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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】車両用空気調和装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/22 20060101AFI20221026BHJP
【FI】
B60H1/22 611C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018177216
(22)【出願日】2018-09-21
(65)【公開番号】P2020045067
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石関 徹也
(72)【発明者】
【氏名】重田 めぐみ
【審査官】村山 美保
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/144151(WO,A1)
【文献】特開平10-012286(JP,A)
【文献】特開2017-154522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機、室内熱交換器、室外熱交換器及び膨張弁を有する冷媒回路を備え、室内熱交換器において車室内に供給する空気と冷媒とを熱交換することによって車室内の空気の温度を上昇させる暖房運転を行う車両用空気調和装置であって、
熱媒体を加熱する熱媒体加熱ヒータと車両の構成機器とが接続され、流通する熱媒体によって構成機器を加熱可能な熱媒体回路を備え、
熱媒体回路は、冷媒回路を流通する冷媒と熱交換することによって熱媒体を冷却する熱媒体熱交換器と、構成機器と並列に接続され、熱媒体から車室内に供給する空気に熱を放出させる熱媒体放熱器を有し、
暖房運転を行っている状態で、熱媒体加熱ヒータによって加熱された熱媒体を、構成機器側を流通させることなく熱媒体放熱器を流通させることで、車室内に供給する空気を加熱する暖房補助運転を行うと共に、
構成機器と熱媒体熱交換器との間で熱媒体を循環させる第1循環流路と、熱媒体加熱ヒータと熱媒体放熱器との間で熱媒体を循環させる第2循環流路と、を同時に設定可能である、
車両用空気調和装置。
【請求項2】
熱媒体放熱器は、車室内に供給する空気の流通路において、放熱器として機能する室内熱交換器の上流側に配置されている
請求項に記載の車両用空気調和装置。
【請求項3】
冷媒回路において冷媒の流通が停止している状態で、熱媒体加熱ヒータによって加熱された熱媒体を、熱媒体放熱器を流通させることで、車室内に供給する空気を加熱する予備暖房機能を備えた
請求項1又は請求項2に記載の車両用空気調和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、走行用の電動モータに電力を供給するバッテリ等、使用時に温度の調節が必要な機器を備えた車両に適用可能な車両用空気調和装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の車両用空気調和装置では、圧縮機、室内熱交換器、室外熱交換器及び膨張弁を有する冷媒回路を備え、室内熱交換器において冷媒と熱交換した空気を車室内に供給することによって車室内の冷房、暖房、除湿等を行っている。この車両用空気調和装置では、暖房負荷が大きい場合に、車室内の空気を設定温度とするために必要な放熱量が不足する場合があるため、不足する放熱量を補填するための補助ヒータを備えている。
【0003】
また、前記車両用空気調和装置が搭載される車両としては、電気自動車やハイブリッド車等、駆動源としての電動モータに電力を供給するバッテリ等、使用時に温度の調節が必要な機器を備えているものがある。
【0004】
