(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】防護柵の非破壊診断方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/12 20060101AFI20221026BHJP
G01N 29/46 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
G01N29/12
G01N29/46
(21)【出願番号】P 2018011668
(22)【出願日】2018-01-26
【審査請求日】2020-09-25
(31)【優先権主張番号】P 2017065375
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2017年8月1日に公益社団法人土木学会により発行された「平成29年度土木学会全国大会 第72回年次学術講演会 DVD-ROM版講演概要集」にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】596053585
【氏名又は名称】西日本高速道路エンジニアリング中国株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000165697
【氏名又は名称】原子燃料工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】前田 良文
(72)【発明者】
【氏名】岡本 智文
(72)【発明者】
【氏名】安永 貞生
(72)【発明者】
【氏名】松永 嵩
(72)【発明者】
【氏名】小川 良太
(72)【発明者】
【氏名】匂坂 充行
(72)【発明者】
【氏名】礒部 仁博
(72)【発明者】
【氏名】藤吉 宏彰
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-180652(JP,A)
【文献】国際公開第2016/092869(WO,A1)
【文献】特開2015-064351(JP,A)
【文献】特開2003-014707(JP,A)
【文献】特開平10-009847(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0069192(US,A1)
【文献】松永嵩、他,ガードレール支柱の経年劣化検査技術の開発,土木学会年次学術講演会講演概要集(CD-ROM),日本,2015年08月01日,Vol.70th,331-332
【文献】インテグリティ試験を用いた橋梁基礎の損傷調査法マニュアル(案),橋梁基礎構造の形状および損傷調査マニュアル(案),日本,国立研究開発法人 土木研究所,1999年12月,インターネット<URL:https://pwri.go.jp/caesar/manual/pdf/corepo_0236.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
G01B 17/00-17/08
G01N 3/00-3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防護柵の支柱部への加振により発生した振動波形から取得された振動特性に基づいて、前記防護柵の健全性を非破壊で診断する防護柵の非破壊診断方法であって、
前記振動特性の内から固有振動のデータに基づいて、前記支柱部における腐食、根入れ長不足、曲り、基礎部の拘束力の低下に伴う剛性の低下あるいは固定力の低下を評価すると共に、
前記振動特性の内から衝撃弾性波のデータに基づき、加振を開始した時刻と、衝撃弾性波である反射波が観測された時刻との時間間隔と、正常な支柱において測定された時間間隔とを比較することにより前記支柱部における根入れ長、曲り位置および/または腐食位置を評価し、
前記固有振動に基づく評価および衝撃弾性波に基づく評価によって、前記防護柵の健全性を診断する防護柵の非破壊診断方法であり、
前記固有振動のデータに基づいた評価が、
前記振動波形を周波数解析して周波数分布を得るステップと、
得られた前記周波数分布の固有振動ピークの周波数から、予めしきい値として決められた強度を超える強度を有するピーク周波数の内、最小のピーク周波数を評価ピーク周波数として選択するステップと、
選択された前記評価ピーク周波数と、健全な状態の防護柵における評価ピーク周波数とを比較するステップと、
比較の結果に基づいて、前記防護柵の健全性を判定するステップとを備えていることを特徴とする防護柵の非破壊診断方法。
【請求項2】
防護柵の支柱部への加振により発生した振動波形から取得された振動特性に基づいて、前記防護柵の健全性を非破壊で診断する防護柵の非破壊診断方法であって、
前記振動特性の内から固有振動のデータに基づいて、前記支柱部における腐食、根入れ長不足、曲り、基礎部の拘束力の低下に伴う剛性の低下あるいは固定力の低下を評価すると共に、
前記振動特性の内から衝撃弾性波のデータに基づき、加振を開始した時刻と、衝撃弾性波である反射波が観測された時刻との時間間隔と、正常な支柱において測定された時間間隔とを比較することにより前記支柱部における根入れ長、曲り位置および/または腐食位置を評価し、
前記固有振動に基づく評価および衝撃弾性波に基づく評価によって、前記防護柵の健全性を診断する防護柵の非破壊診断方法であり、
前記固有振動のデータに基づいた評価が、
腐食、根入れ長不足、曲り、基礎部の拘束力の低下がないことが予め判明している前記防護柵の支柱部への加振により発生した前記振動波形を周波数解析して周波数分布を得、得られた前記周波数分布の固有振動ピークの周波数から、予めしきい値として決められた強度を超える強度を有するピーク周波数の内、最小のピーク周波数を判定の基準値として設定するステップと、
診断対象の前記防護柵の支柱部への加振により発生した前記振動波形を周波数解析して周波数分布を得るステップと、
得られた前記周波数分布の固有振動ピークの周波数から、予めしきい値として決められた強度を超える強度を有するピーク周波数の内、最小のピーク周波数を評価ピーク周波数として選択するステップと、
選択された前記評価ピーク周波数と、前記判定の基準値とを比較するステップと、
比較の結果に基づいて、前記防護柵の健全性を判定するステップとを備えていることを特徴とする防護柵の非破壊診断方法。
【請求項3】
防護柵の支柱部への加振により発生した振動波形から取得された振動特性に基づいて、前記防護柵の健全性を非破壊で診断する防護柵の非破壊診断方法であって、
前記振動特性の内から固有振動のデータに基づいて、前記支柱部における腐食、根入れ長不足、曲り、基礎部の拘束力の低下に伴う剛性の低下あるいは固定力の低下を評価すると共に、
前記振動特性の内から衝撃弾性波のデータに基づき、加振を開始した時刻と、衝撃弾性波である反射波が観測された時刻との時間間隔と、正常な支柱において測定された時間間隔とを比較することにより前記支柱部における根入れ長、曲り位置および/または腐食位置を評価し、
前記固有振動に基づく評価および衝撃弾性波に基づく評価によって、前記防護柵の健全性を診断する防護柵の非破壊診断方法であり、
前記固有振動データのデータに基づいた評価が、
前記支柱の上面にセンサを配置し、前記上面を打撃して加振することにより前記支柱の縦振動モードの振動波形を得るステップと、
得られた振動波形を周波数解析して周波数分布を得るステップと、
得られた周波数分布から、前記支柱の縦振動モードの固有振動数を求めるステップと、
求めた固有振動数に基づいて前記支柱の全長を求めるステップと、
求めた前記支柱の全長から地上に露出している部分の長さを差し引いて、前記支柱における根入れ長を求めるステップとを備えていることを特徴とする防護柵の非破壊診断方法。
【請求項4】
防護柵の支柱部への加振により発生した振動波形から取得された振動特性に基づいて、前記防護柵の健全性を非破壊で診断する防護柵の非破壊診断方法であって、
