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  • 特許-射出成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】射出成形体
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/42 20060101AFI20221026BHJP
   C08F 214/18 20060101ALI20221026BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20221026BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20221026BHJP
   B29K 27/12 20060101ALN20221026BHJP
【FI】
B29C33/42
C08F214/18
B29C45/26
B29C45/00
B29K27:12
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022027019
(22)【出願日】2022-02-24
(65)【公開番号】P2022132163
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2021031093
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021031090
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】津田 早登
(72)【発明者】
【氏名】井坂 忠晴
(72)【発明者】
【氏名】善家 佑美
(72)【発明者】
【氏名】山本 有香里
(72)【発明者】
【氏名】山口 安行
(72)【発明者】
【氏名】濱田 博之
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-006648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/42
C08F 214/18
B29C 45/26
B29C 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面部と、前記底面部の周縁から立設する側面部と、を備える射出成形体であって、
前記側面部の前記底面部からの高さが、3.8cm以上であり、
前記側面部の前記底面部からの高さと前記側面部の平均厚みとの比率(高さ/厚み)が、19.0以上であり、
前記側面部の下端部にかかる荷重が、0.8kPa以上であり、
前記射出成形体が、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位を含有する共重合体を含有しており、
前記共重合体のフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位の含有量が、全単量体単位に対して、4.5~6.0質量%であり、前記共重合体の372℃におけるメルトフローレートが、38.0~55.0g/10分であり、前記共重合体の官能基数が50個以下である
射出成形体。
【請求項2】
前記側面部の比重が、2.05~2.25g/cmである請求項1に記載の射出成形体。
【請求項3】
前記底面部の形状が、略円形状または略楕円形状である請求項1または2に記載の射出成形体。
【請求項4】
前記側面部の上端に形成された開口部をさらに備える請求項1~3のいずれかに記載の射出成形体。
【請求項5】
前記共重合体の前記フルオロ(アルキルビニルエーテル)単位が、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位である請求項1~4のいずれかに記載の射出成形体。
【請求項6】
前記共重合体の前記フルオロ(アルキルビニルエーテル)単位の含有量が、全単量体単位に対して、4.7~5.6質量%である請求項1~5のいずれかに記載の射出成形体。
【請求項7】
前記共重合体の融点が、295~315℃である請求項1~のいずれかに記載の射出成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、射出成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスには、通常、水や薬液によりウェハーを処理する工程が含まれる。このような処理工程において用いる装置として、たとえば、特許文献1には、洗浄を行うウェハーを上面に固定して回転可能な回転テーブルのようなウェハースピンベースを備えており、このようなウェハースピンベースが凹形容器からなるウェハーカップ内に配置されている半導体洗浄装置が記載されている。
【0003】
特許文献2には、熱溶融性フッ素樹脂を含む組成物を射出成形して得られる射出方向の投影面積1100cm以上の射出成形品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-54269号公報
【文献】特開2013-71341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示では、側面部の高さが大きく、側面部の厚みを小さい射出成形体であって、高温での耐摩耗性、高温での耐クラック性および高温での耐変形性のいずれにも優れており、外観が美麗な射出成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示によれば、底面部と、前記底面部の周縁から立設する側面部と、を備える射出成形体であって、前記側面部の前記底面部からの高さが、3.8cm以上であり、前記側面部の前記底面部からの高さと前記側面部の平均厚みとの比率(高さ/厚み)が、19.0以上であり、前記側面部の下端部にかかる荷重が、0.8kPa以上であり、前記射出成形体が、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位を含有する共重合体を含有しており、前記共重合体のフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位の含有量が、全単量体単位に対して、4.5~6.0質量%であり、前記共重合体の372℃におけるメルトフローレートが、35.0~60.0g/10分であり、前記共重合体の官能基数が50個以下である射出成形体が提供される。
【0007】