このため、前記車両では、温度の調節が必要な車両の構成機器を熱媒体回路に接続し、熱媒体回路を流通する熱媒体を熱媒体加熱ヒータによって加熱し、加熱された熱媒体によって温調対象機器を加熱するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-12286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記車両では、車両用空気調和装置に用いられる補助ヒータや、熱媒体回路に用いられる熱媒体加熱ヒータ等、複数のヒータを必要とする。このため、前記車両では、複数のヒータを設置するために大きなスペースが必要となるとともに、部品点数が多くなることによって製造コストが高くなる。
【0007】
本発明の目的とするところは、ヒータを供用化することで、車両の構成機器の設置スペースの省スペース化を図るとともに、製造コストの低減を図ることのできる車両用空気調和装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両用空気調和装置は、前記目的を達成するために、圧縮機、室内熱交換器、室外熱交換器及び膨張弁を有する冷媒回路を備え、室内熱交換器において車室内に供給する空気と冷媒とを熱交換することによって車室内の空気の温度を上昇させる暖房運転を行う車両用空気調和装置であって、熱媒体を加熱する熱媒体加熱ヒータと車両の構成機器とが接続され、流通する熱媒体によって構成機器を加熱可能な熱媒体回路を備え、熱媒体回路は、構成機器と並列に接続され、熱媒体から車室内に供給する空気に熱を放出させる熱媒体放熱器を有し、暖房運転を行っている状態で、熱媒体加熱ヒータによって加熱された熱媒体を、構成機器側を流通させることなく熱媒体放熱器を流通させることで、車室内に供給する空気を加熱する暖房補助運転を行う。
【0009】
これにより、車両の構成機器を加熱するための熱媒体加熱ヒータによって加熱された熱媒体によって車室内に供給する空気が加熱されることから、暖房運転時に冷媒回路において不足する放熱量を熱媒体加熱ヒータによって補填することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の車両用空気調和装置によれば、暖房運転時に冷媒回路において不足する放熱量を熱媒体加熱ヒータによって補填することができるので、暖房運転時に冷媒回路において不足する放熱量の補填と構成機器の加熱とを一台のヒータによって行うことが可能となり、車両の構成機器の設置スペースの省スペース化を図るとともに、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態を示す車両用空気調和装置の概略構成図である。
図2】バッテリ冷却運転及び暖房補助運転を示す車両用空気調和装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1及び図2は、本発明の一実施形態を示すものである。
【0013】
本発明の車両用空気調和装置1は、例えば電気自動車やハイブリッド車等、電動モータの駆動力によって走行可能な車両に適用されるものである。
【0014】
車両は、走行用の電動モータと、電動モータに電力を供給するための構成機器としての走行用のバッテリBと、を有している。バッテリBは、使用によって熱を放出するものである。また、バッテリBは、所定の性能を発揮するために、所定の温度帯での使用が要求される。このため、バッテリBは、外気の温度や使用状態に応じて冷却したり加熱したりする必要がある。バッテリBは、例えば10℃~30℃の範囲での使用が望ましい。
【0015】
この車両用空気調和装置1は、図1に示すように、車両の車室内に設けられる空調ユニット10と、車室内および車室外にわたって設けられる冷媒回路20と、バッテリBから放出された熱を吸収したりバッテリBを加熱したりする熱媒体を流通させるための熱媒体回路30と、を備えている。
【0016】
空調ユニット10は、車室内に供給する空気を流通させるための空気流通路11を有している。空気流通路11の一端側には、車室外の空気を空気流通路11に流入させるための外気吸入口11aと、車室内の空気を空気流通路11に流入させるための内気吸入口11bと、が設けられている。また、空気流通路11の他端側には、空気流通路11を流通した空気を、搭乗者の足元に向かって吹き出させる図示しないフット吹出口、搭乗者の上半身に向かって吹き出させる図示しないベント吹出口、及び、車両のフロントガラスの車室内側の面に向かって吹き出させる図示しないデフ吹出口、が設けられている。
