(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】フシカテニバクター属菌の増殖促進用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/718 20060101AFI20221026BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20221026BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20221026BHJP
A23L 33/21 20160101ALI20221026BHJP
A61K 35/741 20150101ALI20221026BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20221026BHJP
A61P 1/12 20060101ALI20221026BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
A61K31/718
A23L33/10
A23L33/135
A23L33/21
A61K35/741
A61P1/00
A61P1/12
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2018222044
(22)【出願日】2018-11-28
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岸本 由香
(72)【発明者】
【氏名】宮里 祥子
【審査官】薄井 慎矢
(56)【参考文献】
【文献】PLOS ONE,2016年,Vol.11, No.7,e0159236 (page 1-18)
【文献】International Journal of Biological Macromolecules,2017年,Vol.97,pp.173-180
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K A61P A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
難消化性デキストリン
を有効成分として含有する、フシカテニバクター(Fusicatenibacter)属菌の増殖促進用組成物。
【請求項2】
フシカテニバクター(Fusicatenibacter)属菌をさらに含む、請求項
1記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、保健機能食品、健康補助食品、機能性表示食品、特定保健用食品又は特別用途食品である、請求項1
又は2に記載の組成物。
【請求項4】
フシカテニバクター(Fusicatenibacter)属菌の増殖促進による大腸炎の予防、改善又は治療用の、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
難消化性デキストリン
を有効成分として含有する、フシカテニバクター(Fusicatenibacter)属菌の増殖促進剤。
【請求項6】
フシカテニバクター(Fusicatenibacter)属菌をさらに含む、請求項
5記載の剤。
【請求項7】
フシカテニバクター(Fusicatenibacter)属菌の増殖促進による大腸炎の予防、改善又は治療用の、請求項
5又は6に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性食物繊維を有効成分として含有する、フシカテニバクター属(Fusicatenibacter)菌の増殖促進用の組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
腸内細菌叢が動物の健康に密接に関連していることから、腸内環境を整えることで感染症や疾病罹患のリスクを低減できる可能性が示唆されている。
【0003】
例えば、ヒトの場合、ヒト一人の腸内には約1,000種、100-1000兆個の菌が生育するといわれ、そのなかには、整腸作用や抗アレルギー作用など、動物の健康に寄与する「善玉菌」といわれる微生物が多く存在している。「善玉菌」の代表としては、ラクトバチルス属(Lactobacillus)やビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)の細菌が、一般によく知られている。
【0004】