前記側面部の比重が、2.05~2.25g/cmであることが好ましい。
前記底面部の形状が、略円形状または略楕円形状であることが好ましい。
前記側面部の上端に形成された開口部をさらに備えることが好ましい。
前記共重合体の前記フルオロ(アルキルビニルエーテル)単位が、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位であることが好ましい。
前記共重合体の前記フルオロ(アルキルビニルエーテル)単位の含有量が、全単量体単位に対して、4.7~5.6質量%であることが好ましい。
前記共重合体の372℃におけるメルトフローレートが、38.0~55.0g/10分であることが好ましい。
前記共重合体の融点が、295~315℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、側面部の高さが大きく、側面部の厚みを小さい射出成形体であって、高温での耐摩耗性、高温での耐クラック性および高温での耐変形性のいずれにも優れており、外観が美麗な射出成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の射出成形体の一実施形態を示す正面図および平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本開示の射出成形体は、底面部と、前記底面部の周縁から立設する側面部と、を備える射出成形体を備えている。
【0012】
図1は、本開示の射出成形体の一実施形態を示す正面図および平面図である。図1に示す射出成形体10は、底面部1および側面部2を備えている。側面部2の上端部21には開口部3が形成されており、たとえば、射出成形体内に洗浄を行うウェハーを上面に固定して回転可能なウェハースピンベースなどを設置することができるようになっている。
【0013】
水や薬液によりウェハーを処理する処理装置に用いられる射出成形体は、特許文献2に記載されるように、一般的に大型である。また、このような射出成形体には耐薬品性が要求されることから、フッ素樹脂を射出成形することにより製造されている。
【0014】
処理装置に用いられる射出成形体内に、ウェハースピンベースなどを設置した場合、ウェハーの洗浄に用いる水または薬液がウェハーから飛散することから、水または薬液が外部に飛散することを防止するために、射出成形体の側面部の高さは大きいほど好ましい。また、フッ素樹脂は、ポリマーを構成する炭素原子に結合したフッ素原子を有しており、比重が比較的大きいことから、射出成形体の重量が大きくなりやすい。したがって、射出成形体の軽量化の観点から、射出成形体の側面部の厚みは小さいほど好ましい。
【0015】
しかしながら、射出成形体の側面部の高さが大きく、側面部の厚みが小さい場合には、側面部が自重により変形しやすい問題がある。また、側面部の高さが大きい場合には、側面部の下端部(底面部の周縁部)にかかる荷重が大きくなり、射出成形体の側面部の下端部(底面の周縁部)が高温で摩耗および破損しやすい問題がある。一方で、これらの問題を解決しようとすると、表面が平滑でフローマークが観られない美麗な射出成形体を得ることが難しい問題がある。たとえば、射出成形体の表面平滑性が劣ると、射出成形体に付着した水または液滴が流れ落ちにくくなり、処理装置の頻繁な洗浄が必要になることがある。
【0016】
これに対して、本開示の射出成形体は、FAVE単位の含有量、MFRおよび官能基数が適切に調整された共重合体により、薄く高い側面部を備える射出成形体を形成したものであることから、薄く高い側面部を有しているにも関わらず、外観が美麗であるものであって、高温環境下で使用される場合でも、側面部が変形しにくく、さらには、高温環境下で使用される場合でも、側面部および側面部の下端部が摩耗および破損しにくいものである。
【0017】
本開示の一実施形態に係る射出成形体は、図1に示すように、3.8cm以上の高さ(H)を有する側面部2を備えている。高さ(H)は、側面部2の底面部1(側面部の下端部22)から側面部の上端部21までの高さである。高さ(H)は、好ましくは4.5cm以上であり、より好ましくは5.0cm以上であり、さらに好ましくは5.5cm以上である。高さ(H)は、たとえば、30cm以下であってよく、15cm以下であってよい。側面部2の高さ(H)を十分に大きくすることによって、水または薬液の外部への飛散を抑制することができる。
【0018】
本開示の一実施形態に係る射出成形体は、図1に示すように、側面部2の底面部1からの高さ(H)と側面部2の平均厚み(T)との比率(高さ(H)/厚み(T))が、19.0以上となるような側面部2の平均厚み(T)を有している。側面部2の厚みは、不均一であってもよいし、図1に示すように均一であってもよい。平均厚み(T)は、側面部2の厚みの平均値である。比率(高さ(H)/厚み(T))は、好ましくは22.5以上であり、より好ましくは25.0以上であり、さらに好ましくは27.4以上である。比率(高さ(H)/厚み(T))は、たとえば、50.0以下であってよく、40.0以下であってよく、30.0以下であってよい。比率(高さ(H)/厚み(T))を十分に大きくすることにより、側面部2を高くすることによる飛散防止効果と、厚みを小さくすることによる軽量化とを高度にバランスすることができる。
【0019】
本開示の射出成形体は、側面部2が比重の比較的大きい共重合体により形成されており、高さが大きいことから、側面部2の下端部22にかかる荷重が大きい。側面部2の下端部22にかかる荷重は、0.8kPa以上であり、好ましくは0.9kPa以上であり、さらに好ましくは1.0kPa以上であり、特に好ましくは1.1kPa以上である。本開示の射出成形体は、側面部2の下端部22にかかる荷重が大きい場合であっても、側面部2の下端部22が摩耗したり、破損したりしにくい。
【0020】
本開示の射出成形体は、側面部2が比重の比較的大きい共重合体により形成されている。側面部2の比重は、たとえば、2.05~2.25g/cmである。
【0021】
図1に示す射出成形体10は、底面部1が円形状であるが、底面部1の形状は特に限定されず、たとえば、略円形状または略楕円形状であってよい。また、底面部1または側面部2には、チューブ、回転軸などを射出成形体内に挿入するための孔や、ボルトを設置するための孔などが設けられていてもよい。
【0022】
