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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】共蒸着装置及び蒸着方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20221026BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20221026BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
C23C14/24 C
C23C14/24 T
H05B33/14 A
H05B33/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018049137
(22)【出願日】2018-03-16
(65)【公開番号】P2019157244
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】591097632
【氏名又は名称】長州産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100158540
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 博生
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100187768
【弁理士】
【氏名又は名称】藤中 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】末永 真吾
(72)【発明者】
【氏名】山下 和吉
(72)【発明者】
【氏名】濱永 教彰
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-192229(JP,A)
【文献】特開2017-025347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
H01L 51/50
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面上に配置された複数の噴射ノズル、及び
上記複数の噴射ノズルと平行に基板を保持する基板保持部
を備え、
上記複数の噴射ノズル及び上記基板の少なくとも一方が、上記基板の平行状態を維持しながら一方向に移動可能に構成された、
共蒸着膜を形成するための共蒸着装置であって、
上記複数の噴射ノズルが、
上記方向に垂直な方向に直線状に配置され、第1の蒸着材を噴射する複数の第1噴射ノズルと、
上記複数の第1噴射ノズルの上記方向に沿った前後に、それぞれ直線状かつ平行に配置され、第2の蒸着材を噴射する複数の第2噴射ノズルと
を有し、
上記複数の噴射ノズルは、いずれもその中心軸が上記基板に対して垂直となる姿勢で設けられていることを特徴とする共蒸着装置。
【請求項2】
前側の上記複数の第2噴射ノズルと上記複数の第1噴射ノズルとの距離と、後側の上記複数の第2噴射ノズルと上記複数の第1噴射ノズルとの距離とが等しい請求項1に記載の共蒸着装置。
【請求項3】
上記基板保持部が上記基板を保持したときの上記複数の噴射ノズルと上記基板との距離(mm)をL、上記複数の第1噴射ノズルと上記複数の第2噴射ノズルとの距離(mm)をLとしたとき、下記式(1)及び式(2)を満たす請求項2に記載の共蒸着装置。
/L=tanθ ・・・(1)
70°≦θ≦80° ・・・(2)
【請求項4】
請求項1、請求項2又は請求項3に記載の共蒸着装置を用いて共蒸着を行う工程を備える蒸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着装置及び蒸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイパネルや太陽電池等の金属電極配線、有機EL層、半導体層、その他の有機材料薄膜や無機材料薄膜等は、真空蒸着法等の蒸着によって形成されることがある。蒸着は、通常、坩堝内の蒸着材を加熱することにより、蒸着材を気化させ、気化した蒸着材を基板表面に向けて噴射し、この基板表面に蒸着材を堆積させることにより行われる。基板表面に堆積された蒸着材が、薄膜を形成する。また、蒸着の際には、所定形状を有するマスクにより基材表面を被覆しておくことで、パターニングされた蒸着膜を形成することができる。このような蒸着を行う蒸着装置は、通常、蒸着材を収容する坩堝等が内部に配置され、気化した蒸着材を噴射する噴射ノズルを有する蒸着源と、基板を保持する基板保持部とを備える。
