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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】電動ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/74 20060101AFI20221026BHJP
   F16D 66/02 20060101ALI20221026BHJP
   F16D 65/18 20060101ALI20221026BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20221026BHJP
   F16D 121/24 20120101ALN20221026BHJP
   F16D 125/40 20120101ALN20221026BHJP
   F16D 125/48 20120101ALN20221026BHJP
【FI】
B60T13/74 G
F16D66/02 B
F16D65/18
F16F15/02 A
F16D121:24
F16D125:40
F16D125:48
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018234061
(22)【出願日】2018-12-14
(65)【公開番号】P2020093721
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】増田 唯
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-182865(JP,A)
【文献】特開2001-228908(JP,A)
【文献】特開2017-174180(JP,A)
【文献】特開2013-133000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/00-13/74
F16D 49/00-71/04
F16D 121/24
F16D 125/40
F16D 125/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキロータと、このブレーキロータと接触して制動力を発生する摩擦材と、電動モータと、この電動モータの出力を前記摩擦材の押圧力に変換する摩擦材操作手段と、前記電動モータを制御する制御装置と、を備えた電動ブレーキ装置において、
前記制御装置は、
前記摩擦材および前記摩擦材操作手段を含む部材の剛性と前記摩擦材操作手段の慣性とで現されるばね振動系のゲインおよび周波数からなる振動特性における、ピークゲインを形成するピーク周波数にて、前記振動特性のゲインを定められたゲイン以下に減衰させる振動減衰処理部を有し、
前記制御装置は、前記剛性に関係する物理量の入力に応じて前記振動特性を推定する振動特性推定部を有し、前記振動減衰処理部は、前記振動特性推定部で推定された前記振動特性における、ピークゲインを形成するピーク周波数にて、前記振動特性のゲインを定められたゲイン以下に減衰させ、
前記制御装置は、
前記摩擦材操作手段による前記摩擦材と前記ブレーキロータとの接触力に相当するブレーキ力を推定するブレーキ力推定手段と、
このブレーキ力推定手段で推定される推定ブレーキ力に基づいて、この推定ブレーキ力におけるこの電動ブレーキ装置の前記剛性を推定するブレーキ剛性推定機能部と、を有し、
前記振動特性推定部は、前記ブレーキ剛性推定機能部で推定される推定剛性を用いて前記振動特性を推定する電動ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動ブレーキ装置において、前記制御装置は、
前記摩擦材操作手段の位置を推定する位置推定機能部と、
この位置推定機能部で推定される推定位置と前記推定ブレーキ力との相関を、前記摩擦材が非摩耗時における前記推定位置と推定ブレーキ力との定められた相関と比較して、現時点の前記摩擦材の摩耗度合を推定する摩耗度合推定機能部と、を有し、
前記ブレーキ剛性推定機能部は、前記摩耗度合推定機能部で推定される推定摩耗度合に基づいて、前記推定ブレーキ力と前記推定剛性との相関パラメータを調整する機能を有する電動ブレーキ装置。
【請求項3】
ブレーキロータと、このブレーキロータと接触して制動力を発生する摩擦材と、電動モータと、この電動モータの出力を前記摩擦材の押圧力に変換する摩擦材操作手段と、前記電動モータを制御する制御装置と、を備えた電動ブレーキ装置において、
前記制御装置は、
前記摩擦材および前記摩擦材操作手段を含む部材の剛性と前記摩擦材操作手段の慣性とで現されるばね振動系のゲインおよび周波数からなる振動特性における、ピークゲインを形成するピーク周波数にて、前記振動特性のゲインを定められたゲイン以下に減衰させる振動減衰処理部を有し、
前記制御装置は、
前記電動モータの角速度を推定する角速度推定機能部と、
前記電動モータのトルクリプルの振幅および角度周期に相当する値を推定するトルクリプル推定機能部と、
前記角速度推定機能部で推定される推定角速度および前記トルクリプルの角度周期より推定するトルクリプル周波数が前記振動特性におけるピーク周波数の所定範囲内であり、かつ前記トルクリプル推定機能部で推定される推定トルクリプル振幅が閾値を上回るとき、前記電動モータのトルクが小さくなるよう制限するモータトルク制限機能部と、を有する電動ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の電動ブレーキ装置において、前記制御装置は、与えられるブレーキ力指令値に対し前記推定ブレーキ力を追従させるよう前記電動モータを追従制御する機能を有し、
前記制御装置は、このブレーキ力の追従制御において、前記推定ブレーキ力を前記ブレ
