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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】硬質ポリウレタンフォーム
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/00 20060101AFI20221026BHJP
   C08G 18/42 20060101ALI20221026BHJP
   C08G 18/46 20060101ALI20221026BHJP
   C08G 18/50 20060101ALI20221026BHJP
   C08G 18/40 20060101ALI20221026BHJP
   C08G 101/00 20060101ALN20221026BHJP
【FI】
C08G18/00 K
C08G18/42 008
C08G18/46 007
C08G18/50 003
C08G18/40 009
C08G101:00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018111423
(22)【出願日】2018-06-11
(65)【公開番号】P2019214651
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077573
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100123009
【弁理士】
【氏名又は名称】栗田 由貴子
(74)【代理人】
【識別番号】100126413
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 太亮
(72)【発明者】
【氏名】石井 輝
【審査官】岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-532597(JP,A)
【文献】特開平11-043526(JP,A)
【文献】特表2014-524954(JP,A)
【文献】特表2008-501060(JP,A)
【文献】特開平10-168154(JP,A)
【文献】特開平11-106467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00
C08G 18/42
C08G 18/46
C08G 18/50
C08G 18/40
C08G 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール、整泡剤、触媒、発泡剤及び難燃剤(但し、ポリオールを含まない)を含むポリオール組成物と、イソシアネート組成物との反応物から構成される硬質ポリウレタンフォームであって、
ポリオール組成物に含まれるポリオールは、臭素系ポリオールと、臭素不含有の芳香族系ポリエステルポリオールとを含んでおり、
ポリオールの添加量を100質量部とした場合に、臭素系ポリオールの添加量が25質量部以上70質量部以下となっており、
臭素系ポリオールは、芳香族環を有するものであって、少なくとも1つ以上の臭素が芳香族環と結合した骨格を有し、
難燃剤は、赤燐、金属水酸化物、ホウ酸亜鉛、ポリ燐酸アンモニウム、酸化アンチモン、リン酸エステル、ハロゲン化リン酸エステルから1つ以上選択されるものであり、
ISO5660-1に準拠し、加熱強度50kW/m 2 にて実施された発熱性試験において、不燃材料であるための下記条件1~条件4を全て満たすか、
条件1:加熱開始時点から要求時間が経過するまでに発熱した総発熱量が8MJ/m 2
下である。
条件2:加熱開始時点から要求時間が経過するまで燃焼を続けても貫通する亀裂及び穴の
発生が認められない。
条件3:加熱開始時点から要求時間が経過するまで、最高発熱速度が200kW/m 2
超えた状態で10秒以上継続する状態が認められない。
条件4:要求時間は20分である。
又は、準不燃材料であるための下記条件1~条件3および条件5を全て満たす。
条件1:加熱開始時点から要求時間が経過するまでに発熱した総発熱量が8MJ/m 2
下である。
条件2:加熱開始時点から要求時間が経過するまで燃焼を続けても貫通する亀裂及び穴の
発生が認められない。
条件3:加熱開始時点から要求時間が経過するまで、最高発熱速度が200kW/m 2
超えた状態で10秒以上継続する状態が認められない。
条件5:要求時間は10分である。

ことを特徴とする硬質ポリウレタンフォーム。
【請求項2】
難燃剤には、赤燐が含まれる、請求項1に記載の硬質ポリウレタンフォーム。