本開示の射出成形体の底面部1の大きさは特に限定されないが、大型であってよい。本開示の成形品は、たとえば、少なくとも300mmまたは少なくとも450mmの直径を有するウェハー(半導体ウェハー)よりも大きな底面部1を有することができる。本開示の底面部1の面積は、好ましくは1000cm以上であり、より好ましくは1100cm以上であり、5000cm以下であってよい。
【0023】
本開示の射出成形体は、テトラフルオロエチレン(TFE)単位およびフルオロ(アルキルビニルエーテル)(FAVE)単位を含有する共重合体を含有する。この共重合体は、溶融加工性のフッ素樹脂である。溶融加工性とは、押出機および射出成形機などの従来の加工機器を用いて、ポリマーを溶融して加工することが可能であることを意味する。
【0024】
上記FAVE単位を構成するFAVEとしては、一般式(1):
CF=CFO(CFCFYO)-(CFCFCFO)-Rf (1)
(式中、YはFまたはCFを表し、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。pは0~5の整数を表し、qは0~5の整数を表す。)で表される単量体、および、一般式(2):
CFX=CXOCFOR (2)
(式中、Xは、同一または異なり、H、FまたはCFを表し、Rは、直鎖または分岐した、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が1~6のフルオロアルキル基、若しくは、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が5または6の環状フルオロアルキル基を表す。)で表される単量体からなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0025】
なかでも、上記FAVEとしては、一般式(1)で表される単量体が好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、PEVEおよびPPVEからなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましく、PPVEが特に好ましい。
【0026】
共重合体のFAVE単位の含有量は、全単量体単位に対して、4.5~6.0質量%である。共重合体のFAVE単位の含有量は、より好ましくは4.6質量%以上であり、さらに好ましくは4.7質量%以上であり、より好ましくは5.9質量%以下であり、さらに好ましくは5.8質量%以下であり、尚さらに好ましくは5.7質量%以下であり、特に好ましくは5.6質量%以下である。共重合体のFAVE単位の含有量が多すぎると、射出成形体の高温での耐変形性が劣る。共重合体のFAVE単位の含有量が少なすぎると、射出成形体の高温での耐摩耗性および高温での耐クラック性が劣る。
【0027】
共重合体のTFE単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは94.0~95.5質量%であり、より好ましくは94.1質量%以上であり、さらに好ましくは94.2質量%以上であり、尚さらに好ましくは94.3質量%以上であり、特に好ましくは94.4質量%以上であり、より好ましくは95.4質量%以下であり、さらに好まくは95.3質量%以下である。共重合体のTFE単位の含有量が少なすぎると、射出成形体の高温での耐変形性が劣るおそれがある。共重合体のTFE単位の含有量が多すぎると、射出成形体の高温での耐摩耗性および高温での耐クラック性が劣るおそれがある。
【0028】
本開示において、共重合体中の各単量体単位の含有量は、19F-NMR法により測定する。
【0029】
共重合体は、TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位を含有することもできる。この場合、TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体単位の含有量は、共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは0~1.5質量%であり、より好ましくは0.05~0.5質量%であり、さらに好ましくは0.1~0.3質量%である。
【0030】
TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体としては、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、CZ=CZ(CF(式中、Z、ZおよびZは、同一または異なって、HまたはFを表し、Zは、H、FまたはClを表し、nは2~10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、および、CF=CF-OCH-Rf(式中、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。なかでも、HFPが好ましい。
【0031】
共重合体としては、TFE単位およびFAVE単位のみからなる共重合体、および、TFE/HFP/FAVE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFE単位およびFAVE単位のみからなる共重合体がより好ましい。
【0032】
共重合体のメルトフローレート(MFR)は、35.0~60.0g/10分である。共重合体のMFRは、好ましくは36.0g/10分以上であり、より好ましくは37.0g/10分以上であり、さらに好ましくは38.0g/10分以上であり、好ましくは58.0g/10分以下であり、より好ましくは56.0g/10分以下であり、さらに好ましくは55.0g/10分以下である。共重合体のMFRが低すぎると、外観が美麗な射出成形体が得られない。共重合体のMFRが高すぎると、射出成形体の高温での耐摩耗性および高温での耐クラック性が劣る。
【0033】
本開示において、MFRは、ASTM D1238に従って、メルトインデクサーを用いて、372℃、5kg荷重下で内径2.1mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)として得られる値である。
【0034】
MFRは、単量体を重合する際に用いる重合開始剤の種類および量、連鎖移動剤の種類および量などを調整することによって、調整することができる。
【0035】
本開示において、共重合体の主鎖炭素数10個当たりの官能基数は、50個以下であり、好ましくは40個以下であり、より好ましくは30個以下であり、さらに好ましくは20個以下であり、尚さらに好ましくは15個以下であり、特に好ましくは10個以下であり、最も好ましくは6個未満である。共重合体の官能基数が多すぎると、射出成形体の高温での耐クラック性が劣る。
