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特許7165078光透過性シート、多層シート、照明装置、自動車内装部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】光透過性シート、多層シート、照明装置、自動車内装部材
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20221026BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20221026BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20221026BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20221026BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20221026BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20221026BHJP
   F21V 3/00 20150101ALI20221026BHJP
   F21V 3/06 20180101ALI20221026BHJP
   B60Q 3/14 20170101ALI20221026BHJP
   B60K 37/00 20060101ALI20221026BHJP
   B60R 13/02 20060101ALN20221026BHJP
【FI】
C08J5/18 CER
C08L101/00
B32B27/20 A
B32B27/32 Z
B32B27/28
C08K5/00
F21V3/00 350
F21V3/06 110
B60Q3/14
B60K37/00 A
B60R13/02 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019044221
(22)【出願日】2019-03-11
(65)【公開番号】P2020147638
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】中村 亘佑
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 雄志
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 勝
(72)【発明者】
【氏名】吉田 準
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/139116(WO,A1)
【文献】特開2012-084842(JP,A)
【文献】国際公開第2016/136534(WO,A1)
【文献】特開2002-265641(JP,A)
【文献】特開2009-155427(JP,A)
【文献】特表2010-505983(JP,A)
【文献】特開2007-030358(JP,A)
【文献】特開2002-029016(JP,A)
【文献】特開2016-081817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
B32B 1/00-43/00
F21V 1/00-8/00,9/00-15/04
B60Q 3/00-3/88
B60R 13/01-13/04,13/08
B60K 31/00-37/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロス共重合体(A)を含有する熱可塑性エラストマー組成物(I)に、着色剤を配合して光学濃度(OD値)を0.5以上、3.0以下とした光透過性シート。
【請求項2】
前記組成物(I)が、クロス共重合体(A)50~85質量%と、ポリオレフィン系樹脂(B)15~50質量%を含む、請求項1に記載の光透過性シート。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系樹脂(B)がポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂の少なくとも一方を含む、請求項2に記載の光透過性シート。
【請求項4】
前記組成物(I)のゲル分が1質量%以上、50質量%以下である、請求項1~請求項3の何れか1つに記載の光透過性シート。
【請求項5】
前記組成物(I)が、クロス共重合体(A)以外のスチレン系熱可塑性エラストマー(C)を1~20質量%含有する、請求項1~請求項4の何れか1つに記載の透過性シート。
【請求項6】
前記組成物(I)100質量部に対して、可塑剤(D)を1~50質量部含有する、請求項1~請求項5の何れか1つに記載の光透過性シート。
【請求項7】
前記クロス共重合体(A)が、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体鎖と芳香族ビニル化合物重合体鎖が芳香族ポリエン単量体単位を介して結合する構造を有しており、さらに以下の(1)~(3)の条件を一種以上満足する共重合体である、請求項1~請求項6の何れか1つに記載の光透過性シート。