【請求項3】
難燃剤に含まれる赤燐の添加量は、ポリオールの添加量を100質量部とした場合に、17質量部以下である、請求項2に記載の硬質ポリウレタンフォーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質ポリウレタンフォームに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート建築物など様々な建造物は、省エネルギーの観点から、一般的には、建造物内部に断熱加工が施されて断熱層が設けられる。例えば、マンション等の鉄筋コンクリート建造物等の場合では、建物の屋内側壁面等に断熱層が設けられる。通常、断熱層としては、硬質ポリウレタンフォームなどの断熱性能を有する発泡材料やグラスウールなどが用いられている。硬質ポリウレタンフォームを用いる場合は、コンクリート表面等といった建造物内部の所定位置に硬質ポリウレタンフォームの原料組成物を吹き付けて形成することができる。具体的には、ポリオール、整泡剤、触媒、発泡剤及び難燃剤を含むポリオール組成物と、イソシアネート組成物を準備し、建造物の建築作業の現場にてポリオール組成物とイソシアネート組成物との混合物をスプレーガン等にて建造物内部の所定位置に吹き付けて硬質ポリウレタンフォームの発泡形成工程を実施し、硬質ポリウレタンフォームからなる断熱層が形成される。
【0003】
しかしながら、断熱層として硬質ポリウレタンフォームを吹き付け施工する際等に、建築作業中に生じた静電気などで火災が発生した場合に、硬質ポリウレタンフォームに引火してしまう虞があった。
【0004】
そこで、特許文献1には、赤燐を必須成分として含む難燃性ウレタン樹脂組成物から形成された発泡体が提案されている。発泡体を形成する難燃性ウレタン樹脂組成物に赤燐が含まれることで、その発泡体は難燃性を発揮するものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/112394号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1において必須とされる赤燐は固体である。このため、断熱層を設ける現場にて難燃性ウレタン樹脂組成物を調整し、硬質ポリウレタンフォームを施工するにあたり、難燃性ウレタン樹脂組成物中に十分に且つ速やかに赤燐を分散させる工程が重要となる。このため、特許文献1では、断熱層を設ける現場で難燃性ウレタン樹脂組成物を調整する場合、難燃性ウレタン樹脂組成物中に十分に且つ速やかに赤燐を分散させための機械設備を新たに整備する必要があり、低コストで均一な難燃性を有する硬質ポリウレタンフォームを吹き付け施工にて形成することが困難であった。また、難燃性ウレタン樹脂組成物において赤燐の分散不良が生じると、得られる硬質ポリウレタンフォーム中の赤燐が不均一となり、硬質ポリウレタンフォームが収縮するなどの外観不良を引き起こし、居住後の内装材料の変形など住まいとしての不具合を引き起こす虞がある。硬質ポリウレタンフォームの外観不良は、特に硬質ポリウレタンフォームを断熱層として用いる場合においては断熱層の断熱性の不均一性の原因となるばかりか、隙間の発生にも繋がり、火災になった際はその隙間から内部が燃焼してしまう虞もあるため、重要な問題である。
【0007】
本発明は、断熱層を設ける現場で硬質ポリウレタンフォームを吹き付け施工にて形成する場合にあっても、外観性に優れてより容易に均一な高い難燃性を有する硬質ポリウレタンフォームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(1)ポリオール、整泡剤、触媒、発泡剤及び難燃剤(但し、ポリオールを含まない)を含むポリオール組成物と、イソシアネート組成物との反応物から構成される硬質ポリウレタンフォームであって、
ポリオール組成物に含まれるポリオールは、臭素系ポリオールと、臭素不含有の芳香族系ポリエステルポリオールとを含んでおり、
ポリオールの添加量を100質量部とした場合に、臭素系ポリオールの添加量が25質量部以上70質量部以下となっており、
臭素系ポリオールは、芳香族環を有するものであって、少なくとも1つ以上の臭素が芳香族環と結合した骨格を有し、
難燃剤は、赤燐、金属水酸化物、ホウ酸亜鉛、ポリ燐酸アンモニウム、酸化アンチモン、リン酸エステル、ハロゲン化リン酸エステルから1つ以上選択されるものであり、
ISO5660-1に準拠し、加熱強度50kW/m 2 にて実施された発熱性試験において、不燃材料であるための下記条件1~条件4を全て満たすか、
条件1:加熱開始時点から要求時間が経過するまでに発熱した総発熱量が8MJ/m 2
下である。
