(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】デジタルPCR計測装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20221026BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20221026BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20221026BHJP
G01N 21/15 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
C12M1/34 Z
C12M1/00 A
G01N21/64 F
G01N21/15
(21)【出願番号】P 2019051573
(22)【出願日】2019-03-19
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 樹生
(72)【発明者】
【氏名】田中 淳子
(72)【発明者】
【氏名】島崎 譲
(72)【発明者】
【氏名】原田 邦男
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-516455(JP,A)
【文献】国際公開第2008/096563(WO,A1)
【文献】特表2009-535066(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0123924(US,A1)
【文献】特開2010-286421(JP,A)
【文献】国際公開第02/025289(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/138484(WO,A1)
【文献】特開2011-083286(JP,A)
【文献】特開2017-123813(JP,A)
【文献】特開2016-024137(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0354013(US,A1)
【文献】国際公開第2018/128013(WO,A1)
【文献】Tanaka, J. et al.,"KRAS genotyping by digital PCR combined with melting curve analysis",Sci. Rep.,2019年02月22日,Vol. 9; 2626,pp. 1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
G01N 21/00-21/74
C12Q 1/00-3/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料内に含まれるDNAを検出するデジタルPCR計測装置であって、
蛍光標識プローブと検出対象のDNAを含む試料が供給される複数の微小領域であ
って径が10~100μmであるウエルを平面アレイ状に配置した試料容器の温度を制御する温度調整器と、
前記複数の微小領域の蛍光強度を計測する蛍光計測部と、
前記温度調整器及び前記蛍光計測部を制御する制御部と
を含み、
前記制御部は、
前記温度調整器を制御して前記試料容器の温度を上昇させ、前記試料容器内に生じる気泡を除去した後、前記温度調整器を制御して前記試料容器の温度を下降させながら前記複数の微小領域の蛍光強度を計測し、前記複数の微小領域の融解曲線を計測する
ことを特徴とするデジタルPCR計測装置。
【請求項2】
前記試料容器の水平面に対する傾斜角を調整して気泡を除去する気泡除去部を更に備えた、請求項1に記載のデジタルPCR計測装置。
【請求項3】
前記試料容器を水平面に対して傾斜させて保持可能に構成された傾斜台を更に備えた、請求項1に記載のデジタルPCR計測装置。
【請求項4】
前記蛍光計測部は、前記試料容器から発する蛍光を撮像素子に導く蛍光撮像系を有し、
前記蛍光撮像系は、前記試料容器の前記水平面に対する傾きに合わせて、前記水平面に対して傾斜した光軸を有する、請求項3に記載のデジタルPCR計測装置。
【請求項5】
前記傾斜台は、前記試料容器を前記水平面に対して10°~20°の範囲の角度で傾斜可能に構成される、請求項3に記載のデジタルPCR計測装置。
【請求項6】
前記温度調整器は、前記試料容器の温度を上昇させる場合、前記検出対象のDNAと前記蛍光標識プローブとの融解温度よりも5℃以上高い温度まで上昇させる、請求項1に記載のデジタルPCR計測装置。
【請求項7】
前記温度調整器は、前記試料容器の温度を上昇させる際の温度変化を、前記試料容器の温度を下降させるときの温度変化よりも早くする、請求項1に記載のデジタルPCR計測装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記試料容器の温度を下降させながら前記蛍光計測部において撮像された複数の画像の間の位置ずれを補正するよう構成された、請求項1に記載のデジタルPCR計測装置。
【請求項9】
前記蛍光計測部は、複数のフィルタを有し、前記複数のフィルタは、透過波長が互いに異なり、
前記制御部は、前記試料容器の温度を下降させながら前記複数の微小領域の蛍光強度を計測する際に、前記複数のフィルタを切り替えながら前記蛍光計測部により蛍光画像を撮像するよう構成された、
請求項1に記載のデジタルPCR計測装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記複数のフィルタの各々について蛍光計測を行って複数の融解曲線を取得するとともに、前記複数の融解曲線の微分曲線を取得し、前記融解曲線又は前記微分曲線の性状に従い、分析対象のDNAが前記微小領域に入っているか否かを判定する、請求項9に記載のデジタルPCR計測装置。
【請求項11】
前記制御部は、複数の前記融解曲線及び前記微分曲線を比較することにより、漏れ込み光の影響を判定する、請求項10に記載のデジタルPCR計測装置。
【請求項12】