(1)オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10~30モル%、芳香族ポリエン単量体単位の含量が0.01モル%以上0.5モル%以下、残部がオレフィン単量体単位の含量である。
(2)オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の重量平均分子量が5万以上30万以下、分子量分布(Mw/Mn)が1.8以上6以下である。
(3)クロス共重合体中に含まれるオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の含量が60~95質量%の範囲にある。
【請求項8】
前記クロス共重合体(A)のオレフィンは、エチレンである、請求項7に記載の光透過性シート。
【請求項9】
前記クロス共重合体(A)が、芳香族ビニル単量体単位の含量が10~30モル%であるオレフィン-芳香族ビニル-芳香族ポリエン共重合体70~95質量%と、芳香族ビニル単量体単位からなる芳香族ビニル重合体を5~30質量%とを含み、前記オレフィン-芳香族ビニル-芳香族ポリエン共重合体と前記芳香族ビニル重合体とが実質的に溶媒分別で分離できない、請求項1~請求項8の何れか1つに記載の光透過性シート。
【請求項10】
請求項1~請求項9の何れか1つに記載のシートを含む多層シート。
【請求項11】
請求項1~請求項10の何れか1つに記載のシートの下に発光部材を備える照明装置。
【請求項12】
請求項1~請求項10の何れか1つに記載のシート又は請求項11に記載の照明装置を使用した自動車内装部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性シート、及びこれを用いた多層シート、照明装置、及び自動車内装部材に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車をはじめとする各種自動車、家具や屋内内装、さらにはロボット等、硬質な各種機械の表面を覆う表皮材には、種々のレベルの軟質性に加え各種の機能性が求められる。例えば、自動車の内装表皮材としては、耐熱性、耐候性、耐寒性、成形加工時の熱履歴も含めたシボ保持性、人間の接触に対する耐傷付性(耐傷付摩耗性)、人間に同伴する化学物質に対する耐油性、耐薬品性が求められる。また近年、消費者の嗜好の多様化に伴い、光透過性を備えた人工皮革シートが開発されている。
【0003】
光透過性の人工皮革シートは、皮革調の外観と触感を備えると共に、バックライティングすることで文字、図形、模様を組み合わせた意匠を浮かびあがらせることが可能である(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-81817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の人工皮革シートは、耐傷付性、耐熱性、及び耐油性等が十分に高いとは言えず、長期に渡って使用すると透明性が低下して、バックライティングしたときに意匠を浮かび上がらせる機能(点灯時意匠呈示機能)が損なわれる虞がある。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、点灯時意匠呈示機能を長期に渡って維持することが可能な光透過性シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、クロス共重合体(A)を含有する熱可塑性エラストマー組成物(I)に、着色剤を配合して光学濃度(OD値)を0.5以上、3.0以下とした光透過性シートが提供される。
【0008】
本発明の光透過性シートは、遮蔽性が優れているためにバックライティングしていないときに意匠が見えることが抑制される。また、本発明の光透過性シートは、透過性及び長期透過性に優れているために、点灯時意匠呈示機能を長期に渡って維持することができる。
【0009】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、前記組成物(I)が、クロス共重合体(A)50~85質量%と、ポリオレフィン系樹脂(B)15~50質量%を含む、前記記載の光透過性シートである。
好ましくは、前記ポリオレフィン系樹脂(B)がポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂の少なくとも一方を含む、前記記載の光透過性シートである。
好ましくは、前記組成物(I)のゲル分が1質量%以上、50質量%以下である、前記記載の光透過性シートである。
好ましくは、前記組成物(I)が、クロス共重合体(A)以外のスチレン系熱可塑性エラストマー(C)を1~20質量%含有する、前記記載の透過性シートである。
好ましくは、前記組成物(I)100質量部に対して、可塑剤(D)を1~50質量部含有する、前記記載の光透過性シートである。
