以外の金属元素
の総モル数のモリブデン
のモル数に対する割合が0.4以上1.1以下である非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極活物質およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウムなどの層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物は、作用電圧が4Vと高く、また大きな容量が得られるため、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルカメラ等の電子機器の電源又は車載用バッテリーとして広く用いられている。電子機器および車載用バッテリーの高機能化に伴い、更なる高容量化、充放電サイクル特性の向上に加えて安全性の向上が求められている。
【0003】
例えば特許文献1には、リチウム遷移金属複合酸化物に、ストロンチウム、タングステンおよびアンチモンの少なくとも1種と、モリブデンとを含有させた正極活物質が記載され、充填性が良好で、さらに充放電サイクル特性が改善されるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一態様は、充電電圧を高電圧とした場合において、安全性および充放電サイクル特性とを両立可能な非水電解質二次電池を構成する非水電解質二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一の態様は、層状構造を有し、ニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物粒子と、モリブデン複合酸化物粒子とを含み、前記モリブデン複合酸化物粒子は、ジルコニウム、マグネシウム、コバルト、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、ニッケル、亜鉛およびマンガンからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素とモリブデンとを含み、アルカリ金属元素の含有率が1重量%以下である非水電解質二次電池用正極活物質である。
【0007】
第二の態様は、層状構造を有し、ニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物粒子を準備することと、ジルコニウム、マグネシウム、コバルト、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、ニッケル、亜鉛およびマンガンからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素とモリブデンとを含むモリブデン複合酸化物粒子を準備することと、前記リチウム遷移金属複合酸化物粒子と、前記モリブデン複合酸化物粒子とを混合することとを含む非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、安全性と充放電サイクル特性に優れる非水電解質二次電池を構成可能な非水電解質二次電池用正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1に係る走査型電子顕微鏡(SEM)画像の一例を示す図である。
【
図2】実施例6に係るSEM画像の一例を示す図である。
【
図3】比較例5に係るSEM画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施形態に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、非水電解質二次電池用正極活物質等を例示するものであって、本発明は、以下に示す非水電解質二次電池用正極活物質等に限定されない。なお特許請求の範囲に示される部材を、実施形態の部材に限定するものでは決してない。本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また「組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0011】
非水電解質二次電池用正極活物質
