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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】吸着剤の製造方法および処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/30 20060101AFI20221026BHJP
   B01J 20/04 20060101ALI20221026BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20221026BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
B01J20/30
B01J20/04 B
B01J20/28 Z
C02F1/28 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019523502
(86)(22)【出願日】2018-06-01
(86)【国際出願番号】 JP2018021140
(87)【国際公開番号】W WO2018225639
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2017112427
(32)【優先日】2017-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】金 熙濬
(72)【発明者】
【氏名】坂本 太毅
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-517754(JP,A)
【文献】国際公開第2015/134469(WO,A1)
【文献】特開2003-190942(JP,A)
【文献】特開2013-248594(JP,A)
【文献】特開2006-205154(JP,A)
【文献】特開2007-296463(JP,A)
【文献】特開2002-263665(JP,A)
【文献】特開2005-28281(JP,A)
【文献】特開2011-240325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00 - 20/28
20/30 - 20/34
C02F 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドロマイト類と、溶解状態のリン化合物を含む溶液とを接触させ、リン成分を前記ドロマイト類に吸着させる吸着工程と、
前記リン成分を吸着した前記ドロマイト類を焼成することにより、前記リン成分が前記ドロマイト類に固定される焼成工程とを有し、
前記焼成工程は、300℃以上1000℃以下の条件で行うものであり、
前記焼成工程は、室温から第1の温度まで温度を上昇させ、前記第1の温度で所定時間保持し、その後、前記第1の温度から第2の温度まで温度を上昇させ、前記第2の温度で所定時間保持する処理を含み、
前記第1の温度は、100℃以上300℃以下であり、前記第2の温度は、400℃以上1000℃以下であることを特徴とする吸着剤の製造方法。
【請求項2】
前記ドロマイト類は、水酸化ドロマイトである請求項1に記載の吸着剤の製造方法。
【請求項3】
前記ドロマイト類は、ドロマイトである請求項1または2に記載の吸着剤の製造方法。
【請求項4】
前記吸着工程をpHが2以上12以下の条件で行う請求項1ないし3のいずれか1項に記載の吸着剤の製造方法。
【請求項5】
前記焼成工程の後に、水化させる水化工程をさらに有している請求項1ないし4のいずれか1項に記載の吸着剤の製造方法。
【請求項6】
前記リン化合物として、汚泥灰由来物を用いる請求項1ないしのいずれか1項に記載の吸着剤の製造方法。
【請求項7】
前記ドロマイト類100質量部に対して、リン酸イオンを0.1質量部以上20質量部以下の割合で吸着させる請求項1ないしのいずれか1項に記載の吸着剤の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないしのいずれか1項に記載の製造方法を用いて製造された吸着剤と、重金属を含む被処理物とを接触させ、被処理物中に含まれる前記重金属を除去することを特徴とする処理方法。
【請求項9】
pHが5以上の条件で、前記吸着剤と前記被処理物とを接触させる請求項に記載の処理方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着剤の製造方法および処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場や鉱山で用いた水には、多くの重金属等の汚染物質が含まれることがある。このような汚染された水を排水する場合には、汚染物質を十分に除去する必要がある。
【0003】
また、汚染土壌の井戸水等にも重金属等の汚染物質が含まれることがあり、飲用水等の生活用水等として用いる場合に、汚染物質を十分に除去する必要がある。
【0004】
