(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】全固体型二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20221026BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20221026BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20221026BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20221026BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20221026BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20221026BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20221026BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20221026BHJP
H01B 1/10 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0562
H01M4/38 Z
H01M4/58
H01M4/36 E
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01B1/06 A
H01B1/10
(21)【出願番号】P 2017162124
(22)【出願日】2017-08-25
【審査請求日】2020-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】598045058
【氏名又は名称】株式会社サムスン日本研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】516141989
【氏名又は名称】カールスルーエ インスティチュート フューア テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 清太郎
(72)【発明者】
【氏名】相原 雄一
(72)【発明者】
【氏名】ウリッシ ウルデリコ
(72)【発明者】
【氏名】バルジ アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】パセリーニ ステファノ
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/098614(WO,A1)
【文献】特開2013-254620(JP,A)
【文献】特開2013-016423(JP,A)
【文献】特表2015-503837(JP,A)
【文献】特開2016-219223(JP,A)
【文献】国際公開第2015/030053(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 10/0562
H01M 4/38
H01M 4/58
H01M 4/36
H01M 4/13
H01M 4/62
H01B 1/06
H01B 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置された固体電解質層と、を備え、
前記正極層は、硫黄含有正極活物質と、導電性炭素材料と、を含み、
前記硫黄含有正極活物質は、単体硫黄と、1種以上の遷移金属二硫化物とを含
み、
前記正極層において、前記単体硫黄と前記1種以上の遷移金属二硫化物とが以下の式(1):
0.5<(1種以上の遷移金属二硫化物の含有量(質量%))/(単体硫黄の含有量(質量%))<8 ・・・(1)
を満足するものであり、
前記正極層は、さらに硫黄系固体電解質を含み、
前記硫黄系固体電解質は、ハロゲン添加硫黄系固体電解質を含み、
前記硫黄系固体電解質は、Li
3
PS
4
構造を有する、
全固体型二次電池。
【請求項2】
前記1種以上の遷移金属二硫化物が、二硫化鉄を含む、請求項1に記載の全固体型二次電池。
【請求項3】
前記正極層は、前記硫黄含有正極活物質を1.0mg/cm
2超含む、請求項1又は2に記載の全固体型二次電池。
【請求項4】
前記正極層における前記硫黄含有正極活物質の含有量が10.0mg/cm
2以下である、請求項3に記載の全固体型二次電池。
【請求項5】
前記導電性炭素材料の比表面積が、1000m
2/g以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の全固体型二次電池。
【請求項6】
前記導電性炭素材料の比表面積が、6000m
2/g以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の全固体型二次電池。
【請求項7】
前記導電性炭素材料が活性炭を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の全固体型二次電池。
【請求項8】
