(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】リアクトル締付構造
(51)【国際特許分類】
H01F 37/00 20060101AFI20221026BHJP
【FI】
H01F37/00 T
H01F37/00 M
(21)【出願番号】P 2022026099
(22)【出願日】2022-02-22
【審査請求日】2022-03-24
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522071108
【氏名又は名称】有限会社イチデン製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100109254
【氏名又は名称】中村 雅典
(72)【発明者】
【氏名】市川 博司
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-063927(JP,U)
【文献】特開2004-319679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 37/00
H01F 27/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルを巻装される複数の脚部の上端同士及び下端同士がそれぞれ上方継部及び下方継部で連結されて外周面が概ね矩形状を成し、前記外周面の角部が丸められている鉄心と、
前記外周面に巻き掛けられて、長手方向の両端が締結具により連結されて前記鉄心をその下面に接する固定用基材に拘束するバンドと、を有してなるリアクトルに後付けされて前記鉄心を上下から締め付けるリアクトルの締付構造であって、
概ね棒状の長尺体で、隣接する脚部間の中間位置において前記上方継部と直交するように且つ前記バンドと前記鉄心の間に介在するように配設される上部締付金具と、
概ね矩形状の枠体で、前記枠体のうち一対の相対向する二辺が前記下方継部の両側端に位置する前記角部に掛止され、他の二辺が前記下方継部を挟むように配設される下部締付金具と、を有しており、
前記上部締付金具の両端と、前記他の二辺の中間位置を長ネジで連結して、該連結する長ネジにより前記上部締付金具と前記下部締付金具を引っ張り合わせることで前記鉄心を上下から締め付け
てなり、
前記上部締付金具は、横断面コ字形で、その長手方向の中途部には前記コ字形を成す三辺のうち相対向する二辺が前記上方継部の厚み寸法と同じ長さの区間に亘り途切れることにより二つの矩形状の切欠が形成されており、該切欠の両端が前記上方継部の厚み方向の両端面に当接するように配設されていることを特徴とするリアクトル締付構造。
【請求項2】
前記切欠の両端と前記上方継部の厚み方向の両端面の間に絶縁紙が介在させられていることを特徴とする請求項
1記載のリアクトル締付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアクトルの振動騒音を低減するためのリアクトル締付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図4は、従来からある一般的なリアクトル1の構成を示す斜視図であり、リアクトル1は、コイル2、鉄心3、バンド4及び取付金具5で構成される。
図5は、
図4からコイル2を省いた図で、
図6は、取付金具5に対するバンド4の固定構造を示す図である。
【0003】
鉄心3は、絶縁皮膜をコーティングした電磁鋼板を積層してなり、
図4に示すように、コイル2がそれぞれ巻装される二つの脚部3a、3aと、それらの上端同士及び下端同士をそれぞれ上方継部3b及び下方継部3cで連結することによりロ字形状を成す二相二脚とされて、概ね矩形状の外周面において、四つの角部3d・・・3dが丸められている。鉄心3は、脚部3aに磁気的ギャップを設けるため、
図5に示すように、各脚部3aの中途部で上下に分割されており、コ字形状の分割鉄心31、31と、これらの分割鉄心31、31の間に接着剤(不図示)を介して挟まれるように固定されギャップスペーサーとなる絶縁体32、32と、で構成されている。
【0004】
バンド4は、薄いステンレス製の帯状体で、
図5に示すように、脚部3a、3a、上方継部3b及び下方継部3cに沿わされるようにして、鉄心3の外周面を略一周するように巻き掛けられている。バンド4は、その長手方向の両端が長ネジ41aにより締結される締結具41で鉄心3の上面側で連結され、分割鉄心31と絶縁体32を分離させないように一体的に拘束している。
【0005】
取付金具5は、