従来においては、汚染物質の除去には、大量の吸着剤が使われている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、アルカリ性の液中(例えば、水素イオン指数(pH)が10以上の液中)で吸着剤による処理を行うと、重金属を十分に吸着させることができなかったり、吸着した重金属が再溶解してしまったりして、汚染物質を十分に除去することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、水素イオン指数(pH)が大きい状態であっても、重金属を効率よく除去することができる吸着剤を製造することができる吸着剤の製造方法を提供すること、また、被処理物から重金属を効率よく除去することができる処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の吸着剤の製造方法は、ドロマイト類と、溶解状態のリン化合物を含む溶液とを接触させリン成分を前記ドロマイト類に吸着させる吸着工程と、
前記リン成分を吸着した前記ドロマイト類を焼成することにより、前記リン成分が前記ドロマイト類に固定される焼成工程とを有し、
前記焼成工程は、300℃以上1000℃以下の条件で行うものであり、
前記焼成工程は、室温から第1の温度まで温度を上昇させ、前記第1の温度で所定時間保持し、その後、前記第1の温度から第2の温度まで温度を上昇させ、前記第2の温度で所定時間保持する処理を含み、
前記第1の温度は、100℃以上300℃以下であり、前記第2の温度は、400℃以上1000℃以下であることを特徴とする。
【0008】
本発明の吸着剤の製造方法では、前記ドロマイト類は、水酸化ドロマイトであることが好ましい。
【0009】
本発明の吸着剤の製造方法では、前記ドロマイト類は、ドロマイトであることが好ましい。
【0010】
本発明の吸着剤の製造方法では、前記吸着工程をpHが2以上12以下の条件で行うことが好ましい。
【0012】
本発明の吸着剤の製造方法では、前記焼成工程の後に、水化させる水化工程をさらに有していることが好ましい。
【0013】
本発明の吸着剤の製造方法では、前記リン化合物として、汚泥灰由来物を用いることが好ましい。
【0014】
本発明の吸着剤の製造方法では、前記ドロマイト類100質量部に対して、リン酸イオンを0.1質量部以上20質量部以下の割合で吸着させることが好ましい。
【0019】
本発明の処理方法は、本発明の製造方法を用いて製造された吸着剤と、重金属を含む被処理物とを接触させ、被処理物中に含まれる前記重金属を除去することを特徴とする。
【0021】
本発明の処理方法では、pHが5以上の条件で、前記吸着剤と前記被処理物とを接触させることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、水素イオン指数(pH)が大きい状態であっても、重金属を効率よく除去することができる吸着剤を製造することができる吸着剤の製造方法を提供すること、また、被処理物から重金属を効率よく除去することができる処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実施例1の吸着剤についてのX線回折(XRD)の結果を示すグラフである。
図2図2は、実施例3の吸着剤についての細孔分布を示すグラフである。
図3図3は、比較例2の吸着剤についての細孔分布を示すグラフである。
図4図4は、実施例1~5および比較例1、2の吸着剤を用いて、ヒ素、ニッケル、カドミウム、鉛、クロムを、それぞれ、2000ppbの含有率で含む標準液を処理した場合の、pH10から14の範囲におけるヒ素の除去率を示すグラフである。
図5図5は、実施例3の吸着剤を用いて、ヒ素を2000ppbの含有率で含み、他の重金属を実質的に含有しない標準液(単独溶液)を処理した場合のpHとヒ素の除去率との関係、および、実施例3の吸着剤を用いて、ヒ素、ニッケル、カドミウム、鉛、クロムを、それぞれ、2000ppbの含有率で含む標準液(混合溶液)を処理した場合のpHとヒ素の除去率との関係を示すグラフである。
図6図6は、実施例1~5および比較例1、2の吸着剤を用いて、ヒ素、ニッケル、カドミウム、鉛、クロムを、それぞれ、2000ppbの含有率で含む標準液を処理した場合の、pH10から14の範囲におけるクロムの除去率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[吸着剤の製造方法]
まず、本発明の吸着剤の製造方法について説明する。
【0025】
本発明の吸着剤の製造方法は、ドロマイト類と、溶解状態のリン化合物を含む溶液とを接触させリン成分を前記ドロマイト類に吸着させる吸着工程と、前記溶液と接触させた前記ドロマイト類を焼成する焼成工程とを有する。
【0026】
これにより、水素イオン指数(pH)が大きい状態であっても、重金属を効率よく除去することができる吸着剤の製造方法を提供する。特に、重金属を効率よく除去することができる吸着剤を、安価で、生産性良く製造することができる。
【0027】
また、本発明の製造方法では、従来高い除去率で除去することが特に困難であったヒ素についても、高い除去率で除去することが可能な吸着剤を製造することができる。
【0028】
<吸着工程>
吸着工程では、ドロマイト類と、溶解状態のリン化合物を含む溶液とを接触させる。これにより、溶液中に含まれるリン成分をドロマイト類に吸着させる。
【0029】
本工程で用いるドロマイト類としては、ドロマイト、水酸化ドロマイト(消化ドロマイト。ドロマイトプラスターを含む)、軽焼ドロマイト、ドロマイトクリンカー等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
中でも、水酸化ドロマイトを用いることにより、後の焼成工程において、リン酸イオンとドロマイト類を構成するCaやMgとの間での化学結合の形成をより好適に進行させることができる。
【0031】