好ましくは、前記クロス共重合体(A)が、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体鎖と芳香族ビニル化合物重合体鎖が芳香族ポリエン単量体単位を介して結合する構造を有しており、さらに以下の(1)~(3)の条件を一種以上満足する共重合体である、前記記載の光透過性シートである。(1)オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10~30モル%、芳香族ポリエン単量体単位の含量が0.01モル%以上0.5モル%以下、残部がオレフィン単量体単位の含量であるである。(2)オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の重量平均分子量が5万以上30万以下、分子量分布(Mw/Mn)が1.8以上6以下であるである。(3)クロス共重合体中に含まれるオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の含量が60~95質量%の範囲にあるである。
好ましくは、前記クロス共重合体(A)のオレフィンは、エチレンである、前記記載の光透過性シートである。
好ましくは、前記クロス共重合体(A)が、芳香族ビニル単量体単位の含量が10~30モル%であるオレフィン-芳香族ビニル-芳香族ポリエン共重合体70~95質量%と、芳香族ビニル単量体単位からなる芳香族ビニル重合体を5~30質量%とを含み、前記オレフィン-芳香族ビニル-芳香族ポリエン共重合体と前記芳香族ビニル重合体とが実質的に溶媒分別で分離できない、前記記載の光透過性シートである。
好ましくは、前記記載のシートを含む多層シートである。
好ましくは、前記記載のシートの下に発光部材を備える照明装置である。
好ましくは、前記記載のシート又は前記記載の照明装置を使用した自動車内装部材である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、数値範囲は、別段の定めがない限りはその下限値および上限値を含むものとする。
【0011】
1.光透過性シート
本発明の光透過性シートは、クロス共重合体(A)を含有する熱可塑性エラストマー組成物(I)に、着色剤を配合して光学濃度(OD値)を0.5以上、3.0以下としたものである。
【0012】
光透過性シートの厚さは、0.1~1.2mmが好ましく、0.3~0.9mmがさらに好ましい。光透過性シートが薄すぎると遮蔽性が低下しやすくなり、光透過性シートが厚すぎると透明性が低下しやすくなる。
【0013】
1-1.着色剤
着色剤としては、光透過性シートを着色可能な任意の顔料や染料を用いることができる。本発明は、光透過性シートの光学濃度(OD値)が0.5以上3.0以下となるように着色剤を配合することを特徴としている。OD値が0.5以上であればシート裏側の発光部材非点灯時でも、裏地が透けず一般的な表皮に見えるため、外観に優れる。OD値が3.0以下であればシート裏側の発光部材点灯時に遮光層による意匠の浮かびあがりが明確となり、外観に優れる。従って、光透過性シートのOD値を0.5以上3.0以下にすることによって、点灯時意匠呈示機能を実現することが可能になる。OD値は、好ましくは1.0~2.5であり、さらに好ましくは、1.1~2.0である。この場合に、外観がさらに良好になるからである。
【0014】
1-2.熱可塑性エラストマー組成物(I)の組成
組成物(I)は、クロス共重合体(A)を含有する。クロス共重合体(A)は、耐傷付性、耐熱性、及び耐油性等が優れているので、クロス共重合体(A)を含有する組成物(I)を用いて光透過性シートを構成することによって、点灯時意匠呈示機能を長期に渡って維持することが可能になる。
【0015】
組成物(I)は、ゲル分が1.0質量%以上、50質量%以下であることが好ましい。ゲル分は、組成物(I)を沸騰キシレン(140℃)中に8時間浸漬し、不溶分から算出できる。ゲル分が1.0質量%以上である場合、耐熱性や耐油性が特に高くなる。50質量%以下であると熱可塑性と成形加工性が良好である。ゲル分は、好ましくは、2.0質量%又は3.0質量%以上である。
【0016】
ゲル分が高い組成物(I)は、いわゆる動的架橋法により得ることができる。動的架橋(動的加硫)とは、各種配合物を溶融状態で架橋剤が反応する温度条件下で強力に混練させる事により剪断、分散と架橋を同時に起こさせる手法である。このような動的架橋処理は、例えば文献A.Y.Coranら、Rub.Chem.and Technol.vol.53.141~(1980)、JSR TECHNICAL REVIEW、No.112/20050、P20-24等に記載がある。動的架橋時の混練機は通常バンバリーミキサー、加圧式ニーダーのような密閉式混練機、一軸や二軸押出機等を用いて行われる。混練温度は通常130~300℃、好ましくは150~200℃である。混練時間は通常1~30分である。
【0017】
組成物(I)は、そのMFR(JIS K 7210-1:2014に基づき測定)は、0.3g/10分以上、10g/10分以下であることが好ましい。組成物(I)のMFR(JIS K7210:2014)は、0.3g/10分未満では、成形加工性が不足し製造に際し経済性が失われてしまう恐れがあり、10g/10分より高いと、耐熱性や耐油性が低下してしまう恐れがある。
【0018】
組成物(I)のA硬度(JIS K-6253-3:2012に基づき測定)は、例えば100以下であり、好ましくは95以下であり、さらに好ましくは90以下、70以上であってよい。A硬度がこの範囲であることで、適当な軟質性を有することができる。
【0019】
[クロス共重合体(A)]