また、最近では、そのヒト腸内細菌叢において、フシカテニバクター属(Fusicatenibacter)菌という新種の属菌が同定され、そのひとつであるフシカテニバクター サッカリボランス(Fusicatenibacter saccharivorans)が、活動期にある潰瘍性大腸炎の罹患者において、健常人および寛解期にある同罹患者と比較して有意に少ないとの報告があり、フシカテニバクター属菌が、腸管粘膜固有層のIL-10産生を誘導して腸内の炎症を抑制していることが示唆されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Inflammatory Bowel Disease 22巻、2802-2810頁、2016年(Takeshita et al.「A Single Species of Clostridium Subcluster XIVa Decreased in Ulcerative Colitis Patients.」)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、そのようなフシカテニバクター属菌を増殖させる組成物、剤及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々検討したところ、水溶性食物繊維、特に難消化性デキストリンが、ヒト腸内のフシカテニバクター属菌を増加させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
水溶性食物繊維がラクトバチルス属(Lactobacillus)の菌を増殖させることは知られており(例えば、特開2004-81105号公報)、また、水溶性食物繊維である難消化性デキストリンが、マウス腸内細菌叢におけるクロストリジウム目(Clostoridiales)に属する細菌数の割合を、目全体として減少させることは知られている(Bioscience of Microbiota,Food and Health Vol.35(1),1-7,2016)。
【0009】
しかし、難消化性デキストリンが、クロストリジウム目(Clostoridiales)における特定の属の細菌数を増加させるとの知見、例えば、クロストリジウム属(Clostoridium)の菌数を増加させるとか、フシカテニバクター属(Fusicatenibacter)の菌数を増加させるとの知見はなかった。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[10]から構成される。
〔1〕水溶性食物繊維を有効成分として含有する、フシカテニバクター(Fusicatenibacter)属菌の増殖促進用組成物。
〔2〕 水溶性食物繊維が、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、難消化性グルカン、イソマルトデキストリン及びグアーガム分解物からなる群より選ばれる1種以上である、フシカテニバクター(Fusicatenibacter)属菌の増殖促進用組成物。
〔3〕 フシカテニバクター(Fusicatenibacter)属菌をさらに含む、上記〔1〕又は〔2〕のいずれかに記載の組成物。
〔4〕 前記組成物が、保健機能食品、健康補助食品、機能性表示食品、特定保健用食品又は特別用途食品である、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の組成物。
〔5〕 フシカテニバクター(Fusicatenibacter)属菌の増殖促進による大腸炎の予防、改善又は治療用の、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の組成物。
〔6〕 水溶性食物繊維を有効成分として含有する、フシカテニバクター(Fusicatenibacter)属菌の増殖促進剤。
〔7〕 水溶性食物繊維が、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、難消化性グルカン、イソマルトデキストリン及びグアーガム分解物からなる群より選ばれる1種以上である、フシカテニバクター(Fusicatenibacter)属菌の増殖促進剤。
〔8〕 フシカテニバクター(Fusicatenibacter)属菌をさらに含む、上記〔6〕又は〔7〕のいずれかに記載の剤。
〔9〕 フシカテニバクター(Fusicatenibacter)属菌の増殖促進による大腸炎の予防、改善又は治療用の、上記〔6〕~〔8〕のいずれかに記載の剤。
〔10〕 有効成分である水溶性食物繊維を、体重1kg当たり0.04~0.5g以上となるように24週間以上経口摂取させる、腸内におけるフシカテニバクター(Fusicatenibacter)属菌の増殖促進方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る組成物を経口投与することにより、動物のフシカテニバクター属の菌数を増加させることができ、その結果、腸内細菌叢の変化に起因する腸疾患や諸症状を予防または改善することが期待できる。また、本発明に係る組成物は、食経験のある水溶性食物繊維及び腸内細菌叢に存在するフシカテニバクター属菌を含むため、長期間摂取によっても副作用が少なく、安全性が非常に高い点において有利である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】対照食品(プラセボ)摂取後と比較して、被験食品摂取後に有意に数が変動した腸内細菌の属を示す。すなわち、2群検定(対応なし)の結果、フシカテニバクター属の菌数が有意に増加したことを示す。
