(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】酸化マグネシウム粉末、複合材、および酸化マグネシウム粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 5/06 20060101AFI20221026BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20221026BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
C01F5/06
C08L101/00
C08K3/22
(21)【出願番号】P 2019053518
(22)【出願日】2019-03-20
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】梅津 基宏
(72)【発明者】
【氏名】今井 敏夫
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-206405(JP,A)
【文献】特開2018-172541(JP,A)
【文献】特開2018-162185(JP,A)
【文献】特開昭61-209912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 1/00-17/38
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂用フィラー材として用いられる酸化マグネシウム粉末であって、
平均繊維長が10μm以上50μm以下、長手方向に垂直な方向の最大繊維径が0.2μm以上2μm以下の針状の酸化マグネシウムで主に構成され、
前記針状の酸化マグネシウムは、長手方向に垂直な方向の繊維径が第1の範囲に含まれる部分と第2の範囲に含まれる部分を交互にそれぞれ複数有し、
前記第1の範囲は、前記最大繊維径の90%以上であり、
前記第2の範囲は、前記最大繊維径の40%以上90%未満であることを特徴とする酸化マグネシウム粉末。
【請求項2】
Ca、Si、Feを、
それぞれCaO、SiO
2
、Fe
2
O
3
の酸化物
に換算
した合計で0.5wt%以上10.0wt%以下含むことを特徴とする請求項1記載の酸化マグネシウム粉末。
【請求項3】
Caを、酸化物換算で0.5wt%以上5.0wt%以下含むことを特徴とする請求項1記載の酸化マグネシウム粉末。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の酸化マグネシウム粉末からなるフィラーと樹脂とを含む複合材であって、
前記酸化マグネシウム粉末が、樹脂の体積に対して40vol%以上80vol%以下含有していることを特徴とする複合材。
【請求項5】
針状酸化マグネシウムによって主に構成される酸化マグネシウム粉末の製造方法であって、
酸化マグネシウム原料粉末を水と混合し、5wt%以上15wt%以下の濃度でスラリーを生成する工程と、
前記酸化マグネシウム原料粉末に対しH
2SO
4/MgOのモル比が0.2以上0.7以下となるように、前記スラリーに硫酸を添加する工程と、
前記硫酸を添加したスラリーを
150℃以上、0.80MPa以上に高温高圧化し、前記スラリー中で前記酸化マグネシウム原料粉末と前記硫酸と前記水とを水熱合成させる工程と、
前記水熱合成させて得られたスラリーを吸引ろ過し、前記ろ過の残留物を乾燥させる工程と、
前記乾燥させた残留物を焼成し、熱分解させて
前記針状酸化マグネシウムを生成する工程と、含み、
前記酸化マグネシウム原料粉末は、Ca、Si、Feを、
それぞれCaO、SiO
2
、Fe
2
O
3
の酸化物
に換算