条件2:加熱開始時点から要求時間が経過するまで燃焼を続けても貫通する亀裂及び穴の
発生が認められない。
条件3:加熱開始時点から要求時間が経過するまで、最高発熱速度が200kW/m 2
超えた状態で10秒以上継続する状態が認められない。
条件4:要求時間は20分である。
又は、準不燃材料であるための下記条件1~条件3および条件5を全て満たす。
条件1:加熱開始時点から要求時間が経過するまでに発熱した総発熱量が8MJ/m 2
下である。
条件2:加熱開始時点から要求時間が経過するまで燃焼を続けても貫通する亀裂及び穴の
発生が認められない。
条件3:加熱開始時点から要求時間が経過するまで、最高発熱速度が200kW/m 2
超えた状態で10秒以上継続する状態が認められない。
条件5:要求時間は10分である。
ことを特徴とする硬質ポリウレタンフォーム、
(2) 難燃剤には、赤燐が含まれる、上記(1)に記載の硬質ポリウレタンフォーム。
(3) 難燃剤に含まれる赤燐の添加量は、ポリオールの添加量を100質量部とした場合に、17質量部以下である、上記(2)に記載の硬質ポリウレタンフォーム、を要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、断熱層を設ける現場で硬質ポリウレタンフォームを吹き付け施工にて形成する場合にあっても、外観性に優れてより容易に均一な高い難燃性を有する硬質ポリウレタンフォームを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[硬質ポリウレタンフォーム]
本発明は、硬質ポリウレタンフォームである。硬質ポリウレタンフォームは、ポリオール組成物と、イソシアネート組成物との反応物から構成される。また、本発明の硬質ポリウレタンフォームは、高い難燃性を有する。
【0011】
本明細書において、硬質ポリウレタンフォームが高い難燃性を有するとは、硬質ポリウレタンフォームが不燃材料又は準不燃材料であることを示すものとする。
【0012】
硬質ポリウレタンフォームが不燃材料又は準不燃材料であるための条件は、それぞれ次に示す条件を満たすことである。
【0013】
(不燃材料であるための条件)
硬質ポリウレタンフォームが不燃材料であるための条件は、ISO5660-1に準拠し、加熱強度50kW/mにて実施された発熱性試験(コーンカロリーメータ-試験)において、以下の4つの条件(条件1から条件4)の全てを満たすことである。
【0014】
条件1:加熱開始時点から要求時間が経過するまでに発熱した総発熱量が8MJ/m以下である。
条件2:加熱開始時点から要求時間が経過するまで燃焼を続けても貫通する亀裂及び穴の発生が認められない。
条件3:加熱開始時点から要求時間が経過するまで、最高発熱速度が200kW/mを超えた状態で10秒以上継続する状態が認められない。
条件4:要求時間は20分である。
【0015】
(準不燃材料であるための条件)
硬質ポリウレタンフォームが準不燃材料である条件については、上記の不燃材料であるための条件における条件4を「要求時間が10分である」とする他は、上記の不燃材料であるための条件と同じ条件(条件1から3については同じ)である。
【0016】
[ポリオール組成物]
ポリオール組成物は、ポリオール、整泡剤、触媒、発泡剤及び難燃剤を含む。
【0017】
(ポリオール)
ポリオールとしては芳香族系ポリエステルポリオール及び臭素系ポリオールが用いられる。
【0018】
(芳香族系ポリエステルポリオール)
芳香族系ポリエステルポリオールとしては、多価カルボン酸と多価アルコールから通常のエステル化反応において得られる芳香族系ポリエステルポリオールや、ポリエステル樹脂等を多価アルコールでエステル交換して得られる芳香族系ポリエステルポリオールが挙げられる。多価カルボン酸としては、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、トリメリット酸などの芳香族系多塩基酸及びこれらの無水物が挙げられ、これらは1種単独、或いは2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。一方、多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、シュークローズ、ビスフェノールAなどが挙げられ、これらは1種単独、或いは2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。ポリオールのなかでも、芳香族系ポリエステルポリオールは、難燃性に優れるという理由で本発明の硬質ポリウレタンフォームの形成に好適に用いられる。
【0019】
