(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】防虫組成物の塗工方法
(51)【国際特許分類】
B05D 7/24 20060101AFI20221026BHJP
A01N 25/34 20060101ALI20221026BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20221026BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
B05D7/24 303E
A01N25/34 A
A01P17/00
B05D7/00 F
(21)【出願番号】P 2018181980
(22)【出願日】2018-09-27
【審査請求日】2021-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮太
(72)【発明者】
【氏名】村井 伸人
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-025132(JP,U)
【文献】実開昭57-035278(JP,U)
【文献】特開2003-327503(JP,A)
【文献】特開2003-268697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
A01N 1/00-65/48
A01P 1/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中芯、及び、該中芯を挟んで配置された表面ライナーと裏面ライナーとを有する段ボールの前記中芯に、防虫成分を含有する防虫組成物を塗工する防虫組成物の塗工方法であって、
前記中芯の一方の面に前記防虫組成物を塗工し、前記防虫組成物を塗工していない側の面に前記防虫組成物を転移させる転移工程を有
し、
前記防虫組成物は、浸透助剤を含む
ことを特徴とする防虫組成物の塗工方法。
【請求項2】
前記転移工程を経た中芯は、前記防虫組成物を塗工していない側の面に前記防虫成分が析出している請求項1記載の防虫組成物の塗工方法。
【請求項3】
前記転移工程は、前記中芯に前記防虫組成物を浸透させる工程を有する請求項1又は2に記載の防虫組成物の塗工方法。
【請求項4】
前記転移工程は、前記防虫組成物を塗工した側の面と、前記防虫組成物を塗工していない側の面とを接触させる工程を有する請求項1、2
又は3記載の防虫組成物の塗工方法。
【請求項5】
前記防虫組成物は、乾燥遅延剤を含む請求項
4記載の防虫組成物の塗工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防虫組成物の塗工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
段ボールは、軽量であり、加工性が良好で、しかも断熱性を備えているなどの利点を備えていることから、食品や家具、電化製品等様々物品の包装用資材として多く利用されている。
特に食品を包装する場合、様々な害虫(ゴキブリ、カツオブシムシ、コクヌストモドキ、チャタテムシ、アリ、ナメクジ等)が段ボールへ侵入することがあった。
【0003】
これらの害虫の侵入は単に不快感を与えるだけでなく、害虫やその死骸等が発見された場合、製品の返品や風評被害等の原因となり、店舗や製造メーカーに甚大な損害を与える場合があった。
このため、例えば、殺虫剤を用いてこれらの害虫を駆除し、食品に対する被害を抑制することが考えられるが、散布される殺虫剤が、食品や食器類等を汚染し、健康に被害を与える可能性もあるため、殺虫剤を散布する以外の方法が求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、害虫の生息阻害成分を含有する層として樹脂層を設けた段ボール等の食品用包材が開示されている。しかしながら、害虫駆除のための樹脂層を設けることはコストの増大を招く問題があった。また、コストを低減させるために部分的に樹脂層を形成した場合、包装資材は内包する物品に応じて様々なサイズ及び形状に加工されるため、効率的な害虫の駆除ができない場合があった。
【0005】
また、例えば、特許文献2には段ボール紙のハニカム状の芯ライナーに防虫剤で処理された防虫防菌保管箱が開示されており、芯ライナーを防虫剤で処理する方法として、防虫剤を溶剤に溶解させて芯ライナーの全面又は部分的に塗布する方法や、防虫剤を溶解させた溶剤中に芯ライナーを浸漬する方法が開示されている。