前記制御部は、融解温度よりも低温側の第1の温度における蛍光強度と、前記融解温度よりも高温側の第2の温度における蛍光強度との比又は差に基づき、分析対象のDNAが微小領域に入っているか否かを判定する、請求項10に記載のデジタルPCR計測装置。
【請求項13】
試料内に含まれるDNAを検出するデジタルPCR計測装置であって、
蛍光標識プローブと検出対象のDNAを含む試料が供給される複数の微小領域であるウエルを平面アレイ状に配置した試料容器の温度を制御する温度調整器と、
前記複数の微小領域の蛍光強度を計測する蛍光計測部と、
前記温度調整器及び前記蛍光計測部を制御する制御部と
を含み、
前記制御部は、
前記温度調整器を制御して前記試料容器の温度を上昇させ、前記試料容器内に生じる気泡を除去した後、前記温度調整器を制御して前記試料容器の温度を下降させながら前記複数の微小領域の蛍光強度を計測し、前記複数の微小領域の融解曲線を計測し、
前記蛍光計測部は、複数のフィルタを有し、前記複数のフィルタは、透過波長が互いに異なり、
前記制御部は、前記試料容器の温度を下降させながら前記複数の微小領域の蛍光強度を計測する際に、前記複数のフィルタを切り替えながら前記蛍光計測部により蛍光画像を撮像するよう構成され、
前記複数のフィルタの各々について蛍光計測を行って複数の融解曲線を取得するとともに、前記複数の融解曲線の微分曲線を取得し、前記融解曲線又は前記微分曲線の性状に従い、分析対象のDNAが前記微小領域に入っているか否かを判定し、
複数の前記融解曲線及び前記微分曲線を比較することにより、漏れ込み光の影響を判定する
ことを特徴とするデジタルPCR計測装置。
【請求項14】
試料内に含まれるDNAを検出するデジタルPCR計測装置であって、
蛍光標識プローブと検出対象のDNAを含む試料が供給される複数の微小領域であるウエルを平面アレイ状に配置した試料容器の温度を制御する温度調整器と、
前記複数の微小領域の蛍光強度を計測する蛍光計測部と、
前記温度調整器及び前記蛍光計測部を制御する制御部と
を含み、
前記制御部は、
前記温度調整器を制御して前記試料容器の温度を上昇させ、前記試料容器内に生じる気泡を除去した後、前記温度調整器を制御して前記試料容器の温度を下降させながら前記複数の微小領域の蛍光強度を計測し、前記複数の微小領域の融解曲線を計測し、
前記蛍光計測部は、複数のフィルタを有し、前記複数のフィルタは、透過波長が互いに異なり、
前記制御部は、前記試料容器の温度を下降させながら前記複数の微小領域の蛍光強度を計測する際に、前記複数のフィルタを切り替えながら前記蛍光計測部により蛍光画像を撮像するよう構成され、
前記複数のフィルタの各々について蛍光計測を行って複数の融解曲線を取得するとともに、前記複数の融解曲線の微分曲線を取得し、前記融解曲線又は前記微分曲線の性状に従い、分析対象のDNAが前記微小領域に入っているか否かを判定し、
融解温度よりも低温側の第1の温度における蛍光強度と、前記融解温度よりも高温側の第2の温度における蛍光強度との比又は差に基づき、分析対象のDNAが微小領域に入っているか否かを判定する
ことを特徴とするデジタルPCR計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルPCR計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルPCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)は、核酸を高感度に検出する技術であり、従来のリアルタイム定量PCRと比較して、低頻度な遺伝子変異を検出することができる。特許文献1には、デジタルPCRを用いたDNA検出方法として、DNAとDNAにハイブリダイズする蛍光標識プローブを含むドロップレットにおいて、DNAと蛍光標識プローブとの融解温度を測定するDNA検出方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、各々が個別に温度制御可能である複数の単一容器サーマルサイクラーを有する多容器サーマルサイクラーアレイで、反応液の温度勾配を低下させるか、又は、光学的検査を妨害し得る気泡をガス抜きするため、反応液を振動させることができる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-108063号公報
【文献】特表2010-508813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
デジタルPCRでは、検出対象のDNAを含む試料を多数の微小領域に分割し、各々の微小領域に対してPCRを行い、各微小領域内に存在するDNAの種類の判別を行う。特許文献1に示されているデジタルPCRでは、試料中の対象遺伝子と対象遺伝子にハイブリダイゼーションする蛍光標識プローブを用い、その融解曲線を計測して解析することで、対象遺伝子の種類を判別する。融解曲線を計測するため、蛍光標識プローブの蛍光強度の温度依存性の計測を行う。
【0006】
計測対象の遺伝子の種類は複数あり、例えば、野生型とその変異型の遺伝子を含む。融解曲線は対象遺伝子の種類と蛍光標識プローブにより異なるため、融解曲線を計測することで対象遺伝子の種類を判別することができる。しかし、変異型の遺伝子を計測する場合などは、その塩基配列が野生型の塩基配列と1塩基のみの差の場合もある。このため、融解曲線の差が小さく、高精度に遺伝子種類を判別するためには、高精度に蛍光強度や融解曲線を計測する必要がある。また、多数の遺伝子を同時に計測する場合には、よりバラつきを小さく計測することが重要となる。
【0007】
蛍光強度や誘拐曲線の計測精度を低下させる要因のひとつとして、気泡の存在が挙げられる。温度上昇時に試料付近に気泡が生じると、蛍光計測に影響を与え、融解曲線の計測精度、及び遺伝子種類の判別精度が低下する。また、複数の遺伝子種類を判別するためには、複数の波長の蛍光計測を行うが、蛍光標識プローブのスペクトルの拡がりにより、ある蛍光計測に別の波長の蛍光計測の光の漏れ込みが生じる。これらの状況においても、高精度に蛍光強度や融解曲線を計測することが重要となる。