芳香族系ポリエステルポリオールは、臭素不含有のもの、すなわちポリオールの分子骨格中に臭素を含まないものである。
【0020】
(芳香族系ポリエステルポリオールの添加量)
芳香族系ポリエステルポリオールの添加量は、ポリオール組成物に含まれるポリオールの総量を100質量部とした場合に、30質量部以上75質量部以下の範囲であることが好ましい。ポリオール組成物に含まれるポリオールの総量を100質量部とした場合に、芳香族系ポリエステルポリオールの添加量が30質量部未満であると、得られる硬質ポリウレタンフォームが不均一になりフォームの圧縮強度が低下してしまい、芳香族系ポリエステルポリオールの添加量が75質量部を超えると、後述する臭素系ポリオールの含有量が少なくなり、硬質ポリウレタンフォームについて、準不燃性が得られにくくなる。
【0021】
(臭素系ポリオール)
臭素系ポリオールとしては、芳香族環を有するものであって、少なくとも1つ以上の臭素が芳香族環と結合した骨格を有するものであり、臭素含有ポリエステルポリオール、臭素含有ポリエーテルポリオールを挙げることができる。
【0022】
臭素含有ポリエステルポリオールとしては、例えばテトラブロモフタル酸などの臭素含有多価カルボン酸と上述した多価アルコールとのエステル化反応で得られるものが使用できる。
【0023】
臭素含有ポリエーテルポリオールとしては、例えば、テトラブロモビスフェノールAなどの臭素含有多価アルコールとエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドを1種または2種以上を付加重合して得られるものが使用できる。本発明に臭素含有ポリエーテルポリオールを用いる場合、特に、テトラブロモビスフェノールA骨格を有する芳香族系臭素含有ポリエーテルポリオールが用いられることが好ましい。
【0024】
ポリオールとして臭素系ポリオールが用いられることで、形成される硬質ポリウレタンフォームにおいてラジカルトラップ効果による延焼抑制という効果が発揮される。また、この効果をより効率的に発揮させるためには、ポリオール組成物中に、臭素系ポリオールをより均一に分散させることが好適である。そこで臭素系ポリオールを他の原料に添加する際においては、後述する液状難燃剤でもあるリン酸エステルなどと臭素系ポリオールを予め混合して粘度の調整をしてもよい。臭素系ポリオールの粘度の調製がなされることで臭素系ポリオールを他の原料とより容易に混合させることができる。
【0025】
(臭素系ポリオールの添加量)
臭素系ポリオールの添加量は、ポリオール組成物に含まれるポリオールの総量を100質量部とした場合に、25質量部以上70質量部以下の範囲である。ポリオール組成物に含まれるポリオールの総量を100質量部とした場合に、臭素系ポリオールの添加量が25質量部以上であることで、多くの難燃剤を使用せずに難燃性を高めることができるという効果を得ることができ、臭素系ポリオールの添加量が70質量部以下であることで、硬質ポリウレタンフォームが形成された後に収縮する虞を効果的に防止することができ、外観性に優れた硬質ポリウレタンフォームを形成することができる。
【0026】
(その他のポリオール)
ポリオールとしては、本発明の効果を阻害しない範囲で、芳香族系ポリエステルポリオール及び臭素系ポリオール以外のその他のポリオールが含まれてもよい。
【0027】
その他のポリオールとしては、芳香族ポリエーテルポリオール、脂肪族ポリエステルポリオール、脂肪族ポリエーテルポリオール、アミン系ポリエーテルポリオール、ポリマーポリオールを挙げることができる。
【0028】
(整泡剤)
整泡剤としては、従来から一般に用いられているシリコーン系化合物及びフッ素系化合物などを例示することができる。
【0029】
整泡剤の添加量は、ポリオール組成物に含まれるポリオールの総量を100質量部とした場合に、0.5質量部以上5質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0030】
(触媒)
