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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】ガスセンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20221026BHJP
   G01N 27/409 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
G01N27/12 B
G01N27/409 100
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018224287
(22)【出願日】2018-11-29
(65)【公開番号】P2020085801
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】田中 哲郎
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-030752(JP,A)
【文献】特開平10-142183(JP,A)
【文献】実開平01-171359(JP,U)
【文献】特開2010-002193(JP,A)
【文献】特開平11-190710(JP,A)
【文献】特開2014-199234(JP,A)
【文献】特開2007-085816(JP,A)
【文献】特開2019-132741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向両端部に一対の通気孔を有するケースと、
前記ケース内に収容されたガスセンサ素子と、
前記通気孔と連通する一対の開口部を有しながら前記ケースを封止する絶縁性の外装部材と、
前記開口部全体を覆うように配置されたフィルター部材と、
前記ガスセンサ素子の端部電極に接続され前記外装部材の外部に導出された一対のリード線と、
を備え、
前記ガスセンサ素子の長手方向と前記ケースの軸方向とを合わせて該ケース内に前記ガスセンサ素子を収容し、
前記フィルター部材を透過して前記ケース内に流入した所定のガスを前記ガスセンサ素子によって検知することを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
前記フィルター部材は特定のガスを透過させない透過膜であることを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記フィルター部材は透気性防水膜であることを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記ガスセンサ素子はセラミック焼結体からなる自己発熱型のセンサ素子であることを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記外装部材はウレタン系樹脂材であることを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記フィルター部材は前記開口部の周縁部に塗布したウレタン系樹脂接着剤によって接着されていることを特徴とする請求項5に記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記外装部材は少なくとも、前記ケースの端部に設けた電極部を覆うように成形されていることを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項8】
前記電極部と前記フィルター部材との間に、前記ウレタン系樹脂材からなる前記外装部材による第1層と、前記ウレタン系樹脂接着剤による第2層とが介在した構造を有することを特徴とする請求項6に記載のガスセンサ。
【請求項9】
通気孔を有するケース内にガスセンサ素子を収容したガスセンサの製造方法であって、
前記通気孔を栓部材で塞ぐ工程と、
前記通気孔が塞がれた前記ケースを絶縁性の外装部材で封止する工程と、
前記外装部材の硬化後、前記通気孔より前記栓部材を除去する工程と、
前記栓部材を除去した部位に形成された、前記通気孔と連通する開口部全体を覆うようにフィルター部材を接着する工程と、
を備えることを特徴とするガスセンサの製造方法。
【請求項10】