図4~5に示すように、リアクトル1を固定部(不図示)に固定するために用いる平板状の固定用基材で、四隅に固定部に締結するための固定ネジ(不図示)を係合させる切欠状の係合部5a・・5aを有してなる。取付金具5は、鉄心3に対しその下面側(下方継部3c)に接するように配設されるもので、鉄心3と重ね合わされる部分には、
図6に示すように、バンド4の巻き掛け方向に間隔をあけて二つのバンド通し穴51、51が貫通形成されており、これらにバンド4を通しておくことにより取付金具5に鉄心3を拘束する。
【0006】
上記リアクトル1では、複数部材からなる鉄心3がバンド4で纏められるように確り拘束されているが、バンド4は鉄心3を上下方向に強固に締め付ける構造ものとは異なり、鉄心3の電磁振動による振動騒音を十分に抑制できるものではない。
【0007】
これに対し、鉄心の電磁振動による振動騒音を低減したい場合は、鉄心にバンドを巻き掛けて締め付けるのではなく、例えば特許文献1の
図1に示すようなリアクトル締付構造が採用されている。具体的には、ロ字形状の鉄心をトレイ状に形成した上部締付金具及び下部締付金具で上下から挟み込み、該上部締付金具と下部締付金具のそれぞれに形成した耳状取付片に長ネジを挿通して、長ネジの両端に形成したネジ部にナットを螺合することで上部締付金具と下部締付金具を連結する。そして、上記ナットを締め込むことにより、上部締付金具と下部締付金具を引っ張り合わせて、鉄心を上下方向から圧縮するように強固に締め付ける。なお、下部締付金具は、リアクトルを固定部に固定するための取付金具を兼ねている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
当然ながら、振動騒音が問題にならない場所にリアクトルを設置する場合には、上記のようなリアクトル締付構造は必要なく、
図4及び
図5に示すような従来構造のリアクトルが採用されている。ところが、実際には、リアクトル設置後の事情の変化により、後から振動騒音を低減するように要請されることがある。
【0010】
こうした場合、上記締付構造を採用したリアクトルに取り替えることで対応しても良いが、コスト負担が大きくなるほか、追加する締付金具によってリアクトルの上下寸法が大きくなり、設置空間に収まらないことがある。そこで、既に平板状の取付金具に固定されたリアクトルに上記締付構造(上部締付金具、下部締付金具及び長ネジ)を後付けすることも考えられるが、既に取り付けられているバンドや取付金具が締付構造を後付けする際の妨げとなる。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みて、取付金具にバンドで固定した既存のリアクトルに対して容易に後付け可能で、鉄心を上下から圧縮するように強固に締め付けることができるリアクトル締付構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の発明は、
コイルを巻装される複数の脚部の上端同士及び下端同士がそれぞれ上方継部及び下方継部で連結されて外周面が概ね矩形状を成し、前記外周面の角部が丸められている鉄心と、
前記外周面に巻き掛けられて、長手方向の両端が締結具により連結されて前記鉄心をその下面に接する固定用基材に拘束するバンドと、を有してなるリアクトルに後付けされて前記鉄心を上下から締め付けるリアクトルの締付構造であって、
概ね棒状の長尺体で、隣接する脚部間の中間位置において前記上方継部と直交するように且つ前記バンドと前記鉄心の間に介在するように配設される上部締付金具と、
概ね矩形状の枠体で、前記枠体のうち一対の相対向する二辺が前記下方継部の両側端に位置する前記角部に掛止され、他の二辺が前記下方継部を挟むように配設される下部締付金具と、を有しており、
前記上部締付金具の両端と、前記他の二辺の中間位置を長ネジで連結して、該連結する長ネジにより前記上部締付金具と前記下部締付金具を引っ張り合わせることで前記鉄心を上下から締め付けてなり、
前記上部締付金具は、横断面コ字形で、その長手方向の中途部には前記コ字形を成す三辺のうち相対向する二辺が前記上方継部の厚み寸法と同じ長さの区間に亘り途切れることにより二つの矩形状の切欠が形成されており、該切欠の両端が前記上方継部の厚み方向の両端面に当接するように配設されていることを特徴とするリアクトル締付構造
を提供する。
【0013】
請求項2の発明は、
前記切欠の両端と前記上方継部の厚み方向の両端面の間に絶縁紙が介在させられていることを特徴とする請求項1記載のリアクトル締付構造。