ーキ力指令値に到達させるための操作量として、モータトルク、モータ電流およびモータ電圧の少なくともいずれか一つを制御演算する機能を有し、
前記振動減衰処理部は、前記制御演算されたモータトルク、モータ電流およびモータ電圧の少なくともいずれか一つに対して、前記振動特性におけるピーク周波数のゲインを定められたゲイン以下に減衰させるフィルタを有する電動ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の電動ブレーキ装置において、前記制御装置は、与えられるブレーキ力指令値に対し前記推定ブレーキ力を追従させるよう前記電動モータを追従制御する機能を有し、
前記制御装置は、このブレーキ力の追従制御において、前記推定ブレーキ力を前記ブレーキ力指令値に到達させるための操作量として、モータトルク、モータ電流およびモータ電圧の少なくともいずれか一つを制御演算する機能を有し、
前記振動減衰処理部は、前記制御演算において用いられる制御ゲインを含むパラメータについて、前記振動特性におけるピーク周波数のゲインを定められたゲイン以下に減衰させる値に設定するブレーキ制御コントローラを有する電動ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、この発明は、例えば、車両等に搭載される電動ブレーキ装置に関し、電動ブレーキ装置の各構成要素の慣性および剛性等に起因する振動を抑制し得る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電動ブレーキ装置として、以下の技術が提案されている。
1.電動モータ、直動機構および減速機を使用した電動ブレーキ用アクチュエータ(特許文献1)。
2.遊星ローラ機構および電動モータを使用した電動アクチュエータ(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-327190号公報
【文献】特開2006-194356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、特許文献1、2のような、電動式直動アクチュエータを用いた電動ブレーキ装置において、電動ブレーキアクチュエータ等の慣性を含む振動系が形成され、前記振動系の影響でアクチュエータ制御系に問題が生じる場合がある。
【0005】
例えば、ピストンがインボード側に配置されたディスクブレーキ装置の場合、ピストンに相当する直動アクチュエータの突出動作により摩擦材がブレーキロータに押圧され、反力を受けてディスクがインボード側にスライドし、キャリパの剛性を介してアウトボード側の摩擦材が押圧される動作となる。
その際、定常的には直動アクチュエータの推力が一定であれば、インボード側の摩擦材およびアウトボード側の摩擦材に均一に力が発生しキャリパは静止するが、過渡的にはキャリパ、摩擦材等の剛性およびキャリパおよびアクチュエータの質量等を介したばね結合系となり、所定の共振周波数によって振動が発生する場合がある。
【0006】
例えば、ピストンがインボード側およびアウトボード側に配置された対向ピストン型のディスクブレーキ装置の場合、ピストンに相当するインボード側およびアウトボード側の各直動アクチュエータが完全に同期した対称な動作となれば、前記の問題は解消される。しかしながら、実際には摩擦材の摩耗の不均一または温度の不均一等により、インボード側およびアウトボード側の摩擦材の押圧力は完全に同期せず、前記と同様の過渡的な振動が問題となる場合がある。
【0007】
例えば、ドラムの内側の対向するライニングを互いに突出させるドラムブレーキ装置の場合、対向するライニングとブレーキドラムとの接触状態を過渡的に完全に同期させることは前述の対向ピストン型のディスクブレーキ装置と同様に困難であり、アクチュエータ慣性、アクチュエータおよび摩擦材等の剛性を介したばね結合系となり、所定の共振周波数によって振動が発生する場合がある。
【0008】
また、特に電動ブレーキ装置の場合、ブレーキ荷重によって前記剛性が非線形特性を示し、前記共振周波数が変動することで、意図しない振動が発生することが問題となる場合がある。さらに、主にパッドまたはライニング等の摩擦に伴い、前記剛性が変化するため、共振周波数が変化し問題が発生する場合がある。
【0009】
この発明の目的は、電動ブレーキ装置の各構成要素の慣性および剛性等に起因する振動を抑制し、高精度なブレーキ制御を可能とする電動ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の電動ブレーキ装置1は、ブレーキロータ8と、このブレーキロータ8と接触して制動力を発生する摩擦材9と、電動モータ4と、この電動モータ4の出力を前記摩擦材9の押圧力に変換する摩擦材操作手段6と、前記電動モータ4を制御する制御装置2と、を備えた電動ブレーキ装置において、
前記制御装置2は、
前記摩擦材9および前記摩擦材操作手段6を含む部材の剛性と前記摩擦材操作手段6の慣性とで現されるばね振動系のゲインおよび周波数からなる振動特性における、ピークゲインを形成するピーク周波数にて、前記振動特性のゲインを定められたゲイン以下に減衰させる振動減衰処理部24を有する。
前記定められたゲインは、設計等によって任意に定めるゲインであって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切なゲインを求めて定められる。
【0011】
この構成によると、この電動ブレーキ装置のばね振動系のゲインおよび周波数からなる振動特性は、少なくとも摩擦材操作手段6等の剛性と慣性とを含む数式で現される(換言すれば定まる)。振動減衰処理部24は、前記振動特性のうち、ピークゲインを形成するピーク周波数にて、前記振動特性のゲインを定められたゲイン以下に減衰させる。ピークゲインを形成するピーク周波数を捉えて振動特性のゲインを減衰させれば、振動を収束させてより効率よく振動を抑制することができる。したがって、前記慣性および前記剛性等に起因する振動を抑制し、高精度なブレーキ制御が可能となる。