また、ドロマイトを用いることにより、原料としてのドロマイト類の選択の幅が広がり、ドロマイト類の粒径や細孔径等の条件を好適に調整することができる。また、原料がより安価であるため、吸着剤の生産コストのさらなる低減の観点からも有利である。
【0032】
本工程で用いるドロマイト類(すなわち、原料としてのドロマイト類)は、通常、多孔質である。
これにより、吸着剤の単位質量(または単位体積)当たりの表面積を大きくすることができ、重金属の除去効率をさらに向上させることができる。さらに、焼成工程により、比表面積を増加させることができる。
【0033】
原料としてのドロマイト類の平均細孔径は、特に限定されないが、1nm以上200nm以下であるのが好ましく、2nm以上100nm以下であるのがより好ましく、5nm以上30nm以下であるのがさらに好ましい。
【0034】
これにより、吸着剤の耐久性を確保しつつ、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。なお、平均細孔径は、例えば、焼成工程での焼成条件等により調整することができる。
【0035】
吸着工程でドロマイト類と接触させるリン化合物(すなわち、ドロマイト類に吸着させるリン成分)は、少なくともその一部が溶媒に溶解していればよく、例えば、リン化合物の他の一部は、前記溶液中において分散した状態であってもよい。すなわち、前記溶液を構成する溶媒は、分散媒としても機能してもよい。
【0036】
前記溶液は、溶媒として少なくとも水を含む水溶液であるのが好ましいが、水以外の溶媒を含んでいてもよい。また、前記溶媒は、リン化合物以外の成分を溶質、分散質として含んでいてもよい。
【0037】
本工程でドロマイト類と接触させるリン化合物としては、例えば、リン酸やその塩(例えば、リン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素カルシウム等)、亜リン酸やその塩、ペルオキソ一リン酸やその塩、ホスホン酸やその塩、ホスフィン酸やその塩、五酸化二リン等のリンの酸化物、五塩化リン等のリンのハロゲン化物、塩化ホスホリル等のハロゲン化ホスホリル、一リン化カルシウム、二リン化カルシウム等のリン化カルシウム等が挙げられる。
【0038】
中でも、リン酸およびその塩が好ましい。
これにより、焼成工程でのリン酸イオンとドロマイト類を構成するCa、Mgとの間での化学結合の形成をより好適に進行させることができる。
【0039】
さらに、汚泥灰に含まれているリンを酸またはアルカリ溶液のなかでリン酸イオンとして溶出させ、ドロマイト類を構成するCaやMgと化学結合をさせれば、経済的で、かつ好適に吸着剤を製造できる。
【0040】
前記溶液中におけるリン化合物の濃度は、0.01質量%以上80質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%以上10質量%以下であるのがより好ましく、1質量%以上2質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0041】
これにより、ドロマイト類に吸着しないで残存するリン化合物の量を抑制しつつ、ドロマイト類へのリン化合物の吸着量を多くすることができ、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
【0042】
リン化合物としては、いかなるものを用いてもよく、例えば、合成品や、鉱石由来物、活性汚泥由来物、鉄鋼スラグ由来物等が挙げられるが、汚泥灰由来物を用いるのが好ましい。
【0043】
このように、貴重な資源であるリンとして、産業廃棄物である汚泥灰由来物を用いることにより、資源の有効活用ができ、また、産業廃棄物量の削減等の観点からも好ましい。また、吸着剤のコスト削減の観点からも好ましい。
【0044】
ドロマイト類とリン化合物との比率は特に限定されないが、ドロマイト類に対するリン化合物の吸着量は、リン酸イオン量の換算で、ドロマイト類100質量部(%)に対して、0.1質量部以上20質量部以下であるのが好ましく、1質量部以上2質量部以下であるのがより好ましい。
【0045】
これにより、ドロマイト類に吸着しないで残存するリン化合物の量を抑制しつつ、ドロマイト類へのリン化合物の吸着量を多くすることができ、ドロマイトより高価なリンを節約することもできる。さらに、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
【0046】
本工程は、ドロマイト類とリン化合物を含む溶液とを含む混合物のpHが、2以上12以下の条件で行うのが好ましく、4以上8以下の条件で行うのがより好ましい。
【0047】
これにより、リン化合物をドロマイト類により効率よく吸着させることができ、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
【0048】
また、本工程は、前記混合物を撹拌しつつ行うのが好ましい。
これにより、リン化合物とドロマイト類とをより効率よく接触させることができ、リン化合物をドロマイト類により効率よく吸着させることができる。特に、ドロマイト類の空孔内においてもリン化合物をドロマイト類により効率よく吸着させることができる。その結果、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
前記混合物の混合には、各種撹拌装置、各種混合装置を用いることができる。
【0049】
本工程の処理時間(すなわち、ドロマイト類と溶解状態のリン化合物を含む溶液との接触時間)は、1分以上180分以下であるのが好ましく、10分以上60分以下であるのがより好ましい。