非水電解質二次電池用正極活物質は、層状構造を有し、ニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物粒子と、モリブデン複合酸化物粒子とを含む。モリブデン複合酸化物粒子は、ジルコニウム、マグネシウム、コバルト、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、ニッケル、亜鉛およびマンガンからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素とモリブデンと酸素とを含む複合酸化物を含む粒子である。モリブデン複合酸化物粒子をリチウム複合酸化物粒子とは独立した状態で含む正極活物質を用いて構成される非水電解質二次電池は、安全性と充放電サイクル特性に優れ、特に高電圧での長期の充放電サイクルに優れる。従来のようにリチウム化合物と、2種以上の遷移金属元素を含む化合物と、モリブデン酸化物と、モリブデン以外の金属酸化物と、を含む原料混合物を熱処理した場合には、モリブデンとモリブデン以外の金属酸化物由来の金属とを組成に含むリチウム遷移金属複合酸化物の他に、リチウムモリブデン複合酸化物が生成する。これらリチウムモリブデン複合酸化物は、電解液へ溶出するため、特に高電圧下でのサイクル特性に影響する場合があった。本実施形態のようにリチウム遷移金属複合酸化物粒子と、アルカリ金属の含有率が1重量%以下であるモリブデン複合酸化物粒子とを混合することにより得られる正極活物質を用いた二次電池においては、モリブデン複合酸化物中に含まれるアルカリ金属の含有率が1重量%以下であるため、モリブデン複合酸化物が電解液に溶出することを抑制することができるので、サイクル特性が改善するとともに、モリブデン複合酸化物による電解液の分解を抑制することができるので安全性が向上すると考えられる。
【0012】
正極活物質は、モリブデン複合酸化物粒子を、リチウム遷移金属複合酸化物粒子とは独立して含む。独立して含むとは、モリブデン複合酸化物粒子とリチウム遷移金属複合酸化物粒子とが互いに固着したり、粒子間の界面で複合化合物等を形成したりすることなく、各々の粒子が容易に分離可能な状態で正極活物質に含まれていることを意味する。このような正極活物質は、モリブデン複合酸化物粒子とリチウム遷移金属複合酸化物粒子とを、強い剪断力を付与する混合処理または加熱処理等をすることなく、単に混合することで得ることができる。なお、正極活物質の製造方法の詳細については後述する。
【0013】
正極活物質におけるモリブデン複合酸化物粒子のリチウム遷移金属複合酸化物粒子に対する割合は、リチウム遷移金属複合酸化物粒子のリチウム以外の金属の総モル数に対するモリブデン複合酸化物粒子におけるモリブデンのモル数の割合として、例えば0.05モル%以上2モル%以下であり、好ましくは0.1モル%以上1.5モル%以下、より好ましくは0.2モル%以上1モル%以下である。モリブデン複合酸化物粒子の含有割合が前記範囲であると、安全性と充放電サイクル特性をより優れたレベルで両立することができる。
【0014】
本実施形態に係る正極活物質では、リチウム遷移金属複合酸化物粒子とモリブデン複合酸化物粒子とが独立して存在していることで、例えば充放電に伴うモリブデン複合酸化物粒子から電解液へのモリブデンの溶出が抑制される。モリブデンの電解液へ溶出が抑制されることで、充放電サイクル特性が向上する傾向がある。充放電に伴って電解液に溶出したモリブデンは負極に析出すると考えられる。したがって、モリブデンの電解液への溶出量は、負極に析出したモリブデンを再溶解して、誘導結合プラズマ発光分光分析を行うことで評価することができる。正極活物質におけるモリブデンの溶出割合は、正極活物質に含まれるモリブデン複合酸化物粒子の総量に対して、例えば10質量%以下であり、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0015】
本実施形態に係る正極活物質を用いて構成される非水電解質二次電池では、安全性が向上する。ここで安全性が向上するとは、例えば充放電に伴う電解液の分解が抑制されることを意味する。正極活物質による安全性の向上は、例えば電解液と正極活物質を含む試料を示差走査熱量分析することで評価することができる。具体的には、例えば電解液に浸した正極活物質を含む試料を示差走査熱量分析し、250℃以下の温度範囲における発熱最大ピーク高さを測定し、モリブデン複合酸化物粒子を含まない正極活物質における発熱最大ピーク高さを100とした場合のモリブデン複合酸化物粒子含む正極活物質の相対ピーク高さにて安全性を評価することができる。相対ピーク高さが低い程、電解液の分解が抑制され、安全性に優れるといえる。相対ピーク高さは、例えば70以下であり、好ましくは60以下、より好ましくは30以下である。
【0016】
