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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】炭酸飲料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/52 20060101AFI20221026BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20221026BHJP
   A23L 2/60 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
A23L2/52
A23L2/00 B
A23L2/00 T
A23L2/60
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018187217
(22)【出願日】2018-10-02
(65)【公開番号】P2020054280
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】廣澤 秀二郎
(72)【発明者】
【氏名】土橋 竜也
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-018528(JP,A)
【文献】国際公開第2018/100688(WO,A1)
【文献】特開2014-080518(JP,A)
【文献】特開2017-085986(JP,A)
【文献】特開2016-174552(JP,A)
【文献】特開2014-176323(JP,A)
【文献】特開2015-023803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C12C
C12G
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)及び(B);
(A)D-プシコース0.5~5.0質量%及び
(B)DE4~18のデキストリン(但し、難消化性デキストリンを除く)0.5~5.0質量%
を含有し、(A)と(B)の質量比[(B)/(A)]が0.1~10である炭酸飲料。
【請求項2】
次の成分(A)及び(B);
(A)D-プシコース及び
(B)DE4~18のデキストリン
を含有する組成物であって、(A)が0.5~5.0質量%、(B)が0.5~5.0質量%、(A)と(B)の質量比[(B)/(A)]が0.1~10となるように炭酸飲料に使用するためのデキストリン(但し、難消化性デキストリンを除く)の糊感抑制用の組成物。
【請求項3】
次の成分(A)及び(B);
(A)D-プシコース及び
(B)DE4~18のデキストリン
を、(A)0.5~5.0質量%、(B)0.5~5.0質量%、(A)と(B)の質量 比[(B)/(A)]が0.1~10となるように炭酸飲料中に含ませる、デキストリン(但し、難消化性デキストリンを除く)の糊感を抑制する方法。
【請求項4】
次の成分(A)及び(B);
(A)D-プシコース0.5~5.0質量%及び
(B)DE4~18のデキストリン(但し、難消化性デキストリンを除く)0.5~5.0質量%
を配合し、(A)と(B)の質量比[(B)/(A)]が0.1~10となるように調整する、炭酸飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デキストリンに起因する糊感が抑制された炭酸飲料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低糖、無糖といった、糖質を低減したコーラ及びサイダー等の炭酸飲料が多数販売されている。しかし、炭酸飲料において糖質を低減すると、その甘味に由来する濃厚感やコクの低下につながるため、物足りなさを感じる需要者が多い。
このような糖質低減による濃厚感やコクの低下を補うため、濃厚感等を付与することができるデキストリン(澱粉加水分解物)が飲料に利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、馬鈴薯由来でDEが2以上5未満のデキストリンを添加することにより、十分なコク味が付与された炭酸及び/又はアルコール飲料を開示している。
しかし、デキストリンは、特有の糊味、紙臭、異味又は異臭などを有するため、飲料本来の味質への影響が問題となっていた。このような問題を解決すべく、特許文献2は、デキストリンの含有量が1%w/v以上であって、糖分含量が6%w/v以上であることを特徴とする、果実らしいとろみを備え、かつデキストリン由来の糊臭が抑制されたアルコール飲料を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-115246号公報