クロス共重合体(A)としては、ポリマー主鎖と他のポリマー鎖がクロス結合したものであれば任意に使用できる。好ましい実施形態においては、クロス共重合体(A)が、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体鎖と芳香族ビニル化合物重合体鎖とが結合した構造を有してよい。さらに好ましい実施形態においては、クロス共重合体(A)が、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体鎖と芳香族ビニル化合物重合体鎖とが、芳香族ポリエン単量体単位を介して結合した構造を有してよい。
【0020】
好ましい実施形態においては、クロス共重合体(A)が下記(1)~(3)の条件を一種以上、より好ましくは二種以上、さらに好ましくはすべて満足する共重合体であってよい。
(1)オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10~30モル%、より好ましくは12~28モル%、さらに好ましくは15~25モル%、芳香族ポリエン単量体単位の含量が0.01モル%以上0.5モル%以下、より好ましくは0.01モル%以上0.4モル%以下、さらに好ましくは0.02モル%以上0.1モル%以下、残部がオレフィン単量体単位の含量である。
(2)オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の重量平均分子量が5万以上30万以下、分子量分布(Mw/Mn)が1.8以上6以下、より好ましくは1.8以上5以下、さらに好ましくは1.8以上4以下である。
(3)クロス共重合体中に含まれるオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の含量が60~95質量%、より好ましくは65~90質量%、さらに好ましくは70~95質量%の範囲にある。
【0021】
当該オレフィン単量体単位としては、炭素数3~20のα-オレフィン、例えばプロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、ビニルシクロヘキサンや、環状オレフィンすなわちシクロペンテン、ノルボルネン等、各α-オレフィン及び環状オレフィンを使用できる。好ましくは、オレフィンはエチレン単量体を含んでよく、最も好ましくはエチレン単量体である。
【0022】
エチレン単量体単位を使用する場合、好ましくはエチレン単量体単独で用いられるが、エチレンに加えて本発明の効果を阻害しない範囲で、比較的少量の炭素数3~20のα-オレフィン、例えばプロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、ビニルシクロヘキサンや、環状オレフィンすなわちシクロペンテン、ノルボルネン等、各α-オレフィン系単量体及び環状オレフィン系単量体に由来する単量体単位を共重合してもよい。
【0023】
芳香族ビニル化合物単量体単位としては、スチレン及び各種の置換スチレン、例えばp-メチルスチレン、m-メチルスチレン、o-メチルスチレン、o-t-ブチルスチレン、m-t-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、p-クロロスチレン、o-クロロスチレン等の各スチレン系単量体に由来する単位が挙げられる。これらの中でも好ましくはスチレン単位、p-メチルスチレン単位、p-クロロスチレン単位であり、特に好ましくはスチレン単位である。これら芳香族ビニル化合物単量体単位は、1種類でもよく、2種類以上の併用であってもよい。
【0024】
芳香族ポリエン単量体単位としては例えば、10以上30以下の炭素数を持ち、複数の二重結合(ビニル基)と単数又は複数の芳香族基を有した芳香族ポリエンを使用できる。例えば、o-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン、m-ジビニルベンゼン、1,4-ジビニルナフタレン、3,4-ジビニルナフタレン、2,6-ジビニルナフタレン、1,2-ジビニル-3,4-ジメチルベンゼン、1,3-ジビニル-4,5,8-トリブチルナフタレン等、芳香族ポリエン単量体に由来する単位が挙げられ、好ましくはオルトジビニルベンゼン単位、パラジビニルベンゼン単位及びメタジビニルベンゼン単位のいずれか1種又は2種以上の混合物が好適に用いられる。
【0025】
オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体中の含有割合としては、軟質性や耐傷付性を向上する観点から、芳香族ビニル化合物単量体単位が10~30モル%の範囲であるのが好ましい。芳香族ビニル化合物単量体単位が10モル%以上であると、軟質性と耐傷付性が十分に得られる。芳香族ビニル化合物単量体単位が30モル%以下であると、低温での軟質性が十分に得られ、また耐傷付性が向上する。
【0026】
芳香族ポリエン単量体単位の含有割合は0.01~0.5モル%、好ましくは0.02~0.1モル%であってよい。芳香族ポリエン単量体単位が0.01モル%以上であると、力学物性が向上し、0.5モル%以下であると成形加工性が向上する。
【0027】
クロス共重合体(A)中における、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体鎖と、芳香族ビニル化合物重合体鎖との含有割合は、軟質性向上の観点から、好ましくはオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体鎖が70~95質量%、芳香族ビニル化合物重合体鎖が5~30質量%としてよい。さらに熱可塑性エラストマー組成物としての物性を向上させる観点からは、オレフィン-芳香族ビニル化合物系共重合体が82~92質量%、芳香族ビニル化合物単量体単位からなる重合体が8~18質量%である。
