(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】心筋細胞型判定システム、心筋細胞型判定方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20221026BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20221026BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
C12M1/34 B
C12Q1/04
G01N33/53 Y
(21)【出願番号】P 2018141587
(22)【出願日】2018-07-27
【審査請求日】2021-06-18
(31)【優先権主張番号】P 2017147893
(32)【優先日】2017-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】黒川 洵子
(72)【発明者】
【氏名】山口 賢彦
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/008682(WO,A1)
【文献】特開2016-077159(JP,A)
【文献】特表2016-509845(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0091528(US,A1)
【文献】国際公開第2016/134211(WO,A1)
【文献】T.Yokogawa, et al.,Biochemical and Biophysical Research Communications,2009年,387,p.19-24
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自律拍動する心筋細胞の画像を用いて心筋細胞の動きを検出し、動きベクトルを算出する動き検出部と、
前記動き検出部により算出された心筋細胞の動きベクトルに基づき心筋細胞の拍動に関する情報である拍動情報を算出して、動きベクトルと拍動情報とを含む動き情報を生成する動き情報生成部と、
前記動き情報生成部により生成される
複数の心筋細
胞の動き情報と、
教師データとしての前記複数の心筋細胞についての細胞型の特定結果についての情報とに基づいて、型判定情報を
機械学習により生成する型判定情報生成部と、
前記
型判定情報を用いて、前記動き情報生成部により動き情報が生成された心筋細胞についてその細胞型を判定する細胞型判定部とを含
み、
前記動きベクトルは、速度及び時間を成分とし、周期的に第1ピーク及び前記第1ピークより低い第2ピークが表れ、前記型判定情報生成部は、前記複数の心筋細胞の前記動き情報において、前記第1ピーク及び前記第2ピーク間の時間の分散が低い前記動きベクトルを有する前記心筋細胞の前記動き情報から順に機械学習する
心筋細胞型判定システム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムにおいて、
拍動情報が収縮速度および/または弛緩速度を示す情報を含む心筋細胞型判定システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシステムにおいて、
細胞型の特定結果についての情報が、動き情報が生成された心筋細胞についての免疫細胞染色結果に関する情報を含む心筋細胞型判定システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載のシステムにおいて、
細胞型の特定結果についての情報が、動き情報が生成された心筋細胞についての免疫細胞染色結果に関する情報を含み、
前記型判定情報生成部が、前記動き情報生成部により生成される
複数の心筋細
胞の動き情報と、
前記複数の心筋細胞についての細胞型の特定結果についての情報とに基づいて
、前記心筋細胞の前記動き情報に含まれる前記動きベクトルから抽出されるパラメータと前記動き情報に含まれる前記拍動情報をいずれか一方、または組み合わせて入力されることで前記心筋細胞の細胞型を判定する機械学習モデルとしての前記型判定情報を
機械学習により生成する心筋細胞型判定システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載のシステムにおいて、
前記心筋細胞がヒトiPS細胞に由来する心筋細胞型判定システム。
【請求項6】
自律拍動する心筋細胞の画像を用い心筋細胞の動きを検出して
速度及び時間を成分とし、周期的に第1ピーク及び前記第1ピークより低い第2ピークが表れる動きベクトルを算出し、
算出された心筋細胞の動きベクトルに基づき心筋細胞の拍動に関する情報である拍動情報を算出して、動きベクトルに関する情報と拍動情報とを含む動き情報を生成し、