【
図2】被験食品前と比較して、被験食品摂取後に有意に数が変動した腸内細菌の属を示す。すなわち、2群検定(対応あり)の結果、フシカテニバクター属、ビフィドバクテリウム属及びパラバクテロイデス属の菌数が有意に増加したことと、バクテロイズ属(Bacteroides)の菌数が有意に減少したことを示す。
【
図3】被験食品摂取後に有意に菌数が変動した腸内細菌の属を示す。すなわち、多重比較(対応なし)の結果、プラセボ摂取前及びプラセボ摂取後と比較して、被験食品摂取後に有意にフシカテニバクター属の菌数が増加したことと、プラセボ摂取前及び被験食品摂取前と比較して、被験食品摂取後に有意にパラバクテロイズ属の菌数が増加したことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一般に、「水溶性食物繊維」には、ペクチン、コンニャクマンナン、アルギン酸、グアーガム、寒天などの高粘性の水溶性食物繊維と、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、グアーガム分解物、難消化性グルカン、イソマルトデキストリンなどの低粘性の水溶性食物繊維とがあるが、本発明の「水溶性食物繊維」は、効果の観点から低粘性のものが好ましい。
【0014】
一般に、低粘性の水溶性食物繊維とは、50質量%以上の食物繊維を含有し、常温水に溶解して低粘性の溶液、おおむね5質量%水溶液で20mPas以下の粘度を示す溶液となる食物繊維素材を意味する。具体的には、例えば、難消化性デキストリン、グアーガム分解物、イヌリン、ポリデキストロース、難消化性グルカン、イソマルトデキストリンが挙げられるが、本発明においては、効果の観点から、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、難消化性グルカン、イソマルトデキストリン、グアーガム分解物が好ましく、そのなかでも難消化性デキストリンが最も好ましい。
【0015】
難消化性デキストリンは、澱粉、例えば、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチ、小麦粉澱粉等を130℃以上で加熱分解し、これをアミラーゼでさらに加水分解し、必要に応じて分画、脱色、脱塩などをして得られる。その平均分子量は500から3000程度、好ましくは1400~2500、さらに好ましくは2000前後であり、グルコース残基がα-1,4、α-1,6、β-1,2、β-1,3、β-1,6-グルコシド結合し、還元末端の一部はレボグルコサン(1,6-アンヒドログルコース)である、分岐構造の発達したデキストリンである。市販品としては、「ニュートリオース」(ロケット社製)、「パインファイバー」、「ファイバーソル2」(松谷化学工業株式会社製)などがある。本発明の難消化性デキストリンは、還元難消化性デキストリンを包含し、その市販例として、「ファイバーソル2H」(松谷化学工業株式会社製)がある。
【0016】
ポリデキストロースは、ブドウ糖とソルビトールをクエン酸の存在下で液圧加熱して重合させ、これを必要に応じて精製等したものであり、市販品としては、例えば「ライテス」(デュポン社製)がある。
【0017】
難消化性グルカンは、難消化性のグルカン(グルコースポリマー)を意味し、DE70~100の澱粉分解物を加熱処理により縮合反応させて得られる糖縮合物であり、水溶性食物繊維画分を高度に含有する。市販品としては、例えば「フィットファイバー#80」(日本食品化工株式会社製)がある。
【0018】
イソマルトデキストリンは、でん粉にα-グルコシル転移酵素とα-アミラーゼを作用させて得られる多分岐α-グルカンであり、市販品としては、例えば「ファイバリクサ」(株式会社林原製)がある。
【0019】
グアーガム分解物は、グアーガムに酵素を作用させて部分的に分解し低粘度化させ、乾燥させて得られるものであり、市販品としては、例えば「サンファイバー」(太陽化学株式会社製)がある。
【0020】
水溶性食物繊維の含量は、例えば、衛新第13号(「栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について」)に記載の食物繊維の分析方法である高速液体クロマトグラフ法(酵素-HPLC法)により、難消化性成分として測定することができる。
【0021】