【0050】
これにより、吸着剤の生産性の低下を効果的に防止しつつ、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
【0051】
本工程の処理温度は、0℃以上100℃以下であるのが好ましく、10℃以上80℃以下であるのがより好ましく、20℃以上60℃以下であるのがさらに好ましい。
【0052】
これにより、吸着剤の製造に要するエネルギー量を削減しつつ、リン化合物をドロマイト類により効率よく吸着させることができ、短時間で効率よく本工程を行うことができる。
【0053】
吸着工程で、リン成分が溶解されている水溶液の中でリンをドロマイト類に吸着させた後に、固液分離を行う(固液分離工程)。
【0054】
また、固液分離工程で得られた固体であるリン吸着ドロマイト類に対し、乾燥処理を行う(乾燥工程)。
【0055】
乾燥工程での処理温度は、特に限定されないが、300℃以下であるのが好ましく、70℃以上300℃以下であるのがより好ましい。
【0056】
その後、乾燥処理したリン吸着ドロマイト類を用いて、以下に詳述する焼成工程を行う。
【0057】
<焼成工程>
焼成工程では、溶液と接触させたドロマイト類(すなわち、リン成分を吸着したドロマイト類)を焼成する。
【0058】
これにより、リン酸成分が吸着剤(すなわち、原料としてのドロマイト類)に固定化され、原料としてのドロマイト類に比べて、重金属の吸着能力が向上する。特に、アルカリ性の条件下での重金属の吸着能力が顕著に向上する。
【0059】
また、焼成により、ドロマイト類を構成していたCaおよびMgのうちの少なくとも一方がPと化学結合(特に、イオン結合)し、リン酸カルシウム系化合物およびリン酸マグネシウム系化合物のうちの少なくとも一方が形成されることにより、幅広いpH領域(特に、pHが5以上の領域)において、吸着剤が被処理物と接触した場合のリン成分の脱離が効果的に防止され、安定的に優れた吸着能力が発揮される。
また、重金属だけでなく、F(フッ素)も好適に除去することができる。
【0060】
また、低いpH領域(例えば、pHが3以下の領域)では、リン成分を好適に溶解させることができ、吸着剤に吸着した重金属を好適に溶出させることができる。これにより、吸着剤と重金属とを好適に分離することができ、例えば、重金属を好適に再利用することができる。特に、貴金属(すなわち、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Os)、希少金属(例えば、Cr、Mn、Co、Ni、Mo、W、Bi等)を吸着させた場合に、特に有利である。
【0061】
上記のような優れた効果は、焼成工程でリン成分を吸着剤(すなわち、ドロマイト類)に吸着させ、それを固定化することにより得られるのであって、単に、ドロマイト類とリン化合物を混合し固体と固体が接触することでは得られない。より具体的には、例えば、リン含有水溶液中等において、単に、ドロマイト類とリン化合物とを接触させたとしても、反応性が悪く、焼成処理を行わなかった場合では、高濃度のアルカリ条件で被処理物を処理する際等に、リン酸成分が容易に溶出してしまい、重金属の除去効率の向上の効果が安定的には得られない。
【0062】
リン酸カルシウム系化合物としては、例えば、リン酸カルシウム(Ca(HPOやその水和物)、無水リン酸水素カルシウム(CaHPO)、ヒドロキシアパタイト(HAP)(Ca10(PO(OH))等のようなリン酸イオンとカルシウムイオンとを含む化合物が挙げられる。
【0063】
リン酸マグネシウム系化合物としては、例えば、リン酸マグネシウム水和物(Mg(POやその水和物)、リン酸水素マグネシウム水和物(MgHPOやその水和物)、二リン酸マグネシウム(Mg)等のようなリン酸イオンとマグネシウムイオンとを含む化合物が挙げられる。
【0064】
焼成工程の処理温度(最高焼成温度)は、300℃以上1000℃以下であるのが好ましく、400℃以上800℃以下であるのがより好ましい。
【0065】
これにより、吸着剤の製造に要するエネルギー量を削減しつつ、リン酸イオンとドロマイト類を構成するCaやMgとの間で、より効率よく化学結合を形成させることができ、短時間で効率よく本工程を行うことができる。
【0066】
焼成工程での処理時間(例えば、200℃以上の温度での加熱時間)は、特に限定されないが、0.3時間以上10時間以下であるのが好ましく、1時間以上5時間以下であるのがより好ましく、2時間以上3時間以下であるのがさらに好ましい。
【0067】
これにより、吸着剤の生産性の低下を効果的に防止しつつ、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
【0068】
また、焼成工程での加熱は、ほぼ一定の温度で保持するようにして行ってもよいし、異なる複数の保持温度で保持するようにして行ってもよい。また、焼成工程での加熱は、ほぼ一定の昇温速度、ほぼ一定の降温速度となるようにして行ってもよいし、昇温時の昇温速度、降温時の降温速度の少なくとも一方が、経時的に変化するようにして行ってもよい。
【0069】