前記ハロゲン添加硫黄系固体電解質には、ハロゲン化物が添加されており、当該ハロゲン化物は、LiX(ただし、XはCl、BrまたはI)である、請求項1~7のいずれかに記載の全固体型二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体型二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
正極活物質に硫黄系化合物を用いるリチウム硫黄二次電池(Li-S電池)はその大きな理論比容量(1650mAh/g)から、次世代蓄電池候補として期待されている電池系である。
【0003】
しかしながら、電解液を用いた場合、充放電過程で生成される活物質の中間体であるポリサルファイド(LixSy)が電解液に溶解してしまう。したがって、電解液を用いたLi-S電池では、容量のロスとサイクル特性の急劣化が大きな課題となっている。
【0004】
一方で、全固体型のLi-S電池は電池構成材料が全て固体であるため、上記のポリサルファイドの溶解が原理的に生じない。そのため、全固体型のLi-S電池では、これまでの電解液を用いるLi-S電池では得られなかった非常に高いクーロン効率とそれに伴う優れたサイクル特性が得られる(例えば非特許文献1)。
【0005】
全固体型のLi-S電池としては、特許文献1に、カソードにFeSおよびSを用いたリチウム全固体電池が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】「The electrochemical characteristics and applicability of an amorphous sulfide-Based solid ion conductor for the next-generation solid-state lithium secondary Batteries」、Frontiers In Energy Research、4巻、Article18、2016年5月13日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の全固体型Li-S電池においては、電解液を用いるLi-S電池と比較して、十分な電子伝導・イオン伝導が得られない。したがって、従来の全固体型Li-S電池においては、単位面積当たりの硫黄の担持量を大きくすることができないという問題があった。
【0009】
例えば、電解液を用いたLi-S電池では最大で20mg/cm2の硫黄の担持での動作が報告されている。一方、従来の全固体型Li-S電池では1mg/cm2においては十分な特性を示すが、4mg/cm2、5mg/cm2といった高い担持量においてはその比容量は急激に劣化してしまう。
【0010】
そこで、本発明の目的は、比較的多量の正極活物質を担持した場合においても比容量の大きな全固体型二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置された固体電解質層と、を備え、
前記正極層は、硫黄含有正極活物質と、導電性炭素材料と、を含み、
前記硫黄含有正極活物質は、単体硫黄と、1種以上の遷移金属二硫化物とを含む、全固体型二次電池を提供する。
【0012】
本発明によれば、比較的多量の正極活物質を担持した場合においても比容量の大きな全固体型二次電池を提供することができる。
【0013】
前記1種以上の遷移金属二硫化物は、二硫化鉄を含んでもよい。
【0014】
この観点によれば、全固体二次電池の比容量をより一層大きくすることができる。
【0015】
前記前記正極層において、前記単体硫黄と前記1種以上の遷移金属二硫化物とが以下の式(1):
0<(1種以上の遷移金属二硫化物の含有量(質量%)/(単体硫黄の含有量(質量%))<8 ・・・(1)
を満足してもよい。
【0016】
この観点によれば、全固体二次電池の比容量をより一層大きくすることができる。
【0017】
前記正極層は、前記硫黄含有正極活物質を1.0mg/cm2超含んでもよい。
【0018】
この観点によれば、このように多量の活物質を担持した場合であっても、全固体二次電池の比容量を大きくすることができる。
【0019】
前記正極層における前記硫黄含有正極活物質の含有量は、10.0mg/cm2以下であってもよい。
【0020】
この観点によれば、比較的多量の正極活物質を担持した場合においても比容量の大きな全固体型二次電池を提供することができる。
【0021】
前記導電性炭素材料の比表面積が、1000m2/g以上であってもよい。
【0022】
この観点によれば、正極層における電子伝導性を向上させることができる。
【0023】
前記導電性炭素材料の比表面積は、6000m2/g以下であってもよい。
【0024】
この観点によれば、比較的多量の正極活物質を担持した場合においても比容量の大きな全固体型二次電池を提供することができる。
【0025】
前記導電性炭素材料は、活性炭を含んでもよい。
【0026】
この観点によれば、正極層における電子伝導性を向上させることができる。
【0027】
前記正極層は、さらに硫黄系固体電解質を含んでもよい。
【0028】
この観点によれば、正極層におけるイオン伝導性を向上させることができる。
【0029】