【0012】
前記制御装置2は、前記剛性に関係する物理量の入力に応じて前記振動特性を推定する振動特性推定部23を有し、前記振動減衰処理部24は、前記振動特性推定部23で推定された前記振動特性における、ピークゲインを形成するピーク周波数にて、前記振動特性のゲインを定められたゲイン以下に減衰させるものであってもよい。前記剛性に関係する物理量とは、例えば、ブレーキ荷重、摩擦材の摩耗量等である。
【0013】
前記振動特性が既に判っており且つ不変である場合、前記振動特性を推定する必要はない。しかし、電動ブレーキ装置の剛性は、ブレーキ荷重、摩擦材の摩耗量等に応じて変化し得る。この構成によると、振動特性推定部23は、剛性に関係する物理量の入力に応じて前記振動特性を推定する。これにより、ブレーキ荷重、摩擦材の摩耗量等により時々刻々と変化する剛性を精度良く推定することができる。したがって、慣性および剛性に起因する振動を抑制し、より高精度なブレーキ制御が可能となる。
【0014】
前記制御装置2は、
前記摩擦材操作手段6による前記摩擦材9と前記ブレーキロータ8との接触力に相当するブレーキ力を推定するブレーキ力推定手段19と、
このブレーキ力推定手段19で推定される推定ブレーキ力に基づいて、この推定ブレーキ力におけるこの電動ブレーキ装置1の前記剛性を推定するブレーキ剛性推定機能部25と、を有し、
前記振動特性推定部23は、前記ブレーキ剛性推定機能部25で推定される推定剛性を用いて前記振動特性を推定してもよい。
【0015】
一般にブレーキ装置の剛性(主に摩擦材の剛性)は作用する荷重によって強い非線形特性となり、それに伴って振動特性も変化する。このため、この構成では、ブレーキ剛性推定機能部25が推定ブレーキ力に基づいて剛性を推定し、振動特性推定部23が現在のブレーキ力における推定剛性の値を用いて振動特性を推定することで、より正確な制御が可能となる。
【0016】
前記制御装置2は、
前記摩擦材操作手段6の位置を推定する位置推定機能部20と、
この位置推定機能部20で推定される推定位置と前記推定ブレーキ力との相関を、前記摩擦材9が非摩耗時における前記推定位置と推定ブレーキ力との定められた相関と比較して、現時点の前記摩擦材9の摩耗度合を推定する摩耗度合推定機能部26と、を有し、
前記ブレーキ剛性推定機能部25は、前記摩耗度合推定機能部26で推定される推定摩耗度合に基づいて、前記推定ブレーキ力と前記推定剛性との相関パラメータを調整する機能を有するものであってもよい。
前記摩耗度合は、例えば、前記摩擦材9が非摩耗時のときを基準(摩耗量=0)とした現時点の摩擦材9の摩耗量である。
【0017】
ブレーキ動作によって主に摩擦材9に摩耗が発生し、この摩擦に伴って剛性が大きく変化する。このため、摩擦材9の摩耗度合を推定して初期(非摩耗時)の推定ブレーキ力と推定剛性との相関パラメータを調整する。これにより正確な剛性の推定が可能となる。
【0018】
前記制御装置2は、
前記電動モータ4の角速度を推定する角速度推定機能部31と、
前記電動モータ4のトルクリプルの振幅および角度周期に相当する値を推定するトルクリプル推定機能部32と、
前記角速度推定機能部31で推定される推定角速度および前記トルクリプルの角度周期より推定するトルクリプル周波数が前記振動特性におけるピーク周波数の所定範囲内であり、かつ前記トルクリプル推定機能部32で推定される推定トルクリプル振幅が閾値を上回るとき、前記電動モータ4のトルクが小さくなるよう制限するモータトルク制限機能部30と、を有するものであってもよい。
前記所定範囲、前記閾値は、それぞれ、設計等によって任意に定める範囲、閾値であって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切な範囲、閾値を求めて定められる。
【0019】
この構成によると、一定のトルクを出力したい場合においても、電動モータ4にはトルクリプルが発生するため、振動特性のピーク周波数と概ね一致する周波数でトルクリプルが発生する場合、モータトルクを制限する。これにより、トルクリプルで振動特性が励振してしまうことを防止し、作動音および制御精度を改善することができる。
【0020】
前記制御装置2は、与えられるブレーキ力指令値に対し前記推定ブレーキ力を追従させるよう前記電動モータ4を追従制御する機能を有し、
前記制御装置2は、このブレーキ力の追従制御において、前記推定ブレーキ力を前記ブレーキ力指令値に到達させるための操作量として、モータトルク、モータ電流およびモータ電圧の少なくともいずれか一つを制御演算する機能を有し、
前記振動減衰処理部24は、前記制御演算されたモータトルク、モータ電流およびモータ電圧の少なくともいずれか一つに対して、前記振動特性におけるピーク周波数のゲインを定められたゲイン以下に減衰させるフィルタ24aを有するものとしてもよい。
前記定められたゲインは、設計等によって任意に定めるゲインであって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切なゲインを求めて定められる。
【0021】
前記制御装置2は、与えられるブレーキ力指令値に対し前記推定ブレーキ力を追従させるよう前記電動モータを追従制御する機能を有し、
前記制御装置2は、このブレーキ力の追従制御において、前記推定ブレーキ力を前記ブレーキ力指令値に到達させるための操作量として、モータトルク、モータ電流およびモータ電圧の少なくともいずれか一つを制御演算する機能を有し、
