(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】メカニカルシール及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20221026BHJP
【FI】
F16J15/34 Z
(21)【出願番号】P 2018233762
(22)【出願日】2018-12-13
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084342
【氏名又は名称】三木 久巳
(74)【代理人】
【識別番号】100213883
【氏名又は名称】大上 雅史
(72)【発明者】
【氏名】奥西 泰之
(72)【発明者】
【氏名】清水 孝行
(72)【発明者】
【氏名】石島 政直
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-115160(JP,U)
【文献】国際公開第2009/066664(WO,A1)
【文献】特開昭47-002955(JP,A)
【文献】特公昭49-038777(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34-15/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールケースに設けられたケース側密封環及びシールケースを貫通する回転軸に設けられた軸側密封環であって、当該両密封環の一方であってシールケース又は回転軸に軸線方向移動可能に保持された可動密封環及び当該両密封環の他方であってシールケース又は回転軸に固定された固定密封環と、
可動密封環に作用する軸線方向推力であって当該両密封環の対向端面である密封端面間を閉じる方向に作用する閉力を発生させる閉力発生手段と、
ケース側密封環の密封端面における径方向中央部に形成された当該密封端面と同心をなす円環状の凹溝であって、当該密封端面を外周側密封端面部分と内周側密封端面部分とに分割する圧力発生溝と、ケース側密封環及びシールケースに形成されて前記圧力発生溝内に各別に連通する給圧路及び排圧路と、を具備して、給圧路から圧力発生溝内へ供給され圧力発生溝内から排圧路へ排出されるエクスターナル流体により圧力発生溝内に生じる圧力によって、可動密封環に作用する軸線方向推力であって前記両密封環の密封端面間を開く方向に作用する開力を発生させる開力発生手段と、
前記エクスターナル流体の供給量及び前記エクスターナル流体の排出量の両方又は一方を制御することにより前記圧力発生溝内に生じる圧力を調整する圧力調整手段と、
を具備して
、前記両密封環の相対回転作用によりケース側密封環の外周側密封端面部分の外周側領域及び当該ケース側密封環の内周側密封端面部分の内周側領域の一方である被密封流体領域とその他方である非密封流体領域とを区画して、被密封流体の流体をシールするように構成されてい
るメカニカルシール
を使用する方法であって、
シール条件に応じて前記エクスターナル流体の性状を選択すると共に前記圧力調整手段
により前記圧力発生溝内に生じる圧力を調整するようにすることを特徴とするメカニカル
シールの使用方法。
【請求項3】
ケース側密封環
がシールケースに固定された固定密封環であり、軸側密封環が回転軸に
軸線方向移動可能に保持された可動密封環であるメカニカルシールを使用することを特徴とする、請求項1又は2に記載するメカニカルシール
の使用方法。
【請求項4】
ケース側密封環がシールケースに軸線方向移動可能に保持された可動密封環であり、軸
側密封環が回転軸に固定された固定密封環であるメカニカルシールを使用することを特徴
とする、請求項1又は2に記載するメカニカルシールの使用方法。
【請求項5】
ケース側密封環の内外周側密封端面部分が径方向幅を0.1~0.8mmとするナイフ
エッジに構成されているメカニカルシールを使用することを特徴とする、
請求項1~4の
何れかに記載するメカニカルシールの使用方法。
【請求項7】
エクスターナル流体とし
て気体を使用し、圧力調整手段により圧力発生溝内に生じる圧力を調整して、
開力を閉力より大きくすることにより、ケース側密封環の内外周密封端面部分と軸側密封環の密封端面とが
非接触状態で相対回転
するノンコンタクトシール機能を
発揮させるようにすることを特徴とする、
請求項1~5の何れかに記載するメカニカルシールの使用方法。
【請求項8】
エクスターナル流体として液体又は気体を使用し、圧力調整手段により圧力発生溝内に生じる圧力を調整して、当該圧力を被密封流体領域
の流体圧力より
低く且つ非密封流体領
域の流体圧力より高くすると共に開力の大きさを閉力以下とすることにより、ケース側密封環の内外周密封端面部分と軸側密封環の密封端面とが接触状態で相対回転して被密封流体領域と非密封流体領域とを圧力発生溝内のエクスターナル流体領域を介して区画、シールする
タンデムシール機能を発揮させるようにすることを特徴とする、
請求項1~5の何
れかに記載するメカニカルシールの使用方法。
【請求項9】
エクスターナル流体として液体又は気体を使用し、圧力調整手段により圧力発生溝内に
生じる圧力を調整して、当該圧力を被密封流体領域及び非密封流体領域の流体圧力より高
くすると共に開力の大きさを閉力以下とすることにより、ケース側密封環の内外周密封端
面部分と軸側密封環の密封端面とが接触状態で相対回転して被密封流体領域と非密封流体
領域とを圧力発生溝内のエクスターナル流体領域を介して区画、シールするダブルシール
機能を発揮させるようにすることを特徴とする、請求項1~5の何れかに記載するメカニ
カルシールの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばビーズミルや攪拌機等の各種回転機器に装備されるメカニカルシール及びその使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のメカニカルシールは、その機能及び構造上、一般に、1個のメカニカルシールで構成されるシングルシールと2個のメカニカルシールで構成されるデュアルシールとに大別され、シングルシールとしては、両密封環が接触状態で相対回転するコンタクトシール(例えば、特許文献1)と両密封環間に被密封流体領域より高圧のシールガスを供給することによって両密封環を非接触状態で相対回転させるノンコンタクトシール(例えば、特許文献2)とが周知であり、デュアルシールとしては、2個のメカニカルシールを同じ向きに縦列させて、両メカニカルシール間に形成される中間室に被密封流体領域より低圧で且つ非密封流体領域より高圧のエクスターナル流体を供給するようにしたタンデムシール(例えば、特許文献3)と、2個のメカニカルシールを逆向きに縦列させて、両メカニカルシール間に形成される中間室に被密封流体領域及び非密封流体領域より高圧のエクスターナル流体を供給するようにしたダブルシール(例えば、特許文献4)とが周知である。