前記振動特性の内から固有振動のデータに基づいて、前記支柱部における腐食、根入れ長不足、曲り、基礎部の拘束力の低下に伴う剛性の低下あるいは固定力の低下を評価すると共に、
前記振動特性の内から衝撃弾性波のデータに基づき、加振を開始した時刻と、衝撃弾性波である反射波が観測された時刻との時間間隔と、正常な支柱において測定された時間間隔とを比較することにより前記支柱部における根入れ長、曲り位置および/または腐食位置を評価し、
前記固有振動に基づく評価および衝撃弾性波に基づく評価によって、前記防護柵の健全性を診断する防護柵の非破壊診断方法であり、
前記衝撃弾性波のデータに基づいた評価が、
前記振動波形から反射波を特定するステップと、
前記防護柵の支柱部への加振開始時刻と反射波観測時刻との時間間隔を取得するステップと、
得られた前記時間間隔と、健全な状態の防護柵における前記時間間隔とを比較するステップと、
比較の結果に基づいて、前記防護柵の健全性を判定するステップとを備えており、
前記防護柵の支柱部への加振開始時刻と反射波観測時刻との時間間隔を取得するステップが、防護柵の支柱部への加振により発生した振動波形から得られた自己相関関数の第一ピークから前記時間間隔を取得するステップであることを特徴とする防護柵の非破壊診断方法。
【請求項5】
防護柵の支柱部への加振により発生した振動波形から取得された振動特性に基づいて、前記防護柵の健全性を非破壊で診断する防護柵の非破壊診断方法であって、
前記振動特性の内から固有振動のデータに基づいて、前記支柱部における腐食、根入れ長不足、曲り、基礎部の拘束力の低下に伴う剛性の低下あるいは固定力の低下を評価すると共に、
前記振動特性の内から衝撃弾性波のデータに基づき、加振を開始した時刻と、衝撃弾性波である反射波が観測された時刻との時間間隔と、正常な支柱において測定された時間間隔とを比較することにより前記支柱部における根入れ長、曲り位置および/または腐食位置を評価し、
前記固有振動に基づく評価および衝撃弾性波に基づく評価によって、前記防護柵の健全性を診断する防護柵の非破壊診断方法であり、
前記衝撃弾性波のデータに基づいた評価が、
診断対象の前記防護柵の支柱部への加振により発生した前記振動波形から反射波を特定するステップと、
特定された反射波について加振開始時刻と反射波観測時刻との時間間隔を取得するステップと、
得られた前記時間間隔から前記反射波が発生した反射面の位置を特定するステップと、
特定された反射面の位置に基づいて、前記防護柵の健全性を判定するステップとを備えており、
前記防護柵の支柱部への加振開始時刻と反射波観測時刻との時間間隔を取得するステップが、防護柵の支柱部への加振により発生した振動波形から得られた自己相関関数の第一ピークから前記時間間隔を取得するステップであることを特徴とする防護柵の非破壊診断方法。
【請求項6】
前記防護柵の支柱部への加振により発生した1つの振動波形を用いて、
前記固有振動のデータに基づいた評価と、前記衝撃弾性波のデータに基づいた評価とを行うことを特徴とする請求項1ないし請求項5
のいずれか1項に記載の防護柵の非破壊診断方法。
【請求項7】
前記防護柵の支柱部への加振により発生した振動波形を用いて、前記固有振動のデータに基づいた評価を一次スクリーニングとして行い、
その後、前記一次スクリーニングにおいて支柱部における剛性の低下あるいは固定力の低下が判定された防護柵に対して、
前記防護柵の支柱部の他の箇所への加振により発生した振動波形を用いて、前記衝撃弾性波のデータに基づいた評価を二次スクリーニングとして行うことを特徴とする請求項1ないし請求項5
のいずれか1項に記載の防護柵の非破壊診断方法。
【請求項8】
前記固有振動のデータに基づいた評価が、
前記振動波形を周波数解析して周波数分布を得るステップと、
得られた前記周波数分布の固有振動ピークから、特定の振動モードにおけるピーク周波数を評価ピーク周波数として選択するステップと、
選択された前記評価ピーク周波数と、健全な状態の防護柵において同様に取得された評価ピーク周波数とを比較するステップと、
比較の結果に基づいて、前記防護柵の健全性を判定するステップとを備えていることを特徴とする請求項1に記載の防護柵の非破壊診断方法。
【請求項9】
前記固有振動のデータの取得に際して、前記支柱の地際部に近い側面にセンサを配置し、前記センサの近傍から打撃して加振することにより前記振動波形を得て、前記固有振動のデータを取得することを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の防護柵の非破壊診断方法。
【請求項10】
前記衝撃弾性波のデータに基づいた評価が、
前記振動波形から反射波を特定するステップと、
前記防護柵の支柱部への加振開始時刻と反射波観測時刻との時間間隔を取得するステップと、
得られた前記時間間隔と、健全な状態の防護柵における前記時間間隔とを比較するステップと、
比較の結果に基づいて、前記防護柵の健全性を判定するステップとを備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の防護柵の非破壊診断方法。
【請求項11】
前記衝撃弾性波のデータに基づいた評価が、
診断対象の前記防護柵の支柱部への加振により発生した前記振動波形から反射波を特定するステップと、
特定された反射波について加振開始時刻と反射波観測時刻との時間間隔を取得するステップと、
得られた前記時間間隔から前記反射波が発生した反射面の位置を特定するステップと、
特定された反射面の位置に基づいて、前記防護柵の健全性を判定するステップとを備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の防護柵の非破壊診断方法。
【請求項12】
前記防護柵の支柱部への加振開始時刻と反射波観測時刻との時間間隔を取得するステップが、防護柵の支柱部への加振により発生した振動波形から前記時間間隔を取得するステップであることを特徴とする請求項10または請求項11に記載の防護柵の非破壊診断方法。
【請求項13】
前記衝撃弾性波のデータの取得に際して、前記支柱の頭頂部近傍にセンサを配置し、前記センサの近傍から打撃して加振することにより前記振動波形を得て、前記衝撃弾性波のデータを取得することを特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の防護柵の非破壊診断方法。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれか1項に記載の防護柵の非破壊診断方法に使用される防護柵の非破壊診断システムであって、
前記防護柵の支柱部への加振を行う加振手段と、
前記加振により発生した振動波形から振動特性を取得する振動特性取得手段と、
前記振動特性の内から固有振動のデータに基づいて、前記支柱部における腐食、根入れ長不足、曲り、基礎部の拘束力の低下に伴う剛性の低下あるいは固定力の低下を評価する第1の評価手段と、
前記振動特性の内から衝撃弾性波のデータに基づいて、前記支柱部における根入れ長、曲り位置、腐食位置を評価する第2の評価手段と、
前記第1の評価手段および前記第2の評価手段に基づく評価によって、前記防護柵の健全性を診断する診断手段とを備えていることを特徴とする防護柵の非破壊診断システム。
【請求項15】
前記第1の評価手段が、
前記振動波形を周波数解析して周波数分布を得るステップと、
得られた前記周波数分布の固有振動ピークの周波数から、予めしきい値として決められた強度を超える強度を有するピーク周波数の内、最小のピーク周波数を評価ピーク周波数として選択するステップと、
選択された前記評価ピーク周波数と、健全な状態の防護柵における評価ピーク周波数とを比較するステップと、
比較の結果に基づいて、前記防護柵の健全性を判定するステップとを順次実行していくように構成されていることを特徴とする請求項14に記載の防護柵の非破壊診断システム。
【請求項16】
前記第1の評価手段が、