した合計で0.5wt%以上10.0wt%以下含むことを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化マグネシウム粉末、複合材、および酸化マグネシウム粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化マグネシウムは、熱伝導性が高く(45~60W/m・k)、電気絶縁性に優れた材料で、工業的には半導体向けの放熱部品用の樹脂用フィラー材として使用されることがある。樹脂用フィラー材は、樹脂マトリックス内で隣り合うフィラーの接触により熱伝導パスが形成されることにより、熱を効率よく伝達する。例えば、特許文献1には、塩基性硫酸マグネシウムから製造される柱状酸化マグネシウム粒子を熱伝導性フィラーとして用いることが記載されている。
【0003】
酸化マグネシウムなどのフィラー材を樹脂に分散させた複合材は、樹脂単体と比較して、熱伝導性だけでなく、弾性率や曲げ強度などの機械的特性も向上する。
【0004】
フィラー材の粒子形状において、針状の粒子はアスペクト比が大きいため、フィラー材の長手方向において樹脂組成物の熱伝導効率が向上する。すなわち、アスペクト比が低い球状粒子と比較し、少ない添加量で熱伝導率を向上させることができる。また、弾性率や曲げ強度などの機械的特性も球状粒子と比較して針状粒子のほうがより高くなる傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、粒子と樹脂の接触界面は剥離しやすく、その部分が欠陥となり、樹脂の機械的強度が低下することがある。更に、フィラー材が針状の場合、粒子が凝集し易いため、樹脂マトリックス内への均一な添加が困難である。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、樹脂添加時に樹脂との密着性が強固になり、粒子と樹脂の接触界面に欠陥のない複合材を製造でき、また、粒子の凝集を起こしにくく、樹脂内に均一に分散できる酸化マグネシウム粉末、それを添加した複合材、および酸化マグネシウム粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の酸化マグネシウム粉末は、樹脂用フィラー材として用いられる酸化マグネシウム粉末であって、平均繊維長が10μm以上50μm以下、長手方向に垂直な方向の最大繊維径が0.2μm以上2μm以下の針状の酸化マグネシウムで主に構成され、前記針状の酸化マグネシウムは、長手方向に垂直な方向の繊維径が第1の範囲に含まれる部分と第2の範囲に含まれる部分を交互にそれぞれ複数有し、前記第1の範囲は、前記最大繊維径の90%以上であり、前記第2の範囲は、前記最大繊維径の40%以上90%未満であることを特徴としている。
【0009】
このように、粒子形状が大小の径を有する粒子が長手方向に複数連なったいわゆる串団子状であることから、樹脂添加時に樹脂との密着性が強固なものとなるため、粒子と樹脂の接触界面に欠陥のない複合材を製造できる。また、粒子形状が串団子状であることから、直線状の針状粒子と比較し、粒子の凝集を起こしにくく、樹脂内に均一に分散できる。
【0010】
(2)また、本発明の酸化マグネシウム粉末は、Ca、Si、Feを、酸化物換算で0.5wt%以上10.0wt%以下含むことを特徴としている。これにより、水熱合成時に得られた中間躯体を焼成(脱硫)する際、粒子の緻密化が促進され、串団子状の針状粒子となる。
【0011】
(3)また、本発明の酸化マグネシウム粉末は、Caを、酸化物換算で0.5wt%以上5.0wt%以下含むことを特徴としている。これにより、水熱合成時に得られた中間躯体を焼成(脱硫)する際、粒子の緻密化が促進され、串団子状の針状粒子となる。
【0012】
(4)また、本発明の複合材は、上記(1)から(3)のいずれかに記載の酸化マグネシウム粉末からなるフィラーと樹脂とを含む複合材であって、前記酸化マグネシウム粉末が、樹脂の体積に対して40vol%以上80vol%以下含有していることを特徴としている。これにより、酸化マグネシウム粉末と樹脂との接触界面が剥離することによる欠陥が発生しにくい複合材とすることができ、機械的特性や熱伝導率を向上できる。
【0013】