【0003】
蒸着装置の一つとして、噴射ノズル(蒸着源)に対して基板を相対的に移動させながら蒸着を行うことができる蒸着装置が採用されている(特許文献1参照)。図3に示すように、このような蒸着装置100は、複数の噴射ノズル102(蒸着源101)及び基板Xの少なくとも一方が、基板Xの噴射ノズル102に対する平行状態を維持しながら一方向に移動可能に構成されている。具体的に図3においては、基板Xが、右方向に移動可能に構成されている。また、蒸着装置100においては、複数の噴射ノズル102が、蒸着源101に、基板Xの相対的移動方向に垂直な方向に直線状に配置されている。このような蒸着装置100によれば、大型の基板Xに対して連続的に蒸着を行うことができる。
【0004】
一方、蒸着法の一種として、共蒸着法が知られている。共蒸着法は、異なる種類の蒸着材を用い、複数種の蒸着材が混合された蒸着膜を形成する方法である(特許文献2参照)。例えば、ホスト材料としての半導体材料と、ドーパント材料とを適当な比率で混合した共蒸着を行うことで、p型又はn型の半導体薄膜を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/203632号
【文献】特開2017-82272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上述のような連続蒸着可能な蒸着装置において2種の蒸着材を用いる共蒸着方法に対応させようとした場合、図4に示す蒸着装置200のように、蒸着源201に第1の蒸着材を噴射する第1噴射ノズル202と第2の蒸着材を噴射する第2噴射ノズル203とを直線状に交互に配置した構成とすることが考えられる。しかし、このような蒸着装置200においては、2種の噴射ノズル202、203の配置などの蒸着源201の構造が複雑になる。
【0007】
そこで、図5に示す蒸着装置300のように、第1の蒸着材を噴射する複数の第1噴射ノズル302と、第2の蒸着材を噴射する複数の第2噴射ノズル303とを平行に配置することが考えられる。しかしこの場合、図6に示すように、基板X表面に形成される第1噴射ノズル302による第1の蒸着材の分布曲線Zと、第2噴射ノズル303による第2の蒸着材の分布曲線Zとにずれが生じる。従って、位置(膜の表面からの距離)によって濃度(成分比)が異なる共蒸着膜が形成されることになり好ましくない。
【0008】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、蒸着材の濃度の均一性の高い共蒸着膜を得ることができる蒸着装置、及びこのような蒸着装置を用いた蒸着方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明は、平面上に配置された複数の噴射ノズル、及び上記複数の噴射ノズルと平行に基板を保持する基板保持部を備え、上記複数の噴射ノズル及び上記基板の少なくとも一方が、上記基板の平行状態を維持しながら一方向に移動可能に構成された蒸着装置であって、上記複数の噴射ノズルが、上記移動方向に垂直な方向に直線状に配置され、第1の蒸着材を噴射する複数の第1噴射ノズルと、上記複数の第1噴射ノズルの上記移動方向に沿った前後に、それぞれ直線状かつ平行に配置され、第2の蒸着材を噴射する複数の第2噴射ノズルとを有することを特徴とする蒸着装置である。
【0010】
前側の上記複数の第2噴射ノズルと上記複数の第1噴射ノズルとの距離と、後側の上記複数の第2噴射ノズルと上記複数の第1噴射ノズルとの距離とが等しいことが好ましい。
【0011】
上記基板保持部が上記基板を保持したときの上記複数の噴射ノズルと上記基板との距離(mm)をL、上記複数の第1噴射ノズルと上記複数の第2噴射ノズルとの距離(mm)をLとしたとき、下記式(1)及び式(2)を満たすことが好ましい。