生成された
複数の心筋細
胞の動き情報と、
教師データとしての前記複数の心筋細胞についての細胞型の特定結果についての情報とに基づいて、型判定情報を
機械学習により生成し、
前記複数の心筋細胞の前記動き情報において、前記第1ピーク及び前記第2ピーク間の時間の分散が低い前記動きベクトルを有する前記心筋細胞の前記動き情報から順に機械学習し、
前記
型判定情報を用いて、動き情報が生成された心筋細胞についてその細胞型を判定することを含む、心筋細胞型判定方法。
【請求項7】
コンピュータを
自律拍動する心筋細胞の画像を用いて心筋細胞の動きを検出し、動きベクトルを算出する動き検出部
であって、前記動きベクトルは、速度及び時間を成分とし、周期的に第1ピーク及び前記第1ピークより低い第2ピークが表れる動き検出部と、
前記動き検出部により算出された心筋細胞の動きベクトルに基づき心筋細胞の拍動に関する情報である拍動情報を算出して、動きベクトルに関する情報と拍動情報とを含む動き情報を生成する動き情報生成部と、
前記動き情報生成部により生成される
複数の心筋細
胞の動き情報と、
教師データとしての前記複数の心筋細胞についての細胞型の特定結果についての情報とに基づいて、型判定情報を
機械学習により生成
し、前記複数の心筋細胞の前記動き情報において、前記第1ピーク及び前記第2ピーク間の時間の分散が低い前記動きベクトルを有する前記心筋細胞の前記動き情報から順に機械学習する型判定情報生成部と、
前記
型判定情報を用いて、前記動き情報生成部により動き情報が生成された心筋細胞についてその細胞型を判定する細胞型判定部として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は心筋細胞についての細胞型の判定に関する。
【背景技術】
【0002】
創薬研究において細胞機能性試験は簡便、迅速なアッセイ方法として汎用されている。特にヒトiPS細胞由来分化細胞は大規模な探索研究で必要とされる膨大な細胞量の供給が可能であること、そして臨床予測性が高いヒト試料であることから利用価値が高く、実用化が進められている。
【0003】
心筋細胞に対する機能性試験においても、ヒトiPS細胞から分化誘導した心筋細胞が利用されている。現在開発されている分化誘導法では、心室型心筋細胞と心房型心筋細胞を個別に誘導することは難しく、心室型と心房型が混合した細胞集団が得られる。心筋細胞についてその挙動を解析することにより品質評価を行う方法が提案されているが(例えば特許文献1)、心室型心筋細胞と心房型心筋細胞とを区別してその挙動を解析する手段は存在しなかった。
【0004】
一方、ヒトiPS由来誘導細胞が心室型心筋細胞および心房型心室細胞を含む複数の細胞種からなることを示す先行技術も存在する。判定法は、細胞に電極を刺して、細胞の電気活動を調べるというパッチクランプ法である。当該方法で活動電位を測定するためには細胞に電極を刺針する必要があり、細胞に対する侵襲性が著しく高いため、長期的な計測には不向きである。さらに、電極を刺した細胞からの情報しか得られないため、スループットが高く見積もっても5データ/日であり、著しく低い。スループットをあげるためのオートパッチシステムによる測定は精度が低く、細胞種判定に至っていない。
また、電子依存性蛍光色素を用いて、細胞の電気活動を調べることも可能だが、感度が悪いため細胞型の判定には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の混合細胞系を用いた機能性試験においても心室型心筋細胞と心房型心筋細胞とは異なる挙動を示していると考えられ、心室型心筋細胞と心房型心筋細胞とは区別して機能性試験を行えることが望ましい。
本発明はこのような事情に基づきなされたものであり、細胞型が不明な心筋細胞についてより簡便に細胞型を判定することができる新規な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] 自律拍動する心筋細胞の画像を用いて心筋細胞の動きを検出し、動きベクトルを算出する動き検出部と、
前記動き検出部により算出された心筋細胞の動きベクトルに基づき心筋細胞の拍動に関する情報である拍動情報を算出して、動きベクトルに関する情報と拍動情報とを含む動き情報を生成する動き情報生成部と、
前記動き情報生成部により生成される細胞ごとの動き情報と、細胞型の特定結果についての情報とに基づいて、型判定情報を生成する型判定情報生成部と、
前記型判定情報生成部により生成される型判定情報を用いて、前記動き情報生成部により動き情報が生成された心筋細胞についてその細胞型を判定する細胞型判定部とを含む、心筋細胞型判定システム。
[2] [1]に記載のシステムにおいて、