触媒としては、従来から一般に用いられているアミン触媒や金属触媒等が使用できる。アミン触媒としては、例えば、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルプロパンジアミン、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,-ジメチルベンジルアミン、N-メチルモルフォリン、N-エチルモルフォリン、トリエチレンジアミン、N,N’,N’-トリメチルアミノエチルピペラジン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N’,N’’-トリス(3-ジメチルアミノプロピル)ヘキサヒドロ-s-トリアジン、ビス(ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N-アミノエトキシエタノール、N,N-ジメチルアミノヘキサノール、テトラメチルヘキサンジアミン、1-メチルイミダゾール、1-イソブチル-2-メチルイミダゾール等が使用できる。金属触媒としては、例えば、スタナスオクトエート;ジブチルチンジラウリレート;オクチル酸鉛;酢酸カリウムやオクチル酸カリウム等のカリウム塩、Zn,Bi,Tiなどを含むもの等が使用できる。これらのアミン触媒や金属触媒の他に、蟻酸や酢酸等の脂肪酸の第4級アンモニウム塩等も使用できる。以上の触媒は、それぞれ1種単独で使用してもよいし、2種以上を適宜組み合わせて使用することもできる。
特に、イソシアネート化合物に含まれるイソシアネート基を反応させることで三量化させる三量化触媒が選択される。三量化触媒は、イソシアヌレート環の生成を促進する。
【0031】
(三量化触媒)
三量化触媒としては、窒素含有芳香族化合物、カルボン酸アルカリ金属塩、4級アンモニウム塩などを例示することができる。
【0032】
(触媒の添加量)
触媒の添加量は、ポリオール組成物に含まれるポリオールの総量を100質量部とした場合に、1質量部以上10質量部以下の範囲であることが好ましい。触媒量が1質量部未満であるとフォームの硬化反応が遅すぎてフォーム形成されず、また10重量部を超えると硬化反応が速すぎるため、例えば現場発泡時に、得られる硬質ポリウレタンフォームの表面に凹みや物性が不均一になる原因となる。この点を考慮すれば、触媒の添加量は、1.5質量部以上8質量部以下であることがより好ましい。
【0033】
(発泡剤)
発泡剤としては、水、或いはノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、イソブタン等のハイドロカーボン、HFC-365mfc、HFC-245fa、HFC-134a等のハイドロフルオロカーボン、1-クロロ-3,3,3,-トリフルオロプロペン、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2ブテン等のハイドロフルオロオレフィンが挙げられ、これらは1種単独であるいは2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0034】
発泡剤として水が選択された場合、水の添加量は、ポリオール組成物に含まれるポリオールの総量を100質量部とした場合に、0.5質量部以上6質量部以下の範囲であることが好ましい。水の添加量によって得られる硬質ポリウレタンフォームの密度が調整されるが、水の添加量が0.5質量部未満だと密度が高すぎてしまい、後述する発熱性に劣る傾向にあり、また硬質ポリウレタンフォーム原料の使用量が多くなり歩留まりが悪くなる。6質量部を超えると、密度が低すぎてフォームの収縮が発生しやすくなる。この点を考慮すれば、水の添加量は、1質量部以上4質量部以下であることがより好ましい。
【0035】
水以外の発泡剤の添加量は、ポリオール組成物に含まれるポリオールの総量を100質量部とした場合に、15質量部以上60質量部以下の範囲であることが好ましい。発泡剤の添加量によって得られる硬質ポリウレタンフォームの密度が調整されるが、当該範囲であれば、所望の密度が得られやすい。この点を考慮すれば、発泡剤の添加量は、25質量部以上45質量部以下であることがより好ましい。
【0036】
(難燃剤)
ポリオール組成物に含まれる難燃剤としては、固体難燃剤及び/又は液体難燃剤が用いられる。
【0037】
(固体難燃剤)
固体難燃剤は、大気圧、常温(25℃)の雰囲気下で固体の難燃剤である。
【0038】
固体難燃剤としては、赤燐、金属水酸化物、特に水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛およびポリ燐酸アンモニウム、酸化アンチモンなどを例示することができる。燃焼時に効果的なチャー(炭化層)形成を促進して優れた延焼防止効果を発揮できるという点を考慮すれば、固体難燃剤としては、赤燐が好適に選択される。
【0039】
(固体難燃剤の添加量)
固体難燃剤の添加量は、ポリオール組成物に含まれるポリオールの総量を100質量部とした場合に、17質量部以下の範囲であることが好ましい。固体難燃剤の添加量がその範囲である場合、準不燃以上の難燃性を有する硬質ポリウレタンフォームを得ることができる。固体難燃剤の添加量が過剰に多ければ、ポリオール組成物中で固体難燃剤の沈殿を生じてしまい均一な難燃性を発揮する硬質ポリウレタンフォームを形成することが困難となるため、12質量部以下であることがより好ましい。さらに、固体難燃剤の添加量は、5質量部以上12質量部以下であると、不燃性材料が得られ易くなり好ましい。