前記外装部材は少なくとも、前記ケースの端部に設けた電極部を覆うように成形されていることを特徴とする請求項9に記載のガスセンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば被測定雰囲気中の酸素濃度等を検知するガスセンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関等の排気ガス中の酸素濃度の検知、ボイラの燃焼管理のための酸素濃度の検知、室内の酸欠防止のための酸素濃度検知等、様々な態様での酸素濃度検知の要求がある。酸素濃度の検出方法として、ガルバニ電池式、ジルコニア固体電解質方式、磁気式、波長可変半導体レーザ分光式等が知られている。
【0003】
ガルバニ電池式の酸素センサは、例えば特許文献1に記載されているように、電解液を満たした容器内に鉛(Pb)等の卑金属からなる陽極と金(Au)等の貴金属からなる陰極を置き、これらをガス透過性の隔膜によって外部と遮断し、その隔膜を通過した酸素が電解液に溶けることによる化学反応により酸素濃度に比例して流れる電流を測定して、酸素濃度を求めている。
【0004】
ガルバニ電池式酸素センサは小型、軽量であるとともに常温で作動し、しかも安価であるため、船倉やマンホールの酸欠状態のチェック、麻酔器、人工呼吸器等の医療機器における酸素濃度の検出等、広い分野で使用されている。
【0005】
一方、上述した電解液等を用いた検出方法とは異なる方式で酸素濃度等を検出する酸素センサとして、特許文献2,3には、希土類元素を含む酸化物超伝導体を感知素子として被測定ガスが流入する管体に設け、その感知素子に流れる電流値より被測定ガス中の酸素濃度を検出する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-34819号公報
【文献】特開2007-85816号(特許第4714867号)公報
【文献】特開2018-13403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ガルバニ電池式の酸素濃度計(酸素センサ)は、上述した他の方式の酸素濃度計に比べて検出部を小型化できるので、携帯型、可搬型の酸素センサとすることが可能である。その一方で、ガルバニ電池式の酸素センサは、他の方式に比べて比較的安価ではあっても、電解液に隔膜を介して酸素を溶解させる構造から、消耗した電解液、汚れた隔膜の定期的な交換が必要となり、異常時等において有毒な電解液が環境中に漏洩する恐れがある。
【0008】
上述した酸化物超伝導体からなる酸素センサは、感知素子の両端に一定電圧を印加することでホットスポットを発生させ、周囲の酸素濃度に応じて変化する、感知素子を流れる電流値を測定することで酸素センサとして機能する。この酸素センサは、検出部のさらなる小型化が可能であり、携帯型、可搬型とすることができるが、液体(水)中で稼働させることが不可能な構造となっている。
【0009】
さらに具体的には、酸化物超伝導体からなる酸素センサは、高温となるホットスポット部の熱から周辺機器を保護するため、耐熱ガラス管の内部に感知素子を浮かせるように設置し、感知素子両端の電極から延びる導電ワイヤーによって、ガラス管両端部に設けられた金属製外部電極(キャップ端子)と物理的、電気的に接続されている。酸化物超伝導体からなる酸素センサでは、酸素の感応部であるホットスポットに測定対象となる気体を接触させるために金属電極部に通気孔が設けられている。
【0010】
このような構造を有する酸素センサは、通気孔から雨等の液体が侵入しやすく、屋外等の防水構造を必要とする環境での使用ができず、酸素センサとしての用途が制限されるという課題がある。さらには、金属製の外部電極が露出しているため、海水、コンクリート、培養液等の導電性材・導電性液体中では、酸素センサに流れる電流の外部電極間での漏電等により、正しいセンサ出力が得られないという問題がある。
【0011】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、絶縁性と防水性を備えたガスセンサおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成し、上述した課題を解決する一手段として以下の構成を備える。すなわち本発明のガスセンサは、軸方向両端部に一対の通気孔を有するケースと、前記ケース内に収容されたガスセンサ素子と、前記通気孔と連通する一対の開口部を有しながら前記ケースを封止する絶縁性の外装部材と、前記開口部全体を覆うように配置されたフィルター部材と、前記ガスセンサ素子の端部電極に接続され前記外装部材の外部に導出された一対のリード線とを備え、前記ガスセンサ素子の長手方向と前記ケースの軸方向とを合わせて該ケース内に前記ガスセンサ素子を収容し、前記フィルター部材を透過して前記ケース内に流入した所定のガスを前記ガスセンサ素子によって検知することを特徴とする。