【0003】
而して、これらのメカニカルシールは、被密封流体領域の流体(被密封流体)の性状や圧力等のシール条件に適した機能、構造のものが選定され、使用される。
【0004】
【文献】特開2016-056873号公報
【文献】特開2014-219042号公報
【文献】特開2002-147618号公報
【文献】特開2018-044593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ユーザの業種や回転機器の用途によっては同一の回転機器において処理すべき運転条件や被密封流体の性状等のシール条件が変更される場合があり、かかる場合、変更されたシール条件によってはこれに適した機能、構造のメカニカルシールに交換する必要が生じる場合がある。
【0006】
このようにメカニカルシールを交換する場合、メカニカルシールの交換作業、つまり既存のメカニカルシールの取外し作業及び新たなメカニカルシールの取り付け作業に膨大な時間、労力及び費用を要することになり、甚だ不便且つ不経済であった。
【0007】
また、運転中において被密封流体の圧力や回転軸の回転速度等のシール条件が変動、変化する場合があるが、従来のメカニカルシールではかかる場合に対応できず、良好なメカニカルシール機能が発揮できなくなったり、メカニカルシールを交換する必要がないとしても、メカニカルシール構成部品の交換、修理を余儀なくされるといった問題もあった。
【0008】
本発明は、このような問題を解決すべくなされたもので、シール条件が変更、変動、変化された場合にも、メカニカルシールの交換やメカニカルシール構成部品の交換、修理を必要とすることなく、シール条件に最適するメカニカルシール機能を発揮させることができるメカニカルシール及びその使用方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の目的を達成すべく、以下のように構成されたメカニカルシール及び当該メカニカルシールの使用方法を提案する。
【0010】
すなわち、本発明のメカニカルシールは、シールケースに設けられたケース側密封環及びシールケースを貫通する回転軸に設けられた軸側密封環であって、当該両密封環の一方であってシールケース又は回転軸に軸線方向移動可能に保持された可動密封環及び当該両密封環の他方であってシールケース又は回転軸に固定された固定密封環と、
可動密封環に作用する軸線方向推力であって当該両密封環の対向端面である密封端面間を閉じる方向に作用する閉力を発生させる閉力発生手段と、
ケース側密封環の密封端面における径方向中央部に形成された当該密封端面と同心をなす円環状の凹溝であって、当該密封端面を外周側密封端面部分と内周側密封端面部分とに分割する圧力発生溝と、ケース側密封環及びシールケースに形成されて前記圧力発生溝内に各別に連通する給圧路及び排圧路と、を具備して、給圧路から圧力発生溝内へ供給され圧力発生溝内から排圧路へ排出されるエクスターナル流体により圧力発生溝内に生じる圧力によって、可動密封環に作用する軸線方向推力であって前記両密封環の密封端面間を開く方向に作用する開力を発生させる開力発生手段と、
前記エクスターナル流体の供給量及び前記エクスターナル流体の排出量の両方又は一方を制御することにより前記圧力発生溝内に生じる圧力を調整する圧力調整手段と、
を具備して、前記両密封環の相対回転作用により当該両密封環の外周側領域及びその内周側領域の一方である被密封流体領域とその他方である非密封流体領域とを区画して被密封流体領域の流体をシールするように構成されていることを特徴とするものである。
【0011】
かかるメカニカルシールの好ましい実施の形態にあっては、閉力発生手段がスプリングで構成されている。また、ケース側密封環がシールケースに固定された固定密封環であり、軸側密封環が回転軸に軸線方向移動可能に保持された可動密封環であるか、或はケース側密封環がシールケースに軸線方向移動可能に保持された可動密封環であり、軸側密封環が回転軸に固定された固定密封環である。また、ケース側密封環の内外周側密封端面部分は径方向幅の微小な尖端形状に構成しておくことが好ましい。
【0012】
また、本発明のメカニカルシールの使用方法は、上記した本発明のメカニカルシールを使用する方法であって、シール条件に応じて前記エクスターナル流体の性状を選択すると共に前記圧力調整手段により前記圧力発生溝内に生じる圧力を調整するようにすることを特徴とするものである。
【0013】
かかるメカニカルシールの使用方法の好ましい実施の形態にあっては、例えば、(1)(2)のようなシングルシールとして又は(3)(4)のようなデュアルシールとして、シール条件に最適するメカニカルシール機能を発揮させる。
【0014】
(1)エクスターナル流体として液体又は気体を使用し、圧力調整手段により圧力発生溝内に生じる圧力を調整して、開力の大きさを閉力以下とすることにより、ケース側密封環の内外周密封端面部分と軸側密封環の密封端面とが接触状態で相対回転するコンタクトシール機能を発揮させるようにする。
【0015】
(2)エクスターナル流体として気体を使用し、圧力調整手段により圧力発生溝内に生じる圧力を調整して、開力を閉力より大きくすることにより、ケース側密封環の内外周密封端面部分と軸側密封環の密封端面とが非接触状態で相対回転するノンコンタクトシール機能を発揮させるようにする。
【0016】
(3)エクスターナル流体として液体又は気体を使用し、圧力調整手段により圧力発生溝内に生じる圧力を調整して、当該圧力を被密封流体領域の流体圧力より低く且つ非密封流体領域の流体圧力より高くすると共に開力の大きさを閉力以下とすることにより、ケース側密封環の内外周密封端面部分と軸側密封環の密封端面とが接触状態で相対回転して被密封流体領域と非密封流体領域とを圧力発生溝内のエクスターナル流体領域を介して区画、シールするタンデムシール機能を発揮させるようにする。
【0017】
(4)エクスターナル流体として液体又は気体を使用し、圧力調整手段により圧力発生溝内に生じる圧力を調整して、当該圧力を被密封流体領域及び非密封流体領域の流体圧力より高くすると共に開力の大きさを閉力以下とすることにより、ケース側密封環の内外周密封端面部分と軸側密封環の密封端面とが接触状態で相対回転して被密封流体領域と非密封流体領域とを圧力発生溝内のエクスターナル流体領域を介して区画、シールするダブルシール機能を発揮させるようにする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、圧力調整手段により圧力発生溝内に生じるエクスターナル流体の圧力を調整し、必要に応じてエクスターナル流体の性状を変更することにより、シール条件が変更、変動、変化する場合にも、メカニカルシールの交換やメカニカルシール構成部品の交換、修理を必要とすることなく、シール条件に最適するメカニカルシール機能(コンタクシール機能、ノンコンタクトシール機能、タンデムシール機能又はダブルシール機能)を発揮させることができる。また、本発明のメカニカルシールは、1個のメカニカルシールで構成されるものでありながら、2個のメカニカルシールを軸線方向に縦列させてなるデュアルシールと同等のシール機能(タンデムシール機能又はダブルシール機能)を発揮させうるものであるから、デュアルシールを使用する必要があるシール条件であるにも拘わらず、十分な設置スペースを確保できないためにデュアルシールを使用できないときにも、当該シール条件に最適するメカニカルシール機能を発揮させることができるものであり、その実用的価値、極めて大なるものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係るメカニカルシールの一例を示す断面図(断面は
