(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】虚血/再灌流障害
(51)【国際特許分類】
A61K 38/17 20060101AFI20221026BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221026BHJP
A61K 45/08 20060101ALI20221026BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20221026BHJP
A61P 9/08 20060101ALI20221026BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20221026BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20221026BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221026BHJP
A61P 41/00 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
A61K38/17
A61K48/00
A61K45/08
A61P9/00
A61P9/08
A61P9/10
A61P3/06
A61P43/00 105
A61P43/00 111
A61P41/00
(21)【出願番号】P 2019529143
(86)(22)【出願日】2017-08-10
(86)【国際出願番号】 US2017046237
(87)【国際公開番号】W WO2018031738
(87)【国際公開日】2018-02-15
【審査請求日】2020-08-05
(32)【優先日】2016-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516131876
【氏名又は名称】テンプル ユニバーシティー オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイアー エデュケーション
(74)【代理人】
【識別番号】100189131
【氏名又は名称】佐伯 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182486
【氏名又は名称】中村 正展
(74)【代理人】
【識別番号】100158872
【氏名又は名称】牛山 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100147289
【氏名又は名称】佐伯 裕子
(72)【発明者】
【氏名】フェルドマン, アーサー エム.
(72)【発明者】
【氏名】チェン, ジョセフ ワイ.
(72)【発明者】
【氏名】ハリリ, カメル
【審査官】藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】JCI Insight, 2016.11, Vol.1, No.19, e90931
【文献】Cell Physiol Biochem, 2016.7, Vol.39, pp.491-500
【文献】J. Cell Physiol., 2014, Vol.229, No.11, pp.1697-1702
【文献】Brain Research, 2010, Vol.1349, No.19, pp.1-10
【文献】Med Sci Monit, 2016.01 Epub, Vol.22, pp.977-983
【文献】日本薬理学雑誌, 1996, Vol.108, pp.195-202
【文献】日本医科大学医学会雑誌, 2012, Vol.8, No.3, pp.216-221
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00 - 38/58
A61K 31/00 - 45/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における
心臓の虚血/再灌流障害の治療又は予防のための医薬組成物であって、該医薬組成物が、Bcl2関連アタノゲン3(BAG3)ポリペプチドをコードする核酸又はBAG3ポリペプチドを、
心臓でのBAG3の値を増加させる治療上の有効量含有する、医薬組成物。
【請求項2】
該虚血/再灌流障害は、
アテローム性動脈硬化、末梢血管障害、肺動脈塞栓、静脈血栓症、不安定狭心症、動脈内膜切除、又は動脈瘤修復手術の結果生じる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
該組成物が虚血/再灌流障害の間、又は虚血/再灌流障害前の使用のために調合される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
該組成物が静脈内使用のために調合される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
抗炎症剤、血管拡張剤、β遮断薬、コレステロール降下剤、カルシウムチャネル遮断薬、アンギオテンシン変換酵素阻害剤、又は抗凝血剤を含むさらなる治療剤と併せて投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
該対象が血管インターベンション手術又は虚血/再灌流障害をもたらす可能性のある医療処置を予定している、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
該血管インターベンション手術又は医療処置が、カテーテル又はステントを用いる手術、血管形成又は冠動脈バイパス移植を含む、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
該血管インターベンション手術又は医療処置が、血管形成カテーテル、レーザーカテーテル、アテローム切除カテーテル、血管内視鏡装置、β若しくはγ線カテーテル、血管内超音波装置、回転性アテローム切除装置、放射性バルーン、熱線式ワイヤー、熱線式バルーン、生分解性ステント支柱、又は生分解性スリーブを用いることを含む、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項9】
該BAG3ポリペプチドをコードする核酸が、ベクターに含まれる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
該ベクターが、組み換えウイルスベクターである、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
該組み換えウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター又はアデノウイルスベクターを含む、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
該AAVベクターが、心臓向性を有する、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
該AAVベクターが、AAV9カプシド血清型を含む、請求項12に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
国家に支援された研究に関する声明
本発明は、国立衛生研究所によって付与された助成金番号P01 HL 091799-01及びR01 HL 123093による政府の支援によってなされた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0002】
本発明は虚血/再灌流障害の治療及び予防のための方法及び組成物に関する。該組成物はBcl2に関連したアタノゲン3(BAG3)の値を増加させる薬剤を含むことができ、虚血/再灌流障害に罹患している又は虚血/再灌流障害のリスクのある対象に投与されることが可能である。
【背景技術】
【0003】
虚血は一般的に器官又は組織への血液供給の制限を指す。特定の組織によっては血液供給の減少が細胞死及び組織の損傷に繋がることがある。逆説的に、再灌流としても知られる血液供給の回復は、すでに損傷している組織にさらなる損傷をもたらすことがある。虚血/再灌流障害は心筋梗塞、脳卒中、末梢神経障害を含む様々な疾患と関連している。虚血/再灌流障害は手術中、及びドナーからの移植を待つ器官においてまた生じることがある。虚血/再灌流障害に関連する死亡及び罹患の発生率は甚大である。例えば、合衆国単独においても、毎年735,000を超える個体が心臓発作、すなわち心筋梗塞を経験している。虚血性心疾患は世界中の人々の主要な死因であり、2012年には約740万人が亡くなっている。脳卒中は世界中で二番目に主要な死因であり、2012年には約670万人が亡くなっている。急性心筋梗塞の患者における冠状動脈閉塞の開始及び冠状動脈インターベンション間の時間を制限する成果にもかかわらず、再灌流障害による心筋障害は多様な薬理学的アプローチによって影響されない重大な臨床的問題を残している。虚血/再灌流障害の治療及び予防のための新たな手順の継続的な必要性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書には虚血/再灌流障害の治療に関連する方法及び組成物が提供される。該方法は虚血組織におけるBAG3の値を増加させる医薬組成物の治療上の有効量を対象に投与することの方法を含むことができる。ある実施形態では、虚血/再灌流障害は心筋梗塞、脳卒中、又は末梢神経障害の結果である。該組成物はBAG3ポリペプチド若しくはそのフラグメントをコードする核酸、BAG3ポリペプチド若しくはそのフラグメント、又はプロテオソーム阻害剤を含むことができる。ある実施形態では、該組成物は再灌流中に投与される。虚血/再灌流障害のリスクがある対象の治療のための方法及び組成物もまた提供される。ある実施形態では、該対象は血管インターベンション手術を予定していてもよい。該方法は虚血組織におけるBAG3の値を増加させる医薬組成物の治療上の有効量を対象に投与することの方法を含むことができる。ある実施形態では、該組成物は再灌流前に投与される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
これら及びその他の本発明の利点は以下の本発明の好ましい実施形態の詳細な説明においてより十分に開示、又はそれによって明瞭に提供されるし、同種の番号が同種の部分を指し、さらに以下のようでもある添付の図面と併せて考慮されるべきである:
【0006】
【
図1】
図1は、低酸素-再酸素化(I/R)が新生仔の心筋細胞におけるBAG3の値を減少させたことを示している。新生仔マウスの心室心筋細胞(NMVC)を低酸素状態(5%のCO
2及び95%の窒素、1分あたり3L)下及びグルコースの非存在下で14時間にわたり37℃で培養し、それから4時間にわたり5%のCO
2及び95%の加湿空気並びにグルコースを含む培養培地で細胞を再酸素化した。それから筋細胞を採取し、BAG3、切断型カスパーゼ-3、Bcl-2及びLAMP2の値を決定するために細胞溶解物をイムノブロッティングした。β-アクチンはウエスタンブロット上に取り込まれたタンパク質の量の対照としての役目をした。各実験においてn=3とする3回の独立した実験において各実験を繰り返した。データは平均±標準誤差(SEM)として提示される。ボンフェローニの多重比較調整を用いた二元配置分散分析を試験中の群における差異を評価するために使用した。
図1Aは、ある実験の代表的なイムノブロットを示している。
図1Bは、I/R後のBAG3の値のウエスタンブロットでの定量化を表したグラフを示している。
図1Cは、I/R後のBcl2の値のウエスタンブロットでの定量化を表したグラフを示している。
図1Dは、I/R後の切断型カスパーゼ-3の値のウエスタンブロットでの定量化を表したグラフを示している。
図1Eは、I/R後のリソソームに関連した膜タンパク質2(LAMP-2)の値のウエスタンブロットでの定量化を表したグラフを示している。
図1Fは、アデノウイルスで形質転換したsiRNAによってノックダウンされたBAG3(Ad-siBAG3)がBAG3の値の有意な増加並びにBcl2及びLAMP-2の減少並びに切断型カスパーゼ-3の増加をもたらしたことを明示する代表的なウエスタンブロットを示している。新生仔マウスの心筋細胞を、細胞を採取した後の3日間にわたり、培養液中でAd-siBAG3又はAd-GFP(対照)に感染させ、特異的な抗体を用いてイムノブロッティングした。各実験においてn=3とする3回の独立した実験において各実験を繰り返した。データは平均値±標準誤差(SEM)として提示した。
図1Gは、BAG3の値における減少を示すウエスタンブロットでの定量化を表したグラフを示している。
図1Hは、Bcl2の値における減少を示すウエスタンブロットでの定量化を表したグラフを示している。
図1Iは、切断型カスパーゼ3の値における減少を示すウエスタンブロットでの定量化を表したグラフを示している。
図1Jは、LAMP-2の値における減少を示すウエスタンブロットでの定量化を表したグラフを示している。
【0007】
【
図2】
図2は、BAG3の過剰発現が新生仔マウスの心室心筋細胞(NMVCs)における低酸素-再酸素化及び阻害されたオートファジーと関連したアポトーシス及びオートファジーのマーカーにおける変化を改善したことを示している:NMVCsをAd-BAG3又はAdv-GFPに3日間にわたり感染させた。NMVCsをそれから14時間にわたり37℃の低酸素状態(5%のCO
2及び95%の窒素、1分あたり3L)下でさらし、続いて4時間にわたり5%のCO
2及び95%の加湿空気で再酸素化するか、又は正常酸素状態(5%のCO