【0017】
空気流通路11の一端側には、外気吸入口11a及び内気吸入口11bの一方を開放して他方を閉鎖することが可能な吸入口切替ダンパ13が設けられている。吸入口切替ダンパ13は、内気吸入口11bを閉鎖して外気吸入口11aを開放する外気供給モードと、外気吸入口11aを閉鎖して内気吸入口11bを開放する内気循環モードと、外気吸入口11aと内気吸入口11bとの間に位置させることで外気吸入口11aと内気吸入口11bとをそれぞれ開放する内外気吸入モードと、を切り替えることが可能である。
【0018】
空気流通路11内の一端側には、空気流通路11の一端側から他端側に向かって空気を流通させるためのシロッコファン等の室内送風機12が設けられている。
【0019】
空気流通路11における室内送風機12の空気流通方向下流側には、空気流通路11を流通する空気を冷却及び除湿するための室内熱交換器としての吸熱器14が設けられている。また、空気流通路11における吸熱器14の空気流通方向下流側には、空気流通路11を流通する空気を加熱するための室内熱交換器としての放熱器15が設けられている。
【0020】
放熱器15は、空気流通路11の直交方向一方側に配置され、空気流通路11の直交方向他方側には、放熱器15を迂回する放熱器バイパス流通路11cが形成される。空気流通路11の直交方向一方側において、吸熱器14と放熱器15と間には、熱媒体回路30を流通する熱媒体と空気とを熱交換するによって車室内に供給する空気を加熱するための熱媒体放熱器16が設けられている。
【0021】
空気流通路11における吸熱器14と熱媒体放熱器16との間には、吸熱器14を通過した空気のうち、放熱器15及び熱媒体放熱器16によって加熱される空気の割合を調整するためのエアミックスダンパ17が設けられている。エアミックスダンパ17は、熱媒体放熱器16及び放熱器バイパス流通路11cの空気流通方向上流側において、放熱器バイパス流通路11c及び熱媒体放熱器16の一方の空気流通方向上流側を閉鎖して他方を開放したり、放熱器バイパス流通路11c及び熱媒体放熱器16の両方を開放し、熱媒体放熱器16の空気流通方向上流側の開度を調整したりする。エアミックスダンパ17は、空気流通路11における熱媒体放熱器16の空気流通方向上流側を閉鎖して放熱器バイパス流通路11cを開放した状態で開度が0%となり、空気流通路11における熱媒体放熱器16の空気流通方向上流側を開放し、放熱器バイパス流通路11cを閉鎖した状態で開度が100%となる。
【0022】
冷媒回路20は、前記吸熱器14、前記放熱器15、冷媒を圧縮するための圧縮機21、冷媒と車室外の空気とを熱交換するための室外熱交換器22、冷媒回路20を流通する冷媒と熱媒体回路30を流通する熱媒体とを熱交換するための熱媒体熱交換器23、全閉と全開との間で弁開度の調整が可能な第1乃至第3膨張弁24a,24b,24c、冷媒の流路を開閉するための第1及び第2電磁弁25a,25b、冷媒の流路における冷媒の流通方向を規制するための第1及び第2逆止弁26a,26b、気体の冷媒と液体の冷媒を分離して液体の冷媒が圧縮機21に吸入されることを防止するためのアキュムレータ27を有し、これらは例えばアルミニウム管や銅管によって接続されている。冷媒回路20を流通する冷媒としては、例えば、R-134a等が用いられる。
【0023】
具体的に説明すると、圧縮機21の冷媒吐出側には、放熱器15の冷媒流入側を接続することにより、冷媒流通路20aが形成されている。放熱器15の冷媒流出側には、室外熱交換器22の冷媒流入側を接続することにより、冷媒流通路20bが形成されている。冷媒流通路20bには、第1膨張弁24aが設けられている。室外熱交換器22の冷媒流出側には、吸熱器14の冷媒流入側を接続することにより、冷媒流通路20cが形成されている。冷媒流通路20cには、室外熱交換器22側から順に、第1逆止弁26a、第2膨張弁24bが設けられている。吸熱器14の冷媒流出側には、圧縮機21の冷媒吸入側を接続することにより、冷媒流通路20dが形成されている。冷媒流通路20dには、吸熱器14側から順に、第2逆止弁26b、アキュムレータ27が設けられている。