【0036】
上記官能基の種類の同定および官能基数の測定には、赤外分光分析法を用いることができる。
【0037】
官能基数については、具体的には、以下の方法で測定する。まず、上記共重合体をコールドプレスにより成形して、厚さ0.25~0.30mmのフィルムを作製する。このフィルムをフーリエ変換赤外分光分析により分析して、上記共重合体の赤外吸収スペクトルを得、完全にフッ素化されて官能基が存在しないベーススペクトルとの差スペクトルを得る。この差スペクトルに現れる特定の官能基の吸収ピークから、下記式(A)に従って、上記共重合体における炭素原子1×10個あたりの官能基数Nを算出する。
【0038】
N=I×K/t (A)
I:吸光度
K:補正係数
t:フィルムの厚さ(mm)
【0039】
参考までに、いくつかの官能基について、吸収周波数、モル吸光係数および補正係数を表1に示す。また、モル吸光係数は低分子モデル化合物のFT-IR測定データから決定したものである。
【表1】
【0040】
-CHCFH、-CHCOF、-CHCOOH、-CHCOOCH、-CHCONHの吸収周波数は、それぞれ表中に示す、-CFH、-COF、-COOH freeと-COOH bonded、-COOCH、-CONHの吸収周波数から数十カイザー(cm-1)低くなる。
【0041】
たとえば、-COFの官能基数とは、-CFCOFに起因する吸収周波数1883cm-1の吸収ピークから求めた官能基数と、-CHCOFに起因する吸収周波数1840cm-1の吸収ピークから求めた官能基数との合計である。
【0042】
官能基は、共重合体の主鎖末端または側鎖末端に存在する官能基、および、主鎖中または側鎖中に存在する官能基である。官能基数は、-CF=CF、-CFH、-COF、-COOH、-COOCH、-CONHおよび-CHOHの合計数であってよい。
【0043】
上記官能基は、たとえば、共重合体を製造する際に用いた連鎖移動剤や重合開始剤によって、共重合体に導入される。たとえば、連鎖移動剤としてアルコールを使用する、あるいは重合開始剤として-CHOHの構造を有する過酸化物を使用した場合、共重合体の主鎖末端に-CHOHが導入される。また、官能基を有する単量体を重合することによって、上記官能基が共重合体の側鎖末端に導入される。
【0044】
このような官能基を有する共重合体を、フッ素化処理することによって、上記範囲内の官能基数を有する共重合体を得ることができる。すなわち、本開示の射出成形体に含まれる共重合体は、フッ素化処理されたものであることが好ましい。本開示の射出成形体に含まれる共重合体は、-CF末端基を有することも好ましい。
【0045】
共重合体の融点は、好ましくは295~315℃であり、より好ましくは300℃以上であり、さらに好ましくは301℃以上であり、特に好ましくは、302℃以上であり、より好ましくは310℃以下であり、さらに好ましくは305℃以下である。融点が上記範囲内にあることにより、射出成形体の高温での耐摩耗性、高温での耐クラック性および高温での耐変形性が一層向上し、外観が一層美麗なものとなる。
【0046】
本開示において、融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて測定できる。
【0047】
本開示の射出成形体は、充填剤、可塑剤、加工助剤、離型剤、顔料、難燃剤、滑剤、光安定剤、耐候安定剤、導電剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、発泡剤、香料、オイル、柔軟化剤、脱フッ化水素剤等のその他の成分を含有してもよい。
【0048】
充填剤としては、たとえば、シリカ、カオリン、クレー、有機化クレー、タルク、マイカ、アルミナ、炭酸カルシウム、テレフタル酸カルシウム、酸化チタン、リン酸カルシウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、架橋ポリスチレン、チタン酸カリウム、カーボン、チッ化ホウ素、カーボンナノチューブ、ガラス繊維等が挙げられる。導電剤としてはカーボンブラック等があげられる。可塑剤としては、ジオクチルフタル酸、ペンタエリスリトール等があげられる。加工助剤としては、カルナバワックス、スルホン化合物、低分子量ポリエチレン、フッ素系助剤等があげられる。脱フッ化水素剤としては有機オニウム、アミジン類等があげられる。
【0049】
上記その他の成分として、上記した共重合体以外のその他のポリマーを用いてもよい。その他のポリマーとしては、上記した共重合体以外のフッ素樹脂、フッ素ゴム、非フッ素化ポリマーなどが挙げられる。
【0050】
本開示の射出成形体が含有する共重合体は、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、塊状重合などの重合方法により、製造することができる。重合方法としては、乳化重合または懸濁重合が好ましい。これらの重合において、温度、圧力などの各条件、重合開始剤やその他の添加剤は、共重合体の組成や量に応じて適宜設定することができる。
【0051】
重合開始剤としては、油溶性ラジカル重合開始剤、または水溶性ラジカル重合開始剤を使用できる。
【0052】
油溶性ラジカル重合開始剤は公知の油溶性の過酸化物であってよく、たとえば、
ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジsec-ブチルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチルパーオキシジカーボネートなどのジアルキルパーオキシカーボネート類;
t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシピバレートなどのパーオキシエステル類;
ジt-ブチルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキサイド類;
ジ[フルオロ(またはフルオロクロロ)アシル]パーオキサイド類;
などが代表的なものとしてあげられる。
【0053】
ジ[フルオロ(またはフルオロクロロ)アシル]パーオキサイド類としては、[(RfCOO)-](Rfは、パーフルオロアルキル基、ω-ハイドロパーフルオロアルキル基またはフルオロクロロアルキル基)で表されるジアシルパーオキサイドが挙げられる。
【0054】
