(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】窒化ガリウム結晶基板およびその結晶品質の評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/201 20180101AFI20221026BHJP
C30B 29/38 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
G01N23/201
C30B29/38 D
(21)【出願番号】P 2017226351
(22)【出願日】2017-11-24
【審査請求日】2020-07-29
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】516088190
【氏名又は名称】大鉢 忠
(73)【特許権者】
【識別番号】517412398
【氏名又は名称】竹本 菊郎
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大鉢 忠
(72)【発明者】
【氏名】竹本 菊郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐喜
(72)【発明者】
【氏名】吉門 進三
(72)【発明者】
【氏名】和田 元
(72)【発明者】
【氏名】羽木 良明
(72)【発明者】
【氏名】善積 祐介
(72)【発明者】
【氏名】長田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 史隆
(72)【発明者】
【氏名】美濃部 周吾
(72)【発明者】
【氏名】藪原 良樹
(72)【発明者】
【氏名】中西 文毅
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-171273(JP,A)
【文献】特開2006-071354(JP,A)
【文献】特開2001-013093(JP,A)
【文献】特開2013-203653(JP,A)
【文献】米国特許第06218280(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
C30B 29/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面が{0001}面である窒化ガリウム結晶基板の結晶品質を、小発散角入射X線平行ビームを用いたX線回折測定により評価する方法であって、
前記窒化ガリウム結晶基板を、その[1-100]方向がφ=0°の方向と一致するように、試料台に配置する工程と、
0002対称ブラッグ反射の回折角2θにおけるωスキャンおよびzスキャン、ならびにχ軸の軸立てにより、前記窒化ガリウム結晶基板の位置を校正する工程と、
0001対称禁制ブラッグ反射の入射角ωおよび回折角2θにおいて、[0001]軸を回転軸としたφスキャンパターン測定を行なう工程と、を含み、
前記φスキャンパターン測定から得られるX線多重回折ピークの対称性の高さおよび前記X線多重回折ピークの最大ピーク強度をバックグランド強度で除して得られる最大ピーク強度比の大きさから、窒化ガリウム結晶基板の結晶品質を評価する、窒化ガリウム結晶基板の結晶品質の評価方法。
【請求項2】
前記φスキャンパターン測定において、φが-180°から180°までの測定をするとき、φが-180°から-150°まで、-150°から-120°まで、-120°から-90°まで、-90°から-60°まで、-60°から-30°まで、-30°から0°まで、0°から30°まで、30°から60°まで、60°から90°まで、90°から120°まで、120°から150°まで、および150°から180°までの30°毎の12の区分領域に分けるとき、
各前記区分領域の少なくとも2つの領域の前記X線多重回折ピークにおいて、任意に特定される所定の複数の結晶面に由来する基準ピークのピーク強度をバックグランド強度で除して得られる基準ピーク強度比に対する前記基準ピーク以外に任意に特定される別の所定の複数の結晶面に由来する対比ピークのピーク強度をバックグランド強度で除して得られる対比ピーク強度比の相対比である対比ピーク相対強度比のばらつきの小ささから、窒化ガリウム結晶基板の結晶品質を評価する、請求項
1に記載の窒化ガリウム結晶基板の結晶品質の評価方法。
【請求項3】
前記φスキャンパターン測定において、φが-180°から180°までの測定をするとき、φが-180°から-150°まで、-150°から-120°まで、-120°から-90°まで、-90°から-60°まで、-60°から-30°まで、-30°から0°まで、0°から30°まで、30°から60°まで、60°から90°まで、90°から120°まで、120°から150°まで、および150°から180°までの30°毎の12の区分領域に分けて、各前記区分領域毎に各前記区分領域に対応するφ軸を軸立てして測定を行い、各前記区分領域に対応するφ軸の軸立てをする角度がその区分領域のφの範囲の中央のφの角度である、請求項
1または請求項
2に記載の窒化ガリウム結晶基板の結晶品質の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウム結晶基板およびその結晶品質の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2013-203653号公報(特許文献1)は、反りが小さくクラックが抑えられている高品質なIII族窒化物結晶の製造方法として、III族窒化物結晶からなる単結晶に1000℃以上で熱処理を行なうことによりIII族窒化物種基板を得る工程と、III族窒化物種基板上にIII族窒化物結晶膜を形成してIII族窒化物結晶を得る工程とを含むIII族窒化物結晶の製造方法を開示する。
【0003】
また、特開2006-071354号公報(特許文献2)は、III族窒化物結晶の表面層における結晶品質の評価方法として、X線回折法を用いて、結晶の表面から深さ方向への結晶性の変化を評価することにより、結晶表面層の結晶性を評価する方法であって、上記結晶の一つの結晶格子面に対する回折条件(ブラッグ反射による回折条件)を満たすように、連続的にX線侵入深さを変えて上記結晶にX線を照射して、結晶格子面についての回折プロファイルにおける面間隔および回折ピークの半価幅ならびにロッキングカーブにおける半価幅のうち少なくともいずれかの変化量を評価する結晶表面層の結晶性評価方法を開示する。
【0004】
また、稲葉克彦、「高分解能X線回折法によるGaN材料の評価」、リガクジャーナル、44(2),2013年、7-15頁(非特許文献1)は、サファイア基板上に成長させたGaN薄膜についての高分解能X線回折のω-2θスキャンにおいて、表面に平行でない格子面の多重反射に由来すると思われる禁制反射が観測されることを開示する。さらに、J. Blasing and A. Krost, “X-ray multiple diffraction (Umweganregung) in wurtzite-type GaN and ZnO epitaxial layers”, phys. stat. sol., (a)201, No.4, 2004, pp.R17-R20は、シリコン基板上に成長させたGaN薄膜についてのX線回折の禁制(0001)反射のω-2θにおけるφスキャンにおいて、回折ピークが観測されることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-203653号公報
【文献】特開2006-071354号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】稲葉克彦、「高分解能X線回折法によるGaN材料の評価」、リガクジャーナル、44(2),2013年、7-15頁
【文献】J. Blasing and A. Krost, “X-ray multiple diffraction (Umweganregung) in wurtzite-type GaN and ZnO epitaxial layers”, phys. stat. sol., (a)201, No.4, 2004, pp.R17-R20
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特開2013-203653号公報(特許文献1)に開示されたIII族窒化物結晶の製造方法により得られた窒化ガリウム結晶であっても、窒化ガリウム結晶基板に加工する際に、結晶品質を低下させる問題がある。また、業界では、さらに高特性の半導体デバイスを製造するために、さらに結晶品質の高い窒化ガリウム結晶基板の開発が求められている。
【0008】
また、特開2006-071354号公報(特許文献2)に開示された結晶表面層の結晶性評価方法は、窒化ガリウム結晶の表面層における均一歪み、不均一歪み、および面方位ずれなどの結晶品質を評価する指標として有用なものである。しかしながら、業界では、結晶品質の高い窒化ガリウム結晶基板の結晶品質をさらに詳細に評価するための評価方法の開発が望まれている。
【0009】