前記振動減衰処理部24は、前記制御演算において用いられる制御ゲインを含むパラメータについて、前記振動特性におけるピーク周波数のゲインを定められたゲイン以下に減衰させる値に設定するブレーキ制御コントローラ22aを有するものであってもよい。
前記定められたゲインは、設計等によって任意に定めるゲインであって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切なゲインを求めて定められる。
【発明の効果】
【0022】
この発明の電動ブレーキ装置は、ブレーキロータと、このブレーキロータと接触して制動力を発生する摩擦材と、電動モータと、この電動モータの出力を前記摩擦材の押圧力に変換する摩擦材操作手段と、前記電動モータを制御する制御装置と、を備えた電動ブレーキ装置において、前記制御装置は、前記摩擦材および前記摩擦材操作手段を含む部材の剛性と前記摩擦材操作手段の慣性とで現されるばね振動系のゲインおよび周波数からなる振動特性における、ピークゲインを形成するピーク周波数にて、前記振動特性のゲインを定められたゲイン以下に減衰させる振動減衰処理部を有する。このため、電動ブレーキ装置の各構成要素の慣性および剛性等に起因する振動を抑制し、高精度なブレーキ制御を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】この発明の実施形態に係る電動ブレーキ装置を概略示す図である。
図2】同電動ブレーキ装置の制御系のブロック図である。
図3】同電動ブレーキ装置により振動を抑制する減衰特性の例を示す図である。
図4】同電動ブレーキ装置の各種演算機能部の実装例を示すブロック図である。
図5】この発明の他の実施形態に係る電動ブレーキ装置の各種演算機能部の実装例を示すブロック図である。
図6】この発明のさらに他の実施形態に係る電動ブレーキ装置の制御系のブロック図である。
図7】同電動ブレーキ装置の各種演算機能部の実装例を示すブロック図である。
図8】同電動ブレーキ装置の各種演算機能部の実装例の変形例を示すブロック図である。
図9】同電動ブレーキ装置の各種演算機能部の実装例の他の変形例を示すブロック図である。
図10】同電動ブレーキ装置の各種演算機能部の実装例の他の変形例を示すブロック図である。
図11】同電動ブレーキ装置の各種演算機能部の実装例のさらに他の変形例を示すブロック図である。
図12】この発明のさらに他の実施形態に係る電動ブレーキ装置の制御系のブロック図である。
図13】同電動ブレーキ装置の各種演算機能部の実装例を示すブロック図である。
図14】同電動ブレーキ装置により所定のモータ角速度にてモータトルクを制限する例を示す図である。
図15】いずれかの電動ブレーキ装置により振動を抑制する減衰特性の例を示す図である。
図16】いずれかの電動ブレーキ装置により振動を抑制する減衰特性の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明の実施形態に係る電動ブレーキ装置を図1ないし図4と共に説明する。この電動ブレーキ装置は例えば車両に搭載される。
図1に示すように、この電動ブレーキ装置1は、電動式直動アクチュエータDAと、摩擦ブレーキBRとを備える。先ず、電動式直動アクチュエータDAおよび摩擦ブレーキBRの構造について説明する。
【0025】
<電動式直動アクチュエータDAおよび摩擦ブレーキBRの構造>
図1および図2に示すように、電動式直動アクチュエータDAは、アクチュエータ本体AHと、後述する制御装置2とを備える。アクチュエータ本体AHは、電動モータ4と、減速機構5と、摩擦材操作手段である直動機構6と、パーキングブレーキ機構7と、角度センサSaと、荷重センサSbとを有する。
【0026】
電動モータ4は、永久磁石式の同期電動機により構成すると省スペースで高トルクとなり好適であるが、例えば、ブラシを用いたDCモータ、または永久磁石を用いないリラクタンスモータ、あるいは誘導モータ等を適用することもできる。
【0027】
図1に示すように、摩擦ブレーキBRは、車両の車輪と連動して回転するブレーキロータ8と、このブレーキロータ8と接触して制動力を発生させる摩擦材9とを有する。この摩擦材9はブレーキロータ近傍に配置される。摩擦材9をアクチュエータ本体AHにより操作してブレーキロータ8に押圧し、摩擦力によって制動力を発生させる機構を用いることができる。前記ブレーキロータ8および摩擦材9は、例えば、ブレーキディスクおよびキャリパを用いたディスクブレーキ装置であってもよく、あるいはドラムおよびライニングを用いたドラムブレーキ装置であってもよい。
【0028】
減速機構5は、電動モータ4の回転を減速する機構であり、一次歯車12、中間歯車13、および三次歯車11を含む。この例では、減速機構5は、電動モータ4のロータ軸4aに取り付けられた一次歯車12の回転を、中間歯車13により減速して、回転軸10の端部に固定された三次歯車11に伝達可能としている。
【0029】
直動機構6は、減速機構5で出力される回転運動を送りねじ機構により直動部14の直線運動に変換して、ブレーキロータ8に対して摩擦材9を当接離隔させる機構である。直動部14は、回り止めされ且つ矢符A1にて表記する軸方向に移動自在に支持されている。直動部14のアウトボード側端に摩擦材9が設けられる。電動モータ4の回転を減速機構5を介して直動機構6に伝達することで、回転運動が直線運動に変換され、それが摩擦材9の押圧力に変換されることによりブレーキ力を発生させる。なお電動ブレーキ装置1を車両に搭載した状態で、車両の車幅方向外側をアウトボード側といい。車両の車幅方向中央側をインボード側という。
【0030】
パーキングブレーキ機構7のアクチュエータ16として、例えば、リニアソレノイドが適用される。アクチュエータ16によりロック部材15を進出させて中間歯車13に形成された係止孔(図示せず)に嵌まり込ませることで係止し、中間歯車13の回転を禁止することで、パーキングロック状態にする。ロック部材15を前記係止孔から離脱させることで中間歯車13の回転を許容し、アンロック状態にする。
