(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】リテーナリング、これを有する研磨ヘッド及び研磨加工装置
(51)【国際特許分類】
B24B 37/32 20120101AFI20221026BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20221026BHJP
B24B 37/30 20120101ALI20221026BHJP
【FI】
B24B37/32 A
H01L21/304 622G
H01L21/304 622K
B24B37/30 E
(21)【出願番号】P 2018171284
(22)【出願日】2018-09-13
【審査請求日】2021-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】500487837
【氏名又は名称】ミクロ技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001863
【氏名又は名称】特許業務法人アテンダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小村 明夫
【審査官】大光 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-165792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/32
H01L 21/304
B24B 37/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨加工の対象となる基板を、その被研磨面が研磨パッドに摺接するように保持する研磨ヘッドが有する、当該研磨加工の際に当該基板の外方への飛び出しを規制するリテーナリングであって、
前記リテーナリングは、
前記研磨ヘッドの外周に配設される、上底面を有する二重筒状体と、
略Σ形状に形成され、前記二重筒状体の内壁の外周に接す
る第1の部位と、
当該第1の部位
との接続箇所を支点にして前記研磨パッドの表面に接触する面が揺動可能に構成された第2の部位とを有する環状体と、
前記環状体を前記研磨パッドの方向に押圧する第1の押圧手段と、
逆L字形状に形成された環状部材である押しリングを介して前記第2の部位の外方側端部近傍を押圧する第2の押圧手段と、
を有することを特徴とする、
リテーナリング。
【請求項2】
前記第1の押圧手段により付与する圧力を制御して前記研磨パッドの表面を基準にしたときの前記第2の部位の傾斜角度を所定の角度となるように制御する制御手段を有することを特徴とする、
請求項1に記載のリテーナリング。
【請求項3】
前記制御手段は、前記第2の押圧手段により付与する圧力を制御することを特徴とする、
請求項
2に記載のリテーナリング。
【請求項4】
水平に回転する研磨パッドを有する研磨加工装置に設けられる研磨ヘッドであって、
研磨加工の対象となる基板を、その被研磨面が前記研磨パッドに摺接するように保持する保持手段と、
前記基板を保持した状態の前記保持手段の外周を囲む形状に形成されたリテーナリングと、
前記保持手段を水平に回転させる駆動手段と、を有し、
前記リテーナリングは、
前記研磨ヘッドの外周に配設される、上底面を有する二重筒状体と、
略Σ形状に形成され、前記二重筒状体の内壁の外周に接す
る第1の部位と、
当該第1の部位
との接続箇所を支点にして前記研磨パッドの表面に接触する面が揺動可能に構成された第2の部位とを有する環状体と、
前記環状体を前記研磨パッドの方向に押圧する第1の押圧手段と、
逆L字形状に形成された環状部材である押しリングを介して前記第2の部位の外方側端部近傍を押圧する第2の押圧手段と、
を有することを特徴とする、
研磨ヘッド。
【請求項5】
前記リテーナリングは、前記保持手段に保持された基板の端部と当該リテーナリングの内周とが非接触状態となるサイズに形成されることを特徴とする、
請求項
4に記載の研磨ヘッド。
【請求項6】
研磨パッドを有する研磨テーブルと、研磨加工対象となる基板を保持してその被研磨面を
当該研磨パッドに摺接させる研磨ヘッドと、を有する研磨加工装置であって、
前記研磨ヘッドは、
研磨加工対象となる基板を、その被研磨面が前記研磨パッドに摺接するように保持する保持手段と、
前記基板を保持した状態の前記保持手段の外周を囲む形状に形成されたリテーナリングと、
前記保持手段を水平に回転させる駆動手段と、を有し、
前記リテーナリングは、
前記研磨ヘッドの外周に配設される、上底面を有する二重筒状体と、