また、冷媒流通路20bにおける放熱器15と第1膨張弁24aとの間には、室外熱交換器22を迂回し、冷媒流通路20cにおける第1逆止弁26aと第2膨張弁24bとの間を接続することにより、冷媒流通路20eが形成されている。冷媒流通路20eには、第1電磁弁25aが設けられている。冷媒流通路20eにおける第1電磁弁25aの下流側には、熱媒体熱交換器23の冷媒流入側を接続することにより、冷媒流通路20fが形成されている。冷媒流通路20fには、第3膨張弁24cが設けられている。熱媒体熱交換器23の冷媒流出側には、冷媒流通路20dにおける第2逆止弁26bとアキュムレータ27との間を接続することにより、冷媒流通路20gが形成されている。冷媒流通路20cにおける室外熱交換器22と第1逆止弁26aとの間には、冷媒流通路20dにおける吸熱器14と第2逆止弁26bとの間を接続することにより、冷媒流通路20hが形成されている。冷媒流通路20hには、第2電磁弁25bが設けられている。
【0024】
また、室外熱交換器22は、フィンとチューブとからなる熱交換器であり、エンジンルーム等の車室外において空気の流通方向となる車両の前後方向に配置されている。室外熱交換器22の近傍には、車両の停止時に車室外の空気を前後方向に流通させるための室外送風機22aが設けられている。
【0025】
熱媒体回路30は、前記熱媒体放熱器16、前記熱媒体熱交換器23、熱媒体を圧送するための第1及び第2熱媒体ポンプ31a,31b、熱媒体回路30を流通する熱媒体を加熱するための熱媒体加熱ヒータ32、第1及び第2熱媒体三方弁33a,33b、電力を蓄えると共に車両走行用の電動モータに電力を供給するための車両走行用のバッテリB、を有し、これらは例えばアルミニウム管や銅管によって接続されている。熱媒体回路30を流通する熱媒体としては、例えば、エチレングリコール等の不凍液が用いられる。
【0026】
具体的に説明すると、第1熱媒体ポンプ31aの熱媒体吐出側には、第1熱媒体三方弁33aの熱媒体流入口を接続することにより、熱媒体流通路30aが形成されている。熱媒体流通路30aには、熱媒体加熱ヒータ32が設けられている。第1熱媒体三方弁33aの二つの熱媒体流出口のうちの一方には、バッテリBの熱媒体流入側を接続することにより、熱媒体流通路30bが形成されている。バッテリBの熱媒体流出側には、熱媒体熱交換器23の熱媒体流入側を接続することにより、熱媒体流通路30cが形成されている。熱媒体熱交換器23の熱媒体流出側には、第2熱媒体三方弁33bの熱媒体流入口を接続することにより、熱媒体流通路30dが形成されている。第2熱媒体三方弁33bの二つの熱媒体流出口のうちの一方には、第1熱媒体ポンプ31aの熱媒体吸入側を接続することにより、熱媒体流通路30eが形成されている。第1熱媒体三方弁33aの他方の熱媒体流出口には、バッテリB及び熱媒体熱交換器23を迂回して熱媒体放熱器16の熱媒体流入側に接続することにより、熱媒体流通路30fが形成されている。熱媒体放熱器16の熱媒体流出側には、熱媒体流通路30eを接続することにより、熱媒体流通路30gが形成されている。熱媒体放熱器16は、バッテリBと並列に熱媒体回路30に接続されている。第2熱媒体三方弁33bの他方の熱媒体流出口には、第2熱媒体ポンプ31bの熱媒体吸入側を接続することにより、熱媒体流通路30hが形成されている。第2熱媒体ポンプ31bの熱媒体吐出側には、熱媒体流通路30bを接続することにより、熱媒体流通路30iが形成されている。第1熱媒体三方弁33aは、熱媒体流通路30aが連通する先を熱媒体流通路30b側または熱媒体流通路30f側に切り替える。第2熱媒体三方弁33bは、熱媒体流通路30dが連通する先を熱媒体流通路30e側または熱媒体流通路30h側に切り替える。
【0027】
以上のように構成された車両用空気調和装置1では、空調ユニット10及び冷媒回路20を用いて車室内の空気の温度及び湿度を調節する。
【0028】
例えば、車室内の温度を低下させる冷房運転では、空調ユニット10において、室内送風機12を駆動させるとともに、エアミックスダンパ17の開度を0%に設定する。また、冷媒回路20において、第1膨張弁24aを全開、第2膨張弁24bを所定の弁開度、第3膨張弁24cを全閉、第1電磁弁25aを閉鎖、第2電磁弁25bを閉鎖した状態で圧縮機21を駆動させる。