【文献】特開2008-228699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、炭酸飲料等におけるデキストリン由来の糊臭の抑制については検討されていたが、デキストリンに起因する糊感といったテクスチャーが抑制された炭酸飲料については、詳細に検討されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、デキストリンを含有する炭酸飲料について種々検討したところ、デキストリンを含有する炭酸飲料にD-プシコースを添加することにより、デキストリンに起因する糊感といったテクスチャーを抑制できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下の(1)~(4)から構成されるものである。
(1) 次の成分(A)及び(B);
(A)D-プシコース0.5~5.0質量%及び
(B)DE4~18のデキストリン0.5~5.0質量%
を含有し、(A)と(B)の質量比[(B)/(A)]が0.1~10である炭酸飲料。
(2) 次の成分(A)及び(B);
(A)D-プシコース及び
(B)DE4~18のデキストリン
を含有する組成物であって、(A)が0.5~5.0質量%、(B)が0.5~5.0質量%、(A)と(B)の質量比[(B)/(A)]が0.1~10となるように炭酸飲料に使用するためのデキストリンの糊感抑制用の組成物。
(3) 次の成分(A)及び(B);
(A)D-プシコース及び
(B)DE4~18のデキストリン
を、(A)0.5~5.0質量%、(B)0.5~5.0質量%、(A)と(B)の質量比[(B)/(A)]が0.1~10となるように炭酸飲料中に含
ませる、デキストリンの糊感を抑制する方法。
(4) 次の成分(A)及び(B);
(A)D-プシコース0.5~5.0質量%及び
(B)DE4~18のデキストリン0.5~5.0質量%
を配合し、(A)と(B)の質量比[(B)/(A) ]が0.1~10となるように調整する、炭酸飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、DE4~18のデキストリンを含有する炭酸飲料に、D-プシコースを添加することにより、デキストリンに起因する糊感といったテクスチャーが抑制された炭酸飲料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で使用するデキストリンは、植物由来の原料に含有される澱粉を加水分解することによって得ることができる。原料となる澱粉は、自然界に見出される天然澱粉その他遺伝子工学技術等により得られた藻類を含む植物由来のものであればいずれでもよく、その代表的な供給源は、穀類、塊茎、根、藻、豆果及び果物である。より具体的な例としては、トウモロコシ、エンドウ、ジャガイモ、サツマイモ、バナナ、オオムギ、コムギ、米、サゴ、アマランス、タピオカ、カンナ、モロコシ及びこれらの糯種又は高アミロース種が挙げられる。ただし、本発明で使用するデキストリンに、難消化性デキストリンは含まれない。
【0010】
本発明におけるDEとは、一般に澱粉の分解程度を示す指標であり、総量に対する還元糖の割合に100を乗じたものである。本発明において使用されるデキストリンのDEは、1~18であり、好ましくは4~18である。DEが18を超えると糊感は低減されるものの甘味が強くなり、炭酸飲料本来の味質に悪影響が及ぶため、DEは18以下が望ましい。
また、本発明のデキストリンはどのような手段により入手してもよく、例えば、市販品であれば、DEが4のデキストリンである「パインデックス#100」(松谷化学工業社製)や、DEが18のデキストリンである「TK-16」(松谷化学工業社製)として入手できる。
【0011】
本発明における糊感とは、デキストリンを添加した飲料を口に含んだ際に感じるヌメリのようなテクスチャーである。この糊感は、炭酸飲料に対し、DE1~18のデキストリンを0.5質量%以上添加したときに生じる。そして、デキストリンを多量に添加すると、糊感が強力に発生し、D-プシコースを用いても十分にその糊感を抑制することができなくなるため、添加量は6.0質量%未満とすることが望ましく、好ましくは5.0質量%以下である。
【0012】
本発明におけるD-プシコースとは、もっとも簡便には、D-フラクトースを原料に酵素(エピメラーゼ)によって生産されるが、酵素的に生産されたものに限らず、化学的に生産されたものでもよい。D-プシコースの甘味度は、砂糖の7割程度である。D-プシコースは、混合品、純品のいずれの形態でも使用することができ、混合品としては、例えば、D-プシコースを含有する市販品の希少糖シロップである「レアシュガースウィート」(松谷化学工業社製、固形分75質量%)として容易に入手することができる。
【0013】