ジ[フルオロ(またはフルオロクロロ)アシル]パーオキサイド類としては、たとえば、ジ(ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-テトラデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-ヘキサデカフルオロノナノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロプロピオニル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロブチリル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロパレリル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロノナノイル)パーオキサイド、ジ(ω-クロロ-ヘキサフルオロブチリル)パーオキサイド、ジ(ω-クロロ-デカフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(ω-クロロ-テトラデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル-ω-ハイドロヘキサデカフルオロノナノイル-パーオキサイド、ω-クロロ-ヘキサフルオロブチリル-ω-クロロ-デカフルオロヘキサノイル-パーオキサイド、ω-ハイドロドデカフルオロヘプタノイル-パーフルオロブチリル-パーオキサイド、ジ(ジクロロペンタフルオロブタノイル)パーオキサイド、ジ(トリクロロオクタフルオロヘキサノイル)パーオキサイド、ジ(テトラクロロウンデカフルオロオクタノイル)パーオキサイド、ジ(ペンタクロロテトラデカフルオロデカノイル)パーオキサイド、ジ(ウンデカクロロトリアコンタフルオロドコサノイル)パーオキサイドなどが挙げられる。
【0055】
水溶性ラジカル重合開始剤は公知の水溶性過酸化物であってよく、たとえば、過硫酸、過ホウ酸、過塩素酸、過リン酸、過炭酸などのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、ジコハク酸パーオキサイド、ジグルタル酸パーオキサイドなどの有機過酸化物、t-ブチルパーマレート、t-ブチルハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。亜硫酸塩類のような還元剤を過酸化物に組み合わせて使用してもよく、その使用量は過酸化物に対して0.1~20倍であってよい。
【0056】
重合においては、界面活性剤、連鎖移動剤、および、溶媒を使用することができ、それぞれ従来公知のものを使用することができる。
【0057】
界面活性剤としては、公知の界面活性剤が使用でき、たとえば、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤などが使用できる。なかでも、含フッ素アニオン性界面活性剤が好ましく、エーテル結合性酸素を含んでもよい(すなわち、炭素原子間に酸素原子が挿入されていてもよい)、炭素数4~20の直鎖または分岐した含フッ素アニオン性界面活性剤がより好ましい。界面活性剤の添加量(対重合水)は、好ましくは50~5000ppmである。
【0058】
連鎖移動剤としては、たとえば、エタン、イソペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族類;アセトンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類;メタノール、エタノールなどのアルコール類;メチルメルカプタンなどのメルカプタン類;四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、塩化メチル等のハロゲン化炭化水素などが挙げられる。連鎖移動剤の添加量は、用いる化合物の連鎖移動定数の大きさにより変わりうるが、通常重合溶媒に対して0.01~20質量%の範囲で使用される。
【0059】
溶媒としては、水や、水とアルコールとの混合溶媒等が挙げられる。
【0060】
懸濁重合では、水に加えて、フッ素系溶媒を使用してもよい。フッ素系溶媒としては、CHCClF、CHCClF、CFCFCClH、CFClCFCFHCl等のハイドロクロロフルオロアルカン類;CFClCFClCFCF、CFCFClCFClCF等のクロロフルオロアルカン類;CFCFHCFHCFCFCF、CFHCFCFCFCFH、CFCFCFCFCFCFCFH等のハイドロフルオロアルカン類;CHOC、CHOCCFCFCHOCHF、CFCHFCFOCH、CHFCFOCHF、(CFCHCFOCH、CFCFCHOCHCHF、CFCHFCFOCHCF等のハイドロフルオロエーテル類;パーフルオロシクロブタン、CFCFCFCF、CFCFCFCFCF、CFCFCFCFCFCF等のパーフルオロアルカン類等が挙げられ、なかでも、パーフルオロアルカン類が好ましい。フッ素系溶媒の使用量は、懸濁性および経済性の面から、水性媒体に対して10~100質量%が好ましい。
【0061】
重合温度としては特に限定されず、0~100℃であってよい。重合圧力は、用いる溶媒の種類、量および蒸気圧、重合温度等の他の重合条件に応じて適宜定められるが、通常、0~9.8MPaGであってよい。
【0062】
重合反応により共重合体を含む水性分散液が得られる場合は、水性分散液中に含まれる共重合体を凝析させ、洗浄し、乾燥することにより、共重合体を回収できる。また、重合反応により共重合体がスラリーとして得られる場合は、反応容器からスラリーを取り出し、洗浄し、乾燥することにより、共重合体を回収できる。乾燥することによりパウダーの形状で共重合体を回収できる。
【0063】
重合により得られた共重合体を、ペレットに成形してもよい。ペレットに成形する成形方法としては、特に限定はなく、従来公知の方法を用いることができる。たとえば、単軸押出機、二軸押出機、タンデム押出機を用いて共重合体を溶融押出しし、所定長さに切断してペレット状に成形する方法などが挙げられる。溶融押出しする際の押出温度は、共重合体の溶融粘度や製造方法により変える必要があり、好ましくは共重合体の融点+20℃~共重合体の融点+140℃である。共重合体の切断方法は、特に限定は無く、ストランドカット方式、ホットカット方式、アンダーウオーターカット方式、シートカット方式などの従来公知の方法を採用できる。得られたペレットを、加熱することにより、ペレット中の揮発分を除去してもよい(脱気処理)。得られたペレットを、30~200℃の温水、100~200℃の水蒸気、または、40~200℃の温風と接触させて処理してもよい。