本発明における有効成分としての上記水溶性食物繊維の摂取量は特に限定されないが、フシカテニバクター属の細菌を効果的に増殖させるためには、少なくとも1日あたり0.05g/kg体重が必要であり、好ましくは0.1g~2g/kg体重、より好ましくは0.2~1g/kg体重、さらに好ましくは0.2~0.4g/kg体重である。また、本発明における有効成分としての水溶性食物繊維の摂取方法は、経腸摂取及び経口摂取のいずれでも構わないが、経口摂取のほうがより好ましい。したがって、本発明の組成物又は剤における水溶性食物繊維の含量は、その目的、用途、形態、剤型、症状、体重等に応じて任意に定めることになるので、特に限定されるものではないが、食品組成物の場合は、0.5~70質量%とするのがよく、好ましくは1~50質量%、より好ましくは2~20質量%とするのがよい。また、剤の場合、摂取の利便性を考慮すれば、60~100質量%とするのがよく、より好ましくは75~95%とするのがよい。
【0022】
本発明におけるフシカテニバクター(Fusicatenibacter)属は、腸内細菌属のひとつであり、その属に属する菌であるかどうかは、16SrRNA遺伝子配列を同定することにより判別することができる。そして、16SrRNA遺伝子配列の同定は、定法に従い行えばよく、例えば、まず、便検体から腸内細菌叢DNAを抽出してその16SrRNA遺伝子の特定領域(例えば、V1-V2領域)をPCRで増幅し、Illumina MiSeqを用いたシーケンシングにより塩基配列が得られたDNAリードを調製する。次に、そのDNAリードを、16SrRNA遺伝子のデータベースであるSILVA(https://www.arb-silva.de)に基づき作成されたOTUに対してマッピングし、最も近縁と考えられる細菌系統(OUT)へ割り当てることにより行うことができる。
【0023】
本発明の組成物又は剤に、フシカテニバクター属菌をさらに含ませる場合、その量は特に限定されないが、例えば、1回あたりの摂取量が1×106~1012CFU、好ましくは1×107~0.5×1012CFU、より好ましくは1×109~1011CFUとなるよう含ませるのがよい。
【0024】
本発明の組成物又は剤の形態は特に限定されず、粉末状、顆粒状、固形状、半固形状、液状のいずれであってもよく、また、食品に添加された形態や、カプセル剤などのサプリメントの形態であってもよい。そして、その食品形態は、パン、クッキーなどのベーカリー類、チョコレート、ゼリー、プリン、アイス、キャンディー、せんべい、まんじゅうなどの菓子類、うどん、そば、マカロニなどの麺類、ヨーグルトやクリームなどの乳製品、ジャム、飲料や濃厚流動食などであり、これらが特定保健用食品、機能性表示食品、特別用途食品の範疇のものである場合も含まれる。
【0025】
本発明の組成物又は剤を摂取させる対象は、哺乳動物(例えば、ヒト、サル、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタなど)であればよく、先述のとおり、経口により摂取することが好ましいが、その摂取回数には制限がなく、対象の摂取利便性を考慮して、有効量を一日1回で摂取してもよいし、数回に分けて摂取してもよい。また、摂取タイミングも特に限定されず、対象の摂取利便性を考慮して、食前、食中、食後、食間のいずれのタイミングの摂取であっても構わないが、好ましくは食前、食中又は食後、より好ましくは食前又は食中に摂取するのがよい。
【0026】
本発明の組成物及び剤は、腸内細菌叢におけるフシカテニバクター属菌の増殖促進のために用いられる。「フシカテニバクター属菌の増殖促進」は、例えば、腸内細菌叢中のフシカテニバクター属菌の占有率(%)を指標にして評価することができる。具体的には、水溶性食物繊維摂取後の腸内細菌叢に占めるフシカテニバクター属菌の割合が、水溶性食物繊維非摂取時の腸内細菌叢に占めるフシカテニバクター属菌の割合を上回る場合、好ましくは、水溶性食物繊維摂取後の腸内菌叢に占めるフシカテニバクター属菌の割合が、水溶性食物繊維非摂取時の腸内細菌叢中のフシカテニバクター属菌の割合よりも有意(P<0.01)に増えた場合、又は、水溶性食物繊維摂取後の腸内細菌叢に占めるフシカテニバクター属菌の割合が、水溶性食物繊維非摂取時の腸内細菌叢中のフシカテニバクター属菌の割合の約1.1倍以上である場合、好ましくは約1.3倍以上である場合、より好ましくは約1.5倍以上、さらに好ましくは1.7倍以上、特に好ましくは2倍以上である場合をいう。なお、「水溶性食物繊維非摂取時」とは、水溶性食物繊維を摂取しないか、水溶性食物繊維以外のものを摂取したときのことをいう。
【0027】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
(腸内細菌叢の採取)
(1)被験者
試験開始時にHbA1c値6.0%以上、年齢が20歳以上の男女であって、以下の除外基準を満たす30名を選定した: 糖尿病の診断がされ治療中の者、半年以内に開腹手術をした者、医薬品・特定保健用食品・機能性表示食品・健康食品等の常用者、妊娠・授乳期の者、アルコール多飲者、喫煙過多者、心臓・肝臓・腎臓疾患を有する者、循環器系疾患の既往歴がある者、試験食品にアレルギーを有する者。
(2)被験食品