腐食、根入れ長不足、曲り、基礎部の拘束力の低下がないことが予め判明している前記防護柵の支柱部への加振により発生した前記振動波形を周波数解析して周波数分布を得、得られた前記周波数分布の固有振動ピークの周波数から、予めしきい値として決められた強度を超える強度を有するピーク周波数の内、最小のピーク周波数を判定の基準値として設定するステップと、
診断対象の前記防護柵の支柱部への加振により発生した前記振動波形を周波数解析して周波数分布を得るステップと、
得られた前記周波数分布の固有振動ピークの周波数から、予めしきい値として決められた強度を超える強度を有するピーク周波数の内、最小のピーク周波数を評価ピーク周波数として選択するステップと、
選択された前記評価ピーク周波数と、前記基準値とを比較するステップと、
比較の結果に基づいて、前記防護柵の健全性を判定するステップとを順次実行していくように構成されていることを特徴とする請求項14に記載の防護柵の非破壊診断システム。
【請求項17】
前記第1の評価手段が、
前記振動波形を周波数解析して周波数分布を得るステップと、
得られた前記周波数分布の固有振動ピークから、特定の振動モードにおけるピーク周波数を評価ピーク周波数として選択するステップと、
選択された前記評価ピーク周波数と、健全な状態の防護柵において同様に取得された評価ピーク周波数とを比較するステップと、
比較の結果に基づいて、前記防護柵の健全性を判定するステップとを順次実行していくように構成されていることを特徴とする請求項14に記載の防護柵の非破壊診断システム。
【請求項18】
前記第1の評価手段が、
前記加振手段により前記支柱に縦振動モードの振動を発生させて、振動波形を取得するステップと、
取得した前記振動波形を周波数解析して周波数分布を取得するステップと、
取得した周波数分布から、前記縦振動モードの固有振動数を取得するステップと、
取得した縦振動モードの固有振動数に基づいて前記支柱の全長を求めるステップと、
求めた前記支柱の全長から地上に露出している部分の長さを差し引いて前記支柱における根入れ長を算定するステップとを有していることを特徴とする請求項14に記載の防護柵の非破壊診断システム。
【請求項19】
前記第2の評価手段が、
前記振動波形から反射波を特定するステップと、
前記防護柵の支柱部への加振開始時刻と反射波観測時刻との時間間隔を取得するステップと、
得られた前記時間間隔と、健全な状態の防護柵における前記時間間隔とを比較するステップと、
比較の結果に基づいて、前記防護柵の健全性を判定するステップとを順次実行していくように構成されていることを特徴とする請求項14ないし請求項18のいずれか1項に記載の防護柵の非破壊診断システム。
【請求項20】
前記第2の判定手段が、
診断対象の前記防護柵の支柱部への加振により発生した前記振動波形から反射波を特定するステップと、
特定された反射波について加振開始時刻と反射波観測時刻との時間間隔を取得するステップと、
得られた前記時間間隔から前記反射波が発生した反射面の位置を特定するステップと、
特定された反射面の位置に基づいて、前記防護柵の健全性を判定するステップとを順次実行していくように構成されていることを特徴とする請求項14ないし請求項18のいずれか1項に記載の防護柵の非破壊診断システム。
【請求項21】
請求項14ないし請求項20のいずれか1項に記載の防護柵の非破壊診断システムの実行に使用される非破壊診断装置であって、
前記防護柵の支柱を打撃して加振による振動を発生させるハンマと、
発生した前記振動を信号として検出するセンサと、
検出された前記信号を増幅するプリアンプと、
増幅された信号をデジタル変換して振動波形として表示するデジタルオシロスコープと、
前記振動波形に基づいて前記防護柵の健全性を診断するパーソナルコンピュータとを備えており、
前記パーソナルコンピュータには、前記振動波形を固有振動および衝撃弾性波のデータに変換し、防護柵の健全性を診断するプログラムが記憶されていることを特徴とする非破壊診断装置。
【請求項22】
前記センサがAEセンサであることを特徴とする請求項21に記載の非破壊診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路に設置されている防護柵、特に、基礎となる支柱を非破壊診断して、その健全性を評価する防護柵の非破壊診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般道路および高速道路などには防護柵として、進行方向を誤った車両が路外、対向車線または歩道等に逸脱するのを防ぐと共に、車両乗員の傷害および車両の破損を最小限に留めて、車両を正常な進行方向に復元させることを目的とした車両用防護柵や、歩行者および自転車の転落、もしくはみだりな横断を抑制することなどを目的とした歩行者自転車用柵が設けられている。
【0003】
これらの防護柵は、基礎となる鋼管製の支柱を土やコンクリートに埋め込んで固定した後、支柱の地上に現れた部分にガードレールなどの防護材を取り付けることにより設置されている。
【0004】
このように、防護柵は屋外で支柱の先端が埋め込まれることにより設置される部材であるため、設置後はその環境に応じて支柱が経年劣化していく。例えば、支柱の地際部(地中と地上の境目)では、大気中に含まれる酸素の存在と雨水の滞留、融雪剤などの影響により腐食が進行して経年劣化していく。そして、この腐食の進行に合わせて支柱の強度が低下するため、適宜、防護柵における腐食の程度を検査して、防護柵としての健全性が十分に維持管理されていることを確認する必要があるが、一般的には、その設備の数量の多さから目視点検のみによって、防護材の表面や支柱表面の腐食状態を確認するに留まっているのが現状である。
【0005】
しかし、目視点検では防護材の表面や支柱表面の腐食状態を確認することはできるものの、内部でどの程度まで腐食が進行しているのかを把握することはできない。
【0006】
また、施工不良等により、設計通りに支柱の埋め込みがなされず、根入れ長(地面から埋め込まれた先端までの距離)が不足している場合や土中に埋め込む際に地中内部で支柱が曲がってしまう場合があるが、このような地中内部の支柱状態も目視点検では把握することができない。
【0007】
そこで、従来より、超音波法を用いて防護柵の経年劣化(腐食)及び施工不良(根入れ長不足や曲りなどの地中内部の支柱状態)を把握することが行われているが、この方法の場合、高度な専門知識を有する技術者が調査する必要があること、超音波が入射しやすいように表面をやすり等で平滑化させる必要があることなど、様々な要件があり、コストや工期の面を考慮すると、大規模な本数を超音波法にて調査することは現実として困難であり、短時間で防護柵の経年劣化および施工不良をスクリーニングする検査技術が望まれている。
【0008】
このような状況下、本発明者は、AEセンサを用いた打音検査で得られた振動波形における固有振動に着目することにより、ガードレール支柱の経年劣化を短時間に把握する検査技術(非特許文献1、2)や、ガードレールを含む鋼棒や鋼管、コンクリートを打撃して得られた振動特性から各種劣化を瞬時に判断して診断する検査技術(特許文献1)を提案している。
【0009】
しかしながら、これらの検査技術は従来の超音波法に比べれば短時間での検査が可能であるものの、経年劣化(腐食)のみを評価するものであり、施工不良(根入れ長不足)については評価していないため、未だ、防護柵の健全性を評価する検査技術として十分とは言えない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】松永嵩 他、“ガードレール支柱の経年劣化検査技術の開発”、土木学会第70回年次学術講演会、(平成27年9月)、pp331-332
【文献】松永嵩 他、“ガードレール支柱の経年劣化検査技術の開発2”、土木学会第71回年次学術講演会、(平成28年9月)、pp1421-1422
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記背景の下、本発明は、経年劣化や施工不良に伴う防護柵の状態、具体的には腐食、根入れ長不足、曲り、基礎部の拘束を短時間でスクリーニング検査する防護柵の非破壊診断方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、