【0064】
重合により得られた共重合体を、フッ素化処理してもよい。フッ素化処理は、フッ素化処理されていない共重合体とフッ素含有化合物とを接触させることにより行うことができる。フッ素化処理により、共重合体の-COOH、-COOCH、-CHOH、-COF、-CF=CF、-CONHなどの熱的に不安定な官能基、および、熱的に比較的安定な-CFHなどの官能基を、熱的に極めて安定な-CFに変換することができる。結果として、共重合体の-COOH、-COOCH、-CHOH、-COF、-CF=CF、-CONH、および、-CFHの合計数(官能基数)を容易に上述した範囲に調整できる。
【0065】
フッ素含有化合物としては特に限定されないが、フッ素化処理条件下にてフッ素ラジカルを発生するフッ素ラジカル源が挙げられる。上記フッ素ラジカル源としては、Fガス、CoF、AgF、UF、OF、N、CFOF、フッ化ハロゲン(たとえばIF、ClF)などが挙げられる。
【0066】
ガスなどのフッ素ラジカル源は、100%濃度のものであってもよいが、安全性の面から不活性ガスと混合し、5~50質量%に希釈して使用することが好ましく、15~30質量%に希釈して使用することがより好ましい。上記不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどが挙げられるが、経済的な面より窒素ガスが好ましい。
【0067】
フッ素化処理の条件は、特に限定されず、溶融させた状態の共重合体とフッ素含有化合物とを接触させてもよいが、通常、共重合体の融点以下、好ましくは20~240℃、より好ましくは100~220℃の温度下で行うことができる。上記フッ素化処理は、一般に1~30時間、好ましくは5~25時間行う。フッ素化処理は、フッ素化処理されていない共重合体をフッ素ガス(Fガス)と接触させるものが好ましい。
【0068】
本開示の射出成形体は、射出成形機、および、ゲートを備える金型を用いて、上記のようにして得られた共重合体を射出成形する製造方法によって、製造することができる。
【0069】
射出成形機に供給する共重合体の形状は、特に限定されず、粉体、ペレットなどの形状の共重合体を用いることができる。
【0070】
射出成形機としては、公知のものを使用することができる。射出成形機のノズルから射出された共重合体は、通常、スプルーおよびランナーを通って、ゲートを経て金型キャビティに流入し、金型キャビティに充填される。射出成形に用いる金型には、ランナーとゲートが形成されており、射出成形体を形成するための金型キャビティが形成されている。
【0071】
本開示の射出成形品としては、たとえば、少なくとも300mmまたは少なくとも450mmの直径を有するウェハー(半導体ウェハー)を収容可能な円筒状の部位を有する射出成形品が挙げられる。射出成形品の円筒状の部位は、上記の範囲内の直径を有するウェハーを保持するための、ターンベース、スピンベース、スピンチャックなどの保持手段を収容可能な部位であることも好ましい。ウェハーを水または薬液により洗浄する半導体洗浄装置、レジストを塗布してレジスト膜を形成する半導体製造装置、レジスト膜の現像を行う半導体製造装置などにおいては、ウェハーを回転させながら、ウェハー上に水または薬液を供給する。あるいは、ウェハーを回転させることにより、ウェハー上の水または薬液を振り切って、ウェハーを乾燥させる。したがって、ウェハーの周囲には、水または薬液が飛散することになる。本開示の射出成形品は、ウェハーカップとして利用することができ、水または薬液の飛散を防止するように、ウェハーの周囲に設けることができる。ウェハーカップは、また、カップガード、スプラッシュガードなどと呼ばれることもある。本開示の射出成形品は、薄く高い側面部を有していることから、水または薬液の飛散を十分に防止することができるとともに、軽量である。しかも、本開示の射出成形品は、高温でも摩耗および変形しにくく、クラックも入りにくい。
【0072】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【実施例
【0073】
つぎに本開示の実施形態について実施例をあげて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0074】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0075】
(単量体単位の含有量)
各単量体単位の含有量は、NMR分析装置(たとえば、ブルカーバイオスピン社製、AVANCE300 高温プローブ)により測定した。
【0076】
(メルトフローレート(MFR))
ASTM D1238に従って、メルトインデクサーG-01(東洋精機製作所社製)を用いて、372℃、5kg荷重下で内径2.1mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)を求めた。
【0077】
(融点)
示差走査熱量計(商品名:X-DSC7000、日立ハイテクサイエンス社製)を用いて、昇温速度10℃/分で200℃から350℃までの1度目の昇温を行い、続けて、冷却速度10℃/分で350℃から200℃まで冷却し、再度、昇温速度10℃/分で200℃から350℃までの2度目の昇温を行い、2度目の昇温過程で生ずる溶融曲線ピークから融点を求めた。
【0078】
(官能基数)
共重合体のペレットを、コールドプレスにより成形して、厚さ0.25~0.30mmのフィルムを作製した。このフィルムをフーリエ変換赤外分光分析装置〔FT-IR(Spectrum One、パーキンエルマー社製)〕により40回スキャンし、分析して赤外吸収スペクトルを得、完全にフッ素化されて官能基が存在しないベーススペクトルとの差スペクトルを得た。この差スペクトルに現れる特定の官能基の吸収ピークから、下記式(A)に従って試料における炭素原子1×10個あたりの官能基数Nを算出した。
N=I×K/t (A)
I:吸光度
K:補正係数
t:フィルムの厚さ(mm)
参考までに、本開示における官能基について、吸収周波数、モル吸光係数および補正係数を表2に示す。モル吸光係数は低分子モデル化合物のFT-IR測定データから決定したものである。
【0079】
【表2】
【0080】
合成例1