拍動情報が収縮速度および/または弛緩速度を示す情報を含む心筋細胞型判定システム。
[3] [1]または[2]に記載のシステムにおいて、細胞型の特定結果についての情報が、動き情報が生成された心筋細胞についての免疫細胞染色結果に関する情報を含む心筋細胞型判定システム。
[4] [1]から[3]のいずれか一つに記載のシステムにおいて、
細胞型の特定結果についての情報が、動き情報が生成された心筋細胞についての免疫細胞染色結果に関する情報を含み、
前記型判定情報生成部が、前記動き情報生成部により生成される動き情報と細胞型の特定結果についての情報とに基づいて教師有学習を行うことにより型判定情報を生成する心筋細胞型判定システム。
[5] [1]から[4]のいずれか一つに記載のシステムにおいて、
前記心筋細胞がヒトiPS細胞に由来する心筋細胞型判定システム。
[6] 自律拍動する心筋細胞の画像を用い心筋細胞の動きを検出して動きベクトルを算出し、
算出された心筋細胞の動きベクトルに基づき心筋細胞の拍動に関する情報である拍動情報を算出して、動きベクトルに関する情報と拍動情報とを含む動き情報を生成し、
生成された細胞ごとの動き情報と、細胞型の特定結果についての情報とに基づいて、型判定情報を生成し、
生成された型判定情報を用いて、動き情報が生成された心筋細胞についてその細胞型を判定することを含む、心筋細胞型判定方法。
[7] コンピュータを
自律拍動する心筋細胞の画像を用いて心筋細胞の動きを検出し、動きベクトルを算出する動き検出部と、
前記動き検出部により算出された心筋細胞の動きベクトルに基づき心筋細胞の拍動に関する情報である拍動情報を算出して、動きベクトルに関する情報と拍動情報とを含む動き情報を生成する動き情報生成部と、
前記動き情報生成部により生成される細胞ごとの動き情報と、細胞型の特定結果についての情報とに基づいて、型判定情報を生成する型判定情報生成部と、
前記型判定情報生成部により生成される型判定情報を用いて、前記動き情報生成部により動き情報が生成された心筋細胞についてその細胞型を判定する細胞型判定部として機能させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、細胞型が不明な心筋細胞についてより簡便に細胞型を判定することができる新規な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】本実施形態の機能ブロック図を示すグラフである。
【
図3】本実施形態の型判定情報の生成に係る処理フローを示す図である。
【
図4】本実施形態の細胞型判定に係る処理フローを示す図である。
【
図5】他の実施形態の型判定情報の生成に係る処理フローを示す図である。
【
図6】他の実施形態において動きベクトルに係るピーク間の時間分散の算出に係る模式図である。
【
図7】他の実施形態において動きベクトルに基づき機械学習に用いる細胞の順序を変更した例であり、(A)はより先に機械学習に用いる細胞に関し、(B)はより後に機械学習に用いる細胞に関する。
【
図8】例1の細胞型ごとの拍動情報(収縮速度および弛緩速度)を示すグラフである。
【
図9】例2の機械学習により生成された細胞型判定情報を用いての細胞型判定の正解率に関するグラフ(順序の変更なし)である。
【
図10】例2の機械学習により生成された細胞型判定情報を用いての細胞型判定の正解率に関するグラフ(順序の変更あり)である。
【
図11】例3のイソプロテレノールを処理した細胞型ごとの拍動情報(収縮速度および弛緩速度)を示すグラフである。
【
図12】例3のイソプロテレノールを処理した細胞型ごとの拍動情報(拍動数)を示すグラフである。Aは参考として示す細胞型ごとに分けていない拍動情報(拍動数)に関する。Bは免疫細胞染色により分けられた心室型心筋細胞の拍動情報(拍動数)と心房型心筋細胞の拍動情報(拍動数)に関する。Cは機械学習により得られた型識別情報(アルゴリズム)を用いて分けられた心室型心筋細胞の拍動情報(拍動数)と心房型心筋細胞の拍動情報(拍動数)に関する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の1つの実施形態について、詳細に説明する。
本実施形態に係る心筋細胞型判定システムは動き検出部と、動き情報生成部と、型判定情報生成部と、細胞型判定部とを含んで構成される。
動き検出部は、自律拍動する心筋細胞の画像を用いて心筋細胞の動きを検出し、動きベクトルを算出する。
動き情報生成部は、動き検出部により算出された心筋細胞の動きベクトルに基づき心筋細胞の拍動に関する情報である拍動情報を算出して、動きベクトルについての情報と拍動情報とを含む動き情報を生成する。
型判定情報生成部は、動き情報生成部により生成される細胞ごとの動き情報と、細胞型の特定結果についての情報とに基づいて、型判定情報を生成する。