2及び95%の加湿空気)下で培養した。各実験は各実験群にn=3を含み、3回の分離試験で繰り返された。
図2Aは、正常な量のO
2及びCO
2下で培養された細胞内のBAG3の過剰発現がBAG3の増加した値をもたらした(
図2Bに示されたグラフに表されている)が、p-JNK(
図2Cに示されたグラフに表されている)、LAMP-2(
図2Dに示されたグラフに表されている)、Bcl2(
図2Eに示されたグラフに表されている)、又は切断型カスパーゼ-3(
図2Fに示されたグラフに表されている)の値を有意に変化させなかったことを明示する3回の分離試験中の1回の代表的なウエスタンブロットを示している。対照的に、Ad-BAG3によるBAG3の過剰発現は正常酸素状態下でAd-BAG3又はAd-GFPで処置されたNMVCs中に見出される値に対してBAG3(
図2Bに示されたグラフに表されている)、p-JNK、(
図2Cに示されたグラフに表されている)LAMP-2(
図2Dに示されたグラフに表されている)、Bcl2(
図2Eに示されたグラフに表されている)、及び切断型カスパーゼ-3(
図2Fに示されたグラフに表されている)の値を有意に変化させた。
【0008】
【
図3】
図3は、オートファジーの値は低酸素-再酸素化中に減少したがBAG3のノックダウンはBAG3の過剰発現によって増加したことを示している:オートファジーは静的なプロセスではないが、その代わりにファガソームをオートファガソームへ、それからオートリソソームへの継続的な移行を表す。それゆえに、オートファジーがBAG3の心臓での値の変化と比例して増加又は減少することを決定付けるために、二重標識のmRFP-GFP-LC3-1からなるオートファジーレポーターシステムを用いてNMVCsを形質転換した。RFP(赤色蛍光)及びGFP(緑色蛍光)の両方とも黄色斑点としてオートファガソーム中に同定することができた;しかしながら、オートファガソームがリソソームと融合する時、オートリソソームの酸性が大部分に赤色斑点をもたらすGFP蛍光を消した。
図3Aは、H/Rを経験した又はsiBAG3に感染したNMVCsにおいて黄色蛍光がより顕著である共焦点像を示している。対照的に、RFPシグナルはAd-BAG3で処置された細胞内でより顕著であり、オートリソソームへのLC3の取り込みの増加がオートファジーのレベルの増加と一致することを示唆している。
図3Bは、
図3Aの画像の定量分析を表したグラフである。共焦点像の主観的な評価は各群(対照、H/R、siBAG3及びH/R+Ad-BAG3の黄色及び赤色斑点の数を数えることによって裏付けられた。
図3Cは、オートファジーの量を決定付けるために、オートリソソーム(赤色斑点)/オートファガソーム(黄色斑点)/全斑点の比率を比較しているグラフである。
図3Cは、H/R後に比率が有意に減少していること、Ad-BAG3によるBAG3の過剰発現によって変化が鈍くなったことを示しており、H/R及びBAG3の減少した値がオートファジーを阻害した一方でBAG3の過剰発現がオートファジーの値を回復させたことを示唆している。
【0009】
【
図4】
図4は、低酸素-再酸素化(I/R)によってBAG3の値が減少した後、又はAd-siBAG3の感染によるノックダウン後に、新生仔マウスの心室心筋細胞(NMVC)においてBAG3が細胞核に転座することを示している。
図4Aは、H/R又はAd-siBAG3によるBAG3のノックダウンのどちらかを経験したNMVCsの代表的な共焦点像を示している。NMVCsは正常状態(CTRL)下で14時間にわたり37℃での低酸素下(5%のCO
2及び95%の窒素、1分あたり3L)で培養し、続いて4時間にわたり5%のCO
2及び95%の加湿空気。(HR)で再酸素化があったか、又はAd-siBAG3に感染させた。心筋細胞をそれから固定し、BAG3抗体、α-アクチニン抗体又は核対比染色4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)のいずれかによって染色した。3回繰り返された各実験から最小の10細胞が数えられた。
図4Bは、低酸素-再酸素(I/R)下、又はAd-siBAG3の感染によるノックダウン後の、細胞質及び核の断片におけるBAG3の値のイムノブロット分析を示している。NMVCsをAd-siBAG3又はAd-GFPに一晩感染させ、該媒地を変更して細胞を正常状態下で3日間培養した。細胞をそれから14時間にわたり37℃での低酸素下(5%のCO
2及び95%の窒素、1分あたり3L)で培養し、それから4時間にわたり5%のCO
2及び95%の加湿空気(HR)で再酸素化すべきもの、又は正常酸素状態で培養すべきものに無作為に割り当てた。筋細胞をそれから採取し、段階的な細胞の溶解並びに核及び細胞質タンパク質断片の遠心分離式単離を用いて細胞質及び核断片に分離した。タンパク質断片をSDS-Pageによって分離し、細胞膜へ移動させた。それらをそれからBAG3、β-チューブリン又はヒストン抗体のいずれかによってイムノブロッティングした。
図4Cは、Ad-GFP又はAd-BAG3のどちらかにさらされ、それから低酸素-再酸素又は正常酸素状態のどちらかにさらされた細胞の核抽出物又は細胞質抽出物中のBAG3の値を評価する3回の分離試験の定量分析を表したグラフを示している。データは中央値±標準誤差(SEM)として表現し、二元配置分散分析を用いて分析、続いて多重比較のボンフェローニ修正を行った。0.05より大きいp値は有意とみなした。
【0010】
【
図5】
図5は、マウスにおいてBAG3の過剰発現が心臓機能及び
虚血/再灌流障害後の限られた梗塞面積を維持したことを示している。野生型の生後8~10週のオスのFVBマウスに、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下でBAG3を含むアデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)を、後眼窩叢を介して感染させた(rAAV9-BAG3)。3週間後、左冠動脈前下降枝動脈を30分にわたり閉塞させ、続いて72時間の再灌流を行った。再灌流の終わりに心エコー図によって心臓機能を測定した。
図5Aは、AAV9-GFPを注入された野生型FVBマウスのLV短軸、AAV9-GFPを注入されたマウスにおけるI/R後の72時間、及びAAV9-BAG3を注入されたマウスにおけるI/R後72時間のエコーを示す代表的なMモード心エコー図を示している。
図5Bは、72時間にわたる再灌流後にAAV9-BAG3又はAAV9-GFPを注入されたマウスにおける心エコー検査によって測定された左心室駆出分画率(LVEF)を示している。
図5Cは、I/R後にAAV9-BAG3又はAAV9-GFPを注入されたI/Rマウスの心筋におけるBAG3の値を示している。
図5Dは、代表的な代表的なエバンスブルー/トリフェニルテトラゾリウムで染色された、以下に由来する断面を示している:偽手術を受けたマウス、I/R前にrAAV-GFPを注入されたマウス;及びI/R前にrAAV9-BAG3を注入されたマウス。エバンスブルーで染色された領域は、リスクのない心室の領域を表す;TTC-ネガティブ領域は梗塞領域を表し、リスクのある領域(AAR)はTTC-ネガティブ領域及びTTC-ポジティブ領域の両方を含む。リスクのある領域(AAR)は全LVの百分率として表現され、梗塞の領域はAARの百分率として表現される。
図5Eは、AAV9-GFP又はAAV9-BAG3に続くI/R後のマウスにおけるリスクのある領域(AAR/LV)の定量的評価を示している。
図5Fは、I/Rの3週間前にAAV9-GFP又はAAV9-BAG3を受容したマウスにおける梗塞面積がAAV9-BAG3を受容する群における梗塞面積に有意な減少を明示することを示している。
【0011】
【
図6】
図6は、虚血再灌流を経験しているマウスにおけるBAG3の過剰発現がアポトーシスとオートファジーのマーカーにおける変化を改善することを示している。
図6Aは、NMVCsのAd-BAG3治療後に見られたものと一致する変化を示している、I/R前の3週間に後眼窩叢中でrAAV9-GFP又はrAAV9-BAG3を注入された野生型マウスの境界域から得られた組織におけるバイオマーカーの代表的なウエスタンブロットを示している。
図6Bは、Bcl2に関してI/R前にrAAV9-GFP又はrAAV9-BAG3のどちらかを注入されたマウスにおけるウエスタンブロットの定量化(GFPはn=5、BAG3はn=4)を表したグラフを示している。
図6Cは、切断型カスパーゼ-3に関してI/R前にrAAV9-GFP又はrAAV9-BAG3のどちらかを注入されたマウスにおけるウエスタンブロットの定量化(GFPはn=5、BAG3はn=4)を表したグラフを示している。
図6Dは、LAMP-2に関してI/R前にrAAV9-GFP又はrAAV9-BAG3のどちらかを注入されたマウスにおけるウエスタンブロットの定量化(GFPはn=5、BAG3はn=4)を表したグラフを示している。
図6Eは、p-JNKに関してI/R前にrAAV9-GFP又はrAAV9-BAG3のどちらかを注入されたマウスにおけるウエスタンブロットの定量化(GFPはn=5、BAG3はn=4)を表したグラフを示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
好ましい実施形態の本記載は、本発明の全記述の一部としてみなされるべき添付の図面と関連して読まれることを意図している。図面を計測する必要はなく、本発明の特定の特性は明快さと簡潔さという利益のために規模又はいくらかの図表形態で誇張して示されることがありうる。本明細書において、相対的な用語、例えば「水平な」(horizontal)、「垂直な」(vertical)、「上の」(up)、「下の」(down)、「上部の」(top)及び「下部の」(bottom)並びにそれらの変形(例えば、「水平に」(horizontally)、「下方に」(downwardly)、「上方に」(upwardly)等)はその時記載されている、又は議論されている図面に示されたものの位置付けを指していると解釈されるべきである。これらの相対的な用語は記述の利便性のためであり、通常は特別な位置付けを要求することを意図しない。「内部で」(inwardly)に対する「外部で」(outwardly)、「縦の」(longitudinal)に対する「横の」(lateral)等を含む用語は、必要に応じ、互いに関連して、又は延長の軸、若しくは回転の軸又は中心に関連して理解されたい。付着(attachment)、結合(coupling)等に関連した用語、例えば「連結された」(connected)及び「相互連結された」(interconnected)は、明確に記載されていない場合、直接的又は間接的に、並びに可動又は固定の付着又は関係性の両方で、互いに固定又は付着している関係性を称する。用語「作動可能に連結された」(operably connected)は、例えばその関係のおかげで関連のある構造を意図したように作動させるような付着、結合又は連結である。単独の機構のみが説明されている場合、用語「機構」(machine)は、個々又は共同で、本明細書で議論される1又はそれ以上の任意の手順の一組の(又は複数組の)指示を行う機構の任意の集まりも含むとまたみなされるべきである。請求項において、ミーンズ・プラス・ファンクションクレームが使用される場合、構造上の同等物(structural equivalents)のみならず同等の構造物(equivalent structures)を含む、列挙された機能を行う明細書又は図面によって明瞭に記載、示唆、又は表現された構造をカバーすることが意図されている。
【0013】
本発明は一部分においては、Bcl2に関連したアタノゲン3(BAG3)の過剰発現が再灌流障害から心臓を保護するという発明者の発見に基づく。発明者は新生仔マウスの心室筋細胞(NMVMs)における低酸素-再酸素化(H/R)のインビトロモデル及び成体マウスにおける虚血再灌流(I/R)のインビボモデルの両方を活用した。発明者は低酸素-再酸素化(H/R)及び虚血再灌流(I/R)の両方がBAG3の減少した値と関連していること、並びにI/R前のマウスにおけるBAG3の過剰発現が梗塞面積を有意に減少させて左心室(LV)機能を改善することを見出した。
【0014】
さらに厳密に言えば、発明者は新生仔マウスの心室心筋細胞(NMVCs)における低酸素-再酸素化(H/R)、及びマウスの心室心筋における梗塞境界域の虚血再灌流(I/R)の両方の後で、BAG3の値が有意に減少することを見出した。H/R後のNMVCs及びI/R後のマウスの心筋におけるBAG3の減少した値は、切断型カスパーゼ2の増加した値並びにBcl2及びLAMP-2の減少した値を含むオートファジー及び/又はアポトーシスのマーカーの値における変化と関連していた。発明者はNMVCsにおけるsiRNA(siBAG3)を伴うBAG3のノックダウンがH/R後のNMVCsに見られるものを正確に映したアポトーシス/オートファジーのバイオマーカー表現型をもたらすこともまた見出した。発明者はNMVCs中のアデノウイルス(Ad-BAG3)によるBAG3の過剰発現がH/R後のアポトーシス及びオートファジーのバイオマーカーの変更を正常化することもまた見出した。加えて、CMVプロモーターの制御下でBAG3と結合したアデノ随伴ウイルス血清型9(rAAV9-BAG3)が有意に左心室(LV)機能を強化し、I/R後のマウスにおける梗塞面積を減少させ、またNMVCsに見られるものと釣り合うようオートファジーとアポトーシスのバイオマーカーの値を修正した。これらの結果はBAG3の正常値が低酸素/虚血及び再灌流のストレス中に心臓の恒常性を維持するために必要であることを示唆した。
【0015】