【0029】
これにより、圧縮機21から吐出された冷媒は、図1の冷媒回路20における実線の矢印で示すように、冷媒流通路20a、放熱器15、冷媒流通路20b、室外熱交換器22、冷媒流通路20c、吸熱器14、冷媒流通路20dの順に流通して圧縮機21に吸入される。
【0030】
冷媒回路20を流通する冷媒は、エアミックスダンパ17の開度が0%であるため放熱器15において放熱することなく、室外熱交換器22において放熱し、吸熱器14において吸熱する。
【0031】
空気流通路11を流通する空気は、吸熱器14において吸熱する冷媒と熱交換することによって冷却されて車室内に吹き出される。
【0032】
また、例えば、車室内の温度及び湿度を低下させる除湿冷房運転では、冷房運転時における冷媒回路20の冷媒の流路において、空調ユニット10のエアミックスダンパ17の開度を0%よりも大きい開度に設定する。
【0033】
これにより、冷媒回路20を流通する冷媒は、放熱器15及び室外熱交換器22において放熱し、吸熱器14において吸熱する。
【0034】
空気流通路11を流通する空気は、吸熱器14において吸熱する冷媒と熱交換することによって除湿されるとともに冷却され、放熱器15において目標吹出温度まで加熱されて車室内に吹き出される。
【0035】
また、例えば、車室内の湿度を低下させるとともに温度を上昇させる除湿暖房運転では、冷房運転時の冷媒回路20の冷媒の流路において、第1膨張弁24aを全開よりも小さい所定の弁開度とする。また、空調ユニット10のエアミックスダンパ17の開度を0%よりも大きい開度に設定する。
【0036】
これにより、冷媒回路20を流通する冷媒は、放熱器15において放熱し、室外熱交換器22及び吸熱器14において吸熱する。
【0037】
空調ユニット10の空気流通路11を流通する空気は、吸熱器14において吸熱する冷媒と熱交換することによって除湿されるとともに冷却され、放熱器15において目標吹き出し温度まで加熱されて車室内に吹出される。
【0038】
また、例えば、車室内の温度を上昇させる暖房運転では、空調ユニット10において、室内送風機12を駆動させるとともに、エアミックスダンパ17を0%よりも大きい開度に設定する。また、冷媒回路20において、第1膨張弁24aを全開よりも小さい所定の弁開度、第2膨張弁24b及び第3膨張弁24cを全閉、第1電磁弁25aを閉鎖、第2電磁弁25bを開放した状態で、圧縮機21を駆動させる。
【0039】
これにより、圧縮機21から吐出された冷媒は、図1の破線の矢印で示すように、冷媒流通路20a、放熱器15、冷媒流通路20b、室外熱交換器22、冷媒流通路20cの一部,冷媒流通路20h,冷媒流通路20dの一部の順に流通して圧縮機21に吸入される。
【0040】
冷媒回路20を流通する冷媒は、放熱器15において放熱し、室外熱交換器22において吸熱する。
【0041】
空調ユニット10の空気流通路11を流通する空気は、吸熱器14において冷媒と熱交換することなく、放熱器15において放熱する冷媒と熱交換することによって加熱されて車室内に吹き出される。
【0042】
また、低温度の環境下において車両の走行を開始する時等、バッテリBの加熱が必要となる場合がある。そこで、車両用空気調和装置1では、バッテリBの加熱が必要な場合に、バッテリ加熱運転を行う。
【0043】
バッテリ加熱運転では、冷媒回路20において第3膨張弁24cを全閉の状態とする。また、バッテリ加熱運転では、熱媒体回路30において、第1熱媒体三方弁33aの流路を熱媒体流通路30b側に設定し、第2熱媒体三方弁33bの流路を熱媒体流通路30e側に設定し、第2熱媒体ポンプ31bを駆動させることなく第1熱媒体ポンプ31a及び熱媒体加熱ヒータ32を駆動させる。
【0044】
これにより、第1熱媒体ポンプ31aから吐出された熱媒体は、図1の熱媒体回路30における実線の矢印で示すように、熱媒体流通路30a、熱媒体流通路30b、バッテリB、熱媒体流通路30c、熱媒体熱交換器23、熱媒体流通路30d,30eの順に流通して第1熱媒体ポンプ31aに吸入される。
【0045】