/L=tanθ ・・・(1)
70°≦θ≦80° ・・・(2)
【0012】
上記課題を解決するためになされた別の本発明は、当該蒸着装置を用いて共蒸着を行う工程を備える蒸着方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、蒸着材の濃度の均一性の高い共蒸着膜を得ることができる蒸着装置、及びこのような蒸着装置を用いた蒸着方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る蒸着装置を示す模式図である。
図2図2は、図1の蒸着装置及びこの蒸着装置を用いた場合の蒸着材の分布曲線等を示す説明図である。
図3図3は、従来の蒸着装置の一例を示す模式図である。
図4図4は、従来の蒸着装置を変形した蒸着装置を示す模式図である。
図5図5は、従来の蒸着装置を変形した、図4とは異なる蒸着装置を示す模式図である。
図6図6は、図5の蒸着装置を用いた場合の蒸着材の分布曲線等を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、適宜図面を参照にしつつ、本発明の一実施形態に係る蒸着装置及び蒸着方法について詳説する。
【0016】
<蒸着装置>
図1の蒸着装置10は、複数の蒸着源11及び基板保持部12を備える。なお、蒸着装置10は、適切な真空度が維持される真空チャンバ(図示しない)内に配置される。真空チャンバには、真空チャンバ内の気体を排出させて、真空チャンバ内の圧力を低下させる真空ポンプ、真空チャンバ内に一定の気体を注入して、真空チャンバ内の圧力を上昇させるベンティング手段などが備えられていてよい。
【0017】
複数の蒸着源11は、それぞれ、上側先端に設けられた開口面から気化した蒸着材を噴射する複数の噴射ノズル13(第1噴射ノズル13a、第2噴射ノズル13b、13c)を有する。複数の噴射ノズル13は、一の平面上に配置されている。各蒸着源11は、固体状の蒸着材を収容し、加熱により蒸着材を気化させ、気化した蒸着材を複数の噴射ノズル13から噴射するように構成されている。
【0018】
各蒸着源11は、具体的には、例えば蒸着材収容室と拡散室とが連設された構成とすることができる。拡散室の上面に、複数の噴射ノズル13が配置される。蒸着材収容室内には、坩堝が配置され、この坩堝内に固体状の蒸着材が収納される。気化した坩堝内の蒸着材は、蒸着材収容室から拡散室に移動する。坩堝には、気化効率を考慮し、蒸着材と共に、熱的及び化学的に安定しており、かつ蒸着材よりも熱伝導率の高い粒状の伝熱媒体が収納されていてもよい。あるいは、粒状の伝熱媒体と、この伝熱媒体を被覆する蒸着材とで構成される複合材を坩堝に収納してもよい。また、坩堝の周囲には、加熱手段としてのヒータ等が配置される。加熱手段により坩堝中の蒸着材が加熱され、蒸着材が気化する。
【0019】
なお、後に詳述するように、複数の噴射ノズル13は、複数の第1噴射ノズル13aと、複数の第2噴射ノズル13b、13cとから構成されている。1の蒸着源11に複数の第1噴射ノズル13aが、他の1の蒸着源11に複数の第2噴射ノズル13bが、残りの1の蒸着源11に複数の第2噴射ノズル13cがそれぞれ設けられている。複数の第1噴射ノズル13aは第1の蒸着材を噴射し、複数の第2噴射ノズル13b、13cは第2の蒸着材を噴射するようにそれぞれ構成されている。また、蒸着源11においては、加熱手段や、図示しない蒸着材の流路に設けられたバルブ等により、蒸着材の放出量を制御可能に構成されている。
【0020】
基板保持部12は、複数の噴射ノズル13と平行な向きに基板Xを保持する。換言すれば、基板保持部12は、複数の噴射ノズル13と対向するように基板Xを保持する。基板保持部12は、基板Xを着脱可能に保持する。基板保持部12は、従来公知の蒸着装置に備わる基板保持部と同様のものとすることができる。なお、基板Xにおいて、複数の噴射ノズル13と対向する側の面(図1における下面)には、所定形状のパターンを有する蒸着用のマスク(図示しない)が設けられていてよい。
【0021】