したがって、本明細書はBAG3の値を増加させる1又はそれ以上の薬剤を含む組成物及び虚血/再灌流障害のリスクがある又は罹患している組織中のBAG3の値を増加させる薬剤の医薬製剤を特色としている。本明細書に記載の治療方法を、他の治療、例えば、薬物療法又は医療機器と関連して行うことができる。
【0016】
組成物
Bcl2に関連したアタノゲン3(BAG3)は、心臓、骨格筋及び多くの癌中に豊富な575アミノ酸タンパク質である。BAG3はタンパク質の品質管理を調整するための熱ショックタンパク質群の一員と共にコシャペロンとしての役目をし、アポトーシスを阻害するためにBcl2と相互作用し、アクチンキャッピングタンパク質β1(CapZβ1)との結びつきを介してフィラメン(filamen)とZ板を連結することによりサルコメアの構造的完全性を維持する。
【0017】
BAG3は心臓の恒常性を維持する役割を演じる。マウスにおけるBAG3のホモ接合体欠失は重篤なLV機能障害、筋原線維の破壊及び生後4週までの死につながった;仔における単一対立遺伝子変異体は四肢及び体軸筋の進行性衰弱、重篤な呼吸不全並びに心筋症と関連していた。BAG3における欠失は末梢筋肉の衰弱又は神経系合併症とは無関係に、減少した排出断片を伴う心不全(HFrEF)と関連していた;BAG3の値はLAD閉塞に続発するHFrEFを有するマウス及びブタにおいて、並びに末期のHFrEFを有する患者において減少した。新生仔の筋細胞におけるBAG3のノックダウンは細胞が引き伸ばされた時に筋原線維の乱れ(disarray)につながった。成体の筋細胞では、BAG3は筋鞘及びt管に局在しており、そこでβ1アドレナリン作動性の受容体及びL型Ca2+チャネルとの特異的な相互作用を介して筋細胞の収縮及び活動電位持続を調節する。
【0018】
BAG3における一塩基変異多型及び筋原線維ミオパシーを有する患者はミトコンドリアの構造に異常性を有していることがある。発明者は近年、BAG3がオートファジー-リソソーム経路を介して、及びミトコンドリアとの直接的な相互作用を介して、損傷したミトコンドリアのクリアランスを促進することを見出した。対照的に、BAG3のノックダウンは損傷したミトコンドリアの蓄積及びアポトーシスの増加につながるオートファジーの流れを有意に減少させた。
【0019】
BAG3は、MFM6;Bcl-2-結合タンパク質Bis;CAIR-1;ドッキングタンパク質CAIR-1;BAG群分子シャペロン調節因子3;BAG-3;BCL2-結合アタノゲン3;又はBISとしても知られ、HSP70と結合するためにHip-1と競い合う細胞保護ポリペプチドである。NCBIリファレンスのBAG3の核酸配列はGenbankにてアクセッション番号NP_004272.2;Public GI:14043024で見出すことができる。発明者はGenbankアクセッション番号NP_004272.2;Public GI: 14043024のアミノ酸配列をSEQ ID NO:1と称する。NCBIリファレンスのBAG3の核酸配列はGenbankにてアクセッション番号NM_004281.3 GI:62530382で見出すことができる。発明者はGenbankアクセッション番号NM_004281.3 GI:62530382のアミノ酸配列をSEQ ID NO:2と称する。他のBAG3のアミノ酸配列は、例えば、限定するものではないが、O95817.3 GI:12643665(SEQ ID NO:3);EAW49383.1 GI:119569768(SEQ ID NO: 4);EAW49382.1 GI:119569767(SEQ ID NO: 5);及びCAE55998.1 GI:38502170(SEQ ID NO: 6)を含む。本発明のBAG3ポリペプチドは、機能性を保有するなら、本明細書に記載のポリペプチドの変異体であってもよい。
【0020】
本明細書は虚血/再灌流障害のリスクがある又は罹患している組織中のBAG3の値を増加させる薬剤を提供する。発明者は用語「増加した」(increased)、「増加する」(increase)又は「上方に調節した」(up-regulated)を、統計的に有意な量によって、一般的にBAG3の値の増加を意味するために使用することがある。ある実施形態では、増加は対照サンプル又は基準値と比較して少なくとも10%の増加、例えば基準値と比較して少なくとも約20%の増加、又は少なくとも約30%、又は少なくとも約40%、又は少なくとも約50%、又は少なくとも約60%、又は少なくとも約70%、又は少なくとも約80%、又は少なくとも約90%、又は100%の増加に至る若しくは含む、又は10~100%の間の任意の増加であってよく、又は基準値と比較して少なくとも約0.5倍、又は少なくとも約1.0倍、又は少なくとも約1.2倍、又は少なくとも約1.5倍、又は少なくとも約2倍、又は少なくとも約3倍、又は少なくとも約4倍、又は少なくとも約5倍又は少なくとも約10倍、又は1.0倍と10倍の間の任意の増加又はそれ以上でもよい。
【0021】
対照サンプルは基準サンプルであってもよい。基準サンプルは1又はそれ以上の過去の時点において対象から得られるサンプルであってもよい。あるいは、又は加えて、基準サンプルは個体の大集団に由来するBAG3の値の標準的な基準値であってもよい。基準の集団は、対象として、類似した年齢、体のサイズ、民族的背景又は一般的な健康の個体を含んでいてもよい。このように、BAG3の値を健康な個体、すなわち虚血/再灌流障害に罹患していない又は虚血/再灌流障害のリスクのない個体に由来する値と比較することができる。標準サンプルは虚血/再灌流障害から回復した個体の集団から得られるサンプルであってもまたよい。個体の集団は虚血/再灌流障害をもたらす類似の疾患、例えば、心筋梗塞又は脳卒中を有する個体を含むことができる。
【0022】
核酸
虚血/再灌流障害のリスクがある又は罹患している組織中のBAG3の値を増加させる薬剤はBAG3ポリペプチド又はそのフラグメントをコードする核酸であってもよい。発明者は用語「核酸」(nucleic acid)及び「ポリペプチド」(polypeptide)をcDNA、ゲノムDNA、合成DNAを含むRNA及びDNAの両方、並びに核酸類似体を含むDNA(又はRNA)を指すために交換可能に使用することがあり、それらのいずれも本発明のポリペプチドをコードすることができ、それらのすべてが本発明によって内包されている。ポリヌクレオチドは任意の三次元構造を本質的に有することができる。核酸は二本鎖又は一本鎖(すなわち、センス鎖又はアンチセンス鎖)であってもよい。これらに限定しないポリヌクレオチドの例は、遺伝子、遺伝子フラグメント、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)及びその一部、トランスファーRNA、リボソームRNA、siRNA、マイクロRNA、リボザイム、cDNA、組み換えポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブ、及びプライマー、並びに核酸類似体を含む。本発明の文脈では、核酸は自然発生的なBAG3又は生物学的に活性なその変異体のフラグメントをコードすることができる。
【0023】
「単離された」(isolated)核酸は、例えば、天然に存在するゲノム中のそのDNA分子のすぐ隣に通常見出される少なくとも1つの核酸配列が除去されるかまたは存在しないという条件で、天然に存在するDNA分子又はその断片であってもよい。このように、単離された核酸は、限定することなしに、他の配列から独立して、分離した分子として存在するDNA分子(例えば、化学的に合成された核酸、又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)若しくは制限エンドヌクレアーゼの処置によって産生されたcDNA若しくはゲノムDNAフラグメント)を含む。単離された核酸はベクター、自己複製プラスミド、ウイルスに組み込まれている又は原核生物若しくは真核生物のゲノムDNAに組み込まれているDNA分子のことをまた指す。加えて、単離された核酸は改変された(engineered)核酸、例えばハイブリッド又は合成核酸の一部であるDNA分子を含んでいてもよい。多くの(例えば、何ダースもの、又は何百ものから何千もの)他の核酸、例えば、cDNAライブラリー又はゲノムライブラリー、又はゲノムDNA制限ダイジェスト(a genomic DNA restriction digest)を含むゲルスライス中に存在する核酸は単離された核酸ではない。
【0024】
単離された核酸分子を標準的な技術によって産生することができる。例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を、本明細書に記載のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、本明細書に記載のヌクレオチド配列を含む単離された核酸を得るために使用することができる。PCRを全ゲノムDNA又は全細胞RNAからの配列を含むDNA及びRNAから特定の配列を増幅するために使用することができる。様々なPCRの方法は、例えば、PCR Primer: A Laboratory Manual, Dieffenbach and Dveksler, eds., Cold Spring Harbor Laboartory Press, 1995に記載されている。一般的に、目的の領域の末端又はそれを超える配列情報は増幅すべき鋳型の反対の鎖に対して配列上同一か類似のオリゴヌクレオチドプライマーを設計するために用いられる。様々なPCR戦略が部位特異的なヌクレオチド配列の修飾を鋳型の核酸内に導入できることによってまた利用可能である。
【0025】
単離された核酸を単独の核酸分子(例えば、ホスホロアミダイト技術を用いて3’から5’の方向へ自動DNA合成を用いて)として、又は一連のオリゴヌクレオチドとしてのいずれかでまた科学的に合成することができる。例えば、長いオリゴヌクレオチド(例えば、50~100ヌクレオチドより大きい)の1又はそれ以上の組を、オリゴヌクレオチドの組がアニールされた時に二本鎖が形成されるような相補性の短いセグメント(例えば、約15ヌクレオチド)を含んでいる各組と共に、望ましい配列を含むよう合成することができる。DNAポリメラーゼはオリゴヌクレオチドを延長するために使用され、オリゴヌクレオチド一組につき単独の、二重鎖核酸分子をもたらし、それらをそれからベクターに結紮することができる。本発明の単離された核酸を、例えば、自然発生的なBAG3をコードするDNAの部分(例えば、上記の公式に従って)の変異生成によってまた得ることができる。
【0026】
2の核酸又はそれらがコードするポリペプチドは互いにある程度の同一性を有するものとして記載されていてもよい。例えば、BAG3タンパク質及びその生物学的に活性な変異体はある程度の同一性を示すものとして記載されていてもよい。アラインメントはProtein Information Research(PIR)サイト(http://pir.georgetown.edu)で短いBAG3配列を検索することによって、続いてNCBIウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast)上の「短くほとんど同一の配列(short nearly identical sequences)」Basic Local Alignment Search Tool(BLAST)アルゴリズムを用いた分析によって集められてもよい。
【0027】
本明細書中に使用されるように、用語「パーセント配列同一性」(percent sequence identity)はいずれかの任意のクエリ配列と対象の配列との間の同一性の程度を指す。例えば、自然発生的なBAG3はクエリ配列であってもよく、BAG3タンパク質のフラグメントは対象の配列であってもよい。同様に、BAG3タンパク質のフラグメントはクエリ配列であってもよく、その生物学的に活性な変異体は対象の配列であってもよい。
【0028】
配列同一性を決定付けるために、クエリ核酸又はアミノ酸配列を核酸又はタンパク質配列のアラインメントが全長にわたって行われること(グローバルアラインメント)を可能にするコンピュータプログラムClustalW(バージョン1.83、初期設定のパラメーター)を用いて1又はそれ以上の対象の核酸又はアミノ酸配列にそれぞれ整列させることができる。
【0029】
ClustalWはクエリと1又はそれ以上の対象配列間の最良の相手(match)を計算し、それらを整列させ、同一性、類似性及び差異を決定付けることができる。クエリ配列、対象の配列、又はその両方に、配列アライメントを最大限にするため1又はそれ以上の残基のギャップを挿入することができる。核酸配列の高速ペアワイズアライメントには、次の初期設定パラメーターを使用する:文字サイズ:2;ウィンドウサイズ:4;スコア方法:百分率;トップダイアゴナル(top diagonals)の数:4;及びギャップペナルティ:5。核酸配列のマルチプルアラインメントには、次のパラメーターを使用する:ギャップ開始ペナルティ:10.0;ギャップ伸長ペナルティ:5.0;及びウェイトトランジション(weight transition):yes。タンパク質配列の高速ペアワイズアライメントは、次のパラメーターを使用する:文字サイズ:1;ウィンドウサイズ:5;スコア方法:百分率;トップダイアゴナルの数:5;ギャップペナルティ:3。タンパク質配列のマルチプルアラインメントには、次のパラメーターを使用する:ウェイトマトリックス:blosum;ギャップ開始ペナルティ:10.0;ギャップ伸長ペナルティ:0.05;親水性ギャップ:オン;親水性残基:Gly、Pro、Ser、Asn、Asp、Gln、Glu、Arg、及びLys;残基に特異的なギャップペナルティ:オン。そのアウトプットは配列間の関係性を反映する配列アライメントである。ClustalWは、例えば、Baylor College of Medicine Search Launcherのサイト(searchlauncher.bcm.tmc.edu/multi-align/multi-align.html)及びワールドワイドウェブ上のEuropean Bioinformatics Instituteのサイト(ebi.ac.uk/clustalw)で運営されている。