【0028】
本クロス共重合体及びその製造方法の詳細は、その全体の記載をそれぞれ出典明示によりここに援用する、国際公開第2000/37517号、国際公開第2007/139116号、又は特開2009-120792号公報に記載されている。
【0029】
好ましい実施形態においては、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体鎖と芳香族ビニル化合物重合体鎖とが、芳香族ポリエン単量体単位を介して結合していてよい。エチレン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体鎖と芳香族ビニル化合物重合体鎖とが実質的に溶媒分別で分離できないことが好ましい。ここで言う「実質的に」とは、本クロス共重合体に、本発明の効果を阻害しない程度の比較的少量の芳香族ビニル化合物(ポリスチレン)ホモポリマーが含まれていても良いことを意味する。
【0030】
クロス共重合体(A)に含まれる芳香族ビニル化合物重合体鎖の重量平均分子量Mwは任意であるが、一般的には1万~8万の範囲である。
【0031】
本クロス共重合体は、エチレン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体鎖と芳香族ビニル化合物重合体鎖とが結合を有しているにも関わらず、ゲル分が実質的に含まれず、かつ熱可塑性樹脂としての実用的な成形加工性を有する。
【0032】
[ポリオレフィン系樹脂(B)]
組成物(I)は、好ましくは、ポリオレフィン系樹脂(B)を含有する。これによって、組成物の耐熱性、及び耐油性が向上する。好ましくは、クロス共重合体(A)50~85質量%と、ポリオレフィン系樹脂(B)15~50質量%を含む。クロス共重合体(A)が50質量%未満では、得られる組成物の軟質性が不足する場合があり、85質量%より多い場合は、耐熱性や耐油性が不足する場合がある。
【0033】
ポリオレフィン系樹脂(B)は、1又は2種以上のオレフィンの重合体であり、オレフィンとしては、炭素数3~20のα-オレフィン、例えばプロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、ビニルシクロヘキサンや、環状オレフィンすなわちシクロペンテン、ノルボルネン等、各α-オレフィン及び環状オレフィンを使用できる。
【0034】
ポリオレフィン系樹脂(B)は、ポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂の少なくとも一方を含むことが好ましく、両方を含むことがさらに好ましい。
【0035】
ポリエチレン系樹脂は、エチレン単量体単位を50質量%以上含む樹脂である。ポリエチレン系樹脂としては、ポリエチレン、エチレン・α-オレフィン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体を挙げることができる。ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン(分岐状エチレン重合体)、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン(直鎖状エチレン重合体)(以下「HDPE」)、超高分子量ポリエチレン等が挙げられる。エチレン・α-オレフィン共重合体としてはエチレン・ブテン共重合体、エチレン・ヘキセン共重合体、エチレン・ヘプテン共重合体、エチレン・オクテン共重合体、エチレン・4-メチルペンテン共重合体などが挙げられる。ポリエチレン系樹脂は、耐熱性の観点から、HDPEを含むことが好ましい。
【0036】
HDPEの有する密度は0.940g/cm3以上であり、好ましくは0.940~0.970g/cm3、さらに好ましくは0.950~0.970g/cm3である。その融点は、好ましくはDSC法(示差走査熱量計)の測定で126~136℃、メルトフローレート(MFR)がJIS K-6922-2:2010に規定される温度190℃、荷重2.16kgの測定条件下において、好ましくは0(実質流れない)~30g/10分であり、さらに好ましくは0.05~10g/10分であってよい。MFRが0.05g/10分以上のものは熱可塑性エラストマー組成物の加工性が優れており、10g/10分以下のものは得られる熱可塑性エラストマー組成物の力学物性が高い。また、数平均分子量が100万以上の、いわゆる超高分子量ポリエチレンも好適に用いることができる。
【0037】
ポリプロピレン系樹脂は、プロピレン単量体単位を50質量%以上含む樹脂である。ポリプロピレン系樹脂としては、アイソタクチックホモポリプロピレン、シンジオタクチックホモポリプロピレンおよびアタクチックホモポリプロピレンなどのプロピレン単独重合体、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体およびエチレン-プロピレンランダムブロック共重合体、エラストマー成分が配合された(コンパンド式、リアクター式のどちらでも良い)軟質オレフィンなどに代表されるα-オレフィン-プロピレン共重合体が挙げられる。これらポリプロピレン系樹脂は、1種類でもよく、2種類以上の併用であってもよい。ポリプロピレン系樹脂は、耐熱性の観点から、ブロックポリプロピレン(b-PP)を含むことが好ましい。