【0013】
例えば、前記フィルター部材は特定のガスを透過させない透過膜であることを特徴とする。例えば、前記フィルター部材は透気性防水膜であることを特徴とする。例えば、前記ガスセンサ素子はセラミック焼結体からなる自己発熱型のセンサ素子であることを特徴とする。例えば、前記外装部材はウレタン系樹脂材であることを特徴とする。また、例えば、前記フィルター部材は前記開口部の周縁部に塗布したウレタン系樹脂接着剤によって接着されていることを特徴とする。例えば、前記外装部材は少なくとも、前記ケースの端部に設けた電極部を覆うように成形されていることを特徴とする。さらには、例えば、前記電極部と前記フィルター部材との間に、前記ウレタン系樹脂材からなる前記外装部材による第1層と、前記ウレタン系樹脂接着剤による第2層とが介在した構造を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、通気孔を有するケース内にガスセンサ素子を収容したガスセンサの製造方法であって、前記通気孔を栓部材で塞ぐ工程と、前記通気孔が塞がれた前記ケースを絶縁性の外装部材で封止する工程と、前記外装部材の硬化後、前記通気孔より前記栓部材を除去する工程と、前記栓部材を除去した部位に形成された、前記通気孔と連通する開口部全体を覆うようにフィルター部材を接着する工程とを備えることを特徴とする。
【0015】
例えば、前記外装部材は少なくとも、前記ケースの端部に設けた電極部を覆うように成形されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、導電性溶液中および導電性材中で動作可能な気中・液中両用のガスセンサおよびその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るガスセンサの外観斜視図である。
図2図1のガスセンサをA-A’矢視線に沿って切断したときの断面図である。
図3】ガスセンサを構成する酸素センサの外観斜視図である。
図4】酸素センサ素子の製造工程を時系列で示すフローチャートである。
図5】酸素センサ素子を用いて酸素センサを製造する工程を時系列で示すフローチャートである。
図6】実施形態に係るガスセンサの製造工程を時系列で示すフローチャートである。
図7】ガスセンサの製造工程を説明するための図である。
図8】ガスセンサの製造工程を説明するための図である。
図9】変形例1に係るガスセンサを説明するための図である。
図10】変形例3に係るガスセンサの外観斜視図である。
図11】変形例4に係るガスセンサの外観斜視図である。
図12】変形例5に係るガスセンサの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るガスセンサの外観斜視図であり、図2は、図1に示すガスセンサをA-A’矢視線に沿って切断したときの断面図である。なお、以降において、ガスセンサとして酸素センサを例に挙げて説明するが、検知対象を酸素以外の他の気体としたガスセンサであってもよい。
【0019】
図1および図2に示すように、本実施形態に係るガスセンサ10は、酸素センサ1全体がポリウレタン等の耐熱性の樹脂からなる外装材15によって覆われる(コーティングされる)とともに、酸素センサ1の両端部に配置された通気孔8a,8bを、通気性フィルターの役割と防水の役割をするフィルター部材として防水布5a,5bで覆った構造とすることで防水性等を確保している。防水布5a,5bは、例えばGORE-TEX(登録商標)等の透気性膜である。
【0020】
ここでは、外装材と接着剤を同一材で構成すると固着性が良いとの観点から、外装材15と同じ樹脂である、例えばウレタン系の樹脂接着剤6a,6bを通気孔8a,8bの外側周縁部に塗布して、通気孔8a,8bを覆うように防水布5a,5bを貼り付ける。耐水性に優れた接着剤として、例えば、塩化ビニル樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、シリコーン樹脂系接着剤等を使用できる。