細胞型判定部は、型判定情報生成部により生成される型判定情報を用いて、動き情報生成部により動き情報が生成された心筋細胞についてその細胞型を判定する。
【0011】
図1は、本実施形態の心筋細胞型判定システムの概要図である。
心筋細胞型判定システム100は、演算処理装置であるプロセッサ11、主記憶装置であるメモリ12、補助記憶装置であるHDD(ハードディスクドライブ)13を有する。また、心筋細胞型判定システム100は、外部ユニットの通信を制御するネットワークIF(インターフェイス)14、モニタ15、入力デバイス16(キーボード、マウス、カメラ等の撮像装置など)、メディア読取デバイス17を有する。
HDD13には、実施形態の態様を実現するためのプログラムが事前に記憶されている。これらプログラムの導入は、インストール用の外部メディア50(CD-ROMやDVDなど)をメディア読取デバイス17で読み取り、HDD13に記憶させる方法や、ネットワークIF14を介してダウンロードしてHDD13に記憶させる方法などがある。
【0012】
図2は、本実施形態の心筋細胞型判定システム100に係る機能ブロック図である。
本実施形態の心筋細胞型判定システム100は、撮像部31、画像データ生成記録部32、動き検出部33、動き情報生成部34、型判定情報生成部35、表示部36、細胞型判定部37、および記憶部40を有している。各機能ブロックは、例えば、HDD13からメモリ12に読み出されたプログラムのプロセッサ11による実行および必要に応じて組み合わされる公知の機器により実現することができる。
【0013】
記憶部40には、画像データ生成記録部32により生成される画像データや、動き情報生成部34により生成される細胞ごとの動き情報、該動き情報に基づき型判定情報生成部35において機械学習により生成された型判定情報(アルゴリズム)、および細胞型判定部37による細胞型の判定結果が記憶される。
【0014】
撮像部31は、心筋細胞103を撮像する。具体的には、撮像部31は、所定の期間、心筋細胞103を撮像し、心筋細胞103を被写体とする動画像を得る。
なお、心筋細胞103は自律拍動する心筋細胞であり、例えば、市販ヒトiPS細胞由来分化心筋細胞、ヒトiPS細胞から分化誘導した心筋細胞を挙げることができる。
【0015】
撮像部31は、心筋細胞103を直接(他の部材を介さずに)撮像してもよい。また、例えば顕微鏡等のような他の部材を介して心筋細胞103を撮像するようにすることもできる。
【0016】
心筋細胞103が入れられるディッシュは、撮像部31に対して固定されていてもよいし、固定されていなくてもよい。心筋細胞型判定システム100は、動き(位置の時間的変化)を検出するため、一般的には該ディッシュが撮像部31に対して固定されている方が望ましい。
【0017】
撮像部31は、撮像により得られた心筋細胞103の画像の画像信号を画像データ生成記録部32に送出する。
【0018】
画像データ生成記録部32は、撮像部31から取得した画像信号を基にして心筋細胞103の画像データを生成する。画像データ生成記録部32は、生成した画像データを記憶部40に記憶させる。生成される画像データは、例えば、心筋細胞103を撮像した画像信号から生成される動画像データである。ここで、上述のとおり撮像は所定の長さの時間的区間(例えばT+1フレーム(Tは任意の自然数))行われる。画像データ生成記録部32により生成される画像データは、例えばその区間に対応する1番目から(T+1)番目までのフレーム画像データから構成される。
また、画像データ生成記録部32は、生成した画像データを、動き検出部33に送出する。
【0019】
動き検出部33は、自律拍動する心筋細胞の画像である画像データを用いて心筋細胞103の動きを検出し、動きベクトル(速度-時間波形)を算出する。具体的には、動き検出部33は、画像データ生成記録部32から取得した画像データについて複数のブロックに分ける。次いで動き検出部33はブロックごとに動き検出を行い、1つ前のフレームから現フレームへの測定ブロックの移動を心筋細胞の動きを示す動きベクトルとして算出する。動き検出部33は、算出された動きベクトルを拍動情報生成部34に送出する。
【0020】
動き情報生成部34は、動き検出部33により算出された心筋細胞の動きベクトルを用いて心筋細胞の拍動に関する情報である拍動情報を算出し、該拍動情報と動き検出部33から得た動きベクトルに関する情報とを含む動き情報を生成する。
より具体的に説明すると、拍動情報生成部34は動き量算出部341と拍動情報算出部342とを有する。動き量算出部341は、動き検出部33から送出された動きベクトルに基づいて動き量を算出する。動き量算出部341は、算出した動き量を動きベクトルと共に拍動情報算出部342に送出する。
