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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】医療器具
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/00 20060101AFI20221026BHJP
   A61M 25/14 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
A61M25/00 534
A61M25/14 514
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018184125
(22)【出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2020049150
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100188307
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】本間 康之
【審査官】二階堂 恭弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-143268(JP,A)
【文献】特開2008-307072(JP,A)
【文献】特開2016-209319(JP,A)
【文献】中国実用新案第201968797(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00
A61M 25/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠位端から生体組織に穿刺される長尺状の医療器具であって、
径方向の内側に位置する内側ルーメン、及び、径方向の外側に位置する外側ルーメン、を内部に区画する筒部を備え、
前記筒部は、
前記遠位端を含む穿刺先端部と、
前記穿刺先端部と一体で形成されて連続し、前記穿刺先端部よりも近位端側に位置する本体部と、を備え、
前記本体部の側面は、前記遠位端側に向かうにつれて径方向の内側に近づくように縮径するテーパ面を備え、
前記内側ルーメンの第1先端開口は、前記穿刺先端部の先端面に形成されており、
前記外側ルーメンの第2先端開口は、前記本体部の前記テーパ面に形成されており、
前記穿刺先端部の前記先端面は、軸方向に対して傾斜する刃面により構成されている、医療器具
【請求項2】
前記テーパ面を第1テーパ面とした場合に、前記穿刺先端部の側面は、前記第1テーパ面よりも前記遠位端側に、前記遠位端側に向かうにつれて外径が漸減する第2テーパ面を備え、
前記第2テーパ面は、前記第1テーパ面よりも、軸方向に対する傾斜角度が小さい、請求項1に記載の医療器具。
【請求項3】
前記筒部は、前記外側ルーメンを複数区画している、請求項1又は2に記載の医療器具。
【請求項4】
前記内側ルーメンの断面積は、前記外側ルーメンの断面積よりも大きい、請求項1乃至3のいずれか1つに記載の医療器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、心不全等の治療として、心臓の左心室の内壁等の生体組織の同一箇所に、細胞及び細胞外マトリックス等、複数種類の被投与物を投与することが検討されている。このような場合、軸方向に延在する中空部であるルーメンが区画され、先端で生体組織に穿刺可能な長尺状の医療器具を用いて、当該ルーメンを通じて被投与物を生体組織に投与することが考えられる。複数種類の被投与物を投与するためには、医療器具に、被投与物の種類数に応じた数のルーメンが区画されていることが好ましい。
【0003】
例えば、特許文献1には、ルーメン430と、補助ルーメン440とを有する医療器具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2008/0125745号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されるように医療器具が2つのルーメンを有する場合、当該医療器具は、1本の針について、2つのルーメンを設けることが可能な外径を有する必要がある。そうすると、外径が大きくなりやすく、穿刺抵抗が大きくなりやすくなる。