【0031】
図2に示すように、角度センサSaは、電動モータ4の回転の角度を検出する。角度センサSaは、例えば、レゾルバまたは磁気エンコーダ等を用いると高性能かつ信頼性が高く好適であるが、光学式のエンコーダ等の各種センサを適用することもできる。前記角度センサSaを用いずに、例えば、後述する制御装置2において、電動モータ4の電圧と電流との関係等からモータ角度を推定するような角度センサレス推定を用いることもできる。
【0032】
荷重センサSbは、直動機構6の荷重が作用する所定部位の変位または変形を検出する。このような荷重センサSbとして、例えば、磁気センサ、歪センサ、圧力センサ等を用いることができる。前記荷重センサSbを用いずに、制御装置2において、モータ角度および電動ブレーキ装置剛性、モータ電流および電動式直動アクチュエータDAの効率等から荷重センサレス推定を行ってもよい。また、サーミスタ等の各種センサ類を要件に応じて別途設けてもよい。
【0033】
<制御装置2について>
各制御装置2は、対応する電動モータ4を制御する。各制御装置2に、電源装置3と、各制御装置2の上位制御手段である上位ECU17とが接続されている。電源装置3は、電動モータ4および制御装置2に電力を供給する。電源装置3は、例えば、この電動ブレーキ装置1(図1)を搭載する車両の低圧(例えば12V)バッテリ等を適用し得る。
【0034】
上位ECU17として、例えば、車両全般を制御する電気制御ユニット(Vehicle Control Unit:VCU)が適用される。あるいは、電動ブレーキ装置統合制御用の専用ECUであってもよく、もしくは、電動ブレーキ装置を複数備える中で所定の電動ブレーキ制御装置が上位ECUの機能を兼ね備えるものであってもよい。上位ECU17は、各制御装置2の統合制御機能を有する。上位ECU17は指令手段17aを備え、この指令手段17aは、図示外のブレーキ操作手段の操作量に応じて変化するセンサの出力に応じて、各制御装置2に目標とするブレーキ力指令値をそれぞれ出力する。なお指令手段17aは、ブレーキ操作手段の操作に依ることなく、例えば、自動運転車両における制動を判断して各制御装置2にブレーキ力指令値をそれぞれ出力することも可能である。
【0035】
各制御装置2は、制御演算を行う各種制御演算機能部と、モータドライバ18とを備える。前記各種制御演算機能部は、例えば、マイクロコンピュータ等のプロセッサ、または、FPGA、ASIC等の演算器および周辺回路により構成される。前記各種制御演算機能部は、ブレーキ力推定手段である荷重推定機能部19、位置推定機能部20およびブレーキ制御機能部21を有する。
【0036】
荷重推定機能部19は、ブレーキ力と等価となり得る値として、荷重センサSbの出力等から、直動機構6の軸方向荷重(推定荷重)を推定する。もしくは荷重センサレス推定を行う場合、荷重推定機能部19は、モータ角度および電流等の情報を用いて直動機構6の軸方向荷重を推定するよう構成してもよい。荷重推定機能部19において、摩擦ブレーキの摩擦係数を一定とすれば、推定荷重は推定ブレーキ力へと変換され得る。
【0037】
位置推定機能部20は、角度センサSaの出力等から、直動機構6の直動部14(図1)の軸方向位置を推定する機能を有する。あるいは、位置推定機能部20は、角度センサSaの出力等から、モータ角度等の位置に相当し得る量を推定してもよい。なお前記角度センサレス推定を行う場合、位置推定機能部20は、電動モータ4の電圧と電流との関係等から直動機構6の位置(直動部14(図1)の軸方向位置)を推定してもよい。
【0038】
ブレーキ制御機能部21は、制御演算部22と、振動減衰処理部24とを有する。制御演算部22は、指令手段17aより要求されるブレーキ力指令値に対して、荷重センサSbの出力等から荷重推定機能部19で推定される推定ブレーキ力が追従するよう電動モータ4を追従制御する。
【0039】
制御演算部22は、例えば、ブレーキ力指令値および推定ブレーキ力を直接用いるフィードバック制御を用いてもよく、ブレーキ力を角度等の他の物理量に変換して制御演算を行ってもよい。前記フィードバック制御演算は、例えば、ブレーキ力制御ループ内にモータ電流制御ループを設けるように、複数のマイナーフィードバックループを設ける演算構造としてもよく、単一のフィードバックループにてモータ操作量を演算する構造としてもよい。その他、あるいはフィードフォワード制御等を用いるか、または適宜併用することもできる。
【0040】
振動減衰処理部24は、振動特性における、ピークゲインを形成するピーク周波数にて、前記振動特性のゲインを定められたゲイン以下に減衰させる。
前記振動特性は、後述する構成部材の剛性と慣性とで現わされるばね振動系のゲインおよび周波数からなる。前記ばね振動系のゲインは、所定の周波数で変動する電動モータ4のトルク(モータトルク)τ(s)に対するブレーキ力τ(s)の伝達特性の増幅率を表す。前記ばね振動系の周波数は、トルク、電圧、電流等の操作量の変動周波数と同義である。
【0041】
前記構成部材は、摩擦材9(図1)および直動機構6を含む。前記慣性は前記構成部材の質量から成る。ディスクブレーキの場合、前記構成部材として、パッド(摩擦材)、キャリパ、直動アクチュエータ等を含む。ドラムブレーキの場合、前記構成部材として、直動アクチュエータ等を含む。
【0042】
前記構成部材のバネレートκから成る剛性、および、前記構成部材の質量m等からなる慣性が、予め試験またはシミュレーション等により判明している場合、この電動ブレーキ装置は、例えば、振動減衰処理部24における図示外の記憶部等に、固有の振動特性を記憶しておき、都度、振動特性を推定する必要はない。
【0043】