また、稲葉克彦、「高分解能X線回折法によるGaN材料の評価」、リガクジャーナル、44(2),2013年、7-15頁(非特許文献1)およびJ. Blasing and A. Krost, “X-ray multiple diffraction (Umweganregung) in wurtzite-type GaN and ZnO epitaxial layers”, phys. stat. sol., (a)201, No.4, 2004, pp.R17-R20(非特許文献2)に開示されたX線回折におけるω―2θスキャンおよびφスキャンに現われる回折ピークは、窒化ガリウム結晶基板の結晶品質の詳細な評価に結び付けられていない。
【0010】
そこで、上記の状況を鑑みて、結晶品質の高い窒化ガリウム結晶基板およびその結晶品質を詳細に評価することができる窒化ガリウム結晶基板の結晶品質の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板は、主面が{0001}面であり、小発散角入射X線平行ビームを用いたX線回折測定により、0001対称禁制ブラッグ反射の入射角ωおよび回折角2θにおける[0001]軸を回転軸としたφスキャンパターン測定において、[1-100]方向をφ=0°とするとき、φが-180°から180°までの測定において、結晶内におけるX線の多重回折により現われるX線多重回折パターンは、φが-180°から-60°まで、-60°から60°まで、および60°から180°までの120°毎に繰り返す3回回転対称性を有する3つの120°回転対称ピーク領域を備える。各120°回転対称ピーク領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および[0001]軸を含む面を鏡映面として互いに鏡映対称性を有する-領域と+領域とを備える。各-領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および[0001]軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する-L領域と-R領域とを備える。各+領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および[0001]軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する+L領域と+R領域とを備える。各-L領域、各-R領域、各+L領域、および各+R領域の少なくとも1領域におけるX線多重回折ピークの最大ピーク強度をバックグランド強度で除して得られる最大ピーク強度比が500以上である。
【0012】
本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板の結晶品質の評価方法は、主面が{0001}面である窒化ガリウム結晶基板の結晶品質を、小発散角入射X線平行ビームを用いたX線回折測定により評価する方法であって、窒化ガリウム結晶基板を、その[1-100]方向がφ=0°の方向と一致するように、試料台に配置する工程と、0002対称ブラッグ反射の回折角2θにおけるωスキャンおよびzスキャン、ならびにχ軸の軸立てにより、窒化ガリウム結晶基板の位置を校正する工程と、0001対称禁制ブラッグ反射の入射角ωおよび回折角2θにおいて、[0001]軸を回転軸としたφスキャンパターン測定を行なう工程と、を含む。φスキャンパターン測定から得られるX線多重回折ピークの対称性の高さおよびX線多重回折ピークの最大ピーク強度をバックグランド強度で除して得られる最大ピーク強度比の大きさから、窒化ガリウム結晶基板の結晶品質を評価する。
【発明の効果】
【0013】
上記によれば、結晶品質の高い窒化ガリウム結晶基板およびその結晶品質を詳細に評価することができる窒化ガリウム結晶基板の結晶品質の評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板の結晶品質の評価方法に用いられるX線平行ビーム法の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板の結晶品質の評価方法における0002対称ブラッグ反射の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板の結晶品質の評価方法における0001対称禁制ブラッグ反射の一例を示す概略図である。
【
図4】
図4は、窒化ガリウム結晶基板の{0001}面の一例を示す概略図である。
【
図5】
図5は、窒化ガリウム結晶基板の{0002}面の一例を示す概略図である。
【
図6】
図6は、窒化ガリウム結晶基板の{01-10}面の一例を示す概略図である。
【
図7】
図7は、窒化ガリウム結晶基板の{11-20}面の一例を示す概略図である。
【
図8】
図8は、窒化ガリウム結晶基板のガリウム原子および窒素原子の配置を示す概略図である。
【
図9】
図9は、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板の結晶品質の評価方法における窒化ガリウム結晶の結晶方位と領域を示す概略平面図である。
【
図10】
図10は、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板の結晶品質の評価方法における結晶基板の軸立ての際の{0002}対称ブラッグ反射によるωスキャンの一例を示す概略図である。
【
図11】
図11は、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板の結晶品質の評価方法における結晶基板の軸立ての際の{0002}対称ブラッグ反射によるzスキャンの一例を示す概略図である。
【
図12】
図12は、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板のφスキャンパターン測定において、φが-180°から180°までの領域における360°X線多重回折パターンの一例を縦軸を平方根目盛で示す概略図である。
【
図13】
図13は、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板のφスキャンパターン測定において、φが-180°から180°までの領域における360°X線多重回折パターンの一例を縦軸を対数目盛で示す概略図である。
【
図14】
図14は、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板のφスキャンパターン測定において、φが-60°から60°までの120°回転対称ピーク領域における120°X線多重回折パターンの一例を縦軸を平方根目盛で示す概略図である。
【
図15】
図15は、本発明の一態様にかかる窒化ガリウム結晶基板のφスキャンパターン測定において、φが-60°から60°までの120°回転対称ピーク領域における120°X線多重回折パターンの一例を縦軸を対数目盛で示す概略図である。
【
図16】
図16は、
図14に示される120°回転対称ピーク領域のA
+領域のパターンとA
-領域をφ=0°を軸にして反転したパターンとの対比を示す概略図である。
【
図17】
図17は、
図14に示される120°回転対称ピーク領域のA
+領域のパターンとA
+領域をφ=30°を軸にして反転させたパターンとの対比を示す概略図である。
【
図18】
図18は、
図14に示される120°回転対称ピーク領域のA
+R領域のパターンを示す概略図である。
【
図19】
図19は、
図14に示される120°回転対称ピーク領域のA
+L領域のパターンを示す概略図である。
【
図20】
図20は、
図14に示される120°回転対称ピーク領域のA
-R領域のパターンを示す概略図である。
【
図21】
図21は、
図14に示される120°回転対称ピーク領域のA
-L領域のパターンを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0016】
[1]本発明のある実施形態にかかる窒化ガリウム結晶基板は、主面が{0001}面であり、入射側にX線レンズを使用して0.3mm×0.3mmのクロススリットによりポイントフォーカスした小発散角入射X線平行ビームを用い、受光側に反射率測定用の0.27°スリットを付けた0.27°のコリメータおよびCuKα1単色X線選択用のグラファイト平板モノクロメータを用いたX線回折測定により、測定φ角度ステップ0.02°、測定φの角度範囲に応じて、各ステップでの計測時間が1秒から50秒の範囲の測定条件で行なう0001対称禁制ブラッグ反射の入射角ωおよび回折角2θ(すなわち入射角ω:8.5428°および回折角2θ:17.0856°)における[0001]軸を回転軸としたφスキャンパターン測定において、[1-100]方向をφ=0°とするとき、φが-180°から180°までの測定において、結晶内におけるX線の多重回折により現われるX線多重回折パターンは、φが-180°から-60°まで、-60°から60°まで、および60°から180°までの120°毎に繰り返す3回回転対称性を有する3つの120°回転対称ピーク領域を備える。各120°回転対称ピーク領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および[0001]軸を含む面を鏡映面として互いに鏡映対称性を有する-領域と+領域とを備える。各-領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および[0001]軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する-L領域と-R領域とを備える。各+領域は、その領域のφの範囲の中央のφの角度を示す線および[0001]軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する+L領域と+R領域とを備える。各-L領域、各-R領域、各+L領域、および各+R領域の少なくとも1領域におけるX線多重回折ピークの最大ピーク強度をバックグランド強度で除して得られる最大ピーク強度比が500以上である。本実施形態の窒化ガリウム結晶基板は、従来の窒化ガリウム結晶基板に比べて、高い対称性と大きな最大ピーク強度比とを有しているため、結晶品質が高い。