略Σ形状に形成され、前記二重筒状体の内壁の外周に接す
る第1の部位と、
当該第1の部位
との接続箇所を支点にして前記研磨パッドの表面に接触する面が揺動可能に構成された第2の部位とを有する環状体と、
前記環状体を前記研磨パッドの方向に押圧する第1の押圧手段と
、
逆L字形状に形成された環状部材である押しリングを介して前記第2の部位の外方側端部近傍を押圧する第2の押圧手段と、
を有することを特徴とする、
研磨加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハ又はガラス基板などの基板の研磨加工に用いるリテーナリング、これを有する研磨ヘッド及び研磨加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの製造工程においては、半導体ウェーハやガラス基板のような基板(以下、ウェーハと称する)の高集積化に伴い、基板表面の平坦化技術がますます重要になっている。この平坦化技術のうち、最も重要な技術は、化学的機械的研磨(CMP(Chemical Mechanical Polishing))である。この化学的機械的研磨は、研磨加工装置(ポリッシング装置とも呼ばれる)を用いて、シリカ(SiO2)等の砥粒を含んだ研磨液を研磨パッド等の研磨面上に供給しつつ、基板を研磨面に摺接させて研磨加工を行うものである。
【0003】
また、ウェーハを保持する研磨ヘッドには、研磨加工において回転による摺動摩擦力により付勢されたウェーハが外方に飛びださないようにするために当該ウェーハの外周を囲むようにリング状に形成されたリテーナリングが設けられている。このリテーナリングは、その下端面が研磨パッドに接触し、研磨中のウェーハをその内周面で受け止めることで、ウェーハの飛び出しを規制する。
【0004】
また、リテーナリングの面圧はウェーハのエッジ部の面圧制御に大きく影響している。
例えば、リテーナリングが無い場合にはウェーハを研磨パッドに押し付けると研磨パッドは弾性変形して圧縮される。このとき、材料力学的な挙動としてウェーハのエッジ部には、圧縮している部分と圧縮していない部分の境界領域部で中央部と異なる圧縮応力が作用し、他の部位よりも研磨量が過少になる場合がある。
【0005】
例えば、特許文献1、2に開示された研磨装置では、リテーナリングの少なくとも内周部をゴム等の弾性体で構成しているので、ウェーハとリテーナリングの接触範囲を増やすことによりウェーハ回転速度の増速が可能となる、というものである。
また、特許文献2に開示された研磨装置では、リテーナリングの内周面がウェーハの摩擦力を受けた時に外周に向かって弾性変形することで、ウェーハ端部とリテーナリング内周の接触範囲を増やしてウェーハの局所変形を抑制する、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-40604号公報
【文献】特開2017-209757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような研磨加工装置では、ウェーハにおいて研磨加工の対象となる面(以下、「被研磨面」という)と研磨パッドとの間の相対的な速度及び押圧力が被研磨面の全面に亘って均一でないと、研磨不足あるいは過研磨などの研磨ムラが生じてしまう。以下、不足あるいは過ぎる場合を過・少と称する場合がある。
例えば、ウェーハ端部(エッジ)近傍の平坦度を評価する評価指標(フラットネス評価指標)として、ROA(Roll Off Amount:ロールオフ量、エッジロールオフ量とも称す)、ESFQR(Edge Site Flont least sQuare Range)といった指標が使用されている。なおROA及びESFQRはウェーハの外周面精度を示すパラメータである。
また近年では、ウェーハの外周まで平らな形状が求められるようになり、これらのフラットネス評価指標で10[nm]以下の平坦度の高い研磨加工が行える研磨加工装置が求められる。
【0008】
しかしながら、特許文献1、2のようなウェーハ端部とリテーナリング内周の接触範囲を増やし、ウェーハの局所変形を抑制する方法では、被研磨面での特定部分におけるSFQR等の向上が十分に図れない、という課題が残る。また、ウェーハ端部において単位時間当たりの研磨加工量が不均等になりESFQRを悪化させてしまう、という問題が残る。
【0009】