を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のリアクトル締付構造によれば、既存のリアクトルに後から容易に取り付け可能で、取り付けによる寸法増を抑えながら、鉄心を上下から圧縮するように強固に締め付けて振動騒音を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のリアクトル締付構造を付加したリアクトル(二相)の斜視図。
【
図2】
図1のリアクトル締付構造の構成部品を示す斜視図。
【
図3】本発明のリアクトル締付構造を付加した別のリアクトル(三相)の斜視図。
【
図5】
図4のリアクトルからコイルを省いて描いた図。
【
図6】
図4のリアクトルにおいてバンドと取付金具の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のリアクトル締付構造の一実施形態を
図1~2を参照しつつ説明する。
図1は、
図4~5に示されるリアクトル1に本発明のリアクトル締付構造6を付加した状態を示す斜視図で、
図2は、リアクトル締付構造6として取り付けられる構成部品のみを示す斜視図である。
図4~5と共通する部分には同じ符号を用いることとし、既に説明した事項は詳細な説明を省く。
【0017】
(リアクトル締付構造6)
リアクトル締付構造6は、
図1~2に示すように、主に上部締付金具7、下部締付金具8、及び上部締付金具7と下部締付金具8を連結して引き合わせる鉄心締付用の長ネジ9により構成される。上部締付金具7は、概ね棒状の長尺体で、
図1に示すように、バンド4の締結具41と鉄心3の上方継部3bの間に介在して上方継部3bに直交するように配設される。下部締付金具8は、概ね矩形状を成すように組まれる枠体で、当該枠体のうち一組の相対向する二辺を成す長ネジ81、81が下方継部3cの両側端に位置する角部3d、3dに掛止され、他の二辺を成す長尺金具片82、82が下方継部3cを厚み方向の両側から挟むように配設される。長ネジ9、9は、上部締付金具7の両端と下部締付金具8の長尺金具片82、82の中間位置(中央)を連結するように配設されて、両端に形成されるネジ部に螺合されるナット91・・91が締め付けられて、両締付金具7、8を引っ張り合わせることにより鉄心3を上下から圧縮するように締め付ける。
【0018】
(上部締付金具7)
上部締付金具7は、
図2に示すように横断面コ字形の棒状体で、その長手方向の両端に長ネジ9を挿通させるネジ挿通孔71、71が貫通形成され、長手方向の中途部には二つの矩形状の切欠72、72が相対向するように形成される。切欠72、72は、上部締付金具7において横断面コ字形を成す三辺7a、7a、7bのうち相対向する二辺7a、7aが上方継部3bの厚み寸法D(
図1)と同じ長さDの区間に亘って途切れていることにより形成される。上部締付金具7は、
図1に示すように、下側に向けられた切欠72、72が上方継部3bの長手方向の中間位置(中央)と直交するように重ね合わせられることにより、上方継部3bと嵌め合わされる。
【0019】
図1に示すように、上部締付金具7を上方継部3bと直交するように配設することにより、上部締付金具7の両端が鉄心3の厚み方向の外側に突出し、この両端に形成されているネジ挿通孔71、71に長ネジ9、9が挿通される。上方に突出する長ネジ9、9のネジ部にはナット91、91が螺合される。上部締付金具7の両端は、後述するように長ネジ9、9を介して下部締付金具8と強く引っ張り合わされ、突出部分の根元には下向きの大きな曲げモーメントが加えられるが、
図1に符号Aで示すように、切欠72、72の両端が上方継部3bの厚み方向の両端面に当接しているため、上記曲げモーメントは横断面コ字形において相対向する二辺7a、7aを介して上方継部3bに受け止められ、上部締付金具7の突出部分の根元が曲げ変形することは無い。
【0020】
但し、上部締付金具7の切欠72の両端(相対向する二辺7a,7aの端部)が上方継部3bに対して強く押し付けられると、上方継部3b(鉄心3)の厚み方向の両側に現われている電磁鋼板の積層面に僅かに食いこむことがあり、本来コーティングされた絶縁皮膜で相互に絶縁されている電磁鋼板が上部締付金具7を介して導通されてしまうことが懸念される。そこで、
図1に示すように、上部締付金具7の切欠72の両端と上方継部3bの厚み方向の両端面の間に絶縁紙Pを挟み込むように介在させることで、上部締付金具7が上方継部3bに対して仮に食いこむことがあったとしても電磁鋼板間の導通を生じないようにしている。
【0021】
上部締付金具7において切欠72、72が設けられている長さDの区間は、相対向する二辺7a、7aが存在せず、残りの一辺7bのみで平板状に形成されているため、上下方向の厚みが小さく(7bの板厚分のみで)、