図3の I-I線に沿う)である。
【
図2】
図1と異なる断面を示す
図1相当の断面図(断面は
図3のII-II線に沿う)である。
【
図3】
図1のIII -III 線に沿う断面図である。
【
図5】本発明に係るメカニカルシールの変形例を示す断面図(断面は
図7のV-V線に沿う)である。
【
図6】
図5と異なる断面を示す
図5相当の断面図(断面は
図7のVI-VI線に沿う)である。
【
図7】
図5のVII - VII線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて具体的に説明する。
【0021】
図1は本発明に係るメカニカルシールの一例を示す断面図(断面は
図3のI-I線に沿う)であり、
図2は
図1と異なる断面を示す
図1相当の断面図(断面は
図3のII-II線に沿う)であり、
図3は
図1のIII -III 線に沿う断面図であり、
図4は
図1の要部を拡大して示す断面図である。
【0022】
図1及び
図2に示すメカニカルシール(以下「第1メカニカルシール」という)M1は、タービン,ブロワ,コンプレッサ,攪拌機等の回転機器に装備されるものであり、筒状のシールケース1と、シールケース1に設けられたケース側密封環2と、シールケース1を洞貫する当該回転機器の回転軸3に設けられた軸側密封環4とを具備して、両密封環2,4の対向端面である密封端面21,41の相対回転作用により、被密封流体領域Aと非密封流体領域Bとを区画して、被密封流体領域Aの流体(被密封流体)をシールするものである。この例では、被密封流体領域Aは両密封環2,4の外周側領域である当該回転機器の機内領域であり、非密封流体領域Bは両密封環2,4の内周側領域である当該回転機器の機外領域であって、大気領域である。なお、以下の説明においては、便宜上、前後とは
図1及び
図2における左右をいうものとする。
【0023】
シールケース1は、
図1及び
図2に示す如く、当該回転機器のハウジング5に取り付けられたケース体11とこれに取り付けられた密封環保持体12とからなる。ケース体11は、ハウジング5に取り付けられた円環状のフランジ部11aと、フランジ部11aの内周部から前方に延びる円筒状の本体部11bと、本体部11bの前端部から内周方向に延びる円環状の固定部11cとからなる一体構造物である。密封環保持体12は、断面方形状の円筒状のもので、ケース体11の固定部11cに当接すると共にケース体11の本体部11bの内周部に嵌合した状態で、ケース体11の前端側部分に取り付けられている。
【0024】
回転軸3は、
図1及び
図2に示す如く、シールケース1を同心状に貫通しており、軸本体31とその外周部に嵌合されたスリーブ32とからなる。スリーブ32は、その先端部(後端部)に断面L字状の保持部32a,32bを一体形成した円筒状のものである。すなわち、スリーブ32の先端部には外周方向に張り出す円環状の第1保持部32aが形成されており、第1保持部32aの外周部にはシールケース1の密封環保持体12に向けて延びる円筒状の第2保持部32bが形成されている。スリーブ32は、
図1に示す如く、シールケース1外において、基端部(前端部)に嵌合させた固定リング33を適当数のセットスクリュー34,35により軸本体31及びスリーブ32の基端部に取り付けることによって、軸本体31に固定されている。
【0025】
ケース側密封環2は、
図2に示す如く、セラミックス、超硬合金等の周知の密封環構成材(この例では、炭化珪素等の硬質材)で構成された円環状体であり、断面方形状の基端部(前端部)2aを、シールケース1の密封環保持体12の先端部(後端部)に形成した環状凹部12aに嵌合させた状態で、Oリング22,23及びドライブピン24を介して当該密封環保持体12に固定されている。すなわち、ケース側密封環2はシールケース1に固定された固定密封環である。
【0026】
ケース側密封環2の先端面(後端面)は、回転軸3の軸線(以下、単に「軸線」という)に直交する環状平滑面である密封端面21に構成されており、この密封端面21は、その径方向中央部に後述する円環状の圧力発生溝71を同心状に形成することにより、当該密封端面21と同心をなす円環状の内周側密封端面部分21aと外周側密封端面部分21bとに分離されている。すなわち、ケース側密封環2は、
図4に示す如く、前記環状凹部12aに嵌合された円筒状の基端部2aと、その先端内周縁部から内方へとテーパ状に延びる円環状の内周側突起2bと、当該基端部2aの先端外周縁部から外方へとテーパ状に延びる円環状の外周側突起2cとからなる円環状体であり、内外周側突起2b,2cの先端面を夫々内周側密封端面部分21a及び外周側密封端面部分21bに形成したものである。この例では、内外周側密封端面部分21a,21bを、何れも、径方向幅を微小(例えば、0.1~0.8mm(好ましくは0.4~0.7mm))とするナイフエッジに構成してある。
【0027】
軸側密封環4は、
図1及び
図2に示す如く、セラミックス、超硬合金等の周知の密封環構成材(この例では、炭化珪素等の硬質材)で構成された断面方形状の円環状体であり、先端面(前端面)を軸線に直交する円環状の平滑面である密封端面41に構成してある。軸側密封環4は、その密封端面41をケース側密封環2の密封端面21(内外周側密封端面部分21a,21b)に直対向させた状態で、外周部を回転軸3のスリーブ32の第2保持部32bにOリング42を介して嵌合させることにより、軸線方向に移動可能に保持されている。すなわち、軸側密封環4は、回転軸3に軸線方向に移動可能に保持された可動密封環である。軸側密封環4の密封端面41は、
図4に示す如く、その内径をケース側密封環2の密封端面21の内径つまり内周側密封端面部分21aの内径より小さく設定すると共に、その外径をケース側密封環2の密封端面21の外径つまり外周側密封端面部分21bの外径より大きく設定したもので、ケース側密封環2の密封端面21と同心をなすものである。なお、
図2に示す如く、軸側密封環4の内周部にはスリーブ32の第1保持部32aに設けたドライブピン43が係合されていて、軸側密封環4の回転軸3に対する相対回転を、その所定範囲での軸線方向移動を許容する状態で、阻止している。