本発明は、ウェーハ端部と他部の研磨加工量のばらつきを抑制するためのリテーナリングを提供することを、主たる課題とする。また、研磨加工装置及びその構成装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明は、研磨加工の対象となる基板を、その被研磨面が研磨パッドに摺接するように保持する研磨ヘッドが有する、当該研磨加工の際に当該基板の外方への飛び出しを規制するリテーナリングであって、前記リテーナリングは、前記研磨ヘッドの外周に配設される、上底面を有する二重筒状体と、略Σ形状に形成され、前記二重筒状体の内壁の外周に接する第1の部位と、当該第1の部位との接続箇所を支点にして前記研磨パッドの表面に接触する面が揺動可能に構成された第2の部位とを有する環状体と、前記環状体を前記研磨パッドの方向に押圧する第1の押圧手段と、逆L字形状に形成された環状部材である押しリングを介して前記第2の部位の外方側端部近傍を押圧する第2の押圧手段と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の研磨ヘッドは、水平に回転する研磨パッドを有する研磨加工装置に設けられる研磨ヘッドであって、研磨加工の対象となる基板を、その被研磨面が前記研磨パッドに摺接するように保持する保持手段と、前記基板を保持した状態の前記保持手段の外周を囲む形状に形成されたリテーナリングと、前記保持手段を水平に回転させる駆動手段と、を有し、前記リテーナリングは、前記研磨ヘッドの外周に配設される、上底面を有する二重筒状体と、略Σ形状に形成され、前記二重筒状体の内壁の外周に接する第1の部位と、当該第1の部位との接続箇所を支点にして前記研磨パッドの表面に接触する面が揺動可能に構成された第2の部位とを有する環状体と、前記環状体を前記研磨パッドの方向に押圧する第1の押圧手段と、逆L字形状に形成された環状部材である押しリングを介して前記第2の部位の外方側端部近傍を押圧する第2の押圧手段と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の研磨加工装置は、研磨パッドを有する研磨テーブルと、研磨加工対象となる基板を保持してその被研磨面を当該研磨パッドに摺接させる研磨ヘッドと、を有する研磨加工装置であって、前記研磨ヘッドは、研磨加工対象となる基板を、その被研磨面が前記研磨パッドに摺接するように保持する保持手段と、前記基板を保持した状態の前記保持手段の外周を囲む形状に形成されたリテーナリングと、前記保持手段を水平に回転させる駆動手段と、を有し、前記リテーナリングは、前記研磨ヘッドの外周に配設される、上底面を有する二重筒状体と、略Σ形状に形成され、前記二重筒状体の内壁の外周に接する第1の部位と、当該第1の部位との接続箇所を支点にして前記研磨パッドの表面に接触する面が揺動可能に構成された第2の部位とを有する環状体と、前記環状体を前記研磨パッドの方向に押圧する第1の押圧手段と、逆L字形状に形成された環状部材である押しリングを介して前記第2の部位の外方側端部近傍を押圧する第2の押圧手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ウェーハ端部と他部の研磨加工量のばらつきを抑制するためのリテーナリングを提供することができる。また、基板の被研磨面の部分的な研磨不足あるいは過研磨などの研磨ムラの発生を防ぎ、基板表面のESFQR等の更なる向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る研磨加工装置が有する研磨ヘッド及びその周辺構成の一例を説明するための概略縦断面図。
【
図2】研磨ヘッドの構成の一例を説明するための図。
【
図3】リテーナリング(リテーナ機構)の構成の一例を説明するための図。
【
図4】(a)、(b)は、従来のリテーナリングによる研磨パッド表面の押え込みを説明するための模式図。
【
図5】(a)、(b)は、研磨加工時においてウェーハの端部がリテーナリングの内壁に当接しないように構成した場合におけるリテーナリングによる研磨パッド表面の押え込みを説明するための模式図。
【
図6】研磨加工を実行する際の制御部による主要な制御手順の一例を説明するためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施形態例]
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態例を説明する。なお、本実施形態の研磨加工装置は、半導体ウェーハやガラス基板のような基板(以下、ウェーハと称する場合もある)を研磨対象とする。本明細書では、この基板の一方の表面を円形又は略円形の被研磨面と称す。また、研磨パッド上においてウェーハの被研磨面が接する面を研磨面と称す。