【0006】
本発明の目的は、上記問題に鑑み、軸方向に延在する複数のルーメンを区画しつつ、穿刺抵抗を低減できる医療器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様としての医療器具は、遠位端から生体組織に穿刺される長尺状の医療器具であって、径方向の内側に位置する内側ルーメン、及び、径方向の外側に位置する外側ルーメン、を内部に区画する筒部を備え、前記筒部の側面は、前記遠位端側に向かうにつれて径方向の内側に近づくように縮径するテーパ面を備え、前記内側ルーメンの第1先端開口は、前記筒部の先端面に形成されており、前記外側ルーメンの第2先端開口は、前記筒部の前記テーパ面に形成されている。
【0008】
本発明の一実施形態としての医療器具において、前記筒部の前記先端面は、軸方向に対して傾斜する刃面により構成されている。
【0009】
本発明の一実施形態としての医療器具において、前記テーパ面を第1テーパ面とした場合に、前記筒部の側面は、前記第1テーパ面よりも前記遠位端側に、前記遠位端側に向かうにつれて外径が漸減する第2テーパ面を備え、前記第2テーパ面は、前記第1テーパ面よりも、軸方向に対する傾斜角度が小さい。
【0010】
本発明の一実施形態としての医療器具において、前記筒部は、前記外側ルーメンを複数区画している。
【0011】
本発明の一実施形態としての医療器具において、前記内側ルーメンの断面積は、前記外側ルーメンの断面積よりも大きい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、軸方向に延在する複数のルーメンを区画しつつ、穿刺抵抗を低減できる医療器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態としての医療器具を示す図である。
図2図1に示す医療器具の外観斜視図である。
図3図1に示す医療器具の正面図である。
図4図3のA-A線に沿う断面図である。
図5図1の医療器具を用いて実行される投与方法の一例を示すフローチャートである。
図6図1の医療器具を用いて投与された細胞及び細胞外マトリックスの投与状態の一例を示す模式図である。
図7図1に示す医療器具の穿刺先端部の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。各図において共通の構成部には、同一の符号を付している。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態としての医療器具1を示す図である。図1に示すように、医療器具1は、長尺状である。図1では、医療器具1が、別の医療器具としての筒状のカテーテル100を通じて、被検者の体外から心臓内腔の左心室LVまで延在した状態を示している。具体的には、カテーテル100が、大腿動脈FAから被検者の体内に挿入され、大動脈AO及び大動脈弁AVを通じて左心室LV内まで延在している。そして、医療器具1の近位端側の一部が、被検者の体外に位置した状態のまま、医療器具1の遠位端8が、カテーテル100を通じて左心室LVまでデリバリーされている。カテーテル100は、大腿動脈FAに代えて、例えば手首の橈骨動脈等から、被検者の体内に挿入されてもよい。以下、医療器具1の近位端を単に「基端」と記載し、近位端側を単に「基端側」と記載する場合がある。また、以下、医療器具1の遠位端8を単に「先端」と記載し、遠位端8側を単に「先端側」と記載する場合がある。
【0016】
図2は、医療器具1の外観斜視図である。図3は、医療器具1の正面図である。図4は、図3のA-A線に沿う断面図である。ここで、本明細書では、医療器具1の遠位端8側に向く面を正面とする。以下、医療器具1を遠位端8側から見た場合(図3参照)を単に「正面視」と記載する場合がある。医療器具1は、遠位端8側が針状に構成されている。
【0017】
図2乃至図4に示されるように、医療器具1は、筒部30を備える。筒部30は、本体部10と、穿刺先端部20とを含んで構成される。穿刺先端部20は、遠位端8を含み、遠位端8から左心室LV(図1参照)の内壁等の生体組織に穿刺可能である。筒部30は、中心軸Oに沿う方向(以下、「軸方向」とも称する)に沿って延在している。本体部10は、穿刺先端部20と連続し、穿刺先端部20よりも基端側に位置する。図4では、本体部10は破線Lよりも右側の部分であり、穿刺先端部20は破線Lよりも左側の部分である。つまり、図4において、破線Lよりも基端側が本体部10に該当し、破線Lよりも遠位端8側が穿刺先端部20に該当する。