振動減衰処理部24は、振動特性(振動成分)における、ピークゲインを形成するピーク周波数にて、前記振動特性のゲインを定められたゲイン以下に減衰させる。閉ループ系のボード線図のゲイン曲線において、その極大値を「ピークゲイン」と言い、そのときの周波数を「ピーク周波数」と言う。この振動減衰処理部24は、周波数特性からなる振動成分を制振対象として、ブレーキ制御演算パラメータを調整する機能を有する。
【0044】
振動減衰処理部24は、例えば、後述するローパスフィルタまたはバンドパスフィルタ等のフィルタであり、前記ブレーキ制御演算パラメータを調整する機能は、前記フィルタのカットオフ周波数を調整する機能であってもよい。この場合、振動減衰処理部24として、振動特性に応じたフィルタが設けられる。このフィルタに入力される操作量がトルク指令値のとき、フィルタ機能に従ってトルク指令値を減衰させることで、振動特性のゲインを定められたゲイン以下に減衰させ得る。フィルタに入力される操作量が電圧または電流のとき、フィルタ機能に従って電圧または電流を減衰させることで、振動特性のゲインを定められたゲイン以下に減衰させ得る。あるいは、振動減衰処理部24は、例えば、振動特性推定部23により推定された周波数特性におけるピークゲインを抑制する制御特性となるよう、制御演算部22における制御演算パラメータを設定する機能であってもよい。
【0045】
図2に示すように、モータドライバ18は、ブレーキ制御機能部21から与えられる制御信号に基づいて、電源装置3の直流電力を電動モータ4の駆動に用いる交流電力に変換する。このモータドライバ18は、例えば、FET等のスイッチ素子を含むハーフブリッジ回路を構成し、所定のデューティ比によりモータ印加電圧を決定するPWM制御を行う構成とすると、安価で高性能となり好適である。あるいは、図示外の変圧回路等を設け、PAM制御を行う構成とすることもできる。
【0046】
<振動を抑制する減衰特性の例>
図3は、この電動ブレーキ装置の振動減衰処理部24(図2)により振動を抑制する減衰特性の例を示す図である。以後、図2も適宜参照しつつ説明する。同図3は、減衰特性をローパスフィルタ特性とする例を示す。この図3の上図は、試験またはシミュレーション等により判明された振動特性である。振動減衰処理部24は、図3の上図に示す振動特性に対し、少なくともピークゲインを形成するピーク周波数において、所定より大きな減衰率となるよう、図3の下図に示す減衰特性を設定する。前記減衰特性は、例えば、後述する図4等に示すフィルタの特性であってもよく、後述する図8等に示すコントローラによって制御された制御系の特性であってもよい。
【0047】
<各種演算機能部の実装例>
図4は、この電動ブレーキ装置の各種演算機能部の実装例を示すブロック図である。本図4において、ブレーキ制御コントローラ22aから電流制御コントローラ22bに印加するトルク指令値に対して設けられた“振動抑制フィルタ24a”が図2における振動減衰処理部24に相当する。図4のブレーキ制御コントローラ22aおよび電流制御コントローラ22bが図2における制御演算部22に相当する。前記振動抑制フィルタ24aの特性は、電動ブレーキ装置の慣性および剛性からなるばね結合系の振動特性により決定される。
【0048】
前記振動抑制フィルタ24aは、例えば、ローパスフィルタである場合、入力されるトルク指令値を高周波になるほど減衰させる。振動抑制フィルタ24aから減衰されたトルク指令値が出力され電流制御コントローラ22bに入力される。前記振動抑制フィルタ24aは、例えば、バンドパスフィルタである場合、入力されるトルク指令値の所定の周波数帯域を減衰させる。このトルク指令値が出力され電流制御コントローラ22bに入力される。また、前記トルク指令値は、例えば、電流ノルム指令値のようにトルクに対して強順位相関を有する別の物理量であってもよい。
【0049】
<作用効果>
以上説明した電動ブレーキ装置1によれば、振動減衰処理部24は、振動特性における、ピークゲインを形成するピーク周波数にて、前記振動特性のゲインを定められたゲイン以下に減衰させる。ピークゲインを形成するピーク周波数を捉えて振動特性のゲインを減衰させれば、振動を収束させてより効率よく振動を抑制することができる。したがって、前記慣性および前記剛性等に起因する振動を抑制し、高精度なブレーキ制御が可能となる。
【0050】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施の形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0051】
図5に示すように、図4に対して、振動抑制フィルタ24aを、電流制御コントローラ22bの操作量である電動モータ電圧に対して設けてもよい。振動抑制フィルタ24aは、例えば、ローパスフィルタである場合、入力される電圧を高周波になるほど減衰させる。この振動抑制フィルタ24aから減衰された電圧が出力され電動モータ4に入力される。振動抑制フィルタ24aは、例えば、バンドパスフィルタである場合、入力される電圧の所定の周波数帯域を減衰させる。
図4図5において、フィルタ機能を有する振動抑制フィルタ24aを設ける例を示すが、前記振動抑制フィルタ24aを設けず、ブレーキ制御コントローラ22aにおいて構成されるブレーキ制御系の特性が前記振動抑制フィルタ24aと等価な特性となるよう、ブレーキ制御コントローラ22aの制御ゲイン等が設定されるものであってもよい。あるいは、電流制御コントローラ22bにおいて構成される電流制御系の特性が、前記振動抑制フィルタ24aと等価な特性となるよう、電流制御コントローラ22bの制御ゲイン等が設定されるものであってもよい。これらの制御ゲインも、前記振動特性に応じて設定される。
【0052】