【0016】
研磨加工装置は、研磨部材となる研磨パッドが接着され、この研磨パッドを水平に回転させるための研磨テーブルと、基板の被研磨面を研磨パッドに対向させて摺接させるための研磨ヘッドとを有している。
基板は、研磨ヘッドにより研磨パッドに押圧される。そして、研磨パッドに研磨液(スラリー)を供給しながら研磨テーブルと研磨ヘッドを回転させることにより、被研磨面の研磨加工を行う。
【0017】
図1は、本実施形態に係る研磨加工装置100の概略構成図である。
図1に示す研磨加工装置100は、研磨テーブル11を有し、この研磨テーブル11の表面部に研磨パッド12が接着されている。
研磨加工装置100は、更に基板(ウェーハ)Wを保持してその被研磨面を研磨パッド12に押圧する研磨ヘッド13、研磨液を研磨パッド12に向けて供給するためのノズルN、研磨テーブル11及び研磨ヘッド13をそれぞれ水平に回転させるためのモータ(図示省略)、ノズルNと接続されている研磨液供給機構(図示省略)、及び、モータを含む各駆動部を制御するためのコンピュータを含む制御部20を有する。
【0018】
研磨パッド12は円盤状のものであり、その半径は、ウェーハWの被研磨面の最大径(直径)よりも大きいものである。この機構において研磨パッド12と研磨ヘッド13それぞれの回転数及び回転方向を変化させ、ウェーハW面内の相対研磨速度を調整できる機構となっている。また、研磨パッド12は、それ自体で弾性を持つものであり、不織布からなるものや、発泡ウレタン製のものなど、市場で入手できる素材を用いることができる。
【0019】
研磨ヘッド13は、ウェーハWを、その被研磨面が研磨パッド12に摺接するように保持する保持機構、保持されたウェーハWをその被研磨面の背面方向(背面側)から研磨パッド12の方向に向けて圧力を付与する押圧機構を有する。これらの機構の詳細については後述する。
【0020】
制御部20は、ノズルNの位置決め、ノズルNからの研磨液の供給開始又は停止制御、ノズルNから噴出供給される研磨液の単位時間当たりの供給量制御、モータの始動開始や始動停止制御等を主として行う。制御部20により制御されたモータの回転力は、図示しない駆動部を介して研磨テーブル11に伝達される。これにより研磨テーブル11が水平に回転し、あるいは回転を停止する。
研磨ヘッド13にも、図示しない駆動部(例えば自在継手)を介してモータの回転力(トルク)が伝達される。これにより研磨ヘッド13が水平に回転し、あるいは回転を停止する。
【0021】
研磨テーブル11の回転方向と研磨ヘッド13の回転方向は同方向であることが一般的である。これは、逆方向にするとウェーハ面内の研磨相対速度が不均一となり、均等量研磨が不可能となるおそれがあるためである。研磨テーブル11の回転方向と研磨ヘッド13の回転方向を同じ方向として、両者の回転速度を調整することで研磨精度を高めることができる。
なお、単一のモータの回転力を、それぞれ異なるギア比のギアを介して研磨テーブル11及び研磨ヘッド13に伝達するようにしても良く、それぞれ個別のモータを通じて回転力を伝達するようにしても良い。両者は任意に設計することができる。この制御部20による制御手順については、後述する。
【0022】
研磨液は、制御部20の制御により研磨テーブル11の回転速度が所定値に達した状態で、ノズルNから所定時間、研磨パッド12に向けて供給される。
次に、研磨加工装置100が備える研磨ヘッド13及びその周辺構成について、詳しく説明する。
【0023】
[研磨ヘッド及びその周辺構成]
図2は、研磨加工装置100が有する研磨ヘッド13及びその周辺構成の一例を説明するための概略縦断面図である。
図2を用いて研磨ヘッド13の構成の一例を説明する。
なお、以下の説明においては、ウェーハ表面のGBIR等の更なる向上を図るために研磨加工装置100が制御する圧力においてウェーハWをその被研磨面が研磨パッド12に摺接するように保持し、保持されたウェーハWをその被研磨面の背面方向(背面側)から研磨パッド12の方向に向けて付与する圧力を圧力P1とする。
また、後述するエアバッグ51により、本実施形態に係るリテーナリング(リテーナ機構)の構成に含まれる環状体41へ付与する圧力を圧力P2とする。また、後述するエアバッグ52により押しリング42を介して環状体41へ付与する圧力を圧力P3とする。
【0024】
[研磨ヘッドの構成]
図2に示す研磨ヘッド13は、大別して、研磨対象のウェーハWに対して研磨圧力(加工圧力)を付与して当該ウェーハを研磨パッド12に摺接させる保持機構、及び、研磨圧力(加工圧力)の付与や研磨パッド12側に向けて環状体41を押圧するための押圧機構を有する。なお本実施形態に係るリテーナリング(リテーナ機構)の構成に含まれる環状体41は、研磨ヘッド13及び研磨テーブル11の回転力により付勢されたウェーハWの外周方向への飛び出しを規制する。