拍動情報算出部342は、取得した動き量に基づき拍動情報を算出し、動きベクトルに関する情報と拍動情報を含む動き情報を生成する。拍動情報算出部342は、動き情報を型判定情報生成部35および細胞型判定部37に送出する。
【0021】
なお、上述した細胞ごとの動きベクトルの算出および拍動情報の生成は公知の方法により行うことができ、例えば特許文献1に記載の方法と同様の方法とすることができる。また、該方法はソニー株式会社により販売されているセルモーションイメージングシステムSI8000を利用して行うこともできる。SI8000を用いることで、動きベクトルや、拍動数、変形速度、変形加速度、変形距離等の力学的挙動解析に必要な表1に示すパラメータを細胞ごとの拍動情報として自動的に計算することができる。本実施形態の心筋細胞型判定システム100においては、表1に示す1または2以上のパラメータを細胞ごとに拍動情報として生成し、心室型心筋細胞の拍動情報および心房型心筋細胞の拍動情報の生成に用いるようにしてもよい。
例えば、縦軸を動き量、横軸を時間とする心筋細胞103の収縮に対応するピークおよび/または弛緩に対応するピークを有する波形を生成する。次いで、該波形における収縮のピークの立ち上がりからピークに到達するまでの時間と、収縮のピークに対応する動き量から算出される収縮速度(収縮期変形速度)、および/または該波形における弛緩のピークの立ち上がりからピークに到達するまでの時間と、弛緩のピークに対応する動き量から算出される弛緩速度(弛緩期変形速度)を含むデータを生成する。該データを拍動情報として心室型心筋細胞の拍動情報および心房型心筋細胞の拍動情報の生成に用いるようにしてもよい。
【0022】
【0023】
型判定情報生成部35は機械学習により型判定情報を生成する。
型判定情報生成部35は、サポートベクトルマシン等の判定器を用いて機械学習を実施し、型判定情報(アルゴリズム)を生成する。このとき型判定情報生成部35は、動き情報に含まれる動きベクトル(速度-時間波形)から抽出されるパラメータおよび拍動情報を単独もしくは複数個組み合わせて使用し、且つ免疫細胞染色の結果を利用して判定の正解を学習させる(教師有学習の実施)。
【0024】
機械学習による型判定情報の生成について、より詳細に説明する。
型判定情報生成部35は、動きベクトルから抽出されるパラメータ(表2)と、SI8000で算出される拍動情報(力学的パラメータ、表1)を単独もしくは組み合わせて判定器によるアルゴリズム作成のために用いる。
【0025】
【0026】
また、機械学習に用いる判定器は、例えば表3に列挙されたものの少なくともいずれかを用いることができる。
【0027】
【0028】
判定の正解は、例えば心筋細胞型判定システム100が有するキーボード等の入力デバイス等を介して入力された細胞型の特定結果を型判定情報生成部35が取得して利用することができる。また、細胞型の特定は、例えば、動き情報が生成された心筋細胞についての、免疫細胞染色による細胞型判定により行うことができる。
【0029】
型判定情報生成部35は、記憶部40に型判定情報(アルゴリズム)が記憶されていない場合、動き情報生成部34から得た動き情報に基づき、型判定情報の生成を行う。記憶部40に型判定情報が記憶されている場合、型判定情報生成部35は、該型判定情報を取得し、動き情報生成部34から得た動き情報に基づきアルゴリズムを評価し、必要に応じて修正を実施する。
型判定情報生成部35は、生成または修正した型判定情報を記憶部40に記憶させる。また、型判定情報生成部35は、動き情報とその動き情報に対応する細胞の細胞型の特定結果についての情報とを関連付け、記憶部40に記憶させる。
また、型判定情報生成部35は型判定情報を生成または修正したことを表示部36に表示させる。
【0030】
細胞型判定部37は、該型判定情報(アルゴリズム)を用いて細胞型の判定を実施する。
細胞型判定部37は、型判定情報生成部35により生成される型判定情報を用いて、動き情報生成部34により動き情報が生成された心筋細胞についてその細胞型を判定する。
本実施形態においては、記憶部40に型判定情報生成部35により生成される型判定情報が記憶されている場合に細胞型の判定が行われる。このとき、細胞型判定部37は、型判定情報を用いて、拍動情報算出部342から送出された動き情報に対応する心筋細胞について、細胞型の判定を実施する。
細胞型判定部37は、判定結果を記憶部40に記憶させるとともに、表示部36に表示させる。
【0031】
次に、本実施形態における型判定情報の生成に係る処理フローについて
図3を用いて説明する。
まず、ステップS101において、画像データ生成記録部32は、撮像部31から送出される画像信号に基づき心筋細胞103の画像データを生成する。
【0032】