【0018】
穿刺先端部20は、正面視において、中心軸Oを中心として、半径R1の側面(外周面)を有する。本体部10は、正面視において、中心軸Oを中心として、最大半径R2の側面(外周面)を有する。図3及び図4に示すように、穿刺先端部20は、医療器具1の軸方向において、遠位端8側の、側面の半径がR1以下である部分を指す。医療器具1の軸方向において、側面の半径がR1より大きい部分は、本体部10に属する。このように構成することにより、医療器具1の遠位端8近傍の外径を小さくできるため、医療器具1が生体組織に穿刺される際の医療器具1と生体組織との穿刺抵抗を低減することができる。
【0019】
図4に示すように、本実施形態では、穿刺先端部20の側面21は、近位端側から遠位端8側にかけて、中心軸Oを中心とした同一の半径R1の筒状に構成されている。
【0020】
本体部10は、側面11において、基端側から遠位端8側に向かうにつれて径方向の内側に近づくように縮径するテーパ面(第1テーパ面)12を備える。すなわち、テーパ面12により、近位端側から遠位端8側に向かうにつれて、本体部10の半径が、最大半径のR2からR1まで減少され、穿刺先端部20に連続するように構成されている。
【0021】
テーパ面12は、中心軸Oに対して、テーパ基端位置13と結合位置14との中間位置15において、最も傾斜している。テーパ基端位置13は、テーパ面12の最も基端側(近位端側)の位置である。すなわち、テーパ基端位置13は、本体部10において、半径がR2よりも小さくなりはじめる位置である。本体部10のテーパ基端位置13よりも基端側は、半径がR2の円筒状に構成されている。結合位置14は、本体部10における、穿刺先端部20との結合位置であり、テーパ面12の最も先端側(遠位端8側)の位置である。例えば、テーパ面12の中心軸Oに対する傾斜角は、テーパ基端位置13から中間位置15にかけて徐々に上昇し、中間位置15で最大となった後、結合位置14にかけて徐々に減少する。具体的には、テーパ面12は、中心軸Oに沿って、中間位置15よりも、テーパ基端位置13側では凸状となる曲率を有し、結合位置14側では凹状となる曲率を有する。
【0022】
医療器具1の本体部10は、軸方向に延在する複数のルーメンを区画する。本実施形態では、図3及び図4に示すように、複数のルーメンとして、1つの内側ルーメン31と、4つの外側ルーメン32a、32b、32c及び32dとが区画される。本明細書において、4つの外側ルーメン32a、32b、32c及び32dをそれぞれ区別しない場合には、これらをまとめて「外側ルーメン32」と記載する。
【0023】
内側ルーメン31は、本体部10において、径方向の内側に位置する。具体的には、内側ルーメン31は、中心軸Oから半径がR1未満の領域に形成される。外側ルーメン32は、本体部10において、径方向の外側に位置する。具体的には、外側ルーメン32は、中心軸Oから半径がR1以上R2未満の領域に形成される。外側ルーメン32は、例えば軸方向に平行に形成されていてよい。従って、例えば図3に示されるように、医療器具1の正面視において、中心軸Oを含む中心部に内側ルーメン31が形成され、内側ルーメン31よりも径方向の外側に、複数の外側ルーメン32が形成される。つまり、本体部10は、外側ルーメン32を複数区画している。なお、本実施形態では、外側ルーメン32が4つであるとして説明するが、外側ルーメン32の個数は、これに限られない。本体部10には、1以上の任意の個数の外側ルーメン32が形成されていてよい。内側ルーメン31及び外側ルーメン32は、図3に示すように、断面が円形となるように形成されていてよい。
【0024】
医療器具1の穿刺先端部20は、内部に内側ルーメン31を区画する。一方、穿刺先端部20は、外側ルーメン32を区画しない。すなわち、上述したように、内側ルーメン31は、中心軸Oから半径がR1未満の領域に形成されるため、穿刺先端部20においても、内側ルーメン31が形成される。一方、外側ルーメン32は、中心軸Oから半径がR1以上R2未満の領域に形成されるが、穿刺先端部20の最大半径がR1であるため、穿刺先端部20には、外側ルーメン32が形成されない。
【0025】