前記硫黄系固体電解質は、Li3PS4構造を有してもよい。
【0030】
この観点によれば、正極層におけるイオン伝導性を向上させることができるとともに、全固体二次電池の比容量を向上させることができる。
【0031】
前記硫黄系固体電解質は、ハロゲン添加硫黄系固体電解質を含んでもよい。
【0032】
この観点によれば、正極層におけるイオン伝導性を向上させることができるとともに、全固体二次電池の比容量を向上させることができる。
【0033】
前記ハロゲン添加硫黄系固体電解質には、ハロゲン化物が添加されており、当該ハロゲン化物は、LiX(ただし、XはCl、BrまたはI)であってもよい、
【0034】
この観点によれば、正極層におけるイオン伝導性を向上させることができるとともに、全固体二次電池の比容量を向上させることができる。
【発明の効果】
【0035】
以上説明したように本発明によれば、比較的多量の正極活物質を担持した場合においても比容量の大きな全固体型二次電池を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の一実施形態に係る全固体型二次電池の層構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】実施例1および比較例2に係る全固体二次電池の充放電試験後の正極合剤のX線回折結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0038】
<2.全固体型二次電池の構成>
以下では、
図1を参照して、本実施形態に係る全固体型二次電池の具体的な構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る全固体型二次電池1の層構成を模式的に示す断面図である。
【0039】
図1に示すように、全固体二次電池1は、正極層10と、負極層20と、正極層10および負極層20の間に位置する固体電解質層30とが積層された構造を備える。
【0040】
[正極層]
正極層10は、硫黄含有正極活物質を含む正極活物質と、導電性炭素材料を含む導電と、を含む。また、本実施形態において、正極層10は、固体電解質をさらに含む。
【0041】
(正極活物質)
上述したように正極層10は、正極活物質として、硫黄含有正極活物質を含む。ここで、硫黄含有正極活物質は、単体硫黄と、1種以上の遷移金属二硫化物とを含む。これにより、本実施形態に係る全固体型二次電池1は、比較的多量の正極活物質を担持した場合においても、比容量が大きくなる。
【0042】
すなわち、単体硫黄を初めとする活物質としての硫黄化合物は、一般的に絶縁体であるか、あるいはイオン伝導性・電子伝導性を十分には有していない。しかしながら、本実施形態においては、遷移金属二硫化物中の遷移金属成分により、イオン伝導性および電子伝導性が十分に確保される。このため、遷移金属二硫化物は、単体硫黄と比較してその理論容量自体は小さいものの、結果的に全固体型二次電池1の比容量を向上させる。
【0043】
一方で、単体硫黄は、大きな比容量を有し、全固体型二次電池1全体の比容量の向上に寄与するとともに、充放電時における遷移金属二硫化物の結晶構造の維持に寄与する。詳しく説明すると、単体硫黄を用いず、正極層に導電性炭素材料等の導電助剤を添加した場合、この導電助剤が遷移金属二硫化物中の硫黄元素を吸着することにより、遷移金属二硫化物の結晶構造が崩れ、例えば遷移金属一硫化物に変化する。このような場合、正極層において十分なイオン伝導性および電子伝導性が確保されない。しかしながら、本実施形態においては、正極層10に遷移金属二硫化物とともに単体硫黄が存在することにより、単体硫黄が優先的に導電助剤に吸着され、遷移金属二硫化物の結晶構造が維持される。この結果、正極層10におけるイオン伝導性および電子伝導性が優れたものとなる。
【0044】
以上、全固体型二次電池1は、正極層10において単体硫黄と、1種以上の遷移金属二硫化物とを同時に含むことにより、大きな比容量を有するものとなる。
【0045】
ここで、遷移金属二硫化物に含まれる遷移金属元素としては、特に限定されず、第一遷移元素(Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZn)、第二遷移元素(Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、AgおよびCd)ならびに第三遷移元素(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg)が挙げられる。上述した中でも、遷移金属二硫化物に含まれる遷移金属元素は、好ましくはFe、TiおよびMoからなる群から選択される元素であり、より好ましくはFeである。
【0046】
具体的な遷移金属二硫化物としては、二硫化鉄(FeS2)等が挙げられる。上述した中でも二硫化鉄(FeS2)は、可逆性の高いレドックス反応を示すという観点から、好ましい。
【0047】
また、正極層10において、単体硫黄と1種以上の遷移金属二硫化物とは、質量比A(1種以上の遷移金属二硫化物の含有量(質量%)/(単体硫黄の含有量(質量%))が、以下の式(1)を満足することが好ましい。
0<A<8 ・・・(1)