本発明で使用するD-プシコースの添加量は、0.5質量%以上6.0質量%未満、好ましくは0.5質量%以上5.0質量%以下である。これは、D-プシコースの添加量が0.5質量%未満になると、デキストリンに起因する糊感を十分に抑制することができないし、D-プシコースの添加量が6.0質量%以上になると、加熱殺菌あるいは長期保存による着色や味質変化を生じるおそれがあるためである。
【0014】
本発明で使用するデキストリン及びD-プシコースの炭酸飲料中における質量比(デキストリン(w/v%)/D-プシコースの含有量(w/v%))は、0.1~10とすることが好ましく、0.1~1.0とするのがより好ましい。
【0015】
本発明における炭酸飲料とは、日本農林規格(以下、JASという。)で定められた炭酸飲料をいい、例えば、コーラ、サイダー、ジンジャエール、メロンソーダ、炭酸水といった炭酸を含有する飲料などを挙げることができる。
本発明において炭酸飲料に含まれる二酸化炭素のガス内圧力はJASで定められたガス内圧力であればよく、特に限定されない。
【0016】
本発明のデキストリン含有炭酸飲料にD-プシコースを含有させる方法は、特に限定されず、添加時期や添加方法に拘わらずD-プシコースが最終製品に含まれればよい。また、その形態も液状、粉末、顆粒など特に限定されるものではなく、いずれの形態でも構わない。
【0017】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
【実施例
【0018】
(デキストリン添加による課題の検討)
表1の組成に従い、各炭酸飲料にDE18のデキストリン(TK-16、松谷化学工業社製)を特定量添加し、濃厚感及び糊感について確認した。
まず、水にDE18のデキストリンを溶解した後、異性化糖、果糖、クエン酸、香料及び炭酸水を配合し、水で100質量部に調製した。その後、容器に充填し、これを評価に用いた。
評価は、よく訓練された10名のパネラーにて官能評価を実施し、濃厚感について、対照と比較して、5:強い、4:少し強い、3:変わらない、2:少し弱い、1:弱い、とし、パネラー10名の評価点から平均点を算出した。
算出した平均点による濃厚感の評価を、5.0~4.5:◎、4.4~3.5:○、3.4~2.5:△、2.4~0.1:×、とし、濃厚感が3.5以上のものを好適であると判断した。
一方、糊感の評価点は、対照と比較して、5:強く感じる、4:感じる、3:弱く感じる、2:非常に弱く感じる、1:感じない、とし、パネラー10名の評価点から平均点を算出した。
算出した平均点による糊感の評価を、5.0~4.5:×、4.4~3.5:△、3.4~2.5:○、2.4~0.1:◎、とし、糊感が3.4以下のものを好適であると判断した。
結果、DE18のデキストリンを0.5質量%添加すると、対照と比較して、糊感が生じる炭酸飲料となった(比較例2)。
【0019】
【表1】
【0020】
(各種糖の添加の検討)
次に、表2の組成に従って、各炭酸飲料にDE4(パインデックス#100、松谷化学工業社製)又はDE18のデキストリン、及び異性化糖、果糖又はD-プシコースをそれぞれ添加し、得られた各炭酸飲料を上記と同様の方法により評価した。
結果、DE4のデキストリンを3質量%及びD-プシコースを3質量%添加すると、濃厚感を感じるが、糊感の抑制された炭酸飲料が得られた(実施例1)。また、DE18のデキストリンを3質量%及びD-プシコースを3質量%添加する場合においても同様に、濃厚感を感じるが、糊感の抑制された炭酸飲料が得られた(実施例2)。
【0021】
【表2】
【0022】
(デキストリンの配合量の検討)
表3の組成に従って、各炭酸飲料に特定量のDE4又はDE18のデキストリン及びD-プシコースをそれぞれ添加し、上記と同様の方法により評価を実施した。
結果、DE4のデキストリンを1~5質量%及びD-プシコースを5質量%添加すると、濃厚感を感じるが、糊感の抑制された炭酸飲料が得られた(実施例3~5)。さらに、DE18のデキストリンを0.5~2質量%及びD-プシコースを5質量%添加する場合も同様に、濃厚感を感じるが、糊感の抑制された炭酸飲料が得られた(実施例6~7)。
【0023】
【表3】
【0024】
(D-プシコースの配合量の検討)
次に、表4の組成に従って、各炭酸飲料に特定量のDE4のデキストリン及びD-プシコースをそれぞれ添加し、上記と同様の方法により、評価を実施した。
結果、D-プシコースを0.5~5質量%及びDE4のデキストリンを3~5質量%添加した場合に、濃厚感を感じ、糊感の抑制された炭酸飲料が得られた(実施例1~9)。
【0025】
【表4】
【0026】
以上の結果から、(A)D-プシコースを0.5~5.0質量%及び(B)DE4~18のデキストリンを0.5~5.0質量%含有する炭酸飲料であって、その(A)と(B)の質量比において、(B)/(A)が0.1~10となるよう添加すれば、濃厚感を維持しつつ、デキストリンに起因する糊感が抑制された炭酸飲料を提供することができる。