(5)また、本発明の酸化マグネシウム粉末の製造方法は、針状の酸化マグネシウムによって主に構成される酸化マグネシウム粉末の製造方法であって、酸化マグネシウム原料粉末を水と混合し、5wt%以上15wt%以下の濃度でスラリーを生成する工程と、前記酸化マグネシウム原料粉末に対しH2SO4/MgOのモル比が0.2以上0.7以下となるように、前記スラリーに硫酸を添加する工程と、前記硫酸を添加したスラリーを高温高圧化し、前記スラリー中で前記酸化マグネシウム原料粉末と前記硫酸と前記水とを水熱合成させる工程と、前記水熱合成させて得られたスラリーを吸引ろ過し、前記ろ過の残留物を乾燥させる工程と、前記乾燥させた残留物を焼成し、熱分解させて酸化マグネシウム粉末を生成する工程と、含み、前記酸化マグネシウム原料粉末は、Ca、Si、Feを、酸化物換算で0.5wt%以上10.0wt%以下含むことを特徴とする。これにより、粒子形態がいわゆる串団子状の針状の酸化マグネシウムを生成できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、粒子形状が大小の径を有する粒子が長手方向に複数連なったいわゆる串団子状であることから、樹脂添加時に樹脂との密着性が強固なものとなるため、粒子と樹脂の接触界面に欠陥のない複合材を製造できる。また、粒子形状が串団子状であることから、球状粒子や直線状の針状粒子と比較し、粒子の凝集を起こしにくく、樹脂内に均一に分散できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の針状の酸化マグネシウムを示す模式図である。
【
図2】本発明の針状の酸化マグネシウムの第1の範囲および第2の範囲の計測例を示す模式図である。
【
図3】本発明の酸化マグネシウム粉末の製造方法を示すフローチャートである。
【
図4A】実施例の中間躯体の5000倍のSEM写真である。
【
図4B】実施例の中間躯体の20000倍のSEM写真である。
【
図4C】実施例の製造物の5000倍のSEM写真である。
【
図4D】実施例の製造物の20000倍のSEM写真である。
【
図5A】比較例の焼成前の20000倍のSEM写真である。
【
図5B】比較例の焼成後の20000倍のSEM写真である。
【
図6】実施例の製造物、中間体および比較例の組成分析の結果を示す表である。
【
図7】(a)、(b)それぞれ針状の酸化マグネシウムの配向方向と熱伝導方向の関係を示す概念図である。
【
図8】(a)は、複合材の各試料およびPP単体の試料に対する各試験の結果を示す表である。(b)~(d)は、それぞれの試験ごとのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
[酸化マグネシウム粉末の構成]
図1は、本発明の酸化マグネシウム粉末を構成する針状酸化マグネシウムの例を示す模式図である。また、
図2は、針状酸化マグネシウムの第1の範囲および第2の範囲の計測例を示す模式図である。針状酸化マグネシウム10は、長手方向の平均繊維長が10μm以上50μm以下であり、長手方向に垂直な方向の最大繊維径が0.2μm以上2μm以下である。針状酸化マグネシウム10は、長手方向に垂直な方向の繊維径が第1の範囲に含まれる部分と第2の範囲に含まれる部分を交互にそれぞれ複数有し、第1の範囲は最大繊維径の90%以上であり、第2の範囲は最大繊維径の40%以上90%未満である。
【0018】
このように、針状酸化マグネシウム10は、粒子形状が大小の径を有する粒子が長手方向に複数連なったいわゆる串団子状である。したがって、通常の針状の酸化マグネシウムと区別するために、針状酸化マグネシウム10を串団子状酸化マグネシウムといってもよい。なお、
図2に示すように、針状酸化マグネシウム10は、任意のくびれ部(長手方向に垂直な方向の径がその近傍で極小となる部分)からくびれ部まで、すべて第2の範囲に含まれていてもよいし、第1の範囲に含まれていてもよい。また、針状酸化マグネシウム10の端部が第1の範囲であってもよい。また、針状酸化マグネシウム10は、最大繊維径の40%未満の範囲があってもよいが、その部分は、力がかかった際に折れやすいため、第2の範囲にも含めないこととする。