【0048】
好ましくは、0.2≦A≦3、より好ましくは、0.5≦A≦2.0である。
【0049】
特に上記質量比Aが0.5以上であることにより、正極層10におけるイオン伝導性および電子伝導性がより一層高くなる。また、上記質量比Aが2.0以下であることにより、遷移金属二硫化物の結晶構造がより一層維持されやすくなる。
【0050】
また、正極層10は、硫黄含有正極活物質を、単位面積当たり、例えば0.5mg/cm2以上、好ましくは1.0mg/cm2超、より好ましくは2.0mg/cm2以上含む。本実施形態においては、正極層10が比較的多量に、例えば2.0mg/cm2超硫黄含有正極活物質を含む場合であっても、正極層10におけるイオン伝導性および電子伝導性が十分に高いため、比容量の低下が抑制される。正極層10における硫黄含有正極活物質の単位面積当たりの含有量の上限は、特に限定されないが、実用上、同含有量は、例えば、10.0mg/cm2以下である。
【0051】
なお、正極層10における硫黄含有正極活物質の含有量は、例えば、5質量%以上70質量%以下であり、好ましくは10質量%以上50質量%以下である。
【0052】
なお、正極層10は、本発明の効果を阻害しない範囲において、硫黄含有正極活物質以外の正極活物質を含んでもよい。このような正極活物質としては、特に限定されず、例えば、硫黄含有正極活物質と充放電電位が重複する、あるいは近い公知の正極活物質を用いることができる。
【0053】
(固体電解質)
正極層10は、通常、固体電解質を含む。固体電解質としては、特に限定されないが、硫黄系固体電解質が挙げられる。
【0054】
硫黄系固体電解質としては、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiX(Xはハロゲン元素)、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-B2S3、Li2S-B2S3、Li2S-P2S5-ZmSn(m、nは正の数、ZはGe、ZnまたはGaのいずれか)、Li2S-GeS2、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-LipMOq(p、qは正の数、MはP、Si、Ge、B、Al、GaまたはInのいずれか)等を挙げることができ、これらのうち1種を単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0055】
また、正極層10の固体電解質は、Li3PS4構造を有する硫黄系固体電解質を含むことが好ましい。Li3PS4構造を有する硫黄系固体電解質は、イオン伝導性に優れており(例えば25℃にて10-4S/cm以上)、好適にLiイオンを正極活物質へ輸送することができる。また、このような硫黄系固体電解質は、充放電電位を印加した場合、導電性炭素材料の存在下、正極層10内で酸化還元容量を示して正極活物質として機能し、Liイオン伝導性を示すカソライトとしても作用する。
【0056】
また、硫黄系固体電解質は、ハロゲン化物が添加されたハロゲン添加硫黄系固体電解質であってもよい。ハロゲン添加硫黄系固体電解質は、ハロゲン化物が添加されていない場合と比較してさらにイオン伝導性に優れており(例えば25℃にて10-3S/cm以上)、好適にLiイオンを正極活物質へ輸送することができる。さらに、ハロゲン添加硫黄系固体電解質はカソライトとしても優れた効果を発揮する。
【0057】
具体的には、ハロゲン化物としては、ハロゲン化リチウム(LiX)、ハロゲン化ナトリウム(NaX)、ハロゲン化アルキル等を挙げることができる。なお、上記のXは、例えば、塩素(Cl)、臭素(Br)、またはヨウ素(I)を表す。
【0058】
また、ハロゲン添加硫黄系固体電解質材料は、上記の硫黄系固体電解質材料のうち、少なくとも構成元素として硫黄(S)、リン(P)およびリチウム(Li)を含むものを用いることが好ましく、少なくともLi2S-P2S5を含むものを用いることがより好ましい。また、ハロゲン添加硫黄系固体電解質材料は、結晶性材料、非晶質材料又はガラス材料のいずれであってもよく、電池特性に適する材料を適宜選択することが可能である。
【0059】
ここで、ハロゲン添加硫化物固体電解質を形成する硫化物固体電解質材料としてLi2S-P2S5を含むものを用いる場合、Li2SとP2S5との混合モル比は、例えば、Li2S:P2S5=50:50~90:10の範囲で選択される。また、ハロゲン添加硫化物固体電解質は、非晶質である0.75Li2S-0.25P2S5を硫化物固体電解質材料として用いることが好ましく、添加するハロゲン化物には、LiX(XはCl、BrまたはI)を用いることが好ましい。これにより、全固体型二次電池1の充放電容量をさらに向上させることができると共に、正極層10中のLiイオン伝導度をさらに高めることができる。
【0060】
好ましくは、ハロゲン添加硫黄系固体電解質の組成は、aLiX-(100-a)(0.75Li2S-0.25P2S5)(ただし、0<a<50、XはCl、BrまたはI)である。より好ましくは、添加されるハロゲン化物は、LiIである。