【0017】
[2]上記窒化ガリウム結晶基板において、各-L領域、各-R領域、各+L領域、および各+R領域において最大ピーク強度比を示すX線多重回折ピークの少なくとも1つのピークは、少なくとも(1-100)および(-1101)に由来するX線多重回折ピークとすることができる。かかる窒化ガリウム結晶基板は、より高い対称性を有しているため、結晶品質がより高い。
【0018】
[3]上記窒化ガリウム結晶基板は、自立基板とすることができる。かかる窒化ガリウム結晶基板は、結晶品質の高い自立基板であるため、半導体デバイスの製造に好適に用いられる。
【0019】
[4]上記窒化ガリウム結晶基板は、その厚さを250μm以上とすることができる。かかる窒化ガリウム結晶基板は、結晶品質が高い厚さが250μm以上の基板であるため、半導体デバイスの製造に好適に用いられる。
【0020】
[5]本発明の別の実施形態にかかる窒化ガリウム結晶基板の結晶品質の評価方法は、主面が{0001}面である窒化ガリウム結晶基板の結晶品質を、入射側にX線レンズを使用して0.3mm×0.3mmのクロススリットによりポイントフォーカスしたCuKα1単色X線の小発散角入射X線平行ビームを用い、受光側に反射率測定用の0.27°スリットを付けた0.27°のコリメータおよびグラファイト平板モノクロメータを用いたX線回折測定により評価する方法である。窒化ガリウム結晶基板を、その[1-100]方向がφ=0°の方向と一致するように、試料台に配置する工程と、0002対称ブラッグ反射の回折角2θにおけるωスキャンおよびzスキャン、ならびにχ軸の軸立てにより、窒化ガリウム結晶基板の位置を校正する工程と、測定φ角度ステップ0.02°、測定φの角度範囲に応じて、各ステップでの計測時間が1秒から50秒の範囲の測定条件で、0001対称禁制ブラッグ反射の入射角ωおよび回折角2θ(すなわち入射角ω:8.5428°および回折角2θ:17.0856°)において、[0001]軸を回転軸としたφスキャンパターン測定を行なう工程と、を含む。φスキャンパターン測定から得られるX線多重回折ピークの対称性の高さおよびX線多重回折ピークの最大ピーク強度をバックグランド強度で除して得られる最大ピーク強度比の高さから、窒化ガリウム結晶基板の結晶品質を評価する。本実施形態の窒化ガリウム結晶基板の結晶品質の評価方法は、小発散角入射X線平行ビームを用いたX線回折測定において、上記φスキャンパターン測定から得られるX線多重回折ピークの対称性が高いほど、またX線多重回折ピークの最大ピーク強度比が大きいほど、窒化ガリウム結晶基板の結晶品質が高く、窒化ガリウム結晶基板の結晶品質を詳細に評価することができる。
【0021】
[6]上記窒化ガリウム結晶基板の結晶品質の評価方法におけるφスキャンパターン測定において、φが-180°から180°までの測定するとき、φが-180°から-150°まで、-150°から-120°まで、-120°から-90°まで、-90°から-60°まで、-60°から-30°まで、-30°から0°まで、0°から30°まで、30°から60°まで、60°から90°まで、90°から120°まで、120°から150°まで、および150°から180°までの30°毎の12の区分領域に分けるとき、各区分領域の少なくとも2つの領域のX線多重回折ピークにおいて、任意に特定される所定の複数の結晶面に由来する基準ピークのピーク強度をバックグランド強度で除して得られる基準ピーク強度比に対する基準ピーク以外に任意に特定される別の所定の複数の結晶面に由来する対比ピークのピーク強度をバックグランド強度で除して得られる対比ピーク強度比の相対比である対比ピーク相対強度比のばらつきの小ささから、窒化ガリウム結晶基板の結晶品質を評価することができる。かかる窒化ガリウム結晶基板の結晶品質の評価方法は、対比ピーク相対強度比のばらつきが小さいほど、窒化ガリウム結晶基板の結晶品質がより高く、窒化ガリウム結晶基板の結晶品質をより詳細に評価することができる。
【0022】
[7]上記窒化ガリウム結晶基板の結晶品質の評価方法におけるφスキャンパターン測定において、φが-180°から180°までの測定するとき、φが-180°から-150°まで、-150°から-120°まで、-120°から-90°まで、-90°から-60°まで、-60°から-30°まで、-30°から0°まで、0°から30°まで、30°から60°まで、60°から90°まで、90°から120°まで、120°から150°まで、および150°から180°までの30°毎の12の区分領域に分けて、各区分領域毎に各区分領域に対応するφ軸を軸立てして測定を行い、各区分に対応するφ軸の軸立てをする角度をその区分領域のφの範囲の中央のφの角度とすることができる。かかる窒化ガリウム結晶基板の結晶品質の評価方法は、さらに精密なX線多重回折ピークが得られるため、窒化ガリウム結晶基板の結晶品質をさらに詳細に評価することができる。
【0023】
[本発明の実施形態の詳細]
図面に基づいて、以下に本発明の実施形態を詳細に説明する。まず、GaN(窒化ガリウム)結晶基板の結晶品質の評価方法について説明し、次いで、かかる評価方法により評価される結晶品質の高いGaN結晶基板について説明する。本願の明細書、特許請求の範囲および図面において、六方晶系結晶であるGaN結晶について、ある特定の結晶面を(hkil)で表し、結晶の対称性から等価な結晶面の組を{hkil}で表す。また、ある特定の方向を[hkil]で表し、結晶の対称性から等価な方向の組を<hkil>で表す。ここで、h、k、i、およびlは、ミラー指数である。ここで、i=-(h+k)の関係が有る。通常、ミラー指数は、0、自然数、および自然数の上にバーを付した数で示すが、本明細書および図面においては、バーを付した自然数は、その自然数の前にマイナス符号をつけて表す。たとえば、(11-20)の表記は、「イチ・イチ・ニ/バー・ゼロ」の結晶面と読み、[1-100]の表記は、「イチ・イチ/バー・ゼロ・ゼロ」の方向と読む。
【0024】
<GaN結晶基板の結晶品質の評価方法>
本実施形態のGaN(窒化ガリウム)結晶基板の結晶品質の評価方法は、主面が{0001}面であるGaN結晶基板の結晶品質を、入射側にX線レンズを使用して0.3mm×0.3mmのクロススリットによりポイントフォーカスしたCuKα1単色X線の小発散角入射X線平行ビームを用い、受光側に反射率測定用の0.27°スリットを付けた0.27°のコリメータおよびグラファイト平板モノクロメータを用いたX線回折測定により評価する方法である。GaN結晶基板を、その[1-100]方向がφ=0°の方向と一致するように、試料台に配置する工程と、0002対称ブラッグ反射の回折角2θ(すなわち回折角2θ:34.5666°)におけるωスキャンおよびzスキャン、ならびにχ軸の軸立てにより、GaN結晶基板の位置を校正する工程と、測定φ角度ステップ0.02°、測定φの角度範囲に応じて、各ステップでの計測時間が1秒から50秒の範囲の測定条件で、0001対称禁制ブラッグ反射の入射角ωおよび回折角2θ(すなわち入射角ω:8.5428°および回折角2θ:17.0856°)において、[0001]軸を回転軸としたφスキャン(Reinninger Scanともいう。以下同じ。)パターン測定を行なう工程と、を含む。φスキャンパターン測定から得られるX線多重回折ピークの対称性の高さおよびX線多重回折ピークの最大ピーク強度をバックグランド強度で除して得られる最大ピーク強度比の高さから、窒化ガリウム結晶基板の結晶品質を評価する。本実施形態の窒化ガリウム結晶基板の結晶品質の評価方法は、小発散角入射X線平行ビームを用いたX線回折測定において、上記φスキャンパターン測定から得られるX線多重回折ピークの対称性が高いほど、またX線多重回折ピークの最大ピーク強度比が大きさほど、窒化ガリウム結晶基板の結晶品質が高く、窒化ガリウム結晶基板の結晶品質を詳細に評価することができる。
【0025】
