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  • 特許-電線 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/04 20060101AFI20221026BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20221026BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20221026BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
H01B7/04
C08L27/06
H01B3/44 B
H01B7/02 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017201751
(22)【出願日】2017-10-18
(65)【公開番号】P2019075327
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-06-22
【審判番号】
【審判請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花房 幸司
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 仁
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 明美
【合議体】
【審判長】瀧内 健夫
【審判官】佐藤 智康
【審判官】小田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-218273(JP,A)
【文献】特開2002-179868(JP,A)
【文献】特開2002-363365(JP,A)
【文献】特開2017-155093(JP,A)
【文献】特開2004-134212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
C08L 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体を覆うポリ塩化ビニル樹脂を含有する絶縁体と、を備え、
前記導体が20~170本の導体素線を45~170mmの撚りピッチで撚り合わせた撚線からなり、フェライトコアへの巻き付けに用いられる電線であって、
前記導体の断面積が5mm以上20mm以下であり、
前記導体素線の素線径が0.4mm以上0.5mm以下であり、
前記絶縁体の厚さが0.4mm以上2.3mm以下であり、
前記絶縁体が可塑剤を、ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して50質量部以上120質量部以下で含有する、電線。
【請求項2】
前記絶縁体が可塑剤を、ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して60質量部以上120質量部以下で含有する、請求項1に記載の電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、導体と該導体の外周を被覆する絶縁体とを有する絶縁電線を開示している。上記絶縁体は、塩素化塩化ビニル系樹脂と塩化ビニル系熱可塑性エラストマーとを含有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-225837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電線は、耐ノイズ性を向上させるために、フェライトコアに巻き付けられてインピーダンスを大きくさせた状態で使用されることがある。電線の剛性が大きい場合、フェライトコアに巻き付けても電線が元の状態に戻ろうとして巻き戻りが大きくなってしまう。電線の巻き戻りが大きくなると、耐ノイズ性を狙い通りに向上させることができなくなってしまう。
【0005】
本発明は、フェライトコア等に巻き付けた際に巻き戻りが小さい電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電線は、
導体と、前記導体を覆うポリ塩化ビニル樹脂を含有する絶縁体と、を備え、
前記導体が複数本の導体素線を撚り合わせた撚線からなる電線であって、
前記導体の断面積が5mm以上20mm以下であり、
前記導体素線の素線径が0.4mm以上0.5mm以下であり、
前記絶縁体が可塑剤を、ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して50質量部以上120質量部以下で含有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フェライトコア等に巻き付けた際に巻き戻りが小さい電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る電線の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。
本願発明の実施形態に係る電線は、
(1)導体と、前記導体を覆うポリ塩化ビニル樹脂を含有する絶縁体と、を備え、
前記導体が複数本の導体素線を撚り合わせた撚線からなる電線であって、
前記導体の断面積が5mm以上20mm以下であり、
前記導体素線の素線径が0.4mm以上0.5mm以下であり、
前記絶縁体が可塑剤を、ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して50質量部以上120質量部以下で含有する。
この構成によれば、フェライトコア等に巻き付けた際に巻き戻りが小さい電線を提供することができる。
(2)また、(1)の電線は、
前記絶縁体が可塑剤を、ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して60質量部以上120質量部以下で含有すると好ましい。
この構成によれば、フェライトコア等に巻き付けた際にさらに巻き戻りが小さい電線を提供することができる。