防護柵の支柱部への加振により発生した振動波形から取得された振動特性に基づいて、
前記防護柵の健全性を非破壊で診断する防護柵の非破壊診断方法であって、
前記振動特性の内から固有振動のデータに基づいて、前記支柱部における腐食、根入れ
長不足、曲り、基礎部の拘束力の低下に伴う剛性の低下あるいは固定力の低下を評価する
と共に、
前記振動特性の内から衝撃弾性波のデータに基づき、加振を開始した時刻と、衝撃弾性
波である反射波が観測された時刻との時間間隔と、正常な支柱において測定された時間間
隔とを比較することにより前記支柱部における根入れ長、曲り位置および/または腐食位
置を評価し、
前記固有振動に基づく評価および衝撃弾性波に基づく評価によって、前記防護柵の健全
性を診断する防護柵の非破壊診断方法であり、
前記固有振動のデータに基づいた評価が、
前記振動波形を周波数解析して周波数分布を得るステップと、
得られた前記周波数分布の固有振動ピークの周波数から、予めしきい値として決められた強度を超える強度を有するピーク周波数の内、最小のピーク周波数を評価ピーク周波数として選択するステップと、
選択された前記評価ピーク周波数と、健全な状態の防護柵における評価ピーク周波数とを比較するステップと、
比較の結果に基づいて、前記防護柵の健全性を判定するステップとを備えていることを特徴とする防護柵の非破壊診断方法である。
【0014】
請求項2に記載の発明は、
防護柵の支柱部への加振により発生した振動波形から取得された振動特性に基づいて、
前記防護柵の健全性を非破壊で診断する防護柵の非破壊診断方法であって、
前記振動特性の内から固有振動のデータに基づいて、前記支柱部における腐食、根入れ
長不足、曲り、基礎部の拘束力の低下に伴う剛性の低下あるいは固定力の低下を評価する
と共に、
前記振動特性の内から衝撃弾性波のデータに基づき、加振を開始した時刻と、衝撃弾性
波である反射波が観測された時刻との時間間隔と、正常な支柱において測定された時間間
隔とを比較することにより前記支柱部における根入れ長、曲り位置および/または腐食位
置を評価し、
前記固有振動に基づく評価および衝撃弾性波に基づく評価によって、前記防護柵の健全
性を診断する防護柵の非破壊診断方法であり、
前記固有振動のデータに基づいた評価が、
腐食、根入れ長不足、曲り、基礎部の拘束力の低下がないことが予め判明している前記防護柵の支柱部への加振により発生した前記振動波形を周波数解析して周波数分布を得、得られた前記周波数分布の固有振動ピークの周波数から、予めしきい値として決められた強度を超える強度を有するピーク周波数の内、最小のピーク周波数を判定の基準値として設定するステップと、
診断対象の前記防護柵の支柱部への加振により発生した前記振動波形を周波数解析して周波数分布を得るステップと、
得られた前記周波数分布の固有振動ピークの周波数から、予めしきい値として決められた強度を超える強度を有するピーク周波数の内、最小のピーク周波数を評価ピーク周波数として選択するステップと、
選択された前記評価ピーク周波数と、前記判定の基準値とを比較するステップと、
比較の結果に基づいて、前記防護柵の健全性を判定するステップとを備えていることを特徴とする防護柵の非破壊診断方法である。
【0015】
請求項3に記載の発明は、
防護柵の支柱部への加振により発生した振動波形から取得された振動特性に基づいて、
前記防護柵の健全性を非破壊で診断する防護柵の非破壊診断方法であって、
前記振動特性の内から固有振動のデータに基づいて、前記支柱部における腐食、根入れ
長不足、曲り、基礎部の拘束力の低下に伴う剛性の低下あるいは固定力の低下を評価する
と共に、
前記振動特性の内から衝撃弾性波のデータに基づき、加振を開始した時刻と、衝撃弾性
波である反射波が観測された時刻との時間間隔と、正常な支柱において測定された時間間
隔とを比較することにより前記支柱部における根入れ長、曲り位置および/または腐食位
置を評価し、
前記固有振動に基づく評価および衝撃弾性波に基づく評価によって、前記防護柵の健全
性を診断する防護柵の非破壊診断方法であり、
前記固有振動データのデータに基づいた評価が、
前記支柱の上面にセンサを配置し、前記上面を打撃して加振することにより前記支柱の縦振動モードの振動波形を得るステップと、
得られた振動波形を周波数解析して周波数分布を得るステップと、
得られた周波数分布から、前記支柱の縦振動モードの固有振動数を求めるステップと、
求めた固有振動数に基づいて前記支柱の全長を求めるステップと、
求めた前記支柱の全長から地上に露出している部分の長さを差し引いて、前記支柱における根入れ長を求めるステップとを備えていることを特徴とする防護柵の非破壊診断方法である。
【0016】
請求項4に記載の発明は、
防護柵の支柱部への加振により発生した振動波形から取得された振動特性に基づいて、
前記防護柵の健全性を非破壊で診断する防護柵の非破壊診断方法であって、
前記振動特性の内から固有振動のデータに基づいて、前記支柱部における腐食、根入れ
長不足、曲り、基礎部の拘束力の低下に伴う剛性の低下あるいは固定力の低下を評価する
と共に、
前記振動特性の内から衝撃弾性波のデータに基づき、加振を開始した時刻と、衝撃弾性
波である反射波が観測された時刻との時間間隔と、正常な支柱において測定された時間間
隔とを比較することにより前記支柱部における根入れ長、曲り位置および/または腐食位
置を評価し、
前記固有振動に基づく評価および衝撃弾性波に基づく評価によって、前記防護柵の健全
性を診断する防護柵の非破壊診断方法であり、
前記衝撃弾性波のデータに基づいた評価が、
前記振動波形から反射波を特定するステップと、
前記防護柵の支柱部への加振開始時刻と反射波観測時刻との時間間隔を取得するステップと、
得られた前記時間間隔と、健全な状態の防護柵における前記時間間隔とを比較するステップと、
比較の結果に基づいて、前記防護柵の健全性を判定するステップとを備えており、
前記防護柵の支柱部への加振開始時刻と反射波観測時刻との時間間隔を取得するステップが、防護柵の支柱部への加振により発生した振動波形から得られた自己相関関数の第一ピークから前記時間間隔を取得するステップであることを特徴とする防護柵の非破壊診断方法である。
【0017】
請求項5に記載の発明は、
防護柵の支柱部への加振により発生した振動波形から取得された振動特性に基づいて、
前記防護柵の健全性を非破壊で診断する防護柵の非破壊診断方法であって、
前記振動特性の内から固有振動のデータに基づいて、前記支柱部における腐食、根入れ
長不足、曲り、基礎部の拘束力の低下に伴う剛性の低下あるいは固定力の低下を評価する
と共に、
前記振動特性の内から衝撃弾性波のデータに基づき、加振を開始した時刻と、衝撃弾性
波である反射波が観測された時刻との時間間隔と、正常な支柱において測定された時間間
隔とを比較することにより前記支柱部における根入れ長、曲り位置および/または腐食位
置を評価し、
前記固有振動に基づく評価および衝撃弾性波に基づく評価によって、前記防護柵の健全
性を診断する防護柵の非破壊診断方法であり、
前記衝撃弾性波のデータに基づいた評価が、
診断対象の前記防護柵の支柱部への加振により発生した前記振動波形から反射波を特定するステップと、
特定された反射波について加振開始時刻と反射波観測時刻との時間間隔を取得するステップと、
得られた前記時間間隔から前記反射波が発生した反射面の位置を特定するステップと、
特定された反射面の位置に基づいて、前記防護柵の健全性を判定するステップとを備えており、
前記防護柵の支柱部への加振開始時刻と反射波観測時刻との時間間隔を取得するステップが、防護柵の支柱部への加振により発生した振動波形から得られた自己相関関数の第一ピークから前記時間間隔を取得するステップであることを特徴とする防護柵の非破壊診断方法である。
【0018】
請求項6に記載の発明は、
前記防護柵の支柱部への加振により発生した1つの振動波形を用いて、