本実施形態のGaN結晶基板の結晶品質の評価方法は、単結晶の特定結晶面として{0001}面を有するGaN結晶基板のX線回折測定において、0002対称ブラッグ反射による大きな回折ピーク以外に、消滅則から示される構造因子から定められる0001対称禁制ブラッグ反射の位置に観測される回折ピークを利用するものである。かかる回折は、結晶表面に平行でない結晶内部2つ以上の回折強度の強い結晶面における多重回折であり、Umweganregung(遠回り)回折とも呼ばれる。かかる多重回折は、特に、単結晶が完全結晶に近づくほど、よく観察される。また、単結晶材料の結晶構造の原子が理論計算における剛体球モデルでなく、原子結合の方向に延びる形状の原子雲を有していることから、構造因子がゼロではないことが、バックグランドが観測される原因と考えられる。かかるバックグランドの領域は、上記のX線の多重回折が生じていない領域である。本発明者らは、小発散角入射X線平行ビームを用いた0001対称禁制ブラッグ反射の入射角ωおよび回折角2θにおける[0001]軸を回転軸としたφスキャンパターン測定において、結晶表面近傍内部の結晶の表面に平行でない結晶面におけるX線の多重回折により観察されるX線多重回折ピークを利用して、GaN結晶基板の表面近傍内部の結晶品質を非破壊的に評価する本実施形態のGaN結晶基板の結晶品質の評価方法を完成させた。本実施形態のGaN結晶基板の結晶品質の評価方法は、[0001]軸を回転軸としたφスキャンの回転角φに依存して結晶表面近傍の内部の結晶面でのX線の多重回折が生じるため、結晶基板表面近傍における結晶面内の均一性の評価に適している。
【0026】
従来のGaN結晶基板の結晶品質の評価方法である、ω-2θ測定におけるωロッキングカーブの0002対称ブラッグ反射による回折ピークの半値幅を利用した評価方法においては、結晶表面からの深さ方向の結晶構造に注目した場合、0002対称ブラッグ反射の入射角ωが17.2833°である。これに対し、本実施形態のGaN結晶基板の結晶品質の評価方法においては、0001対称禁制ブラッグ反射の入射角ωは8.5428°であり、0002対称ブラッグ反射の入射角の略半分以下の入射角であることから、結晶表面でのX線の試料透過厚さは略半分となり、結晶表面に近い結晶品質の評価が可能となり、電子・光デバイスのエピタキシャル結晶基板の評価として、より好ましいと考えられる。さらに、入射X線がポイントフォーカスの平行ビームで0.3mm×0.3mmの点状であるため、測定場所を面内で動かすことにより、結晶表面近傍面内の結晶構造の面内の均一性などを非破壊で評価可能である。
【0027】
(X線回折装置の入射X線側設定)
X線回折装置は、モノクロメータにより単色X線を検出することができ、発散角の小さい平行ビームを利用すること以外は特に制限はないが、操作性および作業性が高い観点から、4軸のゴニオメータ方式の採用が好ましい。X線の光軸は固定で、入射角ω、回折角(反射角)2θ、GaN結晶基板位置の座標x、y、z、GaN結晶基板の回転角φ、GaN結晶基板の煽り角χなどが設定される。
【0028】
(小発散角入射X線平行ビームの使用)
本実施形態のGaN結晶基板の結晶品質の評価方法においては、0001対称禁制ブラッグ反射の[0001]軸を回転軸としたφスキャンパターン測定のために、X線回折装置の入射X線の発散角を小さくする必要があることから、
図1に示すような平行ビーム法を用いる。平行ビーム法において、平行ビームを得るために、X線レンズおよびモノキャピラリーの少なくともいずれかを用いる。X線レンズを用いた平行ビーム法では角0.3mm×0.3mmのビーム径が得られ、モノキャピラリーを用いた平行ビーム法では直径0.1mmのビーム径が得られる。X線レンズを用いてもモノキャピラリーを用いてもX線の発散角は同じであり、モノキャピラリーを用いるとX線の強度が低下するため、X線レンズを用いた平行ビーム法が好ましい。本実施形態においては、X線レンズを使用して0.3mm×0.3mmのクロススリットによりポイントフォーカスした小発散角入射X線平行ビームを用いて、受光側にグラファイト平板モノクロメータ(CuKα
1単色X線選択用の分光器)を配置してCuKα
1単色X線としているが、入射側にCuKα
1単色X線選択用の分光器を配置することも可能である。
【0029】
(X線回折装置の試料台設定)
0002対称ブラッグ反射を測定するω-2θ測定と異なり、φスキャンの場合は、
図2に示す試料台の回転軸φと、結晶基板の主面(試料面)の法線方向が一致しておらず、φスキャンによりブラッグ反射強度の観察値が変動し、さらに試料であるGaN結晶基板のオフ角が存在するため、GaN結晶基板の[0001]方向と試料台の回転軸φとが一致しない。その補正のために、2軸傾斜試料台が用意されているが、本φスキャン測定の場合は、測定範囲が狭い(たとえば30°の)ことから、φスキャンによる強度が最大近くのところに結晶軸と回転軸を一致させて測定されるため、測定範囲内でGaN結晶基板の[0001]方向と試料台の回転軸φとが一致することになり、2軸傾斜試料台は利用しなくてもよい。また、本φスキャン測定において、後述のように、30°毎の12の区分領域に分けて測定する場合は、その区分領域に対応するφ軸を軸立てして測定することにより、φスキャンによる強度がより最大近くのところで測定できるため、利用しなくてもよい。
【0030】
(X線回折装置の受光部側設定)
入射X線の発散角の小さい回折X線を検出するため、受光側においても0.27°コリメータと反射率測定用の0.27°スリットを利用する。また、CuKα1単色X線を選択する必要があることから、CuKα1単色X線選択用の平行板グラファイトモノクロメータを使用する。なお、入射側にCuKα1単色X線選択用の分光器を配置する場合は、CuKα1単色X線選択用の平行板グラファイトモノクロメータを省略できる場合がある。
【0031】
(GaN結晶基板を試料台に配置する工程)
GaN結晶基板を試料台に配置する工程において、X線回折装置の試料台に、窒化ガリウム結晶基板を、その[1-100]方向がφ=0°の方向と一致するように配置する。具体的には、[1-100]方向とφ角度とが同じ面の法線を持つ{01-11}面による01-11対称ブラッグ反射のφスキャンを行い、そのピークの位置をφ=0°とする。この際のχの値は61.96°である。
【0032】
(GaN結晶基板の位置を校正する工程)
図2を参照して、GaN結晶基板の位置を校正する工程において、{0002}対称反射の2θが34.5667°のときの入射角ωが17.2889°およびその近傍でωスキャンすることにより、ωロッキングカーブを測定し、回折ピークが発現するωの値を17.2889°としてωのオフセット校正を行う。次に、上記で校正されたωを用いたω-2θ測定において、zスキャンを行い、ピークが現れるzの値を決定することにより、zの校正を行う。上記で校正され決定されたω-2θおよびzにおいて、χの角度の調整によるχ軸の軸立てをすることにより、χ=0°となりφ軸と{0001}軸とを一致させる(すなわち、結晶の回転軸と結晶軸とを一致させる)。ここで、χの角度の調整によるχ軸の軸立てとは、χの角度をステップ0.3°で2°ないし3°の範囲で変化させ0002対称ブラッグ反射の位置でωスキャンをくり返し行い、各スキャンでのピークの値の最大となるχの値を求める最適化プログラムを実行して、χの値のオフセット値を設定してχ=0°とすることをいう。
【0033】
(禁制ブラッグ反射の測定)
図3を参照して、0001対称禁制ブラッグ反射の[0001]軸を回転軸としたφスキャンパターン測定を行なう工程において、GaN結晶基板の回転角φを-180°から180°までスキャンさせると、対称性の高い回折パターンが現れる(
図12~
図13を参照)。
図2および
図3を対比すると、0002対称ブラッグ反射測定における入射角ωが17.2833°であるのに対して、0001対称禁制ブラッグ反射測定における入射角ωは8.5428°と略半分となっているため、結晶表面近傍の結晶品質を詳細に知ることができる。
【0034】
(結晶品質の評価)
結晶表面近傍の結晶品質は、φスキャンパターン測定から得られるX線多重回折ピークの対称性およびX線多重回折ピークの最大ピーク強度をバックグランド強度で除して得られる最大ピーク強度比から評価する。ここで、結晶品質の高いGaN結晶基板ほど、X線多重回折ピークの対称性が高くかつ最大ピーク強度比が高くなることから、X線多重回折ピークの対称性が高くかつ最大ピーク強度比が高いほどGaN結晶基板の結晶品質が高いと評価する。
【0035】
(禁制ブラッグ反射の測定とGaN結晶基板の結晶構造との関係)
0001対称禁制ブラッグ反射の[0001]軸を回転軸としたφスキャンパターン測定とGaN結晶基板の結晶構造との関係について、以下に説明する。
【0036】
(1)GaN結晶基板の結晶構造
GaN結晶基板を形成するGaN結晶は、六方晶系のウルツ鉱型の結晶構造を有する。格子定数は、a(a
1=a
2=a
3)が0.31891nm、cが0.51855nmである。結晶面として、
図4に示す{0001}面であるc面、
図5に示す{0002}面である(1/2)c面、
図6に示す{10-10}面であるm面、
図7に示す{11-20}面であるa面などがある。
図8は、結晶格子におけるGa原子およびN原子の配置を示す。
【0037】
(2)GaN結晶基板におけるX線の入射方位と結晶方位との関係
GaN結晶基板を形成するGaN結晶は、六方晶系のウルツ鉱型の結晶構造を有し、空間群No.186のP6
3mcの6回回反対称性を有するが、c軸に垂直な平面においては3回回転対称性を有する。そこで、GaN結晶基板は、その[1-100]方向をφ=0°の方向と一致させるとき、
図9に示す結晶方位を有し、c軸に垂直な結晶面を、3回回転対称であるA領域(φが-60°から60°までの領域)、B領域(φが60°から180°までの領域)およびC領域(φが-180°から-60°までの領域)の3領域に分ける。