【0008】
本発明は、このようなことに鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、気泡の影響を除去し、高精度に融解曲線を計測可能なデジタルPCR装置を提供することにある。本発明の前記並びにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るデジタルPCR計測装置は、試料内に含まれるDNAを検出するデジタルPCR計測装置であって、蛍光標識プローブと検出対象のDNAを含む試料が供給される複数の微小領域を含む試料容器の温度を制御する温度調整器と、前記複数の微小領域の蛍光強度を計測する蛍光計測部と、前記温度調整器及び前記蛍光計測部を制御する制御部とを含む。前記制御部は、前記温度調整器を制御して前記試料容器の温度を上昇させ、前記試料容器内に生じる気泡を除去した後、前記温度調整器を制御して前記試料容器の温度を下降させながら前記複数の微小領域の蛍光強度を計測し、前記複数の微小領域の融解曲線を計測することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、気泡の影響を除去して高精度に蛍光強度及び融解曲線計測ができ、高精度に遺伝子の種類を判別可能なデジタルPCR計測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施の形態に係るデジタルPCR計測装置の構成図である。
【
図2A】第1の実施の形態に係る試料容器の構成図の一例である。
【
図2B】第1の実施の形態に係る試料容器の構成図の一例である。
【
図3】第1の実施の形態に係るデジタルPCR計測装置を用いてDNAの種類を判別する際の計測手順を示すフローチャートである。
【
図4A】第1の実施の形態に係るデジタルPCR計測装置で得られる試料容器の蛍光計測画像の一例を示す。
【
図4B】第1の実施の形態に係るデジタルPCR計測装置で測定した融解曲線の一例である。
【
図4C】試料容器112において気泡が発生した状態を説明する概念図である。
【
図4D】試料容器112において気泡が発生した場合における融解曲線の一例である。
【
図5】蛍光計測画像の位置ズレの補正を行う方法を説明する概念図である。
【
図6】第2の実施の形態に係るデジタルPCR計測装置の構成図である。
【
図7】第3の実施の形態に係るデジタルPCR計測装置の構成図である。
【
図8】第3の実施の形態に係るデジタルPCR計測装置を用いてDNAの種類を判別する際の計測の手順を説明するフローチャートである。
【
図9A】第3の実施の形態に係るデジタルPCR計測装置で計測する際の温度変化と蛍光計測の手順を示すグラフである。
【
図9B】第3の実施の形態に係るデジタルPCR計測装置で計測する際の動作手順を説明するフローチャートである。
【
図10A】第3の実施の形態に係るデジタルPCR計測装置で計測した際の融解曲線及びその微分曲線の一例である。
【
図10B】第3の実施の形態に係るデジタルPCR計測装置で計測した際の融解曲線及びその微分曲線の一例である。
【
図10C】第3の実施の形態に係るデジタルPCR計測装置で計測した際の融解曲線及びその微分曲線の一例である。
【
図10D】第3の実施の形態に係るデジタルPCR計測装置で計測した際の融解曲線及びその微分曲線の一例である。
【
図10E】第3の実施の形態に係るデジタルPCR計測装置で計測した際の融解曲線及びその微分曲線の一例である。
【
図11A】第3の実施の形態に係るデジタルPCR計測装置で計測した結果の一例である。
【
図11B】第3の実施の形態に係るデジタルPCR計測装置で計測した結果の一例である。
【
図11C】第3の実施の形態に係るデジタルPCR計測装置で計測した結果の一例である。
【
図12A】第3の実施の形態に係るデジタルPCR計測装置で検出対象遺伝子を判別した結果としてのグラフの一例である。
【
図12B】第3の実施の形態に係るデジタルPCR計測装置で検出対象遺伝子を判別した結果としてのグラフの一例である。
【
図12C】第3の実施の形態に係るデジタルPCR計測装置で検出対象遺伝子を判別した結果としてのグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号又は対応する番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本開示の原理に則った実施形態と実装例を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示を限定的に解釈するために用いられるものではない。本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味においても限定するものではない。
【0013】
本実施形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0014】
以下の実施の形態においては、便宜上その必要があるときは、複数のセクション又は実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらは互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部又は全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも良い。
【0015】