被験食品は、難消化性デキストリン10g(食物繊維として9.3g。12kcal。)を1日2包とし、対照食品(以下、プラセボともいう。)は、デキストリン3g(12kcal)を1日2包とした。なお、使用した難消化性デキストリンは、「ファイバーソル2」(松谷化学工業株式会社製)、デキストリンは、「パインデックス#2」(松谷化学工業株式会社製)である。
(3)便検体の採取
上記被験者30名を15名ずつ、年齢、男女比、事前検査におけるHbA1c値を考慮して2群(A群、B群)に割付け、各群に上記被験食品又は対照食品を、朝食時及び夕食時の2回に分けて摂取させた。試験期間は24週間とし、0週、12週、24週、後観察期間6週後(30週)の便を採取し、0週及び24週の便を以降のマイクロバイオーム解析(メタゲノム解析)に用いた。
【0029】
(4)腸内細菌叢のメタゲノム解析
上述の採取した便から得た腸内細菌叢DNAを試料とし、MiSeq(Illumina社製)を用いて16SrRNAシーケンス法によるメタゲノム解析を行い、腸内細菌叢の構造を取得した。具体的には、SILVA(https://www.arb-silva.de)に基づきOperational Taxonomic Units(OTU:データ操作上一集合と扱う単位であり、「操作的分類単位」ともよばれる。)を作成し、検出された296個のOTUのうち、合計リード数が多かった(すなわち、菌数が多かった)20個について、Ribosomal Database Project(RDP)のデータベースおよびNCBIのデータベース(16S ribosomal RNA sequences(Bacteria and Archaea))と比較し、各OTUの近縁の属を推定した。
【0030】
(5)結果
上述の手順により検出された296個のうち、合計リード数が多かった20個のOTUが属する菌属を表1に示す(左欄はラテン語の学名、右欄はその日本語の表記である)。
【0031】
【0032】
(被験食摂取前後の腸内細菌叢解析)
被験食品(難消化性デキストリン)の摂取が腸内細菌叢に与える影響を明らかにするため、各腸内細菌属の相対存在比を被験食品又は対照食品(プラセボ)の摂取前後で統計検定により比較した。ヒト臨床試験においては個人差が大きく、母集団を正規分布と仮定できないと考えられることから、検定手法にはノンパラメトリック検定を採用した。具体的には、以下の検定を実施した。
(1) 2群検定(対応なし):マン・ホイットニーのU検定
(A) プラセボ24週と難デキ24週
(2) 2群検定(対応あり):ウィルコクソンの符号順位検定
(A) 難デキ0週と難デキ24週
(B) プラセボ0週とプラセボ24週
(3) 多重比較(対応なし):Kruskal-Wallis検定および事後検定としてDunn’s検定
(A) プラセボ0週、プラセボ24週、難デキ0週、難デキ24週の4群比較
【0033】
検定の結果、試験期間中に有意な変動が検出された腸内細菌属のうち、主要な腸内細菌属について、以下の表2に示す。また、その検定の種類ごとに、
図1(2群検定(対応なし))、
図2(2群検定(対応あり)及び
図3(多重比較(対応なし))として、P値とともに箱ひげ図で示す。
【0034】
【0035】
上の表2及び
図1、2、3に示すとおり、フシカテニバクター属菌が、全ての検定において、被験食品摂取後に有意に増加していた。具体的には、腸内細菌叢中のフシカテニバクター属菌の平均占有率は、2.80%から6.77%にまで有意に増大した(P=0.008)。
【0036】
先述のとおり、フシカテニバクター属菌の一種であるF.saccharivoransは、活動期にある潰瘍性大腸炎の罹患者において、健常人および寛解期にある同罹患者と比較して有意に少ないことが報告されている(非特許文献1)。また、Fusicatenibacter属菌が腸管粘膜固有層のIL-10産生を誘導し、腸内の炎症を抑制していることが示唆されている(非特許文献1)。したがって、難消化性デキストリンの長期摂取は、フシカテニバクター属菌の増殖を促進することにより、腸管内におけるIL-10の増加を惹起して、結果として大腸における炎症を抑制する効果があることが期待される。
【0037】
なお、パラバクテロイデス(Parabacteroides)属細菌は、2群検定(対応あり)にて、(1)被験食品摂取前と比較して被験食品摂取後で有意に増加し、(2)多重比較検定(対応なし)にて、プラセボ摂取前および被験食品摂取前と比較して被験食品摂取後に有意に増加した。
【0038】
パラバクテロイデス属細菌についての研究報告はほとんどないが、酢酸や少量のコハク酸を産生することは知られている(Sakamoto et al.、Int.J.Syst.Evol.Microbiol.、56(Pt 7): 1599-605、2006)。したがって、パラバクテロイデス属細菌は、難消化性デキストリンを資化し、酢酸やコハク酸の産生をしつつ、増加している可能性がある。