174L容積のオートクレーブに純水51.8Lを投入し、充分に窒素置換を行った後、パーフルオロシクロブタン40.9kgとパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)2.24kg、メタノール2.64kgとを仕込み、系内の温度を35℃、攪拌速度を200rpmに保った。次いで、テトラフルオロエチレン(TFE)を0.64MPaまで圧入した後、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネートの50%メタノール溶液0.103kgを投入して重合を開始した。重合の進行とともに系内圧力が低下するので、TFEを連続供給して圧力を一定にし、PPVEをTFEの供給1kg毎に0.049kg追加投入した。TFEの追加投入量が40.9kgに達したところで重合を終了させた。未反応のTFEを放出して、オートクレーブ内を大気圧に戻した後、得られた反応生成物を水洗、乾燥して42.9kgの粉末を得た。
【0081】
得られた粉末を、スクリュー押出機(商品名:PCM46、池貝社製)により360℃にて溶融押出して、TFE/PPVE共重合体のペレットを得た。得られたペレットを用いて上記した方法によりPPVE含有量を測定した。
【0082】
得られたペレットを、真空振動式反応装置 VVD-30(大川原製作所社製)に入れ、210℃に昇温した。真空引き後、Nガスで20体積%に希釈したFガスを大気圧まで導入した。Fガス導入時から0.5時間後、いったん真空引きし、再度Fガスを導入した。さらにその0.5時間後、再度真空引きし、再度Fガスを導入した。以降、上記Fガス導入及び真空引きの操作を1時間に1回行い続け、210℃の温度下で10時間反応を行った。反応終了後、反応器内をNガスに十分に置換して、フッ素化反応を終了した。フッ素化したペレットを用いて、上記した方法により、各種物性を測定した。
【0083】
合成例2
PPVEを2.56kg、メタノールを2.29kg、PPVEをTFEの供給1kg毎に0.055kg追加投入に変更し、乾燥粉末43.1kgを得た以外は、合成例1と同様にして、フッ素化したペレットを得た。
【0084】
合成例3
PPVEを2.56kg、メタノールを2.60kg、PPVEをTFEの供給1kg毎に0.055kg追加投入に変更し、乾燥粉末43.1kgを得た以外は、合成例1と同様にして、フッ素化したペレットを得た。
【0085】
合成例4
PPVEを2.81kg、メタノールを2.51kg、PPVEをTFEの供給1kg毎に0.059kg追加投入に変更し、乾燥粉末43.3kgを得た以外は、合成例1と同様にして、フッ素化したペレットを得た。
【0086】
合成例5
PPVEを1.73kg、メタノールを4.70kg、PPVEをTFEの供給1kg毎に0.041kg追加投入に変更し、乾燥粉末42.6kgを得た以外は、合成例1と同様にして、フッ素化したペレットを得た。
【0087】
合成例6
PPVEを3.60kg、メタノールを0.55kg、PPVEをTFEの供給1kg毎に0.073kg追加投入に変更し、乾燥粉末43.9kgを得た以外は、合成例1と同様にして、フッ素化したペレットを得た。
【0088】
合成例7
PPVEを2.81kg、メタノールを4.78kg、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネートの50%メタノール溶液を0.051kg、PPVEをTFEの供給1kg毎に0.059kg追加投入に変更し、乾燥粉末43.3kgを得た以外は、合成例1と同様にして、フッ素化したペレットを得た。
【0089】
合成例8
PPVEを2.69kg、メタノールを3.47kg、PPVEをTFEの供給1kg毎に0.057kg追加投入に変更し、乾燥粉末43.2kgを得た以外は、合成例1と同様にして、フッ素化したペレットを得た。
【0090】
合成例9
PPVEを2.75kg、メタノールを3.02kg、PPVEをTFEの供給1kg毎に0.058kg追加投入に変更し、乾燥粉末43.3kgを得た以外は、合成例1と同様にして、フッ素化していないペレットを得た。
【0091】
合成例で得られたペレットを用いて、上記した方法により、各種物性を測定した。結果を表3に示す。
【0092】
【表3】
【0093】
表3中の「<6」との記載は、官能基数が6個未満であることを意味する。
【0094】
実験例1~4、比較例1~5
次に、合成例1~9で得られたペレットを用いて、以下の方法により、射出成形体を作製した。
【0095】
射出成形体(1)(参照例)
射出成形機(住友重機械工業社製、SE50EV-A)を使用し、シリンダ温度を370℃、金型温度を160℃とし、射出速度を10mm/sとして、ペレットを射出成形することにより、図1および表4に示す形状を有する射出成形体(1)を作製した。
【0096】
射出成形体(2)(参照例)
射出成形機(住友重機械工業社製、SE50EV-A)を使用し、シリンダ温度を370℃、金型温度を160℃とし、射出速度を10mm/sとして、ペレットを射出成形することにより、シート状射出成形体(11cm×4cm×0.80cmt)を作製した。得られたシート状射出成形体を切断することにより、図1に示す射出成形体の側面部を模した射出成形体(2)(8cm×1cm×0.8cmt)を作製した。
【0097】
射出成形体(3)
射出成形機(住友重機械工業社製、SE50EV-A)を使用し、シリンダ温度を370℃、金型温度を160℃とし、射出速度を10mm/sとして、ペレットを射出成形することにより、図1および表4に示す形状を有する射出成形体(3)を作製した。
【0098】
射出成形体(4)
射出成形機(住友重機械工業社製、SE50EV-A)を使用し、シリンダ温度を370℃、金型温度を160℃とし、射出速度を10mm/sとして、ペレットを射出成形することにより、シート状射出成形体(11cm×4cm×0.29cmt)を作製した。得られたシート状射出成形体を切断することにより、図1に示す射出成形体の側面部を模した射出成形体(4)(8cm×1cm×0.29cmt)を作製した。
【0099】
射出成形体(5)
射出成形機(住友重機械工業社製、SE50EV-A)を使用し、シリンダ温度を370℃、金型温度を160℃とし、射出速度を10mm/sとして、ペレットを射出成形することにより、図1に示す射出成形体の側面部を模した射出成形体(5)(9.6cm×9.6cm×0.35cmt)を作製した。
【0100】
射出成形体(6)
射出成形機(住友重機械工業社製、SE50EV-A)を使用し、シリンダ温度を370℃、金型温度を160℃とし、射出速度を10mm/sとして、ペレットを射出成形することにより、シート状射出成形体(11cm×4cm×0.20cmt)を作製した。得られたシート状射出成形体を切断することにより、図1に示す射出成形体の側面部を模した射出成形体(6)(3.8cm×1.35cm×0.2cmt)を作製した。