前記固有振動のデータに基づいた評価と、前記衝撃弾性波のデータに基づいた評価とを行うことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の防護柵の非破壊診断方法である。
【0019】
請求項7に記載の発明は、
前記防護柵の支柱部への加振により発生した振動波形を用いて、前記固有振動のデータに基づいた評価を一次スクリーニングとして行い、
その後、前記一次スクリーニングにおいて支柱部における剛性の低下あるいは固定力の低下が判定された防護柵に対して、
前記防護柵の支柱部の他の箇所への加振により発生した振動波形を用いて、前記衝撃弾性波のデータに基づいた評価を二次スクリーニングとして行うことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の防護柵の非破壊診断方法である。
【0020】
請求項8に記載の発明は、
前記固有振動のデータに基づいた評価が、
前記振動波形を周波数解析して周波数分布を得るステップと、
得られた前記周波数分布の固有振動ピークから、特定の振動モードにおけるピーク周波数を評価ピーク周波数として選択するステップと、
選択された前記評価ピーク周波数と、健全な状態の防護柵において同様に取得された評価ピーク周波数とを比較するステップと、
比較の結果に基づいて、前記防護柵の健全性を判定するステップとを備えていることを特徴とする請求項1に記載の防護柵の非破壊診断方法である。
【0021】
請求項9に記載の発明は、
前記固有振動のデータの取得に際して、前記支柱の地際部に近い側面にセンサを配置し、前記センサの近傍から打撃して加振することにより前記振動波形を得て、前記固有振動のデータを取得することを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の防護柵の非破壊診断方法である。
【0022】
請求項10に記載の発明は、
前記衝撃弾性波のデータに基づいた評価が、
前記振動波形から反射波を特定するステップと、
前記防護柵の支柱部への加振開始時刻と反射波観測時刻との時間間隔を取得するステップと、
得られた前記時間間隔と、健全な状態の防護柵における前記時間間隔とを比較するステップと、
比較の結果に基づいて、前記防護柵の健全性を判定するステップとを備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の防護柵の非破壊診断方法である。
【0023】
請求項11に記載の発明は、
前記衝撃弾性波のデータに基づいた評価が、
診断対象の前記防護柵の支柱部への加振により発生した前記振動波形から反射波を特定するステップと、
特定された反射波について加振開始時刻と反射波観測時刻との時間間隔を取得するステップと、
得られた前記時間間隔から前記反射波が発生した反射面の位置を特定するステップと、
特定された反射面の位置に基づいて、前記防護柵の健全性を判定するステップとを備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の防護柵の非破壊診断方法である。
【0024】
請求項12に記載の発明は、
前記防護柵の支柱部への加振開始時刻と反射波観測時刻との時間間隔を取得するステップが、防護柵の支柱部への加振により発生した振動波形から前記時間間隔を取得するステップであることを特徴とする請求項10または請求項11に記載の防護柵の非破壊診断方法である。
【0025】
請求項13に記載の発明は、
前記衝撃弾性波のデータの取得に際して、前記支柱の頭頂部近傍にセンサを配置し、前記センサの近傍から打撃して加振することにより前記振動波形を得て、前記衝撃弾性波のデータを取得することを特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の防護柵の非破壊診断方法である。
【0026】
請求項14に記載の発明は、
請求項1ないし請求項13のいずれか1項に記載の防護柵の非破壊診断方法に使用される防護柵の非破壊診断システムであって、
前記防護柵の支柱部への加振を行う加振手段と、
前記加振により発生した振動波形から振動特性を取得する振動特性取得手段と、
前記振動特性の内から固有振動のデータに基づいて、前記支柱部における腐食、根入れ長不足、曲り、基礎部の拘束力の低下に伴う剛性の低下あるいは固定力の低下を評価する第1の評価手段と、
前記振動特性の内から衝撃弾性波のデータに基づいて、前記支柱部における根入れ長、曲り位置、腐食位置を評価する第2の評価手段と、
前記第1の評価手段および前記第2の評価手段に基づく評価によって、前記防護柵の健全性を診断する診断手段とを備えていることを特徴とする防護柵の非破壊診断システムである。
【0027】
請求項15に記載の発明は、
前記第1の評価手段が、
前記振動波形を周波数解析して周波数分布を得るステップと、
得られた前記周波数分布の固有振動ピークの周波数から、予めしきい値として決められた強度を超える強度を有するピーク周波数の内、最小のピーク周波数を評価ピーク周波数として選択するステップと、
選択された前記評価ピーク周波数と、健全な状態の防護柵における評価ピーク周波数とを比較するステップと、
比較の結果に基づいて、前記防護柵の健全性を判定するステップとを順次実行していくように構成されていることを特徴とする請求項14に記載の防護柵の非破壊診断システムである。
【0028】
請求項16に記載の発明は、
前記第1の評価手段が、
腐食、根入れ長不足、曲り、基礎部の拘束力の低下がないことが予め判明している前記防護柵の支柱部への加振により発生した前記振動波形を周波数解析して周波数分布を得、得られた前記周波数分布の固有振動ピークの周波数から、予めしきい値として決められた強度を超える強度を有するピーク周波数の内、最小のピーク周波数を判定の基準値として設定するステップと、
診断対象の前記防護柵の支柱部への加振により発生した前記振動波形を周波数解析して周波数分布を得るステップと、
得られた前記周波数分布の固有振動ピークの周波数から、予めしきい値として決められた強度を超える強度を有するピーク周波数の内、最小のピーク周波数を評価ピーク周波数として選択するステップと、
選択された前記評価ピーク周波数と、前記基準値とを比較するステップと、
比較の結果に基づいて、前記防護柵の健全性を判定するステップとを順次実行していくように構成されていることを特徴とする請求項14に記載の防護柵の非破壊診断システムである。
【0029】
請求項17に記載の発明は、
前記第1の評価手段が、
前記振動波形を周波数解析して周波数分布を得るステップと、
得られた前記周波数分布の固有振動ピークから、特定の振動モードにおけるピーク周波数を評価ピーク周波数として選択するステップと、
選択された前記評価ピーク周波数と、健全な状態の防護柵において同様に取得された評価ピーク周波数とを比較するステップと、
比較の結果に基づいて、前記防護柵の健全性を判定するステップとを順次実行していくように構成されていることを特徴とする請求項14に記載の防護柵の非破壊診断システムである。
【0030】
請求項18に記載の発明は、
前記第1の評価手段が、
前記加振手段により前記支柱に縦振動モードの振動を発生させて、振動波形を取得するステップと、
取得した前記振動波形を周波数解析して周波数分布を取得するステップと、
取得した周波数分布から、前記縦振動モードの固有振動数を取得するステップと、
取得した縦振動モードの固有振動数に基づいて前記支柱の全長を求めるステップと、
求めた前記支柱の全長から地上に露出している部分の長さを差し引いて前記支柱における根入れ長を算定するステップとを有していることを特徴とする請求項14に記載の防護柵の非破壊診断システムである。
【0031】
請求項19に記載の発明は、
前記第2の評価手段が、
前記振動波形から反射波を特定するステップと、
前記防護柵の支柱部への加振開始時刻と反射波観測時刻との時間間隔を取得するステップと、
得られた前記時間間隔と、健全な状態の防護柵における前記時間間隔とを比較するステップと、