【0019】
上記の針状酸化マグネシウム10の平均繊維長、最大繊維径、第1の範囲および第2の範囲は、以下のようにして計測する。まず、試料のSEM写真を倍率20000倍で複数回撮影し、撮影した画像の測定領域に全体が写っている粒子を決定する。次に、決定したすべての粒子の最大径を測定する。次に、粒子ごとに、長手方向に垂直な方向の最大繊維径を測定する。そして、粒子ごとに第1の範囲および第2の範囲を決定し、それらが交互にそれぞれ複数ある粒子を針状酸化マグネシウム10と決定する。最後に、針状酸化マグネシウム10の繊維長の平均値を算出し、平均繊維長とする。測定は、針状酸化マグネシウム10と決定された粒子の個数が20個以上になるまで、行うこととするが、50個以上とすることが好ましく、100個以上とすることがより好ましい。測定は、目視または画像処理ソフトにより行うことができる。
【0020】
なお、
図1、2は、針状酸化マグネシウム10の概念を示したものであり、形状、大きさ、縦横の比等は正確に記載されたものではない。また、針状酸化マグネシウム10は、この図の形状に限られない。また、
図1、2は長手方向の軸に対して対称に記載されているが、針状酸化マグネシウム10は、当然対称でないものも含む。針状酸化マグネシウム10は、折れ線状や弧状に連なったもの、途中から枝分かれしているものは、略直線と見なせる部分に分割し、それぞれ別の酸化マグネシウム粒子として考え、針状酸化マグネシウムかどうかを決定する。
【0021】
また、本発明の酸化マグネシウム粉末は、樹脂用フィラー材として用いられる酸化マグネシウム粉末であって、多数の針状酸化マグネシウム10で構成される。このような形状の酸化マグネシウム粉末を樹脂に添加すると、針状酸化マグネシウム10のくびれ部に樹脂が入り込むことにより、樹脂との密着性が強固なものとなる。そのため、粒子と樹脂の接触界面に欠陥のない複合材となる。また、本発明の酸化マグネシウムの軽装密度は0.05~0.15g/cm3、真比重と軽装密度の比率である圧縮比は、実測値で1~4%程度であり、一般的な球状粒子の圧縮比10.8%、直線状の針状粒子の圧縮比7%と比較すると非常に低い。このことから、球状粒子や直線状の針状粒子と比較し、粒子の凝集を起こしにくく、樹脂内に均一に分散できる。
【0022】
なお、酸化マグネシウム粉末は、針状酸化マグネシウム10に該当しない酸化マグネシウム粒子が含まれていてもよい。酸化マグネシウム粉末は、上記方法で決定した針状酸化マグネシウム10の個数の割合が、50%以上であり、70%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。酸化マグネシウム粉末に含まれる針状酸化マグネシウム10の個数の割合が50%以上のとき、酸化マグネシウム粉末は主に針状酸化マグネシウムで構成されるとする。
【0023】
酸化マグネシウム粉末は、Ca、Si、Feを、それぞれCaO、SiO2、Fe2O3の酸化物に換算して、合計で0.5wt%以上10.0wt%以下含むことが好ましい。また、酸化マグネシウム粉末は、Caを、CaOの酸化物に換算して0.5wt%以上5.0wt%以下含むことが好ましい。また、酸化マグネシウム粉末は、MgOの含有率が、80.0wt%以上99.5wt%以下であることが好ましい。これらの値は、蛍光X線分析装置により測定することができる。
【0024】
酸化マグネシウム粉末は、軽装密度が0.05g/cm3以上0.15g/cm3以下であることが好ましい。また、圧縮比が1.0%以上5.0%以下であることが好ましい。
【0025】
酸化マグネシウム粉末は、結晶水を含まないため、例えば、ナイロンなどの高温で成形される樹脂の樹脂用フィラー材として好適に使用される。結晶水を含む塩基性硫酸マグネシウムなどは、高温で成形される樹脂の樹脂用フィラー材として使用した場合、結晶水が脱水し発泡することがある。
【0026】
[複合材の構成]