また、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合及び原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。同様に、以下の実施の形態の説明において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似又は類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値及び範囲についても同様である。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0016】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態によるデジタルPCR計測装置の構成例を示す概略図である。第1の実施の形態のデジタルPCR計測装置は、一例として、光源101、レンズ102、103、104、ショートパスフィルタ105、ダイクロイックミラー106、ロングパスフィルタ107、CMOSセンサ108、温度調整器109、傾斜調整部110(気泡除去部)、コントローラ111(制御部)、計測対象である試料が供給される試料容器112、及び表示部としてのディスプレイ113を含む。
【0017】
光源101から照射された光は、レンズ102によって平行光とされる。ショートパスフィルタ105は、平行光とされた光のうち、所定の波長の光のみを選択的に透過させる。ショートパスフィルタ105を通過した光は、ダイクロイックミラー106で反射された後、レンズ103を通過して試料容器112に照射される。試料からの蛍光は、レンズ103、ダイクロイックミラー106、ロングパスフィルタ107、及びレンズ104からなる蛍光撮像系により導光されCMOSセンサ108の撮像面に入射する。これにより、試料の画像がCMOSセンサ108において撮像される。CMOSセンサ108が取得した画像信号は、コントローラ111に出力される。
【0018】
コントローラ111は、内蔵される画像解析用プログラムに従い画像を解析し、その結果をディスプレイ113に出力する。上記の蛍光撮像系、及びCMOSセンサは、試料容器112中の複数の微小領域の蛍光強度を計測する蛍光計測部を構成する。コントローラ111は、温度調整器109及びCMOSセンサ108に対し、本実施の形態の計測動作に必要な制御信号を出力し、またCMOSセンサ108からの撮像信号に対し所定の信号処理を実行して撮像画像を解析する機能を有する。以下で詳細に説明するように、コントローラ111は、温度調整器109を制御して試料容器112の温度を昇温し、試料容器112内に生じる気泡を除去した後、温度調整器109を制御して試料容器112の温度を下降させながら複数の微小領域の蛍光強度を計測し、複数の微小領域の融解曲線を計測する。ディスプレイ113は、コントローラ111において実行される計測の結果を、数値又はグラフ等により表示する。
【0019】
試料容器112は温度調整器109上に設置される。温度調整器109は、コントローラ111からの指令に従い試料容器112の温度を制御する。温度調整器109は、ヒータ、ペルチェ素子から構成されるが、これに限るものではない。また、温度調整器109には、傾斜調整部110が設置されている。傾斜調整部110は、温度調整器109及び試料容器112の水平面に対する傾斜角を調整可能に構成されている。傾斜角が調整されることにより、試料容器112内で発生した気泡が試料容器112から除去される。なお、傾斜調整部110は、気泡除去のための構成の一例であり、これに限定されるものではない。例えば、気泡除去部として、試料容器112に振動を与える振動子を設けてもよい。試料容器112に振動が与えられることにより、気泡は試料容器112の外部に除去される。或いは、気泡除去部は、試料容器112内の液体に流動を与えて気泡を撮像範囲外に移動させる流動発生手段であってもよい。
【0020】
図2A及び
図2Bを参照して、第1の実施の形態の試料容器112(112a、112b)の構成例を説明する。
図2Aに示す試料容器112aは、ドロップレット202、203、…を平面配置する構成を有する試料容器である。試料容器112aはドロップレットをトラップする構造を持つ。あるいは、ドロップレットをドロップレットの直径と同程度の高さを持つ空間に密に配置する構成でもよい。いずれの構成においても、試料容器のいずれかの方向から蛍光計測が可能な材質によりドロップレットは配置される。また、容器内でドロップレットの周囲はオイル204で満たされる。オイルはフッ素系オイル、ミネラルオイルなどを含むが、これに限るものではない。この試料容器112aでは、ドロップレットにより試料が複数の微小領域に分割して配置される。
【0021】
また、
図2Bに示す試料容器112bは、ドロップレットではなく、アレイ状に配列したウエルを用いて、試料を分割する構成を有する試料容器である。10~100μm程度のサイズのウエル206、207、…を多数マトリクス状に配置し、それぞれのウエルに計測対象である遺伝子を含む試料が投入される。試料が投入されたウエルは、
図2Aの試料容器112aと同様に、オイル204によって満たされる。ウエルの数は数万個から数百万個であり、投入される検出対象のDNAの数に対して十分多い数であることが望ましい。試料を投入した際には、DNAが入っているウエル(206)と入っていないウエル(207)が存在することになる。この試料容器112では、複数のウエルにより試料が複数の微小領域に分割して配置される。
【0022】
図3のフローチャートを参照して、第1の実施の形態のデジタルPCR計測装置を用いてDNAの種類を判別する際の計測手順を説明する。
最初に、検出対象の遺伝子を含む試料(サンプル)を試料容器112中において複数の微小領域に分割して投入する(ステップ301)。その後、当該複数の微小領域の各々においてPCRによりDNAを増幅する(ステップ302)。DNAを増幅した後、試料容器112を搭載した温度調整器109を制御し、試料の温度を上昇させる(ステップ303)。このとき、試料及び試料容器112の温度上昇に伴い、試料容器112内には気泡が発生する。この気泡は、オイルに溶解していた気体が温度上昇に伴い発生する場合、試料容器112中の材料が気化する場合、元々オイル204や試料中に含まれていた気泡が温度上昇により膨張する場合などが含まれるが、これに限定されるものではない。このステップ303での温度上昇は、融解曲線を正確に計測する観点から、検出対象のDNAと蛍光標識プローブとの融解温度よりも、5℃以上高い温度に設定するのが好適である。
【0023】