比較の結果に基づいて、前記防護柵の健全性を判定するステップとを順次実行していくように構成されていることを特徴とする請求項14ないし請求項18のいずれか1項に記載の防護柵の非破壊診断システムである。
【0032】
請求項20に記載の発明は、
前記第2の判定手段が、
診断対象の前記防護柵の支柱部への加振により発生した前記振動波形から反射波を特定するステップと、
特定された反射波について加振開始時刻と反射波観測時刻との時間間隔を取得するステップと、
得られた前記時間間隔から前記反射波が発生した反射面の位置を特定するステップと、
特定された反射面の位置に基づいて、前記防護柵の健全性を判定するステップとを順次実行していくように構成されていることを特徴とする請求項14ないし請求項18のいずれか1項に記載の防護柵の非破壊診断システムである。
【0033】
請求項21に記載の発明は、
請求項14ないし請求項20のいずれか1項に記載の防護柵の非破壊診断システムの実行に使用される非破壊診断装置であって、
前記防護柵の支柱を打撃して加振による振動を発生させるハンマと、
発生した前記振動を信号として検出するセンサと、
検出された前記信号を増幅するプリアンプと、
増幅された信号をデジタル変換して振動波形として表示するデジタルオシロスコープと、
前記振動波形に基づいて前記防護柵の健全性を診断するパーソナルコンピュータとを備えており、
前記パーソナルコンピュータには、前記振動波形を固有振動および衝撃弾性波のデータに変換し、防護柵の健全性を診断するプログラムが記憶されていることを特徴とする非破壊診断装置である。
【0034】
請求項22に記載の発明は、
前記センサがAEセンサであることを特徴とする請求項21に記載の非破壊診断装置である。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、経年劣化や施工不良に伴う防護柵の状態、具体的には腐食、根入れ長不足、曲り、基礎部の拘束を短時間でスクリーニング検査する防護柵の非破壊診断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の一実施の形態におけるセンサの設置位置と打撃位置との関係を説明する図である。
【
図2】本発明の一実施の形態において得られた振動波形の一例を示す図である。
【
図3】本発明の一実施の形態において得られた周波数分布の一例を示す図である。
【
図4】本発明の一実施の形態において、腐食、根入れ長不足と評価ピーク周波数との関係の一例を示す図である。
【
図5】予め健全性が確認された複数の支柱の各評価ピーク周波数を示す図である。
【
図6】本発明の一実施の形態において、加振開始時刻と反射波観測時刻との時間間隔を振動波形から直接取得した一例を示す図である。
【
図7】本発明の一実施の形態において、加振開始時刻と反射波観測時刻との時間間隔を自己相関関数の第一ピークから取得した一例を示す図である。
【
図8】健全な支柱について得られた振動波形の一例を示す図である。
【
図9】根入れ長不足の支柱について得られた振動波形の一例を示す図である。
【
図10】支柱の縦振動モードの固有振動数と支柱全長との関係を示す図である。
【
図11】3種類の支柱の縦振動モードの固有振動の測定結果を示す図である。
【
図12】縦振動モードの固有振動数の実験値を理論値と対比した図である。
【
図13】本発明の一実施の形態に係る非破壊診断装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。
【0038】
[1]本発明に至る経緯
最初に、本発明に至る経緯について説明する。
【0039】
本発明者は、上記課題の解決について鋭意検討する中で、支柱を打撃(加振)することにより得られた振動波形に基づいて得られる種々の振動特性の内から「固有振動」と「衝撃弾性波」に着目し、検討の結果、これらが経年劣化や施工不良に伴う防護柵の状態、具体的には腐食、根入れ長不足、曲り、基礎部の拘束力と密接に関係しており、この2つのパラメーターを適切に解析することにより、これらを短時間でスクリーニング検査して、防護柵の健全性を非破壊で診断できることを見出した。
【0040】
即ち、「固有振動」については、腐食が進行している場合、根入れ長不足がある場合、曲りがある場合、基礎部の拘束力の低下がある場合には、支柱の剛性の低下あるいは固定力の低下を招いて健全な支柱に比べて低い固有振動となるため、この固有振動の低周波数へのシフトを知ることにより、防護柵の腐食、根入れ長不足、曲り、基礎部の拘束力の低下に伴う剛性の低下や固定力の低下を評価することができる。
【0041】
そして、「衝撃弾性波」については、根入れ長不足、曲りや腐食がある場合、その箇所は加振箇所との距離が短いため、加振を開始した時刻と、衝撃弾性波である反射波が観測された時刻との時間間隔が、正常な支柱において測定される時間間隔に比べて短くなる。このため、この時間間隔を知ることにより、根入れ長不足、曲りや腐食についての位置情報を得ることができる。
【0042】
このように、本発明によれば、固有振動のデータおよび衝撃弾性波のデータに基づいて評価することによって、経年劣化や施工不良に伴う防護柵の状態、具体的には腐食、根入れ長不足、曲り、基礎部の拘束力の低下を短時間でスクリーニング検査して、防護柵の健全性を非破壊で診断することができる。
【0043】
具体的には、例えば、腐食が根入れ長不足と同時に進行している場合、固有振動による評価では「不良」と判定され、その後の衝撃弾性波による評価で、腐食が著しい場合は腐食による反射波が観測される。この結果は、地際近傍位置に欠陥が発生していることを示しているため、支柱の取り換えが必要と判断することができる。
【0044】
一方、腐食が進行していない場合には、衝撃弾性波のデータで、支柱端部の反射波が観測され、規定長さ以上であれば、その他の影響(基礎部の拘束状態)が推測され、規定長さでなければ根入れ長不足であると判断することができる。
【0045】
なお、支柱端部の反射波が観測されない場合があるが、これは支柱端部で反射波を形成することができないほど、著しく腐食が進行していることを示しているためであり、この場合には直ちに支柱の取り換えが必要と診断する。
【0046】
そして、このように、固有振動のデータおよび衝撃弾性波のデータに基づいて総合的に評価することによって、防護柵の健全性を診断することができるため、診断結果に合わせた対策を適切に策定することができる。
【0047】
具体的には、腐食が発生しているがその進行がまだ小さい場合には、塗装など、腐食の進行を遅らせるための対策を計画すればよい。
【0048】
一方、腐食の進行が大きい場合には、支柱を引抜いて撤去し、交換する必要があるが、腐食した支柱の引抜に際して、通常の引抜作業と同様に、ガードレール固定用のボルト孔に反力棒を差し込んで支柱を引抜くという引抜方法を選択してしまうと、支柱部の断面欠損により支柱が途中で破損してしまう恐れがある。しかし、本発明においては、腐食の進行が予め定量的に診断されているため、その進行に合わせた専用の引抜方法を採用して、支柱を破損させることなく引抜いて、交換することができる。
【0049】
なお、前記した通り、従来においても「固有振動」によって支柱の健全性を評価することが行われていたが、「固有振動」のみに基づく判定では、腐食、根入れ長不足、曲り、基礎部の拘束力の低下などを識別することが難しく、これらを識別するためには、さらに、目視確認や超音波法などを用いて追加調査を行う必要があり、効率的とは言えなかった。
【0050】
[2]本発明の実施の形態
次に、本発明の実施の形態における防護柵の診断方法について、具体的な例を交えながら、詳細に説明する。
【0051】
本実施の形態においては、前記したように、防護柵の支柱部への加振により発生した振動波形から取得された振動特性に基づいて、防護柵の健全性を非破壊で診断している。
【0052】
1.振動波形の取得
最初に、センサを診断対象の支柱に軽く抑える程度の力で接触させた状態で、ハンマなどを用いて支柱部の表面に打撃(加振)を加え、その加振により発生した振動波形をセンサにて取得する。