【0038】
A領域は、φ=0°を示す線および[0001]軸を含む面を鏡映面として互いに鏡映対称性を有するA-領域(φが-60°から0°までの領域)とA+領域(φが0°から60°までの領域)に分ける。B領域は、φ=120°を示す線および[0001]軸を含む面を鏡映面として互いに鏡映対称性を有するB-領域(φが60°から120°までの領域)とB+領域(φが120°から180°までの領域)に分ける。C領域は、φ=-120°を示す線および[0001]軸を含む面を鏡映面として互いに鏡映対称性を有するC-領域(φが-180°から-120°までの領域)とC+領域(φが-120°から-60°までの領域)に分ける。
【0039】
A-領域は、さらに、φ=-30°を示す線および[0001]軸の交点を中心として互いに回反対称性を有するA-L領域(φが-60°から-30°までの領域)とA-R領域(φが-30°から0°まで)とに分ける。A+領域は、φ=30°を示す線および[0001]軸の交点を中心として互いに回反対称性を有するA+L領域(φが0°から30°までの領域)とA+R領域(φが30°から60°まで)とに分ける。B-領域は、さらに、φ=90°を示す線および[0001]軸の交点を中心として互いに回反対称性を有するB-L領域(φが60°から90°までの領域)とB-R領域(φが90°から120°まで)とに分ける。B+領域は、さらに、φ=150°を示す線および[0001]軸の交点を中心として互いに回反対称性を有するB+L領域(φが120°から150°までの領域)とB+R領域(φが150°から180°まで)とに分ける。C-領域は、さらに、φ=-150°を示す線および[0001]軸の交点を中心として互いに回反対称性を有するC-L領域(φが-180°から-150°までの領域)とC-R領域(φが-150°から-120°まで)とに分ける。C+領域は、さらに、φ=-90°を示す線および[0001]軸の交点を中心として互いに回反対称性を有するC+L領域(φが-120°から-90°までの領域)とC+R領域(φが-90°から-30°まで)とに分ける。このようにして、c軸に垂直な結晶面は、φが-180°から180°まで、C-L領域、C-R領域、C+L領域、C+R領域、A-L領域、A-R領域、A+L領域、A+R領域、B-L領域、B-R領域、B+L領域、およびB+L領域の12の区分領域に分ける。
【0040】
φスキャンパターン測定において、φが-180°から-150°までのC-L領域、-150°から-120°までのC-R領域、-120°から-90°までのC+L領域、-90°から-60°までのC+R領域、-60°から-30°までのA-L領域、-30°から0°までのA-R領域、0°から30°までのA+L領域、30°から60°までのA+R領域、60°から90°までのB-L領域、90°から120°までのB-R領域、120°から150°までのB+L領域、および150°から180°までのB+L領域の30°毎の12の区分領域に分けるとき、各区分領域の少なくとも2つの領域のX線多重回折ピークにおいて、任意に特定される所定の複数の結晶面に由来する基準ピークのピーク強度をバックグランド強度で除して得られる基準ピーク強度比に対する基準ピーク以外に任意に特定される別の所定の複数の結晶面に由来する対比ピークのピーク強度をバックグランド強度で除して得られる対比ピーク強度比の相対比である対比ピーク相対強度比のばらつきの小ささから、窒化ガリウム結晶基板の結晶品質を評価することが好ましい。ここで、対比ピーク相対強度比のばらつきとは、各区分領域の少なくとも2つの領域において対応する対比ピーク相対強度比の分散、標準偏差、および範囲(最大値と最小値との差)のいずれかの統計値とすることができる。かかる窒化ガリウム結晶基板の結晶品質の評価方法は、対比ピーク相対強度比のばらつきが小さいほど、窒化ガリウム結晶基板の結晶品質がより高く、窒化ガリウム結晶基板の結晶品質をより詳細に評価することができる。
【0041】
φスキャンパターン測定において、φが-180°から-150°までのC-L領域、-150°から-120°までのC-R領域、-120°から-90°までのC+L領域、-90°から-60°までのC+R領域、-60°から-30°までのA-L領域、-30°から0°までのA-R領域、0°から30°までのA+L領域、30°から60°までのA+R領域、60°から90°までのB-L領域、90°から120°までのB-R領域、120°から150°までのB+L領域、および150°から180°までのB+L領域の30°毎の12の区分領域に分けて、各区分領域毎に各区分領域に対応するφ軸を軸立てして測定を行い、各区分に対応するφ軸の軸立てをする角度をその区分領域のφの範囲の中央のφの角度とすることが好ましい。すなわち、表1に示すように、各区分領域におけるφ軸の軸立てをする角度は、C-L領域が-165°、C-R領域が-135°、C+L領域が-105°、C+R領域が-75°、A-L領域が-45°、A-R領域が-15°、A+L領域が15°、A+R領域が45°、B-L領域が75°、B-R領域が105°、B+L領域が135°、およびB+L領域が165°とすることが好ましい。かかる窒化ガリウム結晶基板の結晶品質の評価方法は、さらに精密なX線多重回折ピークが得られるため、窒化ガリウム結晶基板の結晶品質をさらに詳細に評価することができる。
【0042】
【0043】
図12~
図15を参照して、GaN結晶基板についてX線入射方向のφが-180°から180°までの測定において現われる具体的なX線多重回折パターンは、φが-180°から-60°まで、-60°から60°まで、および60°から180°までの120°毎に繰り返す3回回転対称性を有する3つの120°回転対称ピーク領域(A領域、B領域、およびC領域)を備える。各120°回転対称ピーク領域(A領域、B領域、またはC領域)は、その領域のφの範囲の中央のφの角度(φ=0°、φ=120°、またはφ=-120°)を示す線および[0001]軸を含む面を鏡映面として互いに鏡映対称性を有する-領域(A
-領域、B
-領域、またはC
-領域)と+領域(A
+領域、B
+領域、またはC
+領域)とを備える。各-領域(A
-領域、B
-領域、またはC
-領域)は、その領域のφの範囲の中央のφの角度(φ=-30°、φ=90°、またはφ=-150°)を示す線および[0001]軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する-L領域(A
-L領域、B
-L領域、またはC
-L領域)と-R領域(A
-R領域、B
-R領域、またはC
-R領域)とを備える。各+領域(A
+領域、B
+領域、またはC
+領域)は、その領域のφの範囲の中央のφの角度(φ=30°、φ=150°、またはφ=-90°)を示す線および[0001]軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する+L領域(A
+L領域、B
+L領域、またはC
+L領域)と+R領域(A
+R領域、B
+R領域、またはC
+R領域)とを備える。ここで、X線多重回折パターンの対称性および鏡映対称関係における「対称」とは、バックグランド領域(X線の多重回折が生じない領域)およびX線多重回折ピーク領域の位置が対称の位置にあることを意味するものであり、X線多重回折ピーク領域における各X線多重回折ピークの本数および強度が対称であることを意味するものではない。
【0044】
図14に示すように、A
+R領域を基本区分領域とすると、A
+L領域はA
+R領域と回反対称の関係にある回反基本区分領域であり、A
-R領域はA
+L領域と鏡映対称の関係にある回反鏡映基本区分領域であり、A
-L領域はA
+R領域と鏡映対称の関係にある鏡映基本区分領域である。このような対称性を考慮して、A
+R領域に存在する2つのX線多重回折ピーク群をmp1およびmp2と表すと、A
+L領域に存在する2つのX線多重回折ピーク群は、mp1およびmp2に回反対称を示す「'」記号を付して、mp1'およびmp2'と表すことができる。A
-R領域に存在する2つの多重ピーク群は、mp1'およびmp2'に鏡映対称を示す「()
m」記号を付して、(mp1')
mおよび(mp2')
mと表すことができる。A
-L領域に存在する2つのX線多重回折ピーク群は、mp1およびmp2に鏡映対称を示す「()
m」記号を付して、(mp1)
mおよび(mp2)
mと表すことができる。
【0045】
<GaN結晶基板>
図12~
図15を参照して、本実施形態のGaN(窒化ガリウム)結晶基板は、主面が{0001}面であり、入射側にX線レンズを使用して0.3mm×0.3mmのクロススリットによりポイントフォーカスした小発散角入射X線平行ビームを用い、受光側に反射率測定用の0.27°スリットを付けた0.27°のコリメータおよびCuKα