【0030】
クエリ配列と対象の配列間のパーセント同一性を決定付けるために、ClustalWは比較する残基の数(ギャップ位置は除外する)によって最良のアラインメントで同一性の数を分割し、結果に100を乗じる。アウトプットは該クエリ配列に関する対象配列のパーセント同一性である。パーセント同一性の値は近似の0.1の位まで四捨五入されることがあることに注意されたい。例えば、78.11、78.12、78.13、及び78.14は端数を切り捨てられ78.1となり、一方で78.15、78.16、78.17、78.18、及び78.19は端数を切り上げられ78.2となる。
【0031】
本明細書に記載の核酸及びポリペプチドは「外因性の」(exogenous)ものとして示されていてもよい。用語「外因性の」(exogenous)は、核酸又はポリペプチドが組み換え核酸構築物の部分である、若しくはコードされる、又は自然環境に存在しないことを示す。例えば、外因性の核酸はある種から別の種へ導入された配列、すなわち異種核酸であってもよい。典型的に、外因性の核酸は組み換え核酸構築物を介して他の種へ導入される。外因性の核酸は生物に固有、及び生物の細胞に再導入された配列であってもまたよい。固有の配列を含む外因性の核酸は外因性の核酸と結合した非自然配列、例えば、組み換え核酸構築物において固有配列に隣接する非固有調節配列の存在によって、自然発生的な配列からしばしば区別されていてもよい。加えて、安定的に形質転換した外因性核酸は典型的に固有の配列が見出される位置以外の位置でインテグレートされる。
【0032】
組み換え構築物もまた本明細書中に提供され、BAG3を発現させるために細胞を形質転換するために使用することができる。組み換え核酸構築物はBAG3を特定の細胞で発現させるのに適した調節領域と作動可能に連結されたBAG3配列をコードする核酸を含む。多数の核酸が特定のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードできることを理解されたい。遺伝コードの縮重が当該分野には公知である。多くのアミノ酸には、アミノ酸のコドンとしての役目をする1以上のヌクレオチドトリプレットがある。例えば、BAG3のコード配列中のコドンは特定の生物において最適な発現を得るために、その生物に適したコドンバイアステーブルを用いて、修飾されていてもよい。
【0033】
本明細書に記載のような核酸を含むベクターがまた提供される。「ベクター」(vector)は別のDNAセグメントが挿入されると挿入されたセグメントの複製をもたらす、レプリコン、例えばプラスミド、ファージ、又はコスミドである。一般的に、適した制御要素と関連する時、ベクターは複製が可能である。適したベクターの骨格は、例えば、当該分野では日常的に使用されているもの、例えばプラスミド、ウイルス、人工染色体、BACs、YACs、又はPACsを含む。用語「ベクター」(vector)は、クローニング又は発現ベクター、並びにウイルスベクター及びインテグレートベクターを含む。「発現ベクター」(expression vector)は調節領域を含むベクターである。宿主/発現ベクターの幅広い様々な組み合わせを本明細書に記載の核酸配列を発現させるために使用してもよい。適した発現ベクターは、限定するものではないが、例えば、バクテリオファージ、バキュロウイルス、及びレトロウイルスに由来するプラスミド及びウイルスベクターを含む。
【0034】
有用なベクターは、例えば、ウイルスベクター(例えばアデノウイルス(「Ad」)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レンチウイルス、及び水疱性口内炎ウイルス(VSV)及びレトロウイルス)を含む。複製欠損組み換えアデノウイルスベクターをまた使用してもよい。ベクターは遺伝子送達及び/又は遺伝子発現をさらに調節する、さもなければ標的化した細胞に有益な特性を提供する、他の成分又は機能性を含んでいてもよい。下記により詳細に記載及び説明されているように、このような他の成分は、例えば、細胞の結合又は標的化に影響する成分(細胞型又は組織に特異的な結合を仲介する成分を含む);細胞によるベクター核酸の取り込みに影響する成分;摂取後の細胞内でのポリヌクレオチドの局在化に影響する成分(例えば、核局在化を仲介する薬剤);及びポリヌクレオチドの発現に影響する成分を含む。このような成分は、マーカー、例えばベクターによって送達された核酸を取り込んだ、又は発現する細胞を検出又は選択するために使用できる、検出可能及び/又は選択可能なマーカーをまた含んでいてもよい。このような成分はベクターの自然の特性(例えば、結合及び取り込みを仲介する成分又は機能性を有する特定のウイルスベクターの使用)として提供されてもよく、またベクターはこうした機能性を提供するために修飾されていてもよい。他のベクターはChen et al; BioTechniques, 34:167-171(2003)に記載されているものを含む。
【0035】
「組み換えウイルスベクター」(recombinant viral vector)は1又はそれ以上の異種遺伝子産物又は配列を含むウイルスベクターを指す。多くのウイルスベクターがパッケージングに関してサイズ制限を示すため、異種遺伝子産物又は配列は典型的にウイルスゲノムの1又はそれ以上の部分と置き換わることによって導入される。このようなウイルスはウイルス複製およびエンカプシデーションの間に(例えば、複製及び/又はエンカプシデーションに必要な遺伝子産物を保有するヘルパーウイルス又はパッケージング細胞株を用いて)、欠損した機能をトランスに提供するよう要求する、複製欠損になることがある。送達すべきポリヌクレオチドがウイルス粒子の外面に保有される、修飾されたウイルスベクターがまた記載されている。
【0036】
ウイルスベクターはポリヌクレオチドと作動可能に連結された強力な真核性のプロモーター、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターを含んでいてもよい。組み換えウイルスベクターは1又はそれ以上のポリヌクレオチド、好ましくは約1のポリヌクレオチドを内部に含んでいてもよい。ある実施形態では、本発明の方法に使用されているウイルスベクターは約108から約5x1010pfuまでのpfu(疫病形成単位)を有する。ポリヌクレオチドが非ウイルスベクターを用いて投与されるべき実施形態では、約0.1ngから約4000μgの間、例えば、約1ngから約100μgの間の使用がしばしば有用となるであろう。
【0037】
追加のベクターはレトロウイルスベクター、例えばモロニーマウス白血病ウイルス及びHIVに基づくウイルスを含む。1のHIVに基づくウイルスベクターはgag及びpol遺伝子がHIVゲノムに由来し、env遺伝子が別のウイルスに由来する、少なくとも2のベクターを含む。DNAウイルスベクターはポックスベクター、例えばオルトポックス又はアビポックスベクター、ヘルペスウイルスベクター、例えば単純ヘルペスIウイルス(HSV)ベクターを含む。
【0038】
ポックスウイルスベクターは細胞質内に遺伝子を導入する。アビポックスウイルスベクターは核酸の短期間の発現のみをもたらす。アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター及び単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクターは、ある発明の実施形態では徴候(indication)となってもよい。アデノウイルスベクターはアデノ随伴ウイルスより短期間の(例えば、約一ヶ月より短い)発現をもたらし、ある実施形態では、もっと長い発現を示すこともある。選ばれる特定のベクターは標的の細胞及び処置される状況に左右されることがある。適したプロモーターの選択を容易に達成することができる。適したプロモーターの例は763塩基対のサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターである。遺伝子発現のために使用できる他の適したプロモーターは、限定するものではないが、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、SV40初期プロモーター領域、ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター、メタロチオネイン(MMT)遺伝子の調節配列、β-ラクタマーゼプロモーターのような原核生物の発現ベクター、tacプロモーター、Gal4プロモーターのような酵母又は他の菌類に由来するプロモーター要素、ADC(アルコールデヒドロゲナーゼ)プロモーター、PGK(ホスホグリセロールキナーゼ)プロモーター、アルカリ性ホスファターゼプロモーター;及び組織特異性を示しトランスジェニック動物内で利用された、動物の転写制御領域:膵腺房細胞で活性なエラスターゼI遺伝子制御領域、膵臓β細胞で活性なインスリン遺伝子制御領域、リンパ球様細胞で活性なイムノグロブリン遺伝子制御領域、睾丸、胸部、リンパ及びマスト細胞で活性なマウス乳癌ウイルス制御領域、肝臓で活性なアルブミン遺伝子制御領域、肝臓で活性なα-フェトプロテイン遺伝子制御領域、肝臓で活性なα1-アンチトリプシン遺伝子制御領域、骨髄性細胞で活性なβ-グロブリン遺伝子制御領域、脳内のオリゴデンドロサイト細胞で活性なミエリン塩基性タンパク質遺伝子制御領域、骨格筋で活性なミオシン軽鎖-2遺伝子制御領域、視床下部で活性な性腺刺激ホルモン放出ホルモン制御領域を含む。特定のタンパク質をその固有のプロモーターを用いて発現させることができる。発現を強化できる他の要素、例えば発現の高い値をもたらすエンハンサー又はシステム、例えばtat遺伝子又はtar要素をまた含めることができる。このカセットをそれからベクター、例えばプラスミドベクター、例えばpUC19、pUC118、pBR322、又は、例えば、複製の大腸菌(E. coli)の複製の起点を含むその他の既知のプラスミドベクターに挿入することができる。プラスミドベクターは、マーカーポリペプチドが処置される生物の代謝に不利に作用しない場合、選択可能マーカー、例えばアンピシリン耐性のためにβ-ラクタマーゼ遺伝子をまた含んでいてもよい。カセットは合成送達システムにおいて、核酸結合部位とまた結合していてもよい。
【0039】
ある実施形態では、送達システムは心筋細胞のみを選択的に変換するベクター、例えば、強力な心臓向性を有するAAV血清型を用いた末梢静脈への注入を含んでもよい。経皮及び外科技術を伴う他のシステムは、例えば、冠動脈閉塞を伴う又は伴わない順行性冠動脈内注入;外部から酸素を送り込まれた冠状静脈洞に由来する循環から除去した冠動脈にベクターを注入し、冠動脈に再送達する閉ループ再循環;冠状静脈洞を介した逆行性注入;直接的な心筋注入;末梢静脈注入;及び末梢注入を含む。
【0040】
ある実施形態では、本発明のポリヌクレオチドを、マイクロ送達媒体、例えばカチオン性リポソーム、他の脂質を含む複合体、及びポリヌクレオチドを宿主細胞へ送達することを仲介できる他の高分子複合体と共にまた使用してもよい。
【0041】
別の送達方法は細胞内に発現産物を産生できるベクターを産生する一本鎖DNAを用いることである。例えば、引用によってその全体が本明細書に組み込まれる、Chen et al, BioTechniques, 34:167-171(2003)を参照されたい。
【0042】
本明細書に提供されるベクターは、例えば、複製の起点、スキャフォールド付着領域(SARs)、及び/又はマーカーをまた含むことができる。マーカー遺伝子は、選択可能な表現型を宿主細胞に授けることができる。例えば、マーカーは殺生物剤への抵抗力、例えば抗生物質(例えば、カナマイシン、G418、ブレオマイシン、又はハイグロマイシン)に対する抵抗力を授けることができる。上記に言及したように、発現ベクターは発現したポリペプチドの操作又は検出(例えば、精製又は局在化)を容易にするよう設計されたタグ配列を含むことができる。タグ配列、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、ポリヒスチジン、c-myc、血球凝集素、又はFlagTMタグ(Kodak, New Haven, CT)配列は典型的にコードされたポリペプチドとの融合として発現される。このようなタグを、カルボキシル又はアミノ末端のどちらかを含む、ポリペプチド内のどこにでも挿入することができる。
【0043】
追加の発現ベクターは、例えば、染色体、非染色体及び合成DNA配列のセグメントをまた含むことができる。適したベクターはSV40の誘導体及び既知の細菌プラスミド、例えば大腸菌プラスミドcol E1、pCR1、pBR322、pMal-C2、pET、pGEX、pMB9及びその誘導体、プラスミド、例えばRP4;ファージDNA、例えばファージ1の無数の誘導体、例えばNM989、及び他のファージDNA、例えばM13及びフィラメント状の一本鎖ファージDNA;酵母プラスミド、例えば2μプラスミド又はその誘導体、真核細胞において有用なベクター、例えば昆虫又は哺乳動物の細胞において有用なベクター;プラスミド及びファージDNAの組み合わせに由来するベクター、例えばファージDNA又は他の発現制御配列を用いるために修飾されたプラスミドを含む。
【0044】