ステップ303において温度上昇させた後、又は、ステップ303において温度を上昇させながら、試料容器112内に生じた気泡を除去する(ステップ304)。気泡除去は、前述のように、傾斜調整部110により試料容器112を傾けるか、または試料容器112を振動させるなどの手段により実施する。
その後、温度調整器109により試料の温度を下降させながら、試料の蛍光画像を計測する(ステップ305)。そして、蛍光画像から各微小領域の蛍光強度、及び、その温度依存性である融解曲線を算出し(ステップ306)、各微小領域内のDNAの種類を判別する(ステップ307)。具体的には、CMOSセンサ108において、試料の温度を下降させながら所定の時間間隔で複数の蛍光画像を取得する。そして、その複数の画像の微小領域毎に、蛍光強度の時間変化を特定することで、融解曲線を算出する。なお、ステップ305での温度下降の早さ(傾き)は、ステップ303での温度上昇の早さよりも小さくするのが好適である(後述する
図9Aの符号801及び803を参照)。
【0024】
図4Aは、本実施の形態のデジタルPCR計測装置に係る試料容器の蛍光画像の一例を示す模式図である。試料容器112中の複数の微小領域に試料が分割されて投入された状態で蛍光画像を撮像すると、蛍光標識プローブによる蛍光が撮像される。検出対象DNAが含まれる微小領域は、低温で蛍光強度が強く、高温では弱くなる。一方、検出対象DNAが含まれない微小領域は、蛍光強度が相対的に低い。
【0025】
図4Bは、第1実施の形態に係るデジタルPCR計測装置を用いて計測した融解曲線の一例を示す模式図である。試料の温度を下降させながら蛍光計測を実施することで蛍光強度の温度依存性を示すグラフを取得することができる。蛍光標識プローブ405は、両端又はその近傍に蛍光色素406とそのクエンチャ407を有し、両端周辺の配列が相補的になっており、モレキュラービーコンのようなステムループ構造を形成する。また、ループ部分の配列がテンプレートDNA404と相補的になっており、テンプレートDNA404にハイブリダイズできるような構造を有するように設計される。蛍光標識プローブ405は、単独で遊離して存在するとき、ステムループを形成し、蛍光色素406とクエンチャ407が近接しているため、蛍光は発しない。テンプレートDNA404と蛍光標識プローブ405のループ部分がハイブリダイズすると、蛍光色素406とクエンチャ407が離れるため、蛍光標識プローブ405は蛍光を発する。試料の温度が高く、DNA404と蛍光標識プローブ405が解離すると、蛍光標識プローブ405内でステムループが形成されるため蛍光強度が低下する。このため、温度を下降させながら蛍光強度を計測すると蛍光強度が上がる様子が取得できる。
【0026】
融解曲線を計測する際には試料の温度が温度調整器109により変化するため、試料容器112内に気泡が生じ得る。
図4Cは、試料容器112内に気泡が生じた場合の蛍光画像の模式図の一例を示す。気泡(403a~c)がある場合には、その表面などでの光の散乱などにより照射光の強度や、蛍光標識プローブからの蛍光の強度に影響が生じ、蛍光画像が影響を受ける。デジタルPCRでは、試料を試料容器中で多数の微小領域(ドロップレット、又はウエル)に分割するため、各々の微小領域の大きさは小さく、その容量はピコリットルからナノリットルの単位である。気泡の大きさが各々の微小領域よりも大きい場合もあり、気泡により覆われた領域や気泡の縁に位置する領域では、その微小領域から発せられる蛍光強度が気泡の影響を受ける。
図4Dは、ある領域が気泡の影響を受けた場合の融解曲線409の一例である。この曲線では、気泡が生じた温度付近(
図4Dの符号410)において蛍光強度が低下し、融解曲線409がこの影響を受ける。このため、蛍光強度を正確に計測することができない。このような場合は融解温度算出の誤差になり、遺伝子種類の誤判別につながる場合もある。
【0027】
このため、第1の実施の形態に係るデジタルPCR計測装置では、試料を試料容器112に投入した後、一旦試料の温度を温度調整器109等を用いて上昇させて気泡を生じさせ、その気泡を除去した後、温度調整器109等により温度を下降させながら蛍光画像を計測する。これにより、蛍光画像計測中には試料容器112中での気泡の発生を抑制することができ、融解曲線算出時に気泡の影響を低減することができる。このため、高精度に融解曲線を算出することができる。また、融解温度を高精度に求めることができ、対象遺伝子の種類を高精度の検出することができる。
【0028】
具体的には、例えば、まず試料容器112中の試料の温度を例えば85℃まで上昇させて気泡を生じさせ、その後傾斜調整部110を用いて気泡を除去する。気泡の除去は、所定の時間経過をもって完了とさせてもよいし、試料の画像を撮像して気泡の除去が完了したかを計測してもよい。
【0029】
その後、試料の温度を下降させながら蛍光標識プローブを用いて蛍光画像を計測する。具体的には、例えば、85℃から50℃まで試料の温度を下降させながら、約0.2℃に一度蛍光画像を撮像する。この温度範囲は、対象となるDNAと蛍光標識プローブの融解温度により決定され得る。すなわち、計測すべき融解温度よりもマージンをもって高い温度に試料の温度を一度上昇させ、計測すべき融解温度よりも低い温度まで計測を行う。
【0030】
なお、温度変化させるため試料容器112や温度調整器109の熱膨張などの影響により、各温度で撮像した画像には位置ずれが生じる。本実施の形態のコントローラ111は、
図5に示すように、取得した複数の画像から各微小領域の位置を認識し、対応する微小領域の間の位置ずれ(ΔX,ΔY)を検出する。コントローラ111は、この位置ずれを補正して、複数の画像の間において各微小領域の位置を追跡し、融解曲線を算出する機能を含むことができる。また、蛍光画像から得た融解曲線は計測ノイズ、位置ずれノイズ等を含むため、デジタルフィルタを用いてノイズを除去し、融解温度を算出することもできる。
【0031】