【0025】
研磨ヘッド13が有する保持機構は保持手段として機能し、前述したように研磨対象のウェーハWに対して研磨圧力(圧力P1)を付与して研磨パッド12に摺接させる機構である。
研磨ヘッド13が有する押圧機構は押圧手段として機能し、前述した圧力P1を調製する第1の圧力機構(P1a)、圧力P2を調製する第2の圧力機構(P2a)、圧力P3を調製する第3の圧力機構(P3a)を含んで構成される。
【0026】
研磨ヘッド13は、ヘッド駆動軸を有するヘッドカバー30、リテーナリングカバー40(ベッセル40と称する場合もある)、ラバーメンブレン31、メンブレンホルダーリング32、バッキングフイルムTを有する。
リテーナリングカバー40は、上底面を有する二重筒状体(環状に形成された筐体)に形成される。また、リテーナリングカバー40の内壁と外壁とにより形成される空間には、本実施形態に係るリテーナリングの各構成品が収容される。具体的には、
図2に示すように、その空間内に環状体41、押しリング42、環状体41を研磨パッド12の方向に押圧するエアバッグ52(第2の押圧手段)、押しリング42を研磨パッド12の方向に押圧して環状体41の一部に圧力を付与するエアバッグ51(第1の押圧手段)などが配設される。
【0027】
ラバーメンブレン31は、リテーナリングカバー40の内周面に嵌装できる内径サイズで略筒状(鍋型)に形成された弾性筒状体である。ラバーメンブレン31は、また、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタンゴム、シリコンゴム等の強度及び耐久性に優れたゴム材によって形成される。
なお、ラバーメンブレン31は、その外周面がリテーナリングカバー40の内周面と密封機構を介して接着されており、これにより当該リテーナリングカバー40に保持される。
【0028】
バッキングフイルムTは、ラバーメンブレン31の外底面に張設されるフィルム状の薄膜である。例えば不織布などの多孔質材をその素材として用いることができる。バッキングフイルムTは、ウェーハWの被研磨面を研磨パッド12に対向(当接)させ、摺接した状態で、このウェーハWの中心軸と自身の回転軸とがほぼ一致するように保持する。
【0029】
なお、本実施形態に係る研磨ヘッド13では、研磨加工時においてウェーハWの端部が対向する環状体41の内壁に当接しないように、つまり非接触状態となるように構成される。具体的には、バッキングフイルムTとウェーハW間を減圧吸引するなどして実現される。
【0030】
例えば、研磨ヘッド13では、図示しない流体供給機構に連接されたエアパイプ(不図示)を介してバッキングフイルムTとウェーハWとの間(接面)に介在する気体(例えば空気)等を吸引可能に構成される。つまり、所定の吸引力がウェーハWの背面側に付与される。これにより、制御部20を介してバッキングフイルムTとウェーハW間、つまりウェーハWの背面側に生じる摩擦力を調整することが可能になる。これにより、後述するGapにおけるGap=一定を実現することが可能になる。
【0031】
研磨ヘッド13では、
図2に示すように、ヘッドカバー30とリテーナリングカバー40により形成された空間において、当該リテーナリングカバー40の内周面にラバーメンブレン31が装着される。これによりウェーハWをその被研磨面の背面方向(背面側)から研磨パッド12の方向に向けて圧力を付与する圧力室(密封状態の内部空間)が形成される。ヘッドカバー30、リテーナリングカバー40、ラバーメンブレン31、バッキングフイルムTは保持機構として機能する。
【0032】
また、メンブレンホルダーリング32はSUS材などを用いて形成されており、ラバーメンブレン31の内周側に配備される。メンブレンホルダーリング32は、リテーナリングカバー40の内周面側に向けてラバーメンブレン31の周面を押し付け密接させる。
【0033】
研磨加工装置100が有する研磨ヘッド13では、図示しない流体供給機構に連接されたエアパイプを介して圧力室、エアバッグ51、52それぞれに向けて圧力流体(例えば圧縮空気)を供給し、あるいは、供給した圧力流体を回収可能に構成される。
研磨ヘッド13は、圧力室を介して供給する圧力流体の量に応じてウェーハWに対して付与する加工圧力等を発生させることができるように構成される。また、エアバッグ51、52に圧力流体が封入されて膨張することにより、封入された圧力流体の量に応じた圧力P2、P3で環状体41が研磨パッド12を押圧する。