ステップS102において、動き検出部33は、画像データ生成記録部32により生成された画像データに基づき、動きベクトル生成処理を実行する。
【0033】
ステップS103において、動き情報生成部34は、動き検出部33により生成された動きベクトルに基づき拍動情報を算出し、画像データが生成された細胞についての、動きベクトルに関する情報と拍動情報を含む動き情報を生成する。
【0034】
ステップS104において、型判定情報生成部35は、例えば免疫細胞染色の結果である、細胞型の特定結果についての情報が取得されたか否かを判定する。
細胞型の特定結果についての情報が取得されていない場合、型判定情報生成部35は、機械学習等を実施することなく処理を終了する。
一方、細胞型の特定結果についての情報が取得される場合、型判定情報生成部35は、ステップS105において、記憶部40に型判定情報が記憶されているか否かを判定する。
型判定情報が記憶されていない場合、ステップS106において、型判定情報生成部35は、動き情報に基づき型判定情報を生成する。
一方、型判定情報が記憶されている場合、ステップS107において、型判定情報生成部35は、記憶部40に記憶されている型判定情報を取得し、動き情報に基づき評価を行う。また、その評価の結果に基づき、必要に応じてアルゴリズムを修正する。
【0035】
次に、本実施形態における細胞型の判定に係る処理フローについて
図4を用いて説明する。
まず、ステップS201において、画像データ生成記録部32は、撮像部31から送出される画像信号に基づき心筋細胞103の画像データを生成する。
【0036】
ステップS202において、動き検出部33は、画像データ生成記録部32により生成された画像データに基づき、動きベクトル生成処理を実行する。
【0037】
ステップS203において、動き情報生成部34は、動き検出部33により生成された動きベクトルに基づき拍動情報を算出し、画像データが生成された細胞についての、動きベクトルに関する情報と拍動情報を含む動き情報を生成する。
【0038】
ステップS204において、細胞型判定部37は記憶部40に型判定情報生成部35により生成される型判定情報が記憶されているかを判定する。
型判定情報が記憶されていない場合、細胞型判定部37は細胞型の判定を実施することなく処理を終了する。一方、型判定情報が記憶されている場合、細胞型判定部37は該型判定情報を用いて、取得された動き情報に対応する細胞についての細胞型の判定を実施する(ステップS205)。細胞型判定部37は判定結果をその細胞に係る動き情報と関連付けて記憶部40へ記憶させ、且つ判定結果を表示部36に表示させて処理を終了する。
【0039】
なお、本実施形態において、1の細胞について心筋細胞型判定システム100による型判定情報の生成と細胞型判定の両方を行うようにしてもよい。これにより型判定情報を用いての型判定の精度をさらに高めることができる。
一方、1の細胞について型判定情報の生成または型判定に係る処理のいずれかのみを行うようにしてもよい。
【0040】
以上、本実施形態によれば、細胞型が不明な心筋細胞についてより簡便に細胞型を判定することができる新規な技術を提供することができる。
【0041】
本実施形態においては細胞ごとに動き情報を取得し、該動き情報に含まれる情報をベンチマークとする型判定情報を機械学習(教師有学習)により生成する。また、該型判定情報を用いて心室型心筋細胞と心房型心筋細胞とを区別を実行する。
【0042】
上述のとおり、これまで心房型心筋細胞と心室型心筋細胞で活動電位波形が異なることを示している先行技術が存在する。しかしながら活動電位の測定は細胞に対する侵襲性が著しく高い。さらに、スループットが高く見積もっても5データ/日であり、著しく低い。一方、本実施形態に係る方法に基づけば、簡便、非侵襲的であり、システム構成にもよるが、一度に100個程度の観察も可能である。現行技術と比して、少なくとも10倍以上はスループット性が高いと考えられる。
すなわち、細胞型が不明な心筋細胞についてより簡便に細胞型を判定することができる。
【0043】
以上、本発明の一つの実施形態について説明したが、本発明は他の形態とすることもでき、特に限定されない。
【0044】
例えば、機械学習において、型判定情報生成部35は、所定数の複数の細胞について記憶部40に動き情報が記憶されているときに機械学習を行うようにしてもよい。さらにこのとき、型識別情報生成部35は、機械学習を行う細胞の順序を細胞の動き情報に基づき決定するようにすることができる。例えば、型識別情報生成部35は、機械学習を行う細胞の順序を並び替える(画像データが取得された時間的な順序とは異なる順序に変更する)ようにしてもよい。この場合の処理フローの一例を
図5に示す。