【0028】
而して、上記した第1メカニカルシールM1にあっては、上記構成に加えて、次のような閉力発生手段6、開力発生手段7及び圧力調整手段8が設けられている。
【0029】
すなわち、閉力発生手段6は、可動密封環(軸側密封環)4に作用する軸線方向推力であって両密封環2,4の密封端面21,41間を閉じる方向に作用する閉力Fcを発生させるものである。この例では、閉力発生手段6が、
図2に示す如く、軸側密封環4とスリーブ32の第1保持部32aとの間に介装したスプリング61で構成されている。この例では、スプリング61はコイルスプリングであり、
図4に示す如く、コイルスプリング61の附勢力により、軸側密封環4はケース側密封環2へと押圧、附勢され、両密封端面21,41を接近させる方向への軸線方向推力である閉力Fcを発生させる。この閉力Fcはコイルスプリング61の附勢力によって決定されるものであり、一定である。なお、コイルスプリング61は、周方向に等間隔を隔てて複数個(1個のみ図示)配置されている。
【0030】
また、開力発生手段7は、
図1に示す如く、ケース側密封環2の密封端面21における径方向中央部に形成された圧力発生溝71と、ケース側密封環2及びシールケース1に形成されて圧力発生溝71内に各別に連通する給圧路72及び排圧路73とを具備する。
【0031】
圧力発生溝71は、
図4に示す如く、ケース側密封環2の密封端面21における径方向中央部に形成された当該密封端面21と同心をなす円環状凹溝であり、当該密封端面21を内周側密封端面部分21aと外周側密封端面部分21bとに分離する。すなわち、圧力発生溝71は、ケース側密封環2の基端部2aとこれから突出する内外周側突起2b,2cとで囲繞形成された断面台形状の円環状溝である。開力Foが発生していない状態では、可動密封環4の密封端面41がコイルスプリング61の附勢力(閉力Fc)によりケース側密封環2の密封端面21(内外周側密封端面部分21a,21b)に当接されて、当該密封端面41により圧力発生溝71が閉塞される。
【0032】
給圧路72は、
図1に示す如く、シールケース1の密封環保持体12の外周部に形成された凹溝をシールケース1のケース体11の本体部11bの内周面で閉塞してなる円環状のヘッダ室72aと、当該本体部11bを径方向に貫通してヘッダ室72aに連通する入口通路72bと、ケース側密封環2の基端部2aを軸線方向に貫通して圧力発生溝71に連通する複数個の圧力供給通路72cと、各圧力供給通路72cとヘッダ室72aとを連通する複数個の連通路72dとからなり、エクスターナル流体Eを入口通路72bからヘッダ室72a、各連通路72d及び各圧力供給通路72cを経て圧力発生溝71に供給する。この例では、
図3に示す如く、ケース側密封環2の基端部2aにその円周方向に等間隔を隔てて3個の圧力供給通路72cを形成してある。これらの圧力供給通路72cは同一径の円形孔とされている。
【0033】
排圧路73は、
図1に示す如く、シールケース1の密封環保持体12の外周部に形成された凹溝をシールケース1のケース体11の本体部11bの内周面で閉塞してなる円環状のヘッダ室73aと、当該本体部11bを径方向に貫通してヘッダ室73aに連通する出口通路73bと、ケース側密封環2の基端部2aを軸線方向に貫通して圧力発生溝71に連通する複数個の圧力排出通路73cと、各圧力排出通路73cとヘッダ室73aとを連通する複数個の連通路73dとからなり、エクスターナル流体Eを圧力発生溝71から各圧力排出通路73c、各連通路73d及びヘッダ室73aを経て出口通路73bへと排出する。この例では、
図3に示す如く、ケース側密封環2の基端部2aにその円周方向に等間隔を隔てて3個の圧力排出通路73を形成してあり、各圧力排出通路73cは、ケース側密封環2の基端部2aの円周方向において隣接する圧力供給通路72c,72cの中間に位置されており、圧力供給通路72cと同一径の円形孔とされている。エクスターナル流体Eとしては、第1メカニカルシールM1が必要とするメカニカルシール機能やシール条件(被密封流体の性状等)に応じて選択した水、油等の液体や窒素ガス等の気体が使用されるが、一般には、ほとんどの被密封流体に対して不活性であり且つ大気領域Bに放出しても無害な常温の水又は窒素ガスが使用される。
【0034】
而して、圧力発生溝71内には、圧力発生溝71内から排圧路73へのエクスターナル流体Eの排出量を給圧路72から圧力発生溝71内へのエクスターナル流体Eの供給量より少なくすることにより、その給排量差に応じてエクスターナル流体Eの圧力Pが作用する。すなわち、給圧路72から圧力発生溝71に供給されるエクスターナル流体Eの圧力と圧力発生溝71から排圧路73へと排出されるエクスターナル流体Eの圧力との圧力差によって、圧力発生溝71内には当該圧力Pが生じる。そして、
図4に示す如く、当該圧力Pが固定密封環2の内周側密封端面部分21aの外周縁とその外周側密封端面部分21bの内周縁との間に位置する可動密封環4の密封端面41の部分Sに作用することによって、可動密封環4に作用する軸線方向推力であって両密封端面21,41間を開く方向に作用する開力Foが発生する。
【0035】
圧力調整手段8は、給圧路72から圧力発生溝71内へのエクスターナル流体Eの供給量及び圧力発生溝71内から排圧路73へのエクスターナル流体Eの排出量の両方又は一方を制御することにより前記圧力発生溝71内に生じる圧力Pを調整するものである。
【0036】
この例では、圧力調整手段8が、
図1に示す如く、エクスターナル流体Eの供給源81から給圧路72の入口通路72bに導いた供給ライン82と、供給ライン82にその上流側から順次設けた圧力レギュレータ83a、圧力計83b及び流量計83cと、排圧路73の出口通路73bから導いた排出ライン84と、排出ライン84にその上流側から順次設けた圧力計85a、流量計85b及び流量調整弁(ニードル弁等)85cとを具備して、圧力レギュレータ83aにより調圧された一定圧、一定流量のエクスターナル流体Eを供給ライン82から給圧路72の入口通路72b、ヘッダ室72a、各連通路72d及び各圧力供給通路72cを経て圧力発生溝71に供給すると共に、圧力発生溝71に供給されたエクスターナル流体Eを排圧路73の各圧力排出通路73c、各連通路73d、ヘッダ室73a及び出口通路73bを経て排出ライン84に排出させるように構成されている。而して、圧力調整手段8によれば、流量調整弁85cにより排出ライン84へのエクスターナル流体Eの排出量を調整して、当該排出量が供給ライン82からのエクスターナル流体Eの供給量より少なくなるようにすることにより、圧力発生溝71内において当該エクスターナル流体Eの給排量差によって圧力Pを発生させる。そして、当該圧力Pにより可動密封環4には上記した開力Foが作用することになり、当該圧力Pの大きさつまり開力Foの大きさは、流量調整弁85cにより排圧路73からの排出量つまり圧力発生溝71におけるエクスターナル流体Eの給排量差を制御することにより、任意に調整することができる。圧力発生溝71内における圧力Pは、給排ライン82,84に設けた圧力計83b,85aによって検知、確認される。