さらに好ましくは、ハロゲン添加硫黄系固体電解質の組成は、35LiI-65(0.75Li2S-0.25P2S5)であってもよい。ハロゲン添加硫黄系固体電解質の組成が上記である場合、全固体型二次電池1の充放電容量をさらに向上させることができると共に、正極層10中のイオン伝導度をさらに高めることができる。
【0061】
硫黄系固体電解質の形状としては、例えば、真球状、または楕円球状等の粒子形状を挙げることができる。硫黄系固体電解質の粒子径は、特に限定されないが、0.01μm以上30μm以下であることが好ましく、0.1μm以上20μm以下であることがより好ましい。なお、「平均粒子径」とは、散乱法等によって求めた粒子の粒度分布における個数平均径のことを表し、粒度分布計等により測定することができる。
【0062】
なお、正極層10における硫黄系固体電解質の含有量は、例えば、正極層10の総質量に対して10質量%以上80質量%以下であることが好ましく、20質量%以上70質量%以下であることがより好ましい。
【0063】
(導電助剤)
上述したように正極層10は、導電助剤を含む。また、正極層10は、導電助剤として、導電性炭素材料を含む。
【0064】
導電性炭素材料は、電子伝導性に優れる一方で、活物質である硫黄元素を吸着しやすく、遷移金属二硫化物の結晶構造を変化させやすい。しかしながら、本実施形態においては、単体硫黄が遷移金属二硫化物とともに含まれることにより、単体硫黄が導電性炭素材料に優先的に吸着され、遷移金属二硫化物の結晶構造が維持される。
【0065】
導電性炭素材料としては、特に限定されないが、例えば、活性炭、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維等を挙げることができる。導電性炭素材料は、単独でまたは2種以上組わせて用いられることができる。上述した中でも、導電性炭素材料が、活性炭を含むことが好ましい。活性炭は、比表面積が大きいことから、電子伝導性に特に優れている。一方で、活性炭は比表面積が大きいことから硫黄元素を吸着しやすいが、当該吸着による遷移金属二硫化物の結晶構造の変化の問題は、上述した単体硫黄により防止されている。
【0066】
導電性炭素材料の比表面積は、特に限定されないが、好ましくは600m2/g以上、より好ましくは800m2/g以上6000m2/g以下、さらに好ましくは1000m2/g以上4000m2/g以下である。これにより、正極層10における電子伝導性をさらに高めることができる。このような大きな比表面積は、活性炭を採用することにより容易に達成される。
【0067】
正極層10における導電性炭素材料の含有量は、例えば、1.0質量%以上50質量%以下であり、好ましくは5質量%以上30質量%以下である。
【0068】
なお、正極層10は、導電性炭素材料以外の導電助剤がさらに含まれていてもよい。このような導電助剤としては、硫黄系固体電解質に対して安定な金属粉、導電性高分子等が挙げられる。
【0069】
(その他の成分)
また、正極層10には、正極活物質、固体電解質および導電助剤に加えて、例えば、結着材、フィラー(filler)、分散剤、およびイオン導電剤等の添加物が適宜配合されていてもよい。
【0070】
正極層10に配合可能な結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリエチレン(polyethylene)等を挙げることができる。さらに、正極層10に配合可能なフィラー、分散剤、およびイオン導電剤等としては、一般にリチウムイオン二次電池の電極に用いられる公知の材料を用いることができる。
【0071】
[負極層]
負極層20は、少なくとも負極活物質を含む層である。
【0072】
負極層20は、例えばリチウム金属層であることができる。この場合、リチウム金属は、負極活物質として作用し、全固体型二次電池1系内において多量のリチウムイオンを供給することができる。また、リチウム金属層は良好な導体であることから、後述する負極集電体を省略することもできる。
【0073】
あるいは、負極層20は、例えば、負極活物質と、固体電解質と、負極層導電助剤とを含む層であることができる。
【0074】
負極活物質は、正極層10に含まれる正極活物質と比較して充放電電位が低く、リチウムとの合金化、またはリチウムの可逆的な吸蔵および放出が可能な活物質材料にて構成される。
【0075】
例えば、負極活物質として、金属活物質またはカーボン(carbon)活物質等を用いることができる。金属活物質としては、例えば、リチウム(Li)、インジウム(In)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、およびケイ素(Si)等の金属、ならびにこれらの合金等を用いることができる。また、カーボン活物質としては、例えば、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス(coke)、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール(furfuryl alcohol)樹脂焼成炭素、ポリアセン(polyacene)、ピッチ(pitch)系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛、および難黒鉛化性炭素等を用いることができる。なお、これらの負極活物質は、単独で用いられてもよく、また2種以上を組み合わせて用いられてもよい。なお、上述した正極活物質はリチウムの含有量が少ないため、負極活物質はあらかじめリチウムを含有するものか、リチウムをプレドーピングしてあるものが好ましい。