基板Xと複数の噴射ノズル13とが平行とは、例えば、基板Xと、複数の噴射ノズル13における各開口面の中心を通る平面とが、平行な状態である。あるいは、基板Xと、複数の噴射ノズル13が配置された面とが平行な状態であってよい。
【0022】
蒸着装置10においては、複数の噴射ノズル13(又は蒸着源11全体)及び基板Xの少なくとも一方が、基板Xの複数の噴射ノズル13との平行状態を維持しながら一方向に移動可能に構成されている。すなわち、複数の噴射ノズル13と基板Xとは、互いに相対的に移動しながら蒸着を行うことができる。図1においては、複数の噴射ノズル13(すなわち、蒸着源11全体)は固定され、基板Xが左側から右側へ移動するよう構成されている。このとき、基板保持部12は、基板Xとともに移動するよう構成されていてもよいし、基板保持部12の位置は固定され、基板Xのみが移動するよう構成されていてもよい。一方、他の形態として、基板Xは固定され、複数の噴射ノズル13(又は蒸着源11全体)が移動するように構成されていてもよい。
【0023】
複数の噴射ノズル13は、平面上(平面状)に配置されている。すなわち、複数の噴射ノズル13の各開口面の中心は、一の平面上に配置されている。なお、この平面とは、複数の噴射ノズル13の配置状態を示すための仮想の面であり、例えば実際に一つの蒸着源上の一つの面に対して全ての噴射ノズル13が配置されていることを意味するものではない。各噴射ノズル13は、その中心軸が基板Xに対して垂直となる姿勢で設けられている。各噴射ノズル13の開口面は、基板Xと平行である。複数の噴射ノズル13は、複数の第1噴射ノズル13aと、複数の第2噴射ノズル13b、13cとを有する。
【0024】
複数の第1噴射ノズル13aは、複数の噴射ノズル13及び基板Xの少なくとも一方の移動方向(図1における左右方向、基板Xの相対的移動方向)に垂直な方向に直線状に配置されている。なお、図1においては、直線状に配置された4つの第1噴射ノズル13aを図示している。複数の第1噴射ノズル13aは、それぞれ第1の蒸着材を噴射する。
【0025】
複数の第2噴射ノズル13b、13cは、複数の第1噴射ノズル13aの前後にそれぞれ直線状かつ平行に配置されている。なお、複数の第1噴射ノズル13aの前後とは、基板Xと複数の噴射ノズル13との相対的な移動方向(図1における左右方向)を基準とした前及び後をいう。具体的には、複数の第2噴射ノズル13b、13cは、複数の第1噴射ノズル13aの前側(図1図2における左側)に配置された前側の複数の第2噴射ノズル13bと、複数の第1噴射ノズル13aの後側(図1図2における右側)に配置された後側の複数の第2噴射ノズル13cとからなる。なお、図1においては、4つの前側の第2噴射ノズル13b、及び4つの後側の第2噴射ノズル13cを図示している。複数の第2噴射ノズル13b、13cは、それぞれ第2の蒸着材を噴射する。
【0026】
図1の蒸着装置10においては、直線状に配置された4つの前側の第2噴射ノズル13b、直線状に配置された4つの第1噴射ノズル13a、及び直線状に配置された4つの後側の第2噴射ノズル13cが、この順に互いに平行に配置されている。また、4つの第1噴射ノズル13a、4つの前側の第2噴射ノズル13b、及び4つの後側の第2噴射ノズル13cの各噴射ノズルは、それぞれ等間隔かつ線対称に配置されている。基板Xの相対的移動方向視において、4つの第1噴射ノズル13a、4つの前側の第2噴射ノズル13b、及び4つの後側の第2噴射ノズル13cは、重なり合うように配置されている。
【0027】
図2に示されるように、前側の複数の第2噴射ノズル13bと複数の第1噴射ノズル13aとの距離(L)と、後側の複数の第2噴射ノズル13cと複数の第1噴射ノズル13aとの距離(L)とは等しいことが好ましい。なお、図2は、基板Xの相対的移動方向に垂直な方向視における各噴射ノズル13a、13b、13c等を図示している。また、前側の複数の第2噴射ノズル13bと複数の第1噴射ノズル13aとの距離とは、前側の複数の第2噴射ノズル13bの開口面の中心を通る直線と、複数の第1噴射ノズル13aの開口面の中心を通る直線との距離をいう。後側の複数の第2噴射ノズル13cと複数の第1噴射ノズル13aとの距離についても同様である。
【0028】