熱媒体回路30を流通する熱媒体は、熱媒体加熱ヒータ32によって加熱される。バッテリBは、熱媒体加熱ヒータ32によって加熱された熱媒体によって加熱される。また、熱媒体回路30を流通する熱媒体は、熱媒体熱交換器23の冷媒側流通路を冷媒が流通しないため、冷媒と熱交換することはない。
【0046】
また、車両の走行時には、バッテリBから熱が放出されるため、バッテリBの冷却が必要となる場合がある。そこで、車両用空気調和装置1では、空調ユニット10及び冷媒回路20を用いて車室内の温度及び湿度を調節している状態において、バッテリBの冷却が必要な場合に、バッテリBを冷却するためのバッテリ冷却運転を行う。
【0047】
バッテリ冷却運転では、暖房運転以外の運転を行う冷媒回路20において、第3膨張弁24cを所定の弁開度に設定し、暖房運転を行う冷媒回路20において、第3膨張弁24cを所定の弁開度に設定するとともに、第1電磁弁25aを開放する。また、バッテリ冷却運転では、熱媒体回路30において、第2熱媒体三方弁33bの流路を熱媒体流通路30h側に連通させ、第2熱媒体ポンプ31bを駆動させる。
【0048】
冷媒回路20を流通する冷媒は、図2に示すように、冷媒流通路20fを流通して熱媒体熱交換器23に流入して吸熱し、冷媒流通路20gを流通して冷媒流通路20dに合流して圧縮機21に吸入される。
【0049】
一方、熱媒体回路30において、第2熱媒体ポンプ31bから吐出された熱媒体は、図2の熱媒体回路30における破線の矢印で示すように、第1循環流路として、熱媒体流通路30i,30b、バッテリB、熱媒体流通路30c、熱媒体熱交換器23、熱媒体流通路30d,30hの順に流通して第2熱媒体ポンプ31bに吸入される。熱媒体回路30を流通する熱媒体は、バッテリBから放出された熱によって加熱され、熱媒体熱交換器23において吸熱する冷媒と熱交換することによって冷却される。
【0050】
バッテリBは、熱媒体熱交換器23を介して冷媒と熱交換した熱媒体によって冷却される。
【0051】
また、低温度の環境下における暖房運転では、放熱器15からの放熱量が不足して車室内の温度を設定温度とすることができない場合がある。そこで、車両用空気調和装置1では、空調ユニット10及び冷媒回路20を用いて暖房運転を行っている状態において、放熱器15からの放熱量が不足する場合に、暖房運転を補助するための暖房補助運転を行う。
【0052】
暖房補助運転では、熱媒体回路30において、第1熱媒体三方弁33aの流路を熱媒体流通路30f側に連通させ、第1熱媒体ポンプ31a及び熱媒体加熱ヒータ32を駆動させる。
【0053】
第1熱媒体ポンプ31aから吐出された熱媒体は、図2の熱媒体回路30における実線の矢印で示すように、第2循環流路として、熱媒体流通路30a、熱媒体加熱ヒータ32、熱媒体流通路30f、熱媒体放熱器16、熱媒体流通路30gの順に流通して第1熱媒体ポンプ31aに吸入される。
【0054】
熱媒体回路30を流通する熱媒体は、熱媒体加熱ヒータ32によって加熱される。熱媒体加熱ヒータ32によって加熱された熱媒体は、バッテリB側を流通することなく熱媒体放熱器16において放熱する。
【0055】
空調ユニット10の空気流通路11を流通する空気は、熱媒体放熱器16おいて放熱する熱媒体と熱交換することによって加熱され、放熱器15において目標吹き出し温度まで加熱されて車室内に吹出される。
【0056】
熱媒体回路30においては、図2に示すように、バッテリ冷却運転のための第1循環流路と、暖房補助運転のための第2循環流路と、を同時に設定し、それぞれ熱媒体を流通させることが可能である。また、熱媒体回路30においては、第1熱媒体ポンプ31a及び第2熱媒体ポンプ31bの一方のみを駆動させ、第1循環流路と第2循環流路の一方のみに熱媒体を流通させることも可能である。
【0057】
また、暖房運転時において、故障等によって圧縮機21が停止して冷媒回路20における冷媒の流通が停止した場合に、熱媒体回路30を用いて予備暖房運転を行う。予備暖房運転は、前記暖房補助運転と同様に、熱媒体加熱ヒータ32によって加熱された熱媒体を、バッテリB側を流通させることなく熱媒体放熱器16において放熱させる。
【0058】