なお、蛍光標識プローブは、モレキュラービーコンに限られるものではなく、DNAインターカレーターであってもよい。また、光源としては、ハロゲンランプ、LED光源、レーザー光源などを含み得るが、特定のものには限定されない。また、撮像素子はCMOSセンサ108に限らず、CCDを用いたカメラでもよい。また、2次元撮像素子に限らず、1次元ラインセンサやフォトマルであってもよい。なお、
図1に示した光学系の構成は一例であって、これに限定されるものではない。光学系中のレンズやフィルタも、特定の構造のものには限られず、試料に励起光を照射し、蛍光を計測可能であればよい。また、ショートパスフィルタやロングパスフィルタが特定の波長の光を通すバンドパスフィルタであってもよい。ダイクロイックフィルタはハーフミラーであってもよい。
【0032】
以上説明したように、この第1の実施の形態のデジタルPCR計測装置によれば、気泡の影響を除去して高精度に蛍光強度及び融解曲線を計測することができ、高精度に遺伝子の種類を判別することができる。
【0033】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係るデジタルPCR計測装置について、
図6を参照して説明する。
図6において、第1の実施の形態(
図1)と同一の構成要素については同一の符号を付しているので、重複する説明は省略する。この第2の実施の形態では、気泡除去部として、試料容器112を水平面に対して傾けて保持可能に構成された傾斜台501が設けられている。換言すれば、この傾斜台501は、定常的に試料容器112を水平面に対し傾斜させた状態で保持するよう構成されている。この点、第1の実施の形態の傾斜調整部110が、計測動作の途中において試料容器112の傾斜角を変化させるよう構成されているのと異なっている。この第2の実施の形態の気泡除去部においても、試料容器112を水平面に対し傾けて配置可能とすることにより、試料容器112中で気泡が生じた際に、気泡が重力方向の上方に移動し、蛍光撮像の範囲から気泡を除外することができる。傾斜台501の傾斜角度が図示しない傾斜調整機構により更に調整可能になっていてもよいことは言うまでもない。なお、
図6の例では、温度調整器109自体が傾斜した状態で傾斜第501により保持され、その温度調整器109の上面に試料容器112が保持され場合を示している。
【0034】
また、この第2の実施の形態のデジタルPCR計測装置では、レンズ103、ダイクロイックミラー106、ロングパスフィルタ107、レンズ104からなる蛍光撮像系は、傾斜した試料容器112に対しその光軸が垂直となるよう配置されている。すなわち、蛍光撮像系は、試料容器112の水平面に対する傾きに合わせて、水平面に対して傾斜した光軸を有する。そして、CMOSセンサ108の撮像面も、この蛍光撮像系の傾斜方向に合わせて傾斜して配置されている。また、光源101からの光を投影する投影光学系(レンズ102、ショートパスフィルタ105)も、この蛍光撮像系の傾斜方向に合わせて傾斜されている。
【0035】
この第2の実施の形態の構成によっても、試料の温度を上昇させた場合に試料容器112内に気泡が発生した際に、気泡を試料容器112内の上方(重力方向に関し)に移動させ、蛍光撮像範囲から気泡を除外することができ、高精度な撮像と融解曲線計測が可能となる。傾斜台501が試料容器112を傾ける角度は、気泡が試料容器112内を移動でき、かつ試料の微小領域がオイルに満たされている状態を保てる角度が望ましい。具体的には水平面に対して10°~20°程度の範囲で試料容器112を傾けることができる。
【0036】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態に係るデジタルPCR計測装置について、
図7乃至
図12Cを参照して説明する。
図7は第3の実施の形態に係るデジタルPCR計測装置の構成図である。
図7において、第1の実施の形態(
図1)と同一の構成要素については同一の符号を付しているので、重複する説明は省略する。この第3の実施の形態のデジタルPCR計測装置は、ショートパスフィルタ105、ダイクロイックミラー106、ロングパスフィルタ107を含むフィルタセット(601、602)を複数有し、これらを選択的に蛍光撮像系に挿入し、複数のフィルタを用いた傾向計測を実行し、複数種類の融解曲線を取得可能に構成されている。
図7では一例として、2種類のフィルタセット601及び602が備えられているが、フィルタセットの数は2に限定されるものではなく、3以上であってもよいことは言うまでもない。フィルタセット601は、ショートパスフィルタ105a、ダイクロイックミラー106a、ロングパスフィルタ107aを一体として1つの筐体内に一体的に保持している。また、フィルタセット602は、ショートパスフィルタ105b、ダイクロイックミラー106b、ロングパスフィルタ107bを一体として1つの筐体内に一体的に保持している。
【0037】
フィルタセット601及び602は、図示しない移動機構により、矢印603に示されるように光路に挿入又は離脱される。フィルタセット601と602はそれぞれ異なる蛍光色素の蛍光計測に対応し、ショートパスフィルタ105aと105bは透過波長が異なる。具体的には、蛍光色素として、FAM、VIC、ROX、Cy3、Cy5などに対応した励起光、蛍光のフィルタセットを用いることができる。なお、
図7では、気泡除去部として傾斜調整部110を設けているが、これに替えて、傾斜台501、又は他の気泡除去部を設けても良いことは言うまでもない。
【0038】
図8のフローチャートを参照して、第3の実施の形態のデジタルPCR計測装置における計測の手順を示す。こでは2種のフィルタセット601、602を交互に切り替えて使用し、12種の蛍光計測(蛍光計測A及び蛍光計測B)を実施する例を説明する。まず、試料を試料容器112に複数の微小領域に分割して投入し(ステップ701)、当該複数の領域の各々においてPCRによりDNAを増幅する(ステップ702)。DNAを増幅させた後、試料容器112をデジタルPCR計測装置にセットし、温度調整器109により温度を上昇させ(ステップ703)、傾斜調整部110により試料容器112内に発生した気泡を除去する(ステップ704)。その後、温度調整器109により試料の温度を下降させながら、複数のフィルタセット(601、602)を切り替えながら蛍光画像を計測する(ステップ705)。撮像した蛍光画像から融解曲線を算出し、融解温度を計算する(ステップ706)。各微小領域において、各々の蛍光色で、蛍光強度の情報を用いて各微小領域内にDNAが入っていたか(ポジティブ)、入っていなかったか(ネガティブ)を判定する(ステップ707)。算出した融解温度と予め用意しておいた融解温度のデータベースとに基づいて、遺伝子の種類が判定される(ステップ708)。