【0053】
このとき、センサの設置位置と打撃位置は、防護柵の種類に応じて、
図1(a)~(d)から適切なパターンを選択する。
図1において、1はセンサ、6はハンマ、11は防護柵(ガードレール)、12は支柱部である。
【0054】
図1(a)は、支柱部の地際部に近い側面にセンサを設置し、その近傍で打撃を加えるパターンであり、地際部の腐食による「固有振動」の変化をより効果的に検知することができる。
【0055】
図1(b)は、支柱頭頂部にセンサを設置し、頭頂部から打撃を加えるパターンであり、根入れ長さの変化に伴う「衝撃弾性波」の変化をより効果的に検知することができる。
【0056】
図1(c)は、支柱頭頂部に取り付けられているキャップを避けて頭頂部近傍の側面にセンサを設置し、頭頂部から打撃を加えるパターンであり、キャップの影響を低減させて、根入れ長さの変化に伴う「衝撃弾性波」の変化をより効果的に検知することができる。
【0057】
図1(d)は、
図1(c)の別パターンであり、支柱頭頂部に取り付けられているキャップを避けて頭頂部近傍の側面にセンサを設置し、頭頂部近傍の側面から打撃を加えるパターンである。これにより、
図1(c)のパターンと同様に、キャップの影響を低減させて、根入れ長さの変化に伴う「衝撃弾性波」の変化をより効果的に検知することができる。
【0058】
本実施の形態において、ハンマ6としては、打音点検用に一般的に用いられており、重さも軽く、持ち運びに便利なテストハンマが好ましく使用されるが、プラスチックハンマ、ゴムハンマ、木ハンマ、テストハンマ以外の鉄ハンマなど、対象に振動を与えることができて振動が取得可能なハンマであれば、テストハンマに替えて使用してもよい。
【0059】
センサ1としては、打撃された支柱部の振動を高精度で取得するという観点から、AE(Acoustic Emission)センサを使用することが好ましいが、診断の精度によっては、振動を取得可能な加速度計などを用いてもよく、また、打撃音をマイクロフォンで取得してもよい。
【0060】
得られた振動波形の一例を
図2に示す。
図2において、横軸は、加振の開始からの経過時間(Time(ms))であり、縦軸は振幅(Amplitude(mV))である。
図2より、振幅は時間の経過と共に減衰していき、60ms程度で十分に減衰していることが分かる。
【0061】
2.固有振動の評価
次に、得られた振動波形を周波数解析して周波数分布を得、得られた周波数分布の固有振動ピークから、予めしきい値として決められた強度を超える強度を有するピーク周波数の内、最小(最も低周波側)のピーク周波数を評価ピーク周波数として選択する。なお、得られた周波数分布の固有振動ピークから、特定の振動モードにおけるピーク周波数を評価ピーク周波数として選択してもよい。
【0062】
図3に得られた周波数分布の一例を示す。
図3において、横軸は周波数(Frequency(Hz))であり、縦軸は振動の強度(Magnitude)である。
図3においては、しきい値(一般的には「0.5」に設定)を超える2つの固有振動ピークのうちから、最小のピーク周波数である2641Hzが評価ピーク周波数として採用される。
【0063】
この評価ピーク周波数は、腐食、根入れ長不足、曲り、基礎部の拘束力の低下によって剛性の低下あるいは固定力の低下を招いて、健全な状態の評価ピーク周波数から低波長側にシフトすることが分かっているため、評価ピーク周波数の低周波数へのシフトを知ることにより、防護柵の腐食、根入れ長、曲り、基礎部の拘束力の低下に伴う剛性の低下あるいは固定力の低下を評価することができる。
【0064】
これらの関係の一例を
図4に示す。
図4において、横軸は周波数(Hz)であり、縦軸はMagnitudeであり、実線が健全な支柱、破線が根入れ長不足の支柱、一点鎖線が腐食した支柱から得られたデータである。
図4に示すように、それぞれの支柱における評価ピーク周波数は異なっており、健全な支柱、根入れ長不足の支柱、腐食した支柱の順に、評価ピーク周波数が低くなっていることが分かる。
【0065】
このため、所定の周波数(
図4では3300Hz)を基準値として予め定めておくことにより、この評価ピーク周波数によって支柱が健全であるか否かを判定することができることが分かる。
【0066】
なお、この基準値は、腐食、根入れ長不足、曲り、基礎部の拘束力の低下がないことが予め判明している複数の防護柵について計測された固有振動のデータから得られる評価ピーク周波数に基づいて適宜設定されている。
【0067】
そして、一般的には、
図4に示すように、根入れ長不足の支柱に比べて腐食した支柱の方が低く現れる(曲りが発生している支柱も同様)ため、別途、第2の基準値を根入れ長不足や曲りが発生している支柱と腐食が発生している支柱の間に定めることにより、根入れ長不足や曲りが発生している支柱と腐食が発生している支柱とを区別することが可能となるが、根入れ長不足や曲りの程度や腐食の程度によって低下量が異なり、また、根入れ長不足や曲りと、腐食の双方が同時に発生している場合などがあるため、第2の基準値のみで根入れ長不足や曲りと腐食を識別することは容易ではない。
【0068】
その具体例として、
図5に予め健全性が診断された支柱43本(支柱番号1~3は腐食が発生している支柱、4~14は根入れ長不足や曲りが発生している支柱、15~43は健全支柱)について、
図1(a)に示す条件により得られた各評価ピーク周波数を示す。なお、
図5において、横軸は支柱番号、縦軸は評価ピーク周波数(Hz)である。
【0069】
図5から、1~14の不健全な支柱と15~43の健全支柱とでは、基準値(3300Hz)を挟んで明確に識別可能であることが分かる。一方、1~3の腐食が発生している支柱と4~14の根入れ長不足や曲りが発生している支柱について見ると、1、2の腐食が発生している支柱では評価ピーク周波数が明らかに低いものの、3の腐食が発生している支柱では4~14の根入れ長不足や曲りが発生している支柱とかなり近接した評価ピーク周波数であり、3の支柱の健全性について、腐食ではなく、根入れ長不足や曲りが発生していると診断される恐れがあることが分かる。
【0070】
3.衝撃弾性波の評価
そこで、上記した固有振動の評価においては、基準値に基づいて、健全か否かの評価だけを行い(一次スクリーニング)、次いで、衝撃弾性波の評価に進み、一次スクリーニングで健全でないと評価された支柱について、根入れ長、曲り位置、腐食位置を評価する(二次スクリーニング)ことが好ましい。
【0071】
このように、一次スクリーニングにおいて大多数の健全な支柱を選別して、一次スクリーニングで健全でないと評価された支柱についてのみ二次スクリーニングを行うことにより、効率的に防護柵の診断を行うことができる。
【0072】
具体的には、まず、支柱を打撃して加振を加え、得られた振動波形から端部または腐食面からの衝撃弾性波である反射波を特定し、その後、加振開始時刻と反射波観測時刻との時間間隔を取得する。
【0073】
なお、上記において、腐食面とは腐食により断面欠損が生じている断面を指しており、断面欠損が著しい場合にはその面からの反射波が観測される。
【0074】
そして、腐食面からの反射波を特定しているのは、地際部の位置で反射波が観測された場合、地際部において断面欠損が進んで著しい腐食が生じていると評価できるからである。
【0075】
時間間隔の具体的な求め方としては、振動波形から直接取得する方法と、自己相関関数の第一ピークを取得する方法があるが、加振によって生じた衝撃弾性波が支柱部の内部を複数回往復する場合には、自己相関関数を用いた方がより正確な時間間隔を取得することができ好ましい。
【0076】
全長1mのガードレール支柱において、時間間隔を振動波形から直接取得した一例を
図6に示し、自己相関関数の第一ピークから取得した一例を
図7に示す。なお、
図6、7において横軸は時間(Time(10-3s))であり、縦軸は
図9ではAmplitude(a.u)、
図7では自己相関関数強度(a.u)である。