図2に示すように、制御装置2におけるブレーキ制御機能部21が、前記構成部材の剛性に関係する物理用の入力に応じて前記振動特性を推定する振動特性推定部23を有してもよい。この場合、振動減衰処理部24は、振動特性推定部23で推定された前記振動特性における、ピークゲインを形成するピーク周波数にて、前記振動特性のゲインを定められたゲイン以下に減衰させる。前記振動特性が既に判っており且つ不変である場合、前記振動特性を推定する必要はない。しかし、ブレーキ荷重に応じて電動ブレーキ装置の剛性が大きく変化する場合、振動特性も変化し得る。
【0053】
そこで、振動特性推定部23は、剛性に関係する物理量の入力に応じて前記振動特性を推定する。剛性に関係する物理量は、例えば、ブレーキ荷重(推定荷重)である。推定荷重は、荷重推定機能部19で推定される。前記剛性の推定は、例えば、予め解析または実測を行い、推定荷重に応じて剛性を求めるLUT等を設けてもよく、あるいは所定の剛性計算関数を用いてもよい。これにより、ブレーキ荷重等により時々刻々と変化する剛性を精度良く推定することができる。したがって、慣性および剛性に起因する振動を抑制し、より高精度なブレーキ制御が可能となる。
【0054】
図6は、図2の例に加えて、ブレーキ剛性推定機能部25および摩耗度合推定機能部26を設ける例を示す。ブレーキ剛性推定機能部25は、荷重推定機能部19等で推定される推定ブレーキ力に基づいて、この推定ブレーキ力におけるこの電動ブレーキ装置の剛性を推定する。ブレーキ剛性推定機能部25は、摩擦材剛性推定部27と、装置剛性推定部28とを有する。
【0055】
摩擦材剛性推定部27は、主に、摩擦材9の剛性を推定する。装置剛性推定部28は、例えば、ディスクブレーキ装置におけるブレーキディスク(ブレーキロータ8)、キャリパおよびアクチュエータ、またはドラムブレーキ装置におけるドラムおよびアクチュエータの剛性を推定する。なお、図6の例においては、荷重推定機能部19は、電動ブレーキ装置の剛性を用いた荷重推定機能以外に限定される。
【0056】
ブレーキ剛性推定機能部25は、位置推定機能部20による推定位置と、荷重推定機能部19による推定荷重とから、この電動ブレーキ装置の剛性を推定する機能を有する。電動ブレーキ装置の剛性は、ブレーキ荷重に応じて大きく変化するため、推定荷重に応じて電動ブレーキ装置の剛性を推定することが好ましい。前記剛性の推定は、例えば、予め解析または実測を行い、推定荷重に応じて剛性を求めるLUT等を設けてもよく、あるいは所定の剛性計算関数を用いてもよい。
【0057】
摩耗度合推定機能部26は、位置推定機能部20で推定される推定位置と、荷重推定機能部19で推定される推定荷重(推定ブレーキ力)との相関を、摩擦材9が非摩耗時における前記推定位置と推定荷重との定められた相関と比較して、現時点の摩擦材9の摩耗度合を推定する。
【0058】
摩擦材9(図1)は、摩耗が進行することにより剛性が大きく変化する。このため、摩耗度合推定機能部26は、例えば、摩耗度合を変数に含む摩擦材9の剛性と、摩擦材以外の剛性とが結合された剛性であるものとして、前記推定位置と推定荷重との実際の結果に合致する前記摩耗度合を求める。ブレーキ剛性推定機能部25は、摩耗度合推定機能部26で推定される摩耗度合に基づいて、推定ブレーキ力と推定剛性との相関パラメータを調整する。
【0059】
例えば、前述の剛性を求めるLUTまたは剛性計算関数を、摩耗度合に応じて更新・修正する機能を設けることができる。前記摩耗度合は、摩耗度合推定機能部26において、例えば、最小二乗法等を用いて、摩耗度合を変数に含む所定の剛性計算関数を用いて、実測された前記推定位置と推定荷重との相関に対して合致性の高い摩耗度合を同定する機能を有するものであってもよい。
ブレーキ剛性推定機能部25により、現在の電動ブレーキ装置の剛性を推定し、振動特性推定部23における振動特性の演算に反映させることで、より正確な電動ブレーキ制御が可能となる。
【0060】
図7は、この電動ブレーキ装置の各種演算機能部の実装例を示すブロック図である。同図7は、図6に示す実施形態について、図4に対してブレーキ力に依存して非線形特性となる電動ブレーキ装置各部の剛性として、現在のブレーキ力(推定ブレーキ力)から現在の電動ブレーキ装置の剛性を推定する剛性推定器25a(図6のブレーキ剛性推定機能部25に相当)を設ける例を示す。推定ブレーキ力と剛性との関係は、予め、解析または実測を行い、推定荷重に応じて剛性を求めるLUT等に定めてもよく、または、所定の剛性計算関数を用いて推定ブレーキ力から推定剛性を演算してもよい。振動特性推定部23は、推定剛性と慣性から振動特性を推定する。振動抑制フィルタ24aの特性は、振動特性推定部23において推定された、電動ブレーキ装置の慣性および剛性からなるばね結合系の振動特性により決定される。なお、前述の図5の例においても、図7の例と同様に、剛性推定器25aを設ける構成を構成し得る。
【0061】
図8図9は、図4の実装例においてフィルタを設けずに、ブレーキ制御コントローラ22aないし電流制御コントローラ22bにおいて同様の制御特性となるよう制御ゲイン等を調整する場合に対して、剛性推定器25aを適用する例を示す。図8図9では、振動特性推定部23は、剛性推定器25aにおいて推定された剛性と慣性から振動特性を推定する。各コントローラ22a,22bは、剛性に依存して変化する前記振動特性に応じて各コントローラ22a,22bの制御ゲイン等を調整する。
【0062】
図10図11は、それぞれ図7図8の各実施形態に対して、摩耗度合推定器26a(図6の摩耗度合推定機能部26に相当)で推定される摩耗度合に基づいて、剛性推定器25aのパラメータ(LUT,演算関数等)を調整する例を示す。前記摩耗度合は、主に摩擦材9(図1)の摩耗度合である。例えば、非摩耗時(新品)におけるディスクブレーキパッド(摩擦材)の厚さが数十mm程度に対して、摩耗限界とされる厚さは数mm以下であり、パッド剛性は最大で数倍~十数倍の変化が生じる。