当該蒸着装置10においては、複数の第1噴射ノズル13aによって、第1の蒸着材が基板Xに対して噴射される。基板Xの相対的移動方向に沿った断面における、この第1噴射ノズル13aによる第1の蒸着材の分布は、図2の分布曲線Yに示されるように正規分布的な分布となる。
【0029】
一方、複数の第1噴射ノズル13aの前後に配置された、複数の第2噴射ノズル13b、13cによって、第2の蒸着材が基板Xに対して噴射される。なお、前側の各第2噴射ノズル13bからの第2の蒸着材の噴射量と、後側の各第2噴射ノズル13cからの第2の蒸着材の噴射量とは同量であることが好ましい。基板Xの相対的移動方向に沿った断面における第2の蒸着材の分布曲線Yは、前側の第2噴射ノズル13bからの第2の蒸着材と、後側の第2噴射ノズル13cからの第2の蒸着材との重ね合わせになる。具体的には、図2に示されるように、第1噴射ノズル13aによる分布曲線Yと同じ位置をピークとした分布曲線Yとなる。このように第2の蒸着材の分布曲線Yは、第1の蒸着材の分布曲線Yよりも裾野部分が多少多くなる傾向にあるものの、分布曲線Yの形状に近似した、正規分布的な分布となる。
【0030】
すなわち当該蒸着装置10においては、基板Xに蒸着される第1の蒸着材の分布曲線Yと、第2の蒸着材の分布曲線Yとが近似した形となる。すなわち、基板Xの位置によらず、第1の蒸着材と第2の蒸着材とが、同様の比率で混合されることになる。従って、当該蒸着装置によれば、2種の蒸着材の濃度(成分比)の均一性が高い共蒸着膜を得ることができる。すなわち、当該蒸着装置10から形成される共蒸着膜は、濃度のムラが小さい。
【0031】
当該蒸着装置10においては、基板保持部12が基板Xを保持したときの複数の噴射ノズル13と基板Xとの距離(mm)をL、複数の第1噴射ノズル13aと複数の第2噴射ノズル13b、13cとの距離(mm)をLとしたとき、下記式(1)及び式(2)を満たすことが好ましい。
/L=tanθ ・・・(1)
70°≦θ≦80° ・・・(2)
【0032】
なお、複数の噴射ノズル13と基板Xとの距離とは、複数の噴射ノズル13の開口面の中心を通る平面と、基板Xの各噴射ノズル13と対向する側の面との間の距離をいう。また、角度θは、図2において、線分ABと線分CBとがなす角の角度を意味することとなる。なお、点Aは、第1噴射ノズル13aの開口面の中心である。点Bは、第2噴射ノズル13b、13cの開口面の中心である。点Cは、点Aを通る、基板Xに対する垂線と、基板Xの下面との交点である。このように角θを70°以上とすることで、得られる共蒸着膜の濃度均一性をより高めることができる。一方、角θを80°以下とすることで、複数の第1噴射ノズル13aと複数の第2噴射ノズル13b、13cとの距離Lを適度に離すことができ、各噴射ノズル13の配置を容易に行うことができる。
【0033】
上記角θは、距離L及び距離Lを調整することにより調整することができる。なお、複数の噴射ノズル13と基板Xとの距離Lとしては、例えば300mm以上1000mm以下とすることができる。また、複数の第1噴射ノズル13aと複数の第2噴射ノズル13b、13cとの距離をLの下限としては、50mmが好ましく、60mmがより好ましい。また、この距離Lの上限としては、200mmが好ましく、90mmであってもよい。
【0034】
<蒸着方法>
本発明の一実施形態に係る蒸着方法は、当該蒸着装置10を用いて共蒸着を行う工程を備える。
【0035】
当該蒸着方法は、当該蒸着装置10を用いること以外は従来公知の蒸着方法と同様に行うことができる。すなわち、基板Xを相対的に移動させながら、第1噴射ノズル13aから第1の蒸着材を噴射させ、第2噴射ノズル13b、13cから第2の蒸着材を噴射させることにより、基板Xの表面(図1、2における下面)に、第1の蒸着材及び第2の蒸着材とを共蒸着させる。当該蒸着方法によれば、2種の蒸着材の濃度(成分比)の均一性が高い共蒸着膜を得ることができる。すなわち、当該蒸着方法により形成される共蒸着膜は、濃度のムラが小さい。
【0036】