該ベクターは調節領域をまた含むことができる。用語「調節領域」(regulatory region)は転写又は翻訳の開始及び速度、並びに転写又は翻訳産物の安定性及び/又は可動性に影響するヌクレオチド配列を指す。調節領域は、限定するものではないが、プロモーター配列、エンハンサー配列、応答要素、タンパク質認識部位、誘導要素、タンパク質結合配列、5’及び3’未翻訳領域(UTRs)、転写開始部位、末端配列、ポリアデニル化配列、核局在化シグナル、及びイントロンを含む。
【0045】
本明細書で使用されるように、用語「作動可能に連結された」(operably linked)はこのような配列の転写又は翻訳に影響するように転写されるべき核酸中の調節領域及び配列の位置決めを指す。例えば、プロモーターの制御下にコード配列を置くために、ポリペプチドの翻訳の読み枠における翻訳開始部位は典型的にプロモーターの下流の1と約50ヌクレオチドの間に位置している。プロモーターは、しかしながら、翻訳開始部位の上流の約5,000ヌクレオチド又は転写開始部位の上流の約2,000ヌクレオチドほどに位置することができる。プロモーターは典型的には少なくとも1のコア(基礎)プロモーターを含む。プロモーターは少なくとも1の制御要素、例えばエンハンサー配列、上流の要素又は上流活性化領域(UAR)をまた含んでいてもよい。含めるべきプロモーターの選択は、効率性、選択可能性、誘導性、望ましい発現レベル、及び細胞又は組織に優先的な発現を含むが、これらに限定されない、いくつかの要因に左右される。コード配列と関連したプロモーター及び他の調節領域の適した選択と配置によってコード配列の発現を調節することは当業者にとっては日常的な事柄である。
【0046】
ポリペプチド
ある実施形態では、本発明の組成物は上記に記載のいずれかの核酸配列によってコードされるBAG3ポリペプチドを含んでいてもよい。用語「ペプチド」(peptide)、「ポリペプチド」(polypeptide)、及び「タンパク質」(protein)は、典型的には様々なサイズのペプチド配列を指すが、本明細書では交換可能に使用される。発明者は本発明のアミノ酸に基づく組成物を、それらがアミノ酸残基の線状ポリマーであると伝え、かつ全長のタンパク質とそれらを識別するのを助けるために「ポリペプチド」(polypeptides)と称する。本発明のポリペプチドはBAG3のフラグメントを「構成する」(constitute)又は「含む」(include)ことができ、本発明はBAG3の生物学的に活性な変異体を構成する又は含むポリペプチドを含む。ポリペプチドはそれゆえにBAG3(又はその生物学的に活性な変異体)のフラグメントのみを含むことができるが、その上追加の残基を含んでいてもよいことを理解されたい。BAG3のフラグメント及び生物学的に活性なBAG3の変異体及びそのフラグメントは本明細書に記載の方法において機能するために十分な生物学的活性を保有していてもよい。
【0047】
アミノ酸残基間の結合は慣例的なペプチド結合又は別の共有結合(例えばエステル又はエステル結合)であってもよく、ポリペプチドはアミド化、リン酸化反応又はグリコシル化によって修飾されていてもよい。修飾はポリペプチド骨格及び/又は1又はそれ以上の側鎖に影響してもよい。化学的修飾はポリペプチドをコードするmRNAの翻訳(例えば、細菌宿主内のグリコシル化)又はインビトロで作られた合成修飾に続く、インビボで作られた自然発生的な修飾であってもよい。生物学的に活性なBAG3の変異体は自然発生的な(すなわち、インビボで自然に作られた)ものと合成修飾(すなわち、インビトロで作られた自然発生的な又は非自然発生的な修飾)の任意の組み合わせから生じた1又はそれ以上の構造的修飾を含むことができる。修飾の例は、これらに限定するものではないが、アミド化(例えば、C-末端の遊離型のカルボキシル基をアミノ基で置換);ビオチン化(例えば、リジン又は他の活性なアミノ酸残基をビオチン分子でアシル化);グリコシル化(例えば、糖タンパク質又は糖ペプチドを生成するために、アスパラギン、ヒドロキシリジン、セリン又はトレオニン残基のいずれかへグリコシル基の追加);アセチル化(例えば、典型的にはポリペプチドのN-末端への、アセチル基の追加);アルキル化(例えば、アルキル基の追加);イソプレニル化(例えば、イソプレノイド基の追加);リポイル化(例えば、リポ酸塩部位への付着);及びリン酸化反応(例えば、セリン、チロシン、トレオニン又はヒスチジン基へのリン酸塩の追加)を含む。
【0048】
生物学的に活性な変異体における1又はそれ以上のアミノ酸残基は非自然発生的なアミノ酸残基であってもよい。自然発生的なアミノ酸残基は遺伝コードによって自然にコードされたもの及び非標準アミノ酸(例えば、L型の代わりにD型を有するアミノ酸)を含む。本発明のペプチドは標準残基の修飾されたバージョンであるアミノ酸残基(例えば、ピロールリジンをリジンの代わりに使用できるし、セレノシステインをシステインの代わりに使用できる)をまた含むことができる。非自然発生的なアミノ酸残基は自然には見出せないものであるが、アミノ酸の基本式には一致しておりペプチドに組み込むことができる。これらは、D-アロイソロイシン(2R,3S)-2-アミノ-3-メチルペンタン酸及びL-シクロペンチルグリシン(S)-2-アミノ-2-シクロペンチル酢酸を含む。他の例として、教科書やワールドワイドウェブ(サイトはカリフォルニア工科大学によって現在維持されており、機能タンパク質にうまく組み込まれた非自然アミノ酸の構造を展示している)を参照することができる。
【0049】
あるいは、又は追加して、生物学的に活性な変異体内の1又はそれ以上のアミノ酸残基は、野生型の配列内の対応する位置に見出される自然発生的な残基とは異なる自然発生的な残基であってもよい。言い換えれば、生物学的に活性な変異体は1又はそれ以上のアミノ酸置換を含んでいてもよい。発明者はアミノ酸残基の置換、追加、又は欠失を野生型配列の変異と称することがある。言及したように、置換は自然発生的なアミノ酸残基を非自然発生的な残基又は単に異なる自然発生的な残基に置き換えることができる。さらに、置換は同類又は非同類置換を構成することができる。同類アミノ酸置換は典型的に次の群の置換を含む:グリシン及びアラニン;バリン、イソロイシン、及びロイシン;アスパラギン酸及びグルタミン酸;アスパラギン、グルタミン、セリン及びトレオニン;リジン、ヒスチジン及びアルギニン;並びにフェニルアラニン及びチロシン。
【0050】
生物学的に活性なBAG3の変異体であるポリペプチドは、対応する野生型ポリペプチドと配列が類似又は同一である程度の観点から特徴付けることができる。例えば、生物学的に活性な変異体の配列は野生型のポリペプチドの対応する残基に対して少なくとも又は約80%同一であってもよい。例えば、生物学的に活性なBAG3の変異体はBAG3、例えば、BAG3のリファレンス配列、例えばSEQ ID NO:2、又はホモログ又はそのオーソログに対して、少なくとも又は約80%の配列同一性(例えば、少なくとも又は約85%、90%、95%、97%、98%、又は99%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を有していてもよい。
【0051】
生物学的に活性なBAG3の変異体のポリペプチドは本発明の方法において十分に有用な生物学的活性を保有していてもよい。生物学的に活性な変異体は標的化されたDNA開裂において機能するのに十分な活性を保有していてもよい。生物学的活性は当業者には既知の方法で評価することができ、限定するものではないが、インビトロ開裂アッセイ又は機能アッセイを含む。
【0052】
ポリペプチドは様々な方法、例えば、組み換え技術や化学合成によって生成することができる。一度生成されると、当該分野には公知の方法によりポリペプチドは単離されて任意の望ましい程度に精製することができる。例として、例えば逆相(好ましくは)若しくは正常相HPLCに続く凍結乾燥、又は多糖ゲル媒体、例えばSaphadex G-25でのサイズ排除又は分配クロマトグラフィーを用いることができる。最終的なポリペプチドの組成物は標準的方法によって、アミノ酸シークエンシングによって、又はFAB-MS技術によってペプチドの分解後にアミノ酸分析によって確認することができる。ポリペプチドのアミノ基の酸性塩、エステル、アミド、及びN-アシル誘導体を含む塩は、当該分野には既知の方法を用いて準備することができ、そのようなペプチドは本発明の文脈において有用である。
【0053】
どの組成物が核酸又はポリペプチドとして投与されるかにかかわらず、それらは哺乳動物の細胞による取り込みを促進するような方法で製剤化される。有用なベクターシステム及び製剤化が上記に記載されている。ある実施形態では、ベクターは組成物を特異的な細胞型に送達できる。本発明を限定するものではないが、しかしながら、DNA送達の他の方法、例えば、リン酸カルシウム、DEAEデキストラン、リポソーム、リポプレックス、界面活性剤、及びペルフルオロ液体薬品を用いる化学トランスフェクションをまた考慮することができ、物質的送達方法、例えば電気穿孔法、マイクロインジェクション、弾道粒子、及び「遺伝子銃」システムをまた考慮することができる。
【0054】
ある実施形態では、虚血/再灌流障害のリスクがある又は罹患している組織においてBAG3の値を増加させる薬剤は、Bcl2群を標的化する薬剤であってもよい。ある実施形態では、薬剤はプロテオソーム阻害剤、例えば、ボルテジミブであってもよい。
【0055】
治療の方法
本発明書に記載の組成物は一般的にかつ様々に虚血/再灌流障害を有する対象又は虚血/再灌流障害のリスクのある対象の治療に有用である。発明者は対象、患者、又は個体を交換可能に称する。
【0056】
虚血/再灌流障害は一般的に組織の損傷及び/又は死という結果をもたらす初期の虚血性障害に続いて生じるものである。損傷した組織への血液供給の回復、すなわち再灌流は、逆説的にさらなる組織の損傷をもたらす。再灌流障害の発生機序はまだ完全には判明していない。一般的に、虚血/再灌流障害は少なくとも以下を含む、複合の、多因子的な現象と思われる:1)血流の回復間に酸素分子の再導入によって刺激された活性酸素種(ROS)の生成;2)カルシウム過負荷;3)ミトコンドリア膜の潜在性を消散させてさらにアデノシン三リン酸塩(ATP)産物を損なう、ミトコンドリアの膜透過性遷移孔(MPT)の開口;4)内皮機能不全;5)プロトロンビン合成表現型の出現;6)顕著な炎症反応。
【0057】
虚血/再灌流障害は心臓、脳、肝臓、腸、骨格筋、前立腺及び睾丸を含む、多くの異なった組織中で発生することがある。局所的損傷に加え、虚血再灌流は組織的な炎症反応の進行及び複合的な臓器機能不全症候群という結果をもたらす、有害な間接的効果をまた引き起こすことがある。ほとんどの組織は検出可能な損傷をもたらさない短期間の虚血を抑えることができる。特定の組織が虚血を抑えられる期間は細胞型や器官によって異なる。典型的には、一度重大な虚血の期間を超過すると、細胞の損傷及び/又は細胞死が生じる。
【0058】
特定の組織又は器官における虚血は組織又は器官への血液供給の喪失又は重篤な減少によって引き起こされることがある。血液供給の喪失又は重篤な減少は、例えば、冠状動脈硬化症、血栓塞栓性の脳卒中、又は末梢血管障害が原因であることがある。心筋の虚血は典型的にアテローム動脈硬化性又は血栓性の閉塞によって引き起こされ、これらは心臓の動脈又は毛細血管の血液供給による心臓組織の酸素運搬の減少又は喪失をもたらす。骨格筋又は腸の平滑筋における虚血はアテローム動脈硬化性又は血栓性の閉塞によってまた引き起こされることがある。
【0059】
再灌流は血流が減少した又は阻害されていた任意の器官又は組織への血流の回復である。血流を虚血又は低酸素症に影響された器官又は組織に回復させることができる。再灌流は典型的に血管インターベンション手術、例えば、血管形成、例えばバルーン血管形成、又は冠動脈バイパス移植の結果として生じる。例示的な血管インターベンション手術は、ステント、血管形成カテーテル(例えば、経皮経管的血管形成)、レーザーカテーテル、アテローム切除カテーテル、血管内視鏡装置、β又はγ線カテーテル、血管内超音波装置、回転性アテローム切除装置、放射性バルーン、熱線式ワイヤー、熱線式バルーン、生分解性ステント支柱、又は生分解性スリーブを用いる手術を含むことができる。
【0060】
ある実施形態では、血流を医薬品、例えば、血栓溶解薬を用いて回復させることができる。ある実施形態では、血流をインターベンション手術及び医薬品の組み合わせを用いて回復させることができる。
【0061】
虚血/再灌流障害の症状は関与する組織又は器官によって変わることがある。心臓血管組織の場合は、虚血/再灌流障害は心筋梗塞の範囲の増加、損われたL/V機能、収縮阻害の重篤性の増大、及び不整脈の発生の増加をもたらすことがある。
【0062】
発明者は虚血/再灌流障害を有する又はリスクのある患者に対してBAG3の値を増加させる組成物の投与で生じる特定の事象を理解していると確信しているが、本発明の組成物は任意の特定の細胞機構に影響することにより働くことに限定されない。発明者の作業仮説は、虚血/再灌流障害を有する又はリスクのある患者においてBAG3の値を増加させることが、アポトーシスを制限かつオートファジーを回復することによりある程度の心臓の恒常性を維持することよって損傷から組織を保護することができることである。
【0063】