【0040】
(液体難燃剤)
液体難燃剤は、大気圧、常温(25℃)の雰囲気下で液体の難燃剤である。
【0041】
液体難燃剤としては、例えばトリメチルフォスフェート、トリエチルフォスフェート等のリン酸エステル、またはトリスクロロエチルフォスフェート、トリスクロロプロピルフォスフェート等のハロゲン化リン酸エステルなどを例示することができる。
【0042】
(液体難燃剤の添加量)
液体難燃剤の添加量は、ポリオール組成物に含まれるポリオールの総量を100質量部とした場合に、30質量部以上100質量部以下の範囲であることが好ましい。液体難燃剤の添加量がこのような範囲である場合、難燃性を付与し、骨格形成を阻害せず収縮し難い硬質ポリウレタンフォームを得ることができる。この点を考慮すれば、液体難燃剤の添加量は、60質量部以上100質量部以下であることがより好ましい。
【0043】
(他の添加剤)
ポリオール組成物には、ポリオール、整泡剤、触媒、発泡剤及び難燃剤の他に、必要に応じて、さらに他の添加剤が添加されてもよい。他の添加剤としては、可塑剤、充填剤、酸化防止剤、脱泡剤、相溶化剤、着色剤、安定剤、紫外線吸収剤など硬質ポリウレタンフォームの製造に際して一般的に使用可能な添加剤をあげることができる。他の添加剤の添加量は、本発明の効果を阻害しない範囲内において適宜選択されてよい。
【0044】
なお、ポリオール組成物には、必要に応じて、架橋剤を添加してもよい。架橋剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレンエーテルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、イソプロパノールアミン、アミノエチルエタノールアミン、ショ糖、ソルビトール、グルコース等のアルコール類が使用できる。特に、これらのうち、3官能以上のものが好ましい。
【0045】
[イソシアネート組成物]
イソシアネート組成物は、イソシアネート化合物を含む。イソシアネート化合物は、ポリオール組成物と混合された際に、ポリオールと反応してウレタン結合を形成する。
【0046】
(イソシアネート化合物)
イソシアネート化合物としては、ポリオールと反応してウレタン結合を形成するものであれば特に限定されるものではない。イソシアネート化合物としては、芳香族イソシアネート類、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、イソシアネート基末端プレポリマーなどが挙げられる。
【0047】
より具体的に、ポリオールと反応させるためのイソシアネート化合物としては、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメリックMDI(クルードMDI)、2,4-トリレンジイソシアネート(2,4-TDI)、2,6-トリレンジイソシアネート(2,6-TDI)などの芳香族イソシアネート類、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)などの脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加TDI、水素添加MDIなどの脂環族ジイソシアネートなどが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0048】
[硬質ポリウレタンフォームの形成]
硬質ポリウレタンフォームは、例えば、次のように形成されることができる。まず、ポリオール組成物、イソシアネート組成物を個別に得る。例えば、ポリオール組成物は、ポリオール、整泡剤、触媒、発泡剤及び難燃剤といったポリオール組成物を構成する各種成分を配合することによって得られる。イソシアネート組成物は、それを構成する各種成分を配合することによって得られる。
【0049】
次いで、ポリオール組成物とイソシアネート組成物を混合するとともに断熱層を設ける現場においてスプレーガン等を用いて壁面などの対象箇所に吹き付けられる(吹き付け工程)。ポリオールとイソシアネート化合物の反応(ウレタン化反応)は、ポリオールとイソシアネート化合物の混合によって開始する。吹き付け工程の後、時間の経過とともにポリオール組成物とイソシアネート組成物の反応が進んで吹き付けられた箇所の硬化が進み、硬質ポリウレタンフォームを形成する。こうして壁面などの所定箇所の面上に硬質ポリウレタンフォームの層が形成され、この層が断熱層をなす。硬質ポリウレタンフォームからなる断熱層は、断熱層の形成の際に使用されたポリオールが芳香族系ポリエステルポリオールと特定の臭素系ポリオールであることから、高い難燃性を有する層となっている。