より具体的には、例えば、焼成工程では、所定の昇温速度(すなわち、第1の昇温速度)で温度を上昇させ、所定の温度(すなわち、第1の温度)に到達した時点で所定時間(すなわち、第1の保持時間)だけ第1の温度で保持し(すなわち、昇温速度をゼロとし)、その後、第1の昇温速度とは異なる所定の昇温速度(すなわち、第2の昇温速度)で温度を上昇させ、所定の温度(すなわち、第2の温度)に到達した時点で所定時間(すなわち、第2の保持時間)だけ第2の温度で保持し(すなわち、昇温速度をゼロとし)、その後、所定の降温速度(すなわち、第1の降温速度)で温度を低下させ、所定の温度(すなわち、第3の温度)に到達した時点で所定時間(すなわち、第3の保持時間)だけ第3の温度で保持し(すなわち、降温速度をゼロとし)、その後、第1の降温速度とは異なる所定の降温速度(すなわち、第2の降温速度)で温度を低下させてもよい。
【0070】
前記第1の温度は、例えば、100℃以上300℃以下の温度とすることができる。
前記第2の温度は、前述した最高焼成温度とすることができる。
前記第3の温度は、例えば、100℃以上300℃以下の温度とすることができる。
【0071】
前記第1の保持時間は、例えば、10分以上4時間以下とすることができる。
前記第2の保持時間は、例えば、30分以上5時間以下とすることができる。
前記第3の保持時間は、例えば、10分以上4時間以下とすることができる。
【0072】
前記第1の昇温速度は、5℃以上20℃以下とすることができる。
前記第2の昇温速度は、10℃以上40℃以下とすることができる。
前記第1の降温速度は、2℃以上15℃以下とすることができる。
前記第2の降温速度は、5℃以上20℃以下とすることができる。
【0073】
また、焼成工程は、いかなる雰囲気中で行ってもよいが、空気中で行うのが好ましい。
これにより、焼成工程に比較的単純な構成の装置を用いることができ、雰囲気の組成等の調整を行う必要がなく、吸着剤の生産性を向上させることができる。また、原料としてリン酸(リン酸の塩を含む)以外のリン化合物を用いた場合であっても、本工程でリンの酸化数を調整して効率よくリン酸カルシウム系化合物を形成させることができる。
【0074】
<水化工程>
上記のような焼成工程で得られた焼成物をそのまま吸着剤として用いてもよいが、焼成工程の後に、水化させる水化工程をさらに有していてもよい。
【0075】
これにより、吸着剤の化学的安定性が向上する。また、吸着剤の親水性が向上し、例えば、吸着剤により処理すべき被処理物が水を含む場合に、吸着剤と被処理物との親和性(例えば、吸着剤に対する被処理物の濡れ性)をより向上させることができる。その結果、例えば、吸着剤の空孔内にも好適に被処理物を侵入させることができ、吸着剤による重金属の除去効率がさらに向上する。
【0076】
水化工程は、前記焼成物と水とを接触させることにより行うことができ、例えば、水を含む液中に前記焼成物を浸漬したり、前記焼成物に水を含む液体を噴霧したりすること等により行うことができる。
【0077】
上述したような本発明の吸着剤の製造方法によれば、水素イオン指数(pH)が大きい状態であっても、重金属を効率よく除去することができる吸着剤を簡易な方法で効率よく製造することができる。
【0078】
また、本発明の製造方法では、製造条件、より具体的には、例えば、リン化合物のドロマイト類に対する比率や、焼成工程での熱処理条件等を調整することにより、各重金属の吸着のしやすさを調整することができる。これにより、例えば、特定の種類の重金属の選択性を高めることができ、当該特定の重金属の回収、精製等に好適に適用することができる。
【0079】
[吸着剤]
次に、本発明の吸着剤について説明する。
【0080】
本発明の吸着剤は、ドロマイト類とリン酸イオンとを含み、リン酸イオンの少なくとも一部が、ドロマイト類を構成するCaおよびMgのうちの少なくとも一方と化学結合(特に、イオン結合)し、リン酸カルシウム系化合物およびリン酸マグネシウム系化合物のうちの少なくとも一方形成していることを特徴とする。
【0081】
これにより、水素イオン指数(pH)が大きい状態であっても、重金属を効率よく除去することができる吸着剤を提供することができる。
【0082】
特に、本発明の吸着剤は、従来高い除去率で除去することが特に困難であったヒ素についても、高い除去率で除去することができる。
【0083】
本発明の吸着剤は、いかなる方法で製造してもよいが、前述したような本発明に係る吸着剤の製造方法を用いることにより、本発明の吸着剤を効率よく製造することができる。
【0084】
本発明の吸着剤では、リン酸イオンの大部分が、ドロマイト類を構成するCaやMgと化学結合しているのが好ましい。
【0085】
より具体的には、25℃で1gの吸着剤を10mLの水と混合した場合のリン酸イオンの溶出量が、100ppm以下であるのが好ましく、50ppm以下であるのがより好ましく、30ppm以下であるのがさらに好ましい。
【0086】
このような条件を満足する場合、吸着剤中にリンがより安定的に固定されており、長期間にわたって吸着剤を使用する場合や、大量の被処理物を処理する場合(すなわち、大量の被処理物を吸着剤と接触させる場合)であっても、安定的に重金属を優れた効率で除去することができる。
【0087】
なお、吸着剤を水と混合した場合のリン酸イオンの溶出量は、例えば、吸着剤と水とを混合して1時間撹拌した後に測定を行うことにより求めることができる。
【0088】
リン酸イオンがドロマイト類を構成するCaやMgと化学結合していることは、例えば、吸着剤を、上記のようにして水と接触させた後に、低pHの液体と接触させた場合に、リン酸イオンの溶出量が大幅に増加することにより確認することができる。
【0089】
より具体的には、25℃で1gの吸着剤を10mLの1Nの塩酸と混合した場合にリン酸イオンの溶出量が大幅に増加することにより確認することができる。
【0090】