【0037】
なお、シールケース1の密封環保持体12の内周部には、
図2に示す如く、円筒状のパージ通路構成体91が取り付けられていて、両体12,91の対向周面間に、密封環保持体12の前端部側から後方へと延びて、ケース側密封環2の内周側密封端面部分21aと軸側密封環4の密封端面41との接触部分に向けて開口する円環状のパージ流体路92を形成してある。そして、シールケース1には、
図2に示す如く、円環状のヘッダ室93aとヘッダ室93aに連通する供給通路93bとヘッダ室93aに連通してパージ流体路92の前端部に開口する注入通路93cとからなるパージ流体供給路93が形成されていて、適宜のパージ流体G1をパージ流体供給路93からパージ流体路92に供給するようになっている。したがって、パージ流体G1はパージ流体路92を流動して、ケース側密封環2の内周側密封端面部分21aと軸側密封環4の密封端面41との接触部分に向けて噴出される。また、シールケース1のケース体11の本体部11bには、
図2に示す如く、ケース側密封環2の内周側密封端面部分21aと軸側密封環4の密封端面41との接触部分に向けて開口するパージ流体噴出路94が形成されていて、適宜のパージ流体G2を当該接触部分に向けて噴出させるようになっている。パージ流体G1,G2としては、機外領域Bに漏洩しても支障のない気体又は液体が使用されるが、この例では常温の窒素ガスが使用されている。
【0038】
また、第1メカニカルシールM1は、
図1に示す如く、シールケース1及びこれに設けられるケース側密封環2等で構成される静止側要素とスリーブ32及びこれに設けられる軸側密封環4等で構成される回転側要素とを、ケース体11の固定部11cに取り付けた複数個のセット爪(1個のみ鎖線図示)95をスリーブ32に形成した環状溝32cに係合させることにより、メカニカルシール組み立て状態に一体連結しうるように構成されたカートリッジ型のものである。したがって、第1メカニカルシールM1は、静止側要素と回転側要素とをセット爪95により一体連結した組み立て状態で、ハウジング5及び軸本体31に脱着させることができ、当該メカニカルシールM1の回転機器への組み込み作業、取外し作業及びこれらを含むメンテナンス作業を容易に行いうる。
【0039】
また、
図5は本発明に係るメカニカルシールの変形例を示す断面図(断面は
図7のV-V線に沿う)であり、
図6は
図5と異なる断面を示す
図5相当の断面図(断面は
図7のVI-VI線に沿う)であり、
図7は
図5のVII - VII線に沿う断面図であり、
図8は
図5の要部を拡大して示す断面図である。
【0040】
図5及び
図6に示すメカニカルシール(以下「第2メカニカルシール」という)M2は、タービン,ブロワ,コンプレッサ,攪拌機等の回転機器に装備されるものであり、筒状のシールケース1と、シールケース1に設けられたケース側密封環102と、シールケース1を洞貫する当該回転機器の回転軸3に設けられた軸側密封環104と、閉力発生手段106、開力発生手段107及び圧力調整手段108とを具備して、両密封環102,104の対向端面である密封端面21,41の相対回転作用により、被密封流体領域Aと非密封流体領域Bとを区画して、被密封流体領域Aの流体(被密封流体)をシールするものであり、以下に述べる点を除いて、第1メカニカルシールM1と同一構造をなすものである。なお、第2メカニカルシールM2において、第1メカニカルシールM1と同一の構成部材については、
図5~
図8において
図1~
図4で示した符号と同一の符号を使用することにより、その詳細な説明は省略することとする。
【0041】
第2メカニカルシールM2にあって、ケース側密封環102は、
図6に示す如く、内外径を一定とする円筒状の基端部2aと、その先端内周縁部から内方へとテーパ状に延びる円環状の内周側突起2bと、当該基端部2aの先端外周縁部から外方へとテーパ状に延びる円環状の外周側突起2cとからなる円環状体であり、基端部2aをシールケース1の密封環保持体12に形成した円環状の凹溝12bに嵌合させた状態で、当該基端部2aの内外周面と凹溝12bの内外周面との間に装填したOリング25,26を介して軸線方向に移動可能に保持されている。すなわち、ケース側密封環102は、第1メカニカルシールM1のケース側密封環2と異なり、シールケース1に軸線方向に移動可能に保持された可動密封環である。なお、ケース側密封環102は、
図6に示す如く、基端部2aに形成した凹部にシールケース1の密封環保持体12に設けたドライブピン27を係合させることにより、所定範囲での軸線方向移動を許容された状態でシールケース1に対する相対回転を阻止されている。
【0042】
ケース側密封環102は、
図5に示す如く、第1メカニカルシールM1のケース側密封環2と同様に、断面台形状の圧力発生溝71、3個の圧力供給通路72c及びこれと同数の圧力排出通路73c(圧力供給通路72cと同一径の円形孔)が形成された炭化珪素等の硬質材製のものであり、且つ内外周側密封端面部分21a,21bをナイフエッジに構成したしたものであるが、圧力発生溝71の開口面積を、上記ケース側密封環2に比して、大きく設定してある。すなわち、
図8に示す如く、ケース側密封環2の内周側突起2bの先端面(内周側密封端面部分21a)の外径を、ケース側密封環2の基端部2aの内径つまり当該基端部2aの背面(前端面)2dの内径より小さく設定すると共に、ケース側密封環102の外周側突起2cの先端面(外周側密封端面部分21b)の内径を、当該基端部2aの背面2dの外径(当該基端部2aの外径)より大きく設定して、圧力発生溝71の開口面積(内側密封端面部分21aの外周縁と外周側密封端面部分21bの内周縁とで囲繞される部分の面積)S1をケース側密封環102の背面2dの面積S2より大きくなるようにしている。
【0043】
軸側密封環104は、
図6に示す如く、第1メカニカルシールM1の軸側密封環4と同様に、断面方形状の円環状体であり、先端面(前端面)を軸線に直交する円環状の平滑面である密封端面41に構成した炭化珪素等の硬質材製のものである。軸側密封環104は、その密封端面41をケース側密封環102の密封端面21(内外周側密封端面部分21a,21b)に直対向させた状態で、外周部を回転軸3のスリーブ32の第2保持部32bにOリング43を介して嵌合させると共に基端部にスリーブ32の第1保持部32aに設けたドライプピン44を係合させることにより、スリーブ32に固定されている。すなわち、軸側密封環104は、第1メカニカルシールM1の軸側密封環4と異なり、回転軸3に固定された固定密封環である。軸側密封環4の密封端面41は、