リチウム遷移金属複合酸化物
リチウム遷移金属複合酸化物粒子を構成するリチウム遷移金属複合酸化物は、層状構造を有し、その組成に遷移金属として少なくともニッケルを含む。リチウム遷移金属複合酸化物の組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比は、例えば0.3以上1以下であって、好ましくは0.4以上0.97以下、より好ましくは0.45以上0.95以下である。
【0017】
リチウム遷移金属複合酸化物は、その組成にコバルトを含んでいてもよい。リチウム遷移金属複合酸化物がコバルトを含む場合、その組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比は、例えば0.01以上0.45以下であり、好ましくは0.02以上0.4以下である。またリチウム遷移金属複合酸化物の組成におけるニッケルのモル数に対するコバルトのモル数の比は、例えば0.01以上1.5以下であり、好ましくは0.02以上1以下である。
【0018】
リチウム遷移金属複合酸化物は、アルミニウムおよびマンガンの少なくとも一方である第一金属元素を組成に含んでいてもよい。リチウム遷移金属複合酸化物が第一金属元素を含む場合、その組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対する第一金属元素のモル数の比は、例えば0.01以上0.45以下であり、好ましくは0.02以上0.4以下である。
【0019】
リチウム遷移金属複合酸化物が、ニッケルに加えてコバルトおよび第一金属元素を含む場合、コバルトおよび第一金属元素の総モル数に対するニッケルのモル数の比は、例えば0.45以上50以下であり、好ましくは0.5以上25以下である。
【0020】
リチウム遷移金属複合酸化物は、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)およびモリブデン(Mo)からなる群より選択される少なくとも一種である第二金属元素を含んでいてもよい。リチウム遷移金属複合酸化物が第二金属元素を含む場合、その組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対する第二金属元素のモル数の比は、例えば0.001以上0.05以下であり、好ましくは0.002以上0.02以下である。
【0021】
リチウム遷移金属複合酸化物に含まれるリチウム以外の金属の総モル数に対するリチウムのモル数の比は、例えば0.95以上1.5以下であり、好ましくは0.98以上1.25以下である。またリチウム以外の金属の総モル数に対する酸素原子のモル数の比は、例えば1.8以上2.2以下である。
【0022】
リチウム遷移金属複合酸化物は、例えば下式で表される組成を有していてもよい。
LiaNixCoyM1
zM2
wO2
式中、0.95≦a≦1.5、0.3≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.45、0≦w≦0.05、x+y+z+w≦1、M1はAlおよびMnの少なくとも一方を含み、少なくともMnを含むことが好ましい。M2は、Mg、Ti、Zr、W、Ta、NbおよびMoからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0023】
リチウム遷移金属複合酸化物粒子の体積平均粒径は、例えば1μm以上30μm以下であり、好ましくは2μm以上25μm以下である。なお、平均粒径は、レーザー回折式粒径分布測定装置を用いて、体積基準の累積粒度分布を測定し、小粒径側からの体積累積50%に対応する粒径として求められる中心粒径(D50)である。
【0024】
リチウム遷移金属複合酸化物粒子は、市販品から適宜選択して用いてもよく、所望の組成を有する複合酸化物を調製し、これをリチウム化合物とともに熱処理してリチウム遷移金属複合酸化物粒子を調製して用いてもよい。例えば、ニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物粒子は、例えば以下のようにして得ることができる。
【0025】