【0039】
各領域のDNAがポジティブかネガティブかの判定においては、蛍光強度の情報が利用されるが、この際、融解温度よりも低温な温度での蛍光強度と、融解温度よりも高温な温度での蛍光強度との比を用いることにより、照射光強度の影響の除去が可能である。または、融解温度よりも低温な温度での蛍光強度と、融解温度よりも高温な温度での蛍光強度との差を用いることも可能である。具体的には、例えば、50℃での蛍光強度から85℃での蛍光強度を減算すると、蛍光標識プローブ自体の蛍光の影響、すなわち、バックグラウンドの影響を除去することができる。
【0040】
図9A及び
図9Bを参照して、
図8のステップ705の動作を更に詳細に説明する。
図9Aは、試料の温度の時間変化を示す曲線と、蛍光計測(A又はB)の実施のタイミングを説明するグラフである。また、
図9Bは、動作の手順を示すフローチャートである。
まず、温度調整器109により試料の温度を上昇させる(
図9Aの曲線801)。試料の温度が初期温度t
iniまで上昇すると、試料容器112内に気泡が発生する。初期温度t
iniは、融解曲線計測を行う上限温度t
maxよりも大きい温度に設定される。この気泡を、傾斜調整部110を用いて除去する。その後、気泡が除去されるまで所定時間待機した後(
図9Aの符号802)、試料の温度を下降させながら(
図9Aの曲線803)、蛍光計測を行う。このとき、蛍光計測は、フィルタセット601に対応する蛍光計測Aと、フィルタセット602に対応する蛍光計測Bとが交互に繰り返し行われる。実行のタイミング及び回数は、
図9Aに示すものには限定されるものではない。
【0041】
図9Bは、温度設定に関する手順を示したフローチャートである。初期温度を設定し(ステップ804)、更に計測温度が設定されると(ステップ806)、蛍光計測Aと蛍光計測Bとが最終温度に達するまで繰り返される(ステップ807と808)。最終温度に達すると、測定は終了する(ステップ805)。
【0042】
上記の実施の形態では、フィルタセットを切り替えているが、フィルタセットを切り替えることに替えて、又はこれに加えて、光源を切り替えてもよい。また、フィルタセットすべてを切り替えるのではなく、フィルタセット中の一部のフィルタのみを切り替える構成でもよい。具体的には、例えば、励起光は同じ波長の光を照射し、蛍光撮像時のロングパスフィルタ107のみを切り替える構成も採用可能である。
【0043】
図10A~
図10Eに、各微小領域について得られた2つの融解曲線、及びその微分曲線の例を示す。いずれも、蛍光色素Aにより修飾された蛍光標識プローブにハイブリダイゼーションするDNA Aと、蛍光色素Bにより修飾された蛍光標識プローブにハイブリダイゼーションするDNA Bとが存在し得る場合の例を示している。
【0044】
図10Aは、DNA Aがポジティブである微小領域の融解曲線901、902及びその微分曲線903、904の一例である。このような融解曲線及び微分曲線は、ディスプレイ113の表示画面に表示したり、又は図示しないプリンタ等によって出力することもできる。
【0045】
コントローラ111は、温度調整器109を制御して試料の温度を一旦上昇させ、その後下降させながら蛍光計測部を用いて計測をすることにより、融解曲線901、902を取得する。また、融解曲線901、902の微分曲線903、904を求めることで、そのピーク位置から融解温度を算出する。
【0046】
DNA Aがポジティブであった場合の融解曲線から融解温度を算出し、DNAの種類を算出することができる。一方、蛍光スペクトルには拡がりがあり、蛍光計測Aと蛍光計測Bの間には漏れ込みがあるため、DNA Bがネガティブであるにもかかわらず、融解曲線が計測できたかのように見える。このような場合、複数の融解曲線の比較、及び微分曲線の性状(強度、ピーク位置、形状など)から、ある曲線は漏れ込み光によるものであり、当該DNAはネガティブと判定することができる。
図10Aの場合、曲線901、902のみを見る限り、DNA A、DNA Bともポジティブのように見えるが、微分曲線903、904に目を移すと、微分曲線903、904はいずれも略同一の温度にてピークに達している。このため、DNA Aのみがポジティブであり、一方微分曲線904に係るDNA Bはネガティブであると判断することができる。
【0047】
また、
図10Bは、DNA Bがポジティブであった場合の融解曲線の例である。融解曲線906から漏れ込んだ光が融解曲線905により観察されているため、DNA Aはネガティブであると判定することができる。
【0048】
図10Cは、DNA Aがポジティブであり、DNA Bはネガティブである場合の融解曲線の別の例である。デジタルPCRでは、PCR増幅効率に関し複数の微小領域の間においてバラつきが生じ、蛍光強度が低い微小領域が生じることがある。例えば、
図10Cの融解曲線910の蛍光強度は、別の微小領域の漏れ込みによる融解曲線905と同程度の蛍光強度の曲線となっているが、融解曲線909との相対的な強度の比較、及び、融解温度の共通性から、DNA Aがポジティブであると判定することができる。
【0049】
図10Dは、DNA A及びDNA Bがともにポジティブである融解曲線の例である。蛍光計測A、Bにより、2種類の異なる融解曲線913、914が得られ、その微分曲線915、916が得られる。微分曲線915、916のピーク位置から、DNA A及びDNA Bの融解温度が得られる。微分曲線915、916のピーク位置が異なることから、計測対象の1つの微小領域に2種類のDNA(DNA A、DNA B)が入っていたと判定することができる。一方、