図8に示す如く、その内径をケース側密封環102の密封端面21の内径つまり内周側密封端面部分21aの内径より小さく設定すると共に、その外径をケース側密封環2の密封端面21の外径つまり外周側密封端面部分21bの外径より大きく設定したもので、ケース側密封環102の内外周密封端面部分21a,21bと同心をなすものである。
【0044】
閉力発生手段106は、可動密封環(ケース側密封環)102に作用する軸線方向推力であって両密封環102,104の密封端面21,41間を閉じる方向に作用する閉力Fcを発生させるものである。この例では、第1メカニカルシールM1と同様に、閉力発生手段106が、
図6に示す如く、ケース側密封環102とシールケース1の密封環保持体12との介装した複数個(1個のみ図示)のコイルスプリング61で構成されていて、このコイルスプリング61の附勢力によりケース側密封環102は軸密封環104へと押圧、附勢され、両密封端面21,41を接近させる方向への軸線方向推力である一定の閉力Fcを発生させる。
【0045】
開力発生手段107は、
図8に示す如く、ケース側密封環102の密封端面21における径方向中央部に形成された圧力発生溝71と、ケース側密封環102及びシールケース1に形成されて圧力発生溝71内に各別に連通する給圧路72及び排圧路73とを具備して、給圧路72から圧力発生溝71内へのエクスターナル流体Eの供給量と圧力発生溝71内から排圧路73へのエクスターナル流体Eの排出量との給排量差により圧力発生溝71内に生じるエクスターナル流体Eの圧力Pによって、可動密封環102に軸線方向推力であって両密封端面21,41間を開く方向に作用する開力Foを発生させるものである。
【0046】
なお、エクスターナル流体Eとしては、第1メカニカルシールM1と同様に、第2メカニカルシールM2が必要とするメカニカルシール機能やシール条件(被密封流体の性状等)に応じて選択した水、油等の液体や窒素ガス等の気体が使用され、一般には、ほとんどの被密封流体に対して不活性であり且つ大気領域Bに放出しても無害な常温の水又は窒素ガスが使用される。
【0047】
給圧路72及び排圧路73は、第1メカニカルシールM1の開力発生手段7と同様に、シールケース1と密封環保持体12との間に形成されたヘッダ室72a,73aと、シールケース1の本体部11bに形成されてヘッダ室72a,73aに連通する出入口通路72b,73bと、ケース側密封環2に形成されて圧力発生溝71に連通する圧力給排通路72c,73cと、圧力給排通路72c,73cとヘッダ室72a,73aとを連通する連通路72d,73dとを具備するものであるが、上記開力発生手段7と異なって、圧力給排通路72c,73cと連通路72d,73dとが、
図8に示す如く、密封環保持体12に形成された凹溝12b内の空間であってケース側密封環102の背面2dで閉塞された背圧室12eを介して連通されている。すなわち、エクスターナル流体Eは、入口通路72bからヘッダ室72a、連通路72d、背圧室12e及び圧力供給通路72cを経て圧力発生溝71に供給され、圧力発生溝71から圧力排出通路73c、背圧室12e、連通路73d及びヘッダ室73aを経て出口通路73bに排出される。
【0048】
したがって、圧力発生溝71内にはエクスターナル流体Eの給排量の差つまり給排圧の差によって圧力Pが生じ、この圧力Pによって可動密封環102にはこれを固定密封環104から離間させる方向の軸線方向推力が作用する。同時に、背圧室12e内には当該圧力Pと同圧の背圧pが生じ、この背圧pによって可動密封環102の背面2dには可動密封環102を固定密封環104に接近させる方向の軸方向推力が作用する。その結果、可動密封環102における上記圧力Pの受圧面積S1が上記背圧pの受圧面積S2より大きいことから、上記圧力Pによる軸方向推力は上記背圧pによる軸方向推力より大きく、当該両軸方向推力の差により可動密封環102には開力Foが作用することになる。
【0049】
圧力調整手段108は、
図5に示す如く、第1メカニカルシールM1の圧力調整手段8と同様に、エクスターナル流体Eの供給源81から給圧路72の入口通路72bに導いた供給ライン82と、供給ライン82にその上流側から順次設けた圧力レギュレータ83a、圧力計83b及び流量計83cと、排圧路73の出口通路73bから導いた排出ライン84と、排出ライン84にその上流側から順次設けた圧力計85a、流量計85b及び流量調整弁(ニードル弁等)85cとを具備して、圧力レギュレータ83aにより調圧された一定圧、一定流量のエクスターナル流体Eを供給ライン82から給圧路72の入口通路72b、ヘッダ室72a、各連通路72d、背圧室12e及び各圧力供給通路72cを経て圧力発生溝71に供給すると共に、圧力発生溝71に供給されたエクスターナル流体Eを排圧路73の各圧力排出通路73c、背圧室12e、各連通路73d、ヘッダ室73a及び出口通路73bを経て排出ライン84に排出させるように構成されており、流量調整弁85cにより排出ライン84へのエクスターナル流体Eの排出量を当該排出量が供給ライン82からのエクスターナル流体Eの供給量より少なくなるように調整することによって、圧力発生溝71内において当該エクスターナル流体Eの給排量差によって圧力P(及び背圧p)を発生させるように構成されている。そして、流量調整弁85cにより排圧路73からの排出量を制御することにより、当該圧力Pつまり開力Foを任意に調整することができるようになっている。
【0050】
以上のように構成された第1及び第2メカニカルシールM1,M2は、本発明のメカニカルシールの使用方法によりシール条件に応じたメカニカルシール機能を発揮することができる。
【0051】
すなわち、第1又は第2メカニカルシールM1,M2を使用して、シール条件(被密封流体の性状、圧力条件等)に応じてエクスターナル流体Eの性状を選択すると共に圧力調整手段8,108により圧力発生溝71内に生じる圧力Pを調整することによって、例えば、(1)(2)のようなシングルシールとして又は(3)(4)のようなデュアルシールとして当該シール条件に最適するメカニカルシール機能を発揮させることができる。
【0052】
(1)コンタクトシール
エクスターナル流体Eとして、好ましくは、機外領域Bに漏洩しても支障のない液体又は気体(例えば、常温の水又は窒素ガス等)を使用し、圧力調整手段8,108により圧力発生溝71内に生じる圧力Pを調整して、開力Foを閉力Fc以下とすることにより、ケース側密封環2,102の密封端面21つまり内外周密封端面部分21a,21bと軸側密封環4,104の密封端面41とが接触状態で相対回転するコンタクトシール機能を発揮させることができる。
【0053】
なお、圧力Pを被密封流体領域Aの流体圧力より低く且つ非密封流体領域Bの流体圧力より高くする場合は、後述する「(3)タンデムシール」の機能が発揮され、圧力Pを被密封流体領域A及び非密封流体領域Bの流体圧力より高くする場合は、後述する「(4)ダブルシール」の機能が発揮される。また、圧力Pを被密封流体領域A及び非密封流体領域Bの何れかの領域の流体圧力と同一とする場合は、シングルシールの状態にあると捉えることができる。