25℃で1gの吸着剤を10mLの1Nの塩酸と混合した場合のリン酸イオンの溶出量は、吸着剤に含まれている全リン(すなわち、吸着量)の30%以上であるのが好ましく、60%以上であるのがより好ましく、80%以上であるのがさらに好ましい。
【0091】
このような条件を満足する場合、吸着剤中により多くのリンが固定されており、特に優れた重金属の除去能力が得られる。したがって、長期間にわたって吸着剤を使用する場合や、大量の被処理物を処理する場合(すなわち、大量の被処理物を吸着剤と接触させる場合)であっても、安定的に重金属を優れた効率で除去することができる。
【0092】
なお、吸着剤を1Nの塩酸と混合した場合のリン酸イオンの溶出量は、例えば、吸着剤と1Nの塩酸とを混合して1時間撹拌した後に測定を行うことにより求めることができる。
【0093】
吸着剤は、通常、多孔質体である。
これにより、吸着剤の単位質量(または単位体積)当たりの表面積を大きくすることができ、重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
【0094】
吸着剤における平均細孔径は、特に限定されないが、1nm以上200nm以下であるのが好ましく、2nm以上100nm以下であるのがより好ましく、5nm以上30nm以下であるのがさらに好ましい。
【0095】
これにより、吸着剤の耐久性を確保しつつ、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。
【0096】
吸着剤のBET比表面積は、特に限定されないが、10m/g以上が好ましい。40m/g以上1000m/g以下であれば十分な重金属除去性能が得られる。
これにより、吸着剤による重金属の除去効率はさらに向上する。
【0097】
吸着剤の形状、大きさは特に限定されないが、吸着剤が粒子状をなしている場合、その平均粒径は、0.5μm以上20000μm以下であるのが好ましく、1μm以上500μm以下であるのがより好ましく、50μm以上300μm以下であるのがさらに好ましい。
【0098】
これにより、吸着剤の単位質量(または単位体積)当たりの粒子表面積を大きくすることや吸着剤にリン成分を均一に吸着させることができるとともに、粒子状の吸着剤が不本意に凝集してしまうこと等が効果的に防止され、吸着剤の流動性、取り扱いのしやすさが向上する。また、容器への充填性(すなわち、充填のしやすさ、容器の形状に対する追従性)を向上させることができ、所望の形状への成形が容易となる。
【0099】
[吸着剤処理方法]
次に、本発明の処理方法について説明する。
【0100】
本発明の処理方法は、本発明に係る吸着剤と、重金属を含む被処理物とを接触させ、被処理物中に含まれる重金属を除去することを特徴とする。
【0101】
これにより、被処理物から重金属を効率よく除去することができる処理方法を提供することができる。
【0102】
本発明の処理方法を行う際の被処理物の形態は、特に限定されないが、通常、流動性を有しており、例えば、液状(ペースト状、スラリー状を含む)や、気体状等が挙げられる。
【0103】
特に、被処理物の形態は、液状であるのが好ましい。これにより、被処理物は、吸着剤と好適に接触(例えば、吸着剤が有する空孔内に好適に侵入)し、より効率よく重金属を除去することができる。
【0104】
吸着剤と被処理物とを接触させる際の、吸着剤と被処理物との混合物のpH(水素イオン指数)は、5以上であるのが好ましく、10以上であるのがより好ましく、11以上14以下であるのがさらに好ましい。
【0105】
これにより、吸着剤による重金属の除去効率をさらに向上させることができる。特に、従来の吸着剤では、上記のような高pHの領域では、重金属の除去効率が低下する傾向が顕著に発生する場合があったが、本発明の吸着剤では、上記のような高pH領域で特に優れた重金属の除去効率が得られる。すなわち、上記のような高pHで吸着剤を用いる場合に、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0106】
特に、除去すべき重金属がPb(鉛)である場合、吸着剤と被処理物との接触時におけるpHは、5以上であるのが好ましく、除去すべき重金属がCd(カドミウム)である場合、吸着剤と被処理物との接触時におけるpHは、8以上であるのが好ましく、除去すべき重金属がPb、Cd以外の重金属である場合、吸着剤と被処理物との接触時におけるpHは、10以上であるのが好ましい。
【0107】
被処理物は、除去すべき重金属を含む可能性があるものであれば、いかなるものであってもよいが、例えば、工場や実験室、発電所、建築物の解体現場、鉱山からの廃水、下水汚泥燃焼灰やこれを含む液体、井戸水等が挙げられる。
【0108】
被処理物は、除去すべき重金属を含む可能性があるものであればよく、実際に重金属を含んでいるか否かを問わない。
【0109】
ただし、被処理物中における重金属の含有率(ただし、複数種の重金属を含む場合には、これらの含有率の総和)は、特に限定されないが、0.001ppm以上100,000ppm以下であるのが好ましく、0.01ppm以上10,000ppm以下であるのがより好ましい。
【0110】
これにより、重金属の除去率(すなわち、吸着率)を特に高くしつつ、処理後の被処理物中の重金属の含有率を特に低くすることができる。すなわち、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0111】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されない。