【0010】
[本発明の実施形態の詳細]
続いて、添付図面を参照しながら、本発明の電線に係る実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る電線の一例を示す断面図である。図中、1は電線、2は導体、3は絶縁体、を示す。本実施形態の電線1は、導体2と、導体2を覆う絶縁体3とを備える。
【0011】
導体2は、断面積が5mm以上20mm以下であり、複数本の導体素線を撚り合わせた撚線からなる。導体素線は、素線径が0.4mm以上0.5mm以下であり、特に限定されないが、例えば、銅、銅合金、錫メッキ銅、アルミニウム、アルミニウム合金等から構成される。
【0012】
撚線を構成する導体素線の本数、撚り方向及び撚りピッチは、本願の作用効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、例えば、導体素線の本数は20~170本とすることができ、撚りピッチは45~170mmとすることができる。
【0013】
絶縁体3は、ポリ塩化ビニル樹脂を含有する。ポリ塩化ビニル樹脂の含有割合としては、特に限定されないが、例えば20~80質量%、好ましくは20~58質量%であるとよい。
【0014】
また、絶縁体3は、可塑剤をポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、50質量部以上120質量部以下で含有している。可塑剤の含有比が50質量部未満であると電線の巻き戻りが大きくなり、可塑剤の含有比が120質量部より大きいと絶縁性能が低下してしまい、好ましくない。また、絶縁体3は、可塑剤をポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して、60質量部以上120質量部以下で含有するのが好ましく、65質量部以上120質量部以下で含有するのがさらに好ましく、65質量部以上90質量部以下で含有するのが特に好ましい。これにより、電線1を巻き付けた際に巻き戻りがより少ない電線を提供することができる。
【0015】
可塑剤としては、一般的に電線の絶縁体に用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、トリメリット酸エステル(トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)、トリメリット酸トリノルマルアルキル、トリメリット酸トリイソノニル、トリメリット酸トリイソデシル、トリメリット酸トリノルマルオクチル等)やポリエステル系可塑剤が挙げられる。
【0016】
なお、絶縁体3には上記以外に、フィラー、難燃剤、酸化防止剤、安定剤、顔料等の各種の添加剤が1種又は2種以上添加されていてもよい。
【0017】
絶縁体3の厚みは、本願の作用効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、例えば、0.4~2.3mmとすることができる。また、電線1の直径は、本願の作用効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、例えば、3.5~10.5mmとすることができる。
【0018】
以上の構成を有する電線1は、導体2の断面積が5mm以上20mm以下であり、導体素線の素線径が0.4mm以上0.5mm以下であり、絶縁体3が可塑剤を、ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して50質量部以上120質量部以下で含有することにより、フェライトコア等に巻き付けた際に巻き戻りが少ない。
【実施例
【0019】
次に発明を実施するための形態を実施例により説明する。実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0020】
表1に示すAWG8の例1~例8の電線を作成し、それぞれの電線の巻き戻りを評価した。なお、すべての電線の絶縁体は、トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)を可塑剤として含有し、その他に、安定剤、フィラー、難燃剤を含有するものを使用した。
【0021】
また、巻き戻りの評価は以下の方法に従って行った。直径19mmのマンドレルに電線を一周分巻き付け、その状態からマンドレルを引き抜いて3分間放置し、放置後の電線が作る輪の内径を測定した。そして、輪の内径からマンドレルの直径19mmを差し引いた値(mm)を巻き戻りの指標とした。
【0022】
【表1】
【0023】
例1~例6の電線では、電線の巻き戻りが小さかった。一方、例7及び例8の電線では、電線の巻き戻りが大きかった。また、例1、例2、及び例4~例6の電線では、特に電線の巻き戻りが小さかった。
【0024】
次に、表2に示すAWG6の例9~例12の電線を作成し、それぞれの電線の巻き戻りを評価した。なお、絶縁体に含有される可塑剤やその他の添加物は、例1~例8と同様である。巻き戻りの評価は、例1~例8と同様の方法により行った。
【0025】
【表2】
【0026】
例9及び例10の電線では、電線の巻き戻りが小さかった。一方、例11及び例12の電線では、電線の巻き戻りが大きかった。
【0027】
次に、表3に示す8SQの例13~例15の電線を作成し、それぞれの電線の巻き戻りを評価した。なお、絶縁体に含有される可塑剤やその他の添加物は、例1~例8と同様である。巻き戻りの評価は、例1~例8と同様の方法により行った。
【0028】
【表3】
【0029】
例13~例15の電線では、電線の巻き戻りが小さかった。また、例13及び例14の電線では、特に電線の巻き戻りが小さかった。
【0030】
以上の実施例から、導体の断面積が5mm以上20mm以下であり、導体素線の素線径が0.4mm以上0.5mm以下であり、絶縁体が可塑剤を、ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して50質量部以上120質量部以下で含有する電線は、対象物に巻き付けた際の巻き戻りが小さいことを確認できる。
【符号の説明】
【0031】
1:電線、2:導体、3:絶縁体
図1