溶媒に可溶な原料化合物(酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩等)を目的組成に合わせて溶媒に溶解して混合溶液を得る。得られる混合溶液に対して温度調整、pH調整、錯化剤投入等の手法を適用することにより前駆体の沈殿物を得る。次いで得られる前駆体を熱処理することによって所望の組成を有する複合酸化物を得ることができる。このような共沈法による複合酸化物の調製方法の詳細については、例えば特開2003-292322号公報、特開2011-116580号公報(これらは、その開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)等を参照することができる。次いで得られる複合酸化物をリチウム化合物とともに熱処理することで所望の組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物を調製することができる。
【0026】
モリブデン複合酸化物粒子
モリブデン複合酸化物粒子を構成するモリブデン複合酸化物は、モリブデンに加えて、ジルコニウム、マグネシウム、コバルト、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、ニッケル、亜鉛およびマンガンからなる群から選択される少なくとも1種の第三金属元素を含む。モリブデン複合酸化物が特定の第三金属元素を含むことで、モリブデン複合酸化物粒子を含む正極活物質を含む非水電解質二次電池では、安全性と充放電サイクル特性がより向上する。モリブデン複合酸化物としては、例えばモリブデン酸金属塩を用いることができる。
【0027】
第三金属元素は、安全性と充放電サイクル特性の観点から、ジルコニウム、マグネシウムおよびコバルトからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、ジルコニウムおよびマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0028】
モリブデン複合酸化物におけるモリブデン以外の金属元素の割合は、その価数に応じて適宜選択することができる。モリブデン複合酸化物は、その組成におけるモリブデンのモル数に対するモリブデン以外の金属元素の総モル数の割合が、例えば0.4以上1.1以下であり、好ましくは0.45以上1.05以下である。第三金属元素の含有比が前記範囲であると、安全性と充放電サイクル特性がより向上する傾向がある。
【0029】
またモリブデン複合酸化物は、安全性の観点から、アルカリ金属元素の含有率が低いことが好ましい。モリブデン複合酸化物におけるアルカリ金属元素の含有率は、例えば1重量%未満であり、好ましくは0.5重量%以下であり、より好ましくは0.1重量%未満である。
【0030】
モリブデン複合酸化物粒子の体積平均粒径は、例えば0.1μm以上50μm以下であり、好ましくは0.2μm以上30μm以下である。
【0031】
リチウム遷移金属複合酸化物粒子に対するモリブデン複合酸化物粒子の体積平均粒径の比は、安全性と充放電サイクル特性の観点から、例えば0.03以上50以下であり、好ましくは0.08以上15以下である。
【0032】
モリブデン複合酸化物粒子は、市販品から適宜選択して用いることができる。また、モリブデンを含む金属化合物を含む混合物を熱処理することで、所望の組成を有するモリブデン複合酸化物粒子を調製してもよい。
【0033】
非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法
非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、層状構造を有し、ニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物粒子を準備する第一準備工程と、ジルコニウム、マグネシウム、コバルト、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、ニッケル、亜鉛およびマンガンからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素とモリブデンを含むモリブデン複合酸化物粒子を準備する第二準備工程と、リチウム遷移金属複合酸化物粒子と、モリブデン複合酸化物粒子とを混合する混合工程とを含む。
【0034】
第一準備工程では、リチウム遷移金属複合酸化物粒子を準備する。リチウム遷移金属複合酸化物粒子は、市販品から適宜選択して準備してもよく、所望の組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物を調製して準備してもよい。また第二準備工程では、モリブデン複合酸化物粒子を準備する。モリブデン複合酸化物粒子は、市販品から適宜選択して準備してもよく、所望の組成を有するモリブデン複合酸化物を調製して準備してもよい。