1単色X線選択用のグラファイト平板モノクロメータを用いたX線回折測定により、測定φ角度ステップ0.02°、測定φの角度範囲に応じて、各ステップでの計測時間が1秒から50秒の範囲の測定条件で行なう0001対称禁制ブラッグ反射の入射角ωおよび回折角2θ(すなわち入射角ω:8.5428°および回折角2θ:17.0856°)における[0001]軸を回転軸としたφスキャンパターン測定において、[1-100]方向をφ=0°とするとき、φが-180°から180°までの測定において、結晶内におけるX線の多重回折により現われるX線多重回折パターンは、φが-180°から-60°まで、-60°から60°まで、および60°から180°までの120°毎に繰り返す3回回転対称性を有する3つの120°回転対称ピーク領域(A領域、B領域、およびC領域)を備える。各120°回転対称ピーク領域(A領域、B領域、またはC領域)は、その領域のφの範囲の中央のφの角度(φ=0°、φ=120°、またはφ=-120°)を示す線および[0001]軸を含む面を鏡映面として互いに鏡映対称性を有する-領域(A
-領域、B
-領域、またはC
-領域)と+領域(A
+領域、B
+領域、またはC
+領域)とを備える。各-領域(A
-領域、B
-領域、またはC
-領域)は、その領域のφの範囲の中央のφの角度(φ=-30°、φ=90°、またはφ=-150°)を示す線および[0001]軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する-L領域(A
-L領域、B
-L領域、またはC
-L領域)と-R領域(A
-R領域、B
-R領域、またはC
-R領域)とを備える。各+領域(A
+領域、B
+領域、またはC
+領域)は、その領域のφの範囲の中央のφの角度(φ=30°、φ=150°、またはφ=-90°)を示す線および[0001]軸の交点を中心として互いに回反対称性を有する+L領域(A
+L領域、B
+L領域、またはC
+L領域)と+R領域(A
+R領域、B
+R領域、またはC
+R領域)とを備える。各-L領域(A
-L領域、B
-L領域、およびC
-L領域の各区分領域)、各-R領域(A
-R領域、B
-R領域、およびC
-R領域の各区分領域)、各+L領域(A
+L領域、B
+L領域、およびC
+L領域の各区分領域)、および各+R領域(A
+R領域、B
+R領域、およびC
+R領域の各区分領域)の少なくとも1領域におけるX線多重回折ピークの最大ピーク強度をバックグランド強度で除して得られる最大ピーク強度比が500以上である。本実施形態の窒化ガリウム結晶基板は、従来の窒化ガリウム結晶基板に比べて、高い対称性と大きな最大ピーク強度比とを有しているため、結晶品質が高い。結晶品質が高い観点から、上記の最大ピーク強度比は、1000以上が好ましく、2000以上がさらに好ましい。
【0046】
ここで、X線多重回折パターンの回転対称性および鏡映対称性における「対称」とは、多重ピーク領域の位置が対称の位置にあることを意味するものであり、多重ピーク領域における各X線多重回折ピークの位置および強度が対称であることを意味するものではない。
【0047】
本実施形態のGaN結晶基板は、主面が{0001}面であり、入射側にX線レンズを使用して0.3mm×0.3mmのクロススリットによりポイントフォーカスしたCuKα1単色X線の小発散角入射X線平行ビームを用い、受光側に反射率測定用の0.27°スリットを付けた0.27°のコリメータおよびグラファイト平板モノクロメータを用いたX線回折測定において、0001対称禁制ブラッグ反射の入射角ωおよび回折角2θ(すなわち入射角ω:8.5428°および回折角2θ:17.0856°)における[0001]軸を回転軸としたφスキャンパターン測定は、詳細で正確なX線多重回折パターンを得る観点から、測定φ角度ステップ0.02°、測定φの角度範囲に応じて、各ステップでの計測時間が1秒から50秒の範囲の測定条件で行なう。
【0048】
本実施形態のGaN結晶基板についての0001対称禁制ブラッグ反射の入射角ωおよび回折角2θ(すなわち入射角ω:8.5428°および回折角2θ:17.0856°)における[0001]軸を回転軸としたφスキャンパターン測定における典型的な例を
図12~
図21に示す。
図12および
図13はいずれもφが-180°から180°までの領域におけるX線多重回折パターンの一例を示すものであり、
図12においては縦軸が平方根目盛であり、
図13においては縦軸が対数目盛である。
図12からは、X線多重回折ピークの位置および強度の値が容易に読み取れるが、バックグランドの強度が読み取りにくいため、
図13において対数目盛表示で示し、バックグラウンドの小さな値を読み取る。ここで、単位が1秒当たりのカウント数(cps)であるX線多重回折ピークの強度は、φが0.02°のステップ毎の計測時間が1秒から50秒の範囲ではほとんど変わらないため、多重回折ピーク測定はピーク時間は時間を短縮する目的でたとえば3秒で計測する。バックグラウンド強度計測に関しては、
図13からは、バックグランド強度のおおよその値が読み取れるがばらつきが大きい。そのため、バックグランド強度の測定においては、ステップ毎の計測時間が10秒以上(好ましくは15秒から50秒までの範囲)として計測数を増し、単位が1秒当たりのカウント数(cps)で2ケタ以上の精度を得るようにする。バックグランドに関わる測定を計測数を増してφの狭い範囲で行うことにより、ばらつきが小さくなり、有効数字が2ケタの精度でその値を読み取ることができるとともに、測定時間を短縮することができる。
【0049】
X線多重回折ピークの最大ピーク強度比とは、X線多重回折ピークの最大ピーク強度をバックグランド強度で除して得られるものである。ここで、最大ピーク強度は、当該ピークの頂点の強度値を読み取る。バックグランド強度は、当該ピークの低φ側のバックグランドの平坦な部分の2ケタ以上の精度のある強度の値と高φ側のバックグランドの平坦な部分の2ケタ以上の精度のある強度の値を読み取り、それらの平均値とする。
【0050】
図12などから、X線多重回折ピークの最大ピーク強度は約6900cpsであり、バックグランド強度は約3cpsであることから、最大ピーク強度比は約2300であり、500以上となる。
【0051】
図14に、基本パターンであるGaN結晶基板のφスキャンのφが-60°から60°までの120°回転対称ピーク領域であるA領域のX線多重回折パターンを示す。このφが-60°から60°までのA領域には、A
-L領域およびA
-R領域からなるA
-領域と、A
+L領域およびA
+R領域からなるA
+領域がこの順に存在する。ここで、A
-領域とA
+領域とは互いに鏡映対称性を有し、A
-L領域とA
-R領域とは互いに回反対称性を有し、A
+L領域とA
+R領域とは互いに回反対称性を有する。すなわち、A
+R領域を基本区分領域とすると、A
+L領域はA
+R領域と回反対称の関係にある回反基本区分領域であり、A
-L領域はA
+R領域と鏡映対称の関係にある鏡映基本区分領域であり、A
-R領域はA
+L領域と鏡映対称の関係にある回反鏡映基本区分領域である。このような対称性を考慮して、上述のように、A
+R領域に存在する2つの多重ピーク群をmp1およびmp2と表すと、A
+L領域に存在する2つの多重ピーク群は、回反対称を示す「'」記号を用いて、mp1'およびmp2'と表すことができる。A
-L領域に存在する2つの多重ピーク群は、鏡映対称を示す「()
m」記号を用いて、(mp1)
mおよび(mp2)
mと表すことができる。A
-R領域に存在する2つの多重ピーク群は、回反対称を示す「'」記号および鏡映対称を示す「()
m」記号を用いて、(mp1')
mおよび(mp2')
mと表すことができる。
【0052】
図14に示される基本パターンのA
+領域(φが0°から60°の領域)のパターンとA
-領域(φが-60°から0°の領域)をφ=0°を軸にして反転したパターンとの対比を
図16に示す。
図16に示すように、A
-領域のX線多重回折ピーク群である(mp2')
m、(mp1')
m、(mp1)
m、および(mp2)
mと、A
+領域のX線多重回折ピーク群であるmp2'、mp1'、mp1、およびmp2とで、それぞれのX線多重回折ピークの位置がよく一致していることから、A
-領域の(mp2')
m、(mp1')
m、(mp1)
m、および(mp2)
mと、A
+領域のmp2'、mp1'、mp1、およびmp2とは、それぞれφ=0°の軸に対して互いに鏡映対称性を有することが確認できる。
【0053】
図14に示される基本パターンのA
+領域(φが-60°から0°の領域)のパターンとA
+領域をφ=30°を軸にして反転させたパターンとの対比を
図17に示す。
図17に示すように、A
+L領域のX線多重回折ピーク群であるmp1'およびmp2'と、A
+R領域のX線多重回折ピーク群であるmp1およびmp2とで、それぞれのX線多重回折ピークの位置がよく一致していることから、A
+L領域のmp1'およびmp2'と、A
+R領域のmp1およびmp2とは、それぞれφ=30°の軸に対して互いに回反対称性を有することが確認できる。
【0054】
上記において、それぞれのX線多重回折ピーク群の位置がよく一致するとは、対称関係にあるそれぞれのX線多重回折ピーク群のピークの本数の差異が2本以下であること、および、対称関係にあるそれぞれのX線多重回折ピーク群のピークの位置の差異が2°を超えるものが2本以下であることをいう。ここで、それぞれのX線多重回折ピーク群の位置がよく一致することは、GaN結晶基板の対称性が高いことを意味する。
【0055】
上記のように、本実施形態のGaN結晶基板は、高い対称性と高い最大ピーク強度比とを有しているため、結晶品質が高い。
【0056】
図18にA
+R領域のX線多重回折ピーク群であるmp1およびmp2を示し、