しかしながら、芯ライナーに溶剤を塗布する方法では芯ライナーの両面を防虫剤で処理しようとすると片面に塗布する工程と裏面に塗布する工程とを行う必要があり、工程数の増加を招く問題があり、また、芯ライナーを浸漬する方法はバッチ処理が必要であったり、浸漬のための装置が必要であったりする問題があり、いずれの方法もコストの増大や製造効率の面で問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-20075号公報
【文献】実開平1-100776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の課題は、優れた防虫性を発揮できる段ボールを効率的に得ることができる防虫組成物の塗工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、研究を重ねた結果、段ボールの中芯に防虫組成物を塗工する際に、中芯に塗工後転移させる工程を行うことで上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、中芯、及び、該中芯を挟んで配置された表面ライナーと裏面ライナーとを有する段ボールの上記中芯に、防虫成分を含有する防虫組成物を塗工する防虫組成物の塗工方法であって、上記中芯の一方の面に上記防虫組成物を塗工し、上記防虫組成物を塗工していない側の面に上記防虫組成物を転移させる転移工程を有することを特徴とする防虫組成物の塗工方法に関する。
【0010】
本発明の防虫組成物の塗工方法において、上記転移工程を経た中芯は、上記防虫組成物を塗工していない側の面に上記防虫成分が析出していることが好ましい。
上記転移工程は、上記中芯に上記防虫組成物を浸透させる工程を有することが好ましい。
また、上記防虫組成物は、浸透助剤を含むことが好ましい。
また、上記転移工程は、上記防虫組成物を塗工した側の面と、上記防虫組成物を塗工していない側の面とを接触させる工程を有することが好ましい。
また、上記防虫組成物は、乾燥遅延剤を含むことが好ましい。
以下、本発明の防虫組成物の塗工方法について詳細に説明する。
【0011】
〔段ボール〕
先ずは、本発明の防虫組成物の塗工方法において、防虫組成物の塗工対象である段ボールについて説明する。
図1は、上記段ボールを模式的に示す断面図である。
図1に示すように上記段ボール10は、中芯11、及び、該中芯11を挟んで配置された表面ライナー12と裏面ライナー13とを有する。
【0012】
上記段ボール10を構成する中芯11、表面ライナー12及び裏面ライナー13を構成する材料としては特に限定されず、例えば、化学パルプ、機械パルプ、古紙パルプ等の一種、又は、二種以上を適宜混合されて得られる混合パルプなどが挙げられる。
【0013】
上記中芯11としては特に限定されず、従来公知のものを使用できる。例として「OND115」、「OFLM強化120S」(いずれも王子マテリア社製)等が挙げられる。
【0014】
〔防虫組成物〕
本発明は、上記芯材に防虫組成物を塗工する防虫組成物の塗工方法である。
上記防虫組成物は防虫成分を含有する。
上記防虫成分としては特に限定されず、ゴキブリ、カツオブシムシ、コクヌストモドキ、チャタテムシ、アリ、ナメクジ等の害虫の駆除に使用される従来公知のものを使用できる。
【0015】
上記防虫組成物は、浸透助剤を含むことが好ましい。
上記浸透助剤としては、ポリアルキレングリコール及びそのエステル又はエーテル、アセチレンジオール系化合物、シリコーン系化合物等が挙げられる。必要に応じて、これらを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
なかでも、浸透性の観点から、アセチレンジオール系化合物であることが好ましい。
上記防虫組成物は上記浸透助剤を含有することで、中芯11の片面のみに上記防虫組成物を塗工しても、防虫成分が中芯11に浸透して、上記防虫組成物を塗工していない側の面に、上記防虫組成物が好適に転移するので、優れた防虫性を発揮できる。
【0016】
上記浸透助剤の含有量は、上記防虫組成物中0.3~4質量%であることが好ましい。0.3質量%未満では浸透効果が不十分となることがあり、4質量%を超えると、段ボールとしての接着強度が不十分となることがある。
【0017】
また、上記防虫組成物は、乾燥遅延剤を含むことが好ましい。