【0035】
混合工程では、準備したリチウム遷移金属複合酸化物粒子とモリブデン複合酸化物粒子とを混合する。混合は、モリブデン複合酸化物粒子とリチウム遷移金属複合酸化物粒子とが、機械的または熱的エネルギー等の付与により化学的に反応したり、物理的に変化したりすることが抑制される方法であれば、その方法は特に限定されない。例えば高速せん断ミキサー、羽根式撹拌装置等を用いて行うことができる。
【0036】
非水電解質二次電池用正極
非水系電解質二次電池用電極は、集電体と、集電体上に配置され、前記非水系電解質二次電池用正極活物質を含む正極活物質層とを備える。係る電極を備える非水系電解質二次電池は、高い耐久性と高い出力特性とを達成することができると共に、安全性と充放電サイクル特性に優れる。
【0037】
集電体の材質としては例えば、アルミニウム、ニッケル、ステンレス等が挙げられる。正極活物質層は、上記の正極活物質、導電材、結着剤等を溶媒と共に混合して得られる正極合剤を集電体上に塗布し、乾燥処理、加圧処理等を行うことで形成することができる。導電材としては例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、アセチレンブラック等が挙げられる。結着剤としては例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミドアクリル樹脂等が挙げられる。
【0038】
非水系電解質二次電池
非水系電解質二次電池は、上記非水系電解質二次電池用電極を備える。非水系電解質二次電池は、非水系電解質二次電池用電極に加えて、非水系二次電池用負極、非水系電解質、セパレータ等を備えて構成される。非水系電解質二次電池における、負極、非水系電解質、セパレータ等については例えば、特開2002-075367号公報、特開2011-146390号公報、特開2006-12433号公報(これらは、その開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)等に記載された、非水系電解質二次電池用のものを適宜選択して用いることができる。
【実施例】
【0039】
本発明に係る実施例を以下に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の平均粒径は、レーザー散乱法によって得られる体積分布における小粒径側からの体積積算値が50%となる値を用いた。具体的にはレーザー回折式粒径分布装置((株)島津製作所製SALD-3100)を用いて平均粒径を測定した。
【0040】
[実施例1]
共沈法により、(Ni0.5Co0.2Mn0.3)(OH)x(x=2から3)で表される複合水酸化物を得た。得られた複合水酸化物と、炭酸リチウムとを、Li:(Ni+Co+Mn)=1.08:1のモル比となるように混合し、原料混合物を得た。得られた原料混合物を大気雰囲気下、850℃で2.5時間焼成し、引き続き960℃で8時間焼成し、焼結体を得た。得られた焼結体を粉砕し、乾式篩を通した。これにより、組成式Li1.08Ni0.5Co0.2Mn0.3O2で表され、平均粒径が17μmであるリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0041】
得られたリチウム遷移金属複合酸化物と、モリブデン酸ジルコニウム(Zr(MoO
4)
2)とを、モリブデン酸ジルコニウムがリチウム遷移金属複合酸化物に対してモリブデンとして0.5mol%となるよう高速せん断ミキサーで混合し、目的の非水系二次電池用正極活物質1を得た。得られた正極活物質1のSEM画像を
図1に示す。得られた正極活物質1は、
図1に示すようにリチウム遷移金属複合酸化物粒子2とモリブデン酸ジルコニウムを含むモリブデン複合酸化物粒子1の混合物であった。
【0042】
[実施例2]
モリブデン酸ジルコニウムの代わりにモリブデン酸マグネシウム(MgMoO4)を用いたこと以外は実施例1と同様に行い、目的の非水系二次電池用正極活物質2を得た。
【0043】
[実施例3]
モリブデン酸ジルコニウムの代わりにモリブデン酸コバルト(Co2(MoO4)3)を用いたこと以外は実施例1と同様に行い、目的の非水系二次電池用正極活物質3を得た。
【0044】
[実施例4]
モリブデン酸ジルコニウムの代わりにモリブデン酸カルシウム(CaMoO4)を用いたこと以外は実施例1と同様に行い、目的の非水系二次電池用正極活物質4を得た。
【0045】
[実施例5]