また、各圧力P1~P3を生じさせるための圧力流体の供給、又は、供給した圧力流体の回収などの制御は流体供給機構を介して制御部20により行われる。このようにして、研磨加工時における研磨圧力などが制御される。なお、エアバッグ51、52は押圧手段の一例であり、本発明に係る押圧手段はこの構成に限るものではない。
【0034】
また、例えばこの内部空間の気体を吸引することにより当該内部空間が負圧化される。これに伴いラバーメンブレン31が中凹形に変形するが、同時にウェーハWも吸着変形する。なお、このように構成する場合には変形停止用のストッパーが必要となる。
また、前述した流体供給機構を介して圧力流体が供給された場合、ラバーメンブレン31に凸型撓みが生じる。そして、撓みが生じたラバーメンブレン31とウェーハWの背面との間には隙間が生じるため、研磨ヘッド13に保持されたウェーハWの保持状態の解除をスムースに行うことができる。
【0035】
ヘッドカバー30は、研磨ヘッド13を回転駆動させるための図示しない駆動機構と連結される。ヘッドカバー30に伝達された回転駆動力は、リテーナリングカバー40を介して環状体41、ラバーメンブレン31、バッキングフイルムTそれぞれに伝達される。このようにして研磨ヘッド13が回転する。
【0036】
[押圧機構]
研磨ヘッド13の押圧機構は、前述したように環状体41を研磨パッド12側に向けて押圧する。
リテーナリングカバー40は、ウェーハWを保持した状態のラバーメンブレン31等の外周を囲む内側の環状部と、その内壁と外壁とにより形成された環状体41、押しリング42などが配設される空間部とを含んで形成される。なお、ヘッドカバー30を介してリテーナリングカバー40に伝達された回転駆動力により環状体41、押しリング42などは一体的に回転する。
【0037】
図3は、本実施形態に係るリテーナリングの構成の一例を説明するための図である。
なお、前述したように本実施形態に係るリテーナリング(リテーナ機構)は、環状体41、押しリング42、エアバッグ51、52を含む構成である。
環状体41は、
図3に示すように、略Σ形状に形成された環状体であり、リテーナリングカバー40の内壁に接する第1の部位41aと、研磨パッド12の表面に接する面(底面摺動部と称する場合もある)を有する第2の部位41bとを含んで構成される。環状体41の第2の部位41bは、
図3に示す一点鎖線の交点O(A側)を略基準として大凡破線で示す位置まで揺動可能に構成される。
押しリング42は、
図3に示すように、逆L字形状に形成された環状部材であり、エアバッグ52と接する部位と、第2の部位41bの外方側端部近傍(B側)を押圧する部位とを含んで構成される。
【0038】
環状体41は、エアバッグ51に封入された圧力流体の量に応じたパッド押圧力(圧力P2)が付与される。これにより環状体41の上昇又は下降動作が可能となり、当該環状体41の第2の部位41bにより研磨パッド12を押圧することができる。
また、押しリング42は、エアバッグ52に封入された圧力流体の量に応じたパッド押圧力(圧力P3)が付与される。これにより押しリング42の上昇又は下降動作が可能となり、当該環状体41の第2の部位41bの外方側端部近傍(B側)が内包側近傍(A側)に比べて相対的に高い圧力で研磨パッド12を押圧することができる。
【0039】
このように、環状体41の第2の部位41bによる研磨パッド12の押圧において、当該第2の部位41bの外方側端部近傍(B側)の圧力を内包側近傍(A側)よりも高くする制御が可能になる。換言すれば押しリング42は、環状体41の第1の部位41aが第2の部位41bを保持する個所から所定の距離離れた当該第2の部位41b上の所定の個所に圧力を付与するように構成されることになる。つまり研磨パッド12に対する勾配圧力を形成することが可能になる。
【0040】
なお、前述したように研磨ヘッド13では、研磨加工時においてウェーハWの端部が環状体41の内周側内壁に当接しないように構成される。そのため、環状体41への圧力付与をスムースに行うことや、環状体41による研磨パッド12表面を押圧する「パッドの抑え込み」を機能的に高い精度で行うことが可能になる。
【0041】
このように、本実施形態に係る研磨加工装置100の研磨ヘッド13が有する押圧機構は、研磨対象のウェーハWに対して研磨圧力を付与して当該ウェーハWを研磨パッド12に摺接させるとともに、環状体41による研磨パッド12表面の押圧を制御してウェーハW端部のESFQR低減のための機構として機能する。