【0076】
なお、負極層20における負極活物質の含有量は、例えば、負極層20の総質量に対して20質量%以上95質量%以下であることが好ましく、50質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。
【0077】
負極層導電助剤は、正極層導電助剤と同様の導電助剤を用いることができる。固体電解質は、正極層10に含まれる固体電解質と同様の化合物を用いることができる。そのため、これらの構成についてのここでの説明は省略する。
【0078】
なお、負極層20における負極層導電助剤の含有量は、例えば、負極層20の総質量に対して1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、5質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
また、負極層20における固体電解質の含有量は、例えば、負極層20の総質量に対して10質量%以上95質量%以下であることが好ましく、20質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。
【0079】
また、負極層20には、上述した負極活物質、固体電解質、および負極層導電助剤に加えて、例えば、結着材、フィラー、分散剤、およびイオン導電剤等の添加物が適宜配合されていてもよい。
【0080】
なお、負極層20に配合される添加剤としては、上述した正極層10に配合される添加剤と同様のものを用いることができる。
【0081】
[固体電解質層]
固体電解質層30は、正極層10および負極層20の間に形成され、固体電解質を含む。固体電解質は、正極層10に含まれる固体電解質と同様の化合物を用いることができる。そのため、該構成についてのここでの説明は省略する。
【0082】
以上、本実施形態に係る全固体二次電池1の構成について詳細に説明した。なお、全固体二次電池1は、通常、正極層10および負極層20について、これらと接するように集電体が配置される(図示せず)。
【0083】
正極層10および負極層20にて用いる集電体としては、例えば、インジウム(In)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、ステンレス鋼、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、リチウム(Li)またはこれらの合金からなる板状体または箔状体を用いることができる。
【0084】
また、負極層20がリチウム金属層である場合、当該リチウム金属層の構成によってはリチウム金属層が負極20側の集電体を兼ねることも可能である。すなわち、別途の負極集電体の設置を省略することもできる。
【0085】
<2.全固体型二次電池の製造方法>
続いて、本実施形態に係る全固体型二次電池1の製造方法の一例について説明する。本実施形態に係る全固体型二次電池1は、正極層10、負極層20、および固体電解質層30をそれぞれ製造した後、上記の各層を積層することにより製造することができる。
【0086】
[固体電解質層の作製]
固体電解質層30は、例えば、硫黄系固体電解質にハロゲン化物を添加したハロゲン添加硫黄系固体電解質により作製することができる。
【0087】
まず、溶融急冷法またはメカニカルミリング(mechanical milling)法を用いて、ハロゲン化物を添加したハロゲン添加硫黄系固体電解質を作製する。
【0088】
例えば、溶融急冷法を用いる場合、ハロゲン化物とLi2SとP2S5とを所定量混合し、ペレット状にしたものを真空中で所定の反応温度で反応させた後、急冷することによって、ハロゲン添加硫黄系固体電解質を作製することができる。なお、ハロゲン化物と、Li2SおよびP2S5との混合物の反応温度は、例えば、400℃~1000℃であり、好ましくは800℃~900℃である。また、反応時間は、例えば、0.1時間~12時間であり、好ましくは1時間~12時間である。さらに、反応物の急冷温度は、例えば、10℃以下であり、好ましくは0℃以下である。急冷速度は、例えば、1℃/sec~10000℃/sec程度であり、好ましくは1℃/sec~1000℃/sec程度である。
【0089】
また、メカニカルミリング法を用いる場合、ハロゲン化物とLi2SとP2S5とを所定量混合し、ボールミルなどを用いて撹拌させて反応させることで、ハロゲン添加硫黄系固体電解質を作製することができる。なお、メカニカルミリング法における撹拌速度および撹拌時間は特に限定されないが、撹拌速度が速いほどハロゲン添加硫黄系固体電解質の生成速度を速くすることができる。また、撹拌時間が長いほどハロゲン添加硫黄系固体電解質への原料の転化率を高くすることができる。
【0090】