【0038】
[クロス共重合体(A)以外のスチレン系熱可塑性エラストマー(C)]
組成物(I)は、好ましくは、クロス共重合体(A)以外のスチレン系熱可塑性エラストマー(C)を1~20質量%含有する。これによって、光透過性シートの軟質性を向上させることができる。エラストマー(C)としては例えば、スチレン部分を含んだ熱可塑性エラストマーを使用できる。一例として、クラレ社から販売されている「セプトン」シリーズ(SEP、SEPS、SEEPS、SEBS、SEEPS-OH)などを使用可能である。
【0039】
[可塑剤(D)]
組成物(I)は、好ましくは、組成物(I)100質量部に対して、可塑剤(D)を1~50質量部含有する。これによって、光透過性シートの軟質性を向上させることができる。また、エラストマー(C)と可塑剤(D)を併用することによって、ブリードアウトを防ぎながら軟質性を向上させることができる。
【0040】
可塑剤(D)としては例えば、パラフィン系(流動パラフィンなど)、ナフテン系、アロマ系プロセスオイル、流動パラフィン等の鉱物油系軟化剤、ヒマシ油、アマニ油、オレフィン系ワックス、鉱物系ワックス、各種エステル類等公知のものを使用可能である。
【0041】
1-3.熱可塑性エラストマー組成物(I)の製造方法
組成物(I)は、組成物(I)を構成する成分を配合して公知の方法で混練して製造することができる。この際に、架橋剤や架橋助剤を使用し、動的架橋(動的加硫)を行っても良いし、これらを用いずに単に混練して組成物を製造しても良い。
【0042】
2.多層シート、照明装置、自動車内装部材。
組成物(I)を用いた光透過性シートは、単層シートであっても良く、あるいは多層シートであっても良い。多層シートの場合は、他の樹脂成分からなる層をさらに有する多層であってもよいし、あるいは組成物(I)からなる層のみからなる多層であってもよい。
【0043】
また、光透過性シートの下に、LED等の発光部材を配置して照明装置を構成することができる。このような照明装置では、点灯時意匠呈示機能を発揮させることができる。また、このような照明装置は、自動車内装部材として用いることが可能である。
【実施例
【0044】
以下、実施例及び比較例をあげて本発明を説明するが、これらは何れも例示的なものであって本発明の内容を限定するものではない。実施例、比較例に用いた原料、製法は以下の通りである。
【0045】
1.実施例・比較例の熱可塑性エラストマー組成物の作成
表1~2の原料を、表3~表4に示す配合でヘンシェルミキサーにて1分間混合した。得られた混合物を、二軸押出機(東芝機械社製TEM35B)を用いて、樹脂温度220℃、スクリュー回転数170rpm、滞留時間120秒で混練し、ダイよりストランド状に押し出し、カッティングすることによって、着色剤が配合された熱可塑性エラストマー組成物(I)を得た。
【0046】
・クロス共重合体(A)
表1に記載のクロス共重合体は、国際公開第2000/37517号、国際公開第2007/139116号、特開2009-120792号公報に記載の実施例あるいは比較例の製造方法で製造したもので、下記組成は、同様にこれら公報記載の方法で求めた。つまり、クロス共重合体やエチレン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体中の組成、すなわちエチレン、芳香族ビニル化合物の含量や芳香族ビニル化合物重合体の含量は、1H-NMR(プロトンNMR)により求めた。また、エチレン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体中の芳香族ポリエンの含量は、重合時に仕込んだ芳香族ポリエン量と、配位重合終了後にサンプリングした重合液のガスクロマトグラフ分析から求めた未反応芳香族ポリエン量の差から重合に使用された芳香族ポリエン量を求め、重合により得られた共重合体の量と比較することで算出した。重合液中の分子量はGPC測定により求めた。ポリスチレン鎖の重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)は、溶媒分別により分離された、芳香族ビニル化合物重合体のGPC測定により求めた。
【0047】
これらのクロス共重合体においては、ジビニルベンゼン単位のビニル基水素(プロトン)ピーク強度(面積)が、配位重合工程で得られたエチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体のジビニルベンゼン単位の同ピーク強度(面積)と比較して20%未満であった。実際にはジビニルベンゼン単位のビニル基の水素(プロトン)ピークはアニオン重合後のクロス共重合体では実質的に消失していた。また、本クロス共重合体に対し、沸騰アセトンを用いソックスレー抽出を行ったが、含まれるエチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体鎖(実質的にはエチレン-スチレン共重合体鎖)とポリスチレン鎖を分別することができなかった。なお、クロス共重合体を規定するために、用いられるエチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体のスチレン含量、ジビニルベンゼン含量、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、クロス共重合体中のエチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体の含量、ポリスチレン鎖の重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、及びMFR(JIS K7210-1、200℃、49N)を示す。ASTM-D2765-84で測定したゲル分は、何れのクロス共重合体においても0.1質量%未満(検出下限以下)であった。