図1に示すように、バンド4や締結具41の取り回しに殆ど影響を与えることなく、締結具41(バンド4)と上方継部3b(鉄心3)の間に介在させることができ、リアクトルの上下寸法も殆ど変わることがない。なお、上部締付金具7において相対向する二辺7a、7aが存在する両端部分は、当然に上下方向の高さが大きく、締結具41と上方継部3bの間の小さな隙間を通すことはできないため、上部締付金具7を組み付けるときには、締結具41の長ネジ41aによる締結を解いてバンド4を開く必要がある。
【0022】
(下部締付金具8)
下部締付金具8は、
図2に示すように、両端にネジ部が形成された長ネジ81、81と、長手方向の両端にネジ挿通孔82a、82a,中間位置にネジ挿通孔82bが貫通形成されている一対の長尺金具片82、82と、長ネジ81、81の両端に形成されたネジ部に螺合されるナット83・・83により構成されて、上述したように概ね矩形状の枠体に組み立てられる。具体的には、長尺金具片82、82を下方継部3cの厚みD方向の両側に沿わせるように対向配置して、その両端のネジ挿通孔82a、82aに長ネジ81、81を挿通し、ネジ挿通孔から外側に突出する長ネジ81、81にナット83・・83を螺合する。
【0023】
ナット83が締め込まれることにより、相対向する長尺金具片82、82が相互に接近して下方継部3cを挟持するように配設される。また、長尺金具片82の両端に形成されているネジ挿通孔82a、82aの軸心間隔W1は、鉄心3の横幅W2に対して少し狭く設定されており、これにより、ネジ挿通孔82a、82aに挿通される長ネジ81、81は、鉄心3の幅方向の内側に位置する角部3d、3dに近接するように配設される。したがって、下部締付金具8全体が上方に引き上げられると、長尺金具片82、82は下方継部3cに沿って上方移動するが、その両端にある長ネジ81、81が角部3d、3dに掛止されることにより制止される。
【0024】
なお、長尺金具片82は、横断面L字形の長尺体であり、上記ネジ挿通孔82a、82aは、L字形の一方の辺82cの両端に形成されており、長ネジ9の下端側が挿通されるネジ挿通孔82bは、前記一方の辺82cと直交する他辺82dの長手方向の中間位置に形成されている。他辺82dは、長尺金具片82の変形を抑えるため、
図1~2に示すように辺82cの上辺側にくるようにセットされる。各長尺金具片82において上下に向けられたネジ挿通孔82bに、長ネジ9の下端側を挿通して、下方に突出する長ネジ9のネジ部にナット91を螺合することにより、リアクトル締付構造6が組み上げられる。
【0025】
上記のように組み立てられたリアクトル締付構造6において、二本の長ネジ9、9の上下端のネジ部に螺合されるナット91・・91を締め付けることにより、上部締付金具7と下部締付金具8を互いに引っ張り合わされて、鉄心3を上下から圧縮するように締め付けることができ、鉄心3の励磁振動による振動騒音が抑制される。
【0026】
(上記実施形態の変形例)
上記実施形態においては、本発明のリアクトル締付構造を二相のリアクトルに適用することとしたが、
図3に示すように三相のリアクトルに適用することとしても良い。但し、三相リアクトルについては、上記実施形態の二相リアクトルに適用した場合と同様に上方継部3bの横幅方向の中央(1か所)のみに上部締付金具7を配置すると、中央の脚部3a1に締付力が集中して両外側の脚部3a2、3a3に対して十分な締付力を与えることができないため、
図3に示すように、相互に隣り合う脚部3a1、3a2の間の中央部及び脚部3a1、3a3の間の中央(2か所)にそれぞれ上部締付金具7を配置することが好ましい。
【符号の説明】
【0027】
1 リアクトル
2 コイル
3 鉄心
31 分割鉄心
32 絶縁体
4 バンド
5 取付金具
6 リアクトル締付構造
7 上部締付金具
8 下部締付金具
81 長ネジ
82 長尺金具片
9 長ネジ(鉄心締付用)
【要約】
【課題】 取付金具にバンドで固定されている既存のリアクトルに対して、後から容易に取り付け可能で、鉄心を上下方向に圧縮するように強固に締め付けることができるリアクトル締付構造を提供することを目的とする。
【解決手段】 概ね棒状の長尺体で、隣接する脚部間の中間位置において上方継部と直交するように且つバンドと鉄心の間に介在するように配設される上部締付金具と、概ね矩形状の枠体で、枠体のうち一対の相対向する二辺が下方継部の両側端に位置する丸められた角部に掛止され、他の二辺が下方継部を挟むように配設される下部締付金具と、を有しており、上部締付金具の両端と、他の二辺の中間位置を長ネジで連結して、該連結する長ネジにより上部締付金具と下部締付金具を引っ張り合わせることで鉄心を上下から締め付ける。
【選択図】
図1