その後、溶融急冷法またはメカニカルミリング法により得られたハロゲン添加硫黄系固体電解質を所定温度で熱処理した後、粉砕することにより粒子状のハロゲン添加硫黄系固体電解質を作製することができる。
【0091】
続いて、上記の方法で得られたハロゲン添加硫黄系固体電解質を、例えば、ブラスト(blast)法、エアロゾルデポジション(aerosol deposition)法、コールドスプレー(cold spray)法、スパッタ法、CVD法、および溶射法等の公知の成膜法を用いて成膜することにより、固体電解質層30を作製することができる。なお、固体電解質層30は、ハロゲン添加硫黄系固体電解質を単体で加圧することにより作製されてもよい。また、固体電解質層30は、ハロゲン添加硫黄系固体電解質と、溶媒と、バインダまたは支持体とを混合し、塗布・加圧することで形成されてもよい。ここで、バインダまたは支持体は、固体電解質層30の強度を補強したり、ハロゲン添加硫黄系固体電解質の短絡を防止したりする目的で添加されるものである。
【0092】
[正極層の作製]
正極層10は、例えば次の方法で作製することができる。まず、正極活物質、上記で作製した固体電解質(ハロゲン添加硫黄系固体電解質)と、導電助剤と、各種添加材とを混合し、水または有機溶媒などの溶媒に添加することでスラリー(slurry)またはペースト(paste)を形成する。続いて、得られたスラリーまたはペーストを集電体に塗布し、乾燥した後に、圧延することで、正極層10を得ることができる。または、正極層10は、固体電解質、正極活物質、および導電助剤の混合体を加圧し、圧延することで作製されてもよい。
【0093】
[負極層の作製]
負極層20は、正極層と同様の方法で作製することができる。具体的には、まず、負極活物質と、ハロゲン添加硫黄系固体電解質と、負極層導電助剤と、各種添加剤とを混合し、水または有機溶媒などの溶媒に添加することでスラリーまたはペーストを形成する。さらに、得られたスラリーまたはペーストを集電体に塗布し、乾燥した後に、圧延することで、負極層20を得ることができる。なお、金属LiまたはLiイオンと合金を作る金属の箔状体を負極層20として用いてもよい。
【0094】
[全固体二次電池の製造]
さらに、上記の方法で作製した固体電解質層30、正極層10、および負極層20を積層することで、本実施形態に係る全固体二次電池1を製造することができる。具体的には、固体電解質層30を挟持するように正極層10と負極層20とで積層し、加圧することにより、本実施形態に係る全固体二次電池1を製造することができる。
【実施例】
【0095】
以下では、実施例および比較例を参照しながら、本実施形態に係る全固体型二次電池について具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも一例であって、本実施形態に係る全固体型二次電池が下記の例に限定されるものではない。
【0096】
1.全固体型二次電池の製造
(実施例1)
まず、ハロゲン添加硫黄系固体電解質としてLiI-Li3PS4を合成した。具体的には、35LiI-65(0.75Li2S-0.25P2S5)の組成比となるように、Li2Sを0.64g、P2S5を1.03g、LiIを1.33g秤量し、これらを乳鉢で混合した。混合した粉末1.5gを45mlのZrO2製ポットへZrO2ボール(φ10mm×φ7.5mm×20)とともにAr(アルゴン)雰囲気で封入し、10分間380rpmの回転を5分間の時間を空けて繰り返し、各成分がX線回折法により検出できなくなるまでメカニカルミリング反応を行い、ハロゲン添加硫黄系固体電解質であるLiI-Li3PS4を合成した。
【0097】
続いて、単体硫黄と二硫化鉄と活性炭(比表面積3000m2/g)とを質量比15:15:20で乳鉢において混合した。得られた混合物500mgを45mlのZrO2製ポットへZrO2ボール(φ10mm×20、φ7.5mm×20)とともにAr(アルゴン)雰囲気で封入し、45分間380rpmの回転を15分間の時間を空けて17回繰り返した。得られた混合物と上記ハロゲン添加硫黄系固体電解質とを質量基準にて等量測りとり、乳鉢において混合した。得られた混合物500mgを45mlのZrO2製ポットへZrO2ボール(φ10mm×20、φ7.5mm×20)とともにAr(アルゴン)雰囲気で封入し、45分間380rpmの回転を15分間の時間を空けて17回繰り返し、正極合剤を得た。正極合剤における各成分の質量比は、単体硫黄:二硫化鉄:活性炭:ハロゲン添加硫黄系固体電解質=15:15:20:50であった。
【0098】
次いで、負極層としてLi金属箔を用意した。負極層としてのLi金属箔と、電解質層としての上記ハロゲン添加硫黄系固体電解質と、正極合剤とをこの順序でφ13mmのテフロン筒中で積層し、4t/cm2の圧力で一軸方向から加圧してペレットを作製し、実施例1に係る試験用セル(cell)を作製した。なお、この際に、正極合剤は、単位面積当たりの正極活物質の質量が1mg/cm2、4mg/cm2または5mg/cm2となるように積層を行った。すなわち、正極活物質の含有量が上記の通りの3種の試験用セル(全固体型二次電池)を作成した。
【0099】
(比較例1)