【0021】
図3は、酸素センサ1の外観斜視図である。酸素センサ1は、例えば耐熱ガラスからなる円筒形のガラス管2の内部に酸素センサ素子3を収容した構造を有する。酸素センサ素子3はセラミック焼結体からなり、電源に接続して電流が流れることで、その中央部が約900℃の高温で発熱し、局所的な発熱箇所(ホットスポットとも呼ばれる。)を酸素濃度の検出部としている。
【0022】
すなわち、酸素センサ素子3はヒーターを必要としない自己発熱型のセンサであることから、通電することでホットスポットが発生する。酸素センサ素子3に流れる電流は、そのセンサ素子の雰囲気中の酸素濃度に依存する。
【0023】
ガラス管2の両端には、例えば銅(Cu)等からなる金属製の導電キャップ(口金ともいう)7a,7bが嵌着されている。また、酸素センサ素子3の両端部には、例えば銀(Ag)ペーストからなる電極3a,3bが形成され、各電極と導電キャップ7a,7bとが銀ワイヤー4a,4bによって電気的に接続されている。
【0024】
酸素センサ素子3は、ガラス管2に接触しないように、酸素センサ素子3の長手方向がガラス管2の軸方向となるように配置されている。また、導電キャップ7a,7bの端面(底面)には通気孔8a,8bが設けられており、ガラス管2内の酸素センサ素子3が、通気孔8a,8bから流入した濃度測定対象(酸素)に容易に晒される構造となっている。
【0025】
さらに導電キャップ7a,7bには、酸素センサ素子3への電源供給、酸素濃度の計測結果を電流値として検出するための電流計を接続する電源ケーブル9a,9bがはんだ付け(符号12a,12bで示す)されている。これにより酸素センサ1と電源ケーブル9a,9bとの機械的、電気的な接続が確保される。
【0026】
酸素センサ1の外形寸法(サイズ)は、例えばガラス管の直径が5mm、長さが20mm、通気孔の径が2.5mmである。また、酸素センサ素子3は、例えば長さが5mmである。このような寸法とすることで、例えばガラス管の通気孔を介して酸素センサ素子の交換が可能となる。通気孔の径は、ガラス管内への過度の風の流入を抑えるため、上記の寸法以下としてもよい。
【0027】
次に本実施形態に係るガスセンサの製造方法を説明する。最初に、ガスセンサを構成する酸素センサ素子の製造方法を説明する。図4は、酸素センサ素子の製造工程を時系列で示すフローチャートである。
【0028】
酸素センサ素子3は、希土類元素を含む酸化物超伝導体、例えばLnBa2Cu37-δからなるセラミック焼結体である。そこで、図4のステップS1において、酸素センサ素子の原料、例えばY23,La23,BaCO3,CaCO3,CuOを、電子天秤等を使用して所定の組成になるように秤量し、混合する。
【0029】
酸素センサ素子材料のLn(希土類元素)は、例えば、Sc(スカンジウム)、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Nd(ネオジム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)等であり、上記の組成式LnBa2Cu37-δにおけるδは、酸素欠陥(0~1)を表している。
【0030】
ステップS3では、ステップS1で秤量・混合した酸素センサ素子原料を、ボールミル装置で粉砕する。粉砕には、粉砕メディアをビーズとするビーズミル等の固相法、液相法でも可能である。続くステップS5で、上記のように粉砕された材料(原料粉末)を、大気中において例えば900℃、5時間、熱処理(仮焼き)する。仮焼きにより、反応性や粒径を調整する。
【0031】
次にステップS7において、仮焼きした混合物にバインダ樹脂(例えば、ポリビニルアルコール(PVA))の水溶液等を加えて造粒粉を作製し、その造粒粉にプレス圧を印加して成形する。ここでは、例えば厚さ300μmのシート状部材(プレス成形体)を作製する。なお、成形には、静水圧プレス法、ホットプレス法、ドクターブレード法、印刷法、薄膜法を使用できる。
【0032】
ステップS9ではダイシングを行う。すなわち、成形されたシート状部材を所定サイズおよび形状(例えば、0.3×0.3×7mmの線状体形状)に合わせて切削する。なお、酸素センサ素子は、サイズ径が細い程、省電力に優れることから、製品サイズは上記以外のサイズでもよい。
【0033】