図19にA
+L領域のX線多重回折ピーク群であるmp1'およびmp2'を示し、
図20にA
-R領域のX線多重回折ピーク群である(mp1')
mおよび(mp2')
mを示し、
図21にA
-L領域のX線多重回折ピーク群である(mp1)
mおよび(mp2)
mを示し、各ピークにピーク番号1~14を付した。ここで、A
+R領域は上記の基本区分領域であり、A
+L領域はA
+R領域と回反対称の関係にある回反基本区分領域であり、A
-R領域はA
+R領域と回反対称の関係にある回反基本区分領域であるA
+L領域と鏡映対称の関係にある回反鏡映基本区分領域であり、A
-L領域はA
+R領域と鏡映対称の関係にある鏡映基本区分領域である。
図18~
図21において、破線の楕円を付した部分は、mp1ならびにこれと対称関係にあるmp1'、(mp1')
m、および(mp1)
mの間で出願するピークの本数および/または形状が変化する部分を示し、実線の楕円を付した部分は、mp2ならびにこれと対称関係にあるmp2'、(mp2')
m、および(mp2)
mの間で出願するピークの本数および/または形状が変化する部分を示す。
【0057】
図18を参照して、基本区分領域であるA
+R領域において、mp1には6本のX線多重回折ピークが見られ、mp2には8本のX線多重回折ピークがみられる。
図18においては、ピーク番号2とピーク番号3の2つのピークが重なっている。
図19を参照して、回反基本区分領域であるA
+L領域において、mp1'には6本のX線多重回折ピークが見られ、mp2'には7本のX線多重回折ピークが見られる。
図19においては、mp1'のピーク番号2とピーク番号3の2つのピークが重なって1つのピークのように見えるが、ピーク解析から2つのピークであることを確認している。mp2'ではピーク番号11のピークが出現していないことが分かる。
図20を参照して、回反鏡映基本区分領域であるA
-R領域において、(mp1')
mには6本のX線多重回折ピークが見られ、(mp2')
mには7本のX線多重回折ピークが見られる。
図20においては、(mp2')
mにはピーク番号11のピークが出現していないことが分かる。また、
図21を参照して、鏡映基本区分領域であるA
-L領域において、(mp1)
mには6本のX線多重回折ピークが見られ、(mp2)
mには8本のX線多重回折ピークが見られる。
【0058】
ピーク番号が1~14のピークの強度を最大強度を有するピーク番号8のピークの強度で除することにより規格化した値および各ピークの形状は、GaN結晶基板の各区分領域におけるGaN結晶の構造に依存する。ピーク番号10~12ピークのピーク数の差とピークの形状が回反関係のために生じると考えられる。ここで、現実の結晶のX線多重回折測定においては、X線多重回折ピークの重なり、欠落などによる本数の減少が考えられる。このため、完全結晶(結晶構造により理論的に導かれる欠陥のない結晶)においては、mp1およびこれと対称の関係にあるmp1'、(mp1)mおよび(mp1')mには6本のX線多重回折ピークが存在し、mp2およびこれと対称関係にあるmp2'、(mp2)mおよび(mp2')mには8本のX線多重回折ピークが存在するものと考えられる。
【0059】
A+R領域におけるmp1およびmp2のX線多重回折ピークの位置、相対強度、指数付けおよび多重回折タイプ(多重回折に関与する少なくとも2つの回折面)を表2に示す。なお、X線多重回折ピークの指数付けおよび多重回折タイプの特定には、J. Blasing and A. Krost, “X-ray multiple diffraction (Umweganregung) in wurtzite-type GaN and ZnO epitaxial layers”, phys. stat. sol., (a)201, No.4, 2004, pp.R17-R20(非特許文献2)を参照した。表2における指数付けピーク欄のP1~P3およびP5~P10は、上記文献に示された指数付けピークを示す。なお、上記文献においては、本実施形態のGaN結晶基板において、360°スキャンの範囲において多くの場合に最大ピーク強度となる(1-100)および(-1101)に由来するピーク番号8のX線多重回折ピークはP6と指数付けされている。また、本実施形態のGaN結晶基板においては現在のところ見い出せていない指数付けピークP4も記載されている。かかる指数付けピークP4は、φが指数付けP5とほぼ同じであり(P5に比べてφが0.002°小さく)、多重回折タイプは(02-22)/(0-22-1)とされている。ここで、φが30°の範囲において、上記文献においては10本のX線多重回折ピークが得られているに過ぎないが、本実施形態においては14本のX線多重回折ピークを見い出している。上記文献においては、多重反射が生じるのを2つの結晶面からのブラッグ反射により計算されたが、実際の多重反射は2つ以上の結晶面により生じる場合が有り、新しいピークは2つ以上の結晶面により生じる場合と考えられる。
【0060】
【0061】
図18~
図21および表2を参照して、本実施形態のGaN結晶基板においてA
+R領域、A
+L領域、A
-R領域、およびA
-L領域の一例は、当該区分領域における最大ピーク強度比を示すピーク番号8のX線多重回折ピークは、指数付ピークP6であり、少なくとも(1-100)および(-1101)に由来するX線多重回折ピークである。(1-100)および(-1101)は、回折強度の高い結晶面であるため、結晶が完全結晶に近いほど、かかるX線多重回折ピークの強度は高くなるものと考えられる。したがって、各-L領域(A
-L領域、B
-L領域、およびC
-L領域の各区分領域)、各-R領域(A
-R領域、B
-R領域、およびC
-R領域の各区分領域)、各+L領域(A
+L領域、B
+L領域、およびC
+L領域の各区分領域)、および各+R領域(A
+R領域、B
+R領域、およびC
+R領域の各区分領域)において、GaN結晶基板の結晶構造およびその結晶品質の高さに依存してピークの比は変化するが、最大ピーク強度比を示すX線多重回折ピークの少なくとも1つのピークは、ピーク番号8(指数付けピークP6)の少なくとも(1-100)および(-1101)に由来するX線多重回折ピークであることが好ましい。さらに、各-L領域(A
-L領域、B
-L領域、およびC
-L領域の各区分領域)、各-R領域(A
-R領域、B
-R領域、およびC
-R領域の各区分領域)、各+L領域(A
+L領域、B
+L領域、およびC
+L領域の各区分領域)、および各+R領域(A
+R領域、B
+R領域、およびC
+R領域の各区分領域)において最大ピーク強度比を示すX線多重回折ピークはいずれも、ピーク番号8(指数付けピークP6)の少なくとも(1-100)および(-1101)に由来するX線多重回折ピークであることがより好ましい。
【0062】
また、表2に示すように、指数付ピークには、それぞれ多重回折に関与する少なくとも2つの回折面を示す多重回折タイプが帰属される。結晶が完全結晶に近いほど、多重回折タイプの帰属が明らかな指数付ピークのうち、任意に特定される所定の複数の結晶面に由来する基準ピークのピーク強度をバックグランド強度で除して得られる基準ピーク強度比に対する基準ピーク以外に任意に特定される別の所定の複数の結晶面に由来する対比ピークのピーク強度をバックグランド強度で除して得られる対比ピーク強度比の相対比である対比ピーク相対強度比のばらつきが小さくなると考えられる。したがって、基準ピーク強度比に対する対比ピーク相対強度比のばらつきの小ささから、窒化ガリウム結晶基板の結晶品質を評価することができる。
【0063】
本実施形態の窒化ガリウム結晶基板は、自立基板であることが好ましい。かかる窒化ガリウム結晶基板は、結晶品質の高い自立基板であるため、半導体デバイスの製造に好適に用いられる。ここで、窒化ガリウム結晶基板は、自立基板となるためには、その厚さが250μm以上であることが好ましい。
【0064】
本実施形態の窒化ガリウム結晶基板は、その厚さが250μm以上が好ましく、300μm以上がより好ましく、400μm以上がさらに好ましいる。かかる窒化ガリウム結晶基板は、結晶品質が高い厚さが250μm以上の基板であるため、半導体デバイスの製造に好適に用いられる。また、本実施形態の窒化ガリウム結晶基板は、その直径が50mm以上が好ましく、75mm以上がより好ましく、100mm以上がさらに好ましい。かかる窒化ガリウム結晶基板は、結晶品質が高い直径が50mm以上の基板であるため、半導体デバイスの製造に好適に用いられる。
【0065】
<GaN結晶基板の製造方法>
本実施形態のGaN結晶基板の製造方法は、下地基板上にGaN結晶を成長させる工程と、成長させたGaN結晶を窒素ガス雰囲気中900℃以上かつ1800気圧以上の高温高圧条件下で熱処理する工程と、熱処理したGaN結晶をGaN結晶基板に加工する工程と、を備える。本実施形態のGaN結晶基板の製造方法は、900℃以上かつ1800気圧以上の高温高圧条件下で熱処理されたGaN結晶を加工することにより結晶品質の高いGaN結晶基板が得られる。
【0066】
成長させたGaN結晶の熱処理は、熱処理後のGaN結晶を加工して得られるGaN結晶基板の結晶品質を高める観点から、処理雰囲気が窒素雰囲気で、処理温度が900℃以上であり、好ましくは1000℃以上であり、処理圧力が1800気圧以上であり、好ましくは2000気圧以上である。また、製造装置の仕様から、処理温度は1200℃以下が好ましく、処理圧力は2000気圧以下が好ましい。