【0112】
例えば、本発明の吸着剤は、ドロマイト類とリン酸イオンとを含み、前記リン酸イオンの少なくとも一部が、前記ドロマイト類を構成するCaおよびMgのうちの少なくとも一方と化学結合し、リン酸カルシウム系化合物およびリン酸マグネシウム系化合物のうちの少なくとも一方を形成していればよく、前述したような方法で製造されたものに限定されない。
【0113】
また、本発明の吸着剤の製造方法は、前述した工程以外の工程(例えば、前処理工程、中間処理工程、後処理工程等)を有していてもよい。例えば、焼成工程よりも後に、焼成物を粉砕または解砕する工程や、分級する工程を有していてもよい。また、所定の形状に成形された吸着剤を得るための成形工程を有していてもよい。
【0114】
また、前述した実施形態では、焼成工程の後に水化工程を有する場合について代表的に説明したが、本発明の吸着剤の製造方法は、水化工程を有していなくてもよい。
【実施例
【0115】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0116】
《1》吸着剤の製造
(実施例1)
まず、300mLの三角フラスコに、1mol/Lに調整した塩酸:100mLを入れて加熱し80℃にした。そこに、汚泥灰:1gを入れ、マグネットスターラーを用いて温度を保ちつつ、50分間撹拌し、汚泥灰中に含まれるリン化合物を溶解させた。なお、汚泥灰から溶出したリン化合物のうち80質量%以上は、リン酸またはその塩であった。
【0117】
撹拌終了後に、固液分離を行い、分離した液相(すなわち、濾液)を500mLにメスアップした。モリブデンブルー法により、メスアップした溶液中におけるリン化合物の濃度を求めたところ、リン溶出率は90質量%であった。
【0118】
次に、前記溶液に対し1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を加え、pHが7となるように調整した。
【0119】
次に、前記のようにしてpHが調整されたリン化合物の溶液を室温(25℃)まで冷却した後、当該溶液:500mLに別途用意した平均細孔径:10~20nmの多孔質のドロマイト:5gを加え、この混合液を1時間撹拌することにより、ドロマイトにリン化合物を吸着させた(吸着工程)。
【0120】
撹拌終了後に、固液分離を行い、リン化合物が吸着されたドロマイトに焼成処理を施した(焼成工程)。焼成処理は、まず、室温から200℃までは昇温速度:10℃/分で昇温し、200℃で2時間保持し、次いで、800℃(最高焼成温度)まで昇温速度:20℃/分で昇温し、800℃(最高焼成温度)で2時間保持し、次いで、200℃まで、降温速度:5℃/分で降温し、200℃で2時間保持し、その後、室温まで、降温速度:10℃/分で降温することにより行った。
【0121】
次に、上記のようにして得られた焼成物を、水中に浸漬することにより水化処理を施し、その後、固液分離して自然乾燥した。その後、乳鉢ですりつぶすことにより粉末状の吸着剤を得た。
【0122】
一方、ドロマイトにリン化合物を吸着させた後の液相(すなわち、濾液)については、1000mLにメスアップし、その後、モリブデンブルー法によりリン化合物の濃度を求めた。そして、その結果から、ドロマイトに吸着されたリンの量(すなわち、吸着剤中におけるリンの含有率)を求めた。その結果、吸着剤中におけるリンの含有率は、1質量%であることが分かった。
【0123】
(実施例2)
焼成処理の条件を、最高焼成温度を900℃に変更した以外は、前記実施例1と同様にして吸着剤を製造した。
【0124】
(実施例3)
焼成処理の条件を、最高焼成温度を700℃に変更した以外は、前記実施例1と同様にして吸着剤を製造した。
【0125】
(実施例4)
焼成処理の条件を、最高焼成温度を600℃に変更した以外は、前記実施例1と同様にして吸着剤を製造した。
【0126】
(実施例5)
焼成処理の条件を、最高焼成温度を400℃に変更した以外は、前記実施例1と同様にして吸着剤を製造した。
【0127】
(比較例1)
本比較例では、前記実施例1で原料として用いたドロマイトをそのまま吸着剤として用いた。
【0128】
(比較例2)
本比較例では、水酸化ドロマイトをそのまま吸着剤として用いた。
【0129】
前記各実施例および前記各比較例の吸着剤の製造条件、吸着剤の構成等を表1にまとめて示す。なお、BET比表面積は、表面積測定装置(Mircometrics社製、TriStarII3020)を用いた測定により求められた数値である。また、前記各実施例では、吸着剤の平均粒径は、いずれも、200nm以上300nm以下の範囲内の値であった。また、前記各実施例では、吸着工程におけるドロマイト類とリン化合物を含む溶液とを含む混合物のpHは、いずれも6以下であった。また、前記各実施例では、25℃で1gの吸着剤を10mLの水と混合し、1時間撹拌した後に測定を行うことにより求めたリン酸イオンの溶出量の値は、いずれも、10ppm以下であり、その後にさらに、固液分離し、25℃で1gの吸着剤を10mLの1Nの塩酸と混合し、1時間撹拌した場合のリン酸イオンの溶出量の値は、いずれも、吸着剤に含まれる全リン(すなわち、吸着量)の80%以上であった。
【0130】
また、前記各実施例の吸着剤について、X線回折(XRD)にて成分の分析を行ったところ、いずれも、リン酸カルシウム系化合物(すなわち、リン酸カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、ヒドロキシアパタイト)が含まれていることが確認された。図1に、代表的に、実施例1の吸着剤についてのX線回折(XRD)の結果を示す。