このように、本実施形態の車両用空気調和装置によれば、暖房運転を行っている状態で、熱媒体回路30において熱媒体加熱ヒータ32によって加熱された熱媒体を、バッテリB側を流通させることなく熱媒体放熱器16を流通させることで、車室内に供給する空気を加熱する暖房補助運転を行う。
【0059】
これにより、暖房運転時に冷媒回路20において不足する放熱量を熱媒体加熱ヒータ32によって補填することができるので、冷媒回路20において不足する放熱量の補填とバッテリBの加熱とを一台の熱媒体加熱ヒータ32によって行うことが可能となり、車両の構成機器の設置スペースの省スペース化を図るとともに、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0060】
また、熱媒体回路30には、冷媒回路20を流通する冷媒と熱交換することによって熱媒体を冷却する熱媒体熱交換器23が接続されている。
【0061】
これにより、1つの熱媒体回路30によってバッテリBの加熱及び冷却が可能となるので、車両の構成機器の設置スペースの省スペース化を図るとともに、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0062】
また、熱媒体回路30は、バッテリBと熱媒体熱交換器23との間で熱媒体を循環させる第1循環流路と、熱媒体加熱ヒータ32と熱媒体放熱器16との間で熱媒体を循環させる第2循環流路と、を同時に設定可能である。
【0063】
これにより、暖房運転時に冷媒回路20において不足する放熱量の補填と、バッテリBの冷却を同時に行うことが可能となり、車両の性能を維持すると同時に乗員の快適性を向上させることが可能となる。
【0064】
また、熱媒体放熱器16は、空気流通路11において、放熱器15の上流側に配置されている。
【0065】
これにより、放熱器15において加熱される前の比較的低い温度の空気を熱媒体によって加熱することができるので、熱媒体を高温に加熱するための高出力の熱媒体加熱ヒータを必要とせず、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0066】
また、冷媒回路20において冷媒の流通が停止している状態で、熱媒体加熱ヒータ32によって加熱された熱媒体を、熱媒体放熱器16を流通させることで、車室内に供給する空気を加熱する予備暖房機能を備えている。
【0067】
これにより、故障等によって圧縮機21が停止して冷媒回路20における冷媒の流通が停止した場合においても、熱媒体加熱ヒータ32によって車室内の暖房の継続が可能となるので、低温度の環境下において車室内の暖房ができない状態を回避することが可能となる。
【0068】
尚、前記実施形態では、温度の調節が必要な車両の構成機器としてバッテリBを示したが、これに限られるものではない。温度の調節が必要な車両の構成機器としては、例えば、コンバータ等の電源装置や電子部品、電動モータ等であってもよい。
【0069】
また、前記実施形態では、熱媒体回路30を流通する熱媒体として、不凍液を用いたものを示したが、これに限られるものではない。熱媒体熱交換器23において冷媒と熱交換可能である同時に、熱媒体放熱器16において空気と熱交換可能であれば、例えば、水や油等を熱媒体として用いることも可能である。
【0070】
また、前記実施形態では、バッテリ冷却運転時の熱媒体回路30において、第2熱媒体ポンプ31bを駆動するようにしたものを示したが、これに限られるものではない。バッテリ冷却運転としては、熱媒体回路30において、第1熱媒体三方弁33aの流路を熱媒体流通路30b側に設定し、第2熱媒体三方弁33bの流路を熱媒体流通路30e側に設定し、第2熱媒体ポンプ31b及び熱媒体加熱ヒータ32を駆動させることなく第1熱媒体ポンプ31aを駆動させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1…車両用空気調和装置、10…空調ユニット、11…空気流通路、14…吸熱器、15…放熱器、16…熱媒体放熱器、20…冷媒回路、21…圧縮機、22…室外熱交換器、23…熱媒体熱交換器、30…熱媒体回路、32…熱媒体加熱ヒータ、B…バッテリ。
図1
図2