【0048】
なお、GPC(ゲル浸透クロマトグラフ)の測定条件は以下のとおりであった。
<GPC測定条件>
装置名:HLC-8220(東ソー社製)
カラム:Shodex GPC KF-404HQを4本直列
温度:40℃
検出:示差屈折率
溶媒:テトラヒドロフラン
検量線:標準ポリスチレン(PS)を用いて作製した。
【0049】
【表1】
【0050】
・その他の原料
その他の原料は表2に示したとおりである。
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
2.光透過性シートとしての評価
表3~表4に示す組成の組成物(I)を用いて、以下で説明する物性評価用試料を用いて、光透過性シートとしての各種評価を行った。その結果を表3~表4に示す。
【0055】
表3~表4に示すように、全ての実施例では、隠蔽性、透過性、長期透過性の全てにおいて良好な結果が得られた。一方、全ての比較例では、隠蔽性、透過性、長期透過性の少なくとも1つにおいて結果が良好でなかった。
【0056】
比較例1では、OD値が低すぎるために隠蔽性が劣っていた。比較例2は、OD値が高すぎるために透過性及び長期透過性が劣っていた。比較例3~5では、耐油性、耐熱性、耐傷付性の少なくとも1つが劣っているために、長期透過性が劣っていた。
【0057】
ポリオレフィン系樹脂(B)を含まない実施例1は耐熱性が比較的劣っていた。クロス共重合体(A)の割合が50質量%未満である実施例5では、軟質性が比較的劣っていた。
【0058】
実施例3と実施例9~11は、クロス共重合体(A)とポリオレフィン系樹脂(B)の配合比が同じであるが、有機過酸化物が含まれていない実施例3では、動的架橋を行っていないのに対し、有機過酸化物が含まれている実施例9~11では動的架橋を行った。実施例3では、ゲル分が1質量%未満であるのに対し、実施例9~11では動的架橋の結果、ゲル分が1質量%以上となった。ゲル分が1質量%以上である実施例9~11では、ゲル分が1質量%未満である実施例2に比べて、透過性及び長期透過性が優れていた。
【0059】
ポリオレフィン系樹脂(B)がポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂の両方を含む実施例12は、一方のみを含む実施例10に比べて耐熱性が優れていた。
【0060】
エラストマー(C)と可塑剤(D)のどちらも含まない実施例12に比べて、エラストマー(C)と可塑剤(D)の少なくとも一方を含む実施例13~19は、軟質性が優れていた。
【0061】
実施例17では、OD値が1未満であるために隠蔽性が比較的劣っていた。実施例18では、OD値が2.5超であるために透過性及び長期透過性が比較的劣っていた。
【0062】
(物性評価用試料)
物性評価用の試料としては、鏡面金型(STAVAX製)を用いて、加熱プレス法(200℃、時間5分、圧力50kg/cm)により、実施例・比較例の組成物を成形した厚さ0.3mm、0.6mm、1mmの正方形鏡面プレスシートを用いた。また、片面シボ付き鏡面プレスシートとしては、シボ金型を用い、シート片面に同様の加熱プレス法によりシボ模様を付与した、厚さ0.6mmの片面シボ付き鏡面プレスシートを用いた。
【0063】
(光学濃度(OD値))
厚さ0.3mm又は0.6mm、一辺50mmの正方形鏡面プレスシートを、JIS K7136に準拠し、ヘーズメーター(日本電色工業社製NDH-1001DP型)を用いて全光線透過率(T)を測定した。この全光線透過率(T)を用いて、式(1)にてOD値を算出した。
【0064】
式(1) OD=-Log10[T/100]
【0065】
(ゲル分率)
厚さ0.3mm又は0.6mmの片面シボ付き鏡面プレスシートを、幅1mm長さ3mmに裁断し、0.2g分を140℃のキシレン中8時間浸漬し、不溶分を200メッシュ金属網フィルターで濾別し、その乾燥重量から、キシレン不溶ゲル分を質量%として算出した。
【0066】
(軟質性)
JIS K6253-3:2012に準拠して、タイプAのデュロメータ硬度を用いて瞬間値の硬度を求めた。試験片として1mm厚正方形鏡面プレスシートを6枚重ねて使用した。値が小さいほど、軟質性が良好であることを意味する。
【0067】
(耐油性)
厚さ0.3mm又は0.6mm、一辺20mmの片面シボ付き鏡面プレスシートを、流動パラフィン(カネダ社製ハイコールK-350)が4g入った60mLプラスチック瓶にシボ面を上にして浸漬させ、23℃で7日間放置した。試験後のプレスシートを取り出して流動パラフィンを拭き取り目視確認を行い、外観変化を以下の評価基準で分類した。