また、図2図3には、実施例3および比較例2の吸着剤についての細孔分布を示す。
【0131】
【表1】
【0132】
《2》評価
まず、ヒ素(As)を2000ppbの含有率で含み、他の重金属を実質的に含有しないpHが13の標準液A、および、ヒ素(As)、ニッケル(Ni)、カドミウム(Cd)、鉛(Pb)、クロム(Cr)を、それぞれ、2000ppbの含有率で含み、pHが13の標準液Bを調製した。
【0133】
次に、前記各実施例および各比較例の吸着剤について、それぞれ別個に、標準液A:50mLに対し、吸着剤:0.1gを加え、1時間撹拌した。その後、固液分離し、液相について、ICP質量分析法(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)によりヒ素の含有率を求め、当該含有率の値から吸着剤による除去率を求めた。
【0134】
同様に、前記各実施例および各比較例の吸着剤について、それぞれ別個に、標準液B:50mLに対し、吸着剤:0.1gを加え、1時間撹拌した後、固液分離し、液相について、ICP質量分析法により各重金属の含有率を求め、当該含有率の値から吸着剤による除去率を求めた。
これらの結果を表2にまとめて示す。
【0135】
【表2】
【0136】
表2から明らかなように、本発明では、高い除去率(すなわち、吸着率)で重金属であるヒ素を除去(すなわち、吸着)することができた。特に、従来では、重金属の除去率を高くすることが困難であったpHが高い状態で、重金属を効率よく除去することができた。同様に、本発明では、ヒ素以外の重金属(ニッケル(Ni)、カドミウム(Cd)、鉛(Pb)、クロム(Cr))についても、高い除去率(すなわち、吸着率)で除去(すなわち、吸着)することができた。
これに対し、各比較例では満足のいく結果が得られなかった。
【0137】
また、前記各実施例および各比較例の吸着剤について、pHを10から14の間で変動させた以外は、前記標準液Aと同様にして調製した各液体を標準液として用いた以外は、前記と同様の評価を行ったところ、前記と同様に、各実施例では、高い除去率(吸着率)で重金属であるヒ素を除去(吸着)することができたのに対し、各比較例では各重金属の除去率はいずれも低かった。
【0138】
図4に、実施例1~5および比較例1、2の吸着剤を用いて、ヒ素、ニッケル、カドミウム、鉛、クロムを、それぞれ、2000ppbの含有率で含む標準液を処理した場合の、pHとヒ素の除去率との関係を示す。
【0139】
また、前記各実施例および各比較例の吸着剤について、pHを10から14の間で変動させた以外は、前記標準液Bと同様にして調製した各液体を標準液として用いた以外は、前記と同様の評価を行ったところ、前記と同様に、各実施例では、高い除去率(吸着率)で重金属であるヒ素を除去(吸着)することができたのに対し、各比較例では各重金属の除去率はいずれも低かった。また、前記各実施例の吸着剤では、ヒ素と同様に、ヒ素以外の重金属についても高い除去率で除去することができた。
【0140】
図5に、実施例3の吸着剤を用いて、ヒ素を2000ppbの含有率で含み、他の重金属を実質的に含有しない標準液(単独溶液)を処理した場合のpHとヒ素の除去率との関係、および、実施例3の吸着剤を用いて、ヒ素、ニッケル、カドミウム、鉛、クロムを、それぞれ、2000ppbの含有率で含む標準液(混合溶液)を処理した場合のpHとヒ素の除去率との関係を示す。
【0141】
図6に、実施例1~5および比較例1、2の吸着剤を用いて、ヒ素、ニッケル、カドミウム、鉛、クロムを、それぞれ、2000ppbの含有率で含む標準液を処理した場合の、pH10から14の範囲におけるクロムの除去率を示す。
【0142】
また、吸着剤の製造に用いるリン化合物として、汚泥灰に対して酸を処理して溶出させたものの代わりに、汚泥灰に対してアルカリを処理して溶出させたものを用いた以外は、前記と同様にして吸着剤を製造し、前記と同様の評価を行ったところ、前記と同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明の吸着剤の製造方法は、ドロマイト類を溶解状態のリン化合物を含む溶液の中にいれ、リン成分をドロマイト類に吸着させる吸着工程と、前記溶液と接触させリン成分を吸着させた前記ドロマイト類を焼成する焼成工程とを有する。そのため、水素イオン指数(pH)が大きい状態であっても、重金属を効率よく除去することができる吸着剤を製造することができる吸着剤の製造方法を提供することができる。また、本発明の吸着剤は、ドロマイト類とリン酸イオンとを含み、前記リン酸イオンの少なくとも一部が、前記ドロマイト類を構成するCaおよびMgのうちの少なくとも一方と化学結合し、リン酸カルシウム系化合物およびリン酸マグネシウム系化合物のうちの少なくとも一方を形成している。そのため、水素イオン指数(pH)が大きい状態であっても、重金属を効率よく除去することができる吸着剤を提供することができる。また、本発明の処理方法は、本発明に係る吸着剤と、重金属を含む被処理物とを接触させ、被処理物中に含まれる前記重金属を除去する。そのため、被処理物から重金属を効率よく除去することができる処理方法を提供することができる。したがって、本発明の吸着剤の製造方法、吸着剤および処理方法は、産業上の利用可能性を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6