【実施例】
【0067】
(実施例1)
1.GaN結晶基板の作製
直径76mmのサファイア基板上にMOCVD(有機金属化学気相堆積)法によりGaNを成長したC面を主面とするテンプレート基板を準備し、これを下地基板として、直径85mmで厚さ20mmのSiCコーティングしたカーボン製の基板ホルダー上に置いてHVPE(ハイドライド気相成長)装置のリアクター内に配置した。リアクター内を1020℃まで加熱後、HClガスをGaと反応して発生したGaClガスと、NH3ガスと、をリアクター内へ供給した。このような下地基板の上でのGaN層成長工程において、リアクター温度1020℃を29時間保持し、また、成長圧力を1.01×105Paとし、GaClガスの分圧を6.52×102Paとし、NH3ガスの分圧を7.54×103Paとし、HClガスの分圧を3.55×101Paとした。GaN層成長工程終了後、リアクター内を室温まで降温し、GaN結晶を得た。得られたGaN結晶は、C面を成長面として結晶成長しており、成長面の表面状態は鏡面であり、触針式の膜厚計で測定した厚さは3.5mmであった。
【0068】
得られたGaN結晶の外周ならびに表面と裏面を加工したGaN結晶を熱処理した。熱処理には神戸製鋼製の熱間静水圧プレス(HIP)装置を用いた。熱処理条件は、2000気圧の窒素雰囲気中1200℃で20時間とした。熱処理後に、HIP装置よりGaN結晶を回収し、直径2インチ(50.8mm)で厚さ400μmのGaN結晶基板に加工した。
【0069】
2.GaN結晶基板のX線回折
上記GaN結晶基板をその<1-100>方向がφ=0°の方向と一致するようにX線回折装置(スペクトリス株式会社製PANalytical X’Pert MRD)の試料台にセットし、小発散角入射X線平行ビーム(X線レンズ平行ビーム、ビーム径:0.3mm×0.3mm、コリメータ(0.27°スリット使用)付平板モノクロメータ使用)を用いて、まず、0002対称ブラッグ反射の位置(入射角ω:17.2833°、回折角2θ:34.5666°)におけるωスキャン(
図10を参照)およびzスキャン(
図11を参照)によりωのオフセット校正およびzの校正を行った。校正され決定されたω-2θおよびzにおいて、χの角度の調整によりχ軸の軸立てをしたことにより、χ=0°となりφ軸と[0001]軸とを一致させた(すなわち、結晶の回転軸と結晶軸とを一致させた)。ここで、χの角度の調整によるχ軸の軸立てとは、χの角度をステップ0.3°で2°ないし3°の範囲で変化させ0002対称ブラッグ反射の位置でωスキャンをくり返し行い、各スキャンでのピークの値の最大となるχの値を求める最適化プログラムを実行して、χの値のオフセット値を設定してχ=0°とすることをいう。次に、測定φ角度ステップ0.02°、測定φの角度範囲に応じて、各ステップでの計測時間が1秒から50秒の範囲の測定条件で、0001対称禁制ブラッグ反射の位置(入射角ω:8.5428°、回折角2θ:17.0856°)にてφスキャンを測定した。その結果を表2および表3にまとめた。
【0070】
なお、φが30°毎の12の区分領域において、対称関係にあるそれぞれのX線多重回折ピーク群のピークの本数の差異が2本以下であり、かつ、対称関係にあるそれぞれのX線多重回折ピーク群のピークの位置の差異が2°を超えるものが2本以下であったため、それぞれのX線多重回折ピーク群の位置がよく一致しており、GaN結晶基板の対称性が高かった。また、φが30°毎の12の区分領域のすべての区分領域において、最大ピーク強度比を示すX線多重回折ピークは、ピーク番号8(指数付けピークP6)に対応する(1-100)および(-1101)に由来するX線多重回折ピークであった。
【0071】
3.GaN結晶基板上のエピタキシャル層の形成とフォトルミネッセンス測定
上記GaN結晶基板上に、MOCVD法により、エピタキシャル層として、厚さ3μmのGaN層を成長させた。成長させたエピタキシャル層のフォトルミネッセンスの発光強度を測定し、その結果を表4にまとめた。
【0072】
(実施例2)
GaN結晶基板の厚さを250μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、GaN結晶基板を作製し、X線回折装置にて0001対称禁制ブラッグ反射の位置(入射角ω:8.5428°、回折角2θ:17.0856°)にてφスキャンを測定し、その結果を表2および表3にまとめた。なお、φが30°毎の12の区分領域において、対称関係にあるそれぞれのX線多重回折ピーク群のピークの本数の差異が2本以下であり、かつ、対称関係にあるそれぞれのX線多重回折ピーク群のピークの位置の差異が2°を超えるものが2本以下であったため、それぞれのX線多重回折ピーク群の位置がよく一致しており、GaN結晶基板の対称性が高かった。また、φが30°毎の12の区分領域のすべての区分領域において、最大ピーク強度比を示すX線多重回折ピークは、ピーク番号8(指数付けピークP6)に対応する(1-100)および(-1101)に由来するX線多重回折ピークであった。また、実施例1と同様にして、GaN結晶基板上にエピタキシャル層を成長させ、エピタキシャル層のフォトルミネッセンスの発光強度を測定し、その結果を表4にまとめた。
【0073】
(実施例3)
熱処理を2000気圧の窒素雰囲気中1000℃で20時間としたこと以外は、実施例1と同様にして、GaN結晶基板を作製し、X線回折装置にて0001対称禁制ブラッグ反射の位置(入射角ω:8.5428°、回折角2θ:17.0856°)にてφスキャンを測定し、その結果を表2および表3にまとめた。なお、φが30°毎の12の区分領域において、対称関係にあるそれぞれのX線多重回折ピーク群のピークの本数の差異が2本以下であり、かつ、対称関係にあるそれぞれのX線多重回折ピーク群のピークの位置の差異が2°を超えるものが2本以下であったため、それぞれのX線多重回折ピーク群の位置がよく一致しており、GaN結晶基板の対称性が高かった。また、φが30°毎の12の区分領域のすべての区分領域において、最大ピーク強度比を示すX線多重回折ピークは、ピーク番号8(指数付けピークP6)に対応する(1-100)および(-1101)に由来するX線多重回折ピークであった。また、実施例1と同様にして、GaN結晶基板上にエピタキシャル層を成長させ、エピタキシャル層のフォトルミネッセンスの発光強度を測定し、その結果を表4にまとめた。
【0074】
(実施例4)
熱処理を2000気圧の窒素雰囲気中900℃で20時間としたこと以外は、実施例1と同様にして、GaN結晶基板を作製し、X線回折装置にて0001対称禁制ブラッグ反射の位置(入射角ω:8.5428°、回折角2θ:17.0856°)にてφスキャンを測定し、その結果を表2および表3に示した。なお、φが30°毎の12の区分領域において、対称関係にあるそれぞれのX線多重回折ピーク群のピークの本数の差異が2本以下であり、かつ、対称関係にあるそれぞれのX線多重回折ピーク群のピークの位置の差異が2°を超えるものが2本以下であったため、それぞれのX線多重回折ピーク群の位置がよく一致しており、GaN結晶基板の対称性が高かった。また、φが30°毎の12の区分領域のすべての区分領域において、最大ピーク強度比を示すX線多重回折ピークは、ピーク番号8(指数付けピークP6)に対応する(1-100)および(-1101)に由来するX線多重回折ピークであった。また、実施例1と同様にして、GaN結晶基板上にエピタキシャル層を成長させ、エピタキシャル層のフォトルミネッセンスの発光強度を測定し、その結果を表4にまとめた。
【0075】
(参考例1)
熱処理を1気圧の窒素雰囲気中1200℃で20時間としたこと以外は、実施例1と同様にして、GaN結晶基板を作製し、X線回折装置にて0001対称禁制ブラッグ反射の位置(入射角ω:8.5428°、回折角2θ:17.0856°)にてφスキャンを測定し、その結果を表3に示した。また、実施例1と同様にして、GaN結晶基板上にエピタキシャル層を成長させ、エピタキシャル層のフォトルミネッセンスの発光強度を測定し、その結果を表4にまとめた。
【0076】
(参考例2)
熱処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、GaN結晶基板を作製し、X線回折装置にて0001対称禁制ブラッグ反射の位置(入射角ω:8.5428°、回折角2θ:17.0856°)にてφスキャンを測定し、その結果を表3に示した。また、実施例1と同様にして、GaN結晶基板上にエピタキシャル層を成長させ、エピタキシャル層のフォトルミネッセンスの発光強度を測定し、その結果を表4にまとめた。
【0077】
【0078】
【0079】
上述のように、実施例1~4で得られたGaN結晶基板のウエハは、高い対称性と高い最大ピーク強度比とを有していた。また、表4を参照して、実施例1~4で得られたGaN結晶基板のウエハ上に成長させたエピタキシャル層のフォトルミネッセンスの発光強度が高く、結晶品質の高いエピタキシャル層であることが分かった。
【0080】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。