内側ルーメン31は、穿刺先端部20の遠位端8側に開口(以下、「第1先端開口」とも称する)33を有し、第1先端開口33で外部と連通する。第1先端開口33は、穿刺先端部20の先端面22に形成されている。先端面22は、例えば図2及び図4に示されるように、軸方向に対して傾斜する刃面により構成されていてもよい。これにより、穿刺先端部20の遠位端8における、医療器具1が生体組織に穿刺される際の医療器具1と生体組織との穿刺抵抗を、低減することができる。
【0026】
外側ルーメン32は、本体部10のテーパ面12に開口(以下、「第2先端開口」とも称する)34を有し、第2先端開口34で外部と連通する。このように、外側ルーメン32がテーパ面12に第2先端開口34を有することにより、後述するように内側ルーメン31と外側ルーメン32から異なる流体を供給する場合に、これらの異なる流体を、軸方向において異なる位置に供給することができる。
【0027】
内側ルーメン31及び外側ルーメン32は、医療器具1の基端側で外部と連通する。内側ルーメン31及び外側ルーメン32には、基端側から生体組織に投与される被投与物としての流体を供給することができる。内側ルーメン31及び外側ルーメン32に供給される流体は、例えば、細胞、当該細胞を生体組織に接着させる機能を有する細胞外マトリックス、線維芽細胞成長因子(bFGF)製剤等の成長因子、造影剤、及び、生体適合性材料のうちの1以上を含む。
【0028】
被投与物としての細胞は、例えば、接着細胞(付着性細胞)を含む。接着細胞は、例えば、接着性の体細胞(例えば、心筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞等)及び幹細胞(例えば、筋芽細胞、心臓幹細胞等の組織幹細胞、胚性幹細胞、iPS(induced pluripotent stem)細胞等の多能性幹細胞、間葉系幹細胞等)等を含む。体細胞は、幹細胞、特にiPS細胞から分化させたものであってもよい。被投与物としての細胞の非限定例としては、例えば、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞等)、間葉系幹細胞(例えば、骨髄、脂肪組織、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、胎盤、臍帯血由来のもの等)、心筋細胞、線維芽細胞、心臓幹細胞、胚性幹細胞、iPS細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞(例えば、口腔粘膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、鼻粘膜上皮細胞等)、内皮細胞(例えば、血管内皮細胞等)、肝細胞(例えば、肝実質細胞等)、膵細胞(例えば、膵島細胞等)、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞等が挙げられる。
【0029】
被投与物としての細胞外マトリックスは、例えば、心筋、腎臓、膀胱、軟骨等、各組織、臓器中に存在する非細胞性の構成成分を含む。細胞外マトリックスは、例えば、心筋、軟骨等の臓器をホモジナイズすることで、抽出することができる。細胞外マトリックスの組成物は、主に繊維状タンパク質、構造タンパク質、グリコサミノグリカン等で構成され、以下のものを含む全ての型のコラーゲン:原繊維(I型、II型、III型、V型、XI型);facit(IX型、XII型、XIV型);短鎖(VIII型、X型)、基底膜(IV型)、及び他のもの(VI型、VII型、XIII型)、エラスチン、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、フィビュリン、カドヘリン、ラミニン、アグリン、エンタクチン、テネイシン、リンクタンパク質、プロテオグリカン、アグリカン、パールカン、バーシカン、ニューロカン、ブレビカン、デコリン、ビグリカン、セルグリシン、シンデカン、グリピカン、ルミカン、ケラトカン、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヒアルロン酸、キチン等を含む。また、細胞外マトリックスの個々の組成物の比率は、その組織を構成する組成物の比率に依存する。
【0030】