乾燥遅延剤としては、多価アルコール及び分子量100を超えるモノアルコールが挙げられる。必要に応じて、これらを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオー ル、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、 シクロヘキサンジメタノール等のジオール類、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、2-ヒドロキシメチル-1,4-ブタンジオール等のトリオール類、ペンタエリスリトール等のテトラオール類等が挙げられる。
上記分子量100を超えるモノアルコールとしては、例えば、炭素数が6以上の直鎖又は分岐のアルキル基を有するモノアルコール等が挙げられる。
なかでも、乾燥調整力やコストの観点から、グリセリンが好ましい。
上記防虫組成物は、上記乾燥遅延剤を含有することで、塗工後に中芯11を巻き取った際、上記防虫組成物を塗工した側の面と、上記防虫組成物を塗工していない側の面とが接触し、上記防虫成分が乾燥遅延剤とともに、上記防虫組成物を塗工した側の面から、上記防虫組成物を塗工していない側の面に好適に転移するので、優れた防虫性を発揮できる。
【0018】
上記乾燥遅延剤の含有量は、上記防虫組成物中0.5~4質量%であることが好ましい。0.5質量%未満では防虫効果が不十分となることがあり、4質量%を超えると、塗工時に上記防虫組成物がガイドロールに転移する傾向がある。
【0019】
〔防虫組成物の製造方法〕
本発明の防虫組成物は、上述した防虫成分や必要に応じて各種溶剤や各種添加剤を混合することで製造することができる。
【0020】
〔防虫組成物の塗工方法〕
本発明の防虫組成物の塗工方法は、中芯11の一方の面に上記防虫組成物を塗工し、上記防虫組成物を塗工していない側の面に上記防虫組成物を転移させる転移工程を有する。
本転移工程を経ることで、中芯11に充分な量の防虫成分を含有させるとともに、上記防虫組成物を塗工した側の面と反対側の面(上記防虫組成物を塗工していない側の面)に上記防虫成分を析出している状態にでき、極めて防虫性能に優れた段ボールを得ることができる。
なお、上記「析出している状態」とは、析出面の分析によって、対象物が存在していることを確認できる状態である。
例として、上記防虫組成物を塗工した側の面と反対側の面を布等で拭き取り、上記布を容器内で加熱し、容器内の気体をガスクロマトグラフィーによって分析した場合に上記防虫成分が検出されれば、上記防虫成分は上記防虫組成物を塗工した側の面と反対側の面に析出している状態であったと認められる。
【0021】
中芯11に上記防虫組成物を塗工する方法としては、上記段ボールの製造過程において、上記表面ライナー及び裏面ライナーの間に挟んで配置する前の中芯11に対して上記防虫組成物を塗工することが好ましい。上記段ボールの製造と合わせて中芯11への防虫組成物の塗工ができるため製造効率に優れ、また、中芯11の任意の箇所に所望の範囲で防虫組成物の塗工が可能となる。
【0022】
上記転移工程において、中芯11への上記防虫組成物の塗工方法としては特に限定されず、グラビア方式、フレキソ方式、スプレー方式、カーテンコーター方式、フローコーター方式、ロールコーター法式、刷毛塗り法式などの一般的な塗工方法が挙げられ、中でもグラビア方式、フレキソ方式、スプレー方式のいずれかが好ましい。
【0023】
中芯11への上記防虫組成物の塗工量としては、0.2~5g/m2であることが好ましく、1~3g/m2であることがより好ましい。
中芯11への上記防虫組成物の塗工量が0.2g/m2未満であると、防虫効果が不充分となることがあり、5g/m2を超えると上記防虫組成物がガイドロールに転移することがある。
【0024】
上記転移工程は、中芯11に上記防虫組成物を浸透させる工程を有することが好ましい。
中芯11に上記防虫組成物を浸透させる工程を有することにより、中芯11の片面のみに上記防虫組成物を塗工したとしても、上記防虫組成物を塗工していない側の面に上記防虫組成物を好適に転移させることができる。
中芯11に上記防虫組成物を浸透させる工程を有する場合、上記防虫組成物は、上記浸透助剤を含有することが好ましい。
【0025】
上記転移工程は、上記防虫組成物を塗工した側の面と、上記防虫組成物を塗工していない側の面とを接触させる工程を有することが好ましい。
上記防虫組成物を塗工した側の面と、上記防虫組成物を塗工していない側の面とを接触させる工程を有することにより、中芯11の片面のみに上記防虫組成物を塗工したとしても、上記防虫組成物を塗工していない側の面に上記防虫組成物を好適に転移させることができる。