【0050】
また、ポリオール組成物の難燃剤として固体難燃剤である赤燐が使用されている場合、ポリオール組成物に臭素系ポリオールが含まれていることで、固体難燃剤の添加量を抑えても高い難燃性を得ることができ、さらに、固体難燃剤の沈降が抑制されている。そして固体難燃剤の沈降が抑制されているため、ポリオール組成物を調製する際においても、さらにポリオール組成物とイソシアネート組成物を混合する際においても、固体難燃剤をより効果的に分散した状態を形成することができ、硬質ポリウレタンフォーム中に固体難燃剤を均一に分散させた状態を形成することが容易となる。そして、硬質ポリウレタンフォームからなる断熱層として、高い難燃性を均一に有する層を形成することができるようになる。
【0051】
次に、実施例を用いて本発明を更に説明する。
【実施例
【0052】
イソシアネート組成物を準備した。また、ポリオール組成物を構成する各成分としてポリオール、整泡剤、触媒、発泡剤、難燃剤を準備した。
【0053】
イソシアネート組成物としては、ポリメリックMDI(東ソー株式会社製、製品名ミリオネート(商標)MR-200)が準備された。
【0054】
臭素不含有の芳香族系ポリエステルポリオールとしては、テレフタル酸系芳香族系ポリエステルポリオール(川崎化成工業株式会社製、製品名マキシモール(商標)RFK-
505(水酸基価250mg・KOH/g))が準備された。
【0055】
臭素系ポリオールとしては、次の2種類(臭素系ポリオールA、臭素系ポリオールB)が準備された。臭素系ポリオールAとしては、テトラブロモビスフェノールA骨格を有する芳香族系の臭素含有ポリエーテルポリオール(万華化学社製、製品名FR-130[臭素系ポリオール成分が70質量%、リン酸エステル成分(リン酸エステルA)が30質量%の比率で含まれる混合液]、水酸基価110mg・KOH/g)、臭素系ポリオールBとしては、臭素含有脂肪族系ポリエーテルポリオール(日本ソルベイ株式会社製、製品名B251[臭素系ポリオール成分が93.5質量%、リン酸エステル成分(リン酸エステルB)が6.5質量%の比率で含まれる混合液]、水酸基価330mg・KOH/g)が準備された。
【0056】
また、ポリエーテルポリオールとして、マンニッヒ系ポリエーテルポリオール(旭硝子株式会社製、製品名WB-620(水酸基価290mg・KOH/g))が準備された。
【0057】
難燃剤としては、固形難燃剤と液体難燃剤が準備された。固体難燃剤として、赤燐(燐化学工業株式会社製、製品名ノーバエクセル(商標)140)が準備された。また、液体難燃剤として、リン酸エステル(リン酸エステルC)(大八化学工業株式会社製、製品名TMCPP)が準備された。
【0058】
整泡剤として、シリコーン系化合物(東レ・ダウコーニング株式会社製、製品名SH193)が準備された。
【0059】
発泡剤として、水、及びハイドロフルオロオレフィン(ケマーズ株式会社製、製品名Opteon(商標)1100)が準備された。
【0060】
触媒としては、下記の3種類のもの(それぞれ触媒A、B、Cと呼ぶ)が準備された。
【0061】
触媒A:オクチル酸カリウム(ペルロン社製、製品名PELCAT9540)
触媒B:4級アンモニウム塩(東ソー株式会社製、製品名TOYOCAT(商標)-TR20)
触媒C:N,N,N’,N’’,N''-ペンタメチルジエチレントリアミン(東ソー株式会社製、製品名TOYOCAT-DT)
【0062】
実施例1から12、比較例1から11
表1及び表2に示す添加量で、ポリオール、固体難燃剤、液体難燃剤、整泡剤、触媒、発泡剤を配合し、ポリオール組成物が得られた。表1及び表2中のポリオール組成物の欄に記載された数字の単位は質量部である。
【0063】
なお、表1及び表2中の値に示す臭素系ポリオールA,Bの添加量は、臭素系ポリオールA,Bに含まれるリン酸エステル成分(リン酸エステルA,B)の量を除いた臭素系ポリオール成分の量である。そして、表1、表2中に示す液体難燃剤の添加量は、臭素系ポリオールA,Bに含まれるリン酸エステルA,Bに相当する量、及び、液体難燃剤として準備されたリン酸エステルCの添加量の合計量である。
【0064】