被投与物としての生体適合性材料は、例えば、ポリアクリルアミドゲル、ポリビニルピロリドンゲル、ゼラチンゲル、β―グルカンゲル、アガロースゲル、カルボキシメチルセルロースゲル、エチレンビニルアルコール、ジルコニウム、ハイドロキシアパタイト、ポリジメチルシロキサン、デキストラノマー、シリコーン、グリコールやそれらの混合物、及び、それらを用いた粒子、多孔性粒子、ファイバー、多孔性ファイバー、シート、多孔性シートやそれらの組合せにより選択される群を含む。
【0031】
本実施形態では、一例として、内側ルーメン31から細胞を供給し、外側ルーメン32から細胞外マトリックスを供給する場合について、以下説明する。
【0032】
内側ルーメン31の断面積は、例えば図3に示されるように、外側ルーメン32の断面積よりも大きくてよい。ここで、断面積は、軸方向に直交する任意の一断面での内側ルーメンの断面積及び外側ルーメンの断面積をいう。このように構成することにより、例えば細胞等の粘性の高い流体を、断面積がより大きい内側ルーメン31を通して供給し、例えば細胞外マトリックス等の粘性の低い流体を、断面積がより小さい外側ルーメン32を通して供給する場合に、両ルーメンを流れる流体の速度(つまり流速)の差を小さくするとともに、流体の管摩擦抵抗である注入抵抗の差を小さくすることができる。
【0033】
医療器具1の本体部10及び穿刺先端部20の形成材料は、ある程度の可撓性を有するものが好ましく、例えば金属や樹脂を用いることができる。金属としては、例えば、Ni-Ti系合金のような擬弾性合金(超弾性合金を含む)、ステンレス鋼(例えば、SUS304、SUS303、SUS316、SUS316L、SUS316J1、SUS316J1L、SUS405、SUS430、SUS434、SUS444、SUS429、SUS430F、SUS302等、SUSの全品種)、コバルト系合金、金、白金のような貴金属、タングステン系合金、炭素系材料(ピアノ線を含む)等が挙げられる。樹脂としては、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等)、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、ポリイミド、フッ素樹脂等の高分子材料あるいはこれらの混合物、あるいは上記2種以上の高分子材料が挙げられる。さらに、樹脂として、ポリエーテルエーテルケトンに代表されるエンジニアリングプラスチックが挙げられる。また、本体部10及び穿刺先端部20は、これらの金属や樹脂から形成された複合物からなる多層チューブ等により構成することもできる。
【0034】
図5は、医療器具1を用いて実行される投与方法の一例を示すフローチャートである。図5に示すように、医療器具1を用いて実行される投与方法は、穿刺工程S1と、第1投与工程S2と、第2投与工程S3と、を含む。
【0035】
穿刺工程S1では、遠位端8で外部に連通する中空部としての内側ルーメン31を区画する穿刺先端部20を、遠位端8から生体組織に穿刺する。具体的には、例えば、図1に示したように、カテーテル100を通じて左心室LVまでデリバリーされた医療器具1の穿刺先端部20の遠位端8を、カテーテル100から突出させて、生体組織としての左心室LVの内壁に穿刺させる。医療器具1の操作は、医療従事者等の操作者が、被検者の体外に位置する医療器具1の基端側(近位端側)の一部を操作することで行うことができる。
【0036】
第1投与工程S2では、医療器具1の中空部としての内側ルーメン31を通じて、細胞を生体組織に投与する。具体的には、例えば、医療器具1の基端側から内側ルーメン31を通じて細胞を供給する。すると、細胞は、内側ルーメン31を経て、生体組織に投与される。
【0037】
第2投与工程S3では、第1投与工程S2の後、医療器具1の中空部としての外側ルーメン32を通じて、細胞外マトリックスを生体組織に投与する。具体的には、例えば、医療器具1の基端側から、外側ルーメン32を通じて細胞外マトリックスを供給する。すると、細胞外マトリックスは、外側ルーメン32を経て、生体組織に投与される。
【0038】
このように、第1投与工程S2で生体組織に細胞を投与した後、第2投与工程S3で細胞外マトリックスを生体組織に投与することで、カテーテル投与の際には、組成物を流動状態とすることができ、その後、投与対象の生体内の環境により組成物の粘度が上昇することで、投与された細胞や生物活性物質の漏出防止を図ることができる。そのため、医療器具1を生体外に抜去後に、先に投与された細胞が心拍等によって漏出することを抑制できる。