本明細書に記載の方法は虚血/再灌流障害という結果をもたらすことがある、又は患者を虚血/再灌流障害のリスクにさらしている、疾病又は疾患の治療に有用である。このような疾患は、限定するものではないが、心筋梗塞、心臓発作、虚血性心疾患(すなわち、心臓への減少した血流及び酸素をもたらす、プラークの蓄積による心臓動脈の狭窄及び閉塞)、虚血性心疾患の結果生じる心臓麻痺、心停止、減少した動脈血流、脳卒中(例えば、閉塞脳卒中)、一過性脳虚血発作、不安定狭心症、脳血管虚血、末梢血管障害、腎不全、炎症性疾患(例えば、関節リウマチ又は全身性エリテマトーデス)、頭部外傷、溺水、敗血症、アテローム性動脈硬化症、高血圧(例えば、肺高血圧)、薬剤誘発性の心臓病、出血、毛細血管漏出症候群(例えば、小児及び成人の呼吸窮迫症候群)、多臓器不全、低コロイド浸透圧状態(例えば、飢餓、神経性無食欲症、又は結成タンパク質の減少した産生を伴う腎不全による)、アナフィラキシー、低体温症、凍傷(例えば、しもやけ)、肝腎症候群、振戦せん妄、腸間膜の機能不全、間欠性跛行、やけど、感電、薬剤誘発性の血管拡張、薬剤誘発性の血管収縮、移植後の組織拒絶反応、移植片対宿主病、放射線被ばく、肺動脈塞栓、静脈血栓症、虚血性神経障害、虚血性肝疾患、又は外傷を含む。
【0064】
虚血/再灌流障害は血流及び/又は酸素の流れが中断される又は中断されることのある外科手術の結果また生じることがある。特定の外科手術、例えば神経外科又は心臓外科手術は虚血/再灌流障害に高いリスクがあり、手術中に機械的手段(例えば、人工心肺装置)を用いたとしても虚血/再灌流障害を完全に防ぐことはできないことがある。本明細書に記載の組成物は組織及び器官がこのような医学的緊急事態(例えば、重篤な低体温症又は低酸素症)又は手術(例えば、外科手術)中、又は後の虚血/再灌流障害を有意に減少させる又は防止するために個体に投与することができる。
【0065】
このように、本明細書に記載の方法及び組成物は虚血/再灌流障害のリスクのある対象、例えば、手術中に組織への血流の閉塞をもたらすことのある手術、例えば虚血/再灌流障害と関連している血管インターベンション手術を受けようとしている患者の治療に有用である。虚血/再灌流障害の増加したリスクを有する対象は心血管系又は虚血性イベントのリスクのある者を含むことができる。虚血/再灌流障害を経験する増加したリスクを有する対象は、例えば、喫煙者、糖尿病患者、確認された(documented)冠状動脈性心臓病、末梢血管障害、又は脳血管障害を有する対象、又は診断若しくは治療放射線、又は化学療法を受ける対象を含むことができる。このような対象は、運動不足、肥満、ストレス、アルコールの使用、貧しい食生活、及び年齢に関連しているリスク因子をまた示していてもよい。
【0066】
対象は臨床的に有益な結果が生じるときはいつでも効果的に治療される。このことは、例えば、疾患の症状の完全な解決、疾患の症状の重篤性の軽減、又は疾患の進行の減速を意味してもよい。これらの方法は以下の段階をさらに含むことができる:a)虚血/再灌流障害を有する又はリスクのある対象(例えば、患者、及びより正確にはヒトの患者)を同定すること;及びb)BAG3の値を増加させる医薬組成物の治療上の有効量を対象に提供すること。対象は虚血/再灌流障害と関連した外科手術が必要な対象であってもよい。例えば、急性心筋虚血障害を低減し、かつ心筋梗塞の面積を制限するための最も有効な治療的介入が血栓溶解療法又は初期経皮冠動脈インターベンション(PPCI)を用いた心筋再灌流である急性心筋梗塞を有する患者。対象を標準的な臨床試験、例えば、血液検査、胸部X線、及び心電図(ECG)、心エコー図、ストレス試験、CTスキャン、MRI、心臓カテーテル法を用いて同定することができる。虚血/再灌流障害の症状の完全な解決、虚血/再灌流障害の症状の重篤性の減少、又は虚血/再灌流障害の進行の減速をもたらす、対象に提供されるこのような組成物の量は治療上の有効量として考えられる。本発明の方法は投薬及びスケジューリングを最適化すること並びに結果を予測することを助けるための測定する段階をまた含んでいてもよい。
【0067】
該組成物の投与のタイミングは変化してもよい。急性虚血性イベント、例えば、心臓発作、心肺停止、脳卒中、又は広範囲の(major)出血性イベントの場合、該組成物を再灌流前に投与することができる。該組成物をボーラスとして、例えば、第一応答者(例えば、軍隊の衛生兵、救命士(EMT)又はその他の訓練を受けた医療関係者)によって対象に投与することができる。あるいは、又はボーラス投与に加えて、該組成物を長期間にわたり点滴(slow-drip)又は注入として投与することができる。例えば、点滴又は注入を外傷の現場、医療設備への搬送中、及び/又は個体が医療設備へ到着する際に投与することができる。生理学的に、損傷又は外傷の直後の期間は重大であり時折「ゴールデンアワー」と称されるが、個体への該組成物の投与を72時間まで又はそれ以上(例えば、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、12時間、18時間、24時間、36時間、48時間、60時間、90時間、又はそれ以上)の間継続することができる。点滴又は注入の代替品として、組成物のボーラスを複数回、例えば、24、48、72又は90時間にわたって投与することができる。
【0068】
ある実施形態では、該組成物を潜在的虚血又は再灌流障害が認識されたらすぐに対象に投与することができる。ある実施形態では、該組成物を再灌流の治療直前又は最中に投与することができる。該投与を再灌流の治療の完了後に続けることができる。ある実施形態では、該組成物を再灌流の治療後に投与することができる。該組成物を、潜在的に虚血/再灌流障害をもたらすことのある医療処置前に、例えば、外科手術が予定されている対象の術前治療の一部としてまた投与することができる。
【0069】
本明細書に記載の方法を広範囲の種、例えば、ヒト、ヒトでない霊長類(例えばサル)、ウマ又はその他の家畜、イヌ、ネコ、フェレット又はペットとして飼われるその他の哺乳動物、ラット、マウス、又はその他の実験動物に適用することができる。
【0070】
本発明の方法を薬剤の調合に関して表現することができる。したがって、本発明は薬剤の調合における本明細書に記載の薬剤及び組成物の使用を含む。本明細書に記載の組成物は治療組成物及びレジメンにおいて又は本明細書に記載の疾病又は疾患の治療における使用のための薬剤の製造に有用である。
【0071】
本明細書に記載の任意の組成物を標的細胞へのその後の送達のために宿主の身体の任意の部分に投与することができる。組成物を、限定するものではないが、哺乳動物の心臓、脳、脳脊髄液、肝臓、関節、鼻粘膜、血液、肺、腸、筋肉組織、肌、前立腺、睾丸、又は腹腔に送達することができる。送達経路に関して、組成物を血管内、頭蓋内、腹腔内、筋肉内、皮下、筋肉内、直腸内、膣内、髄腔内、気管内、皮内、又は経皮的注入によって、経口又は経鼻投与によって、又は長期にわたる段階的な灌流によって投与することができる。さらなる例示として、組成物のエアロゾル製剤を吸入によって宿主に与えることができる。
【0072】
必要な投薬量は投与経路、剤形の性質、患者の病の性質、患者のサイズ、重量、表面積、年齢、及び性別、投与されている他の薬剤、並びに担当臨床医の判断によって左右されるであろう。細胞内標的の多様性及び様々な投与経路の異なる有効性の観点から必要な投薬量において幅広い変動が想定される。これらの投薬量の値における変化を、当該分野にはよく知られているように、最適化のために標準的な経験による習慣を用いて調整することができる。投与は単回又は複数回(例えば、2又は3倍、4倍、6倍、8倍、10倍、20倍、50倍、100倍、150倍、又はそれ以上)でもよい。化合物の適した送達媒体(例えば、ポリマーマイクロ粒子又は埋め込み型装置)へのカプセル封入は送達の有効性を増加することがある。
【0073】
本明細書に記載の任意の組成物を用いた治療の持続期間は1日の短さから宿主の生涯(例えば、数年)もの長さまでのどんな時間の長さであってもよい。例えば、化合物を1週間に1回(例えば、4週間から数ヶ月又は数年);1ヶ月に1回(例えば、3~12ヶ月間又は数年);又は5年、10年、又はそれ以上にわたり1年間に1回、投与することができる。治療の頻度が変更可能であってもよいこともまた留意されたい。例えば、本発明の化合物を1日、1週間、1ヶ月間、1年間に1回(又は2回、3回、等)投与することができる。
【0074】
本明細書に記載の任意の組成物の有効量を、治療を必要としている個体に投与することができる。本明細書に使用される用語「有効な」(effective)は患者において望ましい反応を生じさせるが有意な毒性を含まない任意の量を指す。このような量は特定の組成物の既知の量を投与後の患者の反応を評価することによって決定付けることができる。加えて、毒性の値がもしあれば、特定の組成物の既知の量を投与する前後の患者の臨床症状を評価することによって決定付けることができる。患者に投与される特定の組成物の有効量を望ましい結果並びに患者の反応及び毒性の値によって調整することができることに留意されたい。有意な毒性はそれぞれの特定の患者によって変化することがあり、限定するものではないが、患者の病状、年齢、副作用への耐性を含む複合的な因子によって左右される。
【0075】
当該分野に既知の任意の方法を、特定の反応が生じれば決定付けるために使用することができる。特定の病状の程度を評価できる臨床的方法を、反応が生じれば決定付けるために使用することができる。反応を評価するために用いられる特定の方法は、患者の疾患の特性、患者の年齢、及び性別、投与されている他の薬剤、並びに担当臨床医の判断によって左右されるであろう。
【0076】
該組成物を他の治療と併せてまた投与することができる。該組成物を、例えば、限定するものではないが、抗炎症剤(例えば、アスピリン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ピロキシカム、インドメタシン、ジクロフェナク、スリンダク、ナプロキセン、又はセレコキシブ)、血管拡張剤(例えば、ニトログリセリン)、β遮断薬(例えば、アルプレノール(alprenol)、ブシンドロール、カルテロール(cartelol)、カルベジロール、ナドロール、ピンドロール、プロプラノロール、アテノロール、ビソプロロール、メトプロロール、ネビボロール、アセブトロール、ベタキソロール、又はブタキサミン(butaxamine))、コレステロール降下剤(例えば、スタチン、フィブラート、ニコチン酸、胆汁酸レジン、又はコレステロール吸収阻害剤)、カルシウムチャネル遮断薬(例えば、ロメリジン又はベプリジル)、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤(例えば、ベナゼプリル、カプトプリル、エナラプリル、ホシノプリル、リシノプリル、モエキシプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、又はトランドラプリル)、ラノラジン、又は抗凝血剤(例えば、クマディン又はヘパリン)を含む、別の治療剤と併せて投与することができる。他の例示的な薬剤はアデノシン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、アトルバスタチン、サイクロスポリン-a、デルカセルチブ、エリスロポエチン、エキセナチド、グルコースインスリンカリウム(GIK)療法、及び硝酸ナトリウムを含むことができる。
【0077】
該組成物を外科手術、例えば、血管インターベンション手術、例えば、血管形成、冠動脈バイパス手術、又はステントを含む他の治療法と併せてまた投与することができる。該組成物を医療機器の使用と共にまた投与することができる。例示的な医療機器は左心補助循環装置を含む。
【0078】
あるいは、又は加えて、該組成物を虚血プレコンディショニング(IPost)中、すなわち急性虚血心筋の間欠的な再灌流中にまた投与することができる。他の治療の実態(realities)は、限定するものではないが、遠隔虚血コンディショニング、治療的低体温及び治療的高酸素を含む。
【0079】
該組成物をライフスタイルの改善、例えば、禁煙、体重の減量、身体の運動、食事制限、及びアルコール摂取量の低減と共にまた投与することができる。
【0080】
2又はそれ以上の治療剤の同時投与は薬剤がその有効量を与えている間の期間における重複がある限り、同時に又は同じ経路によって薬剤が投与されるべきことを必要としない。同時の又は連続しての投与は異なる日又は週に投与されても完了する。該治療剤はメトロノーム的レジメン下、例えば、継続的な治療剤の低用量下で投与されてもよい。
【0081】
このような組成物の用量、毒性及び治療上の有効性を、例えば、LD50(集団の50%に対して致命的な用量)及びED50(集団の50%に治療上有効的な用量)を決定付けるために、細胞培養又は実験動物における標準的な医薬的手順(pharmaceutical procedures)によって決定付けることができる。毒性及び治療的効果の用量比は治療指数であり、それをLD50/ED50として表現することができる。
【0082】
細胞培養アッセイ及び動物実験から得られるデータを、ヒトにおける使用の用量の範囲を考案することにおいて用いることができる。このような組成物の用量は好ましくはED50を含み、毒性をわずかに含む又は含まない血中濃度の範囲内にある。該用量は用いられる剤形形態及び活用される投与経路によって左右されるこの範囲内で変化することがある。本発明の方法に使用されている任意の組成物に関しては、治療上の有効量を初めに細胞培養アッセイから評価することができる。細胞培養において決定付けられたIC50(すなわち、兆候の半値阻害を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度の範囲を達成するために用量を動物モデルにおいて製剤化してもよい。このような情報をヒトにおける有用な用量をより正確に決定するために使用することができる。血漿の値を、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定してもよい。
【0083】
製造品