【0054】
かかるコンタクトシールM1,M2によれば、周知のコンタクトシール(例えば特許文献1に開示されるコンタクトシールであり、以下「従来コンタクトシール」という)と同様に、被密封流体はケース側密封環2,102の外周側密封端面部分21bと軸側密封環4,104の密封端面41との相対回転摺接作用によりシールされるが、ケース側密封環2,102の内外周側密封端面部分21a,21bと軸側密封環4,104との接触部分の潤滑及び冷却が圧力発生溝71内を圧力供給通路72cから圧力排出通路73cへと流動するエクスターナル流体Eにより、従来コンタクトシールに比してより効果的に行われる。また、上記した如く、ケース側密封環2,102及び軸側密封環4,104を炭化珪素等の硬質材で構成し、内外周側密封端面21a,21bをナイフエッジとしているため、両密封端面21,41の接触面圧が高くなり、摩擦による発生熱量も少なくなる。したがって、被密封流体が微粒の固形成分や凝固成分を含むスラリー流体である場合にも、当該固形成分や凝固成分の密封端面2,41間への侵入を可及的に防止し、上記した如くエクスターナル流体Eにより潤滑、冷却が効果的に行われることとも相俟って、密封端面21,41の熱歪やその接触部分における焼き付きや摩耗粉の発生を可及的に防止して良好なメカニカルシールを発揮させることができる。さらに、圧力調整手段8,108により開力Foを調整することによって、両密封端面21,41の接触面圧を任意に調整することができるから、シール条件の変更、変動、変化に応じた最適の接触面圧を確保することができる。例えば、回転軸3が低速回転するような場合には、開力Foを閉力Fcと同等若しくは略同等となるように調整して、両密封端面21,41を微接触状態とすることにより焼き付きや摩耗粉の発生を可及的に防止することができる。
【0055】
また、上記した如く、パージ流体G1がパージ流体路92を流動してケース側密封環2,102の内周側密封端面部分21aと軸側密封環4,104の密封端面41との接触部分に向けて噴出するようにしておくことにより、当該接触部分並びにシールケース1の密封環保持体12及びこれに設けたケース側密封環2,102を効果的に冷却することができる。さらに、パージ流体G2がパージ流体噴出路94から上記接触部分に向けて噴出するようにしておくことによって、当該接触部分の冷却が更に効果的に行われると共に、当該接触部分で発生する摩耗粉等の粉塵を効果的に排除する(吹き飛ばす)ことができ、より良好なメカニカルシール機能が発揮される。
【0056】
(2)ノンコンタクトシール
エクスターナル流体Eとして気体を使用し、圧力調整手段8,108により圧力発生溝71内に生じる圧力Pを調整して、開力Foを閉力Fcより大きくする(この場合、通常、当該圧力Pは、被密封流体領域A及び非密封流体領域Bの流体圧力より高くなる)ことにより、ケース側密封環2,102の密封端面21つまり内外周密封端面部分21a,21bと軸側密封環4,104の密封端面41とが非接触状態で相対回転するノンコンタクトシール機能を発揮させるようにすることができる。エクスターナル流体Eとしては、周知の静圧形のノンコンタクトシール(例えば特許文献2に開示されるノンコンタクトシールであり、以下「従来ノンコンタクトシール」という)と同様に、被密封流体の性状に影響を与えず且つ機外領域Bに漏洩しても支承のない窒素ガス等が使用される。
【0057】
かかるノンコンタクトシールM1,M2によれば、従来ノンコンタクトシールと同様のメカニカルシール機能を発揮させることができ、被密封流体が漏れを許容しないものである場合にもこれを良好にシールすることができる。
【0058】
(3)タンデムシール
周知のタンデムシール(例えば特許文献3に開示されるタンデムシールであり、以下「従来タンデムシール」という)を使用することが最適であるシール条件においては、エクスターナル流体Eとして液体又は気体(例えば、常温の水又は窒素ガス)を使用し、圧力調整手段8,108により圧力発生溝71内に生じる圧力Pを調整して、当該圧力Pを被密封流体領域Aの流体圧力より低く且つ非密封流体領域Bの流体圧力より高くすると共に開力Foの大きさを閉力Fc以下とすることにより、ケース側密封環2,102の内外周密封端面部分21a,21bと軸側密封環4,104の密封端面41とが接触状態で相対回転して被密封流体領域Aと非密封流体領域Bとを圧力発生溝71内のエクスターナル流体領域Cを介して区画、シールするタンデムシール機能を発揮させるようにすることができる。
【0059】
すなわち、ケース側密封環2,102の外周側密封端面部分21bと軸側密封環4,104の密封端面41との相対回転摺接作用により被密封流体領域Aとエクスターナル流体領域Cとが区画されて、被密封流体をシールする。このシール作用は、従来タンデムシールにおける一次シール(機内領域側メカニカルシール)によるシール作用に相当するものであり、これと同一である。なお、ケース側密封環2,102の外周側密封端面部分21bと軸側密封環4,104の密封端面41との接触部分における潤滑は主として液体である被密封流体によって行われる。
【0060】
また、ケース側密封環2,102の内周側密封端面部分21aと軸側密封環4,104の密封端面41との相対回転摺接作用によりエクスターナル流体Cと大気領域Bとが区画、シールされる。このシール作用は、従来タンデムシールにおける二次シール(大気領域側メカニカルシール)によるシール作用に相当するものであり、これと同一である。
【0061】
タンデムシールM1,M2にあっても、上記したコンタクトシールM1,M2と同様に、ケース側密封環2,102の内外周側密封端面部分21a,21bと軸側密封環4,104の密封端面41との接触部分における冷却は、圧力発生溝71内を流動するエクスターナル流体Eにより効果的に行われる。また、ケース側密封環2,102の内外周側密封端面部分21a,21bによるナイフエッジ効果及びパージガスG1,G2による冷却効果等も、上記したコンタクトシールM1,M2と同様に発揮される。
【0062】
ところで、従来タンデムシールは2個のメカニカルシールを軸線方向に縦列させたものであるから、1個のメカニカルシールで構成されるシングルシールに比して、軸線方向長さが長く(シングルシールの約2倍)、大きな設置スペースを必要とする。したがって、シール条件を考慮すればタンデムシールを設置することが最適な場合にも、設置スペースが小さいためタンデムシールを設置できず、十分なメカニカルシール機能を発揮できないといった問題が生じていた。
【0063】
しかし、このような場合にも、タンデムシールM1,M2は1個のメカニカルシールで構成されるものであり、シングルシールと同一の小さな設置スペースに設置することができるものであるから、上記した問題を生じることなく、シール条件に応じたタンデムシール機能を発揮させることができる。