型判定情報(アルゴリズム)の生成に先立ち、型判定情報生成部35は、記憶部40に所定数の複数の動き情報が記憶されているか否かを判定する(ステップS306)。所定数の複数の動き情報が記憶されていない場合、型判定情報生成部35は、型判定情報を生成することなく処理を終了する。一方、所定数の複数の動き情報が記憶されている場合、型判定情報生成部35は、機械学習を行う細胞の順序を細胞の動き情報に基づき決定した後(ステップS306-2)、型判定情報(アルゴリズム)の生成を生成する(ステップS306-3)。
【0045】
例えば、機械学習において、拍動情報に含まれるノイズについての情報に基づき複数の細胞について機械学習を行う順序を並び替えるようにしてもよい。具体的には例えば、ノイズの値が小さい順に細胞についての機械学習を行うようにすることができる。その結果、型判別情報(アルゴリズム)を用いての細胞型判定の精度をさらに高めることが可能である。
【0046】
また、動きベクトル(速度-時間波形)に基づき複数の細胞について機械学習を行う順序を並び替えるようにしてもよい。なお、以下の1)~3)は
図6における1)~3)と対応する。
1) 動きベクトル(速度-時間波形)から所定フレーム(例えば150フレーム)ずつ切り出して、動きベクトルに係るピークが最大のところをfirst peakとする。なお、所定フレームの数は細胞の拍動周期に基づき、動きベクトルに係るピークが最大のところが含まれるように設定することができる。
2) 次に、取り出したfirst peakの間でさらにピークとなるところ(first peakの次に大きなピーク)をsecond peakとする。
3) first peak が起こった後にsecond peakが起こった時間の分散を求め、該分散の値の小さいものから順に細胞の機械学習を行う。
【0047】
動きベクトル(速度-時間波形)からfirst peakとsecond peakを検出し、ピーク間の時間分散を算出して機械学習を行う順序を並べ替えた例を
図7に示す。このように動きベクトルの波形に基づき機械学習を行う細胞の順序を並べ替えることで、ピークがよりはっきりしている細胞から順に機械学習を行うようにする。その結果、型判別情報(アルゴリズム)を用いての細胞型判定の精度をさらに高めることが可能である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0049】
[例1:心室型心筋細胞、心房型心筋細胞ごとの動き情報の生成]
市販のヒトiPS細胞由来心筋細胞であるiCell-CM (CDI, FUJI FILM社)およびCor.4U (Axiogenesis社)について細胞型ごとの動き情報の生成を行った。
刺激装置を用いて、0.5 Hzでフィールド刺激を印加することにより収縮した細胞を解析対象とした。
また、グリッド付きガラスボトムディッシュ(池本理化工業株式会社)を用いて画像データを取得した細胞の座標を記録し、細胞の抗体染色後の照合を容易とした。
【0050】
顕微鏡用培養システムStage TopIncubator(株式会社東海ヒット)を用いて、細胞が入ったディッシュ全体を37℃、5%CO2の状態を維持した。倒立顕微鏡(オリンパス、IX70)上にチャンバーごと細胞を設置し、顕微鏡用超高速カメラ(日立)を用いて、画像データを取得した。
【0051】
取得した画像データから、セルモーションイメージングシステムSI8000(ソニー株式会社)を用いて、拍動情報として各細胞の収縮速度および弛緩速度を算出し、該拍動情報を含む動き情報を生成した。
【0052】
次に、Small EM & Hrieg PA (2004) Molecular regulation of cardiac chamber-specific gene expression. Trends in Cardiovascular Medicine 14, 13-18., に基づき、iCell-CMおよびCor.4Uごとに、これらに含まれる心室型心筋細胞と心房型心筋細胞について、以下に示す蛍光標識したマウスIgG抗体およびウサギIgG抗体を用いての抗体免疫染色による細胞型の特定を行った。
Anti MLC-2a : Synaptic Systems, Cat.No.311011, 1:50(マウスモノクローナル抗体)Anti MLC-2v: proteintech, Cat.No.10906-1-AP, 1:50(ウサギポリクローナル抗体)
【0053】
拍動情報(収縮速度)を含む動き情報を生成した細胞をディッシュの座標から照合し、上述の抗体免疫染色を行った後、それらの細胞の共焦点顕微鏡観察画像を取得した。共焦点顕微鏡観察画像からMLC2vもしくはMLC2aに特異的に発現している細胞に関して、MLC2vについては心室型心筋細胞、MLC2aについては心室型心筋細胞として特定した。該処理に基づき、特定結果を細胞ごとにコンピュータに入力して、拍動情報を心室型心筋細胞のものと心房型心筋細胞のものの2群に分けた(細胞型の特定)。なお、MLC2vおよびMLC2aを同等に発現している混合型は細胞型の特定は行わなかった。