モリブデン酸ジルコニウムの代わりにモリブデン酸バリウム(BaMoO4)を用いたこと以外は実施例1と同様に行い、目的の非水系二次電池用正極活物質5を得た。
【0046】
[実施例6]
モリブデン酸ジルコニウムの代わりにモリブデン酸ストロンチウム(SrMoO
4)を用いたこと以外は実施例1と同様に行い、目的の非水系二次電池用正極活物質6を得た。得られた正極活物質6のSEM画像を
図2に示す。得られた正極活物質6は、
図2に示すようにリチウム遷移金属複合酸化物粒子2とモリブデン酸ストロンチウムを含むモリブデン複合酸化物粒子1の混合物であった。
【0047】
[実施例7]
モリブデン酸ジルコニウムの代わりにモリブデン酸ニッケル(NiMoO4)を用いたこと以外は実施例1と同様に行い、目的の非水系二次電池用正極活物質7を得た。
【0048】
[実施例8]
モリブデン酸ジルコニウムの代わりにモリブデン酸亜鉛(ZnMoO4)を用いたこと以外は実施例1と同様に行い、目的の非水系二次電池用正極活物質8を得た。
【0049】
[実施例9]
モリブデン酸ジルコニウムの代わりにモリブデン酸マンガン(Mn(MoO4)2)を用いたこと以外は実施例1と同様に行い、目的の非水系二次電池用正極活物質9を得た。
【0050】
[比較例1]
モリブデン酸ジルコニウムの代わりにモリブデン酸ナトリウム(Na2MoO4)を用いたこと以外は実施例1と同様に行い、非水系二次電池用正極活物質C1を得た。
【0051】
[比較例2]
モリブデン酸ジルコニウムの代わりにモリブデン酸カリウム(K2MoO4)を用いたこと以外は実施例1と同様に行い、非水系二次電池用正極活物質C2を得た。
【0052】
[比較例3]
モリブデン酸ジルコニウムの代わりにモリブデン酸リチウム(Li2MoO4)を用いたこと以外は実施例1と同様に行い、非水系二次電池用正極活物質C3を得た。
【0053】
[比較例4]
実施例1で得られたリチウム遷移金属酸化物粒子を用いて、非水系二次電池用正極活物質C4を得た。
【0054】
[比較例5]
共沈法により、(Ni
0.5Co
0.2Mn
0.3)(OH)
x(x=2から3)で表される複合水酸化物を得た。得られた複合水酸化物と、炭酸リチウム、炭酸ストロンチウムおよび酸化モリブデンとを、Li:(Ni+Co+Mn):Sr:Mo=1.08:1:0.005:0.005のモル比となるように混合し、原料混合物を得た。得られた原料混合物を大気雰囲気下、850℃で2.5時間焼成し、引き続き960℃で8時間焼成し、焼結体を得た。得られた焼結体を粉砕し、乾式篩を通した。これにより、モリブデンとストロンチウムを組成に含むリチウム遷移金属複合酸化物とストロンチウムモリブデン複合酸化物(例えばSrMoO
4、LiSr
2MoO
5.5など)が複合化した複合物粒子が得られたと考えられ、これら複合物粒子を用いて、非水系二次電池用正極活物質C5を得た。得られた正極活物質C5のSEM画像を
図3に示す。
図3に示すように得られた正極活物質C5においては、リチウム遷移金属複合酸化物等を含む複合物粒子3は確認できたが、モリブデン酸複合酸化物粒子は確認できなかった。
【0055】
<サイクル評価用電池の作製>
実施例1から9および比較例1から5の正極活物質をそれぞれ用い、以下の要領で評価用の非水電解液二次電池を得た。
【0056】
[正極の作製]
正極活物質85質量部、アセチレンブラック10質量部、ポリフッ化ビニリデン5質量部をN-メチルピロリドンに分散させて正極スラリーを得た。得られた正極スラリーをアルミニウム箔からなる集電体に塗布し、乾燥後ロールプレス機で圧縮成形し、所定サイズに裁断して正極を得た。
【0057】
[負極の作製]
人造黒鉛97.5質量部、カルボキシメチルセルロース1.5質量部、スチレンブタジエンゴム1.0質量部を水に分散させて負極スラリーを得た。得られた負極スラリーを銅箔からなる集電体に塗布し、乾燥後ロールプレス機で圧縮成形し、所定サイズに裁断して負極を得た。
【0058】
[非水電解液の作製]
エチルカーボネートとメチルエチルカーボネートを体積比3:7で混合し、混合溶媒を得た。得られた混合溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウムを、その濃度が1.0mol%となるように溶解させ、非水電解液を得た。
【0059】
[非水電解液二次電池の組み立て]