【0077】
このとき、支柱に根入れ長不足、曲り、腐食が発生していると反射波観測時刻までの時間間隔が短くなるため、この時間間隔を評価することにより、根入れ長不足、曲り、腐食などの発生を適切に識別することができる。
【0078】
具体的には、まず、予め、健全な状態であることが確認されている健全支柱についてその振動波形を取得する。
【0079】
図1(b)に示す条件により打撃された健全支柱について得られた振動波形の一例を
図8に示す。なお、
図8において、横軸は時間(Time(10-3s))、縦軸はAmplitude(a.u)である。そして、破線の長円で囲んだピークが反射波のピークであり、反射波のピークより前にあるピークは支柱の周方向を回って帰ってくる弾性波のピークであり、除外して評価する。
【0080】
図8より、根入れ長が十分な健全支柱の場合には、打撃後0.88ms程度の箇所に反射波が観測されていることが分かる。
【0081】
次に、予め、根入れ長不足であることが確認されている支柱についてその振動波形を取得する。
【0082】
図1(b)に示す条件により打撃された根入れ長不足の支柱について得られた振動波形の一例を
図9に示す。なお、
図8と同様に、
図9において、横軸は時間(Time(10-3s))、縦軸はAmplitude(a.u)である。そして、破線の長円で囲んだピークが反射波のピークであり、反射波のピークより前にあるピークは支柱の周方向を回って帰ってくる弾性波のピークであり、除外して評価する。
【0083】
図9より、根入れ長不足の支柱の場合には、打撃後0.55ms程度の箇所に反射波が観測されていることが分かる。
【0084】
図8と
図9の結果より、根入れ長不足の支柱では、根入れ長が十分な健全支柱に比べて、短時間で反射波が観測されていることが分かる。このため、この反射波の観測時刻までの時間間隔を知ることにより、支柱の根入れ長不足を適切に知ることができる。
【0085】
なお、上記においては、「固有振動の評価」を「一次スクリーニング」、「衝撃弾性波の評価」を「二次スクリーニング」として、センサの設置位置と打撃位置を適宜選択して、段階的に評価を行っているが、センサの設置位置と打撃位置を特定して得られた1つの振動波形に基づいて、同時に評価を行ってもよい。
【0086】
そして、防護柵によっては、支柱に腐食と根入れ長不足の双方が発生している場合もあるが、この場合には、前記のように固有振動評価と衝撃弾性波評価の双方を用いて総合的に判断する。
【0087】
4.根入れ長の定量評価
本実施の形態において、根入れ長は、支柱の縦振動モードの固有振動数に基づいて定量的に評価することができる。
【0088】
即ち、縦振動モードは支柱が支柱軸方向に伸縮を繰り返す振動モードであり、縦振動モードの固有振動数fと支柱の全長との間には相関性があることが分かっているため、固有振動数fを計測することにより支柱の全長を知ることができる。そして、全長から地上部に露出している部分の長さを差し引くことで根入れ長を定量的に評価することができる。
【0089】
具体的に、縦振動モードの固有振動数f(Hz)は下記に示す式1によって得ることができる。但し、式1において、Lは支柱の長さ(m)、Eはヤング率(N/m2)、ρは密度(kg/m3)であり、λは境界条件と振動モードによって決まる無次元の定数(固有値)である。
【0090】
【0091】
上記式1に基づいて求められた支柱の長さLと縦振動モードの固有振動数fとの関係を
図10に示す。なお、
図10において、横軸は支柱全長(m)であり、縦軸は一次の縦振動モードにおける周波数(Hz)であり、理論値を実線で示している。
【0092】
次に、具体的な支柱として、土中用ガードレール(A種、外径約140mm)を用いて、地上部における長さが700mmで、表1に示す根入れ長さとなるようにした支柱1~3の供試体を作製して、
図1(b)に示す条件で打撃、即ち、センサを支柱の上面に設置して支柱の上面を打撃することによって、3種類の振動波形を得た。なお、表1には、設計根入れ長さ(1650mm)に対する根入れ長さの割合を併せて記載している。
【0093】
【0094】
得られた振動波形より取得された周波数分布を
図11に示す。
図11に示す各周波数分布において、最も低周波側に現われた周波数ピーク(破線の丸で囲まれた部分)が縦振動の一次モードの固有振動ピークであり、この周波数が一次モードの固有振動数fである。
図11より、根入れ長さが短くなるにつれて、周波数ピーク(一次モードの固有振動数f)が高周波数側にシフトしていることが分かる。
【0095】
次に、各支柱における一次モードの固有振動数fと支柱全長とに基づいて、結果を
図10に示した理論値の曲線上にプロットしたところ、
図12に示すように、実験値が理論値とよく一致していることが分かり、根入れ長さを非破壊的に定量評価できることが確認できた。
【0096】
即ち、
図12より、支柱全長が短くなるにつれて、固有振動数fが高い周波数となることが分かるが、地上部の長さはほぼ一定であるため、得られた固有振動数から
図12に基づいて支柱全長を求めた後、地上部長さを差し引くことにより、根入れ長さを非破壊的に定量評価することができる。
【0097】
5.非破壊診断システム
上記した防護柵の非破壊診断は、防護柵の支柱部への加振を行う加振手段と、加振により発生した振動波形から振動特性を取得する振動特性取得手段と、振動特性の内から固有振動に基づいて支柱部における腐食の発生または根入れ長不足を判定する第1の判定手段と、振動特性の内から衝撃弾性波に基づいて支柱部における根入れ長不足を判定する第2の判定手段と、第1の判定手段および第2の判定手段の結果に基づいて、支柱部における腐食の発生および根入れ長不足を評価して、防護柵の健全性を診断する診断手段とを備えている防護柵の非破壊診断システムを構成することにより行うことができる。
【0098】
具体的には、支柱部における腐食の発生または根入れ長不足を判定する判定手段や、根入れ長不足を判定する判定手段において、上記した各ステップを順次実行していくように防護柵の非破壊診断システムを構成することにより行うことができる。
【0099】
6.非破壊診断装置
そして、このような防護柵の非破壊診断システムが設けられた非破壊診断装置として、例えば、
図13に示すような非破壊診断装置を挙げることができる。
【0100】
図13において、1は振動を信号として検出するセンサ(AEセンサ)、2はセンサが検出した信号を増幅するプリアンプ、3は増幅された信号をデジタル変換して振動波形として表示するするデジタルオシロスコープ、4は振動波形から「固有振動」および「衝撃弾性波」のデータに変換し、防護柵の経年劣化や施工不良を総合的に評価するプログラムが記憶されたパーソナルコンピュータ(PC)である。
【0101】
このような構成の非破壊診断装置を用いて、上記の手法に沿って処理することにより、防護柵の診断を短時間で、精度高く行うことができる。
【0102】
7.本実施の形態による効果
以上述べてきたように、本実施の形態によれば、支柱の根入れ長の評価に際して超音波を使用するこれまでの一般的な方法のような、診断前の事前作業(診断対象の表面の平滑化などの事前処理)や診断に際しての多大な時間が不要となるため、診断時間の大幅な削減が可能となり、大量の防護柵に対して短時間で精度高くスクリーニングすることができる。また、従来の打音システムと異なり、根入れ長についても同時に評価することができる。
【0103】
この結果、本実施の形態によれば、コストや労力を大きく削減して、防護柵を効率的に維持管理することが可能となる。
【0104】
なお、上記においては、防護柵の支柱について説明したが、同じ鋼管製の照明塔支柱や小型標識支柱などの診断においても、同様に適用することができる。
【0105】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0106】
1 センサ(AEセンサ)
2 プリアンプ
3 デジタルオシロスコープ
4 PC
6 ハンマ
11 防護柵
12 支柱部