【0039】
図6は、医療器具1を用いて投与された細胞及び細胞外マトリックスの投与状態の一例を示す模式図である。図6は、上側から下側に向かって遠位端8が穿刺された場合における、細胞及び細胞外マトリックスの生体組織における配置を模式的に示す図である。生体組織に遠位端8が穿刺された状態で、内側ルーメン31から細胞が供給され、外側ルーメン32から細胞外マトリックスが供給された場合、図6に示すように、内壁近辺に細胞外マトリックスが投与され、それよりも生体組織の奥側に細胞が投与される。これは、生体組織に遠位端8が穿刺された状態において、外側ルーメン32の第2先端開口34が内壁近辺に配置され、内側ルーメン31の第1先端開口33が生体組織の奥側に配置されるためである。このように細胞及び細胞外マトリックスが投与されることにより、細胞を生体組織に生着させやすくなる。
【0040】
このように、本実施形態に係る医療器具1は、径方向の内側に位置する内側ルーメン31、及び、径方向の外側に位置する外側ルーメン32、を内部に区画する筒部30を備える。筒部30は、側面にテーパ面12を備え、内側ルーメン31の第1先端開口33は、筒部30の先端面22に形成され、外側ルーメン32の第2先端開口34は、テーパ面12に形成されている。この構成により、医療器具1によれば、医療器具1と生体組織との穿刺抵抗を低減することができる。すなわち、医療器具1によれば、軸方向に延在する複数のルーメンを区画しつつ、遠位端8近傍の外径を小さくして穿刺抵抗を低減できる。
【0041】
なお、医療器具1を用いて実行される投与方法は、上述した方法に限られない。例えば、細胞を投与する第1投与工程の前に、細胞外マトリックスを投与する第2投与工程を行ってもよい。この場合、細胞が生体組織に生着し易い環境を予め整えることができる。
【0042】
上記実施形態では、穿刺先端部20の側面21が一定の径を有する筒状である場合について説明した。しかしながら、図7に示すように、穿刺先端部20の側面21は、遠位端8側に向かうにつれて外径が漸減するテーパ面(第2テーパ面)を備えるように構成されていてもよい。これにより、医療器具1が生体組織に穿刺される際の医療器具1と生体組織との穿刺抵抗を、さらに低減することができる。第2テーパ面は、第1テーパ面よりも、軸方向に対する傾斜角度が小さくてもよい。
【0043】
上記実施形態では、外側ルーメン32が軸方向に平行に形成されていると説明したが、外側ルーメン32は、必ずしも軸方向に平行に形成されていなくてもよい。外側ルーメン32は、軸方向に延在するように、中心軸Oから半径がR1以上R2未満の領域に形成されていればよい。従って、例えば、外側ルーメン32は、中心軸Oから半径がR1以上R2未満の領域に、螺旋形状となるように形成されていてもよい。
【0044】
上記実施形態では、内側ルーメン31及び外側ルーメン32の断面が円形であるとして説明したが、内側ルーメン31及び外側ルーメン32の断面は、必ずしも円形でなくてもよい。例えば、内側ルーメン31及び外側ルーメン32の断面は、楕円形、又は矩形を含む多角形等であってもよい。また、内側ルーメン31及び外側ルーメン32の断面は、周方向に沿う弧状となるように形成されていてもよい。また、外側ルーメン32の断面は、断面視において、中心軸Oを中心とした環状に形成されていてもよい。この場合、内側ルーメン31を区画する壁面と、外側ルーメン32を区画する壁面とを繋ぐ連結部が設けられていてよい。連結部は、軸方向の任意の位置、及び周方向の任意の位置に設けられていてよい。
【0045】
本発明は、上述した各実施形態で特定された構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した内容を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本開示は、医療器具に関する。
【符号の説明】
【0047】
1 医療器具
8 遠位端
10 本体部
11 側面
12 テーパ面
13 テーパ基端位置
14 結合位置
15 中間位置
20 穿刺先端部
21 側面
22 先端面
30 筒部
31 内側ルーメン
32 外側ルーメン
33 第1先端開口
34 第2先端開口
100 カテーテル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7