上記正極と負極の集電体に、それぞれリード電極を取り付けたのち120℃で真空乾燥を行った。次いで、正極と負極との間に多孔性ポリエチレンからなるセパレータを配し、袋状のラミネートパックにそれらを収納した。収納後60℃で真空乾燥して各部材に吸着した水分を除去した。真空乾燥後、ラミネートパック内に、上記非水電解液を注入、封止し、評価用電池としてのラミネートタイプの非水電解液二次電池を得た。得られた評価用電池を用い、以下の電池特性の評価を行った。
【0060】
<充放電サイクル特性の評価>
評価用電池を45℃の恒温槽に設置し、充電電圧4.3Vで定電圧充電を行った。充電後、放電電圧2.75Vで定電圧放電を行い、1サイクル目の放電容量Qdcyc(1)を測定した。以下充電と放電を繰り返し、最後に200サイクル目の放電容量Qcyc(200)を測定した。得られたQcyc(1)でQcyc(200)を除して200サイクル後の容量維持率Pcyc(=Qcyc(200)/Qcyc(1))(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0061】
<モリブデン溶出量評価>
200サイクル終了後の評価用電池から負極を取り出し、取り出した負極から負極活物質層を剥ぎ取り、剥ぎ取った負極活物質層を所定量の塩酸で洗浄した。得られる洗浄液中のモリブデンの含有量を誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置を用いて定量した。ICP発光分光分析装置で測定したモリブデン量を正極活物質層中に含有させたモリブデン量で除した値をモリブデン溶出率(%)とした。結果を表1に示す。
【0062】
<熱安定性評価用電池の作製>
実施例1から9および比較例1から5の正極活物質をそれぞれ用い、以下の要領で評価用の非水電解液二次電池を得た。
【0063】
[正極極板の作製]
上記で得られた正極活物質92質量部、アセチレンブラック3質量部、ポリフッ化ビニリデン5質量部をN-メチルピロリドンに分散させて正極スラリーを得た。得られた正極スラリーをアルミニウム箔からなる集電体に塗布し、乾燥後、所定サイズに裁断し、プレス機で圧縮成形して正極極板を得た。
【0064】
[非水電解液の作製]
エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートを体積比3:7で混合し、混合溶媒を得た。得られた混合溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウムを、その濃度が1.0mol/Lとなるように溶解させて、非水電解液を得た。
【0065】
[非水電解液二次電池の組み立て]
上記で得られた正極極板に、リード電極を取り付けたのち110℃で真空乾燥を行った。次いで、正極極板を多孔性ポリエチレンからなるセパレータで包み、袋状のラミネートパックにそれを収納しアルゴンドライボックスに入れた。アルゴンドライボックス中で、所定サイズに裁断した金属Li箔をリード付きSUS板に貼り付け、負極極板を得た。正極と負極の極板を配し、ラミネートパックに収納後、上記で得られた非水電解液を注入、封止し、評価用電池としてラミネートタイプの非水電解液二次電池(単極セル)を得た。得られた評価用電池を用い、以下の電池特性の評価を行った。
【0066】
<熱安定性評価>
作製した評価用電池を用いて示差走査熱量(DSC)測定を行って熱安定性を評価した。まず、評価用電池について、充放電試験装置(TOSCAT-3100、東洋システム株式会社製)を用いて、2.75Vから4.5Vの条件にて3回充放電を行った後、25℃にて、充電速度0.2Cでの4.5V定電流定電圧充電を15時間行った。その後、リチウムイオン二次電池を充放電試験装置から取り出し、グローブボックス内で解体し、正極を取り出してその一部を切り出し(5mg)、非水電解液4μLと共にDSC用耐圧密閉パンに入れることでDSC測定用のサンプルを完成させた。示差走査熱量計としては「EXSTAR6000」(セイコーインスツル社製)を使用し、60℃から385℃まで5℃/分の速度で昇温したときの250℃以下における発熱最大ピークの高さを測定した。結果を表1に示す。表1には、モリブデン複合酸化物粒子を含まない比較例4における発熱最大ピークの高さを100とした場合の各サンプルの相対ピーク高さを合わせて示す。
【0067】
【0068】
以上のように、リチウム遷移金属複合酸化物粒子と、特定の金属元素を含むモリブデン複合酸化物粒子とを含む正極活物質を用いて構成される非水電解質二次電池は、安全性と充放電サイクル特性を両立できる。
【符号の説明】
【0069】
1:モリブデン複合酸化物粒子
2:リチウム遷移金属複合酸化物粒子
3:リチウム遷移金属複合酸化物を含む複合物粒子