図10Eは、DNA A、DNA Bが共にネガティブである融解曲線の例である。
【0050】
図11A~
図11Cは、第3の実施の形態のデジタルPCR計測装置を用いて2種類の遺伝子(野生型及びその変異型)を計測し、分類した結果のグラフの例である。このようなグラフは、ディスプレイ113の表示画面に表示したり、又は図示しないプリンタ等によって出力することもできる。
【0051】
図11A~
図11Cは、変異型遺伝子は蛍光色素Aで修飾された蛍光標識プローブとハイブリダイゼーションし、野生型遺伝子は、蛍光色素Bで修飾された蛍光標識プローブとハイブリダイゼーションした場合を示している。また、野生型遺伝子と変異型遺伝子では融解温度が異なる。
2種類のフィルタセットを切り替えて複数の微小領域について蛍光強度A及び蛍光強度Bを計測すると、各微小領域は、
図11Aの如くプロットされる。プロットは、以下の(1)~(4)の4つのプロット群に分かれ得る。
(1)DNAがネガティブであると判定される微小領域のプロット群1001a
(2)野生型遺伝子を含むと判定される微小領域のプロット群1002a
(3)変異型遺伝子を含むと判定される微小領域のプロット群1003a
(4)野生型遺伝子及び変異型遺伝子の両方を含むと判定される微小領域のプロット群1004a
【0052】
また、蛍光色素A、蛍光色素Bに基づく2色の融解曲線から2つの融解温度(融解温度A及び融解温度B)を算出することができる。
図11Bは、各微小領域で計測された蛍光強度Aと融解温度Aの関係を示すグラフである。また、
図11Cは、各微小領域で計測された蛍光強度Bと融解温度Bの関係を示すグラフである。
【0053】
図11B及び
図11Cに示すように、DNAがネガティブと判定される微小領域は、プロット群1001b、1001c付近にプロットされる。DNAがネガティブと判定される微小領域は、測定の結果得られる蛍光強度が低く、また融解曲線が殆ど温度依存性を持たないため、融解温度は不定となる。このため、プロット群1001b、1001cは、縦軸方向に広範囲にばらついたプロットとなる。
【0054】
一方、変異型遺伝子を含む微小領域は、蛍光強度Aについては高い値が検出され(1003b)、しかも特定の融解温度Aを付近において多数のプロットが得られる。また、野生型遺伝子を含む微小領域は、蛍光強度Bについては高い値が検出され(1002c)、しかも特定の融解温度B付近において多数のプロットが得られる。
【0055】
なお、野生型遺伝子を含む微小領域は、蛍光色素Bにより修飾されているので、蛍光強度Aについては低い値となる筈であるが、隣接する領域からの蛍光色素Aに基づく漏れ込み光により、蛍光強度Aの値がプロット群1001bと比較して大きくなるプロット群1002bが観察される。しかしながら、このプロット群1002bの蛍光強度Aは、前述のプロット群1002cの蛍光強度Bと比較して相対的に小さい。このため、プロット群1002bは、漏れ込み光の影響によるプロット群であると判別できる。
【0056】
さらに、変異型遺伝子及び野生型遺伝子の両方が含まれる微小領域は、蛍光温度Aと溶解温度Aとのグラフにおいて、変異型遺伝子を含む微小領域についてのプロット群1003bと同様な個所1004bにプロットされる。また、蛍光温度Bと溶解温度Bとのグラフにおいては、野生型遺伝子を含む微小領域についてのプロット群1002cと同様な個所1004cにプロットされる。このように、第3の実施の形態によれば、複数の蛍光強度と複数の融解温度を組み合わせることにより、遺伝子の種類を高精度に判別することができる。
【0057】
また、蛍光色と融解温度の組み合わせにより多数種類の遺伝子を同時に判別することができる。
図12Aに、複数の種類の遺伝子をターゲットとし、本実施の形態に係るデジタルPCR計測装置で遺伝子の種類を判別した結果のグラフの例を示す。このようなグラフは、ディスプレイ113の表示画面に表示したり、又は図示しないプリンタ等によって出力することもできる。
【0058】
図12Aのグラフは、蛍光強度A、蛍光強度B、及び、融解温度を3次元座標の各軸としている。蛍光色素Aにより修飾されたプローブとハイブリダイゼーションし、融解温度が異なる3種類の遺伝子(1101、1102、1103)と、蛍光色素Bにより修飾されたプローブとハイブリダイゼーションする2種類の遺伝子(1101、1105)を分類できていることが分かる。また、
図12Bに示すように、2次元座標において、蛍光強度Aと蛍光強度Bの比、及び融解温度をそれぞれ横軸と縦軸に与えた場合であっても、上記と同様に多数の遺伝子を同時に判別することが可能である。
【0059】
なお、本実施の形態では2種類のフィルタセットを切り替え、2色で計測する例を説明したがこれに限るものではない。3種類や4種類、それ以上のフィルタセットを切り替えて計測を行ってもよい。
図12Cは、3種類の蛍光色素を用いた場合を示している。
図12Cに示すように、蛍光強度、蛍光色、融解温度を3次元座標の各軸に与えることにより、複数種類の遺伝子を、変異型か、野生型かも含めて判別することが可能となる。
【0060】
[その他]
本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0061】
101…光源
102、103、104…レンズ
105…ショートパスフィルタ
106…ダイクロイックミラー
107…ロングパスフィルタ
108…CMOSセンサ
109…温度調整器
110…傾斜調整部
501…傾斜台
111…コントローラ
112…試料容器
113…ディスプレイ
202、203…ドロップレット
204…オイル
206、207…ウエル
403…気泡
601、602…フィルタセット
901、902、905、906、909、910、913、914、917、918…融解曲線
903、904、907、908、911、912、915、916、919、920…微分曲線
1001a~c、1002b~c、1003a~c、1004a~c、1101~1105…プロット群