表1及び表2に示すようなイソシアネート組成物/ポリオール組成物の容積比にて、ポリオール組成物とイソシアネート組成物を混合し、ただちに予め準備した175mm×290mm×215mmの木製箱体に投入し、ポリオール組成物とイソシアネート組成物のウレタン反応と発泡剤による発泡を進行させて硬化させ、硬質ポリウレタンフォームを得た。表1及び表2中のイソシアネート組成物の欄に記載された数字の単位は質量部である。また、ポリオール組成物とイソシアネート組成物を混合したものにおけるイソシアネートインデックスは、表1,2に示すとおりである。なお、ポリオール組成物とイソシアネート組成物の混合は、ハンドミキサーにより実施された。
【0065】
(硬質ポリウレタンフォームの密度)
形成された硬質ポリウレタンフォームの密度については、次のように実施された。すなわち、硬質ポリウレタンフォームから縦100mm×横100mm×厚み100mmの寸法となるように試験片を切り出し、当該試験片の重さを測定し、密度(kg/m)を算出した。結果を表1,2に示す。
【0066】
(硬質ポリウレタンフォームの寸法安定性)
形成された硬質ポリウレタンフォームの寸法安定性については、次のような体積変化確認試験の結果に基づき評価された。評価結果を表1,2に示す。
【0067】
(体積変化確認試験)
形成された硬質ポリウレタンフォームから縦100mm×横100mm×厚み100mmの大きさに切り出して試験体(初期体積1×10mm)となした。試験体について、温度70℃湿度95%RHの条件、温度-20℃の条件、温度100℃の条件の3つ条件でそれぞれ24時間曝露し、曝露後の体積変化率(%)をそれぞれ測定した。体積変化率は、曝露後の試験体の体積(mm)を初期体積で除することで特定される。特定された体積変化率に基づき、次のように寸法安定性を評価した。
【0068】
○(良好):体積変化率が10%以下である。
×(不良):体積変化率が10%を超える。
【0069】
3条件の全ての場合において体積変化率が10%以下であることが、良好な硬質ポリウレタンフォームであり、3条件のいずれかの場合において体積変化率が10%を超えると、良好な硬質ポリウレタンフォームとは言えないこととなる。
【0070】
(発熱性評価試験)
形成された硬質ポリウレタンフォームを用いて試験体を準備し、発熱性評価試験を行った。試験体としては、形成された硬質ポリウレタンフォームから縦100mm×横100mm×厚み50mmの大きさに切り出したものが用いられた。発熱性試験は前述したISO5660-1に準拠して実施し、加熱強度は50kW/mとした。発熱性試験は、要求時間を10分とした場合と、要求時間を20分とした場合の2パターンで実施した。いずれのパターンについても発熱性試験の結果は次の評価基準で評価された。結果を表1,2に示す。
【0071】
(発熱性試験の評価基準)
条件1:加熱開始時点から要求時間が経過するまでに発熱した総発熱量が8MJ/m以下である。
条件2:加熱開始時点から要求時間が経過するまで燃焼を続けても貫通する亀裂及び穴の発生が認められない。
条件3:加熱開始時点から要求時間が経過するまで、最高発熱速度が200kW/mを超えた状態で10秒以上継続する状況が認められない。
【0072】
実施例1から12のすべてについて、要求時間を10分とした場合、条件1から3の全てが満たされていた。特に、実施例7から10、12については、要求時間を10分とした場合のみならず、要求時間を20分とした場合についても、条件1から3の全てが満たされていた。
【0073】
実施例5、7及び、実施例9から12については、ポリオール組成物の調整後に固体難燃剤が分散されている状態が維持されているか否かについて、次のような分散確認試験を行った。
【0074】
(分散確認試験)
ポリオール組成物の調整後に試験管に80mL注いだ状態で、静置し、時間の経過とともに固体難燃剤の沈殿が目視で確認されるか否かを確認することで実施された。実施例12については、静置開始後30分を過ぎるまでは沈殿が認められず、分散状態が維持されていた。実施例5、7及び実施例9から11については、静置開始後1時間以上沈殿が認められなかった。これにより、断熱層を設ける現場にてポリオール組成物、イソシアネート組成物を混合して混合物を調整し、スプレーガン等を用いて壁面などの対象箇所にそのまま混合物を吹き付けて硬質ポリウレタンフォームを形成する用途においては、ポリオール組成物に固体難燃剤が存在しても、十分な時間、固体難燃剤の分散状態を保つことができることが確認された。特に、実施例5、7及び実施例9から11によれば、静置開始後1時間以上沈殿が認められなかったことから、断熱層を設ける現場から少し離れた場所でポリオール組成物を調製した後に断熱層を設ける現場までポリオール組成物を移送しても、ポリオール組成物は固体難燃剤の分散状態を保ちうるようになる。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】