正極合剤に二硫化鉄を用いず、正極合剤における各成分の質量比が単体硫黄:活性炭:ハロゲン添加硫黄系固体電解質=30:20:50となるように成分量を調製した以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る試験用セル(全固体型二次電池)を作成した。
【0100】
(比較例2)
正極合剤に単体硫黄を用いず、正極合剤における各成分の質量比が二硫化鉄:活性炭:ハロゲン添加硫黄系固体電解質=30:20:50となるように成分量を調製した以外は、実施例1と同様にして比較例2に係る試験用セル(全固体型二次電池)を作成した。
【0101】
2.電気評価
まず実施例1に係る試験用セルおよび比較例1に係る試験用セルについて以下のように電気化学評価を行った。具体的には、25℃、アルゴン雰囲気下にて、各試験用セルに対し、3Nmのトルクで圧力を印加しつつ、充放電特性について、評価を行った。この際にカットオフ電位は、1.3V-3.1V(vs.Li/Li+)とし、1mg/cm2の正極活物質に対して0.1Cの電流を印加した。そして、2サイクル目の充放電カーブより充放電容量(比容量)を測定した。表1に測定により得られた比容量を示す。なお、実施例1に係る試験用セルの理論比容量は1265(mAh/g)であり、比較例1に係る試験用セルの理論比容量は1650(mAh/g)であった。
【0102】
【0103】
表1に示すように、実施例1に係る試験セルは、比較例1に係る試験セルと比較して、正極活物質の含有量が同一の場合、理論比容量に対し高い割合の比容量を示した。特に、このような傾向は正極活物質の含有量が比較的多量の場合に顕著であった。
【0104】
また、正極活物質の含有量が4mg/cm2、5mg/cm2の場合においては、実施例1の測定された比容量が、比較例1のものより大きくなった。二硫化鉄の使用により実施例1の試験用セルの理論比容量は、比較例1のものと比較して低下している。したがって、上記の結果は、二硫化鉄によるイオン伝導性・電子伝導性効果による比容量の増加分が、上記理論比容量の低下分よりも大きいことを示している。
【0105】
また、実施例1に係る試験用セルのうち、正極活物質の含有量が1mg/cm2の場合においては、測定された比容量が理論比容量よりも大きくなった。これは、ハロゲン添加硫黄系固体電解質が正極活物質としても作用した結果、比容量が増加したことが示唆される。
【0106】
さらに、実施例1に係る試験用セルおよび比較例2に係る試験用セルについて以下のように電気化学評価を行った。具体的には、25℃、アルゴン雰囲気下にて、各試験用セルに対し、3Nmのトルクで圧力を印加しつつ、充放電特性について、評価を行った。この際にカットオフ電位は、1.3V-3.1V(vs.Li/Li+)とし、1mg/cm2の正極活物質に対して0.05Cの電流を印加した。そして、20サイクル後の充放電カーブより比容量を測定した。結果を表2に示す。なお、実施例1に係る試験用セルの理論比容量は1265(mAh/g)であり、比較例2に係る試験用セルの理論比容量は960(mAh/g)であった。
【0107】
【0108】
表2に示すように実施例1に係る試験用セルは、比較例2に係る試験用セルと比較して、高い充放電容量(比容量)、特に、理論比容量に対し高い割合の比容量を示した。
【0109】
また、別途、初回充放電後において、正極合剤についてX線回折によりその成分組成を解析した。X線回折試験の結果を
図2に示す。なお、
図2のグラフ中、下に記載のバーは、それぞれICDD(The International Centre for Diffraction Data)により公開されるピーク位置およびその比強度を示している。二硫化鉄の(FeS
2)は、ICDD PDF 01-071-0053に、硫化鉄(FeS)は、ICDD PDF 01-075-2377に基づきバーを表示した。
【0110】
図2を参照すると、比較例2に係る試験用セルの正極合剤においては、二硫化鉄(FeS
2)の結晶構造が硫化鉄(FeS)に変化していることが観察された。これは、正極合剤中の導電性炭素材料(活性炭)が充放電過程で硫黄元素を吸着したことによるものと推測された。一方で、実施例1に係る試験用セルの正極合剤においては、二硫化鉄(FeS
2)の結晶構造が維持されていた。これは、実施例1に係る試験用セルの正極合剤中の単体硫黄が優先的に導電性炭素材料に吸着されたことにより、二硫化鉄(FeS
2)の結晶構造が維持されたものと考えられる。
【0111】
以上の結果により、正極活物質中に二硫化鉄(FeS2)の結晶構造が維持された場合、維持されない場合と比較して、イオン伝導性および電子伝導性の向上効果が大きく、比容量が増加することを示している。
【0112】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0113】
例えば、上記実施形態では、正極層10、負極層20および固体電解質層30おいて、ハロゲン添加硫黄系固体電解質が含まれる例を示したが、本発明はかかる例示に限定されない。例えば、正極層10、負極層20および固体電解質層30は、ハロゲン添加硫黄系固体電解質を含んでいなくてもよく、公知の固体電解質を含んでいてもよい。
【符号の説明】
【0114】
1 全固体型二次電池
10 正極層
20 負極層
30 固体電解質層