ステップS11において、ダイシング後の酸素センサ素子に対して、大気中で例えば920℃、10時間、焼成する。なお、焼成温度として900~1000℃が可能であるが、組成によって最適温度が異なるため、組成により焼成温度を変えてもよい。また、焼成前に脱バインダーを行ってもよい。
【0034】
ステップS13において、酸素センサ素子の両端部に銀(Ag)をディップ塗布し、例えば150℃で10分、乾燥させて電極を形成する。ステップS15では、上記のステップS13で形成された電極に、例えばφ0.1mmの銀(Ag)ワイヤをワイヤーボンディング等の接合方法により取り付け、150℃で10分、乾燥する。なお、乾燥後、端子電極を所定温度で焼付けてもよい。
【0035】
上記の電極およびワイヤー材料は、銀(Ag)以外の材料、例えば、金(Au)、プラチナ(Pt)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)、銅(Cu)、樹脂電極等であってもよい。また、電極の形成は、印刷法、スパッタ等の着膜方法を使用してもよい。さらに、図4における最終工程として、上述した工程を経て製造された酸素センサ素子の電気的特性を、例えば四端子法により評価してもよい。
【0036】
図5は、図4に示す方法で製造した酸素センサ素子を用いて酸素センサを製造する工程を時系列で示すフローチャートである。図5のステップS21において、ガラス管2の両端部に被せた導電キャップ7a,7bの通気孔8a,8bよりガラス管内に酸素センサ素子3を挿入する(図3を参照)。
【0037】
ステップS23では、酸素センサ素子3の両端部の電極から延出する銀ワイヤー4a,4bそれぞれを、はんだ等によって導電キャップ7a,7bに接続する。そして、ステップS25で、それぞれの導電キャップ7a,7bに電源ケーブル9a,9bをはんだ等で接続する。これにより、銀ワイヤー4a,4bと電源ケーブル9a,9bとの電気的な接続が確保される。
【0038】
図6は、本実施形態に係るガスセンサの製造工程を時系列で示すフローチャートである。また、図7および図8は、ガスセンサの製造工程を説明するための図である。図6のステップS31において、後述する樹脂コーティングの際に酸素センサの通気孔が樹脂で塞がらないようにするため、図7(a)に示すように通気孔8a,8bそれぞれに栓21a,21bを嵌め込む。
【0039】
ステップS33では、図7(b)に示すように、通気孔に栓をした酸素センサ1全体を金型や樹脂型等の型25に収める。そして、ステップS35において、例えば樹脂注入器40等を使用して型25内にポリウレタン等の絶縁性樹脂27を流し込むことで、酸素センサ1および電源ケーブル9a,9bを絶縁コーティングする。
【0040】
絶縁性樹脂27が硬化した後、ステップS37において、型25から酸素センサ1を取り出し、続くステップS39において、図8(a)に示すように、絶縁コーティング前に通気孔8a,8bに嵌めていた栓21a,21bを取り除く。これらの栓を取り除くことで、ガスセンサ10には、絶縁コーティングされた酸素センサ1の通気孔8a,8bと連結する開口部29a,29bが形成される。
【0041】
ステップS41では、図8(b)に示すように、開口部29a,29bの外側周縁部に、外装材15と同系のウレタン系樹脂接着剤6a,6bを塗布する。そして、ステップS43において、所定の大きさに切り出した通気性のあるフィルター部材である防水布5a,5bを、開口部29a,29bを覆うように貼り付ける。図8(b)の点線円内は、ガスセンサ10のX部、Y部の断面構成図であり、開口部29a,29bを覆うように樹脂接着剤6a,6bによって防水布5a,5bが貼り付けられた様子を示している。
【0042】
なお、酸素センサ1と電源ケーブル9a,9bを絶縁コーティングする際、型を使用せずにディップ方式で絶縁コーティングしてもよい。型を不要とすることで、製造工程が簡易化され、かつ安価なコーティングが可能となる。また、ガスセンサ10において、酸素センサ1全体を絶縁コーティングせず、少なくとも導電キャップ7a,7bを絶縁コーティングしてガラス部分を露出させた構成としてもよい。これによっても防水性を確保できる。
【0043】
さらに、図示を省略するが、図1等のガスセンサ10において、通気孔8a,8bおよび開口部29a,29bを覆うフィルター部材としての防水布5a,5bの外側に網状部材を取り付け、測定対象のガスとともに飛来する塵埃等の侵入を、その網状部材によって防ぐ構成としてもよい。また、ガスセンサ10の一方の開口部のみを防水布で覆った構成としてもよい。