本明細書に記載の組成物を、例えば、虚血/再灌流障害を有する又はリスクのある対象を治療する療法としての使用のために適した容器にラベリングして包装することができる。該容器は虚血組織中のBAG3の値を増加させる薬剤を含む組成物を含むことができる。
【0084】
ある実施形態では、該薬剤はBAG3ポリペプチド若しくはそのフラグメントをコードする核酸配列又は該核酸をコードするベクター、及び1又はそれ以上の適した安定剤、担体分子、香味料、及び/又は意図した使用に適したその他のものであってもよい。ある実施形態では、該薬剤はBAG3ポリペプチド又はそのフラグメント、及び1又はそれ以上の適した安定剤、担体分子、香味料、及び/又は意図した使用に適したその他のものであってもよい。ある実施形態では、該薬剤はBAG3の発現、又は標的化した組織の活性、及び1又はそれ以上の適した安定剤、担体分子、香味料、及び/又は意図した使用に適したその他のものを増加させる薬剤であってもよい。ある実施形態では、該薬剤はプロテオソーム阻害剤、例えば、ボルテジミブであってもよい。したがって、少なくとも本発明の1の組成物、例えば、BAG3ポリペプチド又はそのフラグメントをコードする核酸配列又は核酸をコードするベクターを含む、包装された製品(例えば、1又はそれ以上の本明細書に記載の組成物を含む、濃縮若しくはすぐ使用できる濃度で保存、出荷、又は販売のために包装された滅菌容器)及びキット。製品は本発明の1又はそれ以上の組成物を含む容器(例えば、バイアル、瓶、ボトル、袋、又はその他のもの)を含むことができる。加えて、製造品は包装するための素材、使用説明書、注射器、送達媒体、緩衝材、又は予防又は治療を必要とする状態を治療すること又は測定することのための他のコントロール試薬をさらに含んでいてもよい。
【0085】
ある実施形態では、該キットは1又はそれ以上の追加の治療剤を含むことができる。該追加薬剤を虚血組織中のBAG3の値を増加させる薬剤、すなわち、BAG3ポリペプチド若しくはそのフラグメントをコードする核酸配列又は核酸、BAG3ポリペプチド若しくはそのフラグメントをコードするベクター、又はいくつかの阻害剤と同一の容器に共に包装することができるし、又は別々に包装することができる。虚血組織中のBAG3の値を増加させる該薬剤及び該追加薬剤を直前に混合してもよいし、又は別々に投与してもよい。
【0086】
該製品は、説明文(例えば、印刷されたラベル又は挿入物又は製品の使用を描写したその他の手段(例えば、オーディオ又はビデオテープ))をまた含んでいてもよい。説明文は該容器と関連して(例えば、該容器に添付されて)いてもよく、該組成物が投与されるべき方法(例えば、頻度及び投与経路)、そのための指示、及び他の使用を描写していていてもよい。該組成物は投与の準備(例えば、用量の適切なユニット中に存在している)ができていてもよく、1又はそれ以上の追加の薬学的に許容できるアジュバント、担体又は他の希釈剤及び/又は追加の治療剤を含んでいてもよい。あるいは、該組成物は濃縮された形態で希釈剤及び希釈のための説明書と共に提供されてもよい。
【0087】
実施例
実施例1:物質と方法
動物プロトコル:メスのFVBマウスから生後3週間以内の新生仔マウスを得た(Jackson Laboratory, Bar Harbor, ME)。8~10週齢のオスのFVBマウス(Jackson Laboratory)を以前に記載したように、30分間の冠動脈結紮及び続く再灌流後に梗塞面積の評価のために用いた。疑似手術を受けた対照動物を、LADを結紮しなかったことを除いて同一の方法で処置した。すべての実験を国立衛生研究所のGuide for the Care and Use of Laboratory Animalsに準じて行い、Temple University Institutional Animal Care and Use Committeeによって承認された(ACUP#4031)。
【0088】
初期新生仔マウスの心室筋細胞(NMVC)の準備: Pierce Primary Cardiomyocyte Isolation Kit (Cat.88281, Thermo scientific, Rockford, IL)を用い、製造者の指示に準じて1~3日齢のFVBマウスからNMVCsを単離した。筋細胞を6のウェルプレートの各ウェル内にプレートごとに2x106細胞の濃度で撒き、1%のウシ胎仔血清(Denville Scientific Inc. Holliston, MA)及び1%のペニシリン-ストレプトマイシン(ThermoFisher Scientific, Waltham, MA)と共にダルベッコ改変イーグル培地(DMEM, GIBCO, CA)内で培養した。24時間後、全体の培地を37℃の心筋細胞成長補助剤(Cardiomyocyte Growth Supplement)及び5%のCO2を含む新たなDMEMと交換した。
【0089】
BAG3アデノウイルスの構築及び使用:GFP(Ad-GFP)、BAG3(Ad-BAG3)又はsiBAG3(Ad-siBAG3)のいずれかを発現するアデノウイルスを、BD Adeno-X Expression System 2PT3674-1及びBD knockout RNAi Systems PT3739 (BD Bioscience-Clontech, Palo Alto, CA)を用いて以前に記載した通りに構築した。単離から48時間後、感染多重度(multiplicity of infection)8でNMVCsをアデノウイルスに感染させた。培地が吸引されて新しい培地を適用した後、NMVCsをアデノウイルスに一晩さらした。培地は毎日交換した。それから感染の72時間後に実験を行った。
【0090】
低酸素-再酸素化:上記に記載したものに修正を加えてNMVCsにH/Rを受けさせた。簡潔に言うと、NMVCsを5%の加湿CO2:95%のN2に14時間にわたり37℃でさらし、グルコースを含まない培地で培養した。細胞をそれから5%のCO2:95%の加湿空気で4時間にわたりグルコースを含む培地で再酸素化した。培地は毎日交換した。
【0091】
イムノブロッティング:心臓を摘出し、左心室を梗塞境界(心尖の先端に最も近接した3mm)と遠隔領域(隔膜に近接)に分断した。組織を液体窒素内で迅速に冷凍し、使用まで-80℃で保存した。上記に記載したように膜タンパク質を用意した。簡潔に言えば、プロテアーゼ及びホスファターゼ阻害剤のカクテル(ThermoScientific; Rockford, IL)を含む緩衝材(Cell Signaling Technologies, Beverly, MA)の中で組織を溶解し、Bullet Blender(Next Advance, Averill Park, NY)のビーズを用いて均質化した。氷のように冷たいPBSでNMVCsをすすぎ、採取して緩衝材内で溶解した。13,000gで5分間にわたり4℃での遠心分離後、浮遊物を採取し、Bradfordアッセイ(Bio-Rad, Philadelphia, PA)によってタンパク質レベルを決定付けた。等しい量のタンパク質(90μl)を30μlの4X NuPAGE SDS資料緩衝材(ThermoFisher, Carlsbad, CA, USA)及び15μlの10X NuPAGE還元剤(ThermoFisher,)と混合し、煮沸し、NuPAGE電気泳動システム(ThermoFisher)を用いてNuPAGE Novex 4-12% Bis-Tris Protein Gels (ThermoFisher)で分離し、ニトロセルロース膜(LiCor, Lincoln, NE)へ移した。一次抗体で一晩培養する前に、膜を室温で1時間にわたりOdyssey阻害緩衝材(LiCor)内で阻害した。該膜を1X PBS-T (0.1% Tween 20)で洗い、室温で1時間にわたり二次抗体で培養した。Odysseyスキャナーを用いてタンパク質バンドシグナルを検出した。一次抗体はMyc(Cell Signaling Technologies)、BAG3(Protein Tech)、Bcl-2(Cell Signaling Technologies)、LAMP-2(ThermoFisher)、切断型カスパーゼ-3(Cell Signaling Technologies)、JNK(Santa Cruz Biotechnology, Dallas, TX)、phospho-JNK(Cell Signaling technologies)、ヒストン、β-チューブリン、及びβ-アクチン(Santa Cruz Biotechnology)だった。二次抗体は以下のものだった:ヤギ抗マウスIRDye 800(LiCor)及びIRDye 680ヤギ抗ウサギ(Rockland, Gilbertsville, PA)。
【0092】
共焦点顕微鏡法:成体の心筋細胞におけるBAG3の局在化を検出するために、上記に記載の通りに共焦点顕微鏡法を使用した。簡潔には、新生仔マウスのLV心筋細胞を単離し、ラミニンでコーティングした4のウェルの部屋があるスライド(Lab-Tek., Rochester, NY)へ設置した。一次ウサギ抗体(1:200; Proteintech Group Inc, Chicago IL)を用いてBAG3を同定し、マウス抗体(1:200, Sigma Ldrich)を用いてα-サルコメアアクチニンを同定した。二次抗体はAlexfluor 594-labeledヤギ抗ウサギ抗体(1:500 Invitrogen, Eugene, OR)及び4’6-ジアミジノ-2-フェニルインドール二塩酸塩(DAPI)(Vector Laboratories Burlingame, CA)を含んだ封入剤だった。BAG3(594nm ex., 667nm em.)、α-アクチニン(488nm ex, 543nm em)及びDAPI(405nm ex., 495nm em.)を画像化(imaging)するためにZENソフトウェアを用いたCarl Zeiss 710共焦点顕微鏡(63×oil objective)を使用した。全レーザー光量及び光電子増倍管の粒子(grain)をすべての群で一定に設定し、実験群を知らない2の独立した観察者によって設定とデータが確認された。各実験群に最小の3のカバースリップを使用し、少なくとも3の細胞画像を各カバースリップから入手した。
【0093】
オートファジーRFP-GFP-LC3レポーターシステム:単離されたNMVCsを、以前に記載のような感染多重度でmRFP-GFP-LC3を発現するアデノウイルスに感染させた。感染後の24時間、NMVCsにH/Rを受けさせ、それからリン酸緩衝生理食塩水内でパラホルムアルデヒドを用いて固定した。PBSですすいだ後、細胞を正常ヤギ血清阻害溶液(Invitogen, Life technologies corporation, Frederick. MD)内で60分にわたり0.3%のTriton X-100を用いて透過した。カバースリップをHardsetアンチフェード(anti-fade)封入剤(Vector Laboratories, Burlingame, C)でスライドに封入(mounted)し、上記に記載のように594nmの励起及び667nmの放出で入手したmRFP、並びに488nmの励起及び543nmの放出で入手したGFPを用いて共焦点像を行った。各実験群における7~10の細胞の斑点(puncta)を、デジタル画像を得た後に数えた。結合したチャネル内の黄色斑点の数は、オートファガソームの数を示した。オートリソソーム(オートファゴソーム-リソソーム融合)の数は、以前に記載のように赤色斑点の数によって示された。
【0094】
細胞分画法:NMVCsの細胞質及び核分画を、NE-PER核及び細胞質抽出試薬キット(Thermo scientific, Rockford, IL, USA)を用いて製作者の指示にしたがって用意した。細胞質及び核の抽出物はウエスタンブロットの使用まで-80℃で保存した。
【0095】
rAAV9-BAG3の構築と投与:マウスmyc-タグ(myc-tagged)BAG3をコードする配列(NCBIアクセッション番号#BC145765)をサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターを含むpAAVベクターに挿入した。(Vector Biolabs, Malvern, PA)それからHEK293細胞のトランスフェクションによって該構築物をAAV-9にパッケージングし、ウイルス粒子をCsCl2遠心分離(Vector Biolabs)によって精製した。組み換えAAV9-BAG3は緑色蛍光タンパク質(GFP)をまた発現した;しかしながら、GFPはBAG3と共に配列中に(in sequence)存在しなかった。クローン及び最終的なベクターの忠実性はシークエンシングにより裏付けられた。MIマウス及び偽手術を受けたマウスの両方を無作為に割り当て、以前に記載のように無菌の37℃のPBS内で60-80μl rAAV9-BAG3(5.0-6.5 X 1013ゲノムコピー(GC)/ml)又はrAAV9-GFP対照(3.1 x 1012GC/ml)のどちらかを後眼窩静脈叢への注入によって受容させた。
【0096】
心エコー図:浅い鎮静剤(2%イソフルラン)の使用後、以前に記載のようにVisualSonics Vevo 770イメージングシステム及び707スキャンヘッド(Miami, FL)を用いてすべてのマウスにおいて全LV機能を評価した。EF% = [(LVEDV - LVESV)/LVEDV]×100の公式を用いて左心室駆出率(LVEF)を計算した;LVEDV及びLVESVはそれぞれ左心室の拡張末期容量及び左心室の収縮末期容量である。
【0097】