なお、図2の濃度分布においては、模式的に分布曲線Yのピークと分布曲線Yのピークとを同じ高さとして図示しているが、第1の蒸着材と第2の蒸着材とを同じ質量比率で共蒸着させることに限定されるものではない。例えば、第1の蒸着材をドーパント成分とし、第2の蒸着材をホスト成分とした場合、第2の蒸着材に対して、少量の第1の蒸着材を共蒸着させることができる。例えば、第1の蒸着材と第2の蒸着材との噴射量(蒸着量)の比を1:9とした場合、蒸着膜のどの領域においても1:9に近い濃度比で第1の蒸着材と第2の蒸着材とが存在する共蒸着膜を得ることができる。なお、当該蒸着装置10の使用に際し、各第1噴射ノズル13aからの第1の蒸着材の噴射量は等しくなるように、かつ、各第2噴射ノズル13b、13cからの第2の蒸着量の噴射量は等しくなるように蒸着を行うことが好ましい。
【0037】
<他の実施形態>
本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲でその構成を変更することもできる。例えば、前側の複数の第2噴射ノズル13bと複数の第1噴射ノズル13aとの距離と、後側の複数の第2噴射ノズル13cと複数の第1噴射ノズル13aとの距離とは異なっていてもよい。この場合、例えば前側の複数の第2噴射ノズル13bからの噴射量と、後側の複数の第2噴射ノズル13cからの噴射量とを調整することにより、第2の蒸着材の分布を好適な状態に調整することができる。但し、図2のように、前側の複数の第2噴射ノズル13bと複数の第1噴射ノズル13aとの距離と、後側の複数の第2噴射ノズル13cと複数の第1噴射ノズル13aとの距離とが等しい場合は、各第2噴射ノズル13b、13cからの噴射量を同等にしておくことにより、比較的容易に良好な分布を有する第2の蒸着材の蒸着を行うことができる。
【0038】
また、複数の噴射ノズル13の数も特に限定されるものではない。但し、良好な分布を形成する観点から、前側の第2噴射ノズル13bの数と後側の第2噴射ノズル13cの数とは同じであることが好ましい。例えば、第1噴射ノズル13aの数、前側の第2噴射ノズル13bの数、及び後側の第2噴射ノズル13cの数は、それぞれ例えば3以上20以下とすることができる。
【実施例
【0039】
以下、実施例を挙げて、本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
<実施例1>
図1に記載した構造を有する蒸着装置により、基板に対して真空蒸着を行った。L=500mm、L=95mm(L/L=tanθ≒5.26、θ≒79.2°)とした。なお、第1の蒸着材と第2の蒸着材とは、蒸着量が等しくなるように調整した。
【0041】
保持された基板における第1噴射ノズルの対向位置からの前後方向の位置-200mm、-150mm、-100mm、-50mm、0mm、50mm、100mm、150mm及び200mmのそれぞれの箇所における第1の蒸着材及び第2の蒸着材の蒸着速度を測定した。結果を表1に示す。あわせて、上記各箇所における第1の蒸着材の濃度(第1の蒸着材の蒸着量及び第2の蒸着材の蒸着量の合計に対する第1の蒸着材の蒸着量の割合)を求めた。この濃度もあわせて表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示されるように、実施例1の蒸着装置においては、-200mmから200mmの間の成膜領域において、第1の蒸着材の濃度差が2%以下であり、濃度の均一性の高い蒸着膜が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の蒸着装置及び蒸着方法は、ディスプレイパネルや太陽電池等の金属電極配線、半導体層、有機EL層、その他の有機材料薄膜や無機材料薄膜等の成膜に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0045】
10 蒸着装置
11 蒸着源
12 基板保持部
13 噴射ノズル
13a 第1噴射ノズル
13b、13c 第2噴射ノズル
X 基板
、Y 分布曲線
A 第1噴射ノズルの開口面の中心
B 第2噴射ノズルの開口面の中心
C 点Aを通る、基板に対する垂線と基板の下面との交点
複数の噴射ノズルと基板との距離
複数の第1噴射ノズルと複数の第2噴射ノズルとの距離
100、200、300 蒸着装置
101、201 蒸着源
102、202、203、302、303 噴射ノズル
、Z 分布曲線
図1
図2
図3
図4
図5
図6