3級:まったく認められない
2級:わずかに認められるが、ほとんど目立たない
1級:明らかに認められる
【0068】
(耐熱性)
厚さ0.3mm又は0.6mm、一辺50mmの片面シボ付き鏡面プレスシートを、110℃で120時間放置後、プレスシートシボ面の60°光沢値を測定し、試験前光沢値と比較してプレスシートシボ面の光沢変化値を算出した。値が小さいほど、耐熱性が良好であることを意味する。
【0069】
(耐傷付性)
厚さ0.3mm又は0.6mm、一辺50mmの片面シボ付き鏡面プレスシートの鏡面側に、直径1.0mmボールチップ(超硬性)を有するエリクセン社製引掻き式硬度計「318S」型を使用し、荷重3Nにて3cm以上の傷を引いた。傷の中央部分(プレスシートの中央線と交わる部分)の溝の深さを、表面粗さ測定器(小阪研究所社製サーフコーダET4000AK)を用いて測定した。値が小さいほど、耐傷付性が良好であることを意味する。
【0070】
(隠蔽性)
厚さ0.3mm又は0.6mm、一辺50mmの正方形鏡面プレスシートを、一辺50mmの白色コピー用紙の上に置き、コピー用紙に印刷されたArialフォントのアルファベット文字(A~Z)が透過して見えるかを目視確認し、以下の評価基準で分類した。
3級:まったく見えない
2級:うっすらと見えるが、アルファベット文字が識別できない
1級:明確に見え、アルファベット文字が識別できる
【0071】
(透過性)
厚さ0.3mm又は0.6mm、一辺50mmの正方形鏡面プレスシートを、デジタル指示調節計(YOKOGAWA社製UT321)の表示盤の上に置き、赤色LEDにより表示された数字(0~9)が透過して見えるかを目視確認し、以下の評価基準で分類した。
3級:明確に見え、数字が識別できる
2級:うっすらと見え、数字が識別できる
1級:まったく見えない、もしくは見えても数字が識別できない
【0072】
(長期透過性)
厚さ0.3mm又は0.6mm、一辺50mmの片面シボ付き鏡面プレスシートについて、耐傷付性試験、耐熱性試験、耐油性試験をすべて実施した。試験後のプレスシートを用いて、上記の透過性試験を行い、同様の基準で評価した。
【0073】
3.自動車内装部材としての評価
実施例13で得られた熱可塑性エラストマー組成物を、ダイス温度200℃に設定したTダイ付き押出シート成形機で押出し、実施例20に係るシートを得た。このシートの厚みは0.6mmであった。得られたシートを、ポリカーボネート系樹脂を材料とするインパネ型を用いて、シート表面の温度が110℃の条件で真空成形を行い、インパネ型の一箇所の裏側に遮光層と発光部材を設置して、自動車内装部材を得た。その評価基準、結果を表5に示す。
【0074】
表5に示すように、全ての評価項目において良好な結果が得られた。
【0075】
【表5】
【0076】
(自動車内装部材の外観)
自動車内装部材の外観と、発光部材と遮光層による意匠の浮かびあがりを目視によって評価したところ、どちらも良好であった。
【0077】
(ヒートサイクル試験)
インパネ型の自動車内装部材について、80℃4時間~-30℃2時間を1サイクルとして、10サイクルのヒートサイクル試験を実施した。試験後、インパネ型の自動車内装部材を常温で1時間以上放置した後に、無作為に5箇所指定した部分について、測色色差計(日本電色工業社製ZE-2000)を使用してL*、a*、b*を測定して平均値を基準値とした。試験前L*、a*、b*の平均値と比較して色差ΔEを算出した。なお、色差ΔE2.0以下を合格レベルとした。
【0078】
また、ヒートサイクル試験後のインパネ型の自動車内装部材の外観を目視確認し、変形、クラック、剥がれのないことを確認した。
【0079】
(耐薬品性)
インパネ型の自動車内装部材の表面に、ガラスクリーナー(HONDA社製純正品番08CBC-B010L1)を約0.4g/100cm2の塗布量となるように塗り伸ばした。80℃で48時間放置後、インパネ型の自動車内装部材の外観を目視確認し、変形、クラック、剥がれのないことを確認した。
【0080】
(耐傷付性)
インパネ型の自動車内装部材から直径約120mmの試験片を切り出し、その中央部に直径約6mmの穴を開け、テーバー式スクラッチテスター(テスター産業社製HA-201)を使用して、タングステンカーバイド製のカッターを取り付けて、回転数0.5rpm、荷重3Nの条件で3cm以上の傷を引いた。試験後の試験片について目視確認を行い、外観変化を以下の評価基準で分類した。なお、4級以上を合格とした。
5級:まったく認められない
4級:わずかに認められるがほとんど目立たない
3級:わずかではあるが明らかに認められる
2級:やや著しい
1級:かなり著しい
【0081】
(耐光性)
インパネ型の自動車内装部材について、JIS B7754に準拠して、キセノン耐候性試験機(東洋精機製作所社製アトラスCi4000)を使用して、ブラックパネル温度89℃、湿度50%RH、放射照度100W/m、放射露光量75MJ/mの条件で耐光試験を行った。試験後、インパネ型の自動車内装部材を常温で1時間以上放置した後に、無作為に5箇所指定した部分について、測色色差計(日本電色工業社製ZE-2000)を使用してL*、a*、b*を測定して平均値を基準値とした。試験前L*、a*、b*の平均値と比較して色差ΔEを算出した。なお、色差ΔE2.0以下を合格レベルとした。