【0063】
よって、主に摩擦材9(図1)において生じる摩耗度合を摩耗度合推定器26aで推定し、前記摩耗度合に応じて剛性推定器25aの所定パラメータを調整することで、剛性を推定する。振動特性推定部23は、剛性推定器25aにおいて推定された剛性と慣性から振動特性を推定する。これにより高精度なブレーキ制御が実現できる。なお、その他の実施形態に対して摩耗度合推定器26aを追加する場合においても、一部の機能ブロックの位置等を変更するのみで適用できる。
【0064】
図12は、図2の例に加えて、モータ励振抑制機能部29およびモータトルク制限機能部30を設ける例を示す。モータ励振抑制機能部29は、電動モータ4の角速度を推定する角速度推定機能部31と、電動モータ4のトルクリプルの振幅および角度周期に相当する値を推定するトルクリプル推定機能部32とを備える。
【0065】
角速度推定機能部31は、例えば、角度センサSaで検出された角度の微分相当値を角速度として推定する機能であってもよく、モータ慣性等を含む運動方程式を用いたオブザーバ等により角速度を推定する機能であってもよい。
トルクリプル推定機能部32は、モータ電流等の電動モータ駆動条件から、予め解析または実験等により得られた結果に基づき、電動モータ4のトルクリプルを推定する機能であってもよい。
【0066】
モータトルク制限機能部30は、角速度推定機能部31で推定される推定角速度および前記トルクリプルの角度周期より推定するトルクリプル周波数が前記振動特性におけるピーク周波数の所定範囲内であり、かつトルクリプル推定機能部32で推定される推定トルクリプル振幅が閾値を上回るとき、電動モータ4のトルクが小さくなるよう制限する。モータトルク制限機能部30は、例えば、モータ最大電流等の制約条件に基づき、モータトルクを制限する機能とすることができる。この機能は、図2または図6に設けてあってもよい。
【0067】
図12に示すように、モータ励振抑制機能部29は、角速度推定機能部31およびトルクリプル推定機能部32に基づき、所定値を上回るトルクリプルが所定の帯域において発生する場合、モータトルク制限機能部30の制限値を調整し、電動モータトルクを制限する機能とすることができる。これにより、電動ブレーキ装置の慣性および剛性に基づく共振ゲインを電動モータ4のトルクリプルで励振することを防止することができる。
【0068】
図2図6図12の構成のいずれかを採用してもよく、例えば、図6図12の構成要素を一部または全て併用することもできる。
その他、図示外の電流センサ等の構成は必要に応じて適宜設けることができる。また、各機能は便宜上ブロックとして設けているものであり、必要に応じて統合・分割してもよい。
【0069】
図13は、図12の実施形態についての各種演算機能部の実装例である。図13のトルクリプル推定器32aが、図12におけるトルクリプル推定機能部32に相当する。また図13のトルクリミッタ30aが、図12におけるモータトルク制限機能部30に相当する。
一定のトルクを出力したい場合においても、電動モータ4にはトルクリプルが発生するため、振動特性のピーク周波数と概ね一致する周波数でトルクリプルが発生する場合、トルクリミッタ30aによりモータトルクを制限する。これにより、トルクリプルで振動特性が励振してしまうことを防止し、作動音および制御精度を改善することができる。
【0070】
図14は、図12の電動ブレーキ装置により所定のモータ角速度にてモータトルクを制限する例を示す図である。モータトルクについて、一般に、一定のトルクを出力する仕様としても、電動モータの回転に同期したトルク変動(トルクリプル)が発生することが知られている。前記トルクリプルは、角速度の整数倍(極数とスロット数の最小公倍数)にて発生する。このため、トルクリプル推定器32a(図13)は、モータ角速度からトルクリプルの周波数を推定し、トルクリミッタ30a(図13)は、前記トルクリプルの周波数が前記振動系のピーク周波数近傍にあるときにモータトルクを制限する。これにより振動系を励振することを防止できる。
【0071】
図15では、振動減衰処理部24(図2等)をバンドパスフィルタとして、減衰特性をバンドパスフィルタ特性とする例を示す。
図16では、ブレーキ剛性推定機能部25(図7等)が、減衰特性を、剛性の変化に伴う振動特性の変化に応じて調整する例を示す。剛性が変化する前の振動特性を図16の上図において実線で表し、剛性が変化した後の振動特性を図16の上図において点線で表す。剛性が変化する前の減衰特性を図16の下図において実線で表し、剛性が変化した後の減衰特性を図16の下図において点線で表す。
【0072】
直動機構6の変換機構部として、遊星ローラ、ボールねじ等の各種ねじ機構、ボールランプ等の傾斜を利用した機構等を用いることができる。
荷重センサSbは、前述のセンサ等に代えて、例えば、ブレーキを実装する車輪のホイールトルク、または電動ブレーキ装置を搭載した車両の前後力を検出するセンサ等、その他外部センサであってもよい。
【0073】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0074】
1…電動ブレーキ装置
2…制御装置
4…電動モータ
6…直動機構(摩擦材操作手段)
8…ブレーキロータ
9…摩擦材
19…荷重推定機能部(ブレーキ力推定手段)
20…位置推定機能部
22a…ブレーキ制御コントローラ
23…振動特性推定部
24…振動減衰処理部
25…ブレーキ剛性推定機能部
26…摩耗度合推定機能部
30…モータトルク制限機能部
31…角速度推定機能部
32…トルクリプル推定機能部



図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16