梗塞面積の決定:心筋を2%のトリフェニルテトラゾリウム(TTC)で染色し、以前に記載のように梗塞面積を計測した。簡潔に言えば、I/R の72時間後、LADの周囲を引き結びで結び直し、続けてエバンスブルー染料(0.2ml)の注入を行った。心臓を摘出し、LVを心臓の短軸に対して垂直に1.2mmの厚さで3枚にスライスし、TTCを含むPBS内で培養した。室温で20分後、スライスでデジタル写真を撮った。エバンスブルーで染められた領域(リスクのない領域)、TTC陰性の領域(梗塞した心筋)及びリスクのある領域(AAR;TTC陰性及び陽性の領域の両方を含む)を、コンピュータに基づくイメージアナライザーSigmaScan Pro 5.0(SPSS Science, Chicago, IL)を用いて測定した。AARは全LVの百分率として表現され、梗塞した心筋はAARの百分率として表現された。ウエスタンブロット分析には境界領域に心尖から3mmの心室の領域を含ませた。
【0098】
統計分析:Graph Pad Prizm 6又はJMPバージョン12を用いてデータを分析した。データを連続変数の平均値±SEMとして示した。ボンフェローニの多重比較調整を用いた二元配置分散分析を試験群における差異を評価するために使用した。ウエスタンブロット分析にはp<0.05のp値を有意とみなした。各実験の対照(例えば、Ad-GFP又は正常酸素)を1.0として設定した)。
【0099】
実施例2:低酸素-再酸素化がNMVCs中のBAG3の値を減少させる
正常酸素の対照と比較すると、H/R後、NMVCsにおけるBAG3の値は有意に減少した(
図1A及びB;p<0.01)。NMVCsを用意し、実施例1の方法にしたがって培養した。簡潔にいうと、NMVCsを低酸素状態下(5%のCO
2及び95%の窒素、1分あたり3L)、グルコースの非存在下で14時間にわたり37℃で培養し、それから細胞を4時間にわたり5%のCO
2と及び95%の加湿空気でグルコースを含む培養培地を用いて再酸素化した。H/R後の減少したBAG3の値がそれによって細胞の損傷に影響することがある潜在的なシグナル経路を調査するために、発明者はアポトーシス及びオートファジーのマーカーを測定した。心筋を摘出し、細胞溶解物をBAG3、切断型-カスパーゼ-3、Bcl-2、及びLAMP2の値の決定付けのためにイムノブロッティングした。β-アクチンはウエスタンブロットに取り込まれたタンパク質の量の対照としての役目をした。各実験を3回の独立した実験として各実験のn=3で繰り返した。
図1に示されるように、正常酸素の対照と比較するとBcl-2(
図1C;p<0.01)及びLAMP-2(
図1E;p<0.01)は有意に減少し、切断型カスパーゼ-3(
図1D;p<0.01)は有意に増加した。
【0100】
BAG3単独の値における減少がアポトーシス及びオートファジーのマーカーの値を変更するに十分かを評価するために、発明者はNMVCsにおける内因性のBAG3を、siRNA(Ad-siBAG3)を用いてAd-GFP対照に感染させた細胞と比較すると約90%減少させた(
図1F及びG)。上記に記載のように細胞を採取して特異抗体でイムノブロッティングした後、NMVCsを培養液中でAd-siBAG3又はAd-GFP(対照)のどちらかに3日間感染させた。H/R後のNMVCsで観測されたアポトーシス及びオートファジーのマーカーにおける変化はNMVCs内で反復し、BAG3の発現はsiRNAによって減少し、切断型カスパーゼ-3の値は増加した(
図1H;p<0.01)が、Bcl2(
図1I;p<0.01)及びLAMP-2(
図1J;p<0.01)はAd-GFP対照にさらされた細胞と比較すると有意に減少した。
【0101】
実施例3:BAG3の過剰発現がオートファジー及びアポトーシスのマーカーにおける変化を改善する
H/RにさらしたNMVCsを用意し、採取してから上記の実施例1に記載のようにイムノブロッティングした。評価の3日前のAd-BAG3によるNMVCsの感染は、
図2A及び2Bに示されるように、Ad-GFPに感染したNMVCのものと比較するとBAG3の値(p<0.01)を控えめに増加させた。同様に、Ad-BAG3は、
図2A及び2Bに示されるように、H/R(p<0.05)にさらされた筋細胞におけるBAG3の値を大幅に増加させた。Ad-BAG3は、
図2A及び2Cから2Fに示されるように、JNK活性化、又は正常状態下で培養されたNMVCsにおける切断型カスパーゼ-3、Bcl2及びLAMP-2の値になんの影響もなかった。対照的に、H/Rの3日前にAd-BAG3を受容したNMVCsは、
図2A及び2Cから2Fに示されるように、Ad-GFPに感染させた対照のNMVCsと比較するとp-JNK(p<0.05)及び切断型カスパーゼ-3(p<0.05)の有意に低い値、並びにBcl2(p<0.05)及びLAMP-2(p<0.01)の増加した値を有した。
【0102】
実施例4:BAG3が心筋細胞オートファジーを調節する
オートファジーのマーカーにおける変化がH/R後のオートファジーの量における実際の変化を示したのかを決定するために、BAG3の値がAd-BAG3又はAd-siBAG3に操作されているHMVCsを、二重標識RFP-GFP-LC3-Iオートファジーレポーターシステムを用いてトランスフェクションし、それから上記の実施例1に記載されているようにH/Rにさらした。このシステムはLC3-Iが脂質化されたLC3-II形態に変えるユビキチン様システムにより翻訳後に修飾されるという事実を利用する。LC3-IIはオートリソソーム内に隔離され、そこで分解又はリサイクルされる。LC3の斑点はオートファガソーム内に緑と赤両方の蛍光を発する。しかしながら、オートリソソームの酸性状況下ではGFP蛍光は支配的な赤色斑点を残して消える。このように、黄色斑点はGFP(緑)及びRFP(赤)の組み合わさった蛍光を示し、オートファガソームの存在を反映しており、赤色斑点はRFP単独を示す。正常なファゴソーム-リソソーム融合では赤色蛍光が黄色蛍光より多くあるものだが、減少したファガソーム-リソソーム融合と共にオートファジーが遅れると黄色蛍光が支配的になる。
図3Aの共焦点像に示されるように、黄色蛍光はH/Rを経験した又はsiBAG3に感染したNMVCsにおいてより顕著だった。対照的に、RFPシグナルはより顕著であり、LC3のオートリソソームへの増加した取り込みを示唆した。共焦点像の主観的な評価は各群(対照、H/R、siBAG3及びH/R + Ad-BAG3:
図3B)の黄色及び赤色斑点の数を数えることによって裏付けられた。加えて、計数されたオートリソソーム(赤色斑点)/オートファガソーム(黄色斑点)/細胞数の比率はH/R後に有意に減少し、Ad-BAG3によるBAG3の過剰発現によって鈍くなった変化は、H/R及びBAG3の減少した値の両方がオートファジーの量を減少させている一方、BAG3の過剰発現がオートファジーのコントロールレベル(control level)を回復させていることを示唆している(
図3C)。
【0103】
実施例5: BAG3が低酸素-再酸素化のストレス中に核周囲及び核の領域を転座させる
正常状態下では、BAG3を明示した共焦点像が新生仔筋細胞の細胞質における大部分において発明者の以前の観察と一致していると判明した。しかしながら、NMVCsをH/Rにさらした時、
図4Aに示されるように、BAG3は核周囲領域及び細胞核に主に見出された。正常酸素のNMVCsにおけるsiRNAによるBAG3のノックダウンは、
図4Aに示されるように、BAG3の核周囲領域及び細胞核への転座をまたもたらした。H/R後、又はsiRNAによってBAG3がノックダウンされた後の細胞分画中のBAG3は減少したが核分画中のBAG3は増加したように、細胞分画法調査は共焦点顕微鏡法によって形態学的所見を裏付けた(
図4B及び4C)
図4Bに見られるように、分画の特異性は細胞質抽出物内で支配的なβ-チューブリン、及び核分画内で支配的なヒストンの存在によって裏付けられた。
【0104】
実施例6: BAG3の過剰発現が、マウスにおける虚血再灌流(I/R)後に左心室機能を高め、梗塞面積を減少させた
NMVCsにおけるBAG3の調査がインビボのマウスと関係しているかを評価するため、発明者はCMVプロモーターの制御下でmycタグBAG3を発現するrAAV9の後眼窩注入後にBAG3が過剰発現した、心臓におけるI/R後の心室機能及び梗塞面積を測定した。
図5A及び5Bに見られるように、rAAV9-BAG3の後眼窩注入を受けたマウスにおけるI/Rの2日後に測定した左心室(LV)駆出率(EF)はrAAV9-GFP対照(p<0.01)を受容したマウスより有意に大きかった。新生仔筋細胞での結果と一致して、心筋のBAG3の値はI/R後に減少したがrAAV9-BAG3後には高められた。(
図5C)rAAV9-BAG3の注入はリスクのある領域(
図5D及び5E)を変化させなかったが、rAAV9-GFPの注入を受容したマウスにおける梗塞面積と比較するとI/Rの72時間後の梗塞面積を有意(p<0.01)に減少させた(
図5D及び5F)。
【0105】
実施例7:I/R後のマウスの梗塞境界域におけるBAG3の過剰発現が、H/R後のNMVCsに見られるオートファジー及びアポトーシスのマーカーにおける変化を繰り返した
後眼窩注入後のマウスの心臓においてrAAV9-BAG3が発現したことは、rAAV9-BAG3を受容したマウスの心臓においてmycの発現が観察されたがrAAV9-GFPを受容したマウスの心臓においては観察されなかったという発見によって理解された(
図6A)。NMVCsにおける結果と一致して、rAAV9-BAG3がBcl2(p<0.01;
図6A及び6B)及びLAMP-2(p<0.01;
図6A及び6B)の値を有意に増加させ、切断型カスパーゼ-3(p<0.01;
図6A及び6C)及びp-JNK(p<0.01;
図6A及び6D)の値を減少させた。
【0106】
LAMP2はオートファガソーム-リソソーム融合の重大な決定因子であり、Bcl2は、Beclin 1との関連を分離することでオートファジーを刺激し、Beclin 1に関連したクラスIII ptdlns3K複合体の活性化をもたらし、またBAG3のBcl2結合部位と結びついてアポトーシスを制限する役割を演じており、切断型カスパーゼ-3はアポトーシスの実行段階中のクロマチンのマージネーション(margination)、DNAのフラグメント化及び核の崩壊に関与するプロテアーゼである。しかしながら、多数の議論がオートファジーを測定するバイオマーカーの使用を取り囲んでおり、なぜならそれはファガフォア(phagaphore)の形成に始まり、異なった細胞内の源から膜を補充して標的化したタンパク質を蓄積するファガフォアの成熟を経過し、最終的にはタンパク消化の過程を始めるためにリソソームと融合してオートリソソームを形成する動力学的な(dynamic)多段階式の過程だからである。
【0107】
オートファジーにおけるBAG3の減少した及び高められた値の両方の効果をよりよく評価するために、発明者は二重標識のマイクロチューブに関連したタンパク質の軽鎖(LC3-I)からなるオートファジーレポーターシステムを使用した。このシステムはオートファガソームの外膜及び内膜に固定された脂質化されたLC3-II形態に変化するユビキチン様システムによってLC3-Iが翻訳後に修飾されるという事実を利用する。LC3-IIはオートリソソーム内に隔離され、そこで分解又はリサイクルされる。しかしながら、オートリソソームの酸性環境ではGFP蛍光は赤色斑点を支配的に残して消える。これらの調査はH/R及びBAG3のノックダウンの両方が減少したオートファジーをもたらし、BAG3の過剰発現がオートファジーの過程を回復することを明示した。これらの結果は虚血/再灌流障害がLAMP-2における活性酸素種に誘発された減少によって部分的に仲介されているオートファジーのクリアランスを損なうことを明示するMa et alによる以前の調査と一致している。
【0108】
BAG3の値がH/R又はI/R中に減少した時にJNKは活性化(p-JNK)されたが、NMVCs又は成体の心臓それぞれにおいてBAG3の値がAd-BAG3又はrAAV9-BAG3によって増加した時に活性化の値は減少した。JNKはキナーゼのMAPKファミリーに属しているが、転写因子及びスキャフォールドタンパク質を含む、非キナーゼ基質をリン酸化できるMAPKs(p-JNK、ERK1/2、及びp38)の群に属している点で他のキナーゼとは差別化されている。以前の研究は虚血単独ではなく、虚血に続く再灌流中に心臓でJNKが活性化されることを明示した。さらに、非筋細胞の研究はJNKの活性化がBAG3の遺伝子発現を高め、JNK阻害剤がBAG3の発現を減少させることを示唆する。それゆえに、BAG3の値が高い時は心臓におけるJNK活性化を減少させ、BAG3の値が低い時はJNK活性化を増加させるフィードバックループが存在することがある。しかしながら、BAG3とJNKの間の相互作用は非常に複雑であり、心臓におけるBAG3とJNKの関係性を明らかにするためのさらなる研究の必要がある。
【0109】
BAG3は、低酸素及び再酸素化のストレス中に細胞質から細胞核に転座した。BAG3の転座は筋細胞においては報告されていない。この発見はBAG3が5’-未翻訳配列に関係しているポジティブフィードバックループを介して自身の転写を刺激する能力をもたらす、ヒトのグリア細胞の細胞核内に見出すことができることを明示している以前の研究と一致する。このように、心臓内のBAG3の増加する機能のリストに加えて、BAG3は遺伝子発現をまた調節することができると思われる。この柔軟性はBAG3タンパク質内の無数のタンパク質結合モチーフの存在によるものである。
【0110】
実施例8:ボルテゾミブがNMVCsにおけるBAG3の値を増加させた
H/R後、0.5、1、2、4又は18時間にわたりNMVCsをボルテゾミブで処置した。実施例1に記載したようにイムノブロッティングでBAG3の値を分析した。ボルテゾミブの処置は媒体で処置された対照細胞と関連してBAG3の値における時間依存性の増加をもたらした。