上記のような酸化マグネシウム粉末をフィラーとして樹脂に混合した複合材を説明する。複合材は、樹脂にフィラーが分散して形成されている。また、複合材に用いられる樹脂には、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エポキシ、ナイロン等が用いられる。これらの樹脂に、針状酸化マグネシウムで主に構成される酸化マグネシウム粉末を分散させることで、いわゆる串団子状の針状酸化マグネシウムのくびれ部に樹脂が入り込むことにより、樹脂との密着性が強固なものとなる。
【0027】
複合材に含まれる酸化マグネシウム粉末は、樹脂の体積に対して40vol%以上80vol%以下である。40vol%より小さいと充填率が低いため機械的特性や熱伝導率があまり高くならないことがある。80vol%より大きいと引っ張り強度や曲げ強度が低くなることがある。
【0028】
[酸化マグネシウム粉末の製造方法]
図3は、酸化マグネシウム粉末の製造方法を示すフローチャートである。
図3に沿って、酸化マグネシウム粉末の製造方法を説明する。まず、酸化マグネシウム(MgO)原料粉末を準備する。原料粉末として、鉱物系の酸化マグネシウムを用いることができる。例えば、炭酸マグネシウムまたは水酸化マグネシウムを主成分とする鉱物を550~1400℃で焼成して得た軽焼マグネシアを用いることができる。炭酸マグネシウムを主成分とする鉱物の例としては、マグネサイト、ドロマイト等が挙げられる。
【0029】
次に、酸化マグネシウム原料粉末を水と混合し、スラリーを生成する(工程P1)。混合する水は、蒸留水、水道水等を用いることができる。酸化マグネシウム原料粉末は、平均粒径(D50)が5μm以上30μm以下、D10が1μm以上、D90が80μm以下であることが好ましい。平均粒径(D50)が5μm未満またはD10が1μm未満の原料粉末を用いると、MgO粒子の硫酸溶解時に再析出が抑制され、収率が大幅に低減することがある。また、D90が80μmより大きい原料粉末を用いると、原料MgOの溶解が不十分となり、原料MgO粒子が残存してしまうことがある。粒度分布は、JIS R 1629「ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」によるレーザ回折・散乱法により測定することができる。平均粒径(D50)は、粒度分布の体積基準の積算分率における50%に相当する粒子径であり、D10は粒度分布の体積基準の積算分率における10%に相当する粒子径、D90は粒度分布の体積基準の積算分率における90%に相当する粒子径である。また、酸化マグネシウム原料粉末は、球状粒子であることが好ましい。
【0030】
また、酸化マグネシウム原料粉末は、Ca、Si、Feを、それぞれCaO、SiO2、Fe2O3の酸化物に換算して、合計で0.5wt%以上10.0wt%以下含むことが好ましい。また、酸化マグネシウム原料粉末は、Caを、CaOの酸化物に換算して0.5wt%以上5.0wt%以下含むことが好ましい。酸化マグネシウム原料粉末は、MgOの含有率が80.0wt%以上99.5wt%以下であることが好ましい。このように、Ca、Si、Feを一定量含むことから、酸化マグネシウムの融点が低下し、焼成工程で緻密化が進み、結晶が成長する。Ca、Si、Feの中ではCaがそれに最も寄与していると考えられることから、酸化マグネシウム原料粉末は、Caを一定量含んでいれば、SiおよびFeは含まなくてもよい。Ca、Si、Feの含有量が酸化物に換算して0.5wt%未満の場合、焼成工程での緻密化が進みにくくなり、多孔質状になることがある。
【0031】
スラリーは、5wt%以上15wt%以下の濃度で生成する。スラリー濃度を5wt%未満にすると、スラリー中の硫酸濃度(硫酸と水の比)が低くなり、硫酸とMgOの反応が不十分となる。また、酸化マグネシウム粉末の収率が低下する。スラリー濃度を15wt%より大きくすると、水分量が不足し、スラリーの粘性が高くなるため、反応が不均一となる。なお、スラリー濃度は、10wt%以上15wt%以下であることが好ましい。