【0101】
射出成形体(7)
射出成形体(3)を切断することにより、図1に示す射出成形体の側面部を模した射出成形体(7)(4.0cm×0.1cm×0.2cmt)を作製した。
【0102】
【表4】
【0103】
上記で得られた射出成形体を、以下の方法により評価した。結果を表5に示す。
【0104】
(外観評価)
射出成形体(1)および射出成形体(3)の外観を以下の基準により評価した。
○:金型に共重合体を十分に充填でき、得られた成形体の表面全体が平滑であった。
×:金型に共重合体を十分に充填できなかった
【0105】
(80℃荷重たわみ率)
射出成形体(2)および射出成形体(4)を、電気炉にて100℃で20時間加熱した。得られた試験片を用いた以外は、JIS K-K 7191-1に記載の方法に準じて、ヒートディストーションテスター(安田精機製作所社製)にて、試験温度30~150℃、昇温速度120℃/時間、曲げ応力1.8MPa、フラットワイズ法の条件にて試験を行った。次式により荷重たわみ率を求めた。80℃での荷重たわみ率が小さい射出成形体は、高温での耐変形性に優れている。
荷重たわみ率(%)=a2/a1×100
a1:試験前の試験片厚み(mm)
a2:80℃でのたわみ量(mm)
【0106】
(摩耗試験)
テーバー摩耗試験機(No.101 特型テーバー式アブレーションテスター、安田精機製作所社製)の試験台に射出成形体(5)を固定し、試験片表面温度150℃、荷重500g、摩耗輪CS-10(研磨紙#240で20回転研磨したもの)、回転速度60rpmの条件で、テーバー摩耗試験機を用いて摩耗試験を行った。1000回転後の試験片重量を計量し、同じ試験片でさらに8500回転試験後に試験片重量を計量した。次式により、摩耗量を求めた。
摩耗量(mg)=M1-M2
M1:1000回転後の試験片重量(mg)
M2:8500回転後の試験片重量(mg)
【0107】
(ベンディングクラック試験)
3個の射出成形体(6)の長辺の中心に、ASTM D1693に準じて、19mm×0.45mmの刃でノッチを入れた。得られたノッチ試験片3個をASTM D1693に準じた応力亀裂試験治具に取り付け、電気炉にて60℃で24時間加熱した後、ノッチおよびその周辺を目視で観察し、亀裂の数を数えた。ベンディングクラック試験において亀裂が生じにくい射出成形体は、高温での耐クラック性に優れている。
○:亀裂の数が0個である
×:亀裂の数が1個以上である
【0108】
(引張クリープ試験)
日立ハイテクサイエンス社製TMA-7100を用いて引張クリープ歪を測定した。射出成形体(7)をサンプルとして用いた。サンプルを治具間距離10mmで測定治具に装着した。サンプルに対して、断面荷重が2.41N/mmになるように荷重を負荷し、240℃に放置し、試験開始後70分の時点から試験開始後300分の時点までのサンプルの長さの変位(mm)を測定し、初期のサンプル長(10mm)に対する長さの変位(mm)の割合(引張クリープ歪(%))を算出した。240℃、300分間の条件で測定する引張クリープ歪(%)が小さい射出成形体は、非常に高温の環境中で引張荷重が負荷されても伸びにくく、高温での耐変形性に優れている。比較例3では、射出成形体(7)を作製できなかった。
【0109】
【表5】
【0110】
比較例1の摩耗量およびベンディングクラック試験の結果が示すとおり、共重合体のFAVE単位の含有量が少なすぎると、射出成形体が高温で摩耗しやすい上、高温でクラックが生じやすいことが分かる。この結果は、射出成形体の側面部の高さが大きいなどの理由により、射出成形体の側面部の下端部(底面の周縁部)にかかる荷重が大きい場合に、射出成形体の側面部の下端部(底面の周縁部)が高温で摩耗および破損しやすいことを意味している。
【0111】
また、比較例2の80℃荷重たわみ率の結果が示すとおり、射出成形体の側面部の厚みが大きい場合は、80℃荷重たわみ率が若干大きいものの、射出成形体の側面部が大きく変形してしまう問題は生じない(射出成形体(2)の結果を参照)。一方で、射出成形体の側面部の厚みが小さい場合、共重合体のFAVE単位の含有量が多すぎると、射出成形体が高温でたわみやすい(射出成形体(4)の結果を参照)。これらの結果は、射出成形体の側面部の厚みが小さい場合に、射出成形体の側面部が高温で変形しやすいことを意味している。
【0112】
以上のとおり、比較例1および比較例2の結果から、射出成形体の側面部の高さが大きく、側面部の厚みが小さい場合、射出成形体の高温での耐摩耗性および高温での耐クラック性と、高温での耐変形性とを両立させることが困難であることが分かる。
【0113】
また、比較例3の成形性評価の結果が示すとおり、射出成形体の側面部の高さが小さい場合は、外観に優れる射出成形体が得られている(射出成形体(1)の結果を参照)。一方で、射出成形体の側面部の高さが大きい場合、共重合体のMFRが低すぎると、外観に優れる射出成形体を得ることが困難になる(射出成形体(3)の結果を参照)。
【0114】
また、比較例4の摩耗量およびベンディングクラック試験の結果が示すとおり、共重合体のMFRが高すぎると、射出成形体が高温で摩耗しやすい上、高温でクラックが生じやすいことが分かる。この結果は、射出成形体の側面部の高さが大きいなどの理由により、射出成形体の側面部の下端部(底面の周縁部)にかかる荷重が大きい場合に、射出成形体の側面部の下端部(底面の周縁部)が高温で摩耗および破損しやすいことを意味している。
【0115】
以上のとおり、比較例3および比較例4の結果から、射出成形体の側面部の高さが大きく、側面部の厚みが小さい場合、射出成形体の外観の美麗さと、射出成形体の高温での耐摩耗性および高温での耐クラック性とを両立させることが困難であることが分かる。
【0116】
これに対して、実験例1~4の結果が示すとおり、射出成形体を構成する共重合体のFAVE単位の含有量、MFRおよび官能基数を適切に調整することによって、射出成形体の側面部の高さを大きく、側面部の厚みを小さくした場合であっても、高温での耐摩耗性、高温での耐クラック性および高温での耐変形性のいずれにも優れており、外観が美麗な射出成形体が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0117】
10 射出成形体
1 底面部
2 側面部
21 側面部の上端部
22 側面部の下端部(底面部の周縁部)
3 開口部
図1