上記防虫組成物を塗工した側の面と、上記防虫組成物を塗工していない側の面とを接触させる工程としては、例えば、中芯11に上記防虫組成物を塗工した後、上記防虫組成物が乾燥する前に、中芯11をロールで巻き取ることにより、上記防虫組成物を塗工した側の面と、上記防虫組成物を塗工していない側の面とを接触させる方法、中芯11を積み上げることにより、上記防虫組成物を塗工した側の面と、上記防虫組成物を塗工していない側の面とを接触させる方法等が挙げられる。
上記防虫組成物を塗工した側の面と、上記防虫組成物を塗工していない側の面とを接触させる工程を有する場合、上記防虫組成物は、上記乾燥遅延剤を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の防虫組成物の塗工方法は、上述した工程を有するので、優れた防虫性を発揮できる段ボールを効率的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0029】
表1に示す配合にて各材料を混合し、実施例1~16及び比較例1~2の防虫組成物を調製した。なお、表中の各材料は以下の通りである。
防虫剤:ペルメトリンを2%含有する水性分散体
サーフィノール420:アセチレンジオール系界面活性剤(日信化学社製)
【0030】
<段ボールの作成方法>
グラビア印刷機を用いて、実施例1~16及び比較例1~2の防虫組成物を以下の条件で中芯(「OND115」、王子マテリア社製)の片側の面に塗工量が2g/m2となるように塗工し、該中芯を巻き取った。その後、コルゲーターを用いて段ボールシートを作成し、10×10cmの大きさに裁断して、実施例1~16及び比較例1~2の段ボール片を得た。
印刷スピード:50m/min
版材:ヘリオ版200線
乾燥温度:70℃
【0031】
<防虫効果の評価方法>
容器(100×100cm)の中に、実施例1~16及び比較例1~2の段ボール片、チャバネゴキブリの幼虫30体、餌、及び水を入れ、暗所に2日間放置後した。その後、中芯部の防虫組成物塗工面及び非塗工面に侵入したチャバネゴキブリ(幼虫)の数を数えた。
<防虫効果の評価基準>
○:侵入した数:0~1体
△:侵入した数:2~4体
×:侵入した数:5体以上
【0032】
<段ボール接着強度の評価方法>
実施例1~16及び比較例1~2の段ボール片の、中芯部の接着強度を以下の条件で測定した。なお、測定は3回繰り返し、その平均値を算出した。
測定方法:JIS Z0402-1995に準拠した方法により評価を行った。
熊谷理機工業社製リングクラッシュテスターを使用し、実施例1~16及び比較例1~2の段ボール片をA段用ピンアタッチメントに挿入して引きはがし、接着部が剥離する時の最大荷重を測定した。
引きはがし速度:12±3mm/分
温度、湿度:23℃、50%RH
<段ボール接着強度の評価基準>
○:20kgf以上
△:15kgf以上、20kgf未満
×:15kgf未満
【0033】
<ガイドロール取られの評価方法>
上述したグラビア印刷機による塗工の後、ガイドロールへの防虫組成物の転移度合を目視で確認した。
<ガイドロール取られの評価基準>
○:ガイドロールに転移しない
△:ガイドロールに僅かにとられる
×:ガイドロールに大きくとられる
【0034】
【0035】
実施例1~8から、中芯に防虫組成物を浸透させる工程を有することにより、中芯の片面のみに上記防虫組成物を塗工したとしても、上記防虫組成物を塗工していない側の面に上記防虫組成物を好適に転移させることができることが確認された。特に、実施例1~5から、上記防虫組成物が浸透助剤を0.3~4質量%の範囲で含有することにより、上記防虫組成物を塗工していない側の面に上記防虫組成物をより好適に転移させることができることが確認された。
実施例9~16から、中芯をロールで巻き取って、上記防虫組成物を塗工した側の面と、上記防虫組成物を塗工していない側の面とを接触させる工程を有することにより、中芯の片面のみに上記防虫組成物を塗工したとしても、上記防虫組成物を塗工していない側の面に上記防虫組成物を好適に転移させることができることが確認された。特に、実施例9~13から、上記防虫組成物が乾燥遅延剤を0.5~4質量%の範囲で含有することにより、上記防虫組成物を塗工していない側の面に上記防虫組成物をより好適に転移させることができることが確認された。
一方で、比較例1及び2から、防虫組成物が防虫剤を含有しない場合には、防虫効果を付与できないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の防虫組成物の塗工方法は、上述した工程を有するので、優れた防虫性を発揮できる段ボールを効率的に得ることができる。
【符号の説明】
【0037】
10 段ボール
11 中芯
12 表面ライナー
13 裏面ライナー