【0054】
続いて、心室型心筋細胞群の拍動情報(収縮速度および弛緩速度)と心房型心筋細胞群の拍動情報(収縮速度および弛緩速度)について、平均および標準誤差を算出した。さらに、統計的に比較するために、Unpaired-t検定もしくはMann-Whitney検定を行った。
結果を
図8に示す。
図8から、収縮速度および弛緩速度について、心室型心筋細胞群と心房型心筋細胞群との間で差があることが理解できる。
【0055】
[例2:機械学習により作成した型判定情報(アルゴリズム)を用いての細胞型判定]
市販のヒトiPS細胞由来心筋細胞であるiCell-CM (CDI, FUJI FILM社)について、実施例1と同様に画像データを生成した。
SI8000を用い、動きベクトルから抽出された周波数パワーを用いて、表3に記載のサポートベクトルマシン (SVC)、L1正則化ロジスティック回帰 (L1)、L2正則化ロジスティック回帰(L2) 、RBFカーネルを用いたサポートベクトルマシン (RBF)、ランダムフォレスト回帰 (RF) 、決定木 (Decision Tree)の5つの判定器を使用し、判定器ごとに型判定情報(アルゴリズム)を生成した。該型判定情報を用いて、細胞型不明の心筋細胞について細胞型判定を実施した。
結果を
図9に示す。
図9においては縦軸が正解率であり、心室型心筋細胞、心房型心筋細胞の2択なのでchance levelの50%に波線を入れている。
図9に示すとおり、最大約70%の判定成績で細胞型が判定できた。
【0056】
また、上述の型判定情報の生成処理に先立ち、動きベクトル(速度-時間波形)に基づき、以下のようにして細胞について機械学習を行う順序について並び替えを行った。
1) 動きベクトル(速度-時間波形)から150フレームずつ切り出して、動きベクトルに係るピークが最大のところをfirst peakとした。
2) 取り出したfirst peakの間でさらにピークとなるところ(first peakの次に大きなピーク)をsecond peakとした。
3) first peak が起こった後にsecond peakが起こった時間の分散を求め、該分散の値の小さいものから順に型判定情報生成を行った。
【0057】
結果を
図10に示す。
図10に示すとおり、正解率が改善され、約80%に近い判定成績で細胞型が判定できた。
【0058】
[例3:イソプロテレノール処理心筋細胞についての分析]
撮像前にイソプロテレノールを処理した心筋細胞群(iCell-CM)についても例1と同様に心室型心筋細胞群の拍動情報(収縮速度および弛緩速度)と心房型心筋細胞群の拍動情報(収縮速度および弛緩速度)を得た。
結果を
図11に示す。
図11中、収縮速度および弛緩速度はイソプロテレノール処理前のものを100%として示している。
図11からイソプロテレノールを処理した場合にも心室型心筋細胞群と心房型心筋細胞群との間で差があることが理解できる。また、イソプロテレノールを処理することで心室型心筋細胞群においては収縮速度および弛緩速度が増加する傾向がある一方、心房型心筋細胞群においては収縮速度および弛緩速度は変動しない傾向があることが理解できる。
【0059】
また、
図12は、撮像前にイソプロテレノールを処理した上記の心筋細胞群(iCell-CM)について、拍動情報として拍動数を用い、心室型心筋細胞群と心房型心筋細胞群を分けたグラフである(Aが細胞型について分けることなく作成された統計情報であり、Bが分類されて作成された統計情報である)。
図12A、Bからも免疫細胞染色により心房型と心室型を分けて解析することにより、薬剤の効果が心房型細胞に選択的に作用していることが明らかとなっている。
また、SI8000で算出される力学的パラメータの中から加速度および相関ベクトル方向標準偏差を用い、判別器にはサポートベクトルマシンを使用し、さらに免疫細胞染色の判定結果を教師データとして機械学習を行った。得られた型判別情報(アルゴリズム)を用いて細胞型を分類したものについても同様の結果が得られた(
図12C)。このことから、機械学習により得られたアルゴリズムを利用すると、アルゴリズム作成後は免疫細胞染色による判定を用いずとも心室型心筋細胞と心房型心筋細胞を判定して薬剤の作用効果を定量できることが理解できる。
【符号の説明】
【0060】
11 プロセッサ
12 メモリ
13 HDD
16 入力デバイス
31 撮像部
32 画像データ生成記録部
33 動き検出部
34 動き情報生成部
35 型判定情報生成部
37 細胞型判定部
40 記憶部
100 心筋細胞型判定システム