【0042】
図4は従来のリテーナリングによる研磨パッド表面の押え込みを説明するための模式図である。また、
図5は、研磨加工時においてウェーハWの端部がリテーナリングの内壁に当接しないように構成した場合におけるリテーナリングによる研磨パッド表面の押え込みを説明するための模式図である。
【0043】
図4(a)は、リテーナリングには圧力が付与されていない場合の研磨パッドの表面状態の一例を示している。
図4(a)に示すように、研磨加工時においてウェーハWに付与される研磨圧力は圧力P1、パッド変位量(弾性変位量)はδ1である。この場合、ウェーハを研磨パッドに押し付けると研磨パッドはパッド変位量δ1だけ圧縮される(図中Y1参照)。このとき、研磨パッドが圧縮される過程でウェーハのエッジ部には大きな圧縮応力が生じ(Boussinesq‘s Stress)、他の部位よりも研磨量が大きくなる事象が学会誌などで報告されている。
【0044】
図4(b)は、研磨加工時においてウェーハWに付与される研磨圧力は圧力P1、パッド変位量δ1であり、リテーナリングに付与される研磨圧力は圧力P2、パッド変位量δ2であり、ウェーハ端部がリテーナリングの内壁面に当たっている場合の研磨パッドの表面状態の一例を示している。
ウェーハはプラテンの回転により当該プラテン半径の接線方向に水平擦過力を受けることになり、研磨加工時ではウェーハ端部とリテーナ内壁の接触部ではスキマ(GAP)が0(ゼロ)となる。
【0045】
この場合、ウェーハ端部の応力は圧力P1、Gap、圧力P2の各値を用いて解析することができ、Boussinesq‘s Stressと称されている。一般的に、Gap=0の状態下でのウェーハ端部の研磨量を中心部と比較すると、P2>P1では中心部よりも小さくなり、P2<P1 では大きくなる傾向になる。
なお、ウェーハ端部の応力は「P1、Gap、P2」の各値により解析することが可能でありEdge Stress(ヘルツ応力相当)と言われている。一般的にはGap=0の状態下でのウェーハ端部の研磨量を中心部と比較すると、P2>P1では中心部よりも小さくなり、P2<P1では大きくなる傾向になる。
【0046】
図5(a)は、研磨加工時においてウェーハWに付与される研磨圧力は圧力P1であり、リテーナリングに付与される研磨圧力は圧力P2であり、ウェーハ端部とリテーナとの間に約1[mm]のスキマ(GAP)を開けた場合の研磨パッドの表面状態の一例を示している(Gap=0の個所を基準にした180度対面部)。
このようにウェーハをセットした場合、ウェーハはプラテンの回転により当該プラテン半径の接線方向に水平擦過力を受けることになり、研磨加工時ではウェーハ端部の任意点におけるリテーナとウェーハ端部とのスキマは1回転中で例えば0~最大GAP値の範囲で連続的に変化してしまうこともある。このように同一のP2状態でGapが変化すると、ウェーハ端部おける応力分布は1回転中で複雑な挙動を示し、加工精度にバラツキが生じる主要因となる。
【0047】
図5(b)は、本実施形態に係る環状体41の構成を模式的に示したものである。
図4(a)、(b)、
図5(a)に示す汎用研磨機のリテーナリングに対して、
図5(b)に示すように構成した場合、圧力P2、P3それぞれを調整することにより環状体41の第2の部位41bにおける底面摺動部に傾斜角度θ[度]を生じさせることができる。そのため、ウェーハ端部おける研磨パッドの表面変形を従来と異なる手法で制御することができ、同時端面部の研磨圧力分布も制御できるため、研磨パッドがウェーハに対して相対的に圧縮されない区間Lを安定的に形成することが可能になる(図中Y4参照)。
【0048】
このように、
図5(a)のように区間Lが無い場合、ウェーハ端部に過・少研磨の生じない「P1、Gap、P2」は狭いある特定範囲での限定値となり、相対的にGap変動に弱いと言える。
また、
図5(b)のように区間Lがある場合、パッド変位量δ2と傾斜角度θによってL区間が形成されるとウェーハ端部に過・少研磨の生じない「P1、Gap、P2」の特定範囲が拡大され、相対的にGap変動に強いと言える。
【0049】
このように、ウェーハ端部で発生する過・少応力を緩和させるためにリテーナがパッドを押し下げるパッド押圧力(リテーナ圧力)を制御する。これにより、過・少応力を最小限にすることが可能となり、研磨加工における均一研磨性を向上させることができる。
【0050】
[研磨加工の制御手順]
次に、本実施形態の研磨加工装置100による研磨加工手順について説明する。
図6は、研磨加工を実行する際の制御部20による主要な制御手順の一例を説明するためのフローチャートである。