【0044】
次に、上述した構造を有する本実施形態に係るガスセンサの絶縁性等の検証結果について説明する。表1は、絶縁コーティングが施された本実施形態に係るガスセンサと、絶縁コーティングのない従来のセンサ素子との空気中と食塩水中における絶縁性等を比較した結果である。本実施形態に係るガスセンサとして、実施例1では、型によりポリウレタン樹脂をコーティングし、実施例2では、ポリウレタン樹脂をディップコーティングした。
【0045】
【表1】
【0046】
ここでは、コーティング構造による外部電極と溶液との絶縁性等を評価するため、センサ素子はOPENの状態にしている。評価の結果、従来例に係るセンサ素子のホットスポットは食塩水中で絶縁性が低下しているが、実施例1,2に係るセンサ素子のホットスポットは食塩水中においても十分な絶縁性が確保されていることが分かる。
【0047】
すなわち、絶縁コーティングを施し、開口部を通気性のある防水布で覆った本実施形態に係るガスセンサ(ホットスポット式の酸素センサ)は、食塩水溶液中でガスセンサとして稼働させてもホットスポットが消失することなく、センサ特性を維持できた。これに対して、絶縁コーティングが施されていない従来例のセンサは、センサ素子を収容したケース内部に食塩水が浸入してセンサ特性が消失した。
【0048】
以上説明したように、自己発熱型の酸素センサ素子をケース内に収容してなる酸素センサを絶縁性樹脂(外装樹脂材)で絶縁コーティングするとともに、ケース端部の通気孔と繋がる開口部を通気性のある防水布で覆う構成とすることで、絶縁性、防水性、および熱的な安全性を兼ね備えた気中・液中両用のガスセンサを得ることができる。
【0049】
すなわち、酸素センサの端部に設けた金属製の電極キャップをガスの測定環境において外部に露出させない構造としたので、水中、海水中、コンクリート、培養液等の導電性材、導電性液体中で、酸素センサに流れる電流が電極キャップを介して外部に漏電することがない。そのため、測定対象とする雰囲気として気中と液中の双方の環境において正確なセンサ出力によるガス濃度の検知が可能となる。
【0050】
また、防水布を外装樹脂材と同系材の樹脂接着剤で外装樹脂材に接着することにより、防水布と外装樹脂材とのより強固な接続性を確保することができる。
【0051】
さらには、酸素センサの通気孔と連結する開口部を覆うように貼付した防水布は、防水効果のみならず、ガラス管の内部に配置した酸素センサ素子に風が直接当たらないようにする効果を有する。その結果、酸素センサ素子の発熱部を酸素濃度の検出部とする酸素センサにおいて、風によってセンサ素子から熱が奪われて酸素検知性能が低下するのを防止し、測定対象とする雰囲気の酸素濃度を正確に測定できる。
【0052】
本発明のガスセンサは上記の実施形態に限定されず、種々の変形が可能である。以下、上記実施形態の変形例について説明する。
【0053】
<変形例1>
上記の実施形態では、酸素センサ1の両端部の通気孔8a,8bに栓21a,21bを嵌め込み、型25内に流し込んだ絶縁性樹脂27が硬化した後、栓を除去し、通気孔8a,8bと連通する開口部29a,29bを覆うように、樹脂接着剤6a,6bにより防水布5a,5bを貼り付けているが、防水布5a,5bの貼り付け方法はこれに限定されない。
【0054】
例えば、絶縁コーティング前に酸素センサ素子3をガラス管2内に配置し、酸素センサ素子3の銀ワイヤー4a,4bを導電キャップ7a,7bに接続しておくと同時に、通気孔8a,8bを覆うように防水布5a,5bを貼り付けた酸素センサ31を用意する。そして、酸素センサ31を、図9に示す型35において通気孔8a,8bと対向する位置に設けた突起部35a,35bを防水布5a,5bの外側に接触させた状態で、酸素センサ31全体を型35に収める。
【0055】
その後、型35内にポリウレタン等の絶縁性樹脂27を流し込んで、酸素センサ31および電源ケーブル9a,9bを絶縁コーティングする。こうすることで、絶縁コーティングされた酸素センサ31の通気孔8a,8bにおいて、絶縁性樹脂27の一部によって防水布5a,5bが固定され、通気孔8a,8bが覆われるので、防水性等を備えた気中・液中両用のガスセンサを得ることができる。この場合においても、酸素センサ1の一方の通気孔のみを防水布で覆った構成としてもよい。
【0056】
<変形例2>