【0032】
次に、酸化マグネシウム原料粉末に対し、H2SO4/MgOのモル比が0.2以上0.7以下となるように、硫酸を添加する(工程P2)。硫酸の添加量を、上記モル比で0.2未満にすると、原料のMgOの溶解が不十分となり、MgO粒子が残存してしまう。硫酸の添加量を、0.7より大きくすると、溶解したMgO粒子の再析出が抑制され、収率が大幅に低減する。なお、硫酸の添加量は、酸化マグネシウム原料粉末に対し、H2SO4/MgOのモル比が0.2以上0.4以下であることが好ましい。スラリー濃度および硫酸添加量は、硫酸に含まれる水分量も含めて調整する。
【0033】
次に、硫酸を添加したスラリーを撹拌しながら高温高圧化し、スラリー中で酸化マグネシウム原料粉末と硫酸と水とを水熱合成させて塩基性硫酸マグネシウムウィスカー(MgSO4・3H2O・5Mg(OH)2)を生成する(工程P3)。高温高圧化の工程では、スラリーを150℃以上に加熱しつつ、0.80MPa以上で加圧した状態を1時間以上保持することが好ましい。これにより、原料粉末の水熱合成を十分に進行させることができる。原料粉末の水熱合成により、原料のMgOが硫酸に溶解し再析出することで、針状のMgSO4・3H2O・5Mg(OH)2が形成される。
【0034】
次に、水熱合成させて得られたスラリーを吸引ろ過し、ろ過の残留物を乾燥させる(工程P4)。次に、乾燥させた残留物を解砕する(工程P5)。残留物を解砕すると、針状の中間体のMgSO4・3H2O・5Mg(OH)2が得られる(工程P6)。そして、針状の中間体を焼成し、熱分解させることで、加熱脱水および脱硫酸する(工程P7)。
【0035】
焼成工程では、残留物を950℃以上1300℃以下の温度に加熱することが好ましい。これにより、中間体の脱水および脱硫酸反応を進行させるとともに、針状の形状を保ちつつその融解を抑止し、焼結が進み緻密な針状酸化マグネシウムを生成できる。詳しいメカニズムは不明であるが、このとき、針状粒子の結晶の成長速度が部分ごとに異なるため、いわゆる串団子状の針状酸化マグネシウムになる。
【0036】
このようにして、いわゆる串団子状の針状酸化マグネシウムで主に構成される酸化マグネシウム粉末を生成できる(工程P8)。酸化マグネシウム原料粉末と硫酸とを水熱合成し、得られた中間体を熱分解させることで、低コストかつ短時間で串団子状の針状酸化マグネシウムで主に構成される酸化マグネシウム粉末を生成できる。
【0037】
[実施例、比較例]
上記の製造方法およびその製造物の特徴を検証するため、鉱物由来の酸化マグネシウム粉末原料を使用して、酸化マグネシウム粉末を作製した。実施例は、Ca、Si、Feを、それぞれCaO、SiO2、Fe2O3の酸化物に換算して、合計で6.6wt%含み、純度88.8wt%の酸化マグネシウム原料粉末を出発原料とした。また、実施例は、水熱合成の温度は180℃、圧力は1.1MPa、保持時間は3時間として中間体を製造した。このような条件で製造された実施例の中間体、および比較例の原料として市販の高純度で針状の塩基性硫酸マグネシウムを、それぞれ焼成温度を950℃、焼成時間を1時間として、実施例および比較例の酸化マグネシウム粉末を製造した。
【0038】
(粒子形状測定)
実施例の中間体、酸化マグネシウム粉末、比較例の原料の塩基性硫酸マグネシウム、および比較例の酸化マグネシウム粉末について、走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製)を用いてSEM写真を撮影した。
図4A~
図4Dは、それぞれ実施例の中間体および製造物の5000倍および20000倍のSEM写真である。
図5A、
図5Bは、それぞれ比較例の焼成前および焼成後の20000倍のSEM写真である。また、実施例の酸化マグネシウム粉末は、SEM写真を観察し、粒子形状の測定を行った。
【0039】
実施例の中間体(
図4A、
図4B)、および比較例の原料の塩基性硫酸マグネシウム(
図5A)は、共に針状の形状であった。実施例の酸化マグネシウム粉末(