【0064】
(4)ダブルシール
周知のダブルシール(例えば特許文献4に開示されるダブルシールであり、以下「従来ダブルシール」という)を使用することが最適であるシール条件においては、エクスターナル流体Eとして液体又は気体(例えば、常温の水又は窒素ガス)を使用し、圧力調整手段8,108により圧力発生溝71内に生じる圧力Pを調整して、当該圧力Pを被密封流体領域A及び非密封流体領域Bの流体圧力より高くすると共に開力Foの大きさを閉力Fc以下とすることにより、ケース側密封環2,102の内外周密封端面部分21a,21bと軸側密封環4,104の密封端面41とが接触状態で相対回転して被密封流体領域Aと非密封流体領域Bとを圧力発生溝71内のエクスターナル流体領域Cを介して区画、シールするダブルシール機能を発揮させるようにすることができる。
【0065】
すなわち、ケース側密封環2,102の外周側密封端面部分21bと軸側密封環4,104の密封端面41との相対回転摺接作用により被密封流体領域Aとエクスターナル流体領域Cとが区画されて、被密封流体をシールする。このシール作用は、従来ダブルシールにおける一次シール(機内領域側メカニカルシール)によるシール作用に相当するものであり、これと同一である。
【0066】
また、ケース側密封環2,102の内周側密封端面部分21aと軸側密封環4,104の密封端面41との相対回転摺接作用によりエクスターナル流体Cと大気領域Bとが区画、シールされる。このシール作用は、従来ダブルシールにおける二次シール(大気領域側メカニカルシール)によるシール作用に相当するものであり、これと同一である。
【0067】
ダブルシールM1,M2にあっても、上記したコンタクトシールM1,M2と同様に、ケース側密封環2,102の内外周側密封端面部分21a,21bと軸側密封環4,104の密封端面41との接触部分における冷却及び潤滑は、圧力発生溝71内を流動するエクスターナル流体Eにより効果的に行われる。また、ケース側密封環2,102の内外周側密封端面部分21a,21bによるナイフエッジ効果及びパージガスG1,G2による冷却効果等も、上記したコンタクトシールM1,M2と同様に発揮される。
【0068】
ところで、従来ダブルシールも、従来タンデムシールと同様に、大きな設置スペースを必要とし、ダブルシールを設置することが最適するシール条件においても、ダブルシールを設置できず、十分なメカニカルシール機能を発揮できないといった問題を有する。
【0069】
しかし、このような場合にも、ダブルシールM1,M2は1個のメカニカルシールで構成されるものであり、シングルシールと同一のスペースに設置することができるものであるから、上記した問題を生じることなく、シール条件に応じたダブルシール機能を発揮させることができる。
【0070】
以上のように、本発明のメカニカルシールM1,M2を使用すれば、圧力調整手段8,108により圧力発生溝71内に生じるエクスターナル流体Eの圧力Pを制御して開力Foを調整し、必要に応じてエクスターナル流体Eの性状を変更することにより、シール条件が変更され或いは変動、変化する場合にも、メカニカルシールの交換やメカニカルシール構成部品の交換、修理を必要することなく、当該シール条件に最適するメカニカルシール機能(コンタクシール機能、ノンコンタクトシール機能、タンデムシール機能又はダブルシール機能)を発揮させることができ、しかもデュアルシールを設置できないようなスペースにも設置してディアルシール機能(タンデムシール機能又はダブルシール機能)を発揮させることができる。
【0071】
なお、本発明は上記した各実施の形態に限定されず、本発明の基本原理を逸脱しない範囲において適宜に改良、変更することができる。
【0072】
例えば、上記した各実施の形態では、閉力発生手段6,106をスプリング(コイルスプリング)61で構成したが、スプリング61に代えて可動密封端面4,102の背面をOリング等の弾性部材により押圧保持させるように構成することも可能である。また、第1メカニカルシールM1にあっては、特開20014-173700号公報に開示される如く、被密封流体の圧力を可動密封環4の背面に背圧として作用させることにより、閉力Fcを発生させるように構成することも可能である。
【0073】
また、上記した各実施の形態では、開力発生手段7,107を構成する圧力発生溝71を断面台形状の円環状溝としたが、当該圧力発生溝71の断面形状は任意であり、方形状等とすることも可能である。また、内外周側密封端面21a,21bの一方又は両方を、径方向幅の微小なナイフエッジとせず、ある程度の径方向幅を有する円環状平面としておくことが可能である。また、圧力供給通路72c及び圧力排出通路73cは同数,同一形状としておかず、各通路72c,73cの個数、形状は任意に変更することができる。
【0074】
また、上記した各実施の形態では、圧力調整手段8,108を圧力発生溝71への供給量を一定として、圧力発生溝71からの排出量(排出圧力)のみを流量調整弁85cで制御することにより、圧力発生溝71内の圧力Pを調整するように構成したが、エクスターナル流体Eの供給源81によっては、前記排出量を一定として、前記供給量のみを制御するように構成しておくこと、或いは前記供給量及び排出量を共に制御するように構成しておくこともできる。さらに、給圧路72への供給圧力及び排圧路73からの排出圧力の一方又は両方を圧力計83b,85aで検出して、その検出圧力に基づいて給圧路72への供給量及び排圧路73からの排出量の一方又は両方を自動制御するように構成しておくことも可能である。かかる自動制御は、特に、閉力発生手段6,106によって発生する閉力Fcの大きさが変動する場合(例えば上記した如く被密封流体を可動密封環4,102に背圧として作用させることによって閉力Fcを発生させる場合において、被密封流体の圧力が変動する場合)に好適する。
【0075】
また、上記した各実施の形態では、両密封環2,4又は102,104の外周側領域を被密封流体領域Aとし、その内周側領域を非密封流体領域Bとしたが、本発明は両領域A,Bが上記と逆になる場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 シールケース
2 ケース側密封環(固定密封環)
3 回転軸
4 軸側密封環(可動密封環)
6 閉力発生手段
7 開力発生手段
8 圧力調整手段
21 ケース側密封環の密封端面
21a 内周側密封端面部分
21b 外周側密封端面部分
41 軸側密封環の密封端面
61 スプリング(コイルスプリング)
71 圧力発生溝
72 給圧路
73 背圧路
102 ケース側密封環(可動密封環)
104 軸側密封環(固定密封環)
106 閉力発生手段
107 開力発生手段
108 圧力調整手段
A 被密封流体領域(機内領域)
B 非密封流体領域(機外大気領域)
C エクスターナル流体領域
E エクスターナル流体
Fc 閉力
Fo 開力
P 圧力発生溝内の圧力