制御部20は、研磨加工装置100のオペレータによる開始指示の入力受付を契機に制御を開始する(S100)。所定の初期加工後、研磨ヘッド13の保持機構によるウェーハWの保持を開始する(S101)。
【0051】
制御部20は、ウェーハWをウェーハ受け渡しテーブル(不図示)からウェーハWを保持し、研磨ヘッド13を研磨加工の開始位置へ移動させる(S102)。
制御部20は、所定量の圧力流体を供給し、圧力P1、P3を発生させる(S103)。これにより、ラバーメンブレン31を介してウェーハWへ、また、環状体41を介して研磨パッド12表面それぞれに向けて所定の圧力が付与される。
【0052】
制御部20は、また、図示しないセンサ部を通じてウェーハW等に適切な圧力が与えられているか否かを確認する。制御部20は、圧力P1、P2、P3が適切であることを確認した場合は(S104:Yes)、研磨テーブル11、並びに、研磨ヘッド13の回転を開始するように、図示しないモータへ指示を出す(S105)。これにより、研磨テーブル11と研磨ヘッド13が、水平に回転を開始する。
【0053】
研磨テーブル11と研磨ヘッド13の回転開始を指示した後、制御部20は、ノズルNの位置決めを指示するとともに、研磨液供給機構に対して研磨液の供給を開始させるように指示を出す(S106)。これにより、研磨液がノズルNから研磨パッド12の表面に向けて供給される。このようにして制御部20は、研磨を開始する(S107)
【0054】
制御部20は、圧力P2、P3それぞれの調整を開始する(S108)。例えば、図示しないセンサを介した直近の同一加工時間におけるウェーハ厚みの測定結果と、今回の同一加工時間におけるウェーハ厚みの測定結果とを比較することによって、1サイクルの検出における時間当たりの研磨量に基づいた補正値(P2、P3、傾斜角度θ)を決定する。
なお、この圧力P2、P3それぞれの調整は、例えば一の研磨加工が終了したウェーハ厚みの測定結果に基づいて補正値を決定し、次回の研磨加工において反映させるように構成してもよい。
【0055】
制御部20は、研磨が終了したか否かを判別する(S109)。この判別は、例えばセンサの検出結果に基づき、ウェーハWが所望の厚みに研磨されたと判断した場合に研磨を終了する。また、そうでない場合(S109:No)、ステップS108の処理へ戻る。
制御部20は、研磨が終了したと判別した場合(S109:Yes)、研磨液供給機構に対して研磨液の供給停止を指示する(S110)。
【0056】
その後、制御部20は、研磨テーブル11と研磨ヘッド13の回転を止めるように、モータへ停止指示を出す(S111)。その後、研磨後のウェーハWを載置するテーブルまで研磨ヘッド13を移動させる(S112)。これにより、一連の研磨加工の処理が終了する。
【0057】
なお、保持が解除されたか否かの判別は、例えば図示しない各種センサを用いて検知するように構成することもできる。なお、研磨テーブル11と研磨ヘッド13の回転停止後に、供給した圧力流体を回収しても良い。このように制御することにより、研磨後のウェーハWが搬送途中において意図せず脱落してしまうことを防ぐことができる。
【0058】
本実施形態に係るリテーナリング(リテーナ機構)、これを有する研磨ヘッド13、研磨加工装置100では、押圧機構により研磨パッド12のパッド表面の押え込みの制御が可能に構成されており、ウェーハ端部おける応力集中の範囲を小さくすることができる。これにより、ウェーハの被研磨面の部分的な研磨不足あるいは過研磨などの研磨ムラの発生を防ぐことができる。また、ウェーハ表面のGBIR、SFQR、ESFQRの更なる向上を図ることができる。
【0059】
なお、環状体41の第2の部位41bに連通孔(例えば、放射状に形成されるスリット)を形成してもよい。この場合、押しリング42による第2の部位41bへの押圧制御をより細やかに行うことが可能になる。
【0060】
上記説明した実施形態は、本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲が、これらの例に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0061】
11・・・研磨テーブル、12・・・研磨パッド、13・・・研磨ヘッド、20・・・制御部、30・・・ヘッドカバー、31・・・ラバーメンブレン、32・・・メンブレンホルダーリング、41・・・環状体、42・・・押しリング51、52・・・エアバッグ、100・・・研磨加工装置、N・・・ノズル、T・・・バッキングフイルム、W・・・ウェーハ。