図4C、
図4D)は、いわゆる串団子状の針状酸化マグネシウムで主に構成されていた。また、実施例の酸化マグネシウム粉末は、針状酸化マグネシウム(串団子状の酸化マグネシウム)の割合が95%であった。これに対し、比較例の酸化マグネシウム粉末(
図5B)は、多孔質状の針状粒子であった。これは、原料となった塩基性硫酸マグネシウムに含まれるCaO、SiO
2、Fe
2O
3の含有量が少なかったことにより、緻密化が進まなかったためと考えられる。
【0040】
(組成分析)
実施例の中間体、酸化マグネシウム粉末、および比較例の原料の塩基性硫酸マグネシウムに対して、蛍光X線分析装置(ZSX-100e リガク製)を用いて、組成分析を行った。
図6は、測定結果を示す表である。
図6に示すように、実施例の中間体、および酸化マグネシウム粉末は、CaO、SiO
2、Fe
2O
3を一定量含んでいた。これに対し、比較例の塩基性硫酸マグネシウムは、CaO、SiO
2、Fe
2O
3の含有量が非常に少なかった。
【0041】
(粒度分布測定)
また、実施例の酸化マグネシウム原料粉末は、レーザ回折・散乱法により、マイクロトラック粒度分析計(日機装株式会社製)を用いて粒度分布測定をした。実施例の酸化マグネシウム原料粉末は、平均粒径(D50)が23μm、D10が3μm、D90が63μmであった。
【0042】
以上より、Ca、Si、Feを一定量含む酸化マグネシウムを原料として、水熱合成し、得られた中間体を乾燥、解砕、焼成することで、いわゆる串団子状の針状酸化マグネシウムで主に構成される酸化マグネシウム粉末を得られることが実証された。
【0043】
(複合材の特性)
次に、実施例の酸化マグネシウム粉末を、ポリプロピレン(日本ポリプロ社製 ノバテックPP:BC10HRF)(以下、PPと略す)に対して10vol%、20vol%の割合で添加、分散させた複合材試料(実施例の複合材)を作製した。また、球状の酸化マグネシウム粉末(協和化学社製 キョーワマグ、純度98%、比重3.25、粒径4.5μm)をPPに対して10vol%の割合で添加、分散させた複合材試料(比較例の複合材)を作製した。また、PP単体の試料も準備した。これらの複合材試料およびPP単体の試料に対し、曲げ弾性率(JIS K 7171)、曲げ強さ(JIS K 7171)、熱伝導率(フラッシュ法)を測定した。
【0044】
曲げ弾性率、曲げ強さの測定には、インストロン社製の万能材料試験機を用いた。熱伝導率の測定には、アルバック理工社製のTC-9000特型を用いて、粒子配向に対して水平方向と垂直方向について測定を行った。
図7の(a)、(b)は、それぞれ、針状の酸化マグネシウムの配向方向と熱伝導方向の関係を示す概念図である。なお、実際には
図7(a)または(b)のようにすべての粒子の配向が揃っているわけではない。
図8(a)は、複合材の各試料およびPP単体の試料に対する各試験の結果を示す表である。(b)~(d)は、それぞれの試験ごとのグラフである。
【0045】
図8(b)に示されるように、実施例の複合材の曲げ弾性率は、比較例の複合材の曲げ弾性率と比較して、向上の度合いが大きかった。また、
図8(c)に示されるように、比較例の複合材は曲げ強さが低下したのに対し、実施例の複合材の曲げ強さは、ほとんど同じ値を保った。また、
図8(d)に示されるように、実施例の複合材の熱伝導率は、比較例の複合材の熱伝導率と比較して、向上の度合いが大きく、特に粒子配向に対して水平方向については大幅に向上した。
【0046】
以上より、針状酸化マグネシウム(串団子状酸化マグネシウム)で主に構成される酸化マグネシウム粉末を樹脂に分散させた複合材は、曲げ弾性率は向上し、曲げ強さはほとんど同じ値を保ち、熱伝導率は向上することが分かった。すなわち、針状酸化マグネシウム(串団子状酸化マグネシウム)で主に構成される酸化マグネシウム粉末は、樹脂に分散させるフィラー材として好適である。
【符号の説明】
【0047】
10 針状酸化マグネシウム
11 第1の範囲
12 第2の範囲