上述したように酸素センサ素子3の収容ケース(ガラス管)に嵌着した金属製の導電キャップ7a,7bに代えて、図示を省略するが両端部に通気孔を設けた樹脂製のキャップを配置し、酸素センサ素子の端部から導出される電極ワイヤーを直接、電源ケーブルに接続した構成としてもよい。金属製の電極(キャップ)がないことから、酸素センサに流れる電流がキャップを介して外部に漏電することを阻止できる。
【0057】
<変形例3>
酸素センサ1における酸素センサ素子3の収容部(収容ケース)はガラス管に限定されず、例えば、絶縁性および耐熱性を有する筒状部材としてもよい。具体的には、図10に示すようにキャップを設けず、両端部に通気孔58a,58bを配置して、絶縁性および耐熱性を有する筒状部材50によって一体化した構成のガスセンサとする。そして、通気孔58a,58bを覆うように通気性のある防水布55a,55bを貼り付ける。
【0058】
このようにガスセンサをキャップレス構造とし、酸素センサ素子3の端部から導出される電極ワイヤー54a,54bを直接、電源ケーブル9a,9bに接続した構成により、酸素センサ素子を流れる電流が電極(キャップ)を介して外部に漏電することを阻止できる。また、酸素センサを絶縁性樹脂(外装樹脂材)で覆う必要がないため、製造コストを削減できる。
【0059】
<変形例4>
図11に示すガスセンサもキャップレス構造を有する例であるが、図10の変形例3とは異なり、絶縁性および耐熱性を有する筒状部材60の両端部に通気孔を設けない構成を有する。すなわち、酸素センサ素子3の中央部近傍であって筒状部材60の中央部に通気孔68を設け、その通気孔68を覆うように通気性のある防水布65が貼り付けられている。
【0060】
図11に示す例においても、酸素センサ素子3の端部から導出される電極ワイヤー64a,64bが直接、電源ケーブル9a,9bに接続されており、酸素センサ素子を流れる電流が電極(キャップ)を介して外部に漏電することを防止できる。また、この変形例4においても酸素センサを絶縁性樹脂(外装樹脂材)で覆う必要がないため、製造コストを削減できる。
【0061】
<変形例5>
図12は、絶縁性および耐熱性を有する筒状部材70に対して、同じく絶縁性および耐熱性を有するキャップ76a,76bを着脱自在とした構成のガスセンサを示している。筒状部材70の両端部には所定ピッチの雄ネジ81a,81bが切られている。また、キャップ76a,76bそれぞれの内壁には、雄ネジ81a,81bのピッチに合わせたピッチの雌ネジ83a,83bが切られている。
【0062】
また、キャップ76a,76bそれぞれの端面(底部)には、通気孔78a,78bが設けられ、それらの通気孔78a,78bを覆うように通気性のある防水布75a,75bが貼り付けられている。キャップ76a,76bを筒状部材70の端部に押し当てながら図12の矢印方向に回転させることで、キャップ76a,76bが筒状部材70に螺合する。このような螺合の結果、絶縁性、防水性等が付与され、筒状部材70の両端部に透気性防水膜を有する気中・液中両用のガスセンサを得ることができる。
【0063】
図12に示す酸素センサも、酸素センサ素子3の端部から導出される電極ワイヤー74a,74bが直接、電源ケーブル9a,9bに接続されており、絶縁性のキャップとしたことで、酸素センサ素子を流れる電流がキャップを介して外部に漏電することを防止できる。また、酸素センサを絶縁性樹脂(外装樹脂材)で覆う必要がないため、製造コストを削減できる。さらには、キャップ76a,76bをネジ式により着脱自在な構成としたことで、防水布75a,75bが劣化、汚染等された場合、キャップごと交換が可能となる。
【符号の説明】
【0064】
1,31 酸素センサ
2 ガラス管
3,10,11 酸素センサ素子
3a,3b 電極
4a,4b,54a,54b,64a,64b 銀ワイヤー
5a,5b,55a,55b,75a,75b 防水布
6a,6b 樹脂接着剤
7a,7b 導電キャップ(口金)
8a,8b,58a,58b,78a,78b 通気孔
9a,9b 電源ケーブル
10 ガスセンサ
15 外装材
21a,21b 栓
25,35 型
27 絶縁性樹脂
29a,29b 開口部
35a,35b 突起部
50,60 筒状部材
76a,76b キャップ
81a,